説明

動力伝達装置

【課題】断続機能を向上させることができると共に、部品点数を削減することができる動力伝達装置を提供する。
【解決手段】動力伝達装置1において、カムリング3(第1の回転部材)と、カムリング3に軸方向移動可能に連結されたクラッチプレート5と、カムリング3と相対回転可能に配置されクラッチプレート5と第1の摺動部7で摺動可能なクラッチハウジング9及びロータハウジング11(第2の回転部材)と、軸方向移動可能に配置されクラッチプレート5と第2の摺動部13で摺動可能なアーマチャ15と、クラッチプレート5とロータハウジング11とを挟んでアーマチャ15と対向配置されアーマチャ15を移動操作してクラッチプレート5と第1の摺動部7と第2の摺動部13とを摺動させてカムリング3とクラッチハウジング9及びロータハウジング11とを接続させる電磁石17とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に適用される動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に第1カム部材(第1の回転部材)とフロントハウジング及びリヤハウジング(第2の回転部材)との間に配置された摩擦クラッチにおいて摺動面にダイヤモンド状炭素薄膜の形成や窒化処理又は焼き入れ焼き戻し処理などの表面処理が施されたクラッチプレートが記載されている。このクラッチプレートは、電磁石と電磁石の励磁によって吸引されるアーマチャとの間に複数枚配置され、電磁石への通電により電磁石とリヤハウジングと複数のクラッチプレートとアーマチャとを循環する磁路が形成され、複数のクラッチプレートが摺動して第1のカム部材とフロントハウジング及びリヤハウジングとを接続させる。このように摺動する複数のクラッチプレートの摺動面を表面処理することによって、摺動面の磨耗を起こりにくくさせ、摩擦クラッチの耐久性を向上させている。
【特許文献1】特開2003−28218号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記のクラッチプレートは、電磁石への通電によるアーマチャの吸引力を大きく発生させた場合でも第1のカム部材とフロントハウジング及びリヤハウジングとを接続させ、所望の摩擦トルクを得るために摩擦クラッチにおいてクラッチプレート同士の摺動面を最低でも2面以上設ける必要があり、第1のカム部材とフロントハウジングとに合計で3枚以上連結されている。
【0004】
しかしながら、クラッチプレートを複数枚設けてしまうと、アーマチャと電磁石との間が大きくなり、電磁石への通電によるアーマチャの応答性が逆に低下し、摩擦クラッチの断続機能、つまり摩擦トルクを低下させてしまっていた。
【0005】
そこで、この発明は、断続機能を向上させることができると共に、部品点数を削減することができる動力伝達装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、第1の回転部材と、該第1の回転部材に軸方向移動可能に連結されたクラッチプレートと、前記第1の回転部材と相対回転可能に配置され前記クラッチプレートと第1の摺動部で摺動可能な第2の回転部材と、該第2の回転部材に対して一体回転可能に係合し軸方向移動可能に配置され前記クラッチプレートと第2の摺動部で摺動可能なアーマチャと、前記クラッチプレートと前記第2の回転部材とを挟んで前記アーマチャと対向配置され前記アーマチャを移動操作して前記クラッチプレートと前記第1の摺動部と前記第2の摺動部とを摺動させて前記第1の回転部材と前記第2の回転部材とを接続させる電磁石とを備えていることを特徴とする。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1記載の動力伝達装置であって、前記第2の回転部材と相対回転可能に配置された第3の回転部材と、前記第2の回転部材と前記第3の回転部材との間に配置され前記第1の回転部材と前記第2の回転部材との接続によって前記第2の回転部材と前記第3の回転部材とを接続させる断続部とを備えていることを特徴とする。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は2記載の動力伝達装置であって、前記第1の摺動部と前記第2の摺動部とは、摺動面が表面処理されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の動力伝達装置は、第2の回転部材とアーマチャとが第1の摺動部と第2の摺動部とで第1の回転部材に連結されたクラッチプレートに摺動するので、クラッチプレートが1枚でも摺動面を2面形成することができると共に、アーマチャと電磁石との間を小さくすることができ、電磁石への通電によるアーマチャの応答性を向上することができる。
【0010】
従って、断続機能を向上させることができると共に、部品点数を削減することができる。
【0011】
請求項2の動力伝達装置は、第1の回転部材と第2の回転部材との接続によって第2の回転部材と第3の回転部材とを接続させる断続部を備えているので、第1の回転部材と第2の回転部材とクラッチプレートとの断続機能を向上させることで、第2の回転部材と第3の回転部材との断続部の断続機能を向上させることができる。
【0012】
請求項3の動力伝達装置は、第1の摺動部と第2の摺動部の摺動面が表面処理されているので、第2の回転部材とアーマチャとクラッチプレートとの摺動部の耐久性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(一実施形態)
図1を用いて一実施形態について説明する。
【0014】
本実施形態の動力伝達装置1は、カムリング3(第1の回転部材)と、カムリング3に軸方向移動可能に連結されたクラッチプレート5と、カムリング3と相対回転可能に配置されクラッチプレート5と第1の摺動部7で摺動可能なクラッチハウジング9及びロータハウジング11(第2の回転部材)と、ロータハウジング11の内周面に設けられたスプライン部に一体回転可能に係合して軸方向移動可能に配置されクラッチプレート5と第2の摺動部13で摺動可能なアーマチャ15と、クラッチプレート5とロータハウジング11とを挟んでアーマチャ15と対向配置されアーマチャ15を回転軸方向に移動操作してクラッチプレート5と第1の摺動部7と第2の摺動部13とを摺動させてカムリング3とクラッチハウジング9及びロータハウジング11とを接続させる電磁石17とを備えている。
【0015】
また、ロータハウジング11と相対回転可能に配置されたハブ19(第3の回転部材)と、ロータハウジング11とハブ19との間に配置された断続部としてのメインクラッチ21を備え、カムリング3で押圧してクラッチハウジング9及びロータハウジング11とハブ19とを接続させている。
【0016】
さらに、第1の摺動部7と第2の摺動部13とは、クラッチプレート5の表裏摺動面又はアーマチャ15の摺動面、ロータハウジング11の摺動面のうちいずれかの摺動面が表面処理されており、表面処理された摺動面の初期状態の表面形状(例えば、面粗度や溝など)が長期に亘って保持されるように硬化被膜が形成されている。
【0017】
なお、本実施形態の場合には、クラッチプレート5の表面に硬度の高い表面処理を行っており、アーマチャ15及びロータハウジング11は母材のまま、又はクラッチプレート5の表面処理より硬度の低い表面処理、又はクラッチプレート5と同様の表面処理のいずれかをクラッチ締結特性と耐久性を考慮し適宜選定している。
【0018】
図1に示すように、動力伝達装置1は、クラッチハウジング9と、ロータハウジング11と、ハブ19と、メインクラッチ21と、断続操作部23と、電磁石17とから構成されている。
【0019】
クラッチハウジング9は、軸状部25と筒状部27とを備えている。軸状部25は、ベアリング29を介してケーシング(不図示)に回転可能に支持されている。また、軸状部25の外周にはスプライン形状の連結部31が形成され、入力部材又は出力部材(不図示)に連結される。筒状部27は、軸状部25と連続する一部材で形成されている。この筒状部27は、一側にクラッチハウジング9内部に潤滑オイルを供給する孔部33が形成され、蓋部材35によって閉塞されている。また、筒状部27の他側の端部には、ネジ部37が形成され、ロータハウジング11にネジ止めされると共に、ナット39で固定されるロックナット機能によってロータハウジング11に固定されている。
【0020】
ロータハウジング11は、磁性材料で形成され、クラッチハウジング9と一体回転される。このロータハウジング11のクラッチプレート5と摺動する部分には、第1の摺動部7が設けられている。第1の摺動部7は、摺動面に硬度の高いダイヤモンドライクカーボン(DLC)、炭化タングステン(WC)、窒化クロム(CrN)、窒化チタニウム(TiN)などの硬化被膜が形成されている。この表面処理により、摺動面が他の部分よりも硬化され、ロータハウジング11とクラッチプレート5とを摺動させることができる。また、ロータハウジング11とクラッチハウジング9との間には、クラッチハウジング9及びロータハウジング11内部と外部とを区画するシール部材としてのOリング41が配置されている。このロータハウジング11の内周側には、ハブ19が配置されている。なお、比較的硬度の低い硬化熱処理としては、窒化処理あるいはレーザー、高周波、真空による焼き入れや、調質処理なども好ましく、アーマチャ15やロータハウジング11などの大物部材に対して処理工程上有用である。
【0021】
ハブ19は、クラッチハウジング9とロータハウジング11に対して軸方向両端側をベアリング43と摺動ブッシュ45を介してクラッチハウジング9及びロータハウジング11と相対回転可能に半径方向に支持されている。また、ハブ19の内周側にはスプライン形状の連結部47が形成され、入力部材又は出力部材(不図示)に連結される。また、ハブ19とロータハウジング11との間にはシール部材としてのXリング49が配置されると共に、ハブ19の内部には隔壁51が設けられ、クラッチハウジング9及びロータハウジング11内部と外部とを区画している。このハブ19は、メインクラッチ21によってクラッチハウジング9及びロータハウジング11と断続される。
【0022】
メインクラッチ21は、クラッチハウジング9の筒状部27の内周に軸方向移動可能でクラッチハウジング9と一体回転可能に連結する複数のアウタクラッチ板と、ハブ19の外周に軸方向移動可能でハブ19と一体回転可能に連結する複数のインナクラッチ板とで構成されている。このメインクラッチ21は、断続操作部23によって操作される。
【0023】
断続操作部23は、押圧部53と操作部55とから構成されている。押圧部53は、プレッシャプレート57とカムリング3とカムボール59とから構成されている。
【0024】
プレッシャプレート57は、ハブ19の外周に一体回転可能で軸方向移動可能に連結され、メインクラッチ21を押圧する。カムリング3は、ハブ19の外周に軸方向移動可能でクラッチハウジング9及びロータハウジング11と相対回転可能に配置されている。このカムリング3とロータハウジング11との間には、スラスト力を受けるスラストベアリング61が配置されている。カムボール59は、プレッシャプレート57とカムリング3との間に配置されている。このカムボール59は、操作部55によってプレッシャプレート57とカムリング3との間に差回転が生じることにより、プレッシャプレート57をメインクラッチ21側へ軸方向移動させるカムスラスト力を発生させる。この押圧部53は、操作部55によって作動される。
【0025】
操作部55は、アーマチャ15とクラッチプレート5と電磁石17とから構成されている。アーマチャ15は、磁性材料で形成され、クラッチハウジング9の筒状部27の内周に軸方向移動可能に連結されている。このアーマチャ15のクラッチプレート5と摺動する部分には、第2の摺動部13が設けられている。第2の摺動部13は、摺動面に第1の摺動部7と同様な表面処理がなされ、摺動面が他の部分よりも硬化されている。クラッチプレート5は、カムリング3の外周に軸方向移動可能でカムリング3と一体回転可能に連結されている。このクラッチプレート5は、電磁石17への通電によってアーマチャ15が電磁石17側に吸引され、ロータハウジング11の第1の摺動部7とアーマチャ15の第2の摺動部13と摺動する。これにより、カムリング3とクラッチハウジング9及びロータハウジング11とが接続され、カムリング3とプレッシャプレート57との間に差回転が生じてカムスラスト力が発生される。
【0026】
電磁石17は、電磁コイル63とコア65とで構成され、ベアリング67を介してロータハウジング11に支持されており、ケーシングに対して回り止め部材69で回り止めされている。コア65には、通電を制御するコントローラ(不図示)側に接続されるリード線(不図示)が設けられており、コントローラの制御によって電磁コイル63に通電される。この電磁石17への通電により、コア65、ロータハウジング11、クラッチプレート5、アーマチャ15を介した磁力線が循環されて磁束ループが形成され、アーマチャ15が電磁石17側に移動することによって第1の摺動部7と第2の摺動部13とクラッチプレート5とが接続され、プレッシャプレート57とカムリング3との間に差回転を生じさせる。そして、カムスラスト力によってプレッシャプレート57がメインクラッチ21の接続方向に移動されてメインクラッチ21を押圧し、メインクラッチ21が接続されてクラッチハウジング9及びロータハウジング11とハブ19とが接続される。
【0027】
このような動力伝達装置1では、ロータハウジング11とアーマチャ15とが第1の摺動部7と第2の摺動部13とでカムリング3に連結されたクラッチプレート5に摺動するので、クラッチプレート5が1枚でも摺動面を2面形成することができると共に、アーマチャ15と電磁石17との間を小さくすることができ、電磁石17への通電によるアーマチャ15の応答性を向上することができる。
【0028】
従って、断続機能を向上させることができると共に、部品点数を削減することができる。
【0029】
また、形成された2面の摺動部7,13はすべて相対回転部となり、摺動により生じる微小な磨耗粉を溜め込むことなく、相対回転により排出することができるので、摺動部には常時適正かつ安定したエアギャップを確保して磁束ループを安定させることができ、断続部の断続制御が良好に行われる。
【0030】
さらに、カムリング3とクラッチハウジング9及びロータハウジング11との接続によってクラッチハウジング9及びロータハウジング11とハブ19とを接続させるメインクラッチ21を備えているので、カムリング3とロータハウジング11とクラッチプレート5との断続機能を向上させることで、電磁石17へ通電してからのクラッチハウジング9及びロータハウジング11とハブ19との断続応答性が向上し、メインクラッチ21の断続機能を向上させることができる。
【0031】
また、第1の摺動部7と第2の摺動部13の摺動面が表面処理されているので、ロータハウジング11とアーマチャ15とクラッチプレート5との摺動部の耐久性を向上することができ、従来に比べて硬化被膜の箇所を減らし、磁束ループの漏れ磁束を減らし、アーマチャ15の吸引力を向上させることができる。
【0032】
なお、第2の回転部材としてのクラッチハウジングとロータハウジングは、クラッチハウジングと別体に設けられて一体的に結合されているが、ロータハウジングとクラッチハウジングとを連続する一部材として形成してもよい。
【0033】
また、第2の回転部材と第3の回転部材との間を断続する断続部の各クラッチ板に表面処理を施してクラッチ板の枚数を削減し、軸方向のコンパクト化を図ってもよい。
【0034】
また、表面処理は、上述したものに限らない。さらには、表面処理は、クラッチプレート11、アーマチャ15、ロータハウジング11の組合せ摺動部におけるいずれかの摺動面に行えばよく、表面処理自体は摺動部に対して必要機能を得られるように必要箇所にスポット的に行ってもよい。
【0035】
また、第1の回転部材をクラッチハウジング9又はロータハウジング11とし、第2の回転部材をカムリング3として、アーマチャ15をカムリング3側に係合させてもよい。
【0036】
また、アーマチャ15やロータハウジング11に表面処理を行う場合には、表面処理の不要となる箇所に防護用のマスキング処理を行ってもよく、こうすれば表面処理後の加工、組付け工数を削減することができる。
【0037】
また、硬度の高い表面処理は、アーマチャ15やロータハウジング11に対して行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】一実施形態の動力伝達装置の断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1…動力伝達装置
3…カムリング(第1の回転部材)
5…クラッチプレート
7…第1の摺動部
9…クラッチハウジング(第2の回転部材)
11…ロータハウジング(第2の回転部材)
13…第2の摺動部
15…アーマチャ
17…電磁石
19…ハブ(第3の回転部材)
21…メインクラッチ(断続部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の回転部材と、該第1の回転部材に軸方向移動可能に連結されたクラッチプレートと、前記第1の回転部材と相対回転可能に配置され前記クラッチプレートと第1の摺動部で摺動可能な第2の回転部材と、該第2の回転部材に対して一体回転可能に係合し軸方向移動可能に配置され前記クラッチプレートと第2の摺動部で摺動可能なアーマチャと、前記クラッチプレートと前記第2の回転部材とを挟んで前記アーマチャと対向配置され前記アーマチャを移動操作して前記クラッチプレートと前記第1の摺動部と前記第2の摺動部とを摺動させて前記第1の回転部材と前記第2の回転部材とを接続させる電磁石とを備えていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1記載の動力伝達装置であって、
前記第2の回転部材と相対回転可能に配置された第3の回転部材と、前記第2の回転部材と前記第3の回転部材との間に配置され前記第1の回転部材と前記第2の回転部材との接続によって前記第2の回転部材と前記第3の回転部材とを接続させる断続部とを備えていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の動力伝達装置であって、
前記第1の摺動部と前記第2の摺動部とは、摺動面が表面処理されていることを特徴とする動力伝達装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−156398(P2009−156398A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−337128(P2007−337128)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000225050)GKN ドライブライン トルクテクノロジー株式会社 (409)
【Fターム(参考)】