説明

半導体セラミックおよび積層型半導体セラミックコンデンサ

【課題】半導体セラミック部分の絶縁性を向上させることで、半導体セラミックとしての高い誘電特性と高い絶縁抵抗の両立を可能とした積層型半導体セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明に係るBaTiO系半導体セラミックは、Ba(Ti1−α−β Gaα Nbβ で表され、A/Bモル比が0.900以上1.060以下の範囲にあり、α/βモル比が0.92以上100以下の範囲にあることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体セラミック、および積層型半導体セラミックコンデンサに関し、より詳しくは、BaTiO系粒界絶縁型の半導体セラミック、およびこれを用いた積層型半導体セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のエレクトロニクス技術の発展に伴い、電子部品の小型化が急速に進んでいる。そして、積層セラミックコンデンサの分野でも、小型化・大容量化の要求が高まっており、このため比誘電率の高いセラミック材料の開発と誘電体セラミック層の薄層化・多層化が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、一般式:{Ba1−x−y CaReO}TiO+αMgO+βMnO(Reは、Y、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、及びYbの群から選ばれる希土類元素、α、β、m、x、およびyは、それぞれ、0.001≦α≦0.05、0.001≦β≦0.025、1.000<m≦1.035、0.02≦x≦0.15、及び0.001≦y≦0.06)で表される誘電体セラミックが提案されている。
【0004】
特許文献1には、上記誘電体セラミックを使用した積層セラミックコンデンサが開示されており、セラミック層1層当たりの厚みが2μm、有効誘電体セラミック層の総数が5で比誘電率εrが1200〜3000、誘電損失が2.5%以下の積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【0005】
また、SrTiO系粒界絶縁型の半導体セラミックは、セラミック成形体を強還元雰囲気下で焼成(一次焼成)してセラミック成形体を半導体化した後、再度酸化雰囲気で焼成(二次焼成)することにより、結晶粒界を誘電体化したものであり、SrTiO自体の比誘電率εrは約200と小さいが、結晶粒界で静電容量を取得しているので、結晶粒径を大きくして結晶粒界の個数を少なくすることにより見掛け比誘電率εrAPPを大きくすることができる。
【0006】
例えば、特許文献2では、結晶粒子の平均粒径が10μm以下で最大粒径が20μm以下のSrTiO系粒界絶縁型半導体磁器素体が提案されており、単層構造の半導体セラミックコンデンサであるが、結晶粒子の平均粒径が8μmの場合で見掛け比誘電率εrAPPが9000の半導体磁器素体を得ることができる。
【0007】
また、特許文献3では、結晶粒子の平均粒径を1μm以下に微粒化しても5000以上の大きな見掛け比誘電率を有するSrTiO系粒界絶縁型の半導体セラミックが提案されており、薄層多層に対応した材料を得ることができる。
【0008】
しかしながら、特許文献1の誘電体セラミックを使用してセラミック層の薄層化・多層化を推し進めると、比誘電率が低下したり、静電容量の温度特性が悪化し、また短絡不良が急増するという問題点があった。
【0009】
このため、例えば100μF以上の大容量を有する薄層の積層セラミックコンデンサを得ようとした場合、誘電体セラミック層1層当たりの厚みを1μm程度とし、かつ、700層〜1000層程度の積層数が必要となることから、実用化が困難な状況にある。
【0010】
また、特許文献2の半導体セラミックは大きな見掛け比誘電率を得るために平均粒径は8μmであり、薄層多層化を考慮した設計となっていない。
【0011】
また、特許文献3の半導体セラミックはSrTiO系の半導体セラミックであり、薄層多層に対応するため、平均粒径を1μm以下に抑制しているが、それでも5000以上の大きな見掛け比誘電率が得られる。さらに粒界絶縁層を形成するため、二次焼成(再酸化処理)をする必要があり、大気雰囲気あるいは、若干酸素濃度を下げても所期の特性が得られる。このことから、半導体セラミック自体は抵抗が低く、このような処理を必要とする。
【0012】
一方、BaTiO系粒界絶縁型の半導体セラミックは見掛け比誘電率が高く、コンデンサ分野への応用が期待されている。しかしながら、半導体セラミックの導電性が高すぎると絶縁抵抗を維持するのに、絶縁被覆層の厚くする必要があるが、厚くすると見掛けの比誘電率は低下するという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平11−302072号公報
【特許文献2】特許第2689439号明細書
【特許文献3】特開2007−180297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、半導体セラミック部分の絶縁性を向上させることで、半導体セラミックとしての高い誘電特性と高い絶縁抵抗の両立を可能とし、薄層多層化にも対応した積層型半導体セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明者らが鋭意検討したところ、BaTiOのTiサイトの一部を、GaとNbで特定量置換してなるBaTiOにおいて、BaサイトとTiサイトとの配合モル比A/Bが0.900≦A/B≦1.060であり、Ga/Nbモル比を0.92≦α/β≦100とした半導体セラミック微粒子を熱処理して得られた焼結体の見掛けの比誘電率は5000以上でかつ、比抵抗は10Ω・μm以上となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、上記課題を解決する本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)BaTiOにGaとNbが同時にTiサイトを置換したBaTiO系半導体セラミック。
【0017】
(2)Ba(Ti1−α−β Gaα Nbβ で表され、α/βモル比が0.92≦α/β≦100の範囲にあることを特徴とするBaTiO系半導体セラミック。
【0018】
(3)A/Bモル比が0.900〜1.060の範囲にあることを特徴とする前記(2)に記載のBaTiO系半導体セラミック。
【0019】
(4)BaTiOにGaとNbが同時にTiサイトを置換したBaTiO系半導体セラミック粉末であって、
最大粒径が1μm以下であることを特徴とするBaTiO系半導体セラミック粉末。
【0020】
(5)Ba(Ti1−α−β Gaα Nbβ で表され、α/βモル比が0.92以上100以下の範囲にあり、
最大粒径が1μm以下であることを特徴とするBaTiO系半導体セラミック粉末。
【0021】
(6)A/Bモル比が0.900以上1.060以下の範囲にあることを特徴とする前記(5)に記載のBaTiO系半導体セラミック粉末。
【0022】
(7)半導体セラミック層と内部電極とが交互に積層された構造の部品素体を有する積層型半導体セラミックコンデンサであって、
前記半導体セラミック層が、前記(1)または(2)に記載のBaTiO系半導体セラミックで構成されることを特徴とする積層型半導体セラミックコンデンサ。
【発明の効果】
【0023】
Ba(Ti1−α−β Gaα Nbβ で表され、A/Bモル比が0.900〜1.060の範囲にあり、α/βモル比が0.92≦α/β≦100の範囲にある本発明のBaTiO系半導体セラミックを使用することにより、5000以上の見掛け比誘電率を得ることができ、かつ比抵抗は10Ω・μm以上を得ることができ、薄層であっても従来の誘電体セラミックに比べ大きな静電容量を有する半導体セラミックを得ることが可能となる。
【0024】
また、本発明の積層型半導体セラミックコンデンサによれば、上記半導体セラミックで部品素体が形成されると共に、内部電極が前記部品素体に設けられ、かつ前記部品素体の表面に前記内部電極と電気的に接続可能とされた外部電極が形成されているので、部品素体を構成する半導体セラミック層を1μm程度に薄層化しても大きな見掛け比誘電率を有する積層型の半導体セラミックコンデンサを得ることができ、したがって従来の積層セラミックコンデンサに比べ、薄層・大容量の積層型半導体セラミックコンデンサを実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施例に係るXRD結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0027】
本発明の一実施形態としての半導体セラミックはBaTiO系粒界絶縁型の半導体セラミックであって、Ba(Ti1−α−β Gaα Nbβ で表され、A/Bモル比が0.900〜1.060の範囲にあり、α/βモル比が0.92≦α/β≦100の範囲にある1μm以下の微粒子である。
【0028】
上記微粒子を熱処理した焼結体の見掛け比誘電率は5000以上で比抵抗は10Ω・μm以上を得ることができ、薄層多層化に好適し、小型大容量の積層型半導体セラミックを得ることが可能となる。
【0029】
以下、A/Bモル比、α/βモル比を上記範囲に限定した理由を述べる。
【0030】
A/Bモル比は半導体セラミックの粒径に影響を及ぼす。A/B比が0.900未満となると、BaTiO生成時における反応性が高くなり、粒成長しやすくなる。そのため、細かい粒子が得られにくく、所望の粒径が得られない。逆に、A/B比が1.060を超えるとBaが占める割合が多くなるため、Baリッチなオルソチタン酸バリウム(BaTiO)が異相として生成するため好ましくない。
【0031】
Nbは半導体化の役割を担っており、TiサイトにドープされることでTi3+ を生成する。このTi3+ が存在すると電子の移動がしやすい環境となるため、比抵抗が低下すると考えられる。Gaは絶縁化の役割を担っており、Gaがドープされた場所は電子の移動ができなくなる。その結果、電子の移動がしにくい環境となり、比抵抗が向上すると考えられる。そのため、Ga/Nb比が大きいと絶縁性が向上し、小さいと導電性が向上する。Ga/Nb比が0.92未満のとき、導電性が高くなるため、比抵抗は10Ω・μm未満となり、絶縁抵抗の確保が困難となる。また、Ga/Nb比が100を超えると、絶縁性が高くなるが、見掛けの比誘電率が5000未満となり、所望の特性が得られなくなる。
【0032】
図1は本発明に係る半導体セラミックを使用して製造された積層型半導体セラミックコンデンサの一実施の形態を模式的に示した断面図である。
【0033】
該積層型半導体セラミックコンデンサは、本発明の半導体セラミックからなる部品素体1に内部電極2(2a〜2e)が埋設されると共に、該部品素体1の両端部には外部電極3a、3bが形成されている。
【0034】
すなわち、部品素体1は、複数の半導体セラミック層1a〜1fの積層焼結体からなり、半導体セラミック層1a〜1fと内部電極2a〜2eとが交互に積層された構造とされ、内部電極2a、2c、2eは外部電極3aと電気的に接続され、内部電極2b、2dは外部電極3bと電気的に接続されている。そして、内部電極2a、2c、2eと内部電極2b、2dとの対向面間で静電容量を形成している。
【0035】
上記積層型半導体セラミックコンデンサは、以下のような方法で製造される。
【0036】
本実施形態に係るBaTiO系半導体微粒子の製造においては、まず、所定の粒子性状を有するBaTiOの原料とガリウム含有粉末とニオブ含有粉末を準備する。
【0037】
チタン酸バリウムの原料としては、本実施形態では、炭酸バリウム粉末(BaCO)および二酸化チタン粉末(TiO)を用いることが好ましい。
【0038】
炭酸バリウム粉末の比表面積は、好ましくは20m/g以上、さらに好ましくは30〜100m/gの範囲にあり、二酸化チタン粉末の比表面積が30m/g以上、さらに好ましくは40〜100m/gの範囲にある。
【0039】
ガリウム含有粉末およびニオブ含有粉末は、酸化物であってもよく、また炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等であってもよいが、粒子性状の制御および入手の容易さなどの観点から酸化物が好ましく用いられる。
【0040】
ガリウム含有粉末およびニオブ含有粉末の比表面積は5.0m/g以上、さらに好ましくは10〜100m/gの範囲にある。
【0041】
原料である炭酸バリウム粉末、二酸化チタン粉末、ガリウム含有粉末およびニオブ含有粉末の比表面積が上記範囲にあると、微粒であり均一な粒度のチタン酸バリウム粉末が得られる。比表面積が比較的小さく、粗粒の原料粉末を用いると、チタン酸バリウムが得られるものの、微粒子が得られにくくなる。
【0042】
次に準備した原料を、所定の組成比となるように秤量して混合、必要に応じて粉砕し、原料混合物を得る。混合・粉砕する方法としては、たとえば、水等の溶媒とともに原料をボールミル等の公知の粉砕容器に投入し、混合・粉砕する湿式法が挙げられる。また、乾式ミキサーなどを用いて行う乾式法により、混合・粉砕してもよい。なお、原料粉末の比表面積は、混合粉末を準備する際の粉砕により上記範囲に調整してもよい。また、混合、粉砕時には、投入した原料の分散性を向上させるために、分散剤を添加するのが好ましい。分散剤としては公知のものを用いればよい。
【0043】
次に、得られた原料混合物を、必要に応じて乾燥した後、熱処理を行う。熱処理における昇温速度は、好ましくは50〜900℃/時間である。また、粒径が小さく、粒度のそろったチタン酸バリウム粉末を得るためには、熱処理温度は、900℃以上1200℃未満とすることが好ましく、特に950〜1150℃であることが好ましい。保持時間は、好ましくは0.5〜5時間、より好ましくは2〜4時間である。
【0044】
さらに、熱処理雰囲気は還元雰囲気、大気雰囲気の何れであってもよいが、大気雰囲気が好ましい。
【0045】
このような熱処理を行うことで、ガリウムおよびニオブが、BaTiOのTiサイトに置換、固溶し、チタン酸バリウムの生成が促進される。
【0046】
なお、保持温度が低すぎると、反応しきれない原料(たとえばBaCOなど)が残留する傾向にある。
【0047】
そして、熱処理での保持時間を経過した後、熱処理時の保持温度から室温まで冷却する。
【0048】
このようにすることで、チタン酸バリウムが細かい粒子として得られる。しかも、チタン酸バリウム粉末の組成やA/B比などを上記の範囲に制御しているため、より細かく、粒径の均一な粒子が得られる
【0049】
次に、SiO等の低融点酸化物の含有モル量がTi元素100モルに対し0.5モルとなるように前記低融点酸化物を添加し、再度前記仮焼粉末及び水並びに必要に応じて分散剤と共にボールミルに投入し、該ボールミル内で十分に湿式混合した後に蒸発乾燥を行い、その後大気雰囲気下、所定温度(例えば、500℃)で3時間程度、熱処理を行い、熱処理粉末を作製する。
【0050】
次に、Mn等の遷移金属元素の含有モル量が、Ti元素100モルに対し、0.3モルとなるように遷移金属化合物を添加し、さらにアルコール燃料等の有機溶媒や分散剤を適量添加する。そしてこの後、再度前記粉砕媒体及び水と共にボールミルに投入し、該ボールミル内で十分に湿式で混合し、その後、有機バインダや可塑剤を適量添加して十分に長時間湿式で混合し、これによりセラミックスラリーを得る。
【0051】
次に、ドクターブレード法等の成形加工法を使用してセラミックスラリーに成形加工を施し、焼成後の厚みが所定厚み(例えば、1〜2μm程度)となるようにセラミックグリーンシートを作製する。
【0052】
次いで、内部電極用導電性ペーストを使用してセラミックグリーンシート上にスクリーン印刷を施し、前記セラミックグリーンシートの表面に所定パターンの導電膜を形成する。
【0053】
尚、内部電極用導電性ペーストに含有される導電性材料としては特に限定されるものではないが、半導体セラミック層とのオーミック接触の確実性や低コスト化の観点からは、NiやCu等の卑金属材料を使用するのが好ましい。
【0054】
次いで、導電膜が形成されたセラミックグリーンシートを所定方向に複数枚積層し、導電膜の形成されていないセラミックグリーンシートで挟持し、圧着し、所定寸法に切断してセラミック積層体を作製する。
【0055】
そしてこの後、大気雰囲気下、温度300〜500℃で脱バインダ処理を行ない、次いで、HガスとNガスが所定の流量比(例えば、H:N=1:100)に調製された強還元雰囲気下、1150〜1300℃の温度で2時間、一次焼成を行ってセラミック積層体を焼結させる。
【0056】
そしてその後、窒素-水蒸気雰囲気下、NiやCu等の内部電極材料が酸化しないように600〜1100℃の低温度で2時間、二次焼成を行い、半導体セラミックを再酸化して粒界絶縁層を形成し、これにより内部電極2が埋設された部品素体1が作製される。
【0057】
次に、部品素体1の両端面に外部電極用導電性ペーストを塗布し、焼付処理を行い、外部電極3a、3bを形成し、これにより積層型半導体セラミックコンデンサが製造される。
【0058】
尚、外部電極用導電性ペーストに含有される導電性材料についても特に限定されるものではないが、オーミック接触に好適なGa、In、Ni、Cu等の材料を使用するのが好ましい。さらに、これらのオーミック接触に好適な電極上にAg電極を形成することも可能である。
【0059】
また、外部電極3a、3bの形成方法として、セラミック積層体の両端面に外部電極用導電性ペーストを塗布した後、セラミック積層体と同時に焼成処理を施すようにしてもよい。
【0060】
このように本実施の形態では、上述した半導体セラミックを使用して積層型半導体セラミックコンデンサを製造しているので、各半導体セラミック層1a〜1fの層厚を1μm以下に薄層化することが可能となり、しかも薄層化しても1層当たりの見掛け比誘電率を5000以上と大きくすることができ、小型・大容量の積層型半導体セラミックコンデンサを得ることができる。
【0061】
また図1では、多数の半導体セラミック層1a〜1fと内部電極2a〜2eとが交互に積層されてなる積層型半導体セラミックコンデンサを示したが、半導体セラミックの単板(例えば、厚みが200μm程度)に内部電極を蒸着等で形成し、この単板の数層(例えば、2、3層)を接着剤等で貼り合わせた構造を有する積層型半導体セラミックコンデンサも可能である。
このような構造は、例えば、低容量の用途に用いられる積層型半導体セラミックコンデンサに有効である。
【0062】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。上記実施の形態では、固溶体を固相法で作製しているが、固溶体の作製方法は特に限定されるものではなく、例えば水熱合成法、ゾル・ゲル法、加水分解法、共沈法等任意の方法を使用することができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0064】
(実施例1〜14、比較例1〜4)
まず、原料粉体としてBaCO(比表面積:25m/g)、TiO(比表面積:50m/g)、Ga(比表面積:10m/g)およびNb(比表面積10m/g)を準備し、表1に示す組成となるように秤量した。
【0065】
【表1】

【0066】
次に、評量した原料粉体を、水および分散剤とともにボールミルにて混合し、原料混合物を作成した。得られた混合粉を、以下の熱処理条件で処理し、チタン酸バリウム系半導体微粒子を作製した。
【0067】
熱処理条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:表1に示す温度、温度保持時間:2時間、冷却速度:200℃/時間、大気中とした。
【0068】
以上により、誘電体層の薄層化に寄与しうるチタン酸バリウム系半導体微粒子が得られた。
【0069】
なお、得られたチタン酸バリウム系半導体微粒子については、蛍光X線分析装置(リガク(株)製、サイマルティック3530)を用いガラスビード法によって、表1に示す組成と一致していることを確認した。
【0070】
(評価)
チタン酸バリウム系半導体微粒子の同定相
得られたチタン酸バリウム系半導体微粒子の結晶構造は、粉末X線回折測定により得られる回折パターンから判断した。X線回折は、X線源としてCu−Kα線を用い、その測定条件は、電圧45kV、電流40mAで、2θ=20°〜90°の範囲を、走査速度4.0deg/min、積算時間30secであった。本実施例では、異相(BaTiO相)が析出しない場合を良好とした。結果を表1に示す。
【0071】
チタン酸バリウム系半導体微粒子の粒子形状
得られたチタン酸バリウム系半導体微粒子の粒子形状を、SEM観察により1000個の粒子について観察測定し、各粒子の円相当換算径から、平均粒径と最大粒径を算出した。本実施例では、最大粒径は、好ましくは1μm以下である場合を良好とし、さらに好ましくは0.8μm以下である。結果を表1に示す。
【0072】
焼結体の比誘電率
得られたチタン酸バリウム系半導体微粒子粉末に対して、造粒材としてポリビニルアルコール水溶液を1wt%加え、造粒後、直径12mmの円盤状に成型プレスした。作製したディスクは、大気中400℃−1時間でバインダ除去後、加湿された窒素と水素の混合雰囲気中にて、1350℃で焼結し、次に加湿された窒素雰囲気中にて、1000℃でアニールした。得られた焼結ディスクに、In−Ga合金を塗布し、LCRメータ(Hewlett Packard製HP4284A)を用いて、比誘電率を測定した。表1中の値は、温度20℃にて、周波数1kHz、電圧1Vrmsで測定した値である。本実施例では、比誘電率は、好ましくは5000以上である場合を良好とし、さらに好ましくは10000以上である。結果を表1に示す。
【0073】
焼結体の比抵抗
絶縁抵抗は温度20℃にて、1Vの直流電圧を30秒印加した後の値であり、比抵抗の形で表記した(単位:Ω・μm)。本実施例では、比抵抗は、好ましくは10Ω・μm以上である場合を良好とし、さらに好ましくは10Ω・μm以上である。結果を表1に示す。
【0074】
表1に示すように、Ba(Ti1−α−β Gaα Nbβ で表されるチタン酸バリウム系半導体の組成において、A/Bモル比およびα/βモル比が本発明の範囲内である場合(実施例1〜14)には、異相は析出せず、最大粒径、比誘電率焼結体および比抵抗の何れの特性においても良好な特性を有し、薄層化に対応可能な半導体微粒子が得られることが確認された。
【0075】
これに対し、表1に示すように、Ba(Ti1−α−β Gaα Nbβ で表されるチタン酸バリウム系半導体の組成において、Ga/Nb比が0.92未満である場合(比較例1)には、焼結体の比抵抗は10Ω・μm未満となる傾向があることが確認できた。Nbは半導体化の役割を担っており、TiサイトにドープされることでTi3+ を生成する。このTi3+ が存在すると電子の移動がしやすい環境となるため、比抵抗が低下すると考えられる。Gaは絶縁化の役割を担っており、Gaがドープされた場所は電子の移動ができなくなる。その結果、電子の移動がしにくい環境となり、比抵抗が向上すると考えられる。
【0076】
また、表1に示すように、Ba(Ti1−α−β Gaα Nbβ で表されるチタン酸バリウム系半導体の組成において、Ga/Nb比が100を超える場合(比較例2)には、見掛けの比誘電率は5000未満となる傾向があることが確認できた。このようにNbが占める割合が小さいときは、導電性が低くなるため、見掛けの比誘電率は低くなると考えられる。
【0077】
また、表1に示すように、Ba(Ti1−α−β Gaα Nbβ で表されるチタン酸バリウム系半導体の組成において、A/Bが0.900未満の場合(比較例3)には、粒成長しやすく、最大粒径が1μmを超える傾向があることが確認できた。
【0078】
また、表1に示すように、Ba(Ti1−α−β Gaα Nbβ で表されるチタン酸バリウム系半導体の組成において、A/Bが1.060を超える場合(比較例4)には、BaTiOの異相が析出し、BaTiOの単相が得られない傾向があることが確認された。なお、BaTiOの異相は、空気中のCOと化合してBaCOとなり、分解する。
【0079】
なお、本実施例において、BaTiOのTiサイトにGaとNbが同時に置換してあることは、図2に示す実施例10における合成粉のXRD結果から明らかである。すなわち、図2に示すように、合成粉には、GaまたはNbに由来するピークは見当たらない。また、GaおよびNbは、そのイオン半径が、それぞれ0.620オングストローム、0.64オングストロームであり、Tiのイオン半径である0.605オングストロームに近く、Baのイオン半径1.61オングストロームとは遠い。そのため、GaおよびNbは、Tiサイトに優先的に置換されて固溶していると考えられる。また、実施例7における合成粉のSTEM−EDS解析写真を撮影したところ、Ga,Nbは、均一にBaTiO内に固溶されていることが確認されている。
【0080】
(実施例15)
実施例10で作製した合成粉のTi元素100モルに対して、SiOを0.5モルとなるように添加し、分散剤と共にボールミルに投入し、該ボールミル内で十分に湿式混合した後に蒸発乾燥を行い、その後大気雰囲気下、500℃で3時間程度、熱処理を行い、熱処理粉末を作製した。
【0081】
次に、合成粉のTi元素100モルに対し、Mnを0.3モル添加し、さらにアルコール燃料等の有機溶媒や分散剤を適量添加した。そしてこの後、水と共にボールミルに投入し、該ボールミル内で十分に湿式で混合し、その後、有機バインダや可塑剤を適量添加して十分に長時間湿式で混合し、これによりセラミックスラリーを得た。
【0082】
次に、ドクターブレード法等の成形加工法を使用してセラミックスラリーに成形加工を施し、乾燥後の厚みが1μmとなるようにセラミックグリーンシートを作製した。
【0083】
次いで、Niを含む内部電極用導電性ペーストを使用してセラミックグリーンシート上にスクリーン印刷を施し、前記セラミックグリーンシートの表面に所定パターンの導電膜を形成した。
【0084】
次いで、導電膜が形成されたセラミックグリーンシートを所定方向に複数枚積層し、導電膜の形成されていないセラミックグリーンシートで挟持し、圧着し、所定寸法に切断してセラミック積層体を作製した。
【0085】
そしてこの後、大気雰囲気下、温度300〜500℃で脱バインダ処理を行ない、次いで、HガスとNガスが所定の流量比(例えば、H:N=1:100)に調製された強還元雰囲気下、昇降温速度600℃/hrおよび保持温度1200℃で2時間、一次焼成を行ってセラミック積層体を焼結させた。
【0086】
そしてその後、窒素-水蒸気雰囲気下、Niの内部電極材料が酸化しないように、昇降温速度200℃/hrおよび保持温度1000℃で2時間、二次焼成を行い、半導体セラミックを再酸化して粒界絶縁層を形成し、これにより内部電極2が埋設された部品素体1が作製した。
【0087】
次に、部品素体1の両端面にIn−Ga共晶合金を含む外部電極用導電性ペーストを塗布し、焼付処理を行い、外部電極3a、3bを形成し、これにより積層型半導体セラミックコンデンサを製造した。
【0088】
このようにして作製したコンデンサについて、LCRメータ(Hewlett Packard製HP4284A)を用いて、比誘電率を測定した。測定は、温度20℃にて、周波数1kHz、測定電圧0.5Vrmsで測定した。また、否定高は、温度20℃にて、1Vの直流電圧を30秒印加した後の値であり、比抵抗の形で表記した(単位:Ω・μm)。比誘電率は、35000であり、比抵抗は1010Ω・μmであり、良好な値を示した。
【符号の説明】
【0089】
1… 部品素体
1a〜1f… 半導体セラミック層
2… 内部電極
2a〜2e… 内部電極
3a、3b… 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BaTiOにGaとNbが同時にTiサイトを置換したBaTiO系半導体セラミック。
【請求項2】
Ba(Ti1−α−β Gaα Nbβ で表され、α/βモル比が0.92以上100以下の範囲にあることを特徴とするBaTiO系半導体セラミック。
【請求項3】
A/Bモル比が0.900〜1.060の範囲にあることを特徴とする請求項2に記載のBaTiO系半導体セラミック。
【請求項4】
BaTiOにGaとNbが同時にTiサイトを置換したBaTiO系半導体セラミック粉末であって、
最大粒径が1μm以下であることを特徴とするBaTiO系半導体セラミック粉末。
【請求項5】
Ba(Ti1−α−β Gaα Nbβ で表され、α/βモル比が0.92以上100以下の範囲にあり、
最大粒径が1μm以下であることを特徴とするBaTiO系半導体セラミック粉末。
【請求項6】
A/Bモル比が0.900以上1.060以下の範囲にあることを特徴とする請求項5に記載のBaTiO系半導体セラミック粉末。
【請求項7】
半導体セラミック層と内部電極とが交互に積層された構造の部品素体を有する積層型半導体セラミックコンデンサであって、
前記半導体セラミック層が、請求項1または2に記載のBaTiO系半導体セラミックで構成されることを特徴とする積層型半導体セラミックコンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−206890(P2012−206890A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73337(P2011−73337)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】