説明

化粧料の製造方法及び化粧料

【課題】 融点が略20℃以上である油脂を原料として、安定な水中油型の乳化体を主成分とする化粧料を製造する方法、及び化粧料を提供する。
【解決手段】 原料液、乳化安定剤及び融点が略20℃以上である原料油脂を用いて、水中油型の乳化体を主成分とする化粧料を製造する場合、原料液を前記融点より高い適宜温度まで加熱する工程と、原料油脂を前記融点より高い適宜温度まで加熱して液状の原料油脂を生成する工程と、加熱した原料液、乳化安定剤及び液状の原料油脂を、前記融点より高い適宜温度を保った状態で混合させて予備乳化体を生成する予備乳化体生成工程と、得られた予備乳化体を、適宜孔径の多孔質体中を通過させることによって前記乳化体を生成する工程とを実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融点が略20℃以上である油脂を原料とする水中油型の化粧料を製造する方法、及び当該方法により製造された化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
水の中に細かい油滴を安定した状体で均一に分散させてなる水中油型(O/W型)の化粧水が開発されている。かかる化粧水にあっては、肌へのなじみが良く、みずみずしい使用感を与えるのに加え、べとつき感を抑えつつ、しっとりした肌に仕上ることができるという優れた効果を奏する。
【0003】
このような化粧水を製造するには、後記する特許文献1にも記載されているように、容器内に水と、原料油脂と、乳化剤とをそれぞれ予め定めた割合になるように計り入れ、剪断力、衝撃力、及びキャビテーション力を発揮するホモジナイザーを用いてそれらを乳化処理することによって水中油型の乳化液を得ていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−262038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、スキンケア商品として馬油が注目されているが、比重が軽い部分以外の他の部分の馬油は室温である20℃程度から25℃程度の温度では液状様態をとらない。一方、前述したホモジナイザーにあっては圧力をかけることによって乳化処理能を向上させたものも開発されている。
【0006】
しかしながら、液状様態をとらない油脂については、乳化処理能を向上させたホモジナイザーを用いても、安定した水中油型の乳化液を得ることができないという問題があった。
【0007】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、融点が略20℃以上である油脂を原料として、安定な水中油型の乳化体を主成分とする化粧料を製造する方法、及び当該方法で製造された化粧料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係る化粧料の製造方法は、原料液、乳化安定剤及び融点が略20℃以上である原料油脂を用いて乳化体を主成分とする化粧料を製造する場合、原料液を前記融点より高い適宜温度まで加熱する工程と、原料油脂を前記融点より高い適宜温度まで加熱して液状の原料油脂を生成する工程と、加熱した原料液、乳化安定剤及び液状の原料油脂を、前記融点より高い適宜温度を保った状態で混合させて予備乳化体を生成する予備乳化体生成工程と、得られた予備乳化体を、適宜孔径の多孔質体中を通過させることによって乳化体を生成する工程とを実施することを特徴とする。
【0009】
本発明の化粧料の製造方法にあっては、原料液、乳化安定剤及び融点が略20℃以上である原料油脂を用いる。
原料液としては、水道水、地下水、蒸留処理若しくは膜処理といった処理水、又はこれらの水に所要の成分を添加した液体を用いることができる。また、乳化安定剤としては、親水性及び親油性の両親媒性を有する化合物を用いることができ、そのような化合物として例えば界面活性剤を用いることができる。かかる乳化安定剤は、使用する乳化安定剤の種類及び原料油脂の種類及び量、原料液の量等に基づいて必要最小限量を添加すればよい。一方、原料油脂としては、融点が略20℃以上である油脂であって、化粧料として適当なものであれば種々用いることができる。そのような原料油脂としては、馬油が該当する。
【0010】
本製造方法では、原料液を原料油脂の融点より高い適宜温度まで加熱し、また原料油脂をその融点より高い適宜温度まで加熱して液状の原料油脂を生成する。これらの加熱工程は並行して実施すると効率的である。
次いで、加熱した原料液、乳化安定剤及び液状の原料油脂を、原料油脂の融点より高い適宜温度を保った状態で混合させて予備乳化体を生成する予備乳化体生成工程を実施する。
【0011】
原料液と乳化安定剤と原料油脂とを直接、多孔質体に給送して乳化を行なった場合、その一部又は全部が油中水型の乳化体となってしまう。かかる乳化体は原料油脂が上部層に集まり、化粧料として使用することができなかった。
【0012】
本発明者が鋭意検討した結果、原料油脂の融点より高い適宜温度を保った状態でそれらを十分に混合させて予備乳化体を生成する予備乳化体生成工程予備乳化処理を実施することによって、後述する乳化処理後に、転相が生起されることを防止することができるという知見を得て本発明を完成するに至った。
【0013】
そして、生成した予備乳化体を、適宜孔径の多孔質体中を通過させることによって水中油型又は油中水型の乳化体を生成する。なお、水中油型と油中水型とは原料液と原料油脂との混合比率によって定まる。
【0014】
これによって、略20℃を越える融点を有する油脂を原料として、安定な乳化体を主成分とする化粧料を製造することができる。
ここで、前述した乳化体及び予備乳化体には、液状体、及び液状体より粘度が高い流動体が含まれる。
【0015】
(2)本発明に係る化粧料の製造方法は必要に応じて、前記予備乳化体生成工程は、加熱された原料液、乳化安定剤及び液状の原料油脂を、適宜の管路内を通流させることによって行うことを特徴とする。
【0016】
本発明の化粧料の製造方法にあっては、加熱された原料液、乳化安定剤及び液状の原料油脂を、適宜の管路内を通流させることによって予備乳化体を生成する。
加熱された原料液、乳化安定剤及び液状の原料油脂を、例えば撹拌羽根等を用いて撹拌することにより混合しようとした場合、原料油脂は表面付近に浮遊しようとするため、通常は殆ど混合させることができない。そのためより激しく撹拌すると、周囲の空気が液体中に混入して乳化安定剤を起泡させてしまう。
【0017】
一方、前述した三者を、適宜の管路内を通流させた場合、乳化安定剤を起泡させることなく十分に混合させることができ、良好な予備乳化体を生成することができる。
なお、管路の内径及び長さ等は、混合する三者の量及び管内を通流させる流量等に基づいて適宜定めればよい。
【0018】
(3)本発明に係る化粧料の製造方法は必要に応じて、平均孔径が3μm程度から10μm程度までの適宜寸法の複数の孔が貫通してある多孔質体を用いることを特徴とする。
【0019】
本発明の化粧料の製造方法にあっては、平均孔径が3μm程度から10μm程度までの適宜寸法の複数の孔が貫通してある多孔質体を用い、この多孔質体中を、前記予備乳化体を通過させることによって乳化体を生成する。
このような微細な孔径を有する多孔質体を用いるので、細かい上に粒径寸法が揃った乳化体を生成することができ、転相が発生し難い、安定した乳化体を得ることができる。
【0020】
(4)本発明に係る化粧料の製造方法は必要に応じて、油中水型の乳化体については、前記乳化体生成工程にて生成した乳化体を徐々に冷却させ、水中油型の乳化体については、前記乳化体生成工程にて生成した乳化体を急冷させることを特徴とする。
【0021】
本発明の化粧料の製造方法にあっては、油中水型の乳化体については、前記乳化体生成工程にて生成した乳化体を徐々に冷却させ、水中油型の乳化体については、前記乳化体生成工程にて生成した乳化体を急冷させる。
【0022】
油中水型の乳化体にあっては、乳化体生成工程にて生成した乳化体を徐々に冷却させるため、水中油型(O/W型)から油中水型(W/O型)への転相を回避することができる。
【0023】
一方、水中油型の乳化体にあっては、乳化体生成工程にて生成した乳化体を急冷させるため、乳化体中の水分子の振動を減衰させて馬油中に分散された原料液の微細粒が会合して大きな直径の粒が生成されることを防止し、安定した水中油型の乳化体を得ることができる。
【0024】
(5)本発明に係る化粧料の製造方法は必要に応じて、水中油型の乳化体を生成する場合、前記予備乳化体生成工程を実施する前に、液状の原料油脂と前記乳化安定剤とを混合させた混合体を適宜の多孔質体中を通過させる処理を実施することを特徴とする。
【0025】
本発明の化粧料の製造方法にあっては、水中油型の乳化体を生成する場合、前記予備乳化体生成工程を実施する前に、液状の原料油脂と前記乳化安定剤とを混合させた混合体を適宜の多孔質体中を通過させる。これによって、乳化安定剤の微細粒が液状の原料油脂中に形成される。
【0026】
かかる操作に次いで、前述した予備乳化体生成工程を実施する。このとき、原料油脂中に乳化安定剤の微細粒が形成されているため、乳化安定剤の各微細粒それぞれに原料水が結合して良好な予備乳化体を安定して生成することができる。
【0027】
(6)本発明に係る化粧料は、原料液、乳化安定剤及び融点が略20℃以上である原料油脂を用いて生成された乳化体を主成分とする化粧料であって、原料液を前記融点より高い適宜温度まで加熱し、また原料油脂を前記融点より高い適宜温度まで加熱して液状の原料油脂を生成し、加熱した原料液、乳化安定剤及び液状の原料油脂を、前記融点より高い適宜温度を保った状態で混合させて予備乳化体を生成し、得られた予備乳化体を適宜孔径の多孔質体中を通過させることによって生成した乳化体を主成分とすることを特徴とする。
【0028】
本発明の化粧料にあっては、原料液、乳化安定剤及び融点が略20℃以上である原料油脂を用いて生成された乳化体を主成分とする化粧料であって、原料液を前記融点より高い適宜温度まで加熱し、また原料油脂を前記融点より高い適宜温度まで加熱して液状の原料油脂を生成し、加熱した原料液、乳化安定剤及び液状の原料油脂を、前記融点より高い適宜温度を保った状態で混合させて予備乳化体を生成し、得られた予備乳化体を、適宜孔径の多孔質体中を通過させることによって生成した前記乳化体を主成分とするため、前同様、融点が略20℃以上である油脂を原料として、安定な乳化体を主成分とする化粧料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る化粧料を製造する装置の構成を説明する説明図である。
【図2】図1に示した装置を用いて化粧水を製造する手順を示すフローチャートである。
【図3】図1に示した装置を用いて化粧水を製造する手順を示すフローチャートである。
【図4】本発明方法により製造した化粧水の顕微鏡写真図である。
【図5】本発明に係る油中水型の化粧料たる乳液を製造する手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(第1実施形態)
図1は、本発明に係る化粧料を製造する装置の構成を説明する説明図であり、図中、30は容器である。この容器30には水道水といった原料水が投入されるようになっている。また、容器30には、電気抵抗によって加熱する電熱ヒータ22と、容器30内に投入された原料水等の温度を測定して温度信号を出力する測温部23と、該測温部23から与えられる温度信号に基づいて前記電熱ヒータ22による加熱を制御する電源部21とを具備する加熱器20が配置されるようになっており、容器30内に投入された原料水は加熱器20によって所定の温度まで昇温され、その温度に維持される。
【0031】
容器30内には、吸引管2の一端が挿入されるようになっており、吸引管2の他端は乳化機1に備えられたポンプ5に連結されている。ポンプ5の出側には多孔質モジュールを構成する1又は複数(図1にあっては2つ)筒状のハウジング7,7が配置してあり、ハウジング7,7内にはSPG(Shirasu Porous Glass)といった多孔質体がそれぞれ着脱可能に水密状態を保って格納してある。かかる多孔質モジュールは、ハウジング7,7内に給送された液体が前記多孔質体を通過してハウジング7,7から外へ吐出されるようになっている。
なお、前述した多孔質体は平面状であっても、筒状であってもよい。
【0032】
図1に示した装置にあっては、両ハウジング7,7とポンプ5との間は、二股に成形された第1管路11によって連結してあり、第1管路11の適宜位置に設けたバルブ8,8によって、ポンプ5から吐出される流体はいずれか一方のハウジング7内又は両ハウジング7,7内へ給送し得るようになっている。また、両ハウジング7,7の出側には二股に成形された第2管路12が連結してあり、第2管路12の出側に連結された吐出管3が前記容器30内に挿入されるようになっている。
【0033】
ここで、前述した乳化機1としては、管路の中途に所要孔径の多孔質体を装着できる構成であれば種々適用することができるが、例えばESK−22−IMT6H(SPGテクノ株式会社製)を用いることができる。
【0034】
次に、かかる装置を用いて化粧料の一例として馬油化粧水を製造する方法について説明する。
図2は、図1に示した装置を用いて化粧水を製造する手順を示すフローチャートである。
【0035】
図2に示した如く、前述した一方のハウジング7に平均孔径が1μm〜5μm程度、好ましくは3μm程度の多孔質体を格納させておき(ステップS1)、容器30に所要量の原料液を投入する(ステップS2)。原料液としては、水道水、地下水、蒸留処理若しくは膜処理といった処理水、又はこれらの水に適宜のミネラル成分、ビタミン成分、保湿成分、酸化防止剤、紫外線防止剤、美白剤、又は香料等、所要の成分を添加した液体を用いることができる。
【0036】
そして、吸引管2を原料液中に差し入れた後にポンプ5を作動させることによって、容器30内の原料液を吸引してハウジング7内へ給送し、多孔質体を通過させた原料液を吐出管3から容器30内へ吐出させることによって前処理を実施する(ステップS3)。かかる前処理は、容器30内の原料液の略全量が少なくとも1回、多孔質体を通過するようにする。
【0037】
このような孔径の多孔質体を通過した原料液はそのクラスタが細分化されるので、安定な乳化液の製造に好適である。この場合、第1管路11のバルブ8,8を操作して他方のハウジング7へポンプ5から原料液が給送されないようになしておく。なお、両ハウジング7,7に前記多孔質体をそれぞれ格納させておき、両ハウジング7,7へそれぞれポンプ5から原料液が給送されるようになしてもよい。
【0038】
このような前処理が終了してから、またはこのような処理と平行して、加熱器20を動作させて容器30内の原料液を、原料油脂である馬油の融点である略30℃〜略48℃より適宜温度だけ高い、例えば60℃程度まで加熱し、当該温度に維持する(ステップS4)。このように、原料液を原料油脂の融点より適宜温度だけ高くするのは、後述する如く乳化機1を循環中に原料油脂の融点未満の温度に低下するのを防止するためである。従って、原料液の加熱温度は、乳化機のサイズ、周囲温度等によって適宜定める。これによって、乳化機1を循環中に原料油脂は融点以上の温度に保持される。
【0039】
次に、容器30の原料液内に所定量の乳化安定剤を投入した(ステップS5)後、乳化機1によって当該乳化機1と容器30との間を循環させることによって、原料液と乳化安定剤とを混合させた混合液を生成する(ステップS6)。このように、乳化安定剤と原料液とを予め混合しておくことによって、後述する馬油添加による予備乳化をより均一に行うことができる。
【0040】
前述した乳化安定剤としては、親水性及び親油性の両親媒性を有する化合物を用いることができ、そのような化合物として例えば界面活性剤を用いることができる。また、乳化安定剤は、使用する乳化安定剤の種類及び原料油脂の種類及び量、原料液の量等に基づいて必要最小限量を添加すればよい。例えば、原料液が1000mlであり、馬油が300mlであり、乳化安定剤として界面活性剤であるレオドール(登録商標)TW−L106(花王株式会社製)を使用した場合、当該乳化安定剤の添加量は略20mlである。
【0041】
原料液と乳化安定剤とを混合させる場合、前述した多孔質体をハウジング7に格納しておいてもよし、ハウジング7から取り出して、空のハウジング7内を通過させるようにしてもよい。
【0042】
一方、かかる混合液を生成する際に多孔質体をハウジング7に格納しておいた場合は、次の工程を実行する前に、当該ハウジング7から多孔質体を取り外しておく(ステップS7)。
【0043】
これらの操作と並行して、室温では液状様態を採らない馬油を容器31内で加熱して液状化させておき(ステップS10)、液状化させた馬油を秤量して前述した容器30内へ投入し(ステップS11)、吸引管2を操作して、液状化させた馬油を原料液と乳化安定剤との混合液と共に吸引し、第1管路11、空のハウジング7、及び第2管路12を通過させて吐出管3から容器30内へ吐出させる操作を行うことによって、原料液、乳化安定剤及び馬油を予め十分に混合させた予備乳化液(予備乳化体)を生成する(ステップS12)。
【0044】
ここで、液化させた馬油を原料液と乳化安定剤との混合液に投入した場合、当該馬油は混合液の表面領域に集まるため、吸引管2を操作して、原料液の表面領域にある馬油を混合液と共に吸引するようにする。
【0045】
なお、加熱器20によって容器30内の液温が馬油の融点より適宜温度だけ高く維持されているため、容器30内及び乳化機1内において馬油が固化することが防止される。
かかる予備乳化操作は、少なくとも原料液の表面領域にある馬油を全て吸引するまで行えばよいが、その後もひき続き原料液と乳化安定剤と馬油との混液を吸引して予備乳化を進行させることが好ましい。例えば、吸引量が1L/分であり、前記混液が1.3Lである場合、後続する吸引操作を5分間から10分間程度実施する。
【0046】
そして、予備乳化液(予備乳化体)の生成を終了するか否かを判断し(ステップS13)、予備乳化液の生成を終了すると判断するまでステップS12及びステップS13を繰り返す。
【0047】
ステップS13で予備乳化液(予備乳化体)の生成を終了すると判断すると、一方のハウジング7又は両ハウジング7,7内に、平均孔径が3μm〜10μm程度、好ましくは5μm程度の多孔質体を格納させておき(ステップS20)、予備乳化液を吸引管2から吸引して多孔質体が格納されたハウジング7(7)内へ給送し、当該多孔質体を通過させることによって乳化を行い、乳化液(乳化体)を生成する(ステップS21)。
かかる乳化操作は、少なくとも容器30内の全ての予備乳化液を1回、多孔質体を通過させるまで行えばよいが、その後もひき続き吸引して乳化を進行させもよい。
【0048】
そして、乳化液(乳化体)の生成を終了するか否かを判断し(ステップS22)、乳化液の生成を終了すると判断するまでステップS21及びステップS22を繰り返す。
【0049】
ステップS22で乳化液(乳化体)の生成を終了すると判断すると、ポンプ5及び加熱器20を停止させた後、得られた乳化液を例えば放置することによって当該乳化液を室温まで徐々に冷却し(ステップS30)、原料液の中に細かい馬油粒を安定した状体で均一に分散させてなる水中油型の化粧水を得る。
このようにして製造した化粧水の顕微鏡写真図を図4に示す。
【0050】
図4に示した化粧水にあっては、原料液として水道水を、また乳化安定剤としてレオドール(登録商標)TW−L106(花王株式会社製)を使用し、水道水:馬油:乳化安定剤=1000ml:馬油が300ml:20mlとし、前述した如く生成した予備乳化液を平均孔径が5μmの多孔質体を用いて乳化させた後、室温にて少なくとも1晩放置することによって徐冷させた。
【0051】
図4から明らかな如く、水中に細かい馬油粒を安定した状体で均一に分散させてなる水中油型の化粧水を得ることができた。
【0052】
このように本発明にあっては、原料液と乳化安定剤と原料油脂たる馬油とを予備乳化した後、多孔質体を通過させて乳化させるため、均一な水中油型の乳化液を転相が生じていない安定した状体で得ることができる。
【0053】
一方、このような予備乳化操作を実施することなく、原料液と乳化安定剤と原料油脂との混液を直接、多孔質体に給送して乳化を行なった場合、その一部又は全部が油中水型の乳化液となってしまう。かかる乳化液は原料油脂が上部層に集まり、化粧水として使用することができない。
また、乳化液を室温まで徐冷して化粧液を得るため、水中油型(O/W型)から油中水型(W/O型)への転相を回避することができる。
【0054】
なお、本実施の形態では、馬油を用いた化粧水を製造する場合について説明したが、本発明はこれに限らず、馬油に限らず、融点が略20℃以上である油脂であって、化粧料として適当なものであれば原料油脂に種々用いることができる。
【0055】
一方、本実施の形態では、容器30内の混合液を吸引・乳化した乳化液を前記容器30へ吐出するようになしてあるが、本発明はこれに限らず、前記容器30とは別の他の容器を予め用意しておき、乳化液を当該他の容器内へ吐出するようにしてもよい。
【0056】
また、本実施の形態では、ステップ3に示したように、所要の孔径を有する多孔質体を予め通過させた原料液を用いるようになしてあるが、本発明はこれに限らず、当該ステップ3を省略することもできる。
【0057】
(第2実施形態)
次に、油中水型(W/O型)の化粧料を製造する方法について説明する。
かかる化粧料を製造する場合も図1に示した装置を用いる。
図5は、本発明に係る油中水型の化粧料たる乳液を製造する手順を示すフローチャートである。
【0058】
予め液状化させた馬油を所要量計量して容器30に投入し(ステップS40)、加熱器20によって当該馬油を45℃程度の適宜温度に維持する(ステップS41)。一方、ハウジング7から多孔質体を予め取り外しておき、ポンプ5を動作させて、吸引管2から吸引した液状の馬油を乳化機1内に取り込んで、第1管路11、ハウジング7及び第2管路12を通過させて吐出管3から容器31へ吐出させることによって液状の馬油を撹拌し(ステップS42)、馬油のクラスタを細分化させて後述する乳化安定剤と容易に混合されるようになす。かかる馬油の撹拌操作は、容器30内の馬油が全て容器31へ吐出された後、再び容器31内の馬油を乳化機1内に取り込んで容器30へ吐出させるとよい。更に、かかる操作を複数回繰り返してもよい。
【0059】
次に、空の容器31(又は30)に所要量の乳化安定剤を投入しておく(ステップS50)。例えば、馬油が1000mlであり、乳化安定剤として界面活性剤であるレオドール(登録商標)SP−010V(花王株式会社製)を使用した場合、当該乳化安定剤の添加量は略10mlに設定することができる。
【0060】
そして、容器30(又は31)内の馬油を乳化機1内に取り込んで、容器31(又は30)へ吐出させた後、当該容器31(又は30)内の馬油及び乳化安定剤を乳化機1内に取り込んで、容器30(又は31)へ吐出させることによって、馬油と乳化安定剤とを混合する(ステップS51)。かかる混合操作は、容器30内の馬油が全て容器31へ吐出された後、再び容器31内の馬油を乳化機1内に取り込んで容器30へ吐出させるとよい。更に、かかる操作を複数回繰り返してもよい。
【0061】
このようにして馬油と乳化安定剤とを十分混合させた後、ハウジング7に平均孔径が3μm〜10μm程度、好ましくは5μm程度の多孔質体を格納させておき、容器30(31)内の馬油と乳化安定剤との混合液を吸引管2から吸引して多孔質体が格納されたハウジング7内へ給送し、当該多孔質体を通過させて吐出管3から他の容器31(30)へ吐出させることによって、乳化安定剤の微細粒を馬油中に形成する(ステップS60)。かかる操作は、容器30内の馬油が全て容器31へ吐出された後、再び容器31内の馬油を乳化機1内に取り込んで容器30へ吐出させるとよい。更に、かかる操作を複数回繰り返してもよい。
【0062】
次に、空の容器31(30)に40℃程度の適宜温度になした原料水を所要量投入し(ステップS70)、乳化安定剤の微細粒を形成させた馬油を乳化機1内に取り込んで、空のハウジング7を通過させて原料水が投入してある容器31(又は30)へ吐出させた後、当該容器31(又は30)内の前記馬油及び原料水を乳化機1内に取り込んで、容器30(又は31)へ吐出させることによって、馬油と乳化安定剤と原料水とを混合させた予備乳化体を生成する(ステップS80)。かかる操作は、容器31内の予備う乳化体が全て容器30へ吐出された後、再び容器30内の予備乳化体を乳化機1内に取り込んで容器31へ吐出させるとよい。更に、かかる操作を複数回繰り返してもよい。
【0063】
このとき、ステップS60において馬油中に乳化安定剤の微細粒が形成させてあるため、乳化安定剤の各微細粒それぞれに原料水が結合して良好な予備乳化体を安定して生成することができる。
なお、原料水は馬油1000mlに対して例えば300ml程度添加する。
【0064】
このようにして予備乳化体が生成されると、当該予備乳化体を吸引して多孔質体が格納されたハウジング7内へ給送し、当該多孔質体を通過させて吐出管3から空の容器31(30)へ吐出させることによって、乳化体を生成する(ステップS90)。かかる操作は、容器30内の予備乳化体が全て容器31へ吐出された後、再び容器31内の予備乳化体を乳化機1内に取り込んで容器30へ吐出させるとよい。更に、かかる操作を複数回繰り返してもよい。
このように予め生成した予備乳化体を、多孔質体を通過させることによって、乳化体を生成するため、安定した水中油型の乳化体を得ることができる。
【0065】
次に、乳化体の粘度を調整する(ステップS91)。
かかる粘度調整は例えば次のようにして行なう。
加熱器20を用いて容器30内の乳化体の温度を適宜の温度に維持しつつ、所要量の増粘剤を添加した後、乳化体を乳化機1内に取り込み、空のハウジング7を通過させることによって増粘剤を溶解させて乳化体の粘度を調整する。
【0066】
増粘剤としては、マイクロクリスタルワックス、ゼラチン、寒天等を用いることができる。また、増粘剤を溶解させる際の乳化体の温度は、使用する増粘剤の種類に応じて適宜定めることができる。例えば、増粘剤として寒天を使用する場合、乳化体の温度を50℃程度に設定するとよい。
このようにして乳化体の粘度を調整した後、必要に応じて酸化チタン及び酸化亜鉛等の日焼け防止剤、ビタミンEといった酸化防止剤等を添加・混合する。
【0067】
そして、調整された乳化体を、例えば5℃の保冷庫内に10分間程度静置する急冷を実施する(ステップS92)ことにより、乳化体中の水分子の振動を急速に減衰させて馬油中に分散された原料液の微細粒が会合して大きな直径の粒が生成されることを防止し、安定した水中油型の乳化体を得る。
【符号の説明】
【0068】
1 乳化機
2 吸引管
3 吐出管
5 ポンプ
7 ハウジング
8 バルブ
11 第1管路
12 第2管路
20 加熱器
30 容器
31 容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料液、乳化安定剤及び融点が略20℃以上である原料油脂を用いて乳化体を主成分とする化粧料を製造する場合、
原料液を前記融点より高い適宜温度まで加熱する工程と、
原料油脂を前記融点より高い適宜温度まで加熱して液状の原料油脂を生成する工程と、
加熱した原料液、乳化安定剤及び液状の原料油脂を、前記融点より高い適宜温度を保った状態で混合させて予備乳化体を生成する予備乳化体生成工程と、
得られた予備乳化体を、適宜孔径の多孔質体中を通過させることによって乳化体を生成する工程とを
実施することを特徴とする化粧料の製造方法。
【請求項2】
前記予備乳化体生成工程は、加熱された原料液、乳化安定剤及び液状の原料油脂を、適宜の管路内を通流させることによって行う請求項1記載の化粧料の製造方法。
【請求項3】
平均孔径が3μm程度から10μm程度までの適宜寸法の複数の孔が貫通してある多孔質体を用いる請求項1又は2に記載の化粧料の製造方法。
【請求項4】
油中水型の乳化体については、前記乳化体生成工程にて生成した乳化体を徐々に冷却させ、水中油型の乳化体については、前記乳化体生成工程にて生成した乳化体を急冷させる請求項1から3のいずれかに記載の化粧料の製造方法。
【請求項5】
水中油型の乳化体を生成する場合、前記予備乳化体生成工程を実施する前に、液状の原料油脂と前記乳化安定剤とを混合させた混合体を適宜の多孔質体中を通過させる処理を実施する請求項1から4のいずれかに記載の化粧料の製造方法。
【請求項6】
原料液、乳化安定剤及び融点が略20℃以上である原料油脂を用いて生成された乳化体を主成分とする化粧料であって、
原料液を前記融点より高い適宜温度まで加熱し、また原料油脂を前記融点より高い適宜温度まで加熱して液状の原料油脂を生成し、加熱した原料液、乳化安定剤及び液状の原料油脂を、前記融点より高い適宜温度を保った状態で混合させて予備乳化体を生成し、得られた予備乳化体を適宜孔径の多孔質体中を通過させることによって生成した乳化体を主成分とすることを特徴とする化粧料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−270010(P2010−270010A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121026(P2009−121026)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(509140836)
【Fターム(参考)】