説明

化合物半導体層を製造するための方法及び装置

I−III−VI化合物半導体層(20)の製造方法であって、その際、基板(6)が、金属前駆体像(18)を有するコーティング(18、19)で被覆され(80)、該コーティング(18、19)は、プロセス時間(tp)の期間、少なくとも350℃の温度に維持され(84)、そして該金属前駆体層(18)が、500ミリバール〜1500ミリバールの周囲圧力において、カルコゲン(19)の存在下で、化合物半導体層(20)に変換され(84)、そして、該コーティング(18、19、20)が、活性化時間(tg)の期間、少なくとも活性障壁温度(Tg)を達成する温度に維持され(86)、それにより、活性障壁温度(Tg)として、少なくとも600℃の値が選択される(86)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前文による化合物半導体層を製造するための方法と共に、請求項14の前文による方法を実施するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
今日では、環境に優しく、かつ、費用のかからないエネルギー生成が中心的問題となっている。この問題の解法への一つのアプローチは、太陽電池、又は太陽電池モジュールを使った太陽光からの光起電電流を収集するというものである。太陽電池モジュールの変換効率が大きくなるほど、その製造費用は益々低くなり、そして電流の生成費用も低くなる。この背景に対抗して、いわゆる薄層太陽電池モジュールは、解決を約束するアプローチである。というのも、それら太陽電池モジュールは、材料及びエネルギーの面で僅かな費用で製造でき、そして、良好な変換効率、すなわち、高い等級の効率も可能にするからである。特に、I−III−VI化合物半導体をベースとする薄層太陽電池モジュールは、それらの価値を証明している。そのような半導体には、例えば、銅−インジウム−セレン化物(CIS)又は銅−インジウム−ガリウム−セレン化物(CIGS)からなる化合物半導体が包含される。
【0003】
化合物半導体層は、様々な方法、例えば、関連する元素の同時蒸発において製造することができる。別の製造選択肢には、最初に金属前駆体層が堆積され、そして引き続き、この層をカルコゲンで変換してそれぞれの化合物半導体にする、いわゆる堆積−反応−プロセスを伴う。金属前駆体層が、簡単で迅速な連続プロセスで熱的に化合物半導体層に変換される、そのような堆積−反応−プロセスの一実施形態は、特許書面、国際公開第2009/033674A2号パンフレット(特許文献1)に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2009/033674A2号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
薄層太陽電池、又は薄層太陽電池モジュールにおける効率は、なかんずく、使用される化合物半導体層の均質性の影響を受ける。堆積−反応−プロセスにおいては、化合物半導体の元素、例えば、ガリウムは、その化合物半導体層の厚さ全体にわたって不均質に分散される可能性があるという問題が持ち上がっている。これは、特に、技術的製造上の理由から、プロセス時間が短い場合である。例えば、好ましくは金属層の形態で通常基板上へ適用されるバック接点上に、その金属前駆体層がこのバック接点上に堆積して、これが化合物半導体へ変換される前に、上記のガリウムが形成されてしまう。そのバック接点上のこの形成の結果、ガリウムは、化合物半導体層の厚さにわたって不均質に分散される。図1は、CIGS化合物半導体層の例を用いた、この種の不均質な分布を示している。その図で示されている深さは、化合物半導体層の上面上におけるその自然点を有し、そしてその値は基板上に配置されたバック接点に向かって増大している。図1に示されている図において、そのバック接点は図の右端に相当するであろう。それ故、図1は、そのバック接点上での化合物半導体中のガリウムの形成を図示している。これは、開回路電圧を低減する可能性があり、そのため、太陽電池又はこの化合物半導体層から製造された太陽電池モジュールの効率を低減させる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この背景に対抗して、本発明は、経済的に、そしてより均質な関連元素の分布でもってI−III−VI化合物半導体層を製造できる方法を提供するという課題に基づくものである。
【0007】
この課題は、請求項1記載の特徴を有する方法によって解決される。
【0008】
本発明はまた、その方法を実施するための装置を提供するという課題にも基づいている。
【0009】
この課題は、請求項14に記載の特徴を有する装置によって解決される。
【0010】
有利な改良形態は、それぞれ従属の下位請求項の主題である。
【0011】
本発明による方法によれば、基板に金属前駆体層を有するコーティングが設けられるという条件が与えられる。そのコーティングは、その後、プロセス時間の期間、少なくとも350℃の温度に維持され、そして、その金属前駆体層は、カルコゲンの存在下で、かつ、500ミリバール〜1500ミリバールの周囲圧力で、化合物半導体層に変換される。そのコーティングはまた、活性時間の期間、少なくとも活性障壁温度が達成される温度に維持される。それ故、少なくとも600℃という値は、活性障壁温度として選択される。850ミリバール〜1150ミリバールの周囲圧力で金属前駆体層を化合物半導体層に変換するのが特に好ましい。
【0012】
I−III−VI化合物半導体層という語は、周期表のIB族からの元素、例えば、銅、周期表第IIIA族から元素、例えばアルミニウム、ガリウム又はインジウム、及び周期表第VIA族からの少なくとも一種のカルコゲン、例えば、硫黄、セレン又はテルルから形成される化合物半導体の層を意味するものと理解すべきである。
【0013】
本発明の特に好ましい実施形態において、金属前駆体層は、CIS化合物半導体層又はCIGS化合物半導体層へ変換される。
【0014】
コーティングが少なくとも350℃の温度に維持される、という事実は、そのコーティングが、所定の温度まで加熱されて、全プロセスの初めから終わりまでこの所定温度に維持されることを意味すると理解すべきではない。そうではなく、本発明は、プロセス時間の間、そのコーティングが、350℃より高い温度かあるいは350℃のいずれかであるという条件を与えるものである。そのコーティングの温度は、プロセス時間の間可変であるが、その温度は、プロセス時間の間、常に少なくとも350℃である。
【0015】
コーティングを、少なくとも活性障壁温度に到達する温度に維持する、ということも同様に理解すべきである。それ故、コーティングは、活性時間の間、活性障壁温度より大きいか又は活性障壁温度のいずれの温度であることもできる。コーティングの温度は、活性時間の間可変であるが、その温度は、常に、少なくとも活性障壁温度である。
【0016】
本発明におけるコーティングは、金属前駆体層、例えば、金属の銅、ガリウム及びインジウムを含む層の単独からなることができるか、又は更なる成分、例えばその金属前駆体層上に堆積されるカルコゲンを含むことができる。
【0017】
それ故、そのコーティングという語は、本発明においては、基板上に配設される全ての層、及びそこに設けることのできる金属バック接点層を包含する。コーティングは、金属前駆体層の部分的な変換後には、例えば、部分的に化合物半導体からなる。それ故、本発明の意味において、変換完了後に存在する化合物半導体層は、コーティングと同様の意味を有する。
【0018】
前述したように、特に、大気圧における蒸気相からの物理蒸着を使って、カルコゲン、特にセレンは、金属前駆体層上にコーティングの一部として堆積させることができる。このカルコゲンは、プロセス時間の間、金属前駆体層を化合物半導体相へ変換するためのカルコゲン源として作用する。このカルコゲンコーティングに加えて、あるいはそれに替えて、コーティングのプロセス時間の間、カルコゲン含有ガス、例えば、カルコゲン蒸気を含有するキャリアガスを供給することができる。この場合、窒素又は希ガスのような不活性ガスを、キャリアガスとして使用することができる。
【0019】
プロセス時間は、原理的に、コーティングの温度が350℃未満の段階によって中断させることができる。そのような場合では、プロセス時間は、コーティングの温度が、350℃以上である時間の合計から構成される。
【0020】
有利に、基板にはバック接点が設けられる。例えば、バック接点として金属層、特にモリブデン層をガラス基板上に設けることができる。バック接点は、配列化(structuring)を使って、いくつかのストリップに好ましく分割され、その結果、完成した太陽電池モジュールの直列接続の様々な太陽電池素子を実現させることができる。前記モリブデンコーティングは、金属前駆体層又は本発明における意味でのコーティングを意味するものではない。
【0021】
原理的に、本発明による方法においては、該方法が実施されている間に、熱や化学反応の影響による不利な影響を及ぼさないいずれの基板も使用することができる。それ故、ガラス基板の他に、例えば、金属の細片(strips)も使用できる。
【0022】
金属前駆体層は、例えば、銅、インジウム及びガリウムを含むことができ、そして従来技術、例えばスパッタリングを用いて施用することができる。金属前駆体層は、その際、原理的にいくつかの金属層から構成することができ、例えば、銅及びガリウムからなる層を最初に設け、そしてインジウムの層をその上に施用することができる。金属前駆体層はまた、同種のいくつかの副層、例えば、銅及びガリウムを含むいくつかの層から形成させることもできる。層配列の繰り返しを提供することもできる。
【0023】
本発明による方法を用いることにより、関連する元素が、化合物半導体層の厚さにわたってより均質に分布される化合物半導体層を製造することが可能である。これは、例として図2中に図示されており、これには、図1の図に対応して、本発明による方法を用いて製造されたCIGS化合物半導体層におけるガリウムの深さの分布が示されている。図1と図2との比較は、図2からのCIGS化合物半導体層におけるガリウムの深さの、明らかにより均質な深さ分布を示している。したがって、図2からのこの化合物半導体層から、有意義に向上された効率を有する太陽電池モジュールを製造することが可能であろう。
【0024】
適当な活性障壁温度の選択は、種々のパラメータに依存する。それは、例えば、たとえ600℃の活性障壁温度からも、プロセス時間の間のカルコゲンのより大きな有用性を伴い、CIGS化合物半導体層中の比較的均質なガリウム分布を実現することができる。プラクチスでは、640℃の活性障壁温度はその価値を証明し、そしてこれが好ましく使用されるべきである。
【0025】
本発明の有利な実施形態の一変更において、少なくともプロセス時間の間、コーティングは保護ガス雰囲気中に配置される。好ましくは、コーティングは、プロセス時間の前の加熱段階の間に保護ガス雰囲気中に既に配置され、そしてこの状況は、コーティングが非臨界温度まで冷却するまで維持される。コーティングの保護ガス雰囲気中への配置は、とりわけ、コーティングの熱処理の間、特に、化合物半導体層へのその変換の間のできるだけ最小の酸素分圧が保証されるように作用する。というのも、酸素の利用可能性によって、望ましくない化学反応が引き起こされる場合があるからである。このことは、セレンが使用される場合、水素について同様に適用される。例えば、窒素又は少なくとも一種の希ガスを含む雰囲気を、保護ガス雰囲気として提供することができる。
【0026】
本発明の方法の好ましい他の実施形態では、コーティングを350℃に加熱する前に、少なくとも一種のカルコゲン、好ましくは硫黄又はセレンを含む層を、金属前駆体層上に堆積させる。その堆積は、大気圧における蒸気相からの物理蒸着(APPVD)を使って、有利に実現される。そのカルコゲンの堆積を、連続プロセスで行うのが特に好ましい。
【0027】
本発明の方法の好ましい別の実施形態では、活性時間は、500秒より短く、好ましくは250秒より短くなるように選択される。
【0028】
本発明の方法の好ましい別の実施形態では、プロセス時間は、1200秒より短く、好ましくは600秒より短く、特に好ましくは150秒〜500秒になるように選択される。
【0029】
本発明の方法の好ましい他の実施形態は、コーティングがいくつかの工程でより高い温度に加熱され、そしてその後冷却されるという条件を設ける。好ましくは、これは、セグメント化された連続加熱炉中で行われ、それの様々なセグメント中で、コーティングは様々な温度になる。120秒という時間は、各セグメントにおける滞留時間(dwell time)としてのその価値を証明している。しかしながら、コーティングの加熱は、原理的に、従来の炉中で行うこともできる。しかしながら、これは、バッチ運転のためだけに使用できるため、工業的製造には不利である可能性がある。
【0030】
本発明の別の一実施形態において、基板は、もしあれば、該基板上に配置されたバック接触点メタライゼーションと共に、基板上に配置されるコーティングと同じ方法で加熱される。これは、基板よりコーティングをより強く、選択的に加熱又は冷却するような加熱装置や冷却装置、あるいはコーティングよりも強く基板を加熱したり冷却したりするような、基板に設けられる適当な加熱装置や冷却装置のいずれも存在しないことを意味する。この意味において冷却装置はまた、熱カップリングに起因して、基板又はコーティングの一方の加熱を、他方に比べて著しく遅らせるように調整する大きな、熱的に不活性な物質(mass)であるとも理解すべきである。それ故、本発明のこの実施形態では、基板及びコーティングは、本質的に同じ温度である。
【0031】
一方で、本発明の方法の代替的な別の実施形態は、少なくともブースト期間の間、基板よりも高い温度に維持されるという条件を設けるものである。この場合、この、より高い温度に維持するということは、そのブースト期間の全部又は一部の間、定義された温度値が維持されないことを意味することであると理解すべきである。むしろ、コーティング及び基板の温度は、ブースト期間の間可変である。しかし、ブースト期間の間の全ての時間において、コーティングの温度は基板の温度よりも常に高い。好ましくは、、少なくとも30℃、特に好ましくは少なくとも60℃の温度差が、コーティングと基板との間に設けられる。
【0032】
コーティングが基板よりも高い温度に維持されるため、基板に対する熱負荷は低減させることができる。これは、使用可能な基板材料の範囲に及ぶ。
【0033】
有利に、コーティングは、少なくとも活性時間の間、基板に対する熱負荷を最小限にするために、基板よりも高い温度に維持される。
【0034】
15秒以下のブースト期間でさえ、有利な結果が達成できることが示されている。
【0035】
本発明による方法の一つの改良は、ブースト期間の間、基板の温度を、好ましくは基板としてフロートガラスを用いる基板にとって安全な値に維持し、そしてその温度を580℃未満の値に維持するという条件を設けるものである。この場合、維持する(keeping)という語は、原則として、基板の温度も変化させることができるが、基板に安全な値を常に有することを意味すると理解すべきである。それ故、フロートガラスの場合常に580℃より下である。この場合、安全な温度値は、基板の不利な変性、例えば、化学反応に起因する、融解温度を著しく超えたり、熱変形が大きすぎたりといった結果となるようなガラス構造における永久的な変性が起こらない温度と理解すべきである。
【0036】
本発明の方法の別の実施形態において、コーティングを基板よりも強く加熱するために、コーティングを照明するための少なくとも一つのランプが使用される。このために、ハロゲンランプ又はキセノンランプを使用することが好ましい。ランプによって放出される電磁放射線の波長範囲は、それぞれのコーティングの吸収挙動に有利に適合される。プラクチスにおいて、主として、400〜1200nmの範囲の波長で電磁放射線を放出するランプが有用であることが証明されている。
【0037】
別の有利な一実施形態においては、可能な限り均質なコーティングのより強い加熱を達成するために、ランプによって放出される電磁放射線の下で基板は反転される。これは、例えば、基板の振幅運動によって実現することができる。上述したように、コーティングがセグメント化された連続加熱炉中で加熱される場合、一つの改善は、基板が連続加熱炉の一つのセグメントから次のセグメントへ運ばれる間、コーティングがランプで照明されるという条件を設ける。
【0038】
本発明の方法の他の有利な実施形態は、プロセス時間の間、基板は、熱的に不活性なキャリア、好ましくはグラファイト板上に配置されるという条件が設けられる。キャリアの熱不活性に起因して、基板とキャリアとの間に十分な熱伝導がある場合、コーティングを加熱できる一方で、そのキャリアとそれの熱不活性との熱カップリングに起因して、基板の温度は、コーティングの温度に遅れて続く。方法が十分に速く行われる場合、コーティングは比較的高い温度に至らせることができる一方で、基板は、より低い温度にしか到達しない。それ故、基板が、コーティングの温度よりも高い温度に到達することができる前に、方法、及び加熱プロセスはすでに完了される。
【0039】
上記の方法を実施するための本発明の装置は、加熱炉チャンバー及び該加熱炉チャンバーを加熱するための少なくとも一つの加熱装置を有する。該装置にはまた、該加熱炉チャンバーに導入される系の少なくとも一部を選択的に加熱するために設けられた少なくとも一つの追加の加熱装置もある。前記系は、基板及びその上に配置されたコーティングからなる。ここで、コーティングという語は、上記で説明した通りのものであると理解すべきである。バック接触点として設けられる金属層が、基板に割り当てられる。
【0040】
選択的に加熱する、という用語は、追加の加熱装置が、系の少なくとも一部、加熱炉チャンバー及びそこに広がっている雰囲気を本質的に加熱するが、該加熱された系の少なくとも一部からの熱の消散又は熱の抽出によって僅かにあるいは間接的にだけ加熱されることを意味するものと理解すべきである。
【0041】
本発明の装置は、コーティングを少なくとも600℃の活性障壁温度に加熱するのに、比較的急速で、エネルギー効率の良い加熱を可能にする。
【0042】
本発明の装置の他の実施形態の一つにおいて、少なくとも一つの冷却装置が提供され、その装置を使って加熱炉チャンバーの少なくとも一部を冷却することができる。
【0043】
本発明の装置の改良によれば、該少なくとも一つの追加の加熱装置が、系のコーティングを選択的に加熱するように配置される。この場合、そのようなコーティングの選択的加熱は、該少なくとも一つの追加の加熱装置が、コーティングを本質的に加熱するが、その一方で、加熱炉チャンバー及びそこに広がっている雰囲気及び基板は、該加熱されたコーティングからの熱の消散又は熱の抽出によって、僅かにあるいは間接的にだけ加熱されることを意味するものと理解すべきである。このように、基板を、コーティングよりも低い温度に維持することができる。特に、基板温度を、上述したように、基板にとって安全な値に維持することができる。
【0044】
好ましくは、該少なくとも一つの追加の加熱装置は、基板及びコーティングを、それの温度が少なくとも30℃、特に好ましくは少なくとも60℃異なる温度になるように使用できるように配列される。
【0045】
好ましい別の一実施形態において、少なくとも一つの追加の加熱装置は、少なくとも一つのランプから形成される。そのランプという語は、原則として、それぞれの使用に存在するコーティング、又は、この場合、コーティング及び基板からなる該系の少なくとも一部を加熱するのに適した電磁放射線を放出する電磁放射線のいずれかの源を意味する。主として400nmから1200nmの波長範囲にある放射線を放出するランプは、上述の化合物半導体層及び金属前駆体層、及びカルコゲンにも有用であることが証明されている。例えば、ハロゲンランプ又はキセノンランプが使用できる。
【0046】
本発明の装置の他の実施形態の一つにおいて、加熱炉チャンバーはグラファイトから製造される。該少なくとも一つに加熱装置は、例えば、電気抵抗加熱器、及び任意の、例えば、冷水器からなる冷却装置を含んでなり、そのグラファイトの壁中に好ましく埋設される。該少なくとも一つのランプは、そのグラファイト壁中の凹み部中に有利に配置される。
【0047】
一つの改良により、少なくとも一つのランプが、そのランプによって放出される放射線に対して透過性の保持器中に配置されるという条件が与えられる。これは、ランプが破壊された場合に、汚染から加熱炉チャンバーを保護する。メンテナンス作業(servicing works)もまた、簡単に実行できる。保持器は、放出される全ての放射線に対して透過性である必要はない。原則として、それぞれの用途において、所望の選択的加熱を可能にする、一つの波長における透過性で十分である。好ましくは,透過性の保持器は石英チューブとして設計される。
【0048】
プラクチスでは、ツインチューブエミッター(twin tube emitters)は、より大きな機械安定性を有しているため、ランプとして有用であると証明されている。
【0049】
別の有利な実施形態において、少なくとも一つのランプは、その少なくとも一つのランプから放出される放射線を均質化する板(pane)の背後に配置される。例えば、ガラスセラミック板又は石英ガラス板を設けることができる。
【0050】
本発明の更なる例は、化合物半導体層への変換に使用されなかったカルコゲンを加熱炉チャンバーから取り出すための排ガスチャンネルを設けることである。
【0051】
本発明の装置の好ましい別の実施形態では、これは、連続加熱炉として設計され、そして加熱炉チャンバーはいくつかのセグメントに分割される。それら様々なセグメントでは異なる温度を生じさせることができる。これは、少なくとも一つの加熱装置、及びもし存在するならば、少なくとも一つの冷却装置によって達成させる。輸送装置、例えば、押し込みロッドが、基板を一つのセグメントから次のセグメントに運ぶのに有利に設けられ、特に、基板が全てのセグメントにおいて同一の滞留時間を有する時に有用であることが証明されている。この実施形態では、追加の加熱装置を、例えば、一つのセグメント内に設けることができるか、又は追加の加熱装置を、いくつかのセグメント中に配置することができる。
【0052】
好ましくは、いくつかのセグメントは互いに断熱されており、それにより隣接するセグメント間において、大きな温度差を実現できる。更に、個々のセグメントを、装置の環境に対してそれぞれ断熱することができる。
【0053】
有利には、保護ガス雰囲気を、加熱炉チャンバー中に生じさせることができる。従来技術のガスインレットライン及びアウトレットラインをそれに応じて設けることができる。連続加熱炉の場合、例えば、従来技術のガスカーテンのようなガスのロック(gas locks)は、装入部及び排出開口部に配置されるべきである。これにより、基板を保護ガス雰囲気中に配置することが可能となる。
【0054】
本発明の装置の別の実施形態において、少なくとも一つの追加の加熱装置は、連続加熱炉の連続した二つのセグメントの間に配置される。このように、系の少なくとも一部、特にコーティングを、基板を一つのセグメントから次のセグメントへ輸送する間に加熱することができる。その結果、特に、該少なくとも追加の加熱装置によるセグメントにおける温度の干渉を最小限にすることができる。
【0055】
本発明の装置の他の有利な実施形態は、加熱炉チャンバーを、ハウジングによって包み込み、その加熱炉チャンバーとハウジングとの間に、少なくとも一つのフラッシングガスインレット及び少なくとも一つの引き抜きチャンネルを有する空間を形成するという条件が設けられる。形成されたその空間は、フラッシングガスで満たすことができ、そしてこれは吸引して排出させることができる。これにより、ガスが環境から加熱炉チャンバー中へ侵入する量、及びその加熱炉チャンバーから環境中へ漏れるプロセスガスの量を低減させることができる。それ故、加熱炉チャンバー中の保護ガス雰囲気を向上させることができる。ハウジングは、この場合、ステンレス鋼ハウジングとして好ましく設計される。
【0056】
原則として、空間中へ導入されたフラッシングガスは引き抜きチャンネルを介して引き抜く必要はない。それに替えて、十分に大きなフラッシングガス流入量を提供することにより、引き抜きチャンネルをフラッシングガスアウトレットとして同時に機能させることができる。
【0057】
本発明の装置の一つの改良は、酸素センサー及びセレン化水素センサーからなる群からの少なくとも一つのセンサーを、加熱炉チャンバーとハウジングとの間に形成された空間中に配置するという条件が設けられる。
【0058】
他の有利な実施例において、そのハウジングは冷却可能に設計され、それにより、加熱炉チャンバーによって発せられる熱を除去することができる。
【0059】
本発明の装置の改良の一つにより、反転装置が設けられる。これは、基板が、少なくとも一つの追加の加熱装置によって加熱されている間に、それらの基板を反転させるように配置される。したがって、基板は、少なくとも部分的に不均質性を補償するために、ランプの場合には、放射線の不均質性を補償するために、その追加の加熱装置の影響が及ぶ領域中をあちこち移動させられる。好ましくは、その反転装置は振動装置(oscillation element)として設計され、そのため、基板は、振動運動で移動させることができる。
【0060】
次に、図面を用いて本発明をより詳細に説明する。有用である限り、同じ作用を有する要素は、同じ符号が与えられる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は、従来技術に従って製造されたCIGS化合物半導体層のガリウム深さの分布を示すグラフである。
【図2】図2は、本発明に従って製造されたCIGS化合物半導体層のガリウム深さの分布を示す図である。
【図3】図3は、本発明の方法の第一の実施形態の基本的なブロック図である。
【図4】図4は、本発明の装置の実施形態の概略図であり、本発明の方法の更なる実施形態を示す図である。
【図5】図5は、本発明の方法の更なる実施形態における基板の時間−温度プロフィルを示す図であり、ここで、基板は、その上に配置されたコーティングと同じ方法で加熱される。
【図6】図6は、既にプロセス時間は通過したが、活性障壁温度又はそれ以上には未だ加熱されていない、基板上に配置されたコーティングの概略図におけるスナップショットである。
【図7】図7は、図6に示した層構造に対する、Bragg−Brentanoに従うX線回折測定の結果を示す図である。
【図8】図8は、回折されたX線の角度依存強度のコーティングの加熱する間に様々な温度で実施された測定からの結果を示す図である。
【図9】図9は、本発明の更なる実施形態を適用する間の、コーティングの時間−温度プロフィルの基本的なグラフを示す図であり、この場合、コーティングは、ブースト期間の間基板よりも高い温度に加熱される。
【図10】図10は、本発明の方法の別の一実施形態に従う、基板の熱的に不活性なキャリア上への配置の概略図である。
【0062】
既に上記で説明したように、図1は、従来技術に従う方法を用いて製造されたCIGS化合物半導体層のガリウム深さの分布を示している。これは、コーティングの最大温度520℃における堆積反応プロセスで製造されたものである。この化合物半導体層から製造される太陽電池は、8.3%の効率及び460mVの開回路電圧を有する。
【0063】
これとは対照的に、図2は、最大温度640℃の下で、本発明の方法を用いて製造されたCIGS化合物半導体におけるガリウム深さの分布を示している。より均質なガリウムの分布が明確に分かる。この製造された化合物半導体層から製造された太陽電池は、13.6%において、遙かに高い効率を示す。予期されるように、より高い開回路電圧も生じ、総計で600mVである。
【0064】
図3は、本発明の方法の第一の実施形態の基本的なブロック図を示している。これによれば、最初に、金属前駆体層が基板80上にスパッタされる。この場合、例えば、最初に銅及びガリウムを一緒にスパッタさせ、そして、更なる堆積プロセスで、インジウムをスパッタさせることができる。この型又は別の型の層の配列の複数適用は原理的に可能である。使用される基板には、金属バック接点コーティングを設けることもでき、この上にスパッタされる層が位置する。ここで、例えば、モリブデン層を、金属バック接触点コーティングとして使用することができる。上述したように、このバック接触点層は、有利に既に構造化されている。
【0065】
続いて、大気圧でセレンをその金属前駆体層上に蒸着し、それからその上に析出させる82。加熱相がこれに続く。また、金属前駆体層から最初に形成されたコーティング及び堆積されたセレン層は、350℃を超える温度で維持され84、そして同時にその金属前駆体層を、堆積された82セレン層からのセレンを用いて、CIGS化合物半導体層84に変換させる。コーティングを、350℃を超える温度で維持する間84、すなわち、プロセス時間の間、コーティングを640℃の活性障壁温度に加熱し、その640℃の活性障壁温度を活性時間の間維持する86。その他別の実施形態では、コーティングの温度は、その活性時間の間、活性障壁温度を超えても良い。
【0066】
図4は、本発明による装置の実施形態を示しており、これは、例えば、図3に従って、本発明の方法を実行するのに使用することができる。その装置は、連続加熱炉24として設計され、そして加熱炉チャンバー1を有しており、そのチャンバーの壁部は、グラファイトで製造されているか、又はグラファイトで被覆されている。加熱炉チャンバー1は、さらにいくつかのセグメントS1、S2、S3、S4、S5、S6に分割されている。これらセグメントS1、S2、S3、S4、S5、S6のそれぞれにおいて、セグメントS1〜S4に配置された加熱装置8及びセグメントS5及びS6に配置された冷却装置9によって、その加熱炉チャンバー1を通過させてコーティングを予熱させることができる。加熱装置8及び冷却装置9は、好ましくは加熱炉チャンバー1のグラファイト壁部中に埋設される。セグメントS1、S2、S3、S4、S5、S6は互いに断熱されており、そしてそれぞれが周囲からも断熱されるよう設計されている。より明確にするために、関連する絶縁手段は図4には示されていない。上述の断熱のために、異なるセグメントS1、S2、S3、S4、S5、S6において大きく異なる温度を実現でき、そしてエネルギー消費を低減できる。
【0067】
セグメントS1には装入開口部2が設けられており、これを介して基板を加熱炉チャンバー1中へ導入することができる。したがって、セグメントS6は排出開口部3を有しており、そこを介して基板を加熱炉チャンバー1から導出させることができる。保護ガス雰囲気は、加熱炉チャンバー1中に生じさせることができる。この目的を達成するために、そして、例えば、酸素又は水素を含むガスのような有害ガスが加熱炉チャンバー1中に侵入するのを防ぐために、ガスカーテン4、5を、装入開口部2及び排出開口部3に配置する。更に、図4は、化合物半導体層への変換に使用されなかったセレン又はその他のカルコゲンを加熱炉チャンバー1から引き抜くための排ガスチャンネル12を示している。
【0068】
加熱炉チャンバー内部には輸送装置7が配置されていて、これを使って基板6を加熱炉チャンバー1を通して輸送することができる。例えば、そのような輸送装置7として押し込みロッドを提供できる。
【0069】
加熱炉チャンバー1中の保護ガス雰囲気を更に改善するために、ここで、ステンレス鋼ハウジング13として設計されるハウジング13にこれが設けられる。加熱炉チャンバー1の装入開口部2及び排出開口部3に対応して、このハウジングは装入開口部14及び排出開口部15を有する。そのステンレス鋼ハウジング13にはまた、フラッシングガスインレット17及び引き抜きチャンネル16も設けられている。加熱炉チャンバー1とステンレス鋼ハウジング13との間に形成された空間23には、保護ガス、例えば窒素を、このフラッシングガスインレット17及び引き抜きチャンネル16を介して流すことができる。酸素センサー25a及びセレン化水素センサー25bが空間23中に配置される。これにより、酸素又は水素の空間中への侵入を検知することが可能となる。
【0070】
図4は、本発明の方法の実施形態を更に示している。この場合、最初に基板6が装入開口部2を介して加熱炉チャンバー1中に導入され、ここで、該基板にはモリブデンの背面接点が設けられており、その上に金属前駆体層18が、例えばスパッタリング80を使って施用され、そして該層はまた、例えば、APPVD蒸着によりセレン層19が設けられている。セグメントS1中では、保護ガス雰囲気のために酸素分圧が低く、該セグメントは一旦、約1150℃に加熱される。続いて、セグメントS2中へ更に送られ、該セグメントは約550℃に加熱され、その結果、金属前駆体層18の少なくとも一部の、セレン層19からのセレンによる、CIGS化合物半導体層20への変換が起こる。最初に金属前駆体層18及びセレン層19から形成されたコーティング18、19は、一旦350℃の温度に達し、350℃を超えて550℃に、更なる加熱としてのプロセス時間の期間が開始され、少なくとも350℃の温度にコーティング18、19を維持する一部を担う。
【0071】
次に、基板はセグメントS3中へ導入され、そこでは、その基板及びそれ故コーティングも650℃に加熱されるため、この実施形態で使用される640℃の活性障壁温度を超える。活性時間は、活性障壁温度付近で開始される。次に、セグメントS3において、基板が更に、セグメントS4中へ送られるまで、650℃のコーティング温度は維持される。そこでは、基板の冷却が起こり、そしてCIGS化合物半導体層によって形成されたコーティングもまた、最終的には約600℃に冷却される。その温度が、640℃の活性障壁温度を一旦下回ると、活性時間が終了する。変換されなかったセレンは、排ガスチャンネル12を介してセグメントS4から出て、加熱炉チャンバー1から排出される。
【0072】
隣接するセグメントS5及びS6では、基板は排出開口部3及び15を介して連続加熱炉24から取り出される前に、そのコーティングと一緒に、冷却装置9を用いて、最初に約450℃に、それから300℃に冷却される。
【0073】
説明した実施形態では、各セグメントにおける基板を約120秒で離脱させるのが有用であることが証明されている。更に、基板、及び金属前駆体層18及びセレン層19及び/又はCIGS化合物半導体層20から形成されたコーティングが少なくとも350℃に維持される、約480秒のプロセス時間が有用であることが証明されている。活性時間であって、その際、基板6及び/又はコーティング18、19、20が、640℃の活性障壁温度と同じか又はそれよりも高い温度に維持される該時間として、120秒の値が有用であることが証明されている。
【0074】
基板6のコーティングを照射するために、加熱炉チャンバー1及びその中のセグメントS3に配置されたランプ10は、今説明している本発明の方法の実施形態では使用されない。それ故、基板並びにコーティングは同じように加熱され、おおよそ同じ温度を有すると結果になる。
【0075】
本発明の方法の更に別の実施形態においては、コーティングは、ブースト期間の間、基板よりも高い温度に維持されるが、提供されたランプ10をこの目的で利用できる。これらのランプ10は、加熱炉チャンバー1の壁部における凹部の中に好ましく配置され、そしてそれぞれを、石英被覆ガラス10で包み込み、該ガラスは、ランプ10が破裂したような場合に、破裂したランプを迅速かつ簡単に交換して加熱炉チャンバー1の汚染を防ぐのを可能にする。ランプ10を用いて、最も均質になり得る、コーティング18、19、20の照射を達成するために、ガラスセラミック板11を、それらのランプ10と基板6との間に設ける。
【0076】
輸送装置7もまた、この場合において、振動装置7aとして設計された反転装置7aを有しており、ランプ10によって放出される電磁放射線による、コーティング20の均質な照射を可能にするために、セグメントS3においてこれを使って基板6をガラスセラミック板11の下で振動させることができる。
【0077】
図4に関連して説明した本発明の方法の実施形態では、セレン層19からのセレンは、金属前駆体層18をCIGS化合物半導体層20に変換するためのカルコゲンとして使用できる。これに代わり、あるいはこれに追加して、本発明の方法のその他別の実施形態では、特にセレンは、セレン蒸気供給部22を介して加熱炉チャンバー1中に供給されて変換のために使用できる。このセレン蒸気供給部22を介することにより、例えば、蒸気の形態のセレンを、キャリアガスを使って加熱炉チャンバー1中に導入できる。
【0078】
図5は、本発明の方法の更なる実施形態におけるコーティング及び基板の時間−温度プロフィルを示している。この場合もまた、銅及びガリウムを含む層並びにインジウム層は、モリブデンバック接点が設けられたガラス基板上にスパッタされ、そしてAPPVDを使ってセレン層が堆積される。基板及びコーティングの加熱は、連続加熱炉中ではなく、従来の加熱炉において、窒素保護ガス雰囲気下で、おおよそ大気圧で行われる。図5から推論されるように、基板及びそのコーティングは、基板を、約1℃/秒の加熱速度で最終的な700℃の温度に至らせて、その温度で約30秒間維持する前に、約6℃/秒の温度上昇で約500℃の温度にまず加熱される。その後、基板の冷却が続く。640℃の温度が、活性障壁温度Tgとして選択される。そのため、プロセス時間tpは、図5で示すように、約450秒であり、そして活性時間tgは約140秒である。
【0079】
図6〜図8は、本発明の方法が、製造された化合物半導体層におけるより均質なガリウム分布及び温度影響の一様性を可能にするという事実を示している。図6は、活性障壁温度に達する前の、本発明の方法の間の、コーティングを設けた基板のスナップショットを示している。この瞬間、従来技術によって製造されたCIGS化合物半導体層と同様に、高ガリウムで低インジウムのCIGS層30が基板付近に存在し、及び/又は基板6上に配置されたバック接点は図示されていない。この上には比較的低ガリウムのCIGS層32があり、これは相対的により多くのインジウムを含む。
【0080】
図7は、図6に示したのと同様な、Bragg−Brentanoによる、層構造に対するX線回折測定の結果を示している。黄銅鉱構造の220/240反射が見られる。低ガリウムCIGS層32に対するX線回折の結果、約44.5°で最大ピークが得られる。このピークの右側には、第二の非常に弱い信号との重なり合いが見られ、これは、高ガリウムCIGS層30に対するX線回折の結果生じる。これは、CIGS合金中のガリウム割合が高い程、格子の普遍性が益々小さく、そのため回折角度がより大きくなるという事実に起因する。高ガリウムCIGS層30で回折する放射線の強度は、図6で概略的示したように、高ガリウムCIGS層30の層厚、及びより厚い低ガリウムCIGS層32におけるX線吸収効果のために、低ガリウムCIGS層32のピークの強度と比較して低減される。
【0081】
図5からの実施形態に従って処理された基板に対する、相応のX線回折測定が、プロセスの間の様々な時点で実施され、図5において、これは、それぞれの時点における基板及びコーティングの有効温度によって特徴付けられている。これらのX線回折測定の結果を図8に再現した。該図において、個々の測定のグラフは、比較を容易にするために、それぞれから垂直に位置がずらされている。
【0082】
約40.4°で最大値を有するピークは、基板上に配置されたバック接点のモリブデンの110−反射を示している。図8から分かるように、この反射は、熱処理の間にいずれの実質的な変性も経ていない。
【0083】
得られた515℃の基板及び/又はコーティング温度の測定結果を反映するグラフは、約44°における最大のピークを有している。これは、セレン化銅インジウム又は非常に低いガリウム含有量のCIGS層の220/224−反射に相当し、該層では遷移部分は流体である。図6及び図7に関連してすでに説明したように、600℃の基板及び/又はコーティング温度に属するグラフの対応ピークは、その右側に、重なり合った、高ガリウムCIGS層の220/204−反射を示す更なるピークを見せている。そのため、化合物半導体層は、600℃の測定時のグラフにおいては、非常に低いガリウム含有量のCIGS層(約44°でピーク)及び高い割合のガリウムを有するCIGS層を含んでいる。
【0084】
640℃の温度において、重なり合う更なるピークはより強く特徴付けられており、そしてより小さい角度に向かってシフトし、約44°におけるピークがより弱い。これは、低ガリウムCIGS層からのインジウムの、高ガリウムCIGS層からのガリウムとの入れ替えを示している。更に、約44°におけるピークは、より大きな角度に向かう移動を開始し、これは、ガリウムが、低ガリウムCIGS層の上面上に拡散されていることを示しており、これは、製造された太陽電池モジュール及び/又は太陽電池の開回路電圧及び/又は効率にとって好ましい効果を奏する。680℃の基板温度及びコーティング温度に属するグラフでは、説明したそのシフト傾向はより明白である。
【0085】
従って、図8は、実験した実施形態では、一定時間640℃の活性障壁温度又はそれより高い温度でコーティングを維持することによって、化合物半導体層の厚さにわたって、非常に向上した均質性を有するCIGS化合物半導体層を製造できることを示している。上記ですでに説明したように、更なる調査によって、いかにこの方法が実施されるかに依存して、600℃の活性障壁温度さえも、製造された化合物半導体層の向上した均質性をもたらすことを示している。
【0086】
図9は、コーティングの時間−温度プロフィルを用いた、簡略化された図で、本発明の方法の更なる実施形態を示しており、これは、例えば、連続加熱炉24中に配置されたランプ10を用いる図4で示した連続加熱炉によって実施できる。したがって、例として、図4における図を参照して説明する。
【0087】
この実施形態では、モリブデンのバック接点、及び金属前駆体層18で被覆され、そしてAPPVD−セレン層19が設けられたフロートガラス基板6が、装入開口部2、14を介して加熱炉チャンバー1の第一セグメントS1中に導入され、そこで、金属前駆体層18及びセレン層19からなるコーティングと一緒に150℃に加熱される。次に、該基板はセグメントS2にコーティング18、19、20と一緒に移動され、そこで、セグメントS3に配置される前に約500℃の温度に加熱される。コーティングがセグメントS2中で一旦350℃の温度に達すると、プロセス時間の期間が開始する。基板6及びコーティング18、19、20は、セグメントS3中で一緒に、まず、550℃の温度に加熱される。この時点まで、基板6及びコーティング18、19、20の温度プロフィルは、本質的に同じである。しかしながら、次に、コーティング20(その間に、金属前駆体層18及びセレン層19の変換は既に起こっている)は、図9に示したように、ランプ10によって、基板6よりも強く加熱され、そしてその結果、基板6よりも高い温度でブースト期間の間維持される。ランプ10によってさらに強力に加熱した結果、コーティング20は、約650℃の最大温度に達し、それによって、この実施形態で使用される650℃の活性障壁温度を超える。その結果、コーティング20は、活性時間tgの全体を通じて、基板よりも高い温度に維持される。図9の実施形態におけるブースト期間tbは、活性時間tgよりも長い。
【0088】
ブースト期間tbは、比較的短くなるように、好ましくは15秒になるように選択される。この時間の間、ガラス基板は、コーティングの温度を上昇させることができず、580℃より下のガラス基板6にとって安全な温度を維持する。ランプ10のスイッチを切ってすぐにコーティングを550℃に冷却する。その後、基板6及びコーティング20の両方をセグメントS4〜S6に輸送し、そこで、セグメントS4では約450℃に、セグメントS5では約350℃に、そしてセグメントS6では、最終的に約200℃に、順次それらを冷却する。セグメントS1、S2、S3、S4、S5、S6のそれぞれにおける滞留時間としては、120秒が設定され得る。
【0089】
ランプ10を使ってコーティング20の均質な照明を可能にするために、連続加熱炉24の輸送装置7が、上述したように、基板を、反転運動、例えば振動している状態で少なくともセグメントS3中に設置するよう設計されており、これは、ランプ10を使ってコーティング20の均質な照明を確保するためである。
【0090】
ランプ10は、原理的に、セグメントS3以外のその他の場所、例えば、個々のセグメントの間に配置することもできる。コーティングは、基板が一つのセグメントから次のセグメントに移される間にこのように照明することができるであろう。更に、セグメントS3、又はその他のセグメントに配置されたランプ10の組み合わせと、隣接するセグメントの間に配置されたランプとの組み合わせもまた可能である。
【0091】
本発明の方法の更に別の実施形態では、基板及びコーティングを異なる温度に維持するために、基板は、熱的に不活性なキャリア、すなわち、比較的大きな熱質量を有するキャリア上に配置される。この目的を達成するために、図10に概略的に示したように、基板6は、熱的に不活性なキャリア、この場合、グラファイト板26上に配置される88。結果として生じる、基板6とグラファイト板26との間の熱カップリングのために、基板6は、コーティングの加熱にほとんど追随できないか、又は遅れて加熱されるだけである。これは、コーティング18、19、20を基板6より高い温度に加熱するのに、及び/又は、基板6より高い温度でそれらを維持するのに利用できる。上述の基板6の熱的に不活性なキャリア、特にグラファイト板26上への配置88は、前述のランプを使ったコーティングの加熱に替えて、又はそれに追加して行うことができる。特に、基板6は、そのグラファイト板26上を、図4からの連続加熱炉24を通って移動させることができる。
【符号の説明】
【0092】
1: 加熱炉チャンバー
2: 装入開口部
3: 排出開口部
4: ガスカーテン
5: ガスカーテン
6: モリブデン裏面接点を備えた基板
7: 輸送装置
7a: 振動装置
8: 加熱装置
9: 冷却装置
10: 石英チューブ内のランプ
11: ガラスセラミック板
12: 排ガスチャンネル
13: ステンレス鋼ハウジング
14: 装入開口部
15: 排出開口部
16: 引き抜きチャンネル
17: フラッシングガスインレット
18: 金属前駆体層
19: セレン層
20: CIGS化合物半導体層
22: セレン蒸気供給部
23: 空間
24: 連続加熱炉
25a: 酸素センサー
25b: セレン化水素センサー
26: グラファイト板
30: 高ガリウムCIGS層
32: 低ガリウムCIGS層
80: 金属前駆体層へのスパッタリング
82: APPVD−セレン蒸着
84: 温度でのコーティングの加熱及び維持、及び化合物半導体層への変換
86: 活性障壁温度でのコーティングの維持
88: グラファイト板上への基板の配置
S1: 連続加熱炉中の第一のセグメント
S2: 連続加熱炉中の第二のセグメント
S3: 連続加熱炉中の第三のセグメント
S4: 連続加熱炉中の第四のセグメント
S5: 連続加熱炉中の第五のセグメント
S6: 連続加熱炉中の第六のセグメント
Tg: 活性障壁温度
Tg: 活性時間
Tp: プロセス時間
Tb: ブースト期間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
I−III−VI化合物半導体層(20)の製造方法であって、
− 基板(6)が、金属前駆体層(18)を有するコーティング(18、19)で被覆され(80);
− 該コーティング(18、19)は、プロセス時間(tp)の期間、少なくとも350℃の温度に維持され(84)、そして該金属前駆体層(18)が、500ミリバール〜1500ミリバールの周囲圧力において、カルコゲン(19)の存在下で、化合物半導体層(20)に変換され(84);
その際、該コーティング(18、19、20)が、活性化時間(tg)の期間、少なくとも活性障壁温度(Tg)を達成する温度に維持され(86)、それにより、活性障壁温度(Tg)として、少なくとも600℃の値が選択される(86)ことを特徴とする、上記の方法。
【請求項2】
活性障壁温度(Tg)として、640℃の値が選択(86)されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記コーティング(18、19、20)が、少なくとも前記プロセス時間(tp)の間、保護ガス雰囲気中、好ましくは、窒素又は希ガスを含む雰囲気中に配置されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記活性化時間(tg)が、500秒未満、好ましくは250秒未満に選択されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
前記プロセス時間(tp)が、1200秒未満、好ましくは600秒未満、特に好ましくは150〜500秒になるよう選択されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
前記コーティング(18、19、20)が、セグメント化された連続加熱炉(24)中で加熱され、そして該連続加熱炉(24)の異なるセグメント(S1、S2、S3、S4、S5、S6)において、コーティング(18、19、20)を異なる温度に至らせることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
前記金属前駆体層(18)が、CIS化合物半導体層(20)又はCIGS化合物半導体層(20)に転換されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
前記コーティング(18、19、20)が、ブースト期間(tb)間、前記基板(6)よりも高い温度に維持されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
前記コーティング(18、19、20)が、少なくとも前記活性時間(tg)の間、前記基板(6)よりも高い温度に維持されることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ブースト期間(tb)の間、前記基板(6)の温度が、該基板(6)にとって安全な値に維持され、その一方で、好ましくは、該基板(6)としてフロートガラスが使用され、そしてその温度が、580℃未満の値に維持されることを特徴とする、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記基板(6)と比較して、前記コーティング(18、19、20)のより激しい加熱(84、86)のために、前記コーティング(18、19、20)が、少なくとも一つのランプ(10)で照明されることを特徴とする、請求項8〜10のいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
前記コーティング(18、19、20)が、少なくとも一つのランプで照明される一方で、前記基板(6)が前記連続加熱炉の一つのセグメント(S1、S2、S3、S4、S5、S6)から、その次のセグメント(S1、S2、S3、S4、S5、S6)へ運ばれることを特徴とする、請求項11及び請求項6に記載の方法。
【請求項13】
前記プロセス時間(tp)の間、前記基板(6)が、熱的に不活性な担体(26)、好ましくはグラファイト板(26)上に配置されることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
加熱チャンバー(1)及び該加熱チャンバー(1)を加熱するための少なくとも一つの加熱装置(8)を有する、請求項1〜13のいずれか一つに記載の方法を実施するための装置であって、
基板(6)及びその上に配設されるコーティング(18、19、20)からなる、前記加熱チャンバー(1)中に導入されるシステムの少なくとも一部を選択的に加熱するための少なくとも一つの追加の加熱装置(10)を有することを特徴とする、上記の装置。
【請求項15】
前記少なくとも一つの追加加熱装置(10)が、前記コーティング(18、19、20)の選択的加熱のために配置されることを特徴とする、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
少なくとも一つの追加の加熱装置(10)が、前記システム(6、20)の少なくとも一部(20)を照明するための少なくとも一つのランプ(10)から形成され、その際、前記少なくとも一つのランプ(10)が、好ましくは、前記ランプ(10)による発光に対して透過性の保持器(10)中に、特に好ましくは、石英管(10)として設計された保持器(10)中に配置されることを特徴とする、請求項14又は15に記載の装置。
【請求項17】
前記少なくとも一つのランプ(10)が、該少なくとも一つのランプ(10)によって放出される放射線を均質化する板(11)、好ましくはガラスセラミック板(11)又は石英ガラス板の背後に配置されることを特徴とする、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記装置が、連続加熱炉(24)として設計され、そして前記加熱チャンバー(1)が、いくつかのセグメント(S1、S2、S3、S4、S5、S6)に分割され、それによって、異なるセグメント(S1、S2、S3、S4、S5、S6)において異なる温度を生じさせることができ、そしてそれによって、前記多数のセグメント(S1、S2、S3、S4、S5、S6)が好ましくは互いから熱的に絶縁されることを特徴とする、請求項14〜17のいずれか一つに記載の装置。
【請求項19】
少なくとも一つの追加の加熱装置(10)が、前記連続加熱炉(24)のセグメント(S3)内に配置されることを特徴とする、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
少なくとも一つの追加の加熱装置が、前記連続加熱炉(24)の二つの連続したセグメント(S1、S2、S3、S4、S5、S6)の間に配置されることを特徴とする、請求項18に記載の装置。
【請求項21】
前記加熱チャンバー(1)が、ハウジング(13)によって閉じ込められており、そして加熱チャンバー(1)とハウジング(13)との間に空間(23)が形成され、そして該空間は、少なくとも一つのフラッシングガスインレット(17)及び少なくとも一つの引き抜きチャンネル(16)を有し、その際、該ハウジング(13)は、好ましくは、ステンレス鋼ハウジング(13)として設計されることを特徴とする、請求項14〜20のいずれか一つに記載の装置。
【請求項22】
前記基板(6)を保持するために保持器(7a)が設けられる一方で、該基板は、少なくとも一つのランプ(10)を使って加熱され、その際、該保持器(7a)は、好ましくは、振動装置(7a)として設計されることを特徴とする、請求項14〜21のいずれか一つに記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2013−511835(P2013−511835A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−539423(P2012−539423)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【国際出願番号】PCT/IB2010/002729
【国際公開番号】WO2011/061583
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(507399689)セントロテルム・フォトヴォルテイクス・アクチエンゲゼルシャフト (5)
【Fターム(参考)】