説明

医薬用ゼリー組成物

【課題】医薬品としての流通においても安定であり、速やかな胃内放出性を有し、なおかつ服用感の優れたL−カルボシステイン含有のゼリー製剤を提供することを目的とする。
【解決手段】L−カルボシステインを含有する製剤において、
(A)キサンタンガム
(B)ガラクトマンナン又はグルコマンナン
(C)水
を含有し、水の含有量が製剤全量に対して20〜60質量%であり、製剤のpHが3.4〜4.9であることを特徴とするゼリー製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L−カルボシステインを含有する医薬用ゼリー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
L−カルボシステインは気道粘膜に含まれる各種ムチンの含量比を正常化し、粘液の粘度を低下させる。また、線毛細胞などの粘膜上皮を修復することにより、粘液線毛輸送系を改善し、貯留物の排泄を促進する。これらの作用から本剤は、各種呼吸器疾患の去痰、慢性副鼻腔炎の排膿、滲出性中耳炎の排液に優れた効果が認められている。このL−カルボシステインを含む医薬品として認可された剤型として錠剤、顆粒剤、シロップ剤などがある。
【0003】
しかし、錠剤は硬いことに加えてL−カルボシステインの成人1回あたりの用量は500mgと高く、製剤サイズが大きいため高齢者又は嚥下力の低下した患者にとっては服用しづらい。また、顆粒剤では口腔内残留しやすいため高齢者又は嚥下力の低下した患者にとっては服用しづらく、服薬コンプライアンスが低下するという問題があった。また、シロップ剤についても液状で流動性があり一定形状を保たないため、嚥下の際に咽頭反射が起きづらく、嚥下力の低下した患者にとってはむせやすくなるなど服用性は損なわれ、服薬コンプライアンスが低下するという問題があった。
【0004】
一方、上記剤型の服用性を改善させる剤型としては、半固形状であるゼリー状の製剤が、近年注目されている。ゼリー製剤は、水なしで服用できるため服用の場所や時間が制限されない利点を有する。しかしながら、そのような医薬品であるゼリー剤は、服薬コンプライアンスを損なわないような優れた服用感となる味が求められるだけでなく、食品のゼリーと異なり、その品質として市場の流通においても十分な主薬の安定性及び製剤物性(ゼリー強度)の安定性が求められる。また、医薬品としてのゼリー剤は、錠剤、顆粒剤といった既存剤型と同等の消化管吸収とするために速やかな消化管内での放出性、すなわち胃内酸性下での速やかな薬物の放出性が求められる。
【0005】
主薬の安定化については、一般に酸性及び塩基性の官能基を有する化合物はpHによる解離状態の違いから分解速度が異なることが知られており、チオール基を有する酸性アミノ酸であるL−カルボシステインは、pHによって異なる解離状態をとるため、分解速度も異なり、これまでにカルボシステインの安定化にはpH6.0〜7.5が好ましいとの報告がある(特許文献1)。
【0006】
一方、医薬品のゼリー製剤の技術としては、ゲル化剤としてカラギーナン、ローカストビーンガム、ポリアクリル酸又はその部分中和物もしくは塩を用いる技術(特許文献2)、寒天、キサンタンガム、ポリアクリル酸又はその部分中和物もしくは塩を用いる技術(特許文献3)、低メトキシルタイプのペクチンを用いる技術(特許文献4)、ローカストビーンガム又はタラガムとキサンタンガムを用いる技術(特許文献5)があげられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平8−13737
【特許文献2】特開平9−187233号公報
【特許文献3】特開2004−099558号公報
【特許文献4】特開2003−192573号公報
【特許文献5】特開2000−191553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、医薬品としての流通においても安定で、速やかな胃内放出性を有し、かつ服用感のよいL−カルボシステインを含有するゼリー製剤の提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意検討した結果、ゲル化剤としてキサンタンガム及びガラクトマンナン等を用い、水の含有量及び製剤のpHを調整することで、医薬品としての流通においても安定で、速やかな胃内放出性を有し、かつ服用感のよいL−カルボシステイン含有ゼリー製剤を調製可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、L−カルボシステインを含有する製剤において、
(A)キサンタンガム
(B)ガラクトマンナン又はグルコマンナン
(C)水
を含有し、水の含有量が製剤全量に対して20〜60質量%であり、製剤のpHが3.4〜4.9であることを特徴とするゼリー製剤である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、医薬品としての流通における保存安定性に優れながら、服用感も優れたL−カルボシステインのゼリー製剤を得ることができる。従って、本発明のゼリー製剤は、携帯性に優れながら、かつ、水なしで服用できることから、服用場所が制限されないといったメリットを有し、既存剤型(錠剤、顆粒剤、シロップ剤など)では満足できなかった患者に対して服薬コンプライアンスの向上が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のゼリー剤に含まれるL−カルボシステインの濃度は、特に限定されるものではないが、製剤質量、製剤の大きさの点から製剤中10質量%以上が好ましく、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上、特に好ましくは25〜60質量%である。
【0013】
本発明のゼリー製剤に用いるキサンタンガムは、単独ではゼリー状の形態(ゲル化)とならないが、ガラクトマンナンやグルコマンナンと混ぜ合わせることで弾力性のあるゲルを形成する基剤であり、ゲル化剤として用いられるものであれば特に限定されずに用いることが可能である(例えば、医薬品添加物辞典に記載されるキサンタンガム)。
本発明のゼリー製剤におけるキサンタンガムの含有量は、(C)成分と(D)成分の合計量に対して0.01〜0.9質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜0.7質量%、さらに好ましくは0.2〜0.6質量%である。
【0014】
本発明のゼリー製剤に用いるガラクトマンナンとは、β−D−マンノースがβ−1,4結合した主鎖と、α−D−ガラクトースがα−1,6結合した側鎖からなる構造を有する多糖類である。ガラクトマンナンの例としては、ローカストビーンガム、タラガム等があるが、好ましくはローカストビーンガムである。
【0015】
本発明のゼリー製剤に用いるグルコマンナンとは、コンニャクの根塊中にある一種のヘキソサンであり、グルコースとマンノースがβ−1,4結合したヘテロ多糖である。
本発明のゼリー製剤における(B)成分の含有量は、(C)成分と(D)成分の合計量に対して0.01〜0.9質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜0.7質量%、さらに好ましくは0.2〜0.6質量%である。
【0016】
(A)成分と(B)成分の含有量の合計は、(C)成分と(D)成分の合計量に対して0.1〜1.2質量%であることが好ましく、より好ましくは0.2〜1質量%、さらに好ましくは0.4〜0.9質量%である。
また、(A)成分と(B)成分の配合比によってゲルの特性(強度、弾力性など)が調整でき、その配合比は45:55〜80:20が好ましく、より好ましくは45:55〜75:25、さらに好ましくは50:50〜70:30である。
【0017】
本発明のゼリー製剤における水の含有量は、製剤全量に対して20〜60質量%であるが、好ましくは30〜50質量%、さらに好ましくは35〜45質量%である。水の含有量が60質量%を超えると、水に溶解するL−カルボシステインの絶対量が増加し、その結果製剤中の分解物が増加するため好ましくない。また、水の含有量が20質量%未満となると製剤の強度が低下する点、製剤の製造が困難となる点から好ましくない。
【0018】
本発明のゼリー製剤のpHは、pH3.4〜4.9であることを特徴とする。好ましくはpH3.7〜4.8、さらに好ましくは3.8〜4.7、特に好ましくは3.9〜4.6である。L−カルボシステインは、水溶液中では酸性条件下よりもpH6.0〜7.5の方が安定であることが知られている。しかし、ゼリー製剤では、pH3.4〜4.9の方が安定であることを本発明者は見出した。これは、L−カルボシステイの溶解度はpH1.2では8.8mg/mL、pH6.8では4.5mg/mLであるのに対し、pH4.0では3.5mg/mLであり、L−カルボシステインを製剤中不溶状態(懸濁状態)で保持できることに起因すると推測される。また、pHが低くなるとゲル強度が経時的に低下し、pH3.4未満では製剤物性の安定性の点で満足するものが得られにくい。
【0019】
本発明の(D)水溶性糖類としては、グルコース(ブドウ糖)、フルクトース(果糖)、ガラクトースなどの単糖類、マルトース(麦芽糖)、スクロース(ショ糖)、ラクトース(乳糖)、セロビオース、トレハロースなどの二糖類、さらにはキシリトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、エリスリトール、還元麦芽糖水飴などの糖アルコールが挙げられる。好ましくは、糖アルコールである。
【実施例】
【0020】
以下に本発明の実施例を説明する。
(実施例1、2、3及び比較例1、2、4、5)
表1、2のL−カルボシステイン及び水酸化ナトリウムを除く成分を秤取し、80℃に加温溶解した。これを70〜60℃に保温し、L−カルボシステインを加え、さらに水酸化ナトリウム溶液を加えて混合液とした。これを実施例毎にガラス容器に注入して密閉し、冷却してゼリー製剤を得た。
【0021】
(比較例3)
表2のL−カルボシステイン、水酸化ナトリウム及びクエン酸水和物を除く成分を秤取し、70℃に加温溶解した。これを70〜60℃に保温し、L−カルボシステインを加え、さらに水酸化ナトリウム溶液、クエン酸水溶液を加えて混合液とした。これを実施例毎にガラス容器に注入して密閉し、冷却してゼリー製剤を得た。
【0022】
得られたゼリー製剤については、味ならびにゼリー強度を評価した。ゼリー強度の測定は島津小型卓上試験機EZTest−500Nにより、直径6mmの円柱型プランジャーを使用し、圧縮速度50mm/Sにて行った。また、ゼリー製剤のpHは、pHメーター型式D−21(堀場製作所製)にて測定した。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
評価基準
*1 苛酷1ヶ月での総分解物量 ○:5%未満 ×:5%以上
*2 加速2ヶ月での強度 ○:開始時の70%以上 ×:開始時の70%未満
*3 溶出率(60分) ○:70%以上 ×:70%未満
【0026】
試験例1
表1、2の実施例1〜3及び比較例1〜5に示すゼリー製剤を60℃/75%RH(ガラス瓶、密栓)の環境下で1ヶ月間保存し、L−カルボシステインの安定性(総分解物含量)を調べた。結果を表3に示した。水分含量を60質量%以下であり、かつ、pH4.9以下に調整された実施例1〜3及び比較例1は、総分解物量が5%未満であり、優れた主薬の安定性が確認された。これに対して、pH5以上である比較例2、4や水を多量に含有する比較例3、5では、いずれも多量の分解物が発生した。
【0027】
【表3】

【0028】
試験例2
表1、2の実施例1〜3及び比較例1〜3に示すゼリー製剤を40℃/75%RH(ガラス瓶、密栓)の環境下で1ヶ月間保存し、ゼリー強度の変化を調べた。結果を表4に示した。pH3.4以上である実施例1〜3及び比較例2、3は、保存2月後も開始時の70%以上のゼリー強度が保持されていた。これに対して、pH3.4未満の比較例1では開始時の33%のゼリー強度であった。
【0029】
【表4】

【0030】
試験例3
表1、2の実施例1及び比較例1、2、4に示すゼリー製剤(2g)を使って、日本薬局の製剤総則及び一般試験法に準じて、試験液に溶出試験第1液を用いて溶出試験法第2法により溶出試験を行った。溶出したL−カルボシステインの含量はHPLC法で行った。
表5に示すように実施例2では溶出開始後60分間で、70%を超える溶出を示し、いずれの比較例よりも優れた溶出を示した。
【0031】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
L−カルボシステインを含有する製剤において、
(A)キサンタンガム
(B)ガラクトマンナン又はグルコマンナン
(C)水
を含有し、水の含有量が製剤全量に対して20〜60質量%であり、製剤のpHが3.4〜4.9であることを特徴とするゼリー製剤。
【請求項2】
製剤のpHが、3.7〜4.8である請求項1記載のゼリー製剤。
【請求項3】
さらに(D)水溶性糖類を含有する請求項1又は2記載のゼリー剤。
【請求項4】
(A)成分と(B)成分の含有量の合計が、(C)成分と(D)成分の含有量の合計の0.1〜1.2質量%である請求項1〜4のいずれかに記載のゼリー剤。
【請求項5】
(A)成分と(B)成分の含有比率が、45:55〜80:20である請求項1〜4のいずれかに記載のゼリー剤。
【請求項6】
ガラクトマンナンが、ローカストビーンガム又はタラガムである請求項1〜5のいずれかに記載のゼリー剤。


【公開番号】特開2011−213622(P2011−213622A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81613(P2010−81613)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000001395)杏林製薬株式会社 (120)
【Fターム(参考)】