説明

半球状中空マイクロカプセル

【課題】
従来、マイクロまたはナノカプセルにおいて半球状二極性中空マイクロカプセルは存在しなかった。半球状二極性マイクロカプセルにおいては底辺部分に特定のタンパク質が認識可能なリガンドをグラフトし、球面部分には抗血栓性高分子をグラフトさせることが可能となる。これによりミサイル療法における高い選択性を付与しつつ、高い抗血栓性を得ることが可能となった。
【解決手段】
炭酸カルシウム等の無機球状物質を疎水性の重合性油滴に配向させ重合した後、酸によるエッチングを行いこれをテンプレートとすることにより半球状中空マイクロカプセルを容易に合成できる手法を見出し、本発明を完結させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半球状中空マイクロカプセルに関する。さらに詳しくは、球面と底面の極性が異なり、環境応答性の特徴を有する半球状中空マイクロカプセルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のマイクロカプセル化技術ではマイクロまたはナノカプセルの製造法として、液中乾燥法、コアセルベーション法、界面重合法、in situ重合法、液中硬化被膜法、スプレードライイング法、気中懸濁被覆法、真空蒸着被覆法、静電的合体法、溶解分散冷却法および無機質壁カプセル化法などがある。これらは何れも固体/液体/気体の分散系界面における反応等を利用しているために得られるカプセルの形態は球状であり、二極性半球状のカプセルの合成は困難であった。
【特許文献1】特表4004−510551公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来、マイクロまたはナノカプセルにおいて半球状二極性中空マイクロカプセルは存在しなかった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明者らは鋭意検討した結果、炭酸カルシウム等の無機球状物質を疎水性の重合性油滴に配向させ重合した後、酸によるエッチングを行いこれをテンプレートとすることにより半球状中空マイクロカプセルを容易に合成できる手法を見出し、本発明を完結させた。
【発明の効果】
【0005】
従来のマイクロカプセル化技術では固体/液体/気体の分散系界面における反応等を利用しているために得られるカプセルの形態は必然的に球状であり、またそれらの表面改質による機能性の付与も部分的に施すことは困難であった。また、現在マイクロカプセルはあらゆる分野で応用されていることは周知の事実である。例えば塗料工業においてはゾルゲル法による蓄熱型自己浄化チタニア外壁のマイクロカプセルが多用されている。しかし、これらは球体であるために被着面積が限られており脱落が多発している。また部分的な、好ましくは半球部分のみの表面改質は困難であるために、自由表面が接着表面と同じ極性を有せざるを得ない。従って、自由表面は汚染されにくい疎水性の化学構造にし、接着表面は水性塗料に馴染む親水性にする等の機能設計は困難であった。さらにドラッグデリバリーシステムへの応用に関しても、同一極性の球状体に比して以下に述べる様な機能性を付与することが可能となる。即ち、半球状二極性マイクロカプセルにおいては底辺部分に特定のタンパク質が認識可能なリガンドをグラフトし、球面部分には抗血栓性高分子をグラフトさせることが可能となる。これによりミサイル療法における高い選択性を付与しつつ、高い抗血栓性を得ることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
最良の形態は半球状で中空であることである。更に粒子の球面部と底辺部が異なる極性基を有することである。本発明ののより、半球状粒子の直径が50nm〜50μmである半球状二極性マイクロカプセルを作ることができる。
【実施例】
【0007】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0008】
(無機有機複合ビーズポリマーの合成)
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを50ppm含有する水溶液270mlに株式会社米庄石灰工業製球状炭酸カルシウム(ED-SX)を10g添加し28KHz-100Wの超音波を5min照射し分散させた。その分散相に過酸化ベンゾイル1wt%を含有するメチルメタクリレート30mlを添加しO/Wエマルションとした後に70℃の水浴上で12時間重合反応を行った。反応終了後、目開き56μmの濾布にて未吸着の炭酸カルシウムを除去し凍結乾燥を行い、炭酸カルシウム吸着ポリメチルメタクリレートの無機有機複合ビーズポリマーを得た。塩酸/水酸化ナトリウムによる逆滴定では炭酸カルシウムの吸着量は35%であった。電子顕微鏡による観察では直径100μmのポリメチルメタクリレートの表層に隙間なく球状炭酸カルシウムが吸着している像が観察された。
【0009】
(半球状炭酸カルシウムの調整)
(無機有機複合ビーズポリマーの合成)で合成した無機有機複合ビーズポリマー25gをイオン交換水150mlにマグネティックスターラ攪拌下にて分散し、1N塩酸100mlを約2時間かけてチュービングポンプにて滴下した。滴下終了後、減圧濾過を行い約1Lのイオン交換水にて生成した塩化カルシウムを除去し凍結乾燥した。電子顕微鏡による観察では直径100μmのポリメチルメタクリレートの表層に隙間なく吸着していた球状炭酸カルシウムの表層約半分は除去されており、残る半球部分はポリメチルメタクリレートに埋没している像が観察された。
【0010】
(半球状炭酸カルシウム露出部分(底辺部)へのゾルゲル法によるSiO2被覆)
(半球状炭酸カルシウムの調整)にて調整した半球状炭酸カルシウム埋没ポリメチルメタクリレート6gを水酸化ナトリウム50mg及びイオン交換水12g含むエタノール溶液150mlにマグネティックスターラ攪拌下分散させた。その懸濁液にテトラエトキシシラン5g/エタノール30ml溶液を室温下約2時間かけてチュービングポンプにて滴下した。滴下終了後、さらに5時間同一条件で反応を継続した。反応終了後、56μmの濾布にて濾過し、エタノール100mlおよびイオン交換水100mlにて洗浄した。その後凍結乾燥を行った。
【0011】
(底辺部のSiO2表面改質)
(半球状炭酸カルシウム露出部分(底辺部)へのゾルゲル法によるSiO2被覆)にて得られたSiO2表面被覆無機有機複合ビーズポリマー1.0gに3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.1g、エタノール1.0gおよびイオン交換水1.0gの混合液を0.5g加えた後にスラリー物を110℃の加熱炉にて0.5時間シランカップリング反応を行った。反応終了後、得られた全粒子を30mlのアセトンに加えマグネティックスターラにて約2時間攪拌し母材であるポリメチルメタクリレートを溶解した後、減圧濾過およびアセトン洗浄した。電子顕微鏡による観察では半球状の微粒子が観察された。
【0012】
(炭酸カルシウム(球面部)へのゾルゲル法によるSiO2被覆)
(底辺部のSiO2表面改質)にて得られた半球状微粒子6gを水酸化ナトリウム50mg及びイオン交換水12g含むエタノール溶液150mlにマグネティックスターラ攪拌下分散させた。その懸濁液にテトラエトキシシラン5g/エタノール30ml溶液を室温下約2時間かけてチュービングポンプにて滴下した。滴下終了後、さらに5時間同一条件で反応を継続した。反応終了後、56μmの濾布にて濾過し、エタノール100mlおよびイオン交換水100mlにて洗浄した。その後凍結乾燥を行った。
【0013】
(球面部のSiO2表面改質)
(炭酸カルシウム(球面部)へのゾルゲル法によるSiO2被覆)で得られた半球状微粒子0.5gに3-アミノプロピルトリエトキシシラン0.1g、エタノール1.0gおよびイオン交換水1.0gの混合液を0.5g加えた後にスラリー物を110℃の加熱炉にて0.5時間シランカップリング反応を行った。
【0014】
(中空化(炭酸カルシウムの除去))
(球面部のSiO2表面改質)の操作で半球炭酸カルシウムを芯物質とし、外殻はシリカで覆われ、その底辺部が疎水性、球面部が親水性の微粒子を得た。この外殻のシリカはゾルゲル法によるナノ粒子の集積体であるために多孔質な状態である。従ってテンプレート物質である炭酸カルシウムは以下に記載した手法で除去した。
(球面部のSiO2表面改質)によって得た微粒子0.2gをイオン交換水10mlおよびエタノール10mlの混合溶媒に分散させ1N塩酸3mlを10分かけて滴下した。その後充分にイオン交換水にて洗浄した後、濾過を行い、再度50mlのエタノール中に分散させた。その後、二酸化炭酸超臨界状態でエタノールを二酸化炭素と置換した後に常圧に戻して乾燥を終了した。
【0015】
(評価)
上記の操作によって合成した二極性中空半球体の挙動を調査した。即ち該半球体は底辺部が疎水性(メタクリロキシ基)、球面部が親水基(アミノ基)によって覆われているために配向性を有する。なお、シランカップリング剤の種類を変えれば種々の組み合わせやグラフト化が可能であり、また疎水性/親水性の極性反転も可能である。
バフ研磨した真鍮製の電子顕微鏡試料台に蒸留水を滴下し、その液滴表面に(中空化(炭酸カルシウムの除去))にて合成した二極性中空半球体をスパーテルにて静かに加えた。その試料台を50℃のオーブン中にて乾燥させた。乾燥終了後に金蒸着を行い電子顕微鏡にて観察した。観察の結果、約75%の二極性中空半球体粒子は球面部を試料台に接する形で観測された。同様にバフ研磨した真鍮製の電子顕微鏡試料台を3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランにて疎水化した後に乾燥トルエンを滴下し、その液滴表面に(中空化(炭酸カルシウムの除去))にて合成した二極性中空半球体をスパーテルにて静かに加えた。その試料台を50℃のオーブン中にて乾燥させた。乾燥終了後に金蒸着を行い電子顕微鏡にて観察した。観察の結果、約90%の二極性中空半球体粒子は底辺部を試料台に接する形で観測された。即ち明らかに二極性の効果が現れた結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0016】
この二極性中空半球体への触媒や薬剤等の封入は一般的なシリカバルーンへの手法が適用可能であり、工業的応用としては、この特性を生かして塗料工業、繊維工業また医療分野において有用と考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
形態が半球状であることを特徴とする半球状中空マイクロカプセル。
【請求項2】
粒子の球面部と底辺部が異なる極性基を有することを特徴とする請求項1記載の半球状中空マイクロカプセル。
【請求項3】
半球状粒子の直径が50nm〜50μmであることを特徴とする請求項1記載の半球状中空カプセル。

【公開番号】特開2007−70389(P2007−70389A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−256033(P2005−256033)
【出願日】平成17年9月5日(2005.9.5)
【出願人】(390011143)株式会社松風 (125)
【Fターム(参考)】