説明

動力伝達装置

【課題】従動シャフトの停止後、従動シャフトを駆動シャフトと無関係に回転させることができる動力伝達装置を提供する。
【解決手段】本発明は、遠心クラッチ装置(10)を含む動力伝達装置(1)に関する。遠心クラッチ装置(10)は、従動シャフト(8)に連結されたクラッチドラム(14)と、クラッチドラム(14)に取付けられたワンウエイローラ(18)と、駆動シャフト(6)に連結され且つワンウエイローラ(18)と係合可能なシンクロリング(20)を有する。駆動シャフト(6)の停止時、シンクロリング(20)に係合しているワンウエイローラ(18)は、従動シャフト(8)の駆動方向(A)の回転を阻止する。従動シャフト(8)の停止後、ワンウエイローラ(18)は、シンクロリング(20)から分離し、従動シャフト(8)は駆動シャフトと無関係に回転可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心クラッチ装置を含む動力伝達装置に関し、更に詳細には、ブレーキ付き遠心クラッチ装置を含む動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、遠心クラッチ装置を含む動力伝達装置が、草刈作業を行うための刈払機に使用されている。図5は、刈払機の作業状態を示す図であり、図6は、動力伝達装置を含む従来の刈払機の概略図である。図5及び図6に示す刈払機50の動力伝達装置51において、ガソリンエンジン4によって駆動される駆動シャフト6の回転は、遠心クラッチ装置52を介して、操作桿54の中を通る従動シャフト8に伝達され、ギヤケース55内のギヤ56によって減速される。そして、減速された回転が、刈払機50の先端の刈刃57に伝達される。
【0003】
図7は、遠心クラッチ装置の端面図である。前記遠心クラッチ装置52は、前記駆動シャフト6に連結された少なくとも2つの遠心子12と、前記従動シャフト8に連結された円筒状のクラッチドラム14とを有している。前記各遠心子12は、前記クラッチドラム14の内側に配置され、前記駆動シャフト6に固定されたマグネトロータ11に設けられた軸13を中心に枢動可能である。前記駆動シャフト6が回転していないとき、前記遠心子12は、コイルばね、トーションばね等のばね15によって内方に付勢され、前記遠心子12の外周と前記クラッチドラム14の内周との間に隙間がある。前記駆動シャフト6が、所定の回転数以上で回転しているとき、前記遠心子12は、遠心力により、前記ばね15に抗して、前記軸13を中心に半径方向外方に枢動し、前記遠心子12の外周が前記クラッチドラム14の内面に接触して両者が一体回転し、前記駆動シャフト6の回転を前記クラッチドラム14を介して前記従動シャフト8に伝達する。
【0004】
その後、前記エンジン4(従って、前記駆動シャフト6)を停止させたとき、前記刈刃57はしばらくの間停止しない。詳細には、前記駆動シャフト6が停止すると、前記遠心子12に作用する遠心力がなくなり、前記遠心子12は、前記ばね15の力によって、前記軸13を中心に半径方向内方に枢動し、前記クラッチドラム14から離れる。一方、前記クラッチドラム14は、前記遠心子12が前記クラッチドラム14から離れた後も、前記刈刃57の慣性力によって回転し続ける。その後、前記刈刃57の回転数は次第に低下し、最終的には、前記刈刃57は停止する。特に、前記刈刃57を高速で回転させる作業状態から急激に減速させた場合、前記遠心子12が前記クラッチドラム14から離れてから前記刈刃57が停止するまで、30秒程度必要とする。
【0005】
また、ブレーキ付き遠心クラッチ装置含む動力伝達装置を採用した作業機も知られている。例えば、刈払機のエンジンを停止させることにより前記駆動シャフトを急停止せたとき、前記従動シャフト及び前記刈刃を、その慣性で回転させることなしに急停止させる(例えば、特許文献1及び2参照)。具体的には、特許文献1に開示された動力伝達装置では、前記駆動シャフトを急停止させたとき、前記従動シャフトに連結されたクラッチドラムの外周の係止溝に、前記駆動シャフトに連結されたブレーキ爪の先端部を引掛けることにより、前記クラッチドラムの回転を阻止して、前記従動シャフトを急停止させる。特許文献2に開示された動力伝達装置では、前記駆動シャフトを急停止させたとき、前記従動シャフトに設けられたブレーキシューが、作業機のハウジングに設けられたブレーキスリーブに押付けられ、前記従動シャフトを急停止させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実公昭52−50113号公報
【特許文献2】実公平3−17077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図5に示すように、刈払作業は、作業者から見て、右から左へ作業部(前記刈刃57)を振りながら作業する。また、前記刈刃57は左回りCに回転し、前記刈刃57に当たった対象物(草)が順次切断され、左方向に掃き出されるようにして作業が行われる。このとき、刈取られた草が前記刈刃57に引掛って、前記刈刃57と一緒に通常の回転方向(左回り)に回転した結果、前記刈刃57や前記ギヤケース55の周辺に絡み付いてしまうことがある。前記ギヤケース55の周辺に絡みついた草が、安全カバー58との間に詰まる程になると、前記作業部(前記刈刃57)が回転できなくなり、草刈作業ができなくなる。その場合、前記刈刃57を地面等に押付けながら逆方向(右回り)に回転させれば、絡みついた草を簡単に前記ギヤケース55及び前記安全カバー58から除去することができる。尚、作業者の安全上、前記刈刃57に絡みついた草を手で除去することは推奨されず、特に前記エンジン4がかかったままの状態での除去作業は行わないことが、取り扱い説明書等で禁止事項として記載されている。
【0008】
また、前記刈刃57を交換する際、前記ギヤケース55と前記刈刃57の下部から刈刃を押しつける固定部材(図示せず)とによって前記刈刃57を挟んだ状態で、前記刈刃57を締め付ける。このとき、前記ギヤケース55に設けられた位置決め窓と前記ギヤケース55内に設けられた位置決め孔とを整列させ、ピンなどで前記ギヤケース55の回動を規制しながら締め付ける。前記刈刃57が駆動シャフトと無関係に両方向に自由に回転させることができれば、前記ギヤケース57の位置決めが簡単に、余分な力を加えることなく交換作業ができるので、作業者に便利であり、且つ、安全面でも有利である。
【0009】
これに関して、特許文献1に記載された前記動力伝達装置では、前記従動シャフトの停止後、前記ブレーキ爪の前記先端部が、前記クラッチドラムの外周の前記係止溝に引掛かったままになるので、前記クラッチドラム及び前記従動シャフトを通常の回転方向に回転させることはできない。また、前記クラッチドラム及び前記従動シャフトを通常の回転方向と逆方向に回転させる場合、前記ブレーキ爪がコイルばねによって常時前記クラッチドラムの外周に押付けられ、従って、前記クラッチドラムの外周から離脱していないので、前記ブレーキ爪を、前記外周の係止条を乗り越えるようにしながら回転させる必要があり、余分な力が必要になる。また、前記コイルばねの付勢力を無視して前記クラッチドラム及び前記従動シャフトを逆回転させることを繰り返した場合、前記ブレーキ爪及び前記コイルばねを破損するおそれがある。
【0010】
また、特許文献2に記載された前記動力伝達装置では、前記従動シャフトの停止後、前記従動シャフトに設けられた前記ブレーキシューが、前記作業機の前記ハウジングに設けられた前記ブレーキスリーブに押付けられたままになるので、前記従動シャフトを通常の回転方向にもその反対方向にも回転させることができない。
【0011】
そこで本発明は、従動シャフトの停止後、従動シャフトを駆動シャフトと無関係に回転させることができる、ブレーキ付き遠心クラッチ装置を含む動力伝達装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、駆動方向に回転される駆動シャフト及び従動シャフトを遠心クラッチ装置で連結する動力伝達装置であって、前記遠心クラッチ装置は、前記従動シャフトに連結されたクラッチドラムと、前記クラッチドラムに取付けられたワンウエイ要素と、前記駆動シャフトに連結され且つ前記ワンウエイ要素と係合可能なシンクロ部材と、を有し、前記ワンウエイ要素は、前記シンクロ部材から分離した分離位置と、前記シンクロ部材に係合する係合位置との間を移動可能であり、前記ワンウエイ要素は、それが前記係合位置にあるときに前記クラッチドラムが前記シンクロ部材に対して前記駆動方向に回転することを阻止するように配置され、それにより、前記駆動シャフトの停止時、前記従動シャフトの前記駆動方向の回転が阻止され、前記ワンウエイ要素は、前記従動シャフトの停止後、前記分離位置に移動し、それにより、前記従動シャフトは駆動シャフトと無関係に回転可能であることを特徴としている。
【0013】
このように構成された動力伝達装置では、前記駆動シャフトの停止時、前記ワンウエイ要素は、前記係合位置に移動されており、前記クラッチドラムが前記シンクロ部材に対して前記駆動方向に回転することを阻止し、それにより、前記従動シャフトの前記駆動方向の回転を阻止する。また、前記従動シャフトの停止後、前記ワンウエイ要素は前記分離位置に移動可能である。従って、前記従動シャフトと無関係に回転させることができる。
【0014】
上記動力伝達装置の実施形態において、好ましくは、前記ワンウエイ要素は、前記クラッチドラムの外周に回動可能に取付けられたガバナアームを介して前記クラッチドラムに取付けられ、更に好ましくは、前記ガバナアームは、前記ワンウエイ要素を前記分離位置に付勢するように、ばねによって付勢される。
【0015】
また、前記ガバナアームを有する前記動力伝達装置の実施形態において、好ましくは、前記ワンウエイ要素は、前記ガバナアームの先端部に取付けられたワンウエイローラであり、前記シンクロ部材は、前記ワンウエイローラの周りに配置されたシンクロリングであり、前記シンクロリングは、前記ワンウエイローラが外方に付勢された時に前記ワンウエイローラの外周面と前記シンクロリングの内周面とが係合する位置にあり、前記従動シャフトの回転数が所定の回転数よりも大きいとき、前記ガバナアームは、遠心力によって回動され、それにより、前記ワンウエイローラは、前記係合位置に移動され且つ前記シンクロリングの内周面に押付けられ、更に好ましくは、前記シンクロリングの内周面は、小径部を有する。
【0016】
また、好ましくは、前記動力伝達装置は、刈払機用の動力伝達装置である。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明のブレーキ付き遠心クラッチ装置を含む動力伝達装置によれば、従動シャフトの停止後、従動シャフトを両方向に自由に回転させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施形態による、遠心クラッチ装置を含む動力伝達装置の軸方向断面図である。
【図2】ガバナアーム及びワンウエイローラが分離位置にある、図1の動力伝達装置の遠心クラッチ装置のX−X矢視断面図である。
【図3】ガバナアーム及びワンウエイローラが係合位置にある、図1の動力伝達装置の遠心クラッチ装置のX−X矢視断面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態による動力伝達装置の遠心クラッチ装置のX−X矢視断面図である。
【図5】刈払機の作業状態を示す図である。
【図6】動力伝達装置を含む従来の刈払機の概略図である。
【図7】遠心クラッチ装置の端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明による動力伝達装置の第1の実施形態を説明する。図1は、作業機の一例である刈払機の動力伝達装置の軸方向断面図である。図2及び図3は、図1の動力伝達装置の遠心クラッチ装置を従動シャフト側から見たX−X矢視断面図である。
【0020】
図1に示すように、動力伝達装置1は、ガソリンエンジン4によって回転される駆動シャフト6と、前記駆動シャフト6と同軸に配置された従動シャフト8と、前記駆動シャフト6と前記従動シャフト8との間に配置されたブレーキ付き遠心クラッチ装置10とを有している。前記遠心クラッチ装置10は、上述した従来の遠心クラッチ52と同様の構成要素を含み、前記駆動シャフト6に固定されたマグネトロータ11に枢動可能に取付けられた遠心子12と、前記従動シャフト8に取付けられた円筒形のクラッチドラム14を有している。前記遠心子12は、前記駆動シャフト6の回転数が第1の所定の回転数よりも小さいとき、ばね15によって半径方向内方に付勢されて前記クラッチドラム14から分離し、前記駆動シャフト6の回転数が前記第1の所定の回転数よりも大きいとき、遠心力によって前記ばね15に抗して半径方向外方に移動し、前記クラッチドラム14の内周面14aに押付けられるように構成される。それにより、前記駆動シャフト6の回転数が前記第1の所定の回転数よりも小さいとき(例えば、アイドリング回転数のとき)、前記遠心クラッチ装置10がOFF(非クラッチイン)の状態にあり、前記駆動シャフト6の回転は、前記従動シャフト8に伝達されない。また、前記駆動シャフト6の回転数が第1の所定の回転数よりも大きいとき、前記遠心クラッチ10がON(クラッチイン)の状態になり、前記駆動シャフト6の回転が前記従動シャフト8に伝達される。
【0021】
図2及び図3に示すように、前記遠心クラッチ装置10は、ブレーキ装置を有している。具体的には、前記遠心クラッチ装置10は、前記クラッチドラム14の外周面14bに回動可能に取付けられたガバナアーム16と、前記ガバナアーム16の先端部16bに取付けられたワンウエイローラ18と、前記駆動シャフト6に前記マグネトロータ11を介して連結され且つ前記ワンウエイローラ18の周りに配置されたシンクロリング20と、を有している。図示の実施形態では、2組の前記ガバナアーム16及び前記ワンウエイローラ18が、互いに直径方向の反対側の位置に配置されている。前記駆動シャフト6及び前記従動シャフト8は、回転方向(駆動方向)Aに回転する。
【0022】
前記ガバナアーム16の基端部16aは、前記クラッチドラム14の前記外周面14bから半径方向外方に突出したアーム支持部22に設けられた支点22aを中心に回動可能に取付けられている。前記ガバナアーム16は、前記支点22aから、前記駆動シャフト6の回転方向Aと逆の方向に前記先端部16bまで延び、前記先端部16bに前記ワンウエイローラ18が取付けられている。これにより、前記ガバナアーム16及び前記ワンウエイローラ18は、前記ワンウエイローラ18が前記シンクロリング20の内周面20aに対して移動可能な分離位置(図2参照)と、前記ワンウエイローラ18が前記シンクロリング20の内周面20aに押付けられる係合位置(図3参照)との間を回動可能である。
【0023】
前記ガバナアーム16及び前記ワンウエイローラ18は、ばね24によって、前記分離位置に付勢されていることが好ましい。前記ばね24の強さは、前記従動シャフト8の回転数が第2の所定の回転数(クラッチイン回転数を超えた回転数であって出来るだけ小さい回転数:例えば4000rpm)よりも大きくなると、前記ガバナアーム16及び前記ワンウエイローラ18が遠心力によって係合位置に押付けられるように定められる。
【0024】
前記シンクロリング20は、前記クラッチドラム14と同心の円筒状である。前記シンクロリングの前記内周面20aは、完全な円筒面である。前記シンクロリング20の前記内周面20a及び/又はワンウエイローラ18の外周面は、それらの間の摩擦力を増大させるためにゴム等のライナ(図示せず)を有するのがよい。前記ワンウエイローラ18は、図3において、回転方向Bに回転可能であるが、その反対方向に回転しないように配置される。即ち、前記ワンウエイローラ18は、それが前記シンクロリング20の前記内周面20aに押付けられているとき、前記シンクロリング20が前記クラッチドラム14に対して相対的に前記回転方向Aに回転可能(図3において、左回転可能)であるが、相対的にその反対方向に回転(図3において、右回転)することが阻止されるように配置される。逆に言えば、前記ワンウエイローラ18は、前記クラッチドラム14が前記シンクロリング20に対して相対的に前記回転方向Aに回転(図3において左回転)することが阻止され、相対的に反対方向に回転可能(図3において右回転可能)であるように配置される。
【0025】
次に、作業機が刈払機である場合を例として、本発明の第1の実施形態による動力伝達装置の動作を説明する。
【0026】
前記エンジン4のストップスイッチ(図示せず)を解除し、スタータグリップ(図示せず)を引いて、前記エンジン4を始動させる。それにより、前記エンジン4は、アイドリング回転を行う。アイドリング回転数は、例えば、3000rpmである。前記遠心クラッチ装置10はOFF(非クラッチイン)の状態にあるので、前記駆動シャフト6の回転が従動シャフト8に伝達されず、刈刃(図示せず)は回転しない。また、前記ガバナアーム16及び前記ワンウエイローラ18は、分離位置にある(図2参照)。
【0027】
スロットルレバー(図示せず)を操作して、前記エンジン4の回転数を、例えば、4000rpmに増大させる。前記遠心クラッチ装置10がON(クラッチイン)の状態になり、前記駆動シャフト6の回転が前記従動シャフト8に伝達され、刈刃(図示せず)を回転させる。また、前記従動シャフト8の回転数が第2の所定の回転数に達すると、遠心力によって、前記ガバナアーム16及び前記ワンウエイローラ18が前記ばね24の力に抗して係合位置に回動される。前記駆動シャフト6の回転数は、前記従動シャフト8の回転数と同じであるので、前記シンクロリング20と前記クラッチドラム14との間に相対的な回転はない。即ち、前記ワンウエイローラ18は、前記シンクロリング20に押付けられたまま前記シンクロリング20と一体的に前記回転方向Aに回転する。
【0028】
ストップスイッチ(図示せず)を作動させ、エンジン4自体を停止させると、前記駆動シャフト6及び前記シンクロリング20が急停止する。前記遠心クラッチ装置10がOFF(クラッチアウト)の状態になり、前記従動シャフト8が前記刈刃57の慣性のため前記駆動シャフト6に対して前記回転方向Aに回転し続けようとする。一方、前記従動シャフト8の回転によって生じている遠心力により、前記ガバナアーム16及び前記ワンウエイローラ18が係合位置にあるので、従動側の前記クラッチドラム14は、駆動側の前記シンクロリング20に対して相対的に前記回転方向Aに回転することが阻止される。前記駆動シャフト6及び前記シンクロリング20が停止しているので、結果的に、前記従動シャフト8を急停止させることができる。
【0029】
前記従動シャフト8が停止した後、前記ばね24により、前記ガバナアーム16及び前記ワンウエイローラ18が分離位置に回動可能である。それにより、前記クラッチドラム14及び前記従動シャフト6は、前記シンクロリング20及び駆動シャフト6に対して回転自由である。かくして、刈刃を手動で自由に両方向に回転させることができる。
【0030】
前記刈払機を再使用するときは、単に前記エンジン4を再始動させればよい。
【0031】
前記従動シャフト8の停止後、前記従動シャフト8を両方向に回転させることができるので、例えば、刈取られた草が前記刈刃57の前記安全カバー58ないし前記ギヤケース55の周囲に引掛ったままになっているとき、前記刈刃57を地面等に押付けながら前記刈刃57を方向Cと逆方向に回転させることにより、刈取られた草を前記安全カバー58ないし前記ギヤケース55の周囲から除去することができる。また、前記刈刃57を交換する際、前記刈刃57が両方向に自由に回転させることができるので、作業者に便利である。
【0032】
また、前記従動シャフト8の停止後、前記ワンウエイローラ18を分離位置に移動させるように前記ガバナアーム16が回動可能であるので、自動的にブレーキ装置が解除されたことになり、刈払機の再使用時、ブレーキ装置の解除操作が不要である。
【0033】
次に、本発明の第2の実施形態による動力伝達装置を説明する。図4は、本発明の第2の実施形態による動力伝達装置の遠心クラッチ装置のX−X矢視断面図である。第2の実施形態における遠心クラッチ装置30は、第1の実施形態における前記遠心クラッチ装置10と同様の構造を有しているが、前記シンクロリング20の内周面20aに小径部32が設けられている点で、第1の実施形態における前記遠心クラッチ装置10と異なっている。
【0034】
第2の実施形態において、前記シンクロリング20の内周面20aは、完全な円筒面ではなく、その周囲の一部分にわたって前記小径部32を有している。前記小径部32は、前記従動シャフト8が停止している状態で、前記駆動シャフト6及び前記シンクロリング20を回転させたときに、前記ばね24の力を補助して、前記ワンウエイローラ18を、前記内周面20aの円筒面部分から半径方向内方に遠ざけるためのものである。それにより、前記ワンウエイローラ18と前記シンクロリング20の内周面20aが弱い力で接触しているときに、前記駆動シャフト6の回転により前記従動シャフト8が回転する、所謂、連れ回りを防止することができる。
【0035】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0036】
上記実施形態において、2組の前記ガバナアーム16及び前記ワンウエイローラ18を設けたけれども、それらの組数は任意である。
【0037】
また、上記実施形態において、前記ガバナアーム16及び前記ワンウエイローラ18を前記分離位置に付勢する前記ばね24を設けたけれども、前記連れ回りが許容されれば、前記ばね24を設けなくてもよい。その場合、前記ワンウエイローラ18が、前記シンクロリング20内周面20aに接触していたとしても、前記従動シャフト8が停止しているとき、それに遠心力が働かないので、前記ガバナアーム16及び前記ワンウエイローラ18は、前記係合位置にない。即ち、前記ガバナアーム16及び前記ワンウエイローラ18は、前記ワンウエイローラ18が前記シンクロリング20対して移動可能であり、前記従動シャフト8を両方向に回転させることができる。
【0038】
また、上記実施形態では、前記シンクロリング20は、前記駆動シャフト6に固定されて一体化されたマグネトロータ11から延びるように形成されているが、前記シンクロリング20は、前記駆動シャフト6と一体的に回転すればよく、例えば、前記シンクロリング20は、前記マグネトロータ11とは別個に、前記駆動シャフト6から直接延びるように形成されてもよい。
【0039】
また、前記ワンウエイローラ18の代わりに、前記シンクロリング20の内周に設けられた係止溝に引掛けることができるブレーキ爪を採用してもよい。この場合、前記係止溝及び前記ブレーキ爪は、前記駆動シャフト6が急停止したときに前記ブレーキ爪が前記係止溝に引掛かって前記クラッチドラム14の回転を阻止するように配置される。
【0040】
上記実施形態では、作業機を刈払機として説明したが、作業機は、チェーンソー等であってもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 動力伝達装置
6 駆動シャフト
8 従動シャフト
10 遠心クラッチ装置
14 クラッチドラム
16 ガバナアーム
16b 先端部
18 ワンウエイローラ(ワンウエイ要素)
20 シンクロリング(シンクロ部材)
20a 内周面
24 ばね
30 遠心クラッチ装置(第2の実施形態)
32 小径部
A 回転方向(駆動方向)
B ワンウエイ要素の回転方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動方向(A)に回転される駆動シャフト(6)及び従動シャフト(8)を遠心クラッチ装置(10)で連結する動力伝達装置(1)であって、
前記遠心クラッチ装置(10)は、前記従動シャフト(8)に連結されたクラッチドラム(14)と、前記クラッチドラム(14)に取付けられたワンウエイ要素(18)と、前記駆動シャフト(6)に連結され且つ前記ワンウエイ要素(18)と係合可能なシンクロ部材(20)と、を有し、
前記ワンウエイ要素(18)は、前記シンクロ部材(20)から分離した分離位置と、前記シンクロ部材に(20)に係合する係合位置との間を移動可能であり、
前記ワンウエイ要素(18)は、それが前記係合位置にあるときに、前記クラッチドラム(14)が前記シンクロ部材(20)に対して前記駆動方向(A)に回転することを阻止するように配置され、それにより、前記駆動シャフト(6)の停止時、前記従動シャフト(8)の前記駆動方向(A)の回転が阻止され、
前記ワンウエイ要素(18)は、前記従動シャフト(8)の停止後、前記分離位置に移動し、それにより、前記従動シャフトは駆動シャフトと無関係に回転可能であることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記ワンウエイ要素(18)は、前記クラッチドラム(14)の外周に回動可能に取付けられたガバナアーム(16)を介して前記クラッチドラム(14)に取付けられることを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記ガバナアーム(16)は、前記ワンウエイ要素(18)を前記分離位置に付勢するように、ばね(24)によって付勢されることを特徴とする、請求項2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記ワンウエイ要素(18)は、前記ガバナアーム(16)の先端部(16b)に取付けられたワンウエイローラ(18)であり、
前記シンクロ部材(20)は、前記ワンウエイローラ(18)の周りに配置されたシンクロリング(20)であり、前記シンクロリング(20)は、前記ワンウエイローラ(18)が外方に付勢された時に前記ワンウエイローラ(18)の外周面と前記シンクロリング(20)の内周面とが係合する位置にあり、
前記従動シャフト(8)の回転数が所定の回転数よりも大きいとき、前記ガバナアーム(16)は、遠心力によって回動され、それにより、前記ワンウエイローラ(18)は、前記係合位置に移動され且つ前記シンクロリング(20)に押付けられることを特徴とする、請求項2又は3に記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記シンクロリング(20)の内周面(20a)は、小径部(32)を有することを特徴とする、請求項4に記載の動力伝達装置。
【請求項6】
前記動力伝達装置(1)は、刈払機用の動力伝達装置である請求項1〜5の何れか1項に記載の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−36944(P2012−36944A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176439(P2010−176439)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(509264132)株式会社やまびこ (65)
【Fターム(参考)】