説明

化学的に定義された安定剤組成物

本発明は、アミノ酸及び糖を含み、全ての化合物が化学的に定義されている安定剤組成物;このような安定剤組成物及び生物学的分子及び/又は微生物を含むワクチン組成物;このような安定剤組成物を生物学的分子及び/又は微生物と混合することを含む、医薬組成物を調製するための方法;このような安定剤組成物及びこれによって調製されるワクチンの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ酸及び糖を含み、全ての化合物が化学的に定義されている安定剤組成物;このような安定剤組成物及び生物学的分子及び/又は微生物を含むワクチン組成物;このような安定剤組成物を生物学的分子及び/又は微生物と混合することを含む、医薬組成物を調製するための方法;このような安定剤組成物及びこれによって調製されるワクチンの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物及び生物学的分子を製品として生産することに関わる生物医薬品産業において、これらの製品の安定性は重要な問題である。ほとんど常に、これらの製品は製剤され、保存され、輸送される必要がある。温度変化や他の物理的又は化学的影響から経時的に経験される影響によって不可避的に、生産された物質はこれらのもとの有効量又は所望の質的特性を損失する。この結果として、品質及び/又は有効量のこのような損失を予防するための条件及び添加物が適用される。
【0003】
よく利用される安定化条件は、0℃以上又は0℃以下の低温での保存、及び水分含量の低下であり、特に有用なのは凍結乾燥である。
【0004】
凍結乾燥するときは、生物学的又は医薬的に活性な分子、微生物、細胞又は組織を含む試料をまず凍結し、次に真空下で乾燥する。凍結乾燥試料は、その後例えば4℃で保存することができ、しばしば数年間安定なままである。以下の総説参照:M.Pikal,1990(BioPharm,vol.3,no.8,p.18−27 and no.9,p.26−30);L.Gatlin,et al.,1994(Bioprocess Techn.,vol.18,p.317−367);J.Carpenter et al.,1997(Pharm.Research,vol.14,p.969−975);F.Bedu−Addo,2004(Pharm.Techn.,1 February,p.10−18)。
【0005】
理想的には、凍結乾燥製品は、一定期間にわたってほとんど変化しない凍結乾燥成分の品質と量を有し、並びに輸送の物理的影響に耐えることができ、希釈剤への再溶解時に速やかに溶解する魅力的で優美な外観の凍結乾燥体又はケークを有する。
【0006】
凍結乾燥試料についてのこれらの必要条件全てを達成するため、及び試料に、凍結乾燥工程自体の間に起こる様々な好ましくない条件(凍結、乾燥、加熱、冷却)、凍結乾燥状態での長期間の保存及び再溶解を「乗り越えさせる」ために、凍結乾燥される試料は通常、凍結乾燥の前に安定化組成物と混合される。
【0007】
安定剤組成物の化合物は、一般に、充填剤、ケーク形成剤、溶解保護剤、張度調節剤、界面活性剤、凍結保護剤(cryo(genic) protectant,freeze protectant)、乾燥剤、凍結乾燥剤等と称され、特定化合物がいくつかの機能を有し得る。
【0008】
「適合性溶質」という用語は、低水分環境の条件下で分子及び生物を安定化する化合物を指し示すために使用される(M.S.da Costa et al.1998,Adv.Bioch.Eng and Techn.,vol.61,p.117−153)。
【0009】
凍結乾燥のため又は他の安定化用途のための安定化組成物は、タンパク質、炭水化物、脂質及び塩の複雑な混合物であり、安定化する各々の分子又は微生物のために、又は特定目的のために適合させ得る組成物である。
【0010】
安定剤が厳密にどのように機能するかはほとんど知られていないが、一般的な知見は、高分子量の大型化合物は一般に良好な安定化作用を提供するというものである。このため、安定剤において使用される古くからの主要成分はこのような大きな化合物であった。材料コストを低く抑えるため、これらは、動物起源の容易に入手可能な生成物、例えば粉乳、トリプトース、ゼラチン、血清アルブミン、コラーゲン、カゼイン加水分解産物、硫酸コンドロイチン等から採用された。
【0011】
残念なことに、動物起源のこのような化合物の使用は、さもなければ無菌又は管理される製品の外来性物質による汚染の危険性を潜在的に導入する。これは、種内の人獣共通伝染病の発見及び新たに発見されたプリオン関連疾患以来、大きな懸念となってきた。結果として、規制当局は、市場への出荷前に外来性物質の不在に関して(安定化)生物学的製品の広汎な安全性試験を要求してきた。
【0012】
これは、当初、生物学的分子又は微生物の生産において使用される培地においてのみ、このような動物由来の成分の使用の放棄をもたらした。例えばB.Makoscheyら(2002,Cytotechnology vol.39,p.139−145)は、無血清で生産されたウイルスの安定化において使用するための凍結乾燥安定剤を述べている。この安定剤は、糖、アミノ酸、ゼラチン及び動物起源のタンパク質の加水分解産物からのペプチドを含んだ。
【0013】
その後、生産後に使用される安定剤もこれらの組成物が改変された。結果として、血清を含まない(動物血清なし);タンパク質を含まない(動物タンパク質なしであるが、他の動物由来成分を含み得る)又はさらに動物由来の化合物を含まない(ACF)(動物に由来するいかなる成分も含まない)安定剤組成物が開発された。
【0014】
しかし、これらの安定剤組成物においては、これらの安定化作用のために高分子量の大型分子であることが依然として必要であった。このためACF安定剤のための大きな化合物は、例えばイーストレート、ダイズペプトン、組換えゼラチン、(ヒドロキシ−エチル−)デンプン、アルギン酸塩等のような植物又は微生物起源から入手された。
【0015】
あるいは、多糖、ポリビニルピロリドン、フィコール、ポリリシン、ポリエチレングリコール、(カルボキシ)メチルセルロース、デキストラン、ポリソルベート(例えばTween(登録商標)80)等のような天然又は合成起源の大きな高分子化合物が使用される。例えばT.Osterbergら(1997,Pharm.Res.,vol.14,p.892−898)は、第VIII因子タンパク質のための安定化化合物として血清アルブミンをTween(登録商標)80に置き換えた。
【0016】
しかしながら、これらのACF安定剤化合物に関してもいくつかの問題がある。例えばこれらの安定化化合物のいくつかは加熱滅菌に対して抵抗性でなく、安定剤組成物の無菌性はしばしば絶対必要条件であるので、これを達成するための唯一の他の方法は、ろ過滅菌のより面倒な工程によってである。
【0017】
また、安定化製品が標的ヒト又は動物に投与されるべきものである場合、ACF安定剤化合物の一部は、毒性であるか又はアレルギー反応を引き起こし得るので使用することができない。
【0018】
これらの全ての場合に最も顕著な問題は、しかしながら、安定剤組成物が、ACFであっても、未知の外来性で明確に定義されていない成分を含む又はこれらから成るという共通の不都合をまだ有することである。例えば天然植物性製品の加水分解産物の組成物は全く不明である。同様に、上記のポリマー構造に関しては、これらの化学構造は一般的規準からしか知られていない。使用される化合物は、これらが平均分子サイズ又は側鎖の平均長を有するということでのみ定義されている。これらの分子は、このため、実際には多種多様な分子の、化学構造のファミリーを含む。
【0019】
このような化合物は、このため、まだ性質が十分に定義されておらず、ロットごとの変動を有する。これは、安定剤組成物の生産のための適切なバッチに関する出発化合物の慎重な選択を必要とする。所望品質を有する化合物のバッチは、このため、限られた入手可能性を有する。
【0020】
安定剤組成物におけるこのような十分に定義されていない化合物の使用は、これらの組成物によって安定化される製品の組成、品質及び収率に未知で制御不能の変動を生じさせる。
【0021】
このような制御不能の製品品質は、一貫した安全で高品質の製品を生産しようとする産業においては極めて望ましくなく、原材料の選択、生じる品物の確認検査、製品の発売及び最終製品の品質管理のための費用と時間のかかる手順によってのみ克服され得る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明の目的は、従来技術のこれらの不都合を有さない選択的な改善された安定剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
驚くべきことに、少なくとも1つのアミノ酸及び少なくとも1つの糖を含み、全ての化合物が化学的に定義されている安定剤組成物は、高分子量の、大型化合物の又は明確に定義されていない化合物を必要とせずに、生物学的分子及び微生物の品質と量の効率的な安定化を提供できることが認められた。これは、従来技術に優る多くの利点を提供する。
【0024】
本発明の安定化組成物は、血清を含まず、タンパク質を含まず及び動物由来の化合物を含まないものであり、このため安定化すべき管理された製品に外来性物質を導入しない。またこの安定化組成物は、明確に定義されていない外来性又は未知の化合物の取り込みの必要性を回避し、これは、予測可能で制御可能な最終製品を導く製品の安定化を生じさせる。どちらの態様も、品質及び外来性物質に関する最終製品への管理の必要条件を軽減する。
【0025】
この安定化組成物は、厳密に公知の化合物だけを含み、ロットごとの変動又は求められる好都合な性質を有するバッチの入手可能性の制限がない。これは、出発物質の受け入れの管理及び選択のための必要条件を軽減する。さらに、本発明に従った安定化組成物は標的ヒト又は動物に対して非毒性であり、加熱滅菌可能である。
【0026】
この安定化組成物は、物理的及び化学的影響に対する生物学的分子及び微生物の良好な安定化を提供し、特に時間経過と共に及び温度変化を通して経験される負の影響に対してこのような試料の品質と有効量を安定化する。
【0027】
凍結乾燥において使用されるとき、この安定化組成物は、凍結、乾燥、加熱、冷却の処理条件に対して、並びに凍結乾燥状態での長期間の保存及び再溶解の間の負の影響に対して生物学的分子及び微生物を安定化する。
【0028】
またこの安定化組成物は、輸送の物理的影響に耐えることができ、希釈剤への再溶解時に速やかに溶解する、魅力的で優美な外観の凍結乾燥体又はケークを提供する。
【0029】
したがって、本発明は、少なくとも1つのアミノ酸及び少なくとも1つの糖を含み、全ての化合物が化学的に定義されていることを特徴とする安定剤組成物に関する。
【0030】
「安定剤組成物」は、生物学的分子及び微生物と混合されたとき安定化作用を有する組成物と定義される。すなわち、この安定剤組成物は、生物学的分子及び/又は微生物を含む試料の品質又は有効量の損失を大幅に予防することができる。
【0031】
「有効量」は、例えば生物学的又は医薬的に活性な生物学的分子の量、又は生きている又は感染性の微生物の数である。
【0032】
「品質の損失」は、温度変化による経時的な影響などの物理的及び/又は化学的影響、機械的影響(例えば輸送)及び/又は物理的形態の変化(例えば凍結、乾燥)によって、さもなければ起こっていたかもしれない。
【0033】
この安定剤組成物は、水溶液又は水性濃縮物の形態であり得るか、又は本発明に従った安定剤組成物の水溶液又は水性濃縮物を調製するのに適した化学物質の乾燥混合物として提供され得る。
【0034】
安定化すべき生物学的分子及び/又は微生物は、安定剤組成物と混合する前には、これら自体が液体、乾燥、冷凍又は凍結乾燥形態であり得る。
【0035】
微生物は、生存していてもよく又は、例えば意図的な不活性化の結果として、死滅していてもよい。
【0036】
「糖」は、甘い又はやや甘い味を与える化合物であることが一般に知られており、より詳細には、単糖又はニ糖、糖アルコール又はポリオールなどの炭水化物、及びこれらの誘導体である。
【0037】
本発明のために、化合物は、これがもっぱら同一分子から成るとき「化学的に定義されて」いる。
【0038】
このような化学的に定義された化合物は、したがって、詳細に知られ、明確で、均一な化学構造を有しており、詳細に知られた量で使用される。
【0039】
本発明に従った安定剤の化学的に定義された化合物は、したがって、タンパク質様溶解産物、抽出物、加水分解産物又はペプチド混合物などの十分に定義されていない、外来性又は未知の化合物ではない。また、平均分子量又は側鎖の平均長だけが公知である高分子化合物は、本発明に従った安定剤組成物には含まれない。
【0040】
本発明に従った安定剤の化学的に定義された化合物は、精密化学製品の商業的供給業者から容易に入手可能である。好ましくは入手可能な最高純度が使用される。しかし、化学的に定義されていることの必要条件は、このような化合物中の不純物の極微量の存在を排除しない。このような不純物は、例えば重金属、残留物、溶媒等である。好ましくは、このような不純物は、化学的に定義された化合物の1重量%未満、より好ましくは0.1、0.01、0.001又は0.0001重量%未満の量で存在する。
【0041】
好ましくは、化学的に定義されていることの必要条件は、水溶液中のイオン化形態であるとき、本発明に従った安定剤の化合物の分子に関する。従って、好ましい実施形態ではこのような化学的に定義された化合物は、この固体又は非イオン化形態では、種々の塩形態、又は結晶水の結合分子の種々の数を有する形態(水和物形態)で存在し得る。
【0042】
好ましくは、本発明に従った安定剤組成物は、明確に定義されていない化合物を含む従来技術の安定剤と少なくとも同じレベルの生物学的分子及び/又は微生物の安定化を提供する。
【0043】
好ましくは、生きている微生物を含む製品の安定化のために本発明に従った安定剤組成物を使用するときの力価の損失は、1Log10未満である。より好ましくは0.5Log10未満である。
【0044】
しかし、これは必ずしも必要とは限らない。一部の適用に関しては、安定剤中に、及びその結果として最終製品中に明確に定義されていない化合物を有さないことが決定的に重要である。本発明に従った安定剤組成物の使用から生じる品質及び/又は量のわずかに低い収率は、この場合、これが従来技術の安定剤に比べて提供する多くの利点と引き換えに完全に許容される。
【0045】
このことは、例えば、本発明に従った安定剤がグリセロール原液中などの微生物の接種材料の長期間保存のための安定剤として使用されるべきであるときに当てはまる。この場合、十分に定義された安定剤によるACF安定化がより重要であり得る。何故ならば、このような接種材料は通常、いずれにしても新しい培養物の接種のために適切な量に培養されるので、2Log10までの力価の損失は許容され得るからである。
【0046】
さらに、当業者には、例えば本発明に従った安定剤組成物の組成又はこの使用のための条件を、常用実験によってさらに最適化することが完全に可能である。したがって、このような最適化された組成及び条件は本発明の範囲内である。
【0047】
安定化製品の残存する有効量及び品質に相当する安定化のレベルを評価するために、いかなる適切な手法も使用できる。例えばウイルス及び細菌化合物の量及び毒力(このため品質)は、滴定又は限界希釈によって定量化することができる。生物学的分子は、生化学的に(例えば酵素的に)、免疫学的に(免疫蛍光試験)又は物理的に(例えば電気泳動、クロマトグラフィー又は質量分析)検出することができる。これらの手法は全て当分野において周知であり、使用可能である。
【0048】
好ましい実施形態において、本発明に従った安定剤組成物は少なくとも1個のポリアミンを付加的に含む。
【0049】
「ポリアミン」は、2個以上のアミノ基を有する化合物と定義される。
【0050】
より好ましい実施形態において、本発明は、
−糖が、グルコース、ラクトース、スクロース、マルトース、トレハロース、ソルビトール及びマンニトールから成る群より選択される少なくとも1つであり、
−ポリアミンが、エチレン−ジアミン、カダベリン、プトレシン、スペルミジン及びスペルミンから成る群より選択される少なくとも1つであり、
−アミノ酸が、グルタメート(グルタミン酸)又はグリシンであるか、又はこれら両方のアミノ酸が含まれる、
本発明に従った安定剤組成物に関する。
【0051】
さらなるより好ましい実施形態において、本発明に従った安定剤組成物は緩衝水溶液である。好ましくは、この水溶液はpH6から8、より好ましくは約pH6.9に緩衝されている。
【0052】
この緩衝液は、例えば、好ましくは約50mM/10mMの濃度の、トリス/クエン酸塩であり得る。
【0053】
好ましくは、この緩衝液はリン酸塩に基づき、より好ましくは二ナトリウムリン酸塩二水和物である。
【0054】
好ましくは、この緩衝液は0.1から100g/l、より好ましくは約1g/lの量で存在する。
【0055】
代わりの、より好ましい実施態様において、本発明の安定化組成物の水溶液は、濃縮溶液であり、この濃縮溶液は、本発明の安定化組成物の化合物を、これら化合物が本発明の安定化組成物を安定化すべき生物学的分子または微生物と混合したとき形成される最終医薬組成物におけるときになる濃度より高い濃度で、含む。
【0056】
好ましくは、この安定剤組成物は、最終医薬組成物中の濃度又は量と比較して2倍、3倍、4倍、5倍、10倍又は20倍濃縮されている。より好ましくは、この安定剤組成物は4倍濃縮されている。
【0057】
より好ましい実施形態において、本発明の安定剤組成物の水溶液又は濃縮物を調製するための、適切な溶媒に溶解するのに適した化学物質の乾燥組成物が提供される。
【0058】
その後の溶解のための化学物質の乾燥混合物を提供することは、より小容量での保存という利点を有する。これは、保存空間を少なくし、輸送及び販売を容易にする。
【0059】
さらに一層好ましくは、本発明に従った安定剤組成物において、
−糖は、スクロース、ソルビトール又はマンニトールであり;好ましくはソルビトールであり;より好ましくはD−ソルビトールであり、
−アミノ酸は、グルタミン酸塩又はグリシンであり;より好ましくはL−グルタミン酸塩であり;さらに一層好ましくはL−グルタミン酸塩とグリシンの両方が含まれ、
−ポリアミンの組合せが使用され;より好ましくはスペルミンとプトレシン、又はスペルミンとエチレンジアミンの組合せが使用される。
【0060】
本発明に従った安定剤組成物のさらなるより好ましい実施形態において、4倍濃縮物は、
−10から200g/l、好ましくは約75g/lの量の糖、
−0.1から400g/lの量のアミノ酸;好ましくはL−グルタミン酸塩が約20g/l含まれるか又はグリシンが約160g/l含まれ、
−0.1から100g/lの量のポリアミン;好ましくはスペルミンが約10g/l含まれるか又はスペルミジンが約2.5g/l含まれる、
を含む。
【0061】
さらなる好ましい実施形態では、本発明に従った安定剤組成物は、糖及びアミノ酸としてグルタミン酸塩を含み、少なくとも1つの適合性溶質を付加的に含む。この適合性溶質は、好ましくはサルコシン、ベタイン、ジグリシン及びコリンから成る群より選択される少なくとも1つである。4倍濃縮物中の適合性溶質は、好ましくは0.1から400g/l、好ましくは50から200g/l、より好ましくは約160g/lの量で存在する。
【0062】
上記で概説したように、この安定剤組成物の化合物を塩又は水和物のどちらの形態で使用するかは重要ではない。例えばスペルミンは、スペルミン、スペルミン二水和物又はスペルミン四塩酸塩の形態で使用でき、同様に、スペルミジンは、スペルミジン又はスペルミジン三塩酸塩として使用し得る。
【0063】
本発明に従った安定剤は、生物学的分子及び/又は微生物と混合されることが意図されているので、ある使用において、この安定剤の化合物は、対象のヒト又は動物に投与される製品の一部であり得る。このため、本発明に従った安定剤組成物の化合物は、好ましくは非毒性であり、少なくとも投与される最終製品中に存在する濃度で非毒性である。
【0064】
好ましくは、本発明に従った安定剤組成物の化合物は、好ましくないアレルギー反応を誘導しない。
【0065】
好ましくは、本発明に従った安定剤組成物は無菌である。本発明に従った安定剤の滅菌は、加熱、ろ過、照射又は当分野で公知の何らかの適切な手法によって達成できる。好ましくは、安定剤組成物は加熱滅菌される。
【0066】
非限定的な例として、本発明に従った安定剤組成物における使用に適する化学的に定義された化合物を表1に列挙する。
【0067】
【表1】

【0068】
当分野において公知のように、本発明に従った安定剤組成物の、ここで述べた化合物の誘導体は、入手可能であるか又は合成することができる。このような誘導体も、本発明に従った安定剤組成物の化合物としての使用に適する。したがって、このような誘導体は本発明の範囲内である。
【0069】
【表2】

【0070】
本発明に従った安定剤組成物に関して多数の実験を実施した。これらの実験は、本発明に従った安定剤組成物が有効な安定化を提供する全ての条件を組み込むように設計された。
−冷却;例えば4℃での液体形態の(バルク)製品の保存のため
−凍結;例えば−20℃又は−45℃で深温凍結した(バルク)製品の保存のため
−凍結乾燥;混合:乾燥、加熱、冷却
−凍結乾燥製品の凍結;例えば−20℃又は−45℃での深温凍結保存のため
−凍結乾燥製品の冷却;例えば4℃での保存のため
−凍結乾燥製品の、室温より高い温度への加熱、及び
−凍結乾燥製品の希釈剤への再溶解。
【0071】
微生物を含む安定化組成物に関してこれらの実験を実施したときは、再溶解した製品中の生きている感染性微生物の残存数を、力価測定又は限界希釈に基づく周知の定量化手法を用いて測定した。生物学的分子に関して実施したときは、力価測定、酵素免疫測定法又は生物学的検定などの特異的アッセイを用いて品質及び量を測定した。
【0072】
これらの実験及びこれらの結果を実施例において要約し、本発明に従った安定剤組成物が、凍結乾燥における及び凍結乾燥に関連する様々な用途だけでなく、凍結乾燥の前又は凍結乾燥の代わりに、冷却又は凍結保存されるバルク抗原の安定化についても、微生物及び又は生物学的分子の効率的な安定化を提供することを示す。
【0073】
代わりの実施形態において、本発明の安定剤組成物は、高分子量又は大型の化合物を含まないことを特徴とする。
【0074】
本発明に関して、「高分子量」及び「大型」化合物は、203Daを超える分子量又は分子イオンの大きさを有する任意の化合物と定義される。例えばスペルミンは、結晶水、又は水和物又は塩化物(塩酸塩)などの塩形態を排除したとき、この分子イオンは202Daのみの分子量を有するので、このような大型化合物ではない。
【0075】
上述したように、当分野で一般的に使用される大きな化合物のいずれもが効率的な安定化を達成するために必要ではなく、実際上スペルミンより大きい化合物を必要としないことが見出されたのは驚きであった。
【0076】
このことの利点にも言及した。高分子量の大型化合物は、しばしば明確に定義されておらず、外来性であるか、又はせいぜい平均分子サイズ又は側鎖の平均長だけが知られる化合物である。この結果として、安定剤組成物において使用されるこのような十分に定義されていない化合物は、予測不可能な特徴を有する安定化製品を生じさせる。
【0077】
代わりの好ましい実施形態において、本発明は、本発明に従った安定剤組成物及び少なくとも1個の生物学的分子又は少なくとも1つの微生物又はこれらの組合せを含むワクチン組成物に関する。
【0078】
このワクチン組成物は、医薬的に許容される担体中に免疫原性化合物を含む組成物を表わすことが当分野において一般的に知られ、この免疫原性化合物は、標的の免疫系の受動的又は能動的活性化を誘導することができる。誘導される免疫応答は、ある種の感染の確立又は進行を妨げること、又は疾患の症状を改善することを意図されている。
【0079】
医薬的に許容される担体は、例えば滅菌水又は滅菌生理食塩水であり得る。より複雑な形態では、担体は、例えば緩衝液であり得る。
【0080】
本発明のための「生物学的分子」は、自然界で認めることができる分子であると理解される。特にこれは、タンパク質、炭水化物、脂質又は核酸を指す。分子の起源は、エクスビボ又はエクスビトロで誘導される、生物学的又は合成であり得る。
【0081】
「タンパク質」という用語は、2個以上のアミノ酸の分子鎖を組み込むことが意図されている。したがって、ペプチド、オリゴペプチド及びポリペプチドはタンパク質の定義に包含される。
【0082】
本発明に従ったワクチン組成物は、何らかの形態、例えば凍結乾燥、液体又は凍結であり得るか、又は保存、輸送又は標的への適用の所望方法に依存して液体、ゲル、軟膏、粉末、錠剤、カプセル又は凍結乾燥体に製剤又は加工され得る。
【0083】
本発明に従ったワクチン組成物は、単一免疫原性微生物及び生物学的分子又はこれらの組合せを含み得る。
【0084】
好ましい実施形態において、本発明は、
−微生物がウイルス又は細菌であるか、又はウイルスと細菌の両方が含まれ;より好ましくは、このウイルスはヘルペスウイルス、パラミクソウイルス、オルトミクソウイルス、アデノウイルス、ラブドウイルス、ビルナウイルス、コロナウイルス、ニューモウイルス及びポックスウイルスから成る群より選択される少なくとも1つのウイルス種であり;さらに一層好ましくは、このウイルスはウシヘルペスウイルス、ウシパラインフルエンザウイルス3型、仮性狂犬病ウイルス、ヒトRSウイルス及びヒト又は動物インフルエンザウイルスから成る群より選択され;より好ましくは、この細菌は、連鎖球菌属、ブドウ球菌属、エシェリキア属、マイコプラスマ属、エドワードシエラ属、カンピロバクター属及びサルモネラ属の細菌種から成る群より選択され、
−この生物学的分子はタンパク質、炭水化物、脂質及び核酸から成る群より選択される少なくとも1つであり;より好ましくは、タンパク質が抗体、抗体フラグメント、サイトカイン、ホルモン及び酵素から成る群より選択される少なくとも1つである、
ワクチン組成物に関する。
【0085】
抗体フラグメントは、例えばFabフラグメント及び一本鎖抗体である。本発明の安定剤組成物と共に使用するためのホルモンは、例えばインスリン、卵胞刺激ホルモンなどの性腺刺激ホルモン、ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン及びエリスロポエチンである。
【0086】
本発明のワクチン及び安定剤組成物は、ゲノム型又は形態型のいずれかの、動物のいずれかの種又はヒトに対して感染性である、多種多様なウイルスに適用し得る。特に、特定動物ウイルスの安定化に関して示された結果は、動物又はヒトのいずれかの、他の宿主種に感染する対応ウイルスの安定化の結果を予測するために、及びこのウイルスファミリー内の他のウイルス種に直接外挿することができる。
【0087】
ウイルスエンベロープを有するウイルスは、化学的及び物理的影響に対して特に感受性である。この結果として、このようなウイルスは本発明の安定剤組成物によって有効に安定化できるので、これはこの効果をさらに一層明らかにする。
【0088】
【表3】

【0089】
本発明に従った安定剤と共に使用するための細菌は、例えばグラム染色陽性又はグラム染色陰性によって特徴付けられるような、いかなる種類でもあり得る。
【0090】
【表4】

【0091】
これらの細菌を安定化するときに得られた結果は、上記属内の他の細菌種に外挿することができる。
【0092】
本発明の安定剤と共に使用するための生物学的分子及び微生物を生産するために使用される生産系は、いかなるインビトロ又はインビボ系であってもよい。例えばウイルスは、細胞培養、受精鶏卵又は宿主動物において生産され得る。細菌は、同様の手法を用いて及び加えて肉汁培地において生産することができ、生物学的分子は、動物又は微生物からの単離によって生産することができ、特に組換え発現系が好都合に使用できる。多くの他の実施形態が当分野において公知である。
【0093】
しかし、安定化最終製品の最適の安全性と予測可能性は、生産段階及び安定剤組成物の両方から、未知の外来性で十分に定義されていない成分を除去することによって達成される。
【0094】
したがって、本発明に従ったワクチン組成物のより好ましい実施形態において、生物学的分子又は微生物又はこの両方が動物由来の成分を含むことなく生産された。
【0095】
例えばACF生産系は、ACF培地中の細胞でのウイルス培養物;ACF肉汁培地での細菌培養物;及びACF培地を用いた組換え発現培養物、例えば昆虫細胞を用いたバキュロウイルス発現系である。
【0096】
さらなる好ましい実施形態では、本発明に従ったワクチン組成物はアジュバントを追加して含む。
【0097】
このアジュバントは、対象のヒト又は動物の免疫系を非特異的に刺激することによってワクチン成分に対する免疫応答を促進するために一般に使用されている。多くの異なるアジュバントが当分野において公知であり、例えば鉱物又は生物油、サポニン、ペプチド、アルミナ及び誘導体等である。
【0098】
さらなる好ましい実施形態では、本発明に従ったワクチン組成物は凍結乾燥される。
【0099】
本発明の安定剤組成物は凍結乾燥形態において最も有益である。本発明に従った凍結乾燥ワクチン組成物は、例えば+4℃で数ヶ月から数年間安定である。
【0100】
凍結乾燥のための手順は当分野において公知である。種々の規模での凍結乾燥のための装置が市販されている。典型的には、本発明に従った安定剤を含むワクチン組成物をガラスバイアルなどの容器にある一定容量まで、例えば0.5から50ml、好ましくは1、2又は5ml充填する。その後これらのバイアルを冷凍し、凍結乾燥工程に供する。
【0101】
例示的な凍結乾燥工程の概要は、
−液体をある一定構造に固定するための、10から60分間の強度冷凍、
−結晶水を昇華させるための、高圧での、−20から20℃、1から12時間の第一乾燥工程、
−非凍結水を脱着させるための、中等度の圧での、0から40℃、30分から6時間の二次乾燥、
−乾燥条件を維持するための、例えば真空下又は窒素ガス下での、凍結乾燥体の梱包(例えばゴム栓によってガラスバイアルを閉じること);及び
−+4℃に保持
の工程を含む。
【0102】
当業者は、試料の特定型に関して最良の結果を達成するためにこのような工程を常套的に変化させ、最適化することが十分にできる。
【0103】
凍結乾燥工程は、温度、及び乾燥の間の装置内の水分含量を観察することによって最適化することができる。また示差走査熱量測定法が、凍結乾燥の前後の製品の特徴を評価するために常套的に使用される。
【0104】
最終製品中の残留含水量(rwc)は、凍結乾燥製品の安定性を測定する上で重要なパラメータである。好ましくは、本発明に従った凍結乾燥試料及びワクチンのrwcは5%以下である。rwcを測定するために、当分野で公知のカール・フィッシャー滴定法が好都合に使用できる。
【0105】
さらなる好ましい実施形態において、本発明に従った凍結乾燥ワクチンは、欧州特許第EP799.613号に述べられているリオスフェアの形態で調製される。
【0106】
生産される本発明に従ったワクチン組成物の凍結乾燥体はいかなる形態であってもよい。本発明に従った安定化組成物は、凍結乾燥体の優美で魅力的な外観を達成するためにワクチン組成物に有益な特徴を提供する。好ましくは、ガラスバイアル中の凍結乾燥ケークは光沢のある均質な外観であり、好ましくは軽く動かしたときバイアルの壁に付着してとどまり、通常の輸送条件下で粉砕されるほど脆弱ではない。
【0107】
従って、凍結乾燥ワクチン体の望ましい外観は、主観的又は審美的特徴に関するだけでなく、本当に有利な技術的作用も含む。特に安定化効果、輸送の過酷さに対する抵抗性及び再溶解速度が含まれる。
【0108】
特に興味深いのは、「崩壊」として当分野で知られる外観を回避することであり、このような無定形の凝集した外観を有する凍結乾燥体は、ゆっくりと不完全に再溶解し、保存すべき生物学的分子及び/又は微生物の適切な安定化を提供しないからである。
【0109】
さらなる好ましい実施形態において、本発明に従った凍結乾燥ワクチン組成物を医薬的に許容される担体に再溶解することによって即時使用ワクチン溶液が入手できる。
【0110】
本発明に従った凍結乾燥ワクチン組成物は速やかに溶解するので、好ましくはワクチン溶液を標的に適用する直前に再溶解を実施する。これは、ワクチン溶液が新鮮で、意図される用量及び品質であることを確実にする。
【0111】
本発明に従ったワクチン組成物は、当分野で公知の方法に従ってヒト又は動物の対象に投与することができる。例えば皮膚への又は皮膚を通しての全ての注射経路、例えば筋肉内、静脈内、腹腔内、皮内、粘膜下又は皮下などの非経口適用による。実施可能な代わりの適用経路は、眼、鼻、口、肛門又は膣の粘膜上皮、又は身体のいずれかの部分の外側皮膚の表皮への滴、スプレー、ゲル又は軟膏としての局所適用によって;エーロゾル又は粉末としての噴霧によってである。若しくは、この適用は、例えば粉末、液体又は錠剤として食品、飼料又は飲料水と組み合わせることによる、又は液体、ゲル、錠剤又はカプセルとして口への直接投与による、栄養経路を通してであるか、又は坐薬として肛門に対してであり得る。また、浸漬ワクチン接種も好都合に適用できる。
【0112】
好ましい適用経路は、筋肉内又は皮下注射、又は鼻内スプレーである。
【0113】
最適適用経路が、予防又は改善されるべき感染又は症状の固有の特殊性、使用されるワクチン製剤の特徴、及び対象とする種の特定の特徴に依存することは言うまでもない。
【0114】
対象とするヒト又は動物への本発明に従ったワクチン組成物の適用の方式は、用量及び製剤と適合する方法で、免疫学的に有効な量、例えば1年1回投与などの量で、単回投与又は同時か又は連続的に与え得る多回投与であり得る。
【0115】
代わりの実施形態において、本発明は、本発明に従った安定剤組成物を、少なくとも1つの生物学的分子又は少なくとも1つの微生物又はこれらの組合せを含む組成物と混合することを含む、医薬組成物を調製するための方法に関する。
【0116】
本発明の方法に従って調製される医薬組成物は、いかなる形態であってもよく、液体又は乾燥、凍結、又は凍結乾燥等の形態であり得る。
【0117】
混合は、当分野で使用可能な何らかの適切な手法を用いて実施できる。
【0118】
好ましくは、本発明に従った方法は、本発明に従った医薬組成物を生産するために、4倍濃縮の滅菌緩衝水溶液として本発明に従った安定剤組成物1の割合を、少なくとも1つの生物学的分子及び/又は少なくとも1つの微生物を含む組成物3の割合と混合することを含む。
【0119】
本発明に従った安定剤組成物と混合する、少なくとも1つの生物学的分子又は少なくとも1つの微生物又はこれらの組合せを含む組成物は、好ましくは液体形態である。この組成物は、ウイルス又は細菌培養から、又は発現系培養から入手できる。この組成物は遠心分離などの下流処理後に入手することができ、例えば培養上清又は(再懸濁した)遠心分離ペレット(ウイルス感染細胞又は細菌を含む)又は処理していない培養物全体を使用し得る。
【0120】
好ましくは、本発明の方法に従った、安定剤組成物と生物学的分子及び/又は微生物を含む組成物の混合は、最良安定化成績を達成するために、生産及び下流処理が終了した直後に実施される。
【0121】
好ましくは、このようにして得られる安定化された医薬組成物は、その後冷蔵又は冷凍保存され、さらなる処理及び生産収穫物に関する品質管理の結果を待つ。
【0122】
本発明に従った方法の好ましい実施形態において、
−微生物はウイルス又は細菌であるか、又はウイルスと細菌の両方が含まれる。
−ウイルスは、ヘルペスウイルス、パラミクソウイルス、オルトミクソウイルス、アデノウイルス、ラブドウイルス、ビルナウイルス、コロナウイルス、ニューモウイルス及びポックスウイルスから成る群より選択される少なくとも1つのウイルス種である。
−生物学的分子は、タンパク質、炭水化物、脂質及び核酸から成る群より選択される少なくとも1つである。
−タンパク質は、抗体、抗体フラグメント、サイトカイン、ホルモン及び酵素から成る群より選択される少なくとも1つである。
−生物学的分子又は微生物又は両方は、動物由来の成分を含むことなく生産されたものである。
−生じる医薬組成物は凍結乾燥に供される。
【0123】
より好ましい実施形態において、本発明は、組成物がワクチンである、本発明に従った方法によって入手できる医薬組成物に関する。
【0124】
さらに一層好ましい実施形態において、本発明は、本発明に従った医薬組成物を医薬的に許容される担体に再溶解することによってワクチン溶液を調製する方法に関する。
【0125】
さらなる代わりの実施形態において、本発明は、組成物中の少なくとも1つの生物学的分子又は少なくとも1つの微生物又はこれらの組合せの品質及び/又は量を安定化するための、本発明に従った安定剤組成物の使用に関する。
【0126】
本発明に従った使用の好ましい実施形態において、
−微生物はウイルス又は細菌であるか、又はウイルスと細菌の両方が含まれる。
−ウイルスは、ヘルペスウイルス、パラミクソウイルス、オルトミクソウイルス、アデノウイルス、ラブドウイルス、ビルナウイルス、コロナウイルス、ニューモウイルス及びポックスウイルスから成る群より選択される少なくとも1つのウイルス種である。
−生物学的分子は、タンパク質、炭水化物、脂質及び核酸から成る群より選択される少なくとも1つである。
−タンパク質は、抗体、抗体フラグメント、サイトカイン、ホルモン及び酵素から成る群より選択される少なくとも1つである。
−生物学的分子又は微生物又は両方は、動物由来の成分を含むことなく生産されたものである。
【0127】
より好ましい実施形態では、本発明は、標的ヒト又は動物の免疫のための、本発明に従ったワクチン溶液又は本発明の方法によって入手できるワクチン溶液の本発明に従った使用に関する。
【0128】
本発明を、ここで、以下の非限定的な実施例を参照しながらさらに説明する。
【実施例】
【0129】
上述したように、有効な安定剤が安定化できなければならない全ての条件:冷却、凍結、乾燥、加熱を組み込んだ凍結乾燥実験を実施した。
【0130】
微生物を安定化するときに実施した凍結乾燥実験の一般的概要は以下の通りであった。
−微生物を含む組成物を培養から得て、必要に応じて処理し、4℃又は0℃以下で保存した。
−本発明に従った安定剤組成物を、所望量の所要化合物を計量し、これらを滅菌蒸留水の所要量に添加して、溶解するまで混合することによって調製した。安定剤組成物を、次に、121℃で20分間加熱滅菌した。
−実験の開始時に、試料を解凍し、試料容量の3分の1の容量の4倍濃縮安定剤と混合した。本発明に従った安定剤又は標準安定剤組成物のいずれかを使用した。安定剤を含まない試料も実験に含めた。
−安定化した試料を一定の充填容量で標準10mlガラスバイアルに入れた。BHV及びPI3ウイルスを2ml、及びPRV、粘液腫ウイルス、BRSV、EIV及びBCVを1ml。細菌試料を2.5ml/バイアルで充填した。
−試料を、標準2段階プログラムを用いて残留含水量5%以下に凍結乾燥し、次に真空下にゴム栓で密閉した。
−その後試料を4℃又はより高い温度で一定期間保存した。「4℃直接」の欄の結果は、凍結乾燥後1ヶ月未満4℃で保存した試料に関する力価測定の結果である。「28℃3日間」の欄の結果は、凍結乾燥後4℃での場合による保存(possible storage)後に3日間28℃で保存し、これら3日間の直後に定量した試料の力価測定結果である。「4℃1年間」の欄の結果は、凍結乾燥後少なくとも1年間4℃で保存した試料の力価測定結果である。
【0131】
28℃で3日間の保存は、加速安定性アッセイとして組み込まれている。ほとんどの場合これらの結果は、周囲温度又は冷却条件での長期間にわたる保存の結果を示す。
【0132】
これらの処理条件後に残存する微生物の量及び品質を測定するため、ウイルス試料を感染力測定し、細菌試料をプレート計数した。
【0133】
BRSV滴定アッセイ:
BRSウイルスの安定化試料を、FCS10%(v/v)を添加した標準細胞培養培地に、0.2ml中10−1から10−7の希釈溶液になるように希釈した。希釈溶液をマイクロタイタープレートのウエル中のBEL細胞に接種する。1.5×10BEL細胞/ml、0.2ml/ウエル。ウイルス希釈ごとに10ウエルを使用した。マイクロタイタープレートを8日間温置する(3から5%CO、37℃)。アセトン/PBS 70/30%v/vを用いて10から15分間室温でプレートを固定する。固定した単層を、最初はBRSVに特異的なモノクローナル抗体と共に、次に抗体FITC複合体+エバンスブルー(対比染色として)と共に温置する。陽性蛍光細胞が発現した皿を陽性と採点する。ウイルス力価をReedとMuenchに従って算定し、TCID50でのウイルス力価として表わす。
【0134】
全ての実験において、ウイルス力価測定の各々の実施に関して同種標準ウイルス試料及び陰性対照を含めた。全てのウイルス滴定は1日に2回ずつ実施した。平均力価を示す。
【0135】
粘液腫ウイルス滴定アッセイ
RK13細胞を、5%ウシ胎仔血清(FCS)及び適切な抗生物質を添加した標準細胞培養培地中、4×10細胞/ml、100μl/ウエルで、96穴プレートに接種する。プレートを5%CO雰囲気中37℃で一晩温置する。
【0136】
翌日、粘液腫ウイルスを含む安定化試料を10−1から10−8に希釈する。各々のウイルス希釈溶液20μlをPK13細胞プレートのウエルにそれぞれ3ウエルずつ接種する。37℃/5%COで1時間の温置後、FCSを添加した新鮮培地100μlをウエルに添加し、プレートを、ウイルスプラークが明らかに目に見え、CPEが読み取れるまで、さらに2から3日間温置する。
【0137】
次にプレートを空にし、ナフタレンブラックの希釈溶液で染色して、室温で1時間温置する。プレートを再び空にし、水道水で洗浄して、乾燥し、光学顕微鏡を用いて読み取る。
【0138】
もとの試料中の生きている感染性粘液腫ウイルスの数をSpearman−Karberアルゴリズムによって算定し、TCID50値として表わす。
【0139】
BHV、PI3及びPRVウイルス力価測定アッセイ:
BHV、PI3及びPRVウイルスの安定化試料を、BHV及びPI3についてはJCK細胞、及びPRVについてはVero細胞を使用したことを除き、粘液腫ウイルスに関するのと同様にして力価測定した。CPEも、光学顕微鏡を用いてプラークを計数することによって測定した。
【0140】
BCV力価測定アッセイ:
MDBK細胞の細胞懸濁液を、10%FCS及び適切な抗生物質を添加したDMEM培地中、1×10細胞/mlの200μl/ウエルで、96穴プレートに接種する。プレートを5%CO雰囲気中37℃で3日間温置する。3日後、集密単層が形成された。培地を除去し、FCSを含まない新鮮培地200μlを添加し、プレートを2時間温置する。安定化試料からのBCVの希釈溶液を10倍希釈の階段で調製する。マイクロタイタープレートを再び空にし、10−3から10−8の希釈溶液をMDBK細胞単層に接種する。プレートを5から6日間温置する。免疫蛍光計数のために、ポリクローナルウサギ抗BCV血清及びヤギ抗ウサギFITC標識複合抗体を用いてウイルスプラークを視覚化する。エバンスブルーでの対比染色後、紫外線顕微鏡を用いてプラークを計数する。安定化試料中の生ウイルスTCID50力価の算定はReed−Muenchアルゴリズムによる。
【0141】
ウマインフルエンザウイルス
EIVを鶏卵に関して力価測定する。安定化EIV試料の希釈溶液を、受精生10日齢鶏卵の尿膜腔に接種し、40から42℃で3から5日間温置する。卵を開き、尿膜腔液の試料を、ニワトリ赤血球を用いた血球凝集反応アッセイにおいて試験する。もとの試料中の生感染性EIVの量を、HA反応を与える最高希釈溶液から算定する。
【0142】
一部の実験では、凍結乾燥ケークの品質を判定した。これは、目視検査とバイアルの振とうを含んだ。
【0143】
任意の指標を与えた。
+ 優美な外観、良好な堅固構造
0 適切な外観と構造
− 所望外観及び構造未満
【0144】
細菌
振とうフラスコにおいて適切な標準増殖培地中で保存材料を増殖させることによって細菌培養物を得た。次に、一晩温置した後出現するコロニーの数を計数するため、一連の限界希釈試料をそれぞれ2つずつ血液寒天プレート上に接種することによってこれらの培養物を定量した。一部の実験に関しては、凍結乾燥後に回収されたコロニーの数を、凍結乾燥前のもとの培養物におけるコロニーの数の%として表わした。
【0145】
対応する培養物を、次に、本発明に従った4倍濃縮安定剤組成物と1:4混合し、標準2段階凍結乾燥プログラムに供した。
【0146】
大腸菌を含む実験に関しては、K12菌株を使用し、種々の培地を使用した。標準LB培地、アンピシリン添加LB及び血液寒天培地。本発明に従った安定剤組成物の効果を、アルブミンを含む標準安定剤の効果と比較した。
【0147】
試料を、凍結乾燥前又は凍結乾燥の直後、又は再び加速安定性アッセイとして、28又は30℃で3日間のインキュベーション後に試験した。
【0148】
【表5】

【0149】
【表6】

【0150】
【表7】

【0151】
参考のため、従来技術の慣用安定剤(Makoschey et al.,supra)を比較例として含め、これを「慣用安定剤(Conv.stab.)」として示す。
【0152】
【表8】

【0153】
【表9】

【0154】
【表10】

【0155】
【表11】

【0156】
【表12】

【0157】
【表13】

【0158】
【表14】

【0159】
【表15】

【0160】
【表16】

【0161】
【表17】

【0162】
【表18】

【0163】
【表19】

【0164】
【表20】

【0165】
【表21】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのアミノ酸、少なくとも1つの糖及び少なくとも1つのポリアミンを含み、全ての化合物が化学的に定義されており、ポリアミンが、エチレン−ジアミン、カダベリン、プトレシン、スペルミジン及びスペルミンから成る群より選択される少なくとも1つであることを特徴する、安定剤組成物。
【請求項2】
糖が、グルコース、ラクトース、スクロース、マルトース、トレハロース、ソルビトール及びマンニトールから成る群より選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の安定剤組成物。
【請求項3】
アミノ酸がグルタミン酸塩又はグリシンであるか、又はこれら両方のアミノ酸が含まれている、請求項1又は2のいずれか一項に記載の安定剤組成物。
【請求項4】
組成物が緩衝水溶液である、請求項1から3のいずれか一項に記載の安定剤組成物。
【請求項5】
緩衝液がリン酸ベースである、請求項4に記載の安定剤組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の安定剤組成物及び少なくとも1つの生物学的分子又は少なくとも1つの微生物又はこれらの組合せを含む、ワクチン組成物。
【請求項7】
微生物がウイルス又は細菌であるか、又はウイルスと細菌の両方が含まれている、請求項6に記載のワクチン組成物。
【請求項8】
ウイルスが、ヘルペスウイルス、パラミクソウイルス、オルトミクソウイルス、アデノウイルス、ラブドウイルス、ビルナウイルス、コロナウイルス、ニューモウイルス及びポックスウイルスから成る群より選択される少なくとも1つのウイルス種である、請求項7に記載のワクチン組成物。
【請求項9】
生物学的分子が、タンパク質、炭水化物、脂質及び核酸から成る群より選択される少なくとも1つである、請求項8に記載のワクチン組成物。
【請求項10】
タンパク質が、抗体、抗体フラグメント、サイトカイン、ホルモン及び酵素から成る群より選択される少なくとも1つである、請求項9に記載のワクチン組成物。
【請求項11】
生物学的分子又は微生物又はこれらの両方が、動物由来の成分を含まずに生産されたものである、請求項6から10のいずれか一項に記載のワクチン組成物。
【請求項12】
さらにアジュバントを含む、請求項6から11のいずれか一項に記載のワクチン組成物。
【請求項13】
ワクチン組成物が凍結乾燥形態である、請求項6から12のいずれか一項に記載のワクチン組成物。
【請求項14】
請求項13に記載の凍結乾燥ワクチン組成物を医薬的に許容される担体中に再溶解することによって入手し得るワクチン溶液。
【請求項15】
請求項1から5のいずれか一項に記載の安定剤組成物を、少なくとも1つの生物学的分子又は少なくとも1つの微生物又はこれらの組合せを含む組成物と混合することを含む、医薬組成物を調製するための方法。
【請求項16】
微生物がウイルス又は細菌であるか、又はウイルスと細菌の両方が含まれている、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ウイルスが、ヘルペスウイルス、パラミクソウイルス、オルトミクソウイルス、アデノウイルス、ラブドウイルス、ビルナウイルス、コロナウイルス、ニューモウイルス及びポックスウイルスから成る群より選択される少なくとも1つのウイルス種である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
生物学的分子が、タンパク質、炭水化物、脂質及び核酸から成る群より選択される少なくとも1つである、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
タンパク質が、抗体、抗体フラグメント、サイトカイン、ホルモン及び酵素から成る群より選択される少なくとも1つである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
生物学的分子又は微生物又はこれらの両方が、動物由来の成分を含まずに生産されたものである、請求項15から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
生じた医薬組成物が凍結乾燥に供される、請求項15から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
ワクチン組成物である、請求項15から21のいずれか一項に記載の方法によって入手し得る医薬組成物。
【請求項23】
請求項22に記載の医薬組成物を医薬的に許容される担体中に再溶解することによってワクチン溶液を調製する方法。
【請求項24】
組成物中の少なくとも1つの生物学的分子又は少なくとも1つの微生物又はこれらの組合せの品質及び/又は量を安定化するための、請求項1から5のいずれか一項に記載の安定剤組成物の使用。
【請求項25】
微生物がウイルス又は細菌であるか、又はウイルスと細菌の両方が含まれている、請求項24に記載の使用。
【請求項26】
ウイルスが、ヘルペスウイルス、パラミクソウイルス、オルトミクソウイルス、アデノウイルス、ラブドウイルス、ビルナウイルス、コロナウイルス、ニューモウイルス及びポックスウイルスから成る群より選択される少なくとも1つのウイルス種である、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
生物学的分子が、タンパク質、炭水化物、脂質及び核酸から成る群より選択される少なくとも1つである、請求項24に記載の使用。
【請求項28】
タンパク質が、抗体、抗体フラグメント、サイトカイン、ホルモン及び酵素から成る群より選択される少なくとも1つである、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
生物学的分子又は微生物又はこれらの両方が、動物由来の成分を含まずに生産されたものである、請求項24から28のいずれか一項に記載の使用。
【請求項30】
標的ヒト又は動物の免疫のための、請求項14に記載のワクチン組成物又は請求項23の方法によって入手可能なワクチン溶液の使用。

【公表番号】特表2008−532977(P2008−532977A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−500182(P2008−500182)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【国際出願番号】PCT/EP2006/060507
【国際公開番号】WO2006/094974
【国際公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(506196247)インターベツト・インターナシヨナル・ベー・ベー (85)
【Fターム(参考)】