説明

半導体ナノ粒子含有膜及び半導体ナノ粒子

【課題】分散性に優れ、発光強度が安定した半導体ナノ粒子を提供すること。
【解決手段】半導体基板上に成膜された半導体ナノ粒子含有膜において、成膜された膜の化学的処理の前後におけるnd値(半導体ナノ粒子含有膜の膜厚をd、屈折率をn)の変化率が0.3〜20.0%であることを特徴とする半導体ナノ粒子含有膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板上に成膜された半導体ナノ粒子含有膜、及び分散媒中に取り出された半導体ナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の検出機材の高感度化や標識材料の高輝度化によって、単一分子の検出、同定、及び運動の観察が可能になり、分析化学、分子生物学及びナノ構造体の解析に大きな役割を果たしてきている。
【0003】
単一分子の観察に使用される標識材料として、蛍光色素やナノ粒子蛍光体が提案されている。特にナノ粒子蛍光体は蛍光色素に比べて、大きさや材質を選択することにより、凡そ400〜2000nmの範囲で比較的自由に発光ピーク波長を設定することができること、ストークスシフトを広くとることができ、励起光との重なりやバックグラウンドによるノイズ影響を小さくすることで検出能を高めることができること、また褪色が非常に少ないため、長時間の動態観察が可能であることなど利点が非常に多い。
【0004】
一般に、ナノメートルサイズの半導体物質で量子閉じ込め(quantum confinement)効果を示す物質は「量子ドット」と称されている。このような量子ドットは、半導体原子が数百個から数千個集まった10数nm程度以内の小さな塊であるが、励起源から光を吸収してエネルギー励起状態に達すると、量子ドットのエネルギーバンドギャップに相当するエネルギーを放出する。従って、量子ドットの大きさまたは物質組成を調節すると、エネルギーバンドギャップを調節することができて、様々な水準の波長帯のエネルギーを利用することができる可能性があると考えられている。
【0005】
しかしながら、量子ドットは結晶構造を持ち、粒径によりバンドギャップが変化するという性質を持ち、バンドギャップの変化に伴い発光波長が変化するため、個々の粒径のばらつきが直接粒子毎の発光スペクトルのばらつきにつながる。これを回避するには、単一スペクトルの粒子を分級するなど煩雑な操作が必要になるなどの原理的な問題を抱えている。
【0006】
また、実際に利用される半導体ナノ粒子蛍光体の大きさは1〜10nm程度であるが、蛍光色素に比べて大きさ、質量も大きいため、10〜100μmの細胞の生体物質標識剤として用いる場合に、生態イメージングの観点で細胞への障害性がイメージング挙動に影響するという問題があると考えられる。
【0007】
また、半導体ナノ粒子蛍光体の中で半導体基板上にアモルファス酸化ケイ素膜を形成し、熱処理等でシリコンナノ粒子蛍光体とする技術が知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。しかしながら、これらは形成された酸化ケイ素膜の特性には言及していない。
【特許文献1】特開2004−296781号公報
【特許文献2】特開2006−70089号公報
【特許文献3】特開2007−63378号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、分散性に優れ、発光強度が安定した半導体ナノ粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、下記構成により達成される。
【0010】
1.半導体基板上に成膜された半導体ナノ粒子含有膜において、成膜された膜の化学的処理の前後におけるnd値(半導体ナノ粒子含有膜の膜厚をd、屈折率をn)の変化率が0.3〜20.0%であることを特徴とする半導体ナノ粒子含有膜。
【0011】
2.前記化学的処理をフッ化水素で行うことを特徴とする前記1に記載の半導体ナノ粒子含有膜。
【0012】
3.前記1または2に記載の半導体ナノ粒子含有膜から分散媒中に取り出されたことを特徴とする半導体ナノ粒子。
【0013】
4.平均粒径が1〜10nmであることを特徴とする前記3に記載の半導体ナノ粒子。
【0014】
5.前記半導体ナノ粒子がシリコン(Si)またはゲルマニウム(Ge)であることを特徴とする前記3または4に記載の半導体ナノ粒子。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、分散性に優れ、発光強度が安定した半導体ナノ粒子を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について詳述する。
【0017】
本発明の半導体ナノ粒子含有膜において、成膜された膜の化学的処理の前後におけるnd値(半導体ナノ粒子含有膜の膜厚をd、屈折率をn)の変化率が0.3〜20.0%であることを特徴とする。
【0018】
本発明に係る半導体ナノ粒子の材料としては、公知の種々の蛍光発光性化合物及びその原料を用いることができる。例えば、従来、半導体ナノ粒子の材料として知られている種々の半導体材料を用いて形成することができる。具体的には、例えば、元素の周期表のIV族、II−VI族、及びIII−V族の半導体化合物、及びこれらの化合物を構成する元素を含む原料化合物を用いることができる。
【0019】
II−VI族の半導体の中では、特に、MgS、MgSe、MgSe、MgTe、CaS、CaSe、CaTe、SrS、SrSe、SrTe、BaS、BaSe、BaTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、HgS、HgSe及びHgTeを挙げることができる。
【0020】
III−V族の半導体の中では、GaAs、GaN、GaPGaSb、InGaAs、InP、InN、InSb、InAs、AlAs、AlP、AlSb及びAlSを挙げることができる。
【0021】
IV族の半導体の中では、Ge及びSiは特に適している。
【0022】
上記の各種半導体材料のうち、安全性を満たす組成という観点から、特に、Si、Ge、InN、InPが好ましい材料として挙げられるが、これらのうちで、本発明に係る半導体ナノ粒子を構成する主要成分原子としては、シリコン(Si)及びゲルマニウム(Ge)が最も好ましい。
【0023】
本発明において、半導体ナノ粒子含有膜は、半導体基板(主に用いられるのはシリコン基板)上に、例えば、高速スパッタリング法(例えば、特開2004−296781号公報参照)で形成した膜(例えば、アモルファス酸化ケイ素膜)を不活性ガス(アルゴン等)中で熱処理(アニール処理)、更には化学的処理をすることによって得られる。高速スパッタリング法における熱処理温度は900〜1200℃、好ましくは1000〜1100℃であり、熱処理時間は15〜100分、好ましくは30〜80分、より好ましくは50〜60分である。
【0024】
なお、半導体基板上にアモルファス酸化ケイ素膜を形成することは、(1)対向する原料半導体を電極間で発生させた第一の高温プラズマによって蒸発させ、減圧雰囲気中において無電極放電で発生させた第二の高温プラズマ中に通過させる方法(例えば、特開平6−279015号公報参照。)、(2)レーザーアブレーション法(例えば、特開2004−356163号参照。)によっても可能である。
【0025】
高速スパッタリング装置において、アルゴンガスを真空チャンバーにアルゴンガス導入し、アルゴンガスをイオン化し、イオン化されたアルゴンイオンを高周波電極のターゲット材料であるシリコンチップと石英ガラス(石英ガラス上にシリコンチップが所定の間隔で配列されている。)へ衝突させ、ターゲット材料から放出された原子や分子を半導体基板上に堆積させ、アモルファス酸化ケイ素(SiO)膜を形成する。
【0026】
高速スパッタリング法におけるターゲット材料としては、シリコンチップと石英ガラスが挙げられ、シリコンチップと石英ガラスの面積比を制御することによって、様々な粒子サイズのシリコンナノ粒子が得られる。シリコンチップと石英ガラスの面積比は1〜50%の範囲である。
【0027】
スパッタリング条件である高周波電力やガス圧を変化させても粒子サイズを制御することができる。高周波電力は10〜500W、ガス圧は1.33×10−2〜1.33×10Paの範囲である。
【0028】
熱処理(アニール処理)後の化学的処理としては、本発明においてはフッ化水素処理が好ましい。フッ化水素処理については、フッ化水素水溶液またはフッ化水素蒸気が用いられるが、フッ化水素蒸気の使用が好ましく、曝すフッ化水素蒸気の温度、時間については好ましくは30〜60℃で3〜30分、より好ましくは35〜50℃で5〜15分である。
【0029】
本発明において、シリコンナノ粒子を含有する酸化ケイ素膜の場合、ndが2以上10以下に制御することであり、好ましくは3以上7以下、特に好ましくは3.5以上5以下に制御することである。ndが3未満の場合、膜内に形成されたSi粒子の分布が不均一であり粒径分布も広がってしまう。10を超える場合、膜内から取り出す際に凝集したり、均一な発光が得られないなどの不具合が生じる。これらのことから、ndを3〜10の範囲とし、フッ化水素処理の前後でのnd変化率を0.3〜20.0%とすることにより、分散性に優れ、発光強度が安定したシリコンナノ粒子が得られる。
【0030】
ndの制御はあらゆる手段をとることができる。例えば、スパッタリング法において、スパッタリング装置内でのターゲット上のシリコンチップの量とアルゴン等不活性ガスの内圧及びスパッタリング時間の制御や、熱処理の温度や時間の制御が有効である。nd値を変化させるには、フッ化水素蒸気の条件として、時間、濃度、温度などを変えることで変化量を制御することができる。
【0031】
本発明においては、フッ化水素処理後、半導体ナノ粒子は半導体ナノ粒子含有膜から分散媒中に取り出される。分散媒としては、水、エタノール、メタノールなどの脂肪族アルコール、トルエン等の芳香族炭化水素、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素など、及びこれらの混合物などが用いられる。必要に応じて、界面活性剤、分散安定剤、酸化防止剤などの添加物、並びにポリマーや重合性官能基を有するモノマー、オリゴマーからなる組成物を加えることができる。
【0032】
なお、本発明に係る半導体ナノ粒子分散液は、多波長で均一発光強度のため標識などの生体分析等の用途に使用できる。
【0033】
励起光の光源は所望の波長と強度の条件を満足するものであれば限定されず、例えば、高圧水銀灯、低圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ等の各種ランプ、Arレーザー、Krレーザー、He−Neレーザー等の各種レーザー及び各種LEDを用いることができる。励起光の波長は半導体ナノ粒子の種類及び粒子サイズに依存するが、通常は200〜1000nmが用いられる。Si、Ge半導体ナノ粒子を励起する場合は、吸収が大きい280〜500nmの範囲にあることが好ましい。
【0034】
本発明において、半導体ナノ粒子の平均粒径は発光色及び生体分子に対する検出性を高めた半導体ナノ粒子標識体の作製等の観点から、1〜10nmであることが好ましい。更に、平均粒径は1〜8nmの範囲にあることが好ましい。なお、半導体ナノ粒子の発光色は粒径によって決まり、粒径が小さいほど短波長の発光を示す。従って、各種発光色の混合防止の観点から、半導体ナノ粒子蛍光体の粒径分布の標準偏差は、平均粒径に対して20%以下であることが好ましい。
【0035】
本発明の半導体ナノ粒子は、種々の技術分野における分析に応用できる。例えば、異なる発光スペクトルを持つ半導体ナノ粒子を使用した複合ナノ粒子で複数種類の分子をそれぞれ標識し、当該分子に励起光を照射することによって、同時に複数種類の分子の同定を行うこともできる。なお、適用可能な複数種類の分子としては、化学組成は同じであるが化学構造の異なる構造異性体等も含む。
【0036】
以下、代表的な応用例について説明する。
【0037】
本発明の半導体ナノ粒子は、生体物質標識剤に適応することができる。また、標的(追跡)物質を有する生細胞もしくは生体に、本発明に係る生体物質標識剤を添加することで標的物質と結合もしくは吸着し、当該結合体もしくは吸着体に所定の波長の励起光を照射し、当該励起光に応じてアップコンバージョン粒子からの発光を励起光とした蛍光半導体微粒子から発生する所定の波長の蛍光を検出することにより、上記標的(追跡)物質の蛍光動態イメージングを行うことができる。即ち、本発明に係る生体物質標識剤は、バイオイメージング法(生体物質を構成する生体分子やその動的現象を可視化する技術手段)に利用することができる。
【0038】
上述した半導体ナノ粒子表面は疎水性であるため、例えば、生体物質標識剤として使用する場合はこのままでは水分散性が悪く、粒子が凝集してしまう等の問題があるため、表面を親水化処理することが好ましい。
【0039】
親水化処理の方法としては、例えば、表面の親油性基をピリジン等で除去した後に粒子表面に表面修飾剤を化学的及び/または物理的に結合させる方法がある。表面修飾剤としては、親水基としてカルボキシル基、アミノ基を持つものが好ましく用いられ、具体的にはメルカプトプロピオン酸、メルカプトウンデカン酸、アミノプロパンチオールなどが挙げられる。具体的には、例えば、Ge/GeO型ナノ粒子10−5gをメルカプトウンデカン酸0.2gが溶解した純水10ml中に分散させて、40℃、10分間攪拌し、シェルの表面を処理することでナノ粒子のシェルの表面をカルボキシル基で修飾することができる。
【0040】
生体物質標識剤は、上述した親水化処理された半導体ナノ粒子と分子標識物質と有機分子を介して結合させて得られる。
【0041】
生体物質標識剤は、分子標識物質が目的とする生体物質と特異的に結合及び/または反応することにより、生体物質の標識が可能となる。当該分子標識物質としては、例えば、ヌクレオチド鎖、抗体、抗原及びシクロデキストリン等が挙げられる。
【0042】
生体物質標識剤は、親水化処理された半導体ナノ粒子と分子標識物質とが有機分子により結合されている。当該有機分子としては複合体ナノ粒子と分子標識物質とを結合できる有機分子であれば特に制限はないが、例えば、タンパク質中でも、アルブミン、ミオグロビン及びカゼイン等、またタンパク質の一種であるアビジンをビオチンと共に用いることも好適に用いられる。上記結合の態様としては特に限定されず、共有結合、イオン結合、水素結合、配位結合、物理吸着及び化学吸着等が挙げられる。結合の安定性から共有結合などの結合力の強い結合が好ましい。
【0043】
具体的には、半導体ナノ粒子をメルカプトウンデカン酸で親水化処理した場合は、有機分子としてアビジン及びビオチンを用いることができる。この場合、親水化処理されたナノ粒子のカルボキシル基はアビジンと好適に共有結合し、アビジンが更にビオチンと選択的に結合し、ビオチンが更に生体物質標識剤と結合することにより生体物質標識剤となる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0045】
実施例1
(スパッタリングによる成膜)
真空チャンバー内にArガスを0.5Pa導入し、高周波コントローラ200Wによりイオン化されたArガスイオンをSiチップと石英ガラスからなるターゲット材料(Si/SiO=15%)に衝突させる。これらの放出された原子及び分子を半導体基板上に堆積し、酸化ケイ素膜内にSi原子が混ざった膜を形成する。
【0046】
(アニール処理)
得られたSi原子を含有した酸化ケイ素膜をAr雰囲気中で1100℃まで急速に昇温し熱処理を行い、膜中のSi原子をナノサイズまで凝集させる。
【0047】
(フッ化水素処理)
得られたSiナノ粒子含有酸化ケイ素膜を40℃のフッ化水素蒸気に曝すことで、表面処理を行う。半導体基板上に蒸着した膜を下面にし、フッ化水素蒸気をあてる。フッ化水素蒸気にあてた時間は表1に示すように、1分、3分、5分、8分と変化させた。
【0048】
このときに波長405nmの半導体レーザーを膜に照射し、反射光を分光器で検出を行い、フッ化水素処理前後のnd値から、その変化率を求めた。
【0049】
(加熱酸化処理)
フッ化水素処理後のSiナノ粒子含有酸化ケイ素膜を自然酸化、または過熱酸化処理を行う。
【0050】
(シリコンナノ粒子の分離・液中への分散)
自然酸化または過熱酸化したシリコンナノ粒子含有酸化ケイ素膜をエタノール中に投入して10分間の超音波処理を行って、シリコンナノ粒子の分散液を得た。
【0051】
得られた分散液について、1日、3日、1週間、1ケ月後の発光強度を求めた。なお、放置後の沈殿物を確認するために撹拌を行い、撹拌後の発光強度も示した。発光強度はシリコンナノ粒子の分散液を得た直後を100として、その相対値で示した。結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1より、nd値が本発明の範囲内については、分散性に優れ、放置後の発光強度の低下は非常に小さいことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板上に成膜された半導体ナノ粒子含有膜において、成膜された膜の化学的処理の前後におけるnd値(半導体ナノ粒子含有膜の膜厚をd、屈折率をn)の変化率が0.3〜20.0%であることを特徴とする半導体ナノ粒子含有膜。
【請求項2】
前記化学的処理をフッ化水素で行うことを特徴とする請求項1に記載の半導体ナノ粒子含有膜。
【請求項3】
請求項1または2に記載の半導体ナノ粒子含有膜から分散媒中に取り出されたことを特徴とする半導体ナノ粒子。
【請求項4】
平均粒径が1〜10nmであることを特徴とする請求項3に記載の半導体ナノ粒子。
【請求項5】
前記半導体ナノ粒子がシリコン(Si)またはゲルマニウム(Ge)であることを特徴とする請求項3または4に記載の半導体ナノ粒子。

【公開番号】特開2010−13313(P2010−13313A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−174575(P2008−174575)
【出願日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】