動電学的流体システム
たとえばラボオンチップシステム(200)において液体流を制御するための動電学的流体システム(100、100’、100’’)であって、第1および第2の電極(10、10’)を具備し、前記第1および第2の電極は、ポリマーをベースにしたまたは酸化物をベースにした、導電性の電気化学的に活性な電極材料を含み、前記電極材料は前記動電学的流体システム(100)において使用されている際に電気化学的反応を受けるように適応されている動電学的流体システム(100、100’、100’’)。
【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
技術分野
本発明は、第1および第2の電極(10、10’)を具備するたとえばラボオンチップシステム(200)における液体流を制御するための動電流体システム(100、100’、100’’)と、このような電極を具備する動電流体システムとに関する。動電流体システムは、バイオテクノロジー、分析化学などでの用途のための微小流体システムにおける、液体流および/または粒子流を制御するように構成されている。
【0002】
発明の背景
微小流体ラボオンチップ(LOC)システムは、大規模な化学/生物学研究室を携帯型診断ツールに取り換えて、精巧な診断技術を患者の家庭および第三世界の国々へともたらすことによって、医療産業を根本から変え始めている。LOCシステムの、フェムトリットルからピコリットルまでの範囲内の体積の微小なサンプルを扱いかつ分析する能力と、数百の試料を同時に試験する能力は、創薬および遠隔医療などの領域に対して非常に大きな可能性を広げる。小さな、たとえばクレジットカードサイズ以下の内蔵式のLOCデバイスは、複雑な医学診断の実行を容易にすることが期待されている。
【0003】
精巧なLOCデバイスの1つの重要な部材は微小流体ポンプであり、これは液体サンプルを、分析を行うのに必要とされる種々のミキサ、セパレータ、リアクタおよび検出器の間で移動させる。製造が容易で小型の動電学的ポンプ、たとえば電気浸透(EO)ポンプは、LCOシステムにおける微小流体ポンプとしてのそれらの使用にとって有利である。
【0004】
しかしながら、動電学的ポンプは通常、電場が電解質にかけられたときの電解質中での電気化学的反応のせいで、気泡;たとえば水素ガス、酸素ガス、過酸化水素および/またはプロトン(酸)または水酸化物イオン(塩基)をポンプの電極に生じさせる。このような電気化学的反応は望ましくない。ガスは、生じた際、液体試料、たとえば水性試料と電極との間の電気的接続を迅速に破壊することがあり、これは動電学的ポンプ内での液体試料の可動性に影響を与える。さらに、生じる酸、塩基および/または過酸化水素は、調べようとする敏感な試料物質、たとえばタンパク質を妨害または破壊することがある。
【0005】
今日の動電学的ポンプに伴う課題は、電解質中で電場をかけてそれを維持するために使用される金属電極に起因する。電解質中の電場の維持には、電気化学的反応がポンプ電極の位置にある電解質中でまたはそれに接して起こって、電流が電子電荷キャリアからイオン電荷キャリアに効果的に変換されることまたはその逆が必要となる。これらの電気化学的プロセスではしばしば、電解質それ自体、たとえば水が消費され、電解質が水である場合にはH+、OH-、H2O2、H2ガスおよびO2ガスなどの電気化学的副生物が生じ、この副生物は、輸送または分離されている敏感な生物学的または化学的試料物質に対して有害になり得る。微小流体デバイスの具体的事例では、ポンプ電極でのH2またはO2ガスの生成は気泡を生み出すことがあり、この気泡により最終的には液体のポンプ電極への到達が妨害され、微小流体デバイスが使い物にならなくなる可能性がある。さらに、H+、OH-の形成は、ポンプ電極の位置での電解質のpHを変えることがあり、これは、調べようとする試料物質に影響を与え得る。さらに、電気化学的反応により、使用する試薬または分析物が消費されてしまう可能性があり、そうでない場合は、試薬または検体を使用する環境が乱される可能性がある。
【0006】
今日のLOCデバイス用の最新技術は、上述の課題を解決するための3つの代替案を提供する。
【0007】
提案される第1の解決策は外部ポンプを使用する。しかしながら、外部ポンプはしばしば、LOC自体よりかなり大きく、これにより、内蔵式のデバイスを不可能にする。
【0008】
提案される第2の解決法では、機械式内部ポンプ、たとえば電気機械式、気圧式、または水圧式ポンプが使用される。しかしながら、このような機械式内部ポンプはしばしば、製造に非常に費用がかかる。
【0009】
提案される第3の解決法によれば、電気浸透式内部ポンプが使用される。電気浸透式内部ポンプの利点は、該ポンプが可動部を有しておらず、したがって製造が容易であることである。
【0010】
残念ながら、先述したように、電気浸透式内部ポンプでは通常、ポンプ電極の電解質中で望ましくない副生物が生じ、これにより、LOCデバイスにおけるその応用が妨げられ、または試験しようとする試料に影響が与えられる。これらの望ましくない副生物が生じる副反応は、化学緩衝剤、たとえば所望のレベルにpHを保つ緩衝剤を、圧送しようとする溶液、試験、分離しようとする試料、またはキャリア電解質に加えることによって抑制できる。しかしながら、これらの化学物質は時折、調査または輸送している物質に干渉することがあり、したがって望ましいものではない。さらに、緩衝剤の使用は、デバイスの製造および動作のための追加のコストが伴う。
【0011】
あるいは、金属電極を囲む、体積が非常に大きい容器は、希釈によって副生物の影響を最小化できる。しかしながら、大体積容器のサイズおよびLOCデバイスに関するサイズ要件のせいで、この代替案は、微小流体LOCデバイスにおいては望ましくない。
【0012】
別の代替案では、酸化および溶液中への溶解が可能な金属(たとえばAgなど)が、片方または両方の電極に使用される。この金属は、正極で酸化されてカチオンとして溶液中に放出され、ポンプ内の流体によって負極まで輸送されて、そこで再び還元される。このタイプのシステムに伴う難題は、生物学的試料およびタンパク質のAgカチオンに対する敏感性である。たとえば、Agカチオンはしばしば、細菌または生細胞に対して有毒である。
【0013】
US2007/0009366A1として公開されたMyersらに属する米国出願US11/168,779には、電極のうち少なくとも1つの周りにシースを設けることにより気泡形成の課題を解消する電気浸透ポンプが記載されている。シースは、イオンを通すように構成されており、電極で生じた気泡の通過を抑制し、生じた気泡をシースの内側で収集する。さらに、ガスの圧力がシース内部で高まった際、気泡は電気浸透ポンプから排出される。
【0014】
Sandia Corporationに属する米国特許US6,287,440 B1では、電解質の電気化学的分解によって気泡が形成され、これにより、動電学的ポンプの中を通る電流の流れが遮断されることによって起こる動電学的ポンプの故障をなくすための方法および装置が開示されている。US6,287,440 B1で開示されている方法および装置では、電極は、該ポンプの加圧領域から離して配置され、その結果、電極で生じたガスは、気泡が電流の流れを中断し得る該ポンプの高圧領域にではなく、より大きな緩衝液貯蔵容器に流出することができる。
【0015】
US2005/0189225 A1として公開されたLiuらに属する米国出願US11/102,063には、電気分解および気泡形成を阻止するために気泡を含まない電極を有した、電気浸透流圧送手段を備える微小流体システムが記載されている。気泡を含まない電極は、固定化ポリマーを担持したチューブを備え、その中を通って流体が通過するのを阻止しながら複数のポンプ流路間に電圧をかけるための手段と、微小流体流路の中または近傍での電気分解および気泡形成を回避するための手段とを提供する。
【0016】
これらのタイプの動電学的ポンプの欠点は、該ポンプがより大きなフットプリントを必要とすることが多いため、小型デバイスに含めることが困難なことである。さらに、必要とされる複雑な幾何形状といくつかの異なる材料の使用により、その製造が複雑になる。さらなる欠点は、圧送中の電極で生じる気泡、ならびに加水分解によって起こるpHの変動である。
【0017】
本発明は、従来技術の動電学的流体システムの欠点を克服することと、微小流体ラボオンチップ(LOC)システムに適した動電学的流体システムを提供することとを目的とする。
【0018】
発明の概要
本発明は、電気化学的に活性な導電性材料を電極材料として使用することにより、従来技術のシステムの欠点を克服する。これにより、電解質(たとえば水)の酸化または還元をほとんど防止し、それにより副生物の生成も防止して、このような動電学的流体システムをLOC用途に理想的に適したものにする動電学的流体システム、たとえば電気浸透圧送システムなどの動電学的圧送システム、またはたとえば電気泳動システムなどの動電学的分離システムが提供される。動電学的システムの実験室規模または工業規模の用途にも、本発明は有益なものとなり得る。
【0019】
電気化学、たとえば酸化または還元を電解質中ではなく静止電極材料それ自体の上に起こすことにより上述した望ましくない電気化学的副生物は最小化または排除され得る。
【0020】
本発明のいくつかの利点は、電極での望ましくない電気化学的副生物が最小化または排除されることと、所望のレベルにpHを保つために緩衝剤または他の化学的添加剤を電解質または試料に加える必要性が少なくなり(またはなくなり)、それにより、試験しようとする試料を害するリスクを最小にすることと、本発明の動電学的流体システムを製造するのが簡単なこととである。電解質中のpHを保つことは、たとえば生物学的試料および溶液などのpHの変動に敏感な試料にとって重要である。電解質中で安定レベルにpHを保つのを可能にするためには、電解質は電気分解によって消費されるべきではない。本発明のシステムにより、必要な電気化学的反応が電極上でもその内部でも起こることが可能になる。
【0021】
したがって、本発明の1つの目的は、液体流を制御するための動電学的流体システム(100、100’、100’’)であって、それぞれの容器(12、12’)内に配置された第1および第2の電極(10、10’)(前記電極は、ポリマーをベースにしたまたは酸化物をベースにした、導電性の電気化学的に活性な電極材料を含み、前記電極材料は前記動電学的流体システム(100)において使用されている際に電気化学的反応を受けるように適応されている)と、さらに、前記2つの容器間の通路として配置された流路(14)であって、2つの容器(12、12’)間の電解質(13、13’)の流れを可能にする流路とを具備することを特徴とする、動電学的流体システム(100、100’、100’’)を提供することである。
【0022】
さらなる実施形態では、液体流を制御するための動電学的流体システム(100)は、該電極材料が前記電極(10,10’)の表面に少なくとも配置されており,前記表面は、該電極(10,10’)が前記動電学的流体システム(100)において使用されている際に、電解質(13,13’)に面していることを特徴とする。
【0023】
さらに他の実施形態では、本発明による動電学的流体システム(100)は、導電性の電気化学的に活性な電極材料が、少なくとも1つの還元−酸化状態において電気を導電し、電気化学的に切り替えが可能であり、分解することなく、電解質(13,13’)に毒性物質を放出しないことを特徴とする。
【0024】
本発明による動電学的流体システム(100)は、導電性の電気化学的に活性な電極材料が、π共役ポリマーの群から選択されることを特徴とする。
【0025】
さらなる実施形態は、導電性の電気化学的に活性な電極材料が、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリ(p−フェニレンスルフィド)、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリインドール、ポリピレン、ポリカルバゾール、ポリアズレン、ポリアゼピン、ポリフルオレン、ポリナフタレンおよびポリイソチアナフタレンからなる群より選択されるπ共役ポリマーのいずれか、そのコポリマー、またはその混合物を含むことを特徴とする、本発明による動電学的流体システム(100)である。
【0026】
さらなる実施形態は、導電性の電気化学的に活性な電極材料が、金属酸化物、たとえば酸化バナジウムまたは酸化タングステンを含むことを特徴とする、本発明による動電学的流体システム(100)である。
【0027】
さらなる実施形態は、前記流路(14)が電解質(13、13’)の流れを可能にする少なくとも1つの毛細管である本発明による動電学的流体システム(100)である。
【0028】
さらなる実施形態は、前記流路(14)が、電解質(13、13’)の流れを可能にする、固体もしくは半固体材料の多孔質材料、または膜である本発明による動電学的流体システム(100)である。
【0029】
膜は、2つの相の間の隔壁として働く材料の層であり、駆動力の作用に曝されたときにも特定の粒子、分子、または物質を透過しないままである。いくつかの成分は、膜により浸透液流中に通過していくことができる一方、他の成分は膜により保持され、残液流中に集積する[1]。
【0030】
膜は、種々の厚さの均一または不均一な構造にすることができる。膜は、それらの細孔の直径に従って分類することもできる。IUPACによれば、3つの異なる種類の細孔サイズの分類があり、ミクロ多孔質(dp<2nm)、メソ多孔質(2nm<dp<50nm)およびマクロ多孔質(dp>50nm)である[2]。膜は中性でも帯電していてもよく、粒子の輸送は能動的でも受動的でもよい。後者は、膜プロセスの圧力、濃度、化学的または電気的勾配によって促進できる。膜は一般には3つの群に分類でき、無機膜、ポリマー膜または生体膜である。これら3つの種類の膜は、その構造および機能性が大幅に異なる[3]。
【0031】
さらなる実施形態は、前記流路が、ガラスたとえば酸化ケイ素、ポリアニオンたとえばポリ(スチレンスルフォナート)、またはポリカチオンたとえばプロトン化されたポリ−L−リシンから形成されている、本発明による動電学的流体システム(100)である。
【0032】
さらなる実施形態では、前記流路の壁は、塩の解離またはアルコール基の脱プロトン化によりしばしば帯電している。たとえば、酸化ケイ素に接したシラノールはしばしば脱プロトン化し、その表面には負に帯電した酸素原子が残る。ナトリウムポリ(スチレンスルフォナート)などのポリアニオンの塩が解離すると、その表面には固定したスルフォナートイオンが残る。もう1つの例では、適当なpH値においてポリ−L−リシンがプロトン化して、静的界面が実効正電荷を有するようになる。
【0033】
動電学的デバイスにおいて使用される電極は、容量が制限されており、これは、片方または両方の電極が、ほとんど完全にドープされた(酸化)または脱ドープされた(中性)際に「劣化する」であろうことを意味している。毛細管/多孔質材料の壁の電荷の符号を負から正に(またはその逆に)切り替えることにより、流れの方向は同じとしたまま、流れを駆動する電極の極性を逆転することが可能になる。このようにして、小さな電極は大量の流体を駆動でき、または継続的に動作できる。
【0034】
さらなる実施形態は、前記流路の壁が、ポリイミドと同様で帯電していないものであり、これは、電気浸透流の発生ではなく電気泳動による分離を所望する場合はとりわけ望ましい。
【0035】
さらなる実施形態では、前記流路の壁の電荷は、Plecisらの”Flow field effect transistors with polarisable interface for EOF tunable microfluidic separation devices”、Lab on a Chip,DOI:10.1039/b921808d、および特許US5092972-A、US5358616-A、WO0028315に記載されたように、電位によって制御され得る。
【0036】
さらなる実施形態では、前記流路は径が<200μmである。平行な流路、多孔質材料などを有するさらなる実施形態は、本明細書で示される。
【0037】
さらなる実施形態は、電場発生デバイス(16)をさらに含む本発明による動電学的流体システム(100)である。
【0038】
本発明のもう1つの目的は、動電学的流体システムにおいて液体流を制御するための方法であって、
a)それぞれの容器(12、12’)内に配置された第1および第2の電極(10、10’)に電場をかけること(前記電極はポリマーをベースにしたまたは酸化物をベースにした、導電性の電気化学的に活性な電極材料を含み、前記電極材料は前記動電学的流体システム(100)において使用されている際に電気化学的反応を受けるように適応されている)と、
b)前記電場を電場デバイス(16)を用いて制御して、電解質(13、13’)の流れを制御することを可能にすることと
を含む方法を提供することである。
【0039】
さらなる実施形態では、上記動電学的流体システムが本発明によるものである。
【0040】
さらなる実施形態では、該方法が前記電解質中の帯電種の流れを制御する工程をさらに含む。
【0041】
さらなる実施形態は、前記電解質中の非帯電種の流れを制御する工程をさらに含む、本発明による方法である。
【0042】
さらなる実施形態では、前記電解質(13、13’)中の帯電または非帯電分子の前記流れを、電場デバイス(16)を用いて前記電場を制御することによって制御し、電解質(13、13’)の流れを制御することを可能にする。
【0043】
本発明のさらに他の目的は、ここで提供される動電学的流体システムにおいて帯電または非帯電分子の流れを制御することを可能にする方法であって、
a)第1のまたは第2の容器(12、12’)内の電解質中(13、13’)中に帯電または非帯電分子を供給することと、
b)それぞれの容器(12、12’)内に配置された第1および第2の電極(10、10’)に電場をかけること(前記電極はポリマーをベースにしたまたは酸化物をベースにした、導電性の電気化学的に活性な電極材料を含み、前記電極材料は前記動電学的流体システム(100)において使用されている際に電気化学的反応を受けるように適応されており、前記導電性の電気化学的に活性な電極材料はπ共役ポリマーの群より選択される)と、
c)前記電場を電場デバイス(16)を用いて制御して、電解質(13、13’)の流れを制御することを可能にし、それにより前記電解質(13、13’)中の帯電または非帯電分子の流れを制御することを可能にすることと
を含む方法を提供することである。
【0044】
特定の事例では、生じた電場は、上記システムにおいて流れを駆動または制御するのに使用されるだけでなく、混合物中の種をその実効電荷と移動度とに基づいて分離するのにも使用される。
【0045】
ここで使用する限りにおいて、移動度とは、電場の単位ごとの電荷1個当たりの速度を意味することを意図している。すなわち、移動度が固定された分子の電荷を2倍にすると、該分子は2倍の速さで移動する(電場が一定であると仮定する)。
【0046】
種の実効電荷は、前記種が有する総電荷である。これは、正(+)もしくは負(−)、または0、すなわち中性のいずれかの電荷であり得る。さらに、実効電荷は、2以上の単位元でもよい(たとえば、実効電荷が2のCa2+)。帯電した分子などの種の実効電荷は、電場中で種がどのように移動するかに影響を与える。
【0047】
さらに、形状およびサイズは、どのように種が移動するかに影響する。かさ高い分子、たとえば分枝糖分子または大きなタンパク質は、帯電している場合としていない場合では異なる移動をする。さらに、小さな実効電荷は、小さな電場がかさ高くて大きな種を顕著に輸送するのを十分に可能にしない可能性がある。したがって、サイズ、分枝および実効電荷のすべてが種の輸送に影響を与える。
【0048】
さらに、その実効電荷が0であるとき、種は(たとえば外部電場または双性イオンが起因して)不均一に分布することがあり、この場合、種は極性化すると言われており、このことは、電場に影響された際に分子が極性化できる場合には、電場における前記種の輸送にも影響し得る。
【0049】
したがって、電場において様々な種を含むより複雑なシステムでは、それぞれの種はしばしば、その種に固有の速度で移動するので、互いを分離するのが可能になる。
【0050】
さらに、本特許に記載された電気浸透ポンプによって生じるようなEOFは、種を駆動して静止相または固定相、たとえばビーズ、モノリスなどを充填したカラムを有する分離媒体の中を通すのに使用でき、この結果、複数の種をその相対的な移動度および電荷ではなく、その固定相との相互作用に基づいて分離できる。
【0051】
本発明のさらに他の目的は、ここで提供される動電学的流体システムにおいて帯電および/または非帯電種の混合物の流れを制御することと該混合物の分離を制御することとを可能にする方法であって、
a)第1のまたは第2の容器(12、12’)中の電解質(13、13’)中に帯電または非帯電分子の混合物を供給することと、
b)それぞれの容器(12、12’)内に配置された第1および第2の電極(10、10’)に電場をかけること(前記電極はポリマーをベースにしたまたは酸化物をベースにした、導電性の電気化学的に活性な電極材料を含み、前記電極材料は前記動電学的流体システム(100)において使用されている際に電気化学的反応を受けるように適応されている)と、
c)電場デバイス(16)を用いて前記電場を制御し、電解質(13、13’)の流れを制御することを可能にし、それにより前記電解質(13、13’)中の帯電または非帯電分子の流れを制御することを可能にし、それにより帯電および/または非帯電種の混合物の分離を可能にすることと
を含む方法を提供することである。
【0052】
本発明のさらなる目的は、本発明による動電学的流体システム(100)を含む、液体流を制御するための微小流体ラボオンチップシステム(200)を提供することである。
【0053】
本発明のさらに他の目的は、本発明による動電学的流体システム(100)を含む、帯電または非帯電種の流れを制御するための微小流体ラボオンチップシステム(200)を提供することである。
【0054】
本発明のさらなる目的は、ラボオンチップシステム(200)における本発明による動電学的流体システム(100)の使用を提供することである。
【0055】
さらに他の目的は、ラボオンチップシステム(200)において液体流を制御するための、本発明による動電学的流体システム(100)の使用を提供することである。
【0056】
さらなる目的は、ラボオンチップシステム(200)において1種以上の帯電または非帯電種の流れを制御するための、本発明による動電学的流体システム(100)の使用を提供することである。
【0057】
さらなる目的は、請求項1〜12のいずれかに記載の動電学的流体システム(100)、および任意のその使用のための説明書を含むキットを提供することである。
【0058】
本発明の実施形態を添付の図面を参照しながら説明する。ここでは:
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1A】図1は、本発明の電極(10、10’)の一実施形態を概略的に示している。図1Aは側面図を示している。(電気化学的に活性すなわち導電性でありかつ切り替えが可能な)電極(10)は、一端において、基板(12)、たとえばPETフィルム、すなわち一実施形態では透明/OHフィルムの上面に配置されている。電極は、導電性材料、たとえば銀をベースにした導電性塗料の電気接点(17)で覆われている。
【図1B】図1は、本発明の電極(10、10’)の一実施形態を概略的に示している。図1Bは平面図を示している。(電気化学的に活性すなわち導電性でありかつ切り替えが可能な)電極(10)は、一端において、基板(12)、たとえばPETフィルム、すなわち一実施形態では透明/OHフィルムの上面に配置されている。電極は、導電性材料、たとえば銀をベースにした導電性塗料の電気接点(17)で覆われている。
【図2A】図2は、それぞれの容器(12、12’)内に配置された第1および第2の電極(10、10’)を備え、流路(14)の中を通る電解質(13、13’)の流れを制御することが電位(16)により可能になっている動電学的流体システム(100、100’)の2つの実施形態を概略的に示しており、図Aでは一実施形態を示している。
【図2B】図2は、それぞれの容器(12、12’)内に配置された第1および第2の電極(10、10’)を備え、流路(14)の中を通る電解質(13、13’)の流れを制御することが電位(16)により可能になっている動電学的流体システム(100、100’)の2つの実施形態を概略的に示しており、図Bでは他の実施形態を示している。
【図3】図3は、動電学的流体システム100、たとえば本発明による動電学的分離システム100’’の一実施形態を概略的に示している。動電学的システムは、2つの電極10、10’を備える。アノード10およびカソード10’は、電位発生デバイス16に接続されている。動電学的システム100は、第1および第2の容器、それぞれ12、12’と、第1の容器12と第2の容器12’との間に通路を形成した少なくとも1つの毛細管要素14とをさらに含む。第1のおよび第2の容器12、12’は、電解質13、13’を含む。図示したように、上記電位デバイス16を用いて電位がかけられた際、電解質13中に含まれている分離しようとする試料は、第1の容器12から毛細管要素14の中を通って第2の容器12’まで輸送される。
【図4】図4は、本発明による動電学的流体システム(100)を備える微小流体ラボオンチップ(LOC)システム200の一実施形態を概略的に示している。図4Aは、図2および図3における容器に対応する基板(12)材料、たとえば顕微鏡用ガラス製スライド板の平面図を示している。基板材料は、一面が基板に面したパターン化構造体、たとえばパターン化カバー層(19)でカバーされている。パターン化構造体(19)および基板(12)により、流路および容器のシステムが創出される。一実施形態では、パターン化カバー層(19)はたとえば、ソフトリソグラフィーなどにより作製したPDMS(ポリジメチルシロキサン)(ソフトリソグラフィーによりパターン化されたポリジメチルシロキサン)から作製できる。電極(10、10’)は、パターン化カバー層(19)と基板(12)との間に形成された、パターン化された孔/空洞/空間にはめ込まれている。さらに、パターン化カバー層と基板との中間に、流路(14)も形成されている。さらに、この流路を側面図4Cにおいて可視化している。
【図5A】図5は、結果を、図5Aでは絶対(Abs)電流(アンペア)として、図5Bでは抵抗(オーム)として、図5Cでは電位(ボルト)として示している。
【図5B】図5は、結果を、図5Aでは絶対(Abs)電流(アンペア)として、図5Bでは抵抗(オーム)として、図5Cでは電位(ボルト)として示している。
【図5C】図5は、結果を、図5Aでは絶対(Abs)電流(アンペア)として、図5Bでは抵抗(オーム)として、図5Cでは電位(ボルト)として示している。
【図6】図6は、20mM NaCl(ag)中のプラチナ(Pt、点線)電極およびPEDOT:PSS(実線)電極についてのサイクリックボルタモグラムの結果を示している。矢印は、PEDOTに関連した酸化および還元のピークを示す。Eは、Ag/AgCl電極に対しての印加電位である。
【図7】図7は、長さ10mm−内径25μmの毛細管を有する2つの別々のポンプでの2Vから160Vの電圧範囲にわたる流量測定の結果を示している。
【図8】図8は、4μAの定電流で動作した2つの異なるポンプのpH測定の結果を示している。Pt電極を有したポンプは、2〜4mCの電荷が輸送された時点ですでに、アノードおよびカソードの両方で顕著なpHの変化を示す。10mCの電荷の輸送後には、PEDOTをベースにしたポンプは、約0.1pH単位のpHの変化しか示さない。この実験でのPEDOT電極の容量は10mCであったので、この後、このポリマー電極はPt電極と同様の挙動を示す(pHの変化が増大する)。白の三角はコントロールであり、白丸はアノードのプラチナであり、白の四角はカソードのプラチナであり、黒丸はアノードのPEDOTであり、黒の四角はカソードのPEDOTである。エラーバーは、測定したデータの2つの標準偏差を示している。
【図9】図9は、ガラス製スライド板21上に設置されたPDMSシート20に形成された毛細管のアレイにより接続しているウェル22と22’の中に設置されたπ共役ポリマー電極24、24’と組み合わせた、電気浸透ポンプ/誘電泳動システム300の概略を示している。電場源16を使用して直流電流(DC)または交流電流(AC)信号を供給することによりデバイスを動作させると、ウェルおよび毛細管中に含まれる流体中の粒子の流れおよび/または誘電泳動操作が起こる。
【図10(1)】図10Aは、図10BのPDMSシートに形成された流路の拡大図を示している。図10Bは、図9に示した微小流体デバイスの拡大図を示している。
【図10(2)】図10Cおよび図Dは、動作中の図9のデバイスの写真を示している。図10Cでは、小さなDC電場により、小さな球状粒子28が、PDMSピラー26間の流路25を通って流れる。図10Cおよび図Dは、動作中の図9のデバイスの写真を示している。AC電場がかけられた際、ポリスチレン球体は、流れ領域25中で、長方形構造体26の端部の近くに集合して凝集する。図10Dを参照のこと。
【0060】
発明の詳細な説明
定義
ここで使用する限りにおいて、「電気浸透」とは、電場がかけられた際の、毛細管、毛細管のシステム、多孔質プラグ、膜または別の微小流路の内側での液体の移動を指す。
【0061】
さらに、ここで使用する限りにおいて、「電気泳動」とは、固体粒子を懸濁した媒体に対してかけられた電場の影響下における、毛細管、毛細管のシステム、多孔質プラグまたは別の微小流路の内側の固体粒子の移動を指す。
【0062】
さらに、ここで使用する限りにおいて、「電気浸透流」または「EOF」とは、毛細管、毛細管のシステム、多孔質プラグ、膜または別の微小流路を横切ってかけられた電場によって誘起される液体の移動を指す。
【0063】
ここで使用する限りにおいて、「電気化学的に活性な材料」とは、電解質と接触している場合に電気化学的反応における成分の一部を含むことが可能で、それ自体に向かってまたはそれ自体から電流が流れることを可能にする材料材料を指す。このような電気化学的に活性な材料の例としては、導電性ポリマー(後で説明する)、炭素および特定の金属酸化物、たとえば二酸化マンガン(MnO2)および酸化タングステン(WO3)が挙げられる。前記電気化学的に活性な材料は電気化学的に酸化または還元させることができ、すなわち、その酸化状態は電気化学的反応によって変化し得る。
【0064】
ここで使用する限りにおいて、「液体」とは、気体と一緒で流動する能力を有した、物質の3つの古典的状態のうちの1つを意味することを意図している。気体と同様に、液体は流動して容器の形状をとることができるが、固体と同様に、圧縮に対して抵抗する。気体とは異なり、液体は分散しても容器の空間全てを満たすことはなく、ほぼ一定の密度を維持する。液体は流体である。固体とは異なり、液体中の分子は、移動の自由度が遥かに大きい。固体において分子同士を結びつけている力は、液体においては一時的なものにしかならないので、固体は剛性のままであるが、液体は流動することができる。
【0065】
ここで使用する限りにおいて、本発明のシステム、方法および使用に関連して用いられる用語電解質という用語は、好ましくは、電解質中でのイオン伝導を可能にする、すなわち、イオン性物質、たとえば塩、酸、塩基などの解離を可能にする液体に基づくものとすべきである。液体および/またはイオン性物質は、求核剤に寄与し得る。本発明のシステムと組み合わせて用いることが可能な電解質は、イオン種の解離を補助することによりイオンの伝導を可能にする溶媒中にある塩、酸、塩基、または他のイオン放出剤の溶液/液体である。それが必要とされる用途において、電解質は、緩衝溶液、たとえば、生きた有機体または生体分子、たとえばタンパク質と一緒にするのに適した緩衝溶液を含んでいてもよい。このような生きた有機体または生体分子とともに使用するのに適した緩衝剤の例としては、NaHPO4および酢酸ナトリウムが挙げられる。考えられる電解質の他の非限定的な例としては、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、NaCl、Na2SO、HCl、H3PO4、HaSO4、KCl、RbNO3、NH4OH、CsOH、NaOH、KOH、H2O2の水溶液と;適切な塩、たとえば過塩素酸ナトリウムまたはナトリウムトリフルオロメチルスルフォナートおよび第三級アンモニウム塩、たとえばテトラブチルアンモニウムクロリドと組み合わせたリンガー溶液、有機溶媒、たとえばアセトニトリル、ピリジン、DMSO、DMF、ジクロロメタンなどと;これらの溶媒/液体中で解離する塩と組み合わせた無機溶媒、たとえば超臨界CO2、液体SO2、液体NH3などと、自己解離(auto-dissociation)を示し、それにより水、ギ酸および酢酸などのイオン種の形成をもたらす溶媒/液体とを挙げることができる。また、用語電解質は、帯電した生物学的に活性な分子または高分子、たとえば帯電したアミノ酸、DNA、DNAフラグメントおよびプラスミド、タンパク質、ビタミン、ペプチドまたはホルモンを含む溶液も包含する。また、電解質は、細胞培養媒体またはその成分、たとえばタンパク質、アミノ酸、ビタミン、および成長因子も含み得る。
【0066】
また、用語電解質は、乳化した種などの帯電した凝集粒子、または、いくつかの追加帯電種で覆われた種を含む溶液も包含し得る。このような電解質の例としては、牛乳、尿および血液が挙げられる。
【0067】
ここで使用する限りにおいて、「微小流体工学」とは、小規模、典型的にはミリメートル未満の規模に幾何学的に限定される流体の挙動、正確な制御および操作を扱うものである。
【0068】
「微小流体デバイス」とは、ミリメートル未満の規模の流路、または細孔を採用したデバイスのことである。これは、少量の流体(たとえばLOC技術)と共に使用できるであろう。そうでなければ、所望の物理的現象がこのような短い距離の規模でしか適用できないからである(たとえば電気浸透ポンプにおいて生じる電気浸透流)。
【0069】
ここで使用する限りにおいて、「ラボオンチップ」または「LOC」とは、わずか数平方ミリメートルから数平方センチメートルの大きさの単一チップ上に1つまたは複数の実験室機能を組み込んだデバイスを意味することを意図している。LOCは、ピコリットル未満にまで及ぶ、きわめて小さな流体の体積の操作を扱うものである。ラボオンチップデバイスは、MEMSデバイス(微小電気機械システム、MEMS)のサブセットであり、しばしば「微小総合分析システム」(μTAS)とも呼ばれる。「微小流体工学とは、機械的な流量制御用デバイスたとえばポンプおよび弁またはセンサーたとえば流量計および粘度計をも指す、上位概念用語である。しかしながら、「ラボオンチップ」とは通常、チップフォーマットにまで及ぶ、単一または複数の実験室プロセスのスケーリングを全般的に表し、一方で「μTAS」は、化学的分析を実施するための一連の実験室プロセスのすべてを統合することに専用のものである。用語「ラボオンチップ」は、μTAS技術を分析目的のみよりも広範に応用できるようになった後で導入された。
【0070】
ここで使用する限りにおいて、用語「半固体材料」は、それが使用される温度において、固体と液体との中間の剛性および粘度を有する材料を意味することを意図している。したがって、該材料は、流動または漏出しないのに十分なほど剛性である。
【0071】
ここで使用する限りにおいて、「種」とは、イオン、帯電したもしくは帯電していない分子、または、ここで例示したもしくは当技術で知られている任意の粒子もしくは生物学的試料、たとえばタンパク質、DNA、RNA、ミクロRNA、インターロイキン、ホルモン、シグナル伝達物質たとえば神経伝達物質、ホルモンおよびイオンなどを意味することを意図している。さらなる例は、ここに挙げられる。
【0072】
ここで使用する限りにおいて、用語「細胞」は、細胞研究の対象となり得る全ての種類の動物細胞または植物の細胞を包含することを意味している。
【0073】
本発明と共に使用することができる細胞の種類の非限定的な例としては、核を有する細胞である真核細胞、および核のない細胞である原核細胞が挙げられる。
【0074】
真核細胞の非限定的な例としては、幹細胞および神経細胞、免疫系由来の細胞、上皮細胞、および内皮細胞が挙げられる。原核細胞の非限定的な例としては、様々な種類の細菌が挙げられる。細胞研究の当業者ならば、すぐさま、本開示とともに使用できる様々な細胞をいくつも挙げることができるであろう。
【0075】
本発明に有用な細胞の細胞サイズは、典型的には1μm〜1mmの範囲にあり、たとえば、径が10〜500μmの範囲内、または、10〜100μmもしくは10〜50μmの範囲内でもよい。また、対象となり得る細胞のうち一部の種類は、困難が伴うであろう。
【0076】
さらに、細胞群も包含されている。本開示においてこの用語が使用される限りにおいて、2個の細胞から数百万個の細胞までに及ぶ隣接した多数の細胞を意味する。典型的には、細胞群は、約2〜1000000個の細胞、たとえば約100000〜1000000個の細胞を含み得る。細胞群の一具体例は、切片たとえば外植片、または、本開示によるデバイスを使用する研究の対象になるであろう臓器または神経細胞に由来の組織の切片の小さな一部を含むであろう。細胞研究の当業者ならば、本開示によるデバイスを使用する研究の対象となり得る、他の種類の細胞群を容易に挙げることができるであろう。
【0077】
本発明は種々の変更ならびに代替の方法、装置およびシステムを包含するが、本発明の実施形態を図面に示しており、以下で詳細に説明する。しかしながら、具体的な説明および図面は、開示した具体的な形態に特許を取ろうとする発明の範囲を限定することは意図していないことを理解すべきである。それどころか、特許を取ろうとする発明の範囲は、添付の特許請求の範囲に示した本発明の精神および範囲内から等価物の全範囲にまでに属する変更およびその代替の構成の全てを含むことを意図している。図面では、同じ参照番号を、同じまたは類似の特徴を示すのに使用している。
【0078】
たとえば、本発明の一目的は、液体流を制御するための動電学的流体システム(100、100’、100’’)であって、
a)それぞれの容器(12、12’)内に配置された第1および第2の電極(10、10’)(前記電極はポリマーをベースにしたまたは酸化物をベースにした、導電性の電気化学的に活性な電極材料を含み、前記電極材料は前記動電学的流体システム(100)において使用されている際に電気化学的反応を受けるように適応されており、該導電性の電気化学的に活性な電極材料がπ共役ポリマーの群より選択される)と、
b)前記2つの容器間の通路として配置された流路(14)であって、前記2つの容器(12、12’)間の電解質(13、13’)の流れを可能にする流路と
を具備することを特徴とする動電学的流体システムを提供することである。
【0079】
通路として配置される前記流路は、2つの容器を接続する任意の種類の流路、たとえば1つ以上のトンネルまたは孔状の、1つ以上の流路または1つ以上の管でもよい。さらなる例は、管状または流路状の形態もしくは領域であり得るまたはそうでなくてもよい、1つ以上の毛細管要素または任意の多孔質材料である。流路は短くてもよいしまたは長くてもよい。短い形態では、流路はむしろ孔または膜であるが、電解質(13、13’)などの液体の流れを十分に可能にするものである。
【0080】
本発明による動電学的流体システム(100、100’、100’’)は、該電極材料が前記電極(10,10’)の表面に少なくとも配置されるようにさらに構成されてもよく、該表面は、該電極(10,10’)が前記動電学的流体システム(100)において使用されている際に、電解質(13,13’)に面している。
【0081】
本発明による動電学的流体システム(100、100’、100’’)は導電性の電気化学的に活性な電極材料が、少なくとも1つの還元−酸化状態において電気を導電し、電気化学的に切り替えが可能であり、分解することなく、化学的または生物学的試料を変質または損傷させ得るであろう毒性物質または他の物質を電解質(13,13’)に放出しないことをさらに特徴としていてもよい。
【0082】
毒性物質は、その毒性によって評価される。毒性とは、物質がそれに曝された有機体に損傷を与え得る度合いである。毒性とは、動物、真正細菌、または植物などの全ての有機体に対する影響、および細胞(細胞毒性)または臓器(臓器毒性)、たとえば肝臓(肝毒性)などの有機体の部分構造に対する影響を指し得る。毒物学の中心的概念は、影響が用量に依存することである。水でさえも、十分に多い用量で摂取した場合には水中毒を起こすことがあり、一方で、ヘビ毒または金属イオン、たとえば銅などの毒性物質であっても、それ未満では毒作用を検出できないという用量がある。一般には3種類の毒性の実体:化学的なものと、生物学的なものと、物理的なものとがある。化学的なものとしては、鉛、水銀、アスベスト、フッ化水素酸、および塩素ガスなどの無機物質、メチルアルコール、ほとんどの薬剤などの有機化合物、ならびに生物由来の毒物が挙げられる。
【0083】
化学物質の毒性は、標的(有機体、臓器、組織または細胞)に対する影響によって評価できる。各個体は通常、同じ用量の毒素に対する応答のレベルが異なるので、個体群中の或る個体についての結果の蓋然性に関連した、個体群レベルでの毒性の測定値がしばしば用いられる。このような測定値の1つがLD50である。このようなデータが存在しない場合は、公知な同様の毒物、または、同様の有機体中における同様の暴露と比較して推定する。
【0084】
たとえば、本発明のシステム(100、100’、100’’)は、毒性物質または化学物質が電解質中に放出されないシステムである。毒性はまた、細胞をベースにした系または細胞を含まない系、たとえば細胞培養物または溶解した細胞系において評価してもよく、ここで、毒性物質は、たとえば酵素の活性、細胞代謝、細胞成長および増殖、細胞生存などに影響または妨害を与え得る。
【0085】
たとえば、本発明の前記システムにより、本発明のシステムにおける「安全な」環境が可能になる。生物学的試料は、pH、イオンおよび金属たとえば溶液中の金属イオンの変化に対して非常に敏感であるが、本発明のシステムによると電解質が消費されないので、pHが安定した気泡のない環境が可能になる。
【0086】
本発明による動電学的流体システム(100、100’、100’’)は、導電性の電気化学的に活性な電極材料がπ共役ポリマーの群より選択されることを特徴とする。
【0087】
適切な導電性ポリマーの例はπ共役ポリマーである。たとえば、導電性の電気化学的に活性な電極材料は、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリ(p−フェニレンスルフィド)、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリインドール、ポリピレン、ポリカルバゾール、ポリアズレン、ポリアゼピン、ポリフルオレン、ポリナフタレンおよびポリイソチアナフタレンからなる群より選択される導電性の電気化学的に活性な電極材料のいずれか、そのコポリマー、またはその混合物を含んでいてもよい。
【0088】
したがって、さらなる実施形態では、本発明による動電学的流体システム(100、100’、100’’)は、導電性の電気化学的に活性な電極材料がポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリ(p−フェニレンスルフィド)、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリインドール、ポリピレン、ポリカルバゾール、ポリアズレン、ポリアゼピン、ポリフルオレン、ポリナフタレンおよびポリイソチアナフタレンのいずれか、そのコポリマー、またはその混合物を含むことを特徴とする。
【0089】
混合物またはブレンドの一例では、電極は、PEDOT:PSSと略記するポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリ(スチレンスルフォナート)とのブレンドを含む。
【0090】
π共役ポリマーで金属電極を被覆するまたはπ共役ポリマー自体を電極として使用することにより、電極での電気化学的反応をほとんどのあらゆる電位において誘起することができ、圧送が非常に低電圧で開始され得る。たとえば、Pt電極を使用し、かつ水の電気分解によりファラデー反応が起きた場合、顕著な圧送が起こる前に少なくとも1.2(おそらくは2〜3)Vを供給する必要があると思われ、その理由は、これらの電位未満では電気分解が起きないためである。しかしながら、たとえば(溶液からキャストしたように)部分的にドープされた状態で出発したπ共役ポリマー、たとえばPEDOT:PSSなどをPtの代わりにまたはPtの上面の上で用いた場合、該ポリマーは、mV電位でも酸化または還元され始める。言い換えると、電気化学的反応(したがって流れ)を、溶媒での電気分解を実施するために必要とされる電位より低い電位で駆動することができる。これは、バッテリー、または、たとえばコンピュータのUSBポートもしくは携帯電話によって5Vを供給することにより駆動され得る携帯型の微小流体デバイスにとって特に有用である。
【0091】
さらに、ここで説明するシステムは、たとえば毛細管の全体にわたる高電圧(数百ボルト)において使用してもよく、100V/cm以上の電場を誘起して、流体を400μm/s以上の速度で効果的に輸送できるようにすることができる。したがって、ここで説明する本発明のシステムは、高電圧すなわち100ボルト超と、低電圧すなわち2ボルト以下との両方で作動する。
【0092】
また、導電性の電気化学的に活性な電極材料は金属酸化物を含んでいてもよい。例としては、たとえば酸化バナジウムまたは酸化タングステンである。
【0093】
さらなる実施形態では、本発明による動電学的流体システム(100、100’、100’’)は、導電性の電気化学的に活性な電極材料が金属酸化物、たとえば酸化バナジウムまたは酸化タングステンを含むことを特徴とする。
【0094】
本発明による流体システム(100、100’、100’’)は、流路(14)を備える。前記流路(14)は、電解質(13、13’)の流れを可能にする少なくとも1つの毛細管要素でもよい。少なくとも1つとは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90またはさらには100個の毛細管要素、たとえば100、200、300、400、500、600、700、800、900またはさらには1000個の一まとまりの毛細管要素を意味する。
【0095】
前記流路(14)は、図10に示したようなポリスチレンビーズの誘電泳動による操作を用いたデバイスを明示するのに使用される毛細管のネットワーク、たとえば図9に示されているものでもよい。
【0096】
前記流路(14)は、シリカビーズなどの粒子を充填したフリットガラス、ポリマーモノリス、膜、または容器などの多孔質材料でもよい。多孔質材料はビーズまたは類似の構造でもよい。多孔質材料は、そのサイズにより数種類に分類される。IUPAC表記法(J. Rouquerolら(1994)”Recommendations for the characterization of porous solids (Technical Report)” Pure&Appl. Chem66:1739-1758、http://www.iupac.org/publications/pac/66/8/1739/pdf/を参照されたい)によれば、ミクロ多孔質材料は2nm未満の細孔径を有し、マクロ多孔質材料は50nm超の細孔径を有する。メソ多孔質材料とは、2〜50nmの径を有する細孔を含んだ材料である。
【0097】
たとえば、前記多孔質材料は、ミクロ多孔質材料またはマクロ多孔質材料でもよい。さらに、前記多孔質材料はメソ多孔質材料でもよい。
【0098】
さらに、前記流路(14)は、電解質液体(13、13’)の流れを可能にする、固体または半固体物質の多孔質材料でもよい。
【0099】
前記流路(14)は、たとえば流路の形態または膜の形態にある、任意の適当なマトリックス材料、たとえば紙、織布または多孔質ポリマーによって形成されてもよい。
【0100】
適切な電解質は当分野では公知であるし、ここでさらに例示される。それにはいわゆるイオン液体も含まれ、これは、本質的にイオンのみを含んだ液体である。これらの例は、第四級アンモニウム塩、ホスホニウム塩、1,3−ジアルキルイミダゾリウムまたは1−アルキルピリジニウムハライドとトリハロゲノアルミナートとの混合物、EMIM EtOSO3(1−エチル−3−メチルイミダゾリウムエチルサルファート)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラートに溶解したLiCIO4である。
【0101】
前記流路は、プロトン化されたポリ−L−リシンなどのポリカチオン、または、スルフォナート基を含むポリマー、たとえばポリ(スチレンスルフォナート)などのポリアニオンから形成されてもよい。
【0102】
さらに、前記流路の壁は帯電していてもよく、大抵は、塩の解離またはアルコール基の脱プロトン化によって帯電する。たとえば、酸化ケイ素上のシラノールは、しばしば脱プロトン化し、その表面には負に帯電した酸素原子が残る。ナトリウムポリ(スチレンスルフォナート)などのポリアニオンの塩が解離すると、その表面には不動性のスルフォナートイオンが残る。別の例としては、適当なpH値でのポリ−L−リシンのプロトン化により、静止界面が実効正電荷を有するようになる。
【0103】
さらに、前記流路は、径が約≦200μmでもよく、たとえば径が200、150、100、75、50、25、10、5、2、1μm、またはさらには900、800、700、600、500、400、300、200,100、50、25,10、5、2、1nmなどでもよい。
【0104】
さらに、本発明による動電学的流体システム(100、100’、100’’)は、電位/電場発生デバイス(16)をさらに含んでいてもよい。
【0105】
電位/電場発生デバイス(16)の例は、電圧または電流を本発明のシステムに供給するようなバッテリー、ソースメジャーユニット、または他の電源である。前記電源は、たとえばバッテリーとしてLOCシステム基板に直接取り付けることができるし、または、導電性の接点を介して接続された別個のシステムの一部、たとえば電源にもなり得る。
【0106】
本発明のシステム、キットおよび方法において印加される電圧の大きさおよび極性は、いくつかの要因、たとえば電極材料、輸送しようとするイオン、イオンを輸送する距離、所望の輸送速度などの選択に応じて変動するであろう。印加する電圧の極性は、当業者ならば、EOFを駆動させるのにまたは電気泳動により分離させるのに使用するイオンの電荷の種類(正または負)を考慮して、容易に選択するであろう。所望の速度もしくは量の流体を輸送するまたは分離を最適化するために印加する電圧の大きさは、本発明に照らして容易に決定できる。
【0107】
その流路を含む本システムに印加する電圧は、たとえば、約0.01Vから約100Vまでの範囲内にあり得る。したがって、電極間に印加する最適な電圧は、流路、使用する電解質、輸送しようとする電解質および電圧を電極に印加する方法といった特徴に依存するであろう。
【0108】
しかしながら、電圧は、好ましくは0.01から100Vまでの範囲にあり、より好ましくは0.01Vから20Vまでの範囲にある。
【0109】
本発明のシステムにおいて得られる非常に望ましい予想外のさらなる効果の一つは、π共役ポリマーを使用した場合、前記システムにおける圧送は、原則としていかなる電圧でも、たとえば非常に低い電圧でも開始され得ることである。低電圧は、生物学的試料にとって、ならびにバッテリー、太陽電池および他の低電圧電源によって給電されるデバイス、特に小型の携帯式デバイスにとって有益である。
【0110】
図2は、本発明による動電学的流体システム(100)の一実施形態を概略的に図示している。
【0111】
図2に図示したように、動電学的流体システム(100、100’、100’’)は、ここで、容器(12、12’)内として、それぞれの基板上に配置された第1および第2の電極(10、10’)と、電場(16)とを具備し、流路(14)の中を通る電解質(13、13’)の流れを制御することを可能にする。
【0112】
前記基板は、図2では容器として示されており、図1では電極を差し込むための単なる基板として示されており、OHフィルム、たとえば、PETフィルム/透明フィルムなどの透明OHフィルムから作製され得る。
【0113】
図1では、電極は、一端において、導電性材料、たとえば一実施形態では導電性の銀製塗料製の電気接点(17)で覆われている。
【0114】
電極は、導電性の電気化学的に活性な材料、たとえば導電性ポリマーもしくは導電性の金属酸化物、またはその組み合わせ、たとえば複合体またはコポリマーを含み得る。導電性ポリマーの例はここで示されているものである。さらに、「厚い」すなわち250nm以上の厚さの層の材料も金属製、たとえばAu(金)製の電極上に、たとえばポリマーが金属を覆っていて加水分解がそこで起きない限りは、同様に配置できる。好ましくは、少なくとも電極の最も外側の層/表面、すなわち、動作中に電解質と接触する層/表面は、導電性の電気化学的に活性な材料から本質的になっているべきである。
【0115】
2種以上の材料の組合せを使用することも、材料のうち少なくとも1つが電気伝導性で、材料のうち少なくとも1つがイオンを伝導できる場合には可能である。本発明によるシステムにおいて使用できるこのような組み合わせの例としては、インジウムスズ酸化物などの導電性材料と、イオン伝導性ヒドロゲルとが挙げられる。
【0116】
また、電極は有機または無機材料をさらに含んでいてもよく、これらはイオンを伝導できるが電子を伝導することはできないものであり、これらの材料は、イオンの電極中への輸送およびその内部での輸送を容易にするために含められる。このような材料の非限定的な例は、ヒドロゲルおよびポリ電解質などのポリマー材料である。このようなさらなる電極材料は、導電性の電極材料中に分散させてもよいし、これに接触する別の層として配置してもよい。
【0117】
本発明によるシステムの電極は、好ましくは、電気化学的に活性な材料を含む。前記電極材料は有機材料でもよい。前記有機材料はポリマーでもよく、導電性ポリマーでもよい。
【0118】
本発明のシステムにおいて使用するのに適した導電性ポリマーは、J C Gustafssonら、Solid State Ionics,69,145-152(1994)と;Handbook of Oligo- and Polythiophenes,Ch10.8,(D Fichou,Wiley-VCH,Weinhem編)(1999)と、P Schottlandら、Macromolecules, 33, 7051-7061(2000)と、M Onoda、Journal of the Electrochemical Society,141,338-341(1994)と、M Chandrasekar, Conducting Polymers, Fundamentals and Applications, a Practical Approach, Kluwer Academic Publishers, Boston(1999)と、A J Epsteinら、Macromol Chem, Macromol Symp, 5 1,217-234(1991)とによって説明されているように、好ましくは、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリ(p−フェニレンスルフィド)、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリインドール、ポリピレン、ポリカルバゾール、ポリアズレン、ポリアゼピン、ポリフルオレン、ポリナフタレンおよびポリイソチアナフタレンからなる群、そのコポリマー、またはその混合物より選択される。
【0119】
さらなる実施形態では、導電性ポリマーは、3,4−ジアルコキシチオフェンのポリマーまたはコポリマーであり、ここで、前記2つのアルコキシ基は、同じものでもよいしもしくは異なるものでもよく、または、任意に置換されたオキシ−アルキレン−オキシ架橋を共に表してもよい。上記ポリマーは、ポリ(3,4−メチレンイオキシチオフェン)、ポリ(3,4−メチレンジオキシチオフェン)誘導体、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)誘導体、ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)誘導体、ポリ(3,4−ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ブチレンジオキシチオフェン)誘導体、および、これらによるコポリマーからなる群より選択される3,4−ジアルコキシチオフェンのポリマーまたはコポリマーであり得る。
【0120】
上記システムの一実施形態では、前記導電性ポリマーは、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)である。電極は、ポリ電解質化合物、たとえばポリ(スチレンスルホン酸)またはその塩をさらに含んでいてもよい。本発明のデバイスの電極において使用される材料の一例は、ポリ(スチレンスルフォナート)ポリアニオンを含むポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)である(下記ではPEDOT:PSSと表記する)。一実施形態では、電極は、固体基板上に堆積したPEDOT:PSSの薄膜の形態で存在する。
【0121】
本発明のデバイスの電極は、ヒドロゲルをさらに含んでいてもよい。ヒドロゲルは、好ましくは、ポリアクリラートたとえばポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリラート)およびポリ(アクリルアミド)、ポリ電解質たとえばポリ(スチレンスルホン酸)(PSS)およびポリ(アクリル酸)(PAA)、多糖類たとえばアガロース、キトサンおよびデキストラン、ゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシドならびにポリエチレングリコールからなる群より選択されるポリマーをベースにしている。
【0122】
さらに、電極は、固体基板上に堆積したPEDOT:PSSの薄膜、および前記PEDOT:PSS層上に堆積したキトサンの薄膜の形態で存在していてもよい。他の材料の組合せを使用することもできる。
【0123】
電極材料は、少なくとも1つの還元−酸化状態において電気を導電し、2つ以上の酸化還元状態の間で電気化学的に切り替えが可能であり、通常はたとえば酸化された材料および中性材料のブレンドであり、分解することなく、毒性物質を電解質に放出しないものでありうる。さらに、ブレンドの場合、酸化された材料および中性材料の濃度は、電気化学的反応が起きた際に変化し得る。さらなる実施形態では、材料はその中性状態では非導電性のものであり、たとえばポリ(3−ヘキシルチオフェン)である。
【0124】
この説明においては、電気化学的に切り替えが可能とは、電極材料が、電気化学的システムにおいて、他方の電極および/または電解質に対する電極に印加する電位を切り替えることによって、酸化状態を変化させることが可能であるものであることを意味している。この材料は、電解質のカチオンまたはアニオンを取り込みまたは放出し、それ自体は分解することなくおよび/または毒性物質もしくは試料の輸送を通常なら妨害するであろう物質を放出することなく、電解質中で電場を発生または維持することが可能でなければならない。
【0125】
この材料は、種々の酸化状態で堆積され得る。その後、この状態は、材料の堆積後の酸化還元反応または電気化学的反応によって変更され得る。
【0126】
この材料は、可逆的な電気化学的反応を受けることができ、その結果、アノードをカソードにすることまたはその逆を行うことを、電極間にかけられた電位の極性を逆転させることによって簡単にできるようになり得る。さらに、片方または両方の電極に、不可逆的反応を起こし、その結果、デバイスは逆転されないようにすることができる。
【0127】
適切な導電性金属酸化物の例は、酸化バナジウムおよび酸化タングステンである。
【0128】
導電性の電気化学的に活性な材料、たとえばPEDOT:PSSは、たとえばインクジェット、スクリーン、または他の印刷技術を使用して基板上に容易に被覆または印刷でき、それにより電極が形成される。導電性の電気化学的に活性な材料が金属酸化物である場合、他の従来方法、たとえばゾル−ゲルプロセス、物理的蒸着(PVD)または化学的蒸着(CVD)を用いて、該材料を基板に適用することもできるであろう。基板はたとえば、ポリエチレンテレフタラート(PET)もしくはポリスチレンなどのプラスチックでもよいし、または、シリカや石英などのガラスでもよい。
【0129】
しかしながら、電極の全体を、導電性の電気化学的に活性な材料から、または、たとえば積層体もしくは複合材料の形態にある導電性の電気化学的に活性な材料の組合せから製造できるであろうことを理解すべきである。
【0130】
導電性の電気化学的に活性な材料、たとえばPEDOT:PSSを動電学的流体システムにおける電極材料として使用することにより、還元−酸化反応中における電解質のpHに対する影響は、金属を電極材料とした動電学的流体システムに比べて最小化される。したがって、PEDOT:PSSを含む電極を使用することにより、電解質のpHは還元−酸化反応において同様、すなわち一定またはほぼ一定に維持されるであろう。
【0131】
さらに、電極材料としてのPEDOT:PSSは、緩衝剤の消耗、すなわちpH消費を制限し、動電学的流体システムの内側に気泡が形成されるリスクを低下させるであろう。さらに、PEDOT:PSSにおいて還元−酸化反応を補償するイオンの会合は非特異的であり、電極は、LOCにおいて今日使用されているあらゆる電解質中で使用できる。
【0132】
さらに、電極は、容器の内面に嵌合するように構成されていてもよく、この内面に電極が、これらの間に任意の空間を空けてまたは空間を空けずに配置される。図2で概略的に図示したように、電極10,10’は、側壁と容器12,12’の底部との両方において内面と嵌合できるし、または、図3で示したように、基板容器と電極との間に短い距離があってもよい。この図は、実験室規模のキャピラリー電気泳動構成を図示している。
【0133】
しかしながら、電極は円柱状、立方体状、または球状など、他の形状を有することもできるであろうことと、さらには、電極の寸法、たとえば幅、長さ、および厚さは、特定の用途に応じる結果として変更できることとを理解すべきである。複数の電極を固体基板上の共通平面に配置していてもよい。いくつかの実施形態では、電極は、印刷または積層技術により前記基板上に堆積される。リソグラフィーやエッチングなどの従来の半導体加工法と組み合わせた印刷方法の使用により、電極を約1μmの分解能でパターン化することが可能になる。これにより、本発明のデバイスの小規模製造が可能になり、これは、たとえば、試料および調製物が非常にわずかな量しか入手できないことがある生化学的用途および細胞用途に有用である。
【0134】
さらなる実施形態では、電極の厚さは1mm未満である。厚さは、電極が配置された支持体に垂直な方向で測定する。
【0135】
さらに、提供されるシステムでは、電極のうち少なくとも1つが、生体適合性でもよい。用語生体適合性は、ここでは、細胞の培養がその上でまたはこれに密接結合した状態で可能な材料または表面を特徴付けるのに使用される。細胞の培養とは、前記細胞の付着、維持、成長および/または増殖を指す。生体適合性の表面を提供する本発明による電極材料の一例は、PEDOT:PSSである。電極の生体適合性により、電極上でのまたは電極と密接結合した状態での培養される細胞の細胞活性の研究が可能になる。
【0136】
細胞接触部位は、1種以上の物理的または化学的な閉込方法を用いて実現してもよい。細胞は、たとえば、デバイス表面上に配置された壁などにより、ここで説明したシステムの部分的な封止部における開口部により、または、システム表面の適切な化学的または物理的処理により閉じ込めることができる。
【0137】
細胞は、上記システムに容器を用いて保持されて、細胞が所望の電極と接触するように配置されうる。前記容器は、ガラスまたはポリマー材料から作製されるのが好ましいが、他の材料を使用することもできる。容器は、開放されていてもよいし、または部分的もしくは完全に封止されていてもよい。本発明の一実施形態では、前記システムは、多数の前記単一配置およびそれに関連した細胞接触部位を含み、本システムおよびそれに関連した細胞接触部位は、好ましくは、そのマトリックスシステムを作り出すように配置されており、ここでは、それぞれのシステムは、帯電または非帯電種、たとえば分子およびイオンを輸送するために個別に処理され得る。このようなマトリックスシステムが有用であろう用途の一例は、たとえば細胞培養および生化学的研究のために使用されるマイクロウェルプレートにおけるものである。このようなマトリックスシステムの管理は、パーソナルコンピュータにより好都合に取り扱うことができるであろう。
【0138】
本発明の装置またはシステム(100、100’、100’’)では、各システムおよびそれに関連した細胞接触部位は、それぞれ、単細胞と標的電解質または電解質供給源との間にイオン接触を生じさせるように配置されている。このような単細胞接触は、本発明のシステムの製作において達成できる小さな寸法によって可能にされる。したがって、本発明によれば、イオンまたは帯電もしくは非帯電種、たとえば分子およびイオンがそこにまたはそこから輸送される、単細胞またはさらには単細胞の特定部分を処理することができる。
【0139】
先述した通り、導電性の電気化学的に活性な材料を基板に適用して、電極を形成することができるであろう。このような実施形態では、導電性の電気化学的に活性な材料を適用した層は、特定の用途に適した範囲にある厚さを有し得る。電極が機能するであろう厚さの範囲に制限はない。
【0140】
図2は、本発明による動電学的流体システム100、たとえば動電学的圧送システム100’の一実施形態、たとえば電気浸透ポンプを略示している。動電学的システム100,100’は、2つの電極10、10’を備える。アノード10およびカソード10’は、電場発生デバイス16に接続されている。動電学的システム100は、第1の容器12および第2の容器12’、ならびに第1の容器12と第2の容器12’との間に通路を形成している少なくとも1つのダクトまたは流路または貫通孔14をさらに含む。第1のおよび第2の容器12、12’は、電解質13,13’、たとえば水性液体または有機液体またはその混合物を含む。図示したように、電場デバイス16を用いて電場をかけると、電解質13に含まれている金属カチオンM+、たとえばNa+は、第1の容器12から流路14を通って第2の容器12’まで輸送される。
【0141】
さらに、図2の実施形態を参照すると、印加された電場に起因して、電気化学的反応がアノード10とカソード10’とのそれぞれで起こる。アノード10では、電極材料はたとえば未ドープ状態のPEDOT:PSSでもよく、イオンM+が該電極材料から放出されるのと同時に、P+で示されるP型ドープ状態に変化する。さらに、カソード10’では、イオンM+が電極材料に入り、P型ドープ状態(たとえばP+)の電極材料PEDOT:PSSは、P0で示される未ドープ状態に変化する。これは、中性PEDOT(P0)の酸化PEDOT(P+)への酸化である。
【0142】
上記反応を例示すると、
P0+PSS:M+→P+:PSS+M++e-、および
P+:PSS+M++e-→P0+PSS:M+
である。
【0143】
PEDOT鎖は非常に長いので、何度も酸化され得る。PEDOTは、常に、部分的に(ほとんど完全に)ドープされた/酸化された状態で合成される。他の大部分のポリマーは、中性状態で生成する。これらは全て、使用の前にin−situで酸化/還元され得る。PEDOT:PSSブレンドの場合、PSSが常に存在し、それは常に負に帯電している。PEDOTがドープされている(正に帯電している)場合、それは、電荷を平衡させるための対イオンとしてPSSを使用する。PEDOTが中性である場合、PSSは、電荷を平衡させるために別のイオン(たとえばNa+)を必要とする。第2の反応は逆プロセスである(ドープされたPEDOTが中性のPEDOTに還元される)。
【0144】
P3HTなどの他の材料はPSSを有しておらず、そのために、正に帯電した(ドープされた)際に通常はアニオンを必要とすることに留意されたい。その一般的原理は同様である。
【0145】
適切な電極材料の重要な特徴の1つは、電極の還元−酸化状態における電気化学的な変化が電解質(たとえば水)の電気化学的に安定な電位窓内で起こることと、電極材料は電解質に放出されるのではなく電極内部に留まることとである。
【0146】
電気化学的に安定な電位窓は、ファラデー電流が通ることなく電極が溶液中で極性化し得る電位範囲として定義される。電解質−溶液系の電気化学的に安定な電位窓は、i)溶媒の性質、ii)塩の性質、iii)電極材料の性質、およびiv)汚染物質の存在に依存する。これは、その個々の成分に固有の電気化学的安定性に依存する。
【0147】
方法
本発明のさらなる目的は、動電学的流体システムにおいてたとえば電解質の液体流を制御するための方法であって、
a.それぞれの容器(12、12’)内に配置された第1および第2の電極(10、10’)に電極をかけること(前記電極はポリマーをベースにしたまたは酸化物をベースにした、導電性の電気化学的に活性な電極材料を含み、前記電極材料は前記動電学的流体システム(100、100’、100’’)において使用されている際に電気化学的反応を受けるように適応されている)と、
b.前記電場を電場デバイス(16)を用いて制御して、電解質(13、13’)の流れを制御することを可能にすることと
を含む方法を提供することである。
【0148】
さらに、上記動電学的流体システムは、当然ながら、本発明のあらゆる動電学的流体システムに従ったものである。
【0149】
さらに、前記方法は、前記電解質中の帯電種の流れを制御する工程を含んでいてもよい。前記流れの制御は、本発明のシステムを使用して実現される。
【0150】
上記方法は、前記液体電解質中の非帯電種の流れを制御する工程をさらに含んでいてもよいし、または、該方法において電解質は非帯電種を担持しながら流動する。
【0151】
前記電解質(13、13’)中の帯電および非帯電種の前記流れは、前記電場を電場デバイス(16)を用いて制御し、それにより、たとえば図2で説明したように、本発明によるシステムを使用して電解質(13、13’)の流れを制御することを可能にすることができうる。
【0152】
さらなる目的は、動電学的流体システムにおいて帯電および非帯電種の流れの制御を可能にする方法であって、
a.第1のまたは第2の容器(12、12’)において電解質(13、13’)上に帯電または非帯電種を供給することと、
b.それぞれの容器(12、12’)内に配置された第1および第2の電極(10、10’)に電極をかけること(前記電極はポリマーをベースにしたまたは酸化物をベースにした、導電性の電気化学的に活性な電極材料を含み、前記電極材料は前記動電学的流体システム(100、100’、100’’)において使用されている際に電気化学的反応を受けるように適応されている)と、
c.前記電場を電場デバイス(16)を用いて制御し、電解質(13、13’)の流れを制御することを可能にし、それにより前記電解質(13、13’)中の帯電または非帯電種の流れを制御することを可能にすることと
を含む方法を提供することである。
【0153】
帯電種の例は、一価および二価の金属カチオン、たとえばNa+、Ca2+およびK+、帯電したアニオン、たとえばCl-、F-、SO3-、帯電した生物学的な種、たとえばタンパク質、アミノ酸、ペプチドおよび核酸である。
【0154】
非帯電種の例としては、糖、脂肪、帯電していないペプチド、(特定のpHにおいて)実効電荷0のアミノ酸、および(特定のpHにおいて)実効電荷0のタンパク質、生物学的に興味深い種、たとえばホルモン(エストロゲン、プロゲステロンなど)が挙げられる。その質量に比して小さな電荷を有する大きな種であっても、その移動度は非常に低いので、動電学的システムにおいては非帯電種として挙動する。
【0155】
同様に、液体中に懸濁された帯電もしくは非帯電粒子(ミクロ粒子、ナノ粒子)、液滴、または気泡を輸送することができる。
【0156】
システム
さらなる目的は、本発明の任意の部分による動電学的流体システム(100、100’、100’’)を含む、気泡、細胞または粒子、たとえばナノ粒子、ナノチューブ、またはビーズを操作、輸送、および/または分離するためのLOC(200)などのシステム、または誘電泳動(DEP)システム(300)との組合せを提供することである。
【0157】
さらに、ここでのシステム(100、100’、100’’、200、300)は、収縮や膨張などの内寸の変化が起こる微小流体流路、またはPDMSもしくはガラスまたはその療法などの材料にパターン形成された、おそらくは(図10で示したような)ネットワークを形成しているアレイ状の柱やカラムなどの物体を含む微小流体流路も含み得る(たとえば、流路/ネットワークの壁と天井はPDMSである一方、床はガラスである)。流路/ネットワークが流体で満たされており、かつ、流路またはネットワーク(24、24’)の反対側の端部に設置された電極間に電場発生器(16)を用いて電位をかけることにより電場が生じた場合、EO流れの発生および制御が可能となり、流体中のたとえば粒子、ビーズ、気泡、細胞、ナノ粒子および/またはナノチューブのDEP操作が起こり得る(達成できる)。
【0158】
本デバイス内部の電場の勾配は、一部は電場発生デバイスで印加した電位により、一部は流体システム中の流路の相対的寸法(たとえば配列中の柱間の隙間)、または単一の流路を使用した場合には収縮もしくは膨張により調節することができる。勾配の調節により、DEP操作をより狭い範囲の粒子種(たとえば細胞ではなく気泡)または限られたサイズの粒子(たとえば、径が10μm超である全ての粒子)に対して集中できるようになる。したがって、流体システム内部の相対的寸法と供給した電場と、個別の用途に対して調節しなければならない。
【0159】
ラボオンチップシステム
さらなる目的は、本発明のいずれかによる動電学的流体システム(100、100’、100’’)を備える、液体流を制御するための微小流体ラボオンチップシステム(200)を提供することである。
【0160】
さらなる目的は、本発明の任意の部分による動電学的流体システム(100、100’、100’’)を備える、帯電または非帯電種の流れを制御するための微小流体ラボオンチップシステム(200)を提供することである。
【0161】
さらなる目的は、本発明の任意の部分による動電学的流体システム(100)を備える、気泡、細胞または粒子、たとえばナノ粒子、ナノチューブ、またはビーズを操作、輸送、および/または分離するための微小流体ラボオンチップシステム(200)を提供することである。
【0162】
使用
さらなる目的は、ラボオンチップシステム(LOC)(200)における、本発明の動電学的流体システム(100、100’、100’’)の使用を提供することである。
【0163】
さらなる目的は、ラボオンチップシステム(200)において液体流を制御するための、本発明による動電学的流体システム(100、100’、100’’)の使用を提供することである。
【0164】
さらなる目的は、ラボオンチップシステム(200)において帯電または非帯電種の流れを制御するための、本発明による動電学的流体システム(100、100’、100’’)の使用を提供することである。
【0165】
さらに、前記LOCシステムは、DEPシステムと組み合わせてもよい。
【0166】
さらに、本発明の前記システム(100、100’、100’’)は、ここでさらに説明されるようにDEPシステム(300)と組み合わせてもよい。
【0167】
したがって、本発明により提供されるのは、それにより帯電種(たとえばイオン)または非帯電種(たとえば糖分子)を生物学的アッセイまたはシステムにおいて輸送できるシステム、方法または本発明のシステムの使用である。たとえば、これらの種は、標的電極上または標的電解質において培養したまたはこれらに存在する原核細胞または真核細胞(組織を含む)への輸送体であってもよい。直接的または間接的作用によって、輸送される帯電種(たとえばイオン)または非帯電種は、前記細胞に影響を与え、その中に生物学的プロセスを誘起する場合がある。生物学的プロセスの例は、細胞内プロセス、たとえばリン酸化連鎖反応、増殖、成長、アポトーシス、癒着、上方制御と下方制御の両方における細胞表面マーカーの発現などに直接的に影響するまたは間接的に影響を与える細胞活性化または不活性化/阻害/遮断であり、これらはすべて、当技術知られているアッセイおよび方法を使用して評価できる。
【0168】
したがって、本発明は、細胞間情報伝達の研究に有用であり、ここでは、前記システムを、前記細胞の応答の評価を可能にするため、帯電または非帯電種を前記種の流れの制御を用いて細胞に送達するために利用できる。
【0169】
本発明のシステムを、いくつかの異なるイオン性または非帯電の刺激物を同時または連続的に使用して単細胞を刺激するのに使用することができる。さらなる実施形態では、このシステムを、前記単細胞の様々な部分を異なる刺激物、たとえば前記帯電(たとえばイオン性)または非帯電種によって刺激することを可能にする空間分解能で、単細胞(すなわち刺激物)を刺激するのに使用することができる。
【0170】
また、このシステムを、たとえば特定の条件下で細胞から排泄される分子種(たとえばイオン種)を分析するために、イオンや分子などの様々な種を反対方向に、すなわち細胞から輸送するのに使用することもできる。言い換えると、本発明によるシステムを、細胞まで種(たとえば帯電または非帯電種)を送達するための手段として、ならびに、細胞の応答を分析するための構成の一部として使用することができる。
【0171】
前記刺激物は、細胞プロセスを開始させることができるしまたは細胞プロセスを停止させることでき、または、阻害剤として作用することもできる。非限定的な例は、細胞膜中の電位作動性Ca2+流路を開放させることによって神経細胞に対する刺激物として作用し得るカリウムである。阻害剤の非限定的な例は、細胞膜中の電位作動性Ca2+流路を遮断し得るカドミウムでもよい。
【0172】
用語イオンは、また、電解液を特定のpHにすることにより帯電し得る分子種も包含する。これらの種を帯電させるのに必要なpHは、これらの種のpKaから計算してもよい。また用語イオンは、化学的に改質されると、たとえばそれに対してアニオンが付着することにより実効電荷が得られ得る種も包含する。
【0173】
また、用語イオンは、たとえば界面活性剤種による所与の分子の乳化により実効電荷を担持した凝集粒子も包含し得るものであり、これらのうちのいずれかは、電荷を担持していてもよい。さらに、被覆材は、実効凝集電荷が調整できるように帯電種および非帯電種を含んでいてもよい。
【0174】
このような被覆材の例としては、脂肪酸、ドデシルベンゼンスルフォナート、レシチン、およびセテアリールアルコールが挙げられる。
【0175】
本発明のシステムは、帯電種(たとえばイオン)および非帯電種の濃度勾配を生じさせるのに使用することができる。このような濃度勾配は、たとえば、生物学的分析用途、たとえば細胞シグナル伝達の研究に有用になり得る。細胞シグナル伝達の研究としては、たとえば、免疫系の細胞間の、神経細胞もしくは神経シナプスもしくは神経相互接続間の、または幹細胞もしくは免疫系における他の任意の細胞間のシグナル伝達、あるいは、組織細胞(同じ種類もしくは2つの異なる種類の細胞を含む)、正常細胞もしくは異常細胞、たとえば腫瘍細胞、もしくは、CNS(中枢神経系)、または脳、心臓、などに関した疾患に関与する他の任意の異常細胞が挙げられる。細胞シグナル伝達としては、細胞内シグナル伝達事象および細胞外シグナル伝達事象が挙げられれる。
【0176】
したがって、さらなる実施形態は、ラボオンチップシステム(200)において帯電または非帯電種の流れを制御するための、本発明による動電学的流体システム(100、100’、100’’)の使用であり、ここで、前記種は、幹細胞に影響を与えるシグナル物質である。幹細胞としては、単離した幹細胞または幹細胞株が挙げられる。例としては、神経幹細胞、胚幹細胞、成体幹細胞である。
【0177】
さらなる実施形態では、本発明による動電学的流体システム(100、100’、100’’)の使用は、ラボオンチップシステム(200)において帯電または非帯電種の流れを制御するためのものであり、ここで、前記種は神経細胞に影響を与えるシグナル物質である。
【0178】
さらに、前記細胞はヒト細胞でもよい。さらなる実施形態では、前記細胞のすべてはヒト細胞であり、ただし、ヒト胚幹細胞ではない。
【0179】
これらの細胞はさらに、齧歯類の細胞でもよく、たとえばラット、マウス、ヤギ、ウシ、イヌ、ネコなどの細胞でもよい。
【0180】
さらなる実施形態では、本発明による動電学的流体システム(100、100’、100’’)の使用は、ラボオンチップシステム(200)において帯電または非帯電種の流れを制御することを包含し、ここで、前記種は細胞内シグナル物質である。
【0181】
さらなる使用では、前記種は、細胞内シグナル伝達に影響を与えるシグナル物質である。
【0182】
本発明のシステムは、標的電極の近くでイオンまたは種の濃度を変動させるのに使用できる。このようなイオン濃度勾配の変動は自然のプロセスを模倣しており、たとえば、生体分析用途に対して有用なものとなり得る。
【0183】
さらに、本発明のシステムは、細胞間情報伝達の研究に有用になり得るものであり、ここで、細胞をたとえば、本システムを用いて細胞まで輸送した帯電種(たとえばイオン)および非帯電種によって刺激することができ、細胞応答を、本システムを用いて細胞から分泌させた帯電種(たとえばイオン)および非帯電種を輸送することにより、研究または利用することができる。
【0184】
さらに、本発明のシステムは、流体中における細胞、粒子、気泡または他の物質の誘電泳動(300)操作と一緒に使用してもよい。このようなデバイスは、たとえば、血液全体からの血液細胞の分離、流体からの粒子状汚染物質の除去、およびナノ粒子またはナノワイヤーの操作(誘電泳動フィールドフローフラクショネーション)に有用である。誘電泳動(またはDEP)とは、誘電粒子が不均一な電場を受けた際に該粒子に対して力が及ぼされる現象である(たとえば、Brian J. Kirby, Micro-and Nanoscale Fluid Mechanics:Transport in Microfluidic Devices,2009, chapter 17. 1,http://www.kirbyresearch.com/textbookを参照されたい)。この力には、粒子を帯電させる必要はない。すべての粒子は、電場の存在下では誘電泳動活動を示す。しかしながら、この力の強さは、媒体および粒子の電気特性、粒子の形状およびサイズ、ならびに電場の周波数に強く依存する。この結果、特定の周波数の電場により、高い選択性を有した粒子の操作が可能になる。これにより、たとえば、細胞の分離、または、ナノ粒子およびナノワイヤーの配向および操作が可能になっている。
【0185】
キット
さらなる目的は、本発明による動電学的流体システム(100)と、任意にその使用のための説明書とを含むキットを提供することである。
【0186】
ある実施形態では、キットは、たとえば、本発明による動電学的流体システム(100)を使用する手段、特定の試薬のために用いられる分析/アッセイまたは手段を開示している説明資料を含む。説明資料は、電子的な形態(たとえば、コンピュータ用フロッピー(登録商標)ディスクまたはコンパクトディスク)で記載されてもよく、または映像(たとえば動画ファイル)でもよい。また、このキットは、キットの設計の対象とされた特定用途を容易にするためにさらなる部材をさらに含んでいてもよい。したがって、たとえば、キットは、開示された特定の方法を実施するために常法により使用される緩衝液および他の試薬を含み得る。このようなキットおよび適当な内容物は、当業者には周知されている。
【0187】
さらに、このキットは、試薬を別々にパッケージ化した本発明による動電学的流体システム(100)を、少なくとも1回のアッセイのために十分な量でさらに含んでいてもよい。
【0188】
典型的には、パッケージ化した試薬の使用のための説明書も含まれる。このような説明書は、典型的には、試薬濃度および/または少なくとも1つのアッセイ法パラメーター(たとえば、混合しようとする試薬および試料の相対的な量、試薬/試料混合物の保持時間、温度、緩衝液条件など)を説明した有形の表現を含む。
【0189】
したがって、キットは、たとえば、特定のアッセイ、たとえば化学的アッセイシステムまたは生物学的アッセイシステムにおけるLOCシステムとしてのその使用に関する説明書をさらに含んでいてもよい。化学的または生物学的アッセイシステムの例は、単細胞分析,PCRである。
【0190】
さらに、キットは、本発明による方法におけるその使用のための説明書をさらに含んでいてもよい。
【0191】
幾つかのキットは、運搬手段、たとえば箱、カバン、胴乱、プラスチックカートン(たとえばプラスチック成形品または他の透明なパッケージ品)、包装(たとえば、封止済みまたは封止可能なプラスチック、紙、または金属製包装)、または他の容器を含んでいてもよい。
【0192】
いくつかの実施例では、キット部材は、箱や他の容器などの単一のパッケージ化単位に封入され、このパッケージ化単位は、1個以上のキットの部材をその中に配置できる区画を有していてもよい。他の例では、キットには、たとえば試験しようとする1種以上の生物学的または化学的試料を保持できる1種以上の容器、たとえばバイアル、チューブなどが含まれる。
【0193】
他のキットは、たとえば、注射器、綿棒、またはラテックスグローブを含んでいてもよく、これらは、生物学的または化学的試料を操作、収集および/または加工するのに有用であり得る。キットは、任意に、化学的または生物学的試料をある位置から別の位置(たとえば、点滴器、注射器などを含める)に移動させるのに有用な器具を含むこともできる。さらに別のキットの実施形態は、使用済みまたは不要になった物品(たとえば試料など)を廃棄するための処理手段を含み得る。このような処理手段は、廃棄材料(たとえば、プラスチック製や金属製などの不透過性のカバン、箱または容器)からの漏出物を内包できる容器を含むことができるが、これらに限定されない。
【0194】
さらなる一実施形態では、本発明のシステムおよび/または本発明のキットは、全てが有機物であり、すなわち、本システムおよびキット中に存在する全ての材料が有機物である。全てが有機物であるシステムの利点の1つは、再利用の前に分解が必要になることがある有機材料と無機材料との組み合わせを含むデバイスより容易に再利用できることである。
【0195】
微小流体システムにおいて電極に導電性の電気化学的に活性な材料を使用することの価値を証明するために、ガラス製毛細管の中を通る電気浸透流(EOF)を誘起するためのポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(スチレンスルフォナート)(PEDOT:PSS)電極を作製した。
【0196】
PEDOT:PSS電極は、酸化還元反応に電解質ではなく電極材料が関与するので、毛細管中の電場を維持するために必要とされる電気化学的反応中での、電解質のpHに対する影響が、従来の金属電極よりも小さい、たとえば、より小さな変化をもたらすことが分かる。電極材料が消費されると、反応には電解質しか関与し得ない。電解質と接触している場合、PEDOT:PSSが電子をイオンにする変換器として効果的に働くので、P型ドープ状態と未ドープ状態との間またはその逆の間におけるPEDOT:PSSの切り替えは、イオンがPEDOT:PSSポリマーから出て行くまたはこれに入ることによって相殺される。これにより、電解質(たとえば水)が遷移金属製電極上で加水分解した際に通常見受けられる加水分解、気泡および他の副生物の発生なしで、電気化学的反応が各電極で起こることが可能になる。電気化学的に活性な電極の使用により、生体分子、細胞および他のpHおよびレドックス感受性の種を、EOFデバイスで見受けられる均一な速度プロフィールを用いて制御して輸送することが可能なLOCデバイスの製作ができるようになる。
【0197】
動電学的流体システムの動作中には各電極で電気化学的反応が起こるので、電極材料は消費されることになる(アノードで完全にドープされる(酸化)またはカソードで完全にドープされる(中性))。したがって、動電学的流体システムは、一方向に無限には動作できない。ここで説明する電極の一実装では、本システムは、一度の使用のみを意図したものであり、電極の電気化学的反応の可逆性は問題とはならない。さらなる実装例では、酸化と還元とが繰り返し可能なPEDOT:PSSなどの材料を電極に使用することにより、電流は先ず一方向に駆動され、その後、電位が逆転された際に、もう一方の方向に駆動されるようにすることが可能になる。このようにプロセスを逆転させると、消費された電極は効果的に再生される。このプロセスは、循環方式にして数千回繰り返すことができる。
【0198】
しかしながら、片方または両方の電極が完全に消費された、すなわち、アノードまたはカソードのそれぞれにおいてP型ドープまたは脱ドープされた(未ドープ、すなわち中性状態まで完全に還元されている)場合、電極/電解質の界面で電解質(たとえば水)の加水分解が発生し、動電学的流体システムは、金属電極を有する従来の電気浸透ポンプまたは従来の電気泳動システムと同様にして動作を継続する。
【0199】
電解質中での電気化学的反応を回避するためには、電極が完全に消費されることがないように本発明の動電学的流体システムの設計および動作を行うことが重要である。これは、動電学的流体システム内部の流れの方向を定期的に逆転させることにより、または、輸送しようとする電解質の体積と濃度に比べて電極の寸法を過大にし、その結果、電極が消費されることがないようにすることによって達成できる。たとえば、1グラムのPEDOT:PSSから作製した各電極が所与の電解質濃度を有した所与のポンプ構成中で10mlの水が移動することによって消費されるならば、2グラム以上のPEDOT:PSSを各電極に用いれば、PEDOTが完全に消費されるのが阻止され、加水分解が阻止されるであろう。
【0200】
本発明はまた、本発明の電極を製造するための方法にも関する。
【0201】
一実施形態によれば、電極を製造するために一般化された方法は、
導電性の電気化学的に活性な電極材料を基板に適用する工程と、
場合により、導電性を高めて電極の状態を変化させるため、ドーパントを電極に添加する、または電極上に電気化学的反応を用いる工程と、
場合により、機器、たとえば電場発生機器への電気的接触を容易にするため、電気的接触強化用物質を電極表面の一部に添加する工程と
を含む。
【0202】
上記で明らかにした通り、π共役ポリマーは、本発明によるシステムの目的に適しており、ここでさらに説明している。
【0203】
基板は、ポンプまたは分離用デバイスを製造したのと同じ材料(たとえばプラスチックまたはガラスたとえば毛細管)でもよい。基板は、ポンプまたは分離用デバイス中に配置して使用される、ガラスやプラスチックなどの別個の材料でもよい。
【0204】
本発明によるシステムをその上に製作できる基板は、好ましくは、電気的およびイオン的に絶縁性であり、絶縁性酸化物(SiOx)もしくは窒化物層(Si3N)を含んだSiウェハ、ガラスウェハ(たとえばパイレックス(登録商標)ウェハ)、ガラス基板(たとえば顕微鏡用スライド板)、プラスチック基板(たとえば、ペトリ皿中で使用するPET、ポリスチレン)、およびセラミックスなどの剛性材料を含んでいてもよい。基板はまた、可撓性のものでもよく、たとえば、プラスチックフィルム、Orgacon(登録商標)フィルム(プラスチックと紙の両方)、または紙ベースの材料でもよい。
【0205】
また、本発明によるシステムは、支持体、たとえばポリマーフィルムまたは紙の上で容易に実現され得る点で特に有利である。したがって、従来の印刷技術、たとえばスクリーン印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷およびフレキソ印刷、または、コーティング技術、たとえばナイフコーティング、ドクターブレードコーティング、押出コーティングおよびカーテンコーティングを用いて様々な部材を支持体上に堆積でき、「Modern Coating and Drying Technology」(1992)、E D CohenおよびE B Gutoff編、VCH Publishers Inc, New York, NY, USAで説明されている。導電性ポリマー材料を電極および/またはイオン伝導流路(イオン流路)において利用する本発明の実施形態では、この材料はまた、液相または気相における電気重合、UV重合、熱重合および化学的重合などの方法により、in situ重合を経て堆積され得る。
【0206】
部材のパターン形成のためのこれらの添加技術に対する一代替として、機械式手段、たとえばスクラッチング、スコーリング(scoring)、スクラッピング(scraping)もしくはミリングにより、または当技術で公知の他の任意の減色法により、化学的またはガスエッチングによる材料の局所破壊などの減色技術を使用することも可能である。本発明の一側面は、ここで特定した材料からシステムを製造するためのこのようなプロセスを提供する。
【0207】
たとえば、前記システムの一実施形態では、前記電極および前記流路(14)は、ガラスなどの固体支持体に対して、またはポリマーフィルムや紙などの可撓性支持体に対して、直接または間接的に取り付けられている。
【0208】
前記デバイスの保護のために、本発明によるシステムを一部または全体を、好ましくはカプセル化してもよい。カプセル化により、たとえば液体、たとえば電解質が機能するのに必要となる任意の溶媒が保持され、また、本デバイス中での電気化学的反応を酸素が乱さない。カプセル化は、液相プロセスによって行うことができる。したがって、液相ポリマーまたは有機モノマーは、スプレーコーティング、ディップコーティング、または、上記で列挙した従来の印刷技術のいずれかのような方法を使用して、デバイス上に堆積できる。堆積後には、カプセル化剤はたとえば、紫外線もしくは赤外線照射、溶媒蒸発、冷却、または、エポキシ接着剤などの二成分系の使用によって硬化でき、ここで、成分は、堆積の前に直接混合される。別法として、カプセル化は、イオン輸送デバイス上への固体フィルムの積層によってなされる。本発明の好ましい実施形態では、本システムの部材は支持体上に配置されており、この支持体は底部カプセル化部として機能し得る。この場合、カプセル化は、シートの上面のみが、液相カプセル化剤で被覆されるか、または、固体フィルムを積層される必要があるという点で、より好都合になされる。
【0209】
また、本発明によるシステムは、フォトリソグラフィーやエッチングなどの従来の半導体プロセスを使用して製造することもできる。このような方法を使用した場合、電極材料は、好ましくは、任意の適切な堆積方法、たとえば印刷または積層法を使用して基板上に堆積してもよい。その後、電極材料を担持する基板は、従来のフォトレジスト/エッチング技術を用いてパターン形成してもよい。
【0210】
本発明によるシステムにはさらなる特徴があってもよく、これにより、本システムの使用が容易なものとなる。このような特徴としては、電圧源を前記システムの電極に接続するための端子、本システムを取扱いに対してより強固にし、かつ、液体電解質の蒸発または汚染を阻止するために本システムをカプセル化するための手段が挙げられる。
【0211】
前記システムの電極は、液体電解質を所望の電極上に直接堆積できるように配置することができる。
【0212】
本発明によるシステムは、電解質が所望の電極に接触するように配置された、本システムの電解質を保持するための手段をさらに含んでいてもよい。たとえば、一実施形態では、前記デバイスは、前記電解質を保持するための手段を備える。
【0213】
電解質は、1以上の物理的または化学的な閉込方法を用いて、前記システムの特定領域に閉じ込めてもよい。電解質はたとえば、本システムの表面に配置された壁などにより、ここで説明したシステムの部分的なカプセル化における開口部により、または、前記システム表面を適切な化学的または物理的に処理して、たとえばフッ化コーティングを用いて、表面を部分的に疎水性にすることにより閉じ込めてもよい。
【0214】
たとえば、電解質は、電解質が所望の電極に接触するように配置された容器を用いて本システム中に保持してもよい。前記容器はガラスまたはポリマー材料から作製してもよいが、他の材料を使用してもよい。容器は、開放されていてもよいし、または部分的または完全に封止されていてもよい。
【0215】
前記システム中の電解質を保持するための前記手段または容器では、前記容器の表面は生体適合性でもよい。
【0216】
本発明によるシステムは、電流の測定により、少なくとも1つの第1の電極から少なくとも1つの第2の電極(10、10’)まで輸送される種(たとえば帯電または非帯電分子)の量を測定するための手段をさらに備えていてもよい。
【0217】
一例によれば、PEDOT:PSS電極を製造するための方法は、
−5%ジエチレングリコール(Sigma−Aldrich)を、粗面化したOHフィルム基板上に含む100μlのPEDOT:PSS(H2Oにおける1.3wt%分散液、0.5%PEDOTと0.8%PSSとを有する、導電性グレード、Sigma−Aldrich)をドロップキャストする工程と、
−PEDOT:PSSを乾燥する工程と、
電解質と接触していないPEDOT:PSS電極の縁部に銀製塗料のストライプを添加して、機器、たとえば電場発生機器への電気的接触を容易にする工程とを含む。
【0218】
さらなる実施形態では、フィルムは、印刷技術(たとえばインクジェット印刷)、コーティング技術(スピンコーティング、ドクターブレード法など)、またはin−situでの(電気化学的または化学的な)重合を含めた数多くの方法のうちの1つにおいて加えてもよい。さらに、使用する接触ポリマー/金属酸化物に導電性材料を添加する必要は必ずしもないであろう。
【0219】
図4は、本発明による動電学的流体システム100を備える微小流体ラボオンチップ(LOC)システム200の一実施形態を概略的に示している。
【0220】
本発明を微小流体ラボオンチップデバイスに関連して説明してきたが、本発明の電極および本発明の動電学的流体システムは、たとえば実験室用途または大規模用途で使用できることが理解されるべきである。たとえば、本発明による動電学的流体システムは、実験室規模または工業規模の毛細管電気泳動分離システム、大規模な電気浸透ポンプにも使用できる。
【0221】
例
例1−PEDOT:PSSを備える電気浸透ポンプの例
例示的な電気浸透ポンプを、128×86×12mm(lwh)の8ウェル(各ウェルは40×30×12mmである)型の2〜3cm幅のプラスチック皿における2つの容器12、12’の間に、約25μm〜約75μmの内径を有する毛細管14(たとえばシリカ毛細管)を設置することによって製造した。ポンプは、30mmの壁を通り超えた先に位置する。各ウェルは液体電解質(pH9の5〜50mMのNaH2PO4)を含んでいた。PETフィルム上のPEDOT:PSS電極10、10’を、PEDOT:PSS電極の一部を電解質中に沈めることによって各容器内に配置し、電場発生器16を用いて最大10Vの電位を電極間に印加した。毛細管の中を通って運ばれる電流は毛細管内部の電解質の濃度に比例するので、これら2つの容器12、12’に様々な濃度の塩溶液を充填することにより、本発明者らは、添加剤を用いないでも、変位によって毛細管14の中を通る流量を間接的に測定できた。したがって、低濃度の電解質を最初に入れた毛細管に対してポンプの作用により高濃度電解質の充填が開始されると、該デバイスを通る測定された電流は、図5Aに示したように時間と共に増大する。同様に、(流れが逆転された際には)低濃度電解質による毛細管中の高濃度電解質の変位は電流の減少を起こす。その後、流速を抵抗曲線(図5Bに示している)の傾きから推測できる。流速を測定するために使用する技術のより詳細な説明については、Electrophoresis 2004, 25, 3687〜3693を参照されたい。
【0222】
2つのウェル(40×30×12mm)に、7mlの5mMおよび20mMのNa2HPO4 pH9を入れた。各ウェルを、内径25μmの10mm溶融シリカ毛細管に接続した。1本のPEDOT:PSS電極の一部を各ウェルの溶液に沈めて、Kiethley 2636A SourceMeterの+に5mAウェルの電極を接続し、−に20mMウェルの電極を接続した。電流を測定しながらSourceMeterにより様々な電位を印加する。
【0223】
結果
+5Vの電位を電極間に印加した際、ポンプにより電解質が25mMウェルから5mMウェルまで移動し、70MΩの毛細管の両端間の抵抗に対応する70nAの電流が生じた。−5Vの電位を印加した際、ポンプにより電解質が5mMウェルから25mMウェルまで移動し、毛細管体積中の25mM電解質が変位して、250MΩの抵抗に対応する20nAの電流が生じた。流体の完全変位は約8分で起こり、変位中に移送される総電荷は約20μCであった。+2Vと−2Vの電位の間で切り替えを行うと、流体の変位により電流が8.5nAから29nAの間で変動し、これは235MΩから68MΩの間の毛細管の抵抗に対応する。流体の変位速度は、5Vの電位では20μm/sであり、2Vの電位では7μm/sであった。Abs電流、抵抗および電位を示す図5A〜Cを参照されたい。
【0224】
例2−さらなる例示的な電気浸透ポンプ
イオン性溶液を入れた2つの容器を備え、各容器が、PEDOT:PSS電極を含んでおりかつこれらの容器間の通路として機能する溶融シリカ毛細管に接続されている電気浸透ポンプ。電極の一端を溶液に沈め、表面より上にある反対側端部を電場発生器に接続した。毛細管は約10mmの長さであり、内径が約25〜75μmの範囲であった。電気浸透流を、電極間への電位の印加により毛細管の内側に生じさせる。電位は約1〜100Vの範囲内で選択した。流体の移動は、2つの容器がそれぞれ異なるイオン濃度、約5および約22mMのNa2HPO4を有する変位機構を用いて確認し、毛細管の中を通る電流をKeithley 2636A SourceMeterで監視した。
【0225】
結果
25μm毛細管では、流体の変位速度は5Vの電位で20μm/sであり、2Vで7μm/sであった。この値は標準的な電気泳動機構の速度に類似している。
【0226】
図3は、電気泳動システム100’’などの動電学的分離システム100’’の形態の動電学的流体システム100の一実施形態を概略的に示している。概略的に示したように、電気泳動システム100’’は、それぞれの容器12、12’内に配置された2つの電極10、10’を備える。さらに、流路14、たとえば毛細管が、2つの容器12、12’の間に通路として配置されており、この流路14により、電極10,10’の全体に電場をかけた際に固体粒子18、たとえば試料粒子または(分子などの)帯電種を容器12,12’の間で輸送できる。電場は、電極に接続された電場発生器16を用いて発生させる。流路14内で分析および輸送しようとする試料18の特性を検出するために、検出器20を流路14に配置できる。
【0227】
電気泳動システム100’’は帯電種、たとえばイオンまたは粒子を、印加した電場の影響下におけるその移動に基づいて分離するように構成されているが、種の分離のために印加された電圧が、流路14内に、電気浸透流、すなわち流体流をさらに生じさせることを理解すべきである。
【0228】
例3−低電圧での前記電極の動作
この例では、例2のシステムにおいて使用されたような電極が低電圧で動作することを示す。電極はπ共役ポリマー、すなわちPEDOT:PSSである。ポテンシオスタット(Metrohm製のμAutolab)に対してAg/AgCl参照電極およびPt対電極と一緒に接続され、三電極構成の作用電極としてのその性能を、Pt電極を作用電極として用いた同様の実験と比較する。
【0229】
図6は、20mM NaCl(aq)中での、白金(Pt、点線)およびPEDOT:PSS(実線)電極についてのサイクリックボルタモグラムの結果を示している。矢印は、PEDOTに関連した酸化および還元のピークを示している。−0.8V<E<1.2Vの場合、この実験ではPEDOT:PSS電極(実線)は常に電流を示すが、Pt電極は、ほとんど電流を示さないことに気付かれたい。Eは、Ag/AgCl参照電極に対して印加した電位である。
【0230】
図6の結果は、微小流体システム中で使用された際、1対のPEDOT:PSS電極は、低い印加電位(たとえば<1V)でもファラデー電流を通すことができるが、1対のPt電極は、約2V未満の電位(図6で示したように、Pt上の水の酸化ピークと還元ピーク間の電圧差)では非常にわずかな電流しか通さないことを証明している。
【0231】
例4−ポリピロール(PPy)を用いた電気浸透ポンプの例
例示的な電気浸透ポンプを、128×86×12mm(lwh)8ウェル(各ウェルは40×30×12mmである)型の2〜3cm幅のプラスチック皿中の2つの容器12、12’の間に、毛細管14、たとえば内径25μmのシリカ毛細管を設置することによって製造した。圧送は、30mm壁の間で行う。各ウェルは、液体電解質として、pH5.7の5〜20mM NaClを収容していた。PETフィルム上のPPy電極10、10’を、PPy電極の一部を電解質中に沈めることにより、それぞれの容器内に配置し、電場発生器16を用いて最大10Vの電位を電極間にかけた。毛細管の中を通って運ばれる電流は毛細管内部の電解質の濃度に比例するので、2つの容器12、12’に様々な濃度の塩溶液を入れることにより、本発明者らは、添加剤を使用せずとも、毛細管14の中を通る流量を変位によって間接的に測定できた。この技術による流速測定の詳細な説明については、例1の説明、またはElectrophoresis 2004, 25, 3687〜3693を参照されたい。
【0232】
透明性フィルム片上で気相重合を実施することにより、ポリピロール電極を作製した。150μlのメタノール中に溶解した58mgのFeCl3の酸化源を、50x50cmの粗面化した透明性フィルム片上にスピンコートした。乾燥したら、フィルムを、被覆面を下向きにして、ピロールモノマーを入れたオープンビーカー上にかけた。全ての構成要素をもう1つのビーカーに封入した。該モノマーが蒸発する際に重合が起こり、FeCl3酸化剤が透明性フィルム上に到達する。ビーカーを50℃まで加熱する一方で、窒素ガスを緩やかに流すことにより、10分未満で重合が起こる。次いでフィルムをエタノール/水で洗浄し、乾燥させてから、20x30mmの電極に切り分ける。最後に、ポリマー電極を機器に容易に接続するため、銀塗料を一方の縁部に塗布した。使用したPPy気相重合技術の詳細な説明については、Vapor Phase Polymerization of Pyrrole and Thiophene Using Iron (III) Sulfonates as Oxidizing Agents, Bjorn Winther-Jensen, Jun Chen, Keld West、およびGordon Wallace, Macromolecules, 2004, 37(16), 5930〜5935ページ(DOI:10.1021/ma049365khttp://pubs.Acs.org/doi/abs/10.1021/ma049365k)を参照されたい。
【0233】
内径が25μmである10mmの溶融シリカ毛細管によって接続された2つのウェル(40×30×12mm)のそれぞれに、10mlの5mM NaClと20mM NaClとを入れた(いずれの場合もpH5.7である)。各ウェルは、溶液中に一部が沈められた1つのPPy電極を含み、5mMウェル内の電極は、Kiethley 2636A SourceMeterの正端子に接続されており、20mMウェル内の電極は、その負端子に接続されている。SourceMeterは、本システムの中を通る電流を測定する一方で、あらかじめプログラムされた電位を印加するものである。
【0234】
結果
+10Vの電位を電極間にかけた場合、ポンプにより電解質が20mMウェルから5mMウェルまで移動し、毛細管を横切る36MΩの抵抗に対応する270nAの電流が生じた。−10Vの電位をかけた場合、ポンプにより電解質が5mMウェルから20mMウェルまで移動し、毛細管中の20mM電解質が変位して、120MΩの抵抗に対応する80nAの電流が生じた。流体の完全変位は約13分で起こり、変位中に運ばれた総電荷は約150μCであった。これは、10Vの電位での流体の変位速度12μm/sに対応する。
【0235】
例5−ポリアニリン(PANI)を用いる電気浸透ポンプの例
例示的な電気浸透ポンプを、128×86×12mm(lwh)8ウェル(各ウェルは40×30×12mmである)型の2〜3cm幅のプラスチック皿中の2つの容器12、12’の間に、毛細管14、たとえば内径が25μmであるシリカ毛細管を配置することによって製造した。圧送は、30mm壁を横後って起こる。各ウェルは、液体電解質として、pH5.7の5〜20mM NaClを含んでいた。PETフィルム上のPANI電極10、10’を、該PANI電極の一部を電解質中に沈めることにより、それぞれの容器内に配置し、電場発生器16を用いて最大10Vの電位を電極間にかけた。毛細管の中を通って運ばれる電流は、毛細管内部の電解質の濃度に比例するので、2つの容器12、12’に様々な濃度の塩溶液を入れることにより、本発明者らは、添加剤を使用せずに、毛細管14の中を通る流量を変位によって間接的に測定できた。さらなる詳細については、例1にある説明、またはElectrophoresis 2004, 25, 3687〜3693を参照されたい。
【0236】
ポリアニリン電極は、透明性フィルム片上にキシレン中ポリアニリンをドロップキャストして作製した。合計で400μlのキシレン中ポリアニリン(5重量%)を、60x25mmの粗面化した透明性フィルム片の上にドロップキャストした。乾燥したら、フィルムを水中で洗浄し、次いで、20mM NaCl中に、0.18重量%のポリスチレンスルホン酸と一緒に沈めた。フィルムを水中で洗浄し、窒素ガスの流れで乾燥させた後、15x5mm電極に切り分けた。最後に、ポリマー電極を機器に容易に接続するため、銀塗料を一方の縁部に塗布する。
【0237】
2つのウェル(40×30×12mm)に、10mlの5mM NaClおよび20mM NaCl(pH5.7)を入れる。これらのウェルは、内径が25μmである10mm溶融シリカ毛細管によって接続されている。各ウェルは、溶液中に一部が沈められた一個のPPy電極を含み、5mAウェル中の電極は、Kiethley 2636A SourceMeterのプラスに接続されており、20mMウェル中の電極は、マイナスに接続されている。SourceMeterは、電流を測定しながら様々な電位を印加するものである。
【0238】
結果
+10Vの電位を電極間にかけた場合、ポンプにより電解質が20mMウェルから5mMウェルまで移動し、毛細管を横切る100MΩの抵抗に対応する100nAの電流が生じた。−10Vの電位をかけた場合、ポンプにより電解質が5mMウェルから20mMウェルまで移動し、毛細管内の20mM電解質が変位し、300MΩの抵抗に対応する33nAの電流が生じた。流体の完全変位は約5分で起こり、変位中に移送された総電荷は約20μCであった。これは、10Vの電位での流体の変位速度37μm/sに対応する。5〜80Vの電位に対して計算した流速を、表1に示す。
【表2】
【0239】
例6−PEDOT:PSS電極を用いた誘電泳動焦点法と組み合わせたEOポンプの例
誘電泳動焦点法のための例示的なデバイスを、長さ30mm、幅20mm、厚さ0.7mmのパターン化PDMS20片と、長さ72mm、幅26mm、厚さ1mmの顕微鏡用スライド板21とを接着することによって製造した(図9を参照のこと)。孔、電極、流路およびデバイス全体の厚さは、見やすくするために、2倍に拡大していることに留意されたい。PDMSパターンは、2gの1:10ジメチルシロキサン/硬化剤(Sylgard184、Dow Corning Corporation)混合物を、25μm高SU−8パターンを有する直径100mmの石英ウェハに注入し、被覆したウェハを2時間、100℃のオーブンに置いておくことによる、ソフトリソグラフィーを用いて作製した。このSU−8パターンは、50μm×2000μmの孔(深さ25μm)を含んでおり、この結果、完成デバイス中にはPDMSの同様のサイズの「ピラー」が生じる。PDMSをシリカウェハから取り外し、所望のパターンを切り出し、5mm生検用穴あけ器(Miltex)を用いて、2つの孔22を4mm間隔で作りだした。1:10ジメチルシロキサン/硬化剤の薄膜を、2つの孔の間にある幅2mmで長さ3mmの小片23を除いた、PDMSのパターン化した側面に適用した。PDMS片および清潔な顕微鏡用スライド板を、1分間、0.1mBarにおいて、取外し可能型テープ(3M)で小片と孔を除いたPDMS片の全体を覆った状態で、空気プラズマ処理した(Deiner Electronic, Pico plasma cleaner)。プラズマ処理の直後にテープを取り外して、2つの細片を圧着させた。
【0240】
PEDOT:PSSを透明性フィルム上にドロップキャストすることにより、PEDOT電極を作製した。透明性フィルム(M3)を紙やすり(P240、平均粒径58μm)で粗面化し、2×5mm片または3×7mm片のいずれかの一対に切り分けた。その後、PEDOT:PSS(水中で1.2重量%、Sigma Aldrich)と1%ジエチレングリコール(Sigma Aldrich)との混合物を、2x5/3x7mm電極上に10μl/20μlでドロップキャストし、室温で一晩乾燥させた。各片の一端は、機器の接続を容易にするために、1mm片の銀塗料(Electrolube)で被覆した。電極の端部の未被覆領域の全てを切り離した。
【0241】
デバイスを顕微鏡(Carl Zeiss, Axiovert 200M)下に置いて、2個の2×5mm電極24を、小型のワニ口クリップによりKeithley 2636 SourceMeter16に接続し、PDMS孔23中に配置した。PDMS孔によって形成されたウェルに、0.02重量%の5μmポリスチレンミクロ粒子(Fluka)を含有した15μlの20mM NaClを入れ、パターン化した2x4mm片によって形成されたウェル間の流路に直接入れた。ウェルは、純粋な20mM NaClで平衡化して、圧力駆動の流れを流路中で減じさせた。測定中には、一定(DC)または湾曲状(段階的なAC)のいずれかを0〜200Vで印加しながら写真を撮影した。
【0242】
結果
DC電位をかけた場合、顕微鏡で観察した球体の移動は、プラズマ処理したPDMSとガラスとの間の流路の内側での電気浸透流を明確に示す。DC電位は、ウェル間で正確に圧送して圧力駆動の流れを減じさせるのに使用され、これにより、誘電泳動焦点法の観察が容易になった。
【0243】
図10Aは、4方向交差部を示しており、ここでは、(図11Bでズームアウトすると分かるように、)電極を収容したウェルが左右にある。電極間に電位をかけた場合、電場は、主には水平方向(左右方向)であり、垂直方向(上下方向)にわずかな差がある。誘電泳動の理論(たとえば、Pohl, H. A., 1978. Dielectrophoresis the behavior of neutral matter in nonuniform electric fields.Cambridge University Press. Cambridgeを参照されたい)によれば、電場中の絶縁性材料は極性化され、極性化された粒子は、電場に勾配がある場合、力を受けることになる。上下および左右の移動の間には電場勾配に差があるので、我々の絶縁性ポリスチレン粒子は、電場をかけた際、同じ場所に向かうはずである。しかしながら、我々が強いDCをかけた場合、我々は、電気浸透流のせいで全てを単純に圧送してしまうので、印加する電位はAC状である必要がある。
【0244】
この測定では、本発明者らは、64段階の近似を用いて、Kiethley 2636 SourceMeterによって発生させた「湾曲波」にして、約70Hzの周期的な周波数を得た。顕微鏡カメラ(Carl Zeiss, AxioCam HRc)をPCに接続し、5秒または10秒ごとに手動で撮影した。PDMSのパターンは、左右方向26において50×2000μmの矩形であり、これらの間には50μm幅の流路が延びていた(図10Bを参照されたい)。電位をかけなかった場合、5μmのポリスチレン粒子27が拡散して、圧力駆動の流れ(ウェルでの蒸発によって起こる)と共にゆっくりと動いた(図10Cを参照されたい)。AC電位をかけた場合、粒子は振動し、大抵は一対になっており、電場が最も小さいと思われる開放流路と垂直壁との交差部に向かって移動する際にもそうである(図10Dを参照されたい)。電位の除去後、粒子は、壁から離れて別の壁に向かうが、AC信号を再びかけることによって再捕捉できる。微小流体システム中の特定位置にポリスチレン粒子を捕捉する能力により(この場合は垂直壁)、これらの電極を誘電泳動焦点法のために使用できることが証明される。
【発明の概要】
【0001】
技術分野
本発明は、第1および第2の電極(10、10’)を具備するたとえばラボオンチップシステム(200)における液体流を制御するための動電流体システム(100、100’、100’’)と、このような電極を具備する動電流体システムとに関する。動電流体システムは、バイオテクノロジー、分析化学などでの用途のための微小流体システムにおける、液体流および/または粒子流を制御するように構成されている。
【0002】
発明の背景
微小流体ラボオンチップ(LOC)システムは、大規模な化学/生物学研究室を携帯型診断ツールに取り換えて、精巧な診断技術を患者の家庭および第三世界の国々へともたらすことによって、医療産業を根本から変え始めている。LOCシステムの、フェムトリットルからピコリットルまでの範囲内の体積の微小なサンプルを扱いかつ分析する能力と、数百の試料を同時に試験する能力は、創薬および遠隔医療などの領域に対して非常に大きな可能性を広げる。小さな、たとえばクレジットカードサイズ以下の内蔵式のLOCデバイスは、複雑な医学診断の実行を容易にすることが期待されている。
【0003】
精巧なLOCデバイスの1つの重要な部材は微小流体ポンプであり、これは液体サンプルを、分析を行うのに必要とされる種々のミキサ、セパレータ、リアクタおよび検出器の間で移動させる。製造が容易で小型の動電学的ポンプ、たとえば電気浸透(EO)ポンプは、LCOシステムにおける微小流体ポンプとしてのそれらの使用にとって有利である。
【0004】
しかしながら、動電学的ポンプは通常、電場が電解質にかけられたときの電解質中での電気化学的反応のせいで、気泡;たとえば水素ガス、酸素ガス、過酸化水素および/またはプロトン(酸)または水酸化物イオン(塩基)をポンプの電極に生じさせる。このような電気化学的反応は望ましくない。ガスは、生じた際、液体試料、たとえば水性試料と電極との間の電気的接続を迅速に破壊することがあり、これは動電学的ポンプ内での液体試料の可動性に影響を与える。さらに、生じる酸、塩基および/または過酸化水素は、調べようとする敏感な試料物質、たとえばタンパク質を妨害または破壊することがある。
【0005】
今日の動電学的ポンプに伴う課題は、電解質中で電場をかけてそれを維持するために使用される金属電極に起因する。電解質中の電場の維持には、電気化学的反応がポンプ電極の位置にある電解質中でまたはそれに接して起こって、電流が電子電荷キャリアからイオン電荷キャリアに効果的に変換されることまたはその逆が必要となる。これらの電気化学的プロセスではしばしば、電解質それ自体、たとえば水が消費され、電解質が水である場合にはH+、OH-、H2O2、H2ガスおよびO2ガスなどの電気化学的副生物が生じ、この副生物は、輸送または分離されている敏感な生物学的または化学的試料物質に対して有害になり得る。微小流体デバイスの具体的事例では、ポンプ電極でのH2またはO2ガスの生成は気泡を生み出すことがあり、この気泡により最終的には液体のポンプ電極への到達が妨害され、微小流体デバイスが使い物にならなくなる可能性がある。さらに、H+、OH-の形成は、ポンプ電極の位置での電解質のpHを変えることがあり、これは、調べようとする試料物質に影響を与え得る。さらに、電気化学的反応により、使用する試薬または分析物が消費されてしまう可能性があり、そうでない場合は、試薬または検体を使用する環境が乱される可能性がある。
【0006】
今日のLOCデバイス用の最新技術は、上述の課題を解決するための3つの代替案を提供する。
【0007】
提案される第1の解決策は外部ポンプを使用する。しかしながら、外部ポンプはしばしば、LOC自体よりかなり大きく、これにより、内蔵式のデバイスを不可能にする。
【0008】
提案される第2の解決法では、機械式内部ポンプ、たとえば電気機械式、気圧式、または水圧式ポンプが使用される。しかしながら、このような機械式内部ポンプはしばしば、製造に非常に費用がかかる。
【0009】
提案される第3の解決法によれば、電気浸透式内部ポンプが使用される。電気浸透式内部ポンプの利点は、該ポンプが可動部を有しておらず、したがって製造が容易であることである。
【0010】
残念ながら、先述したように、電気浸透式内部ポンプでは通常、ポンプ電極の電解質中で望ましくない副生物が生じ、これにより、LOCデバイスにおけるその応用が妨げられ、または試験しようとする試料に影響が与えられる。これらの望ましくない副生物が生じる副反応は、化学緩衝剤、たとえば所望のレベルにpHを保つ緩衝剤を、圧送しようとする溶液、試験、分離しようとする試料、またはキャリア電解質に加えることによって抑制できる。しかしながら、これらの化学物質は時折、調査または輸送している物質に干渉することがあり、したがって望ましいものではない。さらに、緩衝剤の使用は、デバイスの製造および動作のための追加のコストが伴う。
【0011】
あるいは、金属電極を囲む、体積が非常に大きい容器は、希釈によって副生物の影響を最小化できる。しかしながら、大体積容器のサイズおよびLOCデバイスに関するサイズ要件のせいで、この代替案は、微小流体LOCデバイスにおいては望ましくない。
【0012】
別の代替案では、酸化および溶液中への溶解が可能な金属(たとえばAgなど)が、片方または両方の電極に使用される。この金属は、正極で酸化されてカチオンとして溶液中に放出され、ポンプ内の流体によって負極まで輸送されて、そこで再び還元される。このタイプのシステムに伴う難題は、生物学的試料およびタンパク質のAgカチオンに対する敏感性である。たとえば、Agカチオンはしばしば、細菌または生細胞に対して有毒である。
【0013】
US2007/0009366A1として公開されたMyersらに属する米国出願US11/168,779には、電極のうち少なくとも1つの周りにシースを設けることにより気泡形成の課題を解消する電気浸透ポンプが記載されている。シースは、イオンを通すように構成されており、電極で生じた気泡の通過を抑制し、生じた気泡をシースの内側で収集する。さらに、ガスの圧力がシース内部で高まった際、気泡は電気浸透ポンプから排出される。
【0014】
Sandia Corporationに属する米国特許US6,287,440 B1では、電解質の電気化学的分解によって気泡が形成され、これにより、動電学的ポンプの中を通る電流の流れが遮断されることによって起こる動電学的ポンプの故障をなくすための方法および装置が開示されている。US6,287,440 B1で開示されている方法および装置では、電極は、該ポンプの加圧領域から離して配置され、その結果、電極で生じたガスは、気泡が電流の流れを中断し得る該ポンプの高圧領域にではなく、より大きな緩衝液貯蔵容器に流出することができる。
【0015】
US2005/0189225 A1として公開されたLiuらに属する米国出願US11/102,063には、電気分解および気泡形成を阻止するために気泡を含まない電極を有した、電気浸透流圧送手段を備える微小流体システムが記載されている。気泡を含まない電極は、固定化ポリマーを担持したチューブを備え、その中を通って流体が通過するのを阻止しながら複数のポンプ流路間に電圧をかけるための手段と、微小流体流路の中または近傍での電気分解および気泡形成を回避するための手段とを提供する。
【0016】
これらのタイプの動電学的ポンプの欠点は、該ポンプがより大きなフットプリントを必要とすることが多いため、小型デバイスに含めることが困難なことである。さらに、必要とされる複雑な幾何形状といくつかの異なる材料の使用により、その製造が複雑になる。さらなる欠点は、圧送中の電極で生じる気泡、ならびに加水分解によって起こるpHの変動である。
【0017】
本発明は、従来技術の動電学的流体システムの欠点を克服することと、微小流体ラボオンチップ(LOC)システムに適した動電学的流体システムを提供することとを目的とする。
【0018】
発明の概要
本発明は、電気化学的に活性な導電性材料を電極材料として使用することにより、従来技術のシステムの欠点を克服する。これにより、電解質(たとえば水)の酸化または還元をほとんど防止し、それにより副生物の生成も防止して、このような動電学的流体システムをLOC用途に理想的に適したものにする動電学的流体システム、たとえば電気浸透圧送システムなどの動電学的圧送システム、またはたとえば電気泳動システムなどの動電学的分離システムが提供される。動電学的システムの実験室規模または工業規模の用途にも、本発明は有益なものとなり得る。
【0019】
電気化学、たとえば酸化または還元を電解質中ではなく静止電極材料それ自体の上に起こすことにより上述した望ましくない電気化学的副生物は最小化または排除され得る。
【0020】
本発明のいくつかの利点は、電極での望ましくない電気化学的副生物が最小化または排除されることと、所望のレベルにpHを保つために緩衝剤または他の化学的添加剤を電解質または試料に加える必要性が少なくなり(またはなくなり)、それにより、試験しようとする試料を害するリスクを最小にすることと、本発明の動電学的流体システムを製造するのが簡単なこととである。電解質中のpHを保つことは、たとえば生物学的試料および溶液などのpHの変動に敏感な試料にとって重要である。電解質中で安定レベルにpHを保つのを可能にするためには、電解質は電気分解によって消費されるべきではない。本発明のシステムにより、必要な電気化学的反応が電極上でもその内部でも起こることが可能になる。
【0021】
したがって、本発明の1つの目的は、液体流を制御するための動電学的流体システム(100、100’、100’’)であって、それぞれの容器(12、12’)内に配置された第1および第2の電極(10、10’)(前記電極は、ポリマーをベースにしたまたは酸化物をベースにした、導電性の電気化学的に活性な電極材料を含み、前記電極材料は前記動電学的流体システム(100)において使用されている際に電気化学的反応を受けるように適応されている)と、さらに、前記2つの容器間の通路として配置された流路(14)であって、2つの容器(12、12’)間の電解質(13、13’)の流れを可能にする流路とを具備することを特徴とする、動電学的流体システム(100、100’、100’’)を提供することである。
【0022】
さらなる実施形態では、液体流を制御するための動電学的流体システム(100)は、該電極材料が前記電極(10,10’)の表面に少なくとも配置されており,前記表面は、該電極(10,10’)が前記動電学的流体システム(100)において使用されている際に、電解質(13,13’)に面していることを特徴とする。
【0023】
さらに他の実施形態では、本発明による動電学的流体システム(100)は、導電性の電気化学的に活性な電極材料が、少なくとも1つの還元−酸化状態において電気を導電し、電気化学的に切り替えが可能であり、分解することなく、電解質(13,13’)に毒性物質を放出しないことを特徴とする。
【0024】
本発明による動電学的流体システム(100)は、導電性の電気化学的に活性な電極材料が、π共役ポリマーの群から選択されることを特徴とする。
【0025】
さらなる実施形態は、導電性の電気化学的に活性な電極材料が、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリ(p−フェニレンスルフィド)、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリインドール、ポリピレン、ポリカルバゾール、ポリアズレン、ポリアゼピン、ポリフルオレン、ポリナフタレンおよびポリイソチアナフタレンからなる群より選択されるπ共役ポリマーのいずれか、そのコポリマー、またはその混合物を含むことを特徴とする、本発明による動電学的流体システム(100)である。
【0026】
さらなる実施形態は、導電性の電気化学的に活性な電極材料が、金属酸化物、たとえば酸化バナジウムまたは酸化タングステンを含むことを特徴とする、本発明による動電学的流体システム(100)である。
【0027】
さらなる実施形態は、前記流路(14)が電解質(13、13’)の流れを可能にする少なくとも1つの毛細管である本発明による動電学的流体システム(100)である。
【0028】
さらなる実施形態は、前記流路(14)が、電解質(13、13’)の流れを可能にする、固体もしくは半固体材料の多孔質材料、または膜である本発明による動電学的流体システム(100)である。
【0029】
膜は、2つの相の間の隔壁として働く材料の層であり、駆動力の作用に曝されたときにも特定の粒子、分子、または物質を透過しないままである。いくつかの成分は、膜により浸透液流中に通過していくことができる一方、他の成分は膜により保持され、残液流中に集積する[1]。
【0030】
膜は、種々の厚さの均一または不均一な構造にすることができる。膜は、それらの細孔の直径に従って分類することもできる。IUPACによれば、3つの異なる種類の細孔サイズの分類があり、ミクロ多孔質(dp<2nm)、メソ多孔質(2nm<dp<50nm)およびマクロ多孔質(dp>50nm)である[2]。膜は中性でも帯電していてもよく、粒子の輸送は能動的でも受動的でもよい。後者は、膜プロセスの圧力、濃度、化学的または電気的勾配によって促進できる。膜は一般には3つの群に分類でき、無機膜、ポリマー膜または生体膜である。これら3つの種類の膜は、その構造および機能性が大幅に異なる[3]。
【0031】
さらなる実施形態は、前記流路が、ガラスたとえば酸化ケイ素、ポリアニオンたとえばポリ(スチレンスルフォナート)、またはポリカチオンたとえばプロトン化されたポリ−L−リシンから形成されている、本発明による動電学的流体システム(100)である。
【0032】
さらなる実施形態では、前記流路の壁は、塩の解離またはアルコール基の脱プロトン化によりしばしば帯電している。たとえば、酸化ケイ素に接したシラノールはしばしば脱プロトン化し、その表面には負に帯電した酸素原子が残る。ナトリウムポリ(スチレンスルフォナート)などのポリアニオンの塩が解離すると、その表面には固定したスルフォナートイオンが残る。もう1つの例では、適当なpH値においてポリ−L−リシンがプロトン化して、静的界面が実効正電荷を有するようになる。
【0033】
動電学的デバイスにおいて使用される電極は、容量が制限されており、これは、片方または両方の電極が、ほとんど完全にドープされた(酸化)または脱ドープされた(中性)際に「劣化する」であろうことを意味している。毛細管/多孔質材料の壁の電荷の符号を負から正に(またはその逆に)切り替えることにより、流れの方向は同じとしたまま、流れを駆動する電極の極性を逆転することが可能になる。このようにして、小さな電極は大量の流体を駆動でき、または継続的に動作できる。
【0034】
さらなる実施形態は、前記流路の壁が、ポリイミドと同様で帯電していないものであり、これは、電気浸透流の発生ではなく電気泳動による分離を所望する場合はとりわけ望ましい。
【0035】
さらなる実施形態では、前記流路の壁の電荷は、Plecisらの”Flow field effect transistors with polarisable interface for EOF tunable microfluidic separation devices”、Lab on a Chip,DOI:10.1039/b921808d、および特許US5092972-A、US5358616-A、WO0028315に記載されたように、電位によって制御され得る。
【0036】
さらなる実施形態では、前記流路は径が<200μmである。平行な流路、多孔質材料などを有するさらなる実施形態は、本明細書で示される。
【0037】
さらなる実施形態は、電場発生デバイス(16)をさらに含む本発明による動電学的流体システム(100)である。
【0038】
本発明のもう1つの目的は、動電学的流体システムにおいて液体流を制御するための方法であって、
a)それぞれの容器(12、12’)内に配置された第1および第2の電極(10、10’)に電場をかけること(前記電極はポリマーをベースにしたまたは酸化物をベースにした、導電性の電気化学的に活性な電極材料を含み、前記電極材料は前記動電学的流体システム(100)において使用されている際に電気化学的反応を受けるように適応されている)と、
b)前記電場を電場デバイス(16)を用いて制御して、電解質(13、13’)の流れを制御することを可能にすることと
を含む方法を提供することである。
【0039】
さらなる実施形態では、上記動電学的流体システムが本発明によるものである。
【0040】
さらなる実施形態では、該方法が前記電解質中の帯電種の流れを制御する工程をさらに含む。
【0041】
さらなる実施形態は、前記電解質中の非帯電種の流れを制御する工程をさらに含む、本発明による方法である。
【0042】
さらなる実施形態では、前記電解質(13、13’)中の帯電または非帯電分子の前記流れを、電場デバイス(16)を用いて前記電場を制御することによって制御し、電解質(13、13’)の流れを制御することを可能にする。
【0043】
本発明のさらに他の目的は、ここで提供される動電学的流体システムにおいて帯電または非帯電分子の流れを制御することを可能にする方法であって、
a)第1のまたは第2の容器(12、12’)内の電解質中(13、13’)中に帯電または非帯電分子を供給することと、
b)それぞれの容器(12、12’)内に配置された第1および第2の電極(10、10’)に電場をかけること(前記電極はポリマーをベースにしたまたは酸化物をベースにした、導電性の電気化学的に活性な電極材料を含み、前記電極材料は前記動電学的流体システム(100)において使用されている際に電気化学的反応を受けるように適応されており、前記導電性の電気化学的に活性な電極材料はπ共役ポリマーの群より選択される)と、
c)前記電場を電場デバイス(16)を用いて制御して、電解質(13、13’)の流れを制御することを可能にし、それにより前記電解質(13、13’)中の帯電または非帯電分子の流れを制御することを可能にすることと
を含む方法を提供することである。
【0044】
特定の事例では、生じた電場は、上記システムにおいて流れを駆動または制御するのに使用されるだけでなく、混合物中の種をその実効電荷と移動度とに基づいて分離するのにも使用される。
【0045】
ここで使用する限りにおいて、移動度とは、電場の単位ごとの電荷1個当たりの速度を意味することを意図している。すなわち、移動度が固定された分子の電荷を2倍にすると、該分子は2倍の速さで移動する(電場が一定であると仮定する)。
【0046】
種の実効電荷は、前記種が有する総電荷である。これは、正(+)もしくは負(−)、または0、すなわち中性のいずれかの電荷であり得る。さらに、実効電荷は、2以上の単位元でもよい(たとえば、実効電荷が2のCa2+)。帯電した分子などの種の実効電荷は、電場中で種がどのように移動するかに影響を与える。
【0047】
さらに、形状およびサイズは、どのように種が移動するかに影響する。かさ高い分子、たとえば分枝糖分子または大きなタンパク質は、帯電している場合としていない場合では異なる移動をする。さらに、小さな実効電荷は、小さな電場がかさ高くて大きな種を顕著に輸送するのを十分に可能にしない可能性がある。したがって、サイズ、分枝および実効電荷のすべてが種の輸送に影響を与える。
【0048】
さらに、その実効電荷が0であるとき、種は(たとえば外部電場または双性イオンが起因して)不均一に分布することがあり、この場合、種は極性化すると言われており、このことは、電場に影響された際に分子が極性化できる場合には、電場における前記種の輸送にも影響し得る。
【0049】
したがって、電場において様々な種を含むより複雑なシステムでは、それぞれの種はしばしば、その種に固有の速度で移動するので、互いを分離するのが可能になる。
【0050】
さらに、本特許に記載された電気浸透ポンプによって生じるようなEOFは、種を駆動して静止相または固定相、たとえばビーズ、モノリスなどを充填したカラムを有する分離媒体の中を通すのに使用でき、この結果、複数の種をその相対的な移動度および電荷ではなく、その固定相との相互作用に基づいて分離できる。
【0051】
本発明のさらに他の目的は、ここで提供される動電学的流体システムにおいて帯電および/または非帯電種の混合物の流れを制御することと該混合物の分離を制御することとを可能にする方法であって、
a)第1のまたは第2の容器(12、12’)中の電解質(13、13’)中に帯電または非帯電分子の混合物を供給することと、
b)それぞれの容器(12、12’)内に配置された第1および第2の電極(10、10’)に電場をかけること(前記電極はポリマーをベースにしたまたは酸化物をベースにした、導電性の電気化学的に活性な電極材料を含み、前記電極材料は前記動電学的流体システム(100)において使用されている際に電気化学的反応を受けるように適応されている)と、
c)電場デバイス(16)を用いて前記電場を制御し、電解質(13、13’)の流れを制御することを可能にし、それにより前記電解質(13、13’)中の帯電または非帯電分子の流れを制御することを可能にし、それにより帯電および/または非帯電種の混合物の分離を可能にすることと
を含む方法を提供することである。
【0052】
本発明のさらなる目的は、本発明による動電学的流体システム(100)を含む、液体流を制御するための微小流体ラボオンチップシステム(200)を提供することである。
【0053】
本発明のさらに他の目的は、本発明による動電学的流体システム(100)を含む、帯電または非帯電種の流れを制御するための微小流体ラボオンチップシステム(200)を提供することである。
【0054】
本発明のさらなる目的は、ラボオンチップシステム(200)における本発明による動電学的流体システム(100)の使用を提供することである。
【0055】
さらに他の目的は、ラボオンチップシステム(200)において液体流を制御するための、本発明による動電学的流体システム(100)の使用を提供することである。
【0056】
さらなる目的は、ラボオンチップシステム(200)において1種以上の帯電または非帯電種の流れを制御するための、本発明による動電学的流体システム(100)の使用を提供することである。
【0057】
さらなる目的は、請求項1〜12のいずれかに記載の動電学的流体システム(100)、および任意のその使用のための説明書を含むキットを提供することである。
【0058】
本発明の実施形態を添付の図面を参照しながら説明する。ここでは:
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1A】図1は、本発明の電極(10、10’)の一実施形態を概略的に示している。図1Aは側面図を示している。(電気化学的に活性すなわち導電性でありかつ切り替えが可能な)電極(10)は、一端において、基板(12)、たとえばPETフィルム、すなわち一実施形態では透明/OHフィルムの上面に配置されている。電極は、導電性材料、たとえば銀をベースにした導電性塗料の電気接点(17)で覆われている。
【図1B】図1は、本発明の電極(10、10’)の一実施形態を概略的に示している。図1Bは平面図を示している。(電気化学的に活性すなわち導電性でありかつ切り替えが可能な)電極(10)は、一端において、基板(12)、たとえばPETフィルム、すなわち一実施形態では透明/OHフィルムの上面に配置されている。電極は、導電性材料、たとえば銀をベースにした導電性塗料の電気接点(17)で覆われている。
【図2A】図2は、それぞれの容器(12、12’)内に配置された第1および第2の電極(10、10’)を備え、流路(14)の中を通る電解質(13、13’)の流れを制御することが電位(16)により可能になっている動電学的流体システム(100、100’)の2つの実施形態を概略的に示しており、図Aでは一実施形態を示している。
【図2B】図2は、それぞれの容器(12、12’)内に配置された第1および第2の電極(10、10’)を備え、流路(14)の中を通る電解質(13、13’)の流れを制御することが電位(16)により可能になっている動電学的流体システム(100、100’)の2つの実施形態を概略的に示しており、図Bでは他の実施形態を示している。
【図3】図3は、動電学的流体システム100、たとえば本発明による動電学的分離システム100’’の一実施形態を概略的に示している。動電学的システムは、2つの電極10、10’を備える。アノード10およびカソード10’は、電位発生デバイス16に接続されている。動電学的システム100は、第1および第2の容器、それぞれ12、12’と、第1の容器12と第2の容器12’との間に通路を形成した少なくとも1つの毛細管要素14とをさらに含む。第1のおよび第2の容器12、12’は、電解質13、13’を含む。図示したように、上記電位デバイス16を用いて電位がかけられた際、電解質13中に含まれている分離しようとする試料は、第1の容器12から毛細管要素14の中を通って第2の容器12’まで輸送される。
【図4】図4は、本発明による動電学的流体システム(100)を備える微小流体ラボオンチップ(LOC)システム200の一実施形態を概略的に示している。図4Aは、図2および図3における容器に対応する基板(12)材料、たとえば顕微鏡用ガラス製スライド板の平面図を示している。基板材料は、一面が基板に面したパターン化構造体、たとえばパターン化カバー層(19)でカバーされている。パターン化構造体(19)および基板(12)により、流路および容器のシステムが創出される。一実施形態では、パターン化カバー層(19)はたとえば、ソフトリソグラフィーなどにより作製したPDMS(ポリジメチルシロキサン)(ソフトリソグラフィーによりパターン化されたポリジメチルシロキサン)から作製できる。電極(10、10’)は、パターン化カバー層(19)と基板(12)との間に形成された、パターン化された孔/空洞/空間にはめ込まれている。さらに、パターン化カバー層と基板との中間に、流路(14)も形成されている。さらに、この流路を側面図4Cにおいて可視化している。
【図5A】図5は、結果を、図5Aでは絶対(Abs)電流(アンペア)として、図5Bでは抵抗(オーム)として、図5Cでは電位(ボルト)として示している。
【図5B】図5は、結果を、図5Aでは絶対(Abs)電流(アンペア)として、図5Bでは抵抗(オーム)として、図5Cでは電位(ボルト)として示している。
【図5C】図5は、結果を、図5Aでは絶対(Abs)電流(アンペア)として、図5Bでは抵抗(オーム)として、図5Cでは電位(ボルト)として示している。
【図6】図6は、20mM NaCl(ag)中のプラチナ(Pt、点線)電極およびPEDOT:PSS(実線)電極についてのサイクリックボルタモグラムの結果を示している。矢印は、PEDOTに関連した酸化および還元のピークを示す。Eは、Ag/AgCl電極に対しての印加電位である。
【図7】図7は、長さ10mm−内径25μmの毛細管を有する2つの別々のポンプでの2Vから160Vの電圧範囲にわたる流量測定の結果を示している。
【図8】図8は、4μAの定電流で動作した2つの異なるポンプのpH測定の結果を示している。Pt電極を有したポンプは、2〜4mCの電荷が輸送された時点ですでに、アノードおよびカソードの両方で顕著なpHの変化を示す。10mCの電荷の輸送後には、PEDOTをベースにしたポンプは、約0.1pH単位のpHの変化しか示さない。この実験でのPEDOT電極の容量は10mCであったので、この後、このポリマー電極はPt電極と同様の挙動を示す(pHの変化が増大する)。白の三角はコントロールであり、白丸はアノードのプラチナであり、白の四角はカソードのプラチナであり、黒丸はアノードのPEDOTであり、黒の四角はカソードのPEDOTである。エラーバーは、測定したデータの2つの標準偏差を示している。
【図9】図9は、ガラス製スライド板21上に設置されたPDMSシート20に形成された毛細管のアレイにより接続しているウェル22と22’の中に設置されたπ共役ポリマー電極24、24’と組み合わせた、電気浸透ポンプ/誘電泳動システム300の概略を示している。電場源16を使用して直流電流(DC)または交流電流(AC)信号を供給することによりデバイスを動作させると、ウェルおよび毛細管中に含まれる流体中の粒子の流れおよび/または誘電泳動操作が起こる。
【図10(1)】図10Aは、図10BのPDMSシートに形成された流路の拡大図を示している。図10Bは、図9に示した微小流体デバイスの拡大図を示している。
【図10(2)】図10Cおよび図Dは、動作中の図9のデバイスの写真を示している。図10Cでは、小さなDC電場により、小さな球状粒子28が、PDMSピラー26間の流路25を通って流れる。図10Cおよび図Dは、動作中の図9のデバイスの写真を示している。AC電場がかけられた際、ポリスチレン球体は、流れ領域25中で、長方形構造体26の端部の近くに集合して凝集する。図10Dを参照のこと。
【0060】
発明の詳細な説明
定義
ここで使用する限りにおいて、「電気浸透」とは、電場がかけられた際の、毛細管、毛細管のシステム、多孔質プラグ、膜または別の微小流路の内側での液体の移動を指す。
【0061】
さらに、ここで使用する限りにおいて、「電気泳動」とは、固体粒子を懸濁した媒体に対してかけられた電場の影響下における、毛細管、毛細管のシステム、多孔質プラグまたは別の微小流路の内側の固体粒子の移動を指す。
【0062】
さらに、ここで使用する限りにおいて、「電気浸透流」または「EOF」とは、毛細管、毛細管のシステム、多孔質プラグ、膜または別の微小流路を横切ってかけられた電場によって誘起される液体の移動を指す。
【0063】
ここで使用する限りにおいて、「電気化学的に活性な材料」とは、電解質と接触している場合に電気化学的反応における成分の一部を含むことが可能で、それ自体に向かってまたはそれ自体から電流が流れることを可能にする材料材料を指す。このような電気化学的に活性な材料の例としては、導電性ポリマー(後で説明する)、炭素および特定の金属酸化物、たとえば二酸化マンガン(MnO2)および酸化タングステン(WO3)が挙げられる。前記電気化学的に活性な材料は電気化学的に酸化または還元させることができ、すなわち、その酸化状態は電気化学的反応によって変化し得る。
【0064】
ここで使用する限りにおいて、「液体」とは、気体と一緒で流動する能力を有した、物質の3つの古典的状態のうちの1つを意味することを意図している。気体と同様に、液体は流動して容器の形状をとることができるが、固体と同様に、圧縮に対して抵抗する。気体とは異なり、液体は分散しても容器の空間全てを満たすことはなく、ほぼ一定の密度を維持する。液体は流体である。固体とは異なり、液体中の分子は、移動の自由度が遥かに大きい。固体において分子同士を結びつけている力は、液体においては一時的なものにしかならないので、固体は剛性のままであるが、液体は流動することができる。
【0065】
ここで使用する限りにおいて、本発明のシステム、方法および使用に関連して用いられる用語電解質という用語は、好ましくは、電解質中でのイオン伝導を可能にする、すなわち、イオン性物質、たとえば塩、酸、塩基などの解離を可能にする液体に基づくものとすべきである。液体および/またはイオン性物質は、求核剤に寄与し得る。本発明のシステムと組み合わせて用いることが可能な電解質は、イオン種の解離を補助することによりイオンの伝導を可能にする溶媒中にある塩、酸、塩基、または他のイオン放出剤の溶液/液体である。それが必要とされる用途において、電解質は、緩衝溶液、たとえば、生きた有機体または生体分子、たとえばタンパク質と一緒にするのに適した緩衝溶液を含んでいてもよい。このような生きた有機体または生体分子とともに使用するのに適した緩衝剤の例としては、NaHPO4および酢酸ナトリウムが挙げられる。考えられる電解質の他の非限定的な例としては、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、NaCl、Na2SO、HCl、H3PO4、HaSO4、KCl、RbNO3、NH4OH、CsOH、NaOH、KOH、H2O2の水溶液と;適切な塩、たとえば過塩素酸ナトリウムまたはナトリウムトリフルオロメチルスルフォナートおよび第三級アンモニウム塩、たとえばテトラブチルアンモニウムクロリドと組み合わせたリンガー溶液、有機溶媒、たとえばアセトニトリル、ピリジン、DMSO、DMF、ジクロロメタンなどと;これらの溶媒/液体中で解離する塩と組み合わせた無機溶媒、たとえば超臨界CO2、液体SO2、液体NH3などと、自己解離(auto-dissociation)を示し、それにより水、ギ酸および酢酸などのイオン種の形成をもたらす溶媒/液体とを挙げることができる。また、用語電解質は、帯電した生物学的に活性な分子または高分子、たとえば帯電したアミノ酸、DNA、DNAフラグメントおよびプラスミド、タンパク質、ビタミン、ペプチドまたはホルモンを含む溶液も包含する。また、電解質は、細胞培養媒体またはその成分、たとえばタンパク質、アミノ酸、ビタミン、および成長因子も含み得る。
【0066】
また、用語電解質は、乳化した種などの帯電した凝集粒子、または、いくつかの追加帯電種で覆われた種を含む溶液も包含し得る。このような電解質の例としては、牛乳、尿および血液が挙げられる。
【0067】
ここで使用する限りにおいて、「微小流体工学」とは、小規模、典型的にはミリメートル未満の規模に幾何学的に限定される流体の挙動、正確な制御および操作を扱うものである。
【0068】
「微小流体デバイス」とは、ミリメートル未満の規模の流路、または細孔を採用したデバイスのことである。これは、少量の流体(たとえばLOC技術)と共に使用できるであろう。そうでなければ、所望の物理的現象がこのような短い距離の規模でしか適用できないからである(たとえば電気浸透ポンプにおいて生じる電気浸透流)。
【0069】
ここで使用する限りにおいて、「ラボオンチップ」または「LOC」とは、わずか数平方ミリメートルから数平方センチメートルの大きさの単一チップ上に1つまたは複数の実験室機能を組み込んだデバイスを意味することを意図している。LOCは、ピコリットル未満にまで及ぶ、きわめて小さな流体の体積の操作を扱うものである。ラボオンチップデバイスは、MEMSデバイス(微小電気機械システム、MEMS)のサブセットであり、しばしば「微小総合分析システム」(μTAS)とも呼ばれる。「微小流体工学とは、機械的な流量制御用デバイスたとえばポンプおよび弁またはセンサーたとえば流量計および粘度計をも指す、上位概念用語である。しかしながら、「ラボオンチップ」とは通常、チップフォーマットにまで及ぶ、単一または複数の実験室プロセスのスケーリングを全般的に表し、一方で「μTAS」は、化学的分析を実施するための一連の実験室プロセスのすべてを統合することに専用のものである。用語「ラボオンチップ」は、μTAS技術を分析目的のみよりも広範に応用できるようになった後で導入された。
【0070】
ここで使用する限りにおいて、用語「半固体材料」は、それが使用される温度において、固体と液体との中間の剛性および粘度を有する材料を意味することを意図している。したがって、該材料は、流動または漏出しないのに十分なほど剛性である。
【0071】
ここで使用する限りにおいて、「種」とは、イオン、帯電したもしくは帯電していない分子、または、ここで例示したもしくは当技術で知られている任意の粒子もしくは生物学的試料、たとえばタンパク質、DNA、RNA、ミクロRNA、インターロイキン、ホルモン、シグナル伝達物質たとえば神経伝達物質、ホルモンおよびイオンなどを意味することを意図している。さらなる例は、ここに挙げられる。
【0072】
ここで使用する限りにおいて、用語「細胞」は、細胞研究の対象となり得る全ての種類の動物細胞または植物の細胞を包含することを意味している。
【0073】
本発明と共に使用することができる細胞の種類の非限定的な例としては、核を有する細胞である真核細胞、および核のない細胞である原核細胞が挙げられる。
【0074】
真核細胞の非限定的な例としては、幹細胞および神経細胞、免疫系由来の細胞、上皮細胞、および内皮細胞が挙げられる。原核細胞の非限定的な例としては、様々な種類の細菌が挙げられる。細胞研究の当業者ならば、すぐさま、本開示とともに使用できる様々な細胞をいくつも挙げることができるであろう。
【0075】
本発明に有用な細胞の細胞サイズは、典型的には1μm〜1mmの範囲にあり、たとえば、径が10〜500μmの範囲内、または、10〜100μmもしくは10〜50μmの範囲内でもよい。また、対象となり得る細胞のうち一部の種類は、困難が伴うであろう。
【0076】
さらに、細胞群も包含されている。本開示においてこの用語が使用される限りにおいて、2個の細胞から数百万個の細胞までに及ぶ隣接した多数の細胞を意味する。典型的には、細胞群は、約2〜1000000個の細胞、たとえば約100000〜1000000個の細胞を含み得る。細胞群の一具体例は、切片たとえば外植片、または、本開示によるデバイスを使用する研究の対象になるであろう臓器または神経細胞に由来の組織の切片の小さな一部を含むであろう。細胞研究の当業者ならば、本開示によるデバイスを使用する研究の対象となり得る、他の種類の細胞群を容易に挙げることができるであろう。
【0077】
本発明は種々の変更ならびに代替の方法、装置およびシステムを包含するが、本発明の実施形態を図面に示しており、以下で詳細に説明する。しかしながら、具体的な説明および図面は、開示した具体的な形態に特許を取ろうとする発明の範囲を限定することは意図していないことを理解すべきである。それどころか、特許を取ろうとする発明の範囲は、添付の特許請求の範囲に示した本発明の精神および範囲内から等価物の全範囲にまでに属する変更およびその代替の構成の全てを含むことを意図している。図面では、同じ参照番号を、同じまたは類似の特徴を示すのに使用している。
【0078】
たとえば、本発明の一目的は、液体流を制御するための動電学的流体システム(100、100’、100’’)であって、
a)それぞれの容器(12、12’)内に配置された第1および第2の電極(10、10’)(前記電極はポリマーをベースにしたまたは酸化物をベースにした、導電性の電気化学的に活性な電極材料を含み、前記電極材料は前記動電学的流体システム(100)において使用されている際に電気化学的反応を受けるように適応されており、該導電性の電気化学的に活性な電極材料がπ共役ポリマーの群より選択される)と、
b)前記2つの容器間の通路として配置された流路(14)であって、前記2つの容器(12、12’)間の電解質(13、13’)の流れを可能にする流路と
を具備することを特徴とする動電学的流体システムを提供することである。
【0079】
通路として配置される前記流路は、2つの容器を接続する任意の種類の流路、たとえば1つ以上のトンネルまたは孔状の、1つ以上の流路または1つ以上の管でもよい。さらなる例は、管状または流路状の形態もしくは領域であり得るまたはそうでなくてもよい、1つ以上の毛細管要素または任意の多孔質材料である。流路は短くてもよいしまたは長くてもよい。短い形態では、流路はむしろ孔または膜であるが、電解質(13、13’)などの液体の流れを十分に可能にするものである。
【0080】
本発明による動電学的流体システム(100、100’、100’’)は、該電極材料が前記電極(10,10’)の表面に少なくとも配置されるようにさらに構成されてもよく、該表面は、該電極(10,10’)が前記動電学的流体システム(100)において使用されている際に、電解質(13,13’)に面している。
【0081】
本発明による動電学的流体システム(100、100’、100’’)は導電性の電気化学的に活性な電極材料が、少なくとも1つの還元−酸化状態において電気を導電し、電気化学的に切り替えが可能であり、分解することなく、化学的または生物学的試料を変質または損傷させ得るであろう毒性物質または他の物質を電解質(13,13’)に放出しないことをさらに特徴としていてもよい。
【0082】
毒性物質は、その毒性によって評価される。毒性とは、物質がそれに曝された有機体に損傷を与え得る度合いである。毒性とは、動物、真正細菌、または植物などの全ての有機体に対する影響、および細胞(細胞毒性)または臓器(臓器毒性)、たとえば肝臓(肝毒性)などの有機体の部分構造に対する影響を指し得る。毒物学の中心的概念は、影響が用量に依存することである。水でさえも、十分に多い用量で摂取した場合には水中毒を起こすことがあり、一方で、ヘビ毒または金属イオン、たとえば銅などの毒性物質であっても、それ未満では毒作用を検出できないという用量がある。一般には3種類の毒性の実体:化学的なものと、生物学的なものと、物理的なものとがある。化学的なものとしては、鉛、水銀、アスベスト、フッ化水素酸、および塩素ガスなどの無機物質、メチルアルコール、ほとんどの薬剤などの有機化合物、ならびに生物由来の毒物が挙げられる。
【0083】
化学物質の毒性は、標的(有機体、臓器、組織または細胞)に対する影響によって評価できる。各個体は通常、同じ用量の毒素に対する応答のレベルが異なるので、個体群中の或る個体についての結果の蓋然性に関連した、個体群レベルでの毒性の測定値がしばしば用いられる。このような測定値の1つがLD50である。このようなデータが存在しない場合は、公知な同様の毒物、または、同様の有機体中における同様の暴露と比較して推定する。
【0084】
たとえば、本発明のシステム(100、100’、100’’)は、毒性物質または化学物質が電解質中に放出されないシステムである。毒性はまた、細胞をベースにした系または細胞を含まない系、たとえば細胞培養物または溶解した細胞系において評価してもよく、ここで、毒性物質は、たとえば酵素の活性、細胞代謝、細胞成長および増殖、細胞生存などに影響または妨害を与え得る。
【0085】
たとえば、本発明の前記システムにより、本発明のシステムにおける「安全な」環境が可能になる。生物学的試料は、pH、イオンおよび金属たとえば溶液中の金属イオンの変化に対して非常に敏感であるが、本発明のシステムによると電解質が消費されないので、pHが安定した気泡のない環境が可能になる。
【0086】
本発明による動電学的流体システム(100、100’、100’’)は、導電性の電気化学的に活性な電極材料がπ共役ポリマーの群より選択されることを特徴とする。
【0087】
適切な導電性ポリマーの例はπ共役ポリマーである。たとえば、導電性の電気化学的に活性な電極材料は、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリ(p−フェニレンスルフィド)、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリインドール、ポリピレン、ポリカルバゾール、ポリアズレン、ポリアゼピン、ポリフルオレン、ポリナフタレンおよびポリイソチアナフタレンからなる群より選択される導電性の電気化学的に活性な電極材料のいずれか、そのコポリマー、またはその混合物を含んでいてもよい。
【0088】
したがって、さらなる実施形態では、本発明による動電学的流体システム(100、100’、100’’)は、導電性の電気化学的に活性な電極材料がポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリ(p−フェニレンスルフィド)、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリインドール、ポリピレン、ポリカルバゾール、ポリアズレン、ポリアゼピン、ポリフルオレン、ポリナフタレンおよびポリイソチアナフタレンのいずれか、そのコポリマー、またはその混合物を含むことを特徴とする。
【0089】
混合物またはブレンドの一例では、電極は、PEDOT:PSSと略記するポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリ(スチレンスルフォナート)とのブレンドを含む。
【0090】
π共役ポリマーで金属電極を被覆するまたはπ共役ポリマー自体を電極として使用することにより、電極での電気化学的反応をほとんどのあらゆる電位において誘起することができ、圧送が非常に低電圧で開始され得る。たとえば、Pt電極を使用し、かつ水の電気分解によりファラデー反応が起きた場合、顕著な圧送が起こる前に少なくとも1.2(おそらくは2〜3)Vを供給する必要があると思われ、その理由は、これらの電位未満では電気分解が起きないためである。しかしながら、たとえば(溶液からキャストしたように)部分的にドープされた状態で出発したπ共役ポリマー、たとえばPEDOT:PSSなどをPtの代わりにまたはPtの上面の上で用いた場合、該ポリマーは、mV電位でも酸化または還元され始める。言い換えると、電気化学的反応(したがって流れ)を、溶媒での電気分解を実施するために必要とされる電位より低い電位で駆動することができる。これは、バッテリー、または、たとえばコンピュータのUSBポートもしくは携帯電話によって5Vを供給することにより駆動され得る携帯型の微小流体デバイスにとって特に有用である。
【0091】
さらに、ここで説明するシステムは、たとえば毛細管の全体にわたる高電圧(数百ボルト)において使用してもよく、100V/cm以上の電場を誘起して、流体を400μm/s以上の速度で効果的に輸送できるようにすることができる。したがって、ここで説明する本発明のシステムは、高電圧すなわち100ボルト超と、低電圧すなわち2ボルト以下との両方で作動する。
【0092】
また、導電性の電気化学的に活性な電極材料は金属酸化物を含んでいてもよい。例としては、たとえば酸化バナジウムまたは酸化タングステンである。
【0093】
さらなる実施形態では、本発明による動電学的流体システム(100、100’、100’’)は、導電性の電気化学的に活性な電極材料が金属酸化物、たとえば酸化バナジウムまたは酸化タングステンを含むことを特徴とする。
【0094】
本発明による流体システム(100、100’、100’’)は、流路(14)を備える。前記流路(14)は、電解質(13、13’)の流れを可能にする少なくとも1つの毛細管要素でもよい。少なくとも1つとは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90またはさらには100個の毛細管要素、たとえば100、200、300、400、500、600、700、800、900またはさらには1000個の一まとまりの毛細管要素を意味する。
【0095】
前記流路(14)は、図10に示したようなポリスチレンビーズの誘電泳動による操作を用いたデバイスを明示するのに使用される毛細管のネットワーク、たとえば図9に示されているものでもよい。
【0096】
前記流路(14)は、シリカビーズなどの粒子を充填したフリットガラス、ポリマーモノリス、膜、または容器などの多孔質材料でもよい。多孔質材料はビーズまたは類似の構造でもよい。多孔質材料は、そのサイズにより数種類に分類される。IUPAC表記法(J. Rouquerolら(1994)”Recommendations for the characterization of porous solids (Technical Report)” Pure&Appl. Chem66:1739-1758、http://www.iupac.org/publications/pac/66/8/1739/pdf/を参照されたい)によれば、ミクロ多孔質材料は2nm未満の細孔径を有し、マクロ多孔質材料は50nm超の細孔径を有する。メソ多孔質材料とは、2〜50nmの径を有する細孔を含んだ材料である。
【0097】
たとえば、前記多孔質材料は、ミクロ多孔質材料またはマクロ多孔質材料でもよい。さらに、前記多孔質材料はメソ多孔質材料でもよい。
【0098】
さらに、前記流路(14)は、電解質液体(13、13’)の流れを可能にする、固体または半固体物質の多孔質材料でもよい。
【0099】
前記流路(14)は、たとえば流路の形態または膜の形態にある、任意の適当なマトリックス材料、たとえば紙、織布または多孔質ポリマーによって形成されてもよい。
【0100】
適切な電解質は当分野では公知であるし、ここでさらに例示される。それにはいわゆるイオン液体も含まれ、これは、本質的にイオンのみを含んだ液体である。これらの例は、第四級アンモニウム塩、ホスホニウム塩、1,3−ジアルキルイミダゾリウムまたは1−アルキルピリジニウムハライドとトリハロゲノアルミナートとの混合物、EMIM EtOSO3(1−エチル−3−メチルイミダゾリウムエチルサルファート)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラートに溶解したLiCIO4である。
【0101】
前記流路は、プロトン化されたポリ−L−リシンなどのポリカチオン、または、スルフォナート基を含むポリマー、たとえばポリ(スチレンスルフォナート)などのポリアニオンから形成されてもよい。
【0102】
さらに、前記流路の壁は帯電していてもよく、大抵は、塩の解離またはアルコール基の脱プロトン化によって帯電する。たとえば、酸化ケイ素上のシラノールは、しばしば脱プロトン化し、その表面には負に帯電した酸素原子が残る。ナトリウムポリ(スチレンスルフォナート)などのポリアニオンの塩が解離すると、その表面には不動性のスルフォナートイオンが残る。別の例としては、適当なpH値でのポリ−L−リシンのプロトン化により、静止界面が実効正電荷を有するようになる。
【0103】
さらに、前記流路は、径が約≦200μmでもよく、たとえば径が200、150、100、75、50、25、10、5、2、1μm、またはさらには900、800、700、600、500、400、300、200,100、50、25,10、5、2、1nmなどでもよい。
【0104】
さらに、本発明による動電学的流体システム(100、100’、100’’)は、電位/電場発生デバイス(16)をさらに含んでいてもよい。
【0105】
電位/電場発生デバイス(16)の例は、電圧または電流を本発明のシステムに供給するようなバッテリー、ソースメジャーユニット、または他の電源である。前記電源は、たとえばバッテリーとしてLOCシステム基板に直接取り付けることができるし、または、導電性の接点を介して接続された別個のシステムの一部、たとえば電源にもなり得る。
【0106】
本発明のシステム、キットおよび方法において印加される電圧の大きさおよび極性は、いくつかの要因、たとえば電極材料、輸送しようとするイオン、イオンを輸送する距離、所望の輸送速度などの選択に応じて変動するであろう。印加する電圧の極性は、当業者ならば、EOFを駆動させるのにまたは電気泳動により分離させるのに使用するイオンの電荷の種類(正または負)を考慮して、容易に選択するであろう。所望の速度もしくは量の流体を輸送するまたは分離を最適化するために印加する電圧の大きさは、本発明に照らして容易に決定できる。
【0107】
その流路を含む本システムに印加する電圧は、たとえば、約0.01Vから約100Vまでの範囲内にあり得る。したがって、電極間に印加する最適な電圧は、流路、使用する電解質、輸送しようとする電解質および電圧を電極に印加する方法といった特徴に依存するであろう。
【0108】
しかしながら、電圧は、好ましくは0.01から100Vまでの範囲にあり、より好ましくは0.01Vから20Vまでの範囲にある。
【0109】
本発明のシステムにおいて得られる非常に望ましい予想外のさらなる効果の一つは、π共役ポリマーを使用した場合、前記システムにおける圧送は、原則としていかなる電圧でも、たとえば非常に低い電圧でも開始され得ることである。低電圧は、生物学的試料にとって、ならびにバッテリー、太陽電池および他の低電圧電源によって給電されるデバイス、特に小型の携帯式デバイスにとって有益である。
【0110】
図2は、本発明による動電学的流体システム(100)の一実施形態を概略的に図示している。
【0111】
図2に図示したように、動電学的流体システム(100、100’、100’’)は、ここで、容器(12、12’)内として、それぞれの基板上に配置された第1および第2の電極(10、10’)と、電場(16)とを具備し、流路(14)の中を通る電解質(13、13’)の流れを制御することを可能にする。
【0112】
前記基板は、図2では容器として示されており、図1では電極を差し込むための単なる基板として示されており、OHフィルム、たとえば、PETフィルム/透明フィルムなどの透明OHフィルムから作製され得る。
【0113】
図1では、電極は、一端において、導電性材料、たとえば一実施形態では導電性の銀製塗料製の電気接点(17)で覆われている。
【0114】
電極は、導電性の電気化学的に活性な材料、たとえば導電性ポリマーもしくは導電性の金属酸化物、またはその組み合わせ、たとえば複合体またはコポリマーを含み得る。導電性ポリマーの例はここで示されているものである。さらに、「厚い」すなわち250nm以上の厚さの層の材料も金属製、たとえばAu(金)製の電極上に、たとえばポリマーが金属を覆っていて加水分解がそこで起きない限りは、同様に配置できる。好ましくは、少なくとも電極の最も外側の層/表面、すなわち、動作中に電解質と接触する層/表面は、導電性の電気化学的に活性な材料から本質的になっているべきである。
【0115】
2種以上の材料の組合せを使用することも、材料のうち少なくとも1つが電気伝導性で、材料のうち少なくとも1つがイオンを伝導できる場合には可能である。本発明によるシステムにおいて使用できるこのような組み合わせの例としては、インジウムスズ酸化物などの導電性材料と、イオン伝導性ヒドロゲルとが挙げられる。
【0116】
また、電極は有機または無機材料をさらに含んでいてもよく、これらはイオンを伝導できるが電子を伝導することはできないものであり、これらの材料は、イオンの電極中への輸送およびその内部での輸送を容易にするために含められる。このような材料の非限定的な例は、ヒドロゲルおよびポリ電解質などのポリマー材料である。このようなさらなる電極材料は、導電性の電極材料中に分散させてもよいし、これに接触する別の層として配置してもよい。
【0117】
本発明によるシステムの電極は、好ましくは、電気化学的に活性な材料を含む。前記電極材料は有機材料でもよい。前記有機材料はポリマーでもよく、導電性ポリマーでもよい。
【0118】
本発明のシステムにおいて使用するのに適した導電性ポリマーは、J C Gustafssonら、Solid State Ionics,69,145-152(1994)と;Handbook of Oligo- and Polythiophenes,Ch10.8,(D Fichou,Wiley-VCH,Weinhem編)(1999)と、P Schottlandら、Macromolecules, 33, 7051-7061(2000)と、M Onoda、Journal of the Electrochemical Society,141,338-341(1994)と、M Chandrasekar, Conducting Polymers, Fundamentals and Applications, a Practical Approach, Kluwer Academic Publishers, Boston(1999)と、A J Epsteinら、Macromol Chem, Macromol Symp, 5 1,217-234(1991)とによって説明されているように、好ましくは、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリ(p−フェニレンスルフィド)、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリインドール、ポリピレン、ポリカルバゾール、ポリアズレン、ポリアゼピン、ポリフルオレン、ポリナフタレンおよびポリイソチアナフタレンからなる群、そのコポリマー、またはその混合物より選択される。
【0119】
さらなる実施形態では、導電性ポリマーは、3,4−ジアルコキシチオフェンのポリマーまたはコポリマーであり、ここで、前記2つのアルコキシ基は、同じものでもよいしもしくは異なるものでもよく、または、任意に置換されたオキシ−アルキレン−オキシ架橋を共に表してもよい。上記ポリマーは、ポリ(3,4−メチレンイオキシチオフェン)、ポリ(3,4−メチレンジオキシチオフェン)誘導体、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)誘導体、ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)誘導体、ポリ(3,4−ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ブチレンジオキシチオフェン)誘導体、および、これらによるコポリマーからなる群より選択される3,4−ジアルコキシチオフェンのポリマーまたはコポリマーであり得る。
【0120】
上記システムの一実施形態では、前記導電性ポリマーは、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)である。電極は、ポリ電解質化合物、たとえばポリ(スチレンスルホン酸)またはその塩をさらに含んでいてもよい。本発明のデバイスの電極において使用される材料の一例は、ポリ(スチレンスルフォナート)ポリアニオンを含むポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)である(下記ではPEDOT:PSSと表記する)。一実施形態では、電極は、固体基板上に堆積したPEDOT:PSSの薄膜の形態で存在する。
【0121】
本発明のデバイスの電極は、ヒドロゲルをさらに含んでいてもよい。ヒドロゲルは、好ましくは、ポリアクリラートたとえばポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリラート)およびポリ(アクリルアミド)、ポリ電解質たとえばポリ(スチレンスルホン酸)(PSS)およびポリ(アクリル酸)(PAA)、多糖類たとえばアガロース、キトサンおよびデキストラン、ゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシドならびにポリエチレングリコールからなる群より選択されるポリマーをベースにしている。
【0122】
さらに、電極は、固体基板上に堆積したPEDOT:PSSの薄膜、および前記PEDOT:PSS層上に堆積したキトサンの薄膜の形態で存在していてもよい。他の材料の組合せを使用することもできる。
【0123】
電極材料は、少なくとも1つの還元−酸化状態において電気を導電し、2つ以上の酸化還元状態の間で電気化学的に切り替えが可能であり、通常はたとえば酸化された材料および中性材料のブレンドであり、分解することなく、毒性物質を電解質に放出しないものでありうる。さらに、ブレンドの場合、酸化された材料および中性材料の濃度は、電気化学的反応が起きた際に変化し得る。さらなる実施形態では、材料はその中性状態では非導電性のものであり、たとえばポリ(3−ヘキシルチオフェン)である。
【0124】
この説明においては、電気化学的に切り替えが可能とは、電極材料が、電気化学的システムにおいて、他方の電極および/または電解質に対する電極に印加する電位を切り替えることによって、酸化状態を変化させることが可能であるものであることを意味している。この材料は、電解質のカチオンまたはアニオンを取り込みまたは放出し、それ自体は分解することなくおよび/または毒性物質もしくは試料の輸送を通常なら妨害するであろう物質を放出することなく、電解質中で電場を発生または維持することが可能でなければならない。
【0125】
この材料は、種々の酸化状態で堆積され得る。その後、この状態は、材料の堆積後の酸化還元反応または電気化学的反応によって変更され得る。
【0126】
この材料は、可逆的な電気化学的反応を受けることができ、その結果、アノードをカソードにすることまたはその逆を行うことを、電極間にかけられた電位の極性を逆転させることによって簡単にできるようになり得る。さらに、片方または両方の電極に、不可逆的反応を起こし、その結果、デバイスは逆転されないようにすることができる。
【0127】
適切な導電性金属酸化物の例は、酸化バナジウムおよび酸化タングステンである。
【0128】
導電性の電気化学的に活性な材料、たとえばPEDOT:PSSは、たとえばインクジェット、スクリーン、または他の印刷技術を使用して基板上に容易に被覆または印刷でき、それにより電極が形成される。導電性の電気化学的に活性な材料が金属酸化物である場合、他の従来方法、たとえばゾル−ゲルプロセス、物理的蒸着(PVD)または化学的蒸着(CVD)を用いて、該材料を基板に適用することもできるであろう。基板はたとえば、ポリエチレンテレフタラート(PET)もしくはポリスチレンなどのプラスチックでもよいし、または、シリカや石英などのガラスでもよい。
【0129】
しかしながら、電極の全体を、導電性の電気化学的に活性な材料から、または、たとえば積層体もしくは複合材料の形態にある導電性の電気化学的に活性な材料の組合せから製造できるであろうことを理解すべきである。
【0130】
導電性の電気化学的に活性な材料、たとえばPEDOT:PSSを動電学的流体システムにおける電極材料として使用することにより、還元−酸化反応中における電解質のpHに対する影響は、金属を電極材料とした動電学的流体システムに比べて最小化される。したがって、PEDOT:PSSを含む電極を使用することにより、電解質のpHは還元−酸化反応において同様、すなわち一定またはほぼ一定に維持されるであろう。
【0131】
さらに、電極材料としてのPEDOT:PSSは、緩衝剤の消耗、すなわちpH消費を制限し、動電学的流体システムの内側に気泡が形成されるリスクを低下させるであろう。さらに、PEDOT:PSSにおいて還元−酸化反応を補償するイオンの会合は非特異的であり、電極は、LOCにおいて今日使用されているあらゆる電解質中で使用できる。
【0132】
さらに、電極は、容器の内面に嵌合するように構成されていてもよく、この内面に電極が、これらの間に任意の空間を空けてまたは空間を空けずに配置される。図2で概略的に図示したように、電極10,10’は、側壁と容器12,12’の底部との両方において内面と嵌合できるし、または、図3で示したように、基板容器と電極との間に短い距離があってもよい。この図は、実験室規模のキャピラリー電気泳動構成を図示している。
【0133】
しかしながら、電極は円柱状、立方体状、または球状など、他の形状を有することもできるであろうことと、さらには、電極の寸法、たとえば幅、長さ、および厚さは、特定の用途に応じる結果として変更できることとを理解すべきである。複数の電極を固体基板上の共通平面に配置していてもよい。いくつかの実施形態では、電極は、印刷または積層技術により前記基板上に堆積される。リソグラフィーやエッチングなどの従来の半導体加工法と組み合わせた印刷方法の使用により、電極を約1μmの分解能でパターン化することが可能になる。これにより、本発明のデバイスの小規模製造が可能になり、これは、たとえば、試料および調製物が非常にわずかな量しか入手できないことがある生化学的用途および細胞用途に有用である。
【0134】
さらなる実施形態では、電極の厚さは1mm未満である。厚さは、電極が配置された支持体に垂直な方向で測定する。
【0135】
さらに、提供されるシステムでは、電極のうち少なくとも1つが、生体適合性でもよい。用語生体適合性は、ここでは、細胞の培養がその上でまたはこれに密接結合した状態で可能な材料または表面を特徴付けるのに使用される。細胞の培養とは、前記細胞の付着、維持、成長および/または増殖を指す。生体適合性の表面を提供する本発明による電極材料の一例は、PEDOT:PSSである。電極の生体適合性により、電極上でのまたは電極と密接結合した状態での培養される細胞の細胞活性の研究が可能になる。
【0136】
細胞接触部位は、1種以上の物理的または化学的な閉込方法を用いて実現してもよい。細胞は、たとえば、デバイス表面上に配置された壁などにより、ここで説明したシステムの部分的な封止部における開口部により、または、システム表面の適切な化学的または物理的処理により閉じ込めることができる。
【0137】
細胞は、上記システムに容器を用いて保持されて、細胞が所望の電極と接触するように配置されうる。前記容器は、ガラスまたはポリマー材料から作製されるのが好ましいが、他の材料を使用することもできる。容器は、開放されていてもよいし、または部分的もしくは完全に封止されていてもよい。本発明の一実施形態では、前記システムは、多数の前記単一配置およびそれに関連した細胞接触部位を含み、本システムおよびそれに関連した細胞接触部位は、好ましくは、そのマトリックスシステムを作り出すように配置されており、ここでは、それぞれのシステムは、帯電または非帯電種、たとえば分子およびイオンを輸送するために個別に処理され得る。このようなマトリックスシステムが有用であろう用途の一例は、たとえば細胞培養および生化学的研究のために使用されるマイクロウェルプレートにおけるものである。このようなマトリックスシステムの管理は、パーソナルコンピュータにより好都合に取り扱うことができるであろう。
【0138】
本発明の装置またはシステム(100、100’、100’’)では、各システムおよびそれに関連した細胞接触部位は、それぞれ、単細胞と標的電解質または電解質供給源との間にイオン接触を生じさせるように配置されている。このような単細胞接触は、本発明のシステムの製作において達成できる小さな寸法によって可能にされる。したがって、本発明によれば、イオンまたは帯電もしくは非帯電種、たとえば分子およびイオンがそこにまたはそこから輸送される、単細胞またはさらには単細胞の特定部分を処理することができる。
【0139】
先述した通り、導電性の電気化学的に活性な材料を基板に適用して、電極を形成することができるであろう。このような実施形態では、導電性の電気化学的に活性な材料を適用した層は、特定の用途に適した範囲にある厚さを有し得る。電極が機能するであろう厚さの範囲に制限はない。
【0140】
図2は、本発明による動電学的流体システム100、たとえば動電学的圧送システム100’の一実施形態、たとえば電気浸透ポンプを略示している。動電学的システム100,100’は、2つの電極10、10’を備える。アノード10およびカソード10’は、電場発生デバイス16に接続されている。動電学的システム100は、第1の容器12および第2の容器12’、ならびに第1の容器12と第2の容器12’との間に通路を形成している少なくとも1つのダクトまたは流路または貫通孔14をさらに含む。第1のおよび第2の容器12、12’は、電解質13,13’、たとえば水性液体または有機液体またはその混合物を含む。図示したように、電場デバイス16を用いて電場をかけると、電解質13に含まれている金属カチオンM+、たとえばNa+は、第1の容器12から流路14を通って第2の容器12’まで輸送される。
【0141】
さらに、図2の実施形態を参照すると、印加された電場に起因して、電気化学的反応がアノード10とカソード10’とのそれぞれで起こる。アノード10では、電極材料はたとえば未ドープ状態のPEDOT:PSSでもよく、イオンM+が該電極材料から放出されるのと同時に、P+で示されるP型ドープ状態に変化する。さらに、カソード10’では、イオンM+が電極材料に入り、P型ドープ状態(たとえばP+)の電極材料PEDOT:PSSは、P0で示される未ドープ状態に変化する。これは、中性PEDOT(P0)の酸化PEDOT(P+)への酸化である。
【0142】
上記反応を例示すると、
P0+PSS:M+→P+:PSS+M++e-、および
P+:PSS+M++e-→P0+PSS:M+
である。
【0143】
PEDOT鎖は非常に長いので、何度も酸化され得る。PEDOTは、常に、部分的に(ほとんど完全に)ドープされた/酸化された状態で合成される。他の大部分のポリマーは、中性状態で生成する。これらは全て、使用の前にin−situで酸化/還元され得る。PEDOT:PSSブレンドの場合、PSSが常に存在し、それは常に負に帯電している。PEDOTがドープされている(正に帯電している)場合、それは、電荷を平衡させるための対イオンとしてPSSを使用する。PEDOTが中性である場合、PSSは、電荷を平衡させるために別のイオン(たとえばNa+)を必要とする。第2の反応は逆プロセスである(ドープされたPEDOTが中性のPEDOTに還元される)。
【0144】
P3HTなどの他の材料はPSSを有しておらず、そのために、正に帯電した(ドープされた)際に通常はアニオンを必要とすることに留意されたい。その一般的原理は同様である。
【0145】
適切な電極材料の重要な特徴の1つは、電極の還元−酸化状態における電気化学的な変化が電解質(たとえば水)の電気化学的に安定な電位窓内で起こることと、電極材料は電解質に放出されるのではなく電極内部に留まることとである。
【0146】
電気化学的に安定な電位窓は、ファラデー電流が通ることなく電極が溶液中で極性化し得る電位範囲として定義される。電解質−溶液系の電気化学的に安定な電位窓は、i)溶媒の性質、ii)塩の性質、iii)電極材料の性質、およびiv)汚染物質の存在に依存する。これは、その個々の成分に固有の電気化学的安定性に依存する。
【0147】
方法
本発明のさらなる目的は、動電学的流体システムにおいてたとえば電解質の液体流を制御するための方法であって、
a.それぞれの容器(12、12’)内に配置された第1および第2の電極(10、10’)に電極をかけること(前記電極はポリマーをベースにしたまたは酸化物をベースにした、導電性の電気化学的に活性な電極材料を含み、前記電極材料は前記動電学的流体システム(100、100’、100’’)において使用されている際に電気化学的反応を受けるように適応されている)と、
b.前記電場を電場デバイス(16)を用いて制御して、電解質(13、13’)の流れを制御することを可能にすることと
を含む方法を提供することである。
【0148】
さらに、上記動電学的流体システムは、当然ながら、本発明のあらゆる動電学的流体システムに従ったものである。
【0149】
さらに、前記方法は、前記電解質中の帯電種の流れを制御する工程を含んでいてもよい。前記流れの制御は、本発明のシステムを使用して実現される。
【0150】
上記方法は、前記液体電解質中の非帯電種の流れを制御する工程をさらに含んでいてもよいし、または、該方法において電解質は非帯電種を担持しながら流動する。
【0151】
前記電解質(13、13’)中の帯電および非帯電種の前記流れは、前記電場を電場デバイス(16)を用いて制御し、それにより、たとえば図2で説明したように、本発明によるシステムを使用して電解質(13、13’)の流れを制御することを可能にすることができうる。
【0152】
さらなる目的は、動電学的流体システムにおいて帯電および非帯電種の流れの制御を可能にする方法であって、
a.第1のまたは第2の容器(12、12’)において電解質(13、13’)上に帯電または非帯電種を供給することと、
b.それぞれの容器(12、12’)内に配置された第1および第2の電極(10、10’)に電極をかけること(前記電極はポリマーをベースにしたまたは酸化物をベースにした、導電性の電気化学的に活性な電極材料を含み、前記電極材料は前記動電学的流体システム(100、100’、100’’)において使用されている際に電気化学的反応を受けるように適応されている)と、
c.前記電場を電場デバイス(16)を用いて制御し、電解質(13、13’)の流れを制御することを可能にし、それにより前記電解質(13、13’)中の帯電または非帯電種の流れを制御することを可能にすることと
を含む方法を提供することである。
【0153】
帯電種の例は、一価および二価の金属カチオン、たとえばNa+、Ca2+およびK+、帯電したアニオン、たとえばCl-、F-、SO3-、帯電した生物学的な種、たとえばタンパク質、アミノ酸、ペプチドおよび核酸である。
【0154】
非帯電種の例としては、糖、脂肪、帯電していないペプチド、(特定のpHにおいて)実効電荷0のアミノ酸、および(特定のpHにおいて)実効電荷0のタンパク質、生物学的に興味深い種、たとえばホルモン(エストロゲン、プロゲステロンなど)が挙げられる。その質量に比して小さな電荷を有する大きな種であっても、その移動度は非常に低いので、動電学的システムにおいては非帯電種として挙動する。
【0155】
同様に、液体中に懸濁された帯電もしくは非帯電粒子(ミクロ粒子、ナノ粒子)、液滴、または気泡を輸送することができる。
【0156】
システム
さらなる目的は、本発明の任意の部分による動電学的流体システム(100、100’、100’’)を含む、気泡、細胞または粒子、たとえばナノ粒子、ナノチューブ、またはビーズを操作、輸送、および/または分離するためのLOC(200)などのシステム、または誘電泳動(DEP)システム(300)との組合せを提供することである。
【0157】
さらに、ここでのシステム(100、100’、100’’、200、300)は、収縮や膨張などの内寸の変化が起こる微小流体流路、またはPDMSもしくはガラスまたはその療法などの材料にパターン形成された、おそらくは(図10で示したような)ネットワークを形成しているアレイ状の柱やカラムなどの物体を含む微小流体流路も含み得る(たとえば、流路/ネットワークの壁と天井はPDMSである一方、床はガラスである)。流路/ネットワークが流体で満たされており、かつ、流路またはネットワーク(24、24’)の反対側の端部に設置された電極間に電場発生器(16)を用いて電位をかけることにより電場が生じた場合、EO流れの発生および制御が可能となり、流体中のたとえば粒子、ビーズ、気泡、細胞、ナノ粒子および/またはナノチューブのDEP操作が起こり得る(達成できる)。
【0158】
本デバイス内部の電場の勾配は、一部は電場発生デバイスで印加した電位により、一部は流体システム中の流路の相対的寸法(たとえば配列中の柱間の隙間)、または単一の流路を使用した場合には収縮もしくは膨張により調節することができる。勾配の調節により、DEP操作をより狭い範囲の粒子種(たとえば細胞ではなく気泡)または限られたサイズの粒子(たとえば、径が10μm超である全ての粒子)に対して集中できるようになる。したがって、流体システム内部の相対的寸法と供給した電場と、個別の用途に対して調節しなければならない。
【0159】
ラボオンチップシステム
さらなる目的は、本発明のいずれかによる動電学的流体システム(100、100’、100’’)を備える、液体流を制御するための微小流体ラボオンチップシステム(200)を提供することである。
【0160】
さらなる目的は、本発明の任意の部分による動電学的流体システム(100、100’、100’’)を備える、帯電または非帯電種の流れを制御するための微小流体ラボオンチップシステム(200)を提供することである。
【0161】
さらなる目的は、本発明の任意の部分による動電学的流体システム(100)を備える、気泡、細胞または粒子、たとえばナノ粒子、ナノチューブ、またはビーズを操作、輸送、および/または分離するための微小流体ラボオンチップシステム(200)を提供することである。
【0162】
使用
さらなる目的は、ラボオンチップシステム(LOC)(200)における、本発明の動電学的流体システム(100、100’、100’’)の使用を提供することである。
【0163】
さらなる目的は、ラボオンチップシステム(200)において液体流を制御するための、本発明による動電学的流体システム(100、100’、100’’)の使用を提供することである。
【0164】
さらなる目的は、ラボオンチップシステム(200)において帯電または非帯電種の流れを制御するための、本発明による動電学的流体システム(100、100’、100’’)の使用を提供することである。
【0165】
さらに、前記LOCシステムは、DEPシステムと組み合わせてもよい。
【0166】
さらに、本発明の前記システム(100、100’、100’’)は、ここでさらに説明されるようにDEPシステム(300)と組み合わせてもよい。
【0167】
したがって、本発明により提供されるのは、それにより帯電種(たとえばイオン)または非帯電種(たとえば糖分子)を生物学的アッセイまたはシステムにおいて輸送できるシステム、方法または本発明のシステムの使用である。たとえば、これらの種は、標的電極上または標的電解質において培養したまたはこれらに存在する原核細胞または真核細胞(組織を含む)への輸送体であってもよい。直接的または間接的作用によって、輸送される帯電種(たとえばイオン)または非帯電種は、前記細胞に影響を与え、その中に生物学的プロセスを誘起する場合がある。生物学的プロセスの例は、細胞内プロセス、たとえばリン酸化連鎖反応、増殖、成長、アポトーシス、癒着、上方制御と下方制御の両方における細胞表面マーカーの発現などに直接的に影響するまたは間接的に影響を与える細胞活性化または不活性化/阻害/遮断であり、これらはすべて、当技術知られているアッセイおよび方法を使用して評価できる。
【0168】
したがって、本発明は、細胞間情報伝達の研究に有用であり、ここでは、前記システムを、前記細胞の応答の評価を可能にするため、帯電または非帯電種を前記種の流れの制御を用いて細胞に送達するために利用できる。
【0169】
本発明のシステムを、いくつかの異なるイオン性または非帯電の刺激物を同時または連続的に使用して単細胞を刺激するのに使用することができる。さらなる実施形態では、このシステムを、前記単細胞の様々な部分を異なる刺激物、たとえば前記帯電(たとえばイオン性)または非帯電種によって刺激することを可能にする空間分解能で、単細胞(すなわち刺激物)を刺激するのに使用することができる。
【0170】
また、このシステムを、たとえば特定の条件下で細胞から排泄される分子種(たとえばイオン種)を分析するために、イオンや分子などの様々な種を反対方向に、すなわち細胞から輸送するのに使用することもできる。言い換えると、本発明によるシステムを、細胞まで種(たとえば帯電または非帯電種)を送達するための手段として、ならびに、細胞の応答を分析するための構成の一部として使用することができる。
【0171】
前記刺激物は、細胞プロセスを開始させることができるしまたは細胞プロセスを停止させることでき、または、阻害剤として作用することもできる。非限定的な例は、細胞膜中の電位作動性Ca2+流路を開放させることによって神経細胞に対する刺激物として作用し得るカリウムである。阻害剤の非限定的な例は、細胞膜中の電位作動性Ca2+流路を遮断し得るカドミウムでもよい。
【0172】
用語イオンは、また、電解液を特定のpHにすることにより帯電し得る分子種も包含する。これらの種を帯電させるのに必要なpHは、これらの種のpKaから計算してもよい。また用語イオンは、化学的に改質されると、たとえばそれに対してアニオンが付着することにより実効電荷が得られ得る種も包含する。
【0173】
また、用語イオンは、たとえば界面活性剤種による所与の分子の乳化により実効電荷を担持した凝集粒子も包含し得るものであり、これらのうちのいずれかは、電荷を担持していてもよい。さらに、被覆材は、実効凝集電荷が調整できるように帯電種および非帯電種を含んでいてもよい。
【0174】
このような被覆材の例としては、脂肪酸、ドデシルベンゼンスルフォナート、レシチン、およびセテアリールアルコールが挙げられる。
【0175】
本発明のシステムは、帯電種(たとえばイオン)および非帯電種の濃度勾配を生じさせるのに使用することができる。このような濃度勾配は、たとえば、生物学的分析用途、たとえば細胞シグナル伝達の研究に有用になり得る。細胞シグナル伝達の研究としては、たとえば、免疫系の細胞間の、神経細胞もしくは神経シナプスもしくは神経相互接続間の、または幹細胞もしくは免疫系における他の任意の細胞間のシグナル伝達、あるいは、組織細胞(同じ種類もしくは2つの異なる種類の細胞を含む)、正常細胞もしくは異常細胞、たとえば腫瘍細胞、もしくは、CNS(中枢神経系)、または脳、心臓、などに関した疾患に関与する他の任意の異常細胞が挙げられる。細胞シグナル伝達としては、細胞内シグナル伝達事象および細胞外シグナル伝達事象が挙げられれる。
【0176】
したがって、さらなる実施形態は、ラボオンチップシステム(200)において帯電または非帯電種の流れを制御するための、本発明による動電学的流体システム(100、100’、100’’)の使用であり、ここで、前記種は、幹細胞に影響を与えるシグナル物質である。幹細胞としては、単離した幹細胞または幹細胞株が挙げられる。例としては、神経幹細胞、胚幹細胞、成体幹細胞である。
【0177】
さらなる実施形態では、本発明による動電学的流体システム(100、100’、100’’)の使用は、ラボオンチップシステム(200)において帯電または非帯電種の流れを制御するためのものであり、ここで、前記種は神経細胞に影響を与えるシグナル物質である。
【0178】
さらに、前記細胞はヒト細胞でもよい。さらなる実施形態では、前記細胞のすべてはヒト細胞であり、ただし、ヒト胚幹細胞ではない。
【0179】
これらの細胞はさらに、齧歯類の細胞でもよく、たとえばラット、マウス、ヤギ、ウシ、イヌ、ネコなどの細胞でもよい。
【0180】
さらなる実施形態では、本発明による動電学的流体システム(100、100’、100’’)の使用は、ラボオンチップシステム(200)において帯電または非帯電種の流れを制御することを包含し、ここで、前記種は細胞内シグナル物質である。
【0181】
さらなる使用では、前記種は、細胞内シグナル伝達に影響を与えるシグナル物質である。
【0182】
本発明のシステムは、標的電極の近くでイオンまたは種の濃度を変動させるのに使用できる。このようなイオン濃度勾配の変動は自然のプロセスを模倣しており、たとえば、生体分析用途に対して有用なものとなり得る。
【0183】
さらに、本発明のシステムは、細胞間情報伝達の研究に有用になり得るものであり、ここで、細胞をたとえば、本システムを用いて細胞まで輸送した帯電種(たとえばイオン)および非帯電種によって刺激することができ、細胞応答を、本システムを用いて細胞から分泌させた帯電種(たとえばイオン)および非帯電種を輸送することにより、研究または利用することができる。
【0184】
さらに、本発明のシステムは、流体中における細胞、粒子、気泡または他の物質の誘電泳動(300)操作と一緒に使用してもよい。このようなデバイスは、たとえば、血液全体からの血液細胞の分離、流体からの粒子状汚染物質の除去、およびナノ粒子またはナノワイヤーの操作(誘電泳動フィールドフローフラクショネーション)に有用である。誘電泳動(またはDEP)とは、誘電粒子が不均一な電場を受けた際に該粒子に対して力が及ぼされる現象である(たとえば、Brian J. Kirby, Micro-and Nanoscale Fluid Mechanics:Transport in Microfluidic Devices,2009, chapter 17. 1,http://www.kirbyresearch.com/textbookを参照されたい)。この力には、粒子を帯電させる必要はない。すべての粒子は、電場の存在下では誘電泳動活動を示す。しかしながら、この力の強さは、媒体および粒子の電気特性、粒子の形状およびサイズ、ならびに電場の周波数に強く依存する。この結果、特定の周波数の電場により、高い選択性を有した粒子の操作が可能になる。これにより、たとえば、細胞の分離、または、ナノ粒子およびナノワイヤーの配向および操作が可能になっている。
【0185】
キット
さらなる目的は、本発明による動電学的流体システム(100)と、任意にその使用のための説明書とを含むキットを提供することである。
【0186】
ある実施形態では、キットは、たとえば、本発明による動電学的流体システム(100)を使用する手段、特定の試薬のために用いられる分析/アッセイまたは手段を開示している説明資料を含む。説明資料は、電子的な形態(たとえば、コンピュータ用フロッピー(登録商標)ディスクまたはコンパクトディスク)で記載されてもよく、または映像(たとえば動画ファイル)でもよい。また、このキットは、キットの設計の対象とされた特定用途を容易にするためにさらなる部材をさらに含んでいてもよい。したがって、たとえば、キットは、開示された特定の方法を実施するために常法により使用される緩衝液および他の試薬を含み得る。このようなキットおよび適当な内容物は、当業者には周知されている。
【0187】
さらに、このキットは、試薬を別々にパッケージ化した本発明による動電学的流体システム(100)を、少なくとも1回のアッセイのために十分な量でさらに含んでいてもよい。
【0188】
典型的には、パッケージ化した試薬の使用のための説明書も含まれる。このような説明書は、典型的には、試薬濃度および/または少なくとも1つのアッセイ法パラメーター(たとえば、混合しようとする試薬および試料の相対的な量、試薬/試料混合物の保持時間、温度、緩衝液条件など)を説明した有形の表現を含む。
【0189】
したがって、キットは、たとえば、特定のアッセイ、たとえば化学的アッセイシステムまたは生物学的アッセイシステムにおけるLOCシステムとしてのその使用に関する説明書をさらに含んでいてもよい。化学的または生物学的アッセイシステムの例は、単細胞分析,PCRである。
【0190】
さらに、キットは、本発明による方法におけるその使用のための説明書をさらに含んでいてもよい。
【0191】
幾つかのキットは、運搬手段、たとえば箱、カバン、胴乱、プラスチックカートン(たとえばプラスチック成形品または他の透明なパッケージ品)、包装(たとえば、封止済みまたは封止可能なプラスチック、紙、または金属製包装)、または他の容器を含んでいてもよい。
【0192】
いくつかの実施例では、キット部材は、箱や他の容器などの単一のパッケージ化単位に封入され、このパッケージ化単位は、1個以上のキットの部材をその中に配置できる区画を有していてもよい。他の例では、キットには、たとえば試験しようとする1種以上の生物学的または化学的試料を保持できる1種以上の容器、たとえばバイアル、チューブなどが含まれる。
【0193】
他のキットは、たとえば、注射器、綿棒、またはラテックスグローブを含んでいてもよく、これらは、生物学的または化学的試料を操作、収集および/または加工するのに有用であり得る。キットは、任意に、化学的または生物学的試料をある位置から別の位置(たとえば、点滴器、注射器などを含める)に移動させるのに有用な器具を含むこともできる。さらに別のキットの実施形態は、使用済みまたは不要になった物品(たとえば試料など)を廃棄するための処理手段を含み得る。このような処理手段は、廃棄材料(たとえば、プラスチック製や金属製などの不透過性のカバン、箱または容器)からの漏出物を内包できる容器を含むことができるが、これらに限定されない。
【0194】
さらなる一実施形態では、本発明のシステムおよび/または本発明のキットは、全てが有機物であり、すなわち、本システムおよびキット中に存在する全ての材料が有機物である。全てが有機物であるシステムの利点の1つは、再利用の前に分解が必要になることがある有機材料と無機材料との組み合わせを含むデバイスより容易に再利用できることである。
【0195】
微小流体システムにおいて電極に導電性の電気化学的に活性な材料を使用することの価値を証明するために、ガラス製毛細管の中を通る電気浸透流(EOF)を誘起するためのポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(スチレンスルフォナート)(PEDOT:PSS)電極を作製した。
【0196】
PEDOT:PSS電極は、酸化還元反応に電解質ではなく電極材料が関与するので、毛細管中の電場を維持するために必要とされる電気化学的反応中での、電解質のpHに対する影響が、従来の金属電極よりも小さい、たとえば、より小さな変化をもたらすことが分かる。電極材料が消費されると、反応には電解質しか関与し得ない。電解質と接触している場合、PEDOT:PSSが電子をイオンにする変換器として効果的に働くので、P型ドープ状態と未ドープ状態との間またはその逆の間におけるPEDOT:PSSの切り替えは、イオンがPEDOT:PSSポリマーから出て行くまたはこれに入ることによって相殺される。これにより、電解質(たとえば水)が遷移金属製電極上で加水分解した際に通常見受けられる加水分解、気泡および他の副生物の発生なしで、電気化学的反応が各電極で起こることが可能になる。電気化学的に活性な電極の使用により、生体分子、細胞および他のpHおよびレドックス感受性の種を、EOFデバイスで見受けられる均一な速度プロフィールを用いて制御して輸送することが可能なLOCデバイスの製作ができるようになる。
【0197】
動電学的流体システムの動作中には各電極で電気化学的反応が起こるので、電極材料は消費されることになる(アノードで完全にドープされる(酸化)またはカソードで完全にドープされる(中性))。したがって、動電学的流体システムは、一方向に無限には動作できない。ここで説明する電極の一実装では、本システムは、一度の使用のみを意図したものであり、電極の電気化学的反応の可逆性は問題とはならない。さらなる実装例では、酸化と還元とが繰り返し可能なPEDOT:PSSなどの材料を電極に使用することにより、電流は先ず一方向に駆動され、その後、電位が逆転された際に、もう一方の方向に駆動されるようにすることが可能になる。このようにプロセスを逆転させると、消費された電極は効果的に再生される。このプロセスは、循環方式にして数千回繰り返すことができる。
【0198】
しかしながら、片方または両方の電極が完全に消費された、すなわち、アノードまたはカソードのそれぞれにおいてP型ドープまたは脱ドープされた(未ドープ、すなわち中性状態まで完全に還元されている)場合、電極/電解質の界面で電解質(たとえば水)の加水分解が発生し、動電学的流体システムは、金属電極を有する従来の電気浸透ポンプまたは従来の電気泳動システムと同様にして動作を継続する。
【0199】
電解質中での電気化学的反応を回避するためには、電極が完全に消費されることがないように本発明の動電学的流体システムの設計および動作を行うことが重要である。これは、動電学的流体システム内部の流れの方向を定期的に逆転させることにより、または、輸送しようとする電解質の体積と濃度に比べて電極の寸法を過大にし、その結果、電極が消費されることがないようにすることによって達成できる。たとえば、1グラムのPEDOT:PSSから作製した各電極が所与の電解質濃度を有した所与のポンプ構成中で10mlの水が移動することによって消費されるならば、2グラム以上のPEDOT:PSSを各電極に用いれば、PEDOTが完全に消費されるのが阻止され、加水分解が阻止されるであろう。
【0200】
本発明はまた、本発明の電極を製造するための方法にも関する。
【0201】
一実施形態によれば、電極を製造するために一般化された方法は、
導電性の電気化学的に活性な電極材料を基板に適用する工程と、
場合により、導電性を高めて電極の状態を変化させるため、ドーパントを電極に添加する、または電極上に電気化学的反応を用いる工程と、
場合により、機器、たとえば電場発生機器への電気的接触を容易にするため、電気的接触強化用物質を電極表面の一部に添加する工程と
を含む。
【0202】
上記で明らかにした通り、π共役ポリマーは、本発明によるシステムの目的に適しており、ここでさらに説明している。
【0203】
基板は、ポンプまたは分離用デバイスを製造したのと同じ材料(たとえばプラスチックまたはガラスたとえば毛細管)でもよい。基板は、ポンプまたは分離用デバイス中に配置して使用される、ガラスやプラスチックなどの別個の材料でもよい。
【0204】
本発明によるシステムをその上に製作できる基板は、好ましくは、電気的およびイオン的に絶縁性であり、絶縁性酸化物(SiOx)もしくは窒化物層(Si3N)を含んだSiウェハ、ガラスウェハ(たとえばパイレックス(登録商標)ウェハ)、ガラス基板(たとえば顕微鏡用スライド板)、プラスチック基板(たとえば、ペトリ皿中で使用するPET、ポリスチレン)、およびセラミックスなどの剛性材料を含んでいてもよい。基板はまた、可撓性のものでもよく、たとえば、プラスチックフィルム、Orgacon(登録商標)フィルム(プラスチックと紙の両方)、または紙ベースの材料でもよい。
【0205】
また、本発明によるシステムは、支持体、たとえばポリマーフィルムまたは紙の上で容易に実現され得る点で特に有利である。したがって、従来の印刷技術、たとえばスクリーン印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷およびフレキソ印刷、または、コーティング技術、たとえばナイフコーティング、ドクターブレードコーティング、押出コーティングおよびカーテンコーティングを用いて様々な部材を支持体上に堆積でき、「Modern Coating and Drying Technology」(1992)、E D CohenおよびE B Gutoff編、VCH Publishers Inc, New York, NY, USAで説明されている。導電性ポリマー材料を電極および/またはイオン伝導流路(イオン流路)において利用する本発明の実施形態では、この材料はまた、液相または気相における電気重合、UV重合、熱重合および化学的重合などの方法により、in situ重合を経て堆積され得る。
【0206】
部材のパターン形成のためのこれらの添加技術に対する一代替として、機械式手段、たとえばスクラッチング、スコーリング(scoring)、スクラッピング(scraping)もしくはミリングにより、または当技術で公知の他の任意の減色法により、化学的またはガスエッチングによる材料の局所破壊などの減色技術を使用することも可能である。本発明の一側面は、ここで特定した材料からシステムを製造するためのこのようなプロセスを提供する。
【0207】
たとえば、前記システムの一実施形態では、前記電極および前記流路(14)は、ガラスなどの固体支持体に対して、またはポリマーフィルムや紙などの可撓性支持体に対して、直接または間接的に取り付けられている。
【0208】
前記デバイスの保護のために、本発明によるシステムを一部または全体を、好ましくはカプセル化してもよい。カプセル化により、たとえば液体、たとえば電解質が機能するのに必要となる任意の溶媒が保持され、また、本デバイス中での電気化学的反応を酸素が乱さない。カプセル化は、液相プロセスによって行うことができる。したがって、液相ポリマーまたは有機モノマーは、スプレーコーティング、ディップコーティング、または、上記で列挙した従来の印刷技術のいずれかのような方法を使用して、デバイス上に堆積できる。堆積後には、カプセル化剤はたとえば、紫外線もしくは赤外線照射、溶媒蒸発、冷却、または、エポキシ接着剤などの二成分系の使用によって硬化でき、ここで、成分は、堆積の前に直接混合される。別法として、カプセル化は、イオン輸送デバイス上への固体フィルムの積層によってなされる。本発明の好ましい実施形態では、本システムの部材は支持体上に配置されており、この支持体は底部カプセル化部として機能し得る。この場合、カプセル化は、シートの上面のみが、液相カプセル化剤で被覆されるか、または、固体フィルムを積層される必要があるという点で、より好都合になされる。
【0209】
また、本発明によるシステムは、フォトリソグラフィーやエッチングなどの従来の半導体プロセスを使用して製造することもできる。このような方法を使用した場合、電極材料は、好ましくは、任意の適切な堆積方法、たとえば印刷または積層法を使用して基板上に堆積してもよい。その後、電極材料を担持する基板は、従来のフォトレジスト/エッチング技術を用いてパターン形成してもよい。
【0210】
本発明によるシステムにはさらなる特徴があってもよく、これにより、本システムの使用が容易なものとなる。このような特徴としては、電圧源を前記システムの電極に接続するための端子、本システムを取扱いに対してより強固にし、かつ、液体電解質の蒸発または汚染を阻止するために本システムをカプセル化するための手段が挙げられる。
【0211】
前記システムの電極は、液体電解質を所望の電極上に直接堆積できるように配置することができる。
【0212】
本発明によるシステムは、電解質が所望の電極に接触するように配置された、本システムの電解質を保持するための手段をさらに含んでいてもよい。たとえば、一実施形態では、前記デバイスは、前記電解質を保持するための手段を備える。
【0213】
電解質は、1以上の物理的または化学的な閉込方法を用いて、前記システムの特定領域に閉じ込めてもよい。電解質はたとえば、本システムの表面に配置された壁などにより、ここで説明したシステムの部分的なカプセル化における開口部により、または、前記システム表面を適切な化学的または物理的に処理して、たとえばフッ化コーティングを用いて、表面を部分的に疎水性にすることにより閉じ込めてもよい。
【0214】
たとえば、電解質は、電解質が所望の電極に接触するように配置された容器を用いて本システム中に保持してもよい。前記容器はガラスまたはポリマー材料から作製してもよいが、他の材料を使用してもよい。容器は、開放されていてもよいし、または部分的または完全に封止されていてもよい。
【0215】
前記システム中の電解質を保持するための前記手段または容器では、前記容器の表面は生体適合性でもよい。
【0216】
本発明によるシステムは、電流の測定により、少なくとも1つの第1の電極から少なくとも1つの第2の電極(10、10’)まで輸送される種(たとえば帯電または非帯電分子)の量を測定するための手段をさらに備えていてもよい。
【0217】
一例によれば、PEDOT:PSS電極を製造するための方法は、
−5%ジエチレングリコール(Sigma−Aldrich)を、粗面化したOHフィルム基板上に含む100μlのPEDOT:PSS(H2Oにおける1.3wt%分散液、0.5%PEDOTと0.8%PSSとを有する、導電性グレード、Sigma−Aldrich)をドロップキャストする工程と、
−PEDOT:PSSを乾燥する工程と、
電解質と接触していないPEDOT:PSS電極の縁部に銀製塗料のストライプを添加して、機器、たとえば電場発生機器への電気的接触を容易にする工程とを含む。
【0218】
さらなる実施形態では、フィルムは、印刷技術(たとえばインクジェット印刷)、コーティング技術(スピンコーティング、ドクターブレード法など)、またはin−situでの(電気化学的または化学的な)重合を含めた数多くの方法のうちの1つにおいて加えてもよい。さらに、使用する接触ポリマー/金属酸化物に導電性材料を添加する必要は必ずしもないであろう。
【0219】
図4は、本発明による動電学的流体システム100を備える微小流体ラボオンチップ(LOC)システム200の一実施形態を概略的に示している。
【0220】
本発明を微小流体ラボオンチップデバイスに関連して説明してきたが、本発明の電極および本発明の動電学的流体システムは、たとえば実験室用途または大規模用途で使用できることが理解されるべきである。たとえば、本発明による動電学的流体システムは、実験室規模または工業規模の毛細管電気泳動分離システム、大規模な電気浸透ポンプにも使用できる。
【0221】
例
例1−PEDOT:PSSを備える電気浸透ポンプの例
例示的な電気浸透ポンプを、128×86×12mm(lwh)の8ウェル(各ウェルは40×30×12mmである)型の2〜3cm幅のプラスチック皿における2つの容器12、12’の間に、約25μm〜約75μmの内径を有する毛細管14(たとえばシリカ毛細管)を設置することによって製造した。ポンプは、30mmの壁を通り超えた先に位置する。各ウェルは液体電解質(pH9の5〜50mMのNaH2PO4)を含んでいた。PETフィルム上のPEDOT:PSS電極10、10’を、PEDOT:PSS電極の一部を電解質中に沈めることによって各容器内に配置し、電場発生器16を用いて最大10Vの電位を電極間に印加した。毛細管の中を通って運ばれる電流は毛細管内部の電解質の濃度に比例するので、これら2つの容器12、12’に様々な濃度の塩溶液を充填することにより、本発明者らは、添加剤を用いないでも、変位によって毛細管14の中を通る流量を間接的に測定できた。したがって、低濃度の電解質を最初に入れた毛細管に対してポンプの作用により高濃度電解質の充填が開始されると、該デバイスを通る測定された電流は、図5Aに示したように時間と共に増大する。同様に、(流れが逆転された際には)低濃度電解質による毛細管中の高濃度電解質の変位は電流の減少を起こす。その後、流速を抵抗曲線(図5Bに示している)の傾きから推測できる。流速を測定するために使用する技術のより詳細な説明については、Electrophoresis 2004, 25, 3687〜3693を参照されたい。
【0222】
2つのウェル(40×30×12mm)に、7mlの5mMおよび20mMのNa2HPO4 pH9を入れた。各ウェルを、内径25μmの10mm溶融シリカ毛細管に接続した。1本のPEDOT:PSS電極の一部を各ウェルの溶液に沈めて、Kiethley 2636A SourceMeterの+に5mAウェルの電極を接続し、−に20mMウェルの電極を接続した。電流を測定しながらSourceMeterにより様々な電位を印加する。
【0223】
結果
+5Vの電位を電極間に印加した際、ポンプにより電解質が25mMウェルから5mMウェルまで移動し、70MΩの毛細管の両端間の抵抗に対応する70nAの電流が生じた。−5Vの電位を印加した際、ポンプにより電解質が5mMウェルから25mMウェルまで移動し、毛細管体積中の25mM電解質が変位して、250MΩの抵抗に対応する20nAの電流が生じた。流体の完全変位は約8分で起こり、変位中に移送される総電荷は約20μCであった。+2Vと−2Vの電位の間で切り替えを行うと、流体の変位により電流が8.5nAから29nAの間で変動し、これは235MΩから68MΩの間の毛細管の抵抗に対応する。流体の変位速度は、5Vの電位では20μm/sであり、2Vの電位では7μm/sであった。Abs電流、抵抗および電位を示す図5A〜Cを参照されたい。
【0224】
例2−さらなる例示的な電気浸透ポンプ
イオン性溶液を入れた2つの容器を備え、各容器が、PEDOT:PSS電極を含んでおりかつこれらの容器間の通路として機能する溶融シリカ毛細管に接続されている電気浸透ポンプ。電極の一端を溶液に沈め、表面より上にある反対側端部を電場発生器に接続した。毛細管は約10mmの長さであり、内径が約25〜75μmの範囲であった。電気浸透流を、電極間への電位の印加により毛細管の内側に生じさせる。電位は約1〜100Vの範囲内で選択した。流体の移動は、2つの容器がそれぞれ異なるイオン濃度、約5および約22mMのNa2HPO4を有する変位機構を用いて確認し、毛細管の中を通る電流をKeithley 2636A SourceMeterで監視した。
【0225】
結果
25μm毛細管では、流体の変位速度は5Vの電位で20μm/sであり、2Vで7μm/sであった。この値は標準的な電気泳動機構の速度に類似している。
【0226】
図3は、電気泳動システム100’’などの動電学的分離システム100’’の形態の動電学的流体システム100の一実施形態を概略的に示している。概略的に示したように、電気泳動システム100’’は、それぞれの容器12、12’内に配置された2つの電極10、10’を備える。さらに、流路14、たとえば毛細管が、2つの容器12、12’の間に通路として配置されており、この流路14により、電極10,10’の全体に電場をかけた際に固体粒子18、たとえば試料粒子または(分子などの)帯電種を容器12,12’の間で輸送できる。電場は、電極に接続された電場発生器16を用いて発生させる。流路14内で分析および輸送しようとする試料18の特性を検出するために、検出器20を流路14に配置できる。
【0227】
電気泳動システム100’’は帯電種、たとえばイオンまたは粒子を、印加した電場の影響下におけるその移動に基づいて分離するように構成されているが、種の分離のために印加された電圧が、流路14内に、電気浸透流、すなわち流体流をさらに生じさせることを理解すべきである。
【0228】
例3−低電圧での前記電極の動作
この例では、例2のシステムにおいて使用されたような電極が低電圧で動作することを示す。電極はπ共役ポリマー、すなわちPEDOT:PSSである。ポテンシオスタット(Metrohm製のμAutolab)に対してAg/AgCl参照電極およびPt対電極と一緒に接続され、三電極構成の作用電極としてのその性能を、Pt電極を作用電極として用いた同様の実験と比較する。
【0229】
図6は、20mM NaCl(aq)中での、白金(Pt、点線)およびPEDOT:PSS(実線)電極についてのサイクリックボルタモグラムの結果を示している。矢印は、PEDOTに関連した酸化および還元のピークを示している。−0.8V<E<1.2Vの場合、この実験ではPEDOT:PSS電極(実線)は常に電流を示すが、Pt電極は、ほとんど電流を示さないことに気付かれたい。Eは、Ag/AgCl参照電極に対して印加した電位である。
【0230】
図6の結果は、微小流体システム中で使用された際、1対のPEDOT:PSS電極は、低い印加電位(たとえば<1V)でもファラデー電流を通すことができるが、1対のPt電極は、約2V未満の電位(図6で示したように、Pt上の水の酸化ピークと還元ピーク間の電圧差)では非常にわずかな電流しか通さないことを証明している。
【0231】
例4−ポリピロール(PPy)を用いた電気浸透ポンプの例
例示的な電気浸透ポンプを、128×86×12mm(lwh)8ウェル(各ウェルは40×30×12mmである)型の2〜3cm幅のプラスチック皿中の2つの容器12、12’の間に、毛細管14、たとえば内径25μmのシリカ毛細管を設置することによって製造した。圧送は、30mm壁の間で行う。各ウェルは、液体電解質として、pH5.7の5〜20mM NaClを収容していた。PETフィルム上のPPy電極10、10’を、PPy電極の一部を電解質中に沈めることにより、それぞれの容器内に配置し、電場発生器16を用いて最大10Vの電位を電極間にかけた。毛細管の中を通って運ばれる電流は毛細管内部の電解質の濃度に比例するので、2つの容器12、12’に様々な濃度の塩溶液を入れることにより、本発明者らは、添加剤を使用せずとも、毛細管14の中を通る流量を変位によって間接的に測定できた。この技術による流速測定の詳細な説明については、例1の説明、またはElectrophoresis 2004, 25, 3687〜3693を参照されたい。
【0232】
透明性フィルム片上で気相重合を実施することにより、ポリピロール電極を作製した。150μlのメタノール中に溶解した58mgのFeCl3の酸化源を、50x50cmの粗面化した透明性フィルム片上にスピンコートした。乾燥したら、フィルムを、被覆面を下向きにして、ピロールモノマーを入れたオープンビーカー上にかけた。全ての構成要素をもう1つのビーカーに封入した。該モノマーが蒸発する際に重合が起こり、FeCl3酸化剤が透明性フィルム上に到達する。ビーカーを50℃まで加熱する一方で、窒素ガスを緩やかに流すことにより、10分未満で重合が起こる。次いでフィルムをエタノール/水で洗浄し、乾燥させてから、20x30mmの電極に切り分ける。最後に、ポリマー電極を機器に容易に接続するため、銀塗料を一方の縁部に塗布した。使用したPPy気相重合技術の詳細な説明については、Vapor Phase Polymerization of Pyrrole and Thiophene Using Iron (III) Sulfonates as Oxidizing Agents, Bjorn Winther-Jensen, Jun Chen, Keld West、およびGordon Wallace, Macromolecules, 2004, 37(16), 5930〜5935ページ(DOI:10.1021/ma049365khttp://pubs.Acs.org/doi/abs/10.1021/ma049365k)を参照されたい。
【0233】
内径が25μmである10mmの溶融シリカ毛細管によって接続された2つのウェル(40×30×12mm)のそれぞれに、10mlの5mM NaClと20mM NaClとを入れた(いずれの場合もpH5.7である)。各ウェルは、溶液中に一部が沈められた1つのPPy電極を含み、5mMウェル内の電極は、Kiethley 2636A SourceMeterの正端子に接続されており、20mMウェル内の電極は、その負端子に接続されている。SourceMeterは、本システムの中を通る電流を測定する一方で、あらかじめプログラムされた電位を印加するものである。
【0234】
結果
+10Vの電位を電極間にかけた場合、ポンプにより電解質が20mMウェルから5mMウェルまで移動し、毛細管を横切る36MΩの抵抗に対応する270nAの電流が生じた。−10Vの電位をかけた場合、ポンプにより電解質が5mMウェルから20mMウェルまで移動し、毛細管中の20mM電解質が変位して、120MΩの抵抗に対応する80nAの電流が生じた。流体の完全変位は約13分で起こり、変位中に運ばれた総電荷は約150μCであった。これは、10Vの電位での流体の変位速度12μm/sに対応する。
【0235】
例5−ポリアニリン(PANI)を用いる電気浸透ポンプの例
例示的な電気浸透ポンプを、128×86×12mm(lwh)8ウェル(各ウェルは40×30×12mmである)型の2〜3cm幅のプラスチック皿中の2つの容器12、12’の間に、毛細管14、たとえば内径が25μmであるシリカ毛細管を配置することによって製造した。圧送は、30mm壁を横後って起こる。各ウェルは、液体電解質として、pH5.7の5〜20mM NaClを含んでいた。PETフィルム上のPANI電極10、10’を、該PANI電極の一部を電解質中に沈めることにより、それぞれの容器内に配置し、電場発生器16を用いて最大10Vの電位を電極間にかけた。毛細管の中を通って運ばれる電流は、毛細管内部の電解質の濃度に比例するので、2つの容器12、12’に様々な濃度の塩溶液を入れることにより、本発明者らは、添加剤を使用せずに、毛細管14の中を通る流量を変位によって間接的に測定できた。さらなる詳細については、例1にある説明、またはElectrophoresis 2004, 25, 3687〜3693を参照されたい。
【0236】
ポリアニリン電極は、透明性フィルム片上にキシレン中ポリアニリンをドロップキャストして作製した。合計で400μlのキシレン中ポリアニリン(5重量%)を、60x25mmの粗面化した透明性フィルム片の上にドロップキャストした。乾燥したら、フィルムを水中で洗浄し、次いで、20mM NaCl中に、0.18重量%のポリスチレンスルホン酸と一緒に沈めた。フィルムを水中で洗浄し、窒素ガスの流れで乾燥させた後、15x5mm電極に切り分けた。最後に、ポリマー電極を機器に容易に接続するため、銀塗料を一方の縁部に塗布する。
【0237】
2つのウェル(40×30×12mm)に、10mlの5mM NaClおよび20mM NaCl(pH5.7)を入れる。これらのウェルは、内径が25μmである10mm溶融シリカ毛細管によって接続されている。各ウェルは、溶液中に一部が沈められた一個のPPy電極を含み、5mAウェル中の電極は、Kiethley 2636A SourceMeterのプラスに接続されており、20mMウェル中の電極は、マイナスに接続されている。SourceMeterは、電流を測定しながら様々な電位を印加するものである。
【0238】
結果
+10Vの電位を電極間にかけた場合、ポンプにより電解質が20mMウェルから5mMウェルまで移動し、毛細管を横切る100MΩの抵抗に対応する100nAの電流が生じた。−10Vの電位をかけた場合、ポンプにより電解質が5mMウェルから20mMウェルまで移動し、毛細管内の20mM電解質が変位し、300MΩの抵抗に対応する33nAの電流が生じた。流体の完全変位は約5分で起こり、変位中に移送された総電荷は約20μCであった。これは、10Vの電位での流体の変位速度37μm/sに対応する。5〜80Vの電位に対して計算した流速を、表1に示す。
【表2】
【0239】
例6−PEDOT:PSS電極を用いた誘電泳動焦点法と組み合わせたEOポンプの例
誘電泳動焦点法のための例示的なデバイスを、長さ30mm、幅20mm、厚さ0.7mmのパターン化PDMS20片と、長さ72mm、幅26mm、厚さ1mmの顕微鏡用スライド板21とを接着することによって製造した(図9を参照のこと)。孔、電極、流路およびデバイス全体の厚さは、見やすくするために、2倍に拡大していることに留意されたい。PDMSパターンは、2gの1:10ジメチルシロキサン/硬化剤(Sylgard184、Dow Corning Corporation)混合物を、25μm高SU−8パターンを有する直径100mmの石英ウェハに注入し、被覆したウェハを2時間、100℃のオーブンに置いておくことによる、ソフトリソグラフィーを用いて作製した。このSU−8パターンは、50μm×2000μmの孔(深さ25μm)を含んでおり、この結果、完成デバイス中にはPDMSの同様のサイズの「ピラー」が生じる。PDMSをシリカウェハから取り外し、所望のパターンを切り出し、5mm生検用穴あけ器(Miltex)を用いて、2つの孔22を4mm間隔で作りだした。1:10ジメチルシロキサン/硬化剤の薄膜を、2つの孔の間にある幅2mmで長さ3mmの小片23を除いた、PDMSのパターン化した側面に適用した。PDMS片および清潔な顕微鏡用スライド板を、1分間、0.1mBarにおいて、取外し可能型テープ(3M)で小片と孔を除いたPDMS片の全体を覆った状態で、空気プラズマ処理した(Deiner Electronic, Pico plasma cleaner)。プラズマ処理の直後にテープを取り外して、2つの細片を圧着させた。
【0240】
PEDOT:PSSを透明性フィルム上にドロップキャストすることにより、PEDOT電極を作製した。透明性フィルム(M3)を紙やすり(P240、平均粒径58μm)で粗面化し、2×5mm片または3×7mm片のいずれかの一対に切り分けた。その後、PEDOT:PSS(水中で1.2重量%、Sigma Aldrich)と1%ジエチレングリコール(Sigma Aldrich)との混合物を、2x5/3x7mm電極上に10μl/20μlでドロップキャストし、室温で一晩乾燥させた。各片の一端は、機器の接続を容易にするために、1mm片の銀塗料(Electrolube)で被覆した。電極の端部の未被覆領域の全てを切り離した。
【0241】
デバイスを顕微鏡(Carl Zeiss, Axiovert 200M)下に置いて、2個の2×5mm電極24を、小型のワニ口クリップによりKeithley 2636 SourceMeter16に接続し、PDMS孔23中に配置した。PDMS孔によって形成されたウェルに、0.02重量%の5μmポリスチレンミクロ粒子(Fluka)を含有した15μlの20mM NaClを入れ、パターン化した2x4mm片によって形成されたウェル間の流路に直接入れた。ウェルは、純粋な20mM NaClで平衡化して、圧力駆動の流れを流路中で減じさせた。測定中には、一定(DC)または湾曲状(段階的なAC)のいずれかを0〜200Vで印加しながら写真を撮影した。
【0242】
結果
DC電位をかけた場合、顕微鏡で観察した球体の移動は、プラズマ処理したPDMSとガラスとの間の流路の内側での電気浸透流を明確に示す。DC電位は、ウェル間で正確に圧送して圧力駆動の流れを減じさせるのに使用され、これにより、誘電泳動焦点法の観察が容易になった。
【0243】
図10Aは、4方向交差部を示しており、ここでは、(図11Bでズームアウトすると分かるように、)電極を収容したウェルが左右にある。電極間に電位をかけた場合、電場は、主には水平方向(左右方向)であり、垂直方向(上下方向)にわずかな差がある。誘電泳動の理論(たとえば、Pohl, H. A., 1978. Dielectrophoresis the behavior of neutral matter in nonuniform electric fields.Cambridge University Press. Cambridgeを参照されたい)によれば、電場中の絶縁性材料は極性化され、極性化された粒子は、電場に勾配がある場合、力を受けることになる。上下および左右の移動の間には電場勾配に差があるので、我々の絶縁性ポリスチレン粒子は、電場をかけた際、同じ場所に向かうはずである。しかしながら、我々が強いDCをかけた場合、我々は、電気浸透流のせいで全てを単純に圧送してしまうので、印加する電位はAC状である必要がある。
【0244】
この測定では、本発明者らは、64段階の近似を用いて、Kiethley 2636 SourceMeterによって発生させた「湾曲波」にして、約70Hzの周期的な周波数を得た。顕微鏡カメラ(Carl Zeiss, AxioCam HRc)をPCに接続し、5秒または10秒ごとに手動で撮影した。PDMSのパターンは、左右方向26において50×2000μmの矩形であり、これらの間には50μm幅の流路が延びていた(図10Bを参照されたい)。電位をかけなかった場合、5μmのポリスチレン粒子27が拡散して、圧力駆動の流れ(ウェルでの蒸発によって起こる)と共にゆっくりと動いた(図10Cを参照されたい)。AC電位をかけた場合、粒子は振動し、大抵は一対になっており、電場が最も小さいと思われる開放流路と垂直壁との交差部に向かって移動する際にもそうである(図10Dを参照されたい)。電位の除去後、粒子は、壁から離れて別の壁に向かうが、AC信号を再びかけることによって再捕捉できる。微小流体システム中の特定位置にポリスチレン粒子を捕捉する能力により(この場合は垂直壁)、これらの電極を誘電泳動焦点法のために使用できることが証明される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体流を制御するための動電学的流体システム(100、100’、100’’)であって、
a)それぞれの容器(12、12’)内に配置された第1および第2の電極(10、10’)と、
前記電極は、ポリマーをベースにしたまたは酸化物をベースにした、導電性の電気化学的に活性な電極材料を含み、前記電極材料は前記動電学的流体システム(100)において使用されている際に電気化学的反応を受けるように適応されている、
b)前記2つの容器間の通路として配置された流路(14)であって、前記2つの容器(12、12’)間の電解質(13、13’)の流れを可能にする流路と
を具備することを特徴とし、
前記導電性の電気化学的に活性な電極材料は、π共役ポリマーの群より選択される動電学的流体システム(100、100’、100’’)。
【請求項2】
前記電極材料は前記電極(10、10’)の表面に少なくとも配置されており、前記表面は、前記電極(10、10’)が前記動電学的流体システム(100)において使用されている際に、電解質(13、13’)に面していることを特徴とする請求項1に記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)。
【請求項3】
前記導電性の電気化学的に活性な電極材料は、少なくとも1つの還元−酸化状態において電気を導電し、電気化学的に切り替えが可能であり、分解することなく、電解質(13、13’)に毒性物質を放出しないことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)。
【請求項4】
前記導電性の電気化学的に活性な電極材料は、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリ(p−フェニレンスルフィド)、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリインドール、ポリピレン、ポリカルバゾール、ポリアズレン、ポリアゼピン、ポリフルオレン、ポリナフタレンおよびポリイソチアナフタレンから選択される導電性の電気化学的に活性な電極材料群のいずれか、そのコポリマー、またはその混合物、そのコポリマー、またはその混合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)
【請求項5】
前記導電性の電気化学的に活性な電極材料は、金属酸化物、たとえば酸化バナジウムまたは酸化タングステンをさらに含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)。
【請求項6】
前記流路(14)は、電解質(13、13’)の流れを可能にする少なくとも1つの毛細管である請求項1〜5のいずれか1項に記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)。
【請求項7】
前記流路(14)は、電解質(13、13’)の流れを可能にする固体または半固体材料からなる多孔質材料である請求項1〜6のいずれか1項に記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)。
【請求項8】
前記流路は、ガラスたとえば酸化ケイ素、ポリアニオンたとえばポリ(スチレンスルフォナート)、またはポリカチオンたとえばプロトン化されたポリ−L−リシンから形成/準備されている請求項1〜7のいずれか1項に記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)。
【請求項9】
前記流路の壁は帯電している請求項1〜8のいずれか1項に記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)。
【請求項10】
前記流路の壁の電荷は電位によって制御されている請求項9に記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)。
【請求項11】
前記流路は径が<200μmである請求項1〜10のいずれか1項に記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)。
【請求項12】
電場発生デバイス(16)をさらに含む請求項1〜11のいずれか1項に記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)。
【請求項13】
誘電泳動システムをさらに含む請求項1〜12のいずれか1項に記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)。
【請求項14】
動電学的流体システム(100、100’、100’’)において液体流を制御する方法であって、
a.それぞれの容器(12、12’)内に配置された第1および第2の電極(10、10’)に電場をかけることと、
前記電極はポリマーをベースにしたまたは酸化物をベースにした、導電性の電気化学的に活性な電極材料を含み、前記電極材料は前記動電学的流体システム(100、100’、100’’)において使用されている際に電気化学的反応を受けるように適応されており、前記導電性の電気化学的に活性な電極材料はπ共役ポリマーの群より選択される、
b.電場デバイス(16)を用いて前記電場を制御して、電解質(13、13’)の流れを制御することを可能にすることと
を含む方法。
【請求項15】
前記動電学的流体システム(100、100’、100’’)は請求項1〜13のいずれか1項に記載されたものである請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記電解質中の1種以上の帯電種の流れを制御する工程をさらに含む請求項14または15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記電解質中の1種以上の非帯電種の流れを制御する工程をさらに含む請求項14〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記電解質(13、13’)中の帯電種および非帯電種の前記流れを、電場デバイス(16)を用いて前記電場を制御することによって制御し、電解質(13、13’)の流れを制御することを可能にする請求項16および17に記載の方法。
【請求項19】
動電学的流体システム(100、100’、100’’)において帯電および非帯電種の流れを制御することを可能にする方法であって、
a)第1のまたは第2の容器(12、12’)内の電解質(13、13’)中の1種以上の帯電または非帯電種に対して、それぞれの容器(12、12’)内に配置された第1および第2の電極(10、10’)に電場をかけることと、
前記電極は、ポリマーをベースにしたまたは酸化物をベースにした、導電性の電気化学的に活性な電極材料を含み、前記電極材料は前記動電学的流体システム(100、100’、100’’)において使用されている際に電気化学的反応を受けるように適応されており、前記導電性の電気化学的に活性な電極材料はπ共役ポリマーの群より選択される、
b)電場デバイス(16)を用いて前記電場を制御し、電解質(13、13’)の流れを制御することを可能にし、それにより前記電解質(13、13’)中の帯電または非帯電種の流れを制御することを可能にすることと
を含む方法。
【請求項20】
ここで規定される動電学的流体システム(100、100’、100’’)において帯電および/または非帯電種の混合物の流れを制御することと前記混合物の分離を制御することとを可能にする方法であって、
a)第1のまたは第2の容器(12、12’)中の電解質(13、13’)中の帯電または非帯電分子の混合物に対して、それぞれの容器(12、12’)内に配置された第1および第2の電極(10、10’)に電場をかけることと、
前記電極は、ポリマーをベースにしたまたは酸化物をベースにした、導電性の電気化学的に活性な電極材料を含み、前記電極材料は前記動電学的流体システム(100、100’、100’’)において使用されている際に電気化学的反応を受けるように適応されており、前記導電性の電気化学的に活性な電極材料はπ共役ポリマーの群より選択される、
b)電場デバイス(16)を用いて前記電場を制御し、電解質(13、13’)の流れを制御することを可能にし、それにより前記電解質(13、13’)中の帯電または非帯電種の流れを制御することを可能にし、それにより帯電および/または非帯電種の混合物の分離することと
を含む方法。
【請求項21】
請求項1〜13のいずれかに記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)を含む、液体流を制御するための微小流体ラボオンチップシステム(200)。
【請求項22】
請求項1〜13のいずれかに記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)を含む、1種以上の帯電または非帯電種の流れを制御するための微小流体ラボオンチップシステム(200)。
【請求項23】
誘電泳動システム(300)をさらに含む請求項21および22に記載の微小流体ラボオンチップシステム(200)。
【請求項24】
請求項1〜13のいずれかに記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)を含む、流体中の粒子を操作するための誘電泳動システム(300)。
【請求項25】
ラボオンチップシステム(200)における、請求項1〜13のいずれかに記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)の使用。
【請求項26】
ラボオンチップシステム(200)において液体流を制御するための、請求項1〜13のいずれかに記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)の使用。
【請求項27】
ラボオンチップシステム(200)において1種以上の帯電または非帯電種の流れを制御するための、請求項1〜13のいずれかに記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)の使用。
【請求項28】
ラボオンチップシステム(200)において1種以上の帯電または非帯電種の流れを制御するための、請求項1〜13のいずれかに記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)の使用であって、前記種は幹細胞に影響を与えるシグナル物質である使用。
【請求項29】
ラボオンチップシステム(200)において1種以上の帯電または非帯電種の流れを制御するための、請求項1〜13のいずれかに記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)の使用であって、前記種は神経細胞に影響を与えるシグナル物質である使用。
【請求項30】
ラボオンチップシステム(200)において1種以上の帯電または非帯電種の流れを制御するための、請求項1〜13のいずれかに記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)の使用であって、前記種は細胞内シグナル物質である使用。
【請求項31】
請求項1〜13のいずれかに記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)の、ラボオンチップシステム(200)において1種以上の帯電または非帯電種の流れを制御するための使用であって、前記種は細胞内シグナル伝達に影響を与えるシグナル物質である使用。
【請求項32】
混合物における少なくとも2つの種の分離のための、請求項1〜13のいずれかに記載の流体システム(100、100’、100’’)の使用。
【請求項33】
請求項1〜13のいずれかに記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)と、任意のその使用のための説明書とを含むキット。
【請求項1】
液体流を制御するための動電学的流体システム(100、100’、100’’)であって、
a)それぞれの容器(12、12’)内に配置された第1および第2の電極(10、10’)と、
前記電極は、ポリマーをベースにしたまたは酸化物をベースにした、導電性の電気化学的に活性な電極材料を含み、前記電極材料は前記動電学的流体システム(100)において使用されている際に電気化学的反応を受けるように適応されている、
b)前記2つの容器間の通路として配置された流路(14)であって、前記2つの容器(12、12’)間の電解質(13、13’)の流れを可能にする流路と
を具備することを特徴とし、
前記導電性の電気化学的に活性な電極材料は、π共役ポリマーの群より選択される動電学的流体システム(100、100’、100’’)。
【請求項2】
前記電極材料は前記電極(10、10’)の表面に少なくとも配置されており、前記表面は、前記電極(10、10’)が前記動電学的流体システム(100)において使用されている際に、電解質(13、13’)に面していることを特徴とする請求項1に記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)。
【請求項3】
前記導電性の電気化学的に活性な電極材料は、少なくとも1つの還元−酸化状態において電気を導電し、電気化学的に切り替えが可能であり、分解することなく、電解質(13、13’)に毒性物質を放出しないことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)。
【請求項4】
前記導電性の電気化学的に活性な電極材料は、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリ(p−フェニレンスルフィド)、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリインドール、ポリピレン、ポリカルバゾール、ポリアズレン、ポリアゼピン、ポリフルオレン、ポリナフタレンおよびポリイソチアナフタレンから選択される導電性の電気化学的に活性な電極材料群のいずれか、そのコポリマー、またはその混合物、そのコポリマー、またはその混合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)
【請求項5】
前記導電性の電気化学的に活性な電極材料は、金属酸化物、たとえば酸化バナジウムまたは酸化タングステンをさらに含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)。
【請求項6】
前記流路(14)は、電解質(13、13’)の流れを可能にする少なくとも1つの毛細管である請求項1〜5のいずれか1項に記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)。
【請求項7】
前記流路(14)は、電解質(13、13’)の流れを可能にする固体または半固体材料からなる多孔質材料である請求項1〜6のいずれか1項に記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)。
【請求項8】
前記流路は、ガラスたとえば酸化ケイ素、ポリアニオンたとえばポリ(スチレンスルフォナート)、またはポリカチオンたとえばプロトン化されたポリ−L−リシンから形成/準備されている請求項1〜7のいずれか1項に記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)。
【請求項9】
前記流路の壁は帯電している請求項1〜8のいずれか1項に記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)。
【請求項10】
前記流路の壁の電荷は電位によって制御されている請求項9に記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)。
【請求項11】
前記流路は径が<200μmである請求項1〜10のいずれか1項に記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)。
【請求項12】
電場発生デバイス(16)をさらに含む請求項1〜11のいずれか1項に記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)。
【請求項13】
誘電泳動システムをさらに含む請求項1〜12のいずれか1項に記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)。
【請求項14】
動電学的流体システム(100、100’、100’’)において液体流を制御する方法であって、
a.それぞれの容器(12、12’)内に配置された第1および第2の電極(10、10’)に電場をかけることと、
前記電極はポリマーをベースにしたまたは酸化物をベースにした、導電性の電気化学的に活性な電極材料を含み、前記電極材料は前記動電学的流体システム(100、100’、100’’)において使用されている際に電気化学的反応を受けるように適応されており、前記導電性の電気化学的に活性な電極材料はπ共役ポリマーの群より選択される、
b.電場デバイス(16)を用いて前記電場を制御して、電解質(13、13’)の流れを制御することを可能にすることと
を含む方法。
【請求項15】
前記動電学的流体システム(100、100’、100’’)は請求項1〜13のいずれか1項に記載されたものである請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記電解質中の1種以上の帯電種の流れを制御する工程をさらに含む請求項14または15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記電解質中の1種以上の非帯電種の流れを制御する工程をさらに含む請求項14〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記電解質(13、13’)中の帯電種および非帯電種の前記流れを、電場デバイス(16)を用いて前記電場を制御することによって制御し、電解質(13、13’)の流れを制御することを可能にする請求項16および17に記載の方法。
【請求項19】
動電学的流体システム(100、100’、100’’)において帯電および非帯電種の流れを制御することを可能にする方法であって、
a)第1のまたは第2の容器(12、12’)内の電解質(13、13’)中の1種以上の帯電または非帯電種に対して、それぞれの容器(12、12’)内に配置された第1および第2の電極(10、10’)に電場をかけることと、
前記電極は、ポリマーをベースにしたまたは酸化物をベースにした、導電性の電気化学的に活性な電極材料を含み、前記電極材料は前記動電学的流体システム(100、100’、100’’)において使用されている際に電気化学的反応を受けるように適応されており、前記導電性の電気化学的に活性な電極材料はπ共役ポリマーの群より選択される、
b)電場デバイス(16)を用いて前記電場を制御し、電解質(13、13’)の流れを制御することを可能にし、それにより前記電解質(13、13’)中の帯電または非帯電種の流れを制御することを可能にすることと
を含む方法。
【請求項20】
ここで規定される動電学的流体システム(100、100’、100’’)において帯電および/または非帯電種の混合物の流れを制御することと前記混合物の分離を制御することとを可能にする方法であって、
a)第1のまたは第2の容器(12、12’)中の電解質(13、13’)中の帯電または非帯電分子の混合物に対して、それぞれの容器(12、12’)内に配置された第1および第2の電極(10、10’)に電場をかけることと、
前記電極は、ポリマーをベースにしたまたは酸化物をベースにした、導電性の電気化学的に活性な電極材料を含み、前記電極材料は前記動電学的流体システム(100、100’、100’’)において使用されている際に電気化学的反応を受けるように適応されており、前記導電性の電気化学的に活性な電極材料はπ共役ポリマーの群より選択される、
b)電場デバイス(16)を用いて前記電場を制御し、電解質(13、13’)の流れを制御することを可能にし、それにより前記電解質(13、13’)中の帯電または非帯電種の流れを制御することを可能にし、それにより帯電および/または非帯電種の混合物の分離することと
を含む方法。
【請求項21】
請求項1〜13のいずれかに記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)を含む、液体流を制御するための微小流体ラボオンチップシステム(200)。
【請求項22】
請求項1〜13のいずれかに記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)を含む、1種以上の帯電または非帯電種の流れを制御するための微小流体ラボオンチップシステム(200)。
【請求項23】
誘電泳動システム(300)をさらに含む請求項21および22に記載の微小流体ラボオンチップシステム(200)。
【請求項24】
請求項1〜13のいずれかに記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)を含む、流体中の粒子を操作するための誘電泳動システム(300)。
【請求項25】
ラボオンチップシステム(200)における、請求項1〜13のいずれかに記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)の使用。
【請求項26】
ラボオンチップシステム(200)において液体流を制御するための、請求項1〜13のいずれかに記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)の使用。
【請求項27】
ラボオンチップシステム(200)において1種以上の帯電または非帯電種の流れを制御するための、請求項1〜13のいずれかに記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)の使用。
【請求項28】
ラボオンチップシステム(200)において1種以上の帯電または非帯電種の流れを制御するための、請求項1〜13のいずれかに記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)の使用であって、前記種は幹細胞に影響を与えるシグナル物質である使用。
【請求項29】
ラボオンチップシステム(200)において1種以上の帯電または非帯電種の流れを制御するための、請求項1〜13のいずれかに記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)の使用であって、前記種は神経細胞に影響を与えるシグナル物質である使用。
【請求項30】
ラボオンチップシステム(200)において1種以上の帯電または非帯電種の流れを制御するための、請求項1〜13のいずれかに記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)の使用であって、前記種は細胞内シグナル物質である使用。
【請求項31】
請求項1〜13のいずれかに記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)の、ラボオンチップシステム(200)において1種以上の帯電または非帯電種の流れを制御するための使用であって、前記種は細胞内シグナル伝達に影響を与えるシグナル物質である使用。
【請求項32】
混合物における少なくとも2つの種の分離のための、請求項1〜13のいずれかに記載の流体システム(100、100’、100’’)の使用。
【請求項33】
請求項1〜13のいずれかに記載の動電学的流体システム(100、100’、100’’)と、任意のその使用のための説明書とを含むキット。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10(1)】
【図10(2)】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10(1)】
【図10(2)】
【公表番号】特表2013−520298(P2013−520298A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−553852(P2012−553852)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【国際出願番号】PCT/SE2011/050199
【国際公開番号】WO2011/102801
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(512217422)ルナマイクロ・エービー (1)
【氏名又は名称原語表記】LunaMicro AB
【住所又は居所原語表記】Falkvaegen 2, 618 32 Kolmarden, Sweden
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【国際出願番号】PCT/SE2011/050199
【国際公開番号】WO2011/102801
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(512217422)ルナマイクロ・エービー (1)
【氏名又は名称原語表記】LunaMicro AB
【住所又は居所原語表記】Falkvaegen 2, 618 32 Kolmarden, Sweden
【Fターム(参考)】
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