説明

化学処理液貯留槽

【課題】 アルカリと有機溶剤の混合液であっても、簡易な構成を施すのみで、槽本体内面の気液接触界面部分が集中的、局所的に腐蝕し損傷することを極力防いで槽全体の耐久寿命を延長化できるようにする。
【解決手段】ガス処理用吸収液6を貯留するスクラバーの循環槽7における槽本体7Aを、耐アルカリ性に優れた耐蝕樹脂から構成するとともに、この槽本体7Aの内面7aのうち、吸収液6の液面変動範囲H以上の上下幅H1に対応する内面部分7bの全周に、耐有機溶剤性に優れた耐蝕樹脂から構成された保護板13を、二次接合片14を介して着脱交換可能な状態に取り付けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば各種薬品生産ライン等からの排ガス中に含まれている有毒性ガスなどを吸収液との接触により吸収及び捕集して除去処理するスクラバーにおける充填塔の下部に設けられる吸収液の循環槽やその循環槽に対し吸収液の補充等を行う調整槽など、その内部に化学処理液を貯留させて用いられる化学処理液貯留槽に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の化学処理液貯留槽においては、槽本体の内面のうち、貯留された化学処理液の液面変動範囲が気液接触界面であり、この気液接触界面となる槽本体の内面部分が他の部分に比べて侵食等のケミカルアタックを受けやすく、その内面部分が短期間の使用で集中的、局所的に腐蝕し損傷して槽全体としての耐久寿命が短縮されてしまうことが多い。
【0003】
このような槽本体内面の集中的、局所的な腐蝕防止対策として、一般に、槽本体全体を耐アルカリ性に優れた耐蝕樹脂、例えばビスフェノール系ビニルエステル樹脂から構成する、あるいは、耐有機溶剤性に優れた耐蝕樹脂、例えばノボラック系ビニルエステル樹脂から構成することにより、槽本体の内面を防蝕保護する手段が一般に採用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、槽本体内に貯留される化学処理液がアルカリ質なものである場合は、上記したように、槽本体全体を耐アルカリ性に優れた耐蝕樹脂から構成し、また、化学処理液が有機溶剤で溶解されたものである場合は、耐有機溶剤性に優れた耐蝕樹脂から構成することにより、前記気液接触界面を含めて槽本体の内面全域の腐蝕及びそれに伴う損傷を長期に亘り防止することが可能である。
【0005】
しかしながら、槽本体内に貯留される化学処理液には、上記のもの以外に、アルカリと有機溶剤との混合液が多い。このような混合液である場合、耐アルカリ性及び耐有機溶剤性の何れにも優れた耐蝕樹脂が現有しないために、槽本体の構成材料として、耐アルカリ性に優れた耐蝕樹脂または耐有機溶剤性に優れた耐蝕樹脂のいずれか一方を処理液の性状などに応じて優先的に選択使用せざるを得ない。そのため、優先的に選択されなかった側の耐蝕性が劣るのは必然であり、気液接触界面となる槽本体の内面部分が短期間の使用で集中的、局所的に腐食し損傷して槽全体としての耐久寿命が短くなることは避けられない。特に、耐アルカリ性に優れた耐蝕樹脂から槽本体を構成した場合、非水溶性で、かつ、比重の小さい(1未満)ものが多い有機溶媒、例えばトルエンやメチルアルコールなどが液面に浮遊して気液接触界面で高濃度となるために、当該気液接触界面となる槽本体の内面部分が集中的に侵食されて急速に損傷し耐久寿命の急激な低下を招きやすいという問題があり、また、そのような状況下において耐久寿命を少しでも長くするためには、比較的短いサイクルで補修メンテナンスを行うことが必要になるという問題があった。
【0006】
本発明は上記のような実情に鑑みてなされたもので、アルカリと有機溶剤との混合液であっても、既存の槽にも実施可能な簡易な構成を施すのみで、槽本体内面の気液接触界面部分が集中的、局所的に腐蝕し損傷することを極力防いで槽全体の耐久寿命を延長化することができる化学処理液貯留槽を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る化学処理液貯留槽は、化学処理液を貯留する槽本体の少なくとも内面全域を、耐アルカリ性または耐有機溶剤性の耐蝕樹脂から構成するとともに、この槽本体の内面のうち、貯留された化学処理液の液面変動範囲以上の上下幅に対応する内面部分の全周に、耐有機溶剤性または耐アルカリ性の耐蝕樹脂から構成された保護板を、着脱交換可能な状態に取り付けていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
上記のような特徴構成を有する本発明によれば、槽本体の内面全域の耐アルカリ性または耐有機溶剤性を確保しつつ、最もケミカルアタックを受けやすい気液接触界面である槽本体の内面部分の耐有機溶剤性または耐アルカリ性も確保することができる。すなわち、槽本体の内面のうち、貯留された化学処理液の液面変動範囲以上の上下幅に対応する内面部分に、耐有機溶剤性または耐アルカリ性の耐蝕樹脂から構成された保護板を取り付けるといった現存の槽にも実施可能な簡単な構成を施すのみで、一つの槽をこれに貯留される化学処理液の種類や成分に関係なく共用しながらも、その槽本体の内面が集中的、局所的に腐蝕し損傷することを極力防いで槽全体としての耐久寿命を著しく延長化することができる。また、短いサイクルでの補修メンテナンスは不要であるから、製作コスト及びランニングコストを含めたトータルコストの低減化も実現できるという効果を奏する。
【0009】
本発明に係る化学処理液貯留槽における前記保護板としては、耐有機溶剤性または耐アルカリ性の耐蝕樹脂単体から構成されたものであってもよいが、特に、請求項2に記載のように、少なくとも1層の耐蝕樹脂層と少なくとも1層の補強層との積層(ラミネート)構造に構成されたものを使用することが好ましい。この積層構造の保護板を使用する場合は、該保護板の物理的強度が高くなるため、薄肉板の使用が可能となり、保護板取り付けによる槽内容積の減少を最小限に止めることができるとともに、この保護板を槽本体の内面に強く押圧し密着させて槽本体自身の内面部分が気液接触界面となって不測に腐食されることを確実に防止できる。
【0010】
また、本発明に係る化学処理液貯留槽においては、槽本体の全体を耐アルカリ性または耐有機溶剤性の耐蝕樹脂から構成してもよく、また、槽本体の内面全域に耐アルカリ性または耐有機溶剤性の耐蝕樹脂をライニングしたものであっても良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明に係る化学処理液貯留槽として、スクラバーにおける充填塔下部に連通接続して設けられる吸収液の循環槽を適用した例のスクラバー全体の概略縦断正面図である。
【0012】
図1において、1はFRP製の縦長筒状のスクラバー本体(充填塔)であり、このスクラバー本体1内には、例えばポリプロピレンやポリエチレン等の熱硬化性樹脂製の充填材の多数をランダムに投入してなる気液接触用の充填層2が配備されているとともに、この充填層2の上側に上部空間3が、かつ、下側に下部空間4が画成されている。また、前記スクラバー本体1の上端部には、処理済みガスG1を大気中に排出する排出口5が形成されているとともに、スクラバー本体1の下端部には、例えば塩酸ガスや塩素ガス等の塩素系あるいは硫酸ガス等の酸性の被処理ガスGと逆性を持ち、この被処理ガスG中にミストあるいは蒸気として含まれていて前記充填層2での気液接触作用やスクラバー本体1内での慣性衝突の原理により捕集されるトルエン等の有機溶媒が混入されることになる、例えば苛性ソーダ水溶液等のガス処理用吸収液(化学処理液の一例)6を貯留する吸収液循環槽7が連通接続されている。また、この吸収液循環槽7の上端近くのスクラバー本体1の周壁部には、例えば塩酸ガスや塩素ガス等の塩素系の被処理ガスGを前記下部空間4内に導入する被処理ガス導入口8が形成されている。
【0013】
前記スクラバー本体1内で前記充填層2の上部空間3には、前記ガス処理用吸収液6を下向きにスプレーするノズル9a付きの散水管9が挿入配設され、この散水管9と前記吸収液循環槽7の底部とが吸収液循環用配管10を介して連通接続され、この吸収液循環用配管10の途中に吸収液強制循環用のポンプ11が介在されている。
【0014】
また、前記充填層2の上部空間3に挿入配設された散水管9の上部には、洗浄用の清水FWを下向きにスプレーするノズル12aを有する洗浄用散水管12が挿入配設されている。この洗浄用散水管12は有害成分の吸収・捕集除去処理運転停止後に洗浄用清水FWをノズル12aから下向きにスプレーするように構成されている一方、上部の散水管9は有害成分の吸収・捕集除去処理運転中に常時、前記吸収液6を各ノズル9aからそれぞれ同時にスプレーするように構成されている。
【0015】
以上のごとき構成のスクラバーにおいて、前記吸収液循環槽7の槽本体7Aは耐アルカリ性に優れた耐蝕樹脂の一例であるビスフェノール系ビニルエステル樹脂から構成されているとともに、この槽本体7Aの内面7aのうち、そこに貯留されたガス処理用吸収液6が液面変動範囲Hよりも少し大きい上下幅H1に対応する内面部分7bの全周には、図2に明示するように、耐有機溶剤性に優れた耐蝕樹脂の一例であるノボラック系ビニルエステル樹脂または変性ノボラック系ビニルエステル樹脂から構成された保護板13が、それの上下両側において槽本体7Aの内面7aに樹脂接合される二次接合片14,14を介して槽本体7Aの内面7aに密着される状態で、かつ、前記二次接合片14,14の分断により着脱交換可能な状態に取り付けられている。
【0016】
なお、前記二次接合片14,14自体も保護板13と同様に、耐有機溶剤性に優れたノボラック系ビニルエステル樹脂または変性ノボラック系ビニルエステル樹脂から構成されている。
【0017】
上記のように構成されたスクラバーによれば、例えば各種薬品生産ライン等から排出される塩酸ガスや塩素ガス等の塩素系、あるいは、硫酸ガス、亜硫酸ガス、フッ素ガスなど酸性の被処理ガスGは前記被処理ガス導入口8からスクラバー本体1の下部空間4内に導入されたのち、充填層2を縦断通過するようにスクラバー本体2内を上昇する。一方、循環槽7内の吸収液6は、ポンプ11の作動に伴い循環用配管10を経て上下の散水管9内に送給されて各ノズル9aから充填層2に向けてスプレーされ、これによって、充填層2を縦断通過する被処理ガスGとスプレーされた吸収液6とが充填層2内の広い面積で気液接触して被処理ガスG中に含まれている有毒性ガスなどの有害成分が吸収及び捕集されて除去され、処理済みのガスG1はスクラバー本体1の上部空間3を経て上端排出口5から大気中に排出される一方、余剰の吸収液6は循環槽7内に流下して再循環される。
【0018】
上記の有害成分の吸収・捕集除去処理運転に用いられる苛性ソーダ水溶液(アルカリ)等の吸収液6には、被処理ガスG中にミストあるいは蒸気として含まれていて前記充填層2での気液接触作用やスクラバー本体1内での慣性衝突の原理により捕集されるトルエン等の有機溶媒が混入されることになるが、このような有機溶剤の混入した苛性ソーダ水溶液(アルカリ)等の吸収液6が循環槽7に貯留されるとしても、この循環槽7の槽本体7Aは耐アルカリ性に優れたビスフェノール系ビニルエステル樹脂から構成されているので、槽本体7A自体の内面7aが早期に腐蝕されることを極力防止することが可能である。
【0019】
一方、吸収液6に混入されるトルエン等の有機溶媒は非水溶性で比重が1未満と軽いものが多いので、その有機溶剤が吸収液6の液面に浮遊し前記液面変動範囲Hの気液接触界面では高濃度となっており、そのため、気液接触界面となる槽本体7Aの内面部分7bが他の部分に比べて有機溶媒による侵食等のケミカルアタックを強く受け、他の部分よりも早期に腐蝕する状態にある。このようなケミカルアタックを最も強く受ける状態にある槽本体7Aの内面部分7bに、耐有機溶剤性に優れたノボラック系ビニルエステル樹脂または変性ノボラック系ビニルエステル樹脂から構成された保護板13を取り付けることによって、その気液接触界面となる槽本体7Aの内面部分7bの有機溶媒による早期腐食も防止することが可能である。
【0020】
このように槽本体7A自体の内面7aのアルカリに対する耐蝕性能と液面変動範囲Hの気液接触界面となる内面部分7bの有機溶媒に対する耐蝕性能との相乗によって、槽本体7Aが集中的、局所的に早期腐食されることを極力防いで吸収液循環槽7全体の耐久寿命の延長化を達成することができる。
【0021】
そして、長期間の使用によって、前記保護板13及び二次接合片14,14が腐蝕して肉薄になったり、あるいは、大部分が消滅したりして十分な耐蝕保護が困難になった場合は、図3の(A)に明示するように、前記二次接合片14,14を途中で分断してその分断接合片部分14a,14aと共に古い保護板13を取り外したのち、図3の(B)に明示するように、新しい保護板13´を再び新たな二次接合片14´,14´を介して槽本体7Aの内面部分7bに取り付けることにより、吸収液循環槽7全体を復旧して長期間に亘って再使用することができる。
【0022】
なお、上記実施の形態では、槽本体7Aを耐アルカリ性に優れたビスフェノール系ビニルエステル樹脂から構成するとともに、保護板13及び二次接合片14を耐有機溶剤性に優れたノボラック系ビニルエステル樹脂または変性ノボラック系ビニルエステル樹脂から構成したものについて説明したが、吸収液6の性状等に応じて、その逆、つまり、槽本体7Aを耐有機溶剤性に優れたノボラック系ビニルエステル樹脂または変性ノボラック系ビニルエステル樹脂から構成するとともに、保護板13及び二次接合片14を耐アルカリ性に優れたビスフェノール系ビニルエステル樹脂から構成してもよい。
【0023】
また、前記保護板13としては、耐蝕樹脂を含浸させたサーフェイスマットからなる耐蝕層の1層とチョップドストランドマットからなる補強層の2層との積層(ラミネート)構造に構成されたものを用いてもよい。この場合、二次接合片14としても、保護板13と同様に耐蝕樹脂を含浸させたサーフェイスマットからなる耐蝕層の1層とチョップドストランドマットからなる補強層の2層との積層(ラミネート)構造に構成されたものを用いるのが好ましい。
【0024】
さらに、既存のFRP製槽本体7Aの内面全域に、耐アルカリ性に優れたビスフェノール系ビニルエステル樹脂または耐有機溶剤性に優れたノボラック系ビニルエステル樹脂または変性ノボラック系ビニルエステル樹脂をライニングし、そのライニング層内面の特定部分、すなわち、液面変動範囲Hよりも少し大きい上下幅H1に対応する内面部分7bの全周に、上記した保護板13を取り付けてもよい。
【0025】
さらにまた、上記実施の形態では、スクラバーにおける吸収液循環槽に適用したもので説明したが、それ以外に、例えば吸収液循環槽に対し吸収液の補充を行う調整槽など化学処理液を貯留する種々の槽に適用しても同様な効果を奏することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る化学処理液貯留槽として、スクラバーにおける吸収液循環槽に適用した例を示すスクラバー全体の概略縦断正面図である。
【図2】要部の拡大縦断正面図である。
【図3】(A),(B)共に保護板の交換状況を説明する要部の拡大縦断正面図である。
【符号の説明】
【0027】
6 ガス処理用吸収液(化学処理液の一例)
7 吸収液循環槽(化学処理液貯留槽の一例)
7A 槽本体
7a 槽本体内面
7b 液面変動範囲に対応する内面部分
13,13´ 保護板
H 液面変動範囲
H1 保護板の上下幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学処理液を貯留する槽本体の少なくとも内面全域を、耐アルカリ性または耐有機溶剤性の耐蝕樹脂から構成するとともに、この槽本体の内面のうち、貯留された化学処理液の液面変動範囲以上の上下幅に対応する内面部分の全周に、耐有機溶剤性または耐アルカリ性の耐蝕樹脂から構成された保護板を、着脱交換可能な状態に取り付けていることを特徴とする化学処理液貯留槽。
【請求項2】
前記保護板が、少なくとも1層の耐蝕樹脂層と少なくとも1層の補強層との積層構造に構成されたものである請求項1に記載の化学処理液貯留槽。
【請求項3】
前記槽本体の内面全域が、耐アルカリ性または耐有機溶剤性の耐蝕樹脂でライニングされたものである請求項1または2に記載の化学処理液貯留槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−245089(P2007−245089A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−75408(P2006−75408)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】