説明

動力伝達機構

【課題】動力伝達機構において、出力軸の傾きによって、シール材と出力軸との間に隙間を生じさせることなく、リークを防止する。
【解決手段】真空環境である真空チャンバ5内と大気環境とを区分けするベース壁6と、前記ベース壁6を貫通して配置される出力軸16と、前記出力軸16を回転自在に支持するシールケース17と、からなる動力伝達機構10であって、前記シールケース17と前記出力軸16との間に密着して介される第一シール材30と、前記シールケース17と前記ベース壁6との間に密着して介され、前記出力軸16の軸方向に弾性を有し、かつ前記
出力軸16の傾きに追従する第二シール材40と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空環境である真空チャンバ内と大気環境とを区分けするベース壁と、前記ベース壁を貫通して配置される出力軸と、前記出力軸を回転自在に支持するシールケースと、からなる動力伝達機構の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体を製造する工程において、半導体ウエハ又は液晶基板上に形成する配線工程及び薄膜形成工程等は、真空環境である真空チャンバ内で行われる。真空チャンバは、ベース壁によって大気環境と区分けされている。真空チャンバ内において、半導体ウエハ又は液晶基板は、ロボット又は製造装置等によって取り扱われる。
【0003】
しかし、ロボット又は製造装置等の駆動部は、大気環境で使用する想定で設計されているため、真空環境で用いることができない。そこで、ロボット又は製造装置等は、大気環境である真空チャンバ外にモータ又は減速機等の駆動部が配置され、ベース壁を貫通する動力伝達機構を介して、真空環境である真空チャンバ内にマニピュレータが配置される。また、動力伝達機構には、大気環境から真空環境への大気や塵埃の流入を防ぐためシール材を設ける必要がある。
【0004】
特許文献1には、出力軸と出力軸を囲むハウジングとの間に、接触式のリング形のシール材を配した動力伝達機構を開示されている。特許文献2には、環状溝形のガスケットと、環状溝内に内装され回転軸に対して接圧するバネ部と、を備えて構成される動力伝達機構が開示されている。
【特許文献1】特開2004−84920号公報
【特許文献2】特開2004−36897号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ロボットアーム等が重いワークを支持する際には、ワークの重力によって出力軸は片持ち状態となる。特許文献1及び2に代表される動力伝達装置は、シール材が出力軸の傾きを吸収できるように配置・設計されていない。このとき、出力軸の傾きにより、シール材と出力軸とが集中的に圧接する部分が発生し、シール材が破損する或いは寿命が低下する。また、出力軸の傾きにより、シール材が出力軸に追従できないため隙間が生じ、リークが発生する。
【0006】
現状では、出力軸の傾きによる隙間を防止するため、シール材の出力軸に対する締め付け力を強くしている。そのため、シール材及び出力軸の磨耗が大きく、メンテナンス周期を早めていた。
そこで、解決しようとする課題は、動力伝達機構において、出力軸の傾きによって、シール材と出力軸との間に隙間を生じさせることなく、リークを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、真空環境である真空チャンバ内と大気環境とを区分けするベース壁と、前記ベース壁を貫通して配置される出力軸と、前記出力軸を回転自在に支持するシールケースと、からなる動力伝達機構であって、前記シールケースと前記出力軸との間に密着して介される第一シール材と、前記シールケースの底面と前記ベース壁の上面との間に密着して介され、前記出力軸の軸方向に弾性を有し、前記出力軸が傾いた場合には、弾性変形によって下面が形成する水平面に対し傾きを有する上面を形成し、傾斜した前記シールケースの底面に追従する中空円筒状であって、ゴム材と金属材とを積層し、表面をゴムで被装する積層ゴムの第二シール材と、を備えるものである。
【0009】
請求項2においては、真空環境である真空チャンバ内と大気環境とを区分けするベース壁と、前記ベース壁を貫通して配置される出力軸と、前記出力軸を回転自在に支持するシールケースと、からなる動力伝達機構であって、前記シールケースと前記出力軸との間に密着して介される第一シール材と、前記シールケースの底面と前記ベース壁の上面との間に密着して介され、前記出力軸の軸方向に弾性を有し、前記出力軸が傾いた場合には、弾性変形によって下面が形成する水平面に対し傾きを有する上面を形成し、傾斜した前記シールケースの底面に追従する中空円筒状の金属製の伸縮管である第二シール材と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0011】
請求項1においては、第二シール材が出力軸の軸方向に弾性をするため、出力軸の傾きによって、ベース壁とシールケースとの間に隙間を生じさせることなく、リークを防止できる。
また、第二シール材が出力軸の軸方向に弾性を有し、かつ出力軸の傾きに追従するため、シールケースを出力軸に追従させ、第一シール材と出力軸とが集中的に圧接する部分を低減でき、かつ、第一シール材と出力軸との間に隙間を生じさせることがない。つまり、出力軸の傾きによって生じる第一シール材と出力軸との隙間をなくし、リークを防止できる。
また、第二シール材を積層ゴムとするため、第二シール材の出力軸の軸方向における弾性力を、バネ定数によって調整できる。
【0012】
請求項2においては、第二シール材が出力軸の軸方向に弾性をするため、出力軸の傾きによって、ベース壁とシールケースとの間に隙間を生じさせることなく、リークを防止できる。
また、第二シール材が出力軸の軸方向に弾性を有し、かつ出力軸の傾きに追従するため、シールケースを出力軸に追従させ、第一シール材と出力軸とが集中的に圧接する部分を低減でき、かつ、第一シール材と出力軸との間に隙間を生じさせることがない。つまり、出力軸の傾きによって生じる第一シール材と出力軸との隙間をなくし、リークを防止できる。
また、第二シール材を金属製の伸縮管とするため、高温や腐食ガス等が発生する環境下においても耐久性を有する第二シール材を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明に係る動力伝達機構を含むロボットアームの全体的な構成を示す一部断面構成図、図2は同じく第二シール材の全体的な構成を示す斜視図、図3は同じく別の第二シール材の全体的な構成を示す斜視図である。
図4は同じく別の第二シール材の全体的な構成を示す斜視図、図5は出力軸が傾きを有する場合のロボットアームの全体的な構成を示す一部断面構成図、図6は同じく別実施例に係る動力伝達機構の全体的な構成を示した一部断面構成図である。
図7は出力軸にずれを有する場合の動力伝達装置の全体的な構成を示した一部断面構成図である。
【0014】
まず、図1を用いて、本発明の実施例1としての動力伝達機構10を含むロボットアーム1について、詳細に説明する。
ロボットアーム1は、真空チャンバ5内において、半導体ウエハ又は液晶基板を移送する装置である。真空チャンバ5は、ベース壁6によって大気環境と区分けされた真空環境下の作業室である。真空チャンバ5内では、半導体ウエハ又は液晶基板の配線工程又は薄膜形成工程等が実施される。また、ロボットアーム1は、真空チャンバ5外の大気環境にモータ11及び減速機13を含む駆動部が配置され、ベース壁6を貫通する動力伝達機構10を介して、真空チャンバ5内にアーム20を含むマニピュレータが配置され、支持部によってベース壁6に支持されている。
【0015】
マニピュレータは、アームベース19を介して出力軸16の駆動によって回転するアーム20を備えて構成されている。
【0016】
支持部は、中空円筒状の本体部15a並びに本体部15aの外周面から外方向に張り出し形成されたフランジ壁15bからなるフランジ15と、本体部15aの下方開口を塞ぐように固定される底板14と、を備えて構成されている。フランジ壁15bの下面は、Oリング状のシール体12を介して、ベース壁6の開口縁に受け止められている。
【0017】
動力伝達機構10は、減速機13の出力を後述するアーム20に伝達するためベース壁6を貫通して配置される出力軸16と、出力軸16の回転を支持する中空円筒状のシールケース17と、出力軸16の外周とシールケース17の内周との間に密着して介される中空円筒状の第一シール材30と、シールケース17及び第一シール材30の上面を被装する中空円板状のシールおさえ18と、フランジ壁15bの上面とシールケース17の下面との間に密着して介される第二シール材40と、を備えて構成されている。なお、軸線Pを出力軸16の軸線として定義する。
【0018】
駆動部は、モータ11と、モータ11の回転速度を減じて出力する減速機13と、を備えて構成されている。ここで、モータ11及び減速機13は、上述した底板14に支持されている。モータ11の出力は、その上部に装着された減速機13を介して、シールケース17内の出力軸16に伝達される。
【0019】
ここで、図2を用いて、第二シール材40について詳細に説明する。なお、図2乃至図4の第二シール材40・50・60は、説明を分かり易くするため、中空円筒状のうち半円筒状のみを示している。
第二シール材40は、断面が略長方形であるゴム材を中空円筒状としたシール材である。また、第二シール材40は、出力軸16の軸方向に対し弾性を有している。さらに、第二シール材40は、軸線Pの傾きに追従するように弾性変形する。
このように第二シール材40をゴム材とするため、安価かつ比較的自由な形状である第二シール材40を実現できる。
【0020】
また、図3を用いて、別の第二シール材50について詳細に説明する。
第二シール材50は、金属製の伸縮管としての公知のベローズである。また、第二シール材50は、第二シール材40と同様に、出力軸16の軸方向に対し弾性を有し、軸線Pの傾きに追従するように弾性変形する。このように第二シール材50を積層ゴムとするため、第二シール材50の出力軸16の軸方向における弾性力を、バネ定数によって調整できる。
【0021】
さらに、図4を用いて、別の第二シール材60について詳細に説明する。
第二シール材60は、建築分野で用いられるゴム材と金属材とを積み重ね表面をゴムで被装した積層ゴムを中空円筒状としたシール材である。また、第二シール材60は、第二シール材40と同様に、出力軸16の軸方向に対し弾性を有し、軸線Pの傾きに追従するように弾性変形する。このように第二シール材60を金属製の伸縮管とするため、高温や腐食ガス等が発生する環境下においても耐久性を有する第二シール材60を実現できる。
【0022】
図2乃至4において、軸線Pの傾きに追従する弾性変形とは、下面40a・50a・60aが形成する水平面aに対し、上面40b・50b・60bが形成する水平面bが傾きを有するように弾性変形し、かつ第二シール材40・50・60の断面の軸方向の変位が傾きを維持して弾性変形することをいう。例えば、第二シール材40・50・60は、変位t1である側に対し、対向側は変位t2(t2>t1)となるように弾性変形し、下面40aに対し傾きを有する上面40bが形成されている。同時に、弾性変形による軸方向の変位t1、t2は、軸線Pに対し傾きを維持して弾性変形している。このようにして、第二シール材40・50・60は、出力軸16の軸線Pの傾きに追従することができる。
【0023】
また、図5を用いて、出力軸16が傾きを有する場合について詳細に説明する。
例えば、ロボットアーム1が図示しない重いワークを支持している場合、出力軸16は、片持ち状態となり、軸線Pに対し軸線P´となる傾きを有する。このとき、第二シール材40が出力軸16の軸方向に対して弾性を有するため、出力軸16の傾きによって、フランジ15のフランジ壁15bの上面と、シールケース17の下面との間に隙間を生じさせることなく、大気環境から真空チャンバ5へのリークを防止できる。
【0024】
また、第二シール材40が出力軸16の軸線Pの傾きに追従するため、シールケース17を出力軸16に追従させ、第一シール材30と出力軸16とが集中的に圧接する部分を低減でき、第一シール材30と出力軸16との間に隙間が生じさせない。つまり、出力軸16の傾きによって、第一シール材30と出力軸16との間に隙間を生じさせることなく、大気環境から真空チャンバ5へのリークを防止できる。
【0025】
言い換えれば、第二シール材40は、シールケース17を出力軸16の傾きに同調させ、出力軸16と第一シール材30とシールケース17とによって構成されるシール機構に、傾きによる影響を与えない動力伝達機構10を実現している。
【0026】
ここで、動力伝達機構10の効果について従来技術と比較して説明する。
従来、動力伝達機構は、第一シール材30に相当するシール材のみしか有しておらず、出力軸の傾きにより、シール材と出力軸とが集中的に圧接する部分が発生し、シール材が破損する或いは寿命が低下する等の不具合があった。また、出力軸の傾きにより、シール材が出力軸に追従できないため隙間が生じ、リークが発生していた。
本発明の動力伝達機構10は、第一シール材30に対し第二シール材40は、フランジ15とシールケース17とをシールする、並びに第一シール材30とシールケース17を出力軸16に追従させる、機能を有する第二シール材40を追加している。そのため、第一シール材30に集中的に圧接する部分を低減し、第一シール材30を長寿命化できる。また、出力軸16の傾きにより、第一シール材30が出力軸16に追従できる。
【0027】
このようにして、第一シール材30及び第二シール材40が長寿命化するため、ロボットアーム1のメンテナンス周期を短くすることができる。また、動力伝達機構10のシール性能が向上するため、超高真空向けロボットの開発が可能となる。さらに、真空チャンバ5の真空環境を小型の真空ポンプで実現できる。上述した作用及び効果は、第二シール材50・60によっても同様に奏することができる。
【0028】
さらに、図6を用いて、別実施例として動力伝達機構10を含む動力伝達装置90について詳細に説明する。
動力伝達装置90は、大気環境における入力軸70による回転駆動を、ベース壁6を貫通する動力伝達機構10を介して、真空チャンバ5内の出力軸80に伝達する装置であって、支持部によってベース壁6に支持されている。入力軸70は、入力軸フランジ71を介して出力軸フランジ81と接続され、出力軸80に回転駆動を伝達する。動力伝達機構10、真空チャンバ5、及び支持部についてはロボットアーム1同様であるため説明を省略する。
【0029】
ここで、図7を用いて、軸線Pにずれを有する動力伝達装置90について詳細に説明する。
例えば、真空チャンバ5内のマニピュレータと大気環境における駆動部の配置によっては、入力軸70と出力軸80との軸がずれて固定されている場合がある。
このとき、第二シール材40が軸線Pの傾きに追従する、すなわち軸線Pに対し傾きを維持して弾性変形するため、出力軸80のずれによっても、フランジ15のフランジ壁15bの上面と、シールケース17の下面との間に隙間を生じさせることなく、大気環境から真空チャンバ5へのリークを防止できる。
【0030】
また、シールケース17を出力軸80に追従させ、第一シール材30と出力軸16とが集中的に圧接する部分を低減でき、第一シール材30と出力軸16との間に隙間を生じさせない。つまり、入力軸70と出力軸80とのずれを第二シール材40によって吸収し、第一シール材30と出力軸16との間に隙間を生じさせることなく、大気環境から真空チャンバ5へのリークを防止できる。
【0031】
上述した作用及び効果は、第二シール材50・60によっても同様に奏することができる。このようにして、入力軸70と出力軸80との軸が予めずれている動力伝達装置90に対しても、大気環境から真空チャンバ5へのリークを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る動力伝達機構を含むロボットアームの全体的な構成を示す一部断面構成図。
【図2】同じく第二シール材の全体的な構成を示す斜視図。
【図3】同じく別の第二シール材の全体的な構成を示す斜視図。
【図4】同じく別の第二シール材の全体的な構成を示す斜視図。
【図5】出力軸が傾きを有する場合のロボットアームの全体的な構成を示す一部断面構成図。
【図6】同じく別実施例に係る動力伝達機構の全体的な構成を示した一部断面構成図。
【図7】出力軸にずれを有する場合の動力伝達装置の全体的な構成を示した一部断面構成図。
【符号の説明】
【0033】
1 ロボットアーム
5 真空チャンバ
6 ベース壁
10 動力伝達機構
15 フランジ
16 出力軸
17 シールケース
20 アーム
30 第一シール材
40 第二シール材
50 第二シール材
60 第二シール材
70 入力軸
80 出力軸
90 動力伝達装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空環境である真空チャンバ内と大気環境とを区分けするベース壁と、
前記ベース壁を貫通して配置される出力軸と、
前記出力軸を回転自在に支持するシールケースと、
からなる動力伝達機構であって、
前記シールケースと前記出力軸との間に密着して介される第一シール材と、
前記シールケースの底面と前記ベース壁の上面との間に密着して介され、前記出力軸の軸方向に弾性を有し、前記出力軸が傾いた場合には、弾性変形によって下面が形成する水平面に対し傾きを有する上面を形成し、傾斜した前記シールケースの底面に追従する中空円筒状であって、ゴム材と金属材とを積層し、表面をゴムで被装する積層ゴムの第二シール材と、
を備えることを特徴とする動力伝達機構。
【請求項2】
真空環境である真空チャンバ内と大気環境とを区分けするベース壁と、
前記ベース壁を貫通して配置される出力軸と、
前記出力軸を回転自在に支持するシールケースと、
からなる動力伝達機構であって、
前記シールケースと前記出力軸との間に密着して介される第一シール材と、
前記シールケースの底面と前記ベース壁の上面との間に密着して介され、前記出力軸の軸方向に弾性を有し、前記出力軸が傾いた場合には、弾性変形によって下面が形成する水平面に対し傾きを有する上面を形成し、傾斜した前記シールケースの底面に追従する中空円筒状の金属製の伸縮管である第二シール材と、
を備えることを特徴とする動力伝達機構。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−159200(P2012−159200A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−111981(P2012−111981)
【出願日】平成24年5月15日(2012.5.15)
【分割の表示】特願2008−169138(P2008−169138)の分割
【原出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】