説明

化粧賦形体、化粧成形体およびこれらの製造方法

【課題】樹脂基材との接合面を粗面にするためのサンディング等の後加工を施す必要がなく、インジェクション成型における樹脂基材との密着性を改善することが可能な化粧賦形体、化粧成形体およびこれらの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】化粧面2aを有する木質化粧板2、FRP材3およびロータリー単板4がこの順序で積層されてなり、前記ロータリー単板4の粗面4aの反対側の面4bが前記FRP材3に接合されていることを特徴とする化粧賦形体1を用いることによって、上記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用、建築用の内装材や建具、家具、表札、照明器具など化粧材として用いられる化粧賦形体及び化粧成形体と、これらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、建築用の内装材や建具、家具、照明器具などに始まり、オーディオ・ビジュアル機器、デジタル家電機器にいたるまで、デザイン性の高い製品に対する需要が高まってきている。それに伴い、意匠性に優れた木目柄を有する化粧材に対する需要も高まっている。
【0003】
上記木目柄を有する化粧材は、ツキ板、木材単板、合板、不織布等で裏打ちされた単板等の木質材薄板を射出成形用金型内に設置し、合成樹脂を射出してインサート成形させ作成するのが一般的である。また、化粧材の合成樹脂側の表面をサンディングあるいは塩素化などの処理によって粗面化し、これにより被化粧体に対する接着性を向上させる手段も採られている。
【0004】
しかし、化粧材の形状が複雑になると、化粧材の成形時に反りやねじれが発生し、表面の化粧面に割れが生じるなどの問題があった。この対策として、真空成形等の手段が講じられているが、化粧面の割れ対策としては十分なものではなかった。また、化粧材を2層以上の多層にして耐久性を向上させようとすると、却って化粧材の成形加工が難しくなるという問題もあった。
【0005】
特許文献1には、表面側に配置された木質材薄板からなる多層体と、内側に配置された合成樹脂製の芯材からなる樹脂成形体を成形するにあたり、多層体を構成する木質材薄板同士の間に、金属薄板を積層する技術が開示されている。この特許文献1に記載の方法によれば、金属薄板を積層することによって成形加工の際に木質材薄板が割れることがない。また、金属薄板に接着した裏単板のアンカー効果により、合成樹脂が接合される。
【0006】
しかし、上記方法においても、積層体を構成する際に、接着剤を塗布して木質材薄板を圧着する工程があるため、接着剤のはみ出し、汚れ、接着時のずれ等の問題があり、また、接着部の固定化に時間がかかる等の問題もあった。また、金属薄板の引っ張り強度が大きいため、成形時の最小曲げ半径Rが小さい場合には、木質薄板が割れるおそれがあった。また、金属薄板に接着した裏単板が、通常のスライス単板であると表面が滑らかで、アンカー効果による合成樹脂の接合力はあまり期待できない。
【0007】
また、特許文献2には、木質化粧材に繊維強化プラスチック(以下、FRP)製の補強材を積層する方法が開示されている。木質化粧材にFRPを積層する際の熱圧着工程によって、FRPに含浸された熱硬化性樹脂が加熱により一旦液状になり、木質化粧材内部に熱硬化性樹脂が含浸され、木質化粧材と熱可塑性樹脂とがと混然一体化した状態のものとで樹脂が硬化される結果、接着剤用いる場合に比べて、木質化粧材と補強材とが剥離するおそれが皆無となり、耐久強度を飛躍的に向上できるとされている。なお、熱硬化性樹脂を含浸させた未硬化材料は、繊維強化樹脂プリプレグ材とも呼ばれている。
【0008】
しかし、木質化粧材にFRPからなる補強材を積層してから、その補強材側に樹脂基材をインジェクション成型しようとすると、補強材を構成するFRPの表面が滑らかなため、補強材と樹脂基材との密着性が低下するという問題点があった。そのため、従来は、補強材を構成する未硬化材料の表面を荒らすサンディング等の後加工を行っていたが、FRP(補強材)の表面が平坦でない場合には、補強材の全面を均一に後加工することができず、樹脂基材との接合強度が低下するという問題があった。
【特許文献1】特開平3−224731号公報
【特許文献2】特開平11−291409号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、樹脂基材との接合面を粗面にするためのサンディング等の後加工を施す必要がなく、インジェクション成型における樹脂基材との密着性を改善することが可能な化粧賦形体、化粧成形体およびこれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。すなわち、本発明の化粧賦形体は、化粧面を有する木質化粧板、FRP材およびロータリー単板がこの順序で積層されてなり、前記ロータリー単板の粗面の反対側の面が前記FRP材に接合されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の化粧成形体は、先に記載の化粧賦形体の粗面側に樹脂基材が成形されてなることを特徴とする。
【0012】
本発明の化粧賦形体の製造方法は、化粧面を有する木質化粧板と、シート状の繊維強化樹脂プリプレグ材と、ロータリー単板とを順次積層する際に、前記繊維強化樹脂プリプレグ材に前記ロータリー単板の粗面と反対側の面を接合させた後、前記繊維強化樹脂プリプレグ材を硬化させFRP材とする工程を具備することを特徴とする。
【0013】
本発明の化粧成形体の製造方法は、先に記載の製造方法によって製造された化粧賦形体のロータリー単板の粗面側に樹脂基材を成形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
上記の構成によれば、ロータリー単板の粗面を、樹脂と密着成形させる面としているので、FRP材表面を荒らすサンディング等の後加工を行うことなく、インジェクション成型の際にFRP材と樹脂基材との密着性を改善できる。また、FRP材によって木質化粧板を補強することができるので、化粧賦形体を製造する際の木質化粧板の反りやねじれ、伸びを防止することができ、形状安定性に優れた化粧賦形体、化粧成形体およびこれらの製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
図1(a)は、化粧賦形体1の一例を示す斜視図であり、図1(b)は化粧賦形体1の断面模式図である。図1に示すように、化粧賦形体1は、化粧面2aを有する木質化粧板2、FRP材3およびロータリー単板4がこの順序で積層されている。すなわち、FRP材3の一方の側は、木質化粧板2の化粧面2aの反対側の面2bと接合され、FRP材3のもう一方の側は、ロータリー単板4の粗面4aの反対側の面4bが接合され、化粧賦形体1が概略構成されている。
【0016】
木質化粧板2は、木質材料を主体とする板状の部材であり、表面に各種加工が施された化粧面2aを有する。この木質化粧板2を構成する部材としては、木材単板または木材合板を例示できる。木材単板としては、たとえば、杉、桜、オリーブ、ウォールナット、メープル、タモなどの単板を用いることができる。
【0017】
FRP材3は、繊維強化樹脂プリプレグ材23を加熱硬化させて、形成される。繊維強化樹脂プリプレグ材23としては、繊維補強材に未硬化状態の樹脂を含浸させたシートを例示できる。繊維補強材としては例えばガラス繊維等を例示でき、樹脂としてはフェノール樹脂やエポキシ樹脂等を例示できる。硬化したFRP材3が木質化粧板2の化粧面2aと反対側の面2bに重ね合わされることで、木質化粧板2を補強することが可能になり、木質化粧板2が温度、湿度などによって生じる成形からのずれ、そりおよびねじれを止める効果が大きい。また、未硬化の状態の繊維強化樹脂プリプレグ材23は、化粧賦形体を製造する際に、プレス成形機の型形状に沿いやすい。繊維強化樹脂プリプレグ材23としては、ガラス繊維に未硬化のエポキシ樹脂を含浸させたものが好ましい。
【0018】
ロータリー単板4は、木材からカッターにより大根のカツラむきのようにして得る単板である。繊維と直交方向に曲率を持っており、丸くなっている外側を延ばして貼ると、必ず木目に沿って内側にクラックが入る。単板として表裏面ができ、内側であった面が粗面4aとなる。また、ロータリー単板4の表面には、木材の導管に由来する凹凸が存在する。これら導管由来の凹凸と、木目に沿って形成されたクラックとによって、相乗的なアンカー効果がもたらされる。
【0019】
なお、ロータリー単板4の代わりに、ハーフロータリー単板、木目の粗いカバのような木材を用いてもかまわない。ロータリー単板4と同様に、粗面4aが存在し、樹脂基材6との接着において、強いアンカー効果をもたらすためである。ロータリー単板4またはハーフロータリー単板の厚さは0.2〜0.5mmが好ましい。
【0020】
樹脂基材5としては、一般的に射出成形に使用される樹脂であればどのような樹脂でもよく、たとえば、オレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ABS樹脂、ポリアミド樹脂(ナイロン)、ポリカーボネート樹脂、PPS樹脂を例示できる。
【0021】
図2(a)は、図1に示す化粧賦形体1を備えた化粧成形体5の一例を示す斜視図であり、図2(b)は化粧成形体5の断面模式図である。図2に示す化粧成形体5は、上記化粧賦形体1のロータリー単板4の粗面4aに樹脂基材6が成形され、概略構成されている。
【0022】
ロータリー単板4を備えた化粧賦形体1に樹脂基材6を成形する場合には、ロータリー単板4を付けたままの状態で、インジェクション成型に供すればよい。ロータリー単板4の導管由来の凹凸と粗面4aが、強いアンカー効果を有するためである。
【0023】
なお、図3(a)は、厚さ1.0mmのロータリー単板の断面写真であり、図3(b)は、厚さ0.5mmのスライス単板の断面写真である。ロータリー単板4では、深さ約0.5mmのクラックが入っている。すなわち、板厚の50%程度の深さまでクラックが入っている。対して、スライス単板では、深さ約0.1mmのクラックが入っている。そのため、スライス単板のアンカー効果はロータリー単板に比べ弱いものとなる。
【0024】
以下、本実施形態の化粧賦形体1および化粧成形体5の製造方法について説明する。
図4は、化粧賦形体1および化粧成形体5の一連の製造方法を示す工程図である。まず、図4(a)に示すように、木質化粧板2の化粧面2aの反対側の面2bに繊維強化樹脂プリプレグ材23を配置し、この上にロータリー単板4の粗面4aの反対側の面4bを重ね合わせる。このようにして、木質化粧板2、繊維強化樹脂プリプレグ材23およびロータリー単板4を、この順序で重ね合わせる。そして、これらを化粧賦形体1用の金型の下型11と上型12の間に挟みこませる。次に、1〜50kg/cmの圧力をプレス成形機により上下から加えて、80〜200℃の温度で、1〜15分間保持する。これにより、繊維強化樹脂プレプレグ材23はFRP材3となり、図5に示すように、表面に粗面4aを有する化粧賦形体1が製造される。
【0025】
次に、化粧賦形体1をインジェクション成型の金型にセットし、樹脂基材6をインジェクション成型することで、図4(c)に示す化粧成形体5が製造される。
【0026】
図5は、化粧賦形体1の断面拡大図である。ロータリー単板4は、粗面4aとその反対側の面4bという表裏面を有し、粗面4aの反対側の面4bがFRP材3と接合されている。ロータリー単板4の製造過程で、切断するとき内側となる面が粗面4aとなり、表裏面が形成される。
【0027】
以下、本発明の効果について説明する。
本発明の化粧賦形体1は、化粧面2aを有する木質化粧板2、FRP材3およびロータリー単板4がこの順序で積層されてなり、前記ロータリー単板4には粗面4aが形成される構成となっているので、ロータリー単板4の導管由来の凹凸に加え、前記粗面4aが強いアンカー効果の相乗効果をもたらし、木質化粧板2と樹脂基材6との密着性に優れた化粧成形体5を製造することができる。
【0028】
本発明の化粧賦形体1において、木質化粧板2に重ねられた繊維強化樹脂プリプレグ材23が硬化してFRP材3になるので、化粧成形体5の剛性が高められ、特に単板のみから構成された場合に問題となる湿度、温度による変形を減らすことができ、割れなどの問題を生ずることはない。
【0029】
本発明の化粧賦形体1において、木質化粧板2、繊維強化樹脂プリプレグ材23およびロータリー単板4からなる3層構造は、プレス工程において、化粧賦形体1の形状を形成するのに、繊維強化樹脂プリプレグ材23が緩衝材のような役目となって、それぞれがずれて型形状に倣い、木質化粧板2が単板の場合になしえる、単板の可能な曲率まで曲がり、単板1枚と同程度の最小曲げ半径Rを得られる。
【0030】
本発明の化粧成形体5の製造方法において、ロータリー単板4を用いる方法は、非常に簡便、確実に作業を行うことができる。
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
化粧単板の化粧面の反対側の面に繊維強化樹脂プリプレグ材を配置し、かつロータリー単板の粗面の反対側の面に前記繊維強化樹脂プリプレグ材を配置し、化粧単板、繊維強化樹脂プリプレグ材およびロータリー単板を、この順序で重ね合わせ、化粧賦形体用の金型の下型と上型との間にそれらをセットした。10kg/cmの圧力をプレス成形機により上下から加え、140℃の温度としたのち、6分間保持し、繊維強化樹脂プリプレグ材を硬化し、FRP材となし、化粧賦形体を製造した。金型の小さな最小曲げ半径Rを忠実に再現し、クラックも生じていなかった。ロータリー単板の粗面が強いアンカー効果をもたらすので、化粧賦形体をインジェクション成型のインサートとして用い、樹脂基材を注入することによって化粧成形体を製造した。型から取り出して、製造した化粧成形体の密着性が強いことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0032】
建築用の内装材や建具、家具、照明器具などに始まり、オーディオ・ビジュアル機器、デジタル家電機器、自動車内装部品にいたるまでの、デザイン性の高い製品などに用いられる化粧成形品において、本発明の化粧賦形体または化粧成形体を用いることにより、木目柄を有すると同時に、最小曲げ半径Rの小さくすることができる形状を実現し、外部環境の温度・湿度により変形しない、意匠性に優れた木目柄を有する化粧成形品を提供できる。その製造方法は、木質化粧板に繊維強化樹脂プリプレグ材および剥離布を一体化させ、FRP硬化後、剥離布を剥離させた化粧賦形体を形成し、それを用いて化粧成形品を作成する製造方法で、製造方法が簡便であるにもかかわらず、木質化粧板と樹脂との密着性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態である化粧賦形体の一例を示す図であって、(a)は化粧賦形体の斜視図であり、(b)は斜視図におけるA−A’線における断面模式図である。
【図2】本発明の実施形態である化粧成形体の一例を示す図であって、(a)は化粧成形体の斜視図であり、(b)は斜視図におけるA−A’線における断面模式図である。
【図3】本発明の実施形態である化粧成形体に用いる単板の一例を示す写真であって、(a)はロータリー単板の断面写真であり、(b)はスライス単板の断面写真である。
【図4】本発明の実施形態である化粧成形体の製造工程を説明する工程図の一例である。
【図5】本発明の実施形態である化粧賦形体の断面拡大図である。
【符号の説明】
【0034】
1…化粧賦形体、2…木質化粧板、2a…化粧面、2b…化粧面の反対側の面、3…FRP材、4…ロータリー単板、4a…粗面、4b…粗面の反対側の面、5…化粧成形体、6…樹脂基材、11…下型、12…上型、23…繊維強化樹脂プリプレグ材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化粧面を有する木質化粧板、FRP材およびロータリー単板がこの順序で積層されてなり、前記ロータリー単板の粗面の反対側の面が前記FRP材に接合されていることを特徴とする化粧賦形体。
【請求項2】
請求項1に記載の化粧賦形体の粗面側に樹脂基材が成形されてなることを特徴とする化粧成形体。
【請求項3】
化粧面を有する木質化粧板と、シート状の繊維強化樹脂プリプレグ材と、ロータリー単板とを順次積層する際に、前記繊維強化樹脂プリプレグ材に前記ロータリー単板の粗面と反対側の面を接合させた後、前記繊維強化樹脂プリプレグ材を硬化させFRP材とする工程を具備することを特徴とする化粧賦形体の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の製造方法によって製造された化粧賦形体のロータリー単板の粗面側に樹脂基材を成形することを特徴とする化粧成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−149605(P2008−149605A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−341300(P2006−341300)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】