説明

化粧板の製造方法及びそれによって製造される化粧板

【課題】化粧シートと基材との密着性が優れ、化粧シートの層間剥離も起こさない化粧板を効率よく生産できるようにする。
【解決手段】紙層1の表面に少なくとも着色樹脂層2と表面保護層3を設けてなる化粧シート4を用意し、その裏面に低粘度の電子線硬化型樹脂5をコートして紙層1に浸透させた後、当該化粧シート4を基材6にコート面側が向かうように積層した状態で電子線を照射することにより一体化させる化粧板の製造方法において、裏面に低粘度の電子線硬化型樹脂5をコートした後で化粧シート4に表面保護層3側から超音波振動を与えることにより低粘度の電子線硬化型樹脂5を紙層1に浸透させる。低粘度の電子線硬化型樹脂が短時間で紙層に深く浸透することから、化粧シートと基材の密着性が良好で、しかも化粧シートの紙層が層間剥離を起こさない化粧板を効率よく製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種家具類、キッチン、或いは建築内装材等に使用される化粧板の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、各種家具類、キッチン、或いは建築内装材等の材料として、各種仕様の化粧シートを用いた化粧板が用いられている。これらの化粧板の一つとして、紙層の表面に着色樹脂層と表面保護層を設けてなる化粧シートの裏面に低粘度の電子線硬化型樹脂を塗布して紙層に浸透させ、同時に基材の表面に高粘度の電子線硬化型樹脂を塗布し、両者を貼り合わせた後で電子線を照射することにより一体化させたものが知られている。
【特許文献1】特開平4−299138号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の化粧板は、化粧シートの裏面に低粘度の電子線硬化型樹脂を塗布して紙層に浸透させるため、紙層が層間剥離を起こしにくいという利点がある。ところが、化粧シートの裏面に低粘度の電子線硬化型樹脂を塗布した後、常温で30分程度放置してから貼り合わせて電子線を照射しないと、その効果が発揮されない。例えば、塗布して直ぐのものを使用した場合、密着評価のためにセロテープ(登録商標)試験を行うと、紙層が層間剥離を起こしてしまう。これは、紙層の片面が着色樹脂層と表面保護層により蓋がされた状態であるがために、低粘度の電子線硬化型樹脂を塗布した際に空気の置換が困難で十分に浸透しないからである。一方、常温で30分程度放置したサンプルで電子線を照射したものは、紙層の層間剥離は起こらず密着性が向上するが、30分という時間がかかり、生産性が悪くなる。
【0004】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、電子線硬化型樹脂を用いて化粧シートを合板やパーティクルボードなどの基材に貼り合わせて化粧板とする場合において、化粧シートと基材との密着性が優れ、化粧シートの層間剥離も起こさない化粧板を効率よく生産できるようにした化粧板の製造方法を提供し、併せてそれによって製造される化粧板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明である化粧板の製造方法は、紙層の表面に少なくとも着色樹脂層と表面保護層を設けてなる化粧シートを用意し、その裏面に低粘度の電子線硬化型樹脂をコートして紙層に浸透させた後、当該化粧シートを基材にコート面側が向かうように積層した状態で電子線を照射することにより一体化させる化粧板の製造方法において、裏面に低粘度の電子線硬化型樹脂をコートした後で化粧シートに表面保護層側から超音波振動を与えることにより低粘度の電子線硬化型樹脂を紙層に浸透させることを特徴としている。
【0006】
請求項2に記載の発明である化粧板は、紙層の表面に少なくとも着色樹脂層と表面保護層を設けてなる化粧シートの裏面に低粘度の電子線硬化型樹脂をコートして紙層に浸透させ、当該化粧シートを基材にコート面側が向かうように積層した状態で電子線を照射することにより一体化させた化粧板において、裏面に低粘度の電子線硬化型樹脂をコートした化粧シートに表面保護層側から超音波振動を与えることにより低粘度の電子線硬化型樹脂を紙層に浸透させたことを特徴としている。
【0007】
請求項3に記載の発明である化粧板の製造方法は、紙層の表面に少なくとも着色樹脂層と表面保護層を設けてなる化粧シートを用意し、その裏面に低粘度の電子線硬化型樹脂をコートして紙層に浸透させた後、当該化粧シートを高粘度の電子線硬化型樹脂を塗布した基材にコート面側が向かうように積層した状態で電子線を照射することにより一体化させる化粧板の製造方法において、裏面に低粘度の電子線硬化型樹脂をコートした後で化粧シートに表面保護層側から超音波振動を与えることにより低粘度の電子線硬化型樹脂を紙層に浸透させることを特徴としている。
【0008】
請求項4に記載の発明である化粧板は、紙層の表面に少なくとも着色樹脂層と表面保護層を設けてなる化粧シートの裏面に低粘度の電子線硬化型樹脂をコートして紙層に浸透させ、当該化粧シートを高粘度の電子線硬化型樹脂を塗布した基材にコート面側が向かうように積層した状態で電子線を照射することにより一体化させた化粧板において、裏面に低粘度の電子線硬化型樹脂をコートした化粧シートに表面保護層側から超音波振動を与えることにより低粘度の電子線硬化型樹脂を紙層に浸透させたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の化粧板の製造方法は、紙層の表面に少なくとも着色樹脂層と表面保護層を設けてなる化粧シートを用意し、その裏面に低粘度の電子線硬化型樹脂をコートして紙層に浸透させた後、当該化粧シートを基材にコート面側が向かうように積層した状態で電子線を照射することにより一体化させる化粧板の製造方法において、裏面に低粘度の電子線硬化型樹脂をコートした後で化粧シートに表面保護層側から超音波振動を与えることにより低粘度の電子線硬化型樹脂を紙層に浸透させることを特徴としているので、低粘度の電子線硬化型樹脂が短時間で紙層に深く浸透することから、化粧シートと基材の密着性が良好で、しかも化粧シートの紙層が層間剥離を起こさない化粧板を効率よく製造することができる。
【0010】
また、本発明の化粧板の製造方法は、紙層の表面に少なくとも着色樹脂層と表面保護層を設けてなる化粧シートを用意し、その裏面に低粘度の電子線硬化型樹脂をコートして紙層に浸透させた後、当該化粧シートを高粘度の電子線硬化型樹脂を塗布した基材にコート面側が向かうように積層した状態で電子線を照射することにより一体化させる化粧板の製造方法において、裏面に低粘度の電子線硬化型樹脂をコートした後で化粧シートに表面保護層側から超音波振動を与えることにより低粘度の電子線硬化型樹脂を紙層に浸透させることを特徴としているので、低粘度の電子線硬化型樹脂が短時間で紙層に深く浸透するとともに、基材に塗布された高粘度の電子線硬化型樹脂と一体となって硬化することから、化粧シートと基材の密着性が良好で、しかも化粧シートの紙層が層間剥離を起こさない化粧板を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1と図2はそれぞれ本発明の化粧板の製造方法により製造された化粧板の一例を模式的に示す断面図である。
【0012】
図1の化粧板は、紙層1の表面に着色樹脂層2と表面保護層3を設けてなる化粧シート4を用意し、その裏面に低粘度の電子線硬化型樹脂5をコートして紙層1に浸透させた後、当該化粧シート4を基材6にコート面側が向かうように積層した状態で電子線を照射することにより一体化させたものであり、本発明では、裏面に低粘度の電子線硬化型樹脂5をコートした後で化粧シート4に表面保護層3側から超音波振動を与えることにより低粘度の電子線硬化型樹脂5を紙層1に浸透させている。
【0013】
図2の化粧板は、紙層1の表面に着色樹脂層2と表面保護層3を設けてなる化粧シート4を用意し、その裏面に低粘度の電子線硬化型樹脂5をコートして紙層1に浸透させた後、当該化粧シート4を高粘度の電子線硬化型樹脂7を塗布した基材6にコート面側が向かうように積層した状態で電子線を照射することにより一体化させたものであり、本発明では、裏面に低粘度の電子線硬化型樹脂5をコートした後で化粧シート4に表面保護層3側から超音波振動を与えることにより低粘度の電子線硬化型樹脂5を紙層1に浸透させている。
【0014】
化粧シート4の紙層1としては、印刷適性があり、樹脂の浸透性が良いものが用いられる。例えば、坪量が30〜100g/m2 の建材用プリント用紙(建材用薄葉紙)、純白紙、或いは、合成樹脂を混抄することで層間強度を強化した薄葉紙、酸化チタン等の不透明顔料を混抄したチタン紙等の紙質系素材、不織布、織布等を用いることができるが、建材用プリント紙(建材用薄葉紙)、純白紙、不織布等を用いても紙等の層間強度を強くすることができるため、化粧シート4の紙等の層間から剥離することがない化粧板とすることができる。
【0015】
この紙層1に隠蔽ベタ柄印刷層と絵柄印刷層の少なくとも一方からなる着色樹脂層2を形成する。これらはグラビア印刷法、オフセット印刷法、シルクスクリーン印刷法等の周知の印刷法によりインキを用いて形成される。印刷層としては、例えば、木目模様、石目模様、布目模様、皮紋模様、幾何学模様、文字、記号、線画、各種抽象模様柄が挙げられる。
【0016】
着色樹脂層2を形成するインキは、バインダー等からなるビヒクル、顔料や染料等の着色剤、これらに適宜加える体質顔料、安定剤、可塑剤、触媒、硬化剤等の各種添加剤からなる。バインダーの樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電離放射線硬化型樹脂等の中から、要求される物性、印刷適性等に応じて適宜選択すればよい。例えば、ニトロセルロース、酢酸セルロース、セルロースアセテートプロピオネート等のセルロース系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル、ポリ(メタ)アクリル酸メチル−ポリ(メタ)アクリル酸ブチル−(メタ)アクリル酸2ヒドロキシエチル共重合体等のアクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂等の単体又はこれらを含む混合物をバインダー樹脂に用いる。
【0017】
表面保護層3は、表面の耐擦傷性、耐汚染性、耐熱性等の物性のよい熱硬化型樹脂を用いて形成する。中でも、生産性の良い電離放射線硬化型樹脂を用いることが好ましい。加熱手段として、加熱ロールに表面保護層を接触させる場合、熱硬化型樹脂でないと表面保護層の耐熱性が不十分で、加熱ロールからの剥離安定性が得られない。この電離放射線硬化型樹脂は、分子中に、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基等のラジカル重合性不飽和基、又はエポキシ基等のカチオン重合性官能基を有する単量体、プレポリマー又はポリマーからなる。これら単量体、プレポリマー又はポリマーは、単体で用いるか或いは複数種混合して用いる。なお、本明細書で(メタ)アクリレートとは、アクリレートないしメタアクリレートの意味で用いる。また、電離放射線とは、電磁波ないし荷電粒子線のうち分子を重合或いは架橋し得るエネルギー量子を有するものを意味し、通常は紫外線ないし電子線である。
【0018】
ラジカル重合性不飽和基を有するプレポリマーとしては、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレート、トリアジン(メタ)アクリレート、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。このプレポリマーは、通常、分子量が10000程度以下のものが用いられる。分子量が10000を越えると硬化した樹脂層の耐擦傷性、耐摩耗性、耐薬品性、耐熱性等の表面物性が不足する。上記のアクリレートとメタアクリレートとは共用し得るが、電離放射線での架橋硬化速度という点ではアクリレートの方が速いため、高速度、短時間で能率よく硬化させるという目的ではアクリレートの方が有利である。
【0019】
カチオン重合性官能基を有するプレポリマーとしては、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂等のエポキシ系樹脂、脂肪族系ビニルエーテル、芳香族系ビニルエーテル、ウレタン系ビニルエーテル、エステル系ビニルエーテル等のビニルエテール系樹脂、環状エーテル化合物、スピロ化合物等のプレポリマーが挙げられる。
【0020】
ラジカル重合性不飽和基を有する単量体の例としては、(メタ)アクリレート化合物の単官能単量体として、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシブチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2エチルヘキシル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジベンジルアミノエチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルハイドロゲンテレフタレート等が挙げられる。
【0021】
また、ラジカル重合性不飽和基を有する多官能単量体として、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノール−A−ジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイドトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、グリセリンポリエチレンオキサイドトリ(メタ)アクリレート、トリス(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート等が挙げられる。
【0022】
カチオン重合性官能基を有する単量体は、上記カチオン重合性官能基を有するプレポリマーの単量体を用いることができる。
【0023】
上記した電離放射線硬化型樹脂を、紫外線を照射することにより硬化させる場合には、増感剤として光重合開始剤を添加する。ラジカル重合性不飽和基を有する樹脂系の場合の光重合開始剤は、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、チオキサントン類、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ミヒラーベンゾインベンゾエート、ミヒラーケトン、ジフェニルサルファイド、ジベンジルジサルファイド、ジエチルオキサイド、トリフェニルビイミダゾール、イソプロピル−N、N−ジメチルアミノベンゾエート等を単独ないし混合して用いることができる。また、カチオン重合性官能基を有する樹脂系の場合は、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族スルホニウム塩、メタセロン化合物、ベンゾインスルホン酸エテスル、フリールオキシキソニウムジアリルヨードシル塩等を単独ないし混合物として用いることができる。なお、これら光重合開始剤の添加量は、一般に、電離放射線硬化型樹脂100重量部に対して、0.1〜10重量部程度である。
【0024】
表面保護層3の形成方法としては、前記した電離放射線硬化型樹脂溶液をグラビアコート法やロールコート法等の周知の塗布方法で前記化粧シートの所定の面に塗布することにより形成することができる。塗布量としては、1〜30g/m2 (固形分基準)が適当であり、望ましくは3〜10g/m2 である。
【0025】
また、上記した電離放射線硬化型樹脂には、必要に応じてさらに各種の添加剤を加えてもよい。例えば、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、セルロース系樹脂等の熱可塑性樹脂、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の微粉末からなる体質顔料、艶消しや耐摩耗性を向上させる硬質の無機質粒子としてのカオリナイト、アルミナ、シリカ、炭化ケイ素等、シリコーン樹脂、ワックス等の滑剤、染料、顔料等の着色剤等である。
【0026】
なお、図示はしないが、表面保護層3と着色樹脂層2の間に、表面保護層3の密着性向上、耐汚染性、耐摩耗性のさらなる向上のため、透明ないし半透明のプライマー層を設けてもよい。塗布量としては1〜20g/m2 (固形分基準)が適当であるが、望ましくは3〜10g/m2 である。プライマー層を構成する樹脂としては、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂等が用いられるが、中でもウレタン樹脂が好ましい。ウレタン樹脂としては、2液硬化型ウレタン樹脂、1液硬化型(湿気硬化型)ウレタン樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂等が使用される。
【0027】
2液硬化型ウレタン樹脂は、ポリオールを主剤としイソシアネートを架橋剤(硬化剤)とするウレタン樹脂であるが、ポリオールとしては、分子中に2個以上の水酸基を有するもので、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリウレタンポリオール等が用いられる。また、イソシアネートとしては、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する多価イソシアネートが用いられる。例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、キシレンイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート、あるいは、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂肪族(乃至は脂環式)イソシアネートが用いられる。あるいはまた、上記各種イソシアネートの付加体又は多量体を用いることもできる。例えば、トリレンジイソシアネートの付加体、トリレンジイソシアネート3量体(trimer)等がある。なお、上記イソシアネートにおいて、脂肪族(乃至は脂環式)イソシアネートは、耐候性、耐熱黄変性も良好にできる点で好ましく、具体的には、例えばヘキサメチレンジイソシアネートが挙げられる。
【0028】
一方、1液硬化型ウレタン樹脂は、分子末端にイソシアネート基を有するプレポリマーを必須成分とする組成物である。このプレポリマーは、通常は分子両末端に各々イソシアネート基を1個以上有するプレポリマーであり、具体的には、ポリカーボネート骨格、ポリウレタン骨格、ポリブタジエン骨格、ポリエステル骨格等を骨格とするポリイソシアネートプレポリマーである。イソシアネート基同士が空気中の水分により反応して鎖延長反応を起こして、その結果、分子鎖中に尿素結合を有する反応物を生じ、この尿素結合にさらに分子末端のイソシアネート基が反応してビウレット結合を起こして分岐し、架橋反応を起こす。
【0029】
これらのウレタン樹脂の中でも2液硬化型ウレタン樹脂が物性向上の点で好ましい。中でも特に飽和アクリルポリオール(分子中に不飽和結合を含まない)と、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートとから構成されるものが好ましい。そして、物性向上には架橋密度が高い方がよい。
【0030】
また、前記アクリル樹脂としては、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、(メタ)アクリル酸メチル−スチレン共重合体、(メタ)アクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸ブチル−(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル共重合体、(メタ)アクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸ブチル−(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル−スチレン共重合体等のアクリル樹脂が挙げられる。
【0031】
また、必要に応じて、図3と図4に示すように、表面保護層3と着色樹脂層2との間に透明中間樹脂層8を設けてもよい。この図3と図4はそれぞれ図1と図2に対応したものである。前記のプライマー層を併用する場合は、表面保護層3、プライマー層、透明中間樹脂層8、着色樹脂層2となる。この透明中間樹脂層8は熱可塑性樹脂層で構成し、厚みとしては5〜100μm、望ましくは10〜30μmで、完全な樹脂フィルム層を形成することにより、表面からの液状汚染物質の浸透防止や、耐水性、耐熱水性を確保でき、透明中間樹脂層8を厚くすれば、加熱によりエンボス加工を表面に施すことができる。また、表面保護層3、プライマー層だけでは不足する耐摩耗性も改善され、化粧シート自体も破断強度や引裂強度が向上し、ラミネート時の加工適性やラミネート後の化粧板のVカット等の後加工適性も向上する。
【0032】
透明中間樹脂層8は、予め成膜されたフィルムを接着剤等を使用して貼り合わせて形成してもよいし、Tダイ等で樹脂をフィルム状に溶融押出しすると同時に貼り合わせて形成してもよい。透明中間樹脂層8に使用する熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物等のオレフィン系共重合体樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、アクリル樹脂、オレフィン系エラストマー樹脂、ウレタン系エラストマー樹脂等各種の樹脂が挙げられる。
【0033】
化粧シート4の裏面にコートする電子線硬化型樹脂5は、表面保護層3で説明した電離放射線硬化型樹脂と同様のもので、溶剤や水を一切使わず無溶剤で使用する。そして、硬化に使用する電離放射線を電子線に限定する。これを化粧シート4の裏面にロールコート法、グラビアコート法、ナイフコート法、ダイコート法等の周知の塗布法で塗布するが、紙層1に浸透させて層間強度を向上させる意味から、塗布粘度を調整する必要があり、浸透性を考慮すると、塗布粘度は5〜1000cps、好ましくは50〜500cpsである。塗布粘度の調整は、表面保護層の項で説明した単官能単量体や多官能単量体を添加することにより調整すればよい。塗布粘度が5cps未満では塗布面にムラが生じ、紙層1への浸透が不均一になる恐れがあり、1000cpsを越えると紙層1への浸透性が劣る。
【0034】
超音波振動は、周波数が10〜100kHzの超音波発振器を使用する。振動モードは縦振動が今回の目的に合致する。また、振幅は5〜50μm程度が一般的である。低粘度の電子線硬化型樹脂5をコートした化粧シート4に超音波振動を与える方法としては、例えば、図5に示すように、超音波発振器10に取り付けた工具ホーン11を表面保護層3側から化粧シート4に接触させ、この接触状態で超音波発振器10を作動させながら化粧シート4に沿って一定速度で移動させる方法がある。表面保護層3と工具ホーン11が接触した状態でも1万回/秒以上の振動回数のため、化粧シート4が半分浮いたような状態になり、スムーズに工具ホーン11上を一定速度で移動することができる。また、化粧シート4は、テンションを張った状態で工具ホーン11を圧着するようにしないと、超音波振動の伝達が弱くなってしまう。このように、低粘度の電子線硬化型樹脂5をコートした後で化粧シート4に表面保護層3側から超音波振動を与えると、コート面の液状の電子線硬化型樹脂5に振動が伝わることにより紙層1へ完全に浸透させることができる。
【0035】
このように化粧シート4に超音波振動を与えて低粘度の電子線硬化型樹脂5を紙層1に完全に浸透させた後、当該化粧シート4を基材6にコート面側が向かうようにゴムロールで圧着ラミネートして積層し、電子線を照射して電子線硬化型樹脂を硬化せしめることにより化粧シート4を基材6に対して一体化させる。この場合の電子線の加速電圧は150〜250KeV、照射量は4〜6Mrad程度である。
【0036】
化粧シート4を一体化させる基材6としては、特に制限はなく、例えば、合板、パーティクルボード、中密度繊維板(MDF)、高密度繊維板(HDF)等の木質系ボード、石膏ボード、石膏スラグボード等の石膏系ボード、パルプセメント板、木片セメント板等の繊維セメント板、ジアリルフタレート樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の樹脂を含浸した樹脂成形板、熱可塑性樹脂に木粉を添加してシート化した木粉プラスチック板が挙げられる。また、軟鋼板、ステンレス鋼板、電鋳鉄板、及びこれらに亜鉛、錫、アルミニウム、銅、クロム、ニッケル等の金属の1種ないし2種以上を鍍金した鋼板が挙げられる。
【0037】
基材6の表面に塗布する電子線硬化型樹脂7は、表面保護層3で説明した電離放射線硬化型樹脂と同様で、この場合、硬化に使用する電離放射線を電子線に限定する。これを基材6の表面にロールコート法、グラビアコート法、ナイフコート法、ダイコート法等の周知の塗布法で塗布するが、基材6に必要以上にしみ込まないようにする意味から、塗布粘度を1000cps以上に調整する。塗布粘度の調整は、表面保護層の項で説明した単官能単量体や多官能単量体を添加することにより行えばよい。
【0038】
次に、本発明の製造方法で化粧板を作成し、その化粧板における紙層の層間剥離について評価を行った。
【0039】
まず、紙層の表面に着色樹脂層と表面保護層を設けてなる化粧シートを用意した。具体的には、坪量30g/m2 の建材用薄葉紙(一般紙グレード)における一方の面にアクリル系インキで隠蔽ベタ印刷層(10g/m2 )を形成し、その上に反応性シリコンを添加した電子線硬化型樹脂(ザ・インクテック(株)製「EB−20」)をロールコート法で塗布した後に、直ちに電子線(175KeV、5Mrad)を照射して硬化せしめることにより表面保護層(5g/m2 )を形成した。
【0040】
上記で作成した化粧シートの裏面に低粘度の電子線硬化型樹脂(ザ・インクテック(株)製「EB−AD」、粘度:300cps)をミヤバー(#30)で40g/m2 コートした。次いで、超音波発振器(精電舎電子工業(株)製「SONOPET100B」)に取り付けた幅50mm、肉厚3mmの工具ホーンを化粧シートに対して表面保護層側から接触させ、この接触状態のままで周波数が28.5kHz、振幅が20μmの超音波振動を化粧シートに与えながら1m/分の速さで移動させた。この時、コートした電子線硬化型樹脂の液面が振動し泡も消えた。
【0041】
このように超音波振動を与えた化粧シートを厚さ9mmのパーチィクルボードにコート面側が対するように被せ、ゴムロールで圧着してラミネートした後、電子線(200KeV、5Mrad)を照射し、実施例1の化粧板を得た。一方、超音波振動を与えなかった化粧シートを使用して同様の手順で化粧板を作成し、これを比較例1とした。
【0042】
また、厚さ9mmのパーチィクルボードに、低粘度の電子線硬化型樹脂(ザ・インクテック(株)製「EB−AD」、粘度:300cps)にカオリンを60部添加した高粘度の電子線硬化型樹脂(粘度:4000cps)をミヤバー(#12)でコートした後、上記と同じ超音波振動を与えた化粧シートを当該パーチィクルボードにコート面同士が対するように被せ、ゴムロールで圧着してラミネートした後、電子線(200KeV、5Mrad)を照射し、実施例2の化粧板を得た。一方、超音波振動を与えなかった化粧シートを使用して同様の手順で化粧板を作成し、これを比較例2とした。
【0043】
上記で作成した実施例1,2と比較例1,2の化粧板について、1mmクロスカット試験を行って層間剥離の有無を検証した。具体的には、表面保護層の表面部に偏在しているシリコン層を削り取るため、手先にスチールウール(ボンスター)をもち、100往復、表面保護層を研削した後、表面保護層側から基材に至るまでカッターナイフで1mm間隔の碁盤目カットを入れてからセロテープ(登録商標)を貼着し、そのセロテープ(登録商標)を45度方向に急激に引っ張って剥離の有無を目視で評価した。この手順をそれぞれの化粧板に対して5回ずつ行ったところ、比較例1,2の化粧板では大きな紙間剥離が見られたが、実施例1,2の化粧板では紙間剥離が起きないか、あっても極軽微な紙間剥離が見られるに止まった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の化粧板の製造方法により製造された化粧板の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の化粧板の製造方法により製造された化粧板の一例を模式的に示す断面図である。
【図3】図1に示す化粧板の変形例を示す断面図である。
【図4】図2に示す化粧板の変形例を示す断面図である。
【図5】超音波振動を与える方法の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0045】
1 紙層
2 着色樹脂層
3 表面保護層
4 化粧シート
5 電子線硬化型樹脂(低粘度)
6 基材
7 透明中間樹脂層
8 電子線硬化型樹脂(高粘度)
10 超音波発振器
11 工具ホーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙層の表面に少なくとも着色樹脂層と表面保護層を設けてなる化粧シートを用意し、その裏面に低粘度の電子線硬化型樹脂をコートして紙層に浸透させた後、当該化粧シートを基材にコート面側が向かうように積層した状態で電子線を照射することにより一体化させる化粧板の製造方法において、裏面に低粘度の電子線硬化型樹脂をコートした後で化粧シートに表面保護層側から超音波振動を与えることにより低粘度の電子線硬化型樹脂を紙層に浸透させることを特徴とする化粧板の製造方法。
【請求項2】
紙層の表面に少なくとも着色樹脂層と表面保護層を設けてなる化粧シートの裏面に低粘度の電子線硬化型樹脂をコートして紙層に浸透させ、当該化粧シートを基材にコート面側が向かうように積層した状態で電子線を照射することにより一体化させた化粧板において、裏面に低粘度の電子線硬化型樹脂をコートした化粧シートに表面保護層側から超音波振動を与えることにより低粘度の電子線硬化型樹脂を紙層に浸透させたことを特徴とする化粧板。
【請求項3】
紙層の表面に少なくとも着色樹脂層と表面保護層を設けてなる化粧シートを用意し、その裏面に低粘度の電子線硬化型樹脂をコートして紙層に浸透させた後、当該化粧シートを高粘度の電子線硬化型樹脂を塗布した基材にコート面側が向かうように積層した状態で電子線を照射することにより一体化させる化粧板の製造方法において、裏面に低粘度の電子線硬化型樹脂をコートした後で化粧シートに表面保護層側から超音波振動を与えることにより低粘度の電子線硬化型樹脂を紙層に浸透させることを特徴とする化粧板の製造方法。
【請求項4】
紙層の表面に少なくとも着色樹脂層と表面保護層を設けてなる化粧シートの裏面に低粘度の電子線硬化型樹脂をコートして紙層に浸透させ、当該化粧シートを高粘度の電子線硬化型樹脂を塗布した基材にコート面側が向かうように積層した状態で電子線を照射することにより一体化させた化粧板において、裏面に低粘度の電子線硬化型樹脂をコートした化粧シートに表面保護層側から超音波振動を与えることにより低粘度の電子線硬化型樹脂を紙層に浸透させたことを特徴とする化粧板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−55704(P2008−55704A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−233901(P2006−233901)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】