説明

半導体光素子およびその製造方法

【課題】 電流ブロック層に及ぶ光の損失を低減し、発光効率または増幅効率を従来よりも向上させることが可能な半導体光素子およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 内部ストライプ構造を有する半導体光素子100であって、半導体基板11、第1のクラッド層12、活性層13、第2のクラッド層14、エッチング阻止層15、電流ブロック層16、埋め込みクラッド層17、コンタクト層18、第1の電極19および第2の電極20を備え、電流ブロック層16が、活性層13寄りの光を吸収しない非吸収ブロック層16a、基板表面寄りの光を吸収する吸収ブロック層16b、および、エッチング制御層16cからなり、非吸収ブロック層16aが、開口部を占める埋め込みクラッド層17よりも低い屈折率の材料からなり、吸収ブロック層16bよりも活性層13側に位置する構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体を用いた半導体光素子およびその製造方法に関し、特に半導体レーザ、半導体光増幅器、外部共振器型半導体レーザ等の半導体光素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内部ストライプ構造を有する半導体レーザは、単一モードで発光し、ノイズに強いこと、望ましいビーム形状を得られることなどから注目されている(例えば、特許文献1参照。)。図4は、内部ストライプ構造を有する半導体レーザの活性層に垂直な面についての断面構造の典型例を示す図である。図4に示す半導体レーザ400は、半導体基板41に、n−クラッド層42、活性層43、第1のp−クラッド層44、電流ブロック層46、第2のp−クラッド層47、およびキャップ層48が積層された構成を有する。
【0003】
ここで、第1のp−クラッド層44と電流ブロック層46との間には、電流ブロック層46のエッチング用のエッチング阻止層45が設けられている。また、キャップ層48上にはp電極49が設けられ、半導体基板41の裏面にはn電極50が設けられている。ここで、電流ブロック層46は、n型の導電性を有し、電流ブロック層46と第2のp−クラッド層47とがなすp−n接合によって、電子が所定の領域に限定されて注入される。
【0004】
ここで、電流ブロック層46は、また、活性層43内で発光した光のうち、発光領域の周辺部分の光を吸収してマルチモードの発生を防止することができるようになっている。例えば、活性層43がAl0.15Ga0.85Asを用いて形成され、p−クラッド層44、47がAl0.45Ga0.55Asを用いて形成されるとき、電流ブロック層46はGaAsを用いて形成される。そして、高出力の半導体レーザを作成する場合は、電流ブロック層46による損失を低減すべく第1のp−クラッド層44を厚くすると共に電流ブロック層46の開口を広げることが行われていた。
【特許文献1】特開昭60−66894号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような従来の内部ストライプ構造を有する半導体レーザでは、高次モードで導波する光を電流ブロック層46を用いて効果的に吸収し取り除くことができるため、基本横モードでの発振が安定して得られやすい。しかし、その一方で、このような従来の内部ストライプ構造を有する半導体レーザは、基本横モード動作における光吸収の影響も大きく、第1のp−クラッド層44を越えて電流ブロック層46に及ぶ光の成分がレーザ発振状態で長距離にわたる損失を受けて、半導体レーザの発光効率を低下させてしまうという問題があった。また、吸収の影響を少なくするため、クラッド層44を厚くして活性層43から電流ブロック層46を遠ざけようとすると、電流の横方向への広がりが大きくなってしまい、実質的な活性領域の幅が広くなり、横モードが不安定になりやすいという問題があった。
【0006】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、電流の拡がりを大きくすることなく電流ブロック層に及ぶ光の損失を低減し、発光効率または増幅効率を従来よりも向上させることが可能で、かつ、横方向の有効屈折率差により活性層で放出した光を閉じ込め、安定した横基本モードでの発光または増幅が可能な半導体光素子およびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の点を考慮して、請求項1に係る発明は、少なくとも、活性層と、前記活性層の両側に位置する複数のクラッド層と、前記活性層より表面側に位置し、電流が前記活性層に注入される領域を限定するための開口部を有する電流ブロック層とを備え、前記開口部がストライプ状の構造をなす内部ストライプ構造を有する半導体光素子であって、前記電流ブロック層が、前記活性層で放出された光を吸収する吸収ブロック層、および、前記活性層で放出された光を吸収しない非吸収ブロック層を含む複数の層を有し、前記非吸収ブロック層が、前記開口部を占めるクラッド層よりも低い屈折率の材料からなり、前記吸収ブロック層よりも前記活性層側に位置する構成を有している。
【0008】
この構成により、光を吸収しない非吸収ブロック層が、横方向への電流の広がりを抑えると共に、活性層で放出された光を閉じ込め、光を吸収する吸収ブロック層を非吸収ブロック層よりも活性層から離すことができるため、マルチモードの発生を抑え、電流ブロック層に及ぶ光の損失を低減し、発光効率または増幅効率を従来よりも向上させることが可能な半導体光素子を実現することができる。
【0009】
また、請求項2に係る発明は、請求項1において、前記吸収ブロック層の開口部が、前記ストライプ状の構造の長手方向に対して垂直かつ前記活性層に平行な方向に、前記非吸収ブロック層の開口部よりも広がっている構成を有している。
【0010】
この構成により、請求項1の効果に加え、電流ブロック層を構成する、光を吸収する吸収ブロック層の開口部を非吸収ブロック層の開口部より広げ、横基本モードでの光分布が充分低下した領域で、高次モードの光が効果的に吸収されるようにしたため、発光効率または増幅効率をより向上させることが可能な半導体光素子を実現することができる。
【0011】
また、請求項3に係る発明は、少なくとも、活性層および前記活性層の両側に位置する複数のクラッド層を堆積する発光伝播層堆積工程と、前記発光伝播層堆積工程で堆積した層上に電流ブロック層を堆積する電流ブロック層堆積工程と、前記電流ブロック層堆積工程で堆積した電流ブロック層をエッチングして開口部を形成する電流ブロック層エッチング工程と、前記電流ブロック層エッチング工程で形成された開口部を有する基板面上に、クラッド層を含む複数の層を堆積する埋め込み層堆積工程とを備え、前記開口部がストライプ状の構造をなす内部ストライプ構造を有する半導体光素子の製造方法であって、前記電流ブロック層堆積工程で、前記電流ブロック層として、前記活性層で放出された光を吸収する吸収ブロック層、および、前記活性層で放出された光を吸収しない非吸収ブロック層を含む複数の層を堆積して形成し、前記非吸収ブロック層が、前記開口部を占めるクラッド層よりも低い屈折率の材料からなり、前記吸収ブロック層よりも前記活性層側に位置するように堆積される構成を有している。
【0012】
この構成により、光を吸収しない非吸収ブロック層が、横方向への電流の広がりを抑えると共に、活性層で放出された光を閉じ込め、光を吸収する吸収ブロック層を非吸収ブロック層よりも活性層から離すことができるため、マルチモードの発生を抑え、電流ブロック層に及ぶ光の損失を低減し、発光効率または増幅効率を従来よりも向上させることが可能な半導体光素子の製造方法を実現することができる。
【0013】
また、請求項4に係る発明は、請求項3において、前記電流ブロック層エッチング工程で、前記吸収ブロック層の開口部が、前記ストライプ状の構造の長手方向に対して垂直かつ前記活性層に平行な方向に、前記非吸収ブロック層の開口部よりも広くなるように前記電流ブロック層の開口部を形成する構成を有している。
【0014】
この構成により、請求項3の効果に加え、電流ブロック層エッチング工程で、電流ブロック層を構成する、光を吸収する吸収ブロック層の開口部を非吸収ブロック層の開口部より広げ、横基本モードでの光分布が充分低下した領域で、高次モードの光が効果的に吸収されるようにしたため、発光効率または増幅効率をより向上させることが可能な半導体光素子の製造方法を実現することができる。
【0015】
また、請求項5に係る発明は、請求項3または請求項4において、前記電流ブロック層堆積工程で、前記吸収ブロック層と前記非吸収ブロック層との間に、前記吸収ブロック層および前記非吸収ブロック層よりもエッチング速度の低いエッチング制御層を含む1以上の層を形成する構成を有している。
【0016】
この構成により、請求項3または請求項4の効果に加え、電流ブロック層堆積工程で、吸収ブロック層と非吸収ブロック層との間にエッチング制御層を形成するため、開口形状の広がりの制御等を容易にすることが可能な半導体光素子の製造方法を実現することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、光を吸収しない非吸収ブロック層が活性層で放出された光を閉じ込め、光を吸収する吸収ブロック層を非吸収ブロック層よりも活性層から離すことができるため、マルチモードの発生を抑え、電流ブロック層に及ぶ光の損失を低減し、発光効率または増幅効率を従来よりも向上させることが可能であると共に、電流ブロック層を構成する、光を吸収する吸収ブロック層の開口部を非吸収ブロック層の開口部より広げ、横基本モードでの光分布が充分低下した領域で、高次モードの光が効果的に吸収されるようにしたため、発光効率または増幅効率をより向上させることが可能な半導体光素子を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、本発明の半導体光素子を半導体レーザに適用した例にとり、図面を用いて説明する。
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態に係る半導体光素子の構成の一例を示す図である。図1において、半導体光素子100は、半導体基板11、第1のクラッド層12、活性層13、第2のクラッド層14、エッチング阻止層15、電流ブロック層16、埋め込みクラッド層17、コンタクト層18、第1の電極19および第2の電極20を備え、内部ストライプ構造を有する。
【0019】
半導体基板11は、半導体光素子100が対象とする波長および堆積する半導体層12〜18に応じて決定され、例えば1μm以下の波長に対しては、入手の容易性、物性が明らかになっていること等の観点から、GaAs基板が好適である。ただし、半導体基板11は、GaAs基板に限られず、InP基板等のその他のIII−V族化合物半導体基板、その他の所定の基板でもよい。以下、半導体光素子100が対象とする波長は750〜850nm程度とし、半導体基板11はn−GaAs基板からなるものとして説明を行う。
【0020】
第1のクラッド層12は、半導体光素子100が対象とする波長および求められる屈折率等に応じて材料が決定され、n−AlxaGa(1−xa)As等のIII−V族化合物半導体が一般に用いられる。AlxaGa(1−xa)Asは、GaAsと格子定数の差が小さいため格子不整合に伴う欠陥の問題を回避できて好適である。n型の不純物としては、例えば、Siが好適である。以下、第1のクラッド層12は、不純物濃度が略1×1018cm-3、層厚が略2μmのn−Al0.4Ga0.6Asからなるものとする。
【0021】
活性層13は、例えば、ダブルへテロのpn接合を有する構造、量子井戸構造、多重量子井戸構造等のうちのいずれかの構造を有する層とすることができる。ここで、活性層13の形成に用いる材料は、発振波長に応じて決定される。具体的には、活性層13は、750〜850nm程度の波長帯用に対して、例えば、井戸層がアンドープのGaAsを用いて形成され、障壁層がアンドープのAl0.3Ga0.7Asを用いて形成される多重量子井戸構造の層とするのでもよい。
【0022】
第2のクラッド層14は、第1のクラッド層12と同様に、半導体光素子100が対象とする波長および求められる屈折率等に応じて材料が決定され、p−AlxaGa(1−xa)As等のIII−V族化合物半導体が一般に材料として用いられる。p型の不純物としては、例えば、Znが好適である。以下、第2のクラッド層14は、不純物濃度が略1×1018cm-3、層厚が略0.2μmのp−Al0.4Ga0.6Asからなるものとする。
【0023】
電流ブロック層16は、異なるIII−V族化合物半導体を用いて形成される複数の層からなる。ここで、電流ブロック層16を構成する層のうち、異なる材料からなる層は、少なくとも2層有るものとする。図1には、電流ブロック層16が、活性層13寄りの光を吸収しない非吸収ブロック層16aと、基板表面寄りの光を吸収する吸収ブロック層16bと、非吸収ブロック層16aと吸収ブロック層16bとの間に設けられたエッチング制御層16cとによって構成される例が示されている。以下、電流ブロック層16は、非吸収ブロック層16aと、吸収ブロック層16bと、エッチング制御層16cとによって構成されるものとする。
【0024】
本発明の実施の形態では、非吸収ブロック層16aをn−Al0.5Ga0.5Asを用いて形成し、吸収ブロック層16bは、n−GaAsを用いて形成する。n型の不純物としては、例えば、Siが好適である。非吸収ブロック層16aと吸収ブロック層16bの厚さは、共に、略0.3μmとする。非吸収ブロック層16aには、開口部を占める埋め込みクラッド層17よりも屈折率が低く、活性層活性層13で放出された光を閉じ込めることができる材料を用いて形成する。具体的には、非吸収ブロック層16aと埋め込みクラッド層17とをいずれもAlGaAsを用いて形成するとき、非吸収ブロック層16a中のAlの組成を埋め込みクラッド層17中のAlの組成より高くする。
【0025】
また、非吸収ブロック層16aの開口部と吸収ブロック層16bの開口部とが、相互に異なる形状をなすのでもよい。具体的には、図1に示すように、吸収ブロック層16bの開口が非吸収ブロック層16aの開口より広くなっているのでもよい。このようにすることによって、非吸収ブロック層16aを経由して電流が活性層13に注入されるため、電流が注入される領域(以下、電流注入領域という。)を広げることなく、光が吸収される領域(吸収ブロック層16b)を従来の構造の半導体光素子よりも電流注入領域および第2のクラッド層14から離すことができる。これによって、横基本モードでの光分布が充分低下した領域で、吸収ブロック層16bによって高次モードの光が効果的に吸収されるため、横基本モードを安定させたままで、発光効率を向上させることができる。
【0026】
エッチング制御層16cは、所定のエッチング液に対して非吸収ブロック層16aおよび吸収ブロック層16bよりもエッチング速度が低い層である。GaAsおよびAl0.5Ga0.5Asに対するエッチング制御層16cとしては、例えばInxcGa(1−xc)Asyc(1−yc)を用いることができる。以下、エッチング制御層16cとして、膜厚が略30nmのn−In0.2Ga0.8As0.60.4を用いるものとする。エッチング制御層16cを設けることによって、非吸収ブロック層16aの開口の広さと吸収ブロック層16bの開口の広さとを容易に変えることができる。
【0027】
エッチング阻止層15は、電流ブロック層16に開口部を形成する際に第2のクラッド層14をエッチングしないようにするために設けられた層であり、エッチング阻止層15として、例えばInxdGa(1−xd)Pを用いることができる。以下、エッチング阻止層15として、膜厚が略20nmのp−In0.49Ga0.51Pを用いるものとする。エッチング阻止層15を設けることによって、エッチング阻止層15の面出しおよび電流ブロック層16の開口の広さを容易に所望の広さにすることができる。
【0028】
埋め込みクラッド層17は、第2のクラッド層14と同様に、p−Al0.4Ga0.6Asからなるものとして説明を行う。ここで、不純物濃度は略1×1018cm-3、層厚は略2μmである。コンタクト層18は、p−GaAsからなり、不純物濃度は略1×1019cm-3、層厚は略1μmである。なお、第1の電極19を形成する前に、例えばSiO等の絶縁性の保護膜を設け、窓開けした後に電極を形成してもよい。
【0029】
以下、本発明の実施の形態に係る半導体光素子100の製造方法について図面を用いて説明する。図2および図3は、本発明の実施の形態に係る半導体光素子100の製造方法について説明するための図である。
【0030】
まず、MOVPE(MetalOrganic Vapor Phase Epitaxy)技術を用いて、図2(a)に示すように、半導体基板11上に、第1のクラッド層12、活性層13、第2のクラッド層14、エッチング阻止層15および電流ブロック層16をこの順に堆積する。以下、半導体基板11上に、第1のクラッド層12、活性層13および第2のクラッド層14を堆積する工程を発光伝播層堆積工程といい、第2のクラッド層14上にエッチング阻止層15および電流ブロック層16を堆積する工程を電流ブロック層堆積工程という。
【0031】
次に、図2(b)に示すように、電流ブロック層堆積工程で堆積した電流ブロック層16上に、SiOからなるマスク層21を0.2μm堆積する。次に、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用いて、図2(c)に示すように、<011>方向(図面に垂直な方向)に平行な方向に開口部の長手方向が位置するようにマスク層21をエッチングして開口部を形成する。ここで、上記の開口部の幅は、例えば2〜5μmである。
【0032】
次に、開口部を形成したマスク層21をマスクとし、酒石酸と過酸化水素水との混合溶液(以下、酒石酸加水溶液という。)を用いて、電流ブロック層16をエッチングする。以下に、電流ブロック層16がエッチングされていく様子について説明する。まず、GaAsからなる吸収ブロック層16bが酒石酸加水溶液によって等方的にエッチングされ、やがてエッチングがIn0.2Ga0.8As0.60.4からなるエッチング制御層16cに達する。ここで、酒石酸加水溶液として、In0.2Ga0.8As0.60.4に対するエッチング速度がGaAsに対するエッチング速度の10分の1程度の選択性の高いものを用いることができる。以下では、電流ブロック層16のエッチングに、エッチング制御層16c(In0.2Ga0.8As0.60.4)に対するエッチング速度が吸収ブロック層16b(GaAs)および非吸収ブロック層16a(Al0.5Ga0.5As)に対するエッチング速度の10分の1程度の選択性の高い酒石酸加水溶液を用いるものとする。
【0033】
このように、In0.2Ga0.8As0.60.4に対する酒石酸加水溶液のエッチング速度がGaAsに対するエッチング速度より10倍程度低いため、図2(d)に示すように、エッチング制御層16cがエッチングされて除去される前にマスク層21下の吸収ブロック層16bをサイドエッチングすることができる。その結果、サイドエッチングの量を0.3μmにすることができる。
【0034】
エッチングをさらに進めると、Al0.5Ga0.5Asは、酒石酸加水溶液に対して等方的にエッチングされ、かつGaAsよりも2割前後低いエッチング速度でエッチングされるため、GaAsからなる吸収ブロック層16bのサイドエッチングがさらに進むと共に、In0.2Ga0.8As0.60.4からなるエッチング制御層16cをマスクとして、図3(a)に示すように、非吸収ブロック層16aがエッチングされる。ここで、サイドエッチングの量は、エッチング制御層16cの膜厚を調整することによって、適切に制御することができる。上記のように電流ブロック層16をエッチングした後、SiOからなるマスク層21を除去する。以下、上記のマスク層21を形成する工程から、マスク層21を除去する工程までの工程を、電流ブロック層エッチング工程という。また、上記のようにエッチング速度が吸収ブロック層16bおよび非吸収ブロック層16aより遅いエッチング制御層16cを導入することによって、エッチング液を変えることなく電流ブロック層エッチング工程を終えることができる。
【0035】
電流ブロック層エッチング工程でマスク層21を除去した後、MOVPE法によって、図3(g)に示すように、p−Al0.4Ga0.6Asからなる埋め込みクラッド層17およびp−GaAsからなるコンタクト層18を、この順番に堆積する(埋め込み層堆積工程)。
【0036】
埋め込み層堆積工程でコンタクト層18まで堆積した後、その表面に第1の電極19としてp電極を形成し、半導体基板11の裏面に第2の電極20として、n電極を形成する。なお、必要に応じて半導体層12〜18を堆積した基板面上をSiO等の絶縁膜で覆い、フォトリソグラフィ技術を用いて電流注入領域を窓開けした後に第1の電極19を形成するのでもよく、第2の電極20を形成する前に半導体基板11を研磨して薄くするのでもよい。
【0037】
以下、本発明の実施の形態に係る半導体光素子100の動作について説明する。第1の電極(p電極)から電流ブロック層16を経由して注入されたホールは第2の電極(n電極)から注入された電子と活性層13内で結合して発光し、これによって生じた光が端面間を往復することによってレーザ発振が生ずる。このとき、活性層13付近を伝播する光は、埋め込みクラッド層17よりも低い屈折率で形成された非吸収ブロック層16aにより横方向の有効屈折率差を感じることで、横基本モードで安定して導波される。また、高次モードについては基本モードに比べて、ストライプ中央部から離れた部分までの電界分布を持つことから、吸収ブロック層16bによって、高次のモードでより効果的に吸収され、横モードのマルチモードの発生が抑えられる。このとき、横基本モードで伝播する光の大部分は、吸収ブロック層16bによる吸収を受けないため、損失が大幅に低減される。その結果、レーザ光が高い発光効率で半導体光素子の端面から図面に垂直な方向に出射される。
【0038】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係る半導体光素子は、光を吸収しない非吸収ブロック層が、横方向への電流の広がりを抑えると共に、活性層で放出された光を閉じ込め、光を吸収する吸収ブロック層を非吸収ブロック層よりも活性層から離すことができるため、マルチモードの発生を抑え、電流ブロック層に及ぶ光の損失を低減し、発光効率または増幅効率を従来よりも向上させることができる。
【0039】
また、電流ブロック層を構成する、光を吸収する吸収ブロック層の開口部を非吸収ブロック層の開口部より広げ、横基本モードでの光分布が充分低下した領域で、高次モードの光が効果的に吸収されるようにしたため、発光効率または増幅効率をより向上させることができる。
【0040】
また、本発明の実施の形態に係る半導体光素子の製造方法は、光を吸収しない非吸収ブロック層が、横方向への電流の広がりを抑えると共に、活性層で放出された光を閉じ込め、光を吸収する吸収ブロック層を非吸収ブロック層よりも活性層から離すことができるため、マルチモードの発生を抑え、電流ブロック層に及ぶ光の損失を低減し、発光効率または増幅効率を従来よりも向上させることができる。
【0041】
また、電流ブロック層エッチング工程で、電流ブロック層を構成する、光を吸収する吸収ブロック層の開口部を非吸収ブロック層の開口部より広げ、横基本モードでの光分布が充分低下した領域で、高次モードの光が効果的に吸収されるようにしたため、発光効率または増幅効率をより向上させることができる。
【0042】
また、電流ブロック層堆積工程で、吸収ブロック層と非吸収ブロック層との間にエッチング制御層を形成するため、開口形状の広がりの制御等を容易にすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係る半導体光素子およびその製造方法は、電流ブロック層に及ぶ光の損失を低減し、発光効率または増幅効率を従来よりも向上させることができるという効果を有用し、半導体レーザ、半導体光増幅器、外部共振器型半導体レーザ等の半導体光素子およびその製造方法等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施の形態に係る半導体光素子の構成の一例を示す図
【図2】本発明の実施の形態に係る半導体光素子の製造方法について説明するための図
【図3】本発明の実施の形態に係る半導体光素子の製造方法について説明するための図
【図4】従来の半導体レーザの構成の一例を示す図
【符号の説明】
【0045】
11、41 半導体基板
12 第1のクラッド層
13、43 活性層
14 第2のクラッド層
15、45 エッチング阻止層
16、46 電流ブロック層
16a 非吸収ブロック層
16b 吸収ブロック層
16c エッチング制御層
17 埋め込みクラッド層
18 コンタクト層
19、49 第1の電極
20、50 第2の電極
21 マスク層
42 n−クラッド層
44 第1のp−クラッド層
47 第2のp−クラッド層
48 キャップ層
49 p電極
50 n電極
100 半導体光素子
400 半導体レーザ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、活性層と、前記活性層の両側に位置する複数のクラッド層と、前記活性層より表面側に位置し、電流が前記活性層に注入される領域を限定するための開口部を有する電流ブロック層とを備え、前記開口部がストライプ状の構造をなす内部ストライプ構造を有する半導体光素子であって、
前記電流ブロック層が、前記活性層で放出された光を吸収する吸収ブロック層、および、前記活性層で放出された光を吸収しない非吸収ブロック層を含む複数の層を有し、
前記非吸収ブロック層が、前記開口部を占めるクラッド層よりも低い屈折率の材料からなり、前記吸収ブロック層よりも前記活性層側に位置することを特徴とする半導体光素子。
【請求項2】
前記吸収ブロック層の開口部が、前記ストライプ状の構造の長手方向に対して垂直かつ前記活性層に平行な方向に、前記非吸収ブロック層の開口部よりも広がっていることを特徴とする請求項1に記載の半導体光素子。
【請求項3】
少なくとも、活性層および前記活性層の両側に位置する複数のクラッド層を堆積する発光伝播層堆積工程と、前記発光伝播層堆積工程で堆積した層上に電流ブロック層を堆積する電流ブロック層堆積工程と、前記電流ブロック層堆積工程で堆積した電流ブロック層をエッチングして開口部を形成する電流ブロック層エッチング工程と、前記電流ブロック層エッチング工程で形成された開口部を有する基板面上に、クラッド層を含む複数の層を堆積する埋め込み層堆積工程とを備え、前記開口部がストライプ状の構造をなす内部ストライプ構造を有する半導体光素子の製造方法であって、
前記電流ブロック層堆積工程で、前記電流ブロック層として、前記活性層で放出された光を吸収する吸収ブロック層、および、前記活性層で放出された光を吸収しない非吸収ブロック層を含む複数の層を堆積して形成し、前記非吸収ブロック層が、前記開口部を占めるクラッド層よりも低い屈折率の材料からなり、前記吸収ブロック層よりも前記活性層側に位置するように堆積されることを特徴とする半導体光素子の製造方法。
【請求項4】
前記電流ブロック層エッチング工程で、前記吸収ブロック層の開口部が、前記ストライプ状の構造の長手方向に対して垂直かつ前記活性層に平行な方向に、前記非吸収ブロック層の開口部よりも広くなるように前記電流ブロック層の開口部を形成することを特徴とする請求項3に記載の半導体光素子の製造方法。
【請求項5】
前記電流ブロック層堆積工程で、前記吸収ブロック層と前記非吸収ブロック層との間に、前記吸収ブロック層および前記非吸収ブロック層よりもエッチング速度の低いエッチング制御層を含む1以上の層を形成することを特徴とする請求項3または請求項4に記載の半導体光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−237133(P2006−237133A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−47121(P2005−47121)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】