説明

半田付け性、耐食性および耐ホイスカー性に優れるSn系めっき鋼板並びにその製造方法

【課題】 Pb(鉛)およびCr(クロム)を使用することなく、Pbフリー半田付けにおける濡れ性、いわゆる半田付け性に優れ、さらに耐食性および厳しい加工部でも耐ホイスカー性に優れたSn系めっき鋼板並びにその製造方法を提供する。
【解決手段】 鋼板表面上に、Niの付着量を0.02〜4.4g/m2としてNi系めっき層を形成後Snの付着量を5.0〜20g/m2としてSn系めっき層を形成した後溶錫処理を施して得たNiおよびSnを含有するめっき層と、該めっき層上に、Pの付着量が0.5〜10mg/m2、Siの付着量が3〜60mg/m2であるPとSiを含有する化成皮膜を有するSn系めっき鋼板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、家電製品のシャーシーや部品ケース等に用いられる半田付け性、耐ホイスカー性を要求される鋼板に関するものであって、特に、Pb(鉛)を含まないPbフリー半田に対する濡れ性である半田付け性、耐食性および耐ホイスカー性に優れるSn(錫)系めっき鋼板並びにその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
家電製品や電機製品に用いられる鋼板は、その設置先において、半田により各種部品と接合される場合がある。このようなコネクターや部品ケース等に用いられる鋼板には、半田接合を良好に行うために、半田との濡れ性を向上させる表面処理が施されているのが通例である。この表面処理に利用される、例えばSn−Pb合金めっき皮膜は、鋼板に良好な半田濡れ性を付与し、またホイスカーを発生しないため、この皮膜をめっきした鋼板は、従来、家電製品や電機製品等に広く用いられてきた。
【0003】
ここで、ホイスカーとは、SnやZnなどの金属より自然に発生、成長するひげ状結晶のことである。このホイスカーが成長して他の部品に接触するか、あるいは振動や空気流などにより折れて電気回路上に落下すると、回路の短絡の原因になる。従って、家電製品や電機製品等には、ホイスカーを発生しない表面処理を施した鋼板を用いる必要がある。
【0004】
ところで、近年、廃棄された工業製品の部品に含まれるPbが、雨などに曝される事により溶出し、土壌汚染の原因となることが指摘されている。また、Pbで汚染された地下水を飲用することによりPbが人体に蓄積され、疼痛、知能障害、精神不安定などの中毒症状を引き起こす。このため、世界的にPbの使用を規制しようとする機運が高まってきており、Pbを含有する製品の代替品開発が産業上非常に重要となってきている。
【0005】
これまで、半田にはSn−Pb合金が用いられてきたが、上記の理由から、Pbを含まない半田、つまりPbフリー半田として、Sn−Ag−Cu系等の合金が開発され、用いられるようになってきている。前述のように、半田との間で良好な濡れ性が必要とされる鋼板には、Sn−Pb合金皮膜を形成した鋼板が用いられてきたが、Pbを含有する半田とともに、このPbを含有する表面処理鋼板もその代替品が求められている。すなわち、皮膜中にPbを含まず、Pbフリー半田とも良好な濡れ性を備え、かつホイスカーの発生の無い、耐ホイスカー性に優れる表面処理鋼板が必要とされている。
【0006】
さらに、従来のSn−Pb合金めっき材では、表面にクロメート処理がなされているが、家電業界では有害な6価Crを使用しない方向にあるため、新たな半田付け用の鋼板にはクロメート処理以外の化成処理を使用することが望まれている。
【0007】
ここで、Pbを含まずかつ半田濡れ性のある表面処理を施した鋼板としては、特許文献1および2に、鋼板側から順に、Niめっき、1.0g/m2以上のSnめっき、そしてZnめっきを施した後、加熱処理によって該めっき層を合金化させ、Sn−Zn、Zn−Ni、Sn−NiおよびFe−Ni合金を主体とする皮膜を形成させ、さらにクロメート皮膜を付着させたことを特徴とする、耐ホイスカー性並びに半田性に優れた表面処理鋼板が開示されている。しかし、この鋼板は、耐ホイスカー性は良いものの、Pbフリー半田との濡れ性に劣り、またクロメート皮膜を有するために前記の要求を満足するものではなかった。
【0008】
また、特許文献3には、SnめっきまたはSn合金めっきの表面にCrを含有させず、Siを含有する後処理皮膜を有する表面処理鋼板が開示されているが、鋼板とSn系めっき層との密着性が悪く、またPbフリー半田付け性にも問題があった。
【0009】
一方、鋼板表面上にSnめっきを施した、いわゆるSnめっき鋼板についても、半田付け用鋼板として用いられる際にホイスカーの発生が問題となることがあり、耐ホイスカー性の改善が求められていた。
【0010】
Sn−Pb合金半田はPbを37mass%含有するもので融点が184℃と低いが、これに比べてPbフリー半田として使用されているSn−Ag−Cu合金などは融点が高いため、半田付け作業性が悪くなっている。このため、半田付け用の鋼板には、従来以上に優れた半田付け性が要求されている。
【0011】
そこで、発明者らは、Pbフリー半田の主成分であるSnを主体とするSnめっきを基に、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、溶錫処理によって形成されたFe−Sn合金層を介して所定量のSnめっき層を有し、その上層に、PとSiを含有した化成皮膜を形成した場合には、半田付け性が向上することを見出し、特許文献4等で開示した。
【0012】
より具体的には、Snめっき層の上層に、好ましくはPと、シランカップリング剤およびアルコキシシランの1種または2種以上とを含有する化成処理液により、適正量のPとSiを含有する化成皮膜を形成することによって、Pbフリー半田との優れた濡れ性が得られ、特にこの化成皮膜が有効な保護皮膜として経時劣化を抑制するので、加速劣化試験後においてもPbフリー半田との優れた濡れ性が確保され、加えて、この化成皮膜によって十分な耐食性および耐ホイスカー性が得られることを示した。
【特許文献1】特公平6-99837号公報
【特許文献2】特公平6-33466号公報
【特許文献3】特開2001-32085号公報
【特許文献4】特開2004-60053号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述のように、半田付け用鋼板には、高い耐ホイスカー性が要求されるが、これはホイスカーが発生すると、ホイスカーが電子回路を短絡させて誤作動させることがあり、電気・電子製品が機能不全に至る危険があるためである。半田付け用鋼板は、プレス加工等で部品に加工されるが、加工が厳しい場合には表面の化成皮膜に損傷を受け、損傷部分での耐ホイスカー性が劣化することがある。
【0014】
この発明の目的は、環境上の問題から望ましくないとされるPb(鉛)およびCr(クロム)を使用することなく、Pbフリー半田付けにおける濡れ性、いわゆる半田付け性に優れ、さらに耐食性および厳しい加工部でも耐ホイスカー性に優れたSn系めっき鋼板並びにその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明者らは、前述の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、Ni系めっき層を形成後Sn系めっき層を形成した後溶錫処理を施してNiおよびSnを含有するめっき層を形成し、その上層にP(リン)とSi(珪素)を含有した化成皮膜を形成した場合には、Pbフリー半田に対する半田付け性および厳しいプレス加工部での耐ホイスカー性の双方を高い次元で満足させることができることを新規に見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0016】
この発明の要旨は、以下の通りである。
(1)鋼板表面上に、Niの付着量を0.02〜4.4g/m2としてNi系めっき層を形成後Snの付着量を5.0〜20g/m2としてSn系めっき層を形成した後溶錫処理を施して得たNiおよびSnを含有するめっき層と、該めっき層上に、Pの付着量が0.5〜10mg/m2、Siの付着量が3〜60mg/m2であるPとSiを含有する化成皮膜を有することを特徴とする半田付け性、耐食性および耐ホイスカー性に優れるSn系めっき鋼板。
【0017】
(2)前記化成皮膜は、Pと、シランカップリング剤およびアルコキシシランの1種または2種以上とを含有する化成処理液を用いて形成することを特徴とする(1)に記載の半田付け性、耐食性および耐ホイスカー性に優れるSn系めっき鋼板。
【0018】
(3)鋼板表面上にNi系めっきを施し、次いでSn系めっきを施した後に該鋼板をSnの融点以上に加熱する溶錫処理を施し、次いで化成処理液に該鋼板を接触させる化成処理を施すことを特徴とする(1)または(2)に記載の半田付け性、耐食性および耐ホイスカー性に優れるSn系めっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、鋼板表面上にNi系めっき層を形成後Sn系めっき層を形成した後溶錫処理を施してNiおよびSnを含有するめっき層を形成し、その上層にPとSiを含有した化成皮膜を有することにより、半田濡れ性、耐食性および特に厳しい加工部での耐ホイスカー性に優れたSn系めっき鋼板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、この発明を詳細に説明する。
【0021】
この発明のSn系めっき鋼板は、鋼板表面上にNi系めっき層を形成後Sn系めっき層を形成したもの、すなわちNi系めっき層を介してSn系めっき層を形成したものである。このNi系めっき層の存在により、耐ホイスカー性および耐食性が大きく向上する。すなわち、Ni系めっき層の上にSn系めっき層を形成すると、後述する溶錫処理の際にNiがSn系めっき層中に拡散する。Sn系めっきのホイスカー成長にはSn原子の移動が必要であるが、NiがSnめっき層中に存在するとSn原子の移動が妨げられ、ホイスカー成長が抑制されると考えられる。Ni系めっき層は、公知の電気めっき法または無電解めっき法により形成することができ、Niの付着量は0.02〜4.4g/m2とする。前記Ni系めっき層中のNiの付着量が0.02g/m2未満であると耐ホイスカー性改善の効果が不十分であり、4.4g/m2を超えると半田付け性に悪影響を及ぼす。Niの付着量が多くなると溶錫処理時のSn系めっき層中へのNiの拡散量も多くなる。このNiによりホイスカー成長が抑制されるが、同時にSn系めっき層の液相線温度も高くなる。半田付け時にはSn系めっき層が溶融する必要があるので、液相線温度が高いと半田付け性の点で不利である。
【0022】
ここで、Ni系めっきとは、Niを主体とするめっきであり、耐ホイスカー性確保のためNiを80mass%以上含有することが好ましい。ここでNi以外のめっき組成は特に限定する必要はなく、Ni系めっきとしては、Ni単独をめっきするNiめっきやNi-Feめっきなどがある。
【0023】
また、Sn系めっき層も公知の電気めっき法により形成することができ、Snの付着量を5.0〜20g/m2の範囲とする。前記Snの付着量が5.0g/m2未満では、十分なPbフリー半田との濡れ性が得られないばかりでなく、耐食性も不十分である。また、前記Snの付着量が20g/m2を超えても、性能の向上は期待できず、めっき層の形成に長時間を要するとともに、コスト高になる。
【0024】
ここで、Sn系めっきとは、Snを主体とするめっきであり、半田付け性確保のためSnを90mass%以上含有することが好ましい。Sn系めっきとしては、まずSn単独をめっきするSnめっきがある。ここで、Sn以外のめっき組成は特に限定する必要はないが、耐ホイスカー性向上のため、Bi、CuやAgなどを含有させることが好ましい。
【0025】
Sn系めっきを行った後、鋼板をSnの融点(231.9℃)以上に加熱し、一旦めっきを溶融させる溶錫処理(リフロー処理ともいう)を行う。電気めっきされたままのSn系めっき層には、電着応力が存在し、この電着応力を開放しようとするエネルギーによってめっき表面からホイスカーと称される針状結晶が成長する。ホイスカーが成長すると、電気回路での短絡事故を引き起こしかねないため、ホイスカーの成長が無いことが要求される。電気めっきされたSn系めっき層を一旦溶融すると、前述のようにNiがSn系めっき層中に拡散するとともに電着応力が開放されてホイスカーの発生が抑えられるため、ホイスカー防止の観点から本発明では溶錫処理が必須である。また、溶錫処理を行うと、NiがSn系めっき層中に拡散するのでSn系めっき層の密着性が向上する。
なお、Ni、Sn付着量の測定は、蛍光X線による表面分析により行なうことができる。
【0026】
そして、この発明では、さらに、Sn系めっき層の上層に、好ましくはPと、シランカップリング剤およびアルコキシシランの1種または2種以上とを含有する化成処理液を用いて、PとSiを含有する化成皮膜を形成し、前記化成皮膜中のPの付着量を0.5〜10mg/m2、Siの付着量を3〜60mg/m2の範囲とする。
【0027】
化成皮膜中のPは、リン酸塩としてSn表面を覆い、SnとSi化合物間のバインダーとして働き、化成皮膜を形成する。化成皮膜中のP付着量は、0.5〜10 mg/m2の範囲とすることが必要である。0.5mg/m2未満では、化成皮膜の被覆が不十分であり、時間の経過とともにSn表面で酸化Snが成長して、半田濡れ性が劣るようになるからである。一方、10mg/m2を超えると、半田とSn系めっき層の接触が阻害されて半田濡れ性が劣るからである。なお、P付着量の測定は、蛍光X線による表面分析により行うことができる。
【0028】
化成皮膜中に含有するSiの付着量は、3mg/m2未満では化成皮膜の被覆が不十分で、時間の経過とともにSn表面で酸化Snが成長して半田濡れ性が劣るようになり、また、耐食性も劣化するため、3mg/m2以上とする必要がある。また、化成皮膜中に含有するSiの付着量が60mg/m2超えであっても、十分な半田濡れ性と耐食性は得られるが、経済性を鑑み、化成皮膜中に含有するSiの付着量は60mg/m2以下とし、より好ましくは30mg/m2以下とする。なお、Si付着量の測定は、蛍光X線による表面分析により行うことができる。
【0029】
本発明において、化成皮膜中に含有するSiは、好ましくは、化成処理液中に含有させたシランカップリング剤、アルコキシシランによって含有させる。シランカップリング剤の一般化学式は、X−Si−OR2or3(R:アルコキシ基)であり、アルコキシシランの一般化学式はX−Si−OR4−a(a=0〜3)である。
【0030】
シランカップリング剤およびアルコキシシランは、アルコキシシリル基(Si−OR)が水により加水分解されてシラノール基を生成し、金属表面のOH基との脱水縮合反応により密着し強固な皮膜を形成する。
【0031】
なお、シランカップリング剤としては、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シランなどが使用できる。アルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシランなどが使用できる。
【0032】
また、PとSiを含有する化成皮膜の形成方法としては、例えば、リン酸系化成処理によって行うことが好ましく、この場合、化成処理液中のPの供給源としては、リン酸イオン換算で1〜80g/lのリン酸、リン酸ナトリウム、リン酸アルミニウム、リン酸カリウム等の金属塩、および/または、1水素リン酸塩などを使用することがより好適である。また、Siの供給源としては、該リン酸系化成処理液に前述したシランカップリング剤やアルコキシシランの1種または2種以上を添加した化成処理液を用いることが好ましいが、かかる場合、化成処理液中のpHを1.5〜5.5の範囲に調整すれば、シランカップリング剤やアルコキシシランを化成処理液中に均一に溶解することができる。
【0033】
なお、化成処理液には、Sn、Fe、Niの金属塩、例えば、SnCl2、FeCl2、NiCl2、SnSO4、FeSO4、NiSO4などの金属塩を適宜添加することができる。リン酸系化成処理は、リン酸イオンと金属イオンが反応して不溶性のリン酸塩皮膜を形成することによるものであるが、これらSn、Fe、Niの金属塩を処理液に添加することにより、リン酸塩皮膜の形成がより速やかに行われる。この場合には、促進剤として塩素酸ナトリウム、亜硝酸塩などの酸化剤、フッ素イオンなどのエッチング剤を適宜添加してもよい。また、化成処理液の均一処理性を向上させる目的で、ラウリル硫酸ナトリウムやアセチレングリコールなどの界面活性剤を適宜添加しても良い。
【0034】
リン酸系化成処理を用いた化成皮膜の形成は、上記化成処理液の鋼板への塗布または浸漬処理などにより鋼板と上記化成処理液を接触させる化成処理を施した後、乾燥させることによって行えば良い。なお、反応性の観点からは、鋼板を上記化成処理液に浸漬して化成処理を施すことが好ましい。
【0035】
以上のことから、この発明では、鋼板表面にNi系めっき層を形成後Sn系めっき層を形成した後溶錫処理を施してNiおよびSnを含有するめっき層を形成しその上に、PおよびSiを上記適正範囲で含有する化成皮膜を形成することによって、Pbフリー半田との濡れ性、耐食性および耐ホイスカー性の全ての性能を満足させ、特に厳しい加工部での耐ホイスカー性をも満足させることに成功したのである。
【0036】
次にこの発明に従う具体的な製造方法の一例を説明する。
【0037】
冷延鋼板に電気Ni系めっきを施した後、電気Sn系めっきを施す。Sn系めっき終了後、鋼板をSnの融点(231.9℃)以上に加熱して溶錫処理を行い、Sn系めっき層を一旦溶融させ、次いで冷却してSn系めっき層を凝固させた後、引き続き浸漬処理によって化成処理を行う。なお、溶錫処理後に表面に生成したSn酸化物を除去するため、炭酸ナトリウム水溶液中で陰極電解処理を行ってもよい。なお、溶錫処理はSn系めっき層が一旦溶融しさえすればよく、ぶりき(電気Snめっき鋼板)の製造の際に行われるようなSnの融点以上に昇温する常法にて行えばよい。なお表面に生成するSn酸化物の除去性の観点から溶錫処理温度としてはSnの融点〜270℃、処理時間としては、0.05〜5秒程度とすることが好ましい。
【0038】
化成処理液(リン酸系化成処理液)としては、リン酸イオン換算で1〜80g/lのリン酸、Snイオン換算で0.001〜10g/lの塩化第一錫、0.1〜1.0g/lの塩素酸ナトリウムを含有し、さらにシランカップリング剤およびアルコキシシランの1種または2種以上を合計で0.5〜20mass%添加した水溶液を用いる。化成処理の条件は、温度を40〜80℃、処理(浸漬)時間を1〜5秒間とすることが好ましい。化成処理液中に浸漬した後のめっき鋼板は、80〜150℃で乾燥させ、その後、水洗し、温風で乾燥する。
【0039】
なお、上述したところは、この発明の実施形態の一例を示したに過ぎず、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【実施例1】
【0040】
次に、この発明の実施例について詳細に説明する。
[実施例1〜10]
板厚0.3〜1.8mmの低炭素鋼または極低炭素鋼からなる冷延鋼板の両面に、電気めっき法によりNi系めっきを施した。引き続き電気めっき法によりSn系めっきを施した後、溶錫処理を施した。続いて、表2に示す3種類の化成処理液A〜Cから選んだ表1に示す化成処理液を用いて種々のPおよびSi付着量の化成皮膜を形成した。なお、表1の示したNi、Sn、化成皮膜の付着量、含有量は片面あたりの値である。ここで、Niめっき、Ni−Feめっき、Snめっき、Sn−Biめっき、Sn−Cuめっき、溶錫処理の条件を以下に示す。
【0041】
(Niめっき)
硫酸ニッケル:240g/L
塩化ニッケル:45g/L
ホウ酸:30g/L
浴温:50℃
電流密度:8A/dm2
【0042】
(Ni−Feめっき)
硫酸ニッケル:105g/L
塩化ニッケル:60g/L
硫酸第一鉄:10g/L
ホウ酸:45g/L
浴温:60℃
電流密度:10A/dm2
【0043】
(Snめっき)
塩化第一スズ:75g/L
フッ化ナトリウム:25g/L
フッ化水素カリウム:50g/L
塩化ナトリウム:45g/L
pH:2.7
浴温:65℃
電流密度:48A/dm2
【0044】
(Sn−Biめっき)
めっき液:石原薬品株式会社製HTB−005
浴温:30℃
電流密度:20A/dm2
【0045】
(Sn−Cuめっき)
めっき液:石原薬品株式会社製HTC−601
浴温:45℃
電流密度:20A/dm2
【0046】
(溶錫処理)
温度:240℃
時間:0.5sec
【0047】
[比較例1〜6]
なお、比較のため、この発明の適正範囲外であるSn系めっき鋼板についても製造した。
【0048】
Ni系めっき中のNiの付着量、Sn系めっき中のSnの付着量および化成皮膜に含有されるP、Siの付着量は蛍光X線分析により測定した。
【0049】
(性能評価)
実施例および比較例の各Sn系めっき鋼板について、Pbフリー半田濡れ性、耐食性および耐ホイスカー性の性能評価を行った。
【0050】
(1)半田濡れ性(半田付け性)の評価
Pbフリー半田として、千住金属工業株式会社製のSn−3.5%Ag−0.75%Cu半田を用いた。半田温度を245℃とし、株式会社レスカ製「SAT−5100」装置を用いてウェッティングバランス法にて、半田が濡れるまでのゼロクロスタイムを測定し、半田濡れ性の評価とした。なお、サンプルは板厚0.6mmのものを用い、温度105℃、湿度100%RHで圧力1.22×105Paの試験槽に8時間曝して加速劣化させた後評価した。サンプルの半田槽への浸漬は、浸漬速度3mm/sec、浸漬深さ3mmとした。ゼロクロスタイムは3秒以下が合格レベルである。表1にその評価結果を示す。
【0051】
(2)耐食性の評価
塩水噴霧(JIS Z 2371準拠)8時間と噴霧休止16時間とを1サイクルとするサイクル腐食試験を3サイクル行い、発生した赤錆の面積率(%)で耐食性を評価した。なお、赤錆面積率は3%以下が合格レベルである。表1にその評価結果を示す。
【0052】
(3)厳しい加工部での耐ホイスカー性評価
図1に模式的に示すように、供試材1を、ポンチ径:50mmφ、クリアランス:板厚+0.4mm、ポンチ肩曲率:3mmR、ダイス肩曲率:3mmRのポンチ2とダイス3でプレス速度(絞り速度):50mm/minで深さ15mmのプレス絞り加工を行い、−25℃と120℃の繰り返し熱サイクルを500回行った後、図1に示した供試材1の加工部4の化成皮膜が損傷を受けた表面を走査型電子顕微鏡で観察し、ホイスカーの発生状況を観察した。ホイスカーの発生有無および長さで耐ホイスカー性を評価した。表1にその評価結果を示す。なお、ホイスカーの発生が無い場合を、耐ホイスカー性に優れるものとして評価した。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
表1の評価結果から明らかなように、実施例1〜10はいずれも、半田付け性、耐食性および耐ホイスカー性の全性能について優れていた。一方、比較例1〜6はいずれも、半田付け性、耐食性および耐ホイスカー性のいずれかの性能が悪く、実用レベルにないことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】厳しい加工部での耐ホイスカー性評価試験を説明するための図である。
【符号の説明】
【0057】
1 供試材
2 ポンチ
3 ダイス
4 供試材の加工部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板表面上に、Niの付着量を0.02〜4.4g/m2としてNi系めっき層を形成後Snの付着量を5.0〜20g/m2としてSn系めっき層を形成した後溶錫処理を施して得たNiおよびSnを含有するめっき層と、該めっき層上に、Pの付着量が0.5〜10mg/m2、Siの付着量が3〜60mg/m2であるPとSiを含有する化成皮膜を有することを特徴とする半田付け性、耐食性および耐ホイスカー性に優れるSn系めっき鋼板。
【請求項2】
前記化成皮膜は、Pと、シランカップリング剤およびアルコキシシランの1種または2種以上とを含有する化成処理液を用いて形成することを特徴とする請求項1記載の半田付け性、耐食性および耐ホイスカー性に優れるSn系めっき鋼板。
【請求項3】
鋼板表面上にNi系めっきを施し、次いでSn系めっきを施した後に該鋼板をSnの融点以上に加熱する溶錫処理を施し、次いで化成処理液に該鋼板を接触させる化成処理を施すことを特徴とする請求項1または2に記載の半田付け性、耐食性および耐ホイスカー性に優れるSn系めっき鋼板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−265637(P2006−265637A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−85823(P2005−85823)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】