説明

医療用布材および同医療用布材を用いた腰部固定帯

【課題】皮膚への密着性と通気性の確保という相反する機能を備えた医療用布材と、その医療用布材を用いた腰部固定帯を提供する。
【解決手段】基布41と表布42の間に中空層43が形成された医療用布材4の少なくとも表布42の表面に滑り止め手段としてのコーティング層5を0.5〜1.0μmの厚さで設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腰部固定帯など人体に直接触れる医療用布材に関し、さらに詳しく言えば、体への密着性がよく、通気性も良好な医療用布材に関する。
【背景技術】
【0002】
腰部疾患を予防または治療する医療用具の1つに腰部固定帯がある。例えば特許文献1に示すように、腰部固定帯は、帯状のベルトを腰に沿って巻き付けることにより、腹腔内圧を高めて腰椎にかかる負荷を軽減して、腰痛を緩和する機能を備えている。
【0003】
通常、この種の腰部固定帯は、伸縮性の布材と非伸縮性の布材を組み合わせることにより、体幹を固定できるようになっているが、腰部固定帯は、人体の皮膚に長時間に渡って直接触れるため、肌に優しい素材(医療用布材)によって構成されていることが好ましい。
【0004】
しかしながら、従来の医療用布材には、次のような問題があった。すなわち、従来の医療用布材は、肌への負担を減らすために接触面積を減らし、さらに通気性を確保するために、表面に凹凸処理などが施されていた。
【0005】
しかしながら、凹凸処理を施した場合、皮膚への接触面積が減るため、腰部固定帯を装着した状態で立ち上がったり、寝返りを打った拍子に、腰部固定帯がずれて動いてしまうなどの問題があった。
【0006】
そこで、医療用布材の表面にゴムやシリコンなどの滑り止め材を塗布または含浸させて滑り止め効果を備える医療用布材も一方で検討されてきたが、逆に滑り止め材が通気性を阻害することにより、蒸れやかぶれの原因となるおそれがった。
【0007】
【特許文献1】特開2003−144469号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は上述した課題を解決するため、皮膚への密着性がよく、通気性も良好な医療用布材と、その医療用布材を用いた腰部固定帯を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するため、本発明は以下に示すいくつかの特徴を備えている。請求項1に記載の発明は、基布と表布の間に中空層が形成された医療用布材であって、少なくとも上記表布の表面には、滑り止め手段としてのコーティング層が0.5〜1.0μmの厚さで設けられていることを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載の発明は、上記請求項1において、編目や織目によって表出する凹凸が形成されており、上記コーティング層は上記表布の最表面に設けられていることを特徴としている。
【0011】
請求項3に記載の発明は、上記請求項1または2において、上記コーティング層は、スチレン系樹脂20〜30wt%,オレフィン系樹脂20〜30wt%および精製鉱油40〜50wt%を所定の配合比で配合してなるコーティング材からなることを特徴としている。
【0012】
本発明には、請求項1ない3のいずれか1項に記載の医療用布材を用いた腰部固定帯も含まれる。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、表布の表面にコーティング層が0.5〜1.0μmの厚さで形成されていることにより、通気性を確保しつつ、肌への密着性が良好であり、動いたり、寝返りを打ったりしてもずれることがない。
【0014】
すなわち、コーティング層の層厚さが0.5μm未満の場合、コーティング層が薄すくなりすぎてしまい、厚さにムラが生じるおそれがある。逆に、コーティング層の層厚さが1.0μmよりも大きいと、布目にコーティング材が詰まって通気性を阻害するおそれがある。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、表布の表面に編目や織目によって表出する凹凸が形成されている場合、その凸部にのみコーティング層が形成されていることにより、凹部にはコーティング層がないため、通気性を確実に確保することができる。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、コーティング層は、スチレン系樹脂20〜30wt%,オレフィン系樹脂20〜30wt%および精製鉱油40〜50wt%を所定の配合比で配合してなるコーティング材からなることにより、肌への親和性もよく、蒸れやかぶれを効果的に防止することができる。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、この医療用布材を用いて腰部固定帯を作製することにより、動いたり、寝返ったりしても肌に密着してずれることなく、長時間使用していても蒸れたりかぶれたりすることがない腰部固定帯が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る医療用布材を使用した腰部固定帯の正面図であり、図2は本発明の医療用布材の模式図である。
【0019】
図1に示すように、この腰部固定帯1は、人体の腰回りに沿って巻回される帯状体からなり、主に腰部を固定する腰ベルト2と、主に骨盤を固定する骨盤ベルト3とを備えている。なお、本発明において、腰部固定帯1の具体的な形状や構成は任意的事項であるため、その説明は省略する。
【0020】
本発明の腰部固定帯1の腰ベルト2には、専用の医療用布材4が用いられている。図2に示すように、この医療用布材4は、ベースとなる基材41と、皮膚に接触する表布42との間に所定の中空層43が形成された、いわゆるダブルラッセル地からなる。
【0021】
この例において、医療用布材4は、基材41が84デシテックス36フィラメント、表布42が84デシテックス36フィラメント、中空層が22デシテックス1フィラメントのポリエステル糸を目付量が185g/m,厚さが約1.4mmとなるように形成されている。
【0022】
この例において、医療用布材4は、北陸エステアール社製のダブルラッセル地(製品名:4WR621)が用いられているが、それ以外の布材であってもよい。表布42の表面には、ハニカム状の編み目模様の凹凸が形成されている。
【0023】
表布42の表面(対皮膚面)には、滑り止め手段としてのコーティング層5が形成されている。図3を併せて参照して、コーティング層5は、表布42の表面に厚さTが0.5〜1.0μmとなるように形成されていることが好ましい。
【0024】
より好ましくは、表布42には、編目や織目によって表出する凹凸が形成されるが、このコーティング層5は、表布42の凸部にのみ形成されている。この例においては、ハニカム状の編み目によって形成された凹凸のうち、凸部の表面にのみ形成されている。
【0025】
これによれば、表布42の最表面の凸部にコーティング層5が極めて薄く形成されていることにより、医療用布材4の基本性能を損なうことなく、人体への密着性を高めることができ、ひいては、腰部固定帯1のズレを効果的に防止することができる。
【0026】
すなわち、コーティング層の層厚さが0.5μm未満の場合、コーティング層が薄すくなりすぎてしまい、厚さにムラが生じるおそれがある。逆に、コーティング層の層厚さが1.0μmよりも大きいと、布目にコーティング材が詰まって通気性を阻害するおそれがある。
【0027】
コーティング層5は、スチレン系樹脂20〜30wt%,オレフィン系樹脂20〜30wt%および精製鉱油40〜50wt%を所定の配合比で配合してなるコーティング材からなる。
【0028】
この例において、コーティング材は、例えば三洋化成社製のワイティメルトが用いられているが、コーティング層5が上記の条件の範囲内で表布42の表面に均一に形成可能な材質であれば、これ以外のものであってもよい。
【0029】
この例において、コーティング層5は、表布42の前面に塗布されているが、これ以外に、例えば線状や点状、波目状に形成されていてもよく、その形状は仕様に応じて任意に変更可能である。
【0030】
図4は、本発明のコーティング層4を形成するためのコーティング装置6の一例を示す模式図である。図4に示すように、このコーティング装置6は、マザー7から送り出された原反布71を装置本体に向けて送り出すとともに、完成した医療用布材4をロール状に巻き取る搬送路を備えている。
【0031】
搬送路上には、原反布71を案内するガイドローラ61,61(62,62)が左右一対に2カ所、合計4カ所設けられている。搬送路の中央には、原反布71の表面にコーティング材を転写する転写ローラ63と、同転写ローラ63に原反布71を挟んで対向配置された受けローラ64とを備えている。
【0032】
転写ローラ63の回転方向(この例では反時計回り)の上流側(右側面)には、転写ローラ63に向けてコーティング材を塗布する塗布ユニット65が設けられている。この例において、塗布ユニット65は、所定温度で溶融されたコーティング材を転写ローラ63に向けて塗布するようになっているが、これ以外の構成であってもよい。
【0033】
転写ローラ63と受けローラ64のいずれか一方または両方には、原反布71を所定圧で押圧する図示しないプレス手段が設けられており、このプレス手段を介して原反布71は、0.3〜0.8MPa(より好ましくは、0.4〜0.6Mpa)でプレスされた状態でコーティング材が塗布される。
【0034】
これによれば、プレス圧が0.3MPa未満の場合、コーティング材が原反布71に均一に塗布されずに塗布むらが生じるおそれがある。逆に、プレス圧が0.8MPaよりも大きいと、コーティング材が原反布71の内側に入り込みすぎて、通気性を阻害するおそれがある。
【0035】
転写ローラ63の回転方向の下流側(図4では左側)には、原反布71を通過後に転写ローラ63に残ったコーティング材を除去する除去ユニット66が設けられている。この例において、除去ユニット66は、除去ヘッドの先端部を転写ローラ63の表面に接触させることにより、転写ローラ63に残ったコーティング材を掻き取るようになっている。
なお、除去ユニット66は、これ以外の除去手段を用いてもよい。
【0036】
次に、以上のコーティング装置を用いて作成されたコーティング層5を有する医療用布材4をJIS−K−7175に準拠した動摩擦係数試験を行った。測定条件は以下の通り、
〔測定試験〕:JIS−K−7175
〔引張速度〕:10cm/min
〔摩擦子〕:面積25m
〔摩擦布〕:綿布(カナキン)
【0037】
以上の測定方法で測定した動摩擦係数を以下に示す。
〔移動中の平均張力/質量〕:125gf
〔コーティング層あり〕:動摩擦係数2.5
〔コーティング層なし〕:動摩擦係数0.5
【0038】
以上の結果から、本発明の医療用布材は、コーティング層を設けた方が設けていないものよりも約5倍の動摩擦係数が大きくなる。また、通気性は、コーティング層の有無にかかわらずほぼ一定である。
【0039】
この例において、医療用布材は、中間層を有するダブルラッセル地を用いた場合について例示したが、ベースとなる布地は、コーティング層5が形成可能な素材であれば、天然繊維、化学繊維などからなる織布や不織布など仕様に応じて任意に変更可能である。
【0040】
この実施形態においては、医療用布材を腰部固定帯に適用した場合について例示したが、これ以外にも各種コルセットやサポータ具に本発明の医療用布材を用いてもよい。さらには、手袋や靴下などの滑り止め用として用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態に係る医療用布材を用いた腰部固定帯の正面図。
【図2】医療用布材を模式的に示した斜視図。
【図3】医療用布材を模式的に示した断面図。
【図4】医療用布材のコーティング装置の模式図。
【符号の説明】
【0042】
1 腰部固定帯
2 腰ベルト
3 骨盤ベルト
4 医療用布材
41 基材
42 表布
43 中間層
5 コーティング層
6 コーティング装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布と表布の間に中空層が形成された医療用布材であって、少なくとも上記表布の表面には、滑り止め手段としてのコーティング層が0.5〜1.0μmの厚さで設けられていることを特徴とする医療用布材。
【請求項2】
上記表布の表面には、編目や織目によって表出する凹凸が形成されており、上記コーティング層は、少なくとも上記凸部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の医療用布材。
【請求項3】
上記コーティング層は、スチレン系樹脂20〜30wt%,オレフィン系樹脂20〜30wt%および精製鉱油40〜50wt%を所定の配合比で配合してなるコーティング材からなることを特徴とする請求項1または2に記載の医療用布材。
【請求項4】
上記請求項1ないし3のいずれか1項に記載の医療用布材を用いた腰部固定帯。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−100425(P2008−100425A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−284779(P2006−284779)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(000150084)株式会社竹虎 (12)
【Fターム(参考)】