説明

医療用具および医療用材料

【課題】電離放射線照射によりに引張弾性率、曲げ弾性率等の機械的強度が向上し、生分解性に優れた脂肪族ポリエステル樹脂組成物を用いた医療用具および医療用材料を提供する。
【解決手段】生分解性脂肪族ポリエステル樹脂とナノ炭素材料の混合物が電離放射線を照射されてなる樹脂組成物を有することを特徴とする医療用具または医療用材料。特に、前記電離放射線が、電子線またはγ線である。また、前記ナノ炭素材料が炭素6員環を主構造とする黒鉛シートよりなるらせん円筒構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い機械的強度を有する生分解性脂肪族ポリエステル樹脂組成物を用いた医療用具および医療用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用具および医療用材料は、血液や尿などの体液が付着する環境で使用されるため、プラスチック製の単回使用の使い捨て物品とし、その廃棄物は焼却処理等の慎重な処分を行って、ウイルスや細菌による感染を防止する必要がある。しかしながら、このような使い捨て行為は、廃棄物量の増加につながり、その焼却処理によって排出される二酸化炭素量を増加させる原因となっている。
一方、生分解性樹脂は、製品のライフサイクルを終えた後、自然界に存在する微生物等により炭酸ガスと水に分解することから、環境への負荷が小さい材料として、農業資材や土木建設用資材、産業用資材など様々な分野への用途拡大が期待されている。中でも、植物由来の原料から製造される生分解性樹脂は、廃棄処分時に排出される二酸化炭素が植物の生長時に吸収されるため、全体として二酸化炭素量が変化しない(カーボン・ニュートラル)という特徴を有しており、地球温暖化抑制の観点からも注目されている。
前記植物由来の生分解性樹脂の例としては、生分解性脂肪族ポリエステル樹脂が挙げられ、より具体的には、比較的硬質なものとしてポリ乳酸系樹脂、柔軟性を有するものとしてポリブチレンサクシネート系樹脂、およびこれらの共重合やブレンド、アロイ等が挙げられる。
使い捨てが一般化している医療用具および医療用材料に使用する樹脂にこれらの生分解性樹脂を用いることは、環境への負荷を低減させることができ、非常に有用である。
しかしながら、これらの生分解性脂肪族ポリエステル樹脂は、ポリエチレンやポリプロピレンのような汎用樹脂と比較して、耐熱性や機械的強度、成型加工性が低く、本格的な応用展開のためには、樹脂設計や改質剤添加等による物性の改良が不可欠である。特に機械的強度の向上は、前記生分解性脂肪族ポリエステル樹脂を医療用具の筐体として使用する場合には重要な検討課題である。
従来より、樹脂の耐熱性や機械的強度を向上させる手段として、電離放射線照射による樹脂の分子間架橋が利用されている。生分解性脂肪族ポリエステル樹脂においても、ポリ(ε−カプロラクトン)で電離放射線によって分子間架橋が起きることが知られており、耐熱性が改善できる技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、ポリ乳酸のように単独では分子間架橋が起こらない、あるいはポリブチレンサクシネートとその共重合体のように分子間架橋が起こりにくい生分解性脂肪族ポリエステル樹脂では、反応性の高いモノマーや無機化合物などの架橋促進剤を添加することで、架橋率を向上させる技術が開示されている(例えば、特許文献2、特許文献3参照)。
電離放射線を用いてこれらの樹脂の高い架橋率を得るために、電離放射線の照射量を多くする方法や、架橋促進剤の添加量を多くするなどの方法がある。しかしながら、電離放射線の照射量が多くなると、ラジカルによる高分子鎖の切断が過剰に起こり、期待する機械的強度の向上効果が得られない場合があるだけでなく、臭気の発生や照射時間の延長による製造効率の低下などの問題も生ずる。一方、架橋促進剤の添加量を多くした場合には、未反応モノマーの残留量の増加、コストの上昇、生分解性の低下などの問題点が生ずる。また、架橋率の向上が直接強度の向上に寄与するとは限らない。
【特許文献1】特開2003−051215号公報。
【特許文献2】特開2003−277593号公報。
【特許文献3】特開2003−313214号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされ、電離放射線照射により引張弾性率、曲げ弾性率等の機械的強度が向上し、生分解性に優れた脂肪族ポリエステル樹脂組成物を用いた医療用具および医療用材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らが鋭意検討した結果、ナノ炭素材料を含む生分解性脂肪族ポリエステル樹脂に電離放射線を照射して架橋させると、生分解性脂肪族ポリエステル樹脂とナノ炭素材料との間に相互作用が生じることにより、ナノ炭素素材を含まない場合と比較して、該生分解性脂肪族ポリエステル樹脂組成物の機械的強度の向上効果が大きいことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
このような目的は、下記(1)から(9)の本発明により達成される。
(1) 生分解性脂肪族ポリエステル樹脂と炭素6員環を主構造とする黒鉛層を有するナノ炭素材料との混合物に電離放射線が照射されてなる樹脂組成物を有することを特徴とする。
【0006】
(2) 前記電離放射線が、電子線またはγ線であることを特徴とする。
【0007】
(3) 前記ナノ炭素材料が炭素6員環を主構造とする黒鉛シートよりなるらせん円筒構造を有することを特徴とする。
【0008】
(4) 前記ナノ炭素材料の長さが0.01μm〜2000μmであることを特徴とする。
【0009】
(5) 前記ナノ炭素材料の外径が0.4nm〜300nmであることを特徴とする。
【0010】
(6) 前記電離放射線の線量が、1〜100kGyであることを特徴とする。
【0011】
(7) 前記生分解性脂肪族ポリエステル樹脂が、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートを含む共重合体、および前記重合体の少なくとも1つを含有するポリマーブレンド、またはポリマーアロイであることを特徴とする。
【0012】
(8) 前記ナノ炭素材料のナノ炭素材料含有率が0.1重量%〜50重量%であることを特徴とする。
【0013】
(9) 生分解性脂肪族ポリエステル樹脂とナノ炭素材料を混合し、次いで該混合物を所望の形状に成型し、必要により該成型物を用いて組立て、次いで該組立て体に電離放射線を照射することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の生分解性脂肪族ポリエステル樹脂組成物を有する医療用具および医療用材料は、強度向上のための無機混合物の含量をより低くすることができ、また、架橋促進剤の少ない添加量で、電離放射線照射により機械的強度を大きく向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の医療用具および医療用材料について詳細に説明する。
医療用具とは、人体または動物の手術、治療、診断に用いられる機械器具を意味し、具体的には、商標法施行規則別表(平成13年経済産業省令第202号)の第十類に掲載されている範囲のものがある。また、医療用材料とは、医薬品や医療用具の包装材料、付属品等、上記医薬品や医療用具の流通、使用のために用いられるものであって、上記医薬品や医療用具の使用に伴って廃棄されるものを意味する。医薬品とは、人体または動物の手術、治療、診断に用いられる薬剤を意味し、具体的には、同別表の第五類に掲載されている範囲のものがある。特に、高い強度が求められる、注射針、穿刺針、包装用トレイなどには好適である。また、一般家庭においても使用され、使い捨てされる血液検査具や尿検査具などの体液検査具に好適である。
【0016】
本発明の医療用具および医療材料は、生分解性脂肪族ポリエステル樹脂とナノ炭素材料とから構成される組成物を有するものであり、電離放射線照射時に形成される架橋構造とナノ炭素材料との相互作用により、ナノ炭素材料を含まない場合と比較して、前記樹脂組成物の機械的強度の向上効果が大きいことを特徴とする。すなわち、電離放射線照射量が等しいとき、本発明の組成物の機械的強度はナノ炭素材料を含まない生分解性脂肪族ポリエステル樹脂組成物の強度より大きくなる。その結果、要求される機械的強度を得るために必要な電離放射線量や架橋促進剤の添加量を少なくすることができる。
【0017】
本発明の医療用具および医療用材料で用いられるナノ炭素材料は、基本的に炭素原子のみで構成されているため生物学的に安全であり、生分解性脂肪族ポリエステル樹脂組成物が分解した後でも、土壌汚染や生物成育阻害などの悪影響を与える毒性物質や重金属を含むものではなく、環境に負荷を与えることがない。さらに、ナノ炭素材料を混合するだけでも、ある程度樹脂を補強することができるので、より大きな機械的強度を得ることができ、また組成物の成型加工性も向上する。
【0018】
本発明に使用することができる生分解性脂肪族ポリエステル樹脂は、特に限定されないが、好ましくは、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート共重合体、ポリブチレンサクシネート・カーボネート共重合体、ポリブチレンサクシネート・ポリ乳酸共重合体、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ乳酸、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)とその共重合体、ポリエチレンサクシネート・ポリブチレンサクシネート・テレフタレート共重合体、ポリブチレンアジペート・テレフタレート共重合体、ポリテトラメチレンアジペート・テレフタレート共重合体、ポリブチレンサクシネート・アジペート・テレフタレート共重合体、およびこれらのポリマーブレンド、あるいはポリマーアロイ等である。
【0019】
本発明に使用することができるナノ炭素材料とは、炭素6員環構造を主構造とする黒鉛層を有する炭素繊維を意味する。このような構造を有する炭素繊維は、一般的にカーボンファイバーやカーボンナノチューブ等と呼ばれており、針状、らせん状、円筒状等の任意の形状をとることができる。また、上記ナノ炭素材料は単独で分散しているものだけでなく、数本で集合体を形成しているものでもよい。
【0020】
上記炭素6員環を主構造とする黒鉛層を有する炭素繊維として、具体的には、炭素6員環構造を主構造とする黒鉛シートよりなるらせん円筒構造を有する炭素繊維(一般的に「カーボンナノチューブ」とも言う。)と、炭素6員環構造を主構造とする黒鉛よりなるらせん構造で形成された多重構造を有する黒鉛繊維であって、その繊維の先端が円錐形状で終わる角状の円筒構造を有する黒鉛繊維(一般的に「カーボンナノホーン」とも言う。)が例示される。上記カーボンナノチューブは単層の円筒構造を有するもの(例えば、特許第2526782号公報明細書等に記載の炭素繊維)でもよく、らせん構造で形成された円筒形状が同心円状に配置された多重構造のもの(例えば、Nature,354,56(1991)、特許第2687794号公報明細書等に記載の炭素繊維)でもよい。上記炭素繊維としてカーボンナノチューブを用いると、後述する炭素繊維の好ましい外径の範囲を満たすことができ、本発明の炭素繊維として好ましい。
【0021】
上記カーボンナノホーンは、1層または2層以上の層を重ね合わせた多重構造のもの(例えば、特許第2705447号公報明細書等に記載の炭素繊維)であってもよい。また、角状の円筒構造が角の先端を外側に向けた集合体のもの(例えば、特開2002−159851号公報等)でもよい。これらのカーボンナノホーンも上記カーボンナノチューブと同様、本発明の炭素繊維として好ましい。
【0022】
上記炭素繊維は、長さが0.01μm〜2000μmであることが好ましい。このような長さの範囲であると、炭素繊維同士の絡まりによる二次凝集がなく、組成物中で上記生分解性脂肪族ポリエステル樹脂とともに均一に分散することができる。特に、上記炭素繊維の長さが1μm〜50μmであると、電離放射線の照射により上記生分解性脂肪族ポリエステル樹脂が形成する架橋構造に該炭素繊維が適度に絡み合うことにより、機械的強度が向上するのでより好ましい。
【0023】
上記炭素繊維の外径は、0.4nm〜300nmであることが好ましい。より好ましくは0.4nm〜200nmである。この範囲の外径を有する炭素繊維は、公知の製造方法において高い収率で得ることができるので商業的にも入手し易く、適度な柔軟性を有しているので、例えばポリブチレンサクシネートとその共重合体のような柔軟性が高い生分解性脂肪族ポリエステル樹脂を使用した場合でも、もとの樹脂が有する柔軟性を適度に保持したまま機械的強度を向上することができ、好適である。
【0024】
上述した炭素繊維は、公知の炭素繊維製造方法により製造することができる(例えば、吉田隆著,「カーボンナノチューブの基礎と工業化の最前線」,初版,株式会社エヌ・ティー・エス,2002年1月11日,p.6−18、特開2003−238130号公報参照。)。一般には、アーク放電法(特開平6−157016号公報、特開2000−95509号公報)、レーザー蒸発法(特開平10−273308号公報など)、触媒気相成長法(特開2000−86217号公報)、水熱合成法(非特許文献Carbon Vol.36,No.7−8,pp.937−942,1988(Yury G. Gogotsi et al.、非特許文献Jounal of Materials Research Society,Vol.15,No.12,pp.2591−2594,2000(Yury G. Gogotsi et al.)、Journal of American Chemical Society Vol.123,No.4,pp.741−742,2001(Jose Maria Calderon et al.)、特開2003−221217号公報、特開2002−37614号公報)等がよく用いられる。
【0025】
また、上記ナノ炭素材料として、60個以上の炭素原子が強く結合して球状あるいはチューブ状に閉じた構造を形成した、フラーレンと呼ばれる物質も用いることができる。
上記ナノ炭素材料は必ずしも製造時のままである必要はなく、熱処理、分断処理、酸化処理、化学修飾処理等の処理を施したものでもよい。これらの処理を施すことにより、ナノ炭素材料を構成する炭素5員環または6員環構造に欠陥が生じ、外表面や内表面に官能基を導入したり、ナノ炭素材料の有する内部空間に金属や有機化合物等の物質を内包することができる。これらの処理が施されたナノ炭素材料を用いると、該ナノ炭素材料と生分解性脂肪族ポリエステル樹脂との密着性が強くなり、得られる生分解性脂肪族ポリエステル樹脂組成物の機械的強度がさらに大きくなるので好ましい。また、電離放射線照射時における生分解性脂肪族ポリエステル樹脂との相互作用が強くなるので、好ましい。
【0026】
本発明の生分解性脂肪族ポリエステル樹脂組成物には、架橋構造を形成させるために架橋促進剤が添加されていてもよい。架橋促進剤の例としては、トリアリルシアヌレート、トリメタアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート、ジアリルアジペート、ジアリルサクシネート、ジアリルマロネート、ジアリルカーボネート、ジアリルオキサレート、ジアリルフマレート、ジアリルマレート、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルテレフタレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。好ましい架橋促進剤は、トリアリルシアヌレートおよびトリアリルイソシアヌレートである。
【0027】
架橋促進剤の生分解性脂肪族ポリエステル樹脂組成物中の濃度は、10重量%以下であり、好ましくは、0.1重量%〜5重量%である。さらに好ましくは、0.1重量%〜3重量%である。
【0028】
本発明の生分解性脂肪族ポリエステル樹脂組成物には、必要に応じて抗酸化剤、顔料、軟化剤、可塑剤、滑剤、帯電防止剤、防曇剤、着色剤、酸化防止剤(老化防止剤)、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤の1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
【0029】
本発明の生分解性脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、生分解性脂肪族ポリエステル樹脂とナノ炭素材料を混合し、組成物を調製する第1工程、前記第1工程で得られた組成物を所望の形状に成形する第2工程によって製造される。
【0030】
上記第1工程は、上記生分解性脂肪族ポリエステル樹脂と上記ナノ炭素材料、必要に応じてその他の添加剤等を、乾式または湿式条件で混合する工程(混合工程)と、必要により該混合物を溶融混練押出等によって成形する工程(調製工程)からなる。
上記第1工程で、混合する方法は公知の方法を使用することができ、乾式または湿式で均質に混合されることが望ましい。例えば、分散混合攪拌機等の混合装置を用いて、混合する方法等が挙げられる。
【0031】
上記混合工程で、使用する生分解性脂肪族ポリエステル樹脂は、粉体であることが好ましい。上記混合工程において、生分解性脂肪族ポリエステル樹脂が粉体であると、ナノ炭素材料を均一に分散させることができ、放射線照射時の架橋が起こりやすく、機械的強度を向上させることができる。前記粉体の平均粒径が、1μm〜150μmであると製造も比較的容易で、ナノ炭素材料が均一に分散しやすく、生分解性脂肪族ポリエステル樹脂とナノ炭素材料との絡み合いが適度に起こるため、好適である。
【0032】
上記生分解性脂肪族ポリエステル樹脂を粉状の生分解性脂肪族ポリエステル樹脂に調製する方法としては、特に限定はされないが、メカニカル粉砕法またはケミカル粉砕法により調製されることが好ましい。本明細書において、メカニカル粉砕法としては、例えば、ポリマーを液化窒素で冷却し、衝撃式凍結粉砕装置等を用いて機械的に粉砕した粉体を適度な目開きのふるいにて分級し、所定の粒径範囲の粉体を得る方法等が挙げられる。ケミカル粉砕法とは、一般にスピノーダル分解と呼ばれる原理を用いる方法(例えば、特開平4−339828号公報参照。)であり、例えば、生分解性脂肪族ポリエステル樹脂を適当な溶剤に加熱溶解混合させた後、冷却して析出した粉末を洗浄、乾燥、解砕、分級等を行い、所定の粒径範囲の粉体を得る方法等が挙げられる。また、この方法によって得られた粉状生分解性樹脂は、表面が滑らかで球状形態であるため、ナノ炭素材料と絡み合いやすく、得られる組成物が適度な機械的強度を実現するのに都合がよい。これらの粉砕法を用いると、多くの生分解性樹脂について、本発明の好ましい平均粒径である1μm〜150μmの粉状生分解性樹脂を調製することができる。
【0033】
本発明の組成物中の生分解性脂肪族ポリエステル樹脂と前記ナノ炭素材料の合計重量に対するナノ炭素材料の含有率(以下、単に「ナノ炭素材料含有率」とも言う。)は、0.1重量%〜50重量%であることが好ましい。ナノ炭素材料含有率が0.1重量%未満であると、上記生分解性脂肪族ポリエステル樹脂組成物の電離放射線照射時に生成する分子間架橋とナノ炭素材料との相互作用が不十分となり、機械的強度の向上ができず、50重量%より大きいと、目的形状への成形が困難となる場合がある。さらに好ましくは、0.1重量%〜40重量%である。
上記調製工程は、特に限定されないが、例えば、上記混合工程で混合したものを二軸混練機を用いて溶融混練し、生分解性脂肪族ポリエステル樹脂、ナノ炭素材料、およびその他の添加剤等を含有する組成物をペレット形状に調製する工程である。組成物の形状としては、ペレットに限られず、上記混合工程で得られるものを直接用いてもよいし、粉体としてもよい。
【0034】
上記第2工程は、上記第1工程で得られた生分解性脂肪族ポリエステル樹脂およびナノ炭素材料を含有する組成物を目的形状を有する成形物に成形する工程である。成形方法としては、特に限定されないが、例えば、圧縮成形法、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法等が挙げられる。
上記第2工程は、必要により上記成形物を同じまたは他の材料からなる他の成形物と組合わせて医療用具または医療用材料の組立て体とする組立て工程を含んでもよい。組立て方法としては、特に限定されないが、嵌合、接着、融着等が挙げられる。
【0035】
上記第2工程によって得られた成形物に電離放射線を照射することにより、成形物内での架橋が起こり、機械的強度が向上する。特に引張弾性率、曲げ弾性率が向上することで、本発明の生分解性脂肪族ポリエステル樹脂組成物を医療用具の筐体などとして使用することが可能となる。
【0036】
照射する電離放射線の線量は、特に限定されないが、1〜500kGy、好ましくは、5kGy〜100kGyである。電離放射線の線量が10kGy〜70kGyであると、滅菌と機械的強度の向上を同時に行うことができ、製造上都合がよく、さらに好ましい。この範囲の線量で目的の機械的強度が得られるよう、架橋促進剤の選定と添加量の設定を行うことが望ましい。
【0037】
照射する電離放射線の種類は、電子線、γ線、またはエックス線などを用いることができるが、工業的生産が容易であることから、電子加速器による電子線とコバルト−60からのγ線が好ましい。より好ましくは、電子線を用いる。電子加速器は、厚さを有する成形物への照射を可能とするために、加速電圧1MeV以上の中エネルギーから高エネルギー電子加速器を用いることが好ましい。
【0038】
電離放射線の照射雰囲気は、特に限定されないが、空気を除いた不活性雰囲気下や真空下で行ってもよい。不活性雰囲気下や真空下で照射することにより、照射によって生成した活性種が空気中の酸素と結合してと失活し、架橋効率が低下するのを抑制することができる。また、照射時の温度はいずれであってもよいが、典型的には室温で行う。
本発明の生分解性脂肪族ポリエステル樹脂組成物中における架橋構造は、生分解性脂肪族ポリエステル樹脂どうしの間でもよいし、生分解性脂肪族ポリエステル樹脂とナノ炭素材料との間にあってもよい。
【0039】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0040】
(1)ポリブチレンサクシネートシートの作製
ポリブチレンサクシネートペレット(ビオノーレ #1001、昭和高分子(株)製)をメカニカル粉砕法によって粉砕し、ポリブチレンサクシネート粉体を調製した。具体的には、ポリブチレンサクシネートペレットを液化窒素で冷却し、衝撃式凍結粉砕装置(日本酸素(株)製)にて粉砕したパウダー状のポリブチレンサクシネートを適度な目開きのふるいにて分級し、平均粒径100μmのポリブチレンサクシネート粉体を得た。
このポリブチレンサクシネート粉体4.5kgと、多層円筒構造のナノ炭素繊維(VGCF、昭和電工(株)製、平均長さ約20μm、平均外径約100nm)0.5kgを、分散混合攪拌機を用いて混合し、これらが均一に混合した組成物粉末(ナノ炭素材料含有率10重量%)を得た。これを二軸混練機(S1KRCニーダー、(株)栗本鐵鋼製)を用いて、温度200℃、回転数60rpmにて溶融混練し、組成物ペレットを得た。得られた組成物ペレットを卓上型熱プレス機(SA−303、テスター産業(株)製)を用いて、温度200℃、圧力20MPaにて加圧した後急冷し、横150mm、縦150mm、厚さ0.5mmのシート状に成形した。
【0041】
(2)電離放射線の照射
上記(1)で得られたシートに、空気中、室温にて、10MeV電子加速器による電子線66kGyを照射し、包装トレイの材料シートとした。
【実施例2】
【0042】
実施例1(1)と同様の方法で作製したシートに、空気中、室温にて、コバルト−60によるγ線50kGyを照射し、包装トレイの材料シートとした。
【実施例3】
【0043】
ナノ炭素材料含有率を30重量%とした以外は、実施例1と同様の方法で包装トレイの材料シートを作製した。
【実施例4】
【0044】
ナノ炭素材料含有率を30重量%とした以外は、実施例2と同様の方法で包装トレイの材料シートを作製した。
【0045】
(比較例1)電離放射線を照射しないこと以外は実施例1と同様の方法で、包装トレイの材料シートを作製した。
(比較例2)電離放射線を照射しないこと以外は実施例3と同様の方法で、包装トレイの材料シートを作製した。
(比較例3)ナノ炭素材料を用いないこと以外は実施例1と同様の方法で、包装トレイの材料シートを作製した。
(比較例4)ナノ炭素材料を用いないこと以外は実施例2と同様の方法で、包装トレイの材料シートを作製した。
【0046】
(比較例5)ポリブチレンサクシネート粉末3.5kgと、ナノ炭素材料の代わりにタルク1.5kg(タルク含有率30重量%)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で包装トレイの材料シートを作製した。
(比較例6)ポリブチレンサクシネート粉末3.5kgと、ナノ炭素材料の代わりにタルク1.5kg(タルク含有率30重量%)を用いた以外は、実施例2と同様の方法で包装トレイの材料シートを作製した。
(比較例7)ナノ炭素材料含有率を70重量%とした以外は、実施例1と同様の方法でシートの作製を試みたが、組成物ペレットを調製することができず、シートの作製ができなかった。
【実施例5】
【0047】
ポリ乳酸シートの作製
ポリ乳酸ペレット(ラクティ #9010、(株)島津製作所製)をケミカル粉砕法によって粉砕し、ポリ乳酸粉体を調製した。具体的には、ポリ乳酸ペレットとキシレン(国産化学特級I158791)を、ポリ乳酸が5重量%になるように溶解槽に入れ、緩速で攪拌しながら80〜120℃で加熱溶解させた。溶液が透明になったところで加熱を中止し、室温まで徐冷することでポリ乳酸微粒子を析出させた。この溶液をろ過してポリ乳酸微粒子を回収し水洗浄を行った後、攪拌真空乾燥機にて65℃以下で完全に溶剤を揮発させた。得られた粉状のポリ乳酸を適度な目のふるいにて分級し、平均粒径100μmの粉状のポリ乳酸粉体を得た。
【0048】
このポリ乳酸粉体4.75kgと、ナノ炭素材料として単層円筒構造のカーボンナノチューブ0.25kg(Single Walled carbon nanotubes、ストレムケミカル(株)製、平均長さ約1μm、外径4〜30nm)、およびトリアリルシアヌレート0.05kgを、分散混合攪拌機を用いて混合し、これらが均一に混合した組成物粉末(ナノ炭素材料含有率5重量%)を得た。これを二軸混練機(S1KRCニーダー、(株)栗本鐵鋼製)を用いて、温度180℃、回転数80rpmにて溶融混練し、組成物ペレットを得た。得られた組成物ペレットを卓上型熱プレス機(SA−303、テスター産業(株)製)を用いて、温度220℃、圧力20MPaにて加圧した後急冷し、横150mm、縦150mm、厚さ0.5mmのシート状に成形した。
得られたシートに、実施例1と同様の方法で電子線を照射し、包装トレイの材料シートとした。
【0049】
(比較例8)電子線を照射しないこと以外は実施例5と同様の方法で、包装トレイの材料シートを作製した。
(比較例9)ナノ炭素材料を用いないこと以外は実施例5と同様の方法で、包装トレイの材料シートを作製した。
【0050】
(評価)
(架橋率(ゲル分率)の測定)実施例1と3、比較例3と5で作製した包装トレイの材料シートについて、所定量を200メッシュのステンレス製金網に包み、クロロホルム(特級、関東化学(株)製)100mLで24時間ソックスレー抽出を行った。金網内に残存した不溶性分(架橋により生成したゲル)を取出し、オーブンを用いて50℃で24時間乾燥した後、その重量を求めた。以下の式を使用してゲル分率を算出した。
ゲル分率(%)=(溶解成分を除いたゲル重量)/(初期乾燥重量)×100
各シートのゲル分率を表1に示す。ナノ炭素材料を添加したことによる架橋率の増加はないことが確認された。
【0051】
(引張試験)実施例1〜5、比較例1〜6、8、9で作製した包装トレイの材料シートを使用して、ISO 527−2に示す5B型ダンベル試験片を抜き型により作製した後、オートグラフ(AG−10、(株)島津製作所製)を用いて試験速度1mm/minで引張試験を実施し、引張弾性率を測定した。
【0052】
(曲げ試験)実施例1〜5、比較例1〜6、8、9で作製した包装トレイの材料シートを、長さ50.8mm、幅12.7mmに切断した後、オートグラフ(AG−10、(株)島津製作所製)を用いて、支持台直径5mm、圧子直径10.7mm、支点間距離25.4mm、試験速度2mm/minの条件で3点曲げ試験を実施し、曲げ弾性率を測定した。
評価結果を表2に示した。実施例1〜5のナノ炭素材料を含む生分解性脂肪族ポリエステル組成物では、ナノ炭素材料含有率の増加に伴って、電離放射線照射による組成物の機械的強度、特に引張弾性率と曲げ弾性率の向上が認められた。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性脂肪族ポリエステル樹脂と炭素6員環を主構造とする黒鉛層を有するナノ炭素材料との混合物に電離放射線が照射されてなる樹脂組成物を有することを特徴とする医療用具または医療用材料。
【請求項2】
前記電離放射線が、電子線またはγ線である請求項1に記載の医療用具または医療用材料。
【請求項3】
前記ナノ炭素材料が炭素6員環を主構造とする黒鉛シートよりなるらせん円筒構造を有する請求項1または2に記載の医療用具または医療用材料。
【請求項4】
前記ナノ炭素材料の長さが0.01μm〜2000μmである請求項1〜3に記載の医療用具または医療用材料。
【請求項5】
前記ナノ炭素材料の外径が0.4nm〜300nmである請求項1〜4に記載の医療用具または医療用材料。
【請求項6】
前記電離放射線の線量が、1〜100kGyである請求項1〜5に記載の医療用具または医療用材料。
【請求項7】
前記生分解性脂肪族ポリエステル樹脂が、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートを含む共重合体、および前記重合体の少なくとも1つを含有するポリマーブレンド、またはポリマーアロイである請求項1〜6に記載の医療用具または医療用材料。
【請求項8】
前記ナノ炭素材料のナノ炭素材料含有率が0.1重量%〜50重量%である請求項1〜7に記載の医療用具または医療材料。
【請求項9】
生分解性脂肪族ポリエステル樹脂とナノ炭素材料を混合し、次いで該混合物を所望の形状に成形物を成型し、必要により該成型物を用いて組立て体を組立て、次いで該成型物または該組立て体に電離放射線を照射することを特徴とする医療用具または医療用材料の製造方法。


【公開番号】特開2006−225453(P2006−225453A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−38584(P2005−38584)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】