説明

半導体レーザダイオード及びその作製方法

【課題】Si、Ge、GaP等の間接型半導体を材料として用いる半導体レーザダイオードにおいて発光効率を向上させる。
【解決手段】順方向バイアス電圧を印加することにより活性層12に拡散電流を発生させ、発生された拡散電流により生じるジュール熱に基づいて何れか1以上の層11、12、13の表面形状及び/又はドーパント分布を変化させることを繰り返すとともに、順方向バイアス電圧により活性層12における伝導帯と価電子帯に反転分布を生じさせ、変化後の表面形状及び/又はドーパント分布に基づいて近接場光が発生した箇所では、反転分布を形成している伝導帯中の電子を非断熱過程に基づいて複数段階で誘導放出させることにより、拡散電流を減少させてジュール熱を低下させることにより、表面形状及び/又はドーパント分布を固定させるとともに、誘導放出により生成された光を共振面間で共振させることにより更なる誘導放出を誘発させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザダイオード及びその作製方法に関し、特にその赤外領域の光源として実用化する上で好適な半導体レーザダイオード及びその作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザダイオードは、半導体を光増幅媒質としたレーザであり、電流注入によってレーザ発振を得る素子である。半導体レーザダイオードは、大半がGaAs、GaNをはじめとする化合物半導体として作製される。もちろん、通信帯域である1.3〜1.6μmの波長帯域の光源して用いられる半導体レーザダイオードも、例えばInGaAsP等の化合物半導体で構成される。このような3元系、4元系の化合物半導体を半導体レーザダイオードに応用するためには、非発光損失や工学的な散乱損失を防ぐために欠陥や不純物の少ない結晶が必要とされ、CVD(Chemical Vapor Deposition)やMBE(Molecular Beam Epitaxy)等の成長法が用いられ、基板にはInP、GaAsを始めとする高純度なウエハー用結晶が使われる。これは多元系材料の良質な結晶は溶融再結晶法等によって得ることができないためである。
【0003】
加えて、このような高純度なウエハー用結晶では半導体レーザダイオードとして動作させるためにヘテロ構造やダブルへテロ構造が必要になる。これらの構造を形成させる理由としては、電子を活性層に集中させて再結合効率を向上させるためである。このようなヘテロ構造やダブルへテロ構造を形成させるためには、元素の組成比を交互に異ならせた多元系結晶が必要となる
【0004】
但し、このような多元系結晶を作り込むためには、電気伝導のためのドーパント濃度の調整が重要となり、変調ドーピングといった手法により高効率にそれを行うことも従来より行われているが、係る変調ドーピング自体のコストが過大であるという問題点があった。一方、Si、Ge、GaPを始めとする間接遷移型半導体は、レーザ発振させる上でヘテロ構造を必要としない。加えて、この間接遷移型半導体は、良質な結晶を高い生産性を以って得ることができ、更にはドーピングが容易である等の利点もある。しかしながら、この間接遷移型半導体は、間接遷移型であるため、発光効率が低く、従来の方法によりレーザ発振の実現には至っていない。特にこの発光効率の低さは、半導体レーザダイオードとしての応用を考える場合には致命的な問題にもなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T. Kawazoe、 K. Kobayashi、 S. Takubo、 and M. Ohtsu、 J. Chem. Phys.、 Vol.122、 No.2、January 2005、 pp.024715 1-5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したSi、Ge、GaP等は間接遷移型半導体であるため、赤外光を発光する半導体レーザダイオードの材料として望ましいものとはいえない。このため、あくまでSi、Ge、GaP等を発光材料として用いる半導体レーザダイオードにおいて近赤外における発光効率を向上させることが可能な技術が従来より望まれていた。
【0007】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、Si、Ge、GaP等の間接型半導体を材料として用いる半導体レーザダイオードにおいて発光効率を向上させることが可能な半導体レーザダイオード及びその作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明を適用した半導体レーザダイオードは、上述した課題を解決するために、n型クラッド層、活性層、p型クラッド層が順に積層され、対向する1対の出力面を共振面とした半導体層を備える半導体レーザダイオードにおいて、順方向バイアス電圧を印加することにより上記活性層に拡散電流を発生させ、上記発生された拡散電流により生じるジュール熱に基づいて何れか1以上の上記層の表面形状及び/又はドーパント分布を変化させることを繰り返すとともに、上記順方向バイアス電圧により上記活性層における伝導帯と価電子帯に反転分布を生じさせ、上記変化後の表面形状及び/又はドーパント分布に基づいて近接場光が発生した箇所では、上記反転分布を形成している上記伝導帯中の電子を非断熱過程に基づいて複数段階で誘導放出させることにより、上記拡散電流を減少させて上記ジュール熱を低下させることにより、表面形状及び/又はドーパント分布を固定させるとともに、上記誘導放出により生成された光を上記共振面間で共振させるとともに更なる上記誘導放出によりその共振光をさらに増幅させることによりレーザ発振させることを特徴とする。
【0009】
また、本発明を適用した半導体レーザダイオードの作製方法は、上述した課題を解決するために、n型クラッド層、活性層、p型クラッド層が順に積層され、対向する1対の出力面を共振面とした半導体層を備える半導体レーザダイオードの作製方法において、順方向バイアス電圧を印加することにより上記活性層に拡散電流を発生させ、上記発生された拡散電流により生じるジュール熱に基づいて何れか1以上の上記層の表面形状及び/又はドーパント分布を変化させることを繰り返すとともに、上記順方向バイアス電圧により上記活性層における伝導帯と価電子帯に反転分布を生じさせ、上記変化後の表面形状及び/又はドーパント分布に基づいて近接場光が発生した箇所では、上記反転分布を形成している上記伝導帯中の電子を非断熱過程に基づいて複数段階で誘導放出させることにより、上記拡散電流を減少させて上記ジュール熱を低下させることにより、表面形状及び/又はドーパント分布を固定させるとともに、上記誘導放出により生成された光を上記共振面間で共振させることにより更なる上記誘導放出を誘発させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上述した構成からなる本発明によれば、Si、Ge、GaP等の間接型半導体を材料として用いる半導体レーザダイオードにおいて発光効率を向上させることが可能となる。具体的には、活性層のバンドギャップ幅に対応した吸収端波長より長波長である光を放出させることができる。仮に、p型クラッド層がシリコンであれば、そのシリコンによる発光波長としての近赤外域の光をも発光させることが可能となる。また、本発明を適用した半導体レーザダイオードの作製方法では、特に大掛かりな装置を必要とすることなく、希望の波長に対して感度の優れた受光素子を安価で作成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を適用した半導体レーザダイオードの構成を示す図である。
【図2】本発明を適用した半導体レーザダイオードの側面図である。
【図3】n型クラッド層、活性層、p型クラッド層からなる半導体層のエネルギーバンド図である。
【図4】図3におけるP部のn型クラッド層、活性層、p型クラッド層の微視的な形状の例を示す図である。
【図5】特有の微細形状Bが、p型クラッド層とn型クラッド層との界面において形成される例を示す図である。
【図6】非断熱過程を原子同士の結合をバネで置き換えたモデルで表した図である。考えることができる。
【図7】図5中のQ部におけるエネルギー状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用した半導体レーザダイオード及びその作製方法について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明を適用した半導体レーザダイオード1の構成を示している。この半導体レーザダイオード1は、基板5上にn型クラッド層11、活性層12、p型クラッド層13が順に積層されてなる半導体層10とを備えている。このとき、半導体層10の基板5に対する積層順は、その逆であるp型クラッド層13、活性層12、n型クラッド層11の順とされていてもよい。またこの半導体層10の上部には、光導波方向Aに沿ってリッジ構造2が形成されている。この半導体層10においては、n型クラッド層11、p型クラッド層13には図示しない電源が接続され、レーザ発振時には、n型クラッド層11側が正電圧、p型クラッド層13側が負電圧となるように順方向にバイアス電圧が負荷されることになる。
【0014】
n型クラッド層11は、いわゆるシリコン等の基板等で構成されるがこれに限定されるものではなく、他の間接型半導体であってもよい。ここで代表的な間接型無機化合物にはSi以外に、GaP,AlGaAs(混晶比に依存)、AlP、AlAs、Ge、SiC、PbS、PbTe、TIO2、GaS、AlSb、C(ダイヤモンド)、BNなどがあり、本手法はそのすべてに応用可能である。
【0015】
p型クラッド層13は、例えばSiに対しホウ素等をp型ドーパントとして高密度、高エネルギーでインプラントしたものとして構成される。このn型クラッド層11は、例えば700KeV、表面から500nm付近においてそのドーピング密度は1019とされていてもよい。
【0016】
これらn型クラッド層11、並びにp型クラッド層13は、活性層12のバンドギャップエネルギーよりも大きなバンドギャップエネルギーを有してもよい、この場合キャリアをこの活性層12内に効率的に閉じ込めることが可能となるので効率向上が期待できる。
【0017】
さらに活性層12は、単一量子井戸構造或いは多重量子井戸構造等のような量子井戸構造を有し、当該量子井戸構造は、n型クラッド層11及びp型クラッド層13のバンドギャップよりも小さなバンドギャップを有してもよい。この活性層12は、例えばインジウム含有窒化物半導体、即ちIndAleGa1-d-eN(0<d≦1、0≦e≦1、0<d+e≦1)よりなる井戸層を有する。好ましくは、この井戸層は、三元混晶のInfGa1-fN(0<f<1)で形成される。三元混晶のInGaNは四元混晶のものに比べて結晶性が良好な層を提供するので、発光出力の向上が期待できる。
【0018】
リッジ構造2は、幅1〜20μm程度であり、長さ100μm〜1mm、高さ500nm〜2μm程度で構成される、いわゆるストライプ状の光導波路領域である。このリッジ構造2は、例えば異方性エッチング等により形成させることが望ましく、順メサ型、逆メサ型、垂直型等で仕上げることにより、光導波方向Aにおける光閉じ込めを好適に実現することが可能となる。
【0019】
またリッジ構造2以外は、絶縁膜等で保護し、その上から上述したバイアス電圧を印加するための図示しない電極を形成させる。
【0020】
図2は、本発明を適用した半導体レーザダイオード1の側面図を示している。図2(a)に示すように、光導波方向Aの両端において劈開面7を形成させている。活性層12により形成されるA方向の導波路を伝搬する光は、この劈開面7間を互いに反射して共振することが可能となる。この共振器としての構造は、例えば図2(b)に示すように、劈開面7を形成させる代替として、反射光学系20を設けるようにしてもよい。この反射光学系20は、レンズ21とミラー22とが活性層12からの出射光の光路上に順次設けられている。
【0021】
このように光導波方向Aを光を共振させるための共振面は、反射光学系20又は劈開面7で構成することが可能となる。
【0022】
このような半導体レーザダイオード1を作製する際には、n型クラッド層11、p型クラッド層13に順方向バイアス電圧を印加する。その結果、以下のメカニズムに基づいて、本発明所期の半導体レーザダイオード1を作製することが可能となる。
【0023】
図3は、n型クラッド層11、活性層12、p型クラッド層13からなる半導体層10のエネルギーバンド図を示している。順方向バイアス電圧が負荷されると、p型クラッド層13中の正孔がn型クラッド層11側へと移動し、n型クラッド層11中の電子がp型クラッド層13側へと移動していく。その結果、活性層12は空乏化することなく互いの電子と正孔が打ち消しあうことで拡散電流が流れる。その結果、順方向バイアス電圧が高い場合にこの電子の移動に伴うジュール熱が発生する。このジュール熱の特に大きな発生部位は、大きな電位差を生じる活性層12やp型クラッド層13やn型クラッド層11の表面等である。また、この順方向バイアス電圧をより高くしていくことにより、かかる活性層12においてアバランシェ降伏を起こし、一気に電流が流れていくことになる。その結果、ジュール熱による発熱が、かかるアバランシェ降伏により促進されることになる。
【0024】
このジュール熱が発生する結果、n型クラッド層11、活性層12、p型クラッド層13を構成する半導体層10における流動性が増加し、その表面形状及び/又はドーパントの分布が変化することになる。上述した順方向バイアス電圧を負荷し続けることにより、かかる表面形状及び/又はドーパントの分布変化が継続して生じることになる。
【0025】
図4は、図3におけるP部のn型クラッド層11、活性層12、p型クラッド層13の微視的な形状の例である。この例では、活性層12とp型クラッド層13との接合界面には、ナノオーダーの微細な凹凸が形成されている。
【0026】
この状態で活性層12において、ジュール熱を発生させると、内部の流動性が増加する結果、活性層12内や、当該活性層12とp型クラッド層13又はn型クラッド層11の界面における形状やドーパントの分布がランダムに変化することになる。かかる表面形状やドーパントの分布の変化が繰り返して起こる結果、例えば、図5に示すようにある特有の微細形状Bが、このp型クラッド層13とn型クラッド層11との界面において形成される。この微細形状Bは、入射された光に基づいて近接場光が発生する上でより適した形状である。この微細形状B形成させるための条件は確定されるものではなく、ジュール熱の発生に伴うp型クラッド層13やn型クラッド層11等の表面形状やドーパントのランダムな変化の結果、ある確率の下で偶然に形成されるものである。なお、この近接場光は、p型クラッド層13とn型クラッド層11との界面に発生する場合に限定されるものではなく、半導体層10を構成する何れか1以上の層の表面形状及び/又はドーパント分布を変化させるものであればよい。
【0027】
このような微細形状Bが形成されたときに、上述した順方向バイアス電圧を更に負荷し続けると、当該微細形状Bの主として角部において近接場光が発生する。ここでいう近接場光は、仮想的な電磁場の意味も含まれていることから、仮想的な電磁場が形成されていることが近接場光の発生を意味するものとして解される。この近接場光の発生は、特に誘導光が無い状態の下であっても、順方向電流注入時には注入された電荷の自然放出およびそれを元とした誘導放出によって発生することになる。この近接場光が発生することにより以下に説明する非断熱過程が生じる。ちなみに、この近接場光の発生位置は、当該微細形状Bに対応したp型クラッド層13とn型クラッド層11の界面のみならず、他の箇所で発生することも当然起こりえる。
【0028】
この非断熱過程とは、図6に示すように、原子同士の結合をバネで置き換えたモデルで考えることができる。一般に伝搬光の波長は分子の寸法に比べると遥かに大きいため、分子レベルでは空間的には一様な電場とみなせる。その結果、図6(a)に示すように、バネで隣り合う電子は同振幅、同位相で振動させられる。原子核は重いため、この電子の振動には追従できず、伝搬光では分子振動は極めて起こりにくい。このように伝搬光では、分子振動が電子の励起過程に関わることを無視することができるため、この過程を断熱過程という(非特許文献1参照。)。
【0029】
一方、近接場光の空間的な電場勾配は非常に急峻に低下する。このため近接場光では隣り合う電子に異なる振動を与えることになり、図6(b)に示すように、この異なる電子の振動により重い原子核も振動させられる。近接場光が分子振動を起こすことは、エネルギーが分子振動の形態を取ることに相当するため、近接場光では、振動準位を介した励起過程(非断熱過程)が可能となる。このように原子核の振動準位を介した励起過程は、通常の光学応答である断熱過程に対し、原子核が応答し動くため、非断熱過程という。
【0030】
また、上述した順方向バイアス電圧を印加させ続けることにより、図7に示すように伝導帯における電子密度n1が、下位準位にある正孔密度n2と比較して圧倒的に高くなる。ちなみに図7は、図5中のQ部におけるエネルギー状態を示している。その結果、伝導帯と下位準位との間で図7に示すように、かかる電子密度の差異に基づく反転分布が活性層12に形成される。次に図7に示すように、この形成された反転分布により、伝導帯中の電子を近接場光による非断熱過程に基づいて、伝導帯中の電子を、バンドギャップの中間に位置する振動準位に仮想的に遷移させることができる。この電子が非断熱過程に基づいて振動準位に遷移できたのは、その箇所において近接場光が発生していたため実現できたものである。この近接場光は、ジュール熱による流動によってある確率の下で生じた微細形状B(又はそのドーパントの変化)によって生じたものである。振動準位に遷移した電子は、この近接場光によって仮想的に生じた仮想場を廻り、その後振動準位から伝導帯へと戻ることになる。この伝導帯に戻った電子は、拡散電流によるジュール熱に寄与する。
【0031】
このように近接場光が単に発生した段階では、伝導帯中の電子を振動準位に仮想的に遷移させて再度伝導帯に戻ることを繰り返すこととなる。伝導帯に戻った電子は、ジュール熱に寄与することとなり、ジュール熱は下がることなく表面形状及び/又はドーパントの分布変化が継続して生じることになる。
【0032】
またジュール熱による表面形状及び/又はドーパントの分布変化が生じた結果、更に近接場光の発生態様が変化した場合には、ある確率の下で図7に示すように、伝導帯中の電子を近接場光による非断熱過程に基づいて、伝導帯中の電子を、バンドギャップの中間に位置する振動準位に仮想的に遷移させてそこから電子を放出させることにより、光を生成させる。そして、この生成した光を劈開面7からなる共振面間で共振させるとともに更なる誘導放出によりその共振光をさらに増幅させることによりレーザ発振させる。またかかる共振により、更なる誘導放出を誘発させることも可能となる。
【0033】
即ち、上述したプロセスに基づいて、半導体レーザダイオード1から係る電子の放出によるレーザ発振を実現することが可能となる。当該微細形状Bにおいては引き続き近接場光が発生するため、非断熱過程を生じさせることが可能となる。この非断熱過程による誘導放出においては、振動準位を介し電子を放出させる。このとき、バンドギャップ幅に相当する吸収端波長よりも長波長である波長の光でも伝導帯中の電子を多段階で遷移させて放出させることができ、その結果伝導体中の電子を減少させることが可能となる。
【0034】
このような非断熱過程による多段階の誘導放出が生じることにより、伝導帯における電子密度n1が減少する。その結果、かかる近接場光が発生する微細形状Bについては、p型クラッド層13へと移動する電子の量は減少することになり、拡散電流が低下し、当該微細形状Bについてはジュール熱が低下することになる。即ち、誘導放出は、電子や正孔のエネルギーを奪うものとなり、n型クラッド層11、活性層12、p型クラッド層13等の流動性が低下する。その結果、この微細形状Bについては、表面形状及び/又はドーパントの分布の変化が抑制されることになる。微細形状Bはそのまま変化することなく固定されることになる。
【0035】
また、図7に示すように光が生じた場合、その発光に基づいて、表面形状及び/又はドーパントの分布による近接場光が発生しやすくなる。これに加えて、生成された光が活性層12内を往復反射する過程で、その光に基づいて近接場光が発生しやすくなり、さらに各部における非断熱過程が生じやすくなり、微細形状Bの固定化並びに発光が促進されることとなる。
【0036】
また、上述の如き順方向バイアス電圧を印加し続けることにより、上述したメカニズムが継続的に生じる。微細形状Bは、そのまま近接場光が発生し続けて、上述した非断熱過程による誘導放出が継続して生じる結果、温度が低下し、かかる形状の状態でそのまま固定され続ける。また、微細形状B以外の箇所は、近接場光が発生しないため冷却されることなく、そのままジュール熱が発生することにより、この半導体層10の流動性が増加する結果、p型クラッド層13やn型クラッド層11等の表面形状やドーパントの分布がランダムに変化する。このランダムな変化の結果、図7に示すように微細形状Bがある確率を以って生成される。かかる処理が繰り返し実行されると、理想的には図7に示すように、微細形状Bと同一の形状が数多く形成されることになる。これは、順方向バイアス電圧が印加された場合に近接場光が好適に発生する微細形状Bと同一の形状が数多く作り出された半導体レーザダイオード1として構成することが可能となる。その結果、発光効率を飛躍的に向上させることが可能となる。
【0037】
なお、この微細形状Bは、あくまで表面形状に依拠したものであるが、これに限定されるものではなく、ジュール熱の発生に伴うp型クラッド層13やn型クラッド層11等のドーパントの変化の結果、表面形状が変化していなくても、近接場光が好適に発生する条件になる場合がある。かかるp型クラッド層13やn型クラッド層11等のドーパントが近接場光が好適に発生可能なように変化した場合においても、上述した微細形状Bの形成と同様な効果が得られる。即ち、拡散電流を減少させてジュール熱を低下させることにより、ドーパント分布を固定させることを繰り返し実行することになる。
【0038】
次に、上述した本発明を適用した受光素子の作製方法に基づいて作製された半導体レーザダイオード1による動作について説明をする。
【0039】
上述したように半導体レーザダイオード1は、その作製の段階において、順方向バイアス電圧が負荷された場合に近接場光が好適に発生する、例えば微細形状B等を始めとした領域が広く形成されている。このような半導体レーザダイオード1に対して、順方向バイアス電圧を印加するようにしてもよい。その結果、既に好適に近接場光を発生し得る形状が作り込まれていることから、図5に示すように、近接場光が多くの領域において発生する。そして、図5に示すように、その発生した近接場光による非断熱過程により、伝導帯にある電子が多段階で誘導放出されて発光することになる。このとき、順方向バイアス電圧の強度を更に増大させるとアバランシェ降伏が生じて更に光の生成量が大きくなり、レーザ発振に至る。
【0040】
上述したように、本発明では、順方向バイアス電圧を印加することによりn型クラッド層11とp型クラッド層13の接合部に拡散電流を発生させ、発生された拡散電流により生じるジュール熱に基づいて半導体レーザダイオード1を構成する何れか1以上の層の表面形状及び/又はドーパント分布を変化させることを繰り返し実行する。
【0041】
そして、変化後の表面形状及び/又はドーパント分布に基づいて近接場光が発生した箇所では、伝導帯中の電子を非断熱過程に基づいて複数段階で誘導放出させることにより、拡散電流を減少させてジュール熱を低下させて、表面形状及び/又はドーパント分布を固定させる。
【0042】
また変化後の表面形状及び/又はドーパント分布に基づいて近接場光が発生しない箇所では、或いは近接場光が発生しても単に仮想場ができているだけに発光させる上で好適な条件を満たさない箇所においては、拡散電流を発生させ続けて当該表面形状及び/又は当該ドーパント分布を変化させることを、近接場光による非断熱過程で発光するまで繰り返す。
【0043】
これにより、本発明では、活性層12のバンドギャップ幅に対応した吸収端波長より長波長である光を放出させることができる。仮に、p型クラッド層13がシリコンであれば、そのシリコンによる発光波長としての近赤外域の光をも発光させることが可能となる。
【0044】
また、本発明を適用した半導体レーザダイオード1の作製方法では、特に大掛かりな装置を必要とすることなく、希望の波長に対して感度の優れた受光素子を安価で作成することが可能となる。
【0045】
この波長帯は上記のSi,GaP,AlGaAs(混晶比に依存)、AlP、AlAs, Ge, SiC, PbS, PbTe, TIO2, GaS, AlSb, C(ダイヤモンド), BNなど用いる間接遷移型無機材料の種類を変更することによっても紫外から赤外光まで広く対応可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 半導体レーザダイオード
5 基板
10 半導体層
11 n型クラッド層
12 活性層
13 p型クラッド層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型クラッド層、活性層、p型クラッド層が順に積層され、対向する1対の出力面を共振面とした半導体層を備える半導体レーザダイオードにおいて、
順方向バイアス電圧を印加することにより上記活性層に拡散電流を発生させ、上記発生された拡散電流により生じるジュール熱に基づいて何れか1以上の上記層の表面形状及び/又はドーパント分布を変化させることを繰り返すとともに、上記順方向バイアス電圧により上記活性層における伝導帯と価電子帯に反転分布を生じさせ、
上記変化後の表面形状及び/又はドーパント分布に基づいて近接場光が発生した箇所では、上記反転分布を形成している上記伝導帯中の電子を非断熱過程に基づいて複数段階で誘導放出させることにより、上記拡散電流を減少させて上記ジュール熱を低下させることにより、表面形状及び/又はドーパント分布を固定させるとともに、上記誘導放出により生成された光を上記共振面間で共振させるとともに更なる上記誘導放出によりその共振光をさらに増幅させることによりレーザ発振させること
を特徴とする半導体レーザダイオード。
【請求項2】
上記発生した近接場光による非断熱過程に基づいて、
上記伝導帯中の電子を振動準位に仮想的に遷移させて再度伝導帯に戻ることにより上記拡散電流によるジュール熱に寄与する仮想遷移パターンと、
上記伝導帯中の電子を振動準位に仮想的に遷移されてなる電子を発光させ、或いは上記伝導帯中の電子を複数段階で誘導放出させることにより発光させる発光パターンとを有すること
を特徴とする請求項1記載の半導体レーザダイオード。
【請求項3】
共振方向に向けてリッジ構造が形成されていること
を特徴とする請求項1又は2記載の半導体レーザダイオード。
【請求項4】
n型クラッド層、活性層、p型クラッド層が順に積層され、対向する1対の出力面を共振面とした半導体層を備える半導体レーザダイオードの作製方法において、
順方向バイアス電圧を印加することにより上記活性層に拡散電流を発生させ、上記発生された拡散電流により生じるジュール熱に基づいて何れか1以上の上記層の表面形状及び/又はドーパント分布を変化させることを繰り返すとともに、上記順方向バイアス電圧により上記活性層における伝導帯と価電子帯に反転分布を生じさせ、
上記変化後の表面形状及び/又はドーパント分布に基づいて近接場光が発生した箇所では、上記反転分布を形成している上記伝導帯中の電子を非断熱過程に基づいて複数段階で誘導放出させることにより、上記拡散電流を減少させて上記ジュール熱を低下させることにより、表面形状及び/又はドーパント分布を固定させるとともに、上記誘導放出により生成された光を上記共振面間で共振させることにより更なる上記誘導放出を誘発させること
を特徴とする半導体レーザダイオードの作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−243824(P2012−243824A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109916(P2011−109916)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、新エネルギー産業技術総合開発機構低損失オプティカル新機能部材技術開発事業、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】