説明

動力伝達装置

【課題】軸部材の係合部とギヤ部とを独立して設計することができる動力伝達装置を提供する。
【解決手段】ケーシング3と、このケーシング3に回転可能に収容され一端側に動力伝達可能な係合部5が設けられ他端側に噛み合い可能なギヤ部7が設けられた軸部材9とを備えた動力伝達装置1において、軸部材9を、係合部5が設けられた第1回転部材11と、ギヤ部7が設けられた第2回転部材13とに分割し、第1回転部材11と第2回転部材13とを、係脱可能な連結部15を介して一体回転可能に連結した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に適用される動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、動力伝達装置としては、ケーシングとしてのトランスファケースと、このトランスファケースに回転可能に収容され一端側に動力伝達可能な係合部が設けられ他端側に噛み合い可能なギヤ部としてのベベルギヤが設けられた軸部材としての入力軸とを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この動力伝達装置では、ベベルギヤが入力軸に形成されたフランジ部にボルトで一体回転可能に固定され、ドライブピニオンシャフトに形成されたベベルギヤと噛み合い、係合部を介して入力軸に入力された駆動力をベベルギヤ組で方向変換し、ドライブピニオンシャフトに出力している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−233374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような動力伝達装置では、軸部材のギヤ部がボルトなどの固定手段によって固定されているので、例えば、係合部を設計変更する場合、長尺で大型、かつ重量がかさむ軸部材自体も設計変更しなければならず、大がかりな設計変更をせざるを得なかった。
【0006】
そこで、この発明は、大がかりな設計変更をせずに簡易な部品構成とすることができる動力伝達装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ケーシングと、このケーシングに回転可能に収容され一端側に動力伝達可能な係合部が設けられ他端側に噛み合い可能なギヤ部が設けられた軸部材とを備えた動力伝達装置であって、前記軸部材は、前記係合部が設けられた第1回転部材と、前記ギヤ部が設けられた第2回転部材とに分割され、前記第1回転部材と前記第2回転部材とは、係脱可能な連結部を介して一体回転可能に連結されていることを特徴とする。
【0008】
この動力伝達装置では、軸部材が係合部が設けられた第1回転部材と、ギヤ部が設けられた第2回転部材とに分割されているので、第1回転部材と第2回転部材とをそれぞれ独立して設計することができ、軸部材における係合部とギヤ部とを独立して設計することができる。
【0009】
また、第1回転部材と第2回転部材とは、係脱可能な連結部を介して一体回転可能に連結されているので、動力伝達可能な係合部が設けられた第1回転部材の構造を簡易化することができる。
【0010】
従って、このような動力伝達装置では、軸部材が第1回転部材と第2回転部材とに分割されているので、大がかりな設計変更をせずに、簡易な部品構成とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、大がかりな設計変更をせずに簡易な部品構成とすることができる動力伝達装置を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係る動力伝達装置が適用された車両の動力系を示す概略図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る動力伝達装置の断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る動力伝達装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず、図1を用いて本発明の実施の形態に係る動力伝達装置が適用される車両の動力系の一例について説明する。なお、ここでは、第1実施形態に係る動力伝達装置1を適用した動力系とする。
【0014】
図1に示すように、車両の動力系は、エンジンや電動モータなどの駆動源201と、変速機構としてのトランスミッション203と、前輪側の左右輪の差動を許容するフロントデフ205と、前車軸207,209と、前輪211,213と、動力伝達装置1と、プロペラシャフト215と、前輪側から後輪側へ伝達される駆動力を制御可能に断続する断続機構217と、後輪側の左右輪の差動を許容するリヤデフ219と、後車軸221,223と、後輪225,227などから構成されている。
【0015】
このように構成された車両の動力系では、駆動源201の駆動力がトランスミッション203を介してフロントデフ205に伝達される。このフロントデフ205に伝達された駆動力は、前車軸207,209を介して前輪211,213に配分されると共に、フロントデフ205に連結された軸部材9を介して動力伝達装置1に伝達される。
【0016】
この動力伝達装置1に伝達された駆動力は、方向変換ギヤ組31で方向変換されてプロペラシャフト215を介して断続機構217に伝達される。この断続機構217に伝達された駆動力は、断続機構217が接続されるとリヤデフ219に伝達されて後車軸221,223から後輪225,227に配分され、車両は前後輪駆動の四輪駆動状態になる。また、断続機構217の接続が解除されると、車両は前輪駆動の二輪駆動状態になる。
【0017】
なお、このような車両に第2実施形態に係る動力伝達装置101が適用された動力系では、断続機構217の断続と同期して、軸部材109の係合部105で構成される断続部141が断続される。このような動力伝達装置101を車両に適用することにより、車両が前輪駆動の二輪駆動状態では、動力伝達装置101以降の後輪側の機構に駆動源201からの駆動力が伝達されることがないと共に、後輪225,227側からの回転が断続機構217を介して動力伝達装置101側に入力されることがない。このため、動力伝達に不必要な回転箇所が削減され、車両の燃費向上を図ることができる。以下、図2,図3を用いて本発明の実施の形態に係る動力伝達装置について説明する。
【0018】
(第1実施形態)
図2を用いて第1実施形態について説明する。
【0019】
本実施の形態に係る動力伝達装置1は、ケーシング3と、このケーシング3に回転可能に収容され一端側に動力伝達可能な係合部5が設けられ他端側に噛み合い可能なギヤ部7が設けられた軸部材9とを備えている。
【0020】
そして、軸部材9は、係合部5が設けられた第1回転部材11と、ギヤ部7が設けられた第2回転部材13とに分割され、第1回転部材11と第2回転部材13とは、軸方向に相対移動されて係脱可能な連結部15を介して一体回転可能に連結されている。
【0021】
また、連結部15は、第1回転部材11と第2回転部材13との径方向間に形成されたスプライン連結部である。
【0022】
さらに、連結部15より軸方向外側には、第1回転部材11の外周に軸方向に離間して環状凸部16,16が設けられており、第2回転部材13の内周面が嵌合して互いの軸心合わせが行われている。
【0023】
また、第2回転部材13は、ギヤ部7の軸方向一側の外周側が一対のベアリング17,19を介してケーシング3に回転可能に支持され、内周側に連結部15が設けられている。
【0024】
なお、第1回転部材11と第2回転部材13との間の連結部15は、伝達トルクの許容範囲により、圧入連結でもよい。また、第2回転部材13のギヤ部7は、ベアリング17,19で支持される円筒部と別体に構成後、圧入、スプライン、溶接などで一体化してもよい。
【0025】
また、第1回転部材11は、連結部15を介してケーシング3に回転可能に支持されている。
【0026】
さらに、ケーシング3は、複数の分割部材21,23,25からなり、分割部材21,23,25間には、ギヤ部7の噛み合いを調整するシム27,29が設けられている。
【0027】
図2に示すように、動力伝達装置1は、ケーシング3と、軸部材9と、方向変換ギヤ組31と、出力軸33などから構成されている。
【0028】
ケーシング3は、複数の分割部材としてのケース本体21と入力側ベアリング支持体23と出力側ベアリング支持体25とからなる。これらのケース本体21と入力側ベアリング支持体23と出力側ベアリング支持体25とは、複数のボルト35,37によって一体的に固定されている。
【0029】
このケーシング3のケース本体21は、トランスミッション203(図1参照)側の組付面39でトランスミッション203を収容するケースに組み付けられる。また、ケース本体21と入力側ベアリング支持体23との接合部、ケース本体21と出力側ベアリング支持体25との接合部には、シール手段としてのOリング41,43がそれぞれ配置されている。
【0030】
このようなケーシング3の内部には、軸部材9と、この軸部材9を回転可能に支持するベアリング17,19と、方向変換ギヤ組31と、出力軸33と、この出力軸33を回転可能に支持するベアリング45,47などが収容されている。
【0031】
軸部材9は、第1回転部材11と、第2回転部材13とからなる。第1回転部材11は、円筒状に形成され、軸方向一端側外周にフロントデフ205(図1参照)に一体回転可能に連結されるスプライン形状の係合部5が形成されている。この係合部5を介して軸部材9に駆動力が入力される。また、係合部5の後端側には、円筒状の摺動部材49が設けられ、摺動部材49とケース本体21との径方向間には、ケーシング3の内部と外部とを区画するシール部材51が配置されている。なお、第1回転部材11の内周側には、フロントデフ205と前輪213(図1参照)とを連結するシャフト(不図示)が軸部材9と相対回転可能に挿通される。この第1回転部材11の軸方向他端側の外周には、スプライン形状の連結部15が形成され、第2回転部材13が第1回転部材11と一体回転可能に連結されている。
【0032】
第2回転部材13は、中空状に形成され、外周側がベアリング17,19を介してケーシング3の入力側ベアリング支持体23に回転可能に支持されている。このベアリング17,19間には、スペーサ53が配置され、第2回転部材13のベアリング19側の外周にナット55を締結することによってベアリング17,19に予圧が付与されている。また、第2回転部材13は、スプライン連結部である連結部15の端部に固定されたスナップリングなどの規制部材57によって第1回転部材11に対する軸方向位置が位置決めされている。また、第2回転部材13の端部外周と入力側ベアリング支持体23との径方向間には、ケーシング3の内部と外部とを区画するシール部材59が配置されている。この第2回転部材13には、方向変換ギヤ組31を構成するギヤ部7が連続する一部材で形成されている。
【0033】
方向変換ギヤ組31は、大径のリングギヤであるギヤ部7と、小径のピニオン61とからなるベベルギヤ組で変速駆動されるように構成され、第2回転部材13に伝達された駆動力を方向変換する。この方向変換ギヤ組31を構成するピニオン61は、出力軸33の軸方向一端側に出力軸33と連続する一部材で形成され、第2回転部材13から出力された駆動力を方向変換して出力軸33に伝達する。
【0034】
出力軸33は、軸心が軸部材9と直交する方向に配置され、外周側側をベアリング45,47を介してケーシング3の出力側ベアリング支持体25に回転可能に支持されている。また、出力軸33の他端部外周には、スプライン形状の連結部63が形成され、断続機構217(図1参照)側に連結された出力部材65が一体回転可能に連結される。また、出力軸33を支持するベアリング45,47間には、スペーサ67が配置され、出力軸33の他端部外周にナット69を締結することによって出力部材65を介してベアリング45,47に予圧が付与されている。また、ナット69は、出力軸33に対する出力部材65の軸方向位置を位置決めしている。また、出力部材65と出力側ベアリング支持体25との径方向間には、ケーシング3の内部と外部とを区画するシール部材71が配置されていると共に、出力部材65の外周にはシール部材71を保護するダストカバー73が配置されている。
【0035】
このような動力伝達装置1の軸部材9は、係合部5が設けられた第1回転部材11と、ギヤ部7が設けられた第2回転部材13とが、係脱可能なスプライン連結部である連結部15を介して一体回転可能に連結されている。このため、第1回転部材11と第2回転部材13とを別体で取り扱うことができ、係合部5とギヤ部7との設計を独立して行うことができる。よって、大がかりな設計変更をせずに、簡易な部品構成による動力伝達装置を提供することができる。
【0036】
このような第1回転部材11は、ギヤ部7に対して軸方向一側のベアリング17,19で支持された第2回転部材13に連結され、ケーシング3に回転可能に支持されている。このため、第2回転部材13を省スペースで確実に保持することができると共に、第1回転部材11は動力伝達可能な強度を保持すればよく、第1回転部材11の構造を簡易化することができる。
【0037】
このような軸部材9のギヤ部7で構成された方向変換ギヤ組31の噛み合いの調整は、ケーシング3におけるケース本体21と入力側ベアリング支持体23との間及びケース本体21と出力側ベアリング支持体25との間にそれぞれ配置されたシム27,29の厚さを調整することによって行われる。詳細には、ギヤ部7を基準としたとき、ケース本体21と入力側ベアリング支持体23との間のシム27を調整することにより、方向変換ギヤ組31の軸方向の歯当りを調整することができ、ケース本体21と出力側ベアリング支持体25との間のシム29を調整することにより、方向変換ギヤ組31の径方向の歯当りを調整することができる。
【0038】
このような動力伝達装置1では、軸部材9が係合部5が設けられた第1回転部材11と、ギヤ部7が設けられた第2回転部材13とに分割されているので、第1回転部材11と第2回転部材13とをそれぞれ独立して設計することができ、軸部材9における係合部5とギヤ部7とを独立して設計することができる。
【0039】
また、第1回転部材11と第2回転部材13とは、係脱可能な連結部15を介して一体回転可能に連結されているので、動力伝達可能な係合部5が設けられた第1回転部材11の構造を簡易化することができる。
【0040】
従って、このような動力伝達装置1では、軸部材9が第1回転部材11と第2回転部材13とに分割されているので、軸部材9の係合部5とギヤ部7とを独立して設計することができると共に、第1回転部材11の構造を簡易化することができる。よって、大がかりな設計変更をせずに、簡易な部品構成による動力伝達装置を提供することができる。
【0041】
また、連結部15は、第1回転部材11と第2回転部材13との径方向間に形成されたスプライン連結部であるので、第1回転部材11を簡易な円筒形状とすることができると共に、第1回転部材11と第2回転部材13との組付を容易に行うことができる。
【0042】
さらに、第2回転部材13は、外周側がベアリング17,19を介してケーシング3に回転可能に支持され、内周側に連結部15が設けられているので、ギヤ部7が設けられた第2回転部材13の支持が安定化され、ギヤ部7の噛み合いを安定化させることができる。
【0043】
また、第1回転部材11は、連結部15を介してケーシング3に回転可能に支持されているので、第1回転部材11の周囲にベアリングを配置させる必要がなく、第1回転部材11の周辺構造を簡素化することができる。
【0044】
さらに、ケーシング3を構成するケース本体21と入力側ベアリング支持体23と出力側ベアリング支持体25との間には、ギヤ部7の噛み合いを調整するシム27,29が設けられているので、ケーシング3内に軸部材9を収容した後でも、シム27,29の変更によってギヤ部7の噛み合いの調整を行うことができる。
【0045】
(第2実施形態)
図3を用いて第2実施形態について説明する。
【0046】
本実施の形態に係る動力伝達装置101は、ケーシング103と、このケーシング103に回転可能に収容され一端側に動力伝達可能な係合部105が設けられ他端側に噛み合い可能なギヤ部107が設けられた軸部材109とを備えている。
【0047】
そして、軸部材109は、係合部105が設けられた第1回転部材111と、ギヤ部107が設けられた第2回転部材113とに分割され、第1回転部材111と第2回転部材113とは、係脱可能な連結部115を介して一体回転可能に連結されている。
【0048】
また、連結部115は、第1回転部材111と第2回転部材113との径方向間に形成されたスプライン連結部である。
【0049】
さらに、第2回転部材113は、ギヤ部107の軸方向一側の外周側が一対のベアリング117,119を介してケーシング103に回転可能に支持され、内周側に連結部115が設けられている。
【0050】
また、第1回転部材111は、連結部115を介してケーシング103に回転可能に支持されている。
【0051】
図3に示すように、動力伝達装置101は、ケーシング103と、入力軸121と、軸部材109と、方向変換ギヤ組123と、出力軸125などから構成されている。
【0052】
図3に示すように、ケーシング103は、内部に各種部材の収容空間が広く形成されたケース本体127と、主に第2回転部材113の支持部を備えケース本体127を閉塞するカバー129とからなる。このケーシング103のケース本体127は、トランスミッション203(図1参照)側の組付面131でトランスミッション203を収容するケースに組み付けられる。このケーシング103内には、入力軸121と、軸部材109と、方向変換ギヤ組123と、出力軸125とが回転可能に収容されている。
【0053】
入力軸121は、中空状に形成され、外周がベアリング133を介してケーシング103のケース本体127に回転可能に支持されている。なお、このベアリング133は、入力軸121の外周を周方向の4箇所で支持する4点接触軸受となっており、入力軸121の支持が安定化されている。但し、入力軸121を軸方向に2点支持する一対のベアリングを用いてもよい。また、入力軸121とケーシング103との径方向間には、ケーシング103の内部と外部とを区画するシール部材135が配置されている。
【0054】
この入力軸121の内周側には、フロントデフ205と前輪213(図1参照)とを連結するシャフト(不図示)が入力軸121と相対回転可能に挿通されている。このシャフトと入力軸121との径方向間には、ケーシング103の内部と外部とを区画するシール手段であると共に摺動部材であるXリング137が配置されている。
【0055】
このような入力軸121の軸方向端部の内周には、フロントデフ205に一体回転可能に連結されるスプライン形状の連結部139が形成され、入力軸121に駆動力が入力される。この入力軸121に入力された駆動力は、断続部141を介して軸部材109に出力される。
【0056】
軸部材109は、第1回転部材111と、第2回転部材113とからなる。第1回転部材111は、中空状に形成され、入力軸121との軸方向に対向する対向面に係合部105が設けられている。この係合部105は、入力軸121の軸方向に対向する対向面に設けられた複数の対向歯と噛み合う複数の対向歯となっており、入力軸121の複数の対向歯と断続部141を構成している。なお、第1回転部材111の内周側には、フロントデフ205と前輪213(図1参照)とを連結するシャフト(不図示)が第1回転部材111と相対回転可能に挿通されている。
【0057】
この断続部141は、それぞれの対向歯が噛み合うと、入力軸121と第1回転部材111との間の動力伝達が可能となる。また、断続部141は、それぞれの対向歯の噛み合いが解除されると、入力軸121と第1回転部材111との間の動力伝達が遮断される。
【0058】
このような断続部141が設けられた第1回転部材111の軸方向の反対側は、第2回転部材113の内周に形成された凹部143に軸方向移動可能に挿入されている。この第1回転部材111の外周と第2回転部材113の凹部143の内周との間には、スプライン形状の連結部115が形成され、第1回転部材111と第2回転部材113とが一体回転可能で第1回転部材111が軸方向移動可能にスプライン連結されている。
【0059】
第2回転部材113は、中空状に形成され、軸心が入力軸121及び第1回転部材111の軸心と同心となるように入力軸121及び第1回転部材111と直列に配置されている。また第2回転部材113は、ベアリング117,119を介してケーシング103のカバー129に入力軸121と相対回転可能に支持されている。このベアリング117,119間には、スペーサ145が配置され、第2回転部材113のベアリング119側の外周にナット147を締結することによってベアリング117,119に予圧が付与されると共に第2回転部材113の軸方向位置が位置決めされる。
【0060】
この第2回転部材113の内周側には、フロントデフ205と前輪213(図1参照)とを連結するシャフト(不図示)が第2回転部材113と相対回転可能に挿通されている。このシャフトとケーシング103のカバー129との径方向間には、ケーシング103の内部と外部とを区画するシール部材149が配置されている。
【0061】
この第2回転部材113の凹部143において、第1回転部材111の連結部115側の軸方向端面と第2回転部材113の凹部143の底部との軸方向間には、第1回転部材111を断続部141の接続方向に付勢する付勢部材151が配置されている。この付勢部材151により、第1回転部材111は、常時、断続部141の接続方向に移動され、断続部141の接続された状態が保持される。
【0062】
このような付勢部材151を第1回転部材111と一体回転可能に連結する第2回転部材113との間に配置することにより、断続部141の接続が解除された状態で、第1回転部材111と第2回転部材113との間に相対回転が発生しないので、付勢部材151が第1回転部材111及び第2回転部材113と摺動することがない。このため、付勢部材151の耐久性を向上することができる。このような第2回転部材113の外周には、入力軸121から第1回転部材111を介して伝達された駆動力を出力する方向変換ギヤ組123を構成するギヤ部107が連続する一部材で形成されている。
【0063】
方向変換ギヤ組123は、大径のリングギヤであるギヤ部107と、小径のピニオン153とからなるベベルギヤ組で変速駆動されるように構成され、第2回転部材113に伝達された駆動力を方向変換する。この方向変換ギヤ組123を構成するピニオン153は、出力軸125の軸方向一端側に出力軸125と連続する一部材で形成され、第2回転部材113から出力された駆動力を方向変換して出力軸125に伝達する。
【0064】
出力軸125は、軸心が入力軸121及び軸部材109の軸心と直交する方向に配置され、外周側側をベアリング155,157を介してケーシング103のケース本体127に回転可能に支持されている。また、出力軸125の他端部外周には、スプライン形状の連結部159が形成され、断続機構217(図1参照)側に連結された出力部材161が一体回転可能に連結される。また、出力軸125を支持するベアリング155,157間には、スペーサ163が配置され、出力軸125の他端部外周にナット165を締結することによって出力部材161を介してベアリング155,157に予圧が付与されている。また、ナット165は、出力軸125に対する出力部材161の軸方向位置を位置決めしている。また、出力部材161とケーシング103との径方向間には、ケーシング103の内部と外部とを区画するシール部材167が配置されていると共に、出力部材161の外周にはシール部材167を保護するダストカバー169が配置されている。
【0065】
このような出力軸125に伝達される駆動力は、入力軸121と第1回転部材111との間に設けられた断続部141を断続することによって断続される。この断続部141の断続操作は、第1回転部材111を軸方向に移動操作するアクチュエータ171によって行われる。
【0066】
アクチュエータ171は、電動モータ173と、シフトフォーク175とを備えている。電動モータ173は、ケーシング103のカバー129の外部に固定され、モータ軸177がケーシング103の内部に配置されて一端側がカバー129に支持され、他端側がケース本体127に支持されている。このモータ軸177には、シフトフォーク175が螺合されている。
【0067】
シフトフォーク175は、一端側がモータ軸177に螺合され、他端側が第1回転部材111の外周に設けられた係合溝179に配置されている。また、シフトフォーク175の一端側には、断続部141の対向歯が噛み合うときの待ち機構となる待ちバネ181が配置されている。このシフトフォーク175は、電動モータ173の起動により、断続部141の接続解除方向に移動し、第1回転部材111を付勢部材151の付勢力に抗して断続部141の接続解除方向に移動させる。
【0068】
この第1回転部材111の移動により、断続部141の接続が解除されて入力軸121と第1回転部材111との間の動力伝達が遮断される。また、断続部141を接続させる場合には、電動モータ173を逆回転させ、シフトフォーク175を断続部141の接続方向に移動させ、付勢部材151の付勢力によって第1回転部材111を断続部141の接続方向に移動させて断続部141を接続し、入力軸121と第1回転部材111との間の動力伝達を可能とする。
【0069】
このような動力伝達装置101の軸部材109は、係合部105が設けられた第1回転部材111と、ギヤ部107が設けられた第2回転部材113とが、係脱可能なスプライン連結部である連結部115を介して一体回転可能に連結されている。このため、第1回転部材111と第2回転部材113とを別体で取り扱うことができ、係合部105とギヤ部107との設計を独立して行うことができる。
【0070】
このような第1回転部材111は、ギヤ部107に対して軸方向一側のベアリング117,119で支持された第2回転部材113に連結され、ケーシング103に回転可能に支持されている。このため、第2回転部材113を省スペースで確実に保持することができると共に、第1回転部材111は動力伝達可能な強度を保持すればよく、第1回転部材111の構造を簡易化することができる。
【0071】
このように構成された動力伝達装置101では、第1回転部材111が付勢部材151の付勢力によって、常時、断続部141の接続方向に付勢されており、断続部141が接続状態となって入力軸121と軸部材109との間の動力伝達が可能となっている。この状態からアクチュエータ171の電動モータ173を起動させ、シフトフォーク175を断続部141の接続解除方向に移動させることにより、第1回転部材111が断続部141の接続解除方向に移動され、断続部141が接続解除状態となって入力軸121と軸部材109との間の動力伝達が遮断される。
【0072】
このような動力伝達装置101では、軸部材109が係合部105が設けられた第1回転部材111と、ギヤ部107が設けられた第2回転部材113とに分割されているので、第1回転部材111と第2回転部材113とをそれぞれ独立して設計することができ、軸部材109における係合部105とギヤ部107とを独立して設計することができる。
【0073】
また、第1回転部材111と第2回転部材113とは、係脱可能な連結部115を介して一体回転可能に連結されているので、動力伝達可能な係合部105が設けられた第1回転部材111の構造を簡易化することができる。
【0074】
従って、このような動力伝達装置101では、軸部材109が第1回転部材111と第2回転部材113とに分割されているので、軸部材109の係合部105とギヤ部107とを独立して設計することができると共に、第1回転部材111の構造を簡易化することができる。よって、大がかりな設計変更をせずに、簡易な部品構成による動力伝達装置を提供することができる。
【0075】
また、連結部115は、第1回転部材111と第2回転部材113との径方向間に形成されたスプライン連結部であるので、第1回転部材111を簡易な円筒形状とすることができると共に、第1回転部材111と第2回転部材113との組付を容易に行うことができる。
【0076】
さらに、第2回転部材113は、外周側がベアリング117,119を介してケーシング103に回転可能に支持され、内周側に連結部115が設けられているので、ギヤ部107が設けられた第2回転部材113の支持が安定化され、ギヤ部107の噛み合いを安定化させることができる。
【0077】
また、第1回転部材111は、連結部115を介してケーシング103に回転可能に支持されているので、第1回転部材111の周囲にベアリングを配置させる必要がなく、第1回転部材111の周辺構造を簡素化することができる。
【0078】
なお、本発明の実施の形態に係る動力伝達装置では、軸部材のギヤ部が方向変換ギヤ組を構成しているが、これに限らず、中間軸が配置され中間軸との間で変速ギヤ組を構成するなど、どのような形態であってもよい。
【符号の説明】
【0079】
1,101…動力伝達装置
3,103…ケーシング
5,105…係合部
7,107…ギヤ部
9,109…軸部材
11,111…第1回転部材
13,113…第2回転部材
15,115…連結部
17,19,117,119…ベアリング
21,23,25…分割部材
27,29…シム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、このケーシングに回転可能に収容され一端側に動力伝達可能な係合部が設けられ他端側に噛み合い可能なギヤ部が設けられた軸部材とを備えた動力伝達装置であって、
前記軸部材は、前記係合部が設けられた第1回転部材と、前記ギヤ部が設けられた第2回転部材とに分割され、前記第1回転部材と前記第2回転部材とは、係脱可能な連結部を介して一体回転可能に連結されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1記載の動力伝達装置であって、
前記連結部は、前記第1回転部材と前記第2回転部材との径方向間に形成されたスプライン連結部であることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の動力伝達装置であって、
前記第2回転部材は、外周側がベアリングを介して前記ケーシングに回転可能に支持され、内周側に前記連結部が設けられていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項4】
請求項3記載の動力伝達装置であって、
前記第2回転部材は、前記ギヤ部に対して軸方向一側に一対のベアリングを介して前記ケーシングに回転可能に支持されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の動力伝達装置であって、
前記ケーシングは、複数の分割部材からなり、前記分割部材間には、前記ギヤ部の噛み合いを調整するシムが設けられていることを特徴とする動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−108512(P2013−108512A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251389(P2011−251389)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000225050)GKNドライブラインジャパン株式会社 (409)
【Fターム(参考)】