説明

化合物半導体太陽電池

【課題】化合物半導体太陽電池において、化合物半導体層とバッファー層界面において接合の不整合性に起因してキャリアの再結合が起こるために、太陽電池特性の低下が起こる可能性がある。
【解決手段】基板上に電極層、I−III−VI2型化合物半導体からなる化合物半導体層A、I−III−VI2型化合物半導体からなる化合物半導体層B、格子定数が0.490〜0.550nmを有するバッファー層、透明電極層がこの順に形成されている化合物半導体太陽電池であって、当該化合物半導体層Bが当該バッファー層に隣接しており、かつ当該化合物半導体層Bの格子定数が0.500〜0.560nmを有し、さらに当該化合物半導体層Aと異なる組成からなることを特徴とする化合物半導体太陽電池とすることで、化合物半導体とバッファー層界面でのキャリアの再結合を抑制することができ、特に開放電圧を向上することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体太陽電池において、化合物半導体層とバッファー層との界面でのキャリアの再結合を抑制することで、太陽電池特性を向上させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化合物半導体太陽電池は、化合物半導体層中の構成元素の組成比を変えることでバンドギャップを容易に制御できるほか、化合物半導体層の吸収係数が高く結晶シリコン太陽電池よりも原料が少なくて済むため、薄膜シリコン型と同様に高効率薄膜太陽電池としての期待が大きい。化合物半導体太陽電池のうち、I−III−VI2型化合物半導体を用いた化合物半導体太陽電池は、GaAs太陽電池よりも生産性やコスト、長期信頼性が実証されていることなどから、新しい太陽電池材料として注目されている。
【0003】
これらのI−III−VI2型化合物半導体は、化合物半導体層とバッファー層との接合界面のコンタクトの課題がある。CIGS層の表面にはCu欠陥層が存在し、バンドギャップの異なる層が存在することになる。このCu欠陥層はCIGS層で光によって励起された導電性キャリアの再結合中心となり、太陽電池特性を低下させる可能性がある。
【0004】
I−III−VI2型化合物半導体の中でもCu(In、Ga)Se2(以下CIGS)は代表例であり、例えば特許文献1に基板/金属電極/CIGS層/バッファー層/透明電極層の集積の例などが記載されている。このようなCIGSの他にも例えば特許文献2に記載されているようにLMX2(L:Cu、Ag、M:Al、Ga、In、X:S、Se)がある。これらの特許文献では、バッファー層にCdSを用いることで、Cdがバッファー層からCIGS層に拡散し、欠陥の補償をしている。このバッファー層により形成されたヘテロ接合によりキャリアの再結合は抑制できるが、Cdの毒性に課題がある。また、特許文献1ではZnOおよびInSをバッファー層として用いる記載もあるが、ZnOの格子定数が0.490〜0.550nmであるのに対し、CIGS層の格子定数が0.561〜0.577nmであり、CIGS層とバッファー層の格子定数が大きく異なる。また、InSの格子定数は、a軸:0.909nm、b軸:0.389nm、c軸:1.705nmであり、これらのうち、どの軸がCIGS層との界面と平行に配向しているのか定かでないが、いずれもCIGS層の格子定数と大きく異なる。従って、CIGS層とバッファー層との格子整合性は十分でないと予想される。
【0005】
非特許文献1にはグレーデッドバンドギャップ構造と呼ばれる、膜厚方向でバンドギャップが変化する構造が記載されている。これは蒸着による製膜時にCu/In比率を変化させることで組成比にプロファイルを持たせる手法によるものである。これによりCIGS層内での導電性を制御することが可能となるが、バッファー層とのコンタクトの課題は解決されていないと推測され、また蒸着以外の製膜手法では作製が困難であると考えられる。
【0006】
上記のようにI−III−VI2型化合物半導体太陽電池は新しい薄膜太陽電池として期待が大きいが、さらに高性能の太陽電池の実用化には上記課題の解決が急務である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−317858号公報
【特許文献2】特開2004−288875号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】濱川圭弘、太陽電池、コロナ社版、141〜142ページ(2004年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、I−III−VI2型化合物半導体太陽電池の化合物半導体層とバッファー層のコンタクトを改善し、また電気的・光学的特性を向上させることにより、結果として太陽電池性能を向上させるものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討した結果、I−III−VI2型化合物半導体太陽電池のバッファー層として酸化亜鉛を用い、I−III−VI2型化合物半導体層とバッファー層の間に、バッファー層の格子定数に近いI−III−VI2型化合物半導体層をさらに設けることで太陽電池特性を向上することが可能であることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は以下に関するものである。
(1)基板上に電極層、I−III−VI2型化合物半導体からなる化合物半導体層A、I−III−VI2型化合物半導体からなる化合物半導体層B、格子定数が0.490〜0.550nmを有するバッファー層、透明電極層がこの順に形成されている化合物半導体太陽電池であって、当該化合物半導体層Bが当該バッファー層に隣接しており、かつ当該化合物半導体層Bの格子定数が0.500〜0.560nmを有し、さらに当該化合物半導体層Aと異なる組成からなることを特徴とする化合物半導体太陽電池。
(2)上記化合物半導体層BがCu(M11-xM2x)S2(x=0〜1、Sは硫黄)で表わされる化合物であり、またM1、M2がAl、Ga、Inの中から少なくとも1種類選択された化合物を含むことを特徴とする(1)に記載の化合物半導体太陽電池。
(3)上記化合物半導体層Bが、CuInSまたはCuGaSからなることを特徴とする(1)〜(2)のいずれかに記載の化合物半導体太陽電池。
(4)上記化合物半導体層Aが、CISまたはCIGSからなることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の化合物半導体太陽電池。
(5)上記バッファー層が、酸化亜鉛を主成分とする透明酸化物を含むことを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の化合物半導体太陽電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって、I−III−VI2型化合物半導体太陽電池におけるバッファー層の電気的・光学特性および化合物半導体層とバッファー層とのコンタクトを向上させることで、太陽電池性能を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一態様の化合物半導体太陽電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、「基板上に電極層、I−III−VI2型化合物半導体からなる化合物半導体層A、I−III−VI2型化合物半導体からなる化合物半導体層B、格子定数が0.490〜0.550nmを有するバッファー層、透明電極層がこの順に形成されている化合物半導体太陽電池であって、当該化合物半導体層Bが当該バッファー層に隣接しており、かつ当該化合物半導体層Bの格子定数が0.500〜0.560nmを有し、さらに当該化合物半導体層Aと異なる組成からなることを特徴とする化合物半導体太陽電池」に関するものである。
【0015】
CuInSe2(以下CIS)やCIGSに代表されるI−III−VI2型化合物半導体を用いた太陽電池はII−VI族半導体のII族原子をI族原子とIII族原子で置換したものであり、このI、III族原子は、規則的に配列したカルコパイライト(黄銅鉱)構造と不規則に配列したスファレライト(閃亜鉛鉱)構造をとりうるが、本発明に好適に用いられるものはカルコパイライト構造である。CISやCIGSはバンドギャップが1.04〜1.68eVであり、格子定数は0.561〜0.577nmの範囲で制御される(薄膜ハンドブック第2版、日本学術振興会薄膜第131委員会編、380ページ)。このようなCIS、CIGSは「固有欠陥」と呼ばれるCu/In比に由来する組成比により、pn導電性制御が可能であり、CIS・CIGS太陽電池ではIn空孔やCuIn(アンチサイト)がアクセプタとなるp型導電性となることで太陽電池性能が良いとされている。
【0016】
図1に本発明に係る化合物半導体太陽電池の代表的な断面模式図を示す。基板(1)上に電極層(2)、化合物半導体層A(3)、化合物半導体層B(4)、バッファー層(5)、透明電極層(6)、集電極(7)がこの順に形成されている。
【0017】
基板(1)としては、絶縁基板を好ましく用いることができる。その場合、ガラス基板やプラスチック基板など透明・不透明に関わらず、(2)〜(6)の層を支持できるものであればどのようなものでも使用できるが、特にCIS・CIGS太陽電池にはソーダライムガラスが好適に使用される。これはソーダライムガラスとCISの線膨張係数が近い値であることに加えて、ソーダライムガラスに含まれるナトリウム原子がCIS層やCIGS層に拡散し、欠陥、特にセレンが脱離した欠陥を補償する役割(以下「ナトリウム効果」とする)を果たすためと考えられる。
【0018】
電極層(2)としては、金属電極を好ましく用いることができる。その場合、高導電性の金属であればどのような金属も使用されるが、モリブデンが好適に用いられる。モリブデンはCIS層やCIGS層に含まれるセレンとの反応性が高く、モリブデン/CIS層界面の密着性を良くする効果がある。電極層(2)の形成方法は、公知の方法を任意に選択して採用することができるが、蒸着法やスパッタリング法が大面積を均一且つ簡便に製膜できることから好ましい。この際、蒸着源やスパッタリングターゲットとしては、モリブデンなどの金属以外にも、ナトリウムを含有させた化合物を使用することもでき、これによりナトリウム効果をより効果的に発揮することが可能となる。電極層(2)の膜厚は0.2〜1.0μmが好ましく、さらには0.3〜0.6μmが好ましい。この範囲の膜厚とすることで、十分な導電性の確保と、金属電極表面のモルフォロジーの影響による光の吸収を抑制することが可能となる点から好ましく、さらに基板がソーダライムガラスの場合には、基板側からのナトリウム原子の拡散を阻害しない点からも好ましい。
【0019】
さらにこの電極層(2)上に表面処理として例えばセレン化ナトリウムで処理することもできる。このような処理により、ナトリウム効果に加えて、金属電極とCIS・CIGS層界面での密着性向上効果も期待できる。
【0020】
化合物半導体層A(3)は、I−III−VI2型化合物半導体のうち、LMX2(L:Cu、Ag、M:Al、Ga、In、X:S、Se)型のものを好ましく用いることができるが、光電変換効率やコストの観点からCISまたはCIGSを用いることが好ましい。CIGSを用いる場合、(In1-xGax)のxは0.15〜0.50が好ましい。この範囲のxとすることで、キャリアの輸送特性と光電変換可能な波長範囲を十分に確保することができるため好ましい。
【0021】
化合物半導体層Aの形成方法としては、ウェット法とドライ法のどちらでも可能であり、例えばウェット法ではナノ粒子状の原料を塗布し、焼成・セレン化を施すことで形成可能である。ドライ法の場合には、CISなどの組成のターゲットを用いたスパッタリング法や蒸着法もあるが、それぞれの成分を各々に原料とする多元蒸着法によっても形成可能である。その他、スパッタリング法によってCISやCIGSのセレン以外の金属化合物をターゲットとして基板上に製膜した後に、高温でセレン化処理することで当該基板上にCIS膜やCIGS膜を形成することもできる。セレン化を行う場合には、基板周辺の雰囲気がセレン蒸気またはセレン化水素となるような環境にし、500℃以上の温度で熱処理することでセレン化が可能となる。この他、上記セレン化処理の代わりに硫黄や硫化水素を用いた硫化処理によっても同じような効果を得ることができる。
【0022】
化合物半導体層Aの膜厚は1〜8μmが好ましく、さらには2〜5μmが好ましい。この範囲の膜厚であることで、CIS・CIGSの高い吸収係数を生かした効率の良い光閉じ込め効果が期待されることと、光電変換により生成して拡散するキャリアの再結合を抑制して効率よく電極に取り出すことができる点から好ましい。
【0023】
化合物半導体層B(4)は、I−III−VI2型化合物半導体のうち、LMX2(L:Cu、Ag、M:Al、Ga、In、X:S、Se)型のものを好ましく用いることができるが、中でも化合物半導体層Aよりも格子定数が小さいものが好ましく、格子定数が0.500〜0.560nmであるものが用いられる。このような化合物としては、例えばCu(M11-xM2x)S2(x=0〜1、Sは硫黄で表される化合物などがあり、M1、M2がAl、Ga、Inの中から少なくとも1種類選択された化合物などが挙げられる。上記格子定数を示す結晶軸が各層の接合界面に対して平行であることが必要である。上記化合物半導体層Bの役割は大きく2つある。1つは化合物半導体層A上に、同じI−III−VI2型の化合物半導体層Bを積層してこれらの層の界面にヘテロ接合を形成することにより、接合界面での欠陥準位の生成を抑制し、太陽電池特性のうち、特に開放電圧を向上させることである。もう1つは、この上に形成するバッファー層(5)として、例えば酸化亜鉛を用いる際に、当該バッファー層(5)と格子定数が近くなることで格子整合がとれるため、バッファー層の成長初期から結晶性の良い酸化亜鉛層を形成することができることである。また、格子整合が良くなるため、化合物半導体層B/バッファー層界面での欠陥準位の生成が抑制され、良好な接合が形成される。
【0024】
化合物半導体層Bのバンドギャップは、特に限定されないが化合物半導体層Aよりも大きくなることが好ましい。これにより化合物半導体層A/化合物半導体層Bの界面に良好なヘテロ接合を形成することができる。例えば、化合物半導体層AがCIS(バンドギャップ1.04eV)の場合には、CuInS2(バンドギャップ1.53eV)、CuGaS2(バンドギャップ2.43eV)、CuAlS2(バンドギャップ3.49eV)のいずれも使用の可能性があり、化合物半導体層AがCIGSのうちもっともバンドギャップが広くなるCGS(バンドギャップ1.68eV)の場合にはCuGaS2やCuAlS2が用いることが可能である。バンドギャップ差を0.1〜0.5eVとすることで、化合物半導体層Aと化合物半導体層B界面のヘテロ接合の障壁が大きくなりすぎず、これによりキャリアの輸送が阻害されないようにすることが可能となる。
【0025】
化合物半導体層Bの形成方法としては、ウェット法とドライ法のどちらでも可能であるが、例えばウェット法ではナノ粒子状の原料を塗布し、焼成・硫化を施すことで形成可能である。ドライ法の場合には、所望の組成のターゲットを用いたスパッタリング法や蒸着法もあるが、それぞれの成分を各々に原料とする多元蒸着法によっても形成可能である。その他、スパッタリング法によって金属元素のみをプリカーサとしてターゲットに用いて基板上に製膜した後に、高温で硫化処理することで膜を形成することもできる。硫化を行う場合には、基板周辺の雰囲気が硫黄蒸気または硫化水素となるような環境にし、500℃以上の温度で処理することで硫化が可能となる。
【0026】
化合物半導体層Bの膜厚は5〜500nmが好ましく、さらには10〜200nm、さらには20〜100nmが好ましい。上記の膜厚の範囲とすることが、直列抵抗上昇の抑制とバッファー層による格子整合性向上の観点から好ましい。
【0027】
本発明における化合物半導体層は、I−III−VI2型化合物半導体からなる化合物半導体層AおよびI−III−VI2型化合物半導体からなる化合物半導体層Bの2層を有する。図1のように、化合物半導体層Bは上記バッファー層と隣接し、また化合物半導体層Aは、化合物半導体層Bと電極層(2)との間に形成される。化合物半導体層Bの格子定数は0.500〜0.560nmを有し、化合物半導体層Aと異なる組成からなる。化合物半導体層Aと異なる組成を有する化合物半導体層Bを用いることにより、当該化合物半導体層Aとして使用するI−III−VI2化合物半導体の選択の幅が広がり、開放電圧や曲線因子といった太陽電池性能の向上が期待できる。化合物半導体層Aとして前記のCISやCIGSを用いた場合には、化合物半導体層Bは、化合物半導体層Aよりもバッファー層に近い格子定数を有することが好ましい。この場合、バッファー層との格子整合性が良くなり、また上記の開放電圧や曲線因子を従来の構造よりも向上させることができる。また、本発明における化合物半導体層は、本発明の機能を損なわない限り、化合物半導体層Aと化合物半導体層Bとの間、あるいは電極層(2)と化合物半導体層Aとの間に、さらに層を有する多層構造であっても良く、この場合の層としては、I−III−VI2型化合物半導体が好ましく用いられる。
【0028】
本発明に係るバッファー層(5)は、格子定数が0.490〜0.550nmを有するものを好ましく用いることができる。この場合の「格子定数」とは、例えば酸化亜鉛を用いた場合はc軸のことを示し、本発明においては接合界面に平行な方向を向いている。格子定数を上記の範囲とすることで化合物半導体層Bとの格子整合性が良くなり、欠陥準位の減少とそれに伴う再結合の抑制が期待できる。
【0029】
バッファー層(5)は、特に限定されないが酸化亜鉛を主成分とする層であることが好ましい。酸化亜鉛の格子定数は、c軸方向で0.520nmであり、これにより化合物半導体層Bとの格子整合性が良くなり、結晶性の良いバッファー層を形成することができる。結晶性が良いバッファー層は、透明性が高くなり吸収ロスのない層となるために好ましいだけでなく、導電性が高くなることでバッファー層での直列抵抗のロス低減にも効果がある。さらに、バッファー層には、セレンや硫黄などを含有していても構わない。バッファー層中のセレンや硫黄が化合物半導体層Bに拡散することで、当該化合物半導体層B中の欠陥を補償し、太陽電池特性を向上させる効果が期待される。この場合、セレンや硫黄の含有はセレン化亜鉛や硫化亜鉛が酸化亜鉛に混合している状態でも構わない。セレンや硫黄の含有量をセレン化亜鉛、硫化亜鉛として計算した場合には、透明性の観点からバッファー層構成材料中の50重量%以下が好ましい。
【0030】
バッファー層(5)の形成方法には任意の方法を選択することができるが、例えばバッファー層(5)として酸化亜鉛を用いる場合には、化合物半導体層への影響を考えて、ドライ法が好ましい。ドライ法としては蒸着法やスパッタリング法、化学気相堆積(CVD)法などがあり、どのような方法でも良好なバッファー層を製膜可能である。
【0031】
バッファー層(5)の膜厚は10〜200nm、さらには20〜100nmが好ましい。この範囲の膜厚とすることが、直列抵抗上昇の抑制および光吸収の抑制の観点から好ましく、さらに化合物半導体層とのp/n接合形成によるキャリア輸送特性の観点からも好ましい。
【0032】
バッファー層(5)として酸化亜鉛を主成分とする透明酸化物を用いた場合、当該透明酸化物はノンドープでもn型導電性を示す為、当該バッファー層(5)はI−III−VI2型化合物半導体層とpn接合を形成できる。また化合物半導体層Bとして化合物半導体層Aのバンドギャップよりよりも大きいものを用いた場合、化合物半導体層Aが光によって誘起された導電性キャリアの再結合を抑制するためのヘテロ接合を化合物半導体層A/化合物半導体層Bの界面および化合物半導体層B/バッファー層(5)の界面に形成し、さらにバッファー層(5)として用いられる酸化亜鉛との格子整合性を向上することで、化合物半導体層Bからバッファー層へのキャリア輸送のロス低減が期待できる。さらに、バッファー層の結晶成長初期に、良好な格子整合性の影響で、酸化亜鉛の結晶性が良くなり、電気・光学特性が良くなることが期待できる。
【0033】
透明電極層(6)には導電性酸化物層が含まれることが好ましい。導電性酸化物層としては、例えば、酸化亜鉛や酸化インジウム、酸化錫などを単独または混合して用いることができる。さらにこれらには導電性ドーピング剤を添加することができる。例えば、酸化亜鉛にはアルミニウムやガリウム、ホウ素、ケイ素、炭素などを添加することができる。酸化インジウムには亜鉛や錫、チタン、タングステン、モリブデン、ケイ素などを添加することができる。酸化錫にはフッ素などを添加することができる。これらの導電性酸化物層は単層で用いてもよいし、積層構造でもよい。
【0034】
本発明の導電性酸化物層の膜厚は、透明性と導電性の観点から、10nm以上140nm以下であることが好ましい。この範囲の膜厚とすることが、集電極へのキャリア輸送特性に必要な導電性の確保と光吸収の抑制の観点から好ましい。
【0035】
透明電極層(6)は単層でも良いが、複数の層を積層しても構わない。例えば、酸化亜鉛透明電極層上にインジウム−錫複合酸化物(ITO)層を設けるなども可能である。
【0036】
前記の透明電極層の製膜方法としてはスパッタリング法などの物理気相堆積法や、有機金属化合物と酸素または水との反応を利用した化学気相堆積(MOCVD)法などが好ましい。いずれの製膜方法でも熱やプラズマ放電によるエネルギーを利用することもできる。例えばMOCVD法により透明電極層を製膜する場合には、透明電極層として酸化亜鉛などを用いる場合には、ジエチル亜鉛と水または酸素との反応で形成することができる。これらの材料を真空雰囲気下で反応させることで、安全且つ良好に透明電極層の形成が可能となる。さらに真空雰囲気内の温度を安定化させるために、水素ガスなどを流してもよい。ここで「真空雰囲気」とは、真空ポンプ等を用いて、反応系内の意図しない気体を所望の圧力になるまで除去した状態、またはその系内に所望のガスを大気圧以下の圧力範囲で導入している状態をいう。これらの透明電極層に導電性ドーピングを施す場合には、上記材料と同時にドーピングガスを流すことで導電性ドーピングが可能である。例えば、酸化亜鉛を透明電極層として用いる場合には、ドーピングガスとしてジボランなどを流すことで導電性ドーピングが可能である。この時のホウ素のドーピング量は0.1〜5.0atom%程度が導電性と透明性の観点から好ましい。
【0037】
透明電極層(6)上には集電極(7)を形成することが好ましい。集電極(7)は、インクジェット、スクリーン印刷、導線接着、スプレー等の公知技術によって作製できるが、生産性の観点からスクリーン印刷がより好ましい。スクリーン印刷は金属粒子と樹脂バインダーからなる導電ペーストをスクリーン印刷によって印刷し、集電極を形成する工程が好ましく用いられる。
【0038】
集電極は、導電性の高い金属であればどのような金属でも任意に使用することができ、例えば銀、アルミニウム、金などが好適に使用することができる。
【0039】
集電極として導電ペーストを用いた場合、その固化も兼ねてセルのアニールが行われうる。「セル」とは、太陽電池デバイスの最小単位ユニットであり、例えば図1においては、基板(1)から集電極(7)まで積層されたものをいう。アニールによって、透明電極層の透過率/抵抗率比の向上、または接触抵抗や界面準位の低減といった各層の界面特性の向上なども得られる。
【0040】
上記の集電極(7)まで製膜された層の上に、保護層を形成することが好ましい。例えばエチレン・ビニル・アセテート(EVA)樹脂などのようなフィルムを保護層としてコーティングすることで、物理的な強度を向上することが可能である。さらに、酸素や水分によるシリコン層や電極層の劣化を防ぐ役割を果たすこともできる。また、この保護層にヘイズを有するようなブラスト処理等を施すことで、光学特性の損失を抑えることも可能となる。このように集電極(7)上に保護層を形成した場合は、当該保護層も含めて「セル」という。
【0041】
本発明における化合物半導体太陽電池は、本発明の効果を損なわない限り、図1に示すような構成に限定されることはなく、各層の間に別の層を有するものを用いても良い。
【0042】
本発明においては、X線回折(XRD)測定はリガク製自動X線回折装置RINT2500を用いて、2θ/θ法により実施した。膜厚はJ.A.ウーラム製分光エリプソメーターVASEを用いて測定し、LORENTZモデルを用いてフィッティングを行った。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
基板(1)としてソーダライムガラス(AGCファブリテック社製、厚み1.1mm)を用い、当該基板(1)上に電極層(2)としてモリブデンを電子線蒸着法により300nm製膜した。この上に化合物半導体層A(3)としてCIS(組成比:Cu:In:Se=1.0:1.0:2.0、格子定数a軸:0.577nm)を用い、多元蒸着法により3μm製膜した。蒸着方法としては、CuとInを熱蒸着により基板に堆積した後に、セレン化水素雰囲気中で500℃で熱処理することでCIS層を形成した。この上に化合物半導体層B(4)としてCuInS2(格子定数a軸:0.552nm)を用い、多元蒸着法により50nm製膜した。この化合物半導体層BのXRD測定結果から多方向に配向しており、a軸が面方向にも配向していることが確認された。ここでの蒸着にはCuとInとSを熱蒸着により基板に堆積した。その上にバッファー層(5)として酸化亜鉛(亜鉛−ホウ素複合酸化物(BZO:酸化ホウ素アルミニウム2重量%含有)、格子定数c軸:0.521nm)を用い、MOCVD法により100nm製膜した。製膜条件は、基板温度を150℃とし、圧力が10Paとなるように材料ガスを導入した。材料ガスとしては、ジエチル亜鉛、水、H2、B26を流量比1/2/20/10となるように導入した。なお、本件でいうB26ガスは、B26濃度を5000ppmまでH2で希釈したガスを用いた。製膜後、真空中で200℃・10分間のアニール処理を施した。このバッファー層のXRDの測定結果から面方向にはc軸が配向していることが確認できた。この上に透明電極層(6)としてアルミニウム−亜鉛複合酸化物(AZO、アルミニウム2重量%含有)をスパッタリング法により150nm製膜した。最後に、透明電極層上に銀ペーストをスクリーン印刷して櫛形電極を形成し、集電極(7)とした。集電極の間隔は5mmとした。
【0045】
(実施例2)
実施例1の化合物半導体層A(3)をCIGS(組成比:Cu:In:Ga:Se=1.0:0.8:0.2:2.0、格子定数a軸:0.572nm)とし、化合物半導体層B(4)をCuInS2とCuGaS2を8:2の組成比とした(格子定数a軸:0.535nm)以外は実施例1と同様にして太陽電池を作製した。
【0046】
(比較例1)
実施例1において、化合物半導体層B(4)を形成せずに太陽電池を作製した。
【0047】
(比較例2)
実施例2において、化合物半導体層B(4)を形成せずに太陽電池を作製した。
【0048】
上記実施例及び比較例の太陽電池セルの光電変換特性を、ソーラーシミュレータを用いて評価した。上記太陽電池セルの短絡電流、開放電圧、曲線因子、出力を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
以上の結果から、シリコン光電変換層を結晶質シリコン構造とすることで良好な特性を示す太陽電池を作製可能であることがわかった。特に比較例1に対して実施例1、比較例2に対して実施例2では開放電圧と曲線因子が大幅に向上していた。これは、化合物半導体層とバッファー層との格子整合性が良くなり、接合界面でのキャリアの再結合が抑制されたためだと考えられる。
【符号の説明】
【0051】
1.基板
2.電極層
3.化合物半導体層A
4.化合物半導体層B
5.バッファー層
6.透明電極層
7.集電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に電極層、I−III−VI2型化合物半導体からなる化合物半導体層A、I−III−VI2型化合物半導体からなる化合物半導体層B、格子定数が0.490〜0.550nmを有するバッファー層、透明電極層がこの順に形成されている化合物半導体太陽電池であって、当該化合物半導体層Bが当該バッファー層に隣接しており、かつ当該化合物半導体層Bの格子定数が0.500〜0.560nmを有し、さらに当該化合物半導体層Aと異なる組成からなることを特徴とする化合物半導体太陽電池。
【請求項2】
上記化合物半導体層BがCu(M11-xM2x)S2(x=0〜1、Sは硫黄)で表わされる化合物であり、またM1、M2がAl、Ga、Inの中から少なくとも1種類選択された化合物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の化合物半導体太陽電池。
【請求項3】
上記化合物半導体層Bが、CuInSまたはCuGaSからなることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の化合物半導体太陽電池。
【請求項4】
上記化合物半導体層Aが、CISまたはCIGSからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の化合物半導体太陽電池。
【請求項5】
上記バッファー層が、酸化亜鉛を主成分とする透明酸化物を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の化合物半導体太陽電池。

【図1】
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【公開番号】特開2011−119478(P2011−119478A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275740(P2009−275740)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「新エネルギー技術研究開発 革新的太陽光発電技術研究開発(革新型太陽電池国際研究拠点整備事業)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】