説明

半球状微粒子の製造方法

【課題】挟雑物の少ない半球状微粒子を簡単に製造できる方法を提供する。
【解決手段】半球状微粒子の製造方法であって、分散安定剤の水溶液中に、単官能性ビニル系モノマー、脂肪族飽和炭化水素、及び重合開始剤からなる均一溶液を分散させて、単官能性ビニル系モノマーを含む領域と脂肪族飽和炭化水素の単官能性ビニル系モノマー溶液を含む領域との2つの表面領域を有する液滴を形成する第1工程;単官能性ビニル系モノマーを懸濁重合させて、このモノマーの重合により得られるポリマーと脂肪族飽和炭化水素との2つの表面領域を有する2領域微粒子を形成する第2工程;及びこの2領域微粒子から脂肪族飽和炭化水素を除去する第3工程を含み、ポリマーの単官能性モノマー溶液と分散安定剤水溶液との界面張力との差が5mN/m以下となるように、単官能性ビニル系モノマー、脂肪族飽和炭化水素、及び分散安定剤を使用する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半球状微粒子の製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、液晶ディスプレーのスペーサー、光拡散シート、防眩フィルム、導光板等の光学特性向上のために使用されたり、液状又はパウダー状化粧品の滑り剤、耐湿顔料等として使用される半球状の樹脂微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料の艶消しや隠蔽性向上等の塗料分野、液晶ディスプレーの光拡散板や光拡散フィルム等のディスプレイ分野、液状化粧料やパウダー状化粧料等の化粧品分野において、多様な目的で様々な樹脂微粒子が使用されている。
このような樹脂微粒子は、粉砕法、乳化重合法、懸濁重合法、シード重合法、分散重合法等によって製造されている。しかし、これら製造方法では、通常、不定形または球状の微粒子しか得られない。一方、半球状の微粒子は、滑り性が良好で、塗料成分として用いる場合に艶消し性や隠蔽性に優れ、光学部品成分として用いる場合に光拡散性や光透過性に優れる等の点で、産業上有用であるため、その簡単な製造方法が求められている。
【0003】
特許文献1は、架橋剤の不存在下で、重合性ビニルモノマー100重量部に、この重合性ビニルモノマーと共重合性を有さず、25℃における粘度が10〜1,000,000cStである疎水性液状化合物5〜200重量部を混合溶解し、水系懸濁重合する半球状微粒子の製造方法を開示している。
しかし、特許文献1の方法では、様々な形状の小さい挟雑微粒子が生成してしまい、均一な半球状微粒子を得ることができない。また、二つの曲面からなる微粒子が生成し易く、球面と平面とからなる半球状の微粒子を得るのが困難である。
【0004】
また、特許文献2は、重合性単官能性ビニルモノマーと多官能性ビニルモノマーとを、これらモノマーと共重合しない疎水性液状媒体、及びリン酸エステルの存在下で水系懸濁重合させた後、水及び疎水性液状媒体を除去して半球状微粒子を製造する方法を開示している。
しかし、特許文献2の方法は、多官能性モノマーの使用が必須であるため、反応条件が限定されると共に、コスト高であり、工業的に利用し難い方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開01/70826号公報
【特許文献2】特許第3827617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、挟雑物の少ない半球状微粒子を簡単に製造できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために研究を重ね、以下の知見を得た。
(i) 分散安定剤の水溶液中に、単官能性ビニル系モノマー、脂肪族飽和炭化水素、及び重合開始剤からなる均一溶液を分散させて、単官能性ビニル系モノマーを含む領域と脂肪族飽和炭化水素/単官能性ビニル系モノマー溶液を含む領域との2表面領域を有する液滴を形成した後;単官能性ビニル系モノマーを懸濁重合させて、このモノマーの重合により得られるポリマーと脂肪族飽和炭化水素との2つの表面領域を有する2領域微粒子を形成し;さらにこの2領域微粒子から脂肪族飽和炭化水素を除去し;重合中の、単官能性モノマーの重合により得られるポリマー/単官能性モノマー溶液と分散安定剤水溶液との間の界面自由エネルギーと、脂肪族飽和炭化水素/単官能性モノマー溶液と分散安定剤水溶液との間の界面自由エネルギーとが同程度になるように、単官能性ビニル系モノマー、脂肪族飽和炭化水素、及び分散安定剤を使用することにより、均一な半球状の微粒子が形成される。
(ii) 重合開始剤の使用量を調整することにより、半球状微粒子の面の凹凸を調節できる。
(iii) 分散安定剤の水溶液中に、さらに、モノマーの水相への溶解を低減する作用や、水相でのラジカル重合を抑制する作用を有する塩または水溶性重合禁止剤を加えることにより、形状及び大きさが一層均一な半球状微粒子が得られる。
【0008】
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、以下の半球状微粒子の製造方法を提供する。
項1. 半球状微粒子の製造方法であって、
分散安定剤の水溶液中に、単官能性ビニル系モノマー、脂肪族飽和炭化水素、及び重合開始剤からなる均一溶液を分散させて、単官能性ビニル系モノマーを含む領域と脂肪族飽和炭化水素の単官能性ビニル系モノマー溶液を含む領域との2つの表面領域を有する液滴を形成する第1工程;
単官能性ビニル系モノマーを懸濁重合させて、このモノマーの重合により得られるポリマーと脂肪族飽和炭化水素との2つの表面領域を有する2領域微粒子を形成する第2工程;及び
この2領域微粒子から脂肪族飽和炭化水素を除去する第3工程を含み、
単官能性モノマーの重合により得られるポリマーの単官能性モノマー溶液と分散安定剤水溶液との間の界面張力と、脂肪族飽和炭化水素の単官能性モノマー溶液と分散安定剤水溶液との間の界面張力との差が5mN/m以下となるように、単官能性ビニル系モノマー、脂肪族飽和炭化水素、及び分散安定剤を使用する方法。
項2. 単官能性ビニル系モノマーがモノビニル芳香族モノマーであり、脂肪族飽和炭化水素の炭素数が6〜20であり、分散安定剤が非イオン性界面活性剤である項1に記載の方法。
項3. 脂肪族飽和炭化水素の使用量が、単官能性ビニル系モノマー1重量部に対して、0.4〜2重量部である項1又は2に記載の方法。
項4. 分散安定剤の使用量が、単官能性ビニル系モノマー、脂肪族飽和炭化水素、及び重合開始剤からなる均一溶液に対して、10〜30重量%である項1〜3のいずれかに記載の方法。
項5. 重合開始剤の使用量が、単官能性モノマーに対して、0.5〜15重量%である項1〜4のいずれかに記載の方法。
項6. 分散安定剤水溶液が、さらに、モノマーの水相への溶解の抑制作用又は水相でのラジカル重合の抑制作用を有する塩、及び水溶性重合禁止剤からなる群より選ばれる化合物を含む項1〜5のいずれかに記載の方法。
項7. モノマーの水相への溶解の抑制作用又は水相でのラジカル重合の抑制作用を有する塩、及び水溶性重合禁止剤からなる群より選ばれる化合物の使用量が、単官能性ビニル系モノマー、脂肪族飽和炭化水素、及び重合開始剤からなる均一溶液に対して、2〜100重量%である項6に記載の方法。
項8. 第2工程において、単官能性ビニル系モノマー、脂肪族飽和炭化水素、及び重合開始剤からなる均一溶液が分散された分散安定剤水溶液を30〜90℃に加熱することにより、単官能性ビニル系モノマーを重合させる項1〜7のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、材料を混合してモノマーを重合させるだけの極めて簡単な方法で半球状微粒子が得られる。得られる微粒子は、形状及び大きさの均一性が高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1〜3で作製した半球状微粒子の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の半球状微粒子の製造方法は、
分散安定剤の水溶液中に、単官能性ビニル系モノマー、脂肪族飽和炭化水素、及び重合開始剤からなる均一溶液を分散させて、単官能性ビニル系モノマーを含む領域と脂肪族飽和炭化水素の単官能性ビニル系モノマー溶液を含む領域との2つの表面領域を有する液滴を形成する第1工程;
単官能性ビニル系モノマーを懸濁重合させて、このモノマーの重合により得られるポリマーと脂肪族飽和炭化水素との2つの表面領域を有する2領域微粒子を形成する第2工程;及び
この2領域微粒子から脂肪族飽和炭化水素を除去する第3工程を含み、
単官能性モノマーの重合により得られるポリマーの単官能性モノマー溶液と分散安定剤水溶液との間の界面張力と、脂肪族飽和炭化水素の単官能性モノマー溶液と分散安定剤水溶液との間の界面張力との差が5mN/m以下となるように、単官能性ビニル系モノマー、脂肪族飽和炭化水素、及び分散安定剤を使用する方法である(以下、この界面張力の関係を「本発明の界面張力の関係」と略称することもある)。
【0012】
単官能性ビニル系モノマー
単官能性ビニル系モノマーとしては、例えば、モノビニル芳香族モノマー、アクリル系モノマー、ビニルエステル系モノマー、ビニルエーテル系モノマー、モノオレフィン系モノマー、ハロゲン化オレフィン系モノマー、ジオレフィン等が挙げられる。単官能性ビニル系モノマーは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0013】
<モノビニル芳香族モノマー>
モノビニル芳香族モノマーとしては、下記一般式(1)で表されるモノビニル芳香族炭化水素、低級(炭素数1〜4)アルキル基で置換されていてもよいビニルビフェニル、低級(炭素数1〜4)アルキル基で置換されていてもよいビニルナフタレン等が挙げられる。
【化1】

(式中、R1は、水素原子、低級(炭素数1〜4)アルキル基又はハロゲン原子を示し、R2は、水素原子、低級(炭素数1〜4)アルキル基、ハロゲン原子、−SO3Na基、低級(炭素数1〜4)アルコキシ基、アミノ基又はカルボキシル基を示す。)
上記一般式(1)において、R1は、水素原子、メチル基又は塩素原子が好ましく、R2は、水素原子、塩素原子、メチル基又は-SO3Na基が好ましい。
上記一般式(1)で示されるモノビニル芳香族炭化水素の具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、α-クロロスチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、スチレンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる
更に、低級アルキル基で置換されていてもよいビニルビフェニル、低級アルキル基で置換されていてもよいビニルナフタレンとしては、ビニルビフェニル、メチル基、エチル基等の低級アルキル基で置換されているビニルビフェニル、ビニルナフタレン、メチル基、エチル基等の低級アルキル基で置換されているビニルナフタレン等を例示できる。
【0014】
<アクリル系モノマー>
アクリル系モノマーとしては、下記の一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
【化2】

(式中、R3は、水素原子又は低級(炭素数1〜4)アルキル基を示し、R4は、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基、炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基、低級(炭素数1〜4)アミノアルキル基又はジ(C1-C4アルキル)アミノ-(C1-C4)アルキル基を示す。)
一般式(2)において、R3は、水素原子又はメチル基であるのが好ましく、R4は、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、フェニル基、低級(炭素数1〜4)ヒドロキシアルキル基、低級(炭素数1〜4)アミノアルキル基が好ましい。
アクリル系モノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルエキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸β-ヒドロキシエチル、アクリル酸γ-ヒドロキシブチル、アクリル酸δ-ヒドロキシブチル、メタクリル酸β-ヒドロキシエチル、アクリル酸γ-アミノプロピル、アクリル酸γ-N,N-ジエチルアミノプロピル等が挙げられる。
【0015】
<ビニルエステル系モノマー>
ビニルエステル系モノマーとしては、下記の一般式(3)で表される化合物が挙げられる。
【化3】

(式中、R5は水素原子又は低級(炭素数1〜4)アルキル基を示す。)
ビニルエステル系モノマーの具体例としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。
【0016】
<ビニルエーテル系モノマー>
ビニルエーテル系モノマーとしては、下記の一般式(4)で表される化合物が挙げられる。
【化4】

(R6は、炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基又はシクロヘキシル基を示す。)
ビニルエーテル系モノマーの具体例としては、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルn-ブチルエーテル、ビニルフェニルエーテル、ビニルシクロヘキシルエーテル等が挙げられる。
【0017】
<モノオレフィン系モノマー>
モノオレフィン系モノマーとしては、下記の一般式(5)で表されるものが挙げられる。
【化5】

(式中、R7及びR8は、同一又は異なって、水素原子又は低級(炭素数1〜4)アルキル基を示す。)
モノオレフィン系モノマーの具体例としては、エチレン、プロピレン、ブテン-1、ペンテン-1、4-メチルペンテン-1等が挙げられる。
【0018】
<ハロゲン化オレフィン系モノマー>
ハロゲン化オレフィン系モノマーとしては、例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデンをあげることができる。
【0019】
<ジオレフィン類>
さらに、ジオレフィン類である、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等も単官能性モノマーに含めることができる。
【0020】
単官能性ビニル系モノマーの中では、モノビニル芳香族モノマー(特に、上記式(1)で表される化合物)、及び低級(炭素数1〜4)アルキル基で置換されていてもよいビニルナフタレンが好ましく、中でも、スチレン、クロロメチルスチレン、メチルスチレン、ビニルナフタレンがさらにより好ましい。
【0021】
脂肪族飽和炭化水素
分散安定剤の水溶液中で、単官能性ビニル系モノマーの重合により得られるポリマーからなる表面領域と、脂肪族飽和炭化水素からなる表面領域とが同程度の面積である2領域微粒子を形成するためには、重合中に、単官能性ビニル系モノマーの重合により得られるポリマー/モノマー溶液の分散安定剤水溶液との間の界面自由エネルギーと、脂肪族飽和炭化水素/単官能性ビニル系モノマー溶液の分散安定剤水溶液との間の界面自由エネルギーとが同程度であることが必要である。
界面自由エネルギーは、界面張力と界面積との積である。従って、重合中の、上記2種の溶液の分散安定剤水溶液との間の界面張力が同程度になるようにすればよい。
【0022】
この界面張力には、単官能性モノマー及び脂肪族飽和炭化水素の種類、並びに分散安定剤の種類及び量が大きく影響する。
本発明では、単官能性モノマーの重合により得られるポリマーのモノマー溶液と分散安定剤水溶液との間の界面張力と、脂肪族飽和炭化水素のモノマー溶液と分散安定剤水溶液との間の界面張力との差が5mN/m以下となるように、単官能性モノマー、脂肪族飽和炭化水素、及び分散安定剤を使用すればよい。これにより、重合中に、単官能性ビニル系モノマーの重合により得られるポリマー/モノマー溶液の分散安定剤水溶液との間の界面自由エネルギーと、脂肪族飽和炭化水素/単官能性ビニル系モノマー溶液の分散安定剤水溶液との間の界面自由エネルギーとが同程度となる。
【0023】
<ポリマーのモノマー溶液と分散安定剤水溶液との間の界面張力>
重合により得られるポリマーの単官能性モノマー溶液と分散安定剤水溶液との間の界面張力値は、ポリマー濃度が、モノマーを含んだポリマーのガラス転移点が重合温度と同程度に達するときの濃度で測定した値である。フォックスの式より、例えばポリスチレンの場合、重量分率0.72において、Tgは重合温度(70℃)に達し、粒子の構造は決定されると考えられる。また、重合により得られるポリマーの運動性に関連しており、得られる分子量によっても調節されるものである。
具体的には、重合により得られるポリマーの単官能性モノマー溶液と分散安定剤水溶液との間の界面張力値は、次のように求められる。
単官能性ビニル系ポリマー/モノマー溶液と分散安定剤水溶液との間の界面張力は以下の式を用いて算出する。
ln[(φPSSPS)1/r/(φSSS)] = [(γS/E aq.PS/E aq.)a/kT] + χPS/S(l+m)(
φSPS) -χPS-Sl (φSSPSS) (1)
PS-S/E aq.- γS/E aq.)a/kT = ln(φSSS) + [(r -1)/r](φPSSPS) + χPS
-S[l (φPSS)2 -(l+m)(φPS)2] (2)
下付き文字PS、S及びE aq.は、それぞれ、ポリマーとモノマー、分散安定剤水溶液だとすると、φi及びφiSは、それぞれ、構成要素iの滴全体における体積分率及び界面付近における体積分率を示す。本系では、油相はポリマーとモノマーから構成されているため、φPS = 1 -φS及びφPSS = 1 -φSSが成り立つ。γS/E aq.は、懸滴法により測定したモノマー/分散安定剤水溶液間界面張力を、γPS/E aq.は、接触角より算出したポリマー/分散安定剤水溶液間界面張力を用いた。また、rは、モノマーに対するポリマーのモル体積比、kは、ボルツマン定数(1.38 × 10-23 J × K-1)、Tは、温度(298 K)、χPS/Sは、ポリマーとモノマーの相互作用パラメーター、l及びmは、定数(l= 0.5 and m = 0.25)、aは、a = {M/(d ×NA )}2/3より計算される界面におけるモノマー分子の占有面積をそれぞれ示す。ここで、Mはモノマーの分子量、dはモノマーの密度、NAはアボガドロ定数(6.02 ×1023mol-1)を示す。分子量2500以上のポリマーが得られる場合、(1)式左辺はln(φSSS)に書き換えられる。また、χPS/Sは、濃度に依らず一定と仮定した。式(1)、(2)の連立方程式を解くことで、各重合率(各ポリマー濃度)におけるγPS-S/E aq.を求めた。(参考文献:K.S. Siow, D. Pattersosn, J. Phys. Chem. 1973,77, 356)
この方法は、フォックスの式より算出した重合温度と相分離後のモノマーを含むポリマー相のガラス転移点が同程度になるところでのその相のポリマー濃度における界面張力を規定する方法である。
【0024】
<脂肪族飽和炭化水素のモノマー溶液と分散安定剤水溶液との間の界面張力>
また、脂肪族飽和炭化水素のモノマー溶液と分散安定剤水溶液との間の界面張力は、ペンダントドロップ法で測定した値である。即ち、室温下で、分散安定剤水溶液中に脂肪族飽和炭化水素のモノマー溶液を内径1mmの逆針より押し出し、ペンダント型に形成された脂肪族飽和炭化水素滴の形状と界面活性剤水溶液と脂肪族飽和炭化水素を溶解したモノマー溶液との密度差より測定した値である。界面張力測定に供する脂肪族飽和炭化水素のモノマー溶液の脂肪族飽和炭化水素濃度は、重合温度とポリマーのモノマー溶液のガラス転移点が同程度になったときのポリマーと脂肪族飽和炭化水素との間のモノマーの分配より求めることができる。
2つの半球状領域で構成される液滴を得るための、モノマーと脂肪族飽和炭化水素と分散安定剤との組合せは、上記のようにして界面張力を測定すれば選択することができる。
【0025】
脂肪族飽和炭化水素の炭素数は6〜20が好ましく、12〜16がより好ましい。具体例として、デカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン等が挙げられ、中でも、ペンタデカン、ヘキサデカンが好ましい。脂肪族飽和炭化水素は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
脂肪族飽和炭化水素の使用量は、単官能性ビニル系モノマー1重量部に対して、0.4〜2重量部程度が好ましく、0.6〜1.2重量部程度がより好ましい。上記範囲であれば、半球状の微粒子が得られる。
【0026】
重合開始剤
重合開始剤は、単官能性モノマーと脂肪族飽和炭化水素を含む液滴中で、モノマーの重合を開始させるものであり、油溶性の重合開始剤を広く使用できる。例えば、ラジカル重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物や、クメンヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル等の過酸化物等のモノマーに可溶なものが挙げられる。また、紫外線等の光により重合開始する光重合開始剤を用いてもよい。このような光重合開始剤としては、油溶性であれば、特に制限されるものではなく、従来から使用されているものが挙げられる。
重合開始剤の使用量は、単官能性モノマーに対して、0.5〜15重量%程度、特に2〜10重量%程度とするのが好ましい。重合開始剤の使用量が上記範囲であれば、実用的な時間内に重合を完了できるとともに、半球状の微粒子が得られる。また、重合開始剤の使用量は、半球状微粒子の面の凹凸に大きな影響を与える。その他の条件にもよるが、通常は、重合開始剤の使用量が多い場合は、曲面とやや凸状の面からなる微粒子が得られ、重合開始剤の使用量を少なくしていくと、曲面と平面からなる微粒子が得られ、重合開始剤の使用量をさらに少なくすると、曲面とやや凹状の曲面からなる微粒子が得られる。本発明では、重合開始剤の使用量を、単官能性モノマーに対して、2.5〜5重量%程度とすることにより、曲面と平面とからなる半球状微粒子が得られる。
【0027】
有機溶媒
本発明方法では、モノマーが有機溶媒の役割を果たすため、有機溶媒を用いなくてもよいが、用いても構わない。例えば、炭素数1〜7の直鎖状又は分岐状の脂肪族炭化水素系溶媒;トルエン,ベンゼン,キシレン,シクロヘキシルベンゼン、1,2-ジメチルナフタレン、1,3-ジメチルナフタレン、1,6-ジメチルナフタレンのような芳香族炭化水素系溶媒;ジベンジルエーテルのようなエーテル系溶媒;アセチルクエン酸トリエチル、安息香酸イソアミル、安息香酸ベンジル、サリチル酸イソアミル、サリチル酸ベンジル、シュウ酸ジアミル、酒石酸ジブチル、フタル酸ジエチルのようなエステル系溶媒;ジオクチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N-ジブチルアニリン、トリアミルアミン、トリ-n-ブチルアミンのような含窒素系溶媒などを使用できる。有機溶媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
有機溶媒を用いる場合は、脂肪族炭化水素の1重量部に対して、約0.1〜10重量部の範囲で用いればよい。
【0028】
分散安定剤
分散安定剤は、単官能性モノマー、脂肪族飽和炭化水素、及び開始剤からなる均一溶液を水中に分散して形成した液滴が、合一しないようにする作用を有するものを使用できる。具体的には、ポリマー分散安定剤として公知のものを制限無く使用できる。このような公知の分散安定剤として、例えば以下のものが挙げられる。
ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリアクリルイミド、ポリエチレンオキシド、ポリ(ハイドロオキシステアリン酸−g−メタクリル酸メチル−co−メタクリル酸)共重合体等の高分子分散安定剤;
ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルチオエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミドのようなポリオキシエチレン系界面活性剤、ポリエチレンイミン、ソルビタンアルキルエステル、グリセリン又はポリグリセリンと油脂、脂肪酸、樹脂酸、又はナフテン酸とのエステル、グリコールエステル、ペンタエリスリットエステル、サッカロースエステルのような多価アルコールと脂肪酸とのエステル、脂肪酸エタノールアミド、メチロールアミド、オキシメチルエタノールアミド、脂肪酸エタノールアミド誘導体のようなアミド型界面活性剤等の非イオン性界面活性剤;
炭素数12〜30程度の高級脂肪酸塩(以下、「高級」とは炭素数12〜3
0程度を指す)、第2級高級脂肪酸塩、高級アルキル・ジカルボン酸塩のようなカルボン酸型陰イオン性界面活性剤、第1級高級アルコール硫酸エステル塩、第1級高級アルコール硫酸エステル塩のような硫酸エステル型陰イオン性界面活性剤、第1級高級アルキル・スルフォン酸塩、第2級高級アルキル・スルフォン酸塩、高級アルキル・ジスルフォン酸塩、硫酸化脂肪及び硫酸化脂肪塩、スルフォン化高級脂肪酸塩のようなスルホン酸型陰イオン性界面活性剤、高級アルキルリン酸エステル塩のようなリン酸エステル型陰イオン性界面活性剤、アルキルベンゼン・スルフォン酸塩、アルキルフェノール・スルフォン酸塩、アルキルナフタリン・スルフォン酸塩、アルキルテトラリン・スルフォン酸塩のようなアルキルアリルスルフォン酸塩、高級脂肪酸アミドのアルキロール化硫酸エステル塩、高級脂肪酸アミドのアルキル化スルフォン酸塩のようなアミドスルフォン酸塩型アニオン系界面活性剤等のアニオン性界面活性剤;
アルキルアミン塩、変性アルキルアミン塩、テトラアルキル第4級アンモニウム塩、変性トリアルキル第4級アンモニウム塩、トリアルキル・ベンジル第4級アンモニウム塩、アルキル・ピリジニウム塩、変性アルキル・ピリジニウム塩、アルキル・キノリニウム塩、アルキル・フォスフォニウム塩、アルキル・スルフォニウム塩等のカチオン性界面活性剤;
陽イオン性基としてテトラアルキル第4級アンモニウム塩を有し、陰イオン性基としてカルボキシル基、又はスルフォン酸基を有する両性界面活性剤等が挙げられる。
中でも、非イオン性界面活性剤が好ましく、ポリオキシエチレン系界面活性剤がより好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルがさらにより好ましく、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルがさらにより好ましい。
【0029】
分散安定剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
2種以上を使用する場合は、それぞれの分散安定剤は、液滴表面を構成する2領域のうち馴染みのよい方に吸着される。また、1種を単独で使用する場合でも、液滴を構成する2つの領域に対する吸着量が異なる。従って、分散安定剤の種類及び量は、単官能性ビニル系ポリマー/モノマー溶液の分散安定剤水溶液との間の界面自由エネルギー、及び脂肪族飽和炭化水素/単官能性ビニル系モノマー溶液の分散安定剤水溶液との間の界面自由エネルギーに影響する。
分散安定剤の水溶液において、分散安定剤の濃度は上記溶液の液滴が合一しないような濃度となるように適宜選択すればよい。分散安定剤の水溶液中の濃度は、例えば0.1〜5重量%程度、特に0.3〜4重量%程度、中でも0.5〜3重量%程度が好ましい。
また、分散安定剤の使用量は、水溶液中に分散させる、単官能性モノマー、脂肪族飽和炭化水素、及び重合開始剤を含む均一溶液に対して、例えば10〜30重量%程度、特に15〜20重量%程度が好ましい。
分散安定剤の使用量が上記範囲であれば、分散効果が十分に得られ、かつ半球状微粒子が得られる。
【0030】
塩・水溶性重合禁止剤
分散安定剤水溶液には、重合中の水相における目的外粒子(副生微粒子)の発生を抑制するために、モノマーの水相への溶解を低減する作用や、水相でのラジカル重合を抑制する作用を有する塩及び/または水溶性重合禁止剤を添加することができ、これにより、大きさや形状が異なる挟雑微粒子の生成が一層効果的に抑制されて、極めて均一な半球状粒子が得られる。具体的には、CuCl、NaCl、NaNO、CuBr、ハイドロキノン、スルホン化ナフトヒドロキノンアンモニウム塩、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアンモニウム塩、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩などが挙げられる。
上記の塩及び/または水溶性重合禁止剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
上記の塩及び/または水溶性重合禁止剤の水溶液中の濃度は、0.1〜5重量%程度、特に0.5〜2重量%程度が好ましい。
上記の塩及び/または水溶性重合禁止剤の使用量は、水溶液中に分散させる、単官能性モノマー、脂肪族飽和炭化水素、及び重合開始剤を含む均一溶液に対して、2〜100重量%程度、特に10〜50重量%程度が好ましい。
上記の塩及び/または水溶性重合禁止剤の使用量が上記範囲であれば、分散効果が十分に得られ、かつ半球状微粒子が得られる。
【0031】
単官能性ビニル系モノマー・脂肪族飽和炭化水素・分散安定剤の好ましい組み合わせ
モノビニル芳香族モノマーと、炭素数6〜20の脂肪族飽和炭化水素と、非イオン性界面活性剤とを組み合わせれば、通常、本発明の界面張力の関係を満たす。特に、上記一般式(1)のモノビニル芳香族モノマーと、炭素数6〜20の脂肪族飽和炭化水素と、ポリオキシエチレン系界面活性剤との組み合わせが好ましく、上記一般式(1)のモノビニル芳香族モノマーと、炭素数12〜16の脂肪族飽和炭化水素と、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルとの組み合わせがより好ましい。
特に好ましい組み合わせとして、以下の組み合わせが挙げられる。
【表1】

【0032】
第1工程
第1工程では、分散安定剤等を含む水溶液中に、単官能性ビニル系モノマー、脂肪族飽和炭化水素、及び重合開始剤からなる均一溶液を分散させて、単官能性ビニル系モノマーを含む領域と脂肪族飽和炭化水素のモノマー溶液を含む領域との2つの表面領域を有する液滴を形成する。
この均一溶液は、分散安定剤の水溶液100重量部当たり、0.1〜5重量部程度、特に0.5〜3重量部程度となるような量で使用するのが好ましいが、特にこの範囲に限定されるものではない。
分散方法としては、ホモジナイザーや膜乳化法など機械的せん断力による分散方法等の公知の方法を種々採用できる。分散の際の温度条件は、重合開始剤の分解に影響する温度以下であれば限定されるものではないが、0〜30℃程度であるのが好ましい。
上記分散方法では、液滴の大きさは単分散ではなく、一般に種々の異なる粒子径の液滴が混在したものとなる。従って、最終的に得られる半球状微粒子のサイズも均一になり難い。
一方、分散方法を選択することにより、液滴の大きさを均一にして、単分散の液滴を得ることもできる。そのような単分散液滴を得る方法としては、例えば、多孔質ガラス(SPG)を利用した膜乳化法による単分散液滴を作製する方法やシード膨潤法(特開平8-20604号公報に記載の方法)などを挙げることができる。このような粒子径が均一に揃った単分散の液滴を調製した場合は、最終的に得られる微粒子もサイズが均一に揃った単分散となる。
いずれの場合も、上記液滴の平均粒子径は、目的とする半球状微粒子のサイズに応じて適宜決定すればよいが、一般には0.05〜50μm程度、特に0.1〜20μm程度とするのが好ましい。モノマー、脂肪族飽和炭化水素、及び重合開始剤の均一溶液の粘度、分散安定剤や必要に応じて添加される塩の使用量、分散安定剤水溶液の粘度、分散方法、分散条件を前記範囲で適宜設定することにより、この範囲の液滴平均粒子径が得られる。
【0033】
第2工程
こうして得られた、モノマー、脂肪族飽和炭化水素、及び重合開始剤の均一混合物が分散された分散安定剤の水溶液を、懸濁重合に供するには、通常、この水溶液を撹拌しながら加熱すればよい。
加熱温度は、通常30〜90℃程度とすればよく、特に50〜80℃程度が好ましく、65〜75℃程度がより好ましい。上記温度範囲であれば、実用的な時間内に重合が進行すると共に、半球状の微粒子が得られる。
懸濁重合は、所望の微粒子が得られるまで行う。懸濁重合に要する時間は、モノマーおよび開始剤の種類等により変動するが、一般には2〜24時間程度である。溶媒を使用する場合、懸濁重合により溶媒は、通常、分散安定剤水溶液を通って系外に除去される。
また、懸濁重合は、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
こうして懸濁重合を行うことにより、単官能性モノマーの重合により得られるポリマーと脂肪族飽和炭化水素との2表面領域からなる2領域微粒子が得られる。
【0034】
第3工程
第3工程では、第2工程で得られた2領域微粒子から脂肪族飽和炭化水素を除去する。例えば、2領域微粒子を洗浄溶媒を用いて、遠心洗浄等することにより脂肪族飽和炭化水素が除去される。洗浄溶媒は、水と相溶し、ポリマーを溶解又は膨潤させず、かつ脂肪族飽和炭化水素を溶解させるものであればよく、特に限定されない。洗浄溶媒としては、例えば、メタノールやエタノールなどの低級アルコールやアセトンなどが挙げられる。
このようにして、2領域微粒子から脂肪族飽和炭化水素を除去することにより、ポリマーが半円球状に残り、半球状微粒子を得ることができる。
微粒子は、必要に応じて、例えば温度0〜50℃程度、圧力103〜105Pa程度の条件下で乾燥することができる。また、自然蒸発、減圧処理、シリカゲルなどの乾燥剤の使用によって微粒子を乾燥することもできる。
【0035】
半球状微粒子
本発明において、半円球状微粒子とは、平面と曲面からなる半円球状、凸型半円球状、凹型半円球状、又はそれらに準ずる非球状の形状のものである。また、通常は、約1.4〜2.5の縦横比(Lmax/Lver:ここで、Lmaxは樹脂粒子の面積が最小となるように投影した投影樹脂粒子の最大長、LverはLmaxを含む面に垂直な方向における投影樹脂粒子の最大垂直長、凹型半円球状の場合は最小垂直長)を有する。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例を挙げて、より詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
(1)脂肪族飽和炭化水素/モノマー溶液と分散安定剤水溶液との間の界面張力測定
表面張力試験器(DropMaster500)(協和界面科学株式会社)を用いて、所定の濃度の分散安定剤水溶液中に、室温下、脂肪族飽和炭化水素を溶解したモノマー溶液を内径1mmの逆針より押し出し、ペンダント型に形成された脂肪族飽和炭化水素滴の形状と分散安定剤水溶液と脂肪族飽和炭化水素を溶解したモノマー溶液との密度差より、界面張力を測定した。界面張力測定に供した脂肪族飽和炭化水素のモノマー溶液の脂肪族飽和炭化水素濃度は、重合温度とポリマーのモノマー溶液のガラス転移点が同程度になったときのポリマーと脂肪族飽和炭化水素との間のモノマーの分配より求めた。
【0037】
(2)単官能性ビニル系ポリマー/モノマー溶液と分散安定剤水溶液との間の界面張力測定
単官能性ビニル系ポリマー/モノマー溶液と分散安定剤水溶液との間の界面張力は以下の式を用いて算出した。
ln[(φPSSPS)1/r/(φSSS)] = [(γS/E aq.PS/E aq.)a/kT] + χPS/S(l + m)(
φSPS) -χPS-Sl(φSSPSS) (1)
PS-S/E aq.- γS/E aq.)a/kT = ln(φSSS) + [(r -1)/r](φPSSPS) + χPS
-S[l(φPSS)2 -(l + m)(φPS)2] (2)
下付き文字PS、S及びE aq.は、例として、それぞれ、ポリマーとしてポリスチレン、有機溶剤としてスチレン、分散安定剤水溶液だとすると、φi及びφiSは、それぞれ、構成要素iの滴全体における体積分率及び界面付近における体積分率を示す。本系では、油相はポリスチレンとスチレンから構成されているため、φPS = 1 -φS及びφPSS = 1 -φSSが成り立つ。γS/E aq.は、懸滴法により測定したスチレン/分散安定剤水溶液間界面張力を、γPS/E aq.は、接触角より算出したポリスチレン/分散安定剤水溶液間界面張力を用いた。また、rは、スチレンに対するポリスチレンのモル体積比、kは、ボルツマン定数(1.38 × 10-23 J × K-1)、Tは、温度(298 K)、χPS/Sは、ポリスチレンとスチレンの相互作用パラメーター(χPS/S= 0.25)、l及びmは、定数(l = 0.5 and m = 0.25)、aは、a =
{M/(d ×NA )}2/3より計算される界面におけるスチレン分子の占有面積(3.32 ×10-19 m2)をそれぞれ示す。ここで、Mはスチレンの分子量(104 g ・ mol-1)、dはスチレンの密度(0.9044 g ・ cm-3)、NAはアボガドロ定数(6.02 ×1023mol-1)を示す。分子量2500以上のポリマーが得られる場合、(1)式左辺はln(φSSS)に書き換えられる。また、χPS/Sは、濃度に依らず一定と仮定した。式(1)、(2)の連立方程式を解くことで、各重合率(各ポリマー濃度)におけるγPS-S/E aq.を求めた。
実際比較するγPS-S/E aqは、重合温度とモノマー含有ポリマーのガラス転移点が一致するところの重合率における界面張力値とする。具体的には、ポリスチレン相のガラス転移温度(Tg)は重合に伴い上昇する。フォックスの式より、重量率72%において、Tgは重合温度(70℃)に達し、粒子の構造は決定されると考えられる。この際、スチレンの各相に対する分配は重量比に比例するとした。つまり、(仕込み比がスチレン0.5g、ヘキサデカン0.36gの場合)重合率72%におけるポリスチレンの重量分率は84%、ヘキサデカンの重量分率は84%と計算される。重合率72%において、上式より算出したポリスチレンのスチレン溶液/分散安定剤水溶液間界面張力値(γPS-S/E aq.)は、10.6(Emulgen931)、懸滴法により測定されたヘキサデカンのスチレン溶液/分散安定剤水溶液間界面張力値(γHD-S/E aq.)は、8.0(Emulgen931)であった。この値と有機液体と分散安定剤水溶液の界面張力値の差を考える。
(-5≦γPS-S/Eaq HD-S/E aq≦5.0)。
【0038】
(3)微粒子の作製
[実施例1]
水15gに、非イオン性界面活性剤(Emulgen931;Kao)0.15g、NaClを0.13g、CuClを50mg溶解した水溶液を調製し、ここに、スチレン0.5g、ヘキサデカン0.36g、過酸化ラウロイル50mgを均一溶液にしたものを添加し、ホモジナイザーにて4000rpm、2分乳化した後、シュレンクフラスコに移し、窒素雰囲気下、70℃、24時間重合を行った。得られた粒子は遠心分離によりエマルゲン931の1重量%水溶液で洗浄し、その後メタノールでヘキサデカンを除去することにより半球状微粒子が作製された。
[実施例2]
実施例1において、過酸化ラウロイルの使用量を25mgにした他は、実施例1と同様にして半球状微粒子を作製した。
[実施例3]
実施例1において、過酸化ラウロイルの使用量を13mgにした他は、実施例1と同様にして半球状微粒子を作製した。
【0039】
得られた微粒子の走査型顕微鏡写真を図1に示す。図1から明らかなように、得られた微粒子は、大きさ及び形状が均一で、複製微粒子が殆ど認められなかった。また、重合開始剤の過酸化ラウロイルの使用量を少なくすると、平面と曲面とからなる半球状の微粒子が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の半球状微粒子は、液晶ディスプレーのスペーサー、光拡散シート、防眩フィルム、導光板等の光学特性向上用の微粒子として、また、液状又はパウダー状化粧品の滑り剤、耐湿顔料等として、好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半球状微粒子の製造方法であって、
分散安定剤の水溶液中に、単官能性ビニル系モノマー、脂肪族飽和炭化水素、及び重合開始剤からなる均一溶液を分散させて、単官能性ビニル系モノマーを含む領域と脂肪族飽和炭化水素の単官能性ビニル系モノマー溶液を含む領域との2つの表面領域を有する液滴を形成する第1工程;
単官能性ビニル系モノマーを懸濁重合させて、このモノマーの重合により得られるポリマーと脂肪族飽和炭化水素との2つの表面領域を有する2領域微粒子を形成する第2工程;及び
この2領域微粒子から脂肪族飽和炭化水素を除去する第3工程を含み、
単官能性モノマーの重合により得られるポリマーの単官能性モノマー溶液と分散安定剤水溶液との間の界面張力と、脂肪族飽和炭化水素の単官能性モノマー溶液と分散安定剤水溶液との間の界面張力との差が5mN/m以下となるように、単官能性ビニル系モノマー、脂肪族飽和炭化水素、及び分散安定剤を使用する方法。
【請求項2】
単官能性ビニル系モノマーがモノビニル芳香族モノマーであり、脂肪族飽和炭化水素の炭素数が6〜20であり、分散安定剤が非イオン性界面活性剤である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
脂肪族飽和炭化水素の使用量が、単官能性ビニル系モノマー1重量部に対して、0.4〜2重量部である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
分散安定剤の使用量が、単官能性ビニル系モノマー、脂肪族飽和炭化水素、及び重合開始剤からなる均一溶液に対して、10〜30重量%である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
重合開始剤の使用量が、単官能性モノマーに対して、0.5〜15重量%である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
分散安定剤水溶液が、さらに、モノマーの水相への溶解の抑制作用又は水相でのラジカル重合の抑制作用を有する塩、及び水溶性重合禁止剤からなる群より選ばれる化合物を含む請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
モノマーの水相への溶解の抑制作用又は水相でのラジカル重合の抑制作用を有する塩、及び水溶性重合禁止剤からなる群より選ばれる化合物の使用量が、単官能性ビニル系モノマー、脂肪族飽和炭化水素、及び重合開始剤からなる均一溶液に対して、2〜100重量%である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
第2工程において、単官能性ビニル系モノマー、脂肪族飽和炭化水素、及び重合開始剤からなる均一溶液が分散された分散安定剤水溶液を30〜90℃に加熱することにより、単官能性ビニル系モノマーを重合させる請求項1〜7のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−168680(P2011−168680A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33008(P2010−33008)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】