説明

化学分析装置

【課題】
EWOD方式の化学分析装置において、分析デバイスを小型化および低コスト化する。
【解決手段】
化学分析装置100は、間隔をおいてほぼ平行に配置した2枚の平板201、202の対向する面の一方側に、液滴が移動する移動経路となる駆動電極列211を配置し、他方に共通電極面214を形成する。上側の平板に、サンプル11を分注するサンプル分注部3と、試薬を分注可能な複数の試薬分注部48、49とを形成する。下側の平板に凹凸を付け、基板間の距離を分注部は小さく、混合・搬送部は大きくする。排出用液溜めは、オイルと混じらないサンプル及び試薬も収容可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を化学分析する化学分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の化学分析装置に用いるEWOD(Electrowetting on Dielectric)方式の液滴移送装置の例が、特許文献1に記載されている。この公報に記載の液滴移送装置では、液滴を挟持する2枚の面の一方を共通電極とし、他方に多数の電極を配置し、その面上を液滴が移送される。この場合、電極が配置された面と平行に他方の面を配置し、液滴を挟持する。そして面に埋め込まれたまたは含まれる電極が、定められた手順に従って連続的に電圧の印加または停止を繰り返すことにより、EWOD方式による液滴移送が実行される。この公報に記載の方法によれば、種々の液滴移送方法が可能であり、例えば、2つの液滴の結合や混合、複数の液滴への分離、連続的な液のサンプリングが可能になっている。
【0003】
液滴移送の他の例が、非特許文献1に記載されている。この文献には、μTAS(マイクロ・トータル・アナリシス)を実行するときに必要なデジタル・マイクロ流体回路を構成するために、不可欠な流体の4種の変化形態が開示されている。それらは、(1)液滴の生成、(2)液滴の移送、(3)液滴の分離、(4)液滴の結合である。これらすべてを、EWODで実行するために、液滴を挟持する並行平板間距離を液滴材料に応じて規定している。
【0004】
【特許文献1】国際公開2004/030820号パンフレット
【0005】
【非特許文献1】Chuo et al、 “Creating、 Transporting、 Cutting、 and Merging Liquid Droplets by Electrowetting-Based Actuation for Digital Microfluidic Circuits”、 JOURNAL OF MICROELECTROMECHANICAL SYSTEMS、 VOL. 12、 NO. 1、 pp70-80、 FEBRUARY 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1および非特許文献1に記載のEWOD方式による液滴移送装置では、2枚の平行する平板に設けた電極列上で液滴を移動させるので、液の移動にポンプなどの機械要素を必要とせず、機構が簡素化する。しかしながら、EWOD方式では電極上の濡れ性を変化させて液滴を駆動しているので、操作できる液滴体積は電極のサイズと電極間の距離の積程度に制限される。
【0007】
従来、基板間距離はデバイス全体にわたって一定であり、操作できる液滴体積は電極のサイズにより決定される。その結果、移送する液滴の元となるサンプルと試薬の体積が異なる場合、それぞれの体積に応じてサイズの異なる専用の電極上を移送させる必要があり、互いに他の液滴を自己の電極で移送できず、装置内での液滴移送が制限されていた。
【0008】
また、基板間距離が一定であるから、電極サイズが基板間距離よりも小さいと、液滴が一方の基板にしか接触できず移送が不可能になる。逆に、電極サイズが基板間距離よりも著しく大きいと、液滴が基板に触れる面積が増え、液滴に含まれるサンプルや試薬の成分が基板面に付着して汚染する恐れが生じる。それとともに、液滴の搬送速度が低下し、分析効率が低下する。
【0009】
ところで、非特許文献1では、3つの直列する電極のうち中央の電極に電圧を印加せずに両端の電極にだけ電圧を印加し、電極上を占める液滴を引き伸ばして分割している。その際、基板間距離を電極サイズで除した値(以後アスペクト比と呼ぶ)が0.1〜0.2程度以下であれば、液滴を分割できることが示されている。こ液滴の分割条件は、化学分析装置内で液滴を生成する基本条件であるから、予め平行平板内部の電極上に液体塊を載せて液体塊の一部を分割する場合も成立する。
【0010】
例えば、流体塊が載置された電極に隣り合う下流側の電極列に電圧を順次印加して液体塊を引き伸ばし、その後、上流側の電極に電圧を印加する。これにより、流体塊を上流側に引き戻し、液体塊から一部の液体を分割して一定量の液滴を分注する。このような液滴の分注方法では、アスペクト比を0.1程度以下にしなければならず、分注できる液適量が制限され、サンプルと試薬の混合比が制限される。
【0011】
化学分析装置では、基板に開けた孔にノズルを挿入し、外部から装置内にサンプルや試薬などの液体を供給している。しかし、供給量が過剰であると、液体が孔からあふれ周囲を汚染する場合がある。化学分析装置内に流入した後も、液体が電極部からはみ出ると、液体を化学分析装置内から排除することが困難である。化学分析装置内の空気やオイルなどの周囲にある物質が基板と液滴間に挟まると、液滴の画像計測や吸光度計測などの光学的計測や静電容量および電気抵抗などの電気的計測の妨げとなる。
【0012】
本発明は、上記従来技術の不具合に鑑みなされたものであり、その目的は、EWOD方式を用いた化学分析装置において、構造を簡素化して小型化することにある。本発明の他の目的は平行配置された基板間に液滴を移送する装置において、分注の高精度化または搬送や混合速度を向上させることにある。本発明のさらに他の目的は、並行する基板間で液滴を移送する装置において、装置内に供給する液体による装置内外の汚染を防止するとともに装置内に残留する液の排除を容易にすることである。本発明のさらに他の目的は、装置内の空気やオイルなどの媒体が、液滴と基板間に挟まることを防止することにある。本発明のさらに他の目的は、EWOD方式の化学分析装置において、使用できる試薬の制限をできるだけ排除することにある。本発明のさらに他の目的は、EWOD方式の化学分析装置において、平行平板を形成する分析デバイスを使い捨てにせずに再利用可能にすることにある。その際、チップの洗浄も不要にしてコストを低減する。そして本発明は、これら目的の少なくとも1つを達成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成する本発明の特徴は、ほぼ平行に配置した1対の基板の一方の対向面に共通電極を、他方の基板の対向面に多数の電極を有する駆動電極列を配置したEWODを用いた分析デバイスを有する化学分析装置において、前記分析デバイスは前記基板間に液体を供給する複数の液体供給部を有し、前記1対の基板は、駆動電極列の位置で基板間の間隔が異なる部分を有することにある。
【0014】
そしてこの特徴において、1対の基板は平板であり、一方の基板を分割構造としその分割基板の厚みを変えて基板間の間隔を異ならせるものであってよく、前記駆動電極を構成する多数の電極への電圧印加を制御する制御手段を有し、この制御手段が多数の電極への電圧印加を制御して前記1対の基板間に供給される液体を搬送する搬送方向の下流側に行くに従い、前記1対の基板間の間隔を大にするものであってもよい。
【0015】
またこの特徴において、分析デバイスでは、前記複数の液体供給部から供給された複数種類の液体が同一の駆動電極列で合流するように前記駆動電極列と前記液体供給部とが配置されており、合流した後の液体の移動方向における前記1対の基板間の間隔が、合流前の液体の移動方向における基板間の間隔よりも大であることが望ましく、分析デバイスでは、前記複数の液体供給部から供給された複数種類の液体が同一の駆動電極列で合流するように前記駆動電極列と前記液体供給部とが配置されており、合流する前の液体の移動速度と合流後の液体の移動速度がほぼ同一になるように前記1対の基板の間隔を設定してもよい。
【0016】
上記目的を達成する本発明の他の特徴は、対向する1対の基板と、この基板のそれぞれの対向面側に設けた電極と、対向する前記電極間に電圧を印加する電圧印加手段と、前記基板間の複数領域に液体を供給する複数の液体供給機構とを有し、前記対向する基板の一方を複数枚の小基板から構成したことにある。
【0017】
そしてこの特徴において、複数枚の小基板から構成された一方の基板の中の少なくとも1枚の小基板と他方の基板との距離が、一方の基板を構成する他の小基板と他方の基板との距離と異ならせるのがよく、対向する基板の他方の基板も複数の小基板で構成してもよい。また、複数の液体と混じりあわない媒体液を保持する容器を有し、この容器に保持された媒体液で前記基板の対向する面を予め覆っているのが好ましく、媒体液を保持する前記容器に、媒体液を供給する手段と媒体液をこの容器から排出する手段を付設してもよい。
【0018】
さらに、基板の少なくとも一方に、液体を供給しない孔を形成するのがよく、基板の少なくとも一方に、この基板の周辺から液体を供給する前記液体供給機構を設けてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、上下の基板間距離を変更可能なので、基板上の分注部、搬送部、混合部のそれぞれに適した基板設計が可能になり、分析装置を小型化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る化学分析装置の一実施例を、図1〜7の図面を用いて説明する。図1は化学分析装置の縦断面図であり、流路系統も合わせて示した図である。図2ないし図7は図1に示した化学分析装置の各部の図であり、図2はその上面図、図3および図7は、分注部の斜視図である。図4はデバイスの断面図であり、図5および図6は分注部の詳細図である。
【0021】
化学分析装置100は、大別して被測定サンプル11(以下サンプルと称する)を収容するサンプルカップ10を有するサンプル収容部15と、サンプル11の成分を分析する分析デバイス2と、サンプルカップ10内のサンプル11を分析デバイス2に供給するサンプル分注部3と、試薬45を分析デバイス2に供給する試薬分注部48と、使用済みの排液85を分析デバイス2から排出する排液排出部88と、分析デバイス2内の反応液の状況を測定する検出部61、62と、オイル731を分析デバイスに供給するオイル供給部79と、排液85からオイル731と反応済みの廃液86を分離する廃液分離部94とを有する。これら各部の詳細を、以下に順次説明する。
(1)サンプル収容部
サンプル収容部15は、複数のサンプルカップ10を有している。サンプルカップ10は回転可能な円板状のホルダの外周付近に保持される。サンプルカップ10内には、サンプル11が収容されている。サンプル11は、たとえば血清である。
(2)サンプル分注部
サンプル収容部15では、回転可能な回転ディスク1の外周部近傍に、複数のサンプルカップ10が搭載されている。サンプル収容部15の近傍には、サンプル分注部3が配置されている。サンプル分注部3は、サンプルカップ10から回転アーム381の先端に取り付けたノズル31がサンプル11を採取する。回転アーム381の一端側には支柱382が取り付けられており、この支柱取り付け端と反対端にノズル31が取り付けられている。回転アーム381は、支柱382の周りに回動可能である。なお、アーム381は上下動可能である。
【0022】
サンプル分注部3は、サンプル収容部15に収容されたサンプル11を、ノズル31を用いて分析デバイス2の所定位置に分注する。水またはサンプルと混じりあわないオイルなどの作動液361が蓄えられた作動液容器36とサンプル分注部3とは、チューブ322により配管接続されている。すなわち、チューブ322は作動液容器36の液面より下まで一端部が挿入されている。チューブ322の他端は、バルブ35を介してシリンジポンプ33の一方の側に接続されている。シリンジポンプ33の他方の側は、バルブ34を介してノズル31に接続されている。作動液361はバルブ34、35、シリンジポンプ33の組により作動液容器36からくみ上げられ、ノズル31の先端付近まで達している。このためチューブ322やノズル31中の空気が作動液361により置き換えられ、サンプル11を吸入または排出するときの時間遅れを防止できる。
【0023】
図3は、ノズル31を用いてサンプル11を分注する状態を示している。ノズル31の先端は、上部アクセス基板201(図3では省略)と上部電極基板23を貫通して、分析デバイス2内まで延びている。サンプル収容部15からサンプル11を吸い込むときは、ノズル31をサンプルカップ10に挿入し、シリンジポンプ33によりサンプル11をノズル31内に吸い込む。作動液361がオイルなどの場合は、ノズル11内面に付着したオイルによりサンプル11がはじかれてノズル内を濡らすことが無く、サンプル11によるノズル31の汚染を防止できる。また、事前にオイル731をノズル内に吸引して、ノズル11内面をオイル731で濡らしておいても、同様の効果を生じる。サンプルカップ10内のサンプル11の液面を把握するため、ノズル31の先端には、図示しない液面センサが取り付けられている。
(3)分析デバイス
分析デバイス2では、図1に示すように、上側が開放した矩形状の容器202の上を矩形状の平板である上部アクセス基板201が覆い、容器202の底面と上部アクセス基板201がほぼ平行に配置されている。上部アクセス基板201は容器202よりも短く、容器の右側面に平行に渡した仕切り板203に一辺を接し固定されている。上部アクセス基板201と容器202の少なくとも一方には、温度コントロール可能なペルチェ素子またはヒータを内蔵させる。これらのペルチェ素子やヒータは、図示しない制御手段で制御され、上部アクセス基板201と容器202自体の温度を制御する。上部アクセス基板201及び容器202の大きさは、A3サイズ程度である。
【0024】
容器202内には、上部電極基板23と下部電極基板21とが互いに僅かな間隔をおいて平行配置されている。上部電極基板23と下部電極基板21も矩形状をしている。下部電極基板21は容器202の底面で支持されている。また、上部電極基板23と上部アクセス基板201は密着せず、両者間に空間が形成されている。上部電極基板23および下部電極基板21の詳細を、図4に縦断面図で示す。
【0025】
下部電極基板21には共通電極214を形成する。図1に示すように、上部電極基板23の下面の各電極サイズに応じて、対向する下部電極基板21の上面に凹凸を付け、上部電極基板23と下部電極基板21の距離を変化させる。下部電極基板21の凹凸は基板素材であるガラスなどの部材を切削加工または研磨加工、プレス加工、エッチング加工、貼り付け加工で作成する。非特許文献1では、3つの直列する電極のうち中央の電極に電圧を印加せずに両端の電極にのみ電圧を印加して、電極上を占める液滴を引き伸ばして分割している。その際の分割条件によれば、上、下部電極基板23、21間の距離Hを電極サイズLで除したアスペクト比H/Lが、H/L=0.1〜0.2程度以下になれば、分割できる。
【0026】
そこで、図1に示すように、サンプルや試薬が分注された後、分注されたサンプルや試薬から液滴が分割される電極付近におけるアスペクト比H/Lが、0.1〜0.2程度以下となるように、上、下部電極基板23、21間の距離Hを、電極サイズに応じて変化させる。上、下部電極基板23、21間の距離Hを、下部電極基板21に凹凸を形成して調節する。
【0027】
分注されたサンプル11または試薬45から液滴を分割する部分とは異なる部分の電極付近では、上部電極基板23と下部電極基板21との間の距離Hの設定は任意である。しかし、移動する液滴と上部電極基板23または下部電極基板21との接触面積を減らして、上部電極基板23または下部電極基板21の汚染を防止し、流動抵抗を減らして液滴の搬送速度を増大させるために、アスペクト比を0.2以上にするのがよい。
【0028】
サンプル11の液滴と試薬45の液滴は一緒になって下流側に移動するから、下流側では液滴量が徐々に多くなる。サンプル11の液滴と試薬45の液滴が合流するときは、合流点よりも下流側では液滴を分割しないので、液適量が増大している分だけ、下流側の上、下部電極基板23、21の間の距離Hを大きくする方がよい。そのためには、本実施例に記載のように下側電極基板21に凹凸を付けるのもよいが、下流側に向かって電極基板間距離Hが広がるように、上部電極基板23と下部電極基板21を傾けて配置してもよい。
【0029】
下部電極基板21に対向する上部電極基板23の下面側に、試薬45やサンプル11の液滴を駆動する駆動電極列を形成する。図4に、分析デバイス2の縦断面図を示す。駆動電極列は、区画された複数の電極2111、2112、…を、僅かの隙間を持って隣り合わせて形成される。駆動電極列の表面に、Parylen(商品名)やSiOなどの誘電体薄膜212を絶縁薄膜として形成する。この誘電体薄膜212を、CVDなどで形成する。誘電体薄膜212のさらに表面には、撥水性を向上させるために、AF1601(商品名)、Cytop(商品名)などのフッ素系の撥水膜213をコーティングする。共通電極214には、撥水膜213のみをコーティングする。各電極2111、2112、…は、上部電極基板23の周辺に設けた図示しない接点電極に個別に接続されており、この接点電極を介して外部の図示しない電源から電圧が印加される。
【0030】
駆動電極列の配置パターンは、化学分析装置100の分析内容に依存する。同一の配置パターンを1枚の上部電極基板23に複数形成すれば、分析能率が向上する。図2に示した例では、同一の駆動電極列の配置パターンを、上部電極基板23に10個形成している。1枚の上部電極基板23に配置パターンを複数形成したときには、各配置パターンの境界部に、棒状のスペーサ22を配置し、互いの配置パターンに導かれた液滴が混合しないようにする。
【0031】
スペーサ22は、上部電極基板23と下部電極基板21との間を、所定距離に保つのにも使用される。スペーサ22は、境界部のみならず、駆動電極列が配置されていない部分であれば、どこにでも配置可能である。なお共通電極214を下部電極基板21のほぼ全面に形成してもよいし、上部電極基板23に形成した駆動電極のパターンに合わせて形成してもよい。
【0032】
上部アクセス基板201に、サンプルポート孔39を形成している。サンプルポート孔39は、上部アクセス基板201の下側の隙間に連通している。また、上部電極基板23では、このサンプルポート孔39に対応した位置に、孔399が形成されている。サンプルポート孔39および孔399の内径は、ノズル31の外径より大きい。したがって、サンプルポート孔39から、上部電極基板23と下部電極基板21間であってスペーサ22により形成される隙間に、ノズル31を出し入れすれば、サンプル11を分析デバイス2内に供給できる。
(4)試薬分注部
試薬分注部48では、サンプル11に第1の試薬45を混合して検査するために、複数の密閉型の試薬容器42、421、422を分析デバイス2の近傍に配置する。試薬容器42、421、422の下部には、それぞれノズル43、431、432が接続されている。試薬容器42、421、422の上部には、通気配管が取り付けられており、各通気配管中には、バルブ44、441、442を介在させている。
【0033】
上部アクセス基板201に、上部アクセス基板201と上部電極基板23間に形成される隙間に連通する試薬ポート孔41、411、412を形成する。さらに、上部電極基板23のそれぞれの試薬ポートに相当する位置に、孔410、4101、4102を形成する。試薬ポート孔41、411、412および上部電極孔410、4101、4102を貫通して、ノズル43、431、432を上部電極基板23と下部電極基板21の間に挿入して固定する。バルブ44、441、442を開くと、ノズル43、431、432の先端から試薬容器42、421、422内に収容された試薬45、45A、45Bが、重力で分析デバイス2内に滴下する。滴下する試薬45、45A、45Bの量を、バルブ44、441、442の開時間で調整する。
【0034】
試薬分注部49では、サンプル11と第1の試薬45の混合液に、さらに混合する第2の試薬を供給する。試薬分注部49は、試薬分注部48と同様の構成であり、使用する試薬だけが異なっている。図5に、試薬分注部48、49の詳細を縦断面図で示す。試薬容器42の下面に装着したノズル43を、上部アクセス基板201と上部電極基板23とに形成した試薬ポート孔41および電極基板孔410に挿入する。試薬容器42自体は、断熱容器481に収容されている。断熱容器481からは、ノズル43が突出している。断熱容器481内は、図示しないペルチェ素子や冷媒により一定温度に保持され、試薬45の劣化を防止する。ノズル43の先端は、下部電極基板21に接触または極く近接している。ノズル43の先端は一方側に開口するように切り欠き431が形成されている。ノズル43に最も近い電極2171側に、ノズル43から試薬45を吐出する。
【0035】
ノズル43の内外両面には、Cytop(商品名)などの撥水性のコーティングが施されている。ノズル43から所定量だけ吐出された試薬45は、ノズル43が撥水性を有しているので、ノズル43に付着することなく吐出したときの慣性でノズル43に最も近い電極2171側に吐出される。試薬45の吐出量は、電極2171の面積Sと上下電極基板23、21間の隙間Hとで形成される体積SHよりも若干多い。
【0036】
電極2171に電圧を印加し、試薬45を電極2171上に引き付けると、電極2171に比べ幅の狭いノズル43の出口で試薬はくびれた形状となる。このくびれた形状になった試薬45は、ノズル43から試薬液滴451として容易に分離される。ノズル43からの吐出量を、バルブ44の吐出時間で制御してもよい。また、試薬45が電極2171と下部電極基板21の共通電極214との間に形成される隙間に入り込むと、電極2171と共通電極214間の電気容量が変化するから、電極2171と共通電極214との間の電気容量の変化に基づいて制御してもよい。さらに、電極2171に続く電極列を使用して試薬を分割して液滴を形成してもよい。
(5)検出部
上部電極基板23の下部に形成した駆動電極列は、サンプル11や試薬45の移動経路を規定する。サンプル11や試薬45の移動経路の途中であって複数箇所に、検出部61、62を設ける。検出部61は、サンプル11と第1の試薬45を混合した第1の混合液の状態を検出する。検出部62は、第1の混合液に第2の試薬を混合した後の状態を検出する。検出部61、62は、ともに同様の構造をしている。検出部61、62では、上部アクセス基板201にLED等の光源611、621を取り付けている。一方、容器202のこの光源611、621に対向する位置にも、光センサ612を取り付けている。
【0037】
光センサ611、612は、光源611、612から出射された光が液滴を通る間に変化した吸光度の量や蛍光量、散乱量を検出する。ここで、光源から出射された光を検出するために、上部電極基板23および下部電極基板21の少なくともいずれかの検出部61、62とその回りを、ガラスなどの透明材料とし、電極もITO(Indium-Tin-Oxide)等の透明材料とする。光源611、621の発光スペクトルは、互いに異なっていてもよい。また検出部61を、電極列に沿って複数設置してもよい。
(6)オイル供給部
上部アクセス基板201の対向する辺であってサンプル分注部3側の辺に、オイル供給部79を設ける。オイル供給部79は、容器202と仕切り板203に仕切られた領域で液溜め2011を形成する。液溜め2011は、仕切り板203と容器202に接続する天板204により密閉されている。上部電極基板23の液溜め2011の直下部分に、オイル導入孔2101を形成する。液溜め2011側と反対側の辺に、オイル排出孔2102を形成する。仕切り板203の下端と上部電極基板23の間には、予め定めた空隙2103を形成する。上部電極基板23では、オイル導入孔2101とオイル排出孔2102以外に、電極の無い位置に複数の孔を形成してもよい。
【0038】
上部アクセス基板201の近傍に、オイル容器73を配置する。オイル容器73に、血清などの水をベースとするサンプル11に、混じり難いシリコンオイルまたは炭化水素系オイル、フッ素系以外の液体と混じらないパーフルオロカーボンオイル(以下フッ素オイルと称する)のいずれかを貯蔵する。オイル容器73と液溜め2011とを、供給用チューブ771で接続する。液溜め2011の上部の天板204に、オイル供給ポート71を形成し、このオイル供給ポート71に供給用チューブ771の先端を挿入する。供給用チューブ771の途中には、供給用ポンプ741を設置する。また、上部アクセス基板201に、液面センサ792を固定設置する。
【0039】
分析デバイス2で使用されたオイルを、オイル容器73を有するオイル供給部79に戻すために、オイル供給部79と反対側の辺に排出用チューブ772を設ける。排出用チューブの一端は、容器202の側壁を貫通して容器202内部に接続している。排出用チューブ772の途中に、回収用ポンプ742を設置する。排出用チューブ772の他端は、オイル容器73の液面より下まで挿入されており、供給用チューブ771の先端は液面の上方に位置している。
(7)廃液分離部
排出用チューブ772からオイル容器73に戻った排液85には、サンプル11や試薬45が混合した廃液86が混入している。そこで、オイルの比重が廃液86より大きい場合には、オイル容器73内のオイルの液面よりも上に廃液86が浮上する。廃液分離部94は、この廃液86をオイル容器73内で分離し、オイル容器73外に排出する。廃液チューブ773の一端を、オイル容器73内に挿入し、オイル液面付近に設置する。廃液チューブ773の他端を、廃液容器82に挿入する。オイル容器73の上面には、液面センサ793を設置する。廃液チューブ773に、廃液回収用ポンプ743を設置する。
【0040】
このように構成した化学分析装置100の動作を、以下に説明する。最初の状態では、上部アクセス基板201と下部アクセス基板202間、より正確には上部電極基板23と下部電極基板21間は、スペーサ22により仕切られた隙間が形成されており、その隙間には液は導入されていない。この状態で、上部電極基板23と下部電極基板21に、サンプル11や試薬45が付着するのを防止するために、容器202内にオイル731を導入する。オイル731を導入するときは、供給ポンプ741を起動してオイル容器73内のオイル731をチューブ771からオイルポート71を経て液溜め2011に供給する。
【0041】
上部電極基板23の液溜め2011の直下部には、オイル導入孔2101が形成されており、液溜め2011側と反対側の辺にはオイル排出孔2102が形成されているので、液溜め2011に導かれたオイル731は、オイル導入口2101から分析デバイス2内に流入する。供給ポンプ741がオイル731を供給し続けると、分析デバイス2内の隙間の空気は、オイル排出孔2102や上部電極基板23に設けた電極部以外の図示しない孔から流出する。この方法により、隙間内の空気をオイル731で置換する。
【0042】
仕切り板203の下端と上部電極基板23の間には、所定の空隙2103が形成されているので、液溜め2011に流入したオイル731は、上部電極基板23の上面にも流出する。オイル731は、オイル排出孔2102からも上部電極基板23上に溢れ出る。上部電極基板23と上部アクセス基板201との間の空気は、サンプルポート孔39から装置外に流出する。なおもオイル731を供給し続けると、サンプルポート39から液が溢れ出す恐れを生じる。そこで、上部アクセス基板201に設けた液面センサ792が、容器202内の液面が所定高さになったことを検出したら、ポンプ741を停止する。
【0043】
なお、上部アクセス基板201のサンプルポート孔39に挿入したノズル31は、オイル731に浸漬される。これにより、ノズル31の外面はオイル731で覆われる。一方、オイル731をノズル31から吸入すれば、ノズル31の内面がオイル731で覆われる。このように、ノズル31の内外周をオイル731で覆ったので、その後ノズル31を用いてサンプル11を吸入しても、ノズル31の表面のオイル731がサンプル11をはじきノズル31を汚染しない。
【0044】
分析デバイス2の試薬45やサンプル11が通る表面がオイル731で覆われたので、サンプル分注部3からサンプル11を分析デバイス2内に注入する。サンプル収容部15の所定のサンプルカップ10に、ノズル31を挿入する。サンプルカップ10内のサンプル液面をノズル31に取り付けた液面センサで検出する。ノズル31が、確実にサンプル液内に入ったことを確認する。その後、バルブ34を開きポンプ33を駆動して、サンプル11をノズル31内に吸入する。バルブ34を閉じる。次に、ノズル移動機構37を用いて、ノズル31を分析デバイス2のサンプルポート孔39に位置決めする。位置決め後、ノズル31を下げて所定高さに達したら、バルブ34を開きポンプ33を駆動してサンプル11を吐出する。
【0045】
サンプル分注部の縦断面図を、図6に示す。ノズル31から所定量吐出されたサンプル11は、ノズル31の先端部でサンプル液滴になり電極2151上に広がる。その後、電極2151に隣り合う電極2152(以後、この方向を下流側とする)に電圧を印加する。それとともに、電極2151への電圧印加を停止する。サンプル液滴111は、電極2152に引き付けられ、終には電極2152面上に移動する。この手順を順次繰り返し電極2153から、駆動電極列215に直交する駆動電極列212上の電極2124、電極2125へと移動させる(図3参照)。なお、ノズル31に隣りあう電極2151から直線状に続く電極列215は、隣りあう駆動電極の配置パターンにサンプル液滴111を供給するため、他の配置パターンの駆動電極列212に交わっている。
【0046】
なお、サンプル11の分注時にノズル31先端の外側に、オイル731やサンプル11が付着して滴状になり得る。この液滴が、上部アクセス基板201のサンプルポート孔39に付着しないよう、サンプルポート孔39の孔径を十分大きく形成する。ノズル31が挿入されたときに、容器73内のオイル731とノズル31先端に付着したオイルとが、液面部で一体化する。一方、付着したサンプル11は、オイルの液面上に浮かんで排出される。これにより、サンプル11が分析デバイス2内に流入したり、上部電極基板23の孔399付近に付着するのを防止できる。オイル液面上に浮上したサンプル11は、オイルの流れに従って、下流側の排液排出部88に至り容器202から排出される。
【0047】
上記動作を実行しているのと同じ頃に、試薬容器42の上部に設けたバルブ44を開くことで、第1の試薬分注部48から試薬45を分注する。ノズル43の先端から試薬容器42内の試薬45を分析デバイス2内に導く。なお、サンプル分注部3やサンプル収容部15を省いて、手作業でサンプルポート39からサンプル11を供給してもよい。また、試薬45を分注するのに、サンプル11を分注するのと同様の分注部を設けて分注してもよい。この場合、回転可能な試薬ディスクに複数の試薬容器42を搭載すれば、試薬45の分注が容易になる。
【0048】
図5に、試薬分注部の縦断面図を示す。ノズル43から所定量吐出された試薬45から、ノズル43の先端部で試薬液滴が形成され、電極2171上に広がる。その後、電極2171に隣り合う電極2172(以後、この方向を下流側とする)に電圧を印加する。それとともに、電極2171への電圧印加を停止する。試薬液滴451は、電極2172に引き付けられ、終には電極2172上を移動する。この手順を電極2173、2174、…というように、下流側の電極について順次繰り返し、試薬液滴451を電極217Bまで移動させる。
【0049】
サンプル液滴111が停留している電極2125と試薬液滴451が停留している電極217Bへの電圧印加を停止し、隣りあう電極2191に電圧を印加する。サンプル液滴111と試薬液滴451は、電極子2191に引き寄せられ合体混合する。
【0050】
電極2191よりも下流の電極を駆動して、混合液滴452をそのまま下流側に移動させる。電極2191の下流側には、ループ状の液滴周回用の混合用電極列218が形成されているので、混合液滴452は混合用電極列218上を周回する。その際、混合液滴452では、試薬液滴451とサンプル液滴111が攪拌混合する。試薬液滴451とサンプル液滴111との攪拌が完了したら、混合液滴452は下流側の第1の検出部61に導かれる。第1の検出部61では、混合液滴452の吸光度の変化や、蛍光量、散乱量を測定する。
【0051】
第1の検出部61での測定が終了した混合液滴452は、図7に示す第2の試薬分注部49に導かれる。この第2の試薬分注部49では、他の試薬容器42Aから試薬45と同様の方法で取出された試薬液滴453が、電極21C1上で混合液滴452に混合され、混合液滴454となる。混合液滴454内の試薬液滴453と混合液滴452との混合及び攪拌を促進するために、第2の試薬分注部49の下流にも、周回用のループ状の混合用電極列21Bが配置されている。混合電極列21B上を液滴が周回すると、試薬液滴453と混合液滴452とが攪拌混合する。
【0052】
他の試薬453も混合した混合液滴454は、駆動電極列21Cにより下流側に運ばれ、第2の検出部62に導かれる。この第2の検出部62では、混合液滴454の吸光度や蛍光が計測され、サンプル11に含まれる成分が分析される。分析が終了した混合液滴454は、駆動電極列21Cによりさらに下流側に送られ、オイル排出孔2102から分析デバイス2外に排出される。
【0053】
この一連の動作が終了すると、混合液滴454は、排出用チューブ772からポンプ742により周囲のオイル731とともに廃液86としてオイル容器73に戻される。廃液86とオイル731とは比重差があり、液溜め2012内をオイルが上昇または下降する。上記の様に、フッ素オイルのような比重が1より大きいオイル731の場合には、水ベースの廃液86はオイル容器73内を上昇する。液面部に溜まった廃液86を、液面センサ793が検出する。廃液86が多くなり液面が上昇した場合には、適宜ポンプ741を起動してオイル731を容器内に追加供給する。それとともにポンプ743を起動して、廃液86を吸い取り、廃液容器82に送る。
【0054】
メンテナンスなどのために、分析デバイス2内のオイル731を排出する必要があるときは、オイル排出孔2102の下側に容器202から下部電極基板21内に通じるドレイン用チューブ774を取り付ける。このドレイン用チューブが取り付けられたポンプ744が、オイル731を吸い取り、オイル731をオイル容器73に回収する。
【0055】
比重が1より小さいオイル731を使用するときは、下部電極基板21側にもオイル排出孔を形成し、排出用チューブ772を容器202に貫通してオイル排出孔に接続する。ポンプ742が廃液86とオイル731とを吸い取り、オイル731をオイル容器73に送液する。オイル容器73や廃液容器82には、オイル731と廃液86が混在する恐れがある。しかし、オイル731と廃液86を、比重差や遠心分離、フィルタリングを用いて容易に分離できる。これらの装置を流路の途中に取り付けるか、回収したオイル731や廃液86を独立の装置で処理すれば、オイル731を再利用することができる。この場合、廃液86だけを廃棄すればよい。
【0056】
以上説明した本実施例によれば、サンプル分注部3のノズル31の表面をオイルで被覆したので、ノズル31にサンプル11が付着するのを防止できる。これにより、前回測定時に用いたサンプル11が次回の測定に混入するのを防止でき、測定精度が向上する。また、ノズル31を洗浄する必要がないので、洗浄に係る設備が不要になり、化学分析装置が小型化および低コスト化する。
【0057】
サンプルノズル31や試薬用ノズル43に最も近い電極上に直接サンプル11や試薬45を分注するので、EWODによる液滴の分割が不要になる。これにより、駆動電極の構成が簡単になる。また、駆動電極に印加する電圧が低くて済み、電極が長寿命になる。
【0058】
上下電極基板間の距離Hを変えることができるので、EWODにより液滴を分割する場合も、分注部付近のEWODによる液滴の分割が容易になる。また、上下電極基板間の距離Hを変えることができるので、液滴を搬送および混合する電極列付近の上下の電極電極基板間の距離を増大でき、基板面での流体抵抗を低下させることができる。したがって、搬送速度や混合速度が向上する。
【0059】
本実施例によれば、オイル供給部79から分析デバイス2に、随時オイル731を供給できるので、分析デバイス2内のオイル731の量を一定に保つことができる。したがって、オイル731がノズル31に付着して持ち去られたり、蒸発して減少して分析デバイス2内に空気が侵入するのを防止できる。また、新鮮なオイルで更新することが可能になる。廃液分離部94が、オイル731と廃液86とを分離するので、オイル731を再使用でき、オイル731の使用量を低減できる。
【0060】
上部電極基板23の電極部以外の場所に任意に形成した孔から、分注時に分析デバイス2内に混入した気泡や温度変化により発生した気泡またはオイルの流れにより電極列からそれた液滴を分析デバイス外に容易に排出できるので、気泡や逸失液滴が測定を阻害するのを防止できる。ノズル31挿入時に、オイル液面によりノズル31外表面が洗浄されるので、分析デバイス2内に余分なサンプル11が入ったり、上部電極基板201を汚すことが無い。
【0061】
なお上記実施例では、試薬容器を3個ずつ組にしているが、試薬容器の数はこれに限るものではない。試薬の混合回数は、処理する対象により異なり、3回以上であってもよい。また本実施例によれば、1個の上部電極基板に複数の駆動電極列を設けているので、小型の化学分析装置で多数のサンプルを短時間で測定できる。また、何らかの原因で、ある駆動電極列上から液滴が外れた場合でも、スペーサ22により駆動電極列間が分離されているので、隣の駆動電極列に液滴が移動して測定を阻害することが無い。また、スペーサ22により、駆動電極列に沿ってオイルの流れが整流されるので、泡や駆動電極列を外れた液滴の排出が容易になる。
【0062】
本発明に係る化学分析装置100の他の実施例を、図8〜図9を用いて説明する。図8(a)に、3枚の分注用基板231、234、235と2枚の搬送および混合用の基板232、233を有する上部電極基板を、同図(b)に、駆動電極列を搭載した1枚の下部電極基板を、同図(c)に容器202を含む外装部分を、同図(d)にこれら図8(a)〜図8(c)に示した上部電極基板、下部電極基板、および外装部分をアセンブルした図を示す。図8(d)は、化学分析装置100の上面図であり、同図(e)は同図(d)の中心線に沿った断面図である。図9は、分注と混合の動作を説明する図である。本実施例ではサンプル収納部およびサンプル分注部、試薬分注部、オイル供給部、廃液分離部が上記実施例と同様の構成であり、図示を省略している。
【0063】
図8(e)に示すように、上側が開放した矩形状の容器202の上面を、矩形状の平板である上部アクセス基板201が覆っている。容器202の底面と上部アクセス基板201は、ほぼ平行に配置されている。上部アクセス基板201は、容器202と図示しない排液用チューブ772に接続する排液排出口7721〜7724を覆っている。容器202と排液排出口の側壁の高さは一定であり、上部アクセス基板201に密着している。各廃液排出口7721〜7724に接する容器202の側壁部分2021〜2023は、周囲の側壁よりも低くなっており、オイル731が排液排出口7721〜7724に流入できる。
【0064】
排液排出口7721〜7723に隣接し、容器202の突出部をなす分注用区画301〜303は、上部アクセス基板201に垂直に取り付けた仕切り板204〜206により上側が仕切られている。オイル供給用チューブ771は、上部アクセス基板201の分注用区画301〜303外の位置、本実施例では右上隅に取り付けられている。上部アクセス基板201と容器202との少なくとも一方には、温度コントロール可能なペルチェ素子またはヒータを内蔵させる。これらのペルチェ素子やヒータは、図示しない制御手段で制御され、上部アクセス基板201と容器202自体の温度を制御する。
【0065】
容器202内には、上部電極基板23と下部電極基板21とが互いに僅かな隙間をあけて平行配置されている。上部電極基板23と下部電極基板21も、矩形状をしている。下部電極基板21は容器202の底面で支持されている。また、上部電極基板23と上部アクセス基板201は密着しておらず、両者間には空間が存在する。
【0066】
本実施例では上記実施例とは逆に、上部電極基板23に共通電極214を形成し、下部電極基板21に駆動電極列を形成する。また、下部電極基板21が1枚であるのに対し上部電極基板23を複数の平板状のサブ上部基板231〜235で構成する。各サブ上部基板231〜235と下部電極基板21間の距離Hiは、サブ上部基板231〜235の下に配置したスペーサ22の高さを変えて変化させている。なお、スペーサ22を、図8(d)では◎で示している。
【0067】
サブ上部基板231〜235と下部電極基板21間の距離Hiは、上記実施例と同様に、分注する液量や搬送速度、混合速度の要求に応じて変化させる。本実施例では簡単のため、分注する液量を同じ程度にしている。上部アクセス基板201に形成したサンプルポート孔39から、サンプル11を供給するノズル31を挿入できる。図示しない試薬収納部からサンプル11の場合と同様の分注機構により、上部アクセス基板201に形成した試薬ポート孔41、410からノズル31で試薬を供給する。各ポート孔41、410の直下までサブ上部基板231〜235が延びていないので、上部電極基板に孔を形成しないでも、ノズル31の先端を下部電極基板21に近接できる。
【0068】
下部電極基板21上には、周辺に丸みがある複数の電極を有する分注用の電極列と分注用電極列の端の電極が接する混合用電極2191、21C1、さらに混合用電極列218、21Bおよび搬送用電極列219、21Cが設けられている。上部アクセス基板201と容器202には、電極列219、21Cに沿って、上記施例と同様の検出部61、62が複数設置されている。分注用電極列を覆うサブ上部基板231、234と下部電極基板21との距離H1が、搬送および混合路に対応するサブ上部基板232と下部電極基板21の距離H2よりも小さくなるように、各スペーサ22の高さを決定する。サブ上部基板233と下部電極基板21の距離H3が、サブ上部基板235と下部電極基板21との距離H4、およびサブ上部電極232と下部電極基板21の距離H2の双方よりも大きくなるように、各スペーサ22の高さを決定する。
【0069】
本実施例では、図8(a)に示すように、基板間の距離Hiを変化させるために、上部電極基板を分割して複数のサブ上部基板を構成している。しかしながら、上部電極基板素材である1枚のガラスなどの部材に、切削加工や研磨加工、プレス加工、エッチング加工、貼り付け加工して、凹凸や段差を形成し、1枚の上部電極基板を作成しても良い。
【0070】
このように構成した本実施例の化学分析装置の動作を、以下に説明する。最初の状態では、上部アクセス基板201と下部アクセス基板202間、より正確には上部電極基板23と下部電極基板21間は、スペーサ22により仕切られて隙間を形成している。この隙間には、液は導入されていない。上部電極基板23と下部電極基板21に、サンプル11や試薬45が付着するのを防止するために、隙間にオイル731を導入する。
【0071】
チューブ771で、容器202にオイル731を供給する。上下電極基板23、21間にスペーサ22が疎らに設置されているので、オイル731を供給し続けると側方から上下電極基板23、21間にオイル731が侵入し、上下電極基板23,21間の空間を満たす。このとき、分注用区画301〜302にも、仕切り板204〜206の下側の隙間からオイル731が入り込む。同時に分析デバイス2内の空気は、サンプルポート孔39や試薬ポート孔41、410から外部に抜けて行く。空気の抜けをよくするために、仕切り板204〜206の上側に、凹部を形成するか孔を形成する。
【0072】
さらに、オイル731の供給を続けると、オイル731は容器202の側壁を越えて排液排出口7721〜7724から溢れ出る。溢れ出たオイル731を、分析デバイス2の下方に設置した図示しないオイル容器73に流下させる。または、液面センサ792を設けて液面を検出し、オイル731が溢れ出す液位に達したら、図示しないポンプ742でオイル容器73に回収する。オイル731を随時供給し、オイル表面に浮かんだ廃液86の排出を促進させるようにしてもよい。
【0073】
図9を用いて、分注時の動作を説明する。ここでは、サンプル11を分注するときの動作を説明するが、試薬の分注でも同様である。この図9では、電圧を印加した電極を、×印で示している。図9(a)は、サンプルポート孔39から挿入したノズル31を、下部電極基板21に近接して停止させる。ノズル31は、共通電極基板と電気的に接続しており、下部電極基板21上の第1番目の電極2151とノズル31の先端間の距離を、両者間の静電容量を検出して制御する。これにより、ノズル31を下部電極基板211に近接させる。
【0074】
ノズル31に吸引したサンプル11を吐出する。電極2151に電圧を印加する。これにより、下部電極基板21の電極2151上に位置する部分の表面のサンプル11に対する濡れ性が向上し、サンプル11は毛細管力によりサブ上部基板231下まで延びる電極2151のパターンに沿って、上下電極基板23、21間に入り込む(同図(b)参照)。さらにサンプル11を吐出し続ける。それとともに、電極2152、2153に電圧を印加して、電極2152、2153上にもサンプル11を導く(同図(c)、(d)参照)。
【0075】
電極2152への電圧印加を停止し、ノズル31からサンプルを吸引する。電極2151および電極2153には電圧が印加されているので、サンプル11の液形状は保たれるものの、上下電極基板23、21間の距離Hを電極サイズLで割ったアスペクト比H/Lを0.1〜0.2程度以下にしているので、電極2152上のサンプル11の液形状にくびれが生じる(同図(e)参照)。
【0076】
サンプル11が2つに分裂し、サンプル液滴111が電極2153上に残る(同図(f)参照)。右側に残留したサンプル11を、ノズル31が吸い取る。また、電極2125に電圧を印加すると、サンプル液滴111はサブ上部基板232側に移動する。このとき、同様にして分注した試薬液滴451も電極217Bに引き付けられ、サブ上部基板232側に移動する(同図(g)参照)。
【0077】
混合用の電極2191に、電圧を印加する。サンプル液滴111と試薬液滴451が電極2191上で合体し、混合液滴452となる。分注される液滴は、電極の形状に沿っているので、液滴の体積は、概略、液滴が分割されて残される電極の面積とその位置での上下部電極基板23、21間の距離Hの積に等しい。電極上を液滴が満たさないと、隣りあう電極上まで液滴の一部が延びない。下部電極基板21とサブ上部基板231、232、234の距離をそれぞれh1、h2、h4とし、サンプル分注用の電極の面積をS1、混合用の電極2191の面積をS2(混合用電極列218、219も同様)、第1の試薬用の電極の面積をS4とする。
【0078】
S1・h1+S4・h4<=S2・h2 ……(式1)
であることが望ましい。サブ上部基板232の下では、混合や搬送のみで分注しないので、上下の電極基板23、21での抵抗を減らすために、なるべくS2を小さくする。ただし、液滴の体積は変わらないので、S2を小さくしすぎると電極基板間距離h2が大きくなり過ぎる。その結果、液滴の界面張力により液滴が半球状になり、上下電極基板23、21との接触が失われ、EWODによる液滴の移動ができなくなる。したがって、少なくとも、アスペクト比を0.5程度以下にする。
【0079】
混合液滴452は、下流側の周回用の混合用電極列218上を回転して攪拌され、さらに検出部61により成分を分析される。そして、搬送用の電極列219を移動して、次段の混合用電極21C1に至り、分注用区画303で分注された第2の試薬液滴と混合される。第2の試薬液滴と混合して混合液滴453となった液滴は、混合電極列21Bを経過して混合攪拌され、搬送用の電極列21Cを経過して成分計測される。
【0080】
図8(b)に示す様に、計測後の混合液滴4531は、電極列21Cの末端に至ると、サブ上部基板233直下から下部電極基板21が突出し、突出部に電極列21Cの末端の電極21CEが配置されているので、電極21CEへの電圧印加を停止すると、分析デバイス2外に排出される。このとき、オイル731の液面が上昇し、オイル供給用チューブ771からオイル731が追加されると、廃液86としてオイル731とともに排液排出口7724から排出される。
【0081】
本実施例によれば、上部電極基板23を複数のより小さなサブ上部基板に分割した構成としたので、大面積の基板を作成する必要がなく、基板上に形成する膜の欠陥の可能性が低下し、製作される基板の歩留まりが向上するとともに製作コストが低下する。また、研磨加工などの加工が容易になり、加工コストも低下する。小さな基板で済むので、基板の強度が増す。それとともに、同一基板内での基板厚さの偏差を小さくできるので、分析精度が向上する。
【0082】
また、本実施例によれば、上部電極基板の特定の位置に液の出入口用の孔を形成する必要が無く、上下の電極基板を有する分析デバイス2の側面部を開放でき、液の分注口や排出口として利用できる。その結果、分析装置の設計の自由度が向上し、装置を小型化できる。さらに、複数のサブ上部基板を使用したので、分注位置での電極基板間距離と混合位置や搬送位置の電極基板間距離を変えることができ、分注や混合、搬送に適した電極基板間距離を個別に設定できる。さらに本実施例によれば、分注に利用する箇所以外は、電極基板間距離を大きくして、駆動用の電極のサイズを小さくすることが出来る。
【0083】
本発明に係る化学分析装置100のさらに他の実施例を、図10に示す。本実施例では図10(b)に示す様に、下部電極基板21をも、3枚の分注用のサブ基板、211、214、215と2枚の搬送用または混合用のサブ基板212、213の複数の基板で構成している。サブ下部基板は、基板上の駆動電極以外の部分は無くてもよいが、液滴が逃げないように駆動電極の幅よりも若干幅広にする。また、スペーサ22の設置箇所部分もスペーサの大きさに応じて幅広にする。隣接するサブ下部電極基板と接する部分は、極力電極に一致させる。下流側の上部電極基板を、上流側の下部電極基板にオーバーラップさせると、液滴の受け渡しがスムーズになる。
【0084】
本実施例によれば、上下の電極基板をサブ基板化したので、分注や混合、搬送など機能に応じて分析デバイス2をコンポーネント化するのが容易になる。また、一部が故障しても全体を交換する必要が無く、メンテナンス性が向上する。コンポーネント化により、設計の自由度が増し、装置の小型化や高機能化が可能になる。さらに、コンポーネント化により、1台の装置ユニットを複数並列配置して互いに接続することができるので、化学分析装置のスループットを向上できる。コンポーネントの組み合わせにより、異なる分析が容易になる。共通電極基板よりも複雑な構造の駆動電極基板をサブ基板化できるので、製造時の歩留まり向上し製造コストを低下できる。
【0085】
上記各実施例によれば、基板間の基板を調整可能になり、分注精度や搬送速度、混合速度の向上が可能になる。また、上下の基板間距離を変更できるで、分注可能または移送可能な液量範囲が拡大し、使用できる試薬の制限が少なくなる。また、基板をオイルに浸漬させ、基板に泡や液体排除用の孔を形成したので、廃液の排出が容易になる。それとともに基板内外の汚染を低減できる。下の基板間距離を変更できるので、装置製作の自由度が増し小型化および低コストが可能になる。さらに、オイルが試薬やサンプル液と混じり合わないので、液滴移動部を有するチップを再利用可能になる。この結果、化学分析装置を大幅に簡素化できる。さらにまた、液滴移動部にサンプル液や試薬と混じり合わないオイルを適用したので、洗浄等の設備が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明に係る化学分析装置の一実施例の断面図。
【図2】図1に示した化学分析装置の主要部の上面図。
【図3】図1に示した化学分析装置の主要部の斜視図。
【図4】図1に示した化学分析装置で用いる分析デバイスの縦断面図。
【図5】図1に示した化学分析装置の試薬分注部の縦断面図。
【図6】図1に示した化学分析装置のサンプル分注部の縦断面図
【図7】図1に示した化学分析装置における駆動電極の配置を説明する図。
【図8】本発明に係る化学分析装置の他の実施例の構造図。
【図9】図8に示した化学分析装置の分注過程図。
【図10】本発明に係る化学分析装置の他の実施例の構造図。
【符号の説明】
【0087】
2…分析デバイス、3…サンプル分注部、6…検出器、7…オイル供給部、11…サンプル、21…下部電極基板、22…スペーサ、23…上部電極基板、39…サンプルポート、45…試薬、100…化学分析装置、111…サンプル液滴、201…上部アクセス基板、202…下部アクセス基板、211…駆動電極、214…共通電極、731…オイル、792…オイル液面センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ほぼ平行に配置した1対の基板の一方の対向面に共通電極を、他方の基板の対向面に多数の電極を有する駆動電極列を配置したEWODを用いた分析デバイスを有する化学分析装置において、前記分析デバイスは前記基板間に液体を供給する複数の液体供給部を有し、前記1対の基板は、駆動電極列の位置で基板間の間隔が異なる部分を有することを特徴とする化学分析装置。
【請求項2】
前記1対の基板は平板であり、一方の基板を分割構造としその分割基板の厚みを変えて基板間の間隔を異ならせることを特徴とする請求項1に記載の化学分析装置。
【請求項3】
前記駆動電極を構成する多数の電極への電圧印加を制御する制御手段を有し、この制御手段が多数の電極への電圧印加を制御して前記1対の基板間に供給される液体を搬送する搬送方向の下流側に行くに従い、前記1対の基板間の間隔を大にすることを特徴とする請求項1に記載の化学分析装置。
【請求項4】
前記分析デバイスでは、前記複数の液体供給部から供給された複数種類の液体が同一の駆動電極列で合流するように前記駆動電極列と前記液体供給部とが配置されており、合流した後の液体の移動方向における前記1対の基板間の間隔が、合流前の液体の移動方向における基板間の間隔よりも大であることを特徴とする請求項1に記載の化学分析装置。
【請求項5】
前記分析デバイスでは、前記複数の液体供給部から供給された複数種類の液体が同一の駆動電極列で合流するように前記駆動電極列と前記液体供給部とが配置されており、合流する前の液体の移動速度と合流後の液体の移動速度がほぼ同一になるように前記1対の基板の間隔を設定したことを特徴とする請求項1に記載の化学分析装置。
【請求項6】
対向する1対の基板と、この基板のそれぞれの対向面側に設けた電極と、対向する前記電極間に電圧を印加する電圧印加手段と、前記基板間の複数領域に液体を供給する複数の液体供給機構とを有し、前記対向する基板の一方を複数枚の小基板から構成したことを特徴とする化学分析装置。
【請求項7】
複数枚の小基板から構成された一方の基板の中の少なくとも1枚の小基板と他方の基板との距離が、一方の基板を構成する他の小基板と他方の基板との距離と異なっていることを特徴とする請求項6に記載の化学分析装置。
【請求項8】
前記対向する基板の他方の基板も複数の小基板で構成したことを特徴とする請求項6に記載の化学分析装置。
【請求項9】
前記複数の液体と混じりあわない媒体液を保持する容器を有し、この容器に保持された媒体液で前記基板の対向する面を予め覆っていることを特徴とする請求項6ないし8のいずれか1項に記載の化学分析装置。
【請求項10】
媒体液を保持する前記容器に、媒体液を供給する手段と媒体液をこの容器から排出する手段を付設したことを特徴とする請求項9に記載の化学分析装置。
【請求項11】
前記基板の少なくとも一方に、液体を供給しない孔を形成したことを特徴とする請求項6に記載の化学分析装置。
【請求項12】
前記基板の少なくとも一方に、この基板の周辺から液体を供給する前記液体供給機構を設けたことを特徴とする請求項6に記載の化学分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−329901(P2006−329901A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−156552(P2005−156552)
【出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】