説明

半導体発光装置

【課題】 交流駆動をしても照明のチラツキがなく、しかもスイッチをオフにすれば殆ど違和感なく消光することができると共に、半導体発光装置自体にチラツキ防止手段が施され、半導体発光装置をどのような状態で照明装置などに組み込んでも照明装置側に特別な処理を施すことなくチラツキを防止することができる半導体発光装置を提供する。
【解決手段】 基板11上に発光層を形成するように半導体層を積層して半導体積層部17が形成され、その半導体積層部17が複数個に電気的に分離されると共に、それぞれに一対の電極19、20が設けられることにより、複数個の発光部1が形成されている。この複数個の発光部1は、配線膜3を介して、それぞれ直並列に接続されると共に、複数の発光部1の光発射面側に残光時間が10ミリ秒から1秒以内の蛍光材料を含有する蛍光体層6、および/または蓄光ガラスを含む層を設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は基板上に複数個の発光部が形成され、直並列に接続されることにより、たとえば100Vの商用交流電源で照明用の電灯や蛍光管の代りに使用し得るような交流駆動の半導体発光装置に関する。さらに詳しくは、交流駆動に基づく発光のチラツキを防止することができる構造の半導体発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、青色系発光ダイオード(LED)の出現により、ディスプレイの光源や信号装置の光源などにLEDが用いられ、さらに電灯や蛍光管の代りにLEDが用いられるようになってきている。この電灯や蛍光管に代ってLEDを用いる場合、100Vの交流駆動でそのまま動作することが好ましく、たとえば図7に示されるように、LEDを直並列に接続し、交流電源71に接続する構成のものが知られている。なお、Sはスイッチを示す。また、LEDはダイオードであるため、交流の半波のみで動作し、残りの半波では動作しないことに基づくチラツキを防止するため、照明装置を形成するためのカバーの内面に蓄光性の塗料を塗布して被せることが提案されている(たとえば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−083701号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前述のように、LEDを交流駆動すると、LEDに順方向の電圧が印加される時間は動作して発光するが、逆方向の電圧が印加されている時間は動作せず発光もしない。LEDを逆方向に並列接続しておくことにより、半波ごとに逆並列に接続されたLEDを交互に動作させることができるが、それぞれ別個に動作をし、しかも印加される電圧は0から徐々に増えるため、発光が間欠的に行われることになる。この発光の周期は、通常の商業電源による交流では、50または60Hzであるため、その倍の繰返し周波数となり、人間の目には余り気にならない程度であるが、敏感な目にはチラツキとなる。
【0004】
一方、照明用光源で、LEDを容器内に入れ、その容器の内側に蓄光性の塗料を塗布する方法では、LEDとは別に容器などに予め特殊な処理をしなければならない。さらに、蓄光する時間が長いと、スイッチをオフにしても残光がいつまでも残り、違和感を生じるという問題がある。
【0005】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、交流駆動をしても照明のチラツキがなく、しかもスイッチをオフにすれば殆ど違和感なく消光することができると共に、半導体発光装置自体にチラツキ防止の処理が施してあり、半導体発光装置をどのような状態で照明装置などに組み込んでも照明装置側に特別な処理を施すことなくチラツキを防止することができる構造の半導体発光装置を提供することを目的とする。
【0006】
本発明の他の目的は、誘導灯や停電時の非常用照明などのように、スイッチをオフにしても、容器などに関係なく半導体発光装置自体で、長時間明るさを維持することができる半導体発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による半導体発光装置は、基板と、該基板上に発光層を形成するように半導体層を積層して半導体積層部が形成され、該半導体積層部が複数個に電気的に分離されると共に、それぞれに一対の電極が設けられる複数個の発光部と、前記複数個の発光部を、それぞれ直列および/または並列に接続するために前記電極に接続される配線膜とを有し、前記複数の発光部の光発射面側に残光時間が10ミリ秒から1秒以内の蛍光材料を含有する蛍光体層が設けられている。
【0008】
ここに残光時間とは、発光部への電圧印加がオフにされてから、発光強度が1/10程度になるまでの時間を意味する。
【0009】
前記蛍光材料は、たとえばCuがドープされたZnS、Y23およびAlがドープされたZnSの群れから選ばれる少なくとも1種で構成することができる。
【0010】
前記蛍光体層の表面に蓄光ガラス材料を含む層が設けられることにより、さらに交流駆動による切替の際のチラツキの影響が無くなると共に、目的によっては消灯後にさらに数十分以上照明を続けて非常灯や誘導灯などに用いることができる。ここに蓄光ガラス材料とは、発光部への電圧印加がオフにされてから、発光強度が1/10程度になるまでの時間が1秒以上になるように、たとえばテルビウムのような蓄光特性を有する無機物または有機物がガラス体内に分散されたものを意味する。
【0011】
本発明による半導体発光装置の他の形態は、基板と、該基板上に発光層を形成するように半導体層を積層して半導体積層部が形成され、該半導体積層部が複数個に電気的に分離されると共に、それぞれに一対の電極が設けられる複数個の発光部と、前記複数個の発光部を、それぞれ直列および/または並列に接続するために前記電極に接続される配線膜とを有し、前記複数の発光部の光発射面側に蓄光ガラス材料を含む層が設けられている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複数個の発光部が形成された半導体積層部の表面または基板裏面などの光発射面側に残光時間が10ミリ秒〜1秒の蛍光体材料を含有する蛍光体層および/または残光時間が1秒以上の蓄光ガラス材料を含む層が設けられているため、複数個の発光部が交流駆動により半波のみの発光または逆並列接続による半波ごとのオンオフが繰り返されても、オフになった際は蛍光体層および/または蓄光材料により光の照射が維持され、交流によるオンオフの影響を受けず、連続した光の照射が続けられる。この蛍光体材料または蓄光ガラス材料による光照射の継続は、発光部のダイオードが逆並列に接続されないで、交流の半波だけで発光する場合でも、充分に発光を維持することができ、全くチラツキが生じない。
【0013】
さらに、蓄光ガラス材料の残光時間が数分ないし数十分以上の長いものを用いることにより、電源をオフにした後も非常に長い時間発光を続けることができ、非常灯や誘導灯などとして利用することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
つぎに、図面を参照しながら本発明の半導体発光装置について説明をする。本発明による半導体発光装置は、図1にその一実施形態の断面説明図が示されるように、基板11上に発光層を形成するように半導体層を積層して半導体積層部17が形成され、その半導体積層部17が複数個に電気的に分離されると共に、それぞれに一対の電極19、20が設けられることにより、複数個の発光部1が形成されている。この複数個の発光部1は、配線膜3を介して、それぞれ直列および/または並列に接続されると共に、複数の発光部1の光発射面側に残光時間が10ミリ秒から1秒以内の蛍光材料を含有する蛍光体層6が設けられている。
【0015】
図1に示される例では、基板1上に積層された半導体積層部17の基板11の裏面側を光発射面として、基板11の裏面に蛍光体層6が設けられている。しかし、半導体積層部17の表面側で、配線膜3が形成された表面に蛍光体層6が設けられてもよいし、図4で後述するように、半導体積層部表面側に半導体積層部17を保護する樹脂パッケージとして、またはその樹脂パッケージの表面に形成されてもよい。
【0016】
蛍光体層6は、一定の残光時間を有する蛍光体材料が、たとえばエポキシ樹脂などの透光性の樹脂材料と混合して基板11の裏面に塗布して硬化させることにより形成されている。蛍光体材料としては、余り残光時間が長いと消灯した場合にいつまでも明るく違和感を生じるので、残光時間(電圧の印加がオフにされた後に、強度が1/10程度になるまでの時間)が10msec(ミリ秒)から1sec程度のものが好ましく、たとえばZnS:Cu(CuがドープされたZnS)、Y23、ZnS:Al(AlがドープされたZnS)などを用いることができる。
【0017】
図1に示される例では、青色発光の発光部1(以下、単にLEDともいう)が窒化物半導体の積層により形成され、その表面に図示しない、たとえば青色光を吸収して黄色に変換し、その黄色の光がLEDチップから発せられる青色光と混色して白色光に変換するYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)蛍光体(1/10残光時間は150〜200nsec)やSr-Zn-La蛍光体などからなる発光色変換部材を設けることにより、白色光の発光装置として形成されている。そのため、この発光色変換部材も残光を有する蛍光体材料と一緒に透光性樹脂などに混ぜることにより、発光色変換蛍光体層であると共に、残光を有する蛍光体層とすることもできる。ただし、発光色変換部材は、発光部の発光色および所望の発光色により異なり、発光色変換部材は設けられない場合もある。すなわち、本発明の蛍光体層は、残光時間が10msec〜1sの残光時間を有する蛍光体物質を含む層であって、残光による目のチラツキを解消するもので、発光色変換用の蛍光体物質とは異なるが、発光色変換部材も混合することにより、所望の色の発光をする半導体発光装置とすることができる。もちろん、これらを別々の層として設けることもできる。
【0018】
図1に示される例では、前述のように、青色発光の発光部1が窒化物半導体の積層により形成され、発光色変換部材により、白色光を発光する発光装置として形成されている。そのため、半導体層積層部17は、窒化物半導体層の積層により形成されている。しかし、赤、緑、青の3原色の発光部を形成して白色光になるようにすることもできるし、必ずしも白色光にする必要はなく、所望の発光色の発光部に形成することができる。また、図1に示される例では、配線膜3の段差による断線や膜厚が薄くなって抵抗が増大するという問題を避けるため、各発光部1間を分離する分離溝17aが、分離溝17aを挟む半導体積層部の表面が実質的に同一な面に形成されている。このような実質的に同一な面の部分に分離溝17aを形成すれば、分離溝17aを電気的絶縁が得られる程度に狭く形成することにより、その中に埋めこまれる絶縁膜に窪みができても、配線膜3を殆ど段差なく形成することができるからである。
【0019】
ここに実質的に同一な面とは、完全な同一面であることを意味するものではなく、配線膜を形成する際に段差によるステップカバレッジの問題が生じない程度の段差以下であることを意味し、具体的には、両面の差が0.3μm程度以下であることを意味する。また、窒化物半導体とは、III 族元素のGaとV族元素のNとの化合物またはIII 族元素のGaの一部または全部がAl、Inなどの他のIII 族元素と置換したものおよび/またはV族元素のNの一部がP、Asなどの他のV族元素と置換した化合物(窒化物)からなる半導体をいう。
【0020】
基板11としては、窒化物半導体を積層するには、サファイア(Al2 3 単結晶)またはSiCが用いられるが、図1に示される例では、サファイア(Al2 3 単結晶)が用いられている。しかし、基板は積層される半導体層に応じて格子定数や熱膨張係数などの観点から選ばれる。
【0021】
サファイアからなる基板11上に積層される半導体積層部17は、たとえばGaNからなる低温バッファ層12が0.005〜0.1μm程度、ついでアンドープのGaNからなる高温バッファ層13が1〜3μm程度、その上にSiをドープしたn形GaNからなるコンタクト層およびn形AlGaN系化合物半導体層からなる障壁層(バンドギャップエネルギーの大きい層)などにより形成されるn形層14が1〜5μm程度、バンドギャップエネルギーが障壁層のそれよりも小さくなる材料、たとえば1〜3nmのIn0.13Ga0.87Nからなるウェル層と10〜20nmのGaNからなるバリア層とが3〜8ペア積層される多重量子井戸 (MQW)構造の活性層15が0.05〜0.3μm程度、p形のAlGaN系化合物半導体層からなるp形障壁層(バンドギャップエネルギーの大きい層)とp形GaNからなるコンタクト層とによるp形層16が合せて0.2〜1μm程度、それぞれ順次積層されることにより形成されている。
【0022】
図1に示される例では、アンドープで、半絶縁性のGaNからなる高温バッファ層13が形成されている。基板がサファイアのような絶縁性基板からなる場合には、必ずしも半絶縁になっていなくても基板まで後述する分離溝を形成すれば支障はないが、アンドープにした方が積層する半導体層の結晶性が良くなるため、さらには、半絶縁性半導体層が設けられていることにより、各発光部に電気的分離する際に、基板表面までを完全にエッチングしなくても、電気的に分離することができるため好ましい。基板11がSiCのような半導体基板からなる場合には、隣接する発光部間を電気的に分離させるため、アンドープで半絶縁性の高温バッファ層13が形成されることが各発光部を独立させるために必要となる。
【0023】
また、n形層14およびp形層16は、障壁層とコンタクト層の2種類で構成する例であったが、キャリアの閉じ込め効果の点から活性層6側にAlを含む層が設けられることが好ましいものの、GaN層だけでもよい。また、これらを他の窒化物半導体層で形成することもできるし、他の半導体層がさらに介在されてもよい。さらに、この例では、n形層14とp形層16とで活性層15が挟持されたダブルヘテロ接合構造であるが、n形層とp形層とが直接接合するpn接合構造のものでもよい。また、活性層15上に直接p形AlGaN系化合物層を成長したが、数nm程度のアンドープAlGaN系化合物層を成長することにより、活性層15の下側にピット発生層を形成して活性層15にできたピットを埋め込みながら、p形層とn形層との接触によるリークを防止することもできる。
【0024】
半導体積層部17上には、たとえばZnOなどからなり、p形半導体層16とオーミックコンタクトをとることができる透光性導電層18が0.01〜0.5μm程度設けられている。この透光性導電層18は、ZnOに限定されるものではなく、ITOや、NiとAuとの2〜100nm程度の薄い合金層でも、光を透過させながら、電流をチップ全体に拡散することができる。この半導体積層部17の一部がエッチングにより除去されてn形層14が露出され、さらにそのn形層14の露出部の近傍で間隔dだけ離間してエッチングにより分離溝17aが形成されている。この分離溝17aを、n形層14の露出部から形成しないで、n形層14の露出部から間隔dだけ離間して形成する理由は、分離溝17aとn形層14の露出部の幅が大きくなり、分離溝17a分部での配線膜3の段差が大きくなるのを防止するためであるが、本発明では、この間隔dを設けることは必須ではない。
【0025】
間隔dを設ける場合、この離間する部分は発光領域(長さL1の部分)としては寄与せずダミー領域5となり、後述するように熱放散部、配線などの形成スペースなどとすることができ、目的に応じて間隔dは1〜50μm程度の範囲内で設定される。この分離溝17aは、ドライエッチングなどにより形成されるが、電気的に分離できる範囲で、できるだけ狭い幅wで形成され、0.6〜5μm程度、たとえば1μm程度(深さは5μm程度)に形成される。
【0026】
そして、透光性導電層18上の一部に、TiとAuとの積層構造により、p側電極(上部電極)19が形成され、半導体積層部17の一部がエッチングにより除去されて露出するn形層14にオーミックコンタクト用のn側電極(下部電極)20が、Ti-Al合金などにより形成されている。図1に示される例では、配線膜3の段差をできるだけなくするため、この下部電極20が、0.4〜0.6μm程度の厚さに形成され、上部電極19とほぼ同程度の高さになるように形成されている。しかし、上部電極19とほぼ同じ高さにならなくても、配線膜3は真空蒸着などにより下部電極20上に堆積されるため、それ程段差は形成されず、通常の高さのままでもよい。しかし、下部電極20の厚さが上部電極19の厚さより厚く形成されれば配線膜の信頼性が向上し、上部電極19と同程度の高さになればより好ましい。
【0027】
そして、この上部電極19および下部電極20の表面が露出するように半導体積層部17の露出する表面および分離溝17a内に、たとえばSiO2などからなる絶縁膜21が設けられている。その結果、分離溝17aで区切られた発光部1が基板11上に複数個形成されている。その絶縁膜21の表面で、1個の発光部1aのn側電極20とその発光部1aと隣接する発光部1bのp側電極19とが配線膜3により接続されている。この配線膜3は、AuまたはAlなどの金属膜を真空蒸着またはスパッタリングなどにより0.3〜1μm程度の厚さに形成されている。この配線膜3は、各発光部1が直列または並列の所望の接続になるように形成される。
【0028】
たとえば、図1に示されるように、分離溝17aで分離された1つの発光部1aのn側電極20と隣接する発光部1bのp側電極19とを順次接続していけば、直列に接続することができ、1個当り3.5〜5Vの動作電圧の合計が100V近く(厳密には抵抗やキャパシタを直列に接続することにより調整できる)になるまで接続して、その組を並列に、しかもpnの接続方向が逆方向になるように並列に接続することにより、100VのAC駆動をする明るい光源にすることができる。また、図5に発光部1の配置例の一部が示されるように、pn関係が逆方向に並列接続された2個1組の発光部1を直列に接続して、合計の動作電圧が100Vに近くなるまで直列接続しもよい。このような配置の等価回路図は図6に示されるようになる。なお、この接続で明るさが充分ではない場合には、さらにこれらの組を並列に形成して接続することもできる。図5に示されるように、2個の発光部を逆並列に接続して1組としたものをさらに直列に接続する場合、縦方向ではなく、横方向に隣接する発光部1間でn側電極20とp側電極19とを配線膜3により接続する必要があり、配線膜3の形成場所が発光部1間に必要となる。このスペースとして、前述のダミー領域5を必要な幅で形成することができる。
【0029】
つぎに、図1に示される構造の半導体発光装置の製法について説明をする。有機金属化学気相成長法(MOCVD法)により、キャリアガスのH2 と共にトリメチリガリウム(TMG)、アンモニア(NH3)、トリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルインジウム(TMIn)などの反応ガスおよびn形にする場合のドーパントガスとしてのSiH4 、p形にする場合のドーパントガスとしてのシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2 Mg)またはジメチル亜鉛(DMZn)などの必要なガスを供給して順次成長する。
【0030】
まず、たとえばサファイアからなる基板11上に、たとえば400〜600℃程度の低温で、GaN層からなる低温バッファ層12を0.005〜0.1μm程度成膜した後、温度を600〜1200℃程度の高温に上げて、アンドープのGaNからなる半絶縁性の高温バッファ層13を1〜3μm程度、Siをドープしたn形GaNおよびAlGaN系化合物半導体からなるn形層14を1〜5μm程度成膜する。
【0031】
つぎに、成長温度を400〜600℃の低温に下げて、たとえば1〜3nmのIn0.13Ga0.87Nからなるウェル層と10〜20nmのGaNからなるバリア層とが3〜8ペア積層される多重量子井戸 (MQW)構造の活性層6を0.05〜0.3μm程度成膜する。
【0032】
ついで、成長装置内の温度を600〜1200℃程度に上げ、p形のAlGaN系化合物半導体層およびGaNからなるp形層16を合せて0.2〜1μm程度積層する。
【0033】
その後、表面にSi34などの保護膜を設けてp形ドーパントの活性化のため、400〜800℃程度で10〜60分程度のアニールを行い、たとえばZnO層をMBE、スパッタ、真空蒸着、PLD、イオンプレーティングなどの方法により0.01〜0.5μm程度成膜することにより透光性導電層18を形成する。ついで、n側電極20を形成するため、n形層14が露出するように、積層された半導体積層部17の一部を塩素ガスなどによる反応性イオンエッチングによりエッチングする。さらに引き続き、n形層14を露出させた近傍で、発光部1間を電気的に分離するため、n形層14の露出部と離間して半導体積層部17を1μm程度の幅wで、同様にドライエッチングにより半導体積層部17の高温バッファ層13に至るまでエッチングする。n形層14の露出部と分離溝17aとの間隔dは、たとえば1μm程度になるように形成される。
【0034】
つぎに、露出したn形層14の表面にTiとAlを、それぞれ0.1μm程度と、0.3μm程度、スパッタリングまたは真空蒸着により連続して付着し、RTA加熱により600℃程度で5秒間の熱処理をすることにより合金化して、n側電極20を形成する。なお、n側電極はリフトオフ法により形成すれば、マスクを除去することにより所定の形状のn側電極を形成することができる。その後、p側電極19のために透光性導電層18上にTiとAuをそれぞれ0.1μmと0.3μm程度づつ真空蒸着することにより、p側電極19を形成する。その後、全面にSiO2などの絶縁膜21を形成し、p側電極19およびn側電極20の表面が露出するように絶縁膜21の一部をエッチング除去する。そして、露出するp側電極19およびn側電極20を接続する部分のみ開口したレジスト膜を設けてAu膜またはAl膜などを真空蒸着などにより設けてからレジスト膜を除去するリフトオフ法などにより所望の配線膜3を形成する。
【0035】
そして、基板11の裏面に、残光時間が10msec〜1sの蛍光体物質、たとえばZnS:Cuを混入したエポキシ樹脂などの透光性樹脂を塗布し、乾燥させることにより固化して蛍光体層6を形成する。その後、複数個の発光部1からなる発光部群ごとにウェハからチップ化することにより、図1および図5に一部断面と平面の概念図が示される半導体発光装置のチップが得られる。なお、配線膜3を形成する際に、図5に示されるように、配線膜3と同じ材料で同時に外部と接続用の電極パッド4を形成する。
【0036】
図1に示される例によれば、n側電極20を形成するためのn形層14の露出部と、発光部1間を分離するための分離溝17aとが、近傍であっても(目的に応じてダミー領域5の幅を広くすることができる)別の部分に形成されており、さらにn側電極20が高く形成されているため、隣接する発光部1間のn側電極20とp側電極19とを接続する配線膜3は、分離溝17aを介して形成されていても、大きな段差を経て接続する必要がない。すなわち、分離溝17aの深さは、3〜6μm程度あるが、その幅は0.6〜5μm程度、たとえば1μm程度と電気的分離が得られる程度の非常に狭い間隔であり、絶縁膜21が完全に埋め込まれていなくても、表面は殆ど塞がり、その表面に形成される配線膜3には、多少の凹みは生じても大きな段差は生じない。そのため、ステップカバレッジの問題は一切なく、非常に信頼性のある配線膜3を有する半導体発光装置が得られる。
【0037】
前述の例は、n形層14の露出部と、分離溝17aを異なる場所に形成することにより、分離溝17aを挟んだ半導体層の表面を実質的に同一面になるようにしたが、n形層14を露出させた露出部と連続して分離溝17aが形成されていても、傾斜面を有するダミー領域(中間領域)を設けることにより、断線の問題を防止することができる。その例が、図2に同様の断面説明図で示されている。なお、図2に示される例では、発光部1の構造の変形のみではなく、蛍光体層6の表面にさらに蓄光ガラス材料を含む層7が形成されている。
【0038】
蓄光ガラスとは、テルビウムなどの蓄光材がガラス体内に混入されたもので、このようなガラスを粉末状にして透光性樹脂に取り込むことにより、塗布により所望の場所に設けることができる。この蓄光材の濃度および塗布の厚さを調整することにより、その残光時間を調整することができ、たとえば数秒程度の残光時間になるようにすることにより、微小時間残光させる蛍光体層の残光を補完して、完全に交流駆動によるチラツキを防止することができるし、残光時間をたとえば30〜120分程度になるようにすることにより、停電時の非常灯や誘導灯などに利用することができる。なお、図2に示されるように、蛍光体層6上に設けることにより、蛍光体材料にもよるが、蓄光が主な発光になったときに、光の吸収が少なくなるというメリットがある。
【0039】
図2において、半導体積層部17は図1に示される例と同じであるので、同じ部分には同じ符号を付してその説明を省略する。この例では、分離溝17aが半導体積層部17のp形層16の上から形成されるのではなく、n形層14の露出面からさらに高温バッファ層13に至るように分離溝17aが形成されている。ただし、分離溝17aを挟んでn側電極20を形成する側と反対側にもn形層14の露出部が形成され、そのn形層14の露出部から半導体積層部17上の透光性導電層18の表面に達する傾斜面を有するダミー領域5が形成されていることに特徴がある。
【0040】
このダミー領域5は、1つの発光部1aとその隣の発光部1bとの間に形成されており、その幅L2は、10〜50μm程度に形成される。なお、このときの発光部1の幅L1は、60μm程度である。また、このダミー領域5は、図2に示されるように、n形層14の露出部から半導体積層部17の表面に至る傾斜面17cが形成されている。図2には模式的に構造図が示されているだけで、寸法的には正確な図になっていないが、透光性導電層18の表面とn形層14との段差は、前述のように、0.5〜1μm程度で、n形層14の露出面から、分離溝17aの底までの寸法は3〜6μm程度ある。しかし、この分離溝17aの幅wは、前述のように、1μm程度であり、少なくとも分離溝17aの表面は、少々の窪みはできても殆ど絶縁膜21により埋められている。したがって、このダミー領域5のn形層14の露出面を経て配線膜3を形成すれば、殆どステップカバレッジの問題をなくすることができるが、図2に示される例では、このダミー領域5に傾斜面17cが形成されている。これにより、絶縁膜21および配線膜3は緩やかな勾配になり、より一層配線膜3の信頼性を向上させることができる。
【0041】
このような傾斜面17cを形成するには、たとえば傾斜面を形成する場所以外のところをレジスト膜などによりマスクし、基板11を斜めに傾けてドライエッチングなどによりエッチングすることにより、図2に示されるような傾斜面17cを形成することができる。その後は、前述の図1に示される例と同様に、p側およびn側の電極19、20を形成し、その電極表面が露出するように絶縁膜21を形成し、配線膜3を形成すると共に、基板11の裏面に蛍光体層6および蓄光ガラスを含む層7を設けることにより、図2に示される構造の半導体発光装置を得ることができる。
【0042】
このダミー領域5が形成されることにより、前述のような傾斜面17cを形成することができる他に、ダミー領域5自身は発光には寄与しないが、隣接する発光部1で発光した光が半導体層を伝ってこのダミー領域5の表面や側面から光を放射させることができ、発光部1が連続して形成される場合よりも、その発光効率(入力に対する出力)が向上する。また、発光部1が連続して形成されていると、通電により発熱した熱が逃げにくくて、結局は発光効率が低下したり、信頼性の低下を来す恐れがあるが、このような発光させないダミー領域5が形成されることにより、発熱しないで熱放散をしやすいため、信頼性の面からも好ましい。さらに、前述の図5に示されるように、横側に並ぶ2つの発光部1を配線膜3で連結する場合、配線膜3の形成場所が必要となるが、このダミー領域5に配線膜3を形成することができるし、後述するインダクタやキャパシタや抵抗(直列抵抗が100Vに適合させるのに用いる場合がある)などの付属部品を形成するスペースとして利用することができる。また、自由に配線膜を形成するスペースがあるため、発光部1自身の構造を四角形状ではなく円形形状(上面図の形状)など、光の取出し構造を考慮した所望の形状にしやすいというメリットもある。すなわち、配線膜の断線防止のみならず、種々のメリットが付随する。このダミー領域5の利用は、図1の例でも同じである。
【0043】
図2に示される例では、このダミー領域5と半導体積層部17の高い側で隣接する発光部1とのあいだにも、その表面から高温バッファ層13に至る第2の分離溝17bが形成されている。この第2の分離溝17bも、半導体積層部表面がほぼ同じ面の場所に形成されており、しかも前述と同様の電気的に分離し得る範囲で、できるだけ狭い間隔、すなわち1μm程度の幅で形成されている。そのため、この第2の分離溝17b上に絶縁膜21を介して配線膜3が形成されても、断線などの問題は生じない。この第2の分離溝17bは無くても構わないが、第2の分離溝17bが設けられることにより、エッチングのバラツキにより分離溝17aが完全に高温バッファ層13に達していない場合が生じても、隣接する発光部1間の電気的分離を確実にすることができ、その信頼性を向上させることができる。
【0044】
図3は、配線膜3を形成する構造の他の例と共に、蛍光体層を設けないで、蓄光ガラス材料を含む層7を基板1の裏面に形成した例である。すなわち、照明灯で、電源をオフ後に残光があっても問題のない場合で、しかも停電時の非常灯や誘導灯を兼ねる必要のある場合には、1秒以下の微小時間の残光を有する蛍光体層を設ける必要はなく、数分程度以上の長時間の残光を有する蓄光ガラスを含む層7が設けられていることにより、目的を達成することができる。その例が図3に示されている。
【0045】
また、この例では、各発光部1に分離するための分離溝17aを半導体層の表面が実質的に同一な部分に形成するのではなく、n形層14の露出面から引き続きその一部で分離溝17aを形成したものである。このような場合でも、分離溝17a内に、たとえばクラリアント・ジャパン株式会社の商品名spinfil 130のように、スピンコートして200℃10分、400℃10分の硬化処理することにより400℃程度の高温に耐え、透明な絶縁性を有する絶縁膜を形成すれば、分離溝などの凹部を埋めることができ、n形層14の露出面から上部電極19層に直接配線膜3を形成しても、それ程段差が問題になることはなく、本発明の半導体発光装置を得ることができる。このように、分離溝17aによる段差の問題を解消できれば、分離溝17aを挟む半導体層に段差が無いことは、必ずしも必須ではない。なお、分離溝17aの位置と、配線膜3の構造以外の半導体積層部17の構造は図3または4に示される例と同じで、同じ部分には同じ符号を付してその説明を省略する。
【0046】
図4は、本発明による半導体発光装置の他の実施形態を示す図である。すなわち、図1〜3に示される各例は、全て基板11の裏面に蛍光体層6や蓄光ガラスを含む層7を設ける例であったが、この蛍光体層6などは、光が発射される側に設けられておればよく、半導体積層部17の表面側(配線膜3の表面または他の樹脂層などを介した面)に設けられてもよく、また、図4に示されるように、半導体積層部17を被覆する樹脂層に前述の蛍光体材料を含有させた蛍光体層6として、所望の外形に形成することもできる。
【0047】
図4に示される例は、エポキシ樹脂などの透光性樹脂に前述の残光性を有する蛍光材料を含有させたもので、図1〜3に示されるような基板11上に半導体積層部17が形成され、図5などのパターンで複数の発光部1が配線膜3により接続された状態のチップが外部配線31、32に接続された状態でドーム状または球形状などの所望の形状に蛍光体層6が設けられている。なお、図4では、発光部1が模式的に示されており、配線膜などは省略した図になっているが、この発光部1の構成は、図1〜3に示される例と同様の構造である。また、一対の電極パッド4と接続される外部配線31、32も模式的に示されているが、電球のソケットのように形成することができることはいうまでもない。
【0048】
図1〜4に示されるように、基板11の裏面側を主として光の発射面とする場合には、配線膜3が形成される側に光が出る必要はなく、ほぼ全面に金属膜などが形成されてもよい。むしろ光を反射させる層が設けられることが好ましい。また、逆に、配線膜3が設けられる側を光発射面とする場合には、配線膜3はできるだけ光を遮断させないように細く形成されたり、ITOなどの透光性導電膜で形成することが好ましい。また、図1〜3に示される例では、発光部1の構造例と蛍光体層6などの配置例とが共に変る例が示されているが、発光部1の構造例と蛍光体層6などとの組合せはそれぞれ任意にとり得る。
【0049】
以上のように、本発明によれば、半導体発光装置自体で残光を有する蛍光体層および/または蓄光ガラス材料を含む層が設けられているため、蛍光体層のみが設けられる構造にすることにより、残光が長すぎて違和感を起こさせることなく、交流駆動によるチラツキの不快さを無くすることができる。さらに、蓄光ガラス材料を含む層が設けられることにより、完全にチラツキを阻止することができると共に、さらに残光時間が長い蓄光ガラス材料を含む層が設けられることにより、非常灯や誘導灯などに利用することができる。その結果、照明装置などに用いる場合でも、目的に応じた蛍光体層や蓄光ガラス材料を含む層が設けられた半導体発光装置を必要な場所に直接取り付けるだけで、交流駆動を行ってもチラツキのない照明装置とすることができるし、また、停電時の非常灯などとして用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明による半導体発光装置の一実施形態の部分的断面説明図である。
【図2】本発明による半導体発光装置の他の実施形態を示す図1と同様の説明図である。
【図3】本発明による半導体発光装置の他の実施形態を示す図1と同様の説明図である。
【図4】本発明による半導体発光装置のさらに他の形態を示す断面説明図である。
【図5】本発明による半導体発光装置の発光部の配置例を示す図である。
【図6】図5の等価回路を示す図である。
【図7】LEDを用いて照明装置を形成する従来の回路例を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1 発光部
3 配線膜
4 電極パッド
6 蛍光体層
7 蓄光ガラス材料を含む層
11 基板
13 高温バッファ層
14 n形層
15 活性層
16 p形層
17 半導体積層部
17a 分離溝
18 透光性導電層
19 p側電極(上部電極)
20 n側電極(下部電極)
21 絶縁膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板上に発光層を形成するように半導体層を積層して半導体積層部が形成され、該半導体積層部が複数個に電気的に分離されると共に、それぞれに一対の電極が設けられる複数個の発光部と、前記複数個の発光部を、それぞれ直列および/または並列に接続するために前記電極に接続される配線膜とを有し、前記複数の発光部の光発射面側に残光時間が10ミリ秒から1秒以内の蛍光材料を含有する蛍光体層が設けられてなる半導体発光装置。
【請求項2】
前記蛍光材料が、CuがドープされたZnS、Y23およびAlがドープされたZnSの群れから選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の半導体発光装置。
【請求項3】
前記蛍光体層の表面に蓄光ガラス材料を含む層が設けられてなる請求項1または2記載の半導体発光装置。
【請求項4】
基板と、該基板上に発光層を形成するように半導体層を積層して半導体積層部が形成され、該半導体積層部が複数個に電気的に分離されると共に、それぞれに一対の電極が設けられる複数個の発光部と、前記複数個の発光部を、それぞれ直列および/または並列に接続するために前記電極に接続される配線膜とを有し、前記複数の発光部の光発射面側に蓄光ガラス材料を含む層が設けられてなる半導体発光装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板上に発光層を形成するように半導体層を積層して半導体積層部が形成され、該半導体積層部が複数個に電気的に分離されると共に、それぞれに一対の電極が設けられる複数個の発光部と、前記複数個の発光部を、それぞれ直列および/または並列に接続するために前記電極に接続される配線膜とを有し、前記複数個の発光部を形成するための電気的分離が、前記半導体積層部に0.6〜5μmの幅で形成される分離溝および該分離溝内に埋め込まれる絶縁膜により形成されると共に、該分離溝は、該分離溝を挟んだ半導体積層部の表面が実質的に同一面になる場所に形成され、該分離溝の上面上に前記絶縁膜を介して前記配線膜が形成され、かつ、前記複数の発光部の光発射面側に残光時間が10ミリ秒から1秒以内の蛍光材料を含有する蛍光体層が設けられてなる半導体発光装置。
【請求項2】
前記分離溝と該分離溝の一方の発光部との間に発光部に寄与しない半導体積層部からなるダミー領域が形成されてなる請求項1記載の半導体発光装置。
【請求項3】
前記蛍光体層の表面に蓄光ガラス材料を含む層が設けられてなる請求項1または2記載の半導体発光装置。
【請求項4】
基板と、該基板上に発光層を形成するように半導体層を積層して半導体積層部が形成され、該半導体積層部が複数個に電気的に分離されると共に、それぞれに一対の電極が設けられる複数個の発光部と、前記複数個の発光部を、それぞれ直列および/または並列に接続するために前記電極に接続される配線膜とを有し、前記複数個の発光部を形成するための電気的分離が、前記半導体積層部に0.6〜5μmの幅で形成される分離溝および該分離溝内に埋め込まれる絶縁膜により形成されると共に、該分離溝は、該分離溝を挟んだ半導体積層部の表面が実質的に同一面になる場所に形成され、該分離溝の上面上に前記絶縁膜を介して前記配線膜が形成され、かつ、前記複数の発光部の光発射面側に蓄光ガラス材料を含む層が設けられてなる半導体発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−80442(P2006−80442A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−265464(P2004−265464)
【出願日】平成16年9月13日(2004.9.13)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】