動圧軸受装置
【課題】スラスト軸受部のスラスト軸受機能をより一層高めた動圧軸受装置を提供する。
【解決手段】軸受スリーブ8の上側端面8bと軸部材2のフランジ部2bの下側端面2b2との間に第1スラスト軸受部T1が設けられ、軸部材2の軸部2aの下側端面2a2とこれに対向するハウジングの底部7cの内面7c1との間に第2スラスト軸受部T2が設けられる。第1スラスト軸受部T1と第2スラスト軸受部T2は、それぞれ、軸部材2を上方(同方向)に浮上支持する構成であるので、高いスラスト軸受機能が得られる。
【解決手段】軸受スリーブ8の上側端面8bと軸部材2のフランジ部2bの下側端面2b2との間に第1スラスト軸受部T1が設けられ、軸部材2の軸部2aの下側端面2a2とこれに対向するハウジングの底部7cの内面7c1との間に第2スラスト軸受部T2が設けられる。第1スラスト軸受部T1と第2スラスト軸受部T2は、それぞれ、軸部材2を上方(同方向)に浮上支持する構成であるので、高いスラスト軸受機能が得られる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受隙間に生じる流体(潤滑流体)の動圧作用によって軸部材を非接触支持する動圧軸受装置に関する。この軸受装置は、情報機器、例えばHDD、FDD等の磁気ディスク装置、CD−ROM、CD−R/RW、DVD−ROM/RAM等の光ディスク装置、MD、MO等の光磁気ディスク装置などのスピンドルモータ、レーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータ、あるいは電気機器、例えば軸流ファンなどの小型モータ用として好適である。
【背景技術】
【0002】
上記各種モータには、高回転精度の他、高速化、低コスト化、低騒音化などが求められている。これらの要求性能を決定づける構成要素の一つに当該モータのスピンドルを支持する軸受があり、近年では、この種の軸受として、上記要求性能に優れた特性を有する動圧軸受(流体動圧軸受)の使用が検討され、あるいは実際に使用されている。
【0003】
例えば、HDD等のディスク装置のスピンドルモータに組込まれる動圧軸受装置では、軸部材をラジアル方向に回転自在に非接触支持するラジアル軸受部と、軸部材をスラスト方向に回転自在に支持するスラスト軸受部とが設けられる。ラジアル軸受部としては、軸受スリーブの内周面又は軸部材の外周面に動圧溝等の動圧発生手段を設けた動圧軸受が用いられる。スラスト軸受部としては、軸部材に設けたフランジ部の端面、あるいは、これらに対向する面(軸受スリーブの端面やハウジングの底部内面等)に動圧溝等の動圧発生手段を設けた動圧軸受が用いられる。例えば、下記の特許文献1では、軸部材に設けたフランジ部の上側端面と軸受スリーブの下側端面との間に第1スラスト軸受部を設け、フランジ部の下側端面とハウジングの底部内面との間に第2スラスト軸受部を設けている。この場合、第1スラスト軸受部と第2スラスト軸受部のスラスト支持方向は相互に逆向になる。すなわち、第1スラスト軸受部は軸部材(フランジ部)を下側に浮上支持し、第2スラスト軸受部は軸部材(フランジ部)を上側に浮上支持する関係になる。また、下記の特許文献2では、軸部材に設けたフランジ部の下側端面と軸受スリーブの上側端面との間にスラスト軸受部を設け、この1つのスラスト軸受部により軸部材(フランジ部)を上側に浮上支持する構成にしている。
【0004】
また、ラジアル軸受部としては、ヘリングボーン形状やスパイラル形状等の軸方向に傾斜した形状の動圧溝を設けた動圧軸受の他、ラジアル軸受面を多円弧面で構成した、いわゆる多円弧軸受と称される動圧軸受が用いられる場合もある(例えば、特許文献3、4)。
【特許文献1】特開2002―61637号公報
【特許文献2】特開2000−87953号公報
【特許文献3】特開2000―337383号公報
【特許文献4】特開平9−200998号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、HDD等のディスク装置のスピンドルモータでは、動圧軸受装置の軸部材にディスクハブが装着され、ディスクハブに磁気ディスク等のディスク状情報記録媒体とこれを固定するクランパ、さらにモータを構成するロータマグネットなどが搭載される。従って、動圧軸受装置のスラスト軸受部はこれらの部材によって負荷されるスラスト荷重を支持する機能が求められるが、スピンドルモータのより一層の高速化の傾向などから、スラスト軸受部のスラスト軸受機能の更なる向上を求められる場合がある。
【0006】
本発明の課題は、スラスト軸受部のスラスト軸受機能をより一層高めた動圧軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、軸方向一端側に開口部を有すると共に、軸方向他端側に底部を有するハウジングと、ハウジングの内部に設けられた軸受スリーブと、軸受スリーブに対して相対回転する回転部材と、ラジアル軸受隙間に生じる潤滑流体の動圧作用で回転部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部と、スラスト軸受隙間に生じる潤滑流体の動圧作用で回転部材をスラスト方向に非接触支持するスラスト軸受部とを備えた動圧軸受装置において、スラスト軸受部は、ハウジングの開口部の側に設けられ、回転部材を軸方向一端側に浮上支持する第1スラスト軸受部と、ハウジングの底部の側に設けられ、回転部材を軸方向一端側に浮上支持する第2スラスト軸受部とで構成した。
【0008】
ここで、上記の潤滑流体としては、潤滑油(又は潤滑グリース)、磁性流体、エアー等の気体を用いることができる。
【0009】
上記構成において、第1スラスト軸受部は、ハウジング又は軸受スリーブの軸方向一端側端面とこれに対向する回転部材のスラスト面との間に形成し、軸方向一端側端面及びスラスト面のうち一方に動圧発生手段を設けることができる。
【0010】
また、第2スラスト軸受部は、回転部材の軸方向他端側端面とこれに対向するハウジングの底部内面との間に形成し、軸方向他端側端面及び底部内面のうち一方に動圧発生手段を設けることができる。
【0011】
また、ラジアル軸受部は、ヘリングボーン形状やスパイラル形状等の軸方向に傾斜した形状の動圧溝を設けた動圧軸受、複数の軸方向溝形状の動圧溝を円周方向所定間隔に設けた動圧軸受(ステップ軸受)の他、ラジアル軸受面を多円弧面で構成した動圧軸受(多円弧軸受)で構成することができる。
【0012】
本発明の動圧軸受装置は、特にディスク装置のスピンドルモータに好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の動圧軸受装置は、第1スラスト軸受部と第2スラスト軸受部により、回転部材を同方向(軸方向一端側)に浮上支持(非接触支持)する構成であるので、スラスト軸受部のスラスト軸受機能が高く、高速回転に対しても、長期間安定した回転精度を維持することができる。
【0014】
また、本発明の動圧軸受装置を備えたディスク装置のスピンドルモータは、良好な回転性能を長期に亘って維持する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る動圧軸受装置(流体動圧軸受装置)1を組み込んだ情報機器用スピンドルモータの一構成例を概念的に示している。このスピンドルモータは、HDD等のディスク駆動装置に用いられるもので、軸部材2を回転自在に非接触支持する動圧軸受装置1と、軸部材2に装着されたロータ(ディスクハブ)3と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータ4およびロータマグネット5とを備えている。ステータ4はブラケット6の外周に取付けられ、ロータマグネット5はディスクハブ3の内周に取付けられる。動圧軸受装置1のハウジング7は、ブラケット6の内周に装着される。ディスクハブ3には、磁気ディスク等のディスク状記録媒体Dが一又は複数枚保持される(通常、ディスク状記録媒体Dはクランパによってディスクハブ3に固定されるが、図1ではクランパの図示を省略している)。ステータ4に通電すると、ステータ4とロータマグネット5との間の電磁力でロータマグネット5が回転し、それによって、ディスクハブ3および軸部材2が一体となって回転する。
【0017】
図2は、動圧軸受装置1を示している。この動圧軸受装置1は、ハウジング7と、ハウジング7に固定された軸受スリーブ8と、軸部材2と、係止部材10とを主要な部品として構成される。
【0018】
軸受スリーブ8の内周面8aと軸部材2の軸部2aの外周面2a1との間に第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2とが軸方向に離隔して設けられる。また、軸受スリーブ8の上側端面8bと軸部材2のフランジ部2bの下側端面2b2との間に第1スラスト軸受部T1が設けられ、軸部材2の軸部2aの下側端面2a2とこれに対向するハウジングの底部7cの内面7c1との間に第2スラスト軸受部T2が設けられる。
【0019】
ハウジング7は、黄銅やステンレス鋼等の金属材料又は樹脂材料で有底円筒状に形成され、円筒状の側部7bと、側部7bの軸方向一端側(同図では上側)に設けられた開口部7aと、側部7bの軸方向他端側(同図では下側)に一体に設けられた底部7cとを備えている。底部7cの内面7c1には、第2スラスト軸受部T2のスラスト軸受面となる領域(軸部材2の軸部2aの下側端面2a2と対向する内径側領域)が設けられ、該領域には、動圧発生手段として、例えば図4に示すようなスパイラル形状(へリングボーン形状でも良い。)の動圧溝7c11が形成される。尚、側部7bと底部7cとは別体に形成し、両者を適宜の手段で相互に結合しても良い。また、説明の便宜上、ハウジング7の開口部7aの側を上側、底部7cの側を下側とする。
【0020】
ハウジング7を樹脂材料で形成する場合、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂の中から適宜に選択して用いることができる。熱可塑性樹脂の場合、例えば、非晶性樹脂として、ポリサルフォン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニルサルフォン(PPSU)、ポリエーテルイミド(PEI)等、結晶性樹脂として、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等を用いることができる。また、上記の樹脂に、充填材として、ガラス繊維等の繊維状充填材、チタン酸カリウム等のウィスカー状充填材、マイカ等の鱗片状充填材、カーボンファイバー、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノマテリアル、金属粉末等の繊維状又は粉末状の導電性充填材を単独で、あるいは、二種以上を混合して配合しても良い。
【0021】
ハウジング7を樹脂材料で形成する場合、あるいは、ハウジング7を金属材料のプレス加工で形成する場合、底部7cの内面7c1の動圧溝7c11は、ハウジング7を成形する金型の所要部位(内面7c1を成形する部位)に動圧溝7c11を成形する溝型を加工しておき、ハウジング7の成形時に、上記溝型の形状を内面7c1に転写することによって形成することができる。
【0022】
軸部材2は、例えば、ステンレス鋼等の金属材料で形成され、あるいは、金属部分と樹脂部分からなるハイブリッド構造とされ、軸部2aと、軸部2aから外径側に張り出したフランジ部2bとを備えている。軸部2aとフランジ部2bは、両者を一体に形成しても良いし、両者を別体に形成し、適宜の手段(レーザ溶接等)で相互に結合しても良い。
【0023】
軸受スリーブ8は、例えば、黄銅やアルミ(アルミ合金)等の軟質金属材料、あるいは、焼結金属材料で形成されている。この実施形態において、軸受スリーブ8は、焼結金属からなる多孔質体、特に銅を主成分とする燒結金属の多孔質体で円筒状に形成されている。
【0024】
軸受スリーブ8の内周面8aには、第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2のラジアル軸受面となる領域が設けられ、該領域は、例えば図3示すような3つの円弧面13で構成されている(いわゆる3円弧軸受)。3つの円弧面13の曲率中心は、それぞれ、軸受スリーブ8(軸部2a)の軸中心Oから等距離オフセットされている。3つの円弧面13で区画される各領域において、ラジアル軸受隙間15は、円周方向の一方向に対して、それぞれ楔状に漸次縮小した形状を有している。このような構成の多円弧軸受は、テーパ軸受と称されることもある。また、3つの円弧面13の相互間の境界部に、分離溝と称される、一段深い軸方向溝14が形成されている。軸受スリーブ8と軸部2aとが所定方向に相対回転すると、ラジアル軸受隙間15内の潤滑流体が楔状に縮小した最小隙間側に押し込まれて、その圧力が上昇する。このような潤滑流体の動圧作用によって、軸受スリーブ8と軸部2aとが非接触支持される。尚、図3に示すような多円弧軸受の構成は、第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2のうち一方にのみ適用しても良い。
【0025】
また、軸受スリーブ8の上側端面8bには、第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受面となる領域が設けられ、該領域には、動圧発生手段として、例えば図4に示すものと同様のスパイラル形状(へリングボーン形状でも良い。)の動圧溝が形成される。
【0026】
上記のような軸受スリーブ8は、ハウジング7の側部7bの内周に接着、圧入等の適宜の手段で固定され、その下側端面8cはハウジング7の底部7cの内面7c1の外径側領域に当接している。
【0027】
ハウジング7の開口部7aの内周には、黄銅等の金属材料又は樹脂材料で形成された係止部材10が固定されている。係止部材10の内周面10aは、軸部2aの外周面2a1と所定容積のシール空間Sを介して対向する。そして、係止部材10で密封されたハウジング7の内部空間には、軸受スリーブ8の内部気孔を含めて、潤滑流体としての潤滑油が充満されている。この潤滑油の油面は、シール空間Sの範囲内に維持される。また、軸部材2が図1に示す状態から軸方向上方へ変位すると、フランジ部2bの上側端面2b1が係止部材10の下側端面10bと係合し、これにより、軸部材2の抜けが規制される。すなわち、この実施形態の係止部材10は、シールとしての機能と、軸部材2の抜けを規制するストッパとしての機能とを併せ持っている。
【0028】
動圧軸受装置1は以上のように構成され、軸部材2の回転時、軸受スリーブ8の内周面8aのラジアル軸受面となる領域13は、それぞれ、軸部2aの外周面2a1とラジアル軸受隙間15を介して対向する。また、軸受スリーブ8の上側端面8bのスラスト軸受面となる領域は、フランジ部2bの下側端面2b2とスラスト軸受隙間を介して対向し、ハウジング7の底部7cの内面7c1のスラスト軸受面となる領域は、軸部2aの下側端面2a2とスラスト軸受隙間を介して対向する。そして、軸部材2の回転に伴い、上記ラジアル軸受隙間15に潤滑油の動圧が発生し、軸部材2の軸部2aが上記ラジアル軸受隙間15内に形成される潤滑油の油膜によってラジアル方向に回転自在に非接触支持される。これにより、軸部材2をラジアル方向に回転自在に非接触支持する第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2とが構成される。
【0029】
同時に、上記スラスト軸受隙間にも潤滑油の動圧が発生し、このスラスト軸受隙間内に形成される潤滑油の油膜によって、軸部材2の軸部2a及びフランジ部2bがスラスト方向に回転自在に非接触支持される。これにより、軸部材2をスラスト方向に回転自在に非接触支持する第1スラスト軸受部T1と第2スラスト軸受部T2とが構成される。第1スラスト軸受部T1と第2スラスト軸受部T2は、それぞれ、軸部材2を上方(同方向)に浮上支持(非接触支持)する構成であるので、高いスラスト軸受機能が得られる。
【0030】
図5に示す実施形態は、シール空間Sを、ハウジング7の内部方向に向かって漸次縮小するテーパ形状にしたものである。そのために、この実施形態では、係止部材10の内周面10aを、ハウジング7の内部方向に向かって漸次縮径するテーパ面に形成している。シール空間Sをこのようなテーパ形状にすることにより、シール空間Sによる潤滑油の保持作用(毛細管作用等)を高めて、潤滑油の外部への洩れを効果的に防止することができる。また、必要とされる空間容積に対して、シール空間Sの軸方向寸法を縮小することも可能となる。尚、シール空間Sをテーパ形状にする手段として、軸部2aの外周面2a1(シール空間Sに臨む外周面2a1)をハウジング7の内部方向に向かって漸次拡径するテーパ面に形成しても良い。この場合、軸部材2の回転により遠心力シールとしての機能も得られる。
【0031】
図6に示す実施形態は、係止部材10の内周面10aとフランジ部2bの外周面2b3との間にシール空間Sを形成したものである。この実施形態において、係止部材10は、その下側端面10bの外径側領域が軸方向下方に突出して脚部10cを構成している。また、フランジ部2bの外周は、半径方向の段差面2b4を介して、上側の外周面2b3と下側の外周面2b5とに区画されている。上側の外周面2b3は、ハウジング7の内部方向に向かって漸次拡径するテーパ面に形成されており、この外周面2b3と係止部材10の内周面10aとの間にテーパ形状のシール空間Sが形成されている。また、フランジ部2bの段差面2b4は、係止部材10の下側端面10bと所定の軸方向間隔で対向しており、軸部材2が図6に示す状態から軸方向上方へ変位すると、フランジ部2bの段差面2b4が係止部材10の下側端面10bと係合し、これにより、軸部材2の抜けが規制される。さらに、この実施形態では、係止部材10の脚部10cを軸受スリーブ8の上側端面8bに当接させることにより、係止部材10の軸方向の位置決めを容易に行うことができる。
【0032】
図7に示す実施形態は、ハウジング7の開口部7aの内周に、黄銅等の金属材料又は樹脂材料で形成されたシール部材11を固定したものである。シール部材11の内周面11aは、軸部2aのフランジ部2bの外周面と所定容積のシール空間Sを介して対向する。また、シール部材10の下側端面11bは、軸受スリーブ8の上側端面8bと所定の軸方向間隔で対向する。このシール部材11は、上述した係止部材10とは異なり、軸部材2の抜けを規制する機能は有していない。また、シール空間Sは、図8に示すように、ハウジング7の内部方向に向かって漸次縮小するテーパ形状にしても良い。
【0033】
図9に示す実施形態は、第1スラスト軸受部T1を、ハウジング7の上側端面7dと、軸部材2に装着されたディスクハブ13のスラスト面13aとの間に設けたものである。第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受面となるハウジング7の上側端面7dには、例えば図4に示すものと同様のスパイラル形状(へリングボーン形状でも良い。)の動圧溝が形成される。
【0034】
この実施形態において、ハウジング7は、その上方部外周に、上方に向かって漸次拡径するテーパ状外壁7eを備え、このテーパ状外壁7eで、ディスクハブ13に設けられた鍔部13bの内壁13b1との間に、上方に向かって漸次縮小するテーパ状のシール空間Sを形成する。このシール空間Sは、軸部材2及びディスクハブ13の回転時、スラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間の外径側と連通する。また、軸部材2はフランジ部を有していない。その他の事項は、以上に説明した実施形態に準じるので、説明を省略する。
【0035】
図10は、ラジアル軸受部R1、R2の一方又は双方を多円弧軸受で構成した場合の他の例を示している。この例では、図3に示す構成において、3つの円弧面13の最小隙間側の所定領域θが、それぞれ、軸受スリーブ8(軸部2a)の軸中心Oを曲率中心とする同心の円弧で構成されている。従って、各所定領域θにおいて、ラジアル軸受隙間(最小隙間)は一定になる。このような構成の多円弧軸受は、テーパ・フラット軸受と称されることもある。
【0036】
図11は、ラジアル軸受部R1、R2の一方又は双方を多円弧軸受で構成した場合の他の例を示している。この例では、軸受スリーブ8の内周面8aのラジアル軸受面となる領域が、3つの円弧面13で構成されている(いわゆる3円弧軸受)。3つの円弧面13の曲率中心は、それぞれ、軸受スリーブ8(軸部2a)の軸中心Oから等距離オフセットされている。3つの円弧面13で区画される各領域において、ラジアル軸受隙間15は、円周方向の両方向に対して、それぞれ楔状に漸次縮小した形状を有している。そのため、軸受スリーブ8と軸部2aとが相対回転すると、その相対回転の方向に応じて、ラジアル軸受隙間内の潤滑流体が楔状に縮小した最小隙間側に押し込まれて、その圧力が上昇する。このような潤滑流体の動圧作用によって、軸受スリーブ8と軸部2aとが非接触支持される。尚、3つの円弧面13の相互間の境界部に、分離溝と称される、一段深い軸方向溝14を形成しても良い。また、この例において、軸方向溝14の領域は母体81の表面のまま残されているが、この領域にも樹脂層82を形成しても良い。
【0037】
以上の各例における多円弧軸受は、いわゆる3円弧軸受であるが、これに限らず、いわゆる4円弧軸受、5円弧軸受、さらに6円弧以上の数の円弧面で構成された多円弧軸受を採用しても良い。また、ラジアル軸受部R1、R2のように、2つのラジアル軸受部を軸方向に離隔して設けた構成とする他、軸受スリーブ8の内周面8aの上下領域に亘って1つのラジアル軸受部を設けた構成としても良い。さらに、ラジアル軸受部R1、R2の一方又は双方は、動圧発生手段として、ヘリングボーン形状やスパイラル形状等の軸方向に傾斜した形状の動圧溝を設けた動圧軸受、複数の軸方向溝形状の動圧溝を円周方向所定間隔に設けた動圧軸受(ステップ軸受)で構成しても良い。
【0038】
また、スラスト軸受部Tは、例えば、スラスト軸受面となる領域に、複数の半径方向溝形状の動圧溝を円周方向所定間隔に設けた、いわゆるステップ軸受、いわゆる波型軸受(ステップ型が波型になったもの)等で構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施形態に係るディスク装置のスピンドルモータの断面図である。
【図2】実施形態に係る動圧軸受装置を示す断面図である。
【図3】軸受スリーブの断面図である。
【図4】軸受スリーブの上端面図である。
【図5】他の実施形態に係る動圧軸受装置のハウジング開口部周辺を示す部分拡大断面図である。
【図6】他の実施形態に係る動圧軸受装置のハウジング開口部周辺を示す部分拡大断面図である。
【図7】他の実施形態に係る動圧軸受装置を示す断面図である。
【図8】他の実施形態に係る動圧軸受装置のハウジング開口部周辺を示す部分拡大断面図である。
【図9】他の実施形態に係る動圧軸受装置を示す断面図である。
【図10】ラジアル軸受部の他の構成例を示す断面図である。
【図11】ラジアル軸受部の他の構成例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 動圧軸受装置
2 軸部材
7 ハウジング
7a 開口部
7c 底部
7c1 内面
7d 上側端面
8 軸受スリーブ
8b 上側端面
13 ディスクハブ
13a スラスト面
R1 第1ラジアル軸受部
R2 第2ラジアル軸受部
T1 第1スラスト軸受部
T2 第2スラスト軸受部
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受隙間に生じる流体(潤滑流体)の動圧作用によって軸部材を非接触支持する動圧軸受装置に関する。この軸受装置は、情報機器、例えばHDD、FDD等の磁気ディスク装置、CD−ROM、CD−R/RW、DVD−ROM/RAM等の光ディスク装置、MD、MO等の光磁気ディスク装置などのスピンドルモータ、レーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータ、あるいは電気機器、例えば軸流ファンなどの小型モータ用として好適である。
【背景技術】
【0002】
上記各種モータには、高回転精度の他、高速化、低コスト化、低騒音化などが求められている。これらの要求性能を決定づける構成要素の一つに当該モータのスピンドルを支持する軸受があり、近年では、この種の軸受として、上記要求性能に優れた特性を有する動圧軸受(流体動圧軸受)の使用が検討され、あるいは実際に使用されている。
【0003】
例えば、HDD等のディスク装置のスピンドルモータに組込まれる動圧軸受装置では、軸部材をラジアル方向に回転自在に非接触支持するラジアル軸受部と、軸部材をスラスト方向に回転自在に支持するスラスト軸受部とが設けられる。ラジアル軸受部としては、軸受スリーブの内周面又は軸部材の外周面に動圧溝等の動圧発生手段を設けた動圧軸受が用いられる。スラスト軸受部としては、軸部材に設けたフランジ部の端面、あるいは、これらに対向する面(軸受スリーブの端面やハウジングの底部内面等)に動圧溝等の動圧発生手段を設けた動圧軸受が用いられる。例えば、下記の特許文献1では、軸部材に設けたフランジ部の上側端面と軸受スリーブの下側端面との間に第1スラスト軸受部を設け、フランジ部の下側端面とハウジングの底部内面との間に第2スラスト軸受部を設けている。この場合、第1スラスト軸受部と第2スラスト軸受部のスラスト支持方向は相互に逆向になる。すなわち、第1スラスト軸受部は軸部材(フランジ部)を下側に浮上支持し、第2スラスト軸受部は軸部材(フランジ部)を上側に浮上支持する関係になる。また、下記の特許文献2では、軸部材に設けたフランジ部の下側端面と軸受スリーブの上側端面との間にスラスト軸受部を設け、この1つのスラスト軸受部により軸部材(フランジ部)を上側に浮上支持する構成にしている。
【0004】
また、ラジアル軸受部としては、ヘリングボーン形状やスパイラル形状等の軸方向に傾斜した形状の動圧溝を設けた動圧軸受の他、ラジアル軸受面を多円弧面で構成した、いわゆる多円弧軸受と称される動圧軸受が用いられる場合もある(例えば、特許文献3、4)。
【特許文献1】特開2002―61637号公報
【特許文献2】特開2000−87953号公報
【特許文献3】特開2000―337383号公報
【特許文献4】特開平9−200998号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、HDD等のディスク装置のスピンドルモータでは、動圧軸受装置の軸部材にディスクハブが装着され、ディスクハブに磁気ディスク等のディスク状情報記録媒体とこれを固定するクランパ、さらにモータを構成するロータマグネットなどが搭載される。従って、動圧軸受装置のスラスト軸受部はこれらの部材によって負荷されるスラスト荷重を支持する機能が求められるが、スピンドルモータのより一層の高速化の傾向などから、スラスト軸受部のスラスト軸受機能の更なる向上を求められる場合がある。
【0006】
本発明の課題は、スラスト軸受部のスラスト軸受機能をより一層高めた動圧軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、軸方向一端側に開口部を有すると共に、軸方向他端側に底部を有するハウジングと、ハウジングの内部に設けられた軸受スリーブと、軸受スリーブに対して相対回転する回転部材と、ラジアル軸受隙間に生じる潤滑流体の動圧作用で回転部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部と、スラスト軸受隙間に生じる潤滑流体の動圧作用で回転部材をスラスト方向に非接触支持するスラスト軸受部とを備えた動圧軸受装置において、スラスト軸受部は、ハウジングの開口部の側に設けられ、回転部材を軸方向一端側に浮上支持する第1スラスト軸受部と、ハウジングの底部の側に設けられ、回転部材を軸方向一端側に浮上支持する第2スラスト軸受部とで構成した。
【0008】
ここで、上記の潤滑流体としては、潤滑油(又は潤滑グリース)、磁性流体、エアー等の気体を用いることができる。
【0009】
上記構成において、第1スラスト軸受部は、ハウジング又は軸受スリーブの軸方向一端側端面とこれに対向する回転部材のスラスト面との間に形成し、軸方向一端側端面及びスラスト面のうち一方に動圧発生手段を設けることができる。
【0010】
また、第2スラスト軸受部は、回転部材の軸方向他端側端面とこれに対向するハウジングの底部内面との間に形成し、軸方向他端側端面及び底部内面のうち一方に動圧発生手段を設けることができる。
【0011】
また、ラジアル軸受部は、ヘリングボーン形状やスパイラル形状等の軸方向に傾斜した形状の動圧溝を設けた動圧軸受、複数の軸方向溝形状の動圧溝を円周方向所定間隔に設けた動圧軸受(ステップ軸受)の他、ラジアル軸受面を多円弧面で構成した動圧軸受(多円弧軸受)で構成することができる。
【0012】
本発明の動圧軸受装置は、特にディスク装置のスピンドルモータに好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の動圧軸受装置は、第1スラスト軸受部と第2スラスト軸受部により、回転部材を同方向(軸方向一端側)に浮上支持(非接触支持)する構成であるので、スラスト軸受部のスラスト軸受機能が高く、高速回転に対しても、長期間安定した回転精度を維持することができる。
【0014】
また、本発明の動圧軸受装置を備えたディスク装置のスピンドルモータは、良好な回転性能を長期に亘って維持する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る動圧軸受装置(流体動圧軸受装置)1を組み込んだ情報機器用スピンドルモータの一構成例を概念的に示している。このスピンドルモータは、HDD等のディスク駆動装置に用いられるもので、軸部材2を回転自在に非接触支持する動圧軸受装置1と、軸部材2に装着されたロータ(ディスクハブ)3と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータ4およびロータマグネット5とを備えている。ステータ4はブラケット6の外周に取付けられ、ロータマグネット5はディスクハブ3の内周に取付けられる。動圧軸受装置1のハウジング7は、ブラケット6の内周に装着される。ディスクハブ3には、磁気ディスク等のディスク状記録媒体Dが一又は複数枚保持される(通常、ディスク状記録媒体Dはクランパによってディスクハブ3に固定されるが、図1ではクランパの図示を省略している)。ステータ4に通電すると、ステータ4とロータマグネット5との間の電磁力でロータマグネット5が回転し、それによって、ディスクハブ3および軸部材2が一体となって回転する。
【0017】
図2は、動圧軸受装置1を示している。この動圧軸受装置1は、ハウジング7と、ハウジング7に固定された軸受スリーブ8と、軸部材2と、係止部材10とを主要な部品として構成される。
【0018】
軸受スリーブ8の内周面8aと軸部材2の軸部2aの外周面2a1との間に第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2とが軸方向に離隔して設けられる。また、軸受スリーブ8の上側端面8bと軸部材2のフランジ部2bの下側端面2b2との間に第1スラスト軸受部T1が設けられ、軸部材2の軸部2aの下側端面2a2とこれに対向するハウジングの底部7cの内面7c1との間に第2スラスト軸受部T2が設けられる。
【0019】
ハウジング7は、黄銅やステンレス鋼等の金属材料又は樹脂材料で有底円筒状に形成され、円筒状の側部7bと、側部7bの軸方向一端側(同図では上側)に設けられた開口部7aと、側部7bの軸方向他端側(同図では下側)に一体に設けられた底部7cとを備えている。底部7cの内面7c1には、第2スラスト軸受部T2のスラスト軸受面となる領域(軸部材2の軸部2aの下側端面2a2と対向する内径側領域)が設けられ、該領域には、動圧発生手段として、例えば図4に示すようなスパイラル形状(へリングボーン形状でも良い。)の動圧溝7c11が形成される。尚、側部7bと底部7cとは別体に形成し、両者を適宜の手段で相互に結合しても良い。また、説明の便宜上、ハウジング7の開口部7aの側を上側、底部7cの側を下側とする。
【0020】
ハウジング7を樹脂材料で形成する場合、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂の中から適宜に選択して用いることができる。熱可塑性樹脂の場合、例えば、非晶性樹脂として、ポリサルフォン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニルサルフォン(PPSU)、ポリエーテルイミド(PEI)等、結晶性樹脂として、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等を用いることができる。また、上記の樹脂に、充填材として、ガラス繊維等の繊維状充填材、チタン酸カリウム等のウィスカー状充填材、マイカ等の鱗片状充填材、カーボンファイバー、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノマテリアル、金属粉末等の繊維状又は粉末状の導電性充填材を単独で、あるいは、二種以上を混合して配合しても良い。
【0021】
ハウジング7を樹脂材料で形成する場合、あるいは、ハウジング7を金属材料のプレス加工で形成する場合、底部7cの内面7c1の動圧溝7c11は、ハウジング7を成形する金型の所要部位(内面7c1を成形する部位)に動圧溝7c11を成形する溝型を加工しておき、ハウジング7の成形時に、上記溝型の形状を内面7c1に転写することによって形成することができる。
【0022】
軸部材2は、例えば、ステンレス鋼等の金属材料で形成され、あるいは、金属部分と樹脂部分からなるハイブリッド構造とされ、軸部2aと、軸部2aから外径側に張り出したフランジ部2bとを備えている。軸部2aとフランジ部2bは、両者を一体に形成しても良いし、両者を別体に形成し、適宜の手段(レーザ溶接等)で相互に結合しても良い。
【0023】
軸受スリーブ8は、例えば、黄銅やアルミ(アルミ合金)等の軟質金属材料、あるいは、焼結金属材料で形成されている。この実施形態において、軸受スリーブ8は、焼結金属からなる多孔質体、特に銅を主成分とする燒結金属の多孔質体で円筒状に形成されている。
【0024】
軸受スリーブ8の内周面8aには、第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2のラジアル軸受面となる領域が設けられ、該領域は、例えば図3示すような3つの円弧面13で構成されている(いわゆる3円弧軸受)。3つの円弧面13の曲率中心は、それぞれ、軸受スリーブ8(軸部2a)の軸中心Oから等距離オフセットされている。3つの円弧面13で区画される各領域において、ラジアル軸受隙間15は、円周方向の一方向に対して、それぞれ楔状に漸次縮小した形状を有している。このような構成の多円弧軸受は、テーパ軸受と称されることもある。また、3つの円弧面13の相互間の境界部に、分離溝と称される、一段深い軸方向溝14が形成されている。軸受スリーブ8と軸部2aとが所定方向に相対回転すると、ラジアル軸受隙間15内の潤滑流体が楔状に縮小した最小隙間側に押し込まれて、その圧力が上昇する。このような潤滑流体の動圧作用によって、軸受スリーブ8と軸部2aとが非接触支持される。尚、図3に示すような多円弧軸受の構成は、第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2のうち一方にのみ適用しても良い。
【0025】
また、軸受スリーブ8の上側端面8bには、第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受面となる領域が設けられ、該領域には、動圧発生手段として、例えば図4に示すものと同様のスパイラル形状(へリングボーン形状でも良い。)の動圧溝が形成される。
【0026】
上記のような軸受スリーブ8は、ハウジング7の側部7bの内周に接着、圧入等の適宜の手段で固定され、その下側端面8cはハウジング7の底部7cの内面7c1の外径側領域に当接している。
【0027】
ハウジング7の開口部7aの内周には、黄銅等の金属材料又は樹脂材料で形成された係止部材10が固定されている。係止部材10の内周面10aは、軸部2aの外周面2a1と所定容積のシール空間Sを介して対向する。そして、係止部材10で密封されたハウジング7の内部空間には、軸受スリーブ8の内部気孔を含めて、潤滑流体としての潤滑油が充満されている。この潤滑油の油面は、シール空間Sの範囲内に維持される。また、軸部材2が図1に示す状態から軸方向上方へ変位すると、フランジ部2bの上側端面2b1が係止部材10の下側端面10bと係合し、これにより、軸部材2の抜けが規制される。すなわち、この実施形態の係止部材10は、シールとしての機能と、軸部材2の抜けを規制するストッパとしての機能とを併せ持っている。
【0028】
動圧軸受装置1は以上のように構成され、軸部材2の回転時、軸受スリーブ8の内周面8aのラジアル軸受面となる領域13は、それぞれ、軸部2aの外周面2a1とラジアル軸受隙間15を介して対向する。また、軸受スリーブ8の上側端面8bのスラスト軸受面となる領域は、フランジ部2bの下側端面2b2とスラスト軸受隙間を介して対向し、ハウジング7の底部7cの内面7c1のスラスト軸受面となる領域は、軸部2aの下側端面2a2とスラスト軸受隙間を介して対向する。そして、軸部材2の回転に伴い、上記ラジアル軸受隙間15に潤滑油の動圧が発生し、軸部材2の軸部2aが上記ラジアル軸受隙間15内に形成される潤滑油の油膜によってラジアル方向に回転自在に非接触支持される。これにより、軸部材2をラジアル方向に回転自在に非接触支持する第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2とが構成される。
【0029】
同時に、上記スラスト軸受隙間にも潤滑油の動圧が発生し、このスラスト軸受隙間内に形成される潤滑油の油膜によって、軸部材2の軸部2a及びフランジ部2bがスラスト方向に回転自在に非接触支持される。これにより、軸部材2をスラスト方向に回転自在に非接触支持する第1スラスト軸受部T1と第2スラスト軸受部T2とが構成される。第1スラスト軸受部T1と第2スラスト軸受部T2は、それぞれ、軸部材2を上方(同方向)に浮上支持(非接触支持)する構成であるので、高いスラスト軸受機能が得られる。
【0030】
図5に示す実施形態は、シール空間Sを、ハウジング7の内部方向に向かって漸次縮小するテーパ形状にしたものである。そのために、この実施形態では、係止部材10の内周面10aを、ハウジング7の内部方向に向かって漸次縮径するテーパ面に形成している。シール空間Sをこのようなテーパ形状にすることにより、シール空間Sによる潤滑油の保持作用(毛細管作用等)を高めて、潤滑油の外部への洩れを効果的に防止することができる。また、必要とされる空間容積に対して、シール空間Sの軸方向寸法を縮小することも可能となる。尚、シール空間Sをテーパ形状にする手段として、軸部2aの外周面2a1(シール空間Sに臨む外周面2a1)をハウジング7の内部方向に向かって漸次拡径するテーパ面に形成しても良い。この場合、軸部材2の回転により遠心力シールとしての機能も得られる。
【0031】
図6に示す実施形態は、係止部材10の内周面10aとフランジ部2bの外周面2b3との間にシール空間Sを形成したものである。この実施形態において、係止部材10は、その下側端面10bの外径側領域が軸方向下方に突出して脚部10cを構成している。また、フランジ部2bの外周は、半径方向の段差面2b4を介して、上側の外周面2b3と下側の外周面2b5とに区画されている。上側の外周面2b3は、ハウジング7の内部方向に向かって漸次拡径するテーパ面に形成されており、この外周面2b3と係止部材10の内周面10aとの間にテーパ形状のシール空間Sが形成されている。また、フランジ部2bの段差面2b4は、係止部材10の下側端面10bと所定の軸方向間隔で対向しており、軸部材2が図6に示す状態から軸方向上方へ変位すると、フランジ部2bの段差面2b4が係止部材10の下側端面10bと係合し、これにより、軸部材2の抜けが規制される。さらに、この実施形態では、係止部材10の脚部10cを軸受スリーブ8の上側端面8bに当接させることにより、係止部材10の軸方向の位置決めを容易に行うことができる。
【0032】
図7に示す実施形態は、ハウジング7の開口部7aの内周に、黄銅等の金属材料又は樹脂材料で形成されたシール部材11を固定したものである。シール部材11の内周面11aは、軸部2aのフランジ部2bの外周面と所定容積のシール空間Sを介して対向する。また、シール部材10の下側端面11bは、軸受スリーブ8の上側端面8bと所定の軸方向間隔で対向する。このシール部材11は、上述した係止部材10とは異なり、軸部材2の抜けを規制する機能は有していない。また、シール空間Sは、図8に示すように、ハウジング7の内部方向に向かって漸次縮小するテーパ形状にしても良い。
【0033】
図9に示す実施形態は、第1スラスト軸受部T1を、ハウジング7の上側端面7dと、軸部材2に装着されたディスクハブ13のスラスト面13aとの間に設けたものである。第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受面となるハウジング7の上側端面7dには、例えば図4に示すものと同様のスパイラル形状(へリングボーン形状でも良い。)の動圧溝が形成される。
【0034】
この実施形態において、ハウジング7は、その上方部外周に、上方に向かって漸次拡径するテーパ状外壁7eを備え、このテーパ状外壁7eで、ディスクハブ13に設けられた鍔部13bの内壁13b1との間に、上方に向かって漸次縮小するテーパ状のシール空間Sを形成する。このシール空間Sは、軸部材2及びディスクハブ13の回転時、スラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間の外径側と連通する。また、軸部材2はフランジ部を有していない。その他の事項は、以上に説明した実施形態に準じるので、説明を省略する。
【0035】
図10は、ラジアル軸受部R1、R2の一方又は双方を多円弧軸受で構成した場合の他の例を示している。この例では、図3に示す構成において、3つの円弧面13の最小隙間側の所定領域θが、それぞれ、軸受スリーブ8(軸部2a)の軸中心Oを曲率中心とする同心の円弧で構成されている。従って、各所定領域θにおいて、ラジアル軸受隙間(最小隙間)は一定になる。このような構成の多円弧軸受は、テーパ・フラット軸受と称されることもある。
【0036】
図11は、ラジアル軸受部R1、R2の一方又は双方を多円弧軸受で構成した場合の他の例を示している。この例では、軸受スリーブ8の内周面8aのラジアル軸受面となる領域が、3つの円弧面13で構成されている(いわゆる3円弧軸受)。3つの円弧面13の曲率中心は、それぞれ、軸受スリーブ8(軸部2a)の軸中心Oから等距離オフセットされている。3つの円弧面13で区画される各領域において、ラジアル軸受隙間15は、円周方向の両方向に対して、それぞれ楔状に漸次縮小した形状を有している。そのため、軸受スリーブ8と軸部2aとが相対回転すると、その相対回転の方向に応じて、ラジアル軸受隙間内の潤滑流体が楔状に縮小した最小隙間側に押し込まれて、その圧力が上昇する。このような潤滑流体の動圧作用によって、軸受スリーブ8と軸部2aとが非接触支持される。尚、3つの円弧面13の相互間の境界部に、分離溝と称される、一段深い軸方向溝14を形成しても良い。また、この例において、軸方向溝14の領域は母体81の表面のまま残されているが、この領域にも樹脂層82を形成しても良い。
【0037】
以上の各例における多円弧軸受は、いわゆる3円弧軸受であるが、これに限らず、いわゆる4円弧軸受、5円弧軸受、さらに6円弧以上の数の円弧面で構成された多円弧軸受を採用しても良い。また、ラジアル軸受部R1、R2のように、2つのラジアル軸受部を軸方向に離隔して設けた構成とする他、軸受スリーブ8の内周面8aの上下領域に亘って1つのラジアル軸受部を設けた構成としても良い。さらに、ラジアル軸受部R1、R2の一方又は双方は、動圧発生手段として、ヘリングボーン形状やスパイラル形状等の軸方向に傾斜した形状の動圧溝を設けた動圧軸受、複数の軸方向溝形状の動圧溝を円周方向所定間隔に設けた動圧軸受(ステップ軸受)で構成しても良い。
【0038】
また、スラスト軸受部Tは、例えば、スラスト軸受面となる領域に、複数の半径方向溝形状の動圧溝を円周方向所定間隔に設けた、いわゆるステップ軸受、いわゆる波型軸受(ステップ型が波型になったもの)等で構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施形態に係るディスク装置のスピンドルモータの断面図である。
【図2】実施形態に係る動圧軸受装置を示す断面図である。
【図3】軸受スリーブの断面図である。
【図4】軸受スリーブの上端面図である。
【図5】他の実施形態に係る動圧軸受装置のハウジング開口部周辺を示す部分拡大断面図である。
【図6】他の実施形態に係る動圧軸受装置のハウジング開口部周辺を示す部分拡大断面図である。
【図7】他の実施形態に係る動圧軸受装置を示す断面図である。
【図8】他の実施形態に係る動圧軸受装置のハウジング開口部周辺を示す部分拡大断面図である。
【図9】他の実施形態に係る動圧軸受装置を示す断面図である。
【図10】ラジアル軸受部の他の構成例を示す断面図である。
【図11】ラジアル軸受部の他の構成例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 動圧軸受装置
2 軸部材
7 ハウジング
7a 開口部
7c 底部
7c1 内面
7d 上側端面
8 軸受スリーブ
8b 上側端面
13 ディスクハブ
13a スラスト面
R1 第1ラジアル軸受部
R2 第2ラジアル軸受部
T1 第1スラスト軸受部
T2 第2スラスト軸受部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向一端側に開口部を有すると共に、軸方向他端側に底部を有するハウジングと、該ハウジングの内部に設けられた軸受スリーブと、該軸受スリーブに対して相対回転する回転部材と、ラジアル軸受隙間に生じる潤滑流体の動圧作用で前記回転部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部と、スラスト軸受隙間に生じる潤滑流体の動圧作用で前記回転部材をスラスト方向に非接触支持するスラスト軸受部とを備えた動圧軸受装置において、
前記スラスト軸受部は、前記ハウジングの開口部の側に設けられ、前記回転部材を軸方向一端側に浮上支持する第1スラスト軸受部と、前記ハウジングの底部の側に設けられ、前記回転部材を軸方向一端側に浮上支持する第2スラスト軸受部とで構成されることを特徴とする動圧軸受装置。
【請求項2】
前記第1スラスト軸受部は、前記ハウジング又は前記軸受スリーブの軸方向一端側端面とこれに対向する前記回転部材のスラスト面との間に形成され、前記軸方向一端側端面及び前記スラスト面のうち一方に動圧発生手段が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の動圧軸受装置。
【請求項3】
前記第2スラスト軸受部は、前記回転部材の軸方向他端側端面とこれに対向する前記ハウジングの底部内面との間に形成され、前記軸方向他端側端面及び底部内面のうち一方に動圧発生手段が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の動圧軸受装置。
【請求項4】
前記ラジアル軸受部が、多円弧軸受で構成されていることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の動圧軸受装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れかに記載の動圧軸受装置を備えたディスク装置のスピンドルモータ。
【請求項1】
軸方向一端側に開口部を有すると共に、軸方向他端側に底部を有するハウジングと、該ハウジングの内部に設けられた軸受スリーブと、該軸受スリーブに対して相対回転する回転部材と、ラジアル軸受隙間に生じる潤滑流体の動圧作用で前記回転部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部と、スラスト軸受隙間に生じる潤滑流体の動圧作用で前記回転部材をスラスト方向に非接触支持するスラスト軸受部とを備えた動圧軸受装置において、
前記スラスト軸受部は、前記ハウジングの開口部の側に設けられ、前記回転部材を軸方向一端側に浮上支持する第1スラスト軸受部と、前記ハウジングの底部の側に設けられ、前記回転部材を軸方向一端側に浮上支持する第2スラスト軸受部とで構成されることを特徴とする動圧軸受装置。
【請求項2】
前記第1スラスト軸受部は、前記ハウジング又は前記軸受スリーブの軸方向一端側端面とこれに対向する前記回転部材のスラスト面との間に形成され、前記軸方向一端側端面及び前記スラスト面のうち一方に動圧発生手段が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の動圧軸受装置。
【請求項3】
前記第2スラスト軸受部は、前記回転部材の軸方向他端側端面とこれに対向する前記ハウジングの底部内面との間に形成され、前記軸方向他端側端面及び底部内面のうち一方に動圧発生手段が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の動圧軸受装置。
【請求項4】
前記ラジアル軸受部が、多円弧軸受で構成されていることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の動圧軸受装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れかに記載の動圧軸受装置を備えたディスク装置のスピンドルモータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−200580(P2006−200580A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−10723(P2005−10723)
【出願日】平成17年1月18日(2005.1.18)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年1月18日(2005.1.18)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
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