説明

半導体結晶の製造方法

【課題】インゴットの最終凝固部付近における多結晶化を抑制し、また最終凝固部付近における転位の発生を抑制する方法を提供する。
【解決手段】ルツボ20内の底部に配置した種結晶30とルツボ20内に収容した半導体融液100とを接触させつつ、半導体融液100を種結晶30側から上方に向けて徐々に固化させる半導体結晶の製造方法において、半導体融液100上に液体封止材110と熱線透過抑制材120とを設け、液体封止材110には半導体融液100内からの成分の揮発を抑制させ、熱線透過抑制材120には液体封止材110を介した半導体融液100からの熱線の透過を抑制させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体融液を徐々に固化させる半導体結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化合物半導体の単結晶を成長させる縦型ボート成長法として、ルツボ内の底部に配置した種結晶とルツボ内に収容した半導体融液(原料融液)とを接触させつつ、半導体融液を種結晶側から上方に向けて徐々に固化させることにより半導体結晶を成長させる縦型徐冷(Vertical Gradient Freeze:VGF)法や縦型ブリッジマン(Vertical Bridgman:VB)法等が知られている。なお、半導体融液上には、半導体融液内からの原料成分の揮発(例えばV族元素の揮発)を抑制するため、例えば三酸化ホウ素(B)等からなる液体封止材が設けられる。液体封止材は、ルツボ内が加熱されることにより軟化して半導体融液の表面を気密に封止する(例えば特許文献1〜3参照)。
【0003】
例えば、特許文献1には、原料融液を収容する容器と、容器の周囲に配置した温度勾配炉と、温度勾配炉を容器に対して相対的に移動する手段とを有し、容器の一端から固化成長させる単結晶の製造装置において、容器の壁内にBを含有させたpBN製容器を用いた単結晶の製造装置が開示されている。特許文献1に記載の単結晶製造装置によれば、使用時にpBN製容器の壁面から徐々にBが滲み出してB膜でルツボの壁面が覆われているので、原料融液とルツボ表面の凹凸壁面とが接触することにより生じる結晶核の発生を防止できる。
【0004】
また、特許文献2には、原料融液の収容部と、原料融液の収容部の底部に設けられた種結晶収容部からなる容器と、液体封止材とを用いた単結晶の製造方法が開示されている。特許文献2に記載の単結晶製造方法によれば、種結晶の外径と前記容器の種結晶収容部の内径との公差を規定することにより多結晶や双晶の発生を防止できる。
【0005】
更には、特許文献3には、液体封止材を用いる縦型ボート法において、原料のGaAs融液と液体封止材のBとの界面に、砒化ホウ素を浮遊させながら結晶成長を行う結晶成長方法が開示されている。特許文献3に記載の単結晶製造方法によれば、結晶成長時に砒化ホウ素の析出による転位の発生が防止できる。
【特許文献1】特許第2585415号公報
【特許文献2】特開2002−121100号公報
【特許文献3】特開2004−115339号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の縦型ボート成長法では、成長させた半導体結晶(以下、インゴットとも呼ぶ)の最終凝固部(尾部)付近にて多結晶化しやすく、インゴットの全長にわたって単結晶化させることは困難であった。また、インゴットの全長にわたって単結晶化させることが出来た場合であっても、インゴットの最終凝固部付近の転位密度が他の部分の転位密度に比べて増大してしまい、転位密度が不均一になってしまう場合があった。
【0007】
本発明の目的は、インゴットの最終凝固部付近における多結晶化を抑制させ、最終凝固部付近における転位の発生を抑制させることが可能な半導体結晶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様によれば、ルツボ内の底部に配置した種結晶と前記ルツボ内に収容した半導体融液とを接触させつつ、前記半導体融液を前記種結晶側から上方に向けて徐々に固化させる半導体結晶の製造方法において、前記半導体融液上に液体封止材と熱線透過抑制材とを設け、前記液体封止材には前記半導体融液内からの成分の揮発を抑制させ、前記熱線透過抑制材には前記液体封止材を介した前記半導体融液からの熱線の透過を抑制させる半導体結晶の製造方法が提供される。
【0009】
本発明の第2の態様によれば、ルツボ内の底部に種結晶を配置し、前記ルツボ内に半導体原料と封止材と熱線透過抑制材とを収容し、前記ルツボを加熱し、前記半導体原料を溶融させた半導体融液と前記封止材を軟化させた液体封止材とを前記ルツボ内に生成することで、前記種結晶と前記半導体融液とを接触させると共に、前記半導体融液上に前記液体封止材と前記熱線透過抑制材とを設け、前記半導体融液を前記種結晶側から上方に向けて徐々に固化させる半導体結晶の製造方法が提供される。
【0010】
本発明の第3の態様によれば、前記液体封止材上に前記熱線透過抑制材を浮遊させる第1又は第2の態様に記載の半導体結晶の製造方法が提供される。
【0011】
本発明の第4の態様によれば、前記液体封止材中に前記熱線透過抑制材を設ける第1又は第2の態様に記載の半導体結晶の製造方法が提供される。
【0012】
本発明の第5の態様によれば、前記熱線透過抑制材は炭素を含む材料からなる第1〜4のいずれかの態様に記載の半導体結晶の製造方法が提供される。
【0013】
本発明の第6の態様によれば、前記熱線透過抑制材は酸化物を含む材料からなる第1〜4のいずれかの態様に記載の半導体結晶の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる半導体結晶の製造方法によれば、インゴットの最終凝固部付近における多結晶化を抑制させ、最終凝固部付近における転位の発生を抑制させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
縦型ボート成長法により単結晶を製造するには、ルツボ内に収容した半導体融液中に、所定の温度勾配を形成することが必要となる。つまり、半導体融液内の下方(種結晶側)が低温であり、上方(半導体融液表面側)が高温であるような温度勾配を、半導体融液中に形成することが必要となる。かかる温度勾配が形成されれば、半導体融液の下方から上方へ向けて結晶成長が徐々に進行し、多結晶化が抑制され、インゴットの全長にわたり単結晶とすることが容易になるからである。
【0016】
このような温度勾配を半導体融液内に形成するには、半導体融液表面から半導体融液上方の空間への放熱を抑制してやる必要がある。半導体融液と、半導体融液よりも上方の空間との間には、非常に大きな温度差が存在するからである。例えば、GaAs単結晶を製造する際には、ルツボ内の半導体融液は1238℃以上の温度に加熱されている。これに対し、ルツボを収容するチャンバが水冷ジャケットを備えた一般的なステンレスチャンバである場合、チャンバの内壁温度は200℃以下である。チャンバの内壁と半導体融液との間に断熱材を設けたとしても、半導体融液表面と対向する断熱材の温度は数100℃と低いことが多い。
【0017】
上述した通り、半導体融液の表面は、液体封止材としてのBにより気密に封止さ
れている。Bは一般的には熱伝導率が低い材料であるため、半導体融液表面から半導体融液上方の空間への熱伝導による放熱を抑制する。しかしながら、発明者の鋭意研究によれば、このように熱伝導による放熱を抑制したとしても、結晶成長が終盤にさしかかると、上述の温度勾配が保てなくなる場合があることが判明した。
【0018】
液体封止材を構成するBは、熱伝導率が低いものの、赤外線に対しては略透明な材料である。そのため、半導体融液からは、液体封止材を介した輻射による放熱が常に存在していることになる。発明者の知見によれば、半導体融液の残量が多いときには輻射による放熱の影響は小さいものの、結晶成長が終盤にさしかかり、ルツボ中の半導体融液の残量が少なくなると輻射による放熱の影響が無視できなくなるのである。すなわち、半導体融液の残量が少なくなると(半導体融液の熱容量が小さくなると)、輻射による温度降下量が大きくなり、半導体融液表面付近の温度が急激に低下してしまい、半導体融液内の下方が低温であり上方が高温であるような上述の温度勾配を保ちにくくなるのである。その結果、結晶成長界面(固液界面)以外の場所にて新たな結晶の成長核が発生してしまい、インゴットの最終凝固部付近が多結晶化しやすくなるのである。
【0019】
また、発明者の鋭意研究によれば、液体封止材を介した輻射による放熱の影響により、結晶成長が終了した後、インゴットを徐冷する際にインゴットの最終凝固部が他の部位に較べて冷却されやすくなってしまい、最終凝固部付近における熱応力が他の部位の熱応力よりも大きくなり、最終凝固部付近において転位が発生しやすくなることが判明した。
【0020】
以上述べたとおり、発明者は、インゴットの最終凝固部付近における多結晶化を抑制させ、転位密度を低下させるには、液体封止材を介した輻射による放熱を抑制することが有効であるとの知見を得た。本発明は、発明者が得たかかる知見に基づいてなされた発明である。
【0021】
<本発明の第1の実施形態>
以下に、本発明の第1の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の第1の実施形態にかかる半導体結晶の製造方法を実施する結晶成長炉の断面構成図である。図2は、本発明の第1の実施形態にかかる半導体融液表面付近の断面概略図である。図5は、本発明の第1の実施形態にかかる半導体結晶の製造方法を例示するフロー図である。
【0022】
(1)結晶成長炉の構成
図1に示すように、本実施形態にかかる結晶成長炉1は、気密容器として構成されたチャンバ70を備えている。チャンバ70の内部には、原料等を収容する耐熱容器としてのルツボ20と、ルツボ20を収容するルツボ収容容器としてのサセプタ50と、サセプタ50を下方から保持するサセプタ支持部材55と、サセプタ50を介してルツボ20を側面から加熱するリング状の外周加熱ヒータユニット12a〜12dからなる外周加熱ヒータと、が設けられている。また、チャンバ70内には、外周加熱ヒータの外周と上方とを包囲する断熱材60が設けられており、外周加熱ヒータユニット12bと12cとの間には、断熱材60の内部空間を上下に区分する断熱材62が設けられている。また、図示しないが、結晶成長炉1は、サセプタ50内、及び加熱ヒータユニット12a〜12dの温度をそれぞれ検出する熱電対と、チャンバ70内に所定のガスを供給するガス供給手段と、チャンバ内の圧力を一定値に保つガス圧制御手段と、を備えている。
【0023】
ルツボ20は、半導体結晶の種結晶30を収容する種結晶配置部としての細径部25と、細径部25の上部に所定の角度で接合される円錐状の傾斜部26と、傾斜部26の上部に略垂直方向に立設するように接合される直胴部27と、から構成される。細径部25と傾斜部26とによりルツボ20の底部が構成される。細径部25の長手方向と直胴部27
の胴部とは略平行に設けられている。直胴部27は、断面直径が例えば160mmであり、高さが例えば300mmであるような略円筒形に構成されている。直胴部27の上端部には、ルツボ20の内部を露出する開口部22が構成されている。ルツボ20は、例えば熱分解窒化ホウ素(pyrolytic Boron Nitride:pBN)から形成されている。なお、ルツボ20は石英から形成されていてもよい。
【0024】
ルツボ20の細径部25内には、種結晶30として例えばGaAsの単結晶が収容される。ルツボ20の内部(傾斜部26及び直胴部27の内部)には、半導体結晶の主原料として例えば塊状のGaAs多結晶が収容(充填)される。さらに、ルツボ20の内部には、常温では固体であるB等の液体封止材110と、後述する熱線透過抑制材とが、所定量ずつ収容されるように構成されている。なお、p型あるいはn型半導体結晶を製造する場合には、ルツボ20の内部には、ドーパント材料としての例えば亜鉛(Zn)元素やシリコン(Si)元素がさらに収容されるようにも構成されている。なお、ドーパント材料は、塊状のGaAs多結晶内に予め添加しておいてもよい。
【0025】
主原料としての塊状のGaAs多結晶は、ルツボ20内が例えば1238℃以上に加熱されることにより融解して半導体融液100となる。生成された半導体融液100の下部は、種結晶30の上端部に接触するように構成されている。また、液体封止材110は、ルツボ20内が加熱されることにより軟化して、半導体融液100の表面を気密に封止するように構成されている。半導体融液100の表面を封止する液体封止材110の厚さは、液体封止材110が半導体融液100表面を全面的に覆うことのできる厚さとすることが好ましく、例えばルツボ20の直胴部27の断面直径に応じて5mm〜20mmの範囲内で適宜調整されている。
【0026】
本実施形態にかかる熱線透過抑制材は、熱線を吸収する作用を有する材料、例えば炭素を含む材料からなる。具体的には、本実施形態にかかる熱線透過抑制材は、多孔質状のカーボン製の小片あるいは成型品、例えばカーボン製のビーズ120として構成されている。なお、本実施形態にかかる熱線透過抑制材は、カーボン製の小片あるいは成型品小片あるいは成型品に限らず、カーボン製の繊維材から構成されていてもよい。
【0027】
熱線透過抑制材としてのビーズ120は、軟化した液体封止材110上に浮遊するように構成されていることが好ましい。かかる様子を図2に示す。このため、半導体融液100、液体封止材110、ビーズ120の順に比重が軽くなるように構成されている(半導体融液100の比重>液体封止材110の比重>ビーズ120の比重)ことが好ましい。ビーズ120を多孔質状に構成することで、上述の比重関係を実現することが可能となる。但し、液体封止材110内にビーズ120が沈没又は沈殿しなければ、必ずしも上述の比重関係を満たす必要があるとは限らない。液体封止材110は粘度が高いため、液体封止材110の比重>ビーズ120の比重という関係が満たされなくても、ビーズ120が沈没又は沈殿するといった現象は起こりにくいからである。ビーズ120の粒径は、液体封止材110表面上でビーズ120が均一に分散し、液体封止材110表面を隙間なく覆うように、例えば数mm程度とすることが好ましい。ビーズ120の分量は、液体封止材110表面を全面的に覆うことのできるような分量であって、少なくともルツボ20の上面から見て液体封止材110や半導体融液100がビーズ120によって覆い隠されて見えなくなる程度の分量とすることが好ましく、例えば5mm程度の厚さで覆うことのできるような分量とすることが好ましい。ビーズ120は、半導体融液100や液体封止材110の汚染を防ぐため、高純度処理が施されていることが好ましい。
【0028】
サセプタ50は、例えばグラファイトから形成され、ルツボ20を内部に収容して保持するように構成されている。サセプタ支持部材55は、サセプタ50を下方から支持するように構成されている。サセプタ支持部材55は、結晶成長炉1内で昇降及び回転が自在
に構成されている。結晶成長中にサセプタ支持部材55を回転させることにより、ルツボ20内の温度分布をほぼ軸対象、かつ一定に保つことが可能なように構成されている。サセプタ支持部材55を降下させることにより、外周加熱ヒータユニット12a〜12d内からルツボ20を降下させ(引きだし)、ルツボ20内に所望の温度勾配を保ちつつ、種結晶側から融液を凝固させることが可能なように構成されている。
【0029】
外周加熱ヒータは、上述したように、サセプタ50を介してルツボ20を側面から加熱するリング状の外周加熱ヒータユニット12a〜12dからなる。外周加熱ヒータユニット12a〜12dは、結晶成長炉1内の上部から下部へ向かう方向に沿って順に配置されている。具体的には、外周加熱ヒータユニット12aがルツボ20の開口部22付近に、外周加熱ヒータユニット12bが外周加熱ヒータユニット12aの下に、外周加熱ヒータユニット12cが外周加熱ヒータユニット12bの下であって細径部25付近に、外周加熱ヒータユニット12dが外周加熱ヒータユニット12cの下に、それぞれ配置される。
【0030】
外周加熱ヒータユニット12a〜12dの設定温度は、結晶成長炉1の上部から下部へ向かう方向に沿って順次低下するように設定される。すなわち、外周加熱ヒータユニット12aの設定温度>外周加熱ヒータユニット12bの設定温度>外周加熱ヒータユニット12cの設定温度>外周加熱ヒータユニット12dの設定温度、となるようにそれぞれ設定される。
【0031】
外周加熱ヒータユニット12a〜12dは、例えば、グラファイト等の材料から形成される抵抗加熱ヒータとして構成される。なお、外周加熱ヒータユニット12a〜12dは、上記構成に限定されず、炭化ケイ素(SiC)ヒータ、カンタル線ヒータ、RFコイルで加熱した発熱体を2次ヒータとして用いるヒータ等として構成することも可能である。
【0032】
上述したように、チャンバ70内には、外周加熱ヒータの外周と上方とを包囲する断熱材60が設けられている。断熱材60は、例えばグラファイトの成型断熱材やカーボンフェルト等により構成され、外周加熱ヒータから発せられる熱がチャンバ70の内壁へ伝達されることを抑制すると共に、外周加熱ヒータから発せられる熱をルツボ20に対して効率的に伝達させるように機能する。
【0033】
外周加熱ヒータユニット12bと12cとの間には、断熱材60の内部空間を上下に区分する断熱材62が設けられている。断熱材62は、例えばグラファイトの成型断熱材やカーボンフェルト等により構成され、断熱材62より上方の空間と下部の空間とで所定の温度差を確保するように機能する。
【0034】
(2)半導体結晶の成長方法
以下に、上述の結晶成長炉1により実施される半導体結晶の製造方法について、図5を参照しながら説明する。なお、以下では、半導体結晶中にドーパント材料を添加しないアンドープ結晶を製造する場合を例に挙げて説明する。
【0035】
ルツボ20の細径部25内に、種結晶30としてのGaAs単結晶を収容し(S100)、ルツボ20内(傾斜部26及び直胴部27の内部)に主原料としての塊状のGaAs多結晶を収容(充填)し(S105)、液体封止材110としてのBと、熱線透過抑制材としてのカーボン製のビーズ120とを、ルツボ20内に収容する(S110)。
【0036】
そして、種結晶30、GaAs多結晶、液体封止材110、及び熱線透過抑制材を収容したルツボ20を、サセプタ50内に収容し(S115)、サセプタ50をサセプタ支持部材55の上に搭載する(S120)。次に、結晶成長炉1(チャンバ70)を密閉して、結晶成長炉1(チャンバ70)内を不活性ガスとしての例えば窒素ガスでガス置換し(
S125)、サセプタ支持部材55を回転させてルツボ20の回転を開始する(S130)。ルツボ20の回転は、後述する結晶成長が終了するまで継続させる。
【0037】
そして、複数の外周加熱ヒータユニット12a〜12dのそれぞれに通電して、ルツボ20の加熱を開始する(S135)。ルツボ20の加熱を所定時間継続することにより、ルツボ20内のGaAs多結晶が完全に融解されて半導体融液100となる(S140)。なお、ルツボ20の加熱を開始すると、チャンバ70内の雰囲気ガスの体積は膨張するため、結晶成長中にチャンバ70内の圧力が所定圧力を超えないように、ガス圧制御手段によりチャンバ70内の圧力を制御する。
【0038】
なお、ルツボ20内に収容された液体封止材110は、主原料としてのGaAs多結晶が融解するよりも早く軟化して透明な水飴状になる。液体封止材110の比重は半導体融液100の比重よりも小さく構成されていることから、軟化した液体封止材110は、半導体融液100上に浮遊して半導体融液100表面を気密に封止する。なお、液体封止材110は、半導体融液100内からの成分(例えばAs元素)の揮発を抑制するように作用する。
【0039】
また、熱線透過抑制材(ビーズ120)の比重は液体封止材110の比重よりも小さく構成されていることから、ビーズ120は、液体封止材110上に浮遊して液体封止材110表面の全面を覆う。ビーズ120の作用については後述する。
【0040】
続いて、外周加熱ヒータユニット12a〜12dの設定温度を、結晶成長炉1の上から下に行くにつれて徐々に低下するような温度にそれぞれ設定する(S145)。例えば、最上部に配置されている外周加熱ヒータユニット12aの設定温度を1290℃に、外周加熱ヒータユニット12bの設定温度を1260℃に、外周加熱ヒータユニット12cの設定温度を1120℃に、最下部に配置されている外周加熱ヒータユニット12dの設定温度を1050℃にそれぞれ設定する。
【0041】
その後、半導体融液100の温度が安定するまで所定時間保持する(S150)。なお、工程S150において、外周加熱ヒータ(外周加熱ヒータユニット12a〜12d)に対するルツボ20の高さ位置は、結晶成長炉1内に熱電対を挿入して予め計測した温度分布に基づいて決定することが好ましい。具体的には、工程S145〜S150において種結晶30が融解して消失してしまうことがないように、半導体融液100内における1238℃(GaAsの融点)の等温線が種結晶30の上端部分にかかるような高さ位置に、ルツボ20を配置することが好ましい。
【0042】
半導体融液100の温度が安定した後、ルツボ20の回転を継続させながら、サセプタ支持部材55を所定の速度時速で所定の距離を降下させる(S155)。ルツボ20を所定距離降下させたところで、ルツボ20の降下を停止させる。
【0043】
ルツボ20をこのように徐々に降下させることにより、半導体融液100内の下方が低温であり、上方が高温であるような温度勾配中を半導体融液100が通過して行く。そして、種結晶30と半導体融液100との固液界面にて開始された結晶成長が、半導体融液100の下方から上方へ向けて徐々に進行する。
【0044】
液体封止材110上に浮遊するビーズ120は、液体封止材110を介した半導体融液100からの熱線の透過を抑制するように、すなわち、半導体融液100からの熱線を吸収し、輻射による半導体融液100から上方への放熱を抑制するように機能する。このため、結晶成長が終盤にさしかかり、ルツボ20中の半導体融液100の残量が少なくなった場合であっても、輻射による半導体融液100の温度降下が抑えられる。すなわち、半
導体融液100内の下方が低温であり、上方が高温であるような温度勾配が維持される。その結果、結晶成長が終了するまで半導体融液の下方から上方へ向けて結晶成長が徐々に進行し、最終凝固部付近における多結晶化が抑制され、インゴットの全長にわたり単結晶を得やすくなる。
【0045】
ルツボ20の降下を停止させたら、外周加熱ヒータユニット12a〜12dの温度を徐々に低下させてインゴットを徐冷する(S160)。外周加熱ヒータユニット12a〜12dの温度が所定温度まで低下したら、外周加熱ヒータユニット12a〜12dへの通電を停止し、ルツボ20の温度が室温になるまで徐冷することによりインゴットを徐冷して、本実施形態にかかる半導体結晶の成長方法を終了する(S165)。
【0046】
インゴットを徐冷するには、インゴット内に温度差が生じないようにインゴット内の各部の温度を均等に下げていくことが好ましい。しかしながら、所定の時間内に所定の温度低下を実現させようとすると、インゴット内に温度差が生じやすくなる。例えば、インゴットの上部に加熱手段や断熱材等が設けられていない(または、設けられていたとしても距離が離れている)場合には、インゴットの上部方向への放熱量が大きくなり過ぎてしまい、インゴット内に温度差が生じやすくなる。本実施形態によれば、液体封止材110上に浮遊するビーズ120により液体封止材110を介した熱線の透過が抑制されるため、結晶成長が終了した後、インゴットを徐冷する際にインゴットの最終凝固部が他の部位に比べて冷却されやすくなることを防ぐことができる。そのため、最終凝固部付近における熱応力が他の部分における熱応力よりも大きくなることが抑制され、最終凝固部付近における転位の発生が抑制され、インゴットの全域にわたって転位密度分布が均一化される。
【0047】
(3)本実施形態にかかる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0048】
本実施形態によれば、熱線透過抑制材としてのビーズ120が液体封止材110を介した半導体融液100からの熱線の透過を抑制するように機能する。このため、結晶成長が終盤にさしかかり、ルツボ20中の半導体融液100の残量が少なくなった場合であっても、輻射による半導体融液100の温度降下が抑えられる。すなわち、半導体融液100内の下方が低温であり、上方が高温であるような温度勾配が維持される。その結果、結晶成長が終了するまで、半導体融液の下方から上方へ向けて結晶成長が徐々に進行し、最終凝固部付近における多結晶化が抑制され、インゴットの全長にわたり単結晶を得やすくなる。
【0049】
本実施形態によれば、熱線透過抑制材としてのビーズ120が液体封止材110を介した熱線の透過を抑制するように機能する。このため、結晶成長が終了した後、インゴットの最終凝固部が他の部位に較べて冷却されやすくなることを防ぐことができ、最終凝固部付近における熱応力が他の部分における熱応力よりも大きくなることが抑制され、最終凝固部付近における転位の発生が抑制され、インゴットの全域にわたって転位密度分布が均一化される。
【0050】
本実施形態によれば、半導体融液100、液体封止材110、ビーズ120の順に比重が軽くなるように構成されている。その結果、結晶成長中において、液体封止材110が半導体融液100の表面を気密に封止すると共に、液体封止材110上にビーズ120が浮遊する。すなわち、半導体融液100とビーズ120とが直接に接触することがないため、半導体融液100がビーズ120によって汚染されてしまうことが抑制される。
【0051】
本実施形態によれば、結晶成長中において、液体封止材110上にビーズ120が浮遊するように構成されている。液体封止材110を構成するBは熱伝導率が小さいた
め、半導体融液100からビーズ120への熱伝導が生じにくくなり、ビーズ120が高温になることが抑制され、ビーズ120からの輻射による放熱が生じにくくなる。その結果、半導体融液100表面付近の急激な温度降下、あるいはインゴットの最終凝固部付近の急激な温度降下を抑制できる。
【0052】
本実施形態によれば、結晶成長中において、液体封止材110とビーズ120とが密着するように構成されている。すなわち、液体封止材110とビーズ120との間に空間が介在していないように、あるいは液体封止材110とビーズ120との間に介在する空間が小さくなるように構成されている。つまり、液体封止材110とビーズ120との間に雰囲気ガスが存在しないか、あるいは存在したとしてもごく微量であるように構成されている。液体封止材110とビーズ120との間に空間が存在すると、その間に存在する雰囲気ガスの対流の影響により、半導体融液100に温度の乱れが生じてしまう場合がある。本実施形態によれば、液体封止材110とビーズ120との間に空間が介在していないように、あるいは液体封止材110とビーズ120との間に介在する空間が小さくなるように構成されているため、液体封止材110とビーズ120との間での雰囲気ガスの対流の発生が抑制され、半導体融液100の温度の乱れが生じにくくなり、結晶成長条件を安定させ、結晶の品質を安定させることができる。
【0053】
本実施形態によれば、半導体融液100から結晶成長炉1内の上部空間へ向けた放熱を大幅に低減させることができる。そのため、結晶成長に必要な投入電力量を削減することが可能となり、半導体結晶の製造コストを低減させることが可能となる。
【0054】
<本発明の第2の実施形態>
本実施形態においては、熱線透過抑制材が、ビーズ120群ではなくグラファイト製の円板130として構成されている点が、上述の実施形態とは異なる。その他の構成は第1の実施形態と同じである。図3は、本実施形態にかかる半導体融液100表面付近の断面概略図である。図3によれば、軟化した液体封止材110により半導体融液100の表面が気密に封止されていると共に、液体封止材110上に熱線透過抑制材としての円板130が浮遊している。なお、半導体融液100の表面を封止する液体封止材110の厚さは、第1の実施形態と同様に、例えばルツボ20の直胴部27の断面直径に応じて5mm〜20mmの範囲内で適宜調整されている。
【0055】
なお、円板130の比重は、液体封止材110の比重よりも小さく構成されていることが好ましい。また、円板130は、半導体融液100や液体封止材110の汚染を防ぐため、高純度処理が施されていることが好ましい。また、円板130は、液体封止材110表面を全面的に覆うことのできるような大きさであって、ルツボ20の上面から見て液体封止材110や半導体融液100が円板130によって覆い隠されて見えなくなるような大きさとすることが好ましい。
【0056】
グラファイト製の円板130は、第1の実施形態のビーズ120と同様に、液体封止材110を介した半導体融液100からの熱線の透過を抑制するように機能する。そのため、本実施形態においても第1の実施形態と同様の効果を奏する。さらに、本実施形態によれば、液体封止材110内にて対流等が発生したとしても、円板130(熱線透過抑制材)が液体封止材110の表面上を移動しにくくなり、液体封止材110の表面が露出して熱線が透過してしまうことを抑制し、温度条件をより安定させることができる。
【0057】
<本発明の第3の実施形態>
本実施形態においては、液体封止材110上に熱線透過抑制材を設ける(浮遊させる)のではなく、液体封止材110中に熱線透過抑制材を設ける点が、上述の実施形態と異なる。具体的には、本実施形態にかかる熱線透過抑制材は、例えば高純度カーボンの微粉末
140として構成されており、高純度カーボンの微粉末140が液体止材110中に均一に分散するように構成されている。その他の構成は、第1の実施形態と同じである。図4は、本実施形態にかかる半導体融液100表面付近の断面概略図である。図4によれば、軟化した液体封止材110により半導体融液100の表面が気密に封止されていると共に、液体封止材110中に高純度カーボンの微粉末140が均一に分散している。高純度カーボンの微粉末140の微粉末としては、例えば、工業的に品質制御して製造される直径3〜500nm程度の炭素の微粒子であるカーボンブラック等を使用することができる。半導体融液100の表面を封止する液体封止材110の厚さは、第1の実施形態と同様に、例えばルツボ20の直胴部27の断面直径に応じて5mm〜20mmの範囲内で適宜調整されている。
【0058】
高純度カーボンの微粉末140は、第1の実施形態のビーズ120と同様に、液体封止材110を介した半導体融液100からの熱線の透過を抑制するように機能する。そのため、本実施形態においても第1の実施形態と同様の効果を奏する。さらに、本実施形態によれば、液体封止材110中に対流等が発生したとしても、液体封止材110中には高純度カーボンの微粉末140が均一に分散しているため、液体封止材110を介した熱線の透過が常に抑制され、温度条件をより安定させることができる。
【0059】
また、本実施形態によれば、液体封止材110中に高純度カーボンの微粉末140を均一に分散させており、高純度カーボンの微粉末140と半導体融液100とを接触させ得るように構成されている。そのため、高純度カーボンの微粉末140中に含まれる炭素元素を半導体融液100中に混入させ、炭素(C)元素を意図的にドープさせた半絶縁性の半導体結晶を得ることが可能となる。VGF法においては、半導体融液100の表面を液体封止材110により封止すると、例えばLEC(Liquid Encapsulated Czochralski法)と比べてチャンバ70内の雰囲気ガス中に含まれる炭素元素を半導体融液100中に混入させることが困難となる。これに対して本実施形態によれば、高純度カーボンの微粉末140を液体封止材110中に分散させているため、上述の工程S115においてルツボ20内に炭素含有材料をさらに収容することなく、高純度カーボンの微粉末140中に含まれる炭素元素を半導体融液100中に混入させることができる。
【0060】
なお、本実施形態においても、液体封止材110を2層構造とすることで、炭素元素の濃度が少ない半導体結晶を得ることが可能となる。すなわち、半導体融液100の表面を高純度カーボンの微粉末140を分散させていない液体封止材110で封止しつつ、高純度カーボンの微粉末140を分散させていない液体封止材110の表面を高純度カーボンの微粉末140を均一に分散させた液体封止材110で封止することにより、高純度カーボンの微粉末140と半導体融液100との接触を抑制し、高純度カーボンの微粉末140中に含まれる炭素元素の半導体融液100中への混入を抑制し、半導体結晶中の炭素濃度を低下させることができる。このような2層構造は、高純度カーボンの微粉末140を分散させていない液体封止材110と、高純度カーボンの微粉末140を分散させた液体封止材110と、をそれぞれルツボ20の内径に合わせて円板状に形成しつつ、常温で固体であるこれらの円板をルツボ20内に順に積層して収納し、加熱して軟化させることにより形成することができる。Bは粘度が高いため、軟化させたとしても高純度カーボンの微粉末140を分散させていない液体封止材110と高純度カーボンの微粉末140を分散させていない液体封止材110とは混合し難く、高純度カーボンの微粉末140と半導体融液100とは接触し難いと考えられる。
【0061】
<本発明の第4の実施形態>
本実施形態においては、熱線透過抑制材が、熱線を反射あるいは散乱する作用を有する材料、例えば酸化物を含む材料からなる点が上述の実施形態と異なる。本実施形態にかか
る熱線透過抑制材は、表面に凹凸を形成したり(表面粗加工を施したり)、内部に極小な気泡を多数含ませたりした不透明石英ガラスの小片あるいは成型品であって、例えば略球状の不透明石英ビーズとして構成されている。なお、ここでいう不透明とは、液体封止材110を介した半導体融液100からの熱線の透過を抑制する(熱線の透過率が低減されている)という意味である。
【0062】
不透明石英ビーズの比重は、液体封止材110の比重よりも小さく構成されていることが好ましい。不透明石英ビーズの粒径は、液体封止材110表面上で不透明石英ビーズが均一に分散し、液体封止材110表面を隙間なく覆うように、また、液体封止材110と不透明石英ビーズとが密着するように、例えば数mm程度とすることが好ましい。また、不透明石英ビーズの分量は、液体封止材110表面を全面的に覆うことができ、少なくともルツボ20の上面から見て液体封止材110や半導体融液100が不透明石英ビーズによって覆い隠されて見えなくなる程度の分量であって、液体封止材110を介した半導体融液100からの熱線の透過を十分に抑制することができるような分量とすることが好ましい。例えば、不透明石英ビーズの分量を、液体封止材110表面を全面的に5mm程度の厚さで覆うことができるような分量とすることで、液体封止材110を介した半導体融液100からの全波長領域の光の透過率を10%以下に低減でき、また、可視光領域の光の透過率を1%以下に低減できる。また、不透明石英ビーズは、半導体融液100や液体封止材110の汚染を防ぐため、高純度処理が施されていることが好ましい。なお、半導体融液100の表面を封止する液体封止材110の厚さは、第1の実施形態と同様に、例えばルツボ20の直胴部27の断面直径に応じて5mm〜20mmの範囲内で適宜調整されている。
【0063】
不透明石英ビーズの表面に形成された凹凸や不透明石英ビーズが内包する気泡は、半導体融液100からの熱線を反射あるいは散乱させるように機能する。すなわち、不透明石英ビーズは、第1の実施形態のビーズ120と同様に、液体封止材110を介した半導体融液100からの熱線の透過を抑制するように機能する。そのため、本実施形態においても第1の実施形態と同様の効果を奏する。なお、不透明石英ビーズを構成するSiOは、液体封止材110を構成するBと反応するため、不透明石英ビーズから脱離したSi元素を半導体融液100中に取り込ませることができる。すなわち、熱線透過抑制材として不透明石英ビーズを用いることにより、半導体結晶中にSi元素を意図的にドープすることが可能となる。
【0064】
なお、本実施形態において、熱線透過抑制材は、酸化アルミニウムの小片あるいは成型品、例えばアルミナビーズとして構成されていてもよい。アルミナビーズは、半導体融液100からの熱線を反射あるいは散乱させるように機能する。すなわち、アルミナビーズも、第1の実施形態のビーズ120と同様に、液体封止材110を介した半導体融液100からの熱線の透過を抑制するように機能する。
【実施例1】
【0065】
本実施例では、熱線透過抑制材としてカーボン製のビーズ120を用い、連続して20回の結晶成長を実施した。
【0066】
まず、pBN製のルツボ20の細径部25にGaAsの種結晶30を収容した(S100)。ルツボ20の直胴部27の直径は160mmであり、直胴部27の高さ(長さ)は300mmであった。続いて、予め合成した主原料としての塊状のGaAsの多結晶をルツボ20内に24000g収容した(S105)。更に、液体封止材110としてのBと、熱線透過抑制材として高純度の多孔質グラファイト製のビーズ120群と、をルツボ内に収容した(S110)。ビーズ120の形状が略球状であって、その粒径(直径)は平均φ2mmであり、その表面にガラス状カーボンがコーティングされていた。B
の分量を400gとし、ビーズ120の分量をルツボの直胴部27で約5mmの厚さになる量とした。
【0067】
次に、ルツボ20をサセプタ50に収容し(S115)、サセプタ50をサセプタ支持部材55の上に搭載し(S120)、チャンバ70を密閉して結晶成長炉1内を窒素ガスでガス置換し(S125)、サセプタ支持部材55を回転させ、ルツボ20の回転を開始した(S130)。ルツボ20の回転速度は1rpmに設定した。断熱材60,62は、グラファイトの成型断熱材により構成した。
【0068】
そして、外周加熱ヒータユニット12a〜12dのそれぞれに通電し、ルツボ20の加熱を開始し(S135)、ルツボ20内に半導体融液100を生成させた(S140)。ルツボ20を加熱する工程では、チャンバ70内の圧力が0.5MPaを超えないように制御した。液体封止材110は、GaAs多結晶が融解するよりも早く軟化して透明な水飴状になり、半導体融液100の表面を覆った。ビーズ120は、ほぼ平坦な厚さ約5mmの層となって液体封止材110の表面に浮遊した。
【0069】
そして、外周加熱ヒータユニット12a〜12dの設定温度を、1290℃、1260℃、1120℃、1050℃にそれぞれ設定し(S145)、半導体融液100の温度が安定するまで4時間保持した(S150)。なお、半導体融液100内における1238℃の等温線が、種結晶30の上端部分にかかるような高さ位置にルツボ20を配置した。
【0070】
結晶成長炉1内の温度が安定した後、ルツボ20を1rpmの回転速度で回転させながら、4mm/hの速度で降下させ、半導体融液100内に所定の温度勾配を形成した(S155)。そして、約2.5日かけてルツボ20を約240mm降下させたところで、ルツボ20の降下を停止させた。
【0071】
その後、外周加熱ヒータユニット12a〜12dがそれぞれ950℃になるように24時間かけて徐冷し、さらに、外周加熱ヒータユニット12a〜12dの温度がそれぞれ400℃になるまで−20℃/hの速度で徐冷した(S160)。そして、外周加熱ヒータユニット12a〜12dの通電を停止して、ルツボ20を室温まで徐冷した(S165)。その後、工程S100から工程S165を連続して繰り返し、合計20本のインゴット(GaAs結晶)を製造した。
【0072】
その結果、20本全てのインゴットにおいて、多結晶化することなく、全長にわたって単結晶化していることが確認できた。
【0073】
また、製造した20本のインゴットのうち1本を無作為に選択し、インゴットの直胴部分から(100)面を有する略円形状のウエハを複数枚切り出して、かかるウエハの表面に対し水酸化カリウム(KOH)融液によるエッチング処理を施した。そして、各ウエハについて、転位に対応して発生するピットの密度、すなわち転位の密度を測定した。
【0074】
図6は、本実施例にかかる転位密度の測定結果を示すグラフ図である。図6によれば、インゴットの直胴部の全体にわたって、切り出した複数枚のウエハ面内の平均密度は0.5×10cm−2以下であった。具体的には、インゴットの直胴部の長さは250mmであり、インゴットの5mm(種結晶付近)から250mm(最終凝固部付近)までの範囲内において、ウエハ面内の平均転位密度が0.3×10cm−2から0.5×10cm−2の範囲であり、ウエハ面内の平均転位密度の最小値と最大値との差が0.2×10cm−2未満であることが確認できた。インゴットの全長にわたってリネージや結晶の亜粒界のような欠陥の発生は認められず、平均転位密度が所定値以下であることが確認できた。
【0075】
また、他の19本のインゴットについても、種結晶側、直胴部中盤、最終凝固部からそれぞれウエハを切り出し、切り出した各ウエハの表面に対しKOH融液によるエッチング処理を施して、上述の転位密度測定を実施した。その結果、残り19本のインゴットのいずれの部分においても、ウエハ面内の平均転位密度は0.5×10cm−2以下であることが確認できた。すなわち、製造した20本のインゴットのすべてにおいて、インゴットの全長にわたってリネージや結晶の亜粒界のような欠陥の発生は認められず、平均転位密度が所定値以下であることが確認できた。
【実施例2】
【0076】
本実施例では、熱線透過抑制材として円板130を用いて結晶成長を行った。使用した円板130は、高純度化処理を施した等方性グラファイト製で、直径φ156mm、厚さ3mmであった。その他の条件は実施例1と同じである。
【0077】
その結果、本実施例により製造したインゴットにおいても、多結晶化することなく、全長にわたって単結晶化していることが確認できた。
【0078】
また、実施例1と同様の方法により、インゴット内の転位密度分布を評価したところ、ウエハ面内の平均密度が最も高かった部位でも0.6×10cm−2を越えることはなく、インゴットの全長にわたってリネージや結晶の亜粒界のような欠陥の発生は認められず、平均転位密度が所定値以下であることが確認できた。
【実施例3】
【0079】
本実施例では、工程S110において、高純度カーボンの微粉末140を均一に分散させた液体封止材110をルツボ20内に収容した。その他の条件は実施例1と同じである。軟化して半導体融液100の表面を覆う液体封止材110は、上述の実施例とは異なり、透明ではなく、全体が均一に黒く不透明な様相を呈していた。
【0080】
その結果、本実施例により製造したインゴットにおいても、多結晶化することなく、全長にわたって単結晶化していることが確認できた。
【0081】
また、実施例1と同様の方法により、インゴット内の転位密度分布を評価したところ、ウエハ面内の平均密度が最も高かった部位でも0.5×10cm−2を越えることはなく、インゴットの全長にわたってリネージや結晶の亜粒界のような欠陥の発生は認められず、平均転位密度が所定値以下であることが確認できた。
(比較例)
【0082】
本比較例では、熱線透過抑制材を用いずに、連続して20回の結晶成長を実施した。すなわち、工程S110において、赤外線透過抑制材をルツボ20内に収容せずに結晶成長を行った。その他の条件は実施例1と同じである。
【0083】
その結果、本比較例では、製造した20本のインゴットのうち7本のインゴットにおいて、最終凝固部付近が多結晶化していることが認められた。
【0084】
また、全長にわたり単結晶化していることが確認できた残りの13本のインゴットについても転位密度分布を測定した結果、最終凝固部付近で転位密度の増加が認められた。図7は、全長にわたり単結晶化していることが確認できた残り13本のインゴットのうち1本を選び、その直胴部分から複数枚のウエハを切りだし、各ウエハ面内の平均転位密度を測定した結果である。ウエハの取得方法並びに転位密度の評価方法は、前述の実施例と同じである。その結果、種結晶側〜直胴部中盤までは平均転位密度が0.5×10cm
以下であり、実施例とほぼ同程度の転位密度であった。しかし、最終凝固部付近で急激に転位密度が増加する傾向が確認できた。すなわち、最終凝固部付近から切り出したウエハでは、ウエハ面内の平均転位密度が8.1×10cm−2であり、種結晶側〜直胴部中盤から切り出したウエハ面内の平均転位密度と比べて、2倍近くまで増加してしまっていた。また、転位密度が増加したウエハの内部には、転位が線状に配列したいわゆるリネージと呼ばれる欠陥が観察された。
【0085】
<本発明の他の実施形態>
本発明にかかる熱線透過抑制材は、熱線の透過を抑制する性質、すなわち赤外線を吸収、反射、散乱する性質を有し、成長結晶に不純物汚染などの悪影響を及ぼさないものであれば、上述の実施形態に記した材料以外であっても構わない。なお、例えば炭素(C)ドープのGaAs結晶を成長させる場合には、熱線透過抑制材として炭素を含む材料を用いることにより、意図的に炭素(C)をドープさせることができると共に、不要な汚染を抑制できる。また、ケイ素(Si)ドープのGaAs結晶を成長させる場合には、熱線透過抑制材として石英を含む材料を用いることにより、意図的にケイ素(Si)をドープさせることができると共に、不要な汚染を抑制できる。
【0086】
上述の実施形態では、ルツボ20を降下させることにより、半導体融液100内の種結晶側から温度を降下させて結晶成長を進行させたが、本発明はかかる実施形態に限定されない。例えば、ルツボ20を降下させずに、外周加熱ヒータユニット12a〜12dを所定の速度で徐々に低下させることにより上述の結晶成長を実施してもよい。また、加熱ヒータを備える炉体をルツボ20に対して移動させて結晶成長を行う炉体移動法(Traveling Furnace法:TF法)にも本発明は好適に適用可能である。
【0087】
ルツボ20内において生成する半導体融液100が、大気圧以上の解離圧を有する場合、チャンバ70を圧力容器として構成することもできる。チャンバ70内を解離圧以上の圧力に設定することにより、結晶成長中における半導体融液100の蒸発や原料成分の揮発等を抑制させることができる。
【0088】
ルツボ20の全体を、石英等から形成されたアンプル内に封入することもできる。そして、ルツボ20を封入したアンプルをチャンバ70内の所定の位置に設置し、半導体結晶を製造することも可能である。
【0089】
本発明にかかる半導体結晶の製造方法においては、GaAsの単結晶だけではなく、他のIII−V族化合物半導体結晶を製造する際にも好適に適用可能である。例えば、InP
、InAs、GaSb、又はInSb等の化合物半導体を製造する際にも好適に適用可能である。また、AlGaAs、InGaAs、又はInGaP等のIII−V族化合物半導体結晶の三元混晶結晶、若しくは、AlGaInP等のIII−V族化合物半導体結晶の四元混晶結晶を製造する際にも好適に適用可能である。また、ZnSe、CdTe等のII−VI族化合物半導体結晶を製造する際にも好適に適用可能である。
【0090】
本発明は上述の実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の第1の実施形態にかかる半導体結晶の製造方法を実施する結晶成長炉の断面構成図である。
【図2】本発明の第1の実施形態にかかる半導体融液表面付近の断面概略図である。
【図3】本発明の第2の実施形態にかかる半導体融液表面付近の断面概略図である。
【図4】本発明の第3の実施形態にかかる半導体融液表面付近の断面概略図である。
【図5】本発明の第1の実施形態にかかる半導体結晶の製造方法を例示するフロー図である。
【図6】実施例1にかかるインゴットの転位密度の測定結果を示すグラフ図である。
【図7】比較例にかかるインゴットの転位密度の測定結果を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0092】
1 結晶成長炉
12a〜12d 外周加熱ヒータユニット
20 ルツボ
30 種結晶
70 チャンバ
100 半導体融液
110 液体封止材
120 ビーズ(熱線透過抑制材)
130 円板(熱線透過抑制材)
140 微粉末(熱線透過抑制材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルツボ内の底部に配置した種結晶と前記ルツボ内に収容した半導体融液とを接触させつつ、前記半導体融液を前記種結晶側から上方に向けて徐々に固化させる半導体結晶の製造方法において、
前記半導体融液上に液体封止材と熱線透過抑制材とを設け、
前記液体封止材には前記半導体融液内からの成分の揮発を抑制させ、
前記熱線透過抑制材には前記液体封止材を介した前記半導体融液からの熱線の透過を抑制させる
ことを特徴とする半導体結晶の製造方法。
【請求項2】
ルツボ内の底部に種結晶を配置し、
前記ルツボ内に半導体原料と封止材と熱線透過抑制材とを収容し、
前記ルツボを加熱し、前記半導体原料を溶融させた半導体融液と前記封止材を軟化させた液体封止材とを前記ルツボ内に生成することで、前記種結晶と前記半導体融液とを接触させると共に、前記半導体融液上に前記液体封止材と前記熱線透過抑制材とを設け、
前記半導体融液を前記種結晶側から上方に向けて徐々に固化させる
ことを特徴とする半導体結晶の製造方法。
【請求項3】
前記液体封止材上に前記熱線透過抑制材を浮遊させる
ことを特徴とする請求項1又は2記載の半導体結晶の製造方法。
【請求項4】
前記液体封止材中に前記熱線透過抑制材を設ける
ことを特徴とする請求項1又は2記載の半導体結晶の製造方法。
【請求項5】
前記熱線透過抑制材は炭素を含む材料からなる
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の半導体結晶の製造方法。
【請求項6】
前記熱線透過抑制材は酸化物を含む材料からなる
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の半導体結晶の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−298611(P2009−298611A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152508(P2008−152508)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】