説明

半導体装置

【課題】 ダイオード領域とIGBT領域が混在した半導体装置において、トレンチゲートのそれぞれの閾値電圧のばらつきを抑制するとともに、逆回復特性を改善することを目的とする。
【解決手段】 半導体装置10の半導体層12には、ダイオード領域20とIGBT領域40の双方に亘って連続して伸びているとともに、半導体層12の表面から観測して第1深さと第2深さの間の範囲に設けられている第1ライフタイム制御領域32が形成されている。第1深さは、トレンチゲート52の底面の深さと一致している。第2深さは、半導体層12の厚みを1.0としたときに0.4である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイオード領域とIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)領域が形成されている半導体層を備える半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイオード領域とIGBT領域を同一の半導体層内に混在させた半導体装置が開発されている。この種の半導体装置では、ダイオード領域がフリーホイールダイオード(Free Wheeling Diode:FWD)として利用されており、IGBT領域がオフのときに、負荷電流を還流させる。この種の半導体装置では、ダイオード領域の逆回復特性を改善することが重要な課題となっている。
【0003】
特許文献1には、ダイオード領域の逆回復特性を改善するために、半導体層内にライフタイム制御領域を形成する技術が提案されている。ライフタイム制御領域は、負荷電流が還流するときに注入される過剰なキャリアを再結合によって消失させ、逆回復時の逆回復電荷量(Qrr)を低減させるために形成されている。特許文献1には、ダイオード領域とIGBT領域の双方に亘ってライフライム制御領域を形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−267394号公報(特に、図10参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、ライフタイム制御領域の形成位置がIGBT領域に設けられている複数のトレンチゲートの形成位置と重複しており、ライフタイム制御領域がトレンチゲートに接触している。ライフタイム制御領域の形成位置と複数のトレンチゲートの形成位置が重複していると、トレンチゲートのそれぞれの閾値電圧のばらつきが大きくなる。トレンチゲートのそれぞれの閾値電圧のばらつきを低く抑えることが必要である。
【0006】
本願明細書に開示される技術は、トレンチゲートのそれぞれの閾値電圧のばらつきを抑制するとともに、逆回復特性が改善された半導体装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願明細書で開示される技術では、ダイオード領域とIGBT領域の双方に亘ってライフタイム制御領域を形成する。さらに、そのライフライム制御領域が、トレンチゲートよりも深い位置に形成されていることを特徴としている。これにより、ライフタイム制御領域の形成位置とトレンチゲートの形成位置が重複しないので、トレンチゲートのそれぞれの閾値電圧のばらつきが抑制される。本願明細書で開示される技術ではさらに、ライフタイム制御領域の形成位置が、半導体層の厚みを1.0としたときに、半導体層の表面から0.4の深さ以下の範囲であることを特徴としている。ライフタイム制御領域の形成位置とトレンチゲートの形成位置を重複させないことだけを考慮すれば、ライフタイム制御領域を半導体層に対して深い位置に形成するのが望ましい。しかしながら、本発明者らの検討の結果、ライフタイム制御領域を半導体層の深い位置に形成すると、IGBT領域のオン電圧、ダイオード領域のリカバリー損失及びリカバリーサージ電圧のいずれもが増大してしまうことを突き止めた。特に、ダイオード領域のリカバリーサージ電圧は、ライフタイム制御領域が上記「0.4」に係る深さを超えて形成されると、急激に増大することを突き止めた。本明細書で開示される半導体装置は、これらの知見に基づいて初めて創作されたものである。
【0008】
すなわち、本明細書で開示される半導体装置は、ダイオード領域とIGBT領域が形成されている半導体層を備えている。ダイオード領域は、半導体層の表層部に形成されている第1導電型のアノード領域と、半導体層の裏層部に形成されている第2導電型のカソード領域と、アノード領域とカソード領域の間に形成されているとともにカソード領域よりも不純物濃度が薄い第2導電型の中間領域を有している。IGBT領域は、半導体層の表層部に形成されている第1導電型のボディ領域と、半導体層の裏層部に形成されている第1導電型のコレクタ領域と、ボディ領域とコレクタ領域の間に形成されている第2導電型のドリフト領域と、ボディ領域を貫通して設けられている複数のトレンチゲートを有している。ここで、本願明細書では、半導体層の裏層部に第1導電型のコレクタ領域が形成されている範囲をIGBT領域と定義する。したがって、ダイオード領域とIGBT領域の境界とは、コレクタ領域の形成範囲と非形成範囲の境界となる。一例では、ダイオード領域の第2導電型のカソード領域とIGBT領域の第1導電型のコレクタ領域が隣接していることが多い。したがって、ダイオード領域とIGBT領域の境界とは、カソード領域とコレクタ領域の接合面となることもある。半導体層には、ダイオード領域とIGBT領域の双方に亘って連続して伸びている第1ライフタイム制御領域が形成されている。第1ライフタイム制御領域は、半導体層の表面から観測して第1深さと第2深さの間の範囲に設けられている。第1深さは、トレンチゲートの底面の深さと一致している。第2深さは、半導体層の厚みを1.0としたときに0.4である。第1ライフタタイム制御領域は、半導体層の表面から観測して第1深さと第2深さの間の少なくとも一部の範囲に設けられていてもよいし、第1深さと第2深さの間の全域に設けられていてもよい。第1ライフタイム制御領域は、キャリアのライフタイムが周囲の領域よりも短縮化された領域である。一例では、第1ライフタイム制御領域は、結晶欠陥が意図的に形成された領域である。上記範囲に第1ライフタイム制御領域が形成されていると、第1ライフタイム制御領域の形成位置とトレンチゲートの形成位置が重複しないので、トレンチゲートのそれぞれの閾値電圧のばらつきが抑制される。さらに、上記範囲に第1ライフタイム制御領域が形成されていると、IGBT領域のオン電圧、ダイオード領域のリカバリー損失及びリカバリーサージ電圧のいずれをも低く抑えることができる。
【0009】
半導体層には、少なくともIGBT領域に設けられている第2ライフタイム制御領域が形成されていてもよい。この場合、第2ライフタイム制御領域は、コレクタ領域とドリフト領域の界面近傍のうちのドリフト領域側に形成されているのが望ましい。なお、必要に応じて、第2ライフタイム制御領域は、ダイオード領域にまで伸びて形成されていてもよい。第2ライフタイム制御領域が設けられていると、IGBT領域がオフしたときに、半導体層の深い位置の過剰なキャリアを短時間で消失させることができる。このため、第2ライフタイム制御領域が設けられていると、IGBT領域のスイッチング速度を改善することができる。
【発明の効果】
【0010】
本明細書で開示される技術によると、トレンチゲートのそれぞれの閾値電圧のばらつきを抑制するとともに、逆回復特性が改善された半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、第1実施例の半導体装置の要部断面図を模式的に示す。
【図2】図2は、ライフタイム制御領域の形成位置とオン電圧の関係を示す。
【図3】図3は、ライフタイム制御領域の形成位置とリカバリー損失の関係を示す。
【図4】図4は、ライフタイム制御領域の形成位置とリカバリーサージ電圧の関係を示す。
【図5】図5は、第2実施例の半導体装置の要部断面図を模式的に示す。
【図6】図6は、第2実施例の半導体装置の他の一例の要部断面図を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本願明細書で開示される技術の特徴を整理して記載する。
(特徴1)ライフタイム制御領域は、荷電粒子の照射によって形成されており、半導体層の所定深さの面内に形成されている。
(特徴2)半導体層には、半導体層の表面から観測して第1深さと第2深さの間の範囲に設けられている第1ライフタイム制御領域が形成されている。第1深さは、トレンチゲートの底面の深さと一致している。第2深さは、半導体層の厚みを1.0としたときに0.4であるのが望ましい。
(特徴3)第1ライフタイム制御領域は、水平方向において結晶欠陥密度が異なっていてもよい。一例では、水平方向で観測したときに、ダイオード領域の結晶欠陥密度が、IGBT領域の結晶欠陥密度よりも高いのが望ましい。
【実施例1】
【0013】
図1に示されるように、半導体装置10は、ダイオード領域20とIGBT領域40が混在した半導体層12を備えている。半導体装置10では、ダイオード領域20がフリーホイールダイオードとして利用されており、IGBT領域40がオフのときに、負荷電流を還流させる。一例では、半導体装置10は、車載用の3相インバータ回路を構成する6つのトランジスタの1つとして用いられており、図示しない交流モータに接続されている。PWM(Pulse Width Modulation)方式でON/OFF制御される半導体装置10では、IGBT領域40がオフのとき、ダイオード領域20を介して交流モータに向けて還流電流が流れる。一例では、IGBT領域40は、半導体層12を平面視したときに、ダイオード領域20の周囲を一巡するように形成されていてもよい。あるいは、ダイオード領域20とIGBT領域40は、半導体層12を平面視したときに、隣接して配置されていてもよい。
【0014】
半導体装置10は、半導体層12の裏面に形成されている共通電極60と、半導体層12の表面に形成されているアノード電極28及びエミッタ電極48を備えている。共通電極60は、ダイオード領域20とIGBT領域40の双方に亘って形成されており、ダイオードにおけるカソード電極であり、IGBTにおけるコレクタ電極である。アノード電極28は、ダイオード領域20に対応して形成されている。エミッタ電極48は、IGBT領域40に対応して形成されている。なお、必要に応じて、アノード電極28とエミッタ電極48を一枚の共通電極としてもよい。
【0015】
半導体装置10はさらに、半導体層12のダイオード領域20に対応した部位に、n型のカソード領域22と、n型の中間領域24と、p型のアノード領域26を備えている。
【0016】
カソード領域22は、例えば、イオン注入技術を利用して、半導体層12の裏層部に形成されている。カソード領域22の不純物濃度は濃く、共通電極60にオーミック接触している。
【0017】
中間領域24は、カソード領域22とアノード領域26の間に設けられている。中間領域24は、低濃度中間領域24aとバッファ領域24bを備えている。低濃度中間領域24aとバッファ領域24bは、不純物濃度が異なっており、低濃度中間領域24aの不純物濃度がバッファ領域24bよりも薄い。低濃度中間領域24aは、半導体層12に他の領域を形成した残部であり、不純物濃度は厚み方向に一定である、バッファ領域24bは、例えば、イオン注入技術を利用して形成されている。
【0018】
アノード領域26は、例えば、イオン注入技術を利用して、半導体層12の表層部に形成されている。アノード領域26は、複数の高濃度アノード領域26aと、その複数の高濃度アノード領域26aを取囲む低濃度アノード領域26bを備えている。複数の高濃度アノード領域26aは、半導体層12の表層部に分散して配置されている。複数の高濃度アノード領域26aの不純物濃度は濃く、アノード電極28にオーミック接触している。低濃度アノード領域26bの不純物濃度は、高濃度アノード領域26aより薄い。なお、この例に代えて、低濃度アノード領域26bは、隣合う高濃度アノード領域26a間にのみ設けられていてもよい。アノード領域26の形態は、ダイオード領域20に所望する特性に応じて、様々な形態を採用することができる。
【0019】
半導体装置10はさらに、半導体層12のIGBT領域40に対応した部位に、p型のコレクタ領域42と、n型のドリフト領域44と、p型のボディ領域46と、n型のエミッタ領域47を備えている。
【0020】
コレクタ領域42は、例えば、イオン注入技術を利用して、半導体層12の裏層部に形成されている。コレクタ領域42の不純物濃度は濃く、共通電極60にオーミック接触している。IGBT領域40のコレクタ領域42とダイオード領域20のカソード領域22は、半導体層12の共通した深さに位置しており、半導体層12の水平方向に隣接している。この例では、コレクタ領域42とカソード領域22の接合面が、IGBT領域40とダイオード領域20の境界である。
【0021】
ドリフト領域44は、コレクタ領域42とボディ領域46の間に設けられている。ドリフト領域44は、低濃度ドリフト領域44aとバッファ領域44bを備えている。低濃度ドリフト領域44aとバッファ領域44bは、不純物濃度が異なっており、低濃度ドリフト領域44aの不純物濃度がバッファ領域44bよりも薄い。低濃度ドリフト領域44aは、半導体層12に他の領域を形成した残部であり、不純物濃度は厚み方向に一定である、バッファ領域44bは、例えば、イオン注入技術を利用して形成されている。
【0022】
ボディ領域46は、例えば、イオン注入技術を利用して、半導体層12の表層部に形成されている。ボディ領域46は、複数のボディコンタクト領域46aと、そのボディコンタクト領域46aを取囲む低濃度ボディ領域46bを備えている。ボディコンタクト領域46aは、半導体層12の表層部に分散して配置されている。複数のボディコンタクト領域46aの不純物濃度は濃く、エミッタ電極48にオーミック接触している。低濃度ボディ領域46bの不純物濃度は、複数のボディコンタクト領域46aよりも薄い。
【0023】
複数のエミッタ領域47は、例えば、イオン注入技術を利用して、半導体層12の表層部に形成されている。複数のエミッタ領域47は、半導体層12の表層部に分散して配置されている。複数のエミッタ領域47の不純物濃度は濃く、エミッタ電極48にオーミック接触している。
【0024】
半導体装置10はさらに、IGBT領域40に対応した部位に形成されている複数のトレンチゲート52を備えている。複数のトレンチゲート52は、半導体層12の表層部に分散して配置されている。トレンチゲート52は、トレンチゲート電極54と、そのトレンチゲート電極54を被覆するゲート絶縁膜56を備えている。トレンチゲート52は、半導体層12の表面から裏面に向けて伸びており、ボディ領域46を貫通して伸びている。トレンチゲート52は、エミッタ領域47と低濃度ボディ領域46bと低濃度ドリフト領域44aに接している。トレンチゲート電極54は、絶縁膜58によってエミッタ電極48から絶縁されている。
【0025】
半導体装置10はさらに、半導体層12の表面から観測したときに、所定の深さ32Dに形成された第1ライフタイム制御領域32を備えていることを特徴としている。第1ライフタイム制御領域32は、半導体層12の深さ32Dにおいて、その面内に形成されている。第1ライフタイム制御領域32は、ダイオード領域20とIGBT領域40の全範囲において、水平方向に沿って連続して形成されている。
【0026】
第1ライフタイム制御領域32は、既知の様々な手法を用いて形成することができる。本実施例では、半導体層12の表面又は裏面からヘリウム(He)を照射し、所定の深さD32に結晶欠陥密度がピークとなるように第1ライフタイム制御領域32を形成している。この例に代えて、半導体層12に他の荷電粒子を照射することによって第1ライフタイム制御領域32を形成してもよい。あるいは、半導体層12に電子線を照射することによって第1ライフタイム制御領域32を形成してもよい。また、半導体層12に金又は白金等の重金属を拡散させて第1ライフタイム制御領域32を形成してもよい。
【0027】
第1ライフタイム制御領域32は、ヘリウムを照射するときのダメージによって、周囲よりも多量の結晶欠陥を含んでいる。第1ライフタイム制御領域32の結晶欠陥密度は、周囲の低濃度中間領域24a及び低濃度ドリフト領域44aの結晶欠陥密度よりも高い。このため、第1ライフタイム制御領域32は、電子と正孔が再結合する場を提供することができる。なお、第1ライフタイム制御領域32の厚み方向の結晶欠陥密度の分布は急峻であり、ピークとなる深さ32Dの上下に10μm程度である。ここで、第1ライフタイム制御領域32とは、深さ32Dの結晶欠陥密度のピークを基準としたときに50%の結晶欠陥密度が含まれる範囲をいう。
【0028】
第1ライフタイム制御領域32が形成される範囲は、トレンチゲート52の底面よりも深い範囲に位置することを特徴としている。さらに、第1ライフタイム制御領域32が形成される範囲は、半導体層12の厚み12Tを1.0としたときに、0.4となる深さ以下の範囲に位置することを特徴としている。
【0029】
図2に、第1ライフタイム制御領域32の形成位置(結晶欠陥密度がピークとなる深さ32D)とIGBT領域40のオン電圧の関係を示す。ここで、第1ライフタイム制御領域32の形成位置は、半導体層12の厚みに対する比で表されており、数値が低いほど半導体層12の表面側に対応しており、数値が大きいほど半導体層12の裏面側に対応する。図2に示されるように、第1ライフタイム制御領域32の形成位置が半導体層12の中央近傍(約0.5)の場合、IGBT領域40のオン電圧が最も高い。したがって、第1ライフタイム制御領域32の形成位置は、半導体層12の中央近傍よりも浅い場合又は深い場合に、IGBT領域40のオン電圧を低く抑えることができる。
【0030】
図3に、第1ライフタイム制御領域32の形成位置とダイオード領域20のリカバリー損失の関係を示す。図3に示されるように、第1ライフタイム制御領域32の形成位置が半導体層12の表面に近いほど、ダイオード領域20のリカバリー損失を低く抑えることができる。
【0031】
図4に、第1ライフタイム制御領域32の形成位置とダイオード領域20のリカバリーサージ電圧の関係を示す。図4に示されるように、第1ライフタイム制御領域32の形成位置が約0.4の位置を超えると、ダイオード領域20のリカバリーサージ電圧が急激に悪化することが分かる。一方、ライフタイム制御領域32の形成位置が約0.4の位置よりも表面側であれば、ダイオード領域20のリカバリーサージ電圧を低く抑えることができる。
【0032】
上記したように、半導体装置10では、第1ライフタイム制御領域32が形成される範囲が、トレンチゲート52の底面よりも深い範囲に位置することを特徴としている。これにより、第1ライフタイム制御領域32がトレンチゲート52と接触することがないので、トレンチゲート52のそれぞれの閾値電圧を所望値とすることができる。
【0033】
さらに、半導体装置10では、第1ライフタイム制御領域32が形成される範囲が、半導体層12の厚み12Tを1.0としたときに、0.4(より好ましくは0.3である)となる深さ以下の範囲に位置することを特徴としている。これにより、図2〜図4に示されるように、半導体装置10では、IGBT領域40のオン電圧、ダイオード領域20のリカバリー損失及びリカバリーサージ電圧のいずれをも低く抑えることができる。
【0034】
なお、第1ライフタイム制御領域32は、水平方向において結晶欠陥密度が異なっていてもよい。例えば、水平方向で観測したときに、ダイオード領域20の結晶欠陥密度が、IGBT領域40の結晶欠陥密度よりも高いのが望ましい。この形態によると、IGBT領域40のオン電圧、ダイオード領域20のリカバリー損失及びリカバリーサージ電圧のいずれをもさらに低く抑えることができる。
【実施例2】
【0035】
以下、図面を参照して第2実施例の半導体装置100を説明する。なお、第1実施例と共通する構成要素に関しては共通の符号を付し、その説明を省略する。
【0036】
図5に示されるように、半導体装置100は、半導体層12の表面から観測したときに、所定の深さ34Dに形成された第2ライフタイム制御領域34を備えていることを特徴としている。第2ライフタイム制御領域34は、半導体層12の深さ34Dにおいて、その面内の一部に形成されている。第2ライフタイム制御領域34は、IGBT領域40にのみ水平方向に沿って連続して選択的に形成されている。第2ライフタイム制御領域34は、コレクタ領域42とドリフト領域44の界面近傍のうちのドリフト領域44側に形成されている。より詳細には、第2ライフタイム制御領域34は、コレクタ領域42とドリフト領域44の界面近傍のうちの低濃度ドリフト領域44aに形成されている。
【0037】
第2ライフタイム制御領域34は、既知の様々な手法を用いて形成することができる。本実施例では、半導体層12の裏面からヘリウム(He)を照射し、所定の深さD34に結晶欠陥密度がピークとなるように第2ライフタイム制御領域34を形成している。なお、第2ライフタイム制御領域34の厚み方向の結晶欠陥密度の分布は急峻であり、ピークとなる深さ34Dの上下に10μm程度である。ここで、第2ライフタイム制御領域34とは、深さ34Dの結晶欠陥密度のピークを基準としたときに50%の結晶欠陥密度が含まれる範囲をいう。この例に代えて、半導体層12に他の荷電粒子を照射することによって第2ライフタイム制御領域34を形成してもよい。あるいは、半導体層12に電子線を照射することによって第2ライフタイム制御領域34を形成してもよい。また、半導体層12に金又は白金等の重金属を拡散させて第2ライフタイム制御領域34を形成してもよい。
【0038】
第2ライフタイム制御領域34が形成される範囲は、半導体層12の厚み12Tを1.0としたときに、0.8となる深さ以上の範囲に位置することを特徴としている。これにより、図2に示されるように、IGBT領域40のオン電圧を低く抑えることができる。
【0039】
IGBT領域40の裏層部に第2ライフタイム制御領域34が設けられていると、IGBT領域40のスイッチング速度を改善することができる。半導体装置100では、IGBT領域40がオンしているときに、コレクタ領域42からドリフト領域44内に正孔が注入される。IGBT領域40のスイッチング速度は、IGBT領域40がオフしたときに、オン時に注入されていた正孔を短時間で消失させることが肝要である。特に、半導体層12の裏層部に存在する正孔を短時間で消失させることが肝要である。半導体装置100では、半導体層12の裏層部に第2ライフタイム制御領域34が設けられているので、IGBT領域40がオフしたときに、半導体層12の裏層部に存在する過剰な正孔を短時間で消失させることができる。このため、半導体装置100では、IGBT領域40のスイッチング速度が大幅に改善されている。
【0040】
なお、IGBT領域40がオンしているときにコレクタ領域42から注入される正孔は、ダイオード領域20にも広がることがある。このため、図6に示されるように、第2ライフタイム制御領域34は、ダイオード領域20にまで伸びて形成されていてもよい。これにより、IGBT領域40がオフしたときに、半導体層12の裏層部に存在する過剰な正孔を短時間で消失させることができる。このため、第2ライフタイム制御領域34がダイオード領域20にも設けられていると、IGBT領域40のスイッチング速度をさらに改善することができる。
【0041】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0042】
12:半導体層
20:ダイオード領域
22:カソード領域
24:中間領域
26:アノード領域
32:第1ライフタイム制御領域
34:第2ライフタイム制御領域
40:IGBT領域
42:コレクタ領域
44:ドリフト領域
46:ボディ領域
52:トレンチゲート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイオード領域とIGBT領域が形成されている半導体層を備える半導体装置であって、
前記ダイオード領域は、前記半導体層の表層部に形成されている第1導電型のアノード領域と、前記半導体層の裏層部に形成されている第2導電型のカソード領域と、アノード領域とカソード領域の間に設けられているとともに前記カソード領域よりも不純物濃度が薄い第2導電型の中間領域と、を有しており、
前記IGBT領域は、前記半導体層の表層部に形成されている第1導電型のボディ領域と、前記半導体層の裏層部に形成されている第1導電型のコレクタ領域と、ボディ領域とコレクタ領域の間に設けられている第2導電型のドリフト領域と、ボディ領域を貫通して設けられている複数のトレンチゲートと、を有しており、
前記半導体層には、前記ダイオード領域と前記IGBT領域の双方に亘って連続して伸びているとともに、前記半導体層の表面から観測して第1深さと第2深さの間の範囲に設けられている第1ライフタイム制御領域が形成されており、
前記第1深さは、前記トレンチゲートの底面の深さと一致しており、
前記第2深さは、前記半導体層の厚みを1.0としたときに0.4である半導体装置。
【請求項2】
前記半導体層には、少なくとも前記IGBT領域に設けられている第2ライフタイム制御領域が形成されており、
前記第2ライフタイム制御領域は、前記コレクタ領域と前記ドリフト領域の界面近傍のうちの前記ドリフト領域側に形成されている請求項1に記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−238872(P2011−238872A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110992(P2010−110992)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)