説明

半導電性ベルトの製造方法

【課題】半導電性ベルトにおける電気抵抗値の電圧依存性を小さくすることが可能であるとともに、電気抵抗値の面内バラツキを抑制可能な、電気特性に優れた半導電性ベルトの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】導電性フィラーを含有するポリエーテルサルホン系樹脂フィルムからなる半導電性ベルトを製造する方法であって、前記導電性フィラーを含有するポリエーテルサルホン系樹脂をフィルム状に成形した後、該フィルム1にプラズマ処理を施すことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子材料、なかでも特にカラー画像形成装置の中間転写ベルト、転写搬送ベルト等にとして使用される半導電性ベルトの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
主にカラー画像形成装置では、感光体上に形成されるトナー像をいったん転写した後、さらにこの転写像を転写材に転写するのに用いられる中間転写ベルトや、感光体上に形成されるトナー像を転写材に直接転写するために用いられる転写搬送ベルトなどの半導電性ベルトが使用されている。
【0003】
これら画像形成装置に使用される半導電性ベルトは、高精度の画像を形成するために、初期弾性率等の機械的強度に優れていることが要求される。このような半導電性ベルトとしては、特許文献1に示すように、機械的強度に優れたスーパーエンジニアリングプラスチックであるポリエーテルサルホン(PES)を用い、これを押出成形装置によって円筒状に押し出した後、これをカットしたものが知られている。
【特許文献1】特開平11−115066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記押出成形装置によってPESを円筒状に押し出す場合、押出ダイスとしては、サーキューラーダイスが使用される。このサーキューラーダイスは、ダイスを構成する内筒部と外筒部の間の隙間から円筒状のPESフィルムを押し出す構造となっている。
【0005】
ところが、押出成形装置から押し出されたPESフィルムは、電気抵抗値の印加電圧依存性が大きいという問題があった。これはPESを溶融押出しした場合、最表面層に極薄いPESの絶縁層が形成されている等の理由が考えられる。加えて、PESを溶融押出しするには300℃以上の高温が必要となるため、どうしても押出成形装置に温度ムラが生じ、この温度ムラが半導電性フィルムの電気特性に影響を与えているものと考えられた。
【0006】
画像形成装置の中間転写ベルトや転写搬送ベルト等に半導電性ベルトを使用し、電気抵抗値の印加電圧依存性が大きい場合、ベルトに印加される電圧が変動すると、それに伴って半導電性ベルトの電気抵抗値が変動し、これが画像不良の原因となっていた。したがって、半導電性ベルトに印加される電圧を一定にする装置が別途必要となり、装置自体のコストが高くなるといった問題があった。
【0007】
また、上記押出成形装置から押し出されたPESフィルムは、電気抵抗値の面内バラツキも大きくなっており、これがトナー転写量の不均一を引き起こし、画像不良の原因となっていた。
【0008】
そこで、本願発明においては、半導電性ベルトにおける電気抵抗値の電圧依存性を小さくすることが可能であるとともに、電気抵抗値の面内バラツキを抑制可能な、電気特性に優れた半導電性ベルトの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明では、導電性フィラーを含有するポリエーテルサルホン(PES)系樹脂フィルムからなる半導電性ベルトを製造する方法であって、導電性フィラーを含有するポリエーテルサルホン系樹脂をフィルム状に成形した後、該フィルムにプラズマ処理を施すことを特徴とするものである。
【0010】
上記構成によれば、電気抵抗値の電圧依存性が小さく、さらに電気抵抗値の面内バラツキが抑制された、電気特性に優れた半導電性ベルトを製造することが可能となる。ここで特筆すべきは、半導電性ベルト表面の電気特性(表面抵抗率)のみならず、PES系フィルム(以下、PESフィルムという)の厚み方向の電気特性である体積抵抗率についても電圧依存性及び面内バラツキともに著しく改善されることである。
【0011】
すなわち、従来よりプラズマ処理は、プラスチック等の表面改質を目的として一般的に行なわれているが、本発明のように、半導電性ベルトの電気特性において、プラズマ処理を行なうことによって表面抵抗率のみならず体積抵抗率についても電圧依存性及び面内バラツキが改善可能であるということはまったく予想されていなかったところである。
【0012】
プラズマ処理を施すための装置としては、PESフィルムにプラズマを照射可能なものであれば特に限定されず、例えば、減圧下にプラズマ処理を行なう装置を用いることができる。ただ、設備面からいえば、簡単な構造でプラズマを発生させることができる大気圧プラズマ発生装置を用いるのが好ましい。また、キャリアガスとしてもアルゴン等の希ガス、酸素、窒素、水又は空気等を用いることができるが、コストのかからない空気を使用するのが好ましい。
【0013】
プラズマ処理を施すPESフィルムは、シート状に形成した後、これを筒状に加工してもよいが、最初から筒状に形成したものを使用することによってシームレスベルトを得ることができる。具体的には、PESフィルムとして、サーキュラーダイスを備えた押出成形装置から押し出された筒状のものを使用することができる。この場合、筒状のPESフィルムを離間して対向配置された一対の回転ロールに張架し、回転ロールを回転させることによりPESフィルムを容易にスライド移動させることができる。
【0014】
ポリエーテルサルホン(PES)は、[−ph−SO2−ph−O−](ただし、phはフェニル基を示す)で示される繰返し構造単位からなる樹脂であるが、PESの特性を阻害しない範囲内で他の繰返し構造単位を含む共重合体であってもよい。また、同じ趣旨で、その他の熱可塑性樹脂等をブレンドして使用してもよい。本発明では、これらをポリエーテルサルホン(PES)系樹脂と総称している。
【0015】
導電性フィラーとしては、半導電性ベルトに導電性を付与するために用い得るフィラーであれば特に限定されないが、カーボンブラック、グラファイト、鉄、銅、銅合金、ニッケル、アルミニウム等の金属若しくは合金、又は酸化錫、酸化亜鉛、酸化チタン酸化錫−酸化インジウム若しくは酸化錫−酸化アンチモン複合酸化物等の金属酸化物の微粉末が例示される。これらの金属若しくは合金若しくは金属酸化物は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。中でも、安価で汎用性があることからカーボンブラックを用いるのが好ましい。
【0016】
そして、本発明における半導電性ベルトとは、上記導電性フィラーを配合することによって体積抵抗率(150μm厚)が、中間転写ベルトや、転写搬送ベルトに用いられる106Ω・cm〜1013Ω・cmの範囲に調整されたベルトを意味する。
【0017】
本発明においてプラズマ処理に用いられるPESフィルムとしては、通常、半導電性ベルトとして使用される数十μm〜数百μmの厚みのものであれば問題なく使用することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明においては、前記導電性フィラーを含有するポリエーテルサルホン系樹脂をフィルム状に成形した後、該フィルムにプラズマ処理を施すようにしたため、電気抵抗値の電圧依存性が小さく、さらに電気抵抗値の面内バラツキが抑制された半導電性ベルトを製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を基に本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明に係る半導電性ベルトの製造方法に用いられる、PESフィルムにプラズマ処理を施すためのプラズマ発生装置を概略を示す平面図であり、図2は、プラズマ発生装置の断面図である。なお、本実施形態では、PESフィルム1として、PES系樹脂をサーキュラーダイスを備えた押出成形装置から押出した筒状のものを使用している。
【0020】
プラズマ発生装置は、大気圧下で空気をキャリアガスとしてプラズマを照射するプラズマ照射ノズル2を備えており、ノズル2から噴出するプラズマをPESフィルム1に照射する構成となっている。
【0021】
PESフィルム1は、離間して対向配置される一対の回転ロール3,3に張架されている。回転ロール3,3は駆動装置4に回転可能に支持されている。そして、回転ロール3が駆動装置4によって回転駆動することにより、PESフィルム1が循環移動する。ノズル2は、PESフィルム1からは一定距離離れた状態で保持される。
【0022】
PESフィルム1は、回転ロール3,3の間を循環移動しながらプラズマ処理され、これにより半導電性ベルトを得ることができる。なお、半導電性ベルトの電気特性の改善効果を得るためには、放電装置の処理密度は20W・min/m2以上とするのが好ましい。20W・min/m2未満では電気特性の改善効果が低くなる場合がある。
【0023】
なお、本実施形態では、処理するPESフィルム1の幅に対してノズル2の幅が小さいため、ノズル2は矢印Aの方向(回転ロールの軸方向に直交する方向)にスライド移動可能とされており、回転ロールによってPESフィルムを循環移動させながら、ノズル2も矢印Aの方向にスライド移動することにより、PESフィルム1の全面にプラズマ処理を施すようになっている。
【実施例】
【0024】
[半導電性ベルトの作製]
上記実施形態で説明した放電装置を使用して半導電性ベルトを作製し、電気抵抗値の電圧依存性及び電気抵抗値の面内バラツキの電気特性について評価を行った。以下にその試験条件を記す。
【0025】
先ず、PESフィルムの原料であるPES系樹脂として、住友化学社製ポリエーテルサルホン(スミカエクセル4100P)を使用し、PES系樹脂100重量部に対して導電性フィラーとして電気化学工業社製カーボンブラック(アセチレンブラック、デンカブラック粒状)を13重量部添加し、2軸スクリューを有する押出機にて溶融混練押出しをして、ペレット状に造粒した。
【0026】
このペレット状原料を、口径94mmのサーキュラーダイスを備えた押出成形装置により、筒状に押出して、外径88mm、表面温度230℃に設定したサイジングマントルに沿わせ、冷却しつつ引取り、厚さ150μmの円筒状フィルムを成形した。その円筒状フィルムから長さ266mmの筒状PESフィルム1を作製した。
【0027】
得られたPESフィルム1を放電装置を用いてプラズマ処理を施した。放電装置としては、キーエンス社製ST−7000を使用し、ベルト速度3.3m/min、照射強度high(処理密度:100W・min/m2)でプラズマ処理を行なった。
【0028】
このようにして得られた半導電性ベルトについて以下の評価試験を行った(発明品)。なお、比較材としては、プラズマ処理以外は同じ方法によって作製した半導電性ベルトを使用した。
[評価試験]
・ 電気抵抗値の電圧依存性
JIS K6911に準拠して上記半導電性ベルトの表面抵抗率及び体積抵抗率を抵抗測定装置(アドバンテスト社製R8340A)により、印加電圧100V、250V及び500Vで測定した。
【0029】
測定に関しては、図3及び図4に示すように、半導電性ベルトをシート状に切り開いてTD方向(ベルト周方向)に8点、MD方向(ベルト周方向に対して垂直方向)に4点をとり、各交点の32箇所において実施し、その平均値を算出した。発明品の結果を図5に比較材の結果を図6にそれぞれ示す。
(2)電気抵抗値の面内バラツキ
上記と同様に、JIS K6911に準拠して印加電圧500Vで半導電性ベルトの表面抵抗率及び体積抵抗率を32箇所で測定した。その結果を、発明品については図7、図8に、比較材については図9、図10にそれぞれ示す。
[評価結果]
電気抵抗値の電気依存性について、100V印加時の平均測定値を500V印加時の平均測定値で割ったlog値を表1に示す。この値は、小さくなるほど電圧依存性が低いことを意味している。
【0030】
また、電気抵抗値の面内バラツキについて、32点測定値の最大値を最低値で割ったlog値を表1に示す。この値が小さいほど電気抵抗値の面内バラツキが小さいことを意味している。
【0031】
図7、図8及び表1より、PESフィルムにプラズマ処理を施すことにより、表面抵抗率及び体積抵抗率ともに、電圧依存性が著しく改善されることが判明した。
【0032】
また、図9〜図12及び表1より、表面抵抗率及び体積抵抗率の面内バラツキについても大幅に改善されることが判明した。
【0033】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明において用いられるプラズマ発生装置の概略を示す平面図
【図2】図1の装置の断面図
【図3】半導電性ベルトを示す概略図
【図4】半導電性ベルトの電気抵抗値の測定箇所を示す概略図
【図5】本発明で得られた半導電性ベルトの電気抵抗値の電圧依存性を示すグラフ
【図6】比較材の電気抵抗値の電圧依存性を示すグラフ
【図7】本発明で得られた半導電性ベルトの表面抵抗率のバラツキを示すグラフ
【図8】本発明で得られた半導電性ベルトの体積抵抗率のバラツキを示すグラフ
【図9】比較材の表面抵抗率のバラツキを示すグラフ
【図10】比較材の体積抵抗率のバラツキを示すグラフ
【符号の説明】
【0035】
1 PESフィルム
2 プラズマ照射ノズル
3 回転ロール
4 駆動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性フィラーを含有するポリエーテルサルホン系樹脂フィルムからなる半導電性ベルトを製造する方法であって、前記導電性フィラーを含有するポリエーテルサルホン系樹脂をフィルム状に成形した後、該フィルムにプラズマ処理を施すことを特徴とする半導電性ベルトの製造方法。
【請求項2】
前記プラズマ処理は、大気圧下で空気をキャリアガスとして前記フィルムにプラズマを照射することを特徴とする請求項1記載の半導電性ベルトの製造方法。
【請求項3】
前記プラズマ処理を施す前記フィルムが、サーキュラーダイスを備えた押出成形装置から押し出された筒状のものであることを特徴とする請求項1又は2記載の半導電性ベルトの製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2008−246802(P2008−246802A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−89893(P2007−89893)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】