説明

半導体処理装置用電気ヒータ

この発明による半導体処理装置用電気ヒータは、複数のゾーンから構成されており、これらのゾーンのうち高負荷がかかる少なくとも1つのゾーン(例えば、ボトムゾーン)の発熱体が二珪化モリブデンからなる非金属抵抗発熱体であり、残りのゾーン(例えば、中間ゾーンおよびトップゾーン)の発熱体がライト・ゲージ・オーバーベントからなる金属抵抗発熱体である。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
この発明は、半導体ウェハの酸化、拡散、CVDなどの熱処理を施す装置に好適に用いられる電気ヒータに関する。
従来、半導体ウェハのバッチ式熱処理装置用の電気ヒータとしては、金属抵抗発熱体を用いたもの(特開2001−267261号公報参照)および非金属抵抗発熱体を用いたもの(特許第3307924号公報参照)が知られている。
特開2001−267261号公報記載のものでは、金属素線として、鉄・クロム・アルミ系で線径が1〜3mm程度のライト・ゲージと称されるカンタル(商品名)線や同種の材料が使用されている。また、線径が7〜10mm程度のヘビー・ゲージと称されるカンタル線や同種の材料を用いたヒータも使用されている。これらいずれのカンタル線や同等物を発熱体として使用したヒータの場合には、ヒータ温度が1200℃の時に発熱体温度は最高で1250〜1300℃に達することがあり、発熱体が1200℃よりも高い温度になるとクリープして損傷しやすくなることから、この発熱体を使用する熱処理装置の設定温度は1200℃以下程度に限定されている。そして、ヒータのエンドゾーンの一つ、例えば、縦型炉のボトムゾーンでは、処理物の投入および払出や駆動部があることによる断熱状態の悪さから負荷がかかりやすく、金属抵抗発熱体の変形や断線がより起こりやすいという問題があった。
そこで、特許第3307924号公報に記載の非金属抵抗発熱体を使用することにより、金属抵抗発熱体を使用するヒータに比べてより高い温度での使用を可能とすることが考えられるが、非金属抵抗発熱体は、高価でかつもろくて破損しやすいため、初期コストだけでなく、破損時の修理費用も高くつくという問題があった。
この発明の目的は、上記実情に鑑み、安価でかつ高温でも支障なく使用できる半導体処理装置用電気ヒータを提供することにある。
【発明の開示】
この発明による半導体処理装置用電気ヒータは、複数のゾーンからなる筒状の半導体処理装置用電気ヒータであって、複数のゾーンのうち高負荷がかかる少なくとも1つのゾーンの発熱体が非金属抵抗発熱体であり、残りのゾーンの発熱体が金属抵抗発熱体であることを特徴とするものである。
金属抵抗発熱体の材料としては、金属のうちでは高温に耐える材質であるカンタル線(カンタルA1線、カンタルAPM線など)およびその代替物が好ましく、特に、カンタルAPM線およびその代替物が好ましい。金属抵抗発熱体の形状としては、細線を波形状に曲げ加工したもの(ライト・ゲージ・オーバーベント)や、太線を螺旋コイル状に加工したもの(ヘビー・ゲージ・ヘリカル・コイル)が好ましく、金属抵抗発熱体が軽量でかつ高速で昇降温できるという点から、ライト・ゲージのものがより好ましい。なお、ライト・ゲージのものとヘビー・ゲージのものとの違いは、上述のように、素線重量(省資源性)のほか、省エネルギー性と熱応答性だけであり、ヒータが使用される処理装置の仕様やヒータ電源の仕様等に応じて両者を使い分けることが好ましい。
非金属抵抗発熱体としては、二珪化モリブデン(MoSi)、グラファイト、炭化珪素などのセラミックスのものが好ましく、大気中での劣化が少ないという点から、特に、二珪化モリブデンが好ましい。グラファイトおよび炭化珪素を非金属抵抗発熱体として使用する場合には、真空にした発熱体収納部に発熱体を収納することが好ましい。二珪化モリブデンの最大表面負荷は、鉄・クロム・アルミ系の金属素線であるカンタル線が2〜3.5W/cmであるのに対し、20W/cmであり、二珪化モリブデンを使用することにより、発熱量が最大で金属素線の10倍という強力な加熱力を得ることができる。二珪化モリブデンは、1800℃までの高温域で使用可能であり、しかも、老化現象がないため寿命を気にする必要がないという利点を有している。
ここで、複数のゾーンは、例えば、縦型ヒータにおいて、ボトムゾーン、中間ゾーンおよびトップゾーンから構成され、負荷の大きさが、例えば、ボトムゾーン、トップゾーン、中間ゾーンの順で小さくなっていく場合には、ボトムゾーンが非金属抵抗発熱体によって構成され、中間ゾーンおよびトップゾーンが金属抵抗発熱体によって構成される。この場合に、典型的には、中間ゾーンおよびトップゾーンは、それぞれ独立して制御される。中間ゾーンは、1または複数のゾーンから構成され、ゾーンの総数は、3以上の任意の値とされる。
この発明の半導体処理装置用電気ヒータによると、複数のゾーンのうち高負荷がかかる少なくとも1つのゾーンの発熱体が非金属抵抗発熱体からなるので、高負荷がかかるゾーンにおける過熱による発熱体の破損の恐れがなくなり、高温でも支障なく使用することができ、残りのゾーンの発熱体が金属抵抗発熱体からなるので、コストを安価にすることができ、衝撃による破損の可能性も低減することができる。こうして、すべてのゾーンの発熱体が非金属抵抗発熱体である電気ヒータに比べて、耐熱温度の点では遜色なくしかも安価で取り扱い性に優れた電気ヒータを得ることができる。この電気ヒータは、CMOSプロセスやSOIプロセスなどの高温プロセスに好適に使用される。
通常、高負荷がかかるゾーンは、外部から大量の加熱容量が導入され、あるいは、外部へ大量の熱が逃げていく開口が設けられている片側または両側のエンドゾーンになることが多く、当該ゾーンを非金属抵抗発熱体としておくことにより、半導体処理時の温度制御が行いやすいものとなる。
各ゾーンは、発熱体およびこれを保持する断熱体からなる1または複数のブロックから構成され、ブロック単位での交換が可能とされていることが好ましい。複数のゾーンが、ボトムゾーン、中間ゾーンおよびトップゾーンからなる縦型炉の場合においては、ボトムゾーンは、当該片側のエンドゾーンに該当する。例えば、ボトムゾーンは、1対の半円筒体ブロックが突き合わされることにより形成されていることがあり、中間ゾーンおよびトップゾーンは、1対の半円筒体ブロックが突き合わされることによりこれら両ゾーンが形成されていることがある。ボトムゾーンについては、1つの円筒体ブロックだけにより形成されてもよく、また、中間ゾーンおよびトップゾーンについて、これらが1つの円筒体ブロックからなるようにしてもよい。このようにすると、いずれかの箇所で発熱体が故障した場合に、故障部分を含むブロックだけを交換することが物理的には可能となり、さらに、それが許容される場合には、断熱体を再使用して発熱体のみを交換でき、最小の付加的コストで電気ヒータの修理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、この発明による電気ヒータが使用されている半導体処理装置の一例を示す垂直断面図である。
図2は、この発明による半導体処理装置用電気ヒータのブロック構成の一例を示す斜視図である。
図3は、図2のIII−III線に沿う組み上げ後のヒータの断面図である。
図4は、図2のIV−IV線に沿う組み上げ後のヒータの断面図である。
図5は、この発明による半導体処理装置用電気ヒータの内側から見た展開図である。
図6は、この発明による半導体処理装置用電気ヒータの変形例(分割形態の違い)を示す斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
この発明の実施の形態を、以下図面を参照して説明する。
図1は、この発明による電気ヒータが使用されている半導体処理装置の一例である縦型拡散炉を示しており、縦型拡散炉は、半導体ウェハに熱処理を施すためのプロセスチューブ(1)と、プロセスチューブ(1)の外周に設けられた電気ヒータ(2)と、保温筒(4)に載置されかつ半導体ウェハを多数枚搭載するボート(3)と、保温筒(4)を支持して上下移動し処理時にはプロセスチューブ(1)下端のボート挿入孔を閉鎖するフランジキャップ(5)などから構成されている。
電気ヒータ(2)は、エンドゾーンとしてのボトムゾーン(2a)、2つのゾーンからなる中間ゾーン(2b)(2c)およびトップゾーン(2d)の4つの制御ゾーンに区画されており、非金属抵抗発熱体(12)を備えかつボトムゾーン(2a)を構成している非金属抵抗発熱体使用部(6)と、金属抵抗発熱体(22)を備えかつ残りのゾーン(2つの中間ゾーン(2b)(2c)およびトップゾーン(2d))を構成している金属抵抗発熱体使用部(7)とからなる。
第1の実施形態の電気ヒータ(2)では、図2に示すように、非金属抵抗発熱体使用部(6)は、1対の半円筒体ブロック(6a)(6b)が突き合わされることにより形成され、金属抵抗発熱体使用部(7)は、1対の半円筒体ブロック(7a)(7b)が突き合わされることにより形成されている。
図3および図5に詳しく示すように、電気ヒータ(2)の非金属抵抗発熱体使用部(6)は、セラミックファイバ製の円筒状主断熱体(11)と、主断熱体(11)の内周面に装着されている非金属抵抗発熱体素子(12)と、主断熱体(11)の外周面に、可撓性を有する緩衝用セラミックファイバ製マット(15)を介して被覆されている層状の内断熱材(13)および外断熱材(14)と、外断熱材(14)の外周面に被覆されている金属シェル(16)とを備えている。
非金属抵抗発熱体素子(12)は、二珪化モリブデンよりなり、波形に形成されて、主断熱体(11)の内周面に支持されている。二珪化モリブデンの非金属抵抗発熱体素子(12)は、高温でも大きな表面電力負荷密度で使用できるという利点を有しており、これにより、ボトムゾーン(2a)が他のゾーン(2b)(2c)(2d)に比べて昇温しにくいにもかかわらず、各ゾーン(2a)(2b)(2c)(2d)が短い時間で所定温度に昇温される。
非金属抵抗発熱体使用部(6)の各半円筒体ブロック(6a)(6b)は、ヒータ端子(12a)(12b)を1対ずつ有しており、いずれか一方の半円筒体ブロック(6a)(6b)だけを交換することができるようになされている。
図4および図5に詳しく示すように、電気ヒータ(2)の金属抵抗発熱体使用部(7)は、セラミックファイバ製の円筒状主断熱体(21)と、主断熱体(21)の内周面に装着されている金属抵抗発熱体素子(22)と、主断熱体(21)の外周面に、可撓性を有する緩衝用セラミックファイバ製マット(25)を介して被覆されている層状の内断熱材(23)および外断熱材(24)と、外断熱材(24)の外周面に被覆されている金属シェル(26)とを備えている。金属抵抗発熱体使用部(7)の主断熱体(21)の内周面には、複数の並列状溝(27)が主断熱体(21)の長さ方向にのびかつ周方向に間隔をおいて形成されている。
金属抵抗発熱体素子(22)は、鉄・クロム・アルミ系(Feを主成分として、他に、典型的には、Cr22%、Al5.8%で構成される金属素線(カンタル線)よりなり、線径1〜3mm程度のライト・ゲージと称されるものである。金属抵抗発熱体素子(22)は、波形に形成されており、その振幅は、溝(27)の幅よりも大きくなされている。そして、金属抵抗発熱体素子(22)の幅方向両側部分が溝(27)の両側面より主断熱体(21)内に入ることにより、主断熱体(21)に金属抵抗発熱体素子(22)が一体的に支持されている。
金属抵抗発熱体使用部(7)の各半円筒体ブロック(7a)(7b)は、中間ゾーン(2b)(2c)およびトップゾーン(2d)のそれぞれにヒータ端子(22a)(22b)を1対ずつ有しており、いずれか一方の半円筒体ブロック(7a)(7b)だけを交換することができるようになされている。
上記の電気ヒータ(2)によると、非金属抵抗発熱体使用部(6)と金属抵抗発熱体使用部(7)とは、異なる構成とされていることから、非金属抵抗発熱体使用部(6)の衝撃による破損や金属抵抗発熱体使用部(7)の寿命による断線等の故障が生じた場合には、それぞれ、非金属抵抗発熱体使用部(6)だけまたは金属抵抗発熱体使用部(7)だけを交換することができる。そして、非金属抵抗発熱体使用部(6)および金属抵抗発熱体使用部(7)がそれぞれ1対の半円筒体ブロック(6a)(6b)(7a)(7b)が突き合わされることにより形成されていることから、故障のあった半円筒体ブロック(6a)(6b)(7a)(7b)だけの交換も可能であり、容易かつ安価に修理に対応することができる。
上記の例では、非金属抵抗発熱体使用部(6)および金属抵抗発熱体使用部(7)がそれぞれ1対の半円筒体ブロック(6a)(6b)(7a)(7b)が突き合わされることにより形成されているが、これ以外の種々の分割形態が可能であり、その例を図6に示す。
図6(a)に示す電気ヒータ(2)では、非金属抵抗発熱体使用部(6)および金属抵抗発熱体使用部(7)は、それぞれ1つの円筒体ブロック(6c)(7c)により形成されている。図6(b)に示す電気ヒータ(2)では、非金属抵抗発熱体使用部(6)および金属抵抗発熱体使用部(7)を合わせたものが、1対の半円筒体ブロック(8)(8)が突き合わされることにより形成されている。図6(c)に示す電気ヒータ(2)では、非金属抵抗発熱体使用部(6)が1つの円筒体ブロック(6c)により形成され、金属抵抗発熱体使用部(7)が1対の半円筒体ブロック(7a)(7b)が突き合わされることにより形成されている。図6(d)に示す電気ヒータ(2)では、非金属抵抗発熱体使用部(6)が1対の半円筒体ブロック(6a)(6b)が突き合わされることにより形成され、金属抵抗発熱体使用部(7)が1つの円筒体ブロック(7c)により形成されている。なお、図6において、(a)から(c)まででは、金属抵抗体発熱素子(22)がライト・ゲージ・オーバーベントであるとして図示されており、(d)では、金属抵抗体発熱素子(22)がヘビー・ゲージ・ヘリカル・コイルであるとして図示されている。
上記実施形態では、縦型炉に使用される電気ヒータ(2)として説明したが、上記電気ヒータ(2)は、横型炉に使用できることはもちろんである。また、この発明による電気ヒータ(2)は、両端が開口している場合と、一端が閉鎖されている場合とがあり、その形態は限定されるものではない。さらに、金属抵抗発熱体(22)は、ライト・ゲージの波形のものとして説明したが、ヘビー・ゲージのヘリカル・コイル形のものに対しても本発明が適用しうることは勿論である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のゾーンからなる筒状の半導体処理装置用電気ヒータであって、複数のゾーンのうち高負荷がかかる少なくとも1つのゾーンの発熱体が非金属抵抗発熱体であり、残りのゾーンの発熱体が金属抵抗発熱体であることを特徴とする半導体処理装置用電気ヒータ。
【請求項2】
発熱体が非金属発熱体であるゾーンが少なくとも1つのエンドゾーンである請求項1に記載の半導体処理装置用電気ヒータ。
【請求項3】
金属抵抗発熱体は、ライト・ゲージの素線をオーバーベント形状に加工されたものである請求項1または2に記載の半導体処理装置用電気ヒータ。
【請求項4】
非金属抵抗発熱体は、二珪化モリブデンである請求項1から3までのいずれかに記載の半導体処理装置用電気ヒータ。
【請求項5】
各ゾーンは、発熱体およびこれを保持する断熱体からなる1または複数のブロックから構成され、ブロック単位での交換が可能とされている請求項1から4までのいずれかに記載の半導体処理装置用電気ヒータ。

【国際公開番号】WO2004/049414
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【発行日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−554929(P2004−554929)
【国際出願番号】PCT/JP2002/012253
【国際出願日】平成14年11月25日(2002.11.25)
【出願人】(000167200)光洋サーモシステム株式会社 (180)
【Fターム(参考)】