説明

動力伝達軸用シャフト

【課題】動力伝達軸用シャフトを、強度を確保しつつ、一層軽量化する。
【解決手段】動力伝達軸用シャフトS1は、中央の大径部14と両端の小径部16とからなる中空(中空部12)の鋼部材10と、鋼部材10の大径部14の外周にはめ合わせたCFRP部材20との複合体である。軽量高強度素材であるCFRP(炭素繊維強化プラスチック)で成形したパイプ状のCFRP部材20と中空軸状の鋼部材10とを複合化することで強度低下すること無く、動力伝達軸の軽量化を達成できる。CFRP部材20の外周面にはブーツ溝22が設けてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は自動車の動力伝達軸用シャフトに関する。動力伝達軸(ドライブシャフト)はシャフトとその両端に取り付けた等速ジョイントとからなり、自動車の駆動系に組み込み、非直線上に存在する回転軸同士の間で、回転力の伝達を行なう。
【背景技術】
【0002】
従来、動力伝達軸用シャフトとして鋼製中実シャフトが広く使用されている。
最近、車両の燃費向上や静粛性向上が求められる中で、鋼製中実シャフトを使用したドライブシャフトは、重量が重く、また剛性が低いことから、しばしば燃費向上のための軽量化や、振動低減を目的とした高剛性化が求められている。この問題を解決する手段として、特許文献1では、シャフトを中空にすることで振動特性の改善を達成することが提案されている。
【0003】
特許文献1から引用して説明すると、図7に四輪駆動の自動車の駆動系が概略示してあり、前置機関1によって変速機2および前軸差動装置3、さらに前部の動力伝達軸5を介して前輪4を駆動するようになっている。後輪6への駆動トルクは前軸差動装置3から分岐してプロペラシャフト7を経て後軸差動装置8へ伝わる。後軸差動装置8は後部の動力伝達軸9を介して後輪6を駆動する。
【0004】
図8に、前部および後部の動力伝達軸5、9に用いられるシャフトの一例を示す。このシャフトSは鋼製で、全長にわたって中空である。シャフトSは中央部と、その両側に位置して中央部よりも小径の端部とからなり、符号Lは中央部の長さを表している。各端部にはセレーション(またはスプライン、以下同じ)軸が形成してあり、図示してない内側ジョイント部材のセレーション孔とトルク伝達可能に接続するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−263819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、鋼製シャフトの中空化による軽量化には限界がある。例えば、軽量化のために中央部を薄肉にすると必要強度が得られない。捩り剛性を確保するために中央部の外径を大きくし、かつ、肉厚を確保すると、所望の軽量効果が得られなくなる。また、シャフトにブーツを取り付けるための溝(ブーツ溝)を最小軸径部に設ける必要があることから、軽量化のために中央部の軸方向長さを長くするには限界があった。
【0007】
この発明の課題は、動力伝達軸用シャフトを、強度を確保しつつ、一層軽量化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の動力伝達軸用シャフトは、特許請求の範囲の請求項1に記載したように、中央の大径部と両端の小径部とからなる中空の鋼部材と、鋼部材の大径部の外周にはめ合わせたCFRP部材との複合体であって、CFRP部材の外周面にブーツ溝を設けたことを特徴とするものである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1の動力伝達軸用シャフトにおいて、パイプ状に成形したCFRP部材を鋼部材の大径部にはめ合わせたことを特徴とするものである。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1または2の動力伝達軸用シャフトにおいて、CFRP部材のブーツ溝を機械加工により形成したことを特徴とするものである。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1または2の動力伝達軸用シャフトにおいて、CFRP部材のブーツ溝をプレス加工により形成したことを特徴とするものである。
【0012】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれか1項の動力伝達軸用シャフトにおいて、鋼部材とCFRP部材を接着剤により固定したことを特徴とするものである。
【0013】
請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれか1項の動力伝達軸用シャフトにおいて、鋼部材の大径部の外周に接着剤溜まりを設けたことを特徴とするものである。
【0014】
請求項7の発明は、請求項1〜4のいずれか1項の動力伝達軸用シャフトにおいて、パイプ状CFRP部材と鋼部材を回転方向の係止部位を介して圧入固定したことを特徴とするものである。
【0015】
請求項8の発明は、請求項7の動力伝達軸用シャフトにおいて、前記回転方向係止部位を鋼部材の両端部に設けたことを特徴とするものである。
【0016】
請求項9の発明は、請求項7または8の動力伝達軸用シャフトにおいて、前記回転方向係止部位はセレーションまたはスプラインであることを特徴とするものである。
【0017】
請求項10の発明は、請求項7または8の動力伝達軸用シャフトにおいて、前記回転方向係止部位はローレット加工面であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、動力伝達軸用シャフトを、軽量高強度素材であるCFRP(炭素繊維強化プラスチック)で成形したパイプ状のCFRP部材と、中空軸状の鋼部材とを複合化することで、強度低下することなく動力伝達軸の一層の軽量化を達成することができる。したがって、動力伝達軸の軽量化を通じて車両の燃費向上に貢献することができる。
また、CFRP部材の外周にブーツ溝を形成することで、大径部(中央部)の軸方向長さをより長くすることが可能となる。したがって、大径部(中央部)の軸長大により得られる捩り剛性が向上し、当該動力伝達軸を搭載した車両の振動特性の向上に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例の動力伝達軸用シャフトの、中心線の片側を断面にした半断面図である。
【図2】図1の動力伝達軸用シャフトの複合化前の状態を示す半断面図である。
【図3】別の実施例を示す部分拡大図である。
【図4】別の実施例を示す部分拡大図である。
【図5】(A)は部分的に断面にした部分拡大図、(B)は図5(A)における鋼部材のB−B断面図である。
【図6】部分的に断面にした部分拡大図である。
【図7】自動車の駆動系の略図である。
【図8】従来例を示す半断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に示すように、動力伝達軸用シャフト(以下、単にシャフトとも呼ぶ)S1は鋼部材10とCFRP部材20を複合化したものである。鋼部材10は全長にわたり中空で、符号12は中空部を表している。鋼部材10は中央の大径部14と、両端の小径部16とからなり、大径部14の長さを符号L1で示してある。小径部16の軸端部にはセレーション(またはスプライン、以下同じ)軸18が設けてある。
【0021】
CFRP部材20はCFRPをパイプ状に成形したものである。なお、ここでは、CFRP部材20の製造方法や材料プラスチックの詳細については特に限定するものではない。たとえば、製造方法としてはフィラメントワインディング法、シートワインディング法、引き抜き成形法(Pultrusion Process)、プリプレグシートのローリング成形法などが知られている。また、強化繊維たる炭素繊維の種類や巻き角度等についても特に限定するものではない。
【0022】
CFRP部材20の長さL1は上に述べた鋼部材10の大径部14の長さL1とほぼ等しい。CFRP部材20は全長にわたってほぼ同径で、両端部の外周にブーツを嵌合させるためのブーツ溝22が設けてある。ブーツ溝22をCFRP部材20に形成することにより、鋼部材10の小径部16を短くしてその分だけ大径部14を長くすることができる。
【0023】
このように、鋼部材10の大径部14の長さL1およびCFRP部材20の長さL1は、図8に示した従来のシャフトSの大径部の長さLよりも長く設定してある(L1>L)。このような構成を採用することで、シャフトS1は従来のシャフトSよりも軽量で、かつ、剛性の高いものとなる。すなわち、(1)鋼部材10の大径部14を薄肉にしてCFRP部材20で補強することにより(材料の置換)、軽量化が達成できる。(2)鋼部材10の全長のうち大径部14が占める割合を大きくすることにより(L1>L)、上記軽量化効果が一層助長されるばかりでなく、大径部(中央部)14が長くなったことにより得られる捩り剛性が向上し、当該動力伝達軸を搭載した車両の振動特性の向上に寄与する。
【0024】
鋼部材10と外径両端部にブーツ溝22を成形したCFRP部材20を嵌め合わせる複合化は、種々の方法で実施することができる。図3に示すように、鋼部材10とあらかじめパイプ状に成形したCFRP部材20を接着剤24により接合してもよい。また、接着剤による密着性を高めるために、図4に示すように、接着剤溜まり26を設けてもよい。図4は、鋼部材10の大径部14の外周に形成した凹部によって接着剤溜まり26が形成された例を示している。なお、図3および図4は接着剤層の厚さや接着剤溜まり26の深さに関して幾分誇張してある。
【0025】
図5に示すように、鋼部材10とCFRP部材20の結合強度を増すために、鋼部材10の大径部14の外周に回転方向係止部位30を設けてもよい。そして、鋼部材10をCFRP部材20に圧入することにより、CFRP部材20の内周面に回転方向係止部位30の凸部を食い込ませて一体化する。回転方向係止部位30は、鋼部材10の大径部14の全長にわたって配置するほか、その一部分たとえば図5(A)に示すように両端部にのみ配置してもよい。回転方向係止部位30は鋼部材10とCFRP部材20との間に介在して相対回転を阻止する役割を果たすもので、セレーションやスプラインが代表例として挙げられるが、その他の類似の形状のものを採用することもできる。回転方向係止部位30がセレーションまたはスプラインの形態をとる場合、歯と溝が軸方向に延在し(図5(A))、横断面では凹凸の連続として現われる(図5(B))。
【0026】
回転方向係止部位30の他の形態としてローレット加工面を挙げることができる。すなわち、図6に示すように、鋼部材10とCFRP部材20の結合強度を増すために、鋼部材10の大径部14の外周面にローレット加工により凹凸面34を成形し、凹凸面34の凸部をCFRP部材20の内周面に食い込ませるようにしてもよい。
【0027】
CFRP部材20のブーツ溝22は、CFRP部材20の熱硬化後、機械加工により形成するか、あるいは、CFRP部材20を熱硬化させる際、外径側から軸心に向かってプレスにより金型を押し付けることにより、同時に焼き固めるようにしてもよい。
また、セレーションやスプライン、あるいは、ローレット成形による凹凸状の係止部を、鋼部材10の大径部14両端に成形する場合は、鋼部材10にフィラメントワインディング法 あるいは シートワインディング法 等の手法で、樹脂を含有させた炭素繊維 あるいは 樹脂を含有した炭素繊維のシートを直接巻き付け、その後、熱効果(キュア)させる方法で、鋼部材とCFRP部材を複合化させてもよい。この場合、熱硬化によりCFRP部材が収縮することで、鋼部材10に設けた凹凸部にCFRP部材20の内径面が食い込むことで一体化される。尚、ブーツ溝は、前述の如く形成する。
【0028】
図面を参照して上に述べた実施の形態の効果は以下のとおりである。
【0029】
動力伝達軸用シャフトS1は、外径面両端にブーツ溝を付帯しパイプ状に成形したCFRP部材20を鋼部材10の大径部14にはめ合わせた構造とすることにより、捩り剛性に影響する大径部を軸方向に向かって長くすることが可能となり、高剛性化を図ることができる。
【0030】
CFRP部材20のブーツ溝22を機械加工で形成することにより、ブーツ溝22を任意の形状に成形しやすくなる(機械加工による利点)。
【0031】
CFRP部材20のブーツ溝22をプレス加工で形成することにより、定常形状を成形する場合、切削加工が不要となるため低コスト化を図ることができる。
【0032】
鋼部材10とCFRP部材20を接着剤24で固定することにより、鋼部材10とCFRP部材20の結合強度が増す。
【0033】
鋼部材10の大径部14の外周に接着剤溜まり26を設けることで、鋼部材10とCFRP部材20の間に存在する僅かな接着剤層(図4参照)により、仮に、径方向にこれ等部材が偏った状態で嵌合され、円周上不連続な接着状態になったとしても、接着剤溜りの部分は偏りに関係なく円周上全面接着固定することができる。
【0034】
パイプ状CFRP部材20と鋼部材10を回転方向係止部位を介して圧入することにより、鋼部材10とCFRP部材20の結合強度が一層増す。
【0035】
回転方向係止部位を鋼部材10の両端部に設けることにより、シャフトが捩られた状態で、複合化された部位の最も負荷がかかる場所を確実に固定することができる。
【0036】
前記回転方向係止部位を、セレーションまたはスプラインあるいは ローレット加工による凹凸形状とすることで、機械加工による鋼部材10への成形性が容易となる。
【符号の説明】
【0037】
S1 動力伝達軸用シャフト
10 鋼部材
12 中空部
14 大径部
16 小径部
18 セレーション軸
20 CFRP部材
22 ブーツ溝
24 接着剤
26 接着剤溜まり
30 回転方向係止部位
32 セレーション軸
34 ローレット加工面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央の大径部と両端の小径部とからなる中空の鋼部材と、鋼部材の大径部の外周にはめ合わせたCFRP部材との複合体であって、CFRP部材の外周面にブーツ溝を設けた動力伝達軸用シャフト。
【請求項2】
パイプ状に成形したCFRP部材を鋼部材の大径部にはめ合わせた請求項1の動力伝達軸用シャフト。
【請求項3】
CFRP部材のブーツ溝を機械加工により形成した請求項1または2の動力伝達軸用シャフト。
【請求項4】
CFRP部材のブーツ溝をプレス加工により形成した請求項1または2の動力伝達軸用シャフト。
【請求項5】
鋼部材とCFRP部材を接着剤により固定した請求項1〜4のいずれか1項の動力伝達軸用シャフト。
【請求項6】
鋼部材の大径部の外周に接着剤溜まりを設けた請求項1〜5のいずれか1項の動力伝達軸用シャフト。
【請求項7】
パイプ状CFRP部材に鋼部材を回転方向係止部位を介して圧入した請求項1〜4のいずれか1項の動力伝達軸用シャフト。
【請求項8】
前記回転方向係止部位を鋼部材の大径部の両端部に設けた請求項7の動力伝達軸用シャフト。
【請求項9】
前記回転方向係止部位はセレーションまたはスプラインである請求項7または8の動力伝達軸用シャフト。
【請求項10】
前記回転方向係止部位はローレット加工面である請求項7または8の動力伝達軸用シャフト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−17413(P2011−17413A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163716(P2009−163716)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】