説明

包あん用の皮

【課題】包あん食品用の皮の生地物性、食味及び食感を損なうことなく、澱粉老化に伴う品質劣化を改良した包あん食品用の皮生地及び皮を提供する。
【解決手段】アブラナ科、セリ科等の植物由来の抽出物を原料とした、氷結晶化阻害活性を有する物質を、生地中に、所定量分散させた包あん食品用皮生地を用いて、包あん食品を製造する。このことにより、凍結・解凍を経ても皮の生地物性を損ねることなく、澱粉老化に伴う品質劣化を改良することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包あん用皮生地、それを用いた皮及びそれらを用いた包あん食品に関する。
【背景技術】
【0002】
餃子、シュウマイ、ワンタン、春巻などは今日の食生活に欠くことのできない一般化した食品であり、近年、冷凍食品技術の発達により、専門店のみならず一般家庭でも手軽に食することができるようになった。一般に、餃子、シュウマイ、ワンタン、春巻などの包あん用の皮は、小麦粉や片栗粉などの穀粉類に水または湯を加えて練り上げ、適宜の厚さに圧延し、中に肉類、野菜類を加工した具材を包んで成形される。成形後、焼成したり、蒸したり、茹で上げたりするなど調理して得られる各種食品は、製造現場で作られてから消費者が喫食するまでの間に時間差があり、これらの皮は時間経過とともに急速に劣化する。これらの食品の品質をより長く保持する方法として、調理した後に直ちに冷凍する方法があるが、冷凍後の食品においても保存中における微妙な温度変化により澱粉の老化が起こり、解凍後の皮の品質が劣化する。これらの包あん食品の皮の腰を強化しその品質をより長く保持する方法として、タンパク類や乳化剤、増粘剤等の種類や配合が検討されてきた。しかしながら、これらの方法は生地物性に悪影響を及ぼさない範囲で行う必要があったため、最終製品において得られる効果としては十分とはいえない。
【0003】
例えば餃子の皮の硬化による食感の低下を防止する方法として、原料粉に対する質量比で3〜20%のトレハロースを含有し、且つ1〜20%の油脂を含むこと、さらに原料粉として加工澱粉を原料粉全体に対する質量比で5〜40%配合すること、さらに添加する加工澱粉に対する質量比で1〜10%の小麦蛋白を含有させること、さらに原料粉に対する質量比で0.1〜1%の大豆蛋白を含有させる方法が提案されている(特許文献1)。しかしながら、このような特殊な配合を用いなくとも、調理直後の皮の食感を保持する方法を用いるのが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−141026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような従来の包あん用の皮の品質劣化の問題点を解決し、皮の外観、食味及び食感を損なわずに、その品質劣化を改良した新規な包あん用皮生地、それを用いた皮、及びそれを用いた包あん食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、氷結晶化阻害活性を有する物質を分散させた皮を用いて製造した包あん食品が、凍結解凍を経ても皮の食味や食感及び生地物性を損ねることなく、澱粉老化に伴う品質劣化を改良することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本願の第一の発明は、穀粉類を含有する包あん用皮生地であって、氷結晶化阻害活性物質を、生地100重量部あたり0.000001〜1重量部含有することを特徴とする包あん用皮生地に関する。好ましい実施態様は、植物由来の氷結晶化阻害活性を有する物質を含有することを特徴とする皮生地である。
【0008】
本願の第二の発明は、上記記載の包あん用皮生地からなる皮に関する。
【0009】
本願の第三の発明は、上記記載の皮に所定の素材を包あん、成形後、加熱調理してなる包あん食品に関する。
【0010】
本願の第四の発明は、上記の食品を更に凍結してなる冷凍食品に関する。
【発明の効果】
【0011】
本願発明にかかる包あん食品用の皮生地及び皮は、従来の皮生地等における、澱粉老化に伴う品質劣化が改善され、冷凍保存したような場合であっても、生地物性や、食味、食感が損なわれず、調理直後の状態を保持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。
【0013】
本発明の包あん用皮生地は、穀粉類、氷結晶化阻害活性を有する物質、水及び食塩を含有し、氷結晶化阻害活性を有する物質が生地中に分散していることを特徴とする。
【0014】
本発明の穀粉類とは、小麦粉、大麦粉、蕎麦粉、米粉などの各種澱粉類を例示でき、その中でも小麦粉が好適に使用できる。穀粉類の含有量は、皮用生地全体中60〜80重量%が好ましい。
【0015】
本発明の氷結晶化阻害活性を有する物質とは、氷結晶の表面に吸着してその成長を妨げる物質であり、氷結晶化阻害活性の測定法により定義される物質である。この様な氷結晶化阻害活性を有する物質は、魚類、植物、菌類、微生物、昆虫などから見出されている。
【0016】
氷結晶化阻害活性を有する物質としては、氷結晶化阻害活性値が0.9以下のものを用いるのが好ましく、より好ましくは0.8以下であり、さらに好ましくは0.7以下であり、最も好ましくは0.65以下である。なお、氷結晶化阻害活性の測定は、冷却調節機能が付いたステージを有する顕微鏡下で、ショ糖を30w/v%含む氷結晶化阻害物質の水溶液を−40℃に冷却した後に−6℃まで温度を上げて氷結晶を溶かし、−6℃を保った状態で30分間観察したときに認められる氷結晶の平均面積を測定することにより行うことができる。氷結晶化阻害活性が強いほどこの氷結晶の平均面積は小さくなることから、この平均面積を、対照としてショ糖の30w/v%水溶液を同様に測定して得られる氷結晶の平均面積で除して得られる数値を氷結晶化阻害活性値とする。対照に比べて、氷結晶化阻害物質を添加したときに氷結晶の形成が少しでも阻害されれば、この数値は1.0より小さくなり、氷結晶化抑制活性を有すると判断する。
【0017】
本発明に係る氷結晶化阻害活性を有する物質は、特に限定されるものでなく、魚類、植物、菌類、微生物、昆虫およびその抽出物であればよい。氷結晶化阻害活性を有する限りはこれに含まれる。また、氷結晶化阻害活性を有する物質は、天然起源のものであってもよいし、人工的に飼育、栽培、培養されたものであってもよい。さらに、氷結晶化阻害活性を有するものであれば、遺伝子組換えされたものであってもよい。
【0018】
魚類由来の氷結晶化阻害活性を有する物質としては、例えば、タラ、カレイ、ニシン、キュウリウオ、カジカなど、北極海や南極海等の冷海水中に生息する魚の体液などから、種々の氷結晶化阻害活性を有する物質が見つかっている。これらの氷結晶化阻害活性を有する物質は、従来公知の手段によって血液または体液から取り出すことができる。また遠心などの分離工程、各種のクロマトグラフィー、ならびに吸着、晶析及び濃縮などにより単離精製してもよい。さらに、従来の化学的合成法または組換えDNAを含む方法によっても製造することもできる。
【0019】
植物由来の氷結晶化阻害活性を有する物質としては、例えば、食用植物より抽出される氷結晶化阻害活性を有する物質が好ましい。そのような氷結晶化阻害活性を有する物質としては、例えば、アブラナ科、セリ科、ユリ科またはキク科に属する植物より得られる抽出物が挙げられる。アブラナ科に属する植物は、ハクサイ、ダイコン、ブロッコリー、チンゲンサイ、コマツナ、カブ、シロナ、野沢菜、広島菜、ミズナ、マスタード等が挙げられる。セリ科に属する植物はニンジン等が、ユリ科に属する植物はネギ等が、キク科に属する植物は春菊等が挙げられる。これらの植物の類縁品種および改良品種も適宜使用することができる。これらの氷結晶化阻害活性を有する物質は、前記植物の全体または一部(例えば、葉、葉柄、花、果実、枝根、種子等)から公知の手段によって抽出される。抽出物は濃縮、ろ過などの処理を行っても良いし、凍結乾燥粉末として製剤化することもできる。
【0020】
菌類由来の氷結晶化阻害活性を有する物質としては、例えば、担子菌由来のものが挙げられる。担子菌由来のものとしては、食用担子菌に由来する氷結晶化阻害活性を有する物質を好適に使用できる。そのような担子菌としては、例えば、シメジ、エノキ、ヒラタケ、マッシュルーム等の担子菌が挙げられる。これらの担子菌の類縁品種および改良品種も適宜使用することができる。これらの担子菌由来の氷結晶化阻害活性を有する物質は、前記の担子菌の全体または一部分から公知の方法により抽出してもよいし、前記の担子菌をそれぞれ好適な培養条件において増殖させた後に低温条件下に不凍タンパク質を誘導生産し、その培養液を回収してもよい。
【0021】
その他、本発明に係る氷結晶化阻害活性を有する物質としては、昆虫や細菌由来のものを用いることもできる。例えば、昆虫由来では、チャイロゴミムシダマシの幼虫がThr-Xaa-Thr(「Xaa」は任意のアミノ酸残基を示す。)とCysを含む繰り返し配列からなる平行βへリックス構造のタンパク質を持つことが知られている。細菌由来では、例えばPseudomonas putida GR12−2が氷結晶化阻害活性を有する物質を分泌することが発見されている。
【0022】
本発明に係る氷結晶化阻害活性を有する物質の含有量は、包あん用皮生地100重量部あたり0.000001重量部以上、より好ましくは0.00001重量部以上とする。また、上限は、1重量部であり、より好ましくは0.1重量部である。含有量が0.000001重量部より少ないと発明の効果を奏さない場合があり、1重量部よりも多いと生地物性を損なう場合がある。
【0023】
本発明においては、氷結晶化阻害活性を有する物質を生地中に分散させる際は、氷結晶化阻害活性を有する物質が水に均一に溶解した溶液とした状態とする。分散させる際は、生地の製造時に、配合で加える水にあらかじめ氷結晶化阻害活性を有する物質を溶解して、穀粉、塩など、一般的に用いられる材料と混合して混練してもよいし、配合で加える水とは別に氷結晶化阻害活性を有する物質を含む溶液として、これを穀粉、塩、水などと混合して、混練してもよい。混練の際は、所定量の材料を、軽く混練した後、ミキサーなどを用いて十分に混練する。これにより、所望の分散を得ることができる。
【0024】
包あん用皮生地中の水分量は、製帯できるのであれば特に限定は無いが、穀粉類100重量部に対して30〜70重量部が好ましい。ここで、生地中の穀粉類100重量部に対する水分量を加水率と呼び、該水分量としては、配合で加える水と氷結晶化阻害活性を有する物質を含む溶液の合計を計上し、その他の水分を含む原料の水は計上しない。従って、上記の水分量を言い換えると、生地中の加水率は30〜70%が好ましい。
【0025】
上記のようにして得られた生地は、所定時間醸成した後、所望の厚みに圧延した後、所定の形にカッティングすることにより、皮を製造することができる。
【0026】
このようにして得られた皮を用いて、肉類、野菜類を加工した具材を包んで成形した後、焼成したり、蒸したり、茹で上げたりして加熱調理することにより、餃子やしゅうまい等の包あん食品を得ることができる。
【0027】
上記食品は、更に冷凍してもよい。冷凍の際は、上記食品を、所定の温度に設定した冷凍機または冷凍庫内で凍結すればよい。これにより、冷凍食品を得ることができる。
【実施例】
【0028】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0029】
<食感の評価方法>
食感の評価は、比較例で得られた皮を用いてなる包あん食品をブランクとし、実施例で得られた皮を用いてなる包あん食品を、製造後に5℃の冷蔵庫で48時間保存したものと、上記ブランクを製造後に5℃の冷蔵庫で48時間保存したものをそれぞれ常温に戻した状態で食し、以下の4段階の基準により評価することにより行った。なお、表に示す評価結果は、パネラー5人の評価結果を平均化したものである。
◎:ブランクを冷蔵し、常温に戻したものと較べてモチモチした食感が強く腰がかなりある
○:ブランクを冷蔵し、常温に戻したものと較べてモチモチした食感があり腰がある
△:ブランクを冷蔵し、常温に戻したものと較べて食感及び腰の差がわかる程度
×:ブランクを冷蔵し、常温に戻したものと較べて食感及び腰の差がわからない。
【0030】
また同様に、実施例で得られた皮を用いてなる包あん食品を、製造後に−20℃にて1週間冷凍後に電子レンジ(1,200ワット)で40秒間加熱したものと、製造後に−20℃にて1週間冷凍後に電子レンジ(1,200ワット)で40秒間加熱した状態で食し、以下の4段階の基準により評価した。表に示す評価結果は、パネラー5人の評価結果を平均化したものである。
◎:ブランクを冷凍後解凍したものと較べてモチモチした食感が強く腰がかなりある
○:ブランクを冷凍後解凍したものと較べてモチモチした食感があり腰がある
△:ブランクを冷凍後解凍したものと較べて食感及び腰の差がわかる程度
×:ブランクを冷凍後解凍したものと較べて食感及び腰の差がわからない。
【0031】
<外観の評価方法>
実施例・比較例で得られた皮を用いてなる包あん食品を、製造後に−20℃にて1週間冷凍後に自然解凍して得られた皮の外観の評価は、以下の4段階の基準により評価を実施した。なお、表に示す評価結果は、パネラー5人の評価結果を平均化したものである。また、評価基準は次の通りである。なお、白ろう化とは、皮の表面が白色化して固くなる現象として定義する。
◎:ブランクを冷凍後解凍したものと較べて表面の白ろう化が著しく改善されている
○:ブランクを冷凍後解凍したものと較べて表面の白ろう化に改善がみられる
△:ブランクを冷凍後解凍したものと較べて表面の白ろう化の度合いの差が分かる程度
×:ブランクを冷凍後解凍したものと較べて表面の白ろう化の差がわからない。
【0032】
(比較例1)実施例1のブランク(餃子)
表1の配合に従い、縦型ミキサーとフック(関東混合機工業製、SS型152B)を用いて、低速で小麦粉を攪拌しながら、あらかじめ水に食塩を溶解しておいた食塩水をゆっくり投入し、そぼろ状になるまで混捏した。そのものを丸めて1時間生地を寝かした後、麺帯機にて厚さ0.6mmまで圧延し、8cmの円形に打ち抜いて皮を得た。得られた皮で餃子の具材を包み、100〜105℃で5分間蒸し、180℃のホットプレートにて焦げ目が付くまで焼成して餃子を得た。得られた餃子を実施例1のブランクとした。
【0033】
(実施例1)
あらかじめ水に食塩および市販の氷結晶化阻害活性を有する物質(カイワレ大根抽出物、商品名:クリスタキープS-1、株式会社カネカ製)を溶解して投入した以外は、比較例1と同様にして餃子を得た。
【0034】
(比較例2)実施例2のブランク(シュウマイ)
比較例1と同様にして皮を得た。得られた皮でシュウマイの具材を包み、100〜105℃で7分間蒸しシュウマイを得た。得られたシュウマイを実施例2のブランクとした。
【0035】
(実施例2)
あらかじめ水に食塩および市販の氷結晶化阻害活性を有する物質(カイワレ大根抽出物、商品名:クリスタキープS-1、株式会社カネカ製)を溶解して投入した以外は、比較例2と同様にしてシュウマイを得た。
【0036】
実施例1,2および比較例1,2の食感および外観の評価結果は以下の通りである。
【0037】
【表1】

【0038】
以上の結果から、氷結晶化阻害活性物質を含有する本発明にかかる包あん用の生地からなる食品等は、冷蔵後や冷凍後の食感や、冷凍後の外観が改善されることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粉類を含有する包あん用皮生地であって、氷結晶化阻害活性物質を、生地100重量部あたり0.000001〜1重量部含有することを特徴とする包あん用皮生地。
【請求項2】
氷結晶化阻害活性を有する物質が、植物由来の抽出物であることを特徴とする請求項1に記載の包あん用皮生地。
【請求項3】
植物由来の抽出物が、アブラナ科、セリ科、ユリ科及びキク科に属する植物からなる群から選ばれる1以上の植物、および、これらの類縁品種または改良品種の抽出物であることを特徴とする請求項2に記載の包あん用皮生地。
【請求項4】
アブラナ科、セリ科、ユリ科及びキク科に属する植物が、ハクサイ、ダイコン、ブロッコリー、チンゲンサイ、コマツナ、カブ、シロナ、野沢菜、広島菜、ミズナ、マスタード、ニンジン、ネギ、及び、春菊からなる群から選ばれる一種以上の植物であることを特徴とする請求項3に記載の包あん用皮生地。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の包あん用皮生地からなる皮。
【請求項6】
請求項5に記載の皮に所定の素材を包あん、成形後、加熱調理してなる包あん食品。
【請求項7】
請求項6に記載の食品を凍結してなる冷凍食品。

【公開番号】特開2012−44955(P2012−44955A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192040(P2010−192040)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】