説明

半導体ウェハの異物検査装置

【課題】検出信号の条件に応じて検出回路特性を可変制御することにより、高精度な信号検出を行うことができる半導体ウェハの異物検査装置を提供する。
【解決手段】半導体ウェハの異物検査装置において、反射光を検出するPMT103と、PMT103で検出された信号を増幅し、かつ増幅の応答特性が制御信号により制御される増幅回路301と、増幅回路301により増幅された信号を所定のコードに変換して出力するA/D変換器302と、反射光と相関を有する半導体ウェハ104の情報に基づいて、制御信号を生成する制御回路303と、A/D変換器302から出力されたコードに基づいて、半導体ウェハ104上の異物を検出するデータ処理回路とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハなどの検査対象物からの応答信号により異物検査を行う半導体ウェハの異物検査装置に関し、特に、その検出回路における信号検出技術に関する。
【背景技術】
【0002】
図5により、本発明者が本発明の前提として検討した従来の半導体ウェハの異物検査装置の検出回路の概要について説明する。図5は従来の半導体ウェハの異物検査装置の検出回路の概要を示す図である。
【0003】
すなわち、従来の半導体ウェハの異物検査装置では、回転させた半導体ウェハ104に照射光としてレーザ光101を照射し、半導体ウェハ104上に存在する異物等からの散乱反射光102を光電子増倍管(PMT:Photo Multiplier Tube)103によって検出する。
【0004】
PMT103は、入射光を光電子増倍作用により増倍し、入射光強度に応じて電流を出力するものであり、異物等からの散乱反射光102をもとに異物検出信号電流として出力する。
【0005】
I−V変換回路200および検出回路300からなる検出部では、異物検出信号電流に基づき、抵抗201と演算増幅器202とで構成したI−V変換回路200において検出電圧信号に変換する。
【0006】
さらに、検出回路300おいて、検出電圧信号を増幅回路301で増幅し、電圧をA/D変換器302を用いてデジタル値に変換する。その後、デジタル値を出力コードとしてデータ処理回路(図示せず)に出力して異物等の判別を行う。
【0007】
一般に、微小粒径の異物からの散乱反射光強度は、異物の直径の約6乗に比例するといわれている。従って、光を照射しその散乱反射光によって異物を検出する場合、検査対象半導体ウェハ上の異物が小さくなるほど検出信号は微小になり、これを検出する検出回路300では検出信号の振幅範囲に応じて広いダイナミックレンジが要求される。
【0008】
さらに、半導体ウェハの検査時間を短縮するため、半導体ウェハの回転数を上げることにより半導体ウェハ表面を走査する速度が速くなり、検出信号の時間あたりの変化率が増大し、検出部では高速化も要求される。
【0009】
ところで、一般に、A/D変換器302は、速度とダイナミックレンジの間に基本的なトレードオフの関係が存在し、高速化にともなってA/D変換器302のダイナミックレンジは減少し、最小分解能が増大する傾向にある。
【0010】
そのため、従来では、特開平8−145899号公報(特許文献1)に記載の技術のように、検出電流を異なる増幅倍率で増幅する複数の増幅器を並列に配置して、複数の増幅器出力のうち適切なレンジの出力によってダイナミックレンジ拡大を実現する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平8−145899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載の技術によれば、複数の増幅器で受け持つレンジ毎にA/D変換回路を配置することで、高速化により各A/D変換回路のダイナミックレンジが制限された状態においても、検出部全体としてダイナミックレンジの拡大が実現できる。
【0013】
ただし、微小な異物に対しては検出信号に雑音が重畳することにより、検出回路の増幅倍率を高くしても信号検出精度の向上が図れないという問題がある。特に、一定の回転数で回転する半導体ウェハからの異物検出信号は異物の半径位置に応じて、例えば図6に示すように信号周波数成分が変化するため、高周波の信号成分を有する半導体ウェハからの外周信号を検出できるように検出特性を定めた場合、信号成分が低周波数に集中する半導体ウェハからの内周信号での検出では、検出回路の周波数帯域は不必要に広い帯域となり混入雑音の抑制ができずに検出精度が悪化するという問題がある。
【0014】
本発明は以上のような問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、検出信号の条件に応じて検出回路特性を可変制御することにより、高精度な信号検出を行うことができる検出回路および、これを用いた半導体ウェハの異物検査装置を提供することにある。
【0015】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0017】
すなわち、代表的なものの概要は、反射光検出器で検出された信号を増幅し、かつ増幅の応答特性が制御信号により制御される増幅回路と、増幅回路により増幅された信号を所定のコードに変換して出力するA/D変換器と、反射光と相関を有する半導体ウェハの情報に基づいて、制御信号を生成する制御回路とを備えたものである。
【発明の効果】
【0018】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0019】
すなわち、代表的なものによって得られる効果は、半導体ウェハの異物検査装置の検出回路において、異物位置情報をもとに検出信号の条件に応じた最適な応答特性で信号検出を行うことができ、異物検出の高精度化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態1に係る半導体ウェハの異物検査装置の構成を示す構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る半導体ウェハの異物検査装置の検出回路における周波数特性を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態2に係る半導体ウェハの異物検査装置の構成を示す構成図である。
【図4】本発明の実施の形態2に係る半導体ウェハの異物検査装置の演算回路の構成を示す構成図である。
【図5】従来の半導体ウェハの異物検査装置の検出回路の概要を示す図である。
【図6】従来の半導体ウェハの異物検査装置の検出回路の周波数特性を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0022】
(実施の形態1)
図1により、本発明の実施の形態1に係る半導体ウェハの異物検査装置の構成について説明する。図1は本発明の実施の形態1に係る半導体ウェハの異物検査装置の構成を示す構成図である。
【0023】
図1において、半導体ウェハの異物検査装置は、検査対象物である半導体ウェハ104をウェハ保持機構(図示せず)により保持して回転動作させるモータ105と、モータ105を移動制御すると共に、移動量を元に検査対象となる半導体ウェハ104の半径情報106(検査対象物からの応答信号と相関を有する情報)を出力する移動機構(図示せず)と、半導体ウェハ104に照射するレーザ光101と、半導体ウェハ104にレーザ光101を照射することで半導体ウェハ104上に異物等(図示せず)が存在する場合に発生する散乱反射光102を検出し、散乱反射光102の強度に応じて電流を出力する反射光検出器である光電子増倍管(PMT)103と、光電子増倍管(PMT)103が出力する信号電流を抵抗201と演算増幅器202とで構成し電圧に変換して出力するI−V変換回路200と、I−V変換回路200が出力した電圧を増幅回路301で増幅しA/D変換器302で所定のコードに変換して出力する検出回路300と、検出回路300の出力コードを入力し、異物等の判別を行うデータ処理回路(図示せず)とで構成される。
【0024】
さらに、検出回路300は、半径情報106を元に増幅回路301の応答特性を制御する制御信号304を出力する制御回路303を備えている。
【0025】
次に、図1、図2、図6により、本発明の実施の形態1に係る半導体ウェハの異物検査装置の動作について説明する。図2は本発明の実施の形態1に係る半導体ウェハの異物検査装置の検出回路における周波数特性を示す図である。
【0026】
まず、異物検査装置では、半導体ウェハ104上にレーザ光101を照射するとともに、半導体ウェハ104を回転動作させ、かつ半導体ウェハ104の半径位置を変更するようにモータ105を移動することで、半導体ウェハ104の表面に照射されるレーザ光101の軌跡は螺旋状となり、これにより半導体ウェハ104の全面検査を行う。
【0027】
半導体ウェハ104の回転数を一定とし半導体ウェハ104の半径位置を変えた場合、半導体ウェハ104の外周におけるレーザ光101の照射点での線速度は速く、ウェハ表面異物からの散乱反射光102の周波数成分は、図6に示すように高周波域に集中し、また、半導体ウェハ104の内周では線速度が遅くなるため半導体ウェハ104の表面異物からの散乱反射光102の周波数成分は、図6に示すように低周波域に集中する。すなわち、検査対象である半導体ウェハ104の半径位置に応じて検出信号の周波数成分は変化する。
【0028】
そこで、本実施の形態では、半導体ウェハ104の半径情報106を元に制御回路303と制御信号304とを介して増幅回路301の応答特性を、例えば、図2に示すように半導体ウェハ104の半径位置に対応して制御している。
【0029】
すなわち、従来の信号成分とは無関係な応答特性である検出回路に対し、本実施の形態では、信号成分と相関のある情報を元に信号成分の変化に応じて検出回路300の応答特性を可変制御することで、検出目的である信号成分以外の雑音成分を抑制し、高精度な信号検出が可能となる。
【0030】
なお、本実施の形態における半導体ウェハの異物検査装置について、上記では動作原理について図1および図2に示したように簡略化して説明したが、I−V変換回路200において抵抗201を可変抵抗素子や可変容量素子を用いて制御することで、検出回路全体の応答特性を制御する構成としてもよい。
【0031】
また、図2では半導体ウェハ半径位置に対して検出回路300の周波数帯域と利得とを同時に変化させているが、検出信号と相関のある検査対象の速度を検出して制御することに加え、検出信号あるいは検出回路特性の補正を含めて検出回路300の応答特性を最適な状態にすることが重要であり、検出目的に応じて周波数帯域のみあるいは利得のみを可変制御すればよいことはいうまでもない。
【0032】
(実施の形態2)
図3により、本発明の実施の形態2に係る半導体ウェハの異物検査装置の構成および動作について説明する。図3は本発明の実施の形態2に係る半導体ウェハの異物検査装置の構成を示す構成図、図4は本発明の実施の形態2に係る半導体ウェハの異物検査装置の演算回路の構成を示す構成図である。
【0033】
実施の形態2では、検出回路300において、演算回路305を備えることが主な特徴であり、その他の部分については実施の形態1の構成と同様である。
【0034】
図3において、検出回路300では、固定の応答特性を有する増幅回路301の出力電圧をA/D変換器302で所定のコードに変換し、A/D変換器302の出力したコードを制御回路303からの制御信号304に応じて演算回路305で演算処理してコードを出力する。
【0035】
演算回路305における演算内容は、A/D変換器302の出力コードと演算回路305の出力コードの間で、例えば図2に示す応答特性を有し、制御信号304に応じて応答特性を可変制御する演算処理を行う。
【0036】
演算回路305の構成例を図4に示す。演算回路305では、入力データ401を動作クロック(図示せず)に従って遅延回路411〜415で順次遅延し、遅延回路411〜415の出力データとRAM413の出力データとを各乗算回路421〜425で乗算し、乗算回路421〜425の出力データを加算回路432で加算して出力データ402を得る。
【0037】
図4は、一般に有限インパルス応答(FIR)フィルタ構成として知られており、乗算回路への係数に応じて回路の周波数特性などの応答特性が変化する。従って、演算回路305に配設したRAM431のアドレス入力に制御信号304を入力し、制御信号304に応じてRAM431の出力データを変化させることで、図2に示した応答特性を演算回路305で実現することが可能となる。
【0038】
なお、演算回路305での演算処理は、例えば、検出回路300の出力コードを入力し、異物等の判別を行うデータ処理回路(図示せず)内で行うことも可能であり、制御回路303からの制御信号304をデータ処理回路に入力し、データ処理回路内での処理において、制御信号304により図2に示した応答特性を考慮した異物等の判定を行うようにしてもよい。
【0039】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、高精度な信号検出を実現することが可能であり、その用途を半導体ウェハを検査対象とする異物検査装置に限定することなく、検査対象物からの応答信号を検出する各種検出回路への応用が可能である。
【符号の説明】
【0041】
101…レーザ光、102…異物等からの散乱反射光、103…光電子増倍管(PMT)、104…半導体ウェハ、105…モータ、106…半径情報、200…I−V変換回路、201…抵抗、202…演算増幅器、300…検出回路、301…増幅回路、302…A/D変換器、303…制御回路、304…制御信号、305…演算回路、401…入力データ、402…出力データ、411〜415…遅延回路、421〜425…乗算回路、431…RAM、432…加算回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウェハに照射光を照射し、前記半導体ウェハからの反射光を検出して、検出した前記反射光に基づいて、前記半導体ウェハ上の異物を検出する半導体ウェハの異物検査装置であって、
前記反射光を検出する反射光検出器と、
前記反射光検出器で検出された電流信号を電圧信号に変換して出力し、かつ変換の応答特性が制御信号により制御される変換回路と、
前記変換回路から出力された電圧信号を増幅する増幅回路と、
前記増幅回路により増幅された信号を所定のコードに変換して出力するA/D変換器と、
前記反射光と相関を有する前記半導体ウェハの情報に基づいて、前記制御信号を生成する制御回路と、
前記A/D変換器から出力された前記コードに基づいて、前記半導体ウェハ上の異物を検出するデータ処理回路とを備えたことを特徴とする半導体ウェハの異物検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体ウェハの異物検査装置において、
前記反射光と相関を有する前記半導体ウェハの情報が、前記半導体ウェハの位置情報であることを特徴とする半導体ウェハの異物検査装置。
【請求項3】
請求項2に記載の半導体ウェハの異物検査装置において、
前記変換回路は、前記半導体ウェハの位置情報に応じて、周波数特性または利得を可変制御することを特徴とする半導体ウェハの異物検査装置。
【請求項4】
請求項1に記載の半導体ウェハの異物検査装置において、
前記反射光と相関を有する前記半導体ウェハの情報が、前記半導体ウェハの速度情報であることを特徴とする半導体ウェハの異物検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−159516(P2012−159516A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−110584(P2012−110584)
【出願日】平成24年5月14日(2012.5.14)
【分割の表示】特願2007−292106(P2007−292106)の分割
【原出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】