説明

半田、半田付け構造ならびに貫通型セラミックコンデンサ

【課題】構造体の孔内壁に内面電極を有する半田付け構造において、内面電極と構造体の孔内壁との界面や構造体の内部にクラックが生ぜず、十分な内面電極強度を備え、なおかつ鉛を含まないため環境に優しい半田、半田付け構造、ならびにこのような半田付け構造を備える貫通型セラミックコンデンサを提供する。
【解決手段】半田付け構造1は、孔2aを備える構造体2と、孔の内壁に形成された内面電極3と、孔に挿入されたリード線4と、孔に含浸されて内面電極とリード線とを固着させた鉛を含有しない半田5とからなり、半田は、凝固時において体積収縮しない合金からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体の孔内に半田が充填されてなる半田付け構造に関するもので、特に貫通型セラミックコンデンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より構造体の孔内壁に内面電極を有する半田付け構造としては、例えば図4に示すような半田付け構造21があり、孔2aを備える構造体2と、孔2aの内壁に形成された内面電極3と、孔2a内に挿入されたリード線4と、内面電極3とリード線4とを電気的かつ機械的に接合させるために孔2a内に充填された半田15とからなる。このような半田15としては、SnとPbを主成分とする半田や、環境への影響を考慮して、SnとAg、SnとCu、SnとSbを主成分とする半田が一般的に用いられている。
【特許文献1】特開昭56−133810号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の半田付け構造21において内面電極3とリード線4を半田5で接合する場合に、半田5が凝固時に体積収縮して内面電極3と孔2a内壁との界面に収縮応力が集中し、図4に示すように、内面電極3が構造体2の孔2a内壁から剥離した剥離部分15aが生じたり、あるいは構造体2が脆い場合には構造体2自体にクラックが生じるという問題があった。
【0004】
本発明の目的は、上述の問題点を解消すべくなされたもので、構造体の孔内壁に内面電極を有する半田付け構造において、内面電極と構造体の孔内壁との界面や構造体の内部にクラックが生ぜず、十分な内面電極強度を備え、なおかつ鉛を含まないため環境に優しい半田付け構造、ならびにこのような半田付け構造を備える貫通型セラミックコンデンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の半田付け構造は、孔を備える構造体と、孔の内壁に形成された内面電極と、孔に挿入されたリード線と、孔に充填されて内面電極とリード線とを固着させた鉛を含有しない半田とからなり、半田は、凝固時において体積収縮しない合金からなることを特徴とする。
【0006】
また、本発明の半田付け構造における孔は構造体の一方面から他方面に貫通する貫通孔であり、リード線は貫通孔内に挿入され、リード線の両端は貫通孔の両端より外部に導出されていることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の貫通型セラミックコンデンサは、本発明の半田付け構造を備え、構造体はコンデンサとして機能する誘電体組成物からなるセラミック焼結体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明の半田付け構造によれば、孔を備える構造体と、孔の内壁に形成された内面電極と、孔に挿入されたリード線と、孔に充填されて内面電極とリード線とを固着させた鉛を含有しない半田とからなり、半田は、凝固時において体積収縮しない合金からなることを特徴とすることにより、内面電極と構造体の孔内壁との界面や構造体の内部にクラックが生ぜず、十分な内面電極強度を備え、なおかつ鉛を含まないため環境に優しい半田付け構造、ならびに貫通型セラミックコンデンサを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明による一つの実施形態について、図1に基づいて詳細に説明する。但し、前述の従来例と同一部分については、同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。半田付け構造1は、孔2aを備える構造体2と、孔2aの内壁に形成された内面電極3と、孔2a内に挿入されたリード線4と、内面電極3とリード線4とを電気的かつ機械的に接合させるために孔2a内に充填された鉛を含有しない半田5とからなる。半田5は、半田の凝固時において体積収縮しない合金からなる。
【0010】
まず、凝固時において体積収縮しない合金としては、凝固時に体積膨張する金属と体積収縮が小さい金属とを組み合わせることが考えられる、凝固時に体積膨張する金属としては、Bi、Gaが挙げられるが、Gaは希少金属であり安定供給の面で不安があり高価であることから半田材料の主成分元素としては不適切である。したがって、半田5の主成分元素はBiが好ましい。
【0011】
次に、他方Biのみでは脆化の恐れがあることから、靭性を付与するために合金化する必要がある。
【0012】
添加する元素としては、さまざまな元素の添加が可能であるが、毒性、供給能力、融点や半田付き性といった半田として具備すべき特性等を考慮すれば、添加元素はAg、Au、Cu、In、Sb、Sn、Zn等が好ましい。それぞれの元素の添加量は作業温度や必要強度に応じて調整可能であるが、半田5の合金組成は、好ましくはBi−0.01〜5質量%Ag、Bi−0.01〜25質量%Au、Bi−0.01〜0.5質量%Cu、Bi−0.01〜57質量%In、Bi−0.01〜5質量%Sb、Bi−0.01〜57質量%Sn、Bi−0.01〜5質量%Znである。
【0013】
Bi−Ag合金において、Bi−Ag合金の共晶組成、すなわち40質量%Ag以下であればBi−Ag合金は凝固時に膨張することから、作業温度に制約がなければ40質量%までAgを添加してもよいが、より好ましくはBi−0.01〜5質量%Agである。Agの添加量が5質量%以内であれば、半田5の液相線温度が300℃以下となり作業性が保たれる。他方、Agの添加量が0.01質量%以上であれば、半田5の脆性を抑制する効果が得られ、半田5の接合強度が保たれる。
【0014】
Bi−Au合金において、Bi−Au合金の共晶組成、すなわち39質量%Au以下であればBi−Au合金は凝固時に膨張することから、作業温度に制約がなければ39質量%までAuを添加してもよいが、より好ましくはBi−0.01〜25質量%Auである。Auの添加量が25質量%以内であれば、半田5の液相線温度が300℃以下となり作業性が保たれる。
他方、Auの添加量が0.01質量%以上であれば、半田5の脆性を抑制する効果が得られ、半田5の接合強度が保たれる。
【0015】
Bi−Cu合金において、Bi−Cu合金の共晶組成、すなわち44質量%Cu以下であればBi−Cu合金は凝固時に膨張することから、作業温度に制約がなければ44質量%までCuを添加してもよいが、より好ましくはBi−0.01〜0.5質量%Cuである。Cuの添加量が0.5質量%以内であれば、半田5の液相線温度が300℃以下となり作業性が保たれる。他方、Cuの添加量が0.01質量%以上であれば、半田5の脆性を抑制する効果が得られ、半田5の接合強度が保たれる。
【0016】
Bi−In合金において、好ましくはBi−0.01〜57質量%Inである。Inの添加量が57質量%以内であれば、半田5は凝固時に収縮せず、半田5が構造体2の孔2a内壁に形成された内面電極3から剥離することなく保たれる。他方、Inの添加量が0.01質量%以上であれば、半田5の脆性を抑制する効果が得られ、半田5の接合強度が保たれる。
【0017】
Bi−Sb合金において、Bi−Sb合金の共晶組成、すなわち78質量%Sb以下であればBi−Sb合金は凝固時に膨張することから、作業温度に制約がなければ78質量%までSbを添加してもよいが、好ましくはBi−0.01〜5質量%Sbである。Sbの添加量が5質量%以内であれば、半田5の液相線温度が300℃以下となり作業性が保たれる。他方、Sbの添加量が0.01質量%以上であれば、半田5の脆性を抑制する効果が得られ、半田5の接合強度が保たれる。
【0018】
Bi−Sn合金において、好ましくはBi−0.01〜57質量%Snである。Snの添加量が57質量%以内であれば、半田5は凝固時に収縮せず、半田5が構造体2の孔2a内壁に形成された内面電極3から剥離することなく保たれる。他方、Snの添加量が0.01質量%以上であれば、半田5の脆性を抑制する効果が得られ、半田5の接合強度が保たれる。
【0019】
Bi−Zn合金において、Bi−Zn合金の共晶組成、すなわち32質量%Zn以下であればBi−Zn合金は凝固時に膨張することから、作業温度に制約がなければ32質量%までZnを添加してもよいが、好ましくはBi−0.01〜5質量%Znである。Znの添加量が5質量%以内であれば、半田5の液相線温度が300℃以下となり作業性が保たれる。他方、Znの添加量が0.01質量%以上であれば、半田5の脆性を抑制する効果が得られ、半田5の接合強度が保たれる。
【0020】
なお、本発明の半田組成は、上述の2元系半田に特に限定されることなく、半田の凝固時において体積収縮しない半田組成、例えば、上述の2元合金をベース組成とする多元系半田であっても構わない。
【0021】
また、本発明における半田5の半田付け方法は、例えば浸漬半田付け、リフロ−加熱による方法があるが、本発明の半田付け構造ならびに貫通型セラミックコンデンサは、内面電極3とリード線4と半田5とを電気的かつ機械的に接合し得る方法であれば、何れの方法によっても構わない。
【0022】
また本発明における構造体2は、例えばAl23やBaTiO3等のセラミック材料からなるセラミック焼結体が挙げられるが、特にこれに限定されることなく、金属や樹脂等の半田付け可能な材料からなる構造体であれば構わない。
【0023】
また、本発明における内面電極3を構成する導電成分としては、例えばAg、Ag/Pd、Ag/Pt、Au、Ni、Cu、Al等が挙げられ、その形成方法としては、スパッタ、蒸着、ペースト印刷の方法が挙げられるが、特に限定されることなく、何れの材料ならびに形成方法によっても構わない。
【0024】
また、本発明におけるリード線4は、例えばCu、Fe、Ni、Auなど金属線を芯材とし、必要あればその表面にSn、Pb、Sn−Pb、Pd、Au、Sn−Cu、Sn−Ag、Sn−Ag−Cu、Sn−Biメッキ等を施したものが挙げられるが、半田5と電気的かつ機械的に接合可能な組成であれば、何れの材料によっても構わない。
【0025】
本発明による他の実施形態について、図2に基づいて詳細に説明する。貫通型セラミックコンデンサ11は、BaTiO3を主成分とする誘電体材料からなり一方面から他方面に貫通する貫通孔12aを備える円筒形のセラミック焼結体12と、貫通孔12aの内壁に形成された内面電極13と、貫通孔12a内に挿入されたリード線14と、内面電極13とリード線14とを電気的かつ機械的に接合させるために貫通孔12a内に充填された鉛を含有しない半田15と、セラミック焼結体12の表面に形成された表面電極16とからなる。
【0026】
なお、内面電極13、リード線14、半田15の材料は、何れも前掲の実施形態における内面電極3、リード線4、半田5と同じものを適宜選択して用いることができる。また、表面電極16の材質、形状は何ら限定されるものではない。
【0027】
まず、表1に示すような組成からなる半田を準備し、これらをそれぞれ実施例1〜26ならびに比較例1〜5の半田とした。
【0028】
次に、BaTiO3を主成分とする誘電体材料からなり、両端面を貫通する3mmφの貫通孔を備える円筒形のセラミック焼結体を準備する。次に、貫通孔の内壁にNiからなる内面電極を無電解めっきによって形成した後、Cuを心材としてSnを溶融メッキしたリード線をセラミック焼結体の貫通孔内に挿入し、これを保持した状態で、図3(a)に示すように実施例1〜26ならびに比較例1〜5の半田を325℃でフロー半田付けして、実施例1〜26ならびに比較例1〜5の評価サンプルをそれぞれ100個ずつ得た。
【0029】
そこで、実施例1〜26ならびに比較例1〜5の評価サンプルについて、内面電極とセラミック焼結体の界面近傍におけるクラックの発生状況と接合強度を測定し、これらを表1にまとめた。
【0030】
なお、クラック発生率は、評価サンプルの断面をエメリ−紙で面出し、バフで鏡面研磨した後、金属顕微鏡を用いて観察し判定し、クラックが認められた評価サンプルの割合を求めた。
【0031】
また、接合強度は、図3(b)のようにセラミック焼結体をフロー半田付けした側から3mmの位置L1−L2で評価サンプルを切断し、図3(c)のようにセラミック焼結体を穴空きホールド治具に引っ掛け、リード線をくさび型チャッキング治具で保持し、半田フィレットが残存する側方向へリード線を引張ることで引張り強度を求めた。
なお引張り速度は25mm/分とした。
【0032】
【表1】

【0033】
表1から明らかであるように、実施例2,3,6,7,10,11,14,15,17,18,24,25の評価サンプルは、クラックの発生率が何れも0%であり、接合強度も111〜145Nと高く優れ、本発明の最も好ましい範囲内であった。
【0034】
また、実施例1,5,9,13,16,23の評価サンプルは、それぞれAg,Au,Cu,In,Sb,Sn,Znの添加量が少ないため、前述の実施例2,3,6,7,10,11,14,15,17,18,24,25の評価サンプルと比べて僅かに接合強度が劣ったが実用可能な範囲内であり、かつクラックの発生が無いことから、本発明の範囲内となった。
【0035】
これに対して、実施例4,8,12,19,26はの評価サンプルは、それぞれAg,Au,Cu,In,Sb,Sn,Znの添加量が過剰であるため液相線温度が高くなり、またガラス化せず評価不可能であり、本発明の範囲外となった。
【0036】
また、比較例1〜5の評価サンプルは、全てについてクラックが生じ、また接合強度も41〜98Nであり、前述した本発明の範囲内の実施例と比べて低く劣った。
【0037】
また、実施例4,8,12,19,26については、半田の液相線温度が高いために半田が十分に溶融せず、セラミック焼結体の貫通孔内に半田が浸透せず、クラック発生率ならびに接合強度を測定することができず、本発明の範囲外となった。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る一つの実施の形態の半田付け構造の断面図である。
【図2】本発明に係る他の実施の形態の半田付け構造である貫通型セラミックコンデンサに関するもので、(a)は縦断面図であり、(b)は横断面図である。
【図3】本発明の実施例における接合強度測定用の評価サンプルの作製方法を示す説明図であり、(a)はフロー半田の縦断面図であり、(b)は評価サンプルのカット方向を示す縦断面図であり、(c)は評価方法を示す縦断面図である。
【図4】従来の半田付け構造の斜視図である。
【符号の説明】
【0039】
1 半田付け構造
2,12 構造体
2a 孔
3,13 内面電極
4,14 リード線
5,15 半田
11 貫通型セラミックコンデンサ
12 セラミック焼結体
12a 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BiとAgとの合金である半田であって、Agが0.01〜5質量%、残部がBiであることを特徴とする半田。
【請求項2】
BiとAuとの合金である半田であって、Auが0.01〜25質量%、残部がBiであることを特徴とする半田。
【請求項3】
BiとCuとの合金である半田であって、Cuが0.01〜0.5質量%、残部がBiであることを特徴とする半田。
【請求項4】
BiとInとの合金である半田であって、Inが0.01〜57質量%、残部がBiであることを特徴とする半田。
【請求項5】
BiとSbとの合金である半田であって、Sbが0.01〜5質量%、残部がBiであることを特徴とする半田。
【請求項6】
BiとZnとの合金である半田であって、Znが0.01〜5質量%、残部がBiであることを特徴とする半田。
【請求項7】
孔を備える構造体と、前記孔の内壁に形成された内面電極と、前記孔に挿入されたリード線と、前記孔に充填されて前記内面電極と前記リード線とを固着させた鉛を含有しない半田とからなり、前記半田は、請求項1ないし請求項6のいずれかの半田からなることを特徴とする、半田付け構造。
【請求項8】
前記孔は前記構造体の一方面から他方面に貫通する貫通孔であり、前記リード線は前記貫通孔内に挿入され、前記リード線の両端は前記貫通孔の両端より外部に導出されていることを特徴とする、請求項7に記載の半田付け構造。
【請求項9】
請求項7または請求項8のいずれかに記載の半田付け構造を備え、前記構造体はコンデンサとして機能する誘電体組成物からなるセラミック焼結体であることを特徴とする、貫通型セラミックコンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−181880(P2007−181880A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−341097(P2006−341097)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【分割の表示】特願2000−15809(P2000−15809)の分割
【原出願日】平成12年1月25日(2000.1.25)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】