説明

化粧品原料用イカ軟骨精製物

【課題】増粘性と保湿性を兼ね備えた化粧品原料の提供。
【解決手段】イカ頭部軟骨から得られる、分子量が40万以上であるコンドロイチン硫酸を含むイカ軟骨精製物。該イカ軟骨精製物は、増粘性と保湿性を兼ね備えた化粧品材料として期待できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧品材料に適したイカ軟骨精製物に関し、特に増粘性と保湿性を兼ね備えたイカ軟骨精製物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在市販のコンドロイチン硫酸は、主にサメ、豚や牛軟骨から得ている。しかし、年々需要が増加している一方で、サメがワシントン条約により捕獲規制を受けつつ、豚や牛が感染症の疑いで使用が懸念されるため、今後の安定した供給は期待できない。イカは世界中で捕獲され、捕獲制限や感染症の心配はない。総水揚げは約360万トンあり、全魚介類の中でもトップクラスである。
【0003】
コンドロイチン硫酸はD−グルクロン酸(GlcA)とN−アセチル−D−ガラクトサミン(GalNAc)の2糖が反復する糖鎖に、硫酸が結合した構造を持つ。硫酸基の結合位置と数から単硫酸化コンドロイチン硫酸A,B,Cと多硫酸化コンドロイチン硫酸D,Eなどに分類される。
【0004】
イカ軟骨から単離されたコンドロイチン硫酸はGalNAcの4および6位に硫酸基を持つコンドロイチン硫酸Eをメインとしている。コンドロイチン硫酸Eはin vitroで種々の活性が示されている。例えば、コンドロイチン硫酸A、B、Cより強い神経突起伸長促進活性(非特許文献1)、コンドロイチン硫酸A、Dに観測されなかったヘルペス単純ウイルス感染の阻害作用(非特許文献2)が認められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Structure and Function of Oversulfated Chondroitin Sulfate Variants:Unique Sulfation Patterns and Neuroregulatory Activities.Sugahara K.,et al.Trends in Glycoscience and Glycotechnology(2000),Vol.12 No.67 321−49.
【非特許文献2】Chondroitin Sulfate Characterized by the E−disaccharide Unit Is a Potent Inhibitor of Herpes Simplex Virus Infectivity and Provides the Virus Binding Sites on gro2C Cells.Bergefall K.,et al.J.Bio.Chem.(2005),280,32193−9.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、化粧品材料に適したイカ軟骨精製物に関し、特に増粘性と保湿性を兼ね備えたイカ軟骨精製物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
コンドロイチンの原料としては、本発明のイカ以外にサメ、サケ、豚、牛などが知られているが、本発明のイカ由来のコンドロイチン硫酸は分子量が極めて大きいことから、従って化粧品用の増粘剤として好適である。
【0008】
化粧品の材料として必要な特性は数々あるが、保湿性は必要特性であり、サメ由来コンドロイチン硫酸より優れている。
【0009】
また臭いがないことは必須条件である。本発明のイカ軟骨精製物は、80%以上の高純度品であり、実質的に臭いがない優れた材料である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】は、美容液使用前後の肌水分の変化を示す図である。
【0011】
【図2】は、美容液使用前後の肌油分の変化を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のコンドロイチン硫酸は、これまで資源としてほとんど用いられてこなかったアメリカオオアカイカの頭部に存在している軟骨から、多量に取れる。
【0013】
このアメリカオオアカイカの頭部軟骨を水で洗浄し、タンパク分解酵素で分解することにより、コンドロイチン硫酸を溶解させる。
【0014】
溶解したコンドロイチン硫酸と低分子化されたタンパク質は限外ろ過膜で分子ふるいにかけることによって、分離することができ、高純度のコンドロイチン硫酸を得ることができる。
【実施例】
【0015】
これより本発明を以下の実施例で詳しく説明するが、本発明はこれに限定されない。
【実施例1】
【0016】
アメリカオオアカイカ頭部からイカ軟骨精製物の抽出
(1)解凍、殺菌
1)アメリカオオアカイカ頭部から取り出した冷凍軟骨34kgに、水を34L加え、90℃に加熱し解凍、殺菌した。
2)解凍した軟骨はナイロンメッシュで分離した。
(2)プロテアーゼ消化
1)解凍した軟骨に、水を30L加え、50℃に加熱し、アロアーゼを34g加え、5時間攪拌した。
2)酵素反応後、いったん90℃まで加熱し、プロテアーゼを失活させた。
3)冷却し、珪藻土を加え、加圧ろ過機を用いてろ過した。
(3)コンドロイチン硫酸の精製
1)ろ過液約80Lに水を等量加え、旭化成ケミカルズ社製マイクローザUF(分画分子量:13,000)に通液させた。ろ過液の量が約80Lに濃縮されたら、また水を加え通液させた。これを2回行った。
2)0.45μmメンブレンフィルターによりろ過した。
3)減圧濃縮機で約20Lまで濃縮した。
4)これを噴霧乾燥機で乾燥した。乾燥物として431g得られた(冷凍軟骨からの歩留:1.27%)
【0017】
イカ軟骨精製物に含まれているコンドロイチン硫酸の分子量測定:
ゲルろ過クロマトグラフィーによりイカ軟骨精製物に含まれているコンドロイチン硫酸の分子量を測定した。分析条件は以下の通りである。
HPLC条件
分離カラム:Asahipak GF510HQ(7.6mm i.d.×300mm)
溶離液:100mM炭酸アンモニウム
ポンプ流速:0.3mL/min
検出波長:210nm(UV検出)
市販のコンドロイチン硫酸ナトリウム標準品(ウシ軟骨由来分子量15,000、サメ軟骨由来分子量31,000、クジラ軟骨由来分子量46,000)も用いた検量線から、イカ軟骨生成物には分子量が1,011,000と400,000の二種類のコンドロイチン硫酸が含まれていることが明らかになった。
【0018】
イオウ含量測定:
純度の目安となるイオウ含量については医薬部外品原料規格コンドロイチン硫酸ナトリウム定量法(2)イオウの試験方法を用いて測定した。イオウ含量は5.14%という値であった。
【0019】
粘度測定:
粘度はブルックフィールド粘度計(東京計器製)を用い、温度20℃、ロータNo.2、回転数12rpmの条件で測定した。イカ軟骨精製物の5%水溶液における粘度は1500mPa・sであった。また同条件で鮫軟骨由来のコンドロイチン硫酸ナトリウムと比較した結果、約80倍高い粘度を示した。
実施例2
【0020】
実施例1のイカ軟骨精製物を用い、下記の処方で美容液を調製した。
(A相) 重量%
エチルアルコール(95%) 10.0
ポリオキシエチレン(20モル)オクチルドデカノール 1.0
パントテニールエチルエーテル 0.1
メチルパラベン 0.15
(B相)
水酸化カリウム 0.1
(C相)
グリセリン 5.0
ジプロピレングリコール 10.0
亜硫酸水素ナトリウム 0.03
カルボキシビニルポリマー 0.2
イカ軟骨精製物(2%溶液) 25.0
精製水 残余
(製法)A相、C相をそれぞれ均一に溶解し、C相にA相を加えて可溶化する。次いでB相を加えたのち充填を行う。
【0021】
30歳後半〜50代半ばの女性10名の被験者を対象に、8週間毎日イカ軟骨精製物含有美容液を右半顔に塗布し、左半顔はイカ軟骨精製物を含有しない対照美容液を塗布し、使用前後の肌状態の検査を行った。
【0022】
対照美容液を使用した場合、水分が使用前より1.6%減少したが、イカ軟骨精製物含有美容液を使用した場合は水分が16%増加した(図1)。
また油分については、対照美容液が15%減少したと比べ、イカ軟骨精製物含有美容液を使用した場合は109%増加した(図2)。
【0023】
実施例1のイカ軟骨精製物を用い、下記の処方でパックを調製した。
(A相) 重量%
ジプロピレングリコール 5.0
ポリオキシエチレン(60モル)硬化ヒマシ油 5.0
(B相)
ホホバ油 5.0
酢酸トコフェロール 0.2
エチルパラベン 0.2
香料 0.2
(C相)
亜硫酸水素ナトリウム 0.03
ポリビニルアルコール 13.0
(ケン化度90、重合度2,000)
イカ軟骨精製物(2%溶液) 25.0
エタノール 7.0
精製水 残余
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明のイカ軟骨精製物は、優れた化粧品原料である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イカの頭部軟骨から得られる分子量40万以上であるコンドロイチン硫酸を含むイカ軟骨精製物。
【請求項2】
増粘特性と保湿特性を兼ね備えた請求項1に記載するイカ軟骨精製物。
【請求項3】
請求項1に記載するイカ軟骨精製物を含む化粧品原料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−82184(P2012−82184A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241437(P2010−241437)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(595132360)株式会社常磐植物化学研究所 (10)
【Fターム(参考)】