説明

医療機器の為の放出制御薬物コーティング

【課題】薬物充填コーティングの複数の層を有する医療機器及び被覆された医療機器からの薬物放出特性を制御する方法を提供する。
【解決手段】薬物充填コーティングの複数の層の内の少なくとも1つの層が、層の内の少なくとも一つの他の層よりも親水性である。修飾及び/又は非修飾コポリマーの複数の層を用い、修飾の非修飾コポリマーに対する比率を変化させることにより被覆された医療機器からの薬物放出特性を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薬物被覆された医療機器及びそれからの薬物放出特性の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療機器は薬物が分散したポリマーマトリックスで被覆されていても良い。例えば、多くの冠動脈ステントはパクリタキセルのような薬物を含むポリマーで被覆される。ステントが動脈内部に設置された後、薬物はポリマーマトリックスを通って拡散し、周りの組織に放出される。ステントから放出された薬物は血管形成術及びステント設置後の再狭窄を予防する為に作用することができる。
【0003】
薬物又は治療薬剤がポリマーマトリックス内に拡散され及び周囲の溶液又は組織に放出される速度はその薬物放出特性に特徴付けられる。図1は、薬物がポリマーマトリックス中粒子として分散している薬物/ポリマー-被覆ステントの代表的な薬物放出特性を図示している。図1に示されるように、対象とする血管内にステントを移植した後、ポリマーマトリックスの表面又はその近くに存在する薬物の急速な薬物放出(バースト放出(burst release))が初期に起こり数日間にわたる。このバースト放出に続いてより遅い持続性放出の段階が数日間、数週間又は数ヶ月間にわたり起こる。この持続性放出はポリマーマトリックスの内部からの薬物の拡散による。
【0004】
薬物/ポリマー-被覆ステントの薬物放出特性を制御することが望ましく、これは様々な方法で達成することができる。いくつかのアプローチは異なる薬物は異なるポリマーを異なる速度で拡散するという事実により優位である。例えば、Yangらの米国特許第6,258,121は参照として本明細書に組み込むが、共に混合した2つの異なるポリマーによるポリマー性コーティングの形成を記載する。Van Antwerpの米国特許第6,770,729もまた参照として本明細書に取り込むが多層の親水性ハイドロゲルポリマーは薬物放出速度を制御する為に使用されるアプローチを記載する。従来技術におけるこれら及び他のアプローチにもかかわらず、薬物放出特性をよりよく制御できる医療機器からの薬物放出を調節することへのアプローチの必要性は続くだろう。
【発明の概要】
【0005】
1つの実施態様において、本発明は医療機器本体及び医療機器本体上に処置されたコーティングを含む被覆された医療機器を提供する。コーティングは第1層及び第2層を含む。第1層は第1コポリマー及び第1治療薬剤を含む。第2層は第2コポリマー及び第2治療薬剤を含む。第1及び第2コポリマーはブロックコポリマー、ランダムコポリマー又は交互コポリマーであって良い。本発明のこの実施例に従った第2層は、コーティングの第1層よりも親水性である。第1層は非修飾コポリマーを含んでもよく、第2層は修飾コポリマーを含んでも良い。第1及び第2層の両方は非修飾及び修飾コポリマーの両方を所望の放出特性を達成する比率で含んでも良い。
【0006】
他の態様において本発明は被覆された医療機器からの薬物放出特性の制御方法を提供する。当該方法は医療機器本体及び医療機器本体上に処置されたコーティングを含む被覆された医療機器を提供する。コーティングは複数の層を含み複数の層はそれぞれコポリマー及び治療薬剤を含む。各層は非修飾及び修飾コポリマーの両方を含む。各複数の層中における修飾コポリマーの非修飾コポリマーに対する比率は被覆された医療機器からの治療薬剤の放出特性を制御するために選択してよい。
【0007】
本発明は本明細書の記載及び例示のみを目的として示され、本発明を制限しないための図より完全に理解されるだろう:
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】典型的なステントコーティングから経時的に放出された薬物の量を図示する。
【図2】コーティングの第1及び第2層を示す本発明の実施例の医療機器の断片的な部分の横断面図である。
【図3】非修飾スチレン-イソブチレン-スチレン(SIBS)でコートされたステントと比較した無水マレイン酸-グラフト スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン(SEBS)でコートされたステントから放出されたパクリタキセルの累積%を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図2に関し、1態様において、本発明は医療機器本体20及び医療機器本体20上に施されたコーティング30を含む被覆された医療機器10を提供する。コーティング30は、本発明の任意の実施態様において、医療機器本体20の全体又は医療機器本体20の全表面より少ない任意の部分を被覆する被覆ができる。図2に示すように、コーティング30は第1層40及び第2層50を含む。第1層40は図1中に下層として示されており、 第2層50は上層として示されているが、第1及び第2層40及び50は逆でも良く、「第1」及び「第2」という用語はいかなる特定の層の順序を意味する物ではない。第1及び第2層40及び50はブロックコポリマー、ランダムコポリマー又は交互コポリマーを含んでよく、治療薬剤又は薬物22をそれらの中に分散していても良い(「薬物」及び「治療薬剤」の用語は本明細書において互換的に使用される)。本発明のこの実施態様において、第2層50は第1層40よりも親水性である。本明細書で使用されるように、「親水性」又は「疎水性」という用語は水親和性の絶対的な測定値に限定することを意図するものではない。むしろ、該用語は相対的な水親和性を記載することにも使用される。例えば、2つの異なるポリマーが共に当業者に疎水性であると認識されたとしても、一方のポリマーはなお他方よりも親水性である。
【0010】
医療機器上のポリマーコーティングからの薬物の放出はポリマーの親水性(あるいは疎水性)に影響される。具体的には比較的より親水性であるポリマーにより液体がより急速にポリマーマトリックスへの拡散し、より親水性の低いポリマーより急速な薬物の拡散及び放出を起こす。 本明細書で使用するように「遅い」、「早い」又は「急速」という用語は絶対的な速度の測定値に制限することを意図するものではなく、むしろ相対的な速度を記載するために使用する。従って、本発明のこの実施態様において第2層50が第1層40よりも親水性であるので、第1及び第2層40及び50は異なる薬物放出特性を有する。治療薬剤22は第1層40のコポリマーよりも第2層50のコポリマーからより急速に拡散し、結果として第2層50からの治療薬剤22の放出が相対的により早くなる。同様に、第1層40は第2層50よりも親水性が低いので、治療薬剤22は第1層40のコポリマーを通って第2層50のコポリマーを通るよりもゆっくり拡散し、その結果第1層40からの治療薬剤の放出は相対的に遅くなる。上記の実施態様において、相対的に速い第2層50からの治療薬剤22の放出は医療機器本体20からの治療薬剤22のバースト放出を表す。その後第2層50からの治療薬剤22が枯渇し、第2層50からの薬物放出が減速する。しかしながら、治療薬剤22の第1層40からのより遅い持続性の放出は、医療機器本体20からの薬物放出を持続する。
【0011】
もちろん、上記の実施態様は例示的なものに過ぎず、医療機器10の薬物放出特性はコーティング30の組成を変化させることにより制御することができる。例えば、第2層50をより親水性に作成することにより、第1層40からの薬物の拡散に実質的に影響を与えることなく、第2層50からの薬物の拡散を増加させることができ、それにより持続性放出に実質的に影響を与えることなくバースト放出を増加させる。あるいは第1層40をより親水性を低く作成することにより、第2層50からの薬物の拡散に影響を与えることなく第1層40からの薬物の拡散を減少させることができ、それにより持続性放出に実質的に影響を与えることなくバースト放出を減少させる。
【0012】
コーティング30は図1に2つの層のみを有するように示されているが、コーティング30は、1つの層が他の層より親水性が高く、層が下から上の層へ親水性が増加する順番で配置されているである限り、任意の数の層を有していても良い。好ましい実施態様においてコーティング30は、各層が異なる程度の親水性を有する複数の層を含む。例えば、本発明の医療機器は上の層が相対的により親水性であり、中間層がより低い親水性を有し、下の層が最も低い親水性を有する3以上のコーティング層を有していても良い。
【0013】
本明細書で使用される「ブロックコポリマー」という用語は2以上の異なるタイプのモノマーがモノマーのブロックが、共にグループ化されている同じポリマー鎖内に共に結合しているポリマーをいう。「ブロックコポリマー」という用語には非修飾ブロックコポリマー及び修飾ブロックコポリマーの両方を内含する。本発明で使用される「非修飾」 ブロックコポリマー 又は「ベース」ブロックコポリマーは水に不溶性であり、一般的に約5質量%未満の水分吸収(water pickup)を示す疎水性である。本発明の1態様において、非修飾又はベースブロックコポリマーはPinchukらの米国特許第6,545,097号に記載されているものであって良く、本明細書に参照として組み込む。Pinchukは式:(i)BAB又はABA(リニアトリブロック);又は(ii)B(AB)n又はA(BA)n(リニア交互トリブロック);又は(iii)X-(AB)n又はX-(BA)n(式中Aはポリオレフィンのようなエラストマーブロックであり、Bはビニル芳香族又はメタクリレートのような熱可塑性ブロックでありXは核となる分子(seed molecule)であり、nは正の整数を有するブロックコポリマーを記載している。そのようなブロックコポリマーの例としては、約1質量%の水分吸収を有するスチレン-イソブチレン-スチレン(SIBS)又はスチレン-エチレン/ブチレン-スチレン(SEBS)が挙げられる。
【0014】
本発明で使用される「修飾」コポリマーはベースコポリマーと比較してより親水性版である。修飾 コポリマーはベースポリマーに親水性官能基を化学的に負荷すること又はベースコポリマーの出発モノマーの親水性誘導体を用いて合成することにより得ることができる。化学的付加反応により得られた修飾ブロックコポリマーの例としては スルホン化 SIBS、無水マレイン酸-グラフトSIBS、スルホン化SEBS及び無水マレイン酸-グラフトSEBSが挙げられる。修飾ブロックコポリマーの例は、ヒドロキシスチレン-イソブチレン-ヒドロキシスチレン及びアセトキシスチレン- イソブチレン-アセトキシスチレンを含むベースブロックコポリマーの出発物質親水性誘導体を用いて調製することである。
【0015】
本明細書で使用される「交互コポリマー」という用語は2以上の異なる種類のモノマーを同じポリマー鎖内で共に結合し、異なるモノマーが交代の順番で配列しているポリマーを意味する。「交互コポリマー」という用語には非修飾交互コポリマー及び修飾交互コポリマーの両方を含む。本発明で使用される「非修飾」交互コポリマー又は「ベース」交互コポリマーは水に不溶であり、約5質量%未満の吸水を示す疎水性であると一般的に認識される。
【0016】
本明細書で使用される「ランダムコポリマー」という用語は2以上の異なる種類のモノマーが同じポリマー鎖内で共に結合し異なるモノマーが任意の順番で配置されても良いポリマーを意味する。「ランダムコポリマー」という用語は非修飾ランダムコポリマー及び修飾 ランダムコポリマーの両方を含む。本発明で使用される「非修飾」ランダムコポリマー又は「ベース」ランダムコポリマーは水に不溶であり約5質量%未満の吸水を示す疎水性であると一般的に認識される。非修飾ランダムコポリマーの例としてはスチレン-ブタジエンランダムコポリマー及びメチルメタクリレート-ブチルアクリレート ランダムコポリマーが挙げられる。修飾ランダムコポリマーの例としてはヒドロキシスチレン-ブタジエンランダムコポリマー及びメチルメタクリレート-ブチルアクリレート-ヒドロキシエチルメタクリレートランダムコポリマーが挙げられる。
【0017】
本発明の他の態様において、コーティング30の第2層50は修飾ブロックコポリマーを含み、第1層40は非修飾ブロックコポリマーを含む。そのような実施態様において、第2層50は第1層40よりも親水性であり、第1層40よりも早い薬物放出を示す。本発明のさらに他の実施態様において第1及び第2層40及び50はそれぞれ様々な 修飾及び非修飾ブロックコポリマーの様々な比率のブレンドであってよい。例えば、第2層50がより親水性であり、それにより第1層40よりも早い薬物放出特性を有するように、第2層50における修飾ブロックコポリマーの非修飾ブロックコポリマーに対する比率は第1層40における修飾ブロックコポリマーの非修飾ブロックコポリマーに対する比率よりも高くても良い。本発明の他の実施態様のようにコーティング30は非修飾の修飾ブロックコポリマーに対する比率が変化する2以上の層を含むことができる。
【0018】
他の実施態様において、本発明は被覆された医療機器からの薬物放出特性を制御する方法を提供し、前記方法は医療機器本体を含む医療機器を提供する工程及び医療機器本体上にコーティングを施す工程を含む。コーティングは複数の層を含み複数の層のそれぞれが 修飾ブロックコポリマー、非修飾ブロックコポリマー及び治療薬剤を含む。本実施態様において各複数の層における修飾ブロックコポリマーの非修飾ブロックコポリマーに対する比率は治療薬剤の放出特性を制御するために変化させる。例えば比率を多数の層のうちの最上の層から多数の層の最下部へと連続的に減少させることができ、その結果最上の層から最低部の層まで連続的に、より遅い薬物放出をもたらすことができる。
【0019】
当業者は、本発明が放出特性を特異的に適合させることができることを認識するだろう。例えば、バースト放出特性は1つの層の組成を変化させることにより実質的に持続性放出特性に影響を与えることなく変化させることができ、逆もまた同様である。本発明の任意の実施態様において、本発明の医療機器の薬物放出特性を制御するための付加的な手段を提供するために他の手段を採用することができる。例えば、ポリマー層からの薬物放出は層の厚さ及び薬物:ポリマー比に影響されるので、本発明の医療機器の薬物放出特性はコーティングの層の任意の1以上の厚さ又は:ポリマー比を変化させることで制御することができる。
【0020】
本発明の任意の実施態様において、使用に適したブロックコポリマーの非限定的な例としてはスチレン-イソブチレン-スチレン(SIBS)、スチレン- エチレン/ブチレン-スチレン (SEBS); ヒドロキシスチレン-イソブチレン-ヒドロキシスチレン; ポリオレフィン エラストマーブロック; ビニル芳香性ブロック又はメタクリレートブロックのような熱可塑性ブロック;及びそれらの任意の組み合わせが挙げられる。本発明の医療機器のコーティングの任意のコーティング層におけるブロックコポリマーはベースブロックコポリマーと同じであっても異なっていても良い。ブロックコポリマーは無水マレイン酸をブロックコポリマー上にグラフとする又はブロックコポリマーをスルホン化するような、技術分野において良く知られた方法で修飾することができる。例えば、無水マレイン酸はトルエン又はテトラヒドロフランのような有機溶媒中でSEBS、無水マレイン酸及び有機フリーラジカル開始剤を混合することによってSEBS上にグラフトすることができる。他の例において、SIBSは、SIBS、硫酸及び無水酢酸を有機溶媒中で混合することによってスルホン化することができる。ベースブロックコポリマーそれ自体はPinchukらの米国特許第6,545,097号に記載されている方法のような技術分野でよく知られた方法で製造することができ、その開示全体を本明細書に参照として取り込む。
【0021】
本発明の任意の実施態様において、医療機器上のコーティングは上記コーティング層に対して任意の場所に位置するさらなる層を含むことができる。例えば、コーティングはさらに最上層に生体分解性層又は最下層に生体安定層を含むことができる。さらに、ブロックコポリマーを含むコーティングの任意の層は他の非-生体分解性及び/又は生体分解性ポリマーと混合することができる。多数の層のいずれかに組み入れることができる適切な非-生体分解性 ポリマーの非限定的な例としてはポリスチレン; ポリスチレン無水マレイン酸; ポリイソブチレンコポリマー;架橋 ポリビニルピロリドンを含むポリビニルピロリドン; ポリビニルアルコール、EVAのようなビニールモノマーのコポリマー; ポリビニル エーテル; ポリビニル芳香族; ポリエチレンオキシド; ポリエチレン テレフタラートを含むポリエステル; ポリアミド; ポリ(エチルメタクリレート-ブチルアセテート-メチルメタクリレート)トリブロックコポリマーを含むポリアクリルアミド;ポリエーテルスルホンを含むポリエーテル; ポリプロピレンを含むポリアルキレン、ポリエチレン及び高分子量ポリエチレン; ポリウレタン; ポリカーボネート、シリコーン; シロキサンポリマー;セルロースアセテートのようなセルロース系ポリマー; ポリウレタンディスパーション(BAYHDROL(登録商標))のようなポリマーディスパーション; スクアレンエマルション(squalene emulsions); 上記の任意の混合物及びコポリマー;及び上記の任意の親水性修飾ポリマーが挙げられる。
【0022】
適切な生体分解ポリマーの非限定的な例にはポリカルボン酸、無水マレイン酸ポリマーを含むポリ酸無水物(polyanhydrides);ポリオルソエステル; ポリ-アミノ酸; ポリエチレンオキシド; ポリホスファゼン; ポリ乳酸、ポリグリコール酸 及びポリ(L-乳酸) (PLLA)、ポリ(D,L,-ラクチド)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)、50/50 (DL-ラクチド-コ-グリコリド)のようなそれらのコポリマー及び混合物; ポリジオキサノン; ポリプロピレンフマレート; ポリデプシペプチド; ポリカプロラクトン及びポリ(D,L-ラクチド-コ-カプロラクトン)及びポリカプロラクトン-コ-ブチルアクリレートのようなそれらのコポリマー及び混合物; ポリヒドロキシ吉草酸ブチレート及び混合物; チロシン-誘導性ポリカーボネート 及びアリレートのようなポリカーボネート、ポリイミノカーボネート及びポリジメチルトリメチルカルボネート; シアノアクリレート;リン酸カルシウム; ポリグリコサミノグリカン; 多糖類(ヒアルロン酸; セルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロース; ゼラチン;デンプン; デキストラン; アルギン酸及びそれらの誘導体を含む)のような巨大分子、タンパク及びポリペプチド; 及び任意の前述のものの混合物及びコポリマーが挙げられる。生体分解性 ポリマーはポリヒドロキシブチレート及びそのコポリマーのような表面浸食可能(surface erodable)ポリマーであって良い。ポリカプロラクトン、ポリ酸無水物(結晶性及び無定形である物の両方)、無水マレイン酸コポリマー及びリン酸亜鉛、リン酸カルシウムが挙げられる。
【0023】
当業者は本発明の医療機器のコーティングの各層が噴霧又は浸漬のような様々な手段によって適用されることを認識するだろう。層間の乾燥は必要であっても必要でなくても良い。当業者はコーティング混合物を調製する様々方法がある、例えば様々な濃度の様々な治療薬剤(パクリタキセルのような)に応じて様々な溶媒(トルエン又はテトロヒドロフランのような)を使用してよいことについても認識するだろう。そのような本発明で使用されるコーティングは当該技術分野で知られる任意の方法で形成されても良い。例えば、最初にポリマー/溶媒混合物を形成し続いて治療薬剤をポリマー/溶媒混合物に加えることができる。あるいは、ポリマー、溶媒及び治療薬剤を同時に加えて混合物を形成することもできる。ポリマー/溶媒/治療薬剤混合物は分散、懸濁液、溶液であっても良い。治療薬剤はポリマーと溶媒無しで混合しても良い。治療薬剤はポリマー/溶媒混合物又はポリマーに溶解して混合物又はポリマーとの均一な溶液にし、微細な又は微粉砕化粒子が混合物又はポリマー内に分散し、混合物又はポリマー内にその溶解特性に基づいて懸濁し又は界面活性剤又のようなミセル形成化合物とあわせもしくは小さい担体分子上に吸着させて混合物又はポリマー懸濁液を作っても良い。コーティングは複数のポリマー及び/又は複数の治療薬剤を含んでも良い。
【0024】
他の実施態様において、本発明の医療機器のコーティングの異なる層は異なる薬物又は治療薬剤を有していて良い。 異なる薬物は異なる時期に放出されることが好ましい。例えば、第2層50が血管形成術後の治癒工程において有益な急速放出の為の1種類の薬物を有し、第1層40が後の治癒工程において有益な遅延性放出の為の別の種類の薬物を有しても良い。他の実施態様において、本発明の医療機器のコーティング異なる層は異なる濃度の薬物を有していても良い。
【0025】
本発明の医療機器のコーティングにおける治療薬剤は非-遺伝子治療薬剤、生体分子、低分子又は細胞のように任意の医薬的に許容可能な薬剤であって良い。
【0026】
非-遺伝子性治療薬剤の例としてはヘパリン、ヘパリン誘導体、プロスタグランジン(ミセルプロスタグランジンElを含む)、ウロキナーゼ、及び PPack (デキストロフェニルアラニン プロリン アルギニン クロロメチルケトン)のような抗−血栓薬(anti-thrombogenic agents);エノキサプリン(enoxaprin)、アンジオペプチン、シロリムス(ラパマイシン)、タクロリムス、エベロリムス、ゾタロリムス,平滑筋細胞増殖を阻害することができるモノクロナール抗体、ヒルジン、及びアセチルサリチル酸のような抗増殖薬;デキサメサゾン、ロシグリタゾン、プレドニゾロン、コルチコステロン、ブテソニド、エストロゲン、エストラジオール、スルファサラジン、アセチルサリチル酸、ミコフェノール酸及びメサラミンのような抗炎症薬; 抗新生物/抗増殖/微小管阻害(anti-mitotic) 薬 such as パクリタキセル、エポシロン、クラドリビン、5-フルオロウラシル、メトトレキセート、ドキソルビシン、ダウノルビシン、シクロスポリン、シスプラチン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、エポシロン、エンドスタチン、トラピジル、ハロフジノン及びアンジオスタチン; c-myc 癌遺伝子のアンチセンス阻害薬のような抗癌剤; トリクロサン、セファロスポリン、アミノグルコシド、ニトロフラントイン、 銀イオン化合物又は塩のような抗菌薬;非ステロイド性抗炎症薬又はエチレンジアミン四酢酸O,O'-bis (2- アミノエチル)エチレングリコール-N,N,N',N'-四酢酸及びそれらの混合物のようなキレート剤のようなバイオフィルム合成阻害薬;ゲンタマイシン、リファンピン、ミノサイクリン及びシプロフロキサシンのような抗生物質;キメラ抗体及び抗体フラグメントを含む抗体;リドカイン、ブピバカイン及びロピバカインのような麻酔薬; 一酸化窒素; リンシドミン、モルシドミン、L-アルギニン、NO-炭水化物 付加体、ポリマー性又はor オリゴマー性NO付加体のような一酸化窒素 (NO) 供与体; D-Phe-Pro-Arg クロロメチルケトン、RGD ペプチド-含有化合物、ヘパリン、抗トロンビン化合物、血小板受容体アンタゴニスト、抗トロンビン抗体、抗-血小板受容体抗体、エノキサパリン、ヒルジン、ワーファリンナトリウム、ジクマロール、アスピリン、プロスタグランジン阻害薬のような抗凝血薬、シロスタゾール及びマダニ抗血小板因子のような血小板凝集阻害薬;成長因子、転写活性化因子及び翻訳促進因子のような血管細胞増殖因子; 成長因子 阻害薬、成長因子 受容体アンタゴニストのような血管細胞増殖阻害薬、転写リプレッサー、翻訳リプレッサー、複製阻害薬、抑制性抗体、成長因子に対する抗体、成長因子及び細胞毒を含む二官能性分子、抗体及び細胞毒を含む二官能性分子; コレステロール低下薬(cholesterol-lowering agents); 血管拡張剤; 内因性の血管作動性メカニズムを妨げる薬物; ゲルタナマイシンのようなヒートショックタンパクの阻害薬; アンギオテンシン変換酵素(ACE) 阻害薬;β遮断薬; bAR キナーゼ (bARKct) 阻害薬; ホスホランバン阻害薬; ABRAXANE(登録商標)のようなタンパク結合粒子薬; 及び上記の任意の組み合わせならびにプロドラッグが挙げられる。
【0027】
生体分子の例としてはペプチド及びタンパク;オリゴヌクレオチド; 二本又は一本鎖DNA (naked及びcDNAを含む)、RNA、アンチセンスDNA及びRNAのようなアンチセンス核酸, 低分子干渉 (siRNA:small interfering RNA)及びリボザイムのような核酸; 遺伝子; 炭水化物; 成長因子を含む血管新生因子; 細胞周期阻害薬; 及び抗再狭窄薬が挙げられる。核酸は例えば、ベクター (ウィルスベクターを含む)、プラスミド又はリポソームのような運搬系に組み込んでも良い。
【0028】
タンパク質の非限定的な例にはserca-2 タンパク、単球走化性タンパク質(MCP-I) 及び 例えば、BMP-2、BMP-3、BMP-4、BMP-5、BMP-6(Vgr-1)、BMP-7 (OP-I)、BMP-8、BMP-9、BMP-10、BMP-11、BMP-12、BMP-13、BMP-14、BMP-15がのような骨形態形成タンパク質 (「BMP」)が含まれる。好ましいBMPSは任意のBMP-2、BMP-3、BMP-4、BMP-5、BMP-6及びBMP-7である。
これらBMPsは単独又は他の分子と共に、ホモダイマー、ヘテロダイマー又はそれらの組み合わせとして提供することができる。もしくは、さらに、BMPの上流の、または、川下の効果を引き起こすことができる分子を供給できる。そのような分子には任意の「ヘッジホッグ」タンパク又はそれらをコードするDNAが含まれる。
遺伝子の非限定的な例としては、抗アポトーシス性Bcl-2ファミリー因子及びAkt キナーゼのような細胞死から保護する生存遺伝子(survival genes); serca 2遺伝子; 及びそれらの組み合わせが含まれる。血管新生因子の非限定的な例には酸性及び塩基性繊維芽細胞増殖因子、血管内皮増殖因子、上皮成長因子、トランスフォーミング成長因子 α及びβ、血小板由来内皮細胞増殖因子、血小板由来増殖因子、腫瘍壊死因子 α、肝細胞増殖因子及びインスリン様成長因子が含まれる。細胞周期阻害剤の非-限定的な例はカテプシンD (CD)阻害剤である。抗-最狭窄薬の非限定的な例としてはp15、p16、p18、p19、p21、p27、p53、p57、Rb、nFkB及びE2Fデコイ、チミジンキナーゼ(「TK」)及びそれらの組み合わせ及び細胞増殖を阻害するのに有用な他の薬剤が挙げられる。
【0029】
低分子化合物の例としてはホルモン、核酸、アミノ酸、糖及び資質及び100kD未満の分子量を有する化合物が挙げられる。
【0030】
例示的な細胞には肝細胞、前駆細胞、内皮細胞、成人心筋細胞及び平滑筋が含まれる。細胞はヒト由来 (自家又は同種)又は動物由来(異種)又は遺伝子的に操作されたものであってよい。細胞の非限定的な例には、SP 細胞(side population cell)、Lin- CD34", Lin-CD34+、Lin-cKit+を含む未分化細胞(lineage negative (Lin-) cells)、間葉系幹細胞が、5-azaを有する間葉系幹細胞、臍帯血細胞、心臓又は他の組織由来幹細胞、whole bone marrow、骨髄単核細胞、内皮前駆細胞、骨格筋芽細胞または衛星細胞、筋由来細胞、ゴー細胞(go cell)、内皮細胞、成人心筋細胞、線維芽細胞平滑筋細胞、成人心臓線維芽細胞+ 5-aza、遺伝子修飾 細胞、組織工学グラフと、MyoD スカー(scar)繊維芽細胞、ペーシング細胞,胚性幹細胞クローン、胚性幹細胞、胎児又は新生児細胞、免疫学的にマスクされた細胞および奇形種誘導細胞が挙げられる。
【0031】
任意の治療薬剤は生物学的適合性である範囲で組み合わされても良い。本発明の医療機器はX線造影剤(radio-opacifying agent)をその構造内に含み、挿入の間及び装置が移植された場合は任意の位置で医療機器の視覚化を改善してもよい。X線造影剤の非限定的な例は次炭酸ビスマスと、オキシ塩化ビスマス、三酸化ビスマス、硫酸バリウム、タングステン及びそれらの混合物である。
【実施例1】
【0032】
非修飾SIBS及び8.8質量%のパクリタキセルを有機溶媒に溶解しコーティング混合物を形成する。このコーティング混合物をステント上に噴霧し、乾燥させる。続いてステントから放出されたパクリタキセルの量を5O℃におけるアルコール及び水抽出を図3において「速い放出層」と表記された線上にプロットして決定する。この放出特性は期間を通じてこのステントコーティングから放出されたパクリタキセルの累積量を示す。
無水マレイン酸 SEBS及び8.8質量%パクリタキセルを有機溶媒に溶解しコーティング混合物を形成する。このコーティング混合物をステント上に噴霧し乾燥させる。続いてステントから放出されたパクリタキセルの量を5O℃におけるアルコール及び水抽出を図3において「速い放出層」と表記された線上にプロットして決定する。これら2つの薬物放出特性を比較することにより非修飾SIBSポリマー層からよりも無水マレイン酸-グラフト SEBS ポリマー層からのパクリタキセルの放出がより早いことが示される。
【0033】
上の記載及び実施例は単に発明を概略するために示され、それに制限されることを意図しない。開示されたそれぞれの本発明の特徴及び態様は個々に又は本発明の他の特徴及び態様及び変形と組み合わせて認識される。さらに、特に他に特定しない限りさらに、別の方法で指定されない場合、本発明の方法のいずれの工程も、いかなる特定の作業の順番に制限されない。本発明の精神と実体に組み込まれる開示された実施態様の改変は当業者に明らかであり、前記改変は本明細書に添付する請求項の範囲内である。
さらに、本明細書で引用されたすべての参考文献はその全体を参照として組み込む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆された医療機器であって、
(a)医療機器本体;及び
(b)医療機器本体上に処理されたコーティングであり、前記コーティングは:
(i)第1治療薬剤を有する第1コポリマーを含む第1層;及び
(ii)第2治療薬剤を有する第2コポリマーを含む第2層であって、第1層より親水性である第2層;を含み、
第1コポリマー及び第2コポリマーはそれぞれブロックコポリマー、ランダムコポリマー、又は交互コポリマーからなる群から選択される前記コーティング
を含む前記被覆された医療機器
【請求項2】
被覆された医療機器がステントである、請求項1記載の被覆された医療機器。
【請求項3】
第1層が第2層より医療機器本体の近くである、請求項1記載の被覆された医療機器。
【請求項4】
第2コポリマーが修飾ブロックコポリマーである、請求項1記載の被覆された医療機器。
【請求項5】
修飾ブロックコポリマーがスルホン化スチレン-イソブチレン-スチレン、無水マレイン酸-グラフトスチレン-イソブチレン-スチレン、スルホン化スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン及び無水マレイン酸-グラフトスチレン-エチレン/ブチレン-スチレン、ヒドロキシスチレン-イソブチレン-ヒドロキシスチレン及びアセトキシスチレン-イソブチレン-アセトキシスチレンからなる群から選択される請求項4記載の被覆された医療機器。
【請求項6】
第1コポリマーが、非修飾ブロックコポリマーである、請求項4記載の被覆された医療機器。
【請求項7】
第1層がさらに修飾ブロックコポリマーを含む、請求項6記載の被覆された医療機器。
【請求項8】
第2層がさらに非修飾ブロックコポリマーを含む、請求項4記載の被覆された医療機器。
【請求項9】
第1コポリマーが非修飾ブロックコポリマーである、請求項8記載の被覆された医療機器。
【請求項10】
第1層がさらに修飾ブロックコポリマーを含む、請求項9記載の被覆された医療機器。
【請求項11】
第2層における修飾ブロックコポリマーの非修飾ブロックコポリマーに対する比率が、第1層における修飾ブロックコポリマーの非修飾ブロックコポリマーに対する比率より高い、請求項10記載の被覆された医療機器。
【請求項12】
第1コポリマーが非修飾ブロックコポリマーである、請求項1記載の被覆された医療機器。
【請求項13】
非修飾ブロックコポリマーがスチレン-イソブチレン-スチレン及びスチレン-エチレン/ブチレン-スチレンからなる群から選択される、請求項12記載の被覆された医療機器。
【請求項14】
コーティングがさらに生体分解ポリマーを含む最外層を含む、請求項1記載の被覆された医療機器。
【請求項15】
第1治療薬剤と第2治療薬剤が異なる、請求項1記載の被覆された医療機器。
【請求項16】
第1及び第2コポリマーはブロックコポリマーであり、第1ブロックコポリマー、第2ブロックコポリマー又は両方がエラストマーブロック又は熱可塑性ブロックを含む、請求項1記載の被覆された医療機器。
【請求項17】
被覆された医療機器からの薬物放出特性を制御する方法であって、:
(a)医療機器本体を含む医療機器を提供し;及び
(b)医療機器本体上にコーティングを処理し、前記コーティングが第1及び第2層を含み、第1及び第2層のそれぞれがブロックコポリマー及び治療薬剤を含み、少なくとも第2層は修飾ブロックコポリマーを含み、第2層は第1層よりも親水性である
ことを含む、前記方法。
【請求項18】
第1及び第2層がそれぞれ修飾ブロックコポリマー及び非修飾ブロックコポリマーを含み、第2層中の修飾ブロックコポリマーの非修飾ブロックコポリマーに対する比率が、第1層中の修飾ブロックコポリマーの非修飾ブロックコポリマーに対する比率より大きい、請求項17記載の方法。
【請求項19】
第1層中の治療薬剤が第2層中の治療薬剤と異なる、請求項17記載の方法。
【請求項20】
少なくとも1層中のブロックコポリマーがエラストマーブロック又は熱可塑性ブロックを含む、請求項17記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−540921(P2009−540921A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−516487(P2009−516487)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【国際出願番号】PCT/US2007/011410
【国際公開番号】WO2007/149161
【国際公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(500332814)ボストン サイエンティフィック リミテッド (627)
【Fターム(参考)】