説明

半導体素子の製造方法、半導体素子、電子デバイスおよび電子機器

【課題】キャリア輸送能の優れた半導体層を備える半導体素子を製造することができる半導体素子の製造方法、かかる半導体素子の製造方法により製造された半導体素子、かかる半導体素子を備える電子デバイスおよび信頼性の高い電子機器を提供すること。
【解決手段】本発明の半導体素子の製造方法は、陽極3と、陰極5と、陽極3と陰極5との間に設けられた正孔輸送層41とを備える半導体素子を製造する半導体素子の製造方法であり、陽極3の一方の面側、および、陰極5の一方の面側に、それぞれ、重合性基Xを有する正孔輸送材料を主材料として構成される層41’を形成する第1の工程と、陽極3側の層41’と、陰極5側の層41’とを接触させた状態で、重合性基X同士の重合により、正孔輸送材料を高分子化し、2つの層41’を一体化して正孔輸送層を得る第2の工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の製造方法、半導体素子、電子デバイスおよび電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数の半導体層を備える半導体素子として、例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、単に「有機EL素子」という。)や、有機薄膜トランジスタ等がある。
これらのうち、有機EL素子は、固体発光型の安価な大面積フルカラー表示素子(半導体素子)としての用途が有望視され、多くの開発が行われている。
一般に、有機EL素子は、陰極と陽極との間に有機材料により構成される発光層を有する構成であり、陰極と陽極との間に電界を印加すると、発光層に陰極側から電子が注入され、陽極側から正孔が注入される。
【0003】
そして、注入された電子と正孔とが発光層において再結合し、エネルギー準位が伝導帯から価電子帯に戻る際の励起エネルギーを光エネルギーとして放出することにより、発光層が発光する。
このような有機EL素子において、有機EL素子の高効率化、すなわち、高い発光を得るためには、電子または正孔のキャリア輸送性の異なる有機材料で構成される有機層(半導体層)を、発光層と、陰極および/または陽極との間に積層する素子構造が有効であることが判っている。
【0004】
そこで、キャリア輸送特性の異なる発光層と有機層と(以下、これらを併せて「有機層」という。)を電極上に積層する必要がある。そのため、従来の有機EL素子の製造方法では、まず、陽極上に液相プロセスを用いて、これらの有機層が順次積層された積層体を形成する。その後、この積層体の陽極と反対側の面に気相プロセスを用いて金属材料により構成される陰極を形成することにより有機EL素子の製造が行われていた。
【0005】
ところが、このような製造方法において、均一な膜厚にそれぞれの有機層を積層して、積層体を形成することは困難であり、特に、このような積層体上に気相プロセスにより均一な膜厚の陰極を形成することは困難であった。
また、気相プロセスにより陰極を形成する際には、高エネルギーを要することから、先に形成されている積層体が変質・劣化するおそれがある。すなわち、積層体の膜厚のばらつきやピンホールの発生等を招くおそれがある。その結果、有機EL素子の発光効率等の特性が低下するおそれがある。
【0006】
このような問題点を解決する方法として次のような方法が開示されている。すなわち、I:陽極と陰極とにそれぞれ有機層を積層する。II:それぞれの有機層の陽極または陰極と反対側の面を、対向させた状態で接触させる。III:この接触面において有機層同士を接着して、一体化させる。以上のような工程により、有機EL素子を製造する方法が開示されている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0007】
これら方法において、特許文献1では、接着させる有機層を構成する有機材料に硬化性樹脂を添加し、この硬化性樹脂を樹脂バインダとして機能させることにより、有機層同士を接着させる方法が用いられている。
しかしながら、この場合、樹脂バインダの影響により、有機層のキャリア輸送能が低減するという問題がある。
【0008】
また、特許文献2では、接着させる有機層同士を接触させた状態で溶融させた後、再び硬化させることにより、有機層同士を接着させる方法が用いられている。
しかしながら、この場合、接着面において、十分な密着性が得られず、有機層のキャリア輸送能が十分に向上しないという問題がある。
このような問題は、有機薄膜トランジスタ等にも同様に生じることが懸念される。
【0009】
【特許文献1】特開平9−7763号公報
【特許文献2】特開2002−203675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、キャリア輸送能の優れた半導体層を備える半導体素子を製造することができる半導体素子の製造方法、かかる半導体素子の製造方法により製造された半導体素子、かかる半導体素子を備える電子デバイスおよび信頼性の高い電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の半導体素子の製造方法は、第1の電極と、第2の電極と、前記第1の電極と前記第2の電極との間に設けられた半導体層とを備える半導体素子を製造する半導体素子の製造方法であって、
前記第1の電極の一方の面側、および、前記第2の電極の一方の面側に、それぞれ、重合性基を有する半導体材料を主材料として構成される層を形成する第1の工程と、
前記第1の電極側の前記層と、前記第2の電極側の前記層とを接触させた状態で、前記重合性基同士の重合により、前記半導体材料を高分子化し、2つの前記層を一体化して前記半導体層を得る第2の工程とを有することを特徴とする。
これにより、キャリア輸送能の優れた半導体層を備える半導体素子を製造することができる。
【0012】
本発明の半導体素子の製造方法では、前記第1の工程において、前記第1の電極側の前記層は、液相プロセスにより形成されることが好ましい。
これにより、半導体材料が備える重合性基同士が反応したり、重合性基が分解するのを好適に防止して、第1の電極側に層を形成することができる。
本発明の半導体素子の製造方法では、前記第1の工程において、前記第2の電極側の前記層は、液相プロセスにより形成されることが好ましい。
これにより、半導体材料が備える重合性基同士が反応したり、重合性基が分解するのを好適に防止して、第2の電極側に層を形成することができる。
【0013】
本発明の半導体素子の製造方法では、前記第1の工程と前記第2の工程との間に、前記第1の電極側の前記層中に含まれる前記半導体材料を、前記第2の工程で得られる前記高分子の重合度よりも低い重合度まで重合させる工程を有することが好ましい。
これにより、第1の電極側の層を確実に半固形状または固形状のものとすることができる。その結果、第1の電極側の層と第2の電極側の層とを対向させる際に、第1の電極側の層の一部が流れ落ちるのを好適に防止しつつ、これらの層同士の位置決めをより容易に行うことができる。
【0014】
本発明の半導体素子の製造方法では、前記第1の工程と前記第2の工程との間に、前記第2の電極側の前記層中に含まれる前記半導体材料を、前記第2の工程で得られる前記高分子の重合度よりも低い重合度まで重合させる工程を有することが好ましい。
これにより、第2の電極側の層を確実に半固形状または固形状のものとすることができる。その結果、第1の電極側の層と第2の電極側の層とを対向させる際に、第2の電極側の層の一部が流れ落ちるのを好適に防止しつつ、これらの層同士の位置決めをより容易に行うことができる。
【0015】
本発明の半導体素子の製造方法では、前記重合性基は、光重合性を有することが好ましい。
かかる重合性基によれば、光を照射することにより重合性基同士を容易に重合させることができる。
本発明の半導体素子の製造方法では、前記重合性基は、熱重合性を有することが好ましい。
かかる重合性基によれば、加熱により重合性基同士を容易に重合させることができる。
【0016】
本発明の半導体素子の製造方法では、前記第1の電極と前記第2の電極との間に前記半導体層と異なる少なくとも1層の有機物層を有し、
前記重合性基を重合させる際の加熱温度は、前記有機物層を構成する主材料のガラス転移温度よりも低い温度に設定されていることが好ましい。
その結果、有機物層が溶融するのを確実に防止することができる。これにより、半導体層を加熱した後、除熱する際に、有機物層を構成する主材料が結晶化して、この有機物層の特性が低減するのを確実に防止することができる。
【0017】
本発明の半導体素子の製造方法では、前記半導体材料は、下記一般式(A1)または下記一般式(A2)で表される化合物であることが好ましい。
【化1】

[式中、2つのRは、それぞれ独立して、炭素数2〜8の直鎖アルキル基を表し、同一であっても、異なっていてもよい。4つのRは、それぞれ独立して、水素原子、メチル基またはエチル基を表し、同一であっても、異なっていてもよい。2つのXは、下記一般式(B1)〜下記一般式(B3)で表される置換基のうちのいずれかを示す。ただし、2つのXは、同種の置換基であるが、その炭素数は、同一であっても異なっていてもよい。Yは、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環、または、置換もしくは無置換の複素環を少なくとも1つ含む基を表す。]
【化2】

[式中、8つのRは、それぞれ独立して、水素原子、メチル基またはエチル基を表し、同一であっても、異なっていてもよい。X、X、XおよびXは、下記一般式(B1)〜下記一般式(B3)で表される置換基のうちのいずれかを示す。ただし、これらX、X、XおよびXは、同種の置換基であるが、その炭素数は、同一であっても、異なっていてもよい。Yは、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環、または、置換もしくは無置換の複素環を少なくとも1つ含む基を表す。]
【化3】

[これらの式中、nは、2〜8の整数を表す。nは、3〜8の整数を表し、mは、0〜3の整数を表す。Zは、水素原子またはメチル基を表し、Zは、水素原子、メチル基またはエチル基を表す。]
かかる化合物を用いることにより、2つの層を確実に一体化させて半導体層を形成することができる。さらに、これらの化合物の高分子は、キャリア輸送能が特に優れたものであることから、形成される半導体層は、特に優れたキャリア輸送能を発揮するものとなる。
【0018】
本発明の半導体素子の製造方法では、前記半導体層は、正孔輸送層であることが好ましい。
これにより、密着性に優れた正孔輸送層を形成し得ることから、形成される正孔輸送層は、優れた正孔輸送能を発揮するものとなる。
本発明の半導体素子の製造方法では、前記半導体層は、発光層であることが好ましい。
これにより、密着性に優れた発光層を形成し得ることから、形成される発光層は、優れた発光特性を有するものとなる。
【0019】
本発明の半導体素子の製造方法では、前記半導体層は、電子輸送層であることが好ましい。
これにより、密着性に優れた電子輸送層を形成し得ることから、形成される電子輸送層は、優れた電子輸送能を発揮するものとなる。
本発明の半導体素子は、本発明の半導体素子の製造方法により製造されたことを特徴とする。
これにより、半導体素子は、優れたキャリア輸送能を有する半導体層を備えるものとなる。
本発明の電子デバイスは、本発明の半導体素子を備えることを特徴とする。
これにより、信頼性の高い電子デバイスが得られる。
本発明の電子機器は、本発明の電子デバイスを備えることを特徴とする。
これにより、信頼性の高い電子機器が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の半導体素子の製造方法、半導体素子、電子デバイスおよび電子機器を添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
なお、以下では、本発明の半導体素子を有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、単に「有機EL素子」という。)に適用した場合を一例として説明する。
<有機エレクトロルミネッセンス素子>
図1は、有機EL素子の一例を示した縦断面図である。なお、以下の説明では、図1中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0021】
図1に示す有機EL素子1は、第1の基板2と、第1の基板2上に設けられた陽極3と、陽極3上に設けられたEL層4と、EL層4上に設けられた陰極5と、陰極5上に設けられた第2の基板6とを備えている。また、図示しない保護層が各前記層3、4、5の側面を覆うように設けられている。
第1の基板2と第2の基板6とは、有機EL素子1の支持体となるものであり、これら第1の基板2と第2の基板6との間に各前記層が形成されている。
第1の基板2および第2の基板6の構成材料としては、透光性を有し、光学特性が良好(無色透明、着色透明、半透明)な材料を用いるのが好ましい。
【0022】
このような材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレートのような各種樹脂材料や、各種ガラス材料等が挙げられ、これらのうちの少なくとも1種を用いることができる。
なお、第1の基板2と第2の基板6とは、同一の構成材料により構成されるものであってもよいし、別の構成材料により構成されるものであってもよい。
これらの厚さ(平均)は、特に限定されないが、0.1〜30mm程度であるのが好ましく、0.1〜10mm程度であるのがより好ましい。
【0023】
なお、有機EL素子1が第1の基板2側から光を取り出す構成(ボトムエミッション型)の場合、第2の基板6および陰極5は、それぞれ、透明性は要求されない。また、有機EL素子1が第2の基板6側から光を取り出す構成(トップエミッション型)の場合、第1の基板2および陽極3は、それぞれ、透明性は要求されない。
そのため有機EL素子1の構成に応じて、第1の基板2および第2の基板6として、アルミナのようなセラミックス材料で構成された基板、ステンレス鋼のような金属基板の表面に酸化膜(絶縁膜)を形成したもの、不透明な樹脂材料により構成された基板のような不透明基板を用いることができる。
【0024】
陽極3(第1の電極)は、EL層4(後述する正孔輸送層41)に正孔を注入する電極である。この陽極3の構成材料(陽極材料)としては、仕事関数が大きく、導電性に優れた材料を用いるのが好ましい。
このような陽極材料としては、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)、SnO2、Sb含有SnO2、Al含有ZnO等の酸化物、Au、Pt、Ag、Cuまたはこれらを含む合金等が挙げられ、これらのうちの少なくとも1種を用いることができる。
【0025】
陽極3の厚さ(平均)は、特に限定されないが、10〜200nm程度であるのが好ましく、50〜150nm程度であるのがより好ましい。陽極3の厚さが薄すぎると、陽極3としての機能が充分に発揮されなくなるおそれがあり、一方、陽極3が厚過ぎると、陽極材料の種類等によっては、光の透過率が著しく低下し、有機EL素子1の構成がボトムエミッション型の場合、実用に適さなくなるおそれがある。
なお、陽極材料には、例えば、ポリチオフェン、ポリピロール等の導電性樹脂材料を用いることもできる。
【0026】
一方、陰極5(第2の電極)は、EL層4(後述する電子輸送層43)に電子を注入する電極である。
陰極5の構成材料(陰極材料)としては、仕事関数の小さい材料を用いるのが好ましい。
このような陰極材料としては、Li、Mg、Ca、Sr、La、Ce、Er、Eu、Sc、Y、Yb、Ag、Cu、Al、Cs、Rbまたはこれらを含む合金等が挙げられ、これらのうちの少なくとも1種を用いることができる。
【0027】
特に、陰極材料として合金を用いる場合には、Ag、Al、Cu等の安定な金属元素を含む合金、具体的には、MgAg、AlLi、CuLi等の合金を用いるのが好ましい。かかる合金を陰極材料として用いることにより、陰極5の電子注入効率および安定性の向上を図ることができる。
陰極5の厚さ(平均)は、1nm〜1μm程度であるのが好ましく、100〜400nm程度であるのがより好ましい。陰極5の厚さが薄すぎると、陰極5としての機能が充分に発揮されなくなるおそれがあり、一方、陰極5が厚過ぎると、陰極材料の種類等によっては、光の透過率が著しく低下し、有機EL素子1の構成がトップエミッション型の場合、実用に適さなくなるおそれがある。
【0028】
陽極3(第1の電極)と陰極5(第2の電極)との間には、EL層4が設けられている。EL層4は、正孔輸送層41と、発光層42と、電子輸送層43とを備え、これらが陽極3側からこの順で形成されている。
正孔輸送層41は、陽極3から注入された正孔を発光層42まで輸送する機能を有するものである。
【0029】
本実施形態では、この正孔輸送層41が、後述する有機EL素子の製造方法において、第1の基板側および第2の基板側にそれぞれ設けられた層41’同士を一体化することにより形成されている。すなわち、第1の基板2側および第2の基板6側に、それぞれ、重合性基Xを有する正孔輸送材料(半導体材料)を主材料として構成される層41’を形成する。そして、これら2つの層41’同士を接触させた状態で、重合性基X同士を重合させる。これにより、正孔輸送材料が高分子化されて、2つの層41’が一体化されることにより、正孔輸送層41が形成される。
【0030】
かかる工程を経て正孔輸送層41が形成されることから、2つの層41’が貼り合わされた界面(接合面)付近においても、重合性基X同士が重合して形成された連結構造が存在することとなる。その結果、2つの層41’同士は、連結構造により化学的に連結されたものとなり、正孔輸送層41は、この界面付近において優れた密着性を有するものとなる。これにより、このような正孔輸送層41を備える有機EL素子1は、優れた特性を発揮するものとなる。
【0031】
正孔輸送材料(半導体材料)は、正孔輸送能力を有し、正孔輸送材料同士を連結し得る重合性基Xを備えるものであれば、いかなるものであってもよいが、共役系の構造を有する化合物であるのが好ましい。共役系の構造を有する化合物は、その特有な電子雲の広がりによる性質上、極めて円滑に正孔を輸送できるため、正孔輸送能力に特に優れる。
このような正孔輸送材料としては、例えば、3,4−エチレンジオキシチオフェン/スチレンスルホン酸のようなチオフェン/スチレンスルホン酸系化合物、1,1−ビス(4−ジ−パラ−トリアミノフェニル)シクロへキサン、1,1’−ビス(4−ジ−パラ−トリルアミノフェニル)−4−フェニル−シクロヘキサンのようなアリールシクロアルカン系化合物、4,4’,4’’−トリメチルトリフェニルアミン、N,N,N’,N’−テトラフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(TPD1)、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(4−メトキシフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(TPD2)、N,N,N’,N’−テトラキス(4−メトキシフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(TPD3)、N,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(α−NPD)、TPTEのようなアリールアミン系化合物、N,N,N’,N’−テトラフェニル−パラ−フェニレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラ(パラ−トリル)−パラ−フェニレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラ(メタ−トリル)−メタ−フェニレンジアミン(PDA)のようなフェニレンジアミン系化合物、カルバゾール、N−イソプロピルカルバゾール、N−フェニルカルバゾールのようなカルバゾール系化合物、スチルベン、4−ジ−パラ−トリルアミノスチルベンのようなスチルベン系化合物、OZのようなオキサゾール系化合物、トリフェニルメタンm−MTDATAのようなトリフェニルメタン系化合物、1−フェニル−3−(パラ−ジメチルアミノフェニル)ピラゾリンのようなピラゾリン系化合物、ベンジン(シクロヘキサジエン)系化合物、トリアゾールのようなトリアゾール系化合物、イミダゾールのようなイミダゾール系化合物、1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ジ(4−ジメチルアミノフェニル)−1,3,4,−オキサジアゾールのようなオキサジアゾール系化合物、アントラセン、9−(4−ジエチルアミノスチリル)アントラセンのようなアントラセン系化合物、フルオレノン、2,4,7,−トリニトロ−9−フルオレノン、2,7−ビス(2−ヒドロキシ−3−(2−クロロフェニルカルバモイル)−1−ナフチルアゾ)フルオレノンのようなフルオレノン系化合物、ポリアニリンのようなアニリン系化合物、シラン系化合物、ポリチオフェン、ポリ(チオフェンビニレン)のようなチオフェン系化合物、ポリ(2,2’−チエニルピロール)、1,4−ジチオケト−3,6−ジフェニル−ピロロ−(3,4−c)ピロロピロールのようなピロール系化合物、フローレンのようなフローレン系化合物、ポルフィリン、金属テトラフェニルポルフィリンのようなポルフィリン系化合物、キナクリドンのようなキナクリドン系化合物、フタロシアニン、銅フタロシアニン、テトラ(t−ブチル)銅フタロシアニン、鉄フタロシアニンのような金属または無金属のフタロシアニン系化合物、銅ナフタロシアニン、バナジルナフタロシアニン、モノクロロガリウムナフタロシアニンのような金属または無金属のナフタロシアニン系化合物、N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジン、N,N,N’,N’−テトラフェニルベンジジンのようなベンジジン系化合物等に重合性基Xを導入した化合物が挙げられる。これらの化合物の高分子は、いずれも、高い正孔輸送能力を有している。
【0032】
また、重合性基Xとしては、これらのもの同士が重合(連結)し得るものであれば、特に限定されないが、光重合性または熱重合性を有するものであるのが好ましい。
光重合性を有する重合性基Xを用いた場合、光を照射することにより重合性基X同士を容易に重合させることができる。
このような重合性基Xとしては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、エポキシ基、ジアゾ基およびジチオカルバメート基等の置換基を末端に備えるものが挙げられる。これらの置換基は、特に優れた光重合性を有するものである。
【0033】
熱重合性を有する重合性基Xを用いた場合、加熱より重合性基X同士を容易に重合させることができる。
このような重合性基Xとしては、例えば、エポキシ基等の置換基を末端に備えるものが挙げられる。これらの置換基は、特に優れた熱重合性を有するものである。
また、正孔輸送材料には、例えば、下記一般式(A1)または下記一般式(A2)で表される化合物のうち、正孔輸送能を有するものを用いることもできる。
これらの化合物については、後で詳述する。
【0034】
【化4】

[式中、2つのRは、それぞれ独立して、炭素数2〜8の直鎖アルキル基を表し、同一であっても、異なっていてもよい。4つのRは、それぞれ独立して、水素原子、メチル基またはエチル基を表し、同一であっても、異なっていてもよい。2つのXは、下記一般式(B1)〜下記一般式(B3)で表される置換基のうちのいずれかを示す。ただし、2つのXは、同種の置換基であるが、その炭素数は、同一であっても異なっていてもよい。Yは、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環、または、置換もしくは無置換の複素環を少なくとも1つ含む基を表す。]
【0035】
【化5】

[式中、8つのRは、それぞれ独立して、水素原子、メチル基またはエチル基を表し、同一であっても、異なっていてもよい。X、X、XおよびXは、下記一般式(B1)〜下記一般式(B3)で表される置換基のうちのいずれかを示す。ただし、これらX、X、XおよびXは、同種の置換基であるが、その炭素数は、同一であっても、異なっていてもよい。Yは、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環、または、置換もしくは無置換の複素環を少なくとも1つ含む基を表す。]
【0036】
【化6】

[これらの式中、nは、2〜8の整数を表す。nは、3〜8の整数を表し、mは、0〜3の整数を表す。Zは、水素原子またはメチル基を表し、Zは、水素原子、メチル基またはエチル基を表す。]
【0037】
また、このような正孔輸送材料は、その体積抵抗率が10Ω・cm以上であるのが好ましく、10Ω・cm以上であるのがより好ましい。これにより、発光効率のより高い有機EL素子1を得ることができる。
正孔輸送層41の厚さ(平均)は、特に限定されないが、10〜150nm程度であるのが好ましく、50〜100nm程度であるのがより好ましい。正孔輸送層41の厚さが薄すぎると、ピンホールが生じるおそれがあり、一方、正孔輸送層41が厚過ぎると、正孔輸送層41の透過率が悪くなる原因となり、有機EL素子1の発光色の色度(色相)が変化してしまうおそれがある。
【0038】
電子輸送層43は、陰極5から注入された電子を発光層42まで輸送する機能を有するものである。
電子輸送層43の構成材料(電子輸送材料)としては、例えば、1,3,5−トリス[(3−フェニル−6−トリ−フルオロメチル)キノキサリン−2−イル]ベンゼン(TPQ1)、1,3,5−トリス[{3−(4−t−ブチルフェニル)−6−トリスフルオロメチル}キノキサリン−2−イル]ベンゼン(TPQ2)のようなベンゼン系化合物(スターバースト系化合物)、ナフタレンのようなナフタレン系化合物、フェナントレンのようなフェナントレン系化合物、クリセンのようなクリセン系化合物、ペリレンのようなペリレン系化合物、アントラセンのようなアントラセン系化合物、ピレンのようなピレン系化合物、アクリジンのようなアクリジン系化合物、スチルベンのようなスチルベン系化合物、BBOTのようなチオフェン系化合物、ブタジエンのようなブタジエン系化合物、クマリンのようなクマリン系化合物、キノリンのようなキノリン系化合物、ビスチリルのようなビスチリル系化合物、ピラジン、ジスチリルピラジンのようなピラジン系化合物、キノキサリンのようなキノキサリン系化合物、ベンゾキノン、2,5−ジフェニル−パラ−ベンゾキノンのようなベンゾキノン系化合物、ナフトキノンのようなナフトキノン系化合物、アントラキノンのようなアントラキノン系化合物、オキサジアゾール、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)、BMD、BND、BDD、BAPDのようなオキサジアゾール系化合物、トリアゾール、3,4,5−トリフェニル−1,2,4−トリアゾールのようなトリアゾール系化合物、オキサゾール系化合物、アントロンのようなアントロン系化合物、フルオレノン、1,3,8−トリニトロ−フルオレノン(TNF)のようなフルオレノン系化合物、ジフェノキノン、MBDQのようなジフェノキノン系化合物、スチルベンキノン、MBSQのようなスチルベンキノン系化合物、アントラキノジメタン系化合物、チオピランジオキシド系化合物、フルオレニリデンメタン系化合物、ジフェニルジシアノエチレン系化合物、フローレンのようなフローレン系化合物、フタロシアニン、銅フタロシアニン、鉄フタロシアニンのような金属または無金属のフタロシアニン系化合物、(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq)、ベンゾオキサゾールやベンゾチアゾールを配位子とする錯体のような各種金属錯体等が挙げられ、これらのうちの少なくとも1種を用いることができる。
【0039】
なお、このような電子輸送材料の他、正孔輸送材料で挙げた上記一般式(A1)または上記一般式(A2)で表される化合物や、これらの化合物同士を重合性基Xにおいて重合させて得られる高分子のうち電子輸送能を発揮するものを電子輸送材料として用いることもできる。
このような化合物については、後で詳述する。
【0040】
電子輸送層43の厚さ(平均)は、特に限定されないが、1〜100nm程度であるのが好ましく、20〜50nm程度であるのがより好ましい。電子輸送層43の厚さが薄すぎると、ピンホールが生じショートするおそれがあり、一方、電子輸送層43が厚過ぎると、抵抗値が高くなるおそれがある。
ここで、陽極3と陰極5との間に通電(電圧を印加)すると、陽極3から放出された正孔が正孔輸送層41中を移動するとともに、陰極5から放出された電子が電子輸送層43中を移動し、最終的に、この正孔と電子とが発光層42において再結合する。そして、発光層42では、この再結合に際して放出されたエネルギーによりエキシトン(励起子)が生成し、このエキシトンが基底状態に戻る際にエネルギー(蛍光やりん光)を放出(発光)する。
【0041】
この発光層42の構成材料(発光材料)としては、電圧印加時に陽極3側から正孔を、また、陰極5側から電子を注入することができ、正孔と電子が再結合する場を提供できるものであれば、いかなるものであってもよい。
このような発光材料には、以下に示すような、各種低分子の発光材料、各種高分子の発光材料があり、これらのうちの少なくとも1種を用いることができる。
【0042】
なお、低分子の発光材料を用いることにより、緻密な発光層42が得られるため、発光層42の発光効率が向上する。また、高分子の発光材料を用いることにより、比較的容易に溶剤へ溶解させることができるため、インクジェット印刷法等の各種塗布法による発光層42の形成を容易に行うことができる。さらに、低分子の発光材料と高分子の発光材料とを組み合わせて用いることにより、低分子の発光材料および高分子の発光材料を用いる効果を併有すること、すなわち、緻密かつ発光効率に優れる発光層42を、インクジェット印刷法等の各種塗布法により、容易に形成することができるという効果が得られる。
【0043】
低分子の発光材料としては、例えば、ジスチリルベンゼン(DSB)、ジアミノジスチリルベンゼン(DADSB)のようなベンゼン系化合物、ナフタレン、ナイルレッドのようなナフタレン系化合物、フェナントレンのようなフェナントレン系化合物、クリセン、6−ニトロクリセンのようなクリセン系化合物、ペリレン、N,N’−ビス(2,5−ジ−t−ブチルフェニル)−3,4,9,10−ペリレン−ジ−カルボキシイミド(BPPC)のようなペリレン系化合物、コロネンのようなコロネン系化合物、アントラセン、ビススチリルアントラセンのようなアントラセン系化合物、ピレンのようなピレン系化合物、4−(ジ−シアノメチレン)−2−メチル−6−(パラ−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM)のようなピラン系化合物、アクリジンのようなアクリジン系化合物、スチルベンのようなスチルベン系化合物、2,5−ジベンゾオキサゾールチオフェンのようなチオフェン系化合物、ベンゾオキサゾールのようなベンゾオキサゾール系化合物、ベンゾイミダゾールのようなベンゾイミダゾール系化合物、2,2’−(パラ−フェニレンジビニレン)−ビスベンゾチアゾールのようなベンゾチアゾール系化合物、ビスチリル(1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン)、テトラフェニルブタジエンのようなブタジエン系化合物、ナフタルイミドのようなナフタルイミド系化合物、クマリンのようなクマリン系化合物、ペリノンのようなペリノン系化合物、オキサジアゾールのようなオキサジアゾール系化合物、アルダジン系化合物、1,2,3,4,5−ペンタフェニル−1,3−シクロペンタジエン(PPCP)のようなシクロペンタジエン系化合物、キナクリドン、キナクリドンレッドのようなキナクリドン系化合物、ピロロピリジン、チアジアゾロピリジンのようなピリジン系化合物、2,2’,7,7’−テトラフェニル−9,9’−スピロビフルオレンのようなスピロ化合物、フタロシアニン(HPc)、銅フタロシアニンのような金属または無金属のフタロシアニン系化合物、フローレンのようなフローレン系化合物、(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq)、トリス(4−メチル−8キノリノレート)アルミニウム(III)(Almq)、(8−ヒドロキシキノリン)亜鉛(Znq)、(1,10−フェナントロリン)−トリス−(4,4,4−トリフルオロ−1−(2−チエニル)−ブタン−1,3−ジオネート)ユーロピウム(III)(Eu(TTA)(phen))、ファクトリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(Ir(ppy))、(2,3,7,8,12,13,17,18−オクタエチル−21H,23H−ポルフィン)プラチナム(II)のような各種金属錯体等が挙げられる。
【0044】
高分子の発光材料としては、例えば、トランス型ポリアセチレン、シス型ポリアセチレン、ポリ(ジ−フェニルアセチレン)(PDPA)、ポリ(アルキル,フェニルアセチレン)(PAPA)のようなポリアセチレン系化合物、ポリ(パラ−フェンビニレン)(PPV)、ポリ(2,5−ジアルコキシ−パラ−フェニレンビニレン)(RO−PPV)、シアノ−置換−ポリ(パラ−フェンビニレン)(CN−PPV)、ポリ(2−ジメチルオクチルシリル−パラ−フェニレンビニレン)(DMOS−PPV)、ポリ(2−メトキシ,5−(2’−エチルヘキソキシ)−パラ−フェニレンビニレン)(MEH−PPV)のようなポリパラフェニレンビニレン系化合物、ポリ(3−アルキルチオフェン)(PAT)、ポリ(オキシプロピレン)トリオール(POPT)のようなポリチオフェン系化合物、ポリ(9,9−ジアルキルフルオレン)(PDAF)、α,ω−ビス[N,N’−ジ(メチルフェニル)アミノフェニル]−ポリ[9,9−ビス(2−エチルヘキシル)フルオレン−2,7−ジル](PF2/6am4)、ポリ(9,9−ジオクチル−2,7−ジビニレンフルオレニル−オルト−コ(アントラセン−9,10−ジイル)のようなポリフルオレン系化合物、ポリ(パラ−フェニレン)(PPP)、ポリ(1,5−ジアルコキシ−パラ−フェニレン)(RO−PPP)のようなポリパラフェニレン系化合物、ポリ(N−ビニルカルバゾール)(PVK)のようなポリカルバゾール系化合物、ポリ(メチルフェニルシラン)(PMPS)、ポリ(ナフチルフェニルシラン)(PNPS)、ポリ(ビフェニリルフェニルシラン)(PBPS)のようなポリシラン系化合物等が挙げられる。
【0045】
なお、正孔輸送層41に用いられる正孔輸送材料の種類と、電子輸送層43に用いられる電子輸送材料の種類との組み合わせによっては、上述したような発光材料の他、正孔輸送材料で挙げた上記一般式(A1)または上記一般式(A2)で表される化合物や、これらの化合物同士を重合性基において重合反応させて得られる高分子を発光材料として用いることもできる。
このような化合物については、後で詳述する。
【0046】
発光層42の厚さ(平均)は、特に限定されないが、10〜150nm程度であるのが好ましく、50〜100nm程度であるのがより好ましい。発光層の厚さを前記範囲とすることにより、正孔と電子との再結合が効率よくなされ、発光層42の発光効率をより向上させることができる。
なお、本実施形態では、発光層42は、正孔輸送層41および電子輸送層43と別個に設けられているが、正孔輸送層41と発光層42とを兼ねた正孔輸送性発光層や、電子輸送層43と発光層42とを兼ねた電子輸送性発光層とすることもできる。この場合、正孔輸送性発光層の電子輸送層43との界面付近が、また、電子輸送性発光層の正孔輸送層41との界面付近が、それぞれ、発光層42として機能する。
【0047】
また、正孔輸送性発光層を用いた場合には、陽極から正孔輸送性発光層に注入された正孔が電子輸送層によって閉じこめられ、また、電子輸送性発光層を用いた場合には、陰極から電子輸送性発光層に注入された電子が電子輸送性発光層に閉じこめられるため、いずれも、正孔と電子との再結合効率を向上させることができるという利点がある。
また、各層3、4、5同士の間には、任意の目的の層が設けられていてもよい。例えば、正孔輸送層41と陽極3との間には正孔注入層を、また、電子輸送層43と陰極5との間には電子注入層等を設けることができる。このように、有機EL素子1に正孔注入層を設ける場合には、この正孔注入層に、上述したような正孔輸送材料を用いることもできる。また、有機EL素子1に電子注入層を設ける場合には、この電子注入層には、前述したような電子輸送材料の他、例えばLiFのようなアルカリハライド等を用いることができる。
【0048】
保護層(図示せず)は、有機EL素子1を構成する各層3、4、5の側面を覆うように設けられている。この保護層は、有機EL素子1を構成する各層3、4、5を気密的に封止し、酸素や水分を遮断する機能を有する。保護層を設けることにより、有機EL素子1の信頼性の向上や、変質・劣化の防止等の効果が得られる。
保護層の構成材料としては、例えば、Al、Au、Cr、Nb、Ta、Tiまたはこれらを含む合金、酸化シリコン、各種樹脂材料等を挙げることができる。なお、保護層の構成材料として導電性を有する材料を用いる場合には、短絡を防止するために、保護層と各層3、4、5の側面との間には、必要に応じて、絶縁膜を設けるのが好ましい。
【0049】
なお、第1の基板2または第2の基板6のうち少なくとも一方が可撓性を有する場合、この可撓性を有する基板により各層3、4、5の側面を覆うようにして封止することにより、第1の基板2および/または第2の基板6に保護層としての機能も発揮させることができる。
この有機EL素子1は、例えばディスプレイ用として用いることができるが、その他にも光源等としても使用可能であり、種々の光学的用途等に用いることが可能である。
【0050】
また、有機EL素子1をディスプレイに適用する場合、その駆動方式としては、特に限定されず、アクティブマトリックス方式、パッシブマトリックス方式のいずれであってもよい。
このような有機EL素子1は、本発明の半導体素子の製造方法を適用して、例えば、次のようにして製造することができる。
【0051】
図2は、図1に示す有機EL素子の製造方法を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図1中の上側を「上」、下側を「下」という。
[1]陽極形成工程
まず、第1の基板2を用意し、この第1の基板2上に陽極3を形成する。
陽極3は、例えば、プラズマCVD、熱CVD、レーザーCVDのような化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式メッキ法、電解メッキ、浸漬メッキ、無電解メッキ等の湿式メッキ法、溶射法、ゾル・ゲル法、MOD法、金属箔の接合等を用いて形成することができる。
【0052】
[2]陰極形成工程
次に、第2の基板6を用意し、この第2の基板6上に陰極5を形成する。
陰極5は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、金属箔の接合等を用いて形成することができる。
[3]電子輸送層形成工程
次に、陰極5上に電子輸送層43を形成する。
【0053】
電子輸送層43は、前述したような電子輸送材料を溶媒に溶解または分散媒に分散してなる液状の発光層形成用材料を、陰極5上に塗布法等により供給した後、この発光層形成用材料から溶媒または分散媒を除去することにより形成することができる。
発光層形成用材料の調製に用いる溶媒または分散媒としては、後述する正孔輸送層形成工程[5]で説明するのと同様の溶媒または分散媒を用いることができる。
また、塗布法としても、後述する正孔輸送層形成工程[5]で説明するのと同様の方法を用いることができる。
【0054】
[4]発光層形成工程
次に、電子輸送層43上に発光層42を形成する。
発光層42は、例えば、前述した電子輸送層43と同様にして形成することができる。すなわち、発光層42は、前述したような発光材料を用いて、前記電子輸送層形成工程[3]で説明したような方法により形成することができる。
【0055】
[5]正孔輸送層形成工程
次に、前記工程[1]により形成された陽極3を備える第1の基板2と、前記工程[2]〜前記工程[4]により形成された陰極5と電子輸送層43と発光層42とがこの順で積層された第2の基板6とを用いて、陽極3と発光層42との間に正孔輸送層41を形成する。このような、正孔輸送層41は、例えば、次のような工程を経て形成することができる。
【0056】
[5−1] まず、前述したような正孔輸送材料(半導体材料)を溶媒に溶解または分散媒に分散してなる液状の正孔輸送層形成用材料を用意する。
溶媒または分散媒としては、例えば、硝酸、硫酸、アンモニア、過酸化水素、水、二硫化炭素、四塩化炭素、エチレンカーボネイト等の無機溶媒や、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール(DEG)、グリセリン等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2−ジメトキシエタン(DME)、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン(THP)、アニソール、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、ジエチレングリコールエチルエーテル(カルビトール)等のエーテル系溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、フェニルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、メチルピロリドン等の芳香族複素環化合物系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化合物系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチル、ギ酸エチル等のエステル系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン等の硫黄化合物系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル等のニトリル系溶媒、ギ酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸系溶媒のような各種有機溶媒、または、これらを含む混合溶媒等が挙げられる。
【0057】
また、正孔輸送層形成用材料には、正孔輸送材料の他、重合開始剤を添加するのが好ましい。これにより、後工程[5−5]において、加熱処理や光照射処理のような処理を施すことにより、重合性基X同士による重合(反応)を促進させて、正孔輸送材料の高分子化を確実に行うことができる。
重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、光カチオン重合開始剤や光ラジカル重合開始剤のような光重合開始剤、熱重合開始剤および嫌気重合開始剤等が挙げられる。
【0058】
熱重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、過酸化ベンゾイルおよびイソフタル酸ジヒドラジド等を用いることができる。
光カチオン重合開始剤としては、例えば、芳香族スルホニウム塩系、芳香族ヨードニウム塩系、芳香族ジアゾニウム塩系、ピリジウム塩系および芳香族ホスホニウム塩系等のオニウム塩系の光カチオン重合開始剤や、鉄アレーン錯体およびスルホン酸エステル等の非イオン系の光カチオン重合開始剤を用いることができる。
【0059】
光ラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾイン系、アセトフェノン系、ベンジケタール系、ミヒラーズケトン系、アシルフォスフィンオキサイド系、ケトクマリン系、キサンテン系およびチオキサントン系等の光ラジカル重合開始剤を用いることができる。
さらに、重合開始剤として光重合開始剤を用いる場合には、光重合開始剤に適した増感剤を半導体層形成用材料に添加してもよい。
【0060】
[5−2] 次に、陽極3上および発光層42上に、それぞれ、重合性基Xを有する正孔輸送材料を主材料として構成される層41’を形成する(第1の工程)。
この2つの層41’の厚さを調節することにより、形成される正孔輸送層41の厚さを制御することができる。
このような層41’は、各種の方法を用いて形成することができるが、特に、次のような液相プロセスにより形成するのが好ましい。
【0061】
すなわち、1:陽極3上および発光層42上に、正孔輸送層形成用材料を液相プロセスにより供給して、液状被膜(塗膜)を形成する。2:液状被膜から溶媒または分散媒を除去して、正孔輸送材料を主材料として構成される層41’を形成するのが特に好ましい。これにより、正孔輸送材料が備える重合性基X同士が反応したり、重合性基Xが分解するのを好適に防止して、層41’を形成することができる。
【0062】
液相プロセスとしては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法等の各種塗布法を用いることができる。かかる塗布法によれば、正孔輸送層形成用材料を比較的容易に陽極3および発光層42上に供給して、液状被膜を形成することができる。
また、溶媒または分散媒を除去する方法としては、特に限定されず、例えば、自然乾燥の他、加熱による方法、真空(減圧)乾燥、不活性ガスを吹き付ける方法のように強制的に除去するものであってもよい。
【0063】
[5−3] 次に、陽極3上および発光層42上に形成された層41’中に含まれる正孔輸送材料を、形成される正孔輸送層41に含まれる正孔輸送材料の高分子の重合度よりも低い重合度まで重合させる。
これにより、それぞれの層41’を確実に半固形状または固形状のものとすることができる。その結果、次工程[5−4]において、これらの層41’同士を対向させる際に、これらの層41’の一部が陽極3上または発光層42上から流れ落ちるのを好適に防止しつつ、これらの層41’同士の位置決めをより容易に行うことができる。
【0064】
さらに、層41’を半固形状または固形状のものとすることにより、層41’の形状の安定性を向上させることができる。その結果、後工程[5−5]において、2つの層41’同士を接触させる際に、層41’の厚さを安定に保つことができる。すなわち、層41’の厚さにバラツキが生じるのを確実に防止することができる。その結果、均一な厚さの正孔輸送層41を形成することができる。これにより、正孔輸送層41の厚さ方向に対する正孔の移動距離がほぼ等しくなり、陽極3からほぼ同時に注入された正孔同士を発光層42との接触面にまでほぼ同時に到達させることができる。その結果、得られる有機EL素子1において、色ムラが生じるのを確実に防止することができる。
なお、形成される正孔輸送層41の重合度よりも低い重合度まで正孔輸送材料を重合させる条件は、後工程[5−5]で正孔輸送材料を高分子化させる条件よりも、緩和な条件に設定すればよい。
【0065】
また、本工程は、陽極3上または発光層42上に形成された層41’のいずれか一方に施すようにしてもよい。すなわち、次工程[5−4]において、これらの層41’同士を対向させる際に、この層41’を鉛直下方に向けた状態とする側のもの(本実施形態においては、第2の基板6側(発光層42上)に設けられた層41’)に、本工程を施すようにすればよい。
なお、前記工程[5−2]おいて溶媒または分散媒を除去することにより、得られる層41’が半固形状または固形状である場合には、本工程を省略するようにしてもよい。
【0066】
[5−4] 次に、図2(a)に示すように、第2の基板6側に設けられた層41’を鉛直下方に向けた状態とすることにより、発光層42上に設けられた層41’と陽極3上に設けられた層41’とを対向させる。
[5−5] 次に、図2(b)に示すように、発光層42上に設けられた層41’と陽極3上に設けられた層41’とを位置決めしつつ、これらの層41’同士を接触させる。そして、この状態で、重合性基X同士を重合させることにより、正孔輸送材料を高分子化させる。これにより、接触面付近の正孔輸送材料が高分子化して、図2(c)に示すように2つの層41’が一体化されることにより、正孔輸送層41が形成される(第2の工程)。
【0067】
ここで、形成された正孔輸送層41は、その接着面(接合面)において、重合性基X同士が重合して形成された連結構造により化学的に連結されていることから、優れた密着性を発揮するものとなる。これにより、正孔輸送層41は、優れた正孔輸送能を有するものとなる。
また、層41’中に含まれる正孔輸送材料の重合度は、形成される正孔輸送層41中に含まれる正孔輸送材料の高分子の重合度よりも低くなっている。そのため、層41’中には未反応の重合性基Xが存在(残存)していることから、接触面付近の重合性基X同士が重合するのとほぼ同時に、層41’中の重合性基X同士も重合することとなる。その結果、2つの層41’の接触面と層41’中とにおいて、ほぼ同時に正孔輸送材料が高分子化されることとなる。そのため、形成された正孔輸送層41中の各部において、高分子は、均一に存在することとなる。その結果、2つの層41’同士の接触面は、正孔輸送層41において、ほぼ認識し得ないものとなる。これにより、正孔輸送層41の各部において、正孔輸送能にバラツキが生じるのを好適に抑制または防止することができる。
【0068】
さらに、本発明の半導体装置の製造方法によれば、この層41中に樹脂バインダのような不純物を混入させることなく正孔輸送層41を得ることができることから、正孔輸送層41の正孔輸送能が低減するのを確実に防止することができる。
なお、2つの層41’同士を接触させる際には、必要に応じて第1の基板2に向かって第2の基板6を押圧するようにしてもよい。これにより、重合性基X同士を重合させる際に、それぞれの層41’の表面付近に存在する重合性基X同士をより確実に重合させ得ることから、2つの層41’をより確実に一体化させることができる。
【0069】
また、重合性基X同士を重合させる方法としては、各種の方法が用いられ、例えば、光照射する方法、加熱処理法、および嫌気処理法等が挙げられ、これらの中でも、加熱処理法を用いるのが好ましい。これにより、層41’の全体に亘って、より均一に処理を施すことができることから、正孔輸送層41中の各部における正孔輸送能にムラが生じることを好適に防止することができる。
【0070】
加熱処理法を用いる場合、加熱温度は、重合性基X同士が重合し得る温度に設定すればよく、特に限定されるものではないが、正孔輸送層41と異なる層、すなわち本実施形態においては、発光層42と電子輸送層43とを構成する主材料のガラス転移温度よりも低く設定されているのが特に好ましい。その結果、加熱処理を施す際に、発光層42や電子輸送層43が溶融するのを確実に防止することができる。これにより、加熱処理の後、除熱する際に、これらの発光層42や電子輸送層43を構成する主材料が結晶化して、これらの層42、43の特性が低減するのを確実に防止することができる。
【0071】
具体的には、加熱温度は、50〜200℃程度であるのが好ましく、70〜150℃程度であるのがより好ましい。
加熱時間は、5〜90分程度であるのが好ましく、5〜60分程度であるのがより好ましい。
なお、光を照射する方法を用いる場合、層41’に光照射する光としては、例えば、赤外線、可視光線、紫外線およびX線等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、紫外線を用いるのが特に好ましい。これにより、重合性基X同士の重合反応を容易かつ確実に進行させることができる。
【0072】
光照射する紫外線の波長は、200〜420nm程度であるのが好ましく、250〜400nm程度であるのがより好ましい。
また、紫外線の照射強度は、10〜5000mW/cm程度であるのが好ましく、20〜1000mW/cm程度であるのがより好ましい。
さらに、紫外線の照射時間は、5〜300秒程度であるのが好ましく、10〜150秒程度であるのがより好ましい。
紫外線の波長、照射強度および照射時間をかかる範囲にすることにより、層41’中に含まれる、正孔輸送材料の高分子化を比較的容易に制御することができる。
【0073】
[6]保護層形成工程
次に、陽極3、EL層4および陰極5の側面、すなわち、第1の基板2と第2の基板6との間から露出している部分を覆うように、保護層を形成する。
保護層は、例えば、前述したような材料またはその前駆体を含有する液状材料を、前述した塗布法等により保護層を形成する領域に供給した後、乾燥させることにより形成する(設ける)ことができる。
以上のような工程を経て、有機EL素子1が製造される。
【0074】
なお、本実施形態では、2つの層41’を一体化させることにより正孔輸送層41を形成する場合について説明したが、例えば、2つの層を一体化させて形成する層は、発光層42や電子輸送層43であってもよい。
ここで、2つの層を一体化させて発光層42を形成する場合、前述した発光材料に置換基Xを導入した化合物や、前記一般式(A1)または前記一般式(A2)で表される化合物のうち、発光材料としてなり得るものを用いて、前記正孔輸送層形成工程[5]で説明したような方法により行うことができる。
また、2つの層を一体化させて電子輸送層43を形成する場合、前述した電子輸送材料に置換基Xを導入した化合物や、前記一般式(A1)または前記一般式(A2)で表される化合物のうち、電子輸送能を有するものを用いて、前記正孔輸送層形成工程[5]で説明したような方法により行うことができる。
【0075】
<一般式(A1)または一般式(A2)で表される化合物>
次に、正孔輸送材料、発光材料および電子輸送材料で説明した下記一般式(A1)で表される化合物(以下、単に「化合物(A1)」という。)と下記一般式(A2)で表される化合物(以下、単に「化合物(A2)」という。)とについて詳述する。
【0076】
【化7】

[式中、2つのRは、それぞれ独立して、炭素数2〜8の直鎖アルキル基を表し、同一であっても、異なっていてもよい。4つのRは、それぞれ独立して、水素原子、メチル基またはエチル基を表し、同一であっても、異なっていてもよい。2つのXは、下記一般式(B1)〜下記一般式(B3)で表される置換基のうちのいずれかを示す。ただし、2つのXは、同種の置換基であるが、その炭素数は、同一であっても異なっていてもよい。Yは、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環、または、置換もしくは無置換の複素環を少なくとも1つ含む基を表す。]
【0077】
【化8】

[式中、8つのRは、それぞれ独立して、水素原子、メチル基またはエチル基を表し、同一であっても、異なっていてもよい。X、X、XおよびXは、下記一般式(B1)〜下記一般式(B3)で表される置換基のうちのいずれかを示す。ただし、これらX、X、XおよびXは、同種の置換基であるが、その炭素数は、同一であっても、異なっていてもよい。Yは、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環、または、置換もしくは無置換の複素環を少なくとも1つ含む基を表す。]
【0078】
【化9】

[これらの式中、nは、2〜8の整数を表す。nは、3〜8の整数を表し、mは、0〜3の整数を表す。Zは、水素原子またはメチル基を表し、Zは、水素原子、メチル基またはエチル基を表す。]
【0079】
ここで、化合物(A1)において、重合性基Xは、置換基Xを表し、化合物(A2)において、重合性基Xは、置換基X、置換基X、置換基Xおよび置換基X(以下、これらのものを総称して「置換基X2〜5」ということもある。)を表す。
化合物(A1)および化合物(A2)が重合性基Xとして、以上のようなものを有することから、2つの層を一体化させて半導体層を得る際に、これらの層に含まれる半導体材料として、化合物(A1)および化合物(A2)を用いることができる。
【0080】
また、化合物(A1)および化合物(A2)は、それぞれが備える重合性基Xにおいて重合していない状態でも優れたキャリア輸送能を発揮するが、それぞれの化合物同士を重合性基Xにおいて重合させた高分子は、より優れたキャリア輸送能を発揮するものとなる。
そのため、化合物(A1)または化合物(A2)を重合させた高分子を半導体層の主材料として用いることにより、半導体層は、より優れたキャリア輸送能を発揮するものとなる。
以下、これらの高分子の特徴について説明する。
【0081】
これらの高分子(ポリマー)は、化合物(A1)または化合物(A2)(ジフェニルアミン誘導体)同士を、それぞれが有する重合性基Xにおいて重合反応させて得られたもの、すなわち、重合性基以外の主骨格(ジフェニルアミン骨格)同士を、重合性基を反応させて得られた化学構造(以下、この化学構造を「連結構造」という。)により連結してなるものである。
【0082】
まず、化合物(A1)により得られた高分子について説明する。
ここで、化合物(A1)同士を、置換基Xにおいて重合反応させて得られた高分子では、連結構造を介して前記主骨格が繰り返して結合する構成、すなわち、主骨格が所定の距離を離間して繰り返し存在している構成となっていることから、隣接する主骨格同士の相互作用が低減する。
【0083】
また、前記主骨格は、共役系の化学構造を有し、その特有な電子雲の広がりにより、高分子における円滑なキャリア輸送に寄与する。
このようなことから、この高分子は、優れたキャリア輸送能を発揮し、かかる高分子を主材料として得られた半導体層は、キャリア輸送能に優れたものとなる。
なお、このような高分子において、主骨格同士の離間距離が短くなり過ぎると、隣接する主骨格同士の相互作用が大きくなる傾向を示し、主骨格の離間距離が長くなり過ぎると、主骨格同士間におけるキャリアの受け渡しが困難となり、高分子のキャリア輸送能が低減する傾向を示す。
【0084】
かかる観点から、置換基Xの構造を設定するのが好ましく、置換基Xとして上記一般式(B1)または(B2)のものを選択した場合には、nが2〜8、特に3〜6の直鎖状の炭素−炭素結合のものが好ましく、上記一般式(B3)のものを選択した場合には、nが3〜8、および、mが0〜3の直鎖状の炭素−炭素結合のものが好ましく、特にnが4〜6、および、mが1または2の直鎖状の炭素−炭素結合のものが好ましい。
かかる関係を満足するより、主骨格同士の距離を適度に保つことが可能となり、高分子中において、隣接する主骨格同士の相互作用をより確実に低減することができるとともに、主骨格同士間におけるキャリアの受け渡しがより確実に行われることから、高分子のキャリア輸送能が優れたものとなる。
【0085】
ここで、置換基Xとして(B1)および(B2)のものを選択した場合には、その末端に、それぞれ、(メタ)アクリロイル基およびエポキシ基が存在する。(メタ)アクリロイル基およびエポキシ基は、高い反応性および結合安定性を有することから、比較的容易に置換基X同士を重合反応させて、鎖長の長い高分子を形成することができる。
さらに、(メタ)アクリロイル基を用いて重合反応させることにより生じた連結構造中には、酸素原子と炭素原子との内に二重結合(π結合)が2つ存在することとなる。これにより、主骨格同士の距離が比較的長くなった場合においても、この2つのπ結合(共役系の結合)を介して、主骨格同士間におけるキャリアの受け渡しを確実に行うことができる。
【0086】
また、2つのπ結合と主骨格との間には直鎖状の炭素−炭素結合(アルキレン基)が存在することから、主骨格同士の相互作用の増強を防止することができる。
また、エポキシ基を用いて重合反応させることにより生じた連結構造中には、エーテル結合と、直鎖状の炭素−炭素結合(アルキレン基)とが存在することとなる。このような構造を有する連結構造中においては、電子の移動が抑制されることとなる。これにより、主骨格同士の距離が比較的短くなった場合においても、主骨格同士の相互作用が増強するのを防止または抑制することができる。
【0087】
なお、例えば、ベンゼン環のように、π結合の中でも共役系の結合が多い構造が存在すると、この構造を介して隣接する主骨格同士が相互作用を及ぼすようになり、主骨格同士を離間することによる効果が相殺されてしまう。
ところで、置換基Xとして(B3)のものを選択した場合には、置換基Xが、上記一般式(B3)に示すように、その末端に官能基として、スチレン基に置換基Zを導入したスチレン誘導体基を有していることから、連結構造中には、ベンゼン環が存在することとなる。
【0088】
そのため、ベンゼン環と共役系の化学構造を有する主骨格とが接近しすぎる場合、例えば、ベンゼン環と主骨格とがエーテル結合により結合している場合や、nとmとの合計数が2の場合等では、このベンゼン環を介して隣接する主骨格同士が相互作用を及ぼすようになる。
ところが、この高分子では、主骨格とこのベンゼン環との結合がnとmとの合計数が3以上、すなわち3つ以上のメチレン基とエーテル結合とを介して形成される。これにより、主骨格とベンゼン環との離間距離が好適な状態に保たれることとなる。その結果、隣接する主骨格同士が相互作用を及ぼしあうのを好適に抑制または防止にすることができる。
【0089】
また、置換基Zは、水素原子、メチル基またはエチル基であるが、置換基Zは、nとmとの合計数、すなわちメチレン基の合計数に応じて選択するようにすればよい。
例えば、前記合計数が小さい場合には、置換基Zとしては、メチル基もしくはエチル基を選択するようにすればよい。ここで、メチル基とエチル基が電子供与性の置換基であることから、置換基Zとして、メチル基およびエチル基を選択することにより、電子を主骨格側に偏らせることができる。その結果、ベンゼン環を介して隣接する主骨格同士が相互作用を及ぼすようになるのを好適に防止することができる。
【0090】
また、2つの置換基Xは、ほぼ同一の炭素数のものであるのが好ましく、同一の炭素数のものであるのがより好ましい。これにより、隣接する主骨格同士の離間距離をほぼ一定とすることができる。その結果、この高分子中において電子密度に偏りが生じるのを好適に防止することができる。これにより、高分子のキャリア輸送能を向上させることができる。
また、置換基Xは、ベンゼン環の2位から6位のいかなる位置に結合してもよいが、特に、3位、4位または5位のうちのいずれかに結合しているのが好ましい。これにより、隣接する主骨格同士の結合を置換基Xを介して行うことの効果をより顕著に発揮させることができる。すなわち、隣接する主骨格同士をより確実に離間させることができる。
【0091】
次に、置換基Rは、炭素数2〜8の直鎖アルキル基であるが、特に、炭素数3〜6の直鎖アルキル基であるのが好ましい。その結果、この置換基Rによる立体障害により、隣接する高分子同士が接近しすぎるのを阻止して、これらの距離を適度に保つことができる。その結果、形成される半導体層において、異なる高分子が有する主骨格同士の間での相互作用を確実に低減することができ、半導体層のキャリア輸送能を優れたものにすることができる。
【0092】
また、2つの置換基Rは、ほぼ同一の炭素数のものであるのが好ましく、同一の炭素数のものであるのがより好ましい。これにより、形成される半導体層において、隣接する高分子同士の距離をほぼ一定の間隔に保つことができる。その結果、半導体層中の高分子の密度が一定なものとなる。
また、置換基Rは、ベンゼン環の2位から6位のいかなる位置に結合してもよいが、特に、4位に結合しているのが好ましい。これにより、置換基Rを導入することの効果をより顕著に発揮させることができる。すなわち、隣接する高分子同士が接近しすぎるのをより確実に阻止することができる。
【0093】
さらに、置換基Rは、水素原子、メチル基またはエチル基であり、置換基Rは、置換基Rの炭素数に応じて選択するようにすればよい。すなわち、置換基Rの炭素数が大きい場合には、置換基Rとしては、水素原子を選択し、置換基Rの炭素数が小さい場合には、置換基Rとしては、メチル基もしくはエチル基を選択するようにすればよい。
【0094】
ここで、この化合物(A1)において、基(結合基)Yの化学構造を適宜設定することにより、高分子のキャリア輸送能の特性を変化させることができる。
これは、キャリア輸送に寄与する主骨格における電子雲の広がり(電子の分布状態)が変化することに伴って、高分子において、例えば、その価電子帯および伝導帯のエネルギー準位やバンドギャップ(禁止帯幅)の大きさ等が変化することに起因すると考えられる。
【0095】
化合物(A1)では、基Yに置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環、または、置換もしくは無置換の複素環が少なくとも1つ含まれており、これらの芳香族炭化水素環および/または複素環の種類を適宜選択することにより、高分子におけるキャリア輸送能の特性を比較的容易に調整することができる。
例えば、基(結合基)Yとして、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環により構成されるものを選択することにより、得られる高分子が優れた正孔輸送能を発揮するものとなることから、このような基Yを有する化合物(A1)を前述した正孔輸送材料として用いることができる。
具体的には、無置換の芳香族炭化水素環により構成される構造としては、例えば、下記化学式(C1)〜(C17)で表されるものが挙げられる。
【0096】
【化10】

【0097】
また、基Yの総炭素数は、6〜30であるのが好ましく、10〜25であるのがより好ましく、10〜20であるのがさらに好ましい。
さらに、基Yにおいて、芳香族炭化水素環の数は、1〜5であるのが好ましく、2〜5であるのがより好ましく、2または3であるのがさらに好ましい。
これらのことを考慮すると、化合物(A1)において、基Yとしては、前記化学式(C1)で表されるビフェニレン基またはその誘導体が特に好ましい構造である。
かかる基を選択することにより、高分子の正孔輸送能がより優れたものとなり、形成される半導体層は、正孔輸送能により優れたものとなる。
【0098】
次に、基(結合基)Yとして、置換もしくは無置換の複素環により構成されるものを選択することにより、得られる高分子におけるキャリア輸送能の特性をより容易に調整することができる。
このような複素環としては、特に、窒素、酸素、硫黄、セレンおよびテルルのうちの少なくとも1種のヘテロ原子を含有するものを選択するのが好ましい。かかる種類のヘテロ原子を含有する複素環を選択することにより、高分子の価電子帯および伝導帯のエネルギー準位やバンドギャップ(禁止帯幅)の大きさ等を変化させることが特に容易となる。
【0099】
また、複素環は、芳香族系および非芳香族系のいずれであってもよいが、芳香族系のものであるのが好ましい。これにより、主骨格の共役系の化学構造における電子密度の偏り、すなわち、π電子の局在化を好適に防止して、高分子のキャリア輸送能の低下を防止することができる。
基Yは、同一または異なる複素環を1〜5つ含むものが好ましく、1〜3つ含むものがより好ましい。基Yにこのような数の複素環が存在すれば、高分子の価電子帯および伝導帯のエネルギー準位やバンドギャップ(禁止帯幅)の大きさ等を十分に変化させることができる。
【0100】
また、基Yの総炭素数は、2〜75であるのが好ましく、2〜50であるのがより好ましい。基Yの総炭素数が多すぎると、置換基Xの種類によっては、化合物(A1)の溶媒に対する溶解度が低下する傾向を示すおそれがある。
また、基Yの総炭素数をかかる範囲内とすることにより、主骨格における平面性が保たれることから、高分子におけるキャリア輸送能が低下するのを確実に防止することができる。
これらのことを考慮すると、無置換の複素環により構成される構造としては、例えば、下記化学式(D1)〜(D17)で表されるものが特に好ましい構造である。
【0101】
【化11−A】

【0102】
【化11−B】

[これらの式中、各Qは、それぞれ独立して、N−T、S、O、SeまたはTe(ただし、Tは、H、CHまたはPhを表す。)を表し、同一であっても、異なっていてもよい。各Qは、それぞれ独立して、SまたはOを表し、同一であっても、異なっていてもよい。Qは、N−T、S、O、SeまたはTe(ただし、Tは、H、CH、CまたはPhを表す。)を表す。]
【0103】
さらに、基(結合基)Yとして、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環および置換もしくは無置換の複素環により構成されるものを選択することにより、前述したようなそれぞれの特性を相乗的に付与することができる。
このような基Yは、化合物(A1)中の各Nにそれぞれ、直接結合する芳香族炭化水素環と、これらの芳香族炭化水素環の間に存在する少なくとも1つの複素環とを含むものであるのが、特に好ましい。これにより、高分子中における電子密度に偏りが生じるのを確実に防止することができる。その結果、高分子のキャリア輸送能が均一なものとなる。
このことを考慮すると、無置換の芳香族炭化水素環および無置換の複素環により構成される構造としては、例えば、下記化学式(E1)〜(E3)で表されるものが特に好ましい構造である。
【0104】
【化12】

[これらの式中、各Qは、それぞれ独立して、N−T、S、O、SeまたはTe(ただし、Tは、H、CHまたはPhを表す。)を表し、同一であっても、異なっていてもよい。]
【0105】
このように、基Yの化学構造を適宜設定することにより、例えば、基Yとして前記化学式(D2)、(D16)、(E1)および(E3)を選択して得られる高分子は、前記化学式(D17)を選択して得られる高分子に対して優れた正孔輸送能を発揮し、前記化学式(D8)および(E2)を選択して得られる高分子に対して特に優れた正孔輸送能を発揮するものとなる。
これとは逆に、基Yとして前記化学式(D8)、(D17)および(E2)を選択して得られる高分子は、前記化学式(D2)および(D16)を選択して得られる高分子に対して優れた電子輸送能を発揮し、前記化学式(E1)および(E3)を選択して得られる高分子に対して特に優れた電子輸送能を発揮するものとなる。
【0106】
これらのことから、例えば、基Yが前記化学式(D2)、(D16)、(E1)および(E3)のものを、正孔輸送材料として選択して用いた場合には、基Yが前記化学式(E2)、(D8)および(D17)のものを電子輸送材料として用いることができる。
なお、正孔輸送材料と電子輸送材料との組み合わせによっては、発光材料としても用いることもできる。
【0107】
例えば、正孔輸送材料として、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン/スチレンスルホン酸)のようなポリ(チオフェン/スチレンスルホン酸)、N,N’−ビス(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジン(α−NPD)のようなアリールアミン化合物等を用い、電子輸送材料として3,4,5−トリフェニル−1,2,4−トリアゾールのようなトリアゾール系化合物、2−(4−t−ブチルフェニル)−5−(ビフェニル−4−イル)−1,3,5−オキサジアゾール(PBD)のようなオキサジアゾール化合物等を用いた場合には、基Yが前記化学式(D12)および(D14)のものを発光材料として用いることができる。
【0108】
また、基Yに含まれる無置換の芳香族炭化水素環や無置換の複素環には、主骨格における平面性が大きく阻害されないような置換基が導入されていてもよい。このような置換基としては、例えば、メチル基またはエチル基のような比較的炭素数の少ないアルキル基やハロゲン基等が挙げられる。
【0109】
次に、化合物(A2)により得られた高分子について説明する。
以下、化合物(A1)により得られた高分子との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
化合物(A1)では、置換基Xと置換基Rとをそれぞれ2つ有し、置換基Rを4つ有するのに対して、化合物(A2)では、置換基X2〜5を4つ有し、置換基Rを8つ有する点が異なりそれ以外は、化合物(A2)は、化合物(A1)と同様である。
【0110】
置換基X2〜5としては、前述した置換基Xと同様の構造を有するものが選択され、化合物(A2)では、この置換基X2〜5を4つ有することから、2次元的なネットワークが形成されやすくなる。
置換基Xと置換基Xとは、ほぼ同一の炭素数のものであるのが好ましく、同一の炭素数のものであるのがより好ましい。これにより、この置換基X2〜5(置換基Xまたは置換基X)の重合反応により連結される主骨格同士の離間距離のばらつきを小さくすることができる。すなわち、高分子中における主骨格同士の離間距離のばらつきを小さくすることができる。その結果、この高分子中の電子密度に偏りが生じるのを好適に防止できる。これにより、高分子のキャリア輸送能を向上させることができる。
【0111】
かかる観点から、置換基Xと置換基Xとも、ほぼ同一の炭素数のものであるのが好ましく、同一の炭素数のものであるのがより好ましい。これにより、前記効果がより向上し、高分子のキャリア輸送能をより向上させることができる。
さらには、置換基X、置換基X、置換基Xおよび置換基Xを、好ましくは、ほぼ同一の炭素数、より好ましくは、同一の炭素数とすることにより、前記効果が特に顕著に発揮される。また、主骨格から突出している置換基X2〜5の長さがほぼ同一(特に同一)となることから、置換基X2〜5による立体障害が生じる可能性を低減させることができる。これにより、置換基X2〜5同士の重合反応を確実に行うことができる。すなわち、高分子の形成を確実に行うことができる。その結果、高分子のキャリア輸送能をさらに向上させることができる。
【0112】
置換基Rは、水素原子、メチル基またはエチル基であり、この置換基Rは、置換基X2〜5の炭素数に応じて選択するようにすればよい。例えば、置換基X2〜5の炭素数が大きい場合には、置換基Rとしては、水素原子を選択し、置換基X2〜5の炭素数が小さい場合には、置換基Rとしては、メチル基もしくはエチル基を選択するようにすればよい。
【0113】
ところで、置換基Xまたは置換基X2〜5(以下、これらを総称して「置換基X」という。)として、前記一般式(B1)〜前記一般式(B3)で表されるものに代えて、下記一般式(B4)で表されるものを選択することもできる。この場合、置換基Xにおいて重合反応させて高分子を得るには、置換基Xと置換基Xとの間に、化学式COClで表されるホスゲンおよび/またはその誘導体を介在させた状態で、重縮合反応させて下記一般式(B5)で表される化学構造を形成することにより行うことができる。
【0114】
【化13】

[これらの式中、各nは、それぞれ独立して、2〜8の整数を表し、同一であっても、異なっていてもよい。]
【0115】
このような高分子は、前記一般式(B5)で表される化学構造、すなわち2つの直鎖状の炭素−炭素結合(アルキレン基)がカーボネート結合により連結する化学構造を介して前記主骨格が繰り返して存在する構成となっている。この化学構造の存在により、置換基Xとして、前記一般式(B1)〜前記一般式(B3)で表されるものを用いた場合と同様に、主骨格同士を所定の距離離間して存在させることができ、隣接する主骨格同士の相互作用が低減することとなる。
また、ホスゲンおよび/またはその誘導体としては、置換基Xの末端の水酸基と重縮合反応することにより、前記一般式(B5)で表される化学構造が形成されるものであれば、特に限定されないが、特に、ホスゲンおよび/または下記一般式(B6)で表される化合物を主成分とするものを用いるのが好ましい。
【0116】
【化14】

[式中、2つのZは、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基またはベンジル基を表し、同一であっても、異なっていてもよい。]
【0117】
ここで、置換基X(水酸化アルキル基)とホスゲンおよび/またはその誘導体とが重縮合反応すると、副生成物が生成することとなる。このような重縮合反応において、ホスゲンおよび/または前記化合物(B6)を用いることにより、形成された半導体層中から前記副生成物を比較的容易に除去することができる。これにより、半導体層中において前記副生成物によりキャリア(正孔や電子)が捕捉されるのを確実に阻止することができる。その結果、半導体層のキャリア輸送能が低減することを好適に防止することができる。
さて、以上のような化合物(A1)または化合物(A2)から得られた高分子には、必要に応じて架橋剤が添加されていてもよい。
【0118】
すなわち、化合物(A1)または化合物(A2)が備える置換基X同士の重合反応を架橋剤を介して行うようにしてもよい。
このような架橋剤としては、例えば、アクリル系架橋剤やジビニルベンゼンのようなビニル化合物、エポキシ架橋剤およびポリアミン系架橋剤等が挙げられる。
ここで、置換基Xとして、前記一般式(B1)〜前記一般式(B3)で表されるものを選択する場合、置換基X同士の重合反応を架橋剤を介在させた状態で行うことは、特に有効である。これにより、置換基Xとして、その炭素数が比較的小さいもの、換言すれば、その鎖長が比較的短いものを選択した場合においても、主骨格同士の離間距離が小さくなりすぎるのを好適に防止することができる。その結果、主骨格同士の離間距離が適切な大きさに保たれて、主骨格同士の相互作用が増強するのを確実に防止することができる。
【0119】
置換基Xとして、前記一般式(B1)で表されるものを選択した場合、架橋剤としては、例えば、ポリエステル(メタ)アクリレート架橋剤、エポキシ(メタ)アクリレート架橋剤およびポリウレタン(メタ)アクリレート架橋剤等のアクリル系架橋剤のうちの少なくとも1種を用いるのが好ましい。
なお、ポリエステル(メタ)アクリレート架橋剤としては、例えば、下記一般式(F1)〜(F3)で表される化合物が挙げられる。
エポキシ(メタ)アクリレート架橋剤としては、例えば、下記一般式(F4)〜(F8)で表される化合物が挙げられる。
ポリウレタン(メタ)アクリレート架橋剤としては、例えば、下記一般式(F9)で表される化合物が挙げられる。
【0120】
【化15−A】

【0121】
【化15−B】

[これらの式中、nは、4500以下の整数を表す。nは、1〜3の整数を表す。nは、0〜1500の整数を表す。各nは、それぞれ独立して、1〜10の整数を表し、同一であっても、異なっていてもよい。nは、1〜40の整数を表す。nは、1〜100の整数を表す。各Rは、それぞれ独立して、炭素数が1〜10のアルキレン基を表し、同一であっても、異なっていてもよい。Rは、炭素数が1〜100のアルキレン基を表す。各Aは、それぞれ独立して、水素原子またはメチル基を表し、同一であっても、異なっていてもよい。各Aは、それぞれ独立して、ジイソシアネート化合物から2つのイソシアネート基を除いた基を表し、同一であっても、異なっていてもよい。]
【0122】
また、前記一般式(B2)で表されるものを選択した場合、架橋剤としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル系エポキシ架橋剤、ビスフェノール型エポキシ架橋剤、グリシジルエステル系エポキシ架橋剤、脂環式系エポキシ架橋剤、ウレタン変性エポキシ架橋剤、ケイ素含有エポキシ架橋剤、多官能性フェノール系エポキシ架橋剤およびグリシジルアミン系エポキシ架橋剤等のエポキシ架橋剤や、脂肪族ポリアミン系架橋剤および脂環式ポリアミン系架橋剤等のポリアミン系架橋剤のうちの少なくとも1種を用いるのが好ましい。
【0123】
なお、(メタ)アクリル酸エステル系エポキシ架橋剤としては、例えば、下記一般式(G1)で表される化合物が挙げられる。
ビスフェノール型エポキシ架橋剤としては、例えば、下記一般式(G2)〜(G6)で表される化合物が挙げられる。
グリシジルエステル系エポキシ架橋剤としては、例えば、下記一般式(G7)〜(G8)で表される化合物が挙げられる。
【0124】
脂環式系エポキシ架橋剤としては、例えば、下記一般式(G9)〜(G12)で表される化合物が挙げられる。
ウレタン変性エポキシ架橋剤としては、例えば、下記一般式(G13)で表される化合物が挙げられる。
ケイ素含有エポキシ架橋剤としては、例えば、下記一般式(G14)で表される化合物が挙げられる。
多官能性フェノール系エポキシ架橋剤としては、例えば、下記一般式(G15)〜(G22)で表される化合物が挙げられる。
グリシジルアミン系エポキシ架橋剤としては、例えば、下記一般式(G23)〜(G25)で表される化合物が挙げられる。
【0125】
【化16−A】

【0126】
【化16−B】

【0127】
【化16−C】

【0128】
【化16−D】

[これらの式中、Aは、水素原子またはメチル基を表す。各nは、それぞれ独立して、0〜10の整数を表し、同一であっても、異なっていてもよい。各nは、それぞれ独立して、1〜20の整数を表し、同一であっても、異なっていてもよい。n10は、1〜30の整数を表す。n11は、0〜8の整数を表す。Aは、ジイソシアネート化合物から2つのイソシアネート基を取り除いた基を表し、各Aは、それぞれ独立して、ジオール化合物から2つの水酸基を取り除いた基を表し、同一であっても異なっていてもよい。]
【0129】
また、脂肪族ポリアミン系架橋剤としては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ヘキサメチレンジアミンおよびジエチルアミノプロピルアミン等が挙げられる。
脂環式ポリアミン系架橋剤としては、例えば、イソホロンジアミン、ノルボルネンジアミンおよびメンセンジアミン等が挙げられる。
さらに、前記一般式(B3)で表されるものを選択した場合、架橋剤としては、例えば、下記一般式(H1)で表されるポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートやジビニルベンゼンのようなビニル化合物のうちの少なくとも1種を用いるのが好ましい。
【0130】
【化17】

[式中、n12は、5〜15の整数を表し、各Aは、それぞれ独立して、水素原子またはメチル基を表し、同一であっても、異なっていてもよい。]
【0131】
<電子デバイス>
次に、本発明の電子デバイスをディスプレイ装置に適用した場合を一例に説明する。
図3は、本発明の電子デバイスを適用したディスプレイ装置の実施形態を示す縦断面図である。
図3に示すディスプレイ装置10は、基体20と、この基体20上に設けられた複数の有機EL素子1とで構成されている。
【0132】
基体20は、基板21と、この基板21上に形成された回路部22とを有している。
回路部22は、基板21上に形成された、例えば酸化シリコン層からなる保護層23と、保護層23上に形成された駆動用TFT(スイッチング素子)24と、第1層間絶縁層25と、第2層間絶縁層26とを有している。
【0133】
駆動用TFT24は、シリコンからなる半導体層241と、半導体層241上に形成されたゲート絶縁層242と、ゲート絶縁層242上に形成されたゲート電極243と、ソース電極244と、ドレイン電極245とを有している。
このような回路部22上に、各駆動用TFT24に対応して、それぞれ、有機EL素子1が設けられている。また、隣接する有機EL素子1同士は、第1隔壁部31および第2隔壁部32により区画されている。
【0134】
本実施形態では、各有機EL素子1の陰極5は、画素電極を構成し、各駆動用TFT24のドレイン電極245に配線27により電気的に接続されている。
また、各有機EL素子1において、陽極3および正孔輸送層41は、それぞれ、分割されておらず一体的に形成されており、この正孔輸送層41が2つの層を一体化させることより形成されている。
そして、各有機EL素子1を覆うように封止部材(図示せず)が基体20に接合され、各有機EL素子1が封止されている。
ディスプレイ装置10は、単色表示であってもよく、各有機EL素子1に用いる発光材料を選択することにより、カラー表示も可能である。
【0135】
<電子機器>
このようなディスプレイ装置10(本発明の電子デバイス)は、各種の電子機器に組み込むことができる。
図4は、本発明の電子機器を適用したモバイル型(またはノート型)のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。
【0136】
この図において、パーソナルコンピュータ1100は、キーボード1102を備えた本体部1104と、表示部を備える表示ユニット1106とにより構成され、表示ユニット1106は、本体部1104に対しヒンジ構造部を介して回動可能に支持されている。
このパーソナルコンピュータ1100において、表示ユニット1106が備える表示部が前述のディスプレイ装置10で構成されている。
【0137】
図5は、本発明の電子機器を適用した携帯電話機(PHSも含む)の構成を示す斜視図である。
この図において、携帯電話機1200は、複数の操作ボタン1202、受話口1204および送話口1206とともに、表示部を備えている。
携帯電話機1200において、この表示部が前述のディスプレイ装置10で構成されている。
【0138】
図6は、本発明の電子機器を適用したディジタルスチルカメラの構成を示す斜視図である。なお、この図には、外部機器との接続についても簡易的に示されている。
ここで、通常のカメラは、被写体の光像により銀塩写真フィルムを感光するのに対し、ディジタルスチルカメラ1300は、被写体の光像をCCD(Charge Coupled Device)などの撮像素子により光電変換して撮像信号(画像信号)を生成する。
【0139】
ディジタルスチルカメラ1300におけるケース(ボディー)1302の背面には、表示部が設けられ、CCDによる撮像信号に基づいて表示を行う構成になっており、被写体を電子画像として表示するファインダとして機能する。
ディジタルスチルカメラ1300において、この表示部が前述のディスプレイ装置10で構成されている。
【0140】
ケースの内部には、回路基板1308が設置されている。この回路基板1308は、撮像信号を格納(記憶)し得るメモリが設置されている。
また、ケース1302の正面側(図示の構成では裏面側)には、光学レンズ(撮像光学系)やCCDなどを含む受光ユニット1304が設けられている。
撮影者が表示部に表示された被写体像を確認し、シャッタボタン1306を押下すると、その時点におけるCCDの撮像信号が、回路基板1308のメモリに転送・格納される。
【0141】
また、このディジタルスチルカメラ1300においては、ケース1302の側面に、ビデオ信号出力端子1312と、データ通信用の入出力端子1314とが設けられている。そして、図示のように、ビデオ信号出力端子1312にはテレビモニタ1430が、デ−タ通信用の入出力端子1314にはパーソナルコンピュータ1440が、それぞれ必要に応じて接続される。さらに、所定の操作により、回路基板1308のメモリに格納された撮像信号が、テレビモニタ1430や、パーソナルコンピュータ1440に出力される構成になっている。
【0142】
なお、本発明の電子機器は、図4のパーソナルコンピュータ(モバイル型パーソナルコンピュータ)、図5の携帯電話機、図6のディジタルスチルカメラの他にも、例えば、テレビや、ビデオカメラ、ビューファインダ型、モニタ直視型のビデオテープレコーダ、ラップトップ型パーソナルコンピュータ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳(通信機能付も含む)、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニタ、電子双眼鏡、POS端末、タッチパネルを備えた機器(例えば金融機関のキャッシュディスペンサー、自動券売機)、医療機器(例えば電子体温計、血圧計、血糖計、心電表示装置、超音波診断装置、内視鏡用表示装置)、魚群探知機、各種測定機器、計器類(例えば、車両、航空機、船舶の計器類)、フライトシュミレータ、その他各種モニタ類、プロジェクター等の投射型表示装置等に適用することができる。
【0143】
以上、本発明の半導体素子の製造方法、半導体素子、電子デバイスおよび電子機器を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものでない。
例えば、本発明の半導体素子は、上述した有機EL素子に適用することができる他、例えば、光電変換素子や薄膜トランジスタ等に適用することができる。
【実施例】
【0144】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.化合物の合成
まず、以下に示すような化合物(A)〜(H)を用意した。
<化合物(A)>
6−(p−アミノフェニル)ヘキサノールを無水ジメチルホルムアミド中で、4−メトキシベンジルブロミドと水素化ナトリウムで処理し、ヒドロキシル基をベンジルエーテル基に変換し保護した。
【0145】
次に、その得られた化合物1molを酢酸150mLに溶解し、室温で無水酢酸を滴下後、撹拌した。反応終了後、析出した固体をろ過し、水洗後、乾燥した。
次に、その得られた物質0.37mol、1−ブロモ−4−ヘキシルベンゼン0.66mol、炭酸カリウム1.1mol、銅粉、ヨウ素を混合し、200℃で加熱した。放冷後、イソアミルアルコール130mL、純水50mL、水酸化カリウム0.73molを加え撹拌後、乾燥した。
【0146】
さらに、そこで得られた化合物130mmol、4,4’−ジヨードビフェニル62mmol、酢酸パラジウム1.3mmol、t−ブチルホスフィン5.2mmol、t−ブトキシナトリム260mmol、キシレン700mLを混合して、120℃で撹拌した。
その後、放冷し、結晶化した。
その得られた化合物を、Pd−C触媒下水素ガスで還元し、ベンジルエーテル基からヒドロキシル基へ変換し脱保護した。
【0147】
次に、その化合物100mmolとエピクロルヒドリン2000mmolを少量のテトラ−n−ブチルアンモニウム硫酸水素塩(相間移動触媒)を添加した50%水酸化ナトリウム水溶液中に加え、室温下で10時間攪拌した後、放冷し結晶化して化合物を得た。
そして、MS法、1H-NMR法、13C-NMR法、およびFT−IR法により、得られた化合物が下記化合物(A)であることを確認した。
【0148】
<化合物(B)>
6−(p−アミノフェニル)ヘキサノールを無水ジメチルホルムアミド中で、4−メトキシベンジルブロミドと水素化ナトリウムで処理し、ヒドロキシル基をベンジルエーテル基に変換し保護した。
次に、その得られた化合物1molを酢酸150mLに溶解し、室温で無水酢酸を滴下後、撹拌した。反応終了後、析出した固体をろ過し、水洗後、乾燥した。
【0149】
次に、6−(p−アミノフェニル)ヘキサノールに施したのと同様の処理により、6−(p−ブロモフェニル)ヘキサノールから、ヒドロキシル基をベンジルエーテル基に変換し保護した乾燥物(ベンジルエーテル誘導体)を得た。
次に、6−(p-アミノフェニル)ヘキサノールから得られたベンジルエーテル誘導体0.37mol、6−(p−ブロモフェニル)ヘキサノールから得られたベンジルエーテル誘導体0.66mol、炭酸カリウム1.1mol、銅粉、ヨウ素を混合し、200℃で加熱した。放冷後、イソアミルアルコール130mL、純水50mL、水酸化カリウム0.73molを加え撹拌後、乾燥した。
【0150】
さらに、そこで得られた化合物130mmol、4,4’−ジヨードビフェニル62mmol、酢酸パラジウム1.3mmol、t−ブチルホスフィン5.2mmol、t−ブトキシナトリム260mmol、キシレン700mLを混合して、120℃で撹拌した。その後、放冷し、結晶化した。
その得られた化合物を、Pd−C触媒下水素ガスで還元し、ベンジルエーテル基からヒドロキシル基へ変換し脱保護した。
【0151】
次に、その化合物100mmolとエピクロルヒドリン2000mmolを少量のテトラ−n−ブチルアンモニウム硫酸水素塩(相間移動触媒)を添加した50%水酸化ナトリウム水溶液中に加え、室温下で10時間攪拌した後、放冷し結晶化して化合物を得た。
そして、MS法、1H-NMR法、13C-NMR法、およびFT−IR法により、得られた化合物が下記化合物(B)であることを確認した。
【0152】
<化合物(C)>
4,4’−ジヨードビフェニルに代えて2,5−ビス(4−ヨードフェニル)−チオフェンを用いた以外は、前記化合物(B)と同様にして、化合物(C)を得た。
<化合物(D)>
4,4’−ジヨードビフェニルに代えて3,5−ジヨード−1,2,4−トリアゾールを用いた以外は、前記化合物(B)と同様にして、化合物(D)を得た。
【0153】
<化合物(E)>
4−ヘキシルアニリン1molを酢酸150mLに溶解し、室温で無水酢酸を滴下後、撹拌した。反応終了後、析出した固体をろ過し、水洗後、乾燥した。
次に、得られた物質0.37mol、1−ブロモ−4−ヘキシルベンゼン0.66mol、炭酸カリウム1.1mol、銅粉、ヨウ素を混合し、200℃で加熱した。放冷後、イソアミルアルコール130mL、純水50mL、水酸化カリウム0.73molを加え撹拌後、乾燥した。
【0154】
さらに、そこで得られた化合物130mmol、4,4’−ジヨードビフェニル62mmol、酢酸パラジウム1.3mmol、t−ブチルホスフィン5.2mmol、t−ブトキシナトリム260mmol、キシレン700mLを混合して、120℃で撹拌した。その後、放冷し、結晶化して化合物を得た。
そして、質量スペクトル(MS)法、1H-核磁気共鳴(1H-NMR)スペクトル法、13C-核磁気共鳴(13C-NMR)スペクトル法、およびフーリエ変換赤外吸収(FT−IR)スペクトル法により、得られた化合物が下記化合物(E)であることを確認した。
<化合物(F)>
下記化合物(F)として、N,N,N’,N’−テトラキス(4−メチルフェニル)−ベンジジン(トスコ社製、「OSA6140」)を用意した。
【0155】
<化合物(G)>
1−アミノ−4−メチルベンゼン1molを酢酸150mLに溶解し、室温で無水酢酸を滴下後、撹拌した。反応終了後、析出した固体をろ過し、水洗後、乾燥した。
次に、その得られた物質0.37mol、1−ブロモ−4−メチルベンゼン0.66mol、炭酸カリウム1.1mol、銅粉、ヨウ素を混合し、200℃で加熱した。放冷後、イソアミルアルコール130mL、純水50mL、水酸化カリウム0.73molを加え撹拌後、乾燥した。
さらに、そこで得られた化合物130mmol、3,5−ジヨード−1,2,4−トリアゾール62mmol、酢酸パラジウム1.3mmol、t−ブチルホスフィン5.2mmol、t−ブトキシナトリム260mmol、キシレン700mLを混合して、120℃で撹拌した。
その後、放冷し、結晶化して化合物を得た。
そして、質量スペクトル(MS)法、1H-核磁気共鳴(1H-NMR)スペクトル法、13C-核磁気共鳴(13C-NMR)スペクトル法、およびフーリエ変換赤外吸収(FT−IR)スペクトル法により、得られた化合物が下記化合物(G)であることを確認した。
<化合物(H)>
下記化合物(H)として、ポリ(9,9−ジオクチル−2,7−ジビニレンフルオレニル−オルト−コ(アントラセン−9,10−ジイル)(トスコ社製、「OPA1871」)を用意した。
【0156】
【化18−A】

【0157】
【化18−B】

【0158】
【化18−C】

【0159】
2.有機EL素子の製造
以下の各実施例および各比較例において、有機EL素子を5個ずつ製造した。
(実施例1)
[正孔輸送層形成用材料の調製]
正孔輸送材料として化合物(A)を、熱重合開始剤としてイソフタル酸ジヒドラジドを用い、化合物(A)とイソフタル酸ジヒドラジドとを重量比で50:1の比率でキシレンに混合させて正孔輸送層形成用材料を調製した。
【0160】
[有機EL素子の製造]
−1A− まず、平均厚さ0.5mmの透明なガラス基板上に、真空蒸着法により、平均厚さ100nmのITO電極(陽極)を形成した。
−2A− 次に、ITO電極上に、前記正孔輸送層形成用材料を、スピンコート法により塗布した後、脱溶媒して、塗膜を形成した。
【0161】
−3A− 次に、この塗膜に対して、大気雰囲気中、温度100℃×時間30分で加熱処理を施すことにより、塗膜を半固形状とした。
−4A− 次に、平均厚さ0.5mmの透明なガラス基板上に、真空蒸着法により、平均厚さ300nmのAlLi電極(陰極)を形成した。
−5A− 次に、陰極上に、化合物(G)のキシレン溶液を、スピンコート法により塗布した後、乾燥して、平均厚さ20nmの電子輸送層を形成した。
【0162】
−6A− 次に、電子輸送層上に、化合物(H)のキシレン溶液を、スピンコート法により塗布した後、乾燥して、平均厚さ50nmの発光層を形成した。
−7A− 次に、発光層上に、前記正孔輸送層形成用材料を、スピンコート法により塗布した後、脱溶媒して、塗膜を形成した。
−8A− 次に、この塗膜に対して、大気雰囲気中、温度100℃×時間30分で加熱処理を施すことにより、塗膜を半固形状とした。
【0163】
−9A− 次に、陽極上の半固形状の塗膜と、発光層上の半固形状の塗膜とを対向させた状態で接近させて、2つの塗膜を接触させた。
−10A− 次に、2つの塗膜を接触させた状態で、大気雰囲気中、温度150℃×時間50分で加熱処理を施すことにより、2つの塗膜を一体化させて、平均厚さ50nmの正孔輸送層を形成した。
−11A− 次に、形成した各層の側面を覆うように、インクジェット法により、紫外線硬化性樹脂を供給した後、紫外線照射により硬化させることにより封止して、表1に示すような構成の有機EL素子を製造した。
【0164】
【表1】

【0165】
(実施例2)
[正孔輸送層形成用材料の調製]
正孔輸送材料として化合物(A)を、架橋剤としてジエチレントリアミンを、熱重合開始剤としてイソフタル酸ジヒドラジドを用い、これらのものをキシレンに混合させて正孔輸送層形成用材料を調整した。
なお、化合物(A)とジエチレントリアミンとの混合比を重量比で10:1とし、化合物(A)とジエチレントリアミンとの合計重量とイソフタル酸ジヒドラジドの重量との比(重量比)を50:1とした。
【0166】
[有機EL素子の製造]
前記工程−2A−および−7A−における塗膜の形成にこの正孔輸送層形成用材料を用い、前記工程−3A−の加熱処理を大気雰囲気中、温度80℃×時間5分とし、前記工程−8A−の加熱処理を大気雰囲気中、温度80℃×時間5分とし、前記工程−10A−の加熱処理を大気雰囲気中、温度100℃×時間10分とした以外は、前記実施例1と同様にして表2に示すような構成の有機EL素子を製造した。
【0167】
【表2】

【0168】
(実施例3)
正孔輸送材料として化合物(B)を用いた以外は、前記実施例1と同様にして、正孔輸送層形成用材料を調製した後、表3に示すような構成の有機EL素子を製造した。
【0169】
【表3】

【0170】
(実施例4)
[正孔輸送層形成用材料の調製]
正孔輸送材料として化合物(C)を、熱重合開始剤としてイソフタル酸ジヒドラジドを用い、化合物(C)とイソフタル酸ジヒドラジドとを重量比で50:1の比率でキシレンに混合させて正孔輸送層形成用材料を調製した。
【0171】
[電子輸送層形成用材料の調製]
正孔輸送材料に代えて、電子輸送材料として化合物(D)を用いた以外は、前記正孔輸送層形成用材料と同様にして、電子輸送層形成用材料を調製した。
[有機EL素子の製造]
−1B− まず、平均厚さ0.5mmの透明なガラス基板上に、真空蒸着法により、平均厚さ100nmのITO電極(陽極)を形成した。
【0172】
−2B− 次に、ITO電極上に、前記正孔輸送層形成用材料を、スピンコート法により塗布した後、脱溶媒して、塗膜を形成した。
−3B− 次に、この塗膜に対して、大気雰囲気中、温度150℃×時間50分で加熱処理を施すことにより、平気厚さ50nmの正孔輸送層を形成した。
−4B− 次に、正孔輸送層上に、化合物(H)のキシレン溶液を、スピンコート法により塗布した後、乾燥して、平均厚さ50nmの発光層を形成した。
【0173】
−5B− 次に、発光層上に、前記電子輸送層形成用材料を、スピンコート法により塗布した後、脱溶媒して、塗膜を形成した。
−6B− 次に、この塗膜に対して、大気雰囲気中、温度100℃×時間30分で加熱処理を施すことにより、塗膜を半固形状とした。
−7B− 次に、平均厚さ0.5mmの透明なガラス基板上に、真空蒸着法により、平均厚さ300nmのAlLi電極(陰極)を形成した。
【0174】
−8B− 次に、陰極上に、前記電子輸送層形成用材料を、スピンコート法により塗布した後、脱溶媒して、塗膜を形成した。
−9B− 次に、この塗膜に対して、大気雰囲気中、温度100℃×時間30分で加熱処理を施すことにより、塗膜を半固形状とした。
−10B− 次に、発光層上の半固形状の塗膜と、陰極上の半固形状の塗膜とを対向させた状態で接近させて、2つの塗膜を接触させた。
【0175】
−11B− 次に、2つの塗膜を接触させた状態で、大気雰囲気中、温度150℃×時間50分で加熱処理を施すことにより、2つの塗膜を一体化させて、平均厚さ20nmの電子輸送層を形成した。
−12B− 次に、形成した各層の側面を覆うように、インクジェット法により、紫外線硬化性樹脂を供給した後、紫外線照射により硬化させることにより封止して、表4に示すような構成の有機EL素子を製造した。
【0176】
【表4】

【0177】
(比較例1)
[正孔輸送層形成用材料の調製]
正孔輸送材料として化合物(E)を用い、化合物(E)をキシレンに混合させて正孔輸送層形成用材料を調製した。
[有機EL素子の製造]
−1C− まず、平均厚さ0.5mmの透明なガラス基板上に、真空蒸着法により、平均厚さ100nmのITO電極(陽極)を形成した。
【0178】
−2C− 次に、ITO電極上に、前記正孔輸送層形成用材料を、スピンコート法により塗布した後、脱溶媒して、塗膜を形成した。
−3C− 次に、平均厚さ0.5mmの透明なガラス基板上に、真空蒸着法により、平均厚さ300nmのAlLi電極(陰極)を形成した。
−4C− 次に、陰極上に、化合物(G)のキシレン溶液を、スピンコート法により塗布した後、乾燥して、平均厚さ20nmの電子輸送層を形成した。
【0179】
−5C− 次に、電子輸送層上に、化合物(H)のキシレン溶液を、スピンコート法により塗布した後、乾燥して、平均厚さ50nmの発光層を形成した。
−6C− 次に、発光層上に、前記正孔輸送層形成用材料を、スピンコート法により塗布した後、脱溶媒して、塗膜を形成した。
−7C− 次に、陽極上の塗膜と、発光層上の塗膜とを対向させた状態で接近させて、2つの塗膜を接触させた。
【0180】
−8C− 次に、2つの塗膜を接触させた状態で、大気雰囲気中、温度80℃×時間15分で加熱して2つの塗膜を溶融させることにより一体化させて、平均厚さ50nmの正孔輸送層を形成した。
−9C− 次に、形成した各層の側面を覆うように、インクジェット法により、紫外線硬化性樹脂を供給した後、紫外線照射により硬化させることにより封止して、表5に示すような構成の有機EL素子を製造した。
【0181】
【表5】

【0182】
(比較例2)
正孔輸送材料として化合物(F)を用いた以外は、前記比較例1と同様にして、正孔輸送層形成用材料を調製した後、表6に示すような構成の有機EL素子を製造した。
【0183】
【表6】

【0184】
(比較例3)
[正孔輸送層形成用材料の調製]
正孔輸送材料として化合物(F)を、樹脂バインダとして粉末状のポリ塩化ビニル樹脂(積水化学工業社製、「PVC−HA」)を用い、化合物(F)とポリ塩化ビニル樹脂とを重量比で1:1の比率でテトラヒドロフランに混合させて正孔輸送層形成用材料を調製した。
[有機EL素子の製造]
前記工程−2C−および−6C−における塗膜の形成にこの正孔輸送層形成用材料を用いた以外は、前記比較例1と同様にして、表7に示すような構成の有機EL素子を製造した。
【0185】
【表7】

【0186】
3.評価
各実施例および各比較例の有機EL素子について、それぞれ、電流密度(mA/cm)、発光輝度(cd/m)、最大発光効率(lm/W)を測定すると共に、発光輝度が初期値の半分になる時間(半減期)を測定した。
なお、電流密度および発光輝度の測定は、ITO電極とAlLi電極との間に6Vの電圧を印加することで行った。
そして、比較例3で測定された各測定値(電流密度、発光輝度、最大発光効率、半減期)を基準値として、各実施例および各比較例で測定された各測定値を、それぞれ、以下の4段階の基準に従って評価した。
【0187】
◎:比較例3の測定値に対し、1.50倍以上である
○:比較例3の測定値に対し、1.25倍以上、1.50倍未満である
△:比較例3の測定値に対し、1.00倍以上、1.25倍未満である
×:比較例3の測定値に対し、0.75倍以上、1.00倍未満である
これらの評価結果を、それぞれ、以下の表8に示す。
【0188】
【表8】

【0189】
表8に示すように、各実施例の有機EL素子は、いずれも、各比較例の有機EL素子と比較して、電流密度、発光輝度、最大発光効率および半減期ともに、優れた結果が得られた。
これにより、本発明の有機EL素子は、2つの層を一体化させることにより形成した半導体層(本実施例においては、正孔輸送層または電子輸送層)の接着面において優れた密着性が得られているものと推察された。
【0190】
また、2つの層を一体化させる際に、層中に樹脂バインダのような不純物等が混入していないことから、有機EL素子の特性が低減するのを好適に防止していることも明らかとなった。
さらに、実施例2のように、架橋剤を添加することにより、接着面において正孔輸送材料がより効率よく高分子化された正孔輸送層を備える有機EL素子は、特に優れた電流密度、発光輝度、最大発光効率および半減期を示す結果が得られた。
【0191】
また、重合性基Xの官能基としてエポキシ基を有するものに代えて、アクリロイル基およびスチレン基を有する化合物(A1)または化合物(A2)を用いた以外は、前記実施例1〜4と同様にして有機EL素子を製造した。これらの有機EL素子に対して、前記の評価方法と同様にして評価したが、前記と同様の結果が得られた。
さらに、種々の化合物に重合性基Xを導入したものを用いて有機EL素子を製造したが、このような有機EL素子においても前記と同様の結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0192】
【図1】有機EL素子の一例を示した縦断面図である。
【図2】図1に示す有機EL素子の製造方法を説明するための図(縦断面図)である。
【図3】本発明の発光装置を適用したディスプレイ装置の実施形態を示す縦断面図である。
【図4】本発明の電子機器を適用したモバイル型(またはノート型)のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。
【図5】本発明の電子機器を適用した携帯電話機(PHSも含む)の構成を示す斜視図である。
【図6】本発明の電子機器を適用したディジタルスチルカメラの構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0193】
1……有機EL素子 2……第1の基板 3……陽極 4……EL層 41……正孔輸送層 41’……層 42……発光層 43……電子輸送層 5……陰極 6……第2の基板 X……重合性基 10……ディスプレイ装置 20……基体 21……基板 22……回路部 23……保護層 24……駆動用TFT 241……半導体層 242……ゲート絶縁層 243……ゲート電極 244……ソース電極 245……ドレイン電極 25……第1層間絶縁層 26……第2層間絶縁層 27……配線 31……第1隔壁部 32……第2隔壁部 1100……パーソナルコンピュータ 1102……キーボード 1104……本体部 1106……表示ユニット 1200……携帯電話機 1202……操作ボタン 1204……受話口 1206……送話口 1300……ディジタルスチルカメラ 1302……ケース(ボディー) 1304……受光ユニット 1306……シャッタボタン 1308……回路基板 1312……ビデオ信号出力端子 1314……データ通信用の入出力端子 1430……テレビモニタ 1440……パーソナルコンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と、第2の電極と、前記第1の電極と前記第2の電極との間に設けられた半導体層とを備える半導体素子を製造する半導体素子の製造方法であって、
前記第1の電極の一方の面側、および、前記第2の電極の一方の面側に、それぞれ、重合性基を有する半導体材料を主材料として構成される層を形成する第1の工程と、
前記第1の電極側の前記層と、前記第2の電極側の前記層とを接触させた状態で、前記重合性基同士の重合により、前記半導体材料を高分子化し、2つの前記層を一体化して前記半導体層を得る第2の工程とを有することを特徴とする半導体素子の製造方法。
【請求項2】
前記第1の工程において、前記第1の電極側の前記層は、液相プロセスにより形成される請求項1に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項3】
前記第1の工程において、前記第2の電極側の前記層は、液相プロセスにより形成される請求項1または2に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項4】
前記第1の工程と前記第2の工程との間に、前記第1の電極側の前記層中に含まれる前記半導体材料を、前記第2の工程で得られる前記高分子の重合度よりも低い重合度まで重合させる工程を有する請求項1ないし3のいずれかに記載の半導体素子の製造方法。
【請求項5】
前記第1の工程と前記第2の工程との間に、前記第2の電極側の前記層中に含まれる前記半導体材料を、前記第2の工程で得られる前記高分子の重合度よりも低い重合度まで重合させる工程を有する請求項1ないし4のいずれかに記載の半導体素子の製造方法。
【請求項6】
前記重合性基は、光重合性を有する請求項1ないし5のいずれかに記載の半導体素子の製造方法。
【請求項7】
前記重合性基は、熱重合性を有する請求項1ないし5のいずれかに記載の半導体素子の製造方法。
【請求項8】
前記第1の電極と前記第2の電極との間に前記半導体層と異なる少なくとも1層の有機物層を有し、
前記重合性基を重合させる際の加熱温度は、前記有機物層を構成する主材料のガラス転移温度よりも低い温度に設定されている請求項7に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項9】
前記半導体材料は、下記一般式(A1)または下記一般式(A2)で表される化合物である請求項1ないし8のいずれかに記載の半導体素子の製造方法。
【化1】

[式中、2つのRは、それぞれ独立して、炭素数2〜8の直鎖アルキル基を表し、同一であっても、異なっていてもよい。4つのRは、それぞれ独立して、水素原子、メチル基またはエチル基を表し、同一であっても、異なっていてもよい。2つのXは、下記一般式(B1)〜下記一般式(B3)で表される置換基のうちのいずれかを示す。ただし、2つのXは、同種の置換基であるが、その炭素数は、同一であっても異なっていてもよい。Yは、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環、または、置換もしくは無置換の複素環を少なくとも1つ含む基を表す。]
【化2】

[式中、8つのRは、それぞれ独立して、水素原子、メチル基またはエチル基を表し、同一であっても、異なっていてもよい。X、X、XおよびXは、下記一般式(B1)〜下記一般式(B3)で表される置換基のうちのいずれかを示す。ただし、これらX、X、XおよびXは、同種の置換基であるが、その炭素数は、同一であっても、異なっていてもよい。Yは、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環、または、置換もしくは無置換の複素環を少なくとも1つ含む基を表す。]
【化3】

[これらの式中、nは、2〜8の整数を表す。nは、3〜8の整数を表し、mは、0〜3の整数を表す。Zは、水素原子またはメチル基を表し、Zは、水素原子、メチル基またはエチル基を表す。]
【請求項10】
前記半導体層は、正孔輸送層である請求項1ないし9のいずれかに記載の半導体素子の製造方法。
【請求項11】
前記半導体層は、発光層である請求項1ないし9のいずれかに記載の半導体素子の製造方法。
【請求項12】
前記半導体層は、電子輸送層である請求項1ないし9のいずれかに記載の半導体素子の製造方法。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれかに記載の半導体素子の製造方法により製造されたことを特徴とする半導体素子。
【請求項14】
請求項13に記載の半導体素子を備えることを特徴とする電子デバイス。
【請求項15】
請求項14に記載の電子デバイスを備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−302556(P2006−302556A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−119328(P2005−119328)
【出願日】平成17年4月18日(2005.4.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】