説明

医用接着剤及び組織接着方法

多イソシアナート官能分子と、ヒドロキシル基、第1級アミノ基及び第2級アミノ基からなる群より選ばれる末端官能基を含む多官能前駆分子とを反応させることによって形成されるイソシアナートキャップド分子の混合物を含む接着剤。好ましくは、前記末端官能基はヒドロキシル基である。多官能前駆化合物は生体適合性である。多イソシアナート官能分子の多アミン官能前駆体も生体適合性である。上述のように、前記分子混合物は、好ましくは少なくとも2.1の平均イソシアナート官能性を有し、より好ましくは少なくとも2.5の平均イソシアナート官能性を有する。また、上述のように、前記分子混合物は、好ましくは約1〜約100センチポアズの範囲の粘度を有する。前記分子混合物は、水の存在下で有機組織との接触により架橋ポリマーネットワークを形成する。前記架橋ポリマーネットワークは生体適合性及び生分解性である。前記架橋ポリマーネットワークは前記前駆分子及び前記多アミン官能前駆体を含む分解生成物に分解する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
本発明は、一般に医用接着剤及び組織閉鎖方法に関するものであり、特に医用接着剤及びイソシアナート官能基を有する分子又はプレポリマーの混合物を組織に適用する組織接着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
毎年、約11,000,000の外傷創が米国で救急医によって治療されている。外傷創は、人々が医師の診察を受ける最も一般的な理由として気道感染に匹敵する。組織閉鎖の従来の方法(例えば、縫合及びステープル)は、流体密封閉鎖を生成することができないこと、顕微手術への適用に適していないこと、除去のための第2の手術が必要であること、炎症及び感染の確率が増大すること、及び挿入中の明らかな傷及び組織損傷などの、いくつかの実質的な制限を有する。医用テープはいくつかの適用で使用されているが、医用テープは強度が弱いために制限され、組織の接着に関して問題がある。縫合による裂傷の治療は、しばしば局部麻酔の注射及び針の使用を含み、すでにおびえている患者を苦しめ得る。例えば、McCaig LF, "National Hospital Ambulatory Medical Care Survey: 1992 Emergency Department Summary, Vital Health Stat., 1994, 245, 1-12; 及びEland JM, Anderson JE, "The Experience of Pain in Children," In: Jacox AK, ed. Pain, Boston, Mass: Little Brown & Co., 1997 453-473を参照のこと。また、縫合創傷修復は、苦痛であり、時間がかかる。かなり長い間、医者は、短い時間を必要とし、追加の手術を必要としないで、その患者の不快感を最小限にし、見た目もよいものとする創傷修復法を探していた。
そのような目的を達成しようとして、生物学的及び合成組織接着剤が開発された。生物学的組織への接着剤の適用は、軟(結合)組織接着剤から硬(石灰化)組織接着剤まで多岐にわたる。軟組織接着剤は、例えば創傷閉鎖及び封鎖のために外部及び内部で使用される。硬組織接着剤は、例えば歯及び骨に補綴材料を結合するために使用される。接着剤の4つの主なメカニズムは、そのような組織接着剤について提唱されており、機械的な結合(mechanical interlocking)、吸着、拡散理論及び電子論を含む。機械的な結合には、接着手段として結合剤が基板表面の表面凹凸又は細孔へ浸透することが含まれる。吸着理論は、界面分子の密接な接触が達成される場合に原子間及び分子間力が強い接合箇所を確立する事実に頼る。拡散理論は、ポリマーが基板に、及び互いに接着することが界面を越えてポリマー分子又はその一部が相互拡散することを必要とすることを述べている。最後に、電子論は、接着剤と被接着物との間の電子移動が高い固有接着を生じる静電気力をもたらし得ることを示唆する。
【0003】
残念ながら、現在入手可能な組織接着剤は、重大な制限がある。例えば、フィブリン糊のような生物学的な組織接着剤が一部の用途では有効であるが、自己組織に由来するため非常に高価である。また、フィブリン糊は、引張り強さが相対的に弱く、多くの作業を必要とする生産手段を伴う。さらに、人の血液から得られるフィブリノーゲン及びトロンビンは、例えば後天性免疫不全症候群及び/又は肝炎のウイルス感染のリスクを引き起こす。例えば、Spotniz WD, "History of Tissue Adhesives," in Sierra D, Saits R, editors, Surgical Adhesives and Sealants, Current Technology and Applications, USA: Technomic, 1996; 及びBorst AH, et al., "Fibrin Adhesive: An Important Hemostatic Adjunct in Cardiovascular Operations," J. Thorac. Cardiovasc. Surg., 1982, 84, 548-553を参照のこと。
また、合成及び半合成外科用接着剤(例えば、シアノアクリラート、ウレタンプレポリマー及びゼラチン-レゾルシノール-ホルムアルデヒド)も提案されている。例えば、Tseng Y-C, et al., "In Vivo Evaluation of 2-cyanoacrylates as Surgical Adhesives," J. Appl. Biomater, 1990, 1, 11-22; Kobayashi H., et al., "Water-curable and Biodegradable Prepolymer, J. Biomed. Mater. Res., 1991, 25, 1481-1494; Matsuda T, et al., "A Novel Elastic Surgical Adhesive, Design Properties and In Vivo Performance," Trans. Am. Soc. Artif. Intern. Organ, 1986, 32, 151-156; 及びMatsuda T, et al., Department of a Compliant Surgical Adhesive Derived from Novel Flurinated Hexamethyiene Diisocyanate," Trans. Am. Soc. Artif. Intern. Organ, 1989, 35, 381-383を参照のこと。しかしながら、これらの合成糊は、細胞障害性、低分解率及びその分解生成物(例えば、シアノアクリラートポリマー及びゼラチン-レゾルシノール-ホルムアルデヒド由来のホルムアルデヒド、及びポリウレタン由来の芳香族ジアミン)の徐放性によってもたらされる慢性炎症などのいくつかの不利益を有する。例えば、Braumwald NS, et al., "Evaluation of Crosslinked Gelatin as a Tissue Adhesive and Hemostatic Agent: An Experimental Study," Surgery, 1966, 59, 1024-1030; 及びToriumi D, "Surgical Tissue Adhesive: Host Tissue Response, Adhesive Strength and Clinical Performance," in Sierra D and Saits, R, ed. Surgical Adhesives and Sealants Current Technology and Applications, USA: Technomic, 1996: 61-69を参照のこと。典型的には、合成糊は内部使用に適していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シアノアクリラートマクロモノマーは、よく知られた「スーパーグルー」で使用されるものと同様の化学により、水と接触することでポリマー化する。しかしながら、上記問題に加えて、シアノアクリラートポリマーにおけるシアノアクリラート基の使用は配合物の汎用性を制限し、前記材料における他の官能基は高感受性シアノアクリラートと混合しても反応を起こさないものでなければならない。アクリラート官能基を有するポリエチレングリコールの使用は、封鎖及び分解を可能にする(ポリエチレングリコール前駆体における乳酸又はグリコール酸繰り返し単位を組み入れることによって)。しかしながら、硬化は、UV又は他の放射線の使用を必要とする。光の侵入長限界を考えると、放射線硬化は、この技術の使用を光源に容易に近づけることができる薄膜に制限する。
したがって、生きている組織に関して用いるための改善された接着剤及び組織接着方法を開発することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の要約)
1つの局面では、本発明は、接着剤を有機組織に適用する方法を提供する。前記方法は、分子の混合物を有機組織に適用する工程を含む。前記分子混合物は、末端イソシアナート官能基を有する分子を含む。前記分子混合物は、架橋(又は硬化)できるように、少なくとも2.1の平均イソシアナート官能性を有する。より好ましくは、前記混合物の平均イソシアナート官能性は少なくとも2.5である。前記分子混合物は、例えば使用する温度範囲(典型的には、約0℃〜約40℃)にわたって組織に容易に適用することを可能にするために、約1〜約100センチポアズの範囲の粘度を有する。より好ましくは、前記粘度は、使用する温度範囲にわたって約1〜約50センチポアズの範囲である。一般に、前記分子混合物は、使用する温度で適用すること又は延ばすことができなければならない。
前記分子混合物は、水の存在下で有機組織との接触により架橋ポリマーネットワークを形成及び硬化する。十分な水は、有機組織上又は有機組織内に一般に存在し、水の添加は、典型的には硬化のためには必要ではない。前記架橋ポリマーネットワークは、生体適合性及び生分解性である。前記架橋ポリマーネットワークは、生体適合性である分子又は分解生成物に生分解する。
前記分子混合物のすべてが混合形式で保存される必要はない。例えば、分子の混合は、適用直前又は適用中に生じてもよい。
1つの実施態様では、前記分子混合物は、リジントリイソシアナート又はリジントリイソシアナート誘導体(例えば、リジントリイソシアナートエチルエステル)を含む。
【0006】
好ましくは、前記分子混合物は、多イソシアナート官能分子と、ヒドロキシル基、第1級アミノ基及び第2級アミノ基からなる群より選ばれる末端官能基を含む多官能前駆分子とを反応させることによって形成されるイソシアナートキャップド分子を含む。ここで使用される「多官能」という用語は、2つ(2官能)又はそれ以上の官能性を有する化合物を意味する。よって、ポリウレタンプレポリマーが形成できる。多官能前駆化合物は生体適合性である。さらに、多イソシアナート官能分子の多アミン官能前駆体もまた生体適合性である。多イソシアナート官能分子の多アミン官能前駆体は、例えば生体適合性アミノ酸又はアミノ酸の生体適合性誘導体であってもよい。多官能前駆分子は、例えばポリエチレングリコール、ポリアミノ酸(典型的には、50よりも多く結合したアミノ酸及び、例えばタンパク質及び/又はポリペプチドなど)、脂肪族ポリエステル(例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸及び/又はポリカプロラクトンなど)、糖類(例えば、糖など)、多糖類(例えば、スターチ)、脂肪族ポリカルボナート、ポリ無水物、ステロイド(例えば、ヒドロコルチゾン)、グリセロール、アスコルビン酸、アミノ酸(例えば、リジン、チロシン、セリン及び/又はトリプトファン)、又はペプチド(典型的には、2〜50結合したアミノ酸)のうち少なくとも1つを含むことができる。
1つの実施態様では、多官能前駆分子はポリエチレングリコールを含み、多イソシアナート官能分子はリジンジイソシアナートエチルエステル又はリジントリイソシアナートエチルエステルのうち少なくとも1つを含む。多官能前駆分子は、さらにグルコースのような糖を含むことができる。
【0007】
多官能前駆分子がポリエチレングリコールを含む場合には、好ましくはポリエチレングリコールの数平均分子量は10,000未満である。より好ましくは、ポリエチレングリコールの数平均分子量は2,000未満である。最も好ましくは、ポリエチレングリコールの数平均分子量は1,000未満である。本発明のいくつかの実施態様では、ポリエチレングリコールの数平均分子量は約50〜約1000の範囲である。
好ましくは、本発明の前記分子混合物は、2分以内に架橋ポリマーネットワークを形成する。より好ましくは、前記分子混合物は、1分以内に架橋ポリマーネットワークを形成する。本発明の前記分子混合物の、有機組織との接触による硬化により生じる架橋ポリマーネットワークは、好ましくは治癒が起こる期間に生分解する。例えば、架橋ポリマーネットワークは、好ましくは創傷又は切開が閉じたまま治癒が十分に進行するまで、裂傷又は切開した組織を接着するためにそのまま保持する。1つの実施態様では、例えば架橋ポリマーネットワークは、約7〜約30日で、より好ましくは約7〜約14日で、その材料の少なくとも約2/3を失う程度に生分解する。
【0008】
別の局面では、本発明は、多イソシアナート官能分子と、ヒドロキシル基、第1級アミノ基及び第2級アミノ基からなる群より選ばれる末端官能基を含む多官能前駆分子とを反応させることによって形成されるイソシアナートキャップド分子の混合物を含む接着剤を提供する。好ましくは、前記末端官能基はヒドロキシル基である。多官能前駆化合物は生体適合性である。多イソシアナート官能分子の多アミン官能前駆体も生体適合性である。上述のように、前記分子混合物は、好ましくは少なくとも2.1の平均イソシアナート官能性を有し、より好ましくは少なくとも2.5の平均イソシアナート官能性を有する。また、上述のように、前記分子混合物は、好ましくは約1〜約100センチポアズの範囲の粘度を有する。前記分子混合物は、水の存在下で有機組織との接触により架橋ポリマーネットワークを形成する。前記架橋ポリマーネットワークは生体適合性及び生分解性である。前記架橋ポリマーネットワークは前記前駆分子及び前記多アミン官能前駆体を含む分解生成物に分解する。
【0009】
さらに別の局面では、本発明は、多イソシアナート官能分子と、ヒドロキシル基、第1級アミノ基及び第2級アミノ基からなる群より選ばれる末端官能基を含む多官能前駆分子とを反応させることによって形成されるイソシアナートキャップドプレポリマーの混合物を含む接着剤を提供する。前と同様に、多官能前駆化合物は生体適合性である。また、多イソシアナート官能分子の多アミン官能前駆体も生体適合性である。多官能前駆体のうち少なくとも1つは、少なくとも50の数平均分子量を有する可塑性生体適合性ポリマーである。上述のように、前記プレポリマー混合物は少なくとも2.1の平均イソシアナート官能性を有する。前記プレポリマー混合物は、好ましくは使用する温度範囲にわたって組織に適用するために延ばすことができる非固体である。前記プレポリマー混合物は、水の存在下で有機組織との接触により架橋ポリマーネットワークを形成する。前記架橋ポリマーネットワークは生体適合性及び生分解性である。前記架橋ポリマーネットワークは、前記前駆分子及び前記多アミン官能前駆体を含む分解生成物に分解する。
【0010】
上述のように、組織に結合する他のメカニズムに加えて、本発明の接着剤は、組織に化学的に結合(共有結合)する可能性がある。例えば、接着剤の反応性イソシアナート基は、組織におけるヒドロキシル基又は遊離アミン基のような反応性基と反応でき、共有結合(すなわち、ウレタン結合又は尿素結合)を形成する。また、イソシアナート基は、組織中及び組織上に本質的に存在する水分の存在下で架橋ポリマーネットワークを形成する。
上述のように、本発明の接着剤、それから形成される生分解性架橋ポリマーネットワーク及びそのポリマーネットワークの生分解生成物は、好ましくは生体適合性である。ここで使用される「生分解性」という用語は、一般に使用環境において長期にわたって接着剤が(特に、無害の分解生成物に)分解され得ることを意味する。ここで使用される「生体適合性」という用語は、一般に生きている組織又は生きているシステムとの適合性を意味する。その点で、本発明の接着剤、ポリマーネットワーク及び分解生成物は、好ましくは接触/曝露期間にわたって要求される量で、生きている組織又は生きているシステムに対して実質的に非毒性及び/又は実質的に非有害である。さらに、そのような材料は、好ましくは接触/曝露期間にわたって要求される量で実質的な免疫反応又は拒絶を生じない。
組織閉鎖及び他の用途のために医術で使用される多くの現在入手可能な接着剤とは異なり、本発明の接着剤は、相対的に強い引張り強さを有し、相対的に強い組織との結合を形成するが、多くの現在の接着剤に関する細胞障害性、低分解率及び炎症のような問題を低減又は排除する。本発明の接着剤及び方法は、一般に組織への機械的ダメージがなく、感染の確率も低い、例えば組織閉鎖のための低侵襲手段を提供する。本発明の接着剤は、合成が相対的に容易であり、有害であるかもしれない溶媒の使用を必要としない。
【0011】
1つの実施態様では、本発明は、組織接着剤として使用するのに適した生体適合性及び生分解性リジンジイソシアナート-(LDI-)又はリジントリイソシアナート-(LTI-)系ウレタンポリマー/プレポリマーを提供する。LDI-ポリウレタン接着剤又は糊は、例えばLDI、ポリエチレングリコール(PEGとも呼ばれる。)及びグルコースから溶媒を用いないで容易に合成される。分解生成物は、リジン、PEG、グルコース及びエタノールである。本発明のLDI-ポリウレタン組織接着剤及び他の接着剤は、創傷治療で必要な時間を短くし、可塑性耐水性保護皮膜を与え、抜糸の必要性を排除する。本発明のLDI-ポリウレタン組織接着剤及び他の組織接着剤は、現在入手可能な皮膚接着剤と比較して、その後に適した、一般的な創傷製剤を使用することが相対的に容易である。本発明の接着剤は、縫合のような従来の治療方法よりも使用するのに都合がよい。なぜなら、例えば患者、特に子供は、そのような従来の、又は伝統的な治療方法よりも、「接着」されるという考えを受け入れると考えられるからである。
さらに、本発明のLDI-系ポリウレタン組織接着剤及び他の組織接着剤の弾性係数及び剛性は、ヒト及び動物の両方において、軟(結合)組織接着剤(例えば、特定の裂傷及び/又は切開の閉鎖のための縫合及びステープルに取って代わる皮膚接着剤)及び硬(石灰化)組織接着剤(例えば、骨又は歯接着剤)として使用するために容易に調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(発明の詳細な説明)
組織接着剤は、好ましくは組織に適用するために液体又は別の延ばすことができる形態(例えば、流体様(fluid-like)ゲル)である。また、接着剤は、好ましくは適用時に相対的に素早く固まり、水分の存在下で生きている組織と結合する。また、組織接着剤は、好ましくは有効な組織接着を達成するために必要な量で局所的に刺激がなく、系統的に無毒である。さらに、接着剤が治癒を妨げないように、例えば創傷閉鎖における硬化した接着剤に適切な可塑性及び分解性が必要である。本発明の組織接着剤はそのような基準を満たす。
一般に、本発明の接着剤は、末端イソシアナート官能基を有する分子の混合物を含む。前記分子混合物は、架橋(又は硬化)できるように、2よりも大きい(分子又は鎖あたり)、好ましくは2.1よりも大きい平均イソシアナート官能性を有する。より好ましくは、前記混合物の平均イソシアナート官能性は、少なくとも2.5である。本発明の接着剤として、リジントリイソシアナートのような相対的に低分子量の分子又はリジンジイソシアナート及びトリイソシアナートの組み合わせを用いることができるが、本発明の接着剤は、好ましくはイソシアナートキャップドポリマー/プレポリマーの混合物として適用される。そのような分子の例の一般的な記述は、図1に示される。そのようなプレポリマーは、例えば多イソシアナート官能分子と、ヒドロキシル基、第1級アミノ基および第2級アミノ基からなる群より選ばれる末端官能基を含む多官能前駆分子とを反応させることによって形成できる。好ましくは、前記末端官能基はヒドロキシル基である。
【0013】
上述のように、図1に表されるような分子のイソシアナートキャップは、架橋可能であり、組織のヒドロキシル基及びアミン基に共有結合することによって組織との接着を強固にすることができる。多イソシアナート官能分子と反応して、そのような分子の「中間」又は内部鎖部分を形成する前駆化合物は、好ましくは接着剤の粘度及び硬化ポリマーネットワークの弾性のような物理的特性の制御を可能にするように選ばれる。
例えば、硬化ポリマーネットワークの物理特性は、接着剤の全官能性又は平均官能性(鎖あたりのイソシアナート末端基の平均数)、架橋間の分子量(すなわち、プレポリマーのイソシアナート基の間の分子量)、芳香族基を含むある特定のプレポリマーについてプレポリマーの芳香族含有量(例えば、生体適合性アミノ酸チロシンの付加を通じて組み込まれる)及びプレポリマーの水素結合基(例えば、尿素基及びウレタン基)の数によって制御できる。例えば、官能性の増加(例えば、前駆体のより多い量のイソシアナートキャップド糖の使用)は、相対的に高い弾性係数(剛性)を有する架橋ポリマーネットワークをもたらす。架橋点間の分子量の増加(例えば、より大きい分子量のPEG「スペーサー」を組み込むことによる)、水素結合基の数の減少、又は芳香族含有量の減少は、本発明の接着剤によって形成される架橋ポリマーネットワークの弾性係数を減少させる。それ故、もとの配合物に加える公知の変更により広い範囲にわたって接着ボンドの特性を制御できる。
【0014】
また、中間又は内部鎖部分について選択される生体適合性化合物又は分子は、接着剤への他の所望の特性を与えるために選択できる。例えば、活性酵素(タンパク質)は、例えば特定の細菌を阻害し、又は特定の生物学的機能を高めるために組み込んでもよい。タンパク質の水溶液をウレタンプレポリマーへ添加することにより、(末端イソシアナート基を有するタンパク質と遊離アミンとの反応を介して)タンパク質のポリウレタンネットワークへの組み込み(共有結合的)が促進されることは、すでに示されている。そのような組み込みは、タンパク質の活性を維持し、数オーダーの大きさで安定性を増大する。同様に、例えば抗炎症薬として作用させるために、ヒドロコルチゾンのようなステロイド(本発明の接着剤に組み込まれている)を組み込むことができる。
本発明を説明するために、以下の分子又は構成単位から生成されるイソシアナート官能プレポリマーを含む代表的な接着剤の研究を示す:リジンジイソシアナートエチルエステル、すなわちLDI(リジンのエチルエステルのホスゲン化により合成される)又はリジントリイソシアナート(LTI);グルコース(5つのヒドロキシル官能基を含む)及びポリエチレングリコール、すなわちPEG(2つのヒドロキシル官能基を含む)。LDI又はLTIのイソシアナート基は、グルコース及びPEGのヒドロキシル基との反応によりプレポリマー鎖を形成する。過剰のLDI又はLTIの使用は、実質的にすべての、又はすべてのヒドロキシル基がイソシアナートと反応してイソシアナートキャップドプレポリマーを生じることを確実にする。本発明の研究において使用される分子構成単位の化学構造を図2に示す。図3は、イソシアナート-(LDI-)キャップドグルコース、イソシアナート-(LDI-)キャップドPEG及びイソシアナート-(LDI-)キャップドPEG-グルコース-LDIプレポリマー分子の代表的な例を示す。リジンジイソシアナート(揮発性化合物である)は、本発明のポリマー前駆体に組み込むことによって非揮発性となる(それ故、LDIは存在せず、むしろマクロモノマーに組み込まれる)。
【0015】
このように、本発明の接着剤は、単にポリウレタンプレポリマー、すなわちすべての反応性末端基(アミン及びヒドロキシル)が例えばリジンジイソシアナートによってキャップされるポリウレタン前駆体であり、プレポリマー中に多数の末端イソシアナート基を残すが、好ましくは(さらなる反応を防止するために)少量のみの遊離ヒドロキシル又はアミン基を残すか、遊離ヒドロキシル又はアミン基を残さない。そのようなプレポリマーを組織に接触させることによって、遊離アミン基又はヒドロキシル基のプレポリマー中のイソシアナート基との反応でポリマーを組織に共有結合させることができる。さらに、水もまたイソシアナート基と反応して、CO2を放ち、さらに遊離アミン基(最終的にイソシアナートと反応して架橋点を形成する)を形成する。
一般に、多くの架橋点は、グルコース(5つのヒドロキシル基を含む)の濃度により主に制御される。相対的に高い濃度のグルコースを用いることにより、架橋点が増加し、架橋ポリマーネットワークの弾性係数が増加する。PEGのような生体適合性であり、一般的に可塑性であるポリマーは、ある程度スペーサーとして機能する。本発明の接着剤で使用するPEGの分子量を増加させると、架橋点間の距離が大きくなり、架橋ポリマーネットワークの弾性係数が減少する。
本発明の接着剤とは異なって、市販のポリウレタン(接着剤を含む)は、芳香族イソシアナートから生成される。その分解速度は、(生分解性接着剤として)インビボで使用するには十分に早くなく、市販のポリウレタン接着剤の分解副生成物は、有毒な芳香族ジアミンを含む。
リジンジイソシアナートは、ピリジンの存在下でリジンのエチルエステルをホスゲン化することによって生成された。リジン又はそのエチルエステルと異なって、LDIは揮発性であり、それ故減圧蒸留により容易に精製される。
【0016】
いくつかの研究により、LDI系ポリマーの生体適合性及び生分解性が示された。例えば、ポリマー発泡体(foams)は、水をグリセロール/LDIプレポリマーに添加することによって生成された。プレポリマーは、グリセロール中の3つのヒドロキシル基のそれぞれのLDIによるキャッピングにより生成された。発泡体の分解は、数週間にわたって生じ、60日後材料の2/3が消失した。分解生成物を、主にリジン及びグリセロールとして測定した。このように、前記材料は従来のポリウレタンよりも明らかに早く分解した。おそらく、エステル基(リジン由来)はウレタン結合を活性化して加水分解する。さらに、1度加水分解したエステル基は、インサイツ酸触媒として作用してウレタン結合の加水分解を促進する。ニュージーランドのホワイトラビット由来の骨髄ストローマ細胞(BSMC's)をグリセロール/LDIフォームに播種し、接着及び広がりを観察した。BMSC'sは、コラーゲン(ヒドロキシルプロリンの測定により調べた)をコントロール細胞と釣り合ったレベルで生成した。
さらに、グルコース/LDI発泡体を用いて研究を行った。そのような研究において、LDIを5:2の比でグルコースに添加した。水の添加により、硬い(高弾性係数)発泡体材料を生成した。LDI+グルコース反応の完了前のプレポリマーサンプルを採取することによって、柔らかく、可塑性である発泡体を生成できた。先の研究の場合のように、BMSC'sをこれらの発泡体に播種した。BMSC'sは、ともに発泡体に接着し、その上に広がった。グルコース-LDI発泡体は、材料の架橋密度に依存して2〜3ヶ月間にわたって糖及びリジンに分解した(すなわち、柔らかい発泡体は硬い発泡体よりも早く分解した)。さらに、グルコース-LDI発泡体の少量のサンプルをニュージーランドのホワイトラビットに移植した。組織の周囲の材料のサンプルを2ヶ月後に取り除いた。例えば、ポリ乳酸/グリコール酸コポリマーを用いるコントロールサンプルよりも少数の巨細胞が、これらのサンプルで観測された。
【0017】
上述のポリマー発泡体は、一般に高架橋材料であった。1度形成すると、これらの材料は再加工することができなかった。LDI及び2官能ポリエチレングリコール(200〜8000の分子量)から得た線状ポリマーも合成した。そのようなポリマーは加工できるが、水に溶解した。鎖増量剤としてチロシン、リジン又はトリプトファンを使用することにより、前記ポリウレタンの「硬い」部分を延ばして熱可塑性エラストマー(すなわち、加工可能な水不溶性ポリマー)を生成することができた。そのような研究において、過剰のLDIを他のアミノ酸に添加した。得られたLDI-アミノ酸-LDI化合物を、次いでポリエチレングリコールと反応させた。鎖増量した硬い部分の使用は、水に溶解しないLDIからの加工可能なポリウレタンの生成を可能にした。
上述の架橋材料は、以下の図4Bに関して記載される通りにそれ自体適用できるが、一般に接着剤として使用するのには好ましくはない。それでもなお、上記研究は、(a)イソシアナート末端プレポリマーが容易に合成され、(b)LDIと、グルコース又はグリセロールのいずれかとから生成されるポリマー発泡体が2〜3ヵ月間にわたって分解して、主にリジン及びヒドロキシ官能前駆体を生成し、(c)骨髄ストローマ細胞がLDIから生成されるポリマー発泡体に容易に接着及び成長し、(d)LDI-グルコースポリマーがインビボで緩やかな免疫反応を生成することを示した。
【0018】
本発明の接着剤の好ましい実施態様には、上述の組織に適用することによって架橋するのに適した官能性を持ったイソシアナートキャップドプレポリマーの混合物が含まれる。耐水性の生分解性及び生体適合性ポリマーネットワークに硬化する延ばすことができる接着剤を達成するために、プレポリマーは、上述のLDI又はLTIのような多イソシアナート官能分子、架橋点を生成するために相対的に高い官能性を持った(少なくとも3つの反応性官能基を有する)グリセロール又は糖のような分子、及びプレポリマーの内部鎖に組み込むために少なくとも2官能性でなければならないPEGのようなスペーサー分子/基を組み込むことができる。スペーサーは、好ましくはプレポリマーの他の成分に比べて濃度が高い場合に、接着剤の粘度を低下させ、及び/又は硬化ポリマーネットワークの弾性係数を減少させるために作用する少なくとも50の数平均分子量のポリマーである。
好ましくは、接着剤の分子の実質的にすべての、又はすべての官能基は、イソシアナート官能基によってキャップ/官能化されて、さらなる反応を防止する。その点において、、少なくとも化学量論量のイソシアナート官能基、好ましくは過剰量のイソシアナート官能基が合成の際に使用される。図4Aで示されるように、そのような本発明の接着剤(接着剤の分子の実質的にすべての、又はすべての官能基がイソシアナート官能基によってキャップされる)は、適用するまで、長期間水の非存在下で水密容器に保管できる。図4Bで示されるように、長期の保管は、また1つの区画が過剰のヒドロキシル(及び/又はアミン)官能基を有する分子/プレポリマーの混合物を含み、他の区画が過剰のイソシアナート(-NCO)官能基を有する分子/プレポリマーの混合物を含む、2区画容器を用いて達成できる。前記容器は、組織に適用することによって各区画の内容物を混合して架橋ポリマーネットワークを生成するために、技術的に知られる混合ユニット又は要素を含むことができる。
【実施例】
【0019】
(実施例1)
後述する手順を用いて、代表的なLDI系ポリウレタン組織接着剤又は糊を合成した。接着剤を生成するために、0.5889グラムのグルコース(3.27mmol、-OH 16.36mmol)を乾燥した丸底フラスコの5mlのPEG 400(14.09mmol、-OH 28.18mmol)に添加し、窒素を流し、50℃で加熱して、透明な溶液とした。PEGは、室温で液体であり、さらに溶媒を必要としないでグルコースの溶解度を高めた。その後、4.6mlのリジンジイソシアナート(LDI、d 1.157、FW 226、23.55mmol、-NCO 47.10mmol)を添加し、フラスコにゴムの膜(rubber septa)を取り付け、密封した。反応混合物を50℃で48時間攪拌し、粘性溶液を得た。使用するまで、窒素雰囲気下で、粘性溶液を室温で保持した。粘性液を2片の湿った組織のそれぞれの上に延ばし、一緒に加圧したときに、約1〜2分後互いにしっかりと接着した。
【0020】
(実施例2)
PEG 400ではなくPEG 200を用いる以下の手順により、別のLDI系ポリウレタン組織を合成した(実施例1の接着剤よりも固いシールを最終的に生成し、実施例1の接着剤よりも大きい強度を示す)。この手順において、0.6グラムのグルコース(3mmol、-OH 15mmol)を乾燥した丸底フラスコの5mlのPEG 200(28.18mmol、-OH 56.35mmol)に添加し、窒素を流し、50℃で加熱して、透明な溶液とした。その後、7mlのLDI(d 1.157、FW 226、35.83mmol、-NCO 71.67mmol)を添加し、フラスコにゴムの膜を取り付け、密封した。反応混合物を50℃で48時間攪拌し、粘性溶液を得た。使用するまで、窒素雰囲気下で、糊を室温で保持した。粘性液を2片の湿った組織のそれぞれの上に延ばし、一緒に加圧したときに、1〜2分後互いにしっかりと接着した。
【0021】
(実施例3)
実施例3は、グルコースの一部が反応混合物中で増加し、創傷を閉鎖するのに必要な時間がより短く、結合強度が増加し、最終的な材料がより固いことを示した。この実施例において、1.8グラムのグルコース(10mmol、-OH 50mmol)を乾燥した丸底フラスコの5mlのPEG 200(28.18mmol、-OH 56.35mmol)に添加し、窒素を流し、50℃で加熱して、透明な溶液とした。その後、10mlのLDI(d 1.157、FW 226、51.19mmol、-NCO 102.02mmol)を添加した。フラスコにゴムの膜を取り付け、密封した。反応混合物を50℃で48時間攪拌し、粘性溶液を得た。使用するまで、窒素雰囲気下で、糊を室温で保持した。粘性液を2片の湿った組織のそれぞれの上に延ばし、一緒に加圧したときに、約1分後互いにしっかりと接着した。
【0022】
(実施例4)
この実施例では、PEG 200をPEG 400に代えたことを除いて、一般に実施例3の手順に従った。この実施例では、1.8グラムのグルコース(10mmol、-OH 50mmol)を乾燥した丸底フラスコの10mlのPEG 400(28.18mmol、-OH 56.35mmol)に添加し、窒素を流し、50℃で加熱して、透明な溶液とした。その後、10mlのLDI(d 1.157、FW 226、51.19mmol、-NCO 102.39mmol)を添加し、フラスコにゴムの膜を取り付け、密封した。反応混合物を50℃で48時間攪拌し、粘性溶液を得た。使用するまで、窒素雰囲気下で、この溶液を室温で保持した。粘性液を2片の湿った組織のそれぞれの上に延ばし、一緒に加圧したときに、約1分後互いにしっかりと接着した。
【0023】
(実施例5)
この実施例では、リジントリイソシアナートをリジンジイソシアナートに代えて用いた。リジントリイソシアナートは商業的に得ることができ、又は(a)多くのカルボジイミドの任意の1つを用いて、リジンにエチレンジアミン(かなり過剰の)を結合させることによってリジンのアミノアミド誘導体を生成し、続いて(b)ホスゲン化することによって合成できる。LDIに代わりにLTI(リジントリイソシアナート)をグルコース及びPEGと反応させた場合、材料の硬化時間ははるかに短くなり(30秒)、結合強度ははるかに強くなった。この実施例では、0.6グラムのグルコース(3.33mmol、-OH 16.67mmol)を乾燥した丸底フラスコの5mlのPEG 200(28.18mmol、-OH 56.35mmol)に添加し、窒素を流し、50℃で加熱して、透明な溶液とした。その後、5mlのLTI(d 1.231、FW 267.25、23.05mmol、-NCO 69.15mmol)を添加し、フラスコにゴムの膜を取り付け、密封した。反応混合物を50℃で48時間攪拌し、粘性溶液を得た。使用するまで、窒素雰囲気下で、この溶液を室温で保持した。粘性液を2片の湿った組織のそれぞれの上に延ばし、一緒に加圧したときに、約30秒後互いにしっかりと接着した。
【0024】
(実施例6)
この実施例では、PEG 400(PEG 200に代えて)をTLIと反応させたことを除いて、一般に実施例5の手順に従った。この実施例では、材料の硬化時間はLTI-グルコース-PEG 200と同じであった。0.229グラムのグルコース(1.27mmol、-OH 6.36mmol)を乾燥した丸底フラスコの5mlのPEG 400(14.1mmol、-OH 29.2mmol)に添加し、窒素を流し、50℃で加熱して、透明な溶液とした。その後、2.5mlのLTI(d 1.231、FW 267.25、11.52mmol、-NCO 34.55mmol)を添加し、フラスコにゴムの膜を取り付け、密封した。反応混合物を50℃で48時間攪拌し、粘性溶液を得た。使用するまで、窒素雰囲気下で、粘性溶液を室温で保持した。粘性液を2片の湿った組織のそれぞれの上に延ばし、一緒に加圧したときに、約30秒後互いにしっかりと接着した。
【0025】
(実施例7)
この実施例では、2つの前駆体溶液を調製し、次いで湿った組織に適用する直前に混合した。溶液Aを2.15gのPEG 200(10.75mmol、-OH 21.5mmol)及び4.4mlのLDI(d 1.157、FW 226、22.53mmol、-NCO 45.05mmol)から48時間の反応後作製した。溶液Bを4.2gのPEG 200(21mmol、-OH 42mmol)及び2.2mlのLDI(11.26mmol、-NCO 22.52mmol)から48時間の反応後作製した。溶液Aは反応混合物中過剰のLDIを有し、溶液Bは反応混合物中過剰のPEG 200を有するために、溶液A及びBは、ともに長期間保管できる。同量の各溶液を十分に混合して糊として使用した。溶液A及びBを十分に混合し(1:1の体積比)、粘性液を2片の湿った組織のそれぞれの上に延ばした。一緒に加圧したときに、組織片は2分後互いにしっかりと接着した。
【0026】
(実施例8)
この実施例では、2つの前駆体溶液を再度調製し、次いで湿った組織に適用する直前に混合した。溶液Aを4gのPEG 400(10mmol、-OH 20mmol)及び4mlのLDI(d 1.157、FW 226、20.48mmol、-NCO 40.96mmol)から48時間の反応後作製した。溶液Bを8gのPEG 400(20mmol、-OH 40mmol)及び2mlのLDI(10.23mmol、-NCO 20.48mmol)から48時間の反応後作製した。溶液Aは反応混合物中過剰のLDIを有し、溶液Bは反応混合物中過剰のPEG 400を有するために、溶液A及びBは、ともに長期間の保管が容易であった。同量の各溶液を十分に混合して糊として使用した。溶液A及びBを十分に混合し(1:1の体積比)、粘性液を2片の湿った組織のそれぞれの上に延ばした。一緒に加圧したときに、組織片は2分後互いにしっかりと接着した。
【0027】
(実施例9)
この実施例では、2つの前駆体溶液を再度調製し、次いで湿った組織に適用する直前に混合した。溶液Aを5mlのPEG 200(28.18mmol、-OH 56.35mmol、総-OH 81.35mmol)及び16mlのLDI(d 1.157、FW 226、81.9mmol、-NCO 163.82mmol)への0.9gのグルコース(5mmol、-OH 25mmol)から48時間の反応後作製した。溶液Bを10mlのPEG 200(56.35mmol、-OH 112.7mmol、総-OH 162.7mmol)及び8mlのLDI(40.96mmol、-NCO 81.91mmol)中1.8gのグルコース(5mmol、-OH 25mmol)から48時間の反応後作製した。溶液Aは反応混合物中過剰の-NCOを有し、溶液Bは反応混合物中過剰の-OHを有するために、溶液A及びBは、ともに長期間の保管が容易であった。同量の各溶液を十分に混合して糊として使用した。溶液A及びBを十分に混合し(1:1の体積比)、粘性液を2片の湿った組織のそれぞれの上に延ばした。一緒に加圧したときに、組織片は約2分後互いにしっかりと接着した。
【0028】
(実施例10)
この実施例では、本発明のLDI-ポリウレタン接着剤とともに、ゼラチンを用いた。硬化時間は、LDI系ポリウレタン接着剤をゼラチンなしで使用した場合よりも短かった。この実施例では、100μlの0.1%ゼラチン(タイプA:ブタの皮膚由来、300 bloom、Sigma Co.)を0.5mlの実施例1のLDI系ポリウレタンと混合した。この粘性液を2片の湿った組織のそれぞれの上に延ばし、一緒に加圧したときに、組織片は約10〜30秒後互いにしっかりと接着した。
先の記載及び添付図面は、現時点での本発明の好ましい実施態様を示す。種々の変更、追加及び設計代案は、もちろん本発明の範囲から離れることなしに、先の教示に照らして当業者に明らかであろう。本発明の範囲は、先の記載によらず、むしろ特許請求の範囲によって示される。特許請求の範囲の意義及びその均等の範囲ないに含まれるすべての変更及び多様性は本発明の範囲内に含まれるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のイソシアナートキャップドプレポリマーの一般的な構造を示す。
【図2】リジンジイソシアナート(LDI)、リジントリイソシアナート(LTI)、ポリエチレングリコール(PEG)及びグルコースの化学構造を示す。
【図3】LDIキャップドグルコース、LDIキャップドポリエチレングリコール及びLDIキャップドLID-PEG-グルコースプレポリマーの化学構造の例を示す。
【図4A】接着剤の分子の実質的にすべて又はすべての官能基がイソシアナート官能基によってキャップされている本発明の接着剤を含む容器を示す。
【図4B】1つの区画が過剰のヒドロキシル(及び/又はアミン)官能基を有する分子/プレポリマーの混合物を含み、他の区画が過剰のイソシアナート(-NCO)官能基を有する分子/プレポリマーの混合物を含む、2区画容器を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着剤を有機組織に適用する方法であって、分子の混合物を有機組織に適用する工程を含み、前記分子は末端イソシアナート官能基を有し、前記分子混合物の平均イソシアナート官能性が少なくとも2.1であり、前記分子混合物の粘度が約1〜約100センチポアズの範囲であり、前記分子混合物が水の存在下で有機組織との接触により架橋ポリマーネットワークを形成し、前記架橋ポリマーネットワークが生体適合性及び生分解性であり、前記架橋ポリマーネットワークが生体適合性である分子に生分解する、前記方法。
【請求項2】
前記分子混合物の平均イソシアナート官能性が少なくとも2.5である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記分子混合物がリジントリイソシアナート又はリジントリイソシアナート誘導体を含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記分子混合物がリジントリイソシアナートエチルエステルを含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記分子混合物が多イソシアナート官能分子と、ヒドロキシル基、第1級アミノ基及び第2級アミノ基からなる群より選ばれる末端官能基を含む多官能前駆分子とを反応させることによって形成されるイソシアナートキャップド分子を含み、多官能前駆化合物は生体適合性であり、多イソシアナート官能分子の多アミン官能前駆体が生体適合性である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
多イソシアナート官能分子の多アミン官能前駆体が生体適合性アミノ酸又はアミノ酸の生体適合性誘導体である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
多官能前駆分子がポリエチレングリコール、ポリアミノ酸、脂肪族ポリエステル、糖類、多糖類、脂肪族ポリカルボナート、ポリ無水物、ステロイド、グリセロール、アスコルビン酸、アミノ酸又はペプチドのうち少なくとも1つを含む、請求項5記載の方法。
【請求項8】
多官能前駆分子がポリエチレングリコールを含み、多イソシアナート官能分子がリジンジイソシアナートエステル又はリジントリイソシアナートエチルエステルのうち少なくとも1つを含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
多官能前駆分子がさらにグルコースを含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
ポリエチレングリコールの数平均分子量が10,000未満である、請求項8記載の方法。
【請求項11】
ポリエチレングリコールの数平均分子量が2,000未満である、請求項8記載の方法。
【請求項12】
ポリエチレングリコールの数平均分子量が1,000未満である、請求項8記載の方法。
【請求項13】
前記分子混合物が2分以内に架橋ポリマーネットワークを形成する、請求項1記載の方法。
【請求項14】
架橋ポリマーネットワークが約7〜約14日で生分解する、請求項1記載の方法。
【請求項15】
多イソシアナート官能分子と、ヒドロキシル基、第1級アミノ基及び第2級アミノ基からなる群より選ばれる末端官能基を含む多官能前駆分子とを反応させることによって形成されるイソシアナートキャップド分子の混合物を含む接着剤であって、多官能前駆化合物は生体適合性であり、多イソシアナート官能分子の多アミン官能前駆体も生体適合性であり、前記分子混合物の平均イソシアナート官能性が少なくとも2.1であり、前記分子混合物の粘度が約1〜約100センチポアズの範囲であり、前記分子混合物が水の存在下で有機組織との接触により架橋ポリマーネットワークを形成し、前記架橋ポリマーネットワークが生体適合性及び生分解性であり、前記架橋ポリマーネットワークが前記前駆分子及び前記多アミン官能前駆体を含む分解生成物に分解する、前記接着剤。
【請求項16】
前記分子混合物の平均イソシアナート官能基が少なくとも2.5である、請求項15記載の接着剤。
【請求項17】
前記分子混合物がリジントリイソシアナート又はリジントリイソシアナート誘導体を含む、請求項15記載の接着剤。
【請求項18】
前記分子混合物がリジントリイソシアナートエチルエステルを含む、請求項15記載の接着剤。
【請求項19】
多イソシアナート官能分子の多アミン官能前駆体が生体適合性アミノ酸又はアミノ酸の生体適合性誘導体である、請求項15記載の接着剤。
【請求項20】
多官能前駆分子がポリエチレングリコール、ポリアミノ酸、脂肪族ポリエステル、糖類、多糖類、脂肪族ポリカルボナート、ポリ無水物、ステロイド、グリセロール、アスコルビン酸、アミノ酸又はペプチドのうち少なくとも1つを含む、請求項15記載の接着剤。
【請求項21】
多官能前駆分子がポリエチレングリコールを含み、多イソシアナート官能分子がリジンジイソシアナートエステル又はリジントリイソシアナートエチルエステルのうち少なくとも1つを含む、請求項20記載の接着剤。
【請求項22】
多官能前駆分子がさらにグルコースを含む、請求項21記載の接着剤。
【請求項23】
ポリエチレングリコールの数平均分子量が10,000未満である、請求項21記載の接着剤。
【請求項24】
ポリエチレングリコールの数平均分子量が2,000未満である、請求項21記載の接着剤。
【請求項25】
ポリエチレングリコールの数平均分子量が1,000未満である、請求項21記載の接着剤。
【請求項26】
前記分子混合物が2分以内に架橋ポリマーネットワークを形成する、請求項21記載の接着剤。
【請求項27】
架橋ポリマーネットワークが約7〜約14日で生分解する、請求項21記載の接着剤。
【請求項28】
多イソシアナート官能分子と、ヒドロキシル基、第1級アミノ基及び第2級アミノ基からなる群より選ばれる末端官能基を含む多官能前駆分子とを反応させることによって形成されるイソシアナートキャップドプレポリマーの混合物を含む接着剤であって、多官能前駆化合物は生体適合性であり、多イソシアナート官能分子の多アミン官能前駆体も生体適合性であり、多官能前駆体のうち少なくとも1つが少なくとも50の数平均分子量を有する可塑性生体適合性ポリマーであり、前記プレポリマー混合物の平均イソシアナート官能性が少なくとも2.1であり、前記プレポリマー混合物が延ばすことができ、前記プレポリマー混合物が水の存在下で有機組織との接触により架橋ポリマーネットワークを形成し、前記架橋ポリマーネットワークが生体適合性及び生分解性であり、前記架橋ポリマーネットワークが前記前駆分子及び前記多アミン官能前駆体を含む分解生成物に分解する、接着剤。
【請求項29】
少なくとも1つの多官能ポリマー前駆体がポリエチレングリコールである、請求項28記載の接着剤。
【請求項30】
少なくとも1つの他の多官能前駆体が3つ以上のヒドロキシル基を有する分子である、請求項28記載の接着剤。
【請求項31】
少なくとも1つの多官能ポリマー前駆体が糖である、請求項30記載の接着剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【公表番号】特表2008−500095(P2008−500095A)
【公表日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−515009(P2007−515009)
【出願日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【国際出願番号】PCT/US2004/016767
【国際公開番号】WO2005/118011
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(501240442)ユニヴァーシティ オブ ピッツバーグ (4)
【Fターム(参考)】