説明

卓上型乳加工製品製造装置

【課題】 小規模の飲食店や家庭において少量の乳加工製品を製造するのに好適な、新規な卓上型乳加工製品製造装置を開発することを技術課題とした。
【解決手段】 原料乳M0を収容するためのボウル2を本体部1に具えて成る装置であって、本体部1には原料乳M0を攪拌するためのミキサ機構3と、原料乳M0の殺菌、醗酵または凝固のいずれか一つまたは複数を促すための加温機構5とが具えられ、一方、ボウル2は、本体部1に対して着脱可能に取り付けられるものであることを特徴として成るものであり、原料乳M0等の殺菌、醗酵及び凝固を行うことのできる卓上型乳加工製品製造装置D全体をコンパクトに構成することができるとともに、軽量化を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はチーズ、バター等の乳加工製品の製造装置に関するものであって、特に数リットル程度の少量の原料乳を用いて乳加工製品を製造するのに好適な卓上型乳加工製品製造装置に係るものである。
【背景技術】
【0002】
チーズの製造は、原料乳を殺菌処理し、続いて原料乳に対してスタータ(乳酸菌、カビ類)を注入し、乳酸醗酵を行うとともに、レンネット(凝乳成分であるキモシンを主成分とする乳凝固剤)を注入して混合した後、所定時間静止させてカード(固体成分)を形成するというものである。次いでこのカードを成型し、適宜の条件で熟成させることにより、様々なチーズとして製品化される。
【0003】
そしてこのようなチーズの製造における殺菌、醗酵を行うための製造装置は、国内ではほとんど開発されていないため、欧州等から輸入された装置が用いられている。しかしながら輸入される装置は非常に高価且つ大型であるため、小量生産には不向きなものであった。
そこで小規模の飲食店や家庭でチーズ作りを行う場合には、鍋を直接火にかけたり、あるいは鍋よりも一回り大きな容器を用いて湯せんを行って原料乳の温度を高め、殺菌、 醗酵に適した温度を維持する手法が採られている。この際、火(湯)加減を調節することにより温度管理が行われているが、殺菌工程や醗酵工程では厳密な温度管理が要求されるため、作業者が付っきりになることを余儀なくされ、この間は他の作業が行えなくなってしまう。そしてこのことが、特に小規模飲食店等でチーズ作りが定着しない要因となっていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】財団法人蔵王酪農センター、ナチュラルチーズ製造技術マニュアル、ナチュラルチーズの作り方、インターネット <URL:http://www.zao-cheese.or.jp/manual/nat_mak/index.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような背景を認識してなされたものであって、小規模の飲食店や家庭において少量の乳加工製品を製造するのに好適な、新規な卓上型乳加工製品製造装置を開発することを技術課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち請求項1記載の卓上型乳加工製品製造装置は、原料乳を収容するためのボウルを本体部に具えて成る装置であって、前記本体部には、原料乳を攪拌するためのミキサ機構と、原料乳の殺菌、醗酵または凝固のいずれか一つまたは複数を促すための加温機構とが具えられ、一方、前記ボウルは、本体部に対して着脱可能に取り付けられるものであることを特徴として成るものである。
【0007】
また請求2項記載の卓上型乳加工製品製造装置は、前記要件に加え、前記本体部は上部筐体と下部筐体とをヒンジ接続により組み合わせて成るものであり、上部筐体にミキサ機構が具えられ、下部筐体に対してボウルが固定されるものであり、
ボウルを下部筐体に固定した状態で、ミキサ機構に具えられる攪拌子がボウル内に入出できるように構成されていることを特徴として成るものである。
【0008】
また請求項3記載の卓上型乳加工製品製造装置、前記要件に加え、前記加温機構は、ヒータとサーモスタットとを具えて構成されたものであることを特徴として成るものである。
【0009】
更にまた請求項4記載の卓上型乳加工製品製造装置は、前記要件に加え、前記ボウルは、ジャケットを具えた二重構造のものであることを特徴として成るものである。
【0010】
更にまた請求項5記載の卓上型乳加工製品製造装置は、前記要件に加え、前記ミキサ機構は、攪拌子にランダムな軌道を与えるための遊星歯車機構を具えたものであることを特徴として成るものである。
そしてこれら各請求項記載の発明の構成を手段として前記課題の解決が図られる。
【発明の効果】
【0011】
まず請求項1記載の発明によれば、原料乳等の殺菌、醗酵及び凝固を行うことのできる卓上型乳加工製品製造装置全体をコンパクトに構成することができるとともに、軽量化を実現することができる。
また卓上型乳加工製品製造装置を、攪拌機構、加熱機構等のメンテナンス性に優れたものとすることができる。
更に卓上型乳加工製品製造装置全体を、例えばパン生地、麺生地等の練り込み用の装置としても流用することが可能となる。
【0012】
また請求項2記載の発明によれば、ボウル内に原料乳等が収容された状態での、ボウルの本体部に対する着脱を支障なく行うことができる。更に殺菌、醗酵、凝固等を行う際の装置の操作性を向上することができる。
【0013】
更にまた請求項3記載の発明によれば、ボウル内に収容された原料乳等を、殺菌、醗酵あるいは凝固に適した温度に、高精度で保つことができる。
【0014】
更にまた請求項4記載の発明によれば、ボウル内に収容された原料乳の温度変動を緩やかなものにして、原料乳等を、殺菌、醗酵あるいは凝固に適した温度に、高精度で保つことができる。また収容部とジャケットとの間に冷水、砕氷水を入れることにより、収容部内に収容された原料乳を効率的に冷却することができるため、バターの製造を可能とすることができる。
【0015】
更にまた請求項5記載の発明によれば、原料乳等の攪拌を満遍なく行うことができ、極めて均質な製品の製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の卓上型乳加工製品製造装置を示す斜視図である。
【図2】連結具による収容部とジャケットとの固着を説明するための斜視図である。
【図3】遊星歯車機構による攪拌子の動きを説明するための側面図並びに攪拌子がボウルから退出した状態を示す側面図である。
【図4】ボウルを本体部に着脱する様子を示す側面図である。
【図5】複数の攪拌子を示す斜視図である。
【図6】チーズの製造過程を示す工程図である。
【図7】バター及びソフトチーズキャラメルの製造過程を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の卓上型乳加工製品製造装置の形態は一例として以下の実施例に説明するとおりのものであるが、この実施例に対して、本発明の技術的思想の範囲内において適宜変更を加えることも可能である。
【実施例】
【0018】
図中、符号Dで示すものが本発明の卓上型乳加工製品製造装置であって、このものは本体部1に対して着脱可能に組み付けられるボウル2を具えて成るものである。
そして前記本体部1には、ボウル2に収容される原料乳M0等を攪拌するためのミキサ機構3及び原料乳M0等の殺菌、醗酵を促すための加温機構5が具えられる。
以下、これら卓上型乳加工製品製造装置Dを構成する各要素について説明する。
【0019】
まず前記本体部1は図3に示すように、側面視L字型の上部筐体10と下部筐体11とをヒンジ接続により組み合わせて成るものであり、上部筐体10と下部筐体11との接合面が接した状態で側面視コの字型となって自立する筐体である。
そして上部筐体10に前記ミキサ機構3が具えられ、一方、下部筐体11に対して前記ボウル2が固定されるものであり、このような構成が採られることにより、ボウル2を下部筐体11に固定した状態で、上部筐体10を回動させてミキサ機構3に具えられる攪拌子30がボウル2内に入出できるように構成されている。
なおボウル2と下部筐体11との固定構造については後程説明を行う。
【0020】
また前記ミキサ機構3は、モータ31を動力源として回転軸32を回転駆動することにより、この回転軸32の先端に取り付けられる攪拌子30によって原料乳M0等の攪拌を行うための部材である。そしてこの実施例では、前記攪拌子30にランダムな軌道を与えるための遊星歯車機構33が具えられるものであり、前記回転軸32は遊星歯車機構33の遊星歯車に接続されて、モータ31からの動力によって回転する太陽歯車を中心として、自転しつつ公転することとなる。なおミキサ機構3としては、遊星歯車機構33を具えることなく、攪拌子30が定位置で回転するような構成とすることもできる。
なお前記下部筐体11の側面には、ミキサスイッチ34が具えられる。
また前記回転軸32には、原料乳M0等の加工状態に応じた好適な形状の攪拌子30が選択的に装着されるものであり、この実施例では図5に示すようにフック型攪拌子30a、ビーター型攪拌子30b及びホイッパー型攪拌子30cの三種類の攪拌子30を準備するようにした。もちろん攪拌子30としてはこれらの形状のほかに、適宜の形状が採り得るものである。
【0021】
また前記加温機構5は図1に示すように、ヒータ51とサーモスタット52とを具えて構成されるものであり、前記ヒータ51としては、シーズ線、ニクロム線のようにジュール熱を発生させるものや、一方の面が吸熱し、反対面に発熱が起こるペルチェ素子などが適用される。
一方、前記サーモスタット52は、熱電対等が適用されたセンサ部53によって検出された値と設定温度とを制御部54において比較して、ヒータ51のオンオフ操作を行うものである。なおサーモスタット52には、実際の温度、設定温度等を表示するための表示部55が具えられるようにした。また制御部54にタイマー機能を持たせるようにしてもよい。
なお前記下部筐体11の背面には、センサ部53を保持するためのホルダ53aが具えられ、側面にはヒータスイッチ56が具えられる。
【0022】
また前記ボウル2は図1〜4に示すように、ステンレス等により構成された容量5〜10リットル程の深底の容器である収容部21の外側に、固定片22aによって一定間隔が保たれた状態でジャケット22が具えられた二重構造体である。そしてボウル2の底部には円筒状の勘合部23が具えられるものであり、この勘合部23には、前記下部筐体11に設けられる係合ピン11aと噛み合うバヨネット溝23aが形成されている。
なお前記ジャケット22の下部には、センサ部53を保持するためのホルダ53bが具えられるものであり、このホルダ53bは、収容部21を用いることなくジャケット22のみが用いられる場合に、ジャケット22に収容される被処理物の温度をセンサ部53によって計測する場合に有用となるものである。
【0023】
なお前記収容部21とジャケット22との組み付けをより強固にするためのパーツとして、図2に示すような連結具25を用いるようにしてもよい。
この連結具25は、収容部21の外周部に締結されるレバーバンド251とジャケット22の外周部に締結されるレバーバンド252とを一対として構成されるものである。
そしてレバーバンド251、252の両端部にはそれぞれ、キャッチクリップ253のフック253a 及びアーム253b並びに、レバー253cが具えられる。このような構成が採られることによりレバーバンド251、252は図2(b)に示すように、それぞれ収容部21、ジャケット22の外周部に巻回された状態でフック253a にアーム253bが掛けられるとともに、レバー253cが倒されることにより収容部21、ジャケット22に固着されることとなる。なおレバーバンド252には位置決片257が一例として四カ所に具えられており、このものがジャケット22のフランジ22bに当接することにより、レバーバンド252の上下方向の位置決めがなされるようになっている。
また前記レバーバンド251には一例として四カ所にフック254が具えられ、一方、レバーバンド252にはフック254に対応した個所にアーム255及びレバー256が具えられる。そして図2(c)に示すように、収容部21をジャケット22内に収容状態とし、フック254にアーム255が掛けられるとともに、レバー256が倒されることにより収容部21とジャケット22とが強固に固着されることとなる。
【0024】
また卓上型乳加工製品製造装置Dを用いて乳加工製品の一例であるチーズの製造を行う際には、原料乳M0の変化を客観的に判断するためにpHセンサ6が用いられる。
この実施例ではpHセンサ6として、一例としてHORIBA社製、コンパクトpHメータ Twin pH B−212を採用した。
【0025】
(1)チーズの製造
本発明の卓上型乳加工製品製造装置Dは一例として上述したように構成されるものであり、以下この装置を用いたチーズの製造方法について説明する。
なお原料乳M0は、ボウル2内において、その性状が変化するものであるため、ここで各段階毎の呼称について定義しておく。
まず、搾乳後、異物を除去するための濾過処理が行われた状態のものを原料乳M0と呼ぶ。なお実際に家庭や飲食店等においてチーズの製造が行われる際には、市販の牛乳が用いられることがほとんどであるため、このものも原料乳M0に含まれるものとする。
次いで原料乳M0に対して、醗酵や熟成を順調に進めるために殺菌処理を施したものを殺菌乳M1と呼ぶ。
次いで殺菌乳M1に対して、スタータSあるいはクエン酸を注入して乳酸醗酵させたものを醗酵乳M2と呼ぶ。
次いで醗酵乳M2に対して、レンネットRを注入して凝固させたものを凝固乳M3と呼ぶ。
次いで凝固乳M3を、カードナイフ7で細断することにより得られる小片状の固体物をカードCと呼び、このとき滲出する液体成分をホエイHと呼ぶ。
なお前記殺菌乳M1、醗酵乳M2、凝固乳M3並びにカードC及びホエイHが混在したものを中間製品として総称することもある。
【0026】
以下、図6に示す工程図並びに図3、4を参照しながら説明を行う。
〔装置等の殺菌〕
始めに卓上型乳加工製品製造装置Dの使用に先立ち、原料乳M0や中間製品に対して直接触れる部材を殺菌するものであり、ボウル2、攪拌子30及びカードナイフ7を熱湯等により殺菌する。
【0027】
〔装置のセッティング〕
次いで図4に示すように、上部筐体10を上方に回動させてた状態で、ボウル2のバヨネット溝23aを下部筐体11における係合ピン11aに係合させることにより、ボウル2を本体部1に固定するとともに、図3(b)に示すように回転軸32に攪拌子30を装着する。
【0028】
〔原料乳の殺菌(殺菌工程P1)〕
次いでボウル2におけるジャケット22と収容部21との間の空間に水Wを注入し、更に収容部21内に原料乳M0を投入するとともに、上部筐体10を下方に回動させて上部筐体10と下部筐体11との接合面が接した状態とし、攪拌子30をボウル2内の原料乳M0に没入させる(図3(a)参照)。そしてミキサスイッチ34をオン状態にすると、攪拌子30はモータ31からの動力によって回転する太陽歯車を中心として、自転しつつ公転するため、ボウル2内全域に作用することとなり、原料乳M0は満遍なく攪拌されることとなる。
【0029】
またヒータスイッチ56をオン状態とするとともに、ジャケット22内の水Wに加温機構5のセンサ部53を挿入し、サーモスタット52を65℃にセットすると、制御部54によりヒータ51がオン状態とされ、ここからボウル2に熱が伝導されて水Wの温度が上昇し、更に原料乳M0の温度が上昇する。やがて適宜オンオフが繰り返されて水W(原料乳M0)の温度が設定値に保たれることとなる。
【0030】
そして一例として原料乳M0を65℃の温度で30分間加熱することにより、低温殺菌が行われて、殺菌乳M1が得られることとなる。この際、原料乳M0が65℃となった時点でタイマーをスタートして、30分間の加熱を自動的に行うようにすることにより、操作者は他の作業に従事することが可能となる。
なおボウル2における収容部21内に収容された原料乳M0には、ヒータ51の熱がジャケット22内に収容された水Wを介在させて伝導されるため、原料乳M0の温度変動を緩やかなものにして、原料乳M0を殺菌に適した温度に、高精度で保つことができる。
因みに市販の殺菌乳を原料乳M0として用いる場合には、この殺菌工程P1を省略してもよい。
【0031】
〔殺菌乳の冷却(冷却工程P2)〕
次いで殺菌乳M1を乳酸醗酵に適した温度まで冷却するものであり、サーモスタット52を一例として33.5℃にセットすると、制御部54によってヒータ51がオフ状態とされて、やがて水W及び原料乳M0の温度が低下する。更に所望の温度まで低下した後には、適宜オンオフが繰り返されて水W及び原料乳M0の温度が設定値に保たれることとなる。
なおヒータ51としてペルチェ素子を用いた場合には、極性を反転することにより発熱面と冷却面とを入れ替わることができるため、ボウル2内の殺菌乳M1を急速に低下させることができ、チーズ製造に要する時間が短縮されるとともに、殺菌乳M1の劣化が抑えられる。
【0032】
〔スタータの添加(スタータ添加工程P3)〕
次いで33.5℃にまで温度が低下した殺菌乳M1に対して、一例として2〜4種類の乳酸菌が混合されて成るスタータSを添加する。
この際、スタータSを殺菌乳M1中に十分に分散させることが重要であるため、攪拌子30により、約10分間、殺菌乳M1の攪拌が行われる。
ここでもタイマーをスタートして、約10分間の攪拌を自動的に行うようにすることにより、操作者は他の作業に従事することが可能となる。
【0033】
〔乳酸醗酵(醗酵工程P4)〕
次いで上部筐体10を上方に回動させて攪拌子30をボウル2外に一時的に退出させるとともに、ボウル2に適宜蓋を被せて遮光を図り、一例として約60分間にわたって静止状態を維持する。
この際、センサ部53による温度検出が継続的に行われるものであり、殺菌乳M1を33.5℃に保つようにヒータ51のオンオフが行われる。更に殺菌乳M1にpHセンサ6の検出部を没入させてpHの計測が行われるものであり、制御部54はpH値が一例として6.5以下となった時点で所望の醗酵状態の醗酵乳M2となったと判断して、次工程に移行する。なおこのような判断は人間がpHセンサ6を目視して行ってもよいが、制御部54に行わせることにより、操作者は他の作業に従事することが可能となる。
【0034】
〔レンネットの添加(レンネット添加工程P5)〕
次いで上部筐体10を下方に回動させて攪拌子30をボウル2内に位置させるとともに、醗酵乳M2にレンネットR添加するものであり、このレンネットRを醗酵乳M2中に十分に分散させるために攪拌子30を機能させ、醗酵乳M2を33.5℃に保ちながら約5分間、攪拌する。
ここでもタイマーをスタートして、約5分間の攪拌を自動的に行うようにすることにより、操作者は他の作業に従事することが可能となる。
なお前記レンネットRとは、醗酵乳M2を豆腐状に凝固させ、水分を除去しやすい状態にする目的で添加されるものであり、牛の第4胃から抽出された凝乳成分である。
【0035】
〔凝固(静止)(凝固工程P6)〕
次いで上部筐体10を上方に回動させて攪拌子30をボウル2外に退出させるとともに、ボウル2に適宜蓋を被せて遮光を図り、一例として30分間にわたって静止状態を維持する。
この際、センサ部53による温度検出が継続的に行われるものであり、醗酵乳M2を33.5℃に保つようにヒータ51のオンオフが行われる。更に醗酵乳M2にpHセンサ6の検出部を没入させてpHの計測が行われるものであり、制御部54はpH値が一例として6.5となった時点で所望の凝固状態の凝固乳M3となったと判断し、次工程に移行する。なおこのような判断は人間がpHセンサ6を目視して行ってもよいが、制御部54に行わせることにより、操作者は他の作業に従事することが可能となる。
【0036】
〔カッティング(分離工程P7)〕
次いで回転軸32から攪拌子30を取り外し、カードナイフ7を用いて凝固乳M3の細断を行うものであり、10mm角程度の小片とされたカードCからは、濁りの少ない透明な黄緑色の液体成分であるホエイHが滲出してくる。
【0037】
〔ミキシング(混合工程P8)〕
次いで回転軸32に攪拌子30を装着し、カードCとホエイHとが混在した状態のものを33.5℃に保ちながら30分間、攪拌する。
更にその後、ホエイH中にカードCが浮遊した状態となったものを38℃まで昇温し、この温度に保ちながら攪拌子30によって30分間、攪拌する。
このようなミキシングを行うことにより、はじめは、ややくっついているカードC同士がほぐれるとともに、カードCとホエイHとの分離が促進される。
ここでもタイマーをスタートして攪拌を自動的に行うようにすることにより、操作者は他の作業に従事することが可能となる。
【0038】
〔ホエイ抜き及び静置〕
その後、ボウル2を本体部1から取り外すとともに、その内容物をざるにあける等してカードCとホエイHとを分離する。
このとき本発明の卓上型乳加工製品製造装置Dは、ボウル2を下部筐体11に固定した状態で、攪拌子30がボウル2内から退出できるように構成されているため、ボウル2内にカードCとホエイHが収容された状態で、ボウル2の下部筐体11からの取り外しを支障なく行うことができる。
更にカードCを集めて一つの塊状にし、遮光を図った状態で約20分間静置し、更なるホエイHの滲出を図る。
なおホエイHはそのままドレッシングの材料とすることができ、更にたんぱく質が豊富なため各種健康食品やドリンク剤の材料や飼料とすることができるものであるため、適宜回収してして有効利用することが好ましい。
【0039】
〔分断及び静置〕
次いで塊状のカードCを20cm角ほどの小ブロックに細断し、更に遮光を図った状態で約20分間静置し、ホエイHの更なる滲出を図るとともに、カードCの凝固を進行させる。
このようにして得られた塊状物はチーズ原製品(いわゆるフレッシュチーズ)となるものであり、その後、型入、加塩、混練、カビ付け、熟成等を行うことにより、所望の最終製品とされる。
【0040】
(2)バターの製造
なお本発明の卓上型乳加工製品製造装置Dは、本体部1にミキサ機構3及び加温機構5が具えられているものであるため、チーズの製造以外にも、バターB、ヨーグルト等の他の乳加工製品や、ケーキ、クッキー、パン、パイ等の生地の練り込みに用いることもできる。特にヨーグルト、パン生地、パイ生地を扱う場合には、加温機構5を作用させることにより、材料の醗酵を好適に行うことが可能である。
また本発明の卓上型乳加工製品製造装置Dは、ボウル2として、ジャケット22を具えた二重構造のものが採用されているため、収容部21とジャケット22との間に冷水、砕氷水W1を入れることにより、収容部21内に投入される原料を冷却しながら攪拌することができるものであり、バターBの製造も可能なものとなっている。
以下、卓上型乳加工製品製造装置Dを用いたバターBの製造方法について、図7に示す工程図並びに図3、4を参照しながら説明する。なおバターBを製造する際に副産物として産出されるバターミルクM5を原料としてソフトチーズキャラメルM6を製造するための手法についても併せて記載する。
なおバターBを製造する場合の原料乳M0としては、乳脂肪47%程度の生クリームを用いることが好ましい。またここでは原料乳M0は既に殺菌処理の施されたものを用いることとした。
【0041】
〔装置等の殺菌〕
始めに卓上型乳加工製品製造装置Dの使用に先立ち、原料乳M0や中間製品に対して直接触れる部材を殺菌するものであり、ボウル2、攪拌子30及びヘラ8を熱湯等により殺菌する。
【0042】
〔装置のセッティング〕
次いで図4に示すように、上部筐体10を上方に回動させてた状態で、ボウル2のバヨネット溝23aを下部筐体11における係合ピン11aに係合させることにより、ボウル2を本体部1に固定するとともに、図3(b)に示すように回転軸32に攪拌子30(ホイッパー型攪拌子30c)を装着する。
【0043】
〔原料乳の冷却及び攪拌(冷却攪拌工程P11)〕
次いで収容部21とジャケット22との間に砕氷水W1を入れ、更に原料乳M0をボウル2内に投入し、図3(a)に示すように攪拌子30をボウル2内の原料乳M0に没入させた状態でミキサ機構3を駆動することにより、原料乳M0を攪拌しながら冷却する。
その後、2分〜7分ほどで原料乳M0は泡立った状態となるものであり、更に攪拌を継続することにより原料乳M0は硬くなってゆく。そして原料乳M0がホイッパー型攪拌子30cにまとわり付くような状態となった時点でミキサ機構3を停止する。
【0044】
ここでボウル2内の原料乳M0をヘラ8を用いて整えた後(整姿工程P12)、再度ミキサ機構3を駆動するものであり、原料乳M0は徐々にボロボロとした団子状の固形分M4となり、その色は黄色がかったものとなってゆく。
その後、更に3分程攪拌を継続すると、固形分M4から乳白色の液体であるバターミルクM5が滲出してくる。
そしてバターミルクM5が出切った状態となった時点でミキサ機構3を停止する。
【0045】
〔バターミルクの分離(分離工程P13)〕
次いで図3(b)に示すように上部筐体10を上方に回動させるとともに、図4に示すように攪拌子30(ホイッパー型攪拌子30c)を回転軸32から取り外し、その後、ボウル2を本体部1から取り外す。そして固定片22aを解除して収容部21をジャケット22から切り離し、収容部21内の固形分M4とバターミルクM5とを濾し分けた後、固形分M4を耐水性濾紙9を敷いた容器にあけ、バターミルクM5の更なる滲出を促す。
その後、耐水性濾紙9の四隅を束ねて巾着状として絞り込むことにより、更にバターミルクM5を固形分M4から分離する。
【0046】
〔成形(成形工程P14)〕
そして固形分M4を耐水性濾紙9に包んだまま方形に成形するものであり、その後、耐水性濾紙9を取り除くことによりバターB(無塩)が完成することとなる。
なおこの成形時には、バターミルクM5が滲出してくることがあるため、バット等の容器内で行うことが望ましい。
因みに乳脂肪47%の原料乳M0(生クリーム)を4000ml用いた場合、約2000gのバターBと、約1400mlのバターミルクM5が生成される。
【0047】
〔加塩(加塩工程P15)〕
そして前記バターBに対して食塩Tを加えることにより、有塩バターB1とされるものであり、前記バターB(成形前のものでもよい。)をボウル2(ジャケット22)に投入し、図4に示すようにボウル2(ジャケット22)を本体部1に固定するとともに、図3(b)に示すように回転軸32に攪拌子30(ホイッパー型攪拌子30c)を装着する。
そしてバターBに食塩Tを加え(一例としてバター2000gに対して食塩1g)、ミキサ機構3を駆動し、これらを満遍なく混ぜてゆく。このとき、食塩Tを加えたことにより、更にバターミルクM5が滲出してくるものであり、バターミルクM5の滲出が停止した時点でミキサ機構3を停止する。
その後、バターミルクM5を除去し、再度成形することにより有塩バターB1が完成する。
【0048】
(3)ソフトチーズキャラメルの製造
次に前記バターミルクM5を原料としてソフトチーズキャラメルM6を製造するための手法について説明する。
まず前述したように装置等の殺菌を行った後、上部筐体10を上方に回動させてた状態で、ボウル2を本体部1に固定するとともに、図3(b)に示すように回転軸32に攪拌子30(フック型攪拌子30aまたはビーター型攪拌子30b)を装着する。
次いで前記バターミルクM5をボウル2(ジャケット22)に投入し更に牛乳を加え(一例としてバターミルク360mlに対して牛乳360ml)、加温機構5及びミキサ機構3を駆動し、加熱しながらこれらを満遍なく混ぜてゆく(加熱混合工程P16)。
そして50分程度経過して、全体に粘度が上昇してとろりとした状態となった時点で加温機構5及びミキサ機構3を停止して、ボウル2を本体部1から取り外し、内容物を薄くオイルを塗った平らな器 (バット等)に移す。その後、冷蔵庫で冷やし固めた後、適宜の大きさにカットすることにより、ソフトチーズキャラメルM6が完成する(裁断工程P17)。
【0049】
なお上述したように加熱しながら攪拌を行う際に、ボウル2を収容部21及びジャケット22を具えた二重構造のものとした場合には、収容部21内に収容されたバターミルクM5及び牛乳には、ヒータ51の熱がジャケット22内に収容された水Wを介在させて伝導されるため、焦げ付きを防止することができる。
【符号の説明】
【0050】
D 卓上型乳加工製品製造装置
1 本体部
10 上部筐体
11 下部筐体
11a 係合ピン
2 ボウル
21 収容部
22 ジャケット
22a 固定片
22b フランジ
23 勘合部
23a バヨネット溝
25 連結具
251 レバーバンド
252 レバーバンド
253 キャッチクリップ
253a フック
253b アーム
253c レバー
254 フック
255 アーム
256 レバー
257 位置決片
3 ミキサ機構
30 攪拌子
30a フック型攪拌子
30b ビーター型攪拌子
30c ホイッパー型攪拌子
31 モータ
32 回転軸
33 遊星歯車機構
34 ミキサスイッチ
5 加温機構
51 ヒータ
52 サーモスタット
53 センサ部
53a ホルダ
53b ホルダ
54 制御部
55 表示部
56 ヒータスイッチ
6 pHセンサ
7 カードナイフ
8 ヘラ
9 耐水性濾紙
B バター
B1 有塩バター
C カード
H ホエイ
M0 原料乳
M1 殺菌乳
M2 醗酵乳
M3 凝固乳
M4 固形分
M5 バターミルク
M6 ソフトチーズキャラメル
P1 殺菌工程
P2 冷却工程
P3 スタータ添加工程
P4 醗酵工程
P5 レンネット添加工程
P6 凝固工程
P7 分離工程
P8 混合工程
P11 冷却攪拌工程
P12 整姿工程
P13 分離工程
P14 成形工程
P15 加塩工程
P16 加熱混合工程
P17 裁断工程
R レンネット
S スタータ
T 食塩
W 水
W1 砕氷水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料乳を収容するためのボウルを本体部に具えて成る装置であって、前記本体部には、原料乳を攪拌するためのミキサ機構と、原料乳の殺菌、醗酵または凝固のいずれか一つまたは複数を促すための加温機構とが具えられ、一方、前記ボウルは、本体部に対して着脱可能に取り付けられるものであることを特徴とする卓上型乳加工製品製造装置。
【請求項2】
前記本体部は上部筐体と下部筐体とをヒンジ接続により組み合わせて成るものであり、上部筐体にミキサ機構が具えられ、下部筐体に対してボウルが固定されるものであり、ボウルを下部筐体に固定した状態で、ミキサ機構に具えられる攪拌子がボウル内に入出できるように構成されていることを特徴とする請求項1記載の乳加工製品製造装置。
【請求項3】
前記加温機構は、ヒータとサーモスタットとを具えて構成されたものであることを特徴とする請求項1または2記載の卓上型乳加工製品製造装置。
【請求項4】
前記ボウルは、ジャケットを具えた二重構造のものであることを特徴とする請求項1、2または3記載の卓上型乳加工製品製造装置。
【請求項5】
前記ミキサ機構は、攪拌子にランダムな軌道を与えるための遊星歯車機構を具えたものであることを特徴とする請求項1、2、3または4記載の卓上型乳加工製品製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−252678(P2010−252678A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105877(P2009−105877)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 博覧会名 第9回厨房設備機器展 主催者名 社団法人日本厨房工業会 社団法人日本能率協会 開催日 平成21年2月24日〜27日
【出願人】(509003195)大生機設株式会社 (6)
【Fターム(参考)】