説明

半導体試料中の金属汚染評価方法および半導体基板の製造方法

【課題】半導体基板の金属汚染評価をDLTS法によってより一層高感度に行うための手段を提供する。
【解決手段】半導体試料上の半導体接合に対して空乏層を形成するための逆方向電圧VRと該空乏層にキャリアを捕獲するための弱電圧V1とを交互かつ周期的に印加することで発生するDLTS信号を温度を変化させながら測定し第一のDLTSスペクトルを得て、又上記半導体接合に対して、上記VRを周期的に印加することで発生するDLTS信号を温度を変化させながら測定し第二のDLTSスペクトルを得て、第二のDLTSスペクトル、または第二のDLTSスペクトルを直線ないし曲線近似して得られたスペクトルを補正用スペクトルとして、該補正用スペクトルと前記第一のDLTSスペクトルとの差分スペクトルを得る。前記差分スペクトルを評価用DLTSスペクトルとして用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体試料中の金属汚染評価方法に関するものであり、詳しくは、DLTS法(Deep-Level Transient Spectroscopy)により半導体試料中の微量の金属汚染の評価を可能とする金属汚染評価方法に関するものである。
更に本発明は、前記方法による評価結果に基づく品質管理がなされた製品基板を提供する半導体基板の製造方法にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体基板の金属汚染は、製品のデバイス特性に悪影響を及ぼす。例えばFeやNiなどの重金属は、Si中に入るとバンドギャップ中に深い準位を作ってキャリア捕獲中心や再結合中心として働き、デバイス中のpn接合リークやライフタイム低下の原因となる。したがって、金属汚染の少ない高品質な半導体基板を提供するために、半導体基板中の金属汚染を高い信頼性をもって評価する方法が求められている。
【0003】
半導体基板の金属汚染評価方法としては様々な手法が提案され実用されているが、中でもDLTS法(例えば特許文献1、2参照)は高感度であるため、特に近年のシリコンウェーハのクリーン化に伴い頻繁に使用されるようになってきている。
【0004】
以下に、従来のDLTS法の概要を説明する。下記で参照する図面には、p型CZシリコンに1mm2のショットキーダイオードを形成したものを試料とした例を示す。
【0005】
1)評価対象の半導体試料上に形成した半導体接合(ショットキー接合またはpn接合)に、空乏層を形成する逆方向電圧(VR)と空乏層にキャリアを捕獲するための0V近辺の弱電圧(V1)を交互、周期的に印加する(図12上図に試料となるダイオードへの電圧印加条件を示す。図中、VR=+5V、V1=+1Vである。)。
2)その電圧に対応して発生するダイオードの容量(キャパシタンス)の過渡応答を測定する(図12下図参照)。
3)上記1)、2)の電圧印加および容量の測定を、試料温度を所定温度範囲で掃引しながら行う。なおシリコンの場合は、30−300Kの範囲内での温度掃引が一般的に行われる。この容量の過渡応答は温度依存性を有する。温度依存性の模式図が、図13である。
このとき、DLTS信号(ΔC)は、通常、以下のように定義される。
ΔC=C(t1)−C(t2) …(1)
上記式(1)において、C(t1)は電圧印加から所定期間経過した時間t1における容量であり、C(t2)はC(t1)測定から所定期間経過した時間t2における容量である。なお近年では、ロックインアンプを使って、過渡応答の前半と後半のそれぞれの積算値の差を取ってDLTS信号とする方式(ロックイン式)もよく使われている。また、DLTS信号ΔCは微小な信号であるため、通常は測定された値ΔCをコンピュータに取り込んで各温度ごとに平均値を求めるが、温度掃引をリニアに行い、T±0.5ないし1[K]の範囲で取得したΔCの平均値を、温度T[K]におけるΔCとしている場合が多い。
【0006】
逆方向電圧(VR)印加により形成される空乏層中に深い準位が存在する場合、DLTS信号ΔCを温度との関係でプロットすると、図14のようなDLTSスペクトルを得ることができる。なお図14は、p型CZシリコンを測定周波数e=54.25/s、e=542.5/sとなる二通りの条件で測定して得られたDLTSスペクトルである。図14に示すような形状のスペクトルが得られる理由は、以下のようにキャリア放出の速さが温度に依存していることによる。
低温:深い準位からのキャリアの放出が遅いため、ΔC≒0
高温:深い準位からのキャリア放出が早く、t=t1の以前に殆どキャリア放出がおわっており、結果として、ΔC≒0
このような関係から、深い準位の特性(活性化エネルギーEa、キャリアの捕獲断面積σ)、および測定条件に依存して、所定の温度にΔCのピークが現れる。なお図14は上記式(1)に従うデータ処理が行われているのでピークは下向き(下に凸)になるが、ΔC=C(t2)−C(t1)としてデータ処理する場合もあり、その場合は深い準位による信号は上に凸になる。
【0007】
以上により得られたDLTSスペクトルにおけるピークの高さから、例えば下記式(2)により深い準位の濃度(NT)を計算することができる。
T≒2*ND*ΔCMAX/C(/cm3) …(2)
ここで、NDはドーパント濃度、ΔCMAXはピーク位置温度でのDLTS信号の強度、CはVR印加後、深い準位からのキャリアの放出がほぼ終了した後の空乏層容量である。従って、C=C(V=VR,t=∞)となる。
【0008】
また、t1/t2の比を変えてDLTS測定を行うと、それに応じてDLTSピーク位置がシフトする。
このとき、測定条件t1,t2によって、下記式(3)、(4)からキャリアの放出割合(emission rate)eを算出することができる。
τ=(t2−t1)/ log(t2/t1) …(3)
e=1/τ …(4)
【0009】
更に、ピーク位置(温度)Tの逆数1/Tを横軸に、e/T2を縦軸に取り、いわゆるアレニウスプロットを取ることで、プロットの傾き(y切片)から深い準位のエネルギーレベル(ET)を求めることができる。なぜならば、諸々の特性値の間に、下記式(5)の関係が成立するからである。
ln(e/T2)=ln(γσ)・Eact/kT …(5)
ここで、kはボルツマン定数であり、γ、Eactは以下のとおりである。
n型基板(多数キャリアが電子)の場合:γ=1.9E20[cm-2-1-2
act= EC−ET [eV]
p型基板(多数キャリアが正孔)の場合:γ=1.8E21[cm-2-1-2
act=ET−EV[eV]
(上記において、ECは伝導帯の下端、EVは荷電子帯の上端である。)
【0010】
また、過去の文献・論文で紹介されているDLTS測定結果に基づくアレニウスプロットのライブラリーや、意図的に欠陥や金属汚染を導入した半導体基板でのDLTS測定結果を蓄積して各自で作成したアレニウスプロットのライブラリーと照合することにより、今回の測定で検出された深い準位の正体(汚染金属種)を特定することもできる。例えば図14では、測定周波数e=54.25/s、e=542.5/sとなる二通りの条件において、それぞれ52k、60kの位置にDLTS信号のピークが検出された。図15は、図14の測定で得られたピーク位置(温度)とeの関係をアレニウスプロットし、測定器内蔵のライブラリーと照合した結果である。図15から、図14で検出されたDLTS信号は、Fe−B対によるものである可能性が高いことが分かる。この結果から、汚染金属種をFeと特定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第3,859,585号
【特許文献2】米国特許第4,437,060号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
半導体基板に含まれる汚染金属量が多い場合には、図15に示すように、深い準位からのDLTS信号が十分大きく、それに比べてベースラインの傾き・ウネリの影響は十分小さく無視できるためピークの検出は容易である。しかし近年、半導体デバイスの高性能化にともなって、シリコンウェーハ等の半導体基板のクリーン化(金属不純物濃度の低減)が進められているため、DLTS法には微量の金属汚染を評価するために更なる高感度化が求められている。しかしクリーン化された半導体基板では深い準位の形成要因となるような金属不純物量が少ないためDLTS信号は極めて微弱である。このような場合、深い準位からのキャリア放出とは無関係なベースラインの傾き・うねり成分の大きさが、深い準位による真のDLTS信号の強度に比べて無視できないほど大きくなり、ピーク位置や高さを精度良く検出する上での妨げとなる。また、いわゆるホワイトノイズが大きい上にベースラインのうねりなどがあると、信号(ピーク)を認識する上での妨げとなる。なお、上記のベースラインの傾き・うねりへの対処法としては、簡易的には、深い準位による信号の両肩を直線で結び、その直線をベースラインとして利用して解析する方法もあるが、複数のピークが重なり合うようにして現れる(または現れる可能性がある)場合、ピークの両肩を線で結ぶということ手順自体、確からしさが疑わしくなる。また、ベースラインが単純な直線で近似できないようなウネリを含んでいる場合もあるので、この方法では誤差が大きくなる懸念もある。
【0013】
以上説明したように、DLTS法による半導体基板の金属汚染評価には、より一層の高感度化が求められていた。
【0014】
そこで本発明の目的は、半導体基板の金属汚染評価をDLTS法によってより一層高感度に行うための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的は、下記手段により達成された。
[1]DLTS法による半導体試料中の金属汚染評価方法であって、
評価対象の半導体試料上に形成した半導体接合に対して、空乏層を形成するための逆方向電圧VRと該空乏層にキャリアを捕獲するための弱電圧V1とを交互かつ周期的に印加することで発生するDLTS信号を温度を変化させながら測定し第一のDLTSスペクトルを得ること、
上記半導体接合に対して、上記VRを周期的に印加することで発生するDLTS信号を温度を変化させながら測定し第二のDLTSスペクトルを得ること、
第二のDLTSスペクトル、または第二のDLTSスペクトルを直線ないし曲線近似して得られたスペクトルを補正用スペクトルとして、該補正用スペクトルと前記第一のDLTSスペクトルとの差分スペクトルを得ること、
を含み、
前記差分スペクトルを評価用DLTSスペクトルとして用いて前記半導体試料中の金属汚染評価を行うことを特徴とする、前記金属汚染評価方法。
[2]前記金属汚染評価は、前記評価用DLTSスペクトルのピーク位置に基づき汚染金属種の特定を行うことを含む[1]に記載の金属汚染評価方法。
[3]前記補正用スペクトルは、第二のDLTSスペクトルの近似曲線である[1]または[2]に記載の金属汚染評価方法。
載の金属汚染評価方法。
[4]前記半導体接合に対して第一のDLTSスペクトルを得るためのDLTS信号の測定と第二のDLTSスペクトルを得るためのDLTS信号の測定を温度掃引しながら交互に行うことで、1回の温度掃引により第一のDLTSスペクトルおよび第二のDLTSスペクトルを得る[1]〜[3]のいずれかに記載の金属汚染評価方法。
[5]複数の半導体基板からなる半導体基板のロットを準備する工程と、
前記ロットから少なくとも1つの半導体基板を抽出する工程と、
前記抽出された半導体基板の金属汚染を評価する工程と、
前記評価された結果、金属汚染が許容レベル以下と判定された半導体基板と同一ロット内の他の半導体基板を製品基板として出荷する工程と、を含む半導体基板の製造方法であって、
前記抽出された半導体基板の金属汚染評価を、[1]〜[4]のいずれかに記載の方法によって行うことを特徴とする、前記製造方法。
【発明の効果】
【0016】
従来のDLTS法では深い準位によるキャリアの捕獲・放出に起因しないベースラインの傾き・うねりが測定結果に含まれているため、深い準位のエネルギー準位(ET)、キャリアに対する捕獲断面積(σ)、準位密度(NT)の定量結果の誤差の要因となっている。これに対し本発明によれば、ベースラインの傾きやうねりを補正することによって、より正しく測定結果を得ることができる。本発明は、深い準位によるDLTS信号がごく微弱で、ベースラインの傾き・うねりがもたらす誤差を無視できない場合に特に効果を発揮する。さらには、ベースラインの傾き・うねり、短周期のノイズ(いわゆるホワイトノイズ)に微弱なDLTS信号が埋もれてしまうような場合に本発明を適用することで、DLTS法の深い準位に対する検出感度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1で得られた第一のDLTSスペクトルである。
【図2】実施例1で得られた第二のDLTSスペクトルである。
【図3】図2に示す第二のDLTSスペクトルを線形近似した近似直線を示す。
【図4】図2に示す第二のDLTSスペクトルを対数関数で近似した近似曲線を示す。
【図5】図2に示す第二のDLTSスペクトルを3次多項式で近似した近似曲線を示す。
【図6】図2に示す第二のDLTSスペクトルを5次多項式で近似した近似曲線を示す。
【図7】図2に示す第二のDLTSスペクトルを50Kごとに区切って線形近似して得た近似直線をつなげた結果を示す。
【図8】図6に示す近次曲線と図1に示す第一のDLTSスペクトルとの差分スペクトルである。
【図9】実施例2で得られた第一のDLTSスペクトルである。
【図10】図9に示す第一のDLTSスペクトルと、実施例2で得た第二のDLTSスペクトルを4次多項式で近似した近似曲線との差分スペクトルである。
【図11】n型シリコンにおいて電子トラップとしてDLTSで検出される深い準位のライブラリーを示す。
【図12】従来のDLTS法の概要の説明図である。
【図13】従来のDLTS法の概要の説明図である。
【図14】従来のDLTS法の概要の説明図である。
【図15】従来のDLTS法の概要の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、DLTS法による半導体試料中の金属汚染評価方法(以下、「本発明の評価方法」ともいう。)に関する。本発明の評価方法は、
評価対象の半導体試料上に形成した半導体接合に対して、空乏層を形成するための逆方向電圧VRと該空乏層にキャリアを捕獲するための弱電圧V1とを交互かつ周期的に印加することで発生するDLTS信号を温度を変化させながら測定し第一のDLTSスペクトルを得ること、
上記半導体接合に対して、上記VRを周期的に印加することで発生するDLTS信号を温度を変化させながら測定し第二のDLTSスペクトルを得ること、
第二のDLTSスペクトルを直線ないし曲線近似して得られた補正用スペクトルと前記第一のDLTSスペクトルとの差分スペクトルを得ること、
を含むものであり、前記差分スペクトルを評価用DLTSスペクトルとして用いて前記半導体試料中の金属汚染評価を行うことを特徴とする。
半導体接合に対してp型→n型に向かう方向に電流が流れるように印加される電圧を順方向電圧といい、この逆の方向に印加される電圧が逆方向電圧である。当分野で周知のように、逆方向電圧の印加によっては半導体接合に電流が流れないため、半導体接合に空乏層が形成されることとなる。第一のDLTSスペクトル取得時には、0V近辺のV1印加により、VR印加によって形成された空乏層にキャリアが捕獲される。これは通常のDLTS測定と同様であるが、本発明では上記第二のDLTSスペクトル取得時にはV1印加を行わないため、VR印加により広がる空乏層中の深い準位によるキャリアの捕獲も放出も起こらない。したがって、第二のDLTSスペクトルには、深い準位によるキャリアの捕獲・放出と無関係に生じるベースラインの傾き・うねり、短周期のノイズ(いわゆるホワイトノイズ)のみが含まれることとなる。したがって、この第二のDLTSスペクトルから得られた補正用スペクトルと第一のDLTSスペクトルの差分スペクトルには、深い準位によるキャリアの捕獲・放出による信号のみが含まれることとなるため、この差分スペクトルを評価用DLTSスペクトルとして用いることで、深い準位による信号の強度や信号ピークの位置を正確に求めることができ、したがってDLTS法の高感度化が可能となる。
以下、本発明の評価方法について、更に詳細に説明する。
【0019】
本発明における評価対象の半導体試料としては、通常DLTS法が適用される各種半導体基板(例えばシリコンウェーハ)を挙げることができ、またDLTS信号の測定およびDLTSスペクトル作成に使用する測定装置としては、通常のDLTS測定装置をそのまま、または任意に改変して用いることができる。例えば、通常のDLTS装置は1回の温度掃引について1つのDLTSスペクトルを取得するが、本発明では通常のDLTS信号の測定と弱電圧V1印加を伴わないDLTS信号の測定を交互に行いながら温度掃引することで、1回の温度掃引の中で第一のDLTSスペクトルと第二のDLTSスペクトルの取得の両方を行うことができるように、装置搭載のプログラムを変更した測定装置を用いることもできる。このように同一試料について第一のDLTSスペクトルと第二のDLTSスペクトルの取得を1回の温度掃引にて行ってもよく、または1回目の温度掃引において第一のDLTSスペクトルを取得し、次いで2回目の温度掃引において第二のDLTSスペクトルの取得を行ってもよく、またはこの逆の順に第一、第二のDLTSスペクトルの取得を行ってもよい。
【0020】
本発明において第一のDLTSスペクトルの取得は、従来のDLTS法と同様に行うことができる。その詳細は、先に説明した通りである。
【0021】
第二のDLTSスペクトルの取得は、VRとV1を交互かつ周期的に印加することに代えてVRの印加を繰り返す(即ちV1=VRとする)点以外は、従来のDLTS法と同様に行うことができる。こうして得られた第二のDLTSスペクトルは、先に説明したように深い準位によるキャリアの捕獲・放出と無関係に生じるベースラインの傾き・うねり、短周期のノイズ(いわゆるホワイトノイズ)のみが含まれることとなる。この第二のDLTSスペクトルを、そのまま補正用スペクトルとして用いることも可能である。ただし、第一のDLTSスペクトル、第二のDLTSスペクトルともに短周期のノイズ(いわゆるホワイトノイズ)を含んでいる。したがって、取得したスペクトル同士で差分を取ると、差分スペクトル上のホワイトノイズが大きくなるため、近似直線ないし近似曲線を、差分スペクトルを得るための補正用スペクトルとして用いることが好ましい。上記近似直線ないし近似曲線については、後述の実際例において更に説明する。
【0022】
そして本発明では、上記第二のDLTSスペクトルまたは第二のDLTSスペクトルを直線ないし曲線近似して得られたスペクトルを補正用スペクトルとして、該補正用スペクトルと前記第一のDLTSスペクトルとの差分スペクトルを得る。差分スペクトルの取得は、DLTS測定装置のデータ解析部に適切なプログラムを導入することで容易かつ自動に行うことができる。
【0023】
こうして得られた差分スペクトルは、先に説明したように、深い準位からのキャリア放出とは無関係なベースラインの傾き・うねり成分、短周期のノイズ(いわゆるホワイトノイズ)の影響が排除ないし低減されたものであり、深い準位によるキャリアの捕獲・放出による信号のみが含まれることとなる。したがって、この差分スペクトルを評価用DLTSスペクトルとして用いることで、深い準位による信号の強度や信号ピークの位置を正確に求めることができ、DLTS法による金属汚染評価の信頼性を大きく高めることができる。DLTSスペクトルを用いた金属汚染に関する各種評価は、通常のDLTS法と同様に行うことができ、その詳細は先に説明した通りである。
【0024】
更に本発明は、複数の半導体基板からなる半導体基板のロットを準備する工程と、前記ロットから少なくとも1つの半導体基板を抽出する工程と、前記抽出された半導体基板の金属汚染を評価する工程と、前記評価された結果、金属汚染が許容レベル以下と判定された半導体基板と同一ロット内の他の半導体基板を製品基板として出荷する工程と、を含む半導体基板の製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)に関する。本発明の製造方法では、前記抽出された半導体基板の金属汚染評価を、本発明の評価方法によって行う。
【0025】
前述のように、本発明の評価方法によれば、シリコンウェーハ等の半導体基板の金属汚染を、クリーン化され汚染量が少ない基板であっても高感度に測定することができる。よって、かかる評価方法により、金属汚染が許容レベル以下と判定された半導体基板、例えば、所定の金属による汚染がない、または汚染量が少ないと判定された良品の半導体基板と同一ロット内の半導体基板を製品基板として出荷することにより、高品質な製品基板を高い信頼性をもって提供することができる。なお、良品と判定する基準(金属汚染の許容レベル)は、基板の用途等に応じて基板に求められる物性を考慮して設定することができる。また1ロットに含まれる基板数および抽出する基板数は適宜設定すればよい。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例に基づき更に説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0027】
[実施例1]
1)第1の工程:第一のDLTSスペクトルの取得
抵抗率10Ω・cmのn型シリコン基板に1mm2のAu電極を形成し、ショットキーダイオードとした。基板裏面にGaをすりつけ、それを試料台に置き、試料台を対向電極とした。ここでは、ロックイン式のDLTS装置を使用した。
R=−3V、V1=−1Vとし、測定周波数は25HZ(e=54.25/s)として約30K〜約300Kの温度域で温度掃引を行いながらDLTS信号を測定し、装置内臓のプログラムによりDLTSスペクトルを得た。得られたDLTSスペクトル(第一のDLTSスペクトル)を、図1に示す。図1に示すように、150〜200Kの温度域に何らかの不純物準位のDLTS信号が検出されているが、ベースラインの傾きが大きいためピークの帰属を正確に特定することは難しい。
【0028】
2)第2の工程:第二のDLTSスペクトルの取得
1)で用いたものと同じ試料に対して、VR=V1=−3Vとした点以外は1)と同様の方法でDLTSスペクトルを得た。得られたDLTSスペクトル(第二のDLTSスペクトル)を、図2に示す。図2に示すDLTSスペクトルでは、キャリアの放出とは無関係な容量過渡応答が捉えられている。スペクトルは直線に近いが、厳密には直線ではなく、若干蛇行した曲線であることが分かる。
【0029】
3)補正用スペクトルの作成
図3に示された直線は、図2に示すDLTSスペクトルを線形近似して得られた近似直線である。図4、図5、図6はそれぞれ、同スペクトルを対数関数、3次多項式、5次多項式で近似して得られた近似曲線である。直線(図3)や対数関数(図4)では、DLTSスペクトルと近似直線(曲線)とが乖離している箇所が見られる。これらの直線や曲線を補正用スペクトルとして差分スペクトルを得ることも可能である。ただし上記した乖離した箇所に起因して差分スペクトル上に擬似的な信号が現れる場合がある。この点を考慮すると、相関係数R2が0.85以上になる近似曲線を補正用スペクトルとして使用することが、評価の精度および信頼性を高めるうえで好ましい。また、本発明は一つの近似直線ないし曲線を使うことに限定されるものではなく、温度範囲をいくつかに区切り、各温度区間毎に線形近似し、得られた近似直線をつなげて補正用スペクトルを得ることも可能である。図7は、50Kごとに区切って線形近似して得られた近似直線をつなげて得た補正用スペクトルである。
【0030】
4)差分スペクトルの作成
上記3)で作成した補正スペクトルの中から、5次多項式に回帰して得られた図6に示す近次曲線を補正用スペクトルとして選択し、この補正用スペクトルと図1に示す第一のDLTSスペクトルとの差分スペクトルを作成した。得られた差分スペクトルを、図8に示す。
【0031】
図1に示す第一のDLTSスペクトルと図8に示す差分スペクトルのそれぞれについて、下向きのピークが現れている温度を読み取ると、第一のDLTSスペクトルのピーク位置:151K、差分スペクトルのピーク位置:153Kであった。このように2Kのずれが生じた理由は、第一のDLTSスペクトルではベースラインの傾きが右肩上がりであったため、ピークの位置が低温側にずれてしまったためである。このようなピークのシフトがあると、アレニウスプロット全体が低温側にずれてしまうため、過去の文献などを集めて作成されたライブラリーと照合して深い準位の形成要因を推定する上での妨げとなる。これに対し、図8に示す差分スペクトルにおいては、ベースラインの形状に起因するピーク位置のシフトが補正されているため、深い準位の形成要因に関する推定の信頼性は高まる。
図8で特定された153Kにピークを持つ深い準位は、シリコン中のTi汚染に起因しているものと推定される。詳細は下記実施例2において説明する。また、80K付近にピークのようなものが、図1に示す第一のDLTSスペクトル、図8に示す差分スペクトルの両方で確認できるが、図1では左右が非対称であり、ピーク両肩・頂点などの位置(温度)を判別することは困難である。これに対し、図8に示す差分スペクトルにおいては、85Kを頂点として、その左右に約10Kずつ広がりを持つ、深い準位に起因する信号であることを明確に判定することができる。
【0032】
[実施例2]
実施例1で用いたものとは別の抵抗率10Ω・cmのn型シリコン基板上に、1mm2のAuショットキーダイオードを形成し、実施例1と同様の測定条件・解析を行なった。図9は第一のDLTSスペクトルであり、図10は第二のDLTSスペクトルを4次多項式に回帰して求めた近似曲線を補正用スペクトルとして得られた差分スペクトルである。
図11は、n型シリコンにおいて電子トラップとしてDLTSで検出される深い準位のライブラリー(文献値)を示すが、このライブラリーに示したとおり、150K付近に現れる信号のみに注目していると、それがTiに起因するものであるか、またはMo−2に起因するものであるか、即ち、汚染金属種がTiであるのかMoであるのか判断できない。このような場合には、Mo−2に伴って現れる、Mo−3やMo−4が検出されたか否かに注目すればよい。しかし、Mo−3やMo−4はMo−2に比べて強度が低く、非常に微弱な信号であるためベースラインのノイズに埋もれてしまい検出されない可能性が高い。事実、図9では150K付近にピーク(以下、E1)を視認することはできるが、ベースラインのノイズ等の影響により、その他の信号を認識することは困難である。
これに対して、図10に示す差分スペクトルでは、150K付近の信号のすぐ脇の190K(以下、E2)付近、および270K(以下、E3)付近に非常に微弱なピークがあることが確認できる。Moがドープされたn型シリコンに対してDLTS測定を行った場合に、このような3つのピークが一組になって現れることが知られており(T. Hamaouchi and Y. Hayamizu,Japanese Journal of Applied Physics,vol.30,No.11A,L1837−L1839,1991参照)、したがって図10に示す差分スペクトルを用いることで初めて、実施例2で評価したシリコン基板は、微量なMo汚染を受けていると推定することが可能となる。
Ti汚染がある場合も150K付近に信号が出ることが知られており、150K付近の信号にだけ注目していると、それがTiによる深い準位であるのか、またはMoのE1であるのかを区別することはきわめて困難である。即ち、図9に示す第一のDLTSスペクトルでは、E1以外の信号は確認できないため、Ti汚染とMo汚染の判別は困難である。これに対し上記のように、150K付近の信号以外の、E2、E3の2つの信号に着目し、E2、E3も検出されればMo、検出されなければTi、といった判断が可能となる。なお前述の実施例1において差分スペクトルにて検出された153Kの信号は、その信号強度が実施例2のE1よりも高いにもかかわらず、MoのE2、E3に相当する信号を伴っていないため、MoでなくてTiによる深い準位である可能性が高い。
【0033】
以上説明したように、本発明ではベースラインの傾き・うねり等を補正することにより、ごく微弱な信号も見逃さずに捉えることができるようになり、結果として、深い準位の形成要因(金属汚染)の同定の信頼性を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、半導体基板の製造分野における品質または工程管理のために有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DLTS法による半導体試料中の金属汚染評価方法であって、
評価対象の半導体試料上に形成した半導体接合に対して、空乏層を形成するための逆方向電圧VRと該空乏層にキャリアを捕獲するための弱電圧V1とを交互かつ周期的に印加することで発生するDLTS信号を温度を変化させながら測定し第一のDLTSスペクトルを得ること、
上記半導体接合に対して、上記VRを周期的に印加することで発生するDLTS信号を温度を変化させながら測定し第二のDLTSスペクトルを得ること、
第二のDLTSスペクトル、または第二のDLTSスペクトルを直線ないし曲線近似して得られたスペクトルを補正用スペクトルとして、該補正用スペクトルと前記第一のDLTSスペクトルとの差分スペクトルを得ること、
を含み、
前記差分スペクトルを評価用DLTSスペクトルとして用いて前記半導体試料中の金属汚染評価を行うことを特徴とする、前記金属汚染評価方法。
【請求項2】
前記金属汚染評価は、前記評価用DLTSスペクトルのピーク位置に基づき汚染金属種の特定を行うことを含む請求項1に記載の金属汚染評価方法。
【請求項3】
前記補正用スペクトルは、第二のDLTSスペクトルの近似曲線である請求項1または2に記載の金属汚染評価方法。
載の金属汚染評価方法。
【請求項4】
前記半導体接合に対して第一のDLTSスペクトルを得るためのDLTS信号の測定と第二のDLTSスペクトルを得るためのDLTS信号の測定を温度掃引しながら交互に行うことで、1回の温度掃引により第一のDLTSスペクトルおよび第二のDLTSスペクトルを得る請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属汚染評価方法。
【請求項5】
複数の半導体基板からなる半導体基板のロットを準備する工程と、
前記ロットから少なくとも1つの半導体基板を抽出する工程と、
前記抽出された半導体基板の金属汚染を評価する工程と、
前記評価された結果、金属汚染が許容レベル以下と判定された半導体基板と同一ロット内の他の半導体基板を製品基板として出荷する工程と、を含む半導体基板の製造方法であって、
前記抽出された半導体基板の金属汚染評価を、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法によって行うことを特徴とする、前記製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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