説明

動物性乾燥食品の製造方法

【課題】 動物性乾燥食品の製造において品質に異常を生じることなく乾燥歩留まりを向上させコストダウンを実現すること。
【解決手段】 糖類を含む溶液とともに減圧下に原料を処理し、糖類を原料内部に保持させてから乾燥処理を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品加工技術分野、より詳細には乾燥食品加工技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
乾燥食品製造において乾燥後の品質保持、乾燥歩留まり向上の目的で糖類を原料含浸させる技術[糖液浸漬法]は公知の技術である。[例えば非特許文献1、163ページの記載]
【0003】
また、糖類の原料食品内部への浸透を効率化するために糖液中に食品原料を浸漬し減圧[真空]処理と常圧状態とを反復する、いわゆる真空置換法も公知の技術である。[例えば特許文献1]
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】 特開昭52−3848号公報
【特許文献2】 特開2006−55044号公報
【特許文献3】 特開2009−50173号公報
【0005】
【非特許文献1】 「新しい食品加工技術I」、工業技術会、昭和61年2月15日、第5章、小谷明司著
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
乾燥において製品単位重量当たりコストは乾燥歩留まりにほぼ反比例する。このために乾燥歩留まりを向上させる努力が過去、種々実施されてきた。
【0007】
その一つとして原料段階で糖類を含浸させる糖液浸漬法、さらにそれを改良して減圧下と常圧下で反復浸漬する真空含浸法が開発されている。
【0008】
一方で、日本の経済的地位の上昇により国内原料の高騰と加工人件費の上昇が顕著になり、乾燥食品素材類も中国、東南アジア、インド産等の輸入品への切り替えが進んでいる。このため、国内の乾燥食品加工の多くは海外への生産シフト・輸入が進行している。国内の乾燥食品の大幅なコスト低減可能な技術開発が嘱望されている。
【0009】
植物性食品では原料水分が大きいために乾燥後の食品組織の骨格をなす固形成分[いわゆるボディ]は薄弱で、一定量以上の糖類を含浸させて乾燥すると外観異常となり却って品質悪化と見られて取引単価が減少する。しかし、動物性原料は本来、蛋白質を多く含み、水分含量も少ないので、かなりの糖類を含ませて乾燥しても外観上の劣化は目立たない。しかし、従来の真空含浸法についても糖の原料食品への浸透には限界がありコストの大幅削減には至っていない。
【0010】
ここにおいて、本発明者は従来の真空含浸法のさらなる改良を企図し、本発明に到達した。本発明によれば従来の真空含浸法の歩留まり到達域を超えて、外観上の問題を発生されることもなく、乾燥歩留まりの良好な動物性乾燥食品を製造することが可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明で言う食品の乾燥には、通風乾燥、熱風乾燥、冷風乾燥、真空[減圧]乾燥、凍結乾燥等を含む。動物性食品にはエビ、イカ、タコ、種々の貝柱等の軟体動物、マグロ、カツオ、サバ、ハマチ、ブリ、イワシ、アジ等の赤身魚類、タイ、ヒラメ、サヨリ、キス、オキギス、ハタハタ等の白身魚類、牛肉、豚肉、羊肉、猪肉等の獣肉類、鶏肉、鴨肉、アヒル肉、ウズラ肉等の鳥肉類等を含む。
【0012】
従来の含浸法で用いる糖には、澱粉類、寒天、カラギナン等の高分子量のもの、デキストリン、水飴等の中程度の分子量のもの、グルコース、ショ糖、乳糖、麦芽糖、マルトトリオース、マルトテトラオース、トレハロース、ラクチュロース等の低分子量のものが用いられるが、本発明も同様である。
【0013】
本発明は以上のような糖類を溶液として原料に加えて減圧下に水分を蒸発させて糖類を原料内部に吸着せしめて乾燥後の歩留まりを向上せんと企図するものである。
【0014】
変法として原料に糖類を固体状で振り掛けて実施することもできる。糖類が適量である場合には原料から水分が滲出し、原料表面で溶解して溶液を生成するので糖液を加えたと同じ効果が得られる。
【0015】
減圧は水が70℃以下程度で円滑に蒸発する程度でよく高度の減圧は必ずしも必要ではない。多量に原料を処理する場合には時間がかかるので、微生物の増殖を防止するために50〜70℃程度の温度帯を保持することが好ましい。ゲージ圧で0.05MPa以下程度あれば充分である。
【0016】
本発明には加熱され、適宜の大きさに切断された原料が適合する。加熱前あるいは加熱後に凍結されれば、凍結時の氷晶生成により組織内部が多孔質になり、本発明により適合するであろう。適宜の大きさとは短冊状、ささがき状、サイコロ状、乱切り状、チップ状等で厚さが数mm〜10mm程度のものを言うが、カップラーメン等に添付されている剥き小エビ等ではそのままの形状で本発明を適用できる。
【0017】
本発明では減圧下に原料内部から水蒸気が発生しながら糖液の濃縮が進み、水蒸気の発生とともに内部に包含、あるいは溶解していた気体は水蒸気ともに完全に追い出され、その空隙の後に濃縮された糖が逐次浸透する。さらに、濃縮終了後、減圧を破壊するときに大気圧により糖は原料内部に押し込まれ、堅固に保持されることになる。本発明により原料中に含浸させうる糖類他の添加物量の上限は、本発明者の種々の試作経験から、原料本来の固形分にほぼ等しい。これ以上になると外観、食感、即席乾燥食品では湯戻り復元性に異常が現れる傾向が見られた。
【0018】
乾燥製品に調味料等の添加処理が必要な場合には糖とともに添加してもよいし、糖処理後に添加してもよい。このような例として、調味処理[塩、砂糖、アミノ酸等、醤油、味噌、味醂、香辛料、合成あるいは天然甘味料、種々のエキス類等]、香料類、油脂類、色素類、酸化防止剤等があげられる。また、次項で示すリン酸塩類等の添加も実施してもよい。
【0019】
また、エビ、イカ、貝類等の軟体動物原料では加熱、乾燥等の工程での身縮みの防止、および乾燥品の湯戻り復元性と食感の改善のために重曹、リン酸の複アルカリ金属塩類、ポリリン酸やメタリン酸の複アルカリ金属塩類を含む溶液で原料を処理したり、ボイル液にこれらの塩類を添加することは業界で広く実施されており[例えば、特許文献2、同3]、本発明においても併用することは当然に許容される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば従来の方法よりも格段に向上した乾燥歩留まりで動物性乾燥食品を製造することができる。また、得られる製品は従来の方法で得られる製品と品質上の遜色はない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の実施の態様を具体的に例示するため以下に実施例を示す。なお、本発明の範囲はこれらの実施例の範囲のみに限定されるものではなく、前項での本発明の構成の説明、および別紙の特許請求の範囲の記載等を総合的に勘案して、本発明と技術思想・技術構成の枠組みを同じくするものを含むべきことは言うまでもない。
【実施例1】
【0022】
市販の冷凍無頭剥き海老[勾玉状でさしわたし17〜19mm、リン酸ソーダ塩添加との表示あり]を水道水を掛け流して急速解凍し水切りし992gを得た。水道水4lに重合リン酸ソーダ4gを添加し95℃〜85℃、1分間加熱し、ただちにザルに上げて水道水を掛け流して水冷し、ザルに上げて水切りし650gの原料を得た。
【0023】
原料130gをそのまま−35℃にて一晩凍結し、0.8〜0.2mmHgの真空下、初期棚温度60℃で2時間、中期棚温度80℃で12時間、後期棚温度60℃で6時間で凍結乾燥し18g[乾燥歩留まり13.9%]を得た。
【0024】
原料150gにグラニュー糖9g、食塩1.5gを加えて軽く掻き混ぜ、1時間室温に放置してから胡麻油4.5gを添加してよく掻き混ぜ、前項と同じく凍結乾燥し乾燥品27g[歩留まり率18.0%]を得た。
【0025】
原料150gにグラニュー糖9g、食塩1.5gを加えて軽く掻き混ぜ、水流アスピレーターに真空デシケーターを接続しゲージ圧0.025MPaの到達真空下に処理し、減圧を破って大気圧に戻す操作を3回反復してから胡麻油4.5gを添加してよく掻き混ぜてから前項と同じく凍結乾燥し乾燥品29.5g[歩留まり率19.6%]を得た。
【0026】
原料150gにグラニュー糖9g、食塩1.5gを加えて軽く掻き混ぜ、ガラス製のナス型コルベン内に収納し、水流アスピレーターにロータリーエバポレーターを接続しゲージ圧0.05MPaの到達真空下に70℃の水浴上で約60rpmで濃縮処理し、コルベン内の液状物がほぼなくなったが、未だ沸騰が観察される時点で真空を破り原料を取り出した。さらに、胡麻油4.5gを添加してよく掻き混ぜてから前項と同じく凍結乾燥し乾燥品38g[歩留まり率25.3%]を得た。本品を95℃の充分量の熱湯に投入し3分後に取り出した。外観、食感とも市販のカップラーメンに添付の乾燥エビと遜色はなかった。
【実施例2】
【0027】
市販の生のスルメイカの胴肉を5mm×15mmに短冊切りした。100gを0.1%リン酸3ナトリウムと0.1%ポリリン酸ナトリウムを含む80〜75℃の500mlの水道水で2分間加熱し、ただちにザルに上げ、水道水を流しかけて水冷してから水切りした一晩、家庭用冷蔵庫のフリーザー室で完全に凍結した。室温に放置して原料を解凍してから、トレハロース10g、食塩2g、砂糖2g、グルタミン酸ソーダ2g、カツオ節エキス0.2g、トコフェロール懸濁液製剤0.1gを水30gに熱時に溶解した液とともにガラス製コルベンに収容してロータリーエバポレーターと水流アスピレーターを用いて実施例と同様に濃縮〜予備凍結〜凍結乾燥し乾燥品40.2g[歩留まり率40.2%]の乾燥品を得た。実施例1と同様の湯戻り試験を実施し、湯戻り後の外観、食感に問題のないことを確認した。
【実施例3】
【0028】
市販のブロイラー胸肉を3mm厚、約2.5cmのチップ状にスライスし100gを調製した。2食塩水500mlで80〜75℃で3分間加熱し水道水を掛け流して水冷してから水切りした。一晩、家庭用冷蔵庫で凍結し室温下に解凍した。乳糖10g、食塩2g、砂糖5g、醤油5g、おろし生姜0.2g、胡椒0.1g、トコフェロール懸濁液製剤0.1gを水50mlに熱時に溶解したものとともにガラス製ナス型コルベンに収容して実施例1と同様に濃縮し、予備凍結〜凍結乾燥し乾燥品40.5g[歩留まり率40.5%]を得た。実施例1と同様に湯戻り試験を実施し外観、食感に問題のないことを確認した。
【実施例4】
【0029】
市販のブロイラー胸肉を3mm厚、約2.5cmのチップ状にスライスし100gを調製した。2食塩水500mlで80〜75℃で3分間加熱し水道水を掛け流して水冷してから水切りした。一晩、家庭用冷蔵庫で凍結し室温下に解凍した。乳糖10g、食塩2g、砂糖5g、醤油5g、ビーフエキス0.2g、おろし生姜0.3g、胡椒0.1g、トコフェロール懸濁液製剤0.1gを水50mlに熱時に溶解したものとともにガラス製ナス型コルベンに収容して実施例1と同様に濃縮した。トレイに一層に並べ、冷風除湿式乾燥機で約40℃、5時間で水分率21%にまで乾燥した。182gの褐色の乾し肉製品を得た。味、食感とも異常はなかった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は動物性乾燥食品の製造に関わり、乾燥珍味製品、即席麺や即席茶漬け等の乾燥即席食品分野への応用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱済の原料に糖類を固体、あるいは溶液として添加して減圧下に濃縮した後に乾燥することを特徴とする動物性乾燥食品の製造方法。
【請求項2】
糖類とともに調味料等の添加物を添加して減圧下に濃縮した後に乾燥することを特徴とする特許請求の範囲1に記載の動物性乾燥食品の製造方法。
【請求項3】
減圧下の濃縮がゲージ圧0.05MPa以下、50〜70℃で実施することを特徴とする特許請求の範囲1,2のいずれか1項に記載の動物性乾燥食品の製造方法。

【公開番号】特開2012−75436(P2012−75436A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239038(P2010−239038)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(598115085)
【Fターム(参考)】