説明

単一駆動ベータトロン

ベータトロンは、第1磁極面を有する第1ガイド磁石および第2磁極面を有する第2ガイド磁石を備えたベータトロン磁石を含む。第1および第2ガイド磁石は、中心配置のアパーチャを有し、第1磁極面は、ガイド磁石ギャップによって第2磁極面から分離している。コアは、両ガイド磁石と当接(abut)する関係で、中心配置のアパーチャ内に配置される。コアは、少なくとも1つのコアギャップを有する。駆動コイルは、両方のガイド磁石磁極面の周りに巻回される。軌道制御コイルは、コアギャップの周りに巻回された収縮(contraction)コイル部分と、ガイド磁石磁極面の周りに巻回されたバイアス制御部分とを有する。収縮コイル部分およびバイアス制御部分は、反対の極性で接続される。コアおよびガイド磁石内の磁束は、ベータトロン磁石の周辺部分を通って戻る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、共に所有する2007年12月14日出願の米国特許出願(代理人整理番号49.0348 US NP、「双方向ディスペンサカソード(Bi-Directional Dispenser Cathode)」、Luke T. Perkins)に関連している。
【0002】
本発明は、一般に、コンパクトなベータトロン電子加速器に関する。詳細には、単一コイルが、コアセクションおよびガイド磁場を駆動し、エアギャップによって分離された別々の駆動コイルのためのニーズおよび専有空間を排除する。
【背景技術】
【0003】
油田のボーリング孔検層(logging)は、地層の性質をボーリング孔の深さの関数として測定するプロセスである。地質学者は、検層データを検討して、油含有地層が存在しそうな深さを決定する。検層データの重要な部分の1つは、地層の密度である。最近では、油田検層は、化学放射源から得られるガンマ線を利用して、ボーリング孔を取り巻く地層のバルク密度を決定している。これらの線源は、放射線障害をもたらし、偶発的な被曝や意図的な誤用を防止するために厳密な管理を必要とする。さらに、多くの線源は、長い半減期を有し、廃棄が重大な問題である。幾つかの検層応用、特に、地層密度の決定では、137Cs線源または60Co線源は、地層を照射するのに使用される。放射線の強度および侵入性質は、迅速で正確な地層密度の測定を可能にする。化学放射源に伴う問題の点で、化学放射源を電子放射源で置き換えることが重要である。この主要な利点は、測定を行わない場合にスイッチオフにできることであり、意図的な誤用の可能性を最小にできる。
【0004】
化学ガンマ線源の置き換えの提案の1つは、ベータトロン加速器である。この装置は、電子が、ターゲットに向くまで変化磁界によって円形通路上で加速される。電子とターゲットとの相互作用は、制動放射(Bremsstrahlung)およびターゲット材料の特性X線の放出を導く。電子は、加速される前に、2つの円形磁極面の間の磁界中に、適切なタイミングで、的確なエネルギーおよび的確な角度で注入される。タイミング、エネルギーおよび注入角度の制御により、主要な電子軌道に受け入れられて加速される電子の数を最大化できる。
【0005】
典型的なベータトロンは、発明者F. Chen et alによる米国特許第5,122,662号に開示されているように、約4.5インチの磁極面直径を有する。磁石は、2つの分離した磁気絶縁ピース、即ち、ほぼ閉ループの磁気回路を備えたコアと、約1センチメートルのギャップで分離された、2つの対向する磁極面を含むガイド磁場磁石とで構成される。コアを包囲する磁極面は、トロイダル形状を有する。約0.5cmのギャップは、コアを磁極面の内側リムから分離している。2つのピースは、平行に接続された2つの分離したコイルセット、即ち、磁極面の外側リムの周りに巻回された磁場コイルと、コアの中心断面に巻回されたコアコイルによって駆動される。
【0006】
磁場磁石およびコアは、コアコイルの上部に巻回された反転磁場コイルと磁気的に減結合(decouple)される。コアコイルおよび反転磁場コイルの両方は、0.5cmギャップに配置される。米国特許第5,122,662号は、参照によりここに全体として組み込まれる。
【0007】
動作の際、典型的なベータトロンは、ベータトロン条件を満たし、電子を相対論的速度まで加速する。ベータトロン条件は、下記の式(1)のとき満たされる。
【0008】
【数1】

(1)
【0009】
ここで、r0は、磁極面のほぼ中心に位置するベータトロン軌道の半径である。Δφ0は、r0の範囲で閉じ込められた磁束の変化である。ΔBy0は、r0でのガイド磁場での変化である。
【0010】
ベータトロン条件は、米国特許第5,122,662号に開示されているように、コアコイルをガイド磁場コイル巻数比に調整することによって満たし得る。ベータトロン条件の成立は、機械が動作することを保証しない。最適な時点での電荷捕捉(trapping)、電子のベータトロン軌道への注入は、別の挑戦的な作業である。4.5インチベータトロンにおいて、これは、ガイド磁場を増加しつつ、コア内の磁束を一定に維持することによって達成される。コアおよびガイド磁場が独立に駆動されるため、これが可能になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
大型のベータトロンは、サイズ制約が重大ではない応用、例えば、医療放射線目的のX線の発生などに適している。しかしながら、厳しいサイズ制約がある、油田ボーリング孔などの応用では、典型的には、3インチ以下の磁石磁場直径を持つ、より小型のベータトロンの使用が要望される。大型ベータトロンのための従来の設計を、より小型のベータトロンへ応用するのは、幾つかの理由により容易ではない。
【0012】
(1)電子インジェクタが磁極面間のギャップに位置した場合、ギャップ高さは、磁極面に対して垂直なインジェクタの寸法より大きくなければならない。合理的なビームアパーチャを維持するためには、磁極面の幅は、あまり大きく減少させることもできない。そして、サイズ低減の負担はほとんどコアにかかり、その結果、著しく低いビームエネルギーとなる。
【0013】
(2)電子インジェクタが磁極面間のギャップに位置した場合、電子の軌道周期に匹敵する期間内で、インジェクタに衝突しないように、注入された電子軌道を変更する必要がある。インジェクタ構造および真空チャンバ壁を遮らない軌道のこれらの電子は、捕捉されることになる。捕捉された電子だけが、全エネルギーまで加速され、ターゲットに衝突して放射線を発生する。電荷捕捉機構の性質に起因して、主要駆動の変調周波数が約24kHz(4.5インチ装置の3倍)に増加し、注入エネルギーは、約2.5kV(4.5インチ装置の1/2)に減少するまでは、3インチ装置において電荷を捕捉する確率はほとんどゼロである。そして、4.5インチ装置での捕捉と匹敵する電荷を捕捉する見込みは乏しい。
【0014】
(3)同じエネルギー電子をより小さな半径に閉じ込めるためには、より高い磁束密度が要求される。より高い磁束密度および変調周波数は、4.5インチのベータトロンより小さな容積を有する場合でも、3インチのベータトロンではより高い電力損失をもたらす。
【0015】
(1)〜(3)の結果、従来の設計を持つ3インチのベータトロンの使用可能な放射線出力は、4.5インチのベータトロンより3桁小さいと見積もられる。4.5インチのベータトロンに匹敵する放射線出力を有するより小さな直径のベータトロンについてのニーズが存在している。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一実施形態によれば、本発明は、円形でドーナツ状のガイド磁石と、中心に配置され、ガイド磁石と当接したコアと、1つ又はそれ以上の周辺戻りヨークとを有するベータトロン磁石を含む。
【0017】
ガイド磁石ギャップは、ガイド磁石を、対向する磁極面を備えた上部および下部に分離する。駆動コイルは、ガイド磁石の磁極面の周りに巻回される。軌道制御コイルは、コアの周りに巻回された収縮(contraction)コイル部分と、ガイド磁石の磁極面の周りに巻回されたバイアス制御部分とを有する。収縮コイル部分およびバイアス制御部分は、反対の極性で直列接続することができる。しかしながら、収縮コイル部分およびバイアス制御部分は、独立に駆動することが可能であることに留意する。
【0018】
さらに、回路は、駆動コイルおよび軌道制御コイルに電圧パルスを供給する。コア内およびガイド磁石内の磁束は、ベータトロン磁石の2つの周辺部分または戻りヨークを通って戻る。ガイド磁石ギャップに配置された真空の電子加速通路は、相対論的速度まで加速された電子を収容し、ターゲットに衝突させてX線を発生させる。
【0019】
このベータトロンの動作は、ガイド磁石、電子加速通路およびコアを通過して、戻りヨークを通って戻る第1極性の第1磁束を形成することと、コアを通過して、ガイド磁石ギャップおよび電子加速通路を通って戻る、第1極性または反対の第2極性の第2磁束を形成することを含む。
【0020】
各サイクルの始めに、高電圧パルス(典型的には数kV)がインジェクタに印加され、電子を電子加速通路の中に注入する。最大エネルギーを低下させることなく高速な収縮を達成するために、コアは、低速(slower)で高い飽和磁束密度の材料を取り囲む高速(fast)フェライトで製作された周辺部分を有するハイブリッドコアである。第1期間では、電子軌道半径を減少させるのに必要な磁束の大部分は、高速フェライトを通って流れる。この第1期間の後、高速フェライトのコア周辺部分は磁気飽和し、第2磁束がコアの内側部分を通って流れ、第1磁束との組合せで電子を加速する。第2磁束の極性は、電子が最高速度に接近すると反転し、これにより電子軌道を拡げて、電子をターゲットに衝突させてX線を発生する。
【0021】
本発明の一態様によれば、本発明は、高い飽和磁束密度の中心部分と、高速応答の高い透磁率の磁性材料で形成された周辺部分とを有するハイブリッドのものとしてコアを含むことができる。さらに、中心部分はアモルファス金属とし、周辺部分は、100超の透磁率を持つフェライトとすることができる。
【0022】
さらに、本発明は、ベータトロン条件を満たすのに有効な、少なくとも1つのコアギャップの累積(cumulative)幅を含むことができる。本発明は、少なくとも1つのコアギャップの累積幅が約2〜2.5ミリメートルであるものを含むことが可能である。さらに、本発明は、少なくとも1つのコアギャップが多重ギャップで形成されたものを含むことができる。
【0023】
本発明は、第1磁極面および第2磁極面の両方の直径が約2.75〜3.75インチであるものを含むことができる。本発明は、収縮コイル部分の巻数とバイアス制御部分の巻数の比が2:1であるものを含むことも可能である。さらに本発明は、駆動コイルの巻数とバイアスコイルの巻数の比が少なくとも10:1であり、駆動コイルの巻数が少なくとも10であるものを含むことができる。
【0024】
さらに本発明は、公称ピーク電流170Aおよび公称ピーク電圧900Vを供給する回路を含むことができる。本発明は、油田ボーリング孔への挿入に有効なゾンデ(sonde)に装着したものを含むことも可能である。
【0025】
本発明の一実施形態によれば、本発明は、X線を発生する方法を含むことができる。該方法は、第1磁極面を有する第1ガイド磁石および第2磁極面を有する第2ガイド磁石を含むベータトロン磁石を用意するステップを含むことができる。さらに、第1ガイド磁石および第2ガイド磁石の両方は、中心配置のアパーチャを有することができ、第1磁極面は、ガイド磁石ギャップにより第2磁極面から分離している。
【0026】
さらに該方法は、第1ガイド磁石および第2ガイド磁石の両方に当接する関係で、中心配置のアパーチャ内にコアを配置するステップを含むことができる。コアは、ガイド磁石ギャップを電子通路と外接させる少なくとも1つのコアギャップを有することができる。
【0027】
さらに該方法は、ベータトロン磁石の中心部分、コアそして電子通路を通過して、ベータトロン磁石の周辺部分を通って戻る、第2極性とは反対の第1極性の第1磁束を形成するステップを含むことができる。
【0028】
該方法はさらに、第1磁束が第1極性でほぼ最小強度になったとき、電子を電子通路内の電子軌道に注入するステップを含む。
【0029】
さらに本発明は、注入された電子軌道を最適なベータトロン軌道に圧縮するのに有効な第1時間では第1極性で、コアの周辺部分を通過して電子通路を通って戻る第2磁束を、反対の第2極性に形成するステップを含む。
【0030】
該方法はさらに、第1時間の後、コアの周辺部分が磁気飽和し、第2磁束がコアの内側部分を通過して、第1磁束との組合せで電子を加速し、これにより磁束促進(forcing)条件を強制するステップを含む。
【0031】
該方法はさらに、第1磁束が最大強度に接近した場合、第2磁束の極性を反転させ、これにより電子軌道を拡大して、電子をターゲットに衝突させてX線の放出を生じさせるステップを含む。
【0032】
開示したベータトロンは、コンパクトであり、油田ボーリング孔の中へ降下させるためのゾンデ(sonde)への装着に適している。発生したX線と地層との相互作用の結果物は、地質学者が地層の特性、例えば、密度、そして地下の石油埋蔵場所などを決定するのに有用である。
【0033】
さらに、本発明の特徴および利点は、添付図面と関連した下記の詳細な説明からより容易に明らかとなるであろう。
【0034】
本発明は、本発明の例示の実施形態の非限定的な例として、複数の図面を参照しつつ詳細な説明に記載される。幾つかの図面では同様な参照符号が同様な部分を表している。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態に係る、小さい直径のベータトロン設計の磁石構成および駆動コイルの断面図を示す。
【図2】図1の磁石構成を示し、本発明の一態様に従って駆動コイルによって発生した磁束線を示す。
【図3】本発明の一態様に係る、図1のベータトロンへ注入される電子の経路を示す。
【図4】本発明の一態様に係る、図1のベータトロンの収縮コイルおよびバイアスコイルの構成の断面図を示す。
【図5】本発明の一実施形態に係る、収縮コイルおよびバイアスコイルが反対の極性で直列接続される磁束促進(forcing)配置を示す。
【図6】本発明の一態様に係る、図1のベータトロンと関連した磁束を示す。
【図7】本発明の一実施形態に係る、代替の磁石コアの平面図を示す。
【図8】本発明の一態様に係る、コア構成要素の飽和前における図7の磁気コア内の磁束を示す。
【図9】本発明の一態様に係る、コア構成要素の飽和後における図7の磁気コア内の磁束を示す。
【図10】本発明の一実施形態に係る、小型ベータトロンを駆動する回路を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
ここで示す詳細事項は、例示であって、本発明の実施形態の説明検討の目的のために過ぎず、本発明の原理および概念的態様について最も有用で容易に理解される説明と考えられるものを提供するために提示されている。
これに関して、本発明の基本的理解に必要なものより詳しくは本発明の構造的詳細を示すことはしていない。説明は、図面とともに、本発明の幾つかの形態がどのように実際に具体化されるかを当業者に明らかにしている。さらに、種々の図面における同様な参照番号および参照符号は同様な要素を意味する。
本発明の一実施形態によれば、本発明は、円形でドーナツ状のガイド磁石と、中心に配置され、ガイド磁石と当接したコアと、1つ又はそれ以上の周辺戻りヨークとを有するベータトロン磁石を含む。
【0037】
ガイド磁石ギャップは、ガイド磁石を、対向する磁極面を備えた上部および下部に分離する。駆動コイルは、ガイド磁石の磁極面の周りに巻回される。軌道制御コイルは、コアの周りに巻回された収縮(contraction)コイル部分と、ガイド磁石の磁極面の周りに巻回されたバイアス制御部分とを有する。収縮コイル部分およびバイアス制御部分は、反対の極性で直列接続することができる。しかしながら、収縮コイル部分およびバイアス制御部分は、独立に駆動することが可能であることに留意する。
【0038】
さらに、回路は、駆動コイルおよび軌道制御コイルに電圧パルスを供給する。コア内およびガイド磁石内の磁束は、戻りヨークと称されるベータトロン磁石の周辺部分を通って戻る。真空チューブが電子加速通路を包囲して、ガイド磁石の磁極面の間にある空間に配置される。電子は、この通路内で相対論的速度まで加速され、そしてターゲットに衝突する。電子は急速に減速し、イオン化したターゲット原子は衝撃から回復して、より低いエネルギー状態に戻って、X線が放出される。
【0039】
ベータトロンの動作は、ガイド磁石の磁極面、電子加速通路およびコアを通過して、戻りヨークを通って戻る第1極性の第1磁束を形成することと、コアを通過して、ガイド磁石の磁極面および電子加速通路を通って戻る、第1極性または反対の第2極性の第2磁束を形成することを含む。
【0040】
各サイクルの始めに、高電圧パルス(典型的には数kV)がインジェクタに印加され、電子を電子加速通路の中に注入する。加速通路内で100ナノ秒またはそれ以上の期間で上昇するガイド磁界と関連して、注入された電子のエネルギーが適切なレートで増加するように、インジェクタ電圧パルスの形状を設計することは、必須ではないが、好ましいことである。
【0041】
インジェクタ電圧パルスと通路内の第1磁束との間の整合条件が存在する期間は、注入ウインドウと称される。注入ウインドウ内で注入された電子は、捕捉される最大確率を有する。整合した条件は、半径riの瞬間平衡軌道の概念によって最もよく記述される。瞬間平衡軌道では、曲げ磁力は遠心力と等しい。r>riの場合、曲げ磁力は大きくなり、一方、r<riでは反対になる。こうして所定のriに関連した電子は、スプリングを介してある点に取り付けられたボールのように、riに束縛される。注入ウインドウは、riが通路の内側に位置するときの時間である。磁石の設計によって決定され、主要駆動磁束(第1磁束)が磁石の異なる部分の間でどのように区分されるかを規定するr0とは異なって、riは、電子エネルギーおよびriでの磁界の関数である。
【0042】
電子がr=riで注入されて、円と接する場合、その軌道は円に追従し、その第1公転(revolution)でインジェクタを遮る。従って、riは、注入半径より小さい(インジェクタが通路の外側エッジ近くにある場合)、または大きい(インジェクタが通路の内側エッジ近くにある場合)ことが好ましい。r≠ri及び/又は注入円rの接線に対してある角度で注入された電子の軌道は、riに関して振動するようになる(ベータトロン振動)。第1磁束が増加すると、振動の振幅が減少して、riはr0に接近する(ベータトロンダンピング)。
【0043】
振動の軌道は、電子が最初の数回の公転でインジェクタを外れるようにできるが、ベータトロンダンピングが充分に高速でなければ、あるいはある電子軌道がインジェクタを遮らないようにriを変更するように第2磁束が導入されなければ、最終的に電子はインジェクタに当たってしまう。
【0044】
動作手順を説明するために、インジェクタを通路の外側エッジ近くに置いて、riがインジェクタ構造のちょうど内側にある例を考える。注入ウインドウの始めは、第2磁束が第1期間に形成され、これは反対の第2極性でコアの周辺部分を主に通過し、第1極性で電子通路を通って戻る。コア内で減少する磁束は、通路内の減速電界を誘起すると同時に、通路を通って戻る第2磁束は、電子軌道の近傍での磁界の増加を生じさせる。
【0045】
組合せ効果はriの急速な収縮をもたらし、電子軌道はインジェクタから遠ざかる。第1期間での収縮が有効(即ち、riを約2mm/公転で収縮させる)であるためには、コア内の第2磁束は、極めて高速なレートで立ち上がる必要がある。一般に、高速応答の磁気材料は、電子を所望のエネルギーに加速するのに必要な磁束を維持するのには不充分な低い飽和磁束密度を有する。
【0046】
最大エネルギーを低下させることなく高速な収縮を達成するために、コアは、低速(slower)で高い飽和磁束密度の内側を取り囲む高速(fast)フェライトの周辺部分を備えたハイブリッド構成である。第1期間では、riを減少させるのに必要な磁束の大部分が、高速フェライトの周辺部分を通過する。この第1期間の後、周辺部分は磁気飽和して、第2磁束はコアの内側を通過し、第1磁束との組合せにより電子を加速する。電子が最大速度に接近したとき、第2磁束の極性が反転して、これにより電子軌道を拡げて、電子をターゲットに衝突させX線を発生する。
【0047】
小さい直径のベータトロンの特徴のうち、ここで説明するものは、(i)磁石が、分離した2つのピースではなく単一ピースで構成され、磁石ピース間の0.5cmギャップが除去されている点、(ii)単一駆動コイルがコアセクションおよびガイド磁石の両方を駆動している点である。ベータトロン条件は、中心コア内の小さなギャップを含むことによって満たされ、(iii)コア周りの小さい、例えば、2回巻の巻線からなる軌道制御コイルは、軌道収縮のための磁束を提供する。磁極面周りの他の1回巻コイルは、コア巻線と反対の極性で直列接続が可能であり、主駆動コイルを軌道制御コイルから減結合(decouple)する。逆もまた同様である。しかしながら、収縮コイル部分およびバイアスコイル部分は、独立に駆動することが可能であることに留意する。
【0048】
これらの特徴は、2ピース設計に対して、特に、小さい3インチベータトロンでは幾つかの利点をもたらす。(i)より大きなコア面積に起因して、エネルギーが著しく高い。(ii)コア内のギャップは、閉ループコアの非線形性を著しく減少させ、よって温度に対して低下した感度を有することになる。油田ボーリング孔での動作は、ベータトロン磁石を中心で200℃、周辺で150℃に達する温度にさらすことになり、そのため磁石およびコアは、これらの予想される最大値を超えるキュリー温度を有する材料で製造される。(iii)電荷捕捉が、電子をインジェクタから遠ざけるためにガイド磁界の高速立ち上がりに依存しない機構で達成される。主駆動コイルは、高いインダクタンスを有することができる。これは、低い駆動電流および変調周波数に言い換えられ、その結果、低い電力消費およびインジェクタ電圧パルスプロファイルとの良好な整合をもたらす。
【0049】
図1は、ベータトロン磁石を断面図で示すものであり、磁石コア12を取り囲むように、戻りヨーク10と、第1ガイド磁石16と、第2ガイド磁石17とを含む。両方のガイド磁石16,17およびコア12は、長手軸13の周りで実質的に放射対称であり、中間面15に関して鏡面対称である。ガイド磁石16,17は、磁束を容易に伝導する、例えば、約2000の高い透磁率を有する軟磁性材料、例えば、セラミックマグネチック社(Ceramic Magnetics, Inc. of Fairfield, NJ)で製造されるMND5700フェライトで形成される。磁石コア12内の1つ又はそれ以上のギャップ26に起因して、透磁率が例えば、約2000程度に充分に高ければ、ベータトロン磁石の透磁率は、電子を加速し、方向付ける磁気特性にほとんど影響を与えない。
【0050】
ギャップ26は、エアギャップまたは、非磁性材料および非導電性材料で形成されたスペーサでもよい。戻りヨーク10は、例えば、フェライトまたは、アモルファス金属およびフェライト成分の両方を有するハイブリッドのような、後述するコアと類似する磁性材料で形成してもよい。
【0051】
図1を参照して、磁石コア12は、後述するように、高い飽和磁束密度の内側部分と、高速かつ低い飽和磁束密度の周辺部分を有する、あるいはその逆もまた同様の複合材料でもよい。主駆動コイル14は、ベータトロン磁石の内側部分で両方のガイド磁石16,17の周りに巻回される。典型的には、必須ではないが、主駆動コイル14は、10回またはそれ以上の巻線を有して電力消費を低減し、インジェクタパルス立ち上がり時間と関連して適切な第1磁束立ち上がり時間を有する。主駆動コイル14の起動により、電子を閉じ込めて、通路20の内部に収容された電子を加速する磁束を生成する。通路20は、ガイド磁石の磁極面21,23の間の空間にある領域である。安定した瞬間平衡軌道および電子の集束条件は、通路20の閉じ込めの範囲に存在する。
【0052】
図1は、通路20内に収容され、低熱膨張ガラスまたはセラミックで形成されたトロイダル形状のチューブ22を示しており、その内面は、例えば、100〜1000オーム/cm等の適切な抵抗性コーティングでコートされている。接地した場合、そのコーティングは、循環する電子ビームに対して有害な影響を有する過剰な表面電荷蓄積を防止する。ベータトロンの動作時、チューブ22の内部容積は、約1×10−8Torrから約1×10−9Torrの真空になり、残留ガス分子との衝突による電子損失を最小化している。チューブ22の内部容積は通路20と重なり合って、安定した瞬間軌道がチューブ壁を遮らないようにしている。
【0053】
ベータトロン条件を満たし、電子を相対論的速度に加速するには、下記の条件を満たす必要がある。
【0054】
【数2】

(1)
【0055】
ここで、r0は、ガイド磁石の磁極面のほぼ中心に位置する最適なベータトロン軌道の半径である。Δφ0は、r0の範囲で閉じ込められた磁束の変化である。ΔBy0は、r0でのガイド磁場での変化である。
【0056】
Δφ0とΔBy0の間のベータトロン条件は、1つ又はそれ以上のコアギャップ26の累積(cumulative)幅を適切に選択することによって満たされる。コアギャップ26は、エアギャップでもよく、またはボーリング孔の動作で約150℃となる動作温度を超える融点を有する非金属で非磁性の材料で充填してもよい。ギャップに適した材料は、ポリテトラフルロエチレンや同様なポリマーである。1つ又はそれ以上のギャップの累積幅は、コア12の磁気抵抗を設定し、コア12および通路20を通過する磁束の相対量を決定する。ギャップの累積幅が大きいほど、通路を通過する磁束が多くなる。3インチの磁極面直径および通路での約1cmの平均磁石ギャップ高さでは、コアギャップ26は約2.5mmの累積幅を有する。
【0057】
図2は、主駆動コイル14を通電することによって生成される磁界を示す磁束線18とともにベータトロン磁石を示す。
【0058】
図3は、チューブ22の内部容積を緯度断面で示す。電子28は、例えば、熱放射ディスペンサ型カソードなどの電子インジェクタ30から容積内に注入される。所定のエネルギーで注入された電子28の場合、瞬間平衡半径ri32において対応する軌道が存在し、曲げ磁力が遠心力とは反対で等しくなる。ベータトロン磁石にri32の内側または外側で注入された電子は、ri周りで振動運動を有する軌跡を示すようになり、この振動はベータトロン振動と称される。ベータトロン振動周波数は、軌道周波数より低速であり、ベータトロン振動ごとに容積周りの1回またはそれ以上の公転を完了するようになる。磁界が増加すると、ベータトロン振動の振幅が減少し、ri32はベータトロン軌道36ro(ベータトロンダンピング)および半径の終点(図1中の符号22)に接近する。小型ベータトロンにおいてインジェクタ30への衝突を回避するには、固有のベータトロンダンピングレートより高速なレートでriを変化させる必要がある。
【0059】
図4を参照して、コア磁場およびガイド磁場を独立に駆動することによって電荷捕捉が行われる先行技術の4.5インチベータトロンとは異なって、注入された電子を小型ベータトロンの内側に捕捉し、通路20によって規定されるチューブ22の内側の利用可能な容積を満たすには、riを操作して、急速に減少させるか(外側フリンジ近くの注入の場合)、または急速に増加させる(内側フリンジ近くの注入の場合)。軌道収縮は、コア12内の磁束を減少させる(電子を減速)ことによって、または軌道領域でのガイド磁場を増加させる(曲げ磁力を増加)ことによって、あるいは両方によって達成される。
【0060】
図4は、コアギャップ26の周りに巻回され、バイアスコイル40とは反対の極性で直列接続が可能である収縮コイル38を含む方法を説明している。しかしながら、収縮コイル部分およびバイアス制御部分は、独立に駆動することが可能であることに留意する。
【0061】
さらに、収縮コイル38およびバイアスコイル40(共に軌道制御コイルと称する)の組合せが、Δφ0およびΔBy0の両方を所望の方向に変化させるために用いられる。
【0062】
図5は、軌道制御コイル38,40および主駆動コイル14の関係の概念図である。主駆動コイルおよびバイアスコイル内に囲まれたエリアは、コアセクション12aとガイド磁石セクション16aに分割され、収縮コイルは2つのセクション間の境界に正確に配置される。収縮コイルを流れる電流iに起因した磁束φc,c=aNは、コアセクション12aを通過しなければならない。ここで、Nは収縮コイルの巻線回数であり、aは幾何形状だけに依存した設計パラメータである。この磁束は、通常、2つの戻りヨークを通って戻る。これらの経路は最低の磁気抵抗を有し、主駆動コイルと結合しているためである。
【0063】
図5を参照して、一方から他方への誘導電圧のために結合した収縮コイルおよび主駆動コイルを有することは望ましくない。低い電力消費を実現するためには、主駆動コイル14は、典型的には10回またはそれ以上の多くの巻数を有する。その結果、収縮コイルでの小さい電圧パルスは、主駆動コイル14での高い誘導電圧を生じさせ、これはコイルドライバー設計の複雑さだけでなく、収縮磁束に対する反作用をもたらす。
【0064】
再び図5を参照して、ガイド磁石16aの磁極面周りに巻回されたバイアスコイル40は、戻りヨーク内の第2磁束をキャンセルすることによって、収縮コイルを主駆動コイル14から減結合(decouple)する。バイアスコイル40は、コアセクション12aとガイド磁石セクション16aの両方を取り囲んでいるため、その磁束φは、これら2つのセクションでの磁束の合計として表される。
【0065】
【数3】

【0066】
ここで、Nはバイアスコイルの巻線回数であり、bは幾何形状だけに依存した設計パラメータである。i=−iは、バイアスコイルに流れる電流であり、収縮コイル電流と同じで、反対極性である(これらは直列接続でもよく、独立駆動でもよい)。バイアス条件(戻りヨーク内の磁束の完全キャンセル)は、下記の条件で満たされる。
【0067】
【数4】

【0068】
右側は正である必要があるため、N>Nとなる。
【0069】
コア周りで利用可能な空間が制限されているため、可能な限り小さいNを有することが望ましい。小さいNは、高速な収縮速度を達成するのに不可欠な低いインダクタンスをもたらす。Nは、少なくとも1回巻である必要があるため、Nの最小巻線回数は2である。これは、磁石がa=bとなるように設計した場合である。この条件は、等磁束分配(equal flux partition)と称される。バイアスコイルに起因した磁束は、コアセクション12aとガイド磁石セクション16aの間で等しく分配されるためである。これは、主駆動コイルからの磁束についても当てはまる。磁石は、等磁束分配がベータトロン条件と整合するように設計される。
【0070】
さらに図5を参照して、組み合わせた収縮コイルおよびバイアスコイル(共に軌道制御コイルと称される)に起因してコアセクション12aを通る第2磁束は、1/2φc,cであり、ガイド磁石セクション16aを通って戻る。第2磁束は、φc,cの半分だけであるため、軌道制御コイルの見かけインダクタンスは、収縮コイルインダクタンスの1/2である。低いインダクタンスは、高い軌道収縮速度を達成するために重要である。
【0071】
さらに図5を参照して、収縮コイルおよびバイアスコイルは反対の極性で接続されるため、収縮コイルの2回巻の1つはバイアスコイルの反転巻線とみなすことができる。これらは共に、ガイド磁石セクション16aと第1極性で結合するだけであり、一方、収縮コイルでの他の残りの巻線は、コアセクション12aと第2極性で結合するだけである。収縮コイルおよびバイアスコイルは共に、図5に示すような8の字構成を形成する。コアセクション12aおよびガイド磁石セクション16a内の磁束は、同じ大きさで反対の極性であり、磁束変化は下記のように表される。
【0072】
【数5】

【0073】
主駆動コイル14は、両方の領域を囲んでいるため、主駆動コイルと軌道制御コイルの間の純磁束鎖交はゼロであり、一方のコイルから他方のコイルへの干渉はない。
【0074】
図6を参照して、収縮磁束47は、軌道領域付近での高速な減速電界と、主駆動コイル磁束18に起因した低速立ち上がりガイド磁石磁場の上部においてガイド磁石磁場の増加とを誘起する。電子がガイド磁場と関連して減速すると、その瞬間平衡軌道が収縮し、電子は磁極面の外側エッジ近くに配置されたインジェクタから遠ざかる。5kVの注入エネルギーを持つ3インチのベータトロンでは、電子が約250V/公転のレートで減速し、インジェクタから邪魔にならないように電子を操縦する。
【0075】
軌道制御コイルは、電子注入および電子抽出の際、短い期間だけ活性化される。電子注入と電子抽出の間は、軌道制御コイルは短絡しており、磁束促進(forcing)状態と称される。磁束促進状態では、軌道制御コイルは、主駆動コイルの等磁束分配条件を強制し、これにより磁束促進条件がベータトロン条件になるようにする。例えば、コアの一部が加速時に飽和した場合、磁束のその部分を伝搬する負担は、軌道制御コイル中の誘導電流に起因して、残りのコアにシフトする。
【0076】
また図6を参照して、ベータトロンのサイズを減少させると、磁石コア12は減少した直径を有する。先行技術のベータトロンでのコアのように、コアをフェライトで形成した場合、より小さい磁束変化に起因して終点エネルギーの損失が出てくる。このエネルギーは、フェライトよりも高い飽和磁束を有する材料を用いて回復してもよい。しかしながら、小さい直径のベータトロンの動作に伴って2つの大きく異なる時間スケールが存在する。1つは、電子が安定した軌道に捕捉された後、終点エネルギーまでの電子の加速を要するものである。全エネルギーへの加速は、典型的には約30μsを要する。他方のより短い時間スケールは、電子がインジェクタから離れた後、失われる前に、電子の捕捉を要するものである。成功する捕捉時のウインドウは、典型的には100ns未満である。適切な高磁束密度材料は、フェライトよりかなり低速である。これらは加速にとって充分であるが、捕捉プロセスにとってはあまりに低速である。
【0077】
ハイブリッドコア12’は、図7の平面図で示すように、高速フェライトの弓形ピース56によって囲まれたアモルファス金属、例えば、Metglas(日立金属製Hitachi Metal of Conway, SC)で形成された中心部分54を有する。Metglasブロックは、高い飽和磁束密度を有し、加速磁束の大部分を伝搬し、一方、高速フェライトピースは、電子注入時に必要な高速スイッチング速度を提供する。
【0078】
図8を参照して、フェライトピース56は、電子軌道と急速に接触するために用いられる磁束スイング50を提供し、一方、中心部分54の低速アモルファス金属は、電子を全エネルギーに加速するために必要な磁束24を提供する。電子捕捉時の全体磁束スイングはかなり小さいため、必要なフェライトは少量だけである。
【0079】
図9を参照して、成功した捕捉の後、フェライトピース56は、不具合な影響なしで飽和し、アモルファス金属の中心部分54は引き続いて電子を所望のエネルギーに加速する。通常、コアの一部の飽和は、主駆動コイル磁束を12aと16aの間で再分配し、ベータトロン条件の破綻をもたらす。しかしながら、磁束促進状態で軌道制御コイルを用いると、等磁束分配からの逸脱は不可能であり、ビーム損失が回避される。
【0080】
いったん電子が所望のエネルギーに到達すると、収縮コイルおよびバイアスコイルを適当な方向に流れる電流サージは、電子ビームを磁界と関連してより高速に加速して、ビーム軌道をターゲットへ移動させる。
【0081】
また図9を参照して、高磁束密度材料とほぼ同様に、アモルファス金属中心部分は積層コアである。積層は、コア形状に不要な異方性を導入する。コア54の周りのフェライトピース56は、臨界的な初期加速段階の時に軌道領域を異方性から遮蔽する。いったん電子が充分なエネルギーを獲得すると、電子は磁界の攪乱に対してあまり敏感でない。
【0082】
図10は、小型ベータトロンを駆動する変調器回路を概略的に示す。ボーリング孔検層に使用する場合、利用可能な電力60は、検層トラックからDC低電圧で1アンペア未満の電流の形態で供給される。小型ベータトロンは、公称ピーク電流170A、公称ピーク電圧900Vのパルス源を必要とする。変調器回路は、低電圧で低電流のDC電力を高電圧で大電流のパルス電力に効率的に変換するのに有効である。主コイル14(図10中のL2)を駆動する概念は、Chen et alによる米国特許第5077530号に開示されている。米国特許第5077530号は、参照によりここに全体として組み込まれる。図10は、米国特許第5077530号の概念を拡張し、本発明で開示した軌道制御概念の実用例を説明する。
【0083】
また図10を参照して、主駆動コイルL2は、キャパシタC1,C2と直列接続され、C1の静電容量はC2の静電容量よりかなり大きく(100倍またはそれ以上のオーダー)、修正したLC放電回路を形成している。スイッチS1が初期にパルスで閉じると、低電圧DC電源60は、充電チョークL1を介してキャパシタC1を充電する。高電圧キャパシタC2は、初期に同じ電圧に充電されている。そして、C1でのエネルギーは、次のパルスでC2に転送される。
【0084】
エネルギー転送は2つの段階で生ずる。第1段階では、スイッチS2,S3が閉じて、エネルギーが両方のキャパシタC1,C2からベータトロン駆動コイルL2へ流れる。ベータトロン磁石でのエネルギーが最大に到達すると、スイッチS2,S3が同時に開いて、エネルギーがダイオードD2,D3を介して高電圧キャパシタC2に流れる。こうしてベータトロンは、フライバックオートトランスとして機能する。
【0085】
各放電−回復サイクルの後、低電圧キャパシタC1でのエネルギーは、スイッチS1を閉じることによって充電チョークL1を介して補充される。C2の電圧が高くなると、各パルスで放電されるエネルギーが増加し、全体の回路損失もそうなる。数パルス後、C1から放電されたエネルギーは回路の全体損失と等しくなり、これ以上のエネルギーは転送されない。以後、C2の電圧は各放電−回復サイクルの前後で放電されなくなり、変調器は、その通常動作状態に到達する。
【0086】
また図10を参照して、C1,C2は、C2よりかなり大きい静電容量を有するC1と直列接続されている。LCの実効インピーダンスはCであり、これはC2とほぼ等しい。L2のインダクタンスは、公称で134μHであり、励起エネルギーは、1/2(L2)(I2)であり、これは1/2(C2)(V2)とほぼ等しく、I2が約170Aであるとき約1.9ジュールである。
【0087】
C2の減少は、より短い放電および回復時間と、減少した損失をもたらすが、より高い電圧を必要とする。最大電圧は、半導体(solid state)のスイッチおよびダイオードの絶縁破壊電圧によって制限される。また、C1は、充分な電圧利得にとって充分大きくしなければならない。C1,C2の有効な値は、公称でそれぞれ600μfと5μfである。
【0088】
1.5MeVビーム、変調器回路効率90%、平均電力400Wでは、パルス当たりの放電エネルギーは約2ジュール、V1は約40V、V2は約900V、パルス周波数は約2kHzである。
【0089】
図10を参照して、軌道制御コイルL3は、抽出コイル38と、バイアスコイル40とを含む。軌道制御コイルは、3つの機能、即ち、電子注入時の軌道収縮、加速時の磁束促進、および抽出時の軌道拡大を実施する。収縮電圧パルスは、高速な遮断を必要とするが、あまり多くのエネルギーを要しないため、キャパシタC4は小さくてもよく、200〜300Vの保存電圧で公称0.015μfである。C3は、より大きいキャパシタで、5μfのオーダーであり、1.5MeVビームの軌道を拡大するのに必要なエネルギーを保存する。C3の電圧は、約120〜150Vである。
【0090】
軌道制御コイルL3のためのドライバは、主ドライバ回路として、そのエネルギーを同じ充電チョークL1から引き出す。しかしながら、その入力インピーダンスはかなり高く、そのためS1が閉じたとき、大部分のエネルギーがC3ではなくC1に流れる。C3へのエネルギーの流れを迂回させるために、S1はオフになる。S1のタイミングは、充電電圧レベルとともに、両方のC1とC3での電圧制御を行う。エネルギーがC1からC2へ転送されるのとほぼ同じ方法で、S4を適切な時間にオンにすることによって、C3でのエネルギーの一部がC4へ転送される。
【0091】
さらに、図10は、軌道制御タイミング手順は、S6を導通状態に切り換えることによって起動することを示す。注入エネルギーが局所磁界と整合する場合、S7が閉じて、C4の電圧が制御コイルL3に印加される。これは起動収縮プロセスを起動する。公称1μs未満の短い遅延の後、S7が開いて、L3での電流がS6およびS5のボディ(body)ダイオード62を通って流れ続ける。この時点で、S5はオンに切り替わり、S5,S6は導通であるため、制御コイルL3は基本的に両方向で短絡する。L3の両端電圧は、ダイオードの順方向電圧および他のオーミック電圧降下に起因して約1Vに降下する。
【0092】
制御コイルL3は短絡しているため、コアの一部および磁極面が飽和していても、コア磁束変化は常にガイド磁束変化と等しくなければならない。このことは、制御コイルが磁束促進状態にあると称される。基本的には、短絡した制御コイルは、コアセクション12aとガイド磁石セクション16aの間で磁束の等分配を強制する。何らかの理由(例えば、磁石の一部での部分飽和)で、ガイド磁石セクション16aおよびコアセクション12aでの磁束が等分配条件から逸脱した場合、電流は起動制御コイルに誘導され、その条件を回復する。磁束の等分配がベータトロン条件と一致しているため、それを強制することはまた、ベータトロン条件が常に満たされることを保証する。
【0093】
図10を参照して、磁束が低い場合、磁束促進状態は、ほとんどまたは全く重要ではない。しかしながら、磁束が増加すると、コア内および磁極面の外側リムでの縁でのフェライトピースが飽和する。適切な磁束分配条件を強制する制御コイルL3が無ければ、ベータトロン条件はすぐに壊れて、ビームは1.5MeVに達する前に失われる。制御コイルL3が磁束促進状態にある場合、L3での電流はゆっくり減少し、最終的に方向を変化させる。この時点で、S6は、有害な影響なしでオフに切り替え可能である。電流はそのボディダイオード64を通って流れるためである。
【0094】
主駆動コイルL2電流のピークでは、ビームは約1.5MeVであり、S4が閉じて、S5が開く。これはL3での電流の極性を変化させて、電子軌道は拡大し始める。必要なエネルギーの最小量は、制御コイルL3電流のピークで全ての電子がターゲットに掃き出されるともに、C3での電圧がゼロになる。ピークの後、電流は減衰して、C3での電圧は反対極性で高くなる。適当な時間で、制御電流は同じ方向のままであるが、S4が開いて、L3での残りのエネルギーがS7のボディダイオード66を通ってC4へ転送される。
【0095】
C4はC3よりかなり小さいため、電流は急速に低下し、最終的にその極性を変化させ、この時点でC4の充電が停止する。そして、電流はS4のボディダイオード86を通ってC3へ逆流して、C3の電圧が適当な極性に回復する。全てのエネルギーがC3に戻った後、それはチョークL1を介して再充電され、次のパルスの準備を整える。
【0096】
本発明の1つ又はそれ以上の実施形態を説明した。それでも本発明の精神および範囲から逸脱することなく種々の変更が可能であることは理解されよう。例えば、インジェクタを通路の内側に配置するなど。前述した例は説明目的ためだけに提供してものであり、本発明の限定として解釈すべきでないことに留意する。本発明は、例示の実施形態を参照して説明したが、ここで使用した用語は、説明および例示の用語であり、限定の用語ではないことは理解されよう。現在記載され、そして補正されるような添付の請求項の範囲内で、その態様において本発明の範囲および精神から逸脱することなく変更が可能である。本発明はここでは特定の手段、材料および実施形態を参照して説明したが、本発明はここで開示した特定のものに限定されることは意図していない。むしろ本発明は、機能的に均等な構造、方法および用途の全て、添付の請求項の範囲内にあるものに拡張される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベータトロン磁石であって、
第1磁極面を有する第1ガイド磁石および第2磁極面を有する第2ガイド磁石を備え、前記第1ガイド磁石および前記第2ガイド磁石の両方は、中心配置のアパーチャを有し、前記第1磁極面は、ガイド磁石ギャップによって前記第2磁極面から分離しており、
前記第1ガイド磁石および前記第2ガイド磁石の両方と当接する関係で、中心配置のアパーチャ内に配置され、少なくとも1つのコアギャップを有するコアを備え、
前記第1磁極面および前記第2磁極面の周りに巻回された駆動コイルを備え、
前記少なくとも1つのコアギャップの周りに巻回された収縮コイル部分、および前記第1磁極面および前記第2磁極面の両方の周りに巻回されたバイアスコイル部分を有する軌道制御コイルを備え、前記収縮コイル部分および前記バイアスコイル部分は、反対の極性で接続されており、
前記コア、前記第1および前記第2ガイド磁石内の磁束が、ベータトロン磁石の1つ又はそれ以上の周辺部分を通って戻るようにしており、
前記駆動コイルおよび前記軌道制御コイルへの電圧パルスを供給するのに有効な回路を備え、
前記ガイド磁石ギャップの内側に配置された電子加速通路を備えたベータトロン磁石。
【請求項2】
前記コアは、高い飽和磁束密度の中心部分と、高速応答の高い透磁率の磁性材料で形成された周辺部分とを有するハイブリッドである請求項1記載のベータトロン。
【請求項3】
前記中心部分は、アモルファス金属であり、前記周辺部分は、100より大きい透磁率を持つフェライトである請求項2記載のベータトロン。
【請求項4】
前記少なくとも1つのコアギャップの累積幅が、ベータトロン条件を満たすのに有効である請求項2記載のベータトロン。
【請求項5】
前記少なくとも1つのコアギャップの累積幅は、2ミリメートル〜2.5ミリメートルである請求項4記載のベータトロン。
【請求項6】
前記少なくとも1つのコアギャップは、多重ギャップで形成される請求項4記載のベータトロン。
【請求項7】
前記第1磁極面および前記第2磁極面の両方の直径が2.75インチ〜3.75インチである請求項4記載のベータトロン。
【請求項8】
前記収縮コイル部分の巻数と前記バイアス制御部分の巻数の比が2:1である請求項4記載のベータトロン。
【請求項9】
前記駆動コイルの巻数と前記バイアスコイルの巻数の比が少なくとも10:1であり、駆動コイルの巻数が少なくとも10である請求項8記載のベータトロン。
【請求項10】
前記回路は、公称ピーク電流170Aおよび公称ピーク電圧900Vを供給する請求項9記載のベータトロン。
【請求項11】
油田ボーリング孔への挿入に有効なゾンデに装着される請求項10記載のベータトロン。
【請求項12】
X線を発生する方法であって、
第1磁極面を有する第1ガイド磁石および第2磁極面を有する第2ガイド磁石を含み、第1ガイド磁石および第2ガイド磁石の両方は、中心配置のアパーチャを有し、前記第1磁極面はガイド磁石ギャップにより前記第2磁極面から分離しており、前記第1ガイド磁石および前記第2ガイド磁石の両方に当接する関係で、中心配置のアパーチャ内に配置されたコアを含み、前記コアは少なくとも1つのコアギャップを有するようにしたベータトロン磁石を用意するステップと、
前記ガイド磁石ギャップを電子通路と外接させるステップと、
前記ベータトロン磁石の中心部分、前記コアそして電子通路を通過して、前記ベータトロン磁石の周辺部分を通って戻る、第2極性とは反対の第1極性の第1磁束を形成するステップと、
前記第1磁束が前記第1極性でほぼ最小強度になったとき、電子を電子通路内の電子軌道に注入するステップと、
注入された電子軌道を最適なベータトロン軌道に圧縮するのに有効な第1時間では第1極性で、前記コアの周辺部分を通過して前記電子通路を通って戻る第2磁束を、反対の第2極性に形成するステップであって、第1時間の後、前記コアの前記周辺部分が磁気飽和し、前記第2磁束がコアの内側部分を通過して、前記第1磁束との組合せで前記電子を加速し、これにより磁束促進条件を強制するようにしたステップと、
前記第1磁束が最大強度に接近した場合、前記第2磁束の極性を反転させ、これにより前記電子軌道を拡大して、前記電子をターゲットに衝突させてX線の放出を生じさせるステップとを含む方法。
【請求項13】
前記第1磁束は、前記第1磁極面および前記第2磁極面の両方の周りに巻回された駆動コイルを通電することによって形成される請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記第2磁束は、前記少なくとも1つのコアギャップの周りに巻回された収縮コイルを通電することによって形成される請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記ベータトロン磁石の前記周辺部分内の前記第2磁束の戻り部分が、前記第1磁極面および前記第2磁極面の両方の周りに巻回されたバイアスコイルによって生成される磁束によって打ち消される請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記バイアスコイルは、前記収縮コイルと反対の極性で、直列で電気接続される請求項15記載の方法。
【請求項17】
バイアスコイル磁束と第2磁束との比は、第2磁束が前記電子通路を通って戻るのに有効であるようにした請求項16記載の方法。
【請求項18】
収縮コイルの巻数とバイアスコイルの巻数の比が2:1である請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記コアを、高い飽和磁束密度の中心部分と、高速応答の高い透磁率の周辺部分とを有するハイブリッドとして形成することを含む請求項17記載の方法。
【請求項20】
前記第1時間は、100ナノ秒のオーダーである請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記第1極性での最小強度から前記第1極性での最大強度までの時間は、30マイクロ秒のオーダーである請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記第1磁束および前記第2磁束は、前記電子を1MeVより高く加速するのに有効である請求項17記載の方法。
【請求項23】
前記駆動コイルの巻数と前記バイアスコイルの巻数の比が10:1である請求項17記載の方法。
【請求項24】
前記駆動コイルは、公称ピーク電流170Aおよび公称ピーク電圧900Vの繰り返し電圧を供給する変調回路によって駆動される請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記電圧は、公称レート2kHzで繰り返すようにした請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記軌道制御コイルは、電子軌道の拡大または収縮の時に120〜150Vでパルス動作し、電子加速時に短絡している請求項25記載の方法。
【請求項27】
前記X線は、油田ボーリング孔を介して地下地層に向けられる請求項22記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2010−521057(P2010−521057A)
【公表日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−553847(P2009−553847)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際出願番号】PCT/US2008/077738
【国際公開番号】WO2009/079063
【国際公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(509082178)シュルンベルジェ ホールディングス リミテッド (16)
【Fターム(参考)】