説明

動的に較正されるセンサデータと、ナビゲーションシステム内の繰り返し拡張カルマンフィルタとを使用する、ジャイロコンパスの整合用のシステム及び方法

【課題】動的に校正されるセンサデータと、ナビゲーションシステム内の繰り返し拡張カルマンフィルタとを使用して、ジャイロコンパスを整合させる。
【解決手段】ナビゲーションシステムは、慣性測定装置及び位置決め装置によって提供される第1及び第2のデータセットを受信するように構成される処理装置を備え、処理装置は、受信された第1のデータセットを動的に較正するように構成され、カルマンフィルタを備え、最初に動的に較正された第1のデータセット、第2のデータセット、及びカルマンフィルタを使用してジャイロコンパスの整合を生成するようにさらに構成される。本方法は、複数のセンサからセンサデータを受信すること、センサデータの少なくとも一部を動的に較正すること、動的に較正されたセンサデータに基づいてジャイロコンパスの整合情報を生成することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動的に較正されるセンサデータと、ナビゲーションシステム内の繰り返し拡張カルマンフィルタとを使用する、ジャイロコンパスの整合用のシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナビゲーションシステムは、非線形動的システムの一例である。ナビゲーションシステムの開発に関連付けられる問題の1つは、動的システムの様々な状態を推定することにある。そのような推定は通常、ナビゲーションシステムのソフトウェアを利用する。そのような推定を行うために、拡張カルマンフィルタ(EKF)がナビゲーションシステムソフトウェア内で使用されてきた。幾つかのナビゲーションシステムにおいて、EKFは、非線形システムに対するテイラー級数展開、及び観測方程式を適用し、1次項を利用して既知の線形カルマンフィルタ理論を適用し、ここで、確率密度関数(PDF)はガウス形であると推定される。
【0003】
しかしながら、実際には、EKFは幾つかの制限を示してきた。そのような制限の1つは、小さい誤差しかEKFへ入力することができないということである。さもなければ、非線形誤差挙動がある場合、共分散行列の更新において、1次の近似値が原因で、偏った解及び矛盾が生じるおそれがあり、これによってフィルタが不安定になるおそれがある。EKFの2次バージョンが存在するが、実施及び計算がより複雑になるため、使用が不可能になる傾向がある。
【0004】
1次の手法を改善する一般的な技法は繰り返し(iterated)EKFであり、これは、名目上の状態推定を再定義すると共に測定式を再び線形化することによって、現時点での観察においてEKF式を効果的に反復する。繰り返しEKFは、特に測定関数において著しい非線形性がある場合において、基本のEKFよりも良好な性能を提供することができる。
【0005】
近年、低コストのMEMSベースのセンサが利用可能になり、慣性ナビゲーションシステム(INS)に利用することができるようになっている。そのようなINSの用途は、航空機のナビゲーション、位置の決定及び案内を含む。大抵のナビゲーションシステムはGPS範囲測定装置及びINSを含んでおり、INSは、角速度、速度及び方位角測定に関するデータを提供し、これらのデータを組み合わせて使用して移動体(例えば、航空機)の動きの測定が行われる。ナビゲーションシステムは範囲誤差推定装置も含む。この誤差推定装置の出力に基づいて、移動体の位置を決定することができる。誤差推定装置は、時にはカルマンフィルタ及び平均化プロセスを使用して実施される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、様々な測定装置の出力はカルマンフィルタ等を使用して補正されるため、移動体の位置を、高精度のセンサを使用することなく比較的高いレベルの精度で推定することができる。しかしながら、高ノイズ、非線形効果、及び精度が低い測定という、低コストのMEMSセンサに関連付けられる性質に起因して、従来のEKF推定は時間の経過と共に劣化して信頼性が失われることになる。したがって、INSの精度は、特にGPSデータが利用不可能である場合には制限されたものになる。ほとんどの非線形カルマンフィルタを、推定誤差を改善するために使用することができるが、そのような実施は困難である。より詳しく述べると、そのような実施ではチューニングが困難であり、加えて、非線形効果は或る特定の状況においてのみ出現するので、推定方式を切り換えるのが困難である。
【0007】
MEMS装置ベースの慣性測定ユニット(IMU)のような安価なIMUを使用する現在のナビゲーションシステムでは、大きい「ターンオン」バイアス及び他の関連する誤差に起因してジャイロコンパスの整合も困難である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、航空機用のナビゲーションシステムであって、航空機の動作に関するセンサデータの第1のセットを提供するように構成される慣性測定装置と、航空機の位置に関するデータの第2のセットを提供するように構成される位置決めユニットとを備える、ナビゲーションシステムを含む。一例の実施の形態では、ナビゲーションシステムは、慣性測定装置及び位置決め装置によって提供されるデータセットを受信するように構成される処理装置を備え、当該処理装置は、受信された第1のデータセットを動的に較正するように構成され、カルマンフィルタを備え、最初に動的に較正された第1のデータセット、第2のデータセット、及びカルマンフィルタを使用してジャイロコンパスの整合を生成するようにさらに構成される。
【0009】
本発明のさらなる態様によれば、慣性測定装置は、マイクロ電気機械システム(MEMS)ベースの加速度計及びジャイロスコープを備える。
本発明の他の態様によれば、処理装置は、センサデータの第1のセットをリアルタイムで平均化するように構成され、動的に較正されたセンサデータの第1のセットに基づいて機首方位(heading)を推定するように構成され、推定された機首方位を使用してジャイロコンパスの整合を生成するように構成される。
【0010】
本発明のさらに追加の態様によれば、処理装置は、推定された機首方位の少なくとも一部を使用して変換行列を初期化するように構成され、初期化された変換行列を使用してカルマンフィルタを初期化するようにさらに構成される。
【0011】
本発明のさらに他の態様によれば、処理装置は、リアルタイムで平均化されたセンサデータの第1のセットを使用してセンサ誤差を推定するように構成され、既知の重力加速度値及び地球自転速度値を用いて、推定されたセンサ誤差を補正して、動的に較正されたセンサデータの第1のセットを生成するようにさらに構成される。
【0012】
さらに他の態様によれば、本発明は、ジャイロコンパスの整合用の方法を含み、当該方法は、複数のセンサからセンサデータを受信するステップ、センサデータの少なくとも一部を動的に較正するステップ、及び、動的に較正されたセンサデータに基づいてジャイロコンパスの整合情報を生成するステップを含む。
【0013】
本発明のさらに追加の態様によれば、本方法は、生成されたジャイロコンパスの整合情報に基づいてナビゲーション出力を表示するステップを含む。
本発明のさらに他の態様によれば、本方法は、動的に較正されたセンサデータに基づいて機首方位を推定するステップ、推定された機首方位の少なくとも一部を使用して変換行列を初期化するステップ、及び、初期化された変換行列を使用して繰り返し拡張カルマンフィルタを初期化するステップを含む。
【0014】
上記の概要から容易に理解されるように、本発明は、動的に較正されるセンサデータを使用する、ジャイロコンパスの整合用のシステム及び方法を提供する。
本発明の好ましい実施形態及び代替の実施形態は、添付の図面を参照して以下において詳細に説明される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、処理装置51を備えるナビゲーションシステム50のブロック図である。当該処理装置51は、上述したような非線形誤差の処理に関連付けられる問題に少なくとも部分的に対処するために、カルマンフィルタの複数の実施間で動的に切り換えを行うように構成されるナビゲーションプロセッサ52を備える。ナビゲーションシステム50は、航空機又は宇宙機のような移動体(図示せず)において使用される。一例では、カルマンフィルタの複数の実施間での動的な切り換えは、ジャイロスコープのコンパスの整合時間に関連付けられる問題に対処するために利用される。ナビゲーションシステムの実施に特有なことであるが、この動的な切り換えによって、ナビゲーションプロセッサ52は、位置推定時に、受信した慣性データにおける非線形効果に対処すると共に、ナビゲーションシステム50のジャイロスコープのコンパスの整合時間を短縮することができるようになる。他の例では、ジャイロコンパスの整合時間は、図2〜図5を参照してさらに説明される、加速度計及びジャイロスコープのデータの動的較正、動的に較正されたデータに基づく機首方位の推定、推定された機首方位情報を使用する変換行列の初期化、及びその変換行列を用いる繰り返し拡張カルマンフィルタ(IEKF)の初期化を使用することによって短縮される。
【0016】
さらに図1を参照すると、ナビゲーションシステム50は、例えばMEMSベースのジャイロスコープ及び加速度計を有する慣性センサ60を有する慣性測定装置を備える。一例では、ナビゲーションシステム50はまた、気圧高度計62、GPS受信機位置決めユニット64、真の対気速度(true airspeed、TAS)指示器66、及び磁力計67のような他のセンサも備える。幾つかの例では、ナビゲーションシステム50は、他のタイプのセンサをより少なく又はより多く含むこともできる。ナビゲーションシステム50は、重力入力68及び地球自転速度入力69も備える。重力入力68は、一例において、処理装置51がアクセスすることができる、デジタルに記憶されている世界重力マップである。
【0017】
静止モードの一例では、慣性センサ60内に含まれるジャイロスコープは地球自転速度の成分(x、y及びz)を記録し、慣性センサ60内に含まれる加速度計は重力の成分(x、y及びz)を記録する。別の実施例では、重力入力68において使用される重力の値は、世界測地系(World Geodetic System、WGS)、改正WGS84のような標準の座標系に関連付けられる重力情報を使用して求められる。地球自転速度は、ナビゲーションシステム50が地球の表面上のどこに位置するかを問わず一定である。一実施例では、地球自転速度入力69及び重力入力68は較正のために使用されて、慣性センサ60の「バイアス」又は「スケール係数」が求められる。そして、処理装置51は、慣性センサ60、重力入力68及び地球自転速度入力69からの情報に基づいて、補償されたセンサデータを生成することができる。その後、ジャイロスコープ及び加速度計の補償されたセンサデータの成分(x、y及びz)は処理装置51によって使用され、機首方位が生成される。
【0018】
処理装置51は、リストされた感知装置からのデータを処理すると共に、組み合わされたセンサデータ72をナビゲーションプロセッサ52に出力する入力処理ユニット70も備える。ナビゲーションプロセッサ52は、繰り返し拡張カルマンフィルタ(IEKF)74を利用して、組み合わされたセンサデータ72から誤差を除去し、正確なナビゲーション出力データ78をナビゲーション表示装置80に提供すると共に入力処理ユニット70へ戻す。一例の実施形態では、IEKF74は、ローカルモード又はグローバルモードで選択的に動作することができる。カルマンフィルタ74はまた、慣性センサ補正値82を入力処理ユニット70へ戻す。入力処理装置70はまた、慣性センサ60からのデータを処理して、組み合わされたセンサデータ72のセットをナビゲーションプロセッサ52へ出力する。しかし、他の実施例では、センサデータは、ナビゲーションプロセッサ52に出力される前に組み合わされない。一実施例では、ナビゲーションプロセッサ52は、ジャイロコンパスの整合が実行されているときに、グローバルな繰り返し拡張カルマンフィルタ(G−IEKF)モードにおいてIEKF74を使用する。
【0019】
一実施形態では、カルマンフィルタ74は、少なくとも位置誤差状態及び速度誤差状態を利用して初期化され、推定技法を組み込んでおり、この推定技法によってナビゲーションシステム誤差の推定値が提供される。この推定技術は、センサ60、62、64、66及び67のうちの1つ又は複数から受信した現在の測定値の精度を、センサ60、62、64、66及び67に関連付けられる誤差の以前の推定値の精度に関連させるカルマンゲイン行列の計算を含む。
【0020】
一実施形態では、ナビゲーションシステム50によって受信されるホイールセンサ信号84は、ナビゲーションシステム50を組み込む航空機(図示せず)が地上にあるか否かを示す。図示される実施形態では、ホイールセンサ信号84はカルマンフィルタ74に提供される。航空機が地上にあることを示す指示は静止状態と呼ばれることがあり、ジャイロコンパスの整合は通常、航空機が静止しているときに実行される。特定の一実施形態では、カルマンフィルタ74は、ホイールセンサ信号84の状態を利用して、センサ60、62、64、66及び67の時間更新誤差状態及び測定更新誤差状態の両方の繰り返し(グローバル繰り返し拡張カルマンフィルタ(G−IEKF)モード)と、センサ60、62、64、66及び67の測定更新誤差状態のみの繰り返し(繰り返し拡張カルマンフィルタ(IEKF)モード)との間で切り換えを行なう。ホイールセンサ信号84に関して記載されているが、センサからの他の信号及びデータの組合せを利用して、カルマンフィルタ74を、センサ60、62、64、66及び67の時間更新誤差状態及び測定更新誤差状態の両方の繰り返しと、センサ60、62、64、66及び67の測定更新誤差状態のみの繰り返しとの間で切り換えることができる。
【0021】
上述したように、ナビゲーションシステム50は高精度のリアルタイムのシステムであり、カルマンフィルタ(IEKF)74を組み込んである。本明細書でさらに説明するように、IEKF74は、1回の繰り返しを実行する基本の線形カルマンフィルタと、数回の繰り返しを実行する非線形カルマンフィルタとの両方として作動するように構成される。1回の繰り返しを行なうか又は複数回の繰り返しを行なうかの決定は、例えば、入力処理ユニット70で受信する1つ又は複数の状態に基づく。この決定は、剰余、共分散行列値、誤差状態間の差、又は入力処理ユニット70で受信する1つ又は複数の信号に基づくこともできる。ナビゲーションの間、センサ60、62、64、66及び67から受信するセンサデータは、線形及び非線形の両方の傾向を示す特性と共に変化し続ける。システム50は、非線形の傾向を動的に特徴づけると共に、収束情報に基づいてカルマンフィルタ74を適合させるように構成される。一実施例では、システム50はまた、静止状態と非静止状態との間でモード切り換えを行って、カルマンフィルタ74を、G−IEKF動作モードとIEKF動作モードとに適合させるように構成される。
【0022】
一例では、処理装置51は、慣性測定装置センサ60からセンサデータの第1のセットを受信すると共に、GPS受信機位置決めユニット64からデータの第2のセットを受信するように構成される。処理装置51は、加速度計及びジャイロスコープに基づくMEMSから受信される測定データのような、慣性測定装置センサ60によって提供されるセンサデータの第1のセットを動的に較正するように構成される。処理装置51は、最初に動的に較正された第1のデータセット、第2のデータセット、及びIEKF74を使用してジャイロコンパスの整合を生成するようにさらに構成される。
【0023】
一例では、ジャイロコンパスの整合のプロセスは、ナビゲーションシステム50を備える移動体(図示せず)が静止している間に実行される。機首方位は、粗い整合モードにおいて或る範囲(使用される慣性センサ60に応じる数度)内で特定される。その後、精密モードが使用されて、機首方位の精度をさらに向上させる。精度は、高価なIMUで概ね0.01度内に確定される。さらなる一実施例では、DCALの粗モード及び精密モードは、MEMSベースのIMUのような安価なIMUで使用することができる。ジャイロコンパスの整合は概して、(1)DCAL粗モード、(2)IEKF粗モード、及び(3)IEKF精密モードの順番で実行される。一例では、DCAL粗モードはリアルタイムの較正を含む。さらなる一実施例では、DCAL粗モードはまた、DCAL支援センサデータを用いて機首方位情報を見つけるために、軌道生成(TGEN)エンジン又は同様のタイプのエンジンを反転すること(reversing)も含む。概して、TGENエンジンは、静止状態を含む目標軌道に従って理想的なセンサデータを生成するために使用される。別の実施例では、機首方位は、EKF精密モードが直ぐ後に続くDCAL粗モードを使用して特定される。さらなる別の例では、機首方位は、EKF粗モード及び後続のEKF精密モードを使用して特定される。機首方位特定のために使用されるモードの組み合わせは、異なる用途の必要性に適合するために変更することができる。
【0024】
一例では、処理装置51は、センサデータの第1のセットをリアルタイムで平均化し、動的に較正されたセンサデータの第1のセットに基づいて機首方位を推定し、推定された機首方位の少なくとも一部を使用して機体−局所変換行列(body to local conversion matrix)を初期化し、初期化された機体−局所変換行列を使用してIEKF74を初期化するように構成される。一実施例では、機体座標系は、ナビゲーションシステム50が含まれる航空機(図示せず)に関連して定義され(x−機首、y−翼、z−下方)、一方局所的座標系は、局所的方向で定義される(x−北、y−東、z−下方)。変換行列は、単に平均化された加速度計データではなく、推定された機首方位情報を使用して初期化される。さらなる一実施例では、処理装置51は、リアルタイムで平均化されたセンサデータの第1のセットを使用してセンサ誤差を推定するようにさらに構成され、既知の重力加速度入力68及び地球自転速度入力69を用いて、推定されたセンサ誤差を補正するようにさらに構成される。一実施例では、ナビゲーション表示装置80は、生成されたジャイロコンパスの整合を使用してナビゲーション情報を表示するように構成される。
【0025】
カルマンフィルタ74を利用することによって、様々な誤差状態に関連付けられる非線形効果が低減され、非線形カルマンフィルタ74を、収束状態に基づいて動的にオン又はオフにすることができる。別な言い方をすれば、システム50内のカルマンフィルタ74は、システム50が受信するセンサ挙動又は他の信号に基づいて、グローバル繰り返し拡張カルマンフィルタとして又は繰り返し拡張カルマンフィルタとして、適合して繰り返しを実行する。1つのそのようなセンサ挙動の分析は、現在の誤差状態ベクトルを前の誤差状態ベクトルと比較することを含む。より詳細には、一実施形態では、第1の誤差状態繰り返し及び第2の誤差状態繰り返しからのジャイロスコープのデータ値及び誤差値の比較が処理装置51によって利用され、カルマンフィルタ74を動作させるか否か、及びどちらのモードで動作させるかが決定される。機首方位誤差は、カルマンフィルタ74の複数回の繰り返しによって小さくなる。複数の繰り返し間で値を比較することによって、処理装置51は、非線形効果が所定の許容可能なレベルに低減されるか否かを判断する。そのような分析は、センサ挙動が誤差の大きさの関数として線形であるか又は非線形であるかに関する判定を含み、また、カルマンフィルタ74の繰り返し時間でのジャイロスコープの非線形性の較正をさらに含むことができる。そのような実施形態は、システム50によって行われる位置決定の精度を改善するものと考えられる。
【0026】
繰り返し拡張カルマンフィルタの基本式は以下の通りである:
時間更新推定(グローバル):
状態推定伝播
【0027】
【数1】

【0028】
誤差共分散伝播
【0029】
【数2】

【0030】
測定更新(グローバル+ローカル):
状態推定の初期化
【0031】
【数3】

【0032】
状態推定値更新
【0033】
【数4】

【0034】
カルマンゲイン更新
【0035】
【数5】

【0036】
誤差共分散更新
【0037】
【数6】

【0038】
上記において、xは状態ベクトルであり、Fは状態遷移行列であり、Pは共分散行列であり、Qは動的攪乱ノイズの共分散であり、Rは測定ノイズの共分散であり、Hは測定感度行列であり、Kはカルマンゲインである。指数「i」は繰り返しに関して使用され、kは時間関連の指数である。上記式(1)〜(6)から判断することができるように、ローカル繰り返し拡張カルマンフィルタの実施では、繰り返し中に測定式(4)〜(6)のみが更新される。
【0039】
しかしながら、グローバル繰り返し拡張カルマンフィルタの実施では、繰り返し中に時間式及び測定式の両方が更新される。状態推定値が逆伝播されることから、一実施形態では、ジャイロコンパスの整合のために、グローバル繰り返し拡張カルマンフィルタの実施が利用される。グローバル繰り返し拡張カルマンフィルタの実施の基本式は、ローカル拡張カルマンフィルタの実施の基本式と同様であるが、グローバル繰り返しに関しては、時間推定式(1)及び(2)と測定式(4)〜(6)との両方が更新される。グローバル繰り返し中に時間ステップを「仮想時間」として維持している間、静止状態の場合に関しては測定数を低減することができ、従来の拡張カルマンフィルタ手法と比較して整合時間が大幅に短くなる。収束が達成されると、繰り返しが停止される。
【0040】
繰り返し中、誤差状態を判定するのに利用される測定式における剰余は、誤差を低減するために何が必要とされるかに関する指示を提供する。加えて、カルマンフィルタ74に関連付けられるカルマンゲインは、次の誤差状態判定へのステップの大きさを決定するときに、因数分解される。特に、一実施例では、カルマンフィルタ74は、時間更新式及び測定更新式の両方を反復することによって、ジャイロスコープのコンパスの整合時間を短縮する。そのような繰り返しは、基本の拡張カルマンフィルタを利用するときの短い時間ステップの使用と実質的に等しい。様々な安価なセンサからのデータ、例えばマイクロ電気機械装置(MEMS)ベースの慣性システムからのデータに存在するノイズレベルに起因して、カルマンフィルタ74のような拡張カルマンフィルタの時間ステップは通常、概ね1秒に選択される。しかしながら、幾つかの実施例ではより間隔が密な時間ステップが使用される。そのような時間ステップを使用して、較正中にセンサデータの非線形性を測定することができる。一実施例では、較正は、図3を参照してより完全に説明されるように動的に実行される。
【0041】
非線形性を測定するための別の基準は、現在の誤差状態ベクトルと前の誤差状態ベクトルとの比較である。例えば、繰り返し拡張カルマンフィルタの第1の繰り返しは基本拡張カルマンフィルタと同じである。この第1の繰り返しによって、受信したセンサデータの非線形効果が除去されない場合は、フィルタがさらに繰り返しを実行する。一実施形態では、図1を再び参照すると、リアルタイムナビゲーションシステム50が、2つのレートプロセッサ(図示せず)を備えて構成されて、これらの繰り返しに対応する。一方のレートプロセッサは、上記のカルマンフィルタの実施のために利用され、比較的低速度で動作し、一方、他方のレートプロセッサは、センサデータの更新に利用される高レートプロセッサである。カルマンフィルタの実施内では、一実施形態において、forループが使用されて繰り返しが実行される。繰り返し中、センサデータの測定値を除いて、誤差状態ベクトル及び動的共分散を含む他のナビゲーションパラメータが更新される。
【0042】
図2は、図1に示されるシステム50に従ってナビゲーション出力を生成する方法100のフローチャートである。まず、ブロック110において、センサデータの動的較正(DCAL)がリアルタイムで実行される。一実施例では、これは、慣性測定装置センサ60からのジャイロスコープ及び加速度計のデータに対して入力処理ユニット70が実行する。別の実施例では、GPS受信機位置決め装置64からのデータも較正される。DCALは、図3を参照してより詳細に説明される。次に、ブロック120において、較正されたセンサデータを使用して機首方位が推定される。機首方位の推定は、図4を参照してより詳細に説明される。その後、ブロック130において、推定された機首方位を使用して、機体−局所変換行列が初期化される。変換行列の初期化は、図5を参照してより詳細に説明される。次に、ブロック140において、IEKF74のような繰り返しカルマンフィルタ(IEKF)の粗モードが、機体−局所変換行列を使用して初期化され、IEKF74は精密モードに切り換えられる。その後、ブロック150において、初期化されたIEKF74を使用してナビゲーション処理が実行される。その後、ブロック160において、ナビゲーション処理に基づいてナビゲーション出力が生成される。一実施例では、ナビゲーション処理は、ナビゲーションプロセッサ52によって実行され、ナビゲーション表示装置80に出力される。
【0043】
図3は、図2に示されるブロック110のさらなる詳細を示すフローチャートである。まず、ブロック200において、情報内のノイズを低減するために、加速度計及びジャイロスコープのセンサデータがリアルタイムで平均化される。一実施例では、平均化は、処理装置51によって2段階で実行される。第1の段階では、例えば概ね1秒間で、300Hz、600Hz、又は1200Hzのような高データレートを使用してデータが平均化される。第2の段階では、ナビゲーションシステム50において使用されるセンサに応じて変化するより長い整合期間にわたってデータが平均化される。整合期間は、例えば概ね30秒〜概ね300秒に及ぶことができる。次に、ブロック210において、ジャイロスコープ及び加速度計の誤差が、記録されたセンサデータと、例えば重力入力68及び地球自転速度入力69から受信される値のような重力値及び地球自転速度値とを比較することによって推定される。その後、ブロック220において、推定されたジャイロスコープ及び加速度計の誤差が、既知の重力値及び地球自転速度値によって補正され、補償されたセンサデータが生成する。例えば、記録されたセンサデータが、重力に関してわずか0.5gであると求められた場合、記録されたデータは2の補償係数で乗算され、補償された重力値が生成される。次に、ブロック230において、補償されたセンサデータが較正されたセンサデータとして出力される。
【0044】
図4は、図2に示されるブロック120のさらなる詳細を示すフローチャートである。まず、ブロック260において、ジャイロスコープデータの成分較正が実行される。地球自転速度及び緯度は静止状態の場合一定であるため、z成分及び
【0045】
【数7】

【0046】
成分は別個に較正することができる。次に、ブロック270において、地球自転速度値及び緯度値を使用して標準成分が計算される。一実施例では、標準成分は、式
【0047】
【数8】

【0048】
を使用して計算され、地球自転速度×cos(緯度)によって較正され、ここで、地球自転速度は地球の回転速度であり、z成分は、地球自転速度×sin(緯度)によって較正される。理想的なジャイロスコープセンサの場合、ジャイロスコープ値のz成分は、地球自転速度×sin(緯度)である。実際のジャイロスコープからのz成分と、地球自転速度×sin(緯度)とを比較することによって、「バイアス」又はスケール「係数」を求めることができる。その後、より正確な値を生成するために、実際のセンサデータを補償することができる。次に、ブロック280において、成分較正されたセンサデータを使用して機首方位が推定される。一実施例では、機首方位は、式
【0049】
【数9】

【0050】
を使用して推定される。式中、Wは較正後の測定された地球自転速度のy成分であり、Wは地球の回転の角速度であり、λはナビゲーションシステム50が位置する緯度値である。
【0051】
図5は、図2に示されるブロック130のさらなる詳細を示すフローチャートである。まず、ブロック300において、1次の近似値を使用して平準化(leveling)を実行し、機体−局所変換行列の第3の列を求める。一実施例では、平準化は、重力入力68からの重力データを使用して較正される、慣性センサ60からの加速度計データを使用してロール及びピッチの角度を見つけるプロセスとして定義され、一方、整合は、機体座標系と局所的座標系との間で機首方位又はヨー角を特定するプロセスとして定義される。一実施例では、以下の式がこのステップにおいて使用され、式中、ψは回転ベクトルである:
【0052】
【数10】

【0053】
次に、ブロック310において、方位成分が使用されて、機体−局所変換行列内のさらなる値が求められる。一実施例では、以下の式がこのステップにおいて使用される:
【0054】
【数11】

【0055】
その後、ブロック320において、機体−局所変換行列が初期化される。一実施例では、以下の式が使用される:
【0056】
【数12】

【0057】
ロール及びピッチが式7〜式9によって求められ、且つ、ヨー(機首方位)が、図4を参照して説明される手順に従って求められた後、変換行列が式7〜式14に従って求められる。一実施例では、静止状態の場合には有効な仮定である、小さな平準化角度(ロール及びピッチの角度)の仮定が使用される。
【0058】
上述したように、本発明の好ましい実施形態を例示及び説明してきたが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく多くの変更を行うことができる。例えば、緯度及び経度のような位置情報を、ジャイロコンパスの整合中にGPS装置から受信するのではなく、全地球測位システムに頼らない位置決め装置、パイロット、又は別のユーザから受信することができる。また、ジャイロコンパスの整合のために、DCAL粗モード(「リアルタイム較正」)と、「軌道生成エンジン」の反転(inverse)、IEKF粗モード、及びIEKF精密モードとの様々な組み合わせを使用することもできる。本システム及び本方法は、安価なIMUを使用するナビゲーションシステムに加えて高価なIMUを使用するナビゲーションシステムのジャイロコンパス整合時間を短縮するために使用することもできる。したがって、本発明の範囲は、好ましい実施形態の開示によって限定されない。代わりに、本発明は、添付の特許請求の範囲を参照することによってのみ規定されるように意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】多数の動作モードにおいて位置解決を提供するように動作可能な繰り返しカルマンフィルタを組み込む多入力ナビゲーションシステムのブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に従ってナビゲーション出力を生成する方法のフローチャートである。
【図3】本発明の一実施形態に従ってナビゲーション出力を生成する方法のフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態に従ってナビゲーション出力を生成する方法のフローチャートである。
【図5】本発明の一実施形態に従ってナビゲーション出力を生成する方法のフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体用のナビゲーションシステムであって、
前記移動体の動作に関するセンサデータの第1のセットを提供するように構成される慣性測定装置と、
前記移動体の位置に関するデータの第2のセットを提供するように構成される位置決めユニットと、
前記第1のデータセット及び前記第2のデータセットを受信するように構成される処理装置であって、受信された前記第1のデータセットを動的に較正するように構成され、カルマンフィルタを備え、最初に動的に較正された前記第1のデータセット、前記第2のデータセット、及び前記カルマンフィルタを使用してジャイロコンパスの整合を生成するようにさらに構成される、処理装置と、
を備え、
前記慣性測定装置は、MEMSベースの加速度計及びジャイロスコープを備え、前記位置決めユニットはGPS装置を備える、ナビゲーションシステム。
【請求項2】
前記処理装置は、前記センサデータの第1のセットをリアルタイムで平均化するように構成され、動的に較正された前記センサデータの第1のセットに基づいて機首方位を推定するように構成され、推定された該機首方位を使用して前記ジャイロコンパスの整合を生成するようにさらに構成され、推定された前記機首方位の少なくとも一部を使用して変換行列を初期化するように構成され、初期化された該変換行列を使用して前記カルマンフィルタを初期化するようにさらに構成され、リアルタイムで平均化された前記センサデータの第1のセットを使用してセンサ誤差を推定するように構成され、既知の重力加速度値及び地球自転速度値を用いて、推定された前記誤差を補正して、動的に較正された前記センサデータの第1のセットを生成するようにさらに構成される、請求項1に記載のナビゲーションシステム。
【請求項3】
ジャイロコンパスの整合用の方法であって、
複数のセンサからセンサデータを受信すること、
前記センサデータの少なくとも一部を動的に較正すること、
動的に較正された前記センサデータに基づいてジャイロコンパスの整合情報を生成すること、及び
生成された前記ジャイロコンパスの整合情報に基づいてナビゲーション出力を表示すること、
を含み、
前記ジャイロコンパスの整合情報を生成することは、動的に較正された前記センサデータに基づいて機首方位を推定することを含み、推定された該機首方位の少なくとも一部を使用して変換行列を初期化することをさらに含み、前記動的に較正することは、リアルタイムの平均化を使用して前記センサデータを処理することであって、ノイズが低減された平均化されたセンサデータを生成する、処理することを含み、平均化された該センサデータを使用してセンサ誤差を推定すること、並びに、既知の重力加速度値及び地球自転速度値を用いて、推定された前記センサ誤差を補正することをさらに含み、前記機首方位を推定することは、ジャイロスコープの成分データを較正すること、既知の地球自転速度値に基づいて標準成分を計算すること、並びに、較正された前記ジャイロスコープの成分データ、前記標準成分、及び動的に較正された前記センサデータを使用して推定された機首方位を生成することを含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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