説明

半軟化温度の低い銅荒引線の製造方法、銅線の製造方法及び銅線

【課題】Sとの親和力が大きな金属を添加する必要がなく、また、原料銅に高価な無酸素銅を使用する必要がなく、銅材料の軟化温度を十分に低下させることができる、工業的に極めて有利な半軟化温度の低い銅荒引線の製造方法、銅線の製造方法及び銅線を提供すること。
【解決手段】原料銅2を溶解して得た銅の溶湯を連続鋳造圧延して銅荒引線15を製造する方法において、溶湯中に含有する酸素及び硫黄について酸素濃度を20ppm以下、硫黄濃度を6ppm以下に夫々調整し、前記により調整された銅の溶湯を1120℃以下の鋳造温度で連続鋳造し、引き続き前記により得られた鋳造バー12を850℃〜550℃の温度範囲(圧延開始温度850℃、圧延終了温度550℃)で熱間圧延する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は連続鋳造圧延法による半軟化温度の低い銅荒引線の製造方法、前記により製造
された銅荒引線を用いる銅線の製造方法及び前記方法により製造された半軟化温度の低い
銅線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電線用銅線を含む銅線の多くは、連続鋳造圧延法を利用した方法により製造される。こ
の製造方法は、連続鋳造圧延法により、原料銅を溶解して得た銅の溶湯から比較的大サイ
ズの銅荒引線を製造し、この銅荒引線を母線として、これに別途伸線等の加工を施し、適
宜焼きなまし処理することにより、所定サイズの銅線を製造するというものである。
【0003】
連続鋳造圧延法では、電気銅、スクラップ銅等の原料銅をシャフト炉等の溶解炉で溶解
して得た銅の溶湯を移送樋、保持炉等を経由してベルトキャスター方式の連続鋳造機に供
給して連続鋳造し、引き続き前記により得られた鋳造バーを熱間圧延し冷却することによ
り所定サイズの銅荒引線を製造する。この連続鋳造圧延法は、原料銅の溶解、鋳造、圧延
工程の各ラインが連続しており、銅荒引線の製造方法としては、非常に効率的で生産性に
優れた方法である。
【0004】
連続鋳造圧延法により得られる銅荒引線の種類(材質)としては、無酸素銅線やタフピ
ッチ銅線がある。しかし、無酸素銅線は、連続鋳造圧延法により工業的に製造することが
一般に難しく、原料銅の選定の問題(酸素含有量の多いスクラップ銅を使用できない)や
、全工程を厳密に非酸化雰囲気に保持しなければならない(そうしなければ溶湯中に酸素
が溶け込んで酸素濃度が高くなり、無酸素銅が得られない)などの技術的課題があり、同
じ連続鋳造圧延法によりタフピッチ銅線を製造する場合と比較すると、コスト的に明らか
に不利である。
【0005】
一方、連続鋳造圧延法により製造された銅荒引線を母線として、これに伸線等の加工を
施し、焼きなまし処理することにより銅線を製造する方法においては、伸線工程と焼きな
まし工程を連続して行うことにより銅線の生産性を向上させることができるが、これには
伸線用の母線(銅荒引線)に軟化温度の低いものを使用することが非常に重要である。
【0006】
すなわち、伸線工程と焼きなまし工程を連続して行う場合には、伸線用の母線の焼きな
まし温度が高いと、焼きなまし処理に時間が掛かる上、焼きなまし工程の生産速度に伸線
工程の生産速度を合わせる必要があり、この結果、銅線の生産性が阻害されるという問題
がある。また、伸線用の母線の焼きなまし温度が高いと、焼きなまし処理に要する熱エネ
ルギーが増大し、製品コストの上昇を招いてしまうという問題もある。このことから、生
産性に優れた方法で銅線を安価に製造するには、伸線用の母線として、焼きなまし温度の
低い、つまり軟化温度の低い銅荒引線を使用することが非常に重要である。
【0007】
銅荒引線を始めとする銅材料の軟化温度を低下させるには、銅材料中に含まれる不純物
元素を除去し、銅材料の銅の純度を高める必要があるとされる。銅材料中に含まれる不純
物元素を除去する方法としては、例えば、原料銅の選定(高純度銅を使用)、原料銅を溶
解して得た銅の溶湯の酸化精錬、還元精錬等がある。
【0008】
しかしながら、これらの方法により不純物元素を除去する方法は、いずれも非常にコス
トが嵩むという問題がある。酸化精錬、還元精錬等の方法は、原料銅にタフピッチ銅を使
用した場合に検討される選択肢の一つであるが、鋳造技術上経済的に極めて不利な方法で
あり、工業的に適した方法であるとはいえない。なお、原料銅にタフピッチ銅からなる良
品質のスクラップ銅を使用(再利用)できる、連続鋳造圧延法による銅荒引線の製造方法
の工業的、経済的なメリットは、極めて大きい。
【0009】
銅材料の軟化温度を低下させる他の方法としては、銅材料中に含まれる不純物元素のう
ち、ある種の元素の濃度をより低くすれば良いことが知られている。ここでいうある種の
元素の一つとして、銅に固溶した状態で存在する硫黄(S)がある。このことから、銅に
固溶している硫黄の濃度を低減させるべく、銅の溶湯に真空脱ガス処理を施す等の方法が
試みられている。しかしながら、従来のこの方法では、銅に固溶している硫黄を十分に低
減(Sを析出)させることができないため、銅材料の軟化温度を十分に低下させることが
できなかった。
【0010】
これに関連し、特許文献1、2には、軟化温度の低い銅材料(銅荒引線)を製造する方
法として、原料銅にタフピッチ銅を使用した銅の溶湯に、Nbや、Ti、Zr、V、Ta
、Fe、Ca、Mg又はNiから選択される金属又は合金からなる、Sとの親和力が大き
な金属(硫黄親和金属)を所定の割合で添加し、これらの金属をタフピッチ銅の溶湯中に
含まれているSと反応させることでSを硫化物として析出させることにより、銅に固溶し
ているSの濃度を低減し、これにより銅材料の軟化温度を低下する方法が記載されている

【0011】
また、特許文献3には、半軟化温度が低い無酸素銅線を製造する方法として、原料銅に
特定の無酸素銅を使用した無酸素銅溶湯を断面積の大きな鋳塊に連続鋳造し、この鋳塊を
引き続き熱間圧延して荒引線とし、荒引線を減面加工することにより、再結晶の核となる
高歪み部位を多数形成した、焼鈍軟化開始温度及び半軟化温度が低い無酸素銅線を製造す
る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−272422号公報
【特許文献2】特開2006−274383号公報
【特許文献3】特開2007−46102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、前記したように、銅材料の軟化温度を低下させる方法として、銅に固溶
している硫黄の濃度を低減させるべく、銅の溶湯に真空脱ガス処理を施す等の方法では、
銅に固溶している硫黄を十分に低減(Sを析出)させることができないため、銅材料の軟
化温度を十分に低下させることができなかった。
【0014】
これに対し、特許文献1、特許文献2に記載の方法は、タフピッチ銅の溶湯にNbなど
Sとの親和力が大きな金属(硫黄親和金属)を添加し、このような金属をタフピッチ銅の
溶湯中に含まれているSと反応させることでSを硫化物として析出させることにより、銅
材料中に固溶するSの濃度を低減し、これにより銅材料の軟化温度を低下する方法であっ
て、銅の溶湯にSとの親和力が大きな金属を添加する必要がある。
【0015】
また、特許文献3に記載の方法は、無酸素銅の溶湯を断面積の大きな鋳塊に連続鋳造す
る方法であって、原料銅に高価な無酸素銅を使用する必要がある。
【0016】
したがって、本発明の目的は、Sとの親和力が大きな金属を添加する必要がなく、また
、原料銅に高価な無酸素銅を使用する必要がなく、低コストで銅材料の軟化温度を十分に
低下させることができる、工業的に極めて有利な半軟化温度の低い銅荒引線の製造方法、
銅線の製造方法及び銅線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、原料銅を溶解して得た銅の溶湯を連続鋳
造圧延して銅荒引線を製造する方法において、前記溶湯中に含有する酸素及び硫黄につい
て酸素濃度を20ppm以下、硫黄濃度を6ppm以下に夫々調整し、前記により調整さ
れた銅の溶湯を1120℃以下の鋳造温度で連続鋳造し、引き続き前記により得られた鋳
造バーを850℃〜550℃の温度範囲(圧延開始温度850℃、圧延終了温度550℃
)で熱間圧延することを特徴とする半軟化温度の低い銅荒引線の製造方法を提供する。
【0018】
上記において、半軟化温度とは、銅線に対する加熱温度(加熱時間1時間)と引張強さ
との関係を示す加熱軟化曲線における、加熱前の銅線の引張強さと加熱1時間後の銅線の
引張強さの平均値に相当する加熱温度のことである。つまり、半軟化温度とは、加熱によ
り銅線の引張強さが約半分に低下するときの相当加熱温度のことである。
【0019】
また、上記において、原料銅には低酸素銅、タフピッチ銅を用いることができる。低酸
素銅、タフピッチ銅は、銅線用の銅として工業的に幅広く用いられており、無酸素銅と比
較して安価であるというだけでなく、銅中に一定割合で酸素が共存している(無酸素銅と
比較して多く存在する)ことから、この酸素が同じく銅に固溶している硫黄(S)などの
不純物と反応して酸化物を形成することにより不純物濃度を低減する働きをするため、効
果的に用いることができる。なお、低酸素銅は、基本的にタフピッチ銅と同じように電気
銅を原料銅として用いることにより酸素濃度を調整して製造(鋳造)することができるが
、電気銅に品質の良いスクラップ銅を混ぜた混合材料を原料銅として用いることにより酸
素濃度を調整して製造(鋳造)することもできる。いずれにしても、原料銅を溶解して得
た銅の溶湯中に含有する酸素濃度が20ppm以下、硫黄濃度が6ppm以下になるよう
に原料銅の選定を含めて調整を図る必要がある。
【0020】
また、上記において、銅の溶湯中に含有する酸素について酸素濃度を20ppm以下に
調整するようにしたのは、酸素濃度が20ppmを超えるようになると、鋳造バーに割れ
が生じ易くなるからである。
【0021】
また、上記において、銅の溶湯中に含有する硫黄について硫黄濃度を6ppm以下に調
整するようにしたのは、酸素濃度との関係で硫黄濃度が高い(6ppmを超える)と銅に
固溶している硫黄を十分に析出させることができなくなり、連続鋳造圧延法により製造さ
れる銅荒引線の軟化温度を十分に低下させることができなくなるためである。
【0022】
また、上記において、酸素濃度(20ppm以下)及び硫黄濃度(6ppm以下)を調
整した銅の溶湯を1120℃以下の鋳造温度で連続鋳造するとしたのは、冷却速度を速く
することにより銅の結晶を微細化することができ、これにより銅に固溶している硫黄を析
出しやすくするためと、鋳造温度を低くすることにより銅の鋳造組織にみられる欠陥であ
るブローホールを低減できるためである。
【0023】
また、上記において、連続鋳造により得られた鋳造バーを850℃〜550℃の温度範
囲(圧延開始温度850℃、圧延終了温度550℃)で熱間圧延するとしたのは、銅に固
溶している硫黄を酸化物として析出させる反応はいわゆる拡散反応であり、この拡散反応
を十分生じさせるためには圧延開始温度(850℃)を通常より高くして鋳造バーを十分
加熱する必要があり、圧延開始温度が低いと拡散反応を十分生じさせることができないか
らである。一方、圧延終了温度(550℃)を高くした場合は、銅に対する硫黄の固溶限
度が高まることから、銅に固溶する硫黄濃度が増える方向になり、製造される銅荒引線の
軟化温度を期待通り十分に低下させることができなくなるからである。
【0024】
この銅荒引線の製造方法によれば、上記構成の採用により、特に銅の溶湯中に含有する
酸素及び硫黄について酸素濃度を20ppm以下、硫黄濃度を6ppm以下に夫々調整し
、前記により調整された銅の溶湯を1120℃以下の鋳造温度で連続鋳造し、引き続き前
記により得られた鋳造バーを850℃〜550℃の温度範囲(圧延開始温度850℃、圧
延終了温度550℃)で熱間圧延することにより、Sとの親和力が大きな金属を添加する
必要がなく、また、原料銅に高価な無酸素銅を使用する必要がなく、低コストで銅材料の
軟化温度を十分に低下させることができる。
【0025】
請求項2の発明は、請求項1記載の製造方法により製造された半軟化温度の低い銅荒引
線を加工度90%以上で冷間加工すると共に同一ライン上で連続的に焼きなまし処理する
ことを特徴とする銅線の製造方法を提供する。
【0026】
上記において、加工度は、次式に示される通りである。
【0027】
加工度={1−(加工後の線材断面積/加工前の線材断面積)}×100
この銅線の製造方法によれば、請求項1記載の製造方法により製造された半軟化温度の
低い銅荒引線を加工度90%以上で冷間加工すると共に同一ライン上で連続的に焼きなま
し処理することにより、焼きなまし処理により冷間での伸線等の加工速度が阻害されるこ
となく、同一ライン上で連続して銅線を伸線等の加工及び焼きなまし処理することができ
、これにより銅線の生産性を著しく向上させることができる。また、これにより銅線を安
価に製造することができる。
【0028】
請求項3の発明は、請求項2記載の製造方法により製造された銅線であって、前記銅線
の半軟化温度が160℃以下であることを特徴とする銅線を提供する。
【0029】
この銅線によれば、安価で半軟化温度が低く、銅線の用途によっては最適の加工性を有
する工業的に有用な銅線とすることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の半軟化温度の低い銅荒引線の製造方法、銅線の製造方法及び銅線によれば、S
との親和力が大きな金属を添加する必要がなく、また、原料銅に高価な無酸素銅を使用す
る必要がなく、低コストで銅材料の軟化温度を十分に低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施の形態に係る連続鋳造圧延法による半軟化温度の低い銅荒引線の製造方法の概要を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る低酸素銅線および低酸素平角銅線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の好適な第1の実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0033】
図1において、1は、上部から電気銅、スクラップ銅等の原料銅2を投入し、これをバ
ーナー3により加熱溶解して銅の溶湯を製造するための溶解炉の一種であるシャフト炉、
4は銅の溶湯を移送するための移送樋、5は前記シャフト炉1で製造された銅の溶湯を滞
留して一定温度に保持するための保持炉、6は注湯のためのタンディシュ7を備えた鋳造
炉、8はベルト9とホイール10で構成されるベルトキャスター方式の連続鋳造機、11
は前記連続鋳造機8から連続的に導出された銅の鋳造バー12を案内するためのガイドロ
ール、13は複数組の圧延ロール14を通して銅の鋳造バー12を所定サイズの銅荒引線
15に成形するための熱間圧延機、16は図示しないコイラーによりコイル状に成形され
た銅荒引線15のコイルである。この連続鋳造圧延法による銅荒引線15の製造方法によ
れば、原料銅2の溶解、鋳造、圧延工程の各ラインが連続しており、銅荒引線15を効率
的で生産性に優れた方法により製造することができる。
【0034】
銅荒引線の製造方法の実施の形態としては、まずシャフト炉1で硫黄(S)濃度が6p
pm以下の電気銅及びタフピッチ銅製の品質の良いスクラップ銅からなる原料銅2を溶解
し、得られた銅の溶湯を保持炉5で沈静化すると共に銅の溶湯の酸素濃度が20ppm以
下(低酸素銅レベル)になるように調整する。この銅の溶湯を1120℃の鋳造温度で鋳造炉6及びタンディシュ7を経由してベルトキャスター方式の連続鋳造機8に供給し、連
続鋳造する。次いで、連続鋳造機8から導出された銅の鋳造バー12を引き続き熱間圧延
機13に導いて、850℃〜550℃の温度範囲(圧延開始温度850℃、圧延終了温度
550℃)で熱間圧延することにより、銅に固溶している硫黄(S)を析出させ、半軟化
温度が低い直径φ8mmの低酸素銅の銅荒引線15を製造した。ここに、鋳造温度は、鋳造炉6の炉内における銅の溶湯の内部(表面温度ではない)の温度を測定したものである。また、圧延開始温度は、鋳造バー12の進行方向における最初の熱間圧延機13の圧延直前の温度を、圧延終了温度は、鋳造バー12の進行方向における最後の熱間圧延機13の圧延直後の温度を測定したものである。
【0035】
この銅荒引線の製造方法によれば、従来のようにSとの親和力が大きな金属を添加する
必要がなく、また、原料銅に高価な無酸素銅を使用する必要がなく、低コストで銅材料の
軟化温度を十分に低下させることができる。
【0036】
次に、銅線の製造方法の実施の形態としては、前記により製造された直径φ8mmの銅
荒引線15を冷間伸線加工により直径φ2.6mmの銅線に冷間加工(加工度90%)し
、さらに、前記銅線を同一ライン上で連続的に加熱温度400℃、加熱時間1時間で焼き
なまし処理し、所定の低酸素銅線17を製造した(図2(a))。
【0037】
この銅線の製造方法によれば、焼きなまし処理により冷間での伸線加工速度が阻害され
ることなく、同一ライン上で連続して銅線を伸線加工及び焼きなまし処理することができ
、これにより銅線の生産性を著しく向上させることができる。また、これにより銅線を安
価に製造することができる。
【0038】
ここで、前記により製造された低酸素銅線(酸素濃度20ppm以下)の半軟化温度を
加熱軟化曲線に基づいて測定したところ、150℃(実施例1)であった。比較のため、同じように冷間伸線加工及び焼きなまし処理して製造された無酸素銅線の半軟化温度は214℃(比較例1)であった。両者の半軟化温度の比較結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
実施例1の銅線によれば、無酸素銅によるものでないので安価であり、半軟化温度が低く、銅線の用途によっては最適の加工性を有する工業的に有用な銅線とすることができる。
【0041】
本発明の他の実施の形態としては、前記した図1に基づく実施の形態においてベルトキ
ャスター方式の連続鋳造機8の代わりに双ベルト方式の連続鋳造機を用いた以外は同じ方
法により低酸素銅の銅荒引線を製造した。
【0042】
本発明の好適な第2の実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0043】
図1に示す連続鋳造圧延法により銅荒引線15を製造する点においては、上述の第1の実施の形態の場合と同様である。
【0044】
銅荒引線の製造方法の実施の形態としては、まずシャフト炉1で硫黄(S)濃度が6p
pm以下の電気銅及びタフピッチ銅製の品質の良いスクラップ銅からなる原料銅2を溶解
し、得られた銅の溶湯を保持炉5で沈静化すると共に銅の溶湯の酸素濃度が20ppm以
下(低酸素銅レベル)になるように調整する。この銅の溶湯を鋳造炉6及びタンディシュ
7を経由して1120℃の鋳造温度でベルトキャスター方式の連続鋳造機8に供給し、連
続鋳造する。次いで、連続鋳造機8から導出された銅の鋳造バー12を引き続き熱間圧延
機13に導いて、850℃〜550℃の温度範囲(圧延開始温度850℃、圧延終了温度
550℃)で熱間圧延することにより、銅に固溶している硫黄(S)を析出させ、半軟化
温度が低い直径φ12mmの低酸素銅の銅荒引線15を製造した。
【0045】
この銅荒引線の製造方法によれば、従来のようにSとの親和力が大きな金属を添加する
必要がなく、また、原料銅に高価な無酸素銅を使用する必要がなく、低コストで銅材料の
軟化温度を十分に低下させることができる。
【0046】
次に、銅線の製造方法の実施の形態としては、前記により製造された直径φ12mmの銅荒引線15を冷間伸線加工により、例えば厚さ2.4mm×幅11mmの平角銅線に冷間加工(加工度77%)し、さらに、前記平角銅線を同一ライン上で連続的に加熱温度400℃、加熱時間1時間で焼きなまし処理し、所定の低酸素平角銅線18を製造した(図2(b))。
【0047】
この平角銅線の製造方法によれば、焼きなまし処理により冷間での伸線加工速度が阻害されることなく、同一ライン上で連続して平角銅線を伸線加工及び焼きなまし処理することができ、これにより平角銅線の生産性を著しく向上させることができる。また、これにより平角銅線を安価に製造することができる。
【0048】
ここで、前記により製造された低酸素平角銅線(酸素濃度20ppm以下)の半軟化温度を加熱軟化曲線に基づいて測定したところ、159℃(実施例2)であった。比較のため、同じように冷間伸線加工及び焼きなまし処理して製造された無酸素平角銅線の半軟化温度は225℃(比較例2)であった。両者の半軟化温度の比較結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
本発明の好適な第3の実施の形態について詳述する。
【0051】
図1に示す連続鋳造圧延法により銅荒引線15を製造する点においては、上述の第1及び第2の実施の形態の場合と同様である。
【0052】
銅荒引線の製造方法の実施の形態としては、まずシャフト炉1で硫黄(S)濃度が6p
pm以下の電気銅及びタフピッチ銅製の品質の良いスクラップ銅からなる原料銅2を溶解
し、得られた銅の溶湯を保持炉5で沈静化すると共に銅の溶湯の酸素濃度が20ppm以
下(低酸素銅レベル)になるように調整する。この銅の溶湯を鋳造炉6及びタンディシュ
7を経由して1120℃の鋳造温度でベルトキャスター方式の連続鋳造機8に供給し、連
続鋳造する。次いで、連続鋳造機8から導出された銅の鋳造バー12を引き続き熱間圧延
機13に導いて、850℃〜550℃の温度範囲(圧延開始温度850℃、圧延終了温度
550℃)で熱間圧延することにより、銅に固溶している硫黄(S)を析出させ、半軟化
温度が低い直径φ23mmの低酸素銅の銅荒引線15を製造した。
【0053】
この銅荒引線の製造方法によれば、従来のようにSとの親和力が大きな金属を添加する
必要がなく、また、原料銅に高価な無酸素銅を使用する必要がなく、低コストで銅材料の
軟化温度を十分に低下させることができる。
【0054】
次に、銅線の製造方法の実施の形態としては、前記により製造された直径φ23mmの銅荒引線15を冷間伸線加工により、例えば厚さ2.4mm×幅20mmの平角銅線に冷間加工(加工度90%)し、さらに、前記平角銅線を同一ライン上で連続的に加熱温度400℃、加熱時間1時間で焼きなまし処理し、所定の低酸素平角銅線18を製造した(図2(b))。
【0055】
この平角銅線の製造方法によれば、焼きなまし処理により冷間での伸線加工速度が阻害されることなく、同一ライン上で連続して平角銅線を伸線加工及び焼きなまし処理することができ、これにより平角銅線の生産性を著しく向上させることができる。また、これにより平角銅線を安価に製造することができる。
【0056】
ここで、前記により製造された低酸素平角銅線(酸素濃度20ppm以下)の半軟化温度を加熱軟化曲線に基づいて測定したところ、151℃(実施例3)であった。比較のため、同じように冷間伸線加工及び焼きなまし処理して製造された無酸素平角銅線の半軟化温度は216℃(比較例3)であった。両者の半軟化温度の比較結果を表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
本発明の第1から第3の実施の形態では、銅荒引線15を冷間伸線加工する場合について説明したが、これに限られるものではなく、冷間伸線加工に代えて冷間圧延加工により低酸素平角銅線を製造することができる。例えば、直径φ23mmの銅荒引線を冷間圧延加工により厚さ6mm×幅69mm又は厚さ5mm×幅83mmの平角導体に冷間圧延加工してもよい。また、平角導体の厚さと幅とは、夫々銅荒引線の断面積により調整することができ、例えば、直径φ12mmの銅荒引線を厚さ3mm×幅37mm又は厚さ2mm×幅56mmの平角導体に冷間圧延加工し、直径φ8mmの銅荒引線を厚さ3mm×幅16mm又は厚さ2mm×幅25mmの平角導体に冷間圧延加工してもよい。
【0059】
本発明の低酸素平角導体は、建物の配電盤内、工作機械に使用される制御盤内、自動車用インバータ等に配索された大電流を流し放熱する必要があるバスバー等に使用されたり、太陽電池パネルに使用される集電用配線材としてのバスバーに使用されたり、建物内の配電用導体として使用されたり、モータやオルタネータ等に使用される平角エナメル線、樹脂押出被覆平角線(例えば、PTFE、PFA等)に使用されたり、ケーブルの代わりに使用される絶縁被覆平角線として使用される。また、例えば、FPC(フレキシブルプリントサーキット)、MFJ(マルチフレームジョイナー)、FFC(フレキシブルフラットケーブル)等に使用される導体の材料として使用しても良い。
【0060】
本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、その発明の範囲において種々の改
変が可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 シャフト炉
2 原料銅
3 バーナー
4 移送樋
5 保持炉
6 鋳造炉
7 タンディシュ
8 連続鋳造機
9 ベルト
10 ホイール
11 ガイドロール
12 鋳造バー
13 熱間圧延機
14 圧延ロール
15 銅荒引線
16 コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料銅を溶解して得た銅の溶湯を連続鋳造圧延して銅荒引線を製造する方法において、
前記溶湯中に含有する酸素及び硫黄について酸素濃度を20ppm以下、硫黄濃度を6p
pm以下に夫々調整し、前記により調整された銅の溶湯を1120℃以下の鋳造温度で連
続鋳造し、引き続き前記により得られた鋳造バーを850℃〜550℃の温度範囲(圧延
開始温度850℃、圧延終了温度550℃)で熱間圧延することを特徴とする半軟化温度
の低い銅荒引線の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法により製造された半軟化温度の低い銅荒引線を加工度90%以
上で冷間加工すると共に同一ライン上で連続的に焼きなまし処理することを特徴とする銅
線の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の製造方法により製造された銅線であって、前記銅線の半軟化温度が16
0℃以下であることを特徴とする銅線。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−234442(P2010−234442A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11521(P2010−11521)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】