説明

半導体装置

【課題】 パワーモジュールを放熱フィンに螺着させる際ネジ緩みの発生を防止する。
【解決手段】 本発明の半導体装置は、表主面に半導体素子が搭載された放熱板と、
前記放熱板の裏主面に対向する対向面を有し前記放熱板の裏主面と前記対向面とが対向して配置された放熱フィンと、前記放熱板の裏主面と前記対向面とが対向する対向領域の全域に形成されたグリースと、前記放熱板の周縁部に設けられ前記放熱板の裏主面と前記放熱フィンの対向面とを前記グリースを介して圧接するネジと、を備え、前記ネジを螺着させるためのネジ穴が前記放熱板の前記周縁部に形成されており、更に前記放熱フィンの対応する位置にネジ穴が形成されており、前記放熱板のネジ穴の裏主面側の近傍及び前記放熱フィンのネジ穴の対向面側の近傍の、少なくとも一方に、前記圧接時の前記グリースの余剰分を逃がす逃がし部を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、底面に取り付けられる放熱フィンにより放熱する半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パワー半導体素子(パワーMOSFET、IGBT等)を絶縁基板上に結線し、1つのパッケージに組み込んだパワーモジュールが知られている。パワーモジュールは、表主面側にパワー半導体素子が設けられ、放熱板が接合されている裏主面側から熱を逃がす構成となっている。パワーモジュールは、裏主面にシリコーングリースを塗布され、このシリコーングリースを介して放熱フィンにネジで固定される。
【0003】
パワーモジュールを放熱フィンに固定する際には、シリコーングリースと放熱フィンとのなじみをよくするために加圧され、さらにネジで締め付けられて固定される。このため、ネジを締めた後、パワーモジュールと放熱フィンの間にあるシリコーングリースの一部が、徐々に外側にはみ出してくることがある。そうするとパワーモジュールが僅かに沈み込み、その結果パワーモジュールのネジ留め部とネジ頭に隙間ができそこに緩みが生じる。
【0004】
ここで、ネジに緩みが生じることによりパワーモジュールと放熱フィンの密着性が低下し、装置全体の放熱能力が低下してしまうという問題が生じる。放熱能力の低下が著しい場合には、パワーモジュール内のパワー半導体素子が熱破壊するようなことも起こり得る。
【0005】
ところで、従来のパワーモジュールの組み立て工程では、放熱フィンにパワーモジュールを螺着させるネジを締める際に、先にネジを仮締めしてその後に本締めする、というように作業を2段階に分けている。これは、パワーモジュール内の絶縁メタライズ基板の絶縁層クラックを発生させないためである。この先の仮締めにより余分なシリコーングリースが外にはみ出てしまうため、その後本締めをするという2段階の作業により結果として上記のネジの緩みの発生が一部軽減され得るという効果も生じている。しかし、このようなネジ締め作業の2段階化は作業効率向上に寄与するものではないため、必ずしも行われるものではない。また、ネジ締め作業を2段階に分けたからといって、シリコーングリースのはみ出しによるネジの緩みが全く生じなくなるというものでもない。
【0006】
なお、特許文献1に記載の発明は、熱伝導性グリースを介して冷却器に固定されるパワーモジュールにおいて、熱伝導性グリースの塗布部とネジ穴との間に溝部が形成されるというものである。この溝部はネジ穴への熱伝導性グリースの浸入を防止するためのものである。
【特許文献1】特開2003−168772号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、パワーモジュールを放熱フィンに螺着させる場合に、ネジ緩みが生じることを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の目的を達成するために為されたものである。本発明に係る半導体装置は、
表主面に半導体素子が搭載された放熱板と、
前記放熱板の裏主面に対向する対向面を有し、前記放熱板の裏主面と前記対向面とが対向して配置された放熱フィンと、
前記放熱板の裏主面と前記対向面とが対向する対向領域の全域に形成されたグリースと、
前記放熱板の周縁部に設けられ前記放熱板の裏主面と前記放熱フィンの対向面とを前記グリースを介して圧接するネジと、
を備え、
前記ネジを螺着させるためのネジ穴が前記放熱板の前記周縁部に形成されており、更に前記放熱フィンの対応する位置にネジ穴が形成されており、
前記放熱板のネジ穴の裏主面側の近傍及び前記放熱フィンのネジ穴の対向面側の近傍の、少なくとも一方に、前記圧接時の前記グリースの余剰分を逃がす逃がし部を設けたことを特徴とする半導体装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明を利用することにより、パワーモジュールの底面に放熱フィンを螺着させ相当時間が経過しても、固体のためのネジ部分に緩みが生じることが防がれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明に係る好適な実施の形態を説明する。なお、以下の説明では、特定の方向を示す用語「上」、「下」、「右」、「左」、「表」、「裏」及びそれらの用語を含む別の用語(例えば「上面」、「下面」、「右側」、「左側」、「表主面」、「裏主面」)を適宜使用するが、それらの使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語によって発明の技術的範囲が限定されるものではない。したがって、以下に説明する具体的な発明の実施形態を上下反転して、または任意の方向(例えば、時計回り方向又は反時計回り方向)に90°回転した形態も当然本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0011】
まず図7に、一般的なパワーモジュール2の概略の斜視図を示す。パワーモジュール2の内部では、一つまたはそれ以上の半導体素子(図示せず)がはんだなどにより絶縁基板(図示せず)上に接合されている。それら半導体素子及び絶縁基板は、通常樹脂で構成されるケース4により完全に上方を覆われる。更に、絶縁基板の下面には銅やアルミニウムなどからなる放熱板6が接合される。ケース4は、半導体素子及び絶縁基板を搭載する放熱板6の上面の略全体を覆って放熱板上面に固定される。なお、パワーモジュール2は通常主電極端子や信号端子を有し、それら端子は半導体素子に接続してケース4内部から外へ突出しているが、図7ではそれら端子を省いている。
【0012】
上記のようにケース4は放熱板6上面の略全体を覆うが、放熱板6上面の4つの角部は覆わず、それら4つの角部の表面は露出するようにされている。4つの角部にはネジ穴8が形成されている。これらのネジ穴8は、パワーモジュール2を放熱フィンに螺着するネジ14のためのものである。なお、ネジ穴8が形成され表面が露出する放熱板6の部位は、4つの角部に限定されるものではなく、角部ではない周縁部分であることもある。
【0013】
図8は、パワーモジュール2を放熱フィン20へ取り付ける作業内容を示す側面図である。まず、パワーモジュール2の放熱板6の下面全域に耐熱性を備えるグリースの一つであるシリコーングリース(シリコーンオイルに主に金属せっけん等を配合したグリース)16が塗布される。勿論、放熱フィン20の上面のうちの、パワーモジュール2の放熱板6の下面全域に対向する領域面に塗布されてもよい。次に、パワーモジュール2を放熱フィン20の上面に搭載する。更に、パワーモジュール2の放熱板6の4つの角部近傍に形成されたネジ穴8にネジ14が入れられ、例えば電動トルクドライバなどでネジ締めされ、放熱フィン20上面でパワーモジュール2が固定される。勿論、放熱フィン20の対応する位置にもネジ穴22が形成されている(図10参照)。
【0014】
このネジ締めの後、「背景技術」の項で述べたように、パワーモジュール2と放熱フィン20の間にあるシリコーングリース16の一部が徐々に外側にはみ出してくるという問題が生じることがある。つまり、図9のように形成されたネジ穴8にネジが入れられネジ締めされると、シリコーングリースの反発力により一時的に図10(1)の断面図のような安定した状態となるが、時間が経つにつれて図10(2)の断面図のようにシリコーングリース16が外側にはみ出てきて、放熱板6が若干沈みネジ締めトルクが少し緩む。以下の発明の実施の形態では、放熱板6のネジ穴8近傍に、つまり、図8の点線で囲まれる領域に相当する部分Aに、適切な処置を施す。
【実施の形態1】
【0015】
図3は、本発明の実施の形態1に係るパワーモジュール2の斜視図であり、図4は、同パワーモジュールの裏主面から見た斜視図である。更に図1では、上半分に実施の形態1に係るパワーモジュール2の放熱板6のネジ穴8近傍部分の拡大斜視図を示し、鎖線の下にネジ穴8近傍部分を裏方向から見た斜視図を示す。実施の形態1では図1に最もよく示されるように、ネジ穴8の近く且つ放熱板6裏主面縁部に複数のスリット(第1の凹部)10と、放熱板6裏主面のネジ穴8近くに複数のディンプル(第2の凹部)12とが設けられている。即ち、放熱板6に余分なシリコーングリース16のための逃がし部が設けられている。
【0016】
図1、図3及び図4では、シリコーングリース16の逃がし部としてスリット10とディンプル12が設けられているが、逃がし部の形状はこれらに限定されるものではない。但し、ネジ緩みの問題点の改善のためには、逃がし部はネジ穴8近傍に設けられるのが好ましい。また、逃がし部がネジ穴8近傍に設けられると、ケース4内部の半導体素子からある程度距離を置いて逃がし部が形成されることになるから、スリット・ディンプルなどの逃がし部が半導体素子の放熱を阻害する要因になることはない。
【0017】
スリットやディンプルを形成しない場合、図10で示すようにネジ締め直後にはシリコーングリース16には反発力が生じ(図10(1)参照)相当時間経過後にはシリコーングリース16のはみ出しが生じる(図10(2)参照)。従って、ネジ締め直後のシリコーングリースの反発力の軽減(シリコーングリースから放熱板が応力を受ける面の面積縮小)と、余分なシリコーングリースの逃げ場の確保のために、図1のようにスリットやディンプルを設けることが効果的である。
【0018】
つまり、図2に示すように、スリット10は、余分なシリコーングリース16をネジ14の締め付けと同時に瞬時に逃がし、ネジ締め付け後のシリコーングリース16の流動を抑えることができる。
【0019】
また、ディンプル12は、シリコーングリース16がネジ締め時に受ける応力の垂直な応力面を減らしてシリコーングリース16の反発力を軽減する。従って、ディンプル12によりシリコーングリース16がネジ締め付けと同時になじみやすくなり、その結果ネジ14が緩みにくくなる。
【0020】
なお、スリットやディンプルなどの逃がし部は、放熱板6のネジ穴8近傍部分に対向する放熱フィン20の表主面に設けられてもよい。また、図1、図3及び図4のように複数のスリット10と複数のディンプル12が設けられたものではなく、スリット10とディンプル12のいずれかが少なくとも一つ設けられたものであってもよい。
【実施の形態2】
【0021】
図5は、本発明の実施の形態2に係るパワーモジュール2の放熱板6のネジ穴8近傍部分の拡大斜視図である。なお、実施の形態2に係るパワーモジュール2は、実施の形態1に係るパワーモジュール2と略同一であり、従って同一部位には同一の符号を付して説明を省略する。
【0022】
実施の形態2に係るパワーモジュール2では、ネジ穴8近傍に設けられたスリット10’の一つが放熱板6の裏主面から表主面にまで貫通しており然もネジ穴8内まで貫通している。
【0023】
このように形成されたスリット10’は、実施の形態1の場合と同様に、余分なシリコーングリース16をネジ14の締め付けと同時に瞬時に逃がし、ネジ締め付け後のシリコーングリース16の流動を抑えることができる。のみならず、実施の形態2におけるスリット10’を加工する作業効率は、実施の形態1におけるスリットの場合よりも大きく向上する。なぜならば、放熱板6にネジ穴8を打ち抜く際に同時にスリット10’を形成できるからである。
【0024】
更に実施の形態2に係るパワーモジュール2の放熱板6のスリット10’では、シリコーングリース16を逃がす隙間がより大きくなるから、ディンプル12や他のスリットが設けられなくてもよい。
【実施の形態3】
【0025】
図6は、実施の形態3に係るパワーモジュール2の放熱板6のネジ穴8近傍部分の拡大断面図である。実施の形態3に係るパワーモジュール2も、実施の形態1に係るパワーモジュール2と略同一であり、従って同一部位には同一の符号を付して説明を省略する。
【0026】
実施の形態3に係るパワーモジュール2では、放熱フィン20と接触する放熱板6の裏主面側にて、ネジ穴8の縁に相応の大きさのざぐり(皿ネジ穴)18が形成されている。このざぐり18は、実施の形態1におけるスリットとディンプルの効果を兼ね備えているといえる。つまり、ざぐり18は、ネジ14の締め付けと同時に余分なシリコーングリース16を逃がしてその流動を抑え、それと共に、シリコーングリース16がネジ締め時に受ける応力の垂直な応力面を減らしてシリコーングリース16からの反発力を軽減する。
【0027】
従って、上記ざぐり18を相応に大きいものにすれば、実施の形態1若しくは実施の形態2におけるスリット10やディンプル12を設ける必要がない。また、シリコーングリース16の逃がし部がネジ穴8中心から見て全方向に存在するため、余分なシリコーングリース16を確実に留めることができる。
【0028】
また、ざぐり18は、放熱板6の裏主面のネジ穴8の縁のみに集中して形成されるので、実施の形態3に係るパワーモジュール2において、ネジ穴8近傍の放熱板6は、従来技術のもの(図9参照)と略同等の強度を持ち、放熱板6の角部でもねじれ等の変形は生じにくい。
【0029】
なお、ざぐりも、放熱板6に対向する放熱フィン20の対向面(表主面)のネジ穴22の縁に設けられてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】上半分に実施の形態1に係るパワーモジュールの放熱板のネジ穴近傍部分の拡大斜視図を示し、鎖線の下にネジ穴8近傍部分を裏方向から見た斜視図を示す。
【図2】本発明の実施の形態1に係るパワーモジュールの放熱板のネジ穴近傍部分の拡大断面図であり、断面はスリット及びディンプルを通るものである。
【図3】本発明の実施の形態1に係るパワーモジュール2の斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係るパワーモジュールの裏主面から見た斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態2に係るパワーモジュールの放熱板のネジ穴近傍部分の拡大斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態3に係るパワーモジュールの放熱板のネジ穴近傍部分の拡大断面図である。
【図7】一般的なパワーモジュールの概略の斜視図である。
【図8】パワーモジュールを放熱フィンへ取り付ける作業内容を示す側面図である。
【図9】上半分に従来の一般的なパワーモジュールの放熱板のネジ穴部分の拡大斜視図を示し、鎖線の下に同じネジ穴部分を裏方向から見た斜視図を示す。
【図10】一般的なパワーモジュールの放熱板のネジ穴近傍部分の拡大断面図であり、ネジ締め直後の状態を示すもの[図10(1)]と、相当時間経過後の状態を示すもの[図10(2)]である。
【符号の説明】
【0031】
2 パワーモジュール、 4 ケース、 6 放熱板、 8 ネジ穴、 10 スリット、 12 ディンプル、 14 ネジ、 16 シリコーングリース。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表主面に半導体素子が搭載された放熱板と、
前記放熱板の裏主面に対向する対向面を有し、前記放熱板の裏主面と前記対向面とが対向して配置された放熱フィンと、
前記放熱板の裏主面と前記対向面とが対向する対向領域の全域に形成されたグリースと、
前記放熱板の周縁部に設けられ前記放熱板の裏主面と前記放熱フィンの対向面とを前記グリースを介して圧接するネジと、
を備え、
前記ネジを螺着させるためのネジ穴が前記放熱板の前記周縁部に形成されており、更に前記放熱フィンの対応する位置にネジ穴が形成されており、
前記放熱板のネジ穴の裏主面側の近傍及び前記放熱フィンのネジ穴の対向面側の近傍の、少なくとも一方に、前記圧接時の前記グリースの余剰分を逃がす逃がし部を設けたことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記逃がし部が、前記放熱板のネジ穴の周囲で且つ前記放熱板の裏主面の縁部、及び前記放熱フィンのネジ穴の周囲で且つ前記放熱フィンの対向面の縁部の、少なくとも一方に設けられたスリットであることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記逃がし部が、前記放熱板のネジ穴の裏主面側の周囲及び前記放熱フィンのネジ穴の対向面側の周囲の、少なくとも一方に設けられたディンプルであることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記スリットが前記放熱板のネジ穴の周囲で且つ前記放熱板の裏主面の縁部に設けられたものである場合に、前記スリットが裏主面から表主面まで貫通していることを特徴とする請求項2に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記逃がし部が、前記放熱板の裏主面側のネジ穴周囲及び前記放熱フィンの対向面側のネジ穴周囲の、少なくとも一方に設けられたざぐりであることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−165279(P2006−165279A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−354825(P2004−354825)
【出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】