説明

半導体レーザ素子

【課題】 高効率なレーザビームを出力可能な半導体レーザ素子を提供することを目的とする。
【解決手段】 この半導体レーザ素子は、半導体からなる下部クラッド層Bと、半導体からなる上部クラッド層Cと、下部クラッド層Bと上部クラッド層Aとにより挟まれ、積層された複数の半導体層からなり、下部クラッド層B及び上部クラッド層Cのいずれよりも平均屈折率が高いコア層Aとを備えている。コア層Aは、量子井戸層からなる活性層3Bと、フォトニック結晶層4とを含み、動作時におけるコア層A内の厚み方向の電界強度分布が、2つのピークを有しており、ピーク間の谷の位置は、活性層3Bとフォトニック結晶層4との間の領域内に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回折格子層を備えた半導体レーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、回折格子を備える分布帰還型半導体レーザ素子(DFB−LD)を開示している。かかる文献には、DFB−LDにおける導波路の幅方向に沿った横モードを制御することで、レーザビームの飽和出力を増大させることができる旨が開示されている。
【0003】
非特許文献1には、二次元回折格子を用いた面発光型の半導体レーザ素子が記載されている。二次元回折格子はフォトニック結晶(PhotonicCrystal:PCと称する)と呼ばれ、光の波長程度の間隔で周期的な凹凸を有する構造であり、光の局在化、伝搬方向・速度の制御など多彩な応用が可能となる。
【0004】
二次元回折格子を有するフォトニック結晶面発光レーザ素子(Photonic Crystal Surface EmittingLaser:PCSELと称する)は、PCを応用したレーザ光源であり、面内に形成したPCにより生じる定在波を、回折効果により面垂直方向に取りだすデバイスである。PCSELでは、原理的には単一モードを維持したままPCを大面積化することができ、高いビーム品質を維持したまま高出力化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−324948号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K.Sakai et al,”Lasing Band-Edge Identfication for a Surface-Emitting PhotonicCrystal Laser”IEEE Journal On Selected Area InCommunications, Vol. 23, No. 7, (2005) pp.1335
【非特許文献2】S.Iwahashi et al, " Air-holedesign in vertical direction for high-power two-dimensional photonic-crystalsurface-emiting lasers" J.Opt., Soc. Am. B/Vol.27,No.6/(2010) pp.1204
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、レーザビームの強度や安定性の観点から、更に高効率なレーザビームを出力可能な半導体レーザ素子が期待されている。本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、高効率なレーザビームを出力可能な半導体レーザ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するため、本発明に係る半導体レーザ素子は、半導体レーザ素子において、半導体からなる下部クラッド層と、半導体からなる上部クラッド層と、前記下部クラッド層と前記上部クラッド層とにより挟まれ、積層された複数の半導体層からなり、前記下部クラッド層及び上部クラッド層のいずれよりも平均屈折率が高いコア層と、を備え、前記コア層は、量子井戸層からなる活性層と、回折格子層と、を含み、動作時における前記コア層内の厚み方向の電界強度分布が、少なくとも2つのピークを有しており、前記ピーク間の谷の位置は、前記活性層と前記回折格子層との間の領域内に設定されていることを特徴とする。
【0009】
この場合、電界強度分布はコア層内にあるものの、その谷の位置は、活性層及び回折格子層のいずれの位置でもないため、レーザ光発生利得の低下を抑制しつつ、これら2つの層におけるレーザ光生成作用を十分に機能させることができ、高効率にレーザ光を発生させることができる。
また、前記ピークの位置が、それぞれ前記活性層内及び前記回折格子層内に設定される場合には、これらの位置における電界強度を大きくすることができ、高強度のレーザ光を発生することが可能となる。
【0010】
また、前記コア層内において、前記2つのピークを与えるTE偏波の1次モードにおける前記活性層内の光閉じ込め係数Γqw(1)と、0次モードにおける前記活性層内の光閉じ込め係数Γqw(0)とは、関係式Γqw(1)>Γqw(0)を満たすことが好ましい。光閉じ込め係数Γは、光の全強度(S)のうち、対象となる層における強度(S’)の割合(Γ=S’/S)である。すなわち、電界強度の2つのピーク位置を、上記の如くそれぞれ活性層内及び回折格子層内に設定することで、光閉じ込め係数を大きくすることができる。この場合、これらの位置における電界強度を大きくすることができ、高強度のレーザ光を発生することが可能となり、0次モードを主として用いた場合よりも、高強度のレーザ光を得ることが可能となる。
【0011】
また、前記コア層は、前記活性層と前記上部クラッド層との間に、前記上部クラッド層と同一導電型の不純物が添加され、その不純物濃度が1×1017/cm以上のドープ層を更に備え、前記ドープ層の一部又は全部は、前記2つのピーク間の谷の位置の近傍に設定されることが好ましい。なお、「近傍」とは、谷の位置から±50nm以内の領域を意味するものとする。ドープ層を備えることにより、そのフェルミ準位が変化して障壁を構成し、下部クラッド層から流入するキャリアが上部クラッド層方向へ流れるのを抑制することができ、活性層内のキャリア濃度を高めることができる。
【0012】
また、不純物濃度が高い場合には、光やキャリアの有するエネルギーが吸収され損失が生じる。1次モードの場合の2つのピークの谷の位置は、0次モードのピーク位置に相当する。したがって、ドープ層を備えることで、0次モードにおけるピーク位置において、光損失を生ぜしめ、0次モードの発生を抑制して1次モードによる発光を安定させ、1次モードを更に有効に利用することができる。
【0013】
また、前記回折格子層は、III−V族化合物半導体からなり、III族元素は、Ga、Al及びInからなる群から選択され、V族元素は、As、P、N及びSbからなる群から選択されることを特徴とする。すなわち、これらの元素からなる化合物半導体は、直接遷移型の半導体とすることができるため、キャリア再結合により、容易に発光させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の半導体レーザ素子によれば、高効率なレーザビームを出力することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図3に示す半導体レーザ素子をI−I矢印に沿って切った半導体レーザ素子の縦断面構成を示す図である。
【図2】半導体レーザ素子の各層の構造と材料を示す図表である。
【図3】半導体レーザ素子の平面図である。
【図4】回折格子層における水平断面を示す図である。
【図5】半導体レーザ素子の斜視図である。
【図6】他の回折格子層における水平断面を示す図である。
【図7】半導体レーザ素子の製造方法を説明するための図である。
【図8】半導体レーザ素子の製造方法を説明するための図である。
【図9】半導体レーザ素子の製造方法を説明するための図である。
【図10】図11に示す半導体レーザ素子をX−X矢印に沿って切った半導体レーザ素子の縦断面構成を示す図である。
【図11】半導体レーザ素子の平面図である。
【図12】回折格子層における水平断面を示す図である。
【図13】半導体レーザ素子の斜視図である。
【図14】他の回折格子層における水平断面を示す図である。
【図15】半導体レーザ素子の製造方法を説明するための図である。
【図16】半導体レーザ素子の製造方法を説明するための図である。
【図17】半導体レーザ素子の製造方法を説明するための図である。
【図18】端面発光型の半導体レーザ素子の縦断面構成を示す図である。
【図19】半導体レーザ素子の各層の構造と材料を示す図表である。
【図20】半導体レーザ素子の各層の詳細なパラメータを示す図表である。
【図21】半導体レーザ素子の斜視図である。
【図22】半導体レーザ素子の厚み方向に沿った電界強度分布を示す図である。
【図23】端面発光型の半導体レーザ素子主要部の厚み方向に沿った構造(図23(a))、エネルギーバンドギャップ(図23(b))、及び電界強度分布(図23(c):0次モード、図23(d):1次モード)を示す図である。
【図24】コア層内の積層構造について説明するための図である。
【図25】規格化周波数V(Vパラメータ)と規格化伝搬定数bとの関係を示すグラフである。
【図26】モード次数に対する規格化周波数Vと、コア層のカットオフ膜厚dcutoff(nm)の関係を示す図表である。
【図27】半導体レーザ素子の厚み方向に沿った屈折率nと電界強度Eとの関係を示すグラフである。
【図28】回折格子層を有する半導体レーザ素子主要部の厚み方向に沿った構造(図28(a))、エネルギーバンドギャップ(図28(b))、及び電界強度分布(図28(c):0次モード、図28(d):1次モード)を示す図である。
【図29】コア層内の積層構造を示す図である。
【図30】半導体レーザ素子の各層の詳細なパラメータを示す図表である。
【図31】基本モード(0次モード)と1次モードにおける等価屈折率とバンド端波長(nm)の関係を示す図表である。
【図32】共振が生じる波長及び発光波長と強度の関係を示すグラフである。
【図33】各層における光閉じ込め係数を示す図表である。
【図34】半導体レーザ素子の厚み方向に沿った屈折率nと電界強度Eとの関係を示すグラフである。
【図35】回折格子層の厚みDと等価屈折率neffとの関係を示すグラフである。
【図36】回折格子層の厚みDと光閉じ込め係数Γqwとの関係を示すグラフである。
【図37】回折格子層の厚みDと光閉じ込め係数Γgとの関係を示すグラフである。
【図38】各種条件を満たす回折格子層の厚みDの最小値Min(nm)と最大値Max(nm)を示す図表である。
【図39】回折格子層の厚みDと光閉じ込め係数Γdopeとの関係を示すグラフである。
【図40】半導体レーザ素子の各層の詳細なパラメータを示す図表である。
【図41】基本モード(0次モード)と1次モードにおける等価屈折率とバンド端波長(nm)の関係を示す図表である。
【図42】各層における光閉じ込め係数を示す図表である。
【図43】半導体レーザ素子の厚み方向に沿った屈折率nと電界強度Eとの関係を示すグラフである。
【図44】回折格子層の厚みDと等価屈折率neffとの関係を示すグラフである。
【図45】回折格子層の厚みDと光閉じ込め係数Γqwとの関係を示すグラフである。
【図46】回折格子層の厚みDと光閉じ込め係数Γgとの関係を示すグラフである。
【図47】各種条件を満たす回折格子層の厚みDの最小値Min(nm)と最大値Max(nm)を示す図表である。
【図48】回折格子層の厚みDと光閉じ込め係数Γdopeとの関係を示すグラフである。
【図49】半導体レーザ素子の各層の詳細なパラメータを示す図表である。
【図50】基本モード(0次モード)と1次モードにおける等価屈折率とバンド端波長(nm)の関係を示す図表である。
【図51】各層における光閉じ込め係数を示す図表である。
【図52】半導体レーザ素子の厚み方向に沿った屈折率nと電界強度Eとの関係を示すグラフである。
【図53】回折格子層の厚みDと等価屈折率neffとの関係を示すグラフである。
【図54】回折格子層の厚みDと光閉じ込め係数Γqwとの関係を示すグラフである。
【図55】回折格子層の厚みDと光閉じ込め係数Γgとの関係を示すグラフである。
【図56】各種条件を満たす回折格子層の厚みDの最小値Min(nm)と最大値Max(nm)を示す図表である。
【図57】回折格子層の厚みDと光閉じ込め係数Γdopeとの関係を示すグラフである。
【図58】2次モードが生じず1次モードが生じるコア層の厚みdの最小値Min(nm)と最大値Max(nm)を示す図表である。
【図59】数式を示す図表である。
【図60】格子定数a、屈折率n、発光波長λ、原子半径の大きな元素の組成比(1−X)、原子半径の小さな元素の組成比X、エネルギーバンドギャップEgの相関関係を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施の形態に係る半導体レーザ素子について説明する。なお、同一要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0017】
図1は、図3に示す半導体レーザ素子をI−I矢印に沿って切った半導体レーザ素子の縦断面構成を示す図、図2は、半導体レーザ素子の各層の構造と材料を示す図表、図3は、半導体レーザ素子の平面図である。
【0018】
図1に示す半導体レーザ素子は、フォトニック結晶面発光レーザ素子(PCSEL)10であり、化合物半導体からなる半導体基板1上には、それぞれが化合物半導体からなる下部クラッド層2、ガイド層3A、活性層3B、スペーサ層3C、キャリアブロック層3D、回折格子層4、バッファ層4’、上部クラッド層5、及びコンタクト層6が順次積層されている。下部電極E1は、半導体基板1の裏面上に接触して設けられており、上部電極E2は、コンタクト層6上に接触して設けられている。
【0019】
上記化合物半導体層は、直接遷移型のIII−V族化合物半導体からなることが好ましい。このようなIII−V族化合物半導体では、III族元素は、Ga、Al及びInからなる群から選択され、V族元素は、As、P、N及びSbからなる群から選択されうる。これらの元素からなる化合物半導体は、直接遷移型の半導体とすることができるため、半導体内部におけるキャリア再結合により、容易に発光させることができる。
【0020】
半導体内部には、下部電極E1と上部電極E2との間にバイアスを印加することで、電子及び正孔からなるキャリアを注入することができる。注入されたこれらのキャリアは、活性層3B内において再結合することができる。
【0021】
活性層3Bは、量子井戸層からなる。量子井戸層には、井戸層を1つ有する単一量子井戸構造(SQW)と、2以上有する多重量子井戸構造(MQW)とがある。量子井戸構造は、異なるエネルギーバンドギャップを有する2種以上の材料を用い、バンドギャップの小さい材料の薄膜(井戸層)を、大きい材料の薄膜(バリア層)で挟んだものである。
【0022】
なお、井戸層及びバリア層の厚みは、それぞれnmオーダーである。これにより、キャリアとしての電子又は正孔が、エネルギーバンドギャップの小さい材料の層(井戸)内に閉じ込められる。井戸層内に閉じ込められたキャリアは、井戸層に垂直な方向の自由度が減少して二次元性が現れ、安定した発光が可能となる。なお、井戸層の数を増加させると、光閉じ込め係数は高くなる傾向にあるため、かかる観点からは、SQWよりもMQWの方が好ましい。
【0023】
図2を参照すると、この半導体レーザ素子10の基本構造は、半導体基板上に、下部クラッド層B、コア層A、上部クラッド層C、コンタクト層を積層したものである。半導体基板1はN型のGaAsからなり、下部クラッド層B(下部クラッド層2)はN型のAlGaAsからなり、上部クラッド層C(上部クラッド層5)はP型のAlGaAsからなる。クラッド層B,C間に位置するコア層Aは、ガイド層3A、活性層3B、スペーサ層3C、キャリアブロック層3D、回折格子層4、バッファ層4’からなる。
【0024】
活性層3Bの材料は、III−V族化合物半導体からなる。本例では、複数のInGaAs層とAlGaAs層を積層した構造からなる。井戸層としては、エネルギーバンドギャップの狭いInGaAs層を用い、バリア層としてはエネルギーバンドギャップの広いAlGaAsを用いる。
【0025】
活性層3Bを挟むガイド層3Aとスペーサ層3Cは、共にAlGaAsからなる。ガイド層3Aは、活性層3B内から溢れるキャリアを抑制し、また、活性層3B内に光を閉じ込める機能を有し、活性層3Bのバリア層と同一か、これ以上のエネルギーバンドギャップを有する。スペーサ層3Cは、必要に応じて、キャリアブロック層3Dとの間の距離を調整するための層であり、活性層3Bと同一のエネルギーバンドギャップを有する。
【0026】
下部クラッド層2は、N型のAlGaAsからなり、活性層3Bのバリア層よりも大きなエネルギーバンドギャップを有し、低い屈折率を有する。上部クラッド層5は、P型のAlGaAsからなり、活性層3Bのバリア層よりも大きなエネルギーバンドギャップを有し、低い屈折率を有する。N型の不純物としてはSe又はSiなどがあり、P型の不純物としてはZn、Mg又はCなどがある。下部クラッド層2の不純物濃度は、1×1017/cm〜1×1019/cm/cm、上部クラッド層5の不純物濃度は、1×1017/cm〜1×1019/cm/cmであり、これらの間のコア層Aは原則的には不純物を添加せず、添加する場合であっても後述のドープ層を除き、1×1017/cm未満に設定することができる。なお、実際には、P型のクラッド層5と活性層3Bとの間の領域の導電型は低濃度のP型であり、N型のクラッド層2と活性層3Bとの間の領域の導電型は低濃度のN型であるとする。
【0027】
活性層3Bと上部クラッド層5との間には、スペーサ層3Cに加えて、キャリアブロック層3D、回折格子層4、及びバッファ層4’が配置されている。キャリアブロック層3D及びバッファ層4’はAlGaAsからなり、回折格子層4は、もともとの基本層4AがGaAsからなり、これとは異なる屈折率を有する異屈折率部4Bが、基本層4Aの内部において二次元的に周期的に埋め込まれ、二次元回折格子を構成している。異屈折率部4Bは、AlGaAsからなり、バッファ層4’の形成時の初期段階において、基本層4Aに形成された複数の穴内に埋め込まれ、埋め込み層として形成される。バッファ層4’の形成が、穴が埋まる時点で終了すれば、基本層4A上の上面よりも上部電極寄りに形成されるバッファ層4’は存在しなくなる。回折格子層4の上部に位置するバッファ層4’は必要に応じて設けられればよく、省略することが可能である。
【0028】
キャリアブロック層3Dは、これに隣接するガイド層よりもエネルギーバンドギャップが高く、したがって、屈折率は低く設定される。これにより活性層3B内のキャリアを、キャリアブロック層3Dよりも内側に閉じ込める傾向を高くすることができるが、厚みは比較的小さく、活性層3B内における発光を大きく阻止する機能は有していない。また、キャリアブロック層3Dは、活性層3Bよりも大きなエネルギーバンドギャップと屈折率を有している。
【0029】
なお、活性層3Bや回折格子層4は、二次元平面(YZ平面)内において、屈折率分布があるため、他の層との対比においては、面内の平均屈折率をその屈折率とし、面内の平均エネルギーバンドギャップをそのエネルギーバンドギャップとする。また、コア層Aを構成する複数の層は、厚み方向に積層されているので、コア層Aの屈折率は、厚み方向の平均屈折率をその屈折率とし、上記の如くニ次元的に分布がある場合には、面内の平均屈折率を求めた上で、これを厚み方向の平均屈折率とする。すなわち、コア層Aの平均屈折率は、各層の厚みに面内の平均屈折率を乗じた値を、全ての層について求めて、これを積算し、積算値を、全体の厚みで除した値で与えられる。クラッド層の場合も、厚み方向或いは面内方向に分布がある場合には、かかる手法で、その平均値を算出し、これを当該クラッド層の屈折率とし、これを等価屈折率とする。また、エネルギーバンドギャップの場合も、屈折率と同一の手法で、平均値を以って各層のエネルギーバンドギャップとする。
【0030】
なお、エネルギーバンドギャップ及び屈折率の設計においては、各化合物半導体層内の元素の組成比を変更することで、これらを調整することができる。図60は、化合物半導体における格子定数a、屈折率n、発光波長λ、原子半径の大きな元素の組成比(1−X)、原子半径の小さな元素の組成比X、エネルギーバンドギャップEgの相関関係を示す図表である。行の示すパラメータと、列の示すパラメータの交点の値は、これらのパラメータ間の相関を示しており、正の相関がある場合には「+」を、負の相関がある場合には「−」が記載されている。
【0031】
化合物半導体の一般的な性質として、原子半径の小さな元素の組成比が大きいほど、例えば、AlGa1−XAsであれば、Alの組成比Xが大きいほど、格子定数aが小さくなる傾向にある。また、格子定数aが小さくなると、屈折率n及び発光波長λが小さくなり(正の相関)、一方で、エネルギーバンドギャップEgが大きくなる(負の相関)。すなわち、格子定数a、屈折率n、発光波長λ、及び、大きな原子半径の元素の組成比(1−X)は、互いに正の相関を有しており、これらとエネルギーバンドギャップEg又は小さな原子半径の元素の組成比Xとは、負の相関を有する傾向にある。
【0032】
したがって、エネルギーバンドギャップEgを増加させるためには、AlGaAsにおいては、原子半径の小さなAlの組成比Xを増加させればよいし、エネルギーバンドギャップEgを減少させるためには、原子半径の小さなAlの組成比Xを減少させればよい。したがって、AlGaAs系において、エネルギーバンドギャップEgは、Alの組成比Xを減少させて、ゼロとなる場合、すなわちGaAsにおいて極小となるが、さらにエネルギーバンドギャップEgを低下させる場合には、GaAsの各構成元素よりも原子半径の大きなInを混ぜて、InGaAsとすればよい。エネルギーバンドギャップEgと屈折率nは、概ね負の相関があるので、屈折率調整は、エネルギーバンドギャップEgの調整に準じて設計すればよい。
【0033】
例えば、回折格子層4においては、ベースとなる基本層4A内に複数の異屈折率部4Bが埋め込んであるが、基本層4AをGaAsとし、異屈折率部4BをAlGaAsとすれば、Alの組成比Xが異屈折率部4Bの方が高い分だけ、異屈折率部4Bの屈折率は低くなり、この屈折率差が大きいほど強く回折が生じる。なお、屈折率は、原則的には内部で発生する光に対する屈折率を意味するが、室温における波長0.9μmでの屈折率は、GaAsの場合にはn=3.59、AlAsの場合にはn=2.97であり、GaAsとAlGaAsを用いた場合には、最大で0.62の屈折率差を得ることができ、十分な回折効果を有する回折格子を作製することができる。もちろん、組成比Xに差があることで異屈折率部として機能できるため、基本層4A及び異屈折率部4Bの双方をAlGaAsとし、異屈折率部4BのAl組成比Xを基本層4Aと変化することで、この場合にも回折格子として有効に機能させることができる。
【0034】
この半導体レーザ素子は、面発光型であり、活性層3Bの厚み方向にレーザ光LBが出射する。レーザ光LBの水平断面(YZ断面)形状は、様々な形状を取りうるが、本例の場合、レーザ光LBの水平断面の外縁形状は楕円形,円形或いは長方形であり、図3に示すように、平面視(X軸方向からみたYZ平面内の形状)において、上部電極E2よりも外側の領域まで広がっている。なお、平面視において上部電極E2は回折格子形成領域RPC内に設定され、上部電極E2の面積は回折格子形成領域RPCの面積よりも小さい。
【0035】
図4は、回折格子層4における水平断面を示す図である。
【0036】
基本層4A内の回折格子形成領域RPCには、複数の異屈折率部4Bが二次元的に埋め込んである。本例では回折格子形成領域RPCは長方形に設定されている。複数の異屈折率部4Bは、Y軸方向に沿って整列すると共に、Z軸方向に沿って整列し、個々の異屈折率部4Bの重心を格子点と見做して、格子点を通る格子を設定すると、これは長方格子或いは正方格子を構成している。この格子の種類としては、三角格子、斜方格子、六角格子などが適用可能である。個々の異屈折率部4Bは、基本層4Aの厚み方向であるX軸に沿って延びた多角柱形状を有している。ここでの多角形は、三角形、四角形、五角形、六角形の他、無限の角部を有する楕円形の意味を含み、楕円形の意味は円形を含むものとする。なお、本例の異屈折率部4Bの形状は、平面視(X軸方向からみたYZ断面形状)において、円形であるが、実際の製造プロセスにおいては若干の製造誤差があり、完全な円形となるわけではない。
【0037】
図5は、半導体レーザ素子の斜視図である。
【0038】
半導体レーザ素子10の立体形状は、直方体であり、X軸方向に沿ってレーザ光LBを出射する。斜方晶の半導体構成材料を採用する場合には、半導体レーザ素子10の立体形状は平行六面体とすることも可能である。上述のように、半導体レーザ素子10は、半導体基板1上に、下部クラッド層2、発光層3、回折格子層4、バッファ層4’、上部クラッド層5、コンタクト層6を備えている。発光層3は、下部クラッド層2と回折格子層4との間に位置する半導体層とし、本例の場合には、発光層3は、上述のガイド層3A、活性層3B、スペーサ層3C、キャリアブロック層3Dからなる。下部電極E1と上部電極E2との間に駆動電圧を印加し、これらの間の駆動電流を流すと、発光層3における活性層3B内にキャリアが集中し、かかる領域内において注入された電子と正孔が再結合し、発光が生じる。この発光は、クラッド層間の領域、すなわち発光層3及び回折格子層4を含むコア層A内において、共振し、レーザ光LBとして外部へ出力される。回折格子層4は、共振するレーザ光の波長を決定している。
【0039】
発光が生じるのは、原則的には駆動電流が流れる経路、すなわち電気抵抗が小さくなる上部電極E2の直下の領域である。半導体レーザ素子10の上面には、上部電極E2が配置されているので、レーザ光LBは、上部電極E2によって若干妨害されている。上部電極E2の材料としては、Au、Ag、Cu、Ni又はAlなどの金属、これらとGeなどの半導体との混合物、或いは、1×1019/cm以上の高濃度に不純物が添加された化合物半導体を用いることができる。下部電極E1の材料も同様であるが、上部電極E2においては、レーザ光LBを透過させる材料、すなわちITOなどの透明電極を用いることも可能である。
【0040】
図6は、ストライプパターンを有する他の回折格子層における水平断面を示す図である。
【0041】
半導体レーザ素子10における図4の回折格子層を、図6に示すものに置換することができる。基本層4A内の回折格子形成領域RPCには、複数の異屈折率部4Bが埋め込んである。回折格子形成領域RPCは長方形に設定されている。個々の異屈折率部4Bは、平面視においてZ軸方向に沿って直線的に延びており、Y軸方向に沿って整列している。個々の異屈折率部4Bは、基本層4Aの厚み方向であるX軸を深さ方向とし、Z軸を長手方向とし、Y軸を幅方向とし、幅方向最大寸法に対する長手方向最大寸法のアスペクト比の高い(2以上)直方体形状を有している。異屈折率部4Bは、平面視においては、長方形であるが、アスペクト比が高い状態で、三角形、五角形、六角形などのその他の多角形とすることもできる。多角形は、無限の角部を有する楕円形の意味を含む。
【0042】
図7〜図9は、図1に示した半導体レーザ素子の製造方法を説明するための図である。
【0043】
まず、N型(第1導電型とする)の半導体基板(GaAs)1を用意する(図7(a))。次に、半導体基板1上に、N型の下部クラッド層(AlGaAs)2、ガイド層(AlGaAs)3A、活性層(MQW:InGaAs/AlGaAs)3B、光ガイド層(GaAs/AaGaAs)又はスペーサ層(AlGaAs)3C、キャリアブロック層(AlGaAs)3D、回折格子層となる基本層(GaAs又はAlGaAs)4Aを、MOCVD(有機金属気相成長)法を用いて順次、エピタキシャル成長させる(図7(b))。なお、MOCVD法においては、Al原料はTMA(トリメチルアルミニウム)、Ga原料はTMG(トリメチルガリウム)、In原料はTMI(トリメチルインジウム)から供給することができる。
【0044】
次に、プラズマCVD法により、SiNからなるマスク層FL1を基本層4A上に形成する(図7(c))。SiNを形成する場合のプラズマCVDの原料ガスとしては、Si原料としてSiHを用い、N原料としてN、NHなどを用い、必要に応じてHでガスを希釈する。更に、マスク層FL1上にレジストRG1を塗布し(図7(d))、電子ビーム描画装置で2次元微細パターンを描画し、現像することでレジストRG1に2次元(又は1次元)の微細パターン(異屈折率部の位置に対応)を形成する(図7(e))。これにより、レジストRG1には微細パターンとなる複数の孔H1が形成され、各孔H1は、マスク層FL1の表面にまで到達している。
【0045】
次に、マスク層FL1を、レジストRG1をマスクとしてエッチングし、レジストの微細パターンをマスク層FL1に転写する(図7(f))。このエッチングには、反応性イオンエッチング(RIE)を用いることができる。SiNのエッチングガスとしては、フッ素系ガス(CF,CHF,C)を一般的に用いることができる。このエッチングにより、マスク層FL1には、孔H2が形成され、各孔H2は、基本層4Aの表面にまで到達している。
【0046】
次に、剥離液をレジストRG1に与え、更に、レジストRGをアッシングすることにより、レジストRG1を除去する(図8(g))。アッシングには、光励起アッシング又はプラズマアッシングを用いることができる。これにより、複数の孔H3を有する微細パターンを有するマスク層FL1のみが、基本層4A上に残留することとなる。
【0047】
しかる後、マスク層FL1をマスクとして、基本層4Aをエッチングし、マスク層FL1の微細パターンを基本層4Aに転写する(図8(h))。このエッチングには、ドライエッチングを用いる。ドライエッチングでは、エッチングガスとして塩素系又はフッ素系のガスを用いることができる。例えば、Cl、SiCl又はSF等を主なエッチングガスとして、これにArガス等を混入させたものを用いることができる。通常のプラズマエッチングの他、誘導結合型プラズマ(ICP)を用いたエッチングを採用することもできる。このエッチングにより、基本層4A内に形成される孔H4の深さは、200nm程度であり、孔H4の深さは基本層4Aの厚みよりも小さい。なお、孔H4は、基本層4Aの下地となる半導体層の表面まで到達していてもよい。
【0048】
次に、反応性イオンエッチング(RIE)により、SiNからなるマスク層FL1のみを除去し、孔H4に連続した穴H5の開口端面を露出させ、すなわち基本層4Aの表面を露出させる(図8(i))。SiNのエッチングガスとしては、上述の通り、フッ素系ガス(CF,CHF,C)を採用することができる。しかる後、基本層4Aのサーマルクリーニングを含めた表面洗浄などの表面処理を行う。
【0049】
次に、MOCVD法を用いて、基本層4Aの穴H5内に異屈折率部(埋め込み層)4Bを形成(再成長)する。この再成長工程では、AlGaAsを基本層4Aの表面に供給する。供給されるAlGaAsは、基本層4AとAlの組成比が異なる。再成長の初期段階においては、AlGaAsは、穴H5内を埋めていき、異屈折率部4Bとなる。穴H5が埋まった場合、その後に供給されるAlGaAsは、バッファ層4’として、基本層4Aの上に積層される。しかる後、MOCVD法により、バッファ層4’上に、P型(第2導電型とする)のクラッド層(AlGaAs)5、P型のコンタクト層(GaAs)6を順次成長させる(図8(j))。P型のクラッド層(AlGaAs)5におけるAlの組成比Xは、バッファ層4’におけるAlの組成比X以上であり、本例ではこれらは等しいとするが、X=0.4を採用することができる。もちろん、異屈折率部4B及びバッファ層4’におけるAlの組成比Xを例えばX=0.35とし、成長に伴って徐々にAlの組成比Xを増加させ、上部クラッド層5におけるAlの組成比XをX=0.4とすることも可能である。なお、上述の結晶成長は全てエピタキシャル成長であり、各半導体層の結晶軸は一致している。
【0050】
次に、コンタクト層6上に、レジストRG2を塗布する(図8(k))。このレジストRG2に対して、現像処理後に正方形の開口が形成されるようなパターンの露光を行う。すなわち、ポジ型のレジストを用いる場合には、露光領域を正方形とし、ネガ型のレジストを用いる場合には、非露光領域を正方形として周辺領域を露光する。しかる後、レジストRG2に対して現像処理を行い、正方形の開口パターンをレジストRG2の中央に形成する。開口パターンを有するレジストRG2をマスクとして、レジストRG2及びコンタクト層6の露出表面上に、電極材料E2’を堆積する(図8(l))。この電極材料の形成には、蒸着法やスパッタ法を用いることができるが、本例では蒸着法とする。
【0051】
更に、レジストRG2をリフトオフにより除去し、コンタクト層6上に正方形の電極材料を残留させ、上部電極E2を形成する(図9(m))。しかる後、N型の半導体基板1の裏面を研磨し、続いて、研磨された裏面上の全体に下部電極E1を形成する(図9(n))。この電極の形成には、蒸着法又はスパッタ法を用いることができる。
【0052】
なお、複数の半導体レーザ素子を1枚のウェハから製造する場合には、素子分離用の溝を形成する必要があるが、これはコンタクト層6上に、レジストを塗布し、レジストを感光及び現像することにより、素子分離用の開口パターンを形成し、このレジストを用いて、コンタクト層6をウエットエッチングして溝を形成する。エッチングする深さは10μm程度とする。しかる後、有機溶剤を用いてレジストを除去すればよい。
【0053】
なお、上記孔H1の作製方法として、実施の形態では電子ビーム露光法による作製法を説明したが、ナノインプリント、干渉露光、集束イオンビーム(FIB)、ステッパを用いた光学露光等、その他の微細加工技術を用いることも可能である。さらに、本例ではレジストに描画したパターンをSiNに一度パターン転写してから、ドライエッチングにより基板に転写する手法を用いたが、SiNを省略してレジストに描画したパターンをそのままドライエッチングにより基板に転写しても良い。なお、上記では、活性層3Bの上側に1つの回折格子層4を備える例について説明したが、これは活性層3Bの下側に回折格子層を備えることとしてもよく、また、活性層3Bの上下それぞれに回折格子層を備える構成とすることもできる。
【0054】
次に、下部電極E1と上部電極E2の構造が上記と異なる半導体レーザ素子について説明する。
【0055】
図10は、図11に示す半導体レーザ素子をX−X矢印に沿って切った半導体レーザ素子の縦断面構成を示す図、図11は、半導体レーザ素子の平面図、図12は、回折格子層における水平断面を示す図、図13は、半導体レーザ素子の斜視図である。
【0056】
図10に示す半導体レーザ素子は、フォトニック結晶面発光レーザ素子(PCSEL)10であり、半導体基板1上には、それぞれが化合物半導体からなる下部クラッド層2、ガイド層3A、活性層3B、スペーサ層3C、キャリアブロック層3D、回折格子層4、バッファ層4’、上部クラッド層5、及びコンタクト層6が順次積層されている。これらの構造及び材料は、図1において説明した半導体レーザ素子と同一である。
【0057】
図1に示したものとの相違点は、2点のみである。
【0058】
1つ目の相違点は、半導体基板1の裏面上に下部絶縁層F1が形成され、この下部絶縁層F1に設けられた開口内に下部電極E1が形成されている点である。下部電極E1の形成領域は、半導体基板1の全面領域ではなく、環状の領域であり、X軸方向から見た場合には、上部電極E2の周囲を囲むように配置されている。
【0059】
2つ目の相違点は、コンタクト層6上に上部絶縁層F2が形成され、この上部絶縁層F2に設けられた開口内に上部電極E2が形成されている点である。他の構成は図1に示したものと同一であるため、説明を省略する。
【0060】
なお、下部電極E1が半導体基板1の裏面に接触しており、上部電極E2がコンタクト層6に接触している点は、図1のものと同一である。
【0061】
この半導体レーザ素子において、下部電極E1と上部電極E2との間に駆動電圧を印加し、これらの間の駆動電流を流すと、発光層3における活性層3B内にキャリアが集中し、かかる領域内において注入された電子と正孔が再結合し、発光が生じる。この発光は、クラッド層間の領域、すなわち発光層3及び回折格子層4を含むコア層A内において、共振し、レーザ光LBとして外部へ出力される。回折格子層4は、共振するレーザ光の波長を決定している。
【0062】
発光が生じるのは、原則的には駆動電流が流れる経路、すなわち電気抵抗が小さくなる領域である。半導体レーザ素子10の上面には上部電極E2が配置され、裏面には環状の下部電極E1が配置されているので、発光領域は、これらを結ぶ間の領域となる。上部電極E2に、Al等の反射率の高い金属を用いると、上部電極E2の裏面において、半導体層の厚み方向に進行するレーザ光LBが反射され、下部電極E1の開口からレーザ光LBが出射する(図10、図13参照)。この開口の形状は、円形であってもよいが、長方形であってもよい。なお、上部電極E2の方向へ回折する光の下部電極E1方向への反射の効果を高めるため、Pクラッド層材料として互いにAlの組成の異なる膜厚λ/4波長のAlGaAs層を交互に重ねた半導体多層膜(DistributedeBragg Mirror:DBRと称する)を適切な位置に導入しても良い。
【0063】
また、図10〜図13に示した半導体レーザ素子においても、平面パターンがストライプ状の回折格子層4を採用することができる。
【0064】
図14は、ストライプパターンを有する回折格子層における水平断面を示す図である。
【0065】
半導体レーザ素子10における図12の回折格子層を、図14に示すものに置換することができる。基本層4A内の回折格子形成領域RPCには、複数の異屈折率部4Bが埋め込んである。回折格子形成領域RPCは長方形に設定されている。個々の異屈折率部4Bは、平面視においてZ軸方向に沿って直線的に延びており、Y軸方向に沿って整列している。個々の異屈折率部4Bは、基本層4Aの厚み方向であるX軸を深さ方向とし、Z軸を長手方向とし、Y軸を幅方向とし、幅方向最大寸法に対する長手方向最大寸法のアスペクト比の高い(2以上)直方体形状を有している。異屈折率部4Bは、平面視においては、長方形であるが、アスペクト比が高い状態で、三角形、五角形、六角形などのその他の多角形とすることもできる。多角形は、無限の角部を有する楕円形の意味を含む。
【0066】
図15〜図17は、図10に示した半導体レーザ素子の製造方法を説明するための図である。
【0067】
まず、N型(第1導電型とする)の半導体基板(GaAs)1を用意する(図15(a))。次に、半導体基板1上に、N型の下部クラッド層(AlGaAs)2、ガイド層(AlGaAs)3A、活性層(MQW:InGaAs/AlGaAs)3B、光ガイド層(GaAs/AaGaAs)又はスペーサ層(AlGaAs)3C、キャリアブロック層(AlGaAs)3D、回折格子層となる基本層(GaAs又はAlGaAs)4Aを、MOCVD(有機金属気相成長)法を用いて順次、エピタキシャル成長させる(図15(b))。なお、MOCVD法においては、Al原料はTMA(トリメチルアルミニウム)、Ga原料はTMG(トリメチルガリウム)、In原料はTMI(トリメチルインジウム)から供給することができる。
【0068】
次に、プラズマCVD法により、SiNからなるマスク層FL1を基本層4A上に形成する(図15(c))。SiNを形成する場合のプラズマCVDの原料ガスとしては、Si原料としてSiHを用い、N原料としてN、NHなどを用い、必要に応じてHでガスを希釈する。更に、マスク層FL1上にレジストRG1を塗布し(図15(d))、電子ビーム描画装置で2次元微細パターンを描画し、現像することでレジストRG1に2次元(又は1次元)の微細パターン(異屈折率部の位置に対応)を形成する(図15(e))。これにより、レジストRG1には微細パターンとなる複数の孔H1が形成され、各孔H1は、マスク層FL1の表面にまで到達している。
【0069】
次に、マスク層FL1を、レジストRG1をマスクとしてエッチングし、レジストの微細パターンをマスク層FL1に転写する(図15(f))。このエッチングには、反応性イオンエッチング(RIE)を用いることができる。SiNのエッチングガスとしては、フッ素系ガス(CF,CHF,C)を一般的に用いることができる。このエッチングにより、マスク層FL1には、孔H2が形成され、各孔H2は、基本層4Aの表面にまで到達している。
【0070】
次に、剥離液をレジストRG1に与え、更に、レジストRGをアッシングすることにより、レジストRG1を除去する(図16(g))。アッシングには、光励起アッシング又はプラズマアッシングを用いることができる。これにより、複数の孔H3を有する微細パターンを有するマスク層FL1のみが、基本層4A上に残留することとなる。
【0071】
しかる後、マスク層FL1をマスクとして、基本層4Aをエッチングし、マスク層FL1の微細パターンを基本層4Aに転写する(図16(h))。このエッチングには、ドライエッチングを用いる。ドライエッチングでは、エッチングガスとして塩素系又はフッ素系のガスを用いることができる。例えば、Cl、SiCl又はSF等を主なエッチングガスとして、これにArガス等を混入させたものを用いることができる。通常のプラズマエッチングの他、誘導結合型プラズマ(ICP)を用いたエッチングを採用することもできる。このエッチングにより、基本層4A内に形成される孔H4の深さは、200nm程度であり、孔H4の深さは基本層4Aの厚みよりも小さい。なお、孔H4は、基本層4Aの下地となる半導体層の表面まで到達していてもよい。
【0072】
次に、反応性イオンエッチング(RIE)により、SiNからなるマスク層FL1のみを除去し、孔H4に連続した穴H5の開口端面を露出させ、すなわち基本層4Aの表面を露出させる(図16(i))。SiNのエッチングガスとしては、上述の通り、フッ素系ガス(CF,CHF,C)を採用することができる。しかる後、基本層4Aのサーマルクリーニングを含めた表面洗浄などの表面処理を行う。
【0073】
次に、MOCVD法を用いて、基本層4Aの穴H5内に異屈折率部(埋め込み層)4Bを形成(再成長)する。この再成長工程では、AlGaAsを基本層4Aの表面に供給する。供給されるAlGaAsは、基本層4AとAlの組成比が異なる。再成長の初期段階においては、AlGaAsは、穴H5内を埋めていき、異屈折率部4Bとなる。穴H5が埋まった場合、その後に供給されるAlGaAsは、バッファ層4’として、基本層4Aの上に積層される。しかる後、MOCVD法により、バッファ層4’上に、P型のクラッド層(AlGaAs)5、P型のコンタクト層(GaAs)6を順次成長させる(図16(j))。P型のクラッド層(AlGaAs)5におけるAlの組成比Xは、バッファ層4’におけるAlの組成比X以上であり、本例ではこれらは等しいとするが、X=0.4を採用することができる。もちろん、異屈折率部4B及びバッファ層4’におけるAlの組成比Xを例えばX=0.35とし、成長に伴って徐々にAlの組成比Xを増加させ、上部クラッド層5におけるAlの組成比XをX=0.4とすることも可能である。なお、上述の結晶成長は全てエピタキシャル成長であり、各半導体層の結晶軸は一致している。
【0074】
なお、複数の半導体レーザ素子を1枚のウェハから製造する場合には、素子分離用の溝を形成する必要があるが、これはコンタクト層6上に、レジストを塗布し、レジストを感光及び現像することにより、素子分離用の開口パターンを形成し、このレジストを用いて、コンタクト層6をウエットエッチングして溝を形成する。エッチングする深さは10μm程度とする。しかる後、有機溶剤を用いてレジストを除去する。
【0075】
次に、コンタクト層6上に、SiNからなる上部絶縁層F2を形成する(図16(k))。上部絶縁層F2の形成方法は、プラズマCVD法を用いることができる。プラズマCVDのSi原料としてSiHを用い、N原料としてN、NHなどを用い、必要に応じてHでガスを希釈する。
【0076】
次に、上部絶縁層F2上に、レジストを塗布し、これを露光、現像することにより、正方形の開口パターンをレジスト上に形成し、しかる後、この開口パターンをマスクとして、上部絶縁層F2をエッチングし、開口パターンを有する上部絶縁層F2を形成する(図16(l))。この時のエッチングには、反応性イオンエッチング(RIE)を用いることができる。SiNのエッチングガスとしては、上述の通り、フッ素系ガス(CF,CHF,C)を採用することができる。
【0077】
次に、上部絶縁層F2及びコンタクト層6の露出表面上にレジストRG3を塗布し(図17(m))、現像処理後に正方形の開口が形成されるようなパターンの露光を行う。ポジ型のレジストを用いる場合には、露光領域を正方形とし、ネガ型のレジストを用いる場合には、非露光領域を正方形として周辺領域を露光する。しかる後、レジストRG3に対して現像処理を行い、正方形の開口パターンをレジストRG3の中央に形成する(図17(n))。なお、上部絶縁層F2における開口パターンは、レジストRG3の開口パターンの内側に設定され、面積はレジストRG3の開口パターンよりも小さい。なお、本例のレジストRG3としてはネガ型を用いる。
【0078】
開口パターンを有するレジストRG3をマスクとして、レジストRG3、上部絶縁層F2及びコンタクト層6の露出表面上に、電極材料を堆積した後、レジストRG3をリフトオフすることで、上部電極E2を開口パターン内に形成する(図17(o))。この電極材料の形成には、蒸着法やスパッタ法を用いることができるが、本例では蒸着法とする。
【0079】
しかる後、N型の半導体基板1の裏面を機械研磨及び化学機械研磨(CMP)して鏡面にする。次に、プラズマCVD法を用いて、半導体基板1の裏面上にSiNからなる下部絶縁層F1を堆積する。プラズマCVDのSi原料としてSiHを用い、N原料としてN、NHなどを用い、必要に応じてHでガスを希釈する。下部絶縁層F1の光学膜厚は、半導体レーザ素子の発光波長をλとした場合、λ/4に設定され、下部絶縁膜F1による反射光は入射光に対して逆相となり、減衰する。
【0080】
次に、下部絶縁層F1上には、レジストを塗布し後、このレジストに環状の開口パターンが形成されるように露光、現像し、当該レジストの環状開口パターンをマスクとしてSiNからなる下部絶縁層F1をエッチングし、しかる後、レジストを除去する(図17(p))。これにより、下部絶縁層F1は、環状開口パターンを有するように加工される。SiNはドライエッチング又はRIEを用いてエッチングすることができる。SiNのドライエッチング用のエッチングガスとしては、上述の通り、塩素系(Cl、SiCl)又はフッ素系(SF)のガスを用いることができ、RIE用のエッチングガスとしては、フッ素系ガス(CF,CHF,C)を採用することができる。
【0081】
最後に、環状開口パターンを有する下部絶縁層F1及び半導体基板1の露出した裏面上にレジストを塗布した後、このレジストに下部絶縁層F1の開口パターンよりも大きな幅の環状の開口パターンが形成されるように露光、現像し、当該レジストの環状開口パターンをマスクとして、電極材料をレジスト上及びその環状開口パターン開口内に堆積し、続いて、レジストをリフトオフにより除去する(図17(q))。この電極材料の形成には、蒸着法又はスパッタ法を用いることができる。
【0082】
なお、上述の孔(穴)H1の作製方法として、実施の形態では電子ビーム露光法による作製法を説明したが、ナノインプリント、干渉露光、集束イオンビーム(FIB)、ステッパを用いた光学露光等、その他の微細加工技術を用いることも可能である。さらに、本例ではレジストに描画したパターンをSiNに一度パターン転写してから、ドライエッチングにより基板に転写する手法を用いたが、SiNを省略してレジストに描画したパターンをそのままドライエッチングにより基板に転写しても良い。なお、上記では、活性層3Bの上側に1つの回折格子層4を備える例について説明したが、これは活性層3Bの下側に回折格子層を備えることとしてもよく、また、活性層3Bの上下それぞれに回折格子層を備える構成とすることもできる。
【0083】
次に、クラッド層間に位置するコア層内を伝搬する光の電界強度分布の設計手法について、端面発光型の通常の半導体レーザを例にとり説明する。
【0084】
図18は、端面発光型の半導体レーザ素子の縦断面構成を示す図、図19は、半導体レーザ素子の各層の構造と材料を示す図表、図20は、半導体レーザ素子の各層の詳細なパラメータを示す図表、図21は、半導体レーザ素子の斜視図である。
【0085】
図18に示す半導体レーザ素子10は、回折格子層を備えない端面発光型のレーザ素子であり、半導体基板1上に、それぞれが化合物半導体からなる下部クラッド層2、ガイド層3A、活性層3B、キャリアブロック層3D、ガイド層4G、上部クラッド層5、及びコンタクト層6が順次積層されている。
【0086】
図19を参照すると、この半導体レーザ素子10の基本構造は、半導体基板上に、下部クラッド層B、コア層A、上部クラッド層C、コンタクト層を積層したものである。半導体基板1はN型のGaAsからなり、下部クラッド層B(下部クラッド層2)はN型のAlGaAsからなり、上部クラッド層C(上部クラッド層5)はP型のAlGaAsからなる。クラッド層B,C間に位置するコア層Aは、ガイド層3A、活性層3B、キャリアブロック層3D、ガイド層4Gからなる。この半導体レーザ素子は、図1に示した半導体レーザ素子と比較して、スペーサ層、回折格子層、バッファ層がなく、代わりにガイド層4Gがある点が異なり、その他の点は同一である。
【0087】
図20を参照して、光伝搬に寄与するコア層Aとクラッド層B,Cの構造を詳説すると、下部クラッド層2はN型のAlGa1−XAs(X=0.7)からなり、ガイド層3AはAlGa1−XAs(X=0.1)からなり、活性層3BはInGaAs/AlGa1−XAs(X=0.1)の多重量子井戸構造(MQW)からなり、キャリアブロック層3DはAlGa1−XAs(X=0.4)からなり、ガイド層4GはAlGa1−XAs(X=0.1)からなり、上部クラッド層5はAlGa1−XAs(X=0.4)からなる。MQWにおける井戸数は1又は2以上に設定することができる。
【0088】
厚みに関して、好適には、例えば、下部クラッド層2の厚みは2000nm、ガイド層3Aの厚みは50nm、活性層3Bの厚みは40nm、キャリアブロック層3Dの厚みは30nm、ガイド層4Gの厚みは420nm〜430nm、上部クラッド層5の厚みは2000nmとすることができる。
【0089】
図21に示すように、端面発光型の半導体レーザ素子10は、Z軸方向に共振長を有しており、半導体レーザ素子内部においては、光出射端面(Z軸の正方向端部に位置するXY平面)と光反射端面(Z軸の負方向端部に位置するXY平面)との間でレーザ光が往復し、Z軸方向に向けてレーザ光LBが出射する。上部電極E2の平面形状は、Z軸に平行に延びた長方形であり、裏面側の下部電極E1は、半導体基板1の裏面全面上に形成されている。また、上部電極E2は、光出射端面から光反射端面に至るまで延びており、Z軸方向の共振長の範囲内においてキャリアが供給される構成になっている。
【0090】
図22は、半導体レーザ素子の厚み方向(X方向)に沿った電界強度分布を示す図である。
【0091】
駆動電流が下部電極E1と上部電極E2との間に供給されると、半導体レーザ素子10の内部でレーザ光が生成され、外部に出力されるが、このレーザ光の強度ピーク(電界強度のピーク)はコア層A内に存在している。
【0092】
コア層Aの厚み方向の中心位置を原点Oとし、コア層Aの厚みをd1とする。この場合、コア層A内の電界強度分布(TEモードにおけるY軸方向の電界強度Ey)は、基本モード(0次モード)においては、原点Oの付近に単峰性の強度ピークを有する(図22(a))。
【0093】
一方、コア層Aの厚み方向の中心位置を原点Oとし、コア層Aの厚みをd2(d2>d1)とすると、コア層内の電界強度分布が1次モードに変化する。この場合、コア層A内の電界強度分布(TEモードにおけるY軸方向の電界強度Ey)は、1次モードにおいては、原点Oの付近に強度ピークの谷を有し、その両側に2つの強度ピークを有する(図22(b))。同図では、1次モードにおけるピーク位置は、概ね+(d2)/4と、−(d2)/4の位置に設定されている。
【0094】
図23は、端面発光型の半導体レーザ素子主要部の厚み方向に沿った構造(図23(a))、エネルギーバンドギャップ(図23(b))、及び電界強度分布(図23(c):0次モード、図23(d):1次モード)を示す図である。電界強度Eyは、TEモードにおけるY軸方向の電界強度を示す。
【0095】
コア層Aの平均のエネルギーバンドギャップEgは、クラッド層B,Cの平均のエネルギーバンドギャップEgよりも小さく、キャリアブロック層3DのエネルギーバンドギャップEgは、活性層3BにおけるエネルギーバンドギャップEgの最大値よりも大きい。また、図60に示すように、エネルギーバンドギャップEgと屈折率nとは、負の相関があるため、コア層Aの平均の屈折率nは、クラッド層B,Cの平均の屈折率nよりも高く、キャリアブロック層3Dの屈折率nは、活性層3Bにおける屈折率nの最大値よりも小さい。光は屈折率の高いところを伝搬するため、3層スラブ構造においては、コア層A内を光が伝搬する。
【0096】
0次モードの場合においては(図23(c))、活性層3Bの位置における電界強度Eyはピーク位置における電界強度Eyよりも小さく、レーザ光の強度が高くはない。一方、1次モードの場合においては(図23(d))、活性層3Bは電界強度Eyの1つのピーク位置に位置しており、レーザ光の強度は高くなる。
【0097】
なお、1次モードは、基本モードの高次モードであるため、1次モードの光伝搬が行われている場合においても、基本モード(0次モード)の電界強度分布は存在している。
【0098】
図24は、コア層A内の積層構造について説明するための図である。
【0099】
コア層Aが積層された複数の層(Layer1〜Layer(i+1))を含んでいる場合(但しiは自然数)、これらの層がそれぞれ誘電率(ε(1)〜ε(i+1))を有し、膜厚(d(1)〜d(i+1))を有しているものとする。このコア層Aにおいて、1次横モードが生じる導波路構造を製造するためには、幾つかの条件を満たす必要がある。すなわち、コア層Aの膜厚は、1次の高次モードが固有状態として存在するような屈折率(n)、膜厚(d)をとる必要がある。
【0100】
このような屈折率、膜厚の範囲は下記の手法で計算される。
【0101】
導波構造内に存在する電磁界分布はMaxwellの波動方程式を境界条件の元で数値的に解くことにより、計算することができる。図20に示した層構造は、図22に示したように等価的に2層非対称スラブ導波路構造とみなすことができる。このとき、コア層Aにおける各層の誘電率と膜厚は、図24のように定義する。この場合、等価誘電率(平均誘電率)εEqを、図59に示す式(1)のように算出する。
【0102】
また、図59に示す式(2)は、規格化周波数V(Vパラメータ)を示している。式(2)において、k=2π/λであって(λはレーザ光波長)、真空中の平面波の伝搬定数(波数)を示し、n1はコア層Aの平均屈折率(コア層Aの平均誘電率εEqから求める)。なお、屈折率(n1)は、誘電率(εEq)の平方根と正の相関がある。また、式(2)において、Δはコア層Aとクラッド層Bとの比屈折率差を示し、dはコア層の膜厚を示している。
【0103】
なお、比屈折率差Δ=(n−n)/2nで与えられる。ここで、コア層Aの平均屈折率をnとし、クラッド層Bの平均屈折率をnとする。クラッド層B,Cの平均屈折率が異なる場合にも、比屈折率Δは上式で与えられる。
【0104】
なお、伝搬モードとは、ある特定の角度で反射しながら消減せずに伝搬していく光の組のことであり、入射角度の小さいものから、0次モード、1次モード、2次モードと言われる。コア層Aの長手方向(Z軸)に対して光の伝搬する角度(伝搬角)をθとすると、伝搬定数β=kcosθで与えられる。式(3)は規格化伝搬定数bを示しており、規格化伝搬定数bは屈折率nと伝搬定数βで与えられる。
【0105】
また、Vパラメータは、規格化伝搬定数bを用いて表現することができ、これは図59の式(4)に示されている。なお、式(4)におけるa’は非対称パラメータであり、式(5)で与えられ、χiは式(6)で与えられ、Nはモード次数に対応し、πは円周率を示している。また、式(6)におけるni(i=2、3)はそれぞれクラッド層B、Cにおける平均屈折率を示している。
【0106】
以上のように、Vパラメータと規格化伝搬定数bとの間には相関があり、規格化伝搬定数bは、伝搬角θで伝搬する特定モードにおける伝搬定数βにより与えられる。したがって、伝搬モードが変わる場合には、規格化伝搬定数bが変わり、これを満たすVパラメータが変化する。3層非対称スラブ導波路におけるモード数は、Vパラメータおよび規格化伝搬定数bにより特徴付けられる。
【0107】
図25は、規格化周波数V(Vパラメータ)と規格化伝搬定数bとの関係を示すグラフである。このグラフは、図20に示した構造におけるTEモードにおいて求めたものである。波長λ=980nmとし、コア層Aの屈折率n=3.45、下部クラッド層Bの屈折率n=3.26、上部クラッド層Cの屈折率n=3.11とする。
【0108】
図25に示す規格化周波数Vの値が、斜線で示される範囲にある場合(3.756≦V≦6.898)、規格化伝搬定数bは、式(4)において、N=0,N=1の場合において、2つの解を有する。換言すれば、規格化周波数Vが、斜線範囲内の値である場合、0次モードの光の伝搬と、1次モードの光の伝搬が可能となる。
【0109】
規格化周波数Vは、コア層Aの膜厚dに比例するが、膜厚dが所定値よりも小さくなると、N次モードが遮断され、存在できなくなる。この時の膜厚dを、カットオフ膜厚dcutoff(nm)とする。
【0110】
図26は、モード次数(N=0,1,2,3)に対する規格化周波数Vと、コア層のカットオフ膜厚dcutoff(nm)の関係を示す図表である。本手法で計算した1次モードのカットオフ膜厚dcutoff=515(nm)である。すなわち、1次モード(N=1)が存在している状態から、膜厚dを減少させると、規格化周波数Vが減少し、dcutoff=515(nm)、V=3.756となった時点で、1次モードの規格化伝搬定数b=0となり、これよりも膜厚dが小さい場合には、0次モード(N=0)のみしか存在しなくなる。同様に、0次モードのカットオフ膜厚dcutoff=84(nm)、2次モードのカットオフ膜厚dcutoff=946(nm)、3次モードのカットオフ膜厚dcutoff=1377(nm)である。
【0111】
換言すれば、1次モードのレーザ光の発振を行わせ、2次モードの発振を行わせないためには、コア層Aの膜厚dは、515nm以上とし、946nmよりも小さくする必要がある。
【0112】
なお、1次モードが遮断されるコア層の膜厚dcutoffについて、Maxwell方程式の数値計算法である階段行列法によって計算した結果、1次モードの膜厚dcutoffは、545nmとなった。これらの計算手法による誤差は、6%と小さい値となる。そのため、本手法を用いても、コア層Aの屈折率n、膜厚dの範囲を定めることができるし、階段行列法を用いても、これらのパラメータを設定することが可能である。
【0113】
図27は、半導体レーザ素子の厚み方向に沿った屈折率nと電界強度E(Y軸方向の電界強度Ey)との関係を示すグラフである。このグラフは、階段行列法によって求めたものである。なお、同図にはコア層A、下部クラッド層B、上部クラッド層Cの領域が示されている。また、一点鎖線は屈折率nを示し、実線は1次モードの電界強度分布を示し、点線は0次モードの電界強度分布を示している。また、電界強度Eに関しては、1次モードの演算データ曲線を、0次モードの演算データ曲線から若干上方にシフトして示してある。
【0114】
図27(a)は、コア層Aの厚みd=540nmの場合のデータを示し、図27(b)は、コア層Aの厚みd=545nmの場合のデータを示し、図27(c)は、コア層Aの厚みd=550nmの場合のデータを示している。
【0115】
コア層Aの屈折率は、クラッド層B,Cの屈折率よりも高く、また、活性層3Bにおける井戸層の屈折率はこれに隣接するバリア層の屈折率よりも高く、キャリアブロック層3Dの屈折率は、これに隣接するガイド層4Gの屈折率よりも低い。なお、図60に示したように、各層におけるエネルギーバンドギャップEgの関係は、屈折率nの関係とは逆となる。
【0116】
同図に示すように、コア層Aの厚みdが545nm以上になると((b)、(c))、1次モードが存在し、一方の強度ピーク位置近傍に活性層3Bの位置を合わせることで、レーザ光強度を高めることが可能となる。
【0117】
この原理は、以下のように、図1〜図17に示した回折格子層を備えた半導体レーザ素子に適用することができる。以下の半導体レーザ素子は、図1〜図9又は図10〜図17に示した半導体レーザ素子におけるコア層の変形例を示している。
【0118】
図28は、回折格子層を有する半導体レーザ素子主要部の厚み方向に沿った構造(図28(a))、エネルギーバンドギャップ(図28(b))、及び電界強度分布(図28(c):0次モード、図28(d):1次モード)を示す図である。電界強度Eyは、TEモードにおけるY軸方向の電界強度を示す。
【0119】
コア層Aの平均のエネルギーバンドギャップEgは、クラッド層B,Cの平均のエネルギーバンドギャップEgよりも小さく、キャリアブロック層3DのエネルギーバンドギャップEgは、活性層3BにおけるエネルギーバンドギャップEgの最大値よりも大きい。また、図60に示すように、エネルギーバンドギャップEgと屈折率nとは、負の相関があるため、コア層Aの平均の屈折率nは、クラッド層B,Cの平均の屈折率nよりも高く、キャリアブロック層3Dの屈折率nは、活性層3Bにおける屈折率nの最大値よりも小さい。光は屈折率の高いところを伝搬するため、3層スラブ構造においては、コア層A内を光が伝搬する。
【0120】
0次モードの場合においては(図28(c))、活性層3Bの位置における電界強度Eyはピーク位置における電界強度Eyよりも小さく、レーザ光の強度が高くはない。一方、1次モードの場合においては(図28(d))、活性層3Bは、電界強度Eyの1つのピーク位置に位置しており、また、回折格子層4(4A,4B)は、電界強度Eyのもう1つのピーク位置に位置しており、レーザ光の強度は高くなる。
【0121】
次に、コア層A内の積層構造について説明する。
【0122】
図29は、コア層A内の幾つかの積層構造を示す図である。いずれも図1〜図9に示した半導体レーザ素子、又は、図10〜図17に示した半導体レーザ素子におけるコア層Aの変形例を示している。
【0123】
図29(a)は、図1及び図28に示したタイプのコア層Aであり、ガイド層3A、活性層3B、スペーサ層3C、キャリアブロック層3D、回折格子層4(4A,4B)を順次積層したものである。なお、回折格子層4上には、図1に示したバッファ層4’が位置することとしてもよい。
【0124】
図29(b)は、ドープ層を備えるタイプのコア層Aであり、ガイド層3A、活性層3B、スペーサ層3C、キャリアブロック層3D、ガイド層3E、ドープ層3F、回折格子層4(4A,4B)を順次積層したものである。なお、回折格子層4上には、図1に示したバッファ層4’が位置することとしてもよい。なお、スペーサ層3Cの構成は、図1及び図28に示した通りである。
【0125】
図29(c)は、図29(b)に示したコア層Aからスペーサ層3Cを除いたタイプのコア層Aであり、ガイド層3A、活性層3B、キャリアブロック層3D、ガイド層3E、ドープ層3F、回折格子層4(4A,4B)を順次積層したものである。なお、回折格子層4上には、図1に示したバッファ層4’が位置することとしてもよい。この構造のコア層Aの詳細については、後述の図30(構造(1))、図40(構造(2))、図49(構造(3))において説明する。
【0126】
図29(d)は、図29(c)に示したコア層Aに新たにガイド層3Gを追加したタイプのコア層Aであり、ガイド層3A、活性層3B、キャリアブロック層3D、ガイド層3E、ドープ層3F、ガイド層3G、回折格子層4(4A,4B)を順次積層したものである。なお、回折格子層4上には、図1に示したバッファ層4’が位置することとしてもよい。ガイド層3Gの構成は、ガイド層3Eの構成と同様に設定することができる。
【0127】
図30は、図29(c)に示したコア層Aを有する半導体レーザ素子の各層の詳細なパラメータを示す図表である(構造(1)とする)。
【0128】
図30を参照して、光伝搬に寄与するコア層Aとクラッド層B,Cの構造を詳説すると、下部クラッド層2はN型のAlGa1−XAs(X=0.7)からなり、ガイド層3AはAlGa1−XAs(X=0.1)からなり、活性層3BはInGaAs/AlGa1−XAs(X=0.1)の多重量子井戸構造(MQW)からなり、キャリアブロック層3DはAlGa1−XAs(X=0.4)からなり、ガイド層3EはAlGa1−XAs(X=0.1)からなり、ドープ層3FはP型のAlGa1−XAs(X=0.4)からなり、回折格子層4は、基本層4AがAlGa1−XAs(X=0.1)からなり、異屈折率部4BがAlGa1−XAs(X=0.4)からなり、上部クラッド層5はAlGa1−XAs(X=0.4)からなる。MQWにおける井戸数は1又は2以上に設定することができる。
【0129】
厚みに関して、好適には、例えば、下部クラッド層2の厚みは2000nm、ガイド層3Aの厚みは50nm、活性層3Bの厚みは40nm、キャリアブロック層3Dの厚みは30nm、ガイド層3Eの厚みは260nm、ドープ層3Fの厚みは40nm、回折格子層4の厚みは300nm、上部クラッド層5の厚みは2000nmとすることができる。
【0130】
また、回折格子層4の回折格子形成領域RPC(図4参照)内における異屈折率部4Bの占有面積率(フィリングファクタ:FF)は、20%に設定することができる。占有面積率FF(%)は、水平断面(YZ平面)内における、回折格子形成領域RPCの面積に対する複数の異屈折率部4Bの面積の合計の比率である。換言すれば、占有面積率FF(%)は、単位面積当たりにおいて異屈折率部4Bの占める面積の比率である。1つの異屈折率部4Bの形状は本例では円形とし、円の面積は、例えば格子定数300nmの正方格子では、18000nmであることとし、基本層4A内に埋め込まれたX軸方向の深さは300nmであることとする。すなわち、1cm当たり0.2cmの異屈折率部4Bが存在する。
【0131】
図31は、図30に示した構造を有する半導体レーザ素子において、基本モード(0次モード)と1次モードにおけるTEモードの等価屈折率neffと、回折格子層4におけるフォトニックバンドギャップのバンド端波長(nm)の関係を示す図表である。発振波長λ=980nmとする。回折格子層4の厚みD=300nm(0.3μm)であり、コア層Aの厚みd=720nmである。活性層3Bにおける量子井戸数は2とする。
【0132】
なお、コア層Aの屈折率n=3.42、下部クラッド層Bの屈折率n=3.10、上部クラッド層Cの屈折率n=3.26とした。これらの屈折率は、MSEO(Modified Single Effective Oscillator)法と式(1)により、波長980nmにおける屈折率の値を求めた。この場合、伝搬モードに1次モードが生じるカットオフ膜厚dcutoff(1)と、2次モードが生じるカットオフ膜厚dcutoff(2)は、573(nm)と1047(nm)となる。すなわち、コア層Aの厚みdが、573(nm)以上1047(nm)未満であれば、1次モードが発生し、2次モードが発生しない条件が成立する。1次高次モードを取る領域範囲は、階段行列法による電磁界計算から600(nm)〜1040(nm)と計算されるが、これらの範囲は概ね一致している。
【0133】
上述のようにコア層Aの全体の膜厚d=720nmであるため、1次モードの発生条件は満たされ、TEモードの電磁界モードは、基本0次モードと1次モードが形成される。
【0134】
図31に示す等価屈折率neffの差から、回折格子層4に格子定数344nmの三角格子のフォトニック結晶を用いる場合、基本0次モードと1次モードのバンド端波長(1009.03nm、980.43nm)差は、30nm程度となる。
【0135】
図32は、共振が生じる波長と強度の関係(a)と、発光波長と強度の関係(b)を示すグラフである。
【0136】
上述の通り、回折格子層4のフォトニックバンドギャップの0次モードにおけるバンド端波長λp0と、1次モードにおけるバンド端波長λp1とは、約30nmの差がある。それぞれの波長においてレーザ光を生成するための発光の共振を起こすことができるが、一方で、量子井戸からなる活性層3Bにおける発光の利得スペクトルのピーク波長λpは、活性層3Bの組成やエネルギーバンドギャップ等を変更することによって移動させることができる。したがって、利得スペクトルのピーク波長λpと1次モードのバンド端波長λp1(980nm)とを一致させれば、1次モードのレーザ発振が支配的となり、0次モードのレーザ発振は抑制されることになる。上記の場合、バンド端波長差は約30nmであるため、利得スペクトルのピーク波長λp±5nmの範囲内に、1次モードのバンド端波長λp1が存在すれば、1次モードが選択的且つ効率的に発生することになる。
【0137】
図33は、各層における光閉じ込め係数を示す図表である。
【0138】
上記図30の設定の場合、活性層(量子井戸層)3B内の光閉じ込め係数Γqwは、基本モード(0次モード)の場合では1.62(%)、1次モードの場合には2.28(%)であり、1次モードの場合に、活性層3B内により多くの光を閉じ込めることができる。また、回折格子戸層4内の光閉じ込め係数Γgは、基本モード(0次モード)の場合では30.1(%)、1次モードの場合には39.3(%)であり、1次モードの場合に、回折格子層4内により多くの光を閉じ込めることができる。更に、ドープ層3F内の光閉じ込め係数Γdopeは、基本モード(0次モード)の場合では6.7(%)、1次モードの場合には0.2(%)であり、1次モードの場合に、ドープ層3F内の光の影響はさらに抑制され、0次モードの光はドープ層3F内の不純物により損失を受けることになる。
【0139】
上記のように、1次モードでは、活性層3B内における光閉じ込め係数Γqwが高くなるため、低い閾値でのレーザ発振が可能となるという利点がある。
【0140】
また、1次モードの回折格子層4内の光閉じ込め係数Γgは、基本0次モードに比べて高い。光閉じ込め係数Γgは、面垂直方向への回折効果の大きさを表す結合係数κに比例し、回折格子層4が十分に機能することになる。なお、光閉じ込め係数Γg=39.3%という値は、非特許文献1の半導体レーザ素子の光閉じ込め係数Γg=18.1%と比較しても、十分に高い値となる。
【0141】
更に、ドープ層3Fには1×1017/cm以上のP型の不純物が添加されている。なお、本例では、ドープ層3FのP型の不純物濃度は1×1018/cmである。これにより、ドープ層3Fのフェルミ準位を価電子帯側へシフトすることができ、N型の下部クラッド層2側から注入された電子を効率的にブロックしつつ、抵抗なくホールを活性層3B内に注入することができるようになる。また、ドープ層3Fの光閉じ込め係数Γdopeは、基本0次モードの6.7(%)に対して1次モードでは0.2(%)と非常に小さい値となる。この差により、基本0次モードで選択的に光の損失が大きくなるため、より安定に1次モードが単一モードで発振ができるようになる。なお、ドープ層3FのP型の不純物濃度は、ドーパントの拡散による光吸収の増大および結晶性という観点から、1×1020/cm以下であることが好ましい。
【0142】
また、回折格子層4においては、異屈折率部3Bを埋め込むための穴を事前にドライエッチングにより形成しているため、穴の底面には加工損傷が残留している。換言すれば、回折格子層4を構成する基本層4Aの底部から数十nm程度の領域に、加工による損傷領域が形成されている。損傷領域では格子欠陥、不純物準位等が形成されるため、光吸収の原因となり得る。そこで、回折格子層4の底部付近(或いは穴の底面付近)において、電界強度を低下させれば、当該光吸収の影響を低減することが可能となる。
【0143】
0次モードでは、上記底部又は底面付近における電界強度を小さくすることが困難となる。これは、0次モードが基本的に単峰性であり、活性層3Bの光閉じ込め係数Γqwと回折格子層4の光閉じ込め係数Γgを共に大きくするためには、その中間にある回折格子の底部では電界強度を小さくすることができないためである。
【0144】
一方、1次モードを利用する場合、図34に示すように、1次モードにおける2つの強度ピーク間の谷の位置を、ドープ層3Fの近傍に設定することで、この上に位置する回折格子層4の底部においても、電界強度を小さくし、損傷領域における光吸収を低減することが可能となる。なお、図34は、半導体レーザ素子の厚み方向に沿った屈折率nと電界強度Eとの関係を示すグラフであり、1次モードのデータは基本モードのデータよりも若干上方にシフトして示してある。
【0145】
なお、電界強度の谷(節)の位置においては、電界強度を0とすることもできる。このため、回折格子層底部の損傷領域に電界強度の節を配置することができ、損傷領域の影響を抑えることができる。また、0次モードに比べ、回折格子層4底部から活性層3B層を離して配置することが出来るため、活性層3Bへの直接的な加工損傷の影響を抑えることができる。
【0146】
かかる観点から、X軸に沿った位置関係を考える場合、回折格子層4の活性層3B側の端面(底面)は、上記1次モードにおける電界強度ピークの谷の位置から、±50nmの範囲内の位置に存在することが好ましく、ドープ層3Fの厚み方向の中心位置は、1次モードにおける電界強度ピークの谷の位置から、±50nmの範囲内の位置に存在することが好ましい。また、1次モードの2つの強度ピークを効率的に利用するためには、回折格子層4の活性層3B側の端面(底面)は、活性層3Bの中心位置から、発振波長λに対して、λ/(4×neff)nm程度離間していることが望ましいが、回折格子層4の影響を活性層3Bに及ぼすためには、これらの中心位置の距離はλ/(2×neff)nm程度であることが好ましい。
【0147】
また、1次モードでは0次モードに比べ、電界が広く分布するため、上部クラッド層5の光閉じ込め係数が大きくなり、λ=1μm程度の波長領域では自由電子吸収の影響で内部損失を大きくする要因も存在する。実際に、上部クラッド層5全体の光閉じ込め係数は25.0%となるため、吸収損失が大きくなり得る。しかしながら、1次モードは回折格子層4の近傍に光の大部分が閉じ込められ、回折格子層4の上部クラッド層5側の端面から200nmの領域に上部クラッド層全体のうち75%の光が集中するため、その領域におけるP型の不純物濃度を1×1016〜3×1017cm−3の範囲内に低減することで内部損失の小さいレーザ構造が実現できる。
【0148】
図35は、回折格子層の厚みDと等価屈折率neffとの関係を示すグラフである。図30及び図31に示したように、占有面積率FFが20%であり、厚みD=0.3μmの場合には、等価屈折率neffが0次モードでは3.3870、1次モードでは3.2910となる。占有面積率FFが10%の場合、20%の場合、30%の場合のいずれにおいても、等価屈折率neffは1次モードの方が0次モードの場合よりも小さく、回折格子層Dの厚みが増加するにしたがって、等価屈折率neffは増加していることが分かる。
【0149】
図36は、回折格子層の厚みDと活性層3Bにおける光閉じ込め係数Γqwとの関係を示すグラフである。図30及び図33に示したように、占有面積率FFが20%であり、厚みD=0.3μmの場合には、活性層3Bにおける光閉じ込め係数Γqwは0次モードでは1.62(%)、1次モードでは2.28(%)である。1次モードにおける光閉じ込め係数Γqwが、0次モードの場合の光閉じ込め係数Γqwよりも大きくなる(条件Aとする)のは、厚みDが所定値以上の場合であり、少なくとも厚みDが600nmまでは、この大小関係は維持される。条件Aを満たす厚みDの最小値(所定値)と最大値は、図38に示す通りである。
【0150】
図37は、回折格子層の厚みDと光閉じ込め係数Γgとの関係を示すグラフである。図30及び図33に示したように、占有面積率FFが20%であり、厚みD=0.3μmの場合には、回折格子層4における光閉じ込め係数Γgは0次モードでは30.1(%)、1次モードでは39.3(%)である。1次モードにおける光閉じ込め係数Γgが、0次モードの場合の光閉じ込め係数Γgよりも大きくなる(条件Bとする)のは、厚みDが所定範囲内の場合である。条件Bを満たす厚みDの所定範囲(最小値と最大値)は、図38に示す通りである。
【0151】
図38は、構造(1)において、条件Aと条件Bを満たす回折格子層の厚みDの最小値Min(nm)と最大値Max(nm)を示す図表である。
【0152】
占有面積率FFが10%の場合には、条件Aを満たすためには、厚みDは180nm以上である必要があり、600nm以下であればこの条件は満たされる。条件Bを満たすためには、厚みDは200nm以上300nm以下である必要がある。すなわち、双方の条件を満たすためには、厚みDは200nm以上300nm以下である必要がある。
【0153】
占有面積率FFが20%の場合には、条件Aを満たすためには、厚みDは200nm以上である必要があり、600nm以下であればこの条件は満たされる。条件Bを満たすためには、厚みDは200nm以上450nm以下である必要がある。すなわち、双方の条件を満たすためには、厚みDは200nm以上450nm以下である必要がある。
【0154】
占有面積率FFが30%の場合には、条件Aを満たすためには、厚みDは270nm以上である必要があり、600nm以下であればこの条件は満たされる。条件Bを満たすためには、厚みDは200nm以上600nm以下である必要がある。すなわち、双方の条件を満たすためには、厚みDは270nm以上600nm以下である必要がある。
【0155】
占有面積率FFが10%〜30%の場合、厚みDが200nm以上300nm以下である場合には、双方の条件は常に満たされることになる。
【0156】
図39は、回折格子層の厚みDとドープ層の光閉じ込め係数Γdopeとの関係を示すグラフである。図30及び図33に示したように、占有面積率FFが20%であり、厚みD=0.3μmの場合には、ドープ層3Fにおける光閉じ込め係数Γdopeは0次モードでは6.7(%)、1次モードでは0.2(%)である。1次モードにおける光閉じ込め係数Γdopeが、0次モードの場合の光閉じ込め係数Γdopeよりも小さくなる(条件Cとする)のは、少なくとも厚みDが150nm以上600nm以下である。
【0157】
図40は、図29(c)に示したコア層Aを有する別の構造の半導体レーザ素子の各層の詳細なパラメータを示す図表である(構造(2)とする)。
【0158】
図40に示した構造の図30に示したものとの相違点は、アルミニウムの組成比Xと膜厚のみであり、その他の基本的構造は同一である。以下、詳説する。
【0159】
図40を参照して、光伝搬に寄与するコア層Aとクラッド層B,Cの構造を詳説すると、下部クラッド層2はN型のAlGa1−XAs(X=0.7)からなり、ガイド層3AはAlGa1−XAs(X=0.25)からなり、活性層3BはInGaAs/AlGa1−XAs(X=0.25)の多重量子井戸構造(MQW)からなり、キャリアブロック層3DはAlGa1−XAs(X=0.7)からなり、ガイド層3EはAlGa1−XAs(X=0.25)からなり、ドープ層3FはP型のAlGa1−XAs(X=0.7)からなり、回折格子層4は、基本層4AがAlGa1−XAs(X=0.25)からなり、異屈折率部4BがAlGa1−XAs(X=0.6)からなり、上部クラッド層5はAlGa1−XAs(X=0.6)からなる。MQWにおける井戸数は1又は2以上に設定することができる。
【0160】
厚みに関して、好適には、例えば、下部クラッド層2の厚みは2000nm、ガイド層3Aの厚みは50nm、活性層3Bの厚みは40nm、キャリアブロック層3Dの厚みは30nm、ガイド層3Eの厚みは100nm、ドープ層3Fの厚みは30nm、回折格子層4の厚みは300nm、上部クラッド層5の厚みは2000nmとすることができる。
【0161】
また、回折格子層4の回折格子形成領域RPC(図4参照)内における異屈折率部4Bの占有面積率(フィリングファクタ:FF)は、20%に設定することができる。1つの異屈折率部4Bの形状は本例でも円形とし、円の面積は、例えば格子定数300nmの正方格子では、18000nmであることとし、基本層4A内に埋め込まれたX軸方向の深さは300nmであることとする。すなわち、1cm当たり0.2cmの異屈折率部4Bが存在する。
【0162】
図41は、図40に示した構造を有する半導体レーザ素子において、基本モード(0次モード)と1次モードにおけるTEモードの等価屈折率neffと、回折格子層4におけるフォトニックバンドギャップのバンド端波長(nm)の関係を示す図表である。発振波長λ=800nmとする。回折格子層4の厚みD=300nm(0.3μm)であり、コア層Aの厚みd=550nmであり、回折格子層4を除いた厚みは250nmである。活性層3Bにおける量子井戸数は2とする。
【0163】
なお、コア層Aの屈折率n=3.42、下部クラッド層Bの屈折率n=3.19、上部クラッド層Cの屈折率n=3.25とした。これらの屈折率は、MSEO法及び式(1)により波長980nmにおける屈折率の値を求めた。この場合、伝搬モードに1次モードが生じるカットオフ膜厚dcutoff(1)と、2次モードが生じるカットオフ膜厚dcutoff(2)は、428(nm)と800(nm)となる。すなわち、コア層Aの厚みdが、428(nm)以上800(nm)未満であれば、1次モードが発生し、2次モードが発生しない条件が成立する。1次高次モードを取る領域範囲は、階段行列法による電磁界計算から430(nm)〜800(nm)と計算される。
【0164】
上述のようにコア層Aの全体の膜厚d=550nmであるため、1次モードの発生条件は満たされ、TEモードの電磁界モードは、基本0次モードと1次モードが形成される。
【0165】
図41に示す等価屈折率neffの差から、回折格子層4に格子定数281nmの三角格子のフォトニック結晶を用いる場合、基本0次モードと1次モードのバンド端波長(821.51nm、799.04nm)差は、20nm程度となる。したがって、構造(1)の場合と同様に(図32参照)、利得スペクトルのピーク波長λpと1次モードのバンド端波長λp1(799nm)とを一致させれば、1次モードのレーザ発振が支配的となり、0次モードのレーザ発振は抑制されることになる。上記の場合、バンド端波長差は約20nmであるため、利得スペクトルのピーク波長λp±5nmの範囲内に、1次モードのバンド端波長λp1が存在すれば、1次モードが選択的且つ効率的に発生することになる。
【0166】
図42は、各層における光閉じ込め係数を示す図表である。
【0167】
上記図40の設定の場合、活性層(量子井戸層)3B内の光閉じ込め係数Γqwは、基本モード(0次モード)の場合では2.67(%)、1次モードの場合には4.15(%)であり、1次モードの場合に、活性層3B内により多くの光を閉じ込めることができる。また、回折格子戸層4内の光閉じ込め係数Γgは、基本モード(0次モード)の場合では50.1(%)、1次モードの場合には33.8(%)であり、1次モードの場合に、回折格子層4内により多くの光を閉じ込めることができる。更に、ドープ層3F内の光閉じ込め係数Γdopeは、基本モード(0次モード)の場合では6.3(%)、1次モードの場合には0.5(%)であり、1次モードの場合に、ドープ層3F内の光の影響はさらに抑制され、0次モードの光はドープ層3F内の不純物により損失を受けることになる。
【0168】
上記のように、1次モードでは、活性層3B内における光閉じ込め係数Γqwが高くなるため、低い閾値でのレーザ発振が可能となるという利点がある。
【0169】
また、構造(1)の場合と同様に、1次モードの回折格子層4内の光閉じ込め係数Γgは、基本0次モードに比べてさほど低い値ではなく、回折格子層4が十分に機能することになる。
【0170】
更に、ドープ層3Fには1×1017/cm以上のP型の不純物が添加されている。なお、本例では、ドープ層3FのP型の不純物濃度は1×1018/cmである。構造(1)の場合と同様に、N型の下部クラッド層2側から注入された電子を効率的にブロックしつつ、抵抗なくホールを活性層3B内に注入することができ、また、基本0次モードで選択的に光の損失が大きくなるため、より安定に1次モードが単一モードで発振ができるようになる。なお、ドープ層3FのP型の不純物濃度は、ドーパントの拡散による光吸収の増大および結晶性という観点から、1×1020/cm以下であることが好ましい。
【0171】
また、構造(1)の場合と同様に、1次モードを利用する場合、図43に示すように、1次モードにおける2つの強度ピーク間の谷の位置を、ドープ層3Fの近傍に設定することで、この上に位置する回折格子層4の底部においても、電界強度を小さくし、回折格子層4における穴形成時の損傷領域における光吸収を低減することが可能となる。なお、図43は、半導体レーザ素子の厚み方向に沿った屈折率nと電界強度Eとの関係を示すグラフであり、1次モードのデータは基本モードのデータよりも若干上方にシフトして示してある。
【0172】
なお、電界強度の谷(節)の位置においては、電界強度を0とすることもできる。このため、回折格子層底部の損傷領域に電界強度の節を配置することができ、損傷領域の影響を抑えることができる。また、0次モードに比べ、回折格子層4底部から活性層3B層を離して配置することが出来るため、活性層3Bへの直接的な加工損傷の影響を抑えることができる。
【0173】
かかる観点から、X軸に沿った位置関係を考える場合、回折格子層4の活性層3B側の端面(底面)は、上記1次モードにおける電界強度ピークの谷の位置から、±50nmの範囲内の位置に存在することが好ましく、ドープ層3Fの厚み方向の中心位置は、1次モードにおける電界強度ピークの谷の位置から、±50nmの範囲内の位置に存在することが好ましい。また、1次モードの2つの強度ピークを効率的に利用するためには、回折格子層4の活性層3B側の端面(底面)は、活性層3Bの中心位置からλ/(4×neff)nm程度離間していることが望ましいが、回折格子層4の影響を活性層3Bに及ぼすためには、これらの中心位置の距離はλ/(2×neff)nm程度であることが好ましい。
【0174】
また、λ=1μm程度波長領域では自由電子吸収の影響で内部損失を大きくする要因を低減するためには、回折格子層4の上部クラッド層5側の端面から200nm以下の領域におけるP型の不純物濃度を1×1016/cm〜3×1017/cmの範囲内にして低減することで、内部損失の小さいレーザ構造が実現できる。
【0175】
図44は、回折格子層の厚みDと等価屈折率neffとの関係を示すグラフである。図40及び図41に示したように、占有面積率FFが20%であり、厚みD=0.3μmの場合には、等価屈折率neffが0次モードでは3.3758、1次モードでは3.2835となる。占有面積率FFが10%の場合、20%の場合、30%の場合のいずれにおいても、等価屈折率neffは1次モードの方が0次モードの場合よりも小さく、回折格子層Dの厚みが増加するにしたがって、等価屈折率neffは増加していることが分かる。
【0176】
図45は、回折格子層の厚みDと活性層3Bにおける光閉じ込め係数Γqwとの関係を示すグラフである。図40及び図42に示したように、占有面積率FFが20%であり、厚みD=0.3μmの場合には、活性層3Bにおける光閉じ込め係数Γqwは0次モードでは2.67(%)、1次モードでは4.15(%)である。1次モードにおける光閉じ込め係数Γqwが、0次モードの場合の光閉じ込め係数Γqwよりも大きくなる(条件Aとする)のは、厚みDが所定値以上の場合であり、少なくとも厚みDが550nmまでは、この大小関係は維持される。条件Aを満たす厚みDの最小値(所定値)と最大値は、図47に示す通りである。
【0177】
図46は、回折格子層の厚みDと光閉じ込め係数Γgとの関係を示すグラフである。図40及び図42に示したように、占有面積率FFが20%であり、厚みD=0.3μmの場合には、回折格子層4における光閉じ込め係数Γgは0次モードでは50.1(%)、1次モードでは33.8(%)である。1次モードにおける光閉じ込め係数Γgが、0次モードの場合の光閉じ込め係数Γgよりも大きくなる(条件Bとする)ことはない。
【0178】
図47は、構造(2)において、条件Aを満たす回折格子層の厚みDの最小値Min(nm)と最大値Max(nm)を示す図表である。
【0179】
占有面積率FFが10%の場合には、条件Aを満たすためには、厚みDは200nm以上である必要があり、550nm以下であればこの条件は満たされる。
【0180】
占有面積率FFが20%の場合には、条件Aを満たすためには、厚みDは230nm以上である必要があり、550nm以下であればこの条件は満たされる。
【0181】
占有面積率FFが30%の場合には、条件Aを満たすためには、厚みDは270nm以上である必要があり、550nm以下であればこの条件は満たされる。
【0182】
占有面積率FFが10%〜30%の場合、厚みDが270nm以上550nm以下である場合には、条件Aは常に満たされることになる。
【0183】
図48は、回折格子層の厚みDと光閉じ込め係数Γdopeとの関係を示すグラフである。図40及び図42に示したように、占有面積率FFが20%であり、厚みD=0.3μmの場合には、ドープ層3Fにおける光閉じ込め係数Γdopeは0次モードでは6.3(%)、1次モードでは0.5(%)である。1次モードにおける光閉じ込め係数Γdopeが、0次モードの場合の光閉じ込め係数Γdopeよりも小さくなる(条件Cとする)のは、少なくとも厚みDが150nm以上D以下である。占有面積率FFが10%の場合には厚みDcは480nmであり、占有面積率FFが20%の場合には厚みDcは540nmであり、占有面積率FFが30%の場合には厚みDcは540nmである。
【0184】
図49は、図29(c)に示したコア層Aを有する更に別の構造の半導体レーザ素子の各層の詳細なパラメータを示す図表である(構造(3)とする)。
【0185】
図49に示した構造の図30に示したものとの相違点は、ドープ層3Fにおけるアルミニウムの組成比Xと、キャリアブロック層4Dの膜厚のみであり、その他の構造は同一である。以下、詳説する。すなわち、ドープ層3Fにおけるアルミニウムの組成比XをX=0.1とし、キャリアブロック層3Dの厚みを40nmに変更したものである。その他の構造については、同一であるため説明を省略する。
【0186】
図50は、図49に示した構造を有する半導体レーザ素子において、基本モード(0次モード)と1次モードにおけるTEモードの等価屈折率neffと、回折格子層4におけるフォトニックバンドギャップのバンド端波長(nm)の関係を示す図表である。発振波長λ=980nmとする。回折格子層4の厚みD=300nm(0.3μm)であり、コア層Aの厚みd=730nmであり、回折格子層4を除いた厚みは430nmである。活性層3Bにおける量子井戸数は2とする。
【0187】
なお、コア層Aの屈折率n=3.44、下部クラッド層Bの屈折率n=3.10、上部クラッド層Cの屈折率n=3.26とした。これらの屈折率は、MSEO法及び式(1)により波長980nmにおける屈折率の値を求めた。この場合、伝搬モードに1次モードが生じるカットオフ膜厚dcutoff(1)と、2次モードが生じるカットオフ膜厚dcutoff(2)は、541(nm)と992(nm)となる。すなわち、コア層Aの厚みdが、541(nm)以上992(nm)未満であれば、1次モードが発生し、2次モードが発生しない条件が成立する。1次高次モードを取る領域範囲は、階段行列法による電磁界計算から570〜1040nmと計算され、大きなずれはない。
【0188】
上述のようにコア層Aの全体の膜厚d=730nmであるため、1次モードの発生条件は満たされ、TEモードの電磁界モードは、基本0次モードと1次モードが形成される。
【0189】
図50に示す等価屈折率neffの差から、回折格子層4に格子定数344nmの三角格子のフォトニック結晶を用いる場合、基本0次モードと1次モードのバンド端波長(1013.34nm、980.70nm)差は、30nm程度となる。したがって、構造(1)の場合と同様に(図32参照)、利得スペクトルのピーク波長λpと1次モードのバンド端波長λp1(980nm)とを一致させれば、1次モードのレーザ発振が支配的となり、0次モードのレーザ発振は抑制されることになる。上記の場合、バンド端波長差は約30nmであるため、利得スペクトルのピーク波長λp±5nmの範囲内に、1次モードのバンド端波長λp1が存在すれば、1次モードが選択的且つ効率的に発生することになる。
【0190】
図51は、各層における光閉じ込め係数を示す図表である。
【0191】
上記図49の設定の場合、活性層(量子井戸層)3B内の光閉じ込め係数Γqwは、基本モード(0次モード)の場合では1.2(%)、1次モードの場合には2.39(%)であり、1次モードの場合に、活性層3B内により多くの光を閉じ込めることができる。また、回折格子戸層4内の光閉じ込め係数Γgは、基本モード(0次モード)の場合では32.0(%)、1次モードの場合には37.7(%)であり、1次モードの場合に、回折格子層4内により多くの光を閉じ込めることができる。更に、ドープ層3F内の光閉じ込め係数Γdopeは、基本モード(0次モード)の場合では8.2(%)、1次モードの場合には0.2(%)であり、1次モードの場合に、ドープ層3F内の光の影響はさらに抑制され、0次モードの光はドープ層3F内の不純物により損失を受けることになる。
【0192】
上記のように、1次モードでは、活性層3B内における光閉じ込め係数Γqwが高くなるため、低い閾値でのレーザ発振が可能となるという利点がある。
【0193】
また、構造(1)の場合と同様に、1次モードの回折格子層4内の光閉じ込め係数Γgは、基本0次モードに比べて高く、回折格子層4が十分に機能することになる。
【0194】
更に、ドープ層3Fには1×1017/cm以上のP型の不純物が添加されている(本例では1×1018/cm)。構造(1)の場合と同様に、N型の下部クラッド層2側から注入された電子を効率的にブロックしつつ、抵抗なくホールを活性層3B内に注入することができ、また、基本0次モードで選択的に光の損失が大きくなるため、より安定に1次モードが単一モードで発振ができるようになる。なお、ドープ層3FのP型の不純物濃度は、ドーパントの拡散による光吸収の増大および結晶性という観点から、1×1020/cm以下であることが好ましい。
【0195】
また、構造(1)の場合と同様に、1次モードを利用する場合、図52に示すように、1次モードにおける2つの強度ピーク間の谷の位置を、ドープ層3Fの近傍に設定することで、この上に位置する回折格子層4の底部においても、電界強度を小さくし、回折格子層4における穴形成時の損傷領域における光吸収を低減することが可能となる。なお、図52は、半導体レーザ素子の厚み方向に沿った屈折率nと電界強度Eとの関係を示すグラフであり、1次モードのデータは基本モードのデータよりも若干上方にシフトして示してある。
【0196】
なお、電界強度の谷(節)の位置においては、電界強度を0とすることもできる。このため、回折格子層底部の損傷領域に電界強度の節を配置することができ、損傷領域の影響を抑えることができる。また、0次モードに比べ、回折格子層4底部から活性層3B層を離して配置することが出来るため、活性層3Bへの直接的な加工損傷の影響を抑えることができる。
【0197】
かかる観点から、X軸に沿った位置関係を考える場合、回折格子層4の活性層3B側の端面(底面)は、上記1次モードにおける電界強度ピークの谷の位置から、±50nmの範囲内の位置に存在することが好ましく、ドープ層3Fの厚み方向の中心位置は、1次モードにおける電界強度ピークの谷の位置から、±50nmの範囲内の位置に存在することが好ましい。また、1次モードの2つの強度ピークを効率的に利用するためには、回折格子層4の活性層3B側の端面(底面)は、活性層3Bの中心位置からλ/(4×neff)nm程度離間していることが望ましいが、回折格子層4の影響を活性層3Bに及ぼすためには、これらの中心位置の距離はλ/(2×neff)nm程度であることが好ましい。
【0198】
また、λ=1μm程度波長領域では自由電子吸収の影響で内部損失を大きくする要因を低減するためには、回折格子層4の上部クラッド層5側の端面から200nm以下の領域におけるP型の不純物濃度を1×1016/cm〜3×1017/cmの範囲内にして低減することで、内部損失の小さいレーザ構造が実現できる。
【0199】
図53は、回折格子層の厚みDと等価屈折率neffとの関係を示すグラフである。図49及び図50に示したように、占有面積率FFが20%であり、厚みD=0.3μmの場合には、等価屈折率neffが0次モードでは3.4015、1次モードでは3.2919となる。占有面積率FFが10%の場合、20%の場合、30%の場合のいずれにおいても、等価屈折率neffは1次モードの方が0次モードの場合よりも小さく、回折格子層Dの厚みが増加するにしたがって、等価屈折率neffは増加していることが分かる。
【0200】
図54は、回折格子層の厚みDと活性層3Bにおける光閉じ込め係数Γqwとの関係を示すグラフである。図49及び図51に示したように、占有面積率FFが20%であり、厚みD=0.3μmの場合には、活性層3Bにおける光閉じ込め係数Γqwは0次モードでは1.20(%)、1次モードでは2.39(%)である。1次モードにおける光閉じ込め係数Γqwが、0次モードの場合の光閉じ込め係数Γqwよりも大きくなる(条件Aとする)のは、厚みDが所定値以上の場合であり、占有面積率FFが30%以下の場合、少なくとも厚みDが600nmまでは、この大小関係は維持される。条件Aを満たす厚みDの最小値(所定値)と最大値は、図56に示す通りである。
【0201】
図55は、回折格子層の厚みDと光閉じ込め係数Γgとの関係を示すグラフである。図49及び図51に示したように、占有面積率FFが20%であり、厚みD=0.3μmの場合には、回折格子層4における光閉じ込め係数Γgは0次モードでは32.0(%)、1次モードでは37.7(%)である。1次モードにおける光閉じ込め係数Γgが、0次モードの場合の光閉じ込め係数Γgよりも大きくなる(条件Bとする)のは、回折格子層の厚みDが200nm以上の場合であり、図56に示す通りである。
【0202】
図56は、構造(3)において、条件A及び条件Bを満たす回折格子層の厚みDの最小値Min(nm)と最大値Max(nm)を示す図表である。
【0203】
占有面積率FFが10%の場合には、条件Aを満たすためには、厚みDは150nm以上である必要があり、600nm以下であればこの条件は満たされる。条件Bを満たすためには、厚みDは200nm以上である必要があり、300nm以下であればこの条件は満たされる。双方の条件は、厚みが200nm以上300nm以下の場合に満たされる。
【0204】
占有面積率FFが20%の場合には、条件Aを満たすためには、厚みDは150nm以上である必要があり、600nm以下であればこの条件は満たされる。条件Bを満たすためには、厚みDは200nm以上である必要があり、600nm以下であればこの条件は満たされる。双方の条件は、厚みが200nm以上600nm以下の場合に満たされる。
【0205】
占有面積率FFが30%の場合には、条件Aを満たすためには、厚みDは180nm以上である必要があり、600nm以下であればこの条件は満たされる。条件Bを満たすためには、厚みDは200nm以上である必要があり、600nm以下であればこの条件は満たされる。双方の条件は、厚みが200nm以上600nm以下の場合に満たされる。
【0206】
占有面積率FFが40%の場合には、条件Aを満たすためには、厚みDは210nm以上である必要があり、450nm以下であればこの条件は満たされる。条件Bを満たすためには、厚みDは210nm以上である必要があり、600nm以下であればこの条件は満たされる。双方の条件は、厚みが210nm以上450nm以下の場合に満たされる。
【0207】
占有面積率FFが10%〜40%の場合、厚みDが210nm以上450nm以下である場合には、条件A及び条件Bは常に満たされることになる。
【0208】
図57は、回折格子層の厚みDと光閉じ込め係数Γdopeとの関係を示すグラフである。図49及び図51に示したように、占有面積率FFが20%であり、厚みD=0.3μmの場合には、ドープ層3Fにおける光閉じ込め係数Γdopeは0次モードでは8.2(%)、1次モードでは0.2(%)である。1次モードにおける光閉じ込め係数Γdopeが、0次モードの場合の光閉じ込め係数Γdopeよりも小さくなる(条件Cとする)のは、少なくとも厚みDが150nm以上600nm以下である
【0209】
図58は、上述の構造(1)、(2)、(3)において、2次モードが生じず1次モードが生じるコア層Aの厚みdの最小値Min(nm)と最大値Max(nm)を示す図表である。構造(1)においては、573(nm)以上1047(nm)未満において、1次モードが生じ、構造(2)においては、428(nm)以上800(nm)未満において、1次モードが生じ、構造(3)においては、541(nm)以上992(nm)未満において、1次モードが生じる。
【0210】
このような関係を半導体レーザ素子における発振波長λとの関係で考えると、コア層Aの厚みdは、構造(1)においては、0.585×λ≦d<1.068×λの関係を満たし、構造(2)においては、0.535×λ≦d<1×λの関係を満たし、構造(3)においては、0.552×λ≦d<1.012×λの関係を満たしている。すなわち、いずれの構造においても、0.585×λ≦d<1×λの関係を満たしており、この場合には、コア層A内において1次モードを選択的に発生させることが可能となる。
【0211】
なお、上述の構造(1)〜(3)において、占有面積率FFを大きく増加させると、0次モードのΓqwの方が、高次1次モードのΓqwよりも、大きくなるという逆転現象が生じる。また、占有面積率FFを更に増加させ、80%以上となる場合には、1次高次モードがコア層内に閉じ込められなくなる。これは、回折格子層の屈折率が低くなるため、光閉じ込め効果が弱くなるためである。したがって、いずれの構造(1)〜(3)においても、占有面積率FF<80%とすることが望ましい。
【0212】
構造(1)においては、占有面積率FFが40%以上で、上記逆転現象が生じる。したがって、占有面積率FF<40%とすることが望ましい。
【0213】
構造(2)においても、占有面積率FFが40%以上で、上記逆転現象が生じる。したがって、占有面積率FF<40%とすることが望ましい。
【0214】
構造(3)においては、占有面積率FFが50%以上で、上記逆転現象が生じる。したがって、占有面積率FF<50%とすることが望ましい。
【0215】
なお、回折格子層における異屈折率部の形状は、円形や矩形など任意の形状を選択することも出来る。また、上述の原理は、2次元DFB(分布帰還型)の面発光素子に限定されず、同様の構造を有する端面発光素子にも適用が可能となる。また、回折格子層4を1次元構造とすれば、1次元DFB構造に適用することができ、回折格子層4のパターンと上部電極構造を図21のように長くすることで、通常の端面出射型の1次元DFBレーザ素子に適用することも可能となる。もちろん、上部電極の形状は任意のアスペクト比を取り、上部電極は端面に接さなくても良い。なお、端面出射型構造では各種の端面処理を行うことができる。
【0216】
以上、説明したように、叙述の半導体レーザ素子においては、以下のような利点があることが判明した。
【0217】
(1)モード選択性
基本0次モードと1次モードの等価屈折率差が大きいため、それぞれのモードの形成するバンド端波長の差を20nm以上大きくすることができる。このため、利得スペクトルのピーク波長を1次モードのバンド端波長に合わせこむことで、1次モードのみ発振させることができる。他方、2次以上のモードでは、1次モードとの等価屈折率差が小さくなり、利得スペクトルのピーク波長の相対位置を利用してモードを選択することが困難となる。
(2)低閾値、高効率、モード安定化
1次モードでは一般的に電界強度が空間的に2つの位置にピークを有するが、そのピーク位置に回折格子層と活性層を配置することで、回折格子層および活性層の光閉じ込め係数を大きくすることができ、結果的に、低閾値、高効率かつモード安定したフォトニック結晶面発光レーザ素子(PCSEL)を実現することができる。
(3)キャリアブロック層への高濃度ドーピング
キャリア閉じ込めおよび電気伝導の観点からは、ガイド層内部のキャリアブロック層へ高濃度のドーピングを行うことが望ましい。しかしながら、0次モードではキャリアブロック層の光閉じ込め係数を小さくすることが困難なため、光吸収が大きくなってしまう。一方、1次モードでは、キャリアブロック層に電界強度の節が位置するよう設計でき、低損失かつ優れたキャリア閉じ込めの高出力化に適した構造を実現できる。
(4)加工損傷の影響を抑制
回折格子層をドライエッチングにより加工する場合、回折格子の底部から数十nm程度の領域に加工による損傷領域が形成される。損傷領域では格子欠陥、不純物準位等が形成されるため、光吸収の原因となり得る。回折格子層の底部付近は、0次モードでは電界強度を小さくすることが困難となるが、1次モードでは電界強度の節を位置させることが出来、損傷領域の光吸収の影響を抑えることができる。また、1次モードでは基本0次モードに比べ、電界分布が広がるため、活性層を損傷領域から離して配置することが出来、活性層への直接的な加工損傷の影響を抑えることができる。
(5)ビームパターン
通常の1次元端面出射型DFBレーザで本構造を適用する場合、1次モードでは空間的に電界強度ピークが2つとなるため、端面出射の場合、出射ビームのX軸方向の遠視野像(Far Field Pattern:FFP)は2ピークとなるが、このようなビームであっても、加工用途など高出力レーザ用の固体励起用光源などの用途では、低閾値、高効率かつ電気特性に優れた本構造の利点が活かすことができる。また、2次の回折を利用した面垂直方向出射のレーザ素子では、原理的には均一なビームを得ることができる。
【0218】
以上の観点から、1つの偏波モードにおける電界の固有モードが基本0次モードと1次の高次モードの2つであり、1次モードの電界強度の節Aが回折格子層と量子井戸層の間にあるPCSEL構造では、従来の構造に対し、低閾値、高効率かつモード安定したPCSEL構造を実現することができる。また、各半導体層の組成や膜厚のみを変更するだけで、低閾値、高効率かつモード安定したPCSEL構造を容易に作製することができる。
【0219】
以上、説明したように、上述の半導体レーザ素子10は、半導体レーザ素子において、半導体からなる下部クラッド層Bと、半導体からなる上部クラッド層Cと、下部クラッド層Bと上部クラッド層Cとにより挟まれ、積層された複数の半導体層からなり、下部クラッド層B及び上部クラッド層Cのいずれよりも平均屈折率が高いコア層Aと、を備え、コア層Aは、量子井戸層からなる活性層3Bと、回折格子層4と、を含み、動作時におけるコア層A内の厚み方向の電界強度分布Eyが、少なくとも2つのピークを有しており、ピーク間の谷の位置は、活性層3Bと回折格子層4との間の領域内に設定されている。
【0220】
この場合、電界強度分布はコア層A内にあるものの、その谷の位置は、活性層3B及び回折格子層4のいずれの位置でもないため、レーザ光発生利得の低下を抑制しつつ、これら2つの層におけるレーザ光生成作用を十分に機能させることができ、高効率にレーザ光を発生させることができる。
【0221】
また、前記ピークの位置が、それぞれ活性層3B内及び回折格子層4内に設定される場合には、これらの位置における電界強度を大きくすることができ、高強度のレーザ光を発生することが可能となる。
【0222】
また、コア層A内において、前記2つのピークを与えるTE偏波の1次モードにおける活性層3B内の光閉じ込め係数Γqw(1)と、0次モードにおける活性層3B内の光閉じ込め係数Γqw(0)とは、関係式Γqw(1)>Γqw(0)を満たす。電界強度の2つのピーク位置を、上記の如くそれぞれ活性層3B内及び回折格子層4内に設定することで、光閉じ込め係数を大きくすることができる。この場合、これらの位置における電界強度を大きくすることができ、高強度のレーザ光を発生することが可能となり、0次モードを主として用いた場合よりも、高強度のレーザ光を得ることが可能となる。なお、ΓはX軸方向に沿って、電界E(x)を−無限大から+無限大まで積分したものを分母とし、電界E(x)を特定の区間x1〜x2で積分したものを分子とした値である(図59の式(7)参照)。
【0223】
また、コア層Aは、活性層3Bと上部クラッド層Cとの間に、上部クラッド層Cと同一導電型の不純物が添加され、その不純物濃度が1×1017/cm以上のドープ層3Fを更に備え、ドープ層の一部又は全部は、上記2つのピーク間の谷の位置の近傍に設定される。なお、「近傍」とは、谷の位置から±50nm以内の領域を意味するものとする。ドープ層3Fを備えることにより、そのフェルミ準位が変化して障壁を構成し、下部クラッド層から流入するキャリアが上部クラッド層方向へ流れるのを抑制することができ、活性層3B内のキャリア濃度を高めることができる。
【0224】
また、不純物濃度が高い場合には、光やキャリアの有するエネルギーが吸収され損失が生じる。1次モードの場合の2つのピークの谷の位置は、0次モードのピーク位置に相当する。したがって、ドープ層3Fを備えることで、0次モードにおけるピーク位置において、光損失を生ぜしめ、0次モードの発生を抑制して1次モードによる発光を安定させ、1次モードを更に有効に利用することができる。
【0225】
また、回折格子層4は、III−V族化合物半導体からなり、III族元素は、Ga、Al及びInからなる群から選択され、V族元素は、As、P、N及びSbからなる群から選択され、これらの元素からなる化合物半導体は、直接遷移型の半導体とすることができるため、キャリア再結合により、容易に発光させることができる。
【0226】
面垂直方向への出射の場合、非特許文献2に示されるように、回折格子の深さは深さ方向の消失性干渉の影響により、垂直方向の放射係数が小さくなる深さが存在する。本願でも、垂直方向の放射係数が小さくならないように、回折格子層厚を選ぶことが望ましい。なお、端面方向の出射では、上記効果は影響しない。
【0227】
また、回折格子層4の1つの異屈折率部4Bの形状は、エピ層厚に沿うX軸方向に対し、均一な形状でなくてもよく、またX軸方向に対し、傾斜していても良い。
【符号の説明】
【0228】
A…コア層、B,C…クラッド層、3B…活性層、3F…ドープ層、4…回折格子層。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体レーザ素子において、
半導体からなる下部クラッド層と、
半導体からなる上部クラッド層と、
前記下部クラッド層と前記上部クラッド層とにより挟まれ、積層された複数の半導体層からなり、前記下部クラッド層及び上部クラッド層のいずれよりも平均屈折率が高いコア層と、
を備え、
前記コア層は、
量子井戸層からなる活性層と、
回折格子層と、
を含み、
動作時における前記コア層内の厚み方向の電界強度分布が、少なくとも2つのピークを有しており、
前記ピーク間の谷の位置は、前記活性層と前記回折格子層との間の領域内に設定されている、
ことを特徴とする半導体レーザ素子。
【請求項2】
前記ピークの位置は、それぞれ前記活性層内及び前記回折格子層内に設定される、
ことを特徴とする請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記コア層内において、前記2つのピークを与えるTE偏波の1次モードにおける前記活性層内の光閉じ込め係数Γqw(1)と、0次モードにおける前記活性層内の光閉じ込め係数Γqw(0)とは、関係式Γqw(1)>Γqw(0)を満たす、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体レーザ素子。
【請求項4】
前記コア層は、前記活性層と前記上部クラッド層との間に、前記上部クラッド層と同一導電型の不純物が添加され、その不純物濃度が1×1017/cm以上のドープ層を更に備え、
前記ドープ層の一部又は全部は、前記2つのピーク間の谷の位置の近傍に設定される、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項5】
前記回折格子層は、III−V族化合物半導体からなり、
III族元素は、Ga、Al及びInからなる群から選択され、
V族元素は、As、P、N及びSbからなる群から選択される、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【図57】
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【図58】
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【図59】
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【図60】
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【図25】
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【公開番号】特開2013−77756(P2013−77756A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217732(P2011−217732)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】