説明

医療用プラスチック針

【課題】
針先端が医療用バッグのポート隔膜を突き破った穴からの、バッグ内容物の漏出を防止すると共に、穿刺抵抗を最小限に抑え、針抜けを防ぎ、さらにバッグの破損を防止するための医療用プラスチック針を提供する。
【解決手段】
医療用バッグの取り出しポートに設けられた隔膜を穿刺する穿刺部11、および、該取り出しポート内側に嵌合するための筒状構造を有する嵌合部12を含む医療用プラスチック針において、前記穿刺部が前記取り出しポートに設けられた隔膜を貫通すると同時、あるいは貫通する前に、前記嵌合部が前記取り出しポートに嵌合する構造を有し、さらにテーパー状の先端部およびそれに続く円筒部を含む構造を含む医療用プラスチック針。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液や薬液を収納するための医療用バッグへ内容物を注入、または該バッグから内容物を取り出す際に使用する医療用プラスチック針に関する。
【背景技術】
【0002】
血液や薬液を収納している医療用バッグには、柔軟なプラスチックフィルムなどの材料から成形されたバッグの上部に、通常、1つまたは2つ以上のポートが設けられており、このポートを通じて、液の注入または取り出しを行う。ポートは、プラスチック製筒状体からなり、その筒孔を上部と下部に隔てるプラスチックの薄膜(以下、隔膜という)が設けられている。この隔膜は内容物の保存を維持する蓋の役割を有する。バッグ内容物を注入または取り出すには、通常、医療用チューブと接続されたプラスチック製の針をポートに穿刺して隔膜を突き破り、バッグ内部とチューブ内を連通させ、チューブを介して内容物の導入、あるいは導出を行う。
【0003】
従来の医療用プラスチック針(図4)において、穿刺部11は、その先端が尖った、あるいはやや丸みを帯びた形状であり、その他の部分はテーパー状であり、該穿刺部に続く円筒状の嵌合部12とポート内面とが嵌合する。このようなプラスチック針1の取り出しポート2への接続過程においては、隔膜21を貫通した後に、筒状部12とポート内面との嵌合が開始される。しかし、穿刺部11先端が隔膜21を貫通した時点では、筒状部21とポート内面との嵌合がなされていないため、隔膜21を穿刺部11で貫通した後、筒状部21が嵌合する前に、バッグ本体6を手で持ったときの押圧等により、隔膜21に生じた穴と穿刺部の間から、穿刺部11を伝って内容物が外へ漏れ出す危険性があった。
【0004】
また、従来の医療用プラスチック針は隔膜を突き破る穿刺部がテーパー構造を有するために、隔膜を突き破った後も、穴をさらに押し広げながら穿刺を進めるために、隔膜の反発による抵抗を大きく受ける。したがって、プラスチック針を穿刺する時の抵抗が大きく、また、 穿刺した針が外れやすいという問題点があった。
【0005】
さらに、このような従来の医療用バッグでは、プラスチック針を穿刺する際に針先端でバッグのシートを傷つけないようにするため、隔膜21はバッグのシール部61よりも上側に設けられ、また、ポートの下端がバッグのシール際611よりも上側に配置されている。このため、取り出しポート2が上部に突出していた。このようなポートを設けたバッグは全長が長くなり、より大きな保存スペースが必要とされていた。(図4)
【0006】
保存スペースは保管管理上のコストに影響するため、収納性の面からコンパクトである医療用バッグが求められており、特に血液等の凍結保存を目的とするものは、保管管理に要するコストが多大であるため、そのような改良が望まれていた。特許文献1には、ポートを小型化することによって、コンパクト化した医療用バッグが開示されている。
【0007】
しかしながら、このような医療用バッグ(ポートを小型化したもの)(図5)に、従来の医療用プラスチック針1を使用すると、医療用バッグへの内容物の注入または取り出しにおいて、針先端がポート下端23を越えて、バッグ6を傷つける危険性がある。
【0008】
特に、少量しか採取できない貴重な血液や高額な薬剤の注入または取り出しにおいて、隔膜の穿刺時やバッグの破損等による内容物の漏れの発生については、回避策が望まれていた。
【0009】
【特許文献1】特開2000−350771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、医療用バッグのポートへプラスチック針を穿刺する過程において、該プラスチック針先端が隔膜を突き破った穴から、バッグの内容物が漏れ出すことを防止すると共に、バッグの破損を防ぐことのできる医療用プラスチック針を提供することにある。さらに本発明の別の課題は、穿刺抵抗を最小限に抑えると共に、針抜けを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記問題を解決するために、種々鋭意検討した結果、医療用バッグポートへの接続過程において、該針先端部が隔膜を貫通すると同時、あるいは貫通前に、ポートと該針の筒状構造を有する嵌合部との嵌合が開始される構造を有するプラスチック針であって、従来のプラスチック針において全体がテーパー状である穿刺部を、先端のみがテーパー状であり、それに続く部分が円筒状である穿刺部に変えることによって、上記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明は、医療用バッグの取り出しポートに設けられた隔膜を穿刺する穿刺部、および、該取り出しポート内側に嵌合するための筒状構造を有する嵌合部を含む医療用プラスチック針において、前記穿刺部が前記取り出しポートに設けられた隔膜を貫通すると同時、あるいは貫通する前に、前記嵌合部が前記取り出しポートに嵌合する構造を有することを特徴とする医療用プラスチック針である。
【0013】
さらに、本発明は、医療用バッグの取り出しポートに設けられた隔膜を穿刺する穿刺部を含む医療用プラスチック針において、前記穿刺部がテーパー状の先端部およびそれに続く円筒部を含む構造を有することを特徴とする医療用プラスチック針である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の医療用プラスチック針は医療用バッグの取り出しポートへの穿刺過程において、針先が隔膜を貫通すると同時に、あるいは貫通前に、筒状構造の側面部位における嵌合が開始されるから、隔膜の針穴から内容物が漏れ出した際も、この側面部位の嵌合により、内容物の漏れを未然に防ぐことができる。また、医療用バッグの取り出しポートに穿刺されたプラスチック針の先端が該ポートの下端より上に位置し、バッグシートを破損するおそれがない。さらに、該ポートに設けられた隔膜を穿刺する穿刺部の一部が円筒状構造を有しており、ポートへの穿刺時の抵抗が軽減され、隔膜からの反発力がないため、ポートからの針抜けが防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
発明において、医療用バッグとは、採液ポートと、内部が隔膜で隔てられた少なくとも一つの取り出しポートとを備えてなるプラスチック製バッグである。
【0016】
本発明の医療用プラスチック針が用いられるのに適した医療用バッグは、採液ポートと、内部が隔膜で隔てられた少なくとも一つの取り出しポートとを備えてなるプラスチック製バッグであって、取り出しポートの上端から下端までの長さを従来の医療用バッグのポートと比べて短くすることによって、ポートを小型化し、コンパクト化された医療用バッグである。通常、このような医療用バッグは、全長(縦)が5〜8cm、ポートの内径は0.4〜0.6cmであり、ポートの長さは1〜2cmである。しかし、これらの大きさに限定されない。ポートの医療用バッグへの配置も特に限定されないが、取り出しポートの下部がバッグ内に突出されて配置されていてもよい。
【0017】
医療用バッグの採液ポートには、通常、通液チューブが接続され、その先端には採液手段、例えば採血針または薬液導入針が接続されている。
【0018】
バッグの材料は特に限定されないが、医療用として使用される、例えばポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン等が望ましく、厚みは適宜選択されるが、通常、0.1〜1.0mmである。
【0019】
本発明の医療用プラスチック針において、穿刺部とは、医療用バッグの取り出しポートに設けられた隔膜を穿刺する部分であり、先端がテーパー状であり、さらに、それに続く円筒状構造を有する。テーパー状の先端は、通常、隔膜を突き破るのに必要な鋭角を有する。もっとも、テーパー状の先端の最先端部は、隔膜を刺通することが出来る形状であればよく、尖っているものや、丸みを帯びたものなどがある。
【0020】
従来のプラスチック針は、穿刺部全体がテーパー状であるため、ポートの隔膜を刺通して穿刺が終了するまで隔膜の穿刺孔を押し広げ続けるが、本発明のプラスチック針は、先端に続く円筒状構造を有しているため、ポートの隔膜を貫通して穿刺が進む課程において、穴をさらに押し広げることがない。これによって、隔膜の穿刺に対する反発力がなくなるため、穿刺抵抗が軽減され針抜けも防止できる。この円筒状構造は、その直径がポート内径の80%より短いものであることが好ましく、さらに好ましくは60%より短いものである。
【0021】
また、穿刺部の長さは、医療用バッグポートへの接続過程において、該針穿刺部が隔膜を貫通すると同時、あるいは貫通前に、ポートと該針の嵌合部との嵌合が開始される条件を満たすものである。すなわち、前記穿刺部の長さは、ポート上端から隔膜までの距離と同じ、または短いことが好ましいが、隔膜の弾性のため、穿刺部が隔膜を貫通するのは、穿刺部先端が隔膜の中程を若干押し下げてからであり、多少は穿刺部の長さがポート上端から隔膜までの距離より長くても、上記条件を満たすものであれば問題ない。
【0022】
本発明において、取り出しポート内側への嵌合とは、嵌合部の側面が医療用バッグのポート内面と接することによって、医療用バッグ内が液密になることをいう。本発明の医療用プラスチック針において、筒状構造を有する嵌合部とは、医療用バッグのポートの内面に嵌合する筒状体であり、前記穿刺部の基端側に接着されているか、あるいは、穿刺部と一体的に成形されている。ポートは通常、ある程度の伸縮性を有する材料から形成されるため、嵌合部がポートと液密に嵌合するには、嵌合部の直径は、嵌合する前のポート内径より若干長い必要がある。このため、嵌合部の直径は、ポート内径の105〜120%であることが好ましい。また、嵌合部の直径および長さは、ポートの内径および長さに依存するが、通常、直径0.5〜0.7cmであり、長さ0.4〜1.0cmである。
【0023】
本発明の医療用プラスチック針において、栓部とは、該嵌合部より大きな径を有し、医療用プラスチック針のポートへの穿刺を終了させる役割を果たす。すなわち、発明の医療用プラスチック針をポートに穿刺したときに、ポート上端が該栓部に当接することによって、医療用プラスチック針が先端から一定の長さ以上にポートに挿入されることがない。その直径は、ポート内に押し込まれない程度にポート内径より大きく、好ましくは、ポート内径の少なくとも110%であることが好ましい。通常、栓部の直径は0.6〜0.8cmであり、長さは0.4〜1.0cmである。
【0024】
本発明の医療用プラスチック針において、連結部とは、通液チューブを接続させて他のバッグへ薬液の導入または導出を行うことができ、また、ゴム栓を接着させ、これに注射針を穿刺するか、あるいはシリンジ本体を直接接続させ、シリンジ等を用いて薬液を導入又は導出することができる。通常、その直径は0.6〜0.8cmであり、長さは1.0〜3.0cmである。
【0025】
本発明の医療用プラスチック針において、使用者が該医療用プラスチック針を持ちやすくするために、把持部15を設けてもよい(図1)。
【0026】
本発明の医療用プラスチック針において用いるプラスチックは、通常の医療用として用いられるプラスチックであれば、特に問題はないが、例えば、ポリプロピレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)、ポリエチレン、ナイロン、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂が挙げられる。これらのプラスチックを、通常、射出成形により成形して、本発明の医療用プラスチック針を得る。
【0027】
次に、本発明の医療用プラスチック針を、図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明の医療用プラスチック針1を示す。 穿刺部11は医療用バッグのポートに設けられた隔膜21を穿刺する部分であり、先端はテーパー状で、さらに、それに続く円筒状構造を有している。ポートへの接続時には、開口部111を通して、バッグ内部と医療用プラスチック針1内部が連通される。嵌合部12は筒状構造を有し、取り出しポート2と嵌合する部分である。栓部13は該嵌合部より大きな径を有する。連結部14は、通液チューブ、シリンジ本体、又はゴム栓を有する混注部などと連結される。把持部15は、使用者が把持することが可能な形状であればよい。
【0028】
図2は、本発明の医療用プラスチック針が用いられるのに適した医療用バッグを示す図であり、医療用バッグに採液がされた後に採液チューブ5が切断された状態を示す。通常、バッグ本体6は、筒状又は複数のプラスチックシートをバッグシール部61でヒートシールする工程と、取り出しポート2及び採液ポート3をシート間に挿入し、ポートとプラスチックシートをヒートシールする工程によって成形される。採液手段4、通液チューブ5およびバッグ本体6は、血液等をバッグに採取する前に連結されており、血液等をバッグに充填した後は、通常、通液チューブ5が熱溶着等で閉塞された後に切断され、採液手段4とバッグ本体6は分離され、バッグ本体6のみが保存される。
【0029】
図3は、図2のポート付近を拡大した図であり、(a)〜(c)は、本発明の医療用プラスチック針が医療用バッグの取り出しポートへ接合される過程を示す。(a)はプラスチック針が該ポートへ挿入される前の状態、(b)はプラスチック針が該ポートへ挿入された後、穿刺部11が隔膜21を貫通する前に、取り出しポート2と該針の嵌合部12との嵌合が開始された状態、(c)はプラスチック針が隔膜を貫通した状態を示す。
【0030】
図4および5は、従来の医療用プラスチック針を医療用バッグのポートに穿刺した状態を示す。図4は、通常の医療用バッグのポートに従来の医療用プラスチック針が穿刺され、隔膜21を刺通した状態を示す。このとき嵌合部12は未だ取り出しポート2に嵌合しておらず、バッグ本体6に押圧がかかった場合、内容物が漏れ出す虞がある。図5は、ポートが小型化された医療用バッグのポートに従来の医療用プラスチック針が接続された状態を示す。穿刺部11がバッグ本体6内部に突き出しており、バッグの損傷を生じる虞がある。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の医療用プラスチック針は医療用バッグの取り出しポートへの穿刺過程において、針先が隔膜を貫通すると同時に、あるいは貫通前に、筒状構造の側面部位における嵌合が開始されるから、隔膜の針穴から内容物が漏れ出した際も、この側面部位の嵌合により、内容物の漏れを未然に防ぐことができる。また、医療用バッグの取り出しポートに穿刺されたプラスチック針の先端が該ポートの下端より上に位置し、バッグシートを破損するおそれがない。さらに、該ポートに設けられた隔膜を穿刺する穿刺部の一部が円筒状構造を有しており、ポートへの穿刺時の抵抗が軽減され、隔膜からの反発力がないため、ポートからの針抜けが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の医療用プラスチック針の一例を示す側面図である。
【図2】本発明の医療用プラスチック針が用いられるのに適した医療用バッグの正面図である。
【図3】本発明の医療用プラスチック針が、医療用バッグのポートへ穿刺される過程を示すポート付近の拡大図である。
【図4】従来の医療用プラスチック針が、通常の医療用バッグのポートに穿刺された状態を示す正面図である。
【図5】従来の医療用プラスチック針が、ポートが小型化された医療用バッグのポートに穿刺された状態を示す正面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 プラスチック針
11 穿刺部
111 開口部
12 嵌合部
13 栓部
14 連結部
15 把持部
2 取り出しポート
21 隔膜
22 ポート上端
23 ポート下端
3 採液ポート
4 採液手段
5 採液チューブ
6 バッグ本体
61 バッグシール部
611 シール際

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用バッグの取り出しポートの内壁に前記ポートと一体に設けられた隔膜を穿刺する穿刺部、
該取り出しポートと嵌合するための筒状構造を有する嵌合部、および、
前記嵌合部より大きな径を有する栓部
を含む医療用プラスチック針において、
前記穿刺部は頂点が丸みを帯びた円錐状の先端部およびそれに続く円筒部を含む構造を有し、
前記嵌合部は、前記穿刺部が前記取り出しポートに設けられた隔膜を貫通すると同時、あるいは貫通する前に、前記嵌合部の側面がバッグのポートの内側と液密に接し、
さらに、前記嵌合部をバッグのポートの上端が前記円筒部の下端に当接するまでバッグのポートの内側で下方に摺動させることにより、前記穿刺部が前記隔膜を穿刺する構造を有する
ことを特徴とする医療用プラスチック針。
【請求項2】
前記穿刺部の先端から嵌合部の基端部までの長さが、取り出しポート上端から取り出しポート下端までの長さより短い
ことを特徴とする医療用プラスチック針。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−196048(P2007−196048A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125790(P2007−125790)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【分割の表示】特願2001−153540(P2001−153540)の分割
【原出願日】平成13年5月23日(2001.5.23)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】