説明

半導体基板熱処理装置および半導体基板熱処理装置による温度推定方法

【課題】サセプタに対して水平磁束を与える場合であっても積層配置されたサセプタの温度分布制御を可能とし、かつバッチ処理による熱処理を可能とする半導体基板熱処理装置を提供する。
【解決手段】水平配置されたサセプタ18上に載置されたウエハ23を間接加熱する熱処理装置10であって、サセプタ18の外周側に配置され、サセプタ18における被加熱物載置面と平行な方向に交流磁束を形成する誘導加熱コイル26を有し、サセプタ18は、垂直方向に複数段設けられ、誘導加熱コイル26は、前記垂直方向に設けられるサセプタ18に沿って垂直に複数、隣接配置され、垂直方向に隣り合う誘導加熱コイル26間で誘導加熱されるサセプタ18b,18cに中心温度センサ47aと外縁温度センサ47bを設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板熱処理装置に係り、特に大径のウエハ等の基板を処理する場合に、被加熱物の温度制御を行う際に好適な半導体基板熱処理装置および半導体基板熱処理装置による温度推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導加熱を利用して半導体ウエハ等の基板を熱処理する装置としては、特許文献1や特許文献2に開示されているようなものが知られている。特許文献1に開示されている熱処理装置は図8に示すように、バッチ型の熱処理装置であり、多段積みされたウエハ2を石英のプロセスチューブ3に入れ、このプロセスチューブ3の外周にグラファイト等の導電性部材で形成した加熱塔4を配置し、その外周にソレノイド状の誘導加熱コイル5を配置するというものである。このような構成の熱処理装置1によれば、誘導加熱コイル5によって生じた磁束の影響により加熱塔4が加熱され、加熱塔4からの輻射熱によりプロセスチューブ3内に配置されたウエハ2が加熱される。
【0003】
また、特許文献2に開示されている熱処理装置は図9に示すように、枚葉型の熱処理装置であり、同心円状に多分割されたサセプタ7をグラファイト等で形成し、このサセプタ7の上面側にウエハ8を載置、下面側に複数の円環状の誘導加熱コイル9を同心円上に配置しこれら複数の誘導加熱コイル9に対する個別電力制御を可能としたものである。このような構成の熱処理装置6によれば、各誘導加熱コイル9による加熱範囲に位置するサセプタ7と、他のサセプタ7との間の伝熱が抑制されるため、誘導加熱コイル9に対する電力制御によるウエハ8の温度分布制御性が向上する。
【0004】
また、特許文献2においては、ウエハ8を載置するサセプタ7を分割する事で発熱分布を良好に制御する旨記載されているが、特許文献3には、サセプタの断面形状を工夫することで、発熱分布を改善することが開示されている。特許文献3に開示されている熱処理装置は、円環状に形成される誘導加熱コイルの径が小さい内側において発熱量が小さくなる事に注目し、サセプタにおける内側部分の厚みを厚くすることで、外側部分よりも内側部分の方が誘導加熱コイルからの距離が近くなるようにし、発熱量の増大と熱容量の増大を図ったものである。
【0005】
また、特許文献4には、半導体熱処理装置において、サセプタ上に温度センサを設置して平面的に均一な熱処理を施すことが開示されている。しかし、バッチ型の熱処理装置の場合、高精度に温度制御するには、上下方向に複数段の温度センサを設置しての制御が必要になってくる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−71596号公報
【特許文献2】特開2009−87703号公報
【特許文献3】特開2006−100067号公報
【特許文献4】特開2002−334819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記のような構成の熱処理装置ではいずれも、サセプタに対して磁束が垂直に作用することとなる。このため、被加熱物としてのウエハ表面に金属膜等を形成していた場合にはウエハが直接加熱されてしまう場合があり、温度分布制御が乱れることが生じ得る。
【0008】
これに対し、サセプタに対して水平方向の磁束を与えることで加熱を促せば、ウエハの直接加熱を抑制することができるとも考えられるが、この場合には積層配置されたサセプタの温度分布を制御することが困難となる。
【0009】
そこで本発明では、上記問題点を解消し、サセプタに対して水平磁束を与える場合であっても積層配置されたサセプタの温度分布制御を可能とする半導体基板熱処理装置および半導体基板熱処理装置による温度推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明に係る半導体基板熱処理装置は、水平配置されたサセプタ上に載置された被加熱物を前記サセプタを誘導加熱することで間接加熱する半導体基板熱処理装置であって、前記サセプタの外周側に配置され、前記サセプタにおける前記被加熱物載置面と平行な方向に交流磁束を形成する誘導加熱コイルを有し、前記サセプタは、垂直方向に複数段設けられ、前記誘導加熱コイルは、前記垂直方向に設けられる前記サセプタに沿って垂直に複数、隣接配置され、隣り合う前記誘導加熱コイル間で誘導加熱されるサセプタに温度センサを設けたことを特徴とする。
【0011】
また、上記のような特徴を有する半導体基板熱処理装置では、垂直方向に複数段設けられる前記サセプタのうちの最上部と最下部に配置されたサセプタにも前記温度センサを設けるようにすると良い。このような特徴を有することにより、温度データを検出する部位が増えることとなり、積層配置されたサセプタの積層方向における温度分布の推定、およびこの推定に基づく温度分布制御を精度良く行うことが可能となる。
【0012】
また、上記のような特徴を有する半導体基板熱処理装置では、前記温度センサとして、少なくとも隣り合う前記誘導加熱コイル間で誘導加熱される前記サセプタの中心温度を検出する中心温度センサと、前記サセプタの外縁側温度を検出する外縁温度センサとを設けるようにすることが望ましい。このような特徴を有することにより、積層配置されたサセプタにおける半径方向の温度分布も推定することが可能となり、この推定に基づく温度分布制御を精度良く行うことが可能となる。
【0013】
また、上記目的を達成するための本発明に係る半導体基板熱処理装置による温度推定方法は、水平配置され、垂直方向に複数段積層配置されたサセプタと、前記サセプタの外周側に配置され、前記サセプタにおける被加熱物載置面と平行な方向に交流磁束を形成する誘導加熱コイルを有し、前記誘導加熱コイルは、前記垂直方向に積層される前記サセプタに沿って垂直に複数、隣接配置され、隣り合う前記誘導加熱コイル間で誘導加熱されるサセプタに温度センサを設けた半導体基板熱処理装置による温度推定方法であって、前記サセプタに設けた温度センサにより検出した温度と、予め計測した積層配置された前記サセプタの垂直方向の温度分布傾向データとに基づいて、前記温度センサを設けたサセプタの上部側、および/または下部側に位置する前記温度センサを設けていない前記サセプタ又は前記サセプタにより加熱される被加熱物の温度を推定することを特徴とする。
【0014】
また、上記のような特徴を有する半導体基板熱処理装置による温度推定方法では、前記サセプタには、中心温度を検出する中心温度センサと、外縁側温度を検出する外縁温度センサとを設け、前記温度センサを設けたサセプタの上部側、および/または下部側に位置する前記温度センサを設けていない前記サセプタ又は前記サセプタにより加熱される被加熱物における半径方向の面内温度分布を推定することができる。
【発明の効果】
【0015】
上記のような特徴を有する半導体基板熱処理装置によれば、サセプタに対して水平磁束を与える場合であっても積層配置されたサセプタの温度分布制御を可能とすることができる。また、バッチ処理による熱処理における垂直方向温度分布の制御も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の実施形態に係る誘導加熱装置の側面構成を示すブロック図である。
【図2】第1の実施形態に係る誘導加熱装置の平面構成を示すブロック図である。
【図3】実施形態に用いるサセプタの構成を示す図である。
【図4】積層方向に配置されたサセプタの温度分布の例を示す図面である。
【図5】温度制御手段における制御フローを示す図である。
【図6】実施形態に係る誘導加熱装置における磁束の通過経路を示す図である。
【図7】サセプタ内面を通過する磁束と内面に生ずる渦電流の様子を示す図である。
【図8】従来のバッチ式誘導加熱装置の構成を示す図である。
【図9】従来の枚葉式誘導加熱装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の半導体基板熱処理装置および半導体基板熱処理装置による温度推定方法に係る実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。まず、図1を参照して、第1の実施形態に係る半導体基板熱処理装置(以下、単に熱処理装置と称す)の概要構成について説明する。なお、図1は熱処理装置の側面構成を示す部分断面ブロック図であり、図2は熱処理装置の平面構成を示す部分断面ブロック図である。
【0018】
本実施形態に係る熱処理装置10は、被加熱物としてのウエハ23と発熱体としてのサセプタ18を多段に重ねて熱処理を行うバッチ式のものとする。
熱処理装置10は、ウエハ23とサセプタ18を多段に重ねたボート12と、このボート12を収容するチャンバ24、サセプタ18を加熱する誘導加熱コイル群27(27A〜27C)、および誘導加熱コイル群27に電力を供給する電源部40とを基本として構成される。
【0019】
サセプタ18は、導電性部材で構成されれば良く、例えばグラファイト、SiC、SiCコートグラファイト、および耐熱金属等により構成すれば良い。本実施形態におけるサセプタ18は、図3に示すように、平面形状を円形とし(図3(B)参照)、断面形状は下に凸な山形としている(図3(A)参照)。具体的には、サセプタの中央部分と外縁部分とにおいてその厚さを異ならせ、中央部分よりも外縁部分の方が板厚が薄くなるように、ウエハ載置面と反対側の主面に傾斜面を形成している。本実施形態では、反対側主面に設けた傾斜面に段階的な傾斜角度を持たせるようにしている。これにより、詳細を後述する加熱効率と厚みの関係を微調整することが可能となるからである。
【0020】
外縁側に設けられた穴20と、反対側主面の中央部に設けられた穴20aは、ボート12を構成する支持部材14を嵌め込むためのものである。なお、支持部材14は電磁誘導による加熱の影響を受けない石英などで構成すると良い。
【0021】
また、本実施形態におけるボート12は、図示しないモータを備えた回転テーブル16に載置されており、熱処理工程中のサセプタ18及びウエハ23を回転させることができる。このような構成とすることにより、サセプタ18を加熱する際の発熱分布の偏りを抑制することができる。また、詳細を後述するように、加熱源である誘導加熱コイル26(26aA〜26cC)の配置形態をサセプタ18の中心から偏らせた場合であっても、サセプタ18を均一加熱することが可能となる。
【0022】
チャンバ24は、例えばアルミニウム板により構成し、円形や多角形(本実施形態では六角形)の側壁を構成することで、ボート12を内部に収容する。このような構成とすることにより、熱の拡散を防止すると共に詳細を後述するコア28が加熱されることを防止することができるようになる。
【0023】
実施形態に係る誘導加熱コイル群27はそれぞれ、サセプタ18の外周側における円周上に配置された3つの誘導加熱コイル26(26aA〜26cA、または26aB〜26cB、または26aC〜26cC)によって構成される。
【0024】
各誘導加熱コイル26は、ボート12の外周側に配置されたコア28に銅線を巻回されて構成される。実施形態に係る熱処理装置10では、1つのコア28に対して3つの磁極面34(34a〜34c)を形成するように、弓状に形成したコア本体30から、ボート12側に向けて突設された3つの凸部32(32a〜32c)のそれぞれに、誘導加熱コイル26が巻回されている。コア28は、フェライト系セラミックなどにより構成すると良く、粘土状の原料を形状形成した上で焼成して成るようにすれば良い。このような部材により構成すれば、形状形成を自由に行うことが可能となるからである。また、コア28を用いることにより、誘導加熱コイル26単体の場合に比べて磁束の拡散を防止することができ、磁束を集中させた高効率な誘導加熱を実現することができる。
【0025】
誘導加熱コイル26は、コア28に形成された凸部32の外周に巻回される。このため、誘導加熱コイル26の巻回方向の中心軸とウエハ23又はサセプタ18の載置状態における中心軸とは直行する方向を向くこととなり、サセプタ18に対向する凸部32の先端面が磁極面34となる。このような構成から、誘導加熱コイル26が巻回された磁極面34からは、サセプタ18のウエハ載置面に平行な方向に交流磁束が生ずることとなる。各磁極面34はサセプタ18の中心を向くように形成され、当該サセプタ18の中心を基点として180度未満の角度内に配置されるようにすると良く、本実施形態ではそれぞれ60度の間隔をあけて、3つの誘導加熱コイル26aA〜26cA(26bA〜26bC,26cA〜26cC)が120度の範囲に配置されるように構成されている。このような角度関係とすることにより、サセプタ18の中心を通る磁束を発生させつつ、コア28の配置形態の小型化を図ることが可能となる。
【0026】
また、各誘導加熱コイル26は、内部を中空とした管状部材(例えば銅管)とすることが望ましい。熱処理中に銅管内部に冷却部材(例えば冷却水)を挿通させることにより、誘導加熱コイル26自体の加熱を抑制することが可能となるからである。
【0027】
上記のような複数(本実施形態においては3つ)の誘導加熱コイル26によって構成される誘導加熱コイル群27は、垂直方向にサセプタ18とウエハ23を積層させるボート12に沿って垂直方向に複数(本実施形態では3つ)、隣接させて積層配置されている。このような構成とすることにより、1つのチャンバ24内に、より多くのサセプタ18、およびウエハ23を配置することが可能となり、ウエハ23の熱処理を効率的に行うことが可能となるからである。また、積層配置した誘導加熱コイル群27に対する電力制御をそれぞれ個別に行うようにすれば、ボート12内に積層配置された複数のサセプタ18における垂直方向の温度分布を制御することができ、サセプタ18間の温度ばらつきを抑制することも可能となる。
【0028】
上記のように構成される3つの誘導加熱コイル群27は、単一の電源部40に接続される。電源部40には図示しないインバータと図示しない交流電源が設けられ、電源部40には電力制御部42が接続されており、誘導加熱コイル群27に供給する電流や電圧、および周波数等を調整することができるように構成されている。ここでインバータとして共振型のものを採用する場合には、周波数の切り替えを簡易に行うことができるように、各制御周波数に合わせた共振回路を並列接続し、これを電力制御部42からの信号に応じて切り替えることができるように構成することが望ましい。また、インバータとして非共振型のものを採用する場合には、例えばPWM型のインバータを採用することで、電力制御部42からの信号に応じた周波数での運転ができるようになる。このような構成とすることにより、運転中の周波数切り替えを実現することができる。
【0029】
実施形態に係る電力制御部42は、ゾーンコントロール手段44と、温度制御手段46を有する。ゾーンコントロール手段44は、隣接配置された誘導加熱コイル群27間に生ずる相互誘導の影響を回避しつつ、各誘導加熱コイル群27に対する電力制御を行う役割を担う。
【0030】
各誘導加熱コイル群27を構成する複数の誘導加熱コイル26は、その稼動時には1つまたは組み合わせによる2つの誘導加熱コイル26に対して同一周波数、同一電流、同一電圧の電力が投入されるため、その扱いは単一の誘導加熱コイルとみなすことができる。このため、複数の誘導加熱コイル26が隣接配置されていたとしても、稼動時において隣り合う誘導加熱コイル26間においては相互誘導が生ずる事は無く、その影響を考慮する必要は無い。
【0031】
しかし、積層配置される誘導加熱コイル群27は、各々が個別の誘導加熱コイルとして稼動されるため、上下に隣接する誘導加熱コイル26間(例えば誘導加熱コイル26aAと誘導加熱コイル26aB、誘導加熱コイル26aBと誘導加熱コイル26aC等)において相互誘導が生じ、個別の電力制御に悪影響を与える事がある。このためゾーンコントロール手段44は、検出された電流の周波数や波形(電流波形)に基づいて、隣接配置された誘導加熱コイル群27に投入する電流の周波数を一致させ、かつ電流波形の位相を同期(位相差を0または位相差を0に近似させる事)、あるいは所定の位相差を保つように制御することで、隣接配置した誘導加熱コイル群27間における相互誘導の影響を回避した電力制御(ゾーンコントロール制御)を可能としている。
【0032】
このような制御は、各誘導加熱コイル群27を構成する誘導加熱コイル(例えば誘導加熱コイル26aAと誘導加熱コイル26aB、および誘導加熱コイル26aC)に投入されている電流値や電流の周波数、および電圧値等を検出し、これをゾーンコントロール手段44に入力する。ゾーンコントロール手段44では、各誘導加熱コイル群27間の電流波形の位相を検出し、これを同期、あるいは所定の位相差を保つように制御するため、電源部40に対して誘導加熱コイル群27に投入する電流の周波数を瞬時的に変化させる信号を出力することで成される。
【0033】
また、電力制御に関しては、温度制御手段46に接続された温度センサである中心温度センサ47aと、外縁温度センサ47bによって検出された温度に基づきゾーンコントロール手段44が、各誘導加熱コイル群27に投入する電力の割合を定める信号を電源部40に出力することにより成される。
【0034】
中心温度センサ47aと外縁温度センサ47bは、隣接して積層配置された誘導加熱コイル群27間に位置する各サセプタ18b,18cと、ボート12における最上部と最下部に位置する各サセプタ18a,18dに対して設けられる。磁極の狭間に位置する各サセプタ18b,18cや、ボート12の上下端部に位置するサセプタ18a,18dは加熱効率が悪く、他のサセプタ18に比べて温度が低くなる傾向にある。このため、ウエハ23等の被加熱物の急速加熱には不向きとなる。このため、当該部分に位置するサセプタ18a〜18dを温度検出部として有効利用することで、他のサセプタ18(他のサセプタ18により加熱されるウエハ23)の温度分布制御を高精度に行うことが可能となる。
【0035】
ここで、中心温度センサ47aと外縁温度センサ47bは、少なくともその一方を1つのサセプタ18a〜18dに配置することで、積層配置されたサセプタ18の温度分布を推定することが可能となる。また、望ましくは、1つのサセプタ18a〜18dに対して、中心温度センサ47aと外縁温度センサ47bを対として設けると良く、この場合には、積層配置されたサセプタ18における面内温度分布をも推定することが可能となる。
【0036】
積層配置されたサセプタ18の温度分布の推定は、電力制御部42に設けられた図示しない記憶手段(メモリ)に記憶された温度分布傾向データに基づいて成される。温度分布傾向データは、積層配置されたサセプタ18における垂直方向(積層方向)の温度分布を予め計測し、サセプタ18の垂直位置と温度の高低の関係を傾向として表したデータである。
【0037】
温度分布傾向データの一例としては、図4に示すようなものを挙げることができる。図4は、ボート12と、ボート12を構成するサセプタ18における積層方向の温度分布を示すものであり、図4中、(A)で示す温度分布傾向データは、サセプタ18の外縁温度の傾向を示すものである。(A)によれば、磁極の狭間では、やはり温度低下が生じていることを読み取ることができると共に、放熱量の大きくなる上下端部においては、さらに大きな温度低下が生じていることを読み取ることができる。また、図4中(B)で示す温度分布傾向データは、サセプタ18の中心温度の傾向を示すものである。(B)によれば、温度分布の傾向は、(A)と類似しているものの、全体的な温度の高低幅は、外縁部の温度分布よりも少ないことを読み取ることができる。これは、外縁部に比べて中心部では、放熱量が少ないことに起因すると考えられる。
【0038】
電力制御部42では、外縁温度センサ47bや中心温度センサ47aによって検出された温度が信号として入力されると、その値と上述した温度分布傾向データとに基づいて、温度検出位置の上部側、あるいは下部側に積層されたサセプタ18の温度分布を逆算して導き出す(図5:ステップ10)。その後、検出された温度について、予め与えられた目標温度との対比を行い、その偏差を求める(図5:ステップ20)。求められた偏差に基づき、電力の出力割合を定める(図5:ステップ30)。定めた出力割合を示す信号を電源部40に出力する(ステップ40)。なお信号出力後は、再びステップ10に戻り、PID制御を行うようにすれば良い。
【0039】
電源部40では、電力制御部42(ゾーンコントロール手段44を含む)からの信号に基づいて誘導加熱コイル群27に投入する電流の周波数を瞬時的に調整し、電流波形の位相制御を実施すると共に、各誘導加熱コイル群27間における電力制御を実施することで、ボート12内における垂直方向の温度分布を制御することができる。
【0040】
実施形態に係る熱処理装置10では、誘導加熱コイル26aA(26aB、26aC)と誘導加熱コイル26bA,26cA(26bB,26cB、26bC,26cC)はそれぞれ、インバータ(電源部40)に対して電気的に離接可能に接続されている。また、誘導加熱コイル26aA(26aB、26aC)と誘導加熱コイル26bA(26bB,26bC)、および誘導加熱コイル26cA(26cB,26cC)の巻回方向を同一とした場合には、誘導加熱コイル26aA(26aB、26aC)と誘導加熱コイル26bA,26cA(26bB,26cB、26bC,26cC)は、インバータ(電源部40)に対して逆位相の電流が流れるように接続される。このような構成とすることにより、誘導加熱コイル26aA(26aB、26aC)に電流を流すことにより生ずる磁束と誘導加熱コイル26bA,26cA(26bB,26cB、26bC,26cC)に電流を流すことにより生ずる磁束との向きが逆となり、凸部32の先端である磁極面34aと、磁極面34b,34cの極性が逆向きとなる。このため、誘導加熱コイル26aAと誘導加熱コイル26bAの組み合わせ、誘導加熱コイル26aAと誘導加熱コイル26cAの組み合わせといった具合で磁束を生じさせた場合に、組み合わせとなる磁極面34間を通る磁束を生じさせることが可能となる。なお、接続形態を同一として誘導加熱コイル26の巻回方向を逆にすることにより、磁極面34の極性を逆転させ、発生する磁束の向きを定めるようにしても良い。
【0041】
また、磁極面34を構成する凸部32の先端側には、断熱材36を配置し、コア28や誘導加熱コイル26の加熱を抑制するようにすることが望ましい。なお、断熱材36としては、セラミック板などであれば良く、例えば多孔質アルミナにより構成された板部材などが好ましい。
【0042】
ここで、誘導加熱コイル群27とチャンバ24との関係においては、次のようにすると良い。すなわち、誘導加熱コイル群27を構成するコア本体30は、チャンバ24の外側に配置し、誘導加熱コイル26を巻回させ、磁極面34を構成する凸部32はそれぞれ、チャンバ24を構成する側壁に設けられた孔24aからチャンバ24の内部に突出させるようにするのである。このため、上記断熱材36は、図1や図2に示すように、凸部32の先端(磁極面34)に直接固定しても良いが、チャンバ24を構成する側壁を利用して固定しても良い。また、チャンバ24を構成する側壁の加熱を抑制するために、チャンバ24の外部には冷却機構を備えるようにすると良い。このような構成とすることにより、コア本体30はチャンバ24を構成する側壁の外側に配置し、磁極面34はサセプタ18の近傍に配置することが可能となり、加熱効率の向上とコア28の加熱抑制といった2つの効果を奏することができる。
【0043】
このような構成の熱処理装置10によれば、電流を供給する誘導加熱コイル26の切り換え制御を可能とすることより、誘導加熱コイル26aA単体での稼動、誘導加熱コイル26aAと誘導加熱コイル26bAとの組み合わせによる稼動、及び誘導加熱コイル26aAと誘導加熱コイル26cAとの組み合わせによる稼動をそれぞれ実施することができる。各稼動形態において生ずる磁束の通過経路(磁束の発生範囲)は、大まかに示すと図6に示すようなものとなる。
【0044】
すなわち、誘導加熱コイル26aA単体での稼動の場合には、凸部32aを中心とした磁束(矢印A)が発生し、磁束の通過経路は磁極面34aの近傍となり、磁束の発生範囲はサセプタ18の外縁部のみとなる。次に、誘導加熱コイル26aAと誘導加熱コイル26bAとの組み合わせでの稼動の場合には、磁極面34aと磁極面34bとを行き来する矢印Bに示すような磁束が生ずることとなる。このため、磁束の通過経路は誘導加熱コイル26aA単体での稼動の場合よりもサセプタ18の内周側を通るものとなり、磁束の発生範囲も誘導加熱コイル26aA単体での稼動の場合よりも内周側に広がることとなる。さらに、誘導加熱コイル26aAと誘導加熱コイル26cAとの組み合わせでの稼動の場合には、磁極面34aと磁極面34cとを行き来する矢印Cに示すような磁束が生ずることとなる。このため、磁束の通過経路はサセプタ18の略中心を通るものとなり、磁束の発生範囲もサセプタ18の中心付近となる。
【0045】
図7は、サセプタ18のある断面において、誘導加熱コイル26に電流を投入した際(稼動させた際)にサセプタ18を通る磁束の様子を示す図である。また、図7(A)は誘導加熱コイル26に高周波帯域(本実施形態では60kHz)の電流を投入した際の磁束の様子を示し、図7(B)は誘導加熱コイル26に低周波帯域(本実施形態では20kHz)の電流を投入した際の磁束の様子を示す。また、図7において実線で示す範囲は誘導加熱コイル26aAを単体で稼動させた場合の範囲を示し、破線で示す範囲は誘導加熱コイル26aAと誘導加熱コイル26bAの組み合わせで稼動させた場合の範囲を示し、一点鎖線で示す範囲は誘導加熱コイル26aAと誘導加熱コイル26cAの組み合わせで稼動させた場合の範囲を示す。実施形態に係る熱処理装置10では、サセプタ18に対して水平方向から磁束が与えられるため、サセプタ18の断面形状をテーパ型とすることにより、平板型のサセプタよりもサセプタ18の中心付近にまで磁束が届きやすくなるのである。
【0046】
このように本実施形態に係る熱処理装置10では、誘導加熱コイル26に対する投入電流の周波数の高低、電流を投入する誘導加熱コイルの組み合わせを時分割に制御することにより、水平磁束によりサセプタ18を加熱する場合であっても、サセプタ18の加熱範囲を調整し、サセプタ18(ウエハ23)面内の温度分布を任意に制御することが可能となる。
【0047】
また、本実施形態に係る熱処理装置10は、誘導加熱コイル26を任意に組み合わせて電流を投入することで、サセプタ18における加熱範囲を制御可能としたことにより、誘導加熱コイル26の配置範囲角度を小さくすることが可能となった。このため、熱処理装置としての小型化を図ることもできた。
【0048】
また、本実施形態に係る熱処理装置10は、積層配置した誘導加熱コイル群27に生ずる相互誘導の影響を回避し、誘導加熱コイル群27に対して供給する電力を個別に制御することを可能としたことにより、積層配置された複数のサセプタ18間に生ずる温度分布を任意に制御することが可能となる。
【0049】
また、上記のような構成の熱処理装置10によれば、ウエハ23の表面に金属膜等の導電性部材が形成されていた場合であっても、金属膜内では電流の打ち消しが生ずるため、発熱はサセプタ18のみに生じ、ウエハ23の温度分布が乱れる虞が無い。
【0050】
さらに、サセプタ18a〜18dに設けた中心温度センサ47aと外縁温度センサ47bにより他のサセプタ18の温度分布を推定することにより、サセプタ18(ウエハ23)の温度分布制御を高精度に行うことが可能となる。
【0051】
なお、本実施形態では、サセプタ18の断面形状を下に凸な山型とする旨記載した。しかしながら、本実施形態に係る熱処理装置10には、断面形状の厚みを一定としたサセプタを採用することもできる。また、中心温度センサ47a、外縁温度センサ47b等の温度センサとしては、例えば熱電対などであれば良い。
【符号の説明】
【0052】
10………半導体基板熱処理装置(熱処理装置)、12………ボート、14………支持部材、16………回転テーブル、18………サセプタ、20,20a………穴、22………傾斜面、23………ウエハ、24………チャンバ、24a………孔、26(26a,26b,26c)………誘導加熱コイル、28………コア、30………コア本体、32(32a,32b,32c)………凸部、34(34a,34b,34c)………磁極面、36………断熱材、40………電源部、42………電力制御部、44………ゾーンコントロール手段、46………温度制御手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平配置されたサセプタ上に載置された被加熱物を前記サセプタを誘導加熱することで間接加熱する半導体基板熱処理装置であって、
前記サセプタの外周側に配置され、前記サセプタにおける前記被加熱物載置面と平行な方向に交流磁束を形成する誘導加熱コイルを有し、
前記サセプタは、垂直方向に複数段設けられ、
前記誘導加熱コイルは、前記垂直方向に設けられる前記サセプタに沿って垂直に複数、隣接配置され、
隣り合う前記誘導加熱コイル間で誘導加熱されるサセプタに温度センサを設けたことを特徴とする半導体基板熱処理装置。
【請求項2】
垂直方向に複数段設けられる前記サセプタのうちの最上部と最下部に配置されたサセプタにも前記温度センサを設けたことを特徴とする請求項1に記載の半導体基板熱処理装置。
【請求項3】
前記温度センサとして、少なくとも隣り合う前記誘導加熱コイル間で誘導加熱される前記サセプタの中心温度を検出する中心温度センサと、前記サセプタの外縁側温度を検出する外縁温度センサとを設けたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体基板熱処理装置。
【請求項4】
水平配置され、垂直方向に複数段積層配置されたサセプタと、前記サセプタの外周側に配置され、前記サセプタにおける被加熱物載置面と平行な方向に交流磁束を形成する誘導加熱コイルを有し、前記誘導加熱コイルは、前記垂直方向に積層される前記サセプタに沿って垂直に複数、隣接配置され、隣り合う前記誘導加熱コイル間で誘導加熱されるサセプタに温度センサを設けた半導体基板熱処理装置による温度推定方法であって、
前記サセプタに設けた温度センサにより検出した温度と、予め計測した積層配置された前記サセプタの垂直方向の温度分布傾向データとに基づいて、前記温度センサを設けたサセプタの上部側、および/または下部側に位置する前記温度センサを設けていない前記サセプタ又は前記サセプタにより加熱される被加熱物の温度を推定することを特徴とする半導体基板熱処理装置による温度推定方法。
【請求項5】
前記サセプタには、中心温度を検出する中心温度センサと、外縁側温度を検出する外縁温度センサとを設け、
前記温度センサを設けたサセプタの上部側、および/または下部側に位置する前記温度センサを設けていない前記サセプタ又は前記サセプタにより加熱される被加熱物における半径方向の面内温度分布を推定することを特徴とする請求項4に記載の半導体基板熱処理装置による温度推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−187636(P2011−187636A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50642(P2010−50642)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】