説明

半導体レーザ装置およびその製造方法

【課題】半導体レーザ素子を覆うようにして設けられるキャップがステムに対して圧入によって接合される構成を有する半導体レーザ装置において、圧入に伴う不都合を解消することが可能な半導体レーザ装置、およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】板状のベース11を有するステムと、ステム1に支持され、レーザ光を出射する半導体レーザ素子2と、筒状の胴部51、この胴部51の一端側に形成され、開口52aを有する天板52、および胴部51の他端側に形成された開口端部53を有し、半導体レーザ素子2を覆うように開口端部53がベース11に圧入によって接合されるキャップ5と、開口52aを塞ぐように取り付けられ、半導体レーザ素子2からの上記レーザ光を透過させて外部に出射させるガラス板8と、を備えた半導体レーザ装置A1であって、ガラス板8は、天板52に対して、上記レーザ光の出射方向側に取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばCD(Compact Disc)、MD(Mini Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)などの読み取り用光源、あるいは、CD−R/RW(Compact Disc Recordable / Rewritable)やDVD−R/RW(Digital Versatile Disc Recordable / Rewritable)などの書き込み光源に用いられる半導体レーザ装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の半導体レーザ装置の一例としては、図11に示すものがある(たとえば特許文献1参照)。同図に示された半導体レーザ装置Xは、ベース91Aおよびブロック91Bからなるステム91と、ブロック91B上に搭載された半導体レーザ素子92および受光素子93を備えており、図中上方に向けてレーザ光を出射するものである。ベース91Aは、大略円形板状とされている。ベース91Aには、2つの孔91Aaが形成されており、これらの孔91Aaを貫通するようにリード94A,94Bが設けられている。リード94Aは、ワイヤを介して半導体レーザ素子92に導通しており、リード94Bは、受光素子93に導通している。リード94Cは、ベース91Aの図中下面に接合されており、いわゆるコモン端子となっている。ブロック91Bおよびリード94A,94Bの図中上部を覆うように、筒状のキャップ95が設けられている。キャップ95の上部には開口95aが形成されており、この開口95aを塞ぐガラス板96(光透過部材)がたとえば接着剤98を介して取り付けられている。ガラス板96は、半導体レーザ素子92から出射されるレーザ光に対して透光性を有する。また、キャップ95の図中下端には外向フランジ95bが設けられており、この外向フランジ95bの全周においてベース91Aと抵抗溶接により接合されている。さらに、ベース91Aの孔91Aaは、リード94A,94B以外の部分に低融点ガラス97が充填されている。これらにより、半導体レーザ素子92からのレーザ光を図中上方に向けて出射可能であるとともに、ベース91Aとキャップ95とにより区画された空間は、この半導体レーザ装置X外の空間に対して気密されている。このような構成によれば、この半導体レーザ装置Xが湿度の高い環境において使用されても、半導体レーザ素子92の周囲における湿度が高くなることを防止することが可能であり、半導体レーザ素子92を保護するのに適している。
【0003】
上記構成の半導体レーザ装置Xは、ピックアップ装置に装備される際には、一般に、ベース91A上面のうち外向フランジ95bよりも外側に位置する部分91Abが基準面とされ、当該部分91Abをピックアップ装置の所定箇所に当て付けた状態で固定される。そして、ノート型パソコンなどにおいては、半導体レーザ装置Xは、ピックアップ装置内でレーザ光の出射方向が横向きとなるように配置される。
【0004】
図12は、半導体レーザ装置Xがピックアップ装置に装備された状態の一例を示す概略構成図である。ピックアップ装置Yは、たとえば、ケース101の適所に、半導体レーザ装置X、ビームスプリッタ102、コリメータレンズ103、反射ミラー104、対物レンズ105、さらには、図示しない回折格子等の光学部品が配置された構成とされている。半導体レーザ装置Xは、ベース91Aにおける基準面(部分91Ab)が図中縦方向に沿う姿勢でケース101に当て付けられている。ケース101に固定された半導体レーザ装置Xからレーザ光が横方向に出射されると、当該レーザ光は、ビームスプリッタ102、コリメータレンズ103、反射ミラー104、対物レンズ105等を介して、DVDやCDなどの光ディスク106の表面に焦点を結ぶように照射される。光ディスク106からの反射光は、対物レンズ105、反射ミラー104、コリメータレンズ103、ビームスプリッタ102、図示しない集光レンズ等を介して集光され、図示しない光検出器によって検出される。
【0005】
近年、ノート型パソコンなどの電子機器の小型・薄型化にともない、ピックアップ装置Yについても薄型化の要請が強い。ピックアップ装置Yに装備される半導体レーザ装置Xは、横向きに配置されることから、ピックアップ装置Yの薄型化を図るためには、その外径(ベース91Aの外径)の小さいものが要求される。上記構成の半導体レーザ装置Xでは、キャップ95が外向フランジ95bを有しており、また、基準面(部分91Ab)を確保するためベース91Aの外径は外向フランジ95bの外径よりも大とされていることから、ベース91Aの外径を小さくするのは困難である。
【0006】
これに対し、特許文献1においては、キャップの下端(開口端部)をステムに対して圧入する構成についても開示されている(同文献の図9参照)。キャップをステムに圧入する構成によれば、図11を参照して上述した半導体レーザ装置Xと比べて、キャップを溶接するスペースとしての外向フランジ95bを必要としないので、その分ステムの外径を小さくすることができ、半導体レーザ装置の小型化を図ることができる。
【0007】
しかしながら、キャップをステムに圧入する構成の場合には、あらかじめガラス板が取り付けられたキャップに対し、ステム側に向けて所定の荷重を掛ける必要がある。そうすると、この圧入の際に、キャップないしガラス板の接着部に応力が作用し、当該応力に起因してガラス板がキャップから脱落する虞があった。また、半導体レーザ装置の小型化を図るべく、たとえばキャップの外径や厚さなどの各所の寸法を小さくすると、上記したキャップないしガラス板の接着部への応力が増加する傾向にある。その結果、ガラス板が脱落しやすくなり、却って半導体レーザ装置の小型化に対する阻害要因となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−31900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、半導体レーザ素子を覆うようにして設けられるキャップがステムに対して圧入によって接合される構成を有する半導体レーザ装置において、圧入に伴う不都合を解消することが可能な半導体レーザ装置、およびその製造方法を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0011】
本発明の半導体レーザ装置は、板状のベースを有するステムと、このステムに支持され、レーザ光を出射する半導体レーザ素子と、筒状の胴部、この胴部の一端側に形成され、開口を有する板部、および上記胴部の他端側に形成された開口端部を有し、上記半導体レーザ素子を覆うように上記開口端部が上記ベースに圧入によって接合されるキャップと、上記開口を塞ぐように取り付けられ、上記半導体レーザ素子からの上記レーザ光を透過させて外部に出射させる光透過部材と、を備えた半導体レーザ装置であって、上記光透過部材は、上記板部に対して、上記レーザ光の出射方向側に取り付けられている。
【0012】
このような構成によれば、光透過部材は、板部に対するレーザ光の出射方向側、すなわちキャップの外側に設けられている。このため、光透過部材は、キャップをステムに圧入した後において当該キャップに取り付けることができる。したがって、キャップの圧入時に光透過部材が脱落するといった不都合を回避することができる。
【0013】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記ベースにおける上記レーザ光の出射方向側の面には、第1基準面と、この第1基準面よりも上記レーザ光の出射方向側に位置する第2基準面と、上記第1基準面および第2基準面の間に形成された段差部とが設けられており、上記開口端部が上記段差部に圧入されている。この場合において、好ましくは、上記第1面基準面と上記第2基準面との間には、上記第1基準面よりも上記レーザ光の出射方向反対側に窪む環状の凹溝部が形成されており、上記開口端部が上記凹溝部に嵌まっている。このような構成によれば、キャップは、ベースの段差部および凹溝部にわたって圧入されることになる。このため、ベース(ステム)とキャップとの接触面積を大きく確保することができ、シール性を向上させることができる。
【0014】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記光透過部材は、支持リングを介して上記板部に取り付けられている。このような構成によれば、キャップに対して支持リングを機械的に強固に結合することができる。したがって、光透過部材を、支持リングを介してキャップに適切に固定することができる。
【0015】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記支持リングは、上記板部に溶接接合されている。
【0016】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記板部における上記レーザ光の出射方向側の面には、凹部が形成されており、上記支持リングは、上記凹部に圧入されている。
【0017】
本発明の半導体レーザ装置の製造方法は、板状のベースを有するステムを形成する工程と、上記ステムに半導体レーザ素子を搭載する工程と、筒状の胴部、この胴部の一端側に形成され、開口を有する板部、および上記胴部の他端側に形成された開口端部を有するキャップを、上記半導体レーザ素子を覆うように上記開口端部を上記ベースに圧入する工程と、上記キャップの外側から上記開口を塞ぐように上記板部に対して光透過部材を取り付ける工程と、を有する。このような製造方法によれば、キャップの圧入後に光透過部材を取り付けるため、キャップの圧入時に光透過部材が脱落するといった不都合が生じることはない。
【0018】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記光透過部材を取り付ける工程は、上記光透過部材が固定された支持リングを上記板部に被せ、上記板部と上記支持リングとを溶接することにより行う。
【0019】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記光透過部材を取り付ける工程は、上記光透過部材が固定された支持リングを、上記板部に形成された凹部に圧入することにより行う。
【0020】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る半導体レーザ装置の一例の全体斜視図である。
【図2】図1のII−II線に沿う断面図である。
【図3】本発明に係る半導体レーザ装置の製造方法の一例における一部の工程を説明する断面図である。
【図4】本発明に係る半導体レーザ装置の製造方法の一例における一部の工程を説明する断面図である。
【図5】本発明に係る半導体レーザ装置の製造方法の一例における一部の工程を説明する断面図である。
【図6】本発明に係る半導体レーザ装置の製造方法の一例における一部の工程を説明する断面図である。
【図7】本発明に係る半導体レーザ装置の製造方法の一例における一部の工程を説明する断面図である。
【図8】本発明に係る半導体レーザ装置の他の例の図2と同様の断面図である。
【図9】本発明に係る半導体レーザ装置の他の例の図2と同様の断面図である。
【図10】本発明に係る半導体レーザ装置の他の例の製造方法における一部の工程を説明する断面図である。
【図11】従来の半導体レーザ装置の一例の断面図である。
【図12】図11に示す半導体レーザ装置がピックアップ装置に装備された状態の一例の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。なお、説明の便宜上、図1を基準として上下の方向を特定することにする。
【0023】
図1および図2は、本発明に係る半導体レーザ装置の一例を示している。図1に示すように、本実施形態の半導体レーザ装置A1は、ステム1、半導体レーザ素子2、受光素子3、リード4A,4B,4C、キャップ5、およびガラス板8を備えており、上方に向けてレーザ光を出射可能である。
【0024】
ステム1は、ベース11とブロック12とを有している。本実施形態においては、ステム1は、ベース11とブロック12とが一体的に成形された構造とされており、たとえばFeまたはFe合金からなる。図1に表れているように、ベース11は、大略円形板状である。ブロック12は、直方体形状であり、ベース11の上方において、ベース11の中心からその半径方向外方にシフトした位置に配置されている。
【0025】
図2によく表れているように、ベース11の上面(レーザ光の出射方向側の面)には、第1基準面11aと、この第1基準面11aよりも上位に位置する第2基準面11bと、これら基準面11a,11bの間に形成された段差部11cとが設けられている。また、第1基準面11aと第2基準面11bとの間には、第1基準面11aよりもベース11下面側(レーザ光の出射方向反対側)に窪む環状の凹溝部11dが形成されている。図2から理解されるように、凹溝部11dは段差部11cにつながるように設けられている。凹溝部11dには、後述するキャップ5の開口端部53が嵌まっている。ベース11の寸法の一例を挙げると、最大外径部分の直径が3.3mm程度、段差部11cの外径が2.3mm程度、とされている。
【0026】
ブロック12の側面には、サブマウント13を介して半導体レーザ素子2が搭載されている。半導体レーザ素子2は、レーザ光を出射するものであり、たとえば250μm角から250μm×800μm角程度とされる。サブマウント13は、たとえばシリコン基板またはAIN(アルミナイトライド)からなり、通常0.8mm×1.0mm角程度とされる。本実施形態においては、半導体レーザ素子2として、たとえば青色や青紫色などのレーザ光を出射するものが用いられ、かかる半導体レーザ素子2は、光化学反応を起こし易いので、外部環境と区画された気密雰囲気に配置する必要がある。
【0027】
ベース11の上面(第2基準面11b)には、ピンフォトダイオードなどの受光素子3が設けられている。受光素子3は、受けた光の光度に応じた大きさの信号を出力するものである。半導体レーザ素子2から出射される光のうち、下方へと向かう光が受光素子3により受光されると、この光の大きさをあらわす信号が出力される。この信号の大きさから、半導体レーザ素子2への指令値としての光度と実際の光度とを比較することにより、半導体レーザ素子2をいわゆるフィードバック制御することが可能である。
【0028】
リード4A,4Bは、それぞれ半導体レーザ素子2および受光素子3に電源供給するために用いられる。図2に示すように、リード4A,4Bは、ベース11に形成された孔11eを貫通しており、ベース11から上下方向に突出している。リード4A,4Bは、たとえばFe−Ni合金からなりAuメッキが施されている。このAuメッキは、後述するワイヤボンディングを施した後に、ワイヤを適切に接合させておくためのものである。リード4A,4Bは、たとえば低融点ガラスなどの接着剤6を介してベース11に固着されている。この接着剤6により、リード4A,4Bは、ベース11と機械的に接合されているとともに、電気的に絶縁されている。また、接着剤6により、ベース11の孔11eは封止されている。
【0029】
一方、ベース11の下面には、リード4Cが設けられている。リード4Cは、たとえばFe−Ni合金からなり、上端部4Caにおいてベース11に対してたとえばろう付けにより接合されている。これにより、リード4Cは、ベース11と電気的に導通している。
【0030】
図1に示すように、半導体レーザ素子2は、その表面がワイヤ7によりサブマウント13上の図示しない配線パターンを介してリード4Aの上端部4Aaと導通している。また、半導体レーザ素子2の裏面は、サブマウント13を介してブロック12に導通しており、ブロック12は、ベース11を介してリード4Cと導通している。これらにより、半導体レーザ素子2は、リード4Aとリード4Cとに導通しており、これらを利用して発光駆動される。一方、受光素子3は、図2に示すように、その上面がワイヤ7によりリード4Bの上端部4Baと接続されているとともに、その下面がベース11を介してリード4Cに導通している。これらにより、受光素子3からの信号が検出可能となっている。このように、リード4Cは、いわゆるコモンリードとして用いられる。リード4A,4B,4Cの下端部は、それぞれ端子部4Ab,4Bb,4Cbとされており、この半導体レーザ装置A1を電子機器などに電気的および機械的に接続するために用いられる部分となっている。
【0031】
図1および図2に示すように、キャップ5は、円筒状の胴部51と、この胴部51の上端につながる天板52と、胴部51の下端に形成された開口端部53とを備え、たとえばコバール(登録商標)などのFe−Ni−Co合金からなる。キャップ5は、ブロック12およびこれに支持された半導体レーザ素子2を覆うようにベース11に圧入されている。
【0032】
天板52には、開口52aが形成されており、この開口52aを塞ぐようにして天板52の上面側(レーザ光の出射方向側)にガラス板8が取り付けられている。ガラス板8は、半導体レーザ素子2から出射されるレーザ光に対して透光性を有しており、半導体レーザ素子2から上方へと出射されたレーザ光を透過させて半導体レーザ装置A1の外部に出射させるものである。ガラス板8は、本発明でいう光透過部材に相当するものである。
【0033】
本実施形態では、ガラス板8は、支持リング81を介して天板52に取り付けられている。具体的には、支持リング81は、その外径がガラス板8の直径より大とされた薄板材であり、たとえばコバール(登録商標)などのFe−Ni−Co合金からなる。ガラス板8は、その外周寄りの部分が支持リング81に重なっており、低融点ガラスなどの接着剤9によって支持リング81に固定されている。支持リング81は、たとえば抵抗溶接によって全周にわたって天板52上面に固着されている。これにより、天板52の開口52aは、ガラス板8、接着剤9、および支持リング81によって封止されている。
【0034】
図2によく表れているように、キャップ5の開口端部53は、ベース11の段差部11cに圧入されることによって、凹溝部11dに嵌まっており、先端が凹溝部11dの底面に当接している。これにより、ベース11とキャップ5の間は封止されている。本実施形態においては、たとえばキャップ5の胴部51および開口端部53の内周面にはたとえばAgSn合金メッキなどのSn系のメッキ(図示せず)が施されており、このメッキが圧入によって摺り潰された状態となっている。
【0035】
キャップ5の寸法の一例を挙げると、高さ(ベース11の第1基準面11aから天板52上面までの距離)が2〜2.5mm程度である。胴部51ないし開口端部53の内径は、ベース11の段差部11cの外径よりも僅かに小さい寸法とされ、たとえば2.29mm程度である。胴部51ないし開口端部53の厚さは0.15mm程度である。
【0036】
上記構成により、半導体レーザ装置A1においては、半導体レーザ素子2からのレーザ光をガラス板8を通じて上方に向けて出射可能であるとともに、ベース11とキャップ5とにより区画された空間は、この半導体レーザ装置A1の外部空間に対して気密されている。このような構成によれば、半導体レーザ装置A1が湿度の高い環境において使用されても、半導体レーザ素子2の周囲における湿度が高くなることを防止することが可能であり、半導体レーザ素子2を保護するのに適している。なお、半導体レーザ素子2の劣化を防止するために、ベース11とキャップ5とにより区画された気密空間には、必要に応じて、たとえば窒素ガスなどの不活性ガスやドライエアが封入される。
【0037】
次に、半導体レーザ装置A1の製造方法の一例について、図3〜図7を参照しつつ、以下に説明する。
【0038】
まず、図3に示すように、ステム1を形成する。ステム1の形成は、Fe材料またはFe合金材料を準備し、これらの材料に冷間鍛造を施すことにより行う。この冷間鍛造により、ベース11とブロック12とが一体的に成形される。また、ベース11には、段差部11c、凹溝部11d、および2つの孔11eが同時に形成される。なお、ステム1の形成は、冷間鍛造によることが寸法精度や製造効率といった点において好ましいが、これに限定されず、冷間鍛造と同程度の寸法精度で形成可能な方法を採用してもよい。
【0039】
次に、図4に示すように、ベース11の下面にリード4Cを接合する。リード4Cの接合は、たとえばろう付けにより行う。これにより、リード4Cとベース11とを導通させることができる。なお、リード4Cの接合は、ベース11と導通させることが可能な方法であれば、ろう付け以外の方法であってもよい。次いで、リード4A,4Bを孔11eにそれぞれ挿入する。リード4A,4Bを孔11eに挿入させた状態でこれらを保持するために、孔11e内に低融点ガラスペーストを充填する。上記低融点ガラスペーストは、たとえば低融点ガラス粉末に樹脂や溶剤を混合したものである。上記低融点ガラスペーストの充填は、リード4A,4Bの挿入前に行ってもよいし、これらを孔11eに挿入した後に行ってもよい。リード4A,4Bを挿入した後は、上記低融点ガラスペーストを焼成して、これが固化して接着剤6となる。これにより、リード4A,4Bは、ベース11に対して固着されるとともに、接着剤6によって電気的に絶縁される。
【0040】
リード4A,4Bをステム1に固着した後は、サブマウント13、半導体レーザ素子2および受光素子3の搭載、ワイヤボンディングによるワイヤ7の接続などの工程を経て、図5に示すように、キャップ5を取り付ける前の状態となる。
【0041】
次に、図6に示すように、キャップ5をステム1に圧入する。ここで、キャップ5の圧入に先立ち、胴部51および開口端部53の内周面の所定箇所には、たとえば無電解メッキ法により図示しないメッキが施されている。キャップ5の圧入は、たとえば、支持台10A上にステム1を載置し、ガイド体10Bによりキャップ5の横方向の移動を規制してキャップ5とステム1との芯合わせをしながら、平板状の加圧体10Cをキャップ5の天板52の上面全体に当接させてステム1側に荷重を掛けることによって行う。そうすると、キャップ5の開口端部53がベース11の段差部11cに圧入されながら下降していく。そして、開口端部53の先端が凹溝部11dの底面に当接した時点で加圧体10Cによる荷重押圧を止める。なお、キャップ5を圧入する際には、キャップ5の天板52には、ガラス板8および支持リング81が取り付けられていない。
【0042】
次に、図7に示すように、キャップ5の外側から開口52aを塞ぐようにして、天板52にガラス板8を取り付ける。この取り付け作業は、ガラス板8が固定された支持リング81を天板52に被せ、天板52と支持リング81とを抵抗溶接することによって行う。ここで、支持リング81の下面外周寄りには、環状の突起81aがあらかじめ形成されている。溶接作業に際し、たとえば、下電極10Dと上電極10Eとの間にステム1ないしキャップ5、および支持リング81を配置し、下電極10Dおよび上電極10Eによってステム1および支持リング81を挟んで押圧する。このとき、下電極10Dは、ベース11の下面に当接しており、上電極10Eは、支持リング81の外周部に当接している。
【0043】
溶接作業においては、たとえば電極10D,10Eへ通電しながら支持リング81を押圧する。そうすると、支持リング81の突起81aに電流が集中して溶融し、支持リング81が天板52に接合される。なお、支持リング81の突起81aに代えて、天板52の上面に環状の突起を設けてもよい。上記した一連の作業工程により、図1および図2に示す半導体レーザ装置A1を製造することができる。
【0044】
次に、半導体レーザ装置A1の作用について説明する。
【0045】
本実施形態の半導体レーザ装置A1においては、キャップ5がステム1に対して圧入によって接合される構成とされている。すなわち、キャップを溶接接合する場合において設けられていた外向フランジを必要としないので、その分ステム1(ベース11)の外径を小さくすることができ、半導体レーザ装置A1の小型化を図ることができる。
【0046】
その一方、半導体レーザ装置A1の小型化を図るべく、キャップ5の外径や厚さなどの各所の寸法を小さくすると、キャップ5に作用する応力が増加する傾向にある。これに対し、本実施形態では、ガラス板8は、キャップ5の外側に設けられており、キャップ5をステム1に圧入した後に取り付けられる。このため、キャップ5の圧入時にガラス板8が脱落するといった不都合を回避することができる。なお、ガラス板8の取り付けについては、キャップ5の外側に取り付けるほうがキャップ5の内側に取り付けるよりも容易であり、キャップ5へのガラス板8の取り付け作業そのものを簡素化することも期待できる。
【0047】
また、ガラス板8は、支持リング81を介してキャップ5の天板52に取り付けられており、支持リング81は、天板52に溶接接合されている。これにより、キャップ5に対して支持リング81を機械的に強固に結合することができる。したがって、ガラス板8を、支持リング81を介してキャップ5に適切に固定することができる。
【0048】
キャップ5の開口端部53は、ベース11の段差部11cに圧入されることにより、段差部11cにつながる凹溝部11dに嵌まっている。したがって、キャップ5の胴部51ないし開口端部53は、ベース11の段差部11cおよび凹溝部11dの長い寸法にわたって圧入されることになる。このため、ベース11(ステム1)とキャップ5との接触面積を大きく確保することができ、圧入によるシール性を向上させることができる。さらに、ベース11とキャップ5との間には、圧入によって摺り潰されたメッキが介在している。このことは、ベース11とキャップ5の間のシール性を向上させるうえで好適である。
【0049】
図8および図9は、本発明に係る半導体レーザ装置の他の例を示している。なお、これらの図面においては、上記実施形態と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付しており、適宜説明を省略する。
【0050】
図8に示された半導体レーザ装置A2においては、ステム1におけるベース11に凹溝部11dが設けられていない点、およびガラス板8が支持リング81を介さずにキャップ5の天板52に取り付けられている点において、上記実施形態の半導体レーザ装置A1と異なる。ガラス板8は、たとえばAuSn合金を含むメタライジング層9’によって天板52に固着されている。半導体レーザ装置A2は、上記した半導体レーザ装置A1の製造方法とほぼ同様の方法によって製造することができる。ただし、ガラス板8をキャップ5に取り付ける工程は、たとえばAuSn合金ペーストを天板52上面に塗布し、その上にガラス板8を載せて焼成することにより行う。
【0051】
図9に示された半導体レーザ装置A3は、ガラス板8の取り付け構造が上記実施形態の半導体レーザ装置A1と異なっている。具体的には、半導体レーザ装置A3において、ガラス板8は支持リング81を介してキャップ5の天板52に取り付けられているが、支持リング81は圧入によって天板52に固着されている。天板52の上面(レーザ光の出射方向側の面)には、外周部に鍔が設けられることによって凹部52bが形成されており、この凹部52bに支持リング81が圧入されている。半導体レーザ装置A3は、上記した半導体レーザ装置A1の製造方法とほぼ同様の方法によって製造することができる。ただし、支持リング81を天板52の凹部52bに取り付ける際には、図10に示すように、天板52の凹部52bに対する支持リング81の圧入は、たとえば、支持台10A上にステム1を載置し、加圧体10Fを支持リング81の外周部に当接させてステム1側に荷重を掛けることによって行う。このような製造方法によれば、ステム1に対するキャップ5の取り付け、およびキャップ5に対するガラス板8の取り付けのいずれもが圧入によって行われるので、これら取り付け作業の簡素化が期待できる。
【0052】
本発明に係る半導体レーザ装置は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る半導体レーザ装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【0053】
ステム1は、上記実施形態のようなFeまたはFe合金からなる構成に代えて、たとえばCuまたはCu合金を含む構成としてもよい。半導体レーザ素子2での発熱による温度上昇を抑制するべく、放熱性について考慮すると、ステム1の構成材料としてCuまたはCu合金を用いるのが好ましい。同様に、ステム1は、放熱性を考慮すると、ベース11とブロック12とを一体的に形成した構造とすることが好ましいが、これに限定されず、一体的に形成された構造でなくてもよい。ベース11とブロック12とを別々に形成する場合、たとえばベース11をFe系とするとともにブロック12をCuまたはCu合金とし、ブロック12をベース11に対してろう付けにより接合する。
【0054】
受光素子3を有する構成は、たとえばフィードバック制御による半導体レーザ素子2の安定的な発光に有利であるが、本発明はこれに限定されず、別の手法により半導体レーザ素子2の出力制御を実現することなどにより、受光素子3を備えない構成としてもよい。
【0055】
本発明に係る半導体レーザ装置は、CD、MD、DVDなどの読み取り用光源、あるいは、CD−R/RWやDVD−R/RWなどの書き込み用光源などに用いられるのに適しているが、これに限定されず広く電子機器などに搭載されるレーザ光の発光源として用いることができる。
【符号の説明】
【0056】
A1,A2,A3 半導体レーザ装置
1 ステム
2 半導体レーザ素子
3 受光素子
4A,4B,4C リード
5 キャップ
6 樹脂
7 ワイヤ
8 ガラス板(光透過部材)
9 接着剤
10A 下電極(第1の電極)
10B 上電極(第2の電極)
11 ベース
11a 第1基準面
11b 第2基準面
11c 段差部
11d 凹溝部
11e 孔
12 ブロック
13 サブマウント
51 胴部
52 天板(板部)
52a 開口
52b 凹部
53 開口端部
81 支持リング
81a 突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状のベースを有するステムと、
このステムに支持され、レーザ光を出射する半導体レーザ素子と、
筒状の胴部、この胴部の一端側に形成され、開口を有する板部、および上記胴部の他端側に形成された開口端部を有し、上記半導体レーザ素子を覆うように上記開口端部が上記ベースに圧入によって接合されるキャップと、
上記開口を塞ぐように取り付けられ、上記半導体レーザ素子からの上記レーザ光を透過させて外部に出射させる光透過部材と、を備えた半導体レーザ装置であって、
上記光透過部材は、上記板部に対して、上記レーザ光の出射方向側に取り付けられていることを特徴とする、半導体レーザ装置。
【請求項2】
上記ベースにおける上記レーザ光の出射方向側の面には、第1基準面と、この第1基準面よりも上記レーザ光の出射方向側に位置する第2基準面と、上記第1基準面および第2基準面の間に形成された段差部とが設けられており、
上記開口端部が上記段差部に圧入されている、請求項1に記載の半導体レーザ装置。
【請求項3】
上記第1面基準面と上記第2基準面との間には、上記第1基準面よりも上記レーザ光の出射方向反対側に窪む環状の凹溝部が形成されており、
上記開口端部が上記凹溝部に嵌まっている、請求項2に記載の半導体レーザ装置。
【請求項4】
上記光透過部材は、支持リングを介して上記板部に取り付けられている、請求項1ないし3のいずれかに記載の半導体レーザ装置。
【請求項5】
上記支持リングは、上記板部に溶接接合されている、請求項4に記載の半導体レーザ装置。
【請求項6】
上記板部における上記レーザ光の出射方向側の面には、凹部が形成されており、
上記支持リングは、上記凹部に圧入されている、請求項4に記載の半導体レーザ装置。
【請求項7】
板状のベースを有するステムを形成する工程と、
上記ステムに半導体レーザ素子を搭載する工程と、
筒状の胴部、この胴部の一端側に形成され、開口を有する板部、および上記胴部の他端側に形成された開口端部を有するキャップを、上記半導体レーザ素子を覆うように上記開口端部を上記ベースに圧入する工程と、
上記キャップの外側から上記開口を塞ぐように上記板部に対して光透過部材を取り付ける工程と、を有することを特徴とする、半導体レーザ装置の製造方法。
【請求項8】
上記光透過部材を取り付ける工程は、上記光透過部材が固定された支持リングを上記板部に被せ、上記板部と上記支持リングとを溶接することにより行う、請求項7に記載の半導体レーザ装置の製造方法。
【請求項9】
上記光透過部材を取り付ける工程は、上記光透過部材が固定された支持リングを、上記板部に形成された凹部に圧入することにより行う、請求項7に記載の半導体レーザ装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−183002(P2010−183002A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27349(P2009−27349)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】