説明

化合物のエナンチオマー同士を分離するキラルセレクタ

本発明は化合物の光学異性体又はエナンチオマーの分離のために用いる新規のキラルセレクタとする化合物の用途に関し、ここで、キラルセレクタは、少なくとも1つの以下に示す化合物及び少なくとも1つの金属イオン、例えば、Cu2+、Ni2+、Zn2+、Cd2+又はCo2+を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学異性体同士を分離する方法に関する。また、本発明は、新規のキラルセレクタとして用いるための化合物の用途を提供する。
【発明の概要】
【0002】
キラリティは、分子又は化合物が非対称性であり、その鏡像と重ね合わすことができない構造的特徴として定義される。このような特徴を示す分子は、光学異性体又はエナンチオマーと呼ばれる。
【0003】
エナンチオマーは、そのホモログの鏡像対称体と重ね合わせることができる配置異性体である。エナンチオマー同士は、それぞれの分子における構成原子数は同一であるが、空間的分布はそれぞれが互いの鏡像であり、重ね合わすことはできない。
【0004】
本発明は、化合物の光学異性体同士又はエナンチオマー同士を分離するために、キラルセレクタとして新規の化合物を用いる。前記の新規の化合物は、エナンチオマー同士を分離させるために該エナンチオマー同士のうちの1つに対してより強い親和性を示す。従って、前記の新規の化合物は、分離するエナンチオマー同士のうちの1つに対し特異的に保持又は吸着することができる。親和性とは、2つの物質の相互の化学的誘引を意味する。
【0005】
キラルセレクタは、化合物の光学異性体同士又はエナンチオマー同士のうちの1つに特異的に反応、認識、結合又は吸着できる光学活性試薬であり、そのため、化合物の1つのエナンチオマーと、これに対する同一の化合物における他の1つのエナンチオマーとを分離することができる。
【0006】
キラル分離のためのクロマトグラフィ及び電気泳動の技術は、エナンチオマー同士の分離、精製及び定量のために用いられ、特に、化合物の1つのエナンチオマーと、これに対する同一の化合物における他の1つのエナンチオマーとを分離、精製及び定量するために用いられる。これらの技術は、化合物の光学異性体同士又はエナンチオマー同士のうちの1つに対して特異的に反応、認識、結合又は吸着できるキラルセレクタの使用を含み、そのため、化合物の1つのエナンチオマーと、これに対する同一の化合物の他の1つのエナンチオマーとを分離できる。これらのキラルセレクタは、一定の特性を示さなければならず、特に、高い特異性及び親和性を有する標的を認識できなければならない。
【0007】
キラルセレクタは、特に、分離技術に効果的である。リガンド交換に基づくキラル分離は、Davankovによって1970年代に導入された。得ることができる全てのキラルセレクタのうち数種の化合物だけは、近年においてもリガンド交換に用いられ、特に、また主に、それらはキラルリガンド交換クロマトグラフィにおいて用いることが可能なセレクタとして記述されているアミノ酸/金属イオン複合体(Davancov.,J.Chromatogr.A,2003)、及びキトサン/金属イオン複合体(Liu Y 等.,J.Sep.Sci.,2006)である。
【0008】
リガンド交換に基づく分離におけるキラルセレクタとしてアミノ酸/金属イオン複合体又はキトサン/金属イオン複合体を用いることは、多くの不利な点がある。まず、アミノ酸又はキトサンに対する機能付与は、これらに利用可能な反応性官能基の数が少ないため、限られることとなる。これは、結果としてそれらの用途が制限されることとなる。さらに、反応性官能基の数が少ないため、例えば、選択性の調節又はアミノ酸若しくはキトサンの一部との置換によるエナンチオマーの溶出の順序の逆転ができない。さらに、アミノ酸は、特に医薬品産業において、近年ますます用いられているヌクレオシドのエナンチオマー同士を分離できない。
【0009】
本発明の1つの目的は、機能付与において、より多くの可能性を有するキラルセレクタを提供し、言い換えると、キラルセレクタと、分離されるエナンチオマー及びキラル固定相においては固体担体の両方との相互作用の調節のために、それぞれが吸着する異なる位置を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、化合物の分離の最適性という観点において、使用の際に、より大きな柔軟性を示すキラルセレクタを提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、エナンチオマー同士の溶出の順序を逆転させることができるキラルセレクタを提供することにある。溶出の順序の逆転は、エナンチオマーの純度の測定及び少量のエナンチオマーを第1に溶出するのに有利である。
【0012】
さらに、本発明の他の目的は、アミノ酸、ペプチド、ジペプチド、トリペプチド等、アミノアルコール及びヌクレオシドのエナンチオマーの全てを分離できるキラルセレクタを提供することにあり、これらの化学的分類のものに一般に用いられる。
【0013】
本発明の他の目的は、キラルセレクタの単一の型を用いて、多数の化合物のエナンチオマー同士を分離する方法を提供することにある。
【0014】
さらに、本発明の他の目的は、安価で、使用が簡単で且つ高い作用が認められるキラルセレクタを提供することにある。
【0015】
本発明の他の目的は、リガンドのエナンチオ選択性を調節するために異なる金属イオンを利用するキラルセレクタを提供することにある。
【0016】
さらに、本発明の他の目的は、異なる分離方法(特に、クロマトグラフィ及びキャピラリ電気泳動)を用いることができるキラルセレクタを提供することにある。
【0017】
従って、本発明は第1に化合物のエナンチオマー同士を分離するためのキラルセレクタに関し、該キラルセレクタは下記の(a)及び(b)を含む。
【0018】
(a)少なくとも1つの[化1]に示す化合物:
【0019】
【化1】

【0020】
ここで、WはCR、NR、O又はSを示し、
XはCR、NR、O又はSを示し、
YはCR、NR、O又はSを示し、
ZはCR1011、NR10、O又はSを示し、
はOH又はSHを示し、
、R、R、R、R、R、R、R、R10及びR11は同一又は異なり、以下のいずれかを示す:
H、
OH、SH、
アミン基、
直鎖状又は分枝鎖状に1個〜30個の炭素原子を含むアルキル基、ハロアルキル基又はヘテロアルキル基、
直鎖状又は分枝鎖状に2個〜30個の炭素原子を含むアルケニル基又はアルキニル基、
直鎖状又は分枝鎖状に3個〜30個の炭素原子を含む1つ又はそれ以上のシクロアルキル基、シクロアルケニル基又はシクロアルキニル基、
1つの環毎に3個〜10個の炭素原子を含む1つ又はそれ以上のアリール基又はヘテロアリール基、
前記の定義を有するアリール及びアルキルに関する1個〜30個の炭素原子を含むアルカリール基又はアラルキル基、
直鎖状又は分枝鎖状に1個〜30個の炭素原子を含むアルコキシ基、チオアルキル基、スルホニルアルキル基又はアミノアルキル基、
直鎖状又は分枝鎖状に1個〜30個の炭素原子を含むアルコキシアルキル基、アルキルチオアルキル基、アルキルスルホニルアルキル基又はアルキルアミノアルキル基、
及び1つの環毎に5個〜10個の炭素原子を含む1つ又はそれ以上のヘテロサイクリック基;
前記の全ての基は、Rにより、1つ若しくはそれ以上のニトロ基、シアノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基若しくはアミノ基により、1つ若しくはそれ以上のハロゲンにより又は1つ若しくはそれ以上のニトリル、シアノヒドリン若しくはアルデヒド官能基により任意に置換される;
[化1]に示す化合物は、キトサン、ネオマイシン、ネオマイシンB、カナマイシンA、カナマイシンB、ネアミン及びアミカシン以外である;
(b)少なくとも1つの金属イオン。
【0021】
本発明の目的において:
「アミン」は窒素原子を含む基を意味する。アミンには1級アミンNH、2級アミンNHR’又は3級アミンNR’R’’がある。R’及びR’’は同一又は異なり、前記のRと同一の定義である;
「アルキル」はメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、3級ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、又はイソシルのように1個〜30個の炭素原子の直鎖状又は分枝鎖状の炭化水素ラジカルを意味する。上記に定義されたアルキル基は、1つ又はそれ以上のハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素又はヨウ素)を含んでもよい。その場合、それらを「ハロアルキル」基と呼ぶ。アルキル基はP、O、N、S及びSeから選択されるヘテロ原子を含んでもよい。その場合、それらを「ヘテロアルキル」基と呼ぶ;
「アルケニル」は1つ又はそれ以上の二重結合を含む2個〜30個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝鎖状の炭化水素を意味する。アルケニルの例としては、-CH-CH=CH-CH2、H2C=CH-(ビニル)又はH2C=CH-CH2-(アリル)のように1つの二重結合を有するアルケニル基である。
【0022】
「アルキニル」は1つ又はそれ以上の三重結合を含む2個〜30個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝鎖状の炭化水素を意味する。アルキニル基の例としては、-CH2-C≡CHのように1つの三重結合を有するアルキニル基である;
「シクロアルキル」は単環式又は多環式であり、3個〜10個の炭素原子を含む飽和炭化水素を意味する。それらは、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデシル、シクロウンデシル及びシクロドデシルのような単環式のシクロアルキル基である;
「シクロアルケニル」は1つ又はそれ以上の二重結合、例えば、2つの二重結合を有し、上記に定義されるシクロアルキル基から派生する基を意味する。該当する基として、例えば、シクロヘキセン基(1つの二重結合)又はシクロペンタ-1,3-ジエン基(2つの二重結合)がある;
「シクロアルキニル」は1つ又はそれ以上の三重結合、例えば、1つの三重結合を有し、上記に定義されるシクロアルキル基から派生する基を意味する;
「アリール」はフェニル又はナフチルのように、1つの環毎に3個〜10個の炭素原子を含む単環式又は多環式の芳香族炭化水素基を意味する;
「ヘテロアリール」は1つの環毎に3個〜10個の炭素原子を含み、また、1つの環毎にP、O、N、S及びSeから選択される1つ、2つ又は3つの環内のヘテロ原子を含む単環式又は多環式の芳香族基を意味する。例として、フリル基、チエニル基、ピロリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、オキサチアゾリル基、トリアゾリル基、チアジアゾリル基、ピリジル基、ピリダジニル基、ピラジニル基及びトリアジニル基が挙げられる;
「アルカリル」は上記に定義されるアリール基により置換される上記に定義されるアルキル基を意味する;
「アラルキル」は上記に定義されるアリール基により置換される上記に定義されるアルキル基を意味する;
「アルコキシ」は1個〜30個の炭素原子を有するO−アルキル基を意味し、特に、メトキシ、エトキシ、プロポキシ及びブトキシを意味する。「アルコキシアルキル」は1個〜30個の炭素原子を有するアルキル−O−アルキル基を意味する。「チオアルキル」又は「アルキルチオアルキル」、「スルホニルアルキル」又は「アルキルスルホニルアルキル」及び「アミノアルキル」又は「アルキルアミノアルキル」は、それぞれ1つ又はそれ以上の硫黄原子、1つ又はそれ以上のスルホニル基及び1つ又はそれ以上のアミン官能基をさらに含んでいる。
【0023】
「ヘテロサイクリック基」は1つ、2つ又は3つのP、O、N、S及びSeから選択される環内のヘテロ原子を有する飽和又は不飽和の単環式又は多環式の炭素環を意味する。これらは、一般に、上記のヘテロアリールの誘導体である。不飽和のヘテロ環は、例えば、ジヒドロフリル、ジヒドロチエニル、ジヒドロピロリル、ピロリニル、オキサゾリニル、チアゾリニル、イミダゾリニル、ピラゾリニル、イソオキサゾリニル、イソチアゾリニル、オキサジアゾリニル、ピラニル、並びにピペリジン、ジオキサン、ピペラジン、トリチアン、モルフォリン、ジチアン及びチオモルフォリンの一不飽和誘導体、さらに、テトラヒドロピリダジニル、テトラヒドロピリミジニル及びテトラジドロトリアジニルがある。
【0024】
上記に定義される基は、本発明に従って、Rにより、1つ若しくはそれ以上のニトロ基、シアノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基若しくはアミノ基により、1若しくはそれ以上のハロゲンにより、又は1つ若しくはそれ以上のニトリル官能基、シアノヒドリン官能基若しくはアルデヒド官能基により置換され得る。
【0025】
[化1]に示す化合物は金属イオン、例えば遷移金属のイオンを多く複合している特徴を有する。
【0026】
金属イオンは2価であることが好ましい。金属イオンは、例えば、Cu2+、Ni2+、Zn2+、Cd2+及びCo2+から選択され、Cu2+がより好ましい。
【0027】
金属イオンはアニオンと結合した形であってもよく、硫酸銅CuSO又は酢酸銅Cu(CHCOO)であることが好ましい。
【0028】
本発明によると、化合物の5員環又は6員環及び[化1]の置換基、言い換えると、[化1]に示す化合物の置換基のみでなく[化1]の全体が、反応性の種であることが重要である。「反応性の種」とは、化合物の光学異性体同士又はエナンチオマー同士のうちの1つと結合できる又は特異的に吸着する原子の配置を意味する。例えばそれは、上記の[化1]に示す化合物の置換基として上記に示す化合物又は下記の[化2]〜[化19]に示す化合物のうちのいずれかが考えられる。さらに、本発明の化合物(上記の[化1]及び下記の[化2]〜[化19])は、特に、溶出の順序の逆転及び選択性の変更ができるように異なる位置に官能性を持たせてもよい。同一の単位で、より大きな多様性が提供される。
【0029】
本発明の一実施例によると、化合物のエナンチオマー同士を分離するためのキラルセレクタは下記の(a)及び(b)を含む。
【0030】
(a)少なくとも1つの[化2]に示す化合物:
【0031】
【化2】

【0032】
ここで、XはCR、O、S、NR、CR-CR、CR-NR、O-CR、S-CR、O-NR、NR-NR又はS-Sを示し、
Y、Z、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R10及びR11は同一又は異なり、請求項1において定義された通りである;
[化2]に示す化合物は、キトサン、ネオマイシン、ネオマイシンB、カナマイシンA、カナマイシンB、ネアミン及びアミカシン以外である;
(b)少なくとも1つの金属イオン。
【0033】
本発明の他の実施例によると、化合物のエナンチオマー同士を分離するためのキラルセレクタは下記の(a)及び(b)を含む。
【0034】
(a)少なくとも1つの[化3]に示す化合物:
【0035】
【化3】

【0036】
ここで、Y、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R10及びR11は同一又は異なり、請求項1において定義された通りである;
[化3]に示す化合物は、キトサン、ネオマイシン、ネオマイシンB、カナマイシンA、カナマイシンB、ネアミン及びアミカシン以外である;
(b)少なくとも1つの金属イオン。
【0037】
本発明の他の実施例によると、化合物のエナンチオマー同士を分離するためのキラルセレクタは下記の(a)及び(b)を含む。
【0038】
(a)少なくとも1つの[化4]又は[化5]に示す化合物:
【0039】
【化4】

【0040】
【化5】

【0041】
ここで、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R10及びR11は同一又は異なり、請求項1において定義された通りである;
[化4]及び[化5]に示す化合物は、キトサン、ネオマイシン、ネオマイシンB、カナマイシンA、カナマイシンB、ネアミン及びアミカシン以外である;
(b)少なくとも1つの金属イオン。
【0042】
本発明の他の実施例によると、化合物のエナンチオマー同士を分離するためのキラルセレクタは下記の(a)及び(b)を含む。
【0043】
(a)少なくとも1つの[化6]又は[化7]に示す化合物:
【0044】
【化6】

【0045】
【化7】

【0046】
ここで、R、R、R、R、R、R、R10及びR11は同一又は異なり、請求項1において定義された通りである;
[化6]及び[化7]に示す化合物は、キトサン、ネオマイシン、ネオマイシンB、カナマイシンA、カナマイシンB、ネアミン及びアミカシン以外である;
(b)少なくとも1つの金属イオン。
【0047】
[化6]及び[化7]の化合物は、アミノグリコシド誘導体である。特に、それらは、天然由来、合成又は半合成、及び天然のアミノグリコシドから切断することによって得られたアミノグリコシドのうちから選択される。
【0048】
アミノグリコシドは、アミン官能基、環内の酸素及び少なくとも1つのヒドロキシル官能基を含む環状化合物である。アミノグリコシドはアミノシドとも呼ばれ、以前から知られ、示されている(例えば米国特許出願公開2003/0109461号又は米国特許出願公開2005/0171035号)。これらは数種類の細菌に有効な抗生物質を構成する。
【0049】
本発明によると、[化1]〜[化19]に示す化合物は、抗生物質又は医薬品に用いられるのではなく、調製用又は分析用のキラル分離を目的とするキラルセレクタとして用いられる。
【0050】
[化1]に示す化合物は以下から選択されることが好ましい。
【0051】
【化8】

【0052】
【化9】

【0053】
【化10】

【0054】
【化11】

【0055】
【化12】

【0056】
【化13】

【0057】
【化14】

【0058】
【化15】

【0059】
【化16】

【0060】
本発明に係る[化1]に示す化合物は、担体に固定化させることができる基を含んでいてもよい。そのような基を含まない場合及びエナンチオマーの分離のために必要な基がある場合は、[化1]に示す化合物に官能性を持たせることができる。
【0061】
本発明によると、例えば、担体に固定化させるために、[化8]〜[化17]に示す化合物に官能性を持たせることが可能である。化合物に官能性を持たせる方法は、文献に記載されている。
【0062】
担体に固定化される基は、炭化水素鎖、芳香族基又は極性基があり得る。このような基は、多様な極性のクロマトグラフィの担体(例えば、C1、C4、C8、C18、フェニル、多孔性グラファイトカーボン、シアノ、シリカ又はジオール型の固定相)に非共有結合により固定化するために選択される。基の選択は、用いられるクロマトグラフィの担体の型に従い行われる。
【0063】
例えば、[化1]に示す化合物は、多孔性グラファイトカーボンにより構成される固定相の場合、芳香族置換基により官能性を持たされる。
【0064】
他の例として、[化1]に示す化合物は、ミセル動電クロマトグラフィにおけるリガンド交換によりエナンチオマーを分離する場合、1つ又はそれ以上の脂溶性鎖により官能性を持たされる。
【0065】
同じく、固体担体にストレプトアビジンにより官能性を持たせると、[化1]に示す化合物はその担体に固定されるためにビオチン化される。
【0066】
代わりに、該化合物に、例えばアルキル又はフェニル鎖といったスペーサーアームにより官能性を持たせると、疎水性の効果(無極性固定相)を介して固定させる固体担体を用いることができる。
【0067】
1つの好ましい実施例によると、本発明に係る[化1]に示す化合物は、上記のRの定義に相当する置換基R'''により5位、6位、3’位及び/又は4’位において置換されたネアミン誘導体である。これは、下記から選択される5位、6位、3’位及び/又は4’位においてアルキル化されたネアミンであってもよい。
【0068】
【化17】

【0069】
【化18】

【0070】
【化19】

【0071】
[化17]は5位がアルキル化されたネアミンを示し、
[化18]は6位がアルキル化されたネアミンを示し、
[化19]は4’位がアルキル化されたネアミンを示している。
【0072】
ネアミン誘導体は、[化20]に示すネアミンから開始する下記の工程により調製され得る。
【0073】
【化20】

【0074】
5位、6位、3’位及び/又は4’位がアルキル化されたネアミンを調製するための方法は、国際特許出願公開2005/060573号に記載の工程に従い、ネアミンのアミン官能基よりも大きなpKaを有する塩基の存在下において、トリチル基、モノメトキシトリチル基又はジメトキシトリチル基を用いてネアミンのアミン官能基を保護する工程を含む。その方法はさらに、アルキル化をさせないヒドロキシル官能基を保護する工程を含む。ヒドロキシル官能基は、例えばp−メトキシベンジル基を用いて保護される。その後に、アルキル化させるヒドロキシル官能基は、ヒドロキシル官能基を脱プロトン化できる塩基の存在下において、例えば1−ブロモオクタデカンと反応させることにより選択的にアルキル化される。その後に、例えばTFA/アニソール混合液処理をすることにより、アミン及びヒドロキシル官能基の脱保護をすることによって、所望の誘導体が得られる。
【0075】
上記の[化17]に示す化合物を得るためには、3’位、4’位及び6位のヒドロキシル官能基が保護される。そのようにすると、5位のヒドロキシル官能基は選択的にアルキル化される。その後に、アミン及びヒドロキシル官能基は、処理によって脱保護されて、[化17]に示す化合物が得られる。[化19]に示す化合物は同様に、p−メトキシベンジル基により3’位及び6位のヒドロキシル官能基を保護し、トリチル化誘導体の選択的アルキル化によって得られる。脱保護は、例えばTFA/アニソール混合液により行われ、その後に[化19]に示す化合物が得られる。
【0076】
6−アルキル化誘導体(上記の[化18]に示す化合物)を調製する方法は、より単純であるため有利である。それは、例えばp−メトキシベンジル基によるヒドロキシル官能基の保護を行うことなく、直接にアルキル鎖が導入されるからである。4つのアミンをトリチル化させた誘導体は、ヒドロキシル官能基を脱プロトン化することができる塩基の存在下において、例えば1−ブロモオクタデカンを用いて、直接にアルキル化される。その反応は、主に6位において起こる。脱保護は、例えばTFA/アニソール混合液により行われる。
【0077】
上記の方法は、固体担体に共有結合的に固定させるために、ネアミン誘導体と一致させる末端官能基(カルボン酸又はアミン等の官能基)を有する鎖を、4’位、5位又は6位に導入するのに便利である。また、その方法は、異なる官能性及びキラル分離の選択性の増強又は増加のためのネアミンの核の認識における異なる特異性の導入も可能とする。
【0078】
本発明は、上記のキラルセレクタから調製されるキラル相にも関する。
【0079】
一般に、本発明に係るキラルセレクタの構造の観点において、キラル分離はリガンド交換に基づく。キラル分離の方法は数多くある。これらの方法は、キラル固定相とキラル移動相(キラル移動緩衝液とも呼ばれる)との2つの分類に分けられる。キラル固定相は、キラルセレクタが固定された固体担体を含み、その一方、キラル移動相(キラル移動緩衝液)は、キラルセレクタを含む液体培地又は移動液を含む。共通する方法の1つは、化合物のエナンチオマー同士を含む溶液を、そのエナンチオマー同士のうちの1つを得るためにキラル固定相に通過させる又はキラル移動相に入れる操作を含む。その後に、慎重な溶出により化合物のエナンチオマーを分離回収する。
【0080】
下記から選択する方法によって、より特異的に行うことができる:
キラル分離のためのクロマトグラフィ法は、特に、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)、超臨界クロマトグラフィ又はガスクロマトグラフィ(SFC又はGC)及び薄層クロマトグラフィ(TLC)である;
キラル分離のための電気泳動法は、特に、ミセル動電クロマトグラフィ(MEKC)、キャピラリゾーン電気泳動(CZE)及び電気クロマトグラフィ(ECC)である。
【0081】
本発明は分析用キラル分離と共に調製用キラル分離に関する。
【0082】
本発明のキラル相は、化合物の数種の型のエナンチオマーの調製を可能とする。これらの化合物は電子供与性基を含まなければならない。特に、アミノ酸(1つの−COOH官能基及び1つの−NH官能基)、アルコール酸(1つの−COOH官能基及び1つの−OH官能基)、ペプチド(−CO−NH)、ジペプチド、トリペプチド等、アミノアルコール(1つの−OH官能基及び1つの−NH官能基)、ヌクレオシド(ヌクレオチド及びリボソーム)及びオリゴペプチドのエナンチオマーの分離が挙げられる。
【0083】
キラル固定相の担体、キラル移動相の移動溶液及びそれらが用いられる条件(pH、温度及び濃度等)は、当業者に知られ、また、文献に記載されている(J.Chromatogr.A 2001,906,1-489; Chiral Analysis,Ed: K.及びM.Bush,Elsevier,2006年10月,第2章)。
【0084】
さらに、本発明は、化合物のエナンチオマー同士又は光学異性体同士を分離するためのキラル固定相を提供し、該キラル固定相は、キラルセレクタが固定化された不活性な固体担体を含み、このキラルセレクタは、上記の[化1]に示す化合物と金属イオンとの混合物である。[化1]に示す化合物と固体担体との固定は共有結合又は非共有結合であってもよい。
【0085】
不活性な固体担体は、例えばアガロース粒子、シリカ粒子、ポリスチレン−ジビニルベンジル及びモノリス相を含む。担体は、例えば18個の炭素原子(オクタデシル)を含むアルキル鎖を結合されたシリカ粒子であってもよい。C18相が過剰に疎水的な場合は、C8(オクチル)又はC4(ブチル)を用いることもできる。担体は、多孔性グラファイトカーボン型又はジオール型若しくはシアノ型である極性が比較的強い担体であってもよい。同一の型の担体は、その他のクロマトグラフィ法(CCM及び超臨界クロマトグラフィ等)に用いることもできる。
【0086】
ラセミ混合物は、移動相と呼ばれる液体によって運ばれる。移動相の例としては、予め決められたCu2+の濃度(例えば0.5mM)を含む水−有機物(水/メタノール)混合液を含む。ラセミ混合物中のエナンチオマー同士は、キラル固定相と相互作用する。そのエナンチオマー同士は、キラルセレクタと化合物のエナンチオマーとによる複合体の可逆的形成によって分離される。これらの複合体は、異なる物理的特徴を有し、この特徴によりエナンチオマー同士の物理的分離を可能とする。移動相及びキラル固定相の2つの相にそれぞれエナンチオマーの分布がある。エナンチオマー同士のうちの1つは、キラルセレクタと複合体を形成し、他方のエナンチオマーは、移動相において浮遊する。このように、エナンチオマー同士の分離を可能とする。
【0087】
従って、キラルセレクタは、分離されるエナンチオマー同士のうちの1つに対して、より強い親和性を示さなければならない。
【0088】
不活性な固体担体に対する上記に定義された[化1]に示す化合物の非共有結合性の固定化(疎水効果、水素結合又はファンデルワールス力による)の方法は、用いられる置換基に従って選択される(例えば、芳香族置換基/多孔性グラファイトカーボンの固定相、脂溶性鎖の置換基/C18固定相及び極性置換基/シアノ固定相等)。
【0089】
上記のように、必要ならば、固体担体に固定するために、例えばネアミン又はグルコサミンといった[化1]〜[化19]のうちの1つに従う化合物に官能性を持たせることができる。
【0090】
本発明は、化合物又は分子のエナンチオマー同士の分離のためのキラル固定相を調製する方法にも関し、この方法は、以下の(a)及び(b)工程を含む。
【0091】
(a)光学活性を有し、分離するエナンチオマー同士のうちの1つに対して親和性を有する上記に定義された[化1]に示す化合物を得る。
【0092】
(b)キラル固定相を得るために、工程(a)において選択された化合物を固体担体に固定する。
【0093】
工程(a)において選択された化合物と担体との固定は、共有結合又は非共有結合によることができる。
【0094】
さらに、本発明は、移動緩衝液と該緩衝液の溶液中のキラルセレクタとを含む、エナンチオマーを分離するためのキラル移動相を提供し、このキラルセレクタは、光学活性を有し、分離するエナンチオマー同士のうちの1つに親和性を有する上記に定義された[化1]に示す化合物から選択される。
【0095】
移動緩衝液は、例えば、TRIS、ホウ酸、リン酸又は酢酸緩衝液を含む。
【0096】
本発明の一実施例によると、移動緩衝液のpHは3〜8の間で変動し、例えば4〜7又は変動が小さい場合は5〜6である。
【0097】
濃度に関しては、ミセル動電クロマトグラフィ(MEKC)と関連して、臨界ミセル濃度よりも大きな濃度において、脂溶性基(例えばC18)により置換される化合物を用いることが好ましい。キャピラリ電気泳動(CEC)の場合は、1mM〜20mMの濃度において、置換されていない化合物又は疎水性基に置換された化合物を用いることが好ましい。
【0098】
本発明の一実施例によると、ミセル動電クロマトグラフィ(キャピラリ電気泳動装置)が用いられる。この場合、エナンチオマー同士を分離するために、脂溶性鎖を含む[化1]に示す化合物、又はそのような基により官能性を持たせた化合物が用いられる。例えば、キャピラリの内側の表面がシアノール基によりマスクされた被膜キャピラリ(PVA型)が用いられてもよい。[化1]に示す化合物は、例えばCu2+である金属イオンの存在下において、臨界ミセル濃度よりも濃度が大きくなるように、移動緩衝液に入れられる。エナンチオマー同士の分離は溶質の移動率の差に基づき、それは結合形固定ミセル相(ジアステレオ異性複合体の形成)との相互作用に依存する。
【0099】
本発明の他の態様としては、以下の(a)〜(c)を含む、化合物のエナンチオマー同士を分離する方法に関する。
【0100】
(a)固定又は移動キラル相を調製する。
【0101】
(b)エナンチオマー同士を分離するために、エナンチオマーと前記のキラル相とを接触させる。
【0102】
(c)前記の化合物の少なくとも1つのエナンチオマーを収集する。
【0103】
キラル相の調製を含む工程(a)は、複数の工程を含んでもよい。
【0104】
キラル固定相の場合、固体担体に、上記に定義された[化1]に示す化合物の固定化をすることが必要であってもよい。固定化の工程は、[化1]に示す化合物と固体担体との間の共有結合又は非共有結合の形成を含む。[化1]に示す化合物はエナンチオマーに対する親和性を有さなければならないため、前記の結合の形成は[化1]に示す化合物を変性させることなく行わなければならない。
【0105】
工程(b)は、[化1]に示す化合物と金属イオンと例えばアミノ酸又はヌクレオシド等の化合物のエナンチオマーのうちの1つとによる3元複合体の形成に相当する。
【0106】
化合物のエナンチオマー同士の混合物は、特に、反応混合物から得られる、又は精製形態において存在し得る。
【0107】
工程(b)の一実施例において、エナンチオマー同士の混合物を含む溶液は、クロマトグラフィシステムにおけるキラル固定相と接触する。この工程は、2つのエナンチオマーのうちの1つの吸着と同時に他のエナンチオマーの除去に相当する。エナンチオマー同士のうちの1つは、キラルセレクタにより特異的に認識され、このエナンチオマーの保持時間が、同じ化合物の他のエナンチオマーよりも長いことにより顕在化される。保持時間の差異が、クロマトグラフィのカラムの末端又は電気泳動キャピラリの末端におけるエナンチオマー同士のうちの少なくとも1つの分離回収を可能とする。
【0108】
工程(b)の他の実施例において、キラルセレクタは、例えばキャピラリ電気泳動システムにおける移動緩衝液に加えられる。エナンチオマー同士の混合物を含む溶液は、移動緩衝液を含むキャピラリに注入される。前記の通り、エナンチオマー同士のうちの1つは、キラルセレクタにより特異的に認識され、このエナンチオマーは、同一の化合物の他のエナンチオマーよりも長い移動時間により顕在化される。この保持時間の差異が、キャピラリの末端におけるエナンチオマー同士のうちの1つの分離回収を可能とする。
【0109】
キラル固定相の担体、キラル移動相の移動溶液及びそれらを用いる条件(pH、温度及び濃度等)は、当業者に知られ、また、文献に記載されている(J.Chromatogr. A 2001,906,1-489; Chiral Analysis, Ed: K及びM.Bush,Elsevier, 2006年10月,第2章)。
【0110】
一実施例は、化合物のエナンチオマー同士を分離する方法は、8℃〜35℃の間、例えば18℃〜35℃の間、好ましくは24℃〜28℃の間の温度において行われる。
【0111】
本発明の他の態様としては、化合物のエナンチオマー同士を含む混合物中の1つのエナンチオマーの量を測定する方法に関し、その方法は以下の(a)〜(c)を含む。
【0112】
(a)上記の通りに、エナンチオマー同士を分離するために、エナンチオマー同士と固定キラル相又は移動キラル相とを接触させる。
【0113】
(b)前記の化合物の少なくとも1つのエナンチオマーを回収する。
【0114】
(c)前記の化合物のエナンチオマーを測定する。
【0115】
本発明の最後の態様としては、クロマトグラフィ法によるキラル分離、電気泳動法によるキラル分離及び電気クロマトグラフィ法によるキラル分離における上記に定義したキラルセレクタの使用にも関する。
【0116】
以下の実施例及び図面は、本発明の利点及び特徴のうちの数種を示す。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】移動相において、銅の濃度と保持因子kとの相関を示すグラフである。キラル固定相(CSP):1×150mm、3μm;流速:40μl/min;温度:24℃;250nL注入;D−Lプロリン0.625mM(エナンチオマーのそれぞれの濃度);移動相:98−2%(HO−MeOH)+CuSO;λ=236nm。
【図2】移動相において、銅の濃度とエナンチオ選択性及び分離能との相関を示すグラフである。CSP:1×150mm、3μm;流速:40μl/min;温度:24℃;250nL注入;D−Lプロリン0.625mM(エナンチオマーのそれぞれの濃度);移動相:98−2%(HO−MeOH)+CuSO;λ=236nm。
【図3】プロリンのエナンチオマー同士の分離を示すグラフである(移動相は10mMのCuSOを含む)。CSP:1×150mm、3μm;流速:40μl/min;温度:24℃;250nL注入;D−Lプロリン0.625mM(エナンチオマーのそれぞれの濃度);移動相:98−2%(HO−MeOH)+CuSO;λ=236nm。
【図4】(a)は1/Tとln(α)との相関を示し、(b)は1/Tとkとの相関を示すグラフである。CSP:1×150mm、3μm;流速:40μl/min;250nL注入;D−Lプロリン0.625mM(エナンチオマーのそれぞれの濃度);移動相:98−2%(HO−MeOH)+CuSO(0.5mM);λ=236nm。
【図5】長期における選択性及び分離能の安定性を示すグラフである。CSP:1×150mm、3μm;移動相:98−2%(HO−MeOH)+CuSO(0.5mM);温度:20℃;流速:40μl/min;250nL注入;D−Lプロリン0.625mM(エナンチオマーのそれぞれの濃度);λ=236nm。
【図6】4’モノC18ネアミンカラムによるプロリンのエナンチオマー同士の分離を示すグラフである。移動相:HO−CHOH(98:2、v/v)+CuSO0.5mM;CSP:0.3×150mm、3μm;温度:20℃;注入量:0.25μL;エナンチオマーのそれぞれの濃度:0.5mM;流速:2μl/min;検出:236nm。
【発明を実施するための形態】
【0118】
1.装置及び方法
1.1.装置
本実施例における検討は、SHIMADZU SIL 10ATポンプ(Sarregumines,フランス)、SHIMADZU SIL 10AD注入システム(5−モノC18ネアミン)又は250nL注入ループが取り付けられたCHEMINERT TM CN2−4346注入バルブ、及びSHIMADZU SPD−10A紫外線−可視光検出器(ネアミンの固定の検出の場合はλ=192nm;注入された溶質の検出の場合はλ=220nm及び236nm)からなる2つのマイクロHPLCステーションによって行われる。ダイオネクス社(Amsterdam,オランダ)から得られるRP−C18(Inertsil−ODS−3)型の逆相カラムの多くは、IGLOOCILオーブン(Interchim社)による温度制御下において用いられる。
【0119】
1.2.試薬
ラセミ体及びエナンチオマーの全ては、Sigma-Aldrich社(Saint-Quentin,フランス)、Bachem社(Weil am Rhein,ドイツ)又はChemGenes社(Wilmington,アメリカ)から入手した。
【0120】
硫酸銅はProlabo社(Rhone-Poulenc,フランス)から供給された。
【0121】
HPLCグレードのメタノールは、Fisher Scientific社(Leicestershire,イギリス)から購入した。
【0122】
水は逆浸透カートリッジを備えたエルガスタットオプション水精製システム(Odil,Talant,フランス)から得られた。
【0123】
4’−モノC18ネアミン、5−モノC18ネアミン及び6−モノC18ネアミンは下記の通りに調製された。
【0124】
1.3.4’−モノC18ネアミン、5−モノC18ネアミン及び6−モノC18ネアミン誘導体の調製
4’−モノC18ネアミン([化19]に示す化合物)及び5−モノC18ネアミン([化17]に示す化合物)は、国際特許出願公開2005/060573号に記載された工程に従い調製される。6−モノC18ネアミン([化18]に示す化合物)は、ヒドロキシル官能基の保護のないテトラトリチル化ネアミンから直接に、ヒドロキシル官能基の保護をすることなく調製される。
【0125】
この工程は下記を含む:
テトラトリチル化誘導体を生成するために、トリチル基によりネアミンの1位、3位、2’位及び5’位の4つのアミン官能基の保護、及び
以下のヒドロキシル官能基のp−メトキシベンジル基による保護:
4’−モノC18ネアミンにおける6位及び3’位、
5−モノC18ネアミンにおける6位、3’位及び4位。
【0126】
トリチル基によるネアミンのアミン官能基の保護工程は、ネアミンのアミン官能基のpKaよりも大きいpKaをもつ塩基の存在下において行われる。この基準に適う塩基の例としては、国際特許出願公開2005/060573号に記載されている。
【0127】
メトキシベンジル基によるネアミンのヒドロキシル官能基の保護工程は、ヒドロキシル官能基の脱プロトン化ができる塩基の存在下において行われる。この基準に適う塩基の例としては、国際特許出願公開2005/060573号に記載されている。
【0128】
アミン及びヒドロキシル官能基の脱保護は、酸性培地、例えばTFA/アニソール混合液中において起こる。
【0129】
1.3.1.5−C18−ネアミン誘導体([化17]に示す化合物)の合成
1位、3位、2’位及び5’位のアミン官能基並びに6位、3’位及び4’位のヒドロキシル官能基が保護されたネアミン(1.0g;0.60mmol)は、アルゴン存在下の外界温度において、60mLの無水DMFに溶解され、そこに水素化ナトリウムと油との懸濁液(NaH 60%、250mg;6.25mmol)が加えられる。その30分後、その反応液に1−ブロモオクタデカン(1.0g;3.0mmol)が加えられ、減圧下において、濃縮される前に70℃で24時間撹拌される。その残留物はジクロロメタンに溶かされ、この有機溶液は飽和塩化アンモニウム、水及び飽和NaCl溶液を用いて洗浄される。この有機相は、硫酸マグネシウム上において乾燥され、ろ過され、その後蒸発乾固される。この未精製の生成物は、溶出剤としてCHCl/シクロヘキサン(20/80)混合液を用いて、アルミナカラムにより精製されて、5位がアルキル化された保護ネアミンが68%の収率で得られる。その保護基は、後に、E.Riguet等,Tetrahedron,2004の論文に記載された方法に相当するトリフルオロ酢酸/アニソール混合液処理による除去がなされて、5−C18−ネアミン([化17]に示す化合物)が64%の収率で得られる。
【0130】
1H NMR(400MHz,D2O):σ=5.70(d,J=3.6Hz,1H,H1'), 3.77-3.96(m,4H,H3',H4,H5',H6), 3.52-3.68(m,3H,H5,CH2O鎖), 3.37-4.48(m,2H,H3,H4'), 3.30(t,J=9Hz,1H,H6'b), 3.19-3.27(m,2H,H1,H2'), 3.04(dd,J=8.4及び13.2Hz,1H,H6'a), 2.35(dd,J=4.0及び12.4Hz,1H,H2eq), 1.76(dd,J=12.4Hz,1H,H2ax), 1.43(s,2H,CH2鎖), 1.05-1.25(m,30H,CH2鎖), 0.76(t,J=6.8Hz,3H,CH3); 13C NMR(100MHz,D2O):σ=92.9(C1'), 82.4(C5), 73.5(C4), 72.9(C6), 72.2(CH2O鎖), 70.7(C4'), 70.0(C5'), 68.7(C3'), 53.5(C2'), 49.9(C1), 48.9(C3), 40.5(C6'), 31.8, 29.7, 29.5, 29.4, 29.3及び29.2(CH2鎖), 27.9(C2), 25.3及び22.5(CH2鎖), 13.7(CH3鎖);MS(FAB):m/z=575[M+H]+, 415, 397, 161;HRMS(ESI):[M+H]+ m/z理論値=575.4548,測定値=575.4751, [M+Na]+ m/z理論値=597.4567,測定値=597.4546。
【0131】
1.3.2.4’−C18−ネアミン誘導体([化19]に示す化合物)の合成
1位、3位、2’位及び5’位のアミン官能基並びに6位及び3’位のヒドロキシル官能基が保護されたネアミン(1.0g;0.65mmol)は、アルゴン存在下の外界温度において、60mLの無水DMFに溶解され、そこに水素化ナトリウムと油との懸濁液(NaH 60%、520mg;13mmol)が加えられる。その30分後、その反応液に1−ブロモオクタデカン(325mg;0.95mmol)が加えられ、減圧下において、濃縮される前に70℃で24時間撹拌される。その残留物はジクロロメタンに溶かされ、この有機溶液は飽和塩化アンモニウム、水及び飽和NaCl溶液を用いて洗浄される。この有機相は硫酸マグネシウム上において乾燥され、ろ過され、その後蒸発乾固される。この未精製の生成物は、溶出剤としてCHCl/シクロヘキサン(30/70)混合液を用いて、アルミナカラムにより精製されて、4’位がアルキル化された保護ネアミンが40%の収率で得られる。その保護基は、後に、E.Riguet等,Tetrahedron,2004の論文に記載された方法に相当するトリフルオロ酢酸/アニソール混合液処理による除去がなされて、4’−C18−ネアミン([化19]に示す化合物)が60%の収率で得られる。
【0132】
1H NMR(400MHz,D2O):σ=5.98(d,J=3.6Hz,1H,H1'), 4.00-4.16(m,3H,H3',H4,H5',H6), 3.83(m,1H,CH2O鎖), 3.73(t,J=9.2Hz,1H,H5), 3.50-3.65(m,4H,H3,H2',H6,1H,CH2O鎖), 3.26-3.46(m,3H,H1,H4',H6'b), 3.20(m,1H,H6'a), 2.51(m,1H,H2eq), 1.94(dd,J=12.4Hz,1H,H2ax), 1.53(s,2H,CH2鎖), 1.05-1.35(m,30H,CH2鎖), 0.78(t,J=6.4Hz,3H,CH3); 13C NMR(100MHz,D2O):σ=95.2(C1'), 79.5(C4'), 77.1(C4), 75.2(C5), 74.3(CH2O鎖), 72.6(C6), 70.0(C5'), 68.6及び68.5(C5'及びC3'), 53.8(C2'), 49.8(C1), 48.7(C3), 40.6(C6'), 32.0, 29.9, 29.8及び29.5(CH2鎖), 28.2(C2), 25.7及び22.7(CH2鎖), 13.9(CH3鎖);MS(FAB):m/z=615[M+K]+,575[M+H]+, 413, 395, 366, 324, 203, 163;HRMS(ESI):[M+H]+ m/z理論値=575.4548,測定値=575.4748。
【0133】
1.3.3.6−C18−ネアミン誘導体([化18]に示す化合物)の合成
1位、3位、2’位及び5’位がテトラトリチル化されたネアミン(1.5g;1.16mmol)は、アルゴン存在下の外界温度において、60mLのDMF/THF混合液(8mL/8mL)に溶解され、そこに水素化ナトリウムと油との懸濁液(NaH 60%、439mg;11mmol)が加えられる。その30分後、その反応液に1−ブロモオクタデカン(850mg;2.55mmol)が加えられ、減圧下において、濃縮される前に外界温度で4時間撹拌される。その残留物はジクロロメタンに溶かされ、この有機溶液は飽和塩化アンモニウム、水及び飽和NaCl溶液を用いて洗浄される。この有機相は硫酸マグネシウム上において乾燥され、ろ過され、その後蒸発乾固される。この未精製の生成物は、溶出剤としてCHCl/MeOH(99.5/0.5)混合液を用いて、アルミナカラムにより精製されて、6位がアルキル化された保護ネアミンが21%の収率で得られる。その保護基は、後に、E.Riguet等,Tetrahedron,2004の論文に記載された方法に相当するトリフルオロ酢酸/アニソール混合液処理によれ除去がなされて、4’−C18−ネアミン([化18]に示す化合物)が56%の収率で得られる。
【0134】
1H NMR(400MHz,D2O):σ=5.83(d,J=3.2Hz,1H,H1'), 3.80-3.93(m,3H,H3',H4,H5'), 3.78(m,J=7.6Hz,1H,CH2O鎖), 3.67(t,J=9.2Hz,1H,H5), 3.52(m,J=7.6Hz,1H,CH2O鎖), 3.29-3.41(m,5H,H3,H2',H6,H4',H6'b), 3.10-3.24(m,2H,1H,H6'a), 2.37(m,1H,H2eq), 1.82(dd,J=12.4Hz,1H,H2ax), 1.48(s,2H,CH2鎖), 1.05-1.25(m,30H,CH2鎖), 0.75(t,J=6.8Hz,3H,CH3); 13C NMR(100MHz,D2O):σ=95.9(C1'), 80.5(C6), 77.8(C4), 75.7(C5), 74.2(CH2O鎖), 70.8(C4'), 69.2(C5'), 68.3(C3'), 53.5(C2'), 49.0(C1), 48.4(C3), 40.2(C6'), 31.8, 29.6, 29.5及び29.3(CH2鎖), 28.3(C2), 25.3及び22.5(CH2鎖), 13.7(CH3鎖);MS(FAB):m/z=615[M+K]+,575[M+H]+, 415, 397, 161;HRMS(ESI):[M+H]+ m/z理論値=575.4548,測定値=575.4749。
【0135】
1.4.固定相の調製
18個の炭素原子を含む鎖を有する5位、6位及び4’位の3つのネアミンの異性体は、水/メタノール(98/2%)混合液に溶解される。これらのそれぞれの最終濃度は7.5×10−3mol/l及び11.8×10−3mol/lである。それらは、その後に、前端分析によるC18逆相クロマトグラフィのためのミクロボアカラム(300mm id×15cm)に固定化される。C18固定相にネアミン誘導体を固定化させるために、2つの方法が用いられる。
【0136】
(a)90μlの4’−モノC18ネアミンを、外界温度において3μl/minの流速で注入する。この操作を3回繰り返す。これにより、10μlのカラムに対して、3.18μmolのネアミンが供給される。
【0137】
(b)90μlの5−モノC18ネアミンを、外界温度において1μl/minの流速で注入する。この操作を3回繰り返す。これにより、10μlのカラムに対して、1.17μmolのネアミンが供給される。
【0138】
ネアミン誘導体は不可逆的には固定されない(非共有結合、疎水効果)。
【0139】
両方の場合において用いられる移動相は、水/メタノール(98/2%、v/v)により構成される。
【0140】
1.5.固定化されたネアミンの量の評価
銅はネアミンと複合体を形成する性質を有する。
【0141】
530μlの5mM硫酸銅溶液を1μl/minを注入する。用いられる移動相は水からなる。この分析は217nm及び220nmにおいて記録する。結合した銅の量、すなわち活性化ネアミンの量は、前端分析により得られたプラトーの第1の誘導体から算出される。この方法による固定化されたネアミンの量は、10μlのカラムに対して0.3μmolである。
【0142】
2.キラルリガンド交換クロマトグラフィ
2.1.クロマトグラフィの条件
移動相は異なる濃度において加えられたCuSOを含むメタノール/水(2/98%)混合液から構成される。流速は分離する分子に依存し1μl/min〜8μl/minである。
【0143】
エナンチオマーのサンプルは、水又はメタノール/水混合液で調製され、濃度は溶質に依存する。
【0144】
250nL又は100nLを異なる3通りの温度において注入し、保持時間を計測する。
【0145】
見かけの保持因子kは下記の式を用いて算出される:
k=(t−t)/t
ここで、tはエナンチオマーのそれぞれの保持時間であり、tは保持されない溶質(チオ尿素)の保持時間である。
【0146】
保持時間及びカラムの不感時間は、別のカラム不感時間により補正される。
【0147】
エナンチオ選択性αは下記の式により算出される:
α=k/k
ここで、kは複数のエナンチオマー同士のうち、より保持されるエナンチオマーの保持因子であり、kは保持されない方のエナンチオマーの保持因子である。
【0148】
分離能Rsは下記の式により算出される:
Rs=2[(tr−tr)/(w+w)]
ここで、trはエナンチオマー同士のうち、より保持されるエナンチオマーの保持因子であり、trは保持されない方のエナンチオマーの保持因子であり、wはより保持されるエナンチオマーのピークにおける底部の幅であり、wは保持されない方のエナンチオマーのピークにおける底部の幅である。
【0149】
2.2.操作条件の決定
使用するための最適な操作条件を決定するために、4位を修飾したネアミンの保持及びエナンチオ選択性における異なるクロマトグラフィ条件の影響を、試験アミノ酸のプロリンにおいて検討する。
【0150】
2.2.1.銅の濃度の影響
まず、エナンチオマーの分離の最適化を目的として、カラムにおける保持に対する銅の影響を理解し、分析物と固定相との間の相互作用を調節するために、銅の濃度の影響を24℃において検討する。分析はメタノール/HO(2/98%)混合液及び0.1mM〜10mMの異なる濃度のCuSOからなる移動相を用いて行われる。
【0151】
D−プロリンの見かけの保持時間k(白の四角形)及びL−プロリンの見かけの保持時間(黒の四角形)の変化を図1に示している。
【0152】
分離能Rs(黒の丸)及び選択性α(白い丸)の変化を図2に示している。
【0153】
移動相に高濃度の銅を添加すると、L系のエナンチオマーの見かけの保持因子が顕著に減少し(見かけの保持因子k=2.51がk=0.55となる)、D系のエナンチオマーにおいても同じようになる(見かけ上の保持因子k=4.18がk=1.38となる)。
【0154】
対照的に、分離能Rs及び選択性αはCuSOの濃度と共に増加する(図2)。
【0155】
CuSO=5mMの場合、Rs=2.75、α=2.23
CuSO=10mMの場合、Rs=2.90、α=k2/k1=1.38/0.55=2.51。
【0156】
分析時間及び分離能の点における最適条件は、5mM〜15mMのCu2+濃度において得られ、好ましくは7mM〜13mMであり、その中でも特に10mMのCu2+濃度が好ましい。
【0157】
図3は10mMのCu2+を含む移動相を用いた場合におけるプロリンのエナンチオマーの分離プロファイルを示している。分離能について、最小分析時間においては最適であるように見える。
【0158】
しかしながら、カラムはこれらの条件において、さらなる時間をかけると安定しない(下記に示す)。
【0159】
2.2.2.金属の型及び結合している無機アニオンの型の影響
プロリンと4’位が修飾されたネアミンとの間で形成されたジアステレオ異性体の複合体の保持における中心位置の金属イオンの影響については、プロリンのエナンチオマーにおいて、Cu2+をNi2+、Zn2+又はCo2+と換えて検討する。
【0160】
その結果、D−Lプロリンの分離において、最も良好なエナンチオ選択性を示した金属(0.5mM)は銅であった(α=1.505)。エナンチオ選択性は亜鉛を用いると減少した(α=1.2)。ニッケル及びコバルトを用いると、分離は見られなかった。
【0161】
銅と結合している硫酸イオン及び酢酸イオンの2つの無機アニオン(それぞれ0.5mMのCuSO及びCu(CHCOO))を、プロリンの保持及びエナンチオ選択性の点について検討する。
【0162】
硫酸イオンは酢酸イオンと比較してD型のエナンチオマーの保持を顕著に増強させた(硫酸イオンが3.39であるのに対して酢酸イオンは2.86)が、L型のエナンチオマーの保持においては影響しなかった(硫酸イオンが1.85、酢酸イオンが1.89)。
【0163】
選択性及び分離能は、硫酸イオン存在下においてそれぞれ1.84及び2.09であり、酢酸イオン存在下においては1.54及び1.24と減少した。
【0164】
従って、Ni2+ニッケルイオン又はCo2+コバルトイオンよりもCu2+銅イオン又はZn2+亜鉛イオンを用いることが好ましい。
【0165】
さらに、酢酸銅Cu(CHCOO)よりも硫酸銅CuSOを用いることが好ましい。
【0166】
2.2.3.温度の影響
本検討は8℃〜28℃の間の異なった温度Tにおいて行われる。
【0167】
図4(a)及び図4(b)に示すように、プロリンにおける保持因子k及びエナンチオ選択性αを比較すると、温度Tの上昇に従って溶質の固定量の減少(因子kの減少)及び選択性の減少が起こることがわかる。
【0168】
温度により分離能が顕著に変化しないように、18℃〜35℃において行われることが好ましく、特に、24℃〜28℃が好ましい。
【0169】
2.2.4.カラムの安定性
キラル固定相(CSP)の安定性は、温度及び移動相(MeOH/HO:2%/98%+0.5mMCuSO)が同一の条件において、42日間、プロリンのエナンチオマーのエナンチオ選択性α及び分離能Rsを比較することにより評価される。
【0170】
図5に示すように、CSPは選択性α(黒い丸)及び分離能(白い丸)の値が安定している限り安定している。
【0171】
さらに、移動相に2%のメタノールを加えても4’位が修飾されたネアミンの固定に影響しないことが観察された。
【0172】
7%のメタノールを用いた予備試験では、カラムのキラル識別能の減少が見られた。
【0173】
メタノールは、修飾されたネアミンC18がクロマトグラフィの担体に固定化されることに直接に作用する。
【0174】
同じように、非常に高い濃度のCu2+の存在下におけるCSPsの使用は、カラムの性能の悪化を引き起こす。
【0175】
2.3.複数の種類のエナンチオマーの分離
上記の結果は、硫酸イオンと結合している銅がプロリンのエナンチオマーの分離のために最も有利な金属イオンであることを示し、また、その濃度が修飾されているネアミンのキラル識別特性に影響する因子であることを示している。カラムの最適な安定性は、Cu2+濃度が0.5mMの場合に見られる。
【0176】
これらの条件は、従って、下記の試験に用いられる。
【0177】
これらの条件の下に製造された固定相は、アミノ酸、ジペプチド及びヌクレオシドのような分子の約10組のエナンチオマーの分離を可能とする。
【0178】
検出は220nm又は236nmの波長のUVを用いて行う。カラムの温度は20℃に固定する。注入する容量は0.25μLとする。
【0179】
4位がアルキル化されたネアミン誘導体から調製されたキラル固定相を用いた場合において、アミノ酸(プロリン)のエナンチオマー同士のクロマトグラフィによる分離の代表的な例を図6に示している。
【0180】
下記の表は、2つの異なるキラル固定相における異なる化合物のエナンチオマーの分離の結果を示している。
【0181】
【表1】

【0182】
[表1]:エナンチオ選択性の変化及び炭化水素鎖が吸着しているネアミンの位置(5位及び4’位)の官能性によるエナンチオマーの溶出の順序の変化の例である。2つの固定相において作用条件は同一である。
5−モノC18ネアミンにおいて、これらの化合物の溶出の順序は逆転している(L>D)。
【0183】
上記の[表1]より、以下のことが明白である:
本発明のキラルセレクタは、アミノ酸及びヌクレオシドの分離を可能とする、また、化合物の異なる位置に機能付与することにより、エナンチオマーの溶出の順序を逆転することを可能とし(グルタミン酸及びアスパラギン酸)、それは、特にエナンチオマーの純度の決定又は少量存在するエナンチオマーを最初に溶出させることにおいて非常に有利であり、また、キラル固定相のエナンチオ選択性を変更することを可能とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物のエナンチオマー同士を分離するためのキラルセレクタであり、
以下の(a)及び(b)を含んでいる:
(a)少なくとも1つの[化1]に示す化合物:
【化1】

ここで、WはCR、NR、O又はSを示し、
XはCR、NR、O又はSを示し、
YはCR、NR、O又はSを示し、
ZはCR1011、NR10、O又はSを示し、
はOH又はSHを示し、
、R、R、R、R、R、R、R、R10及びR11は同一又は異なり、以下のいずれかを示す:
H、
OH、SH、
アミン基、
直鎖状又は分枝鎖状に1個〜30個の炭素原子を含むアルキル基、ハロアルキル基又はヘテロアルキル基、
直鎖状又は分枝鎖状に2個〜30個の炭素原子を含むアルケニル基又はアルキニル基、
直鎖状又は分枝鎖状に3個〜30個の炭素原子を含む1つ又はそれ以上のシクロアルキル基、シクロアルケニル基又はシクロアルキニル基、
1つの環毎に3個〜10個の炭素原子を含む1つ又はそれ以上のアリール基又はヘテロアリール基、
前記の定義を有するアリール及びアルキルに関する1個〜30個の炭素原子を含むアルカリール基又はアラルキル基、
直鎖状又は分枝鎖状に1個〜30個の炭素原子を含むアルコキシ基、チオアルキル基、スルホニルアルキル基又はアミノアルキル基、
直鎖状又は分枝鎖状に1個〜30個の炭素原子を含むアルコキシアルキル基、アルキルチオアルキル基、アルキルスルホニルアルキル基又はアルキルアミノアルキル基、
及び1つの環毎に5個〜10個の炭素原子を含む1つ又はそれ以上のヘテロサイクリック基;
前記の全ての基は、Rにより、1つ若しくはそれ以上のニトロ基、シアノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基若しくはアミノ基により、1つ若しくはそれ以上のハロゲンにより又は1つ若しくはそれ以上のニトリル、シアノヒドリン若しくはアルデヒド官能基により任意に置換される;
[化1]に示す化合物は、キトサン、ネオマイシン、ネオマイシンB、カナマイシンA、カナマイシンB、ネアミン及びアミカシン以外である;
(b)少なくとも1つの金属イオン。
【請求項2】
以下の(a)及び(b)を含むことを特徴とする請求項1に記載のキラルセレクタ:
(a)少なくとも1つの[化2]に示す化合物:
【化2】

ここで、XはCR、O、S、NR、CR-CR、CR-NR、O-CR、S-CR、O-NR、NR-NR又はS-Sを示し、
Y、Z、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R10及びR11は同一又は異なり、請求項1において定義された通りである;
[化2]に示す化合物は、キトサン、ネオマイシン、ネオマイシンB、カナマイシンA、カナマイシンB、ネアミン及びアミカシン以外である;
(b)少なくとも1つの金属イオン。
【請求項3】
以下の(a)及び(b)を含むことを特徴とする請求項2に記載のキラルセレクタ:
(a)少なくとも1つの[化3]に示す化合物:
【化3】

ここで、Y、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R10及びR11は同一又は異なり、請求項1において定義された通りである;
[化3]に示す化合物は、キトサン、ネオマイシン、ネオマイシンB、カナマイシンA、カナマイシンB、ネアミン及びアミカシン以外である;
(b)少なくとも1つの金属イオン。
【請求項4】
以下の(a)及び(b)を含むことを特徴とする請求項3に記載のキラルセレクタ:
(a)少なくとも1つの[化4]又は[化5]に示す化合物:
【化4】

【化5】

ここで、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R10及びR11は同一又は異なり、請求項1において定義された通りである;
[化4]及び[化5]に示す化合物は、キトサン、ネオマイシン、ネオマイシンB、カナマイシンA、カナマイシンB、ネアミン及びアミカシン以外である;
(b)少なくとも1つの金属イオン。
【請求項5】
以下の(a)及び(b)を含むことを特徴とする請求項4に記載のキラルセレクタ:
(a)少なくとも1つの[化6]又は[化7]に示す化合物:
【化6】

【化7】

ここで、R、R、R、R、R、R、R10及びR11は同一又は異なり、請求項1において定義された通りである;
[化6]及び[化7]に示す化合物は、キトサン、ネオマイシン、ネオマイシンB、カナマイシンA、カナマイシンB、ネアミン及びアミカシン以外である;
(b)少なくとも1つの金属イオン。
【請求項6】
前記[化1]に示す化合物は、以下の[化8]〜[化19]に示す化合物から選択されることを特徴とする請求項1に記載のキラルセレクタ:
【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

ここで、[化17]は5位がアルキル化されたネアミンを示し、
[化18]は6位がアルキル化されたネアミンを示し、
[化19]は4’位がアルキル化されたネアミンを示す。
【請求項7】
前記金属イオンは、Cu2+、Ni2+、Zn2+、Cd2+又はCo2+から選択される2価の金属イオンである請求項1〜6のうちのいずれか1項に記載のキラルセレクタ。
【請求項8】
請求項1〜7のうちのいずれか1項に記載のキラルセレクタ及び移動液を含んでいるキラル移動相。
【請求項9】
請求項1〜7のうちのいずれか1項に記載のキラルセレクタ及び固体担体を含んでいるキラル固定相。
【請求項10】
前記固体担体は、アルキル鎖が結合しているシリカ粒子を含む請求項9に記載のキラル固定相。
【請求項11】
以下の(a)及び(b)を含む化合物のエナンチオマー同士を分離する方法:
(a)請求項9若しくは10に記載のキラル固定相又は請求項8に記載のキラル移動相の調製、
(b)分離させるエナンチオマーと前記キラル固定相又はキラル移動相との接触、及び、
(c)少なくとも1つの前記化合物のエナンチオマーの回収。
【請求項12】
前記化合物は、アミノ酸、ペプチド、ジペプチド、トリペプチド、アミノアルコール、アルコール酸及びヌクレオシドから選択される化合物である請求項11に記載の化合物のエナンチオマーを分離する方法。
【請求項13】
化合物のエナンチオマー同士を分離するために用いる請求項1に記載の[化1]に示す化合物及び金属イオンの用途。
【請求項14】
化合物のエナンチオマーを含む混合物中における前記化合物のエナンチオマーの量を測定する方法であって、該方法は、以下の(a)及び(b)を含む:
(a)分離させるエナンチオマーと請求項9若しくは10に記載のキラル固定相又は請求項8に記載のキラル移動相との接触、
(b)少なくとも1つの前記化合物のエナンチオマーの回収、及び、
(c)前記化合物のエナンチオマーの定量。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−522696(P2010−522696A)
【公表日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−553180(P2009−553180)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際出願番号】PCT/FR2008/000327
【国際公開番号】WO2008/132340
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(502298435)ユニヴェルシテ・ジョセフ・フーリエ (9)
【Fターム(参考)】