単球由来の自己寛容誘導性自家細胞および薬学的組成物におけるその使用
自己寛容障害を伴う疾患の予防および/または治療のための改良された方法を提供することが、本発明の根底にある問題である。本発明は、自己寛容障害、特に自己免疫疾患およびアレルギーを伴う疾患の予防および/または治療に適切な単球由来の細胞、およびこれらの細胞を含む薬学的調製物に関する。上記細胞は、投与を受けている患者自身に対して自己由来である。さらに本発明は、自己の調節性T細胞を産生および/または増殖する方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者において免疫学的自己寛容を誘発しうる単球由来の自家細胞に関する。これらの細胞は、これ以降「STIC」(自己寛容誘発細胞)と言う。さらに本発明は、自己寛容障害、特に自己免疫疾患およびアレルギーを伴う疾患の予防および/または治療のための薬学的調製物におけるSTICの使用に関する。
【0002】
本発明において、語句「自己(由来)」とは、STICが、該STICを投与している各患者の血液中の単球に由来することを言う。
【0003】
本発明の細胞が調節性T細胞(TregCD4+25+)を誘発しうることが本発明者によって示された。したがって本発明は、調節性T細胞の誘導および/またはインビトロ製造にも関する。
【背景技術】
【0004】
免疫機構は、存在する微生物に関して、潜在的病原性抗原から体を保護する一方で、本来なら、体それ自身の構成成分と反応することは避け、すなわち、健康な免疫機構は「自己抗原」を黙認する。
【0005】
自己寛容障害は、特別な適応(後天的な)免疫応答が自己抗原に取り付けられた時に起こる。
【0006】
外来性抗原に対する適応免疫応答の正常な帰結は、体から抗原を浄化することである。しかし、適応免疫応答が自己抗原に対して発症した場合、免疫効果機序が抗原を完全に除去することは通常不可能であり、したがって、持続的反応が起こる。その結果、免疫能のエフェクター経路は、組織に慢性の炎症性障害を起こし、それは死に至る場合もある(Immuno Biology 5,The Immune System In Health and Disease,Garland Publishing 2001,Chapter 13,pages501−522参照)。
【0007】
適応免疫応答は、抗原−特定のTおよび/またはB細胞の活性によって開始され、自己免疫も同じように開始されると信じられている(Immuno Biology,loc.cit.p501)。
【0008】
本発明の好ましい実施形態の1つは、STICを含む薬学的調製物を使用した、自己免疫疾患の治療および/または予防に関する。
【0009】
自己免疫疾患は、主として2つのパターンに区別される。自己免疫症状の発現が体の特定の器官に限定される疾患は、「器官特異」自己免疫疾患として知られ、一方、「全身性」自己免疫疾患においては、体の多くの組織が影響を受ける。器官特異自己免疫疾患の例として、橋本病、グレーブス病(これらはそれぞれ優先的に甲状腺に影響する)、およびI型インスリン依存性糖尿病(これは膵島に影響する)が挙げられる。全身性自己免疫疾患の例としては、全身性紅斑性狼瘡および原発性シェーグレン症候群(これは皮膚、腎臓および脳の多種多様な組織が全て影響を受ける)(Immuno Biology,loc.cit,503ページ、参照)が挙げられる。
【0010】
T細胞媒介性であると主に信じられている自己免疫疾患、たとえば、インスリン依存性糖尿病、リウマチ性関節炎および多発性硬化症があり、一方、細胞表面やマトリックス抗原への抗体の形成が主な役割を果たす、たとえば、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性血小板減少性紫斑病、グッドパスチャー症候群、尋常性天疱瘡あるいは急性リウマチ熱におけるような事例もあり、さらに別に、たとえば混合型クリオグロブリン血症、全身性紅斑性狼瘡あるいはリウマチ性関節炎のような、T細胞およびB細胞の両方が関与する免疫複合疾患のグループもある(Immuno Biology,loc.cit,502頁の図13.1参照)。
【0011】
本発明のさらなる実施形態は、薬学的調製物として製剤化された本発明のSTICによるアレルギーの治療に関する。
【0012】
近年、調節性T細胞が、免疫恒常性維持の調整において重要な役割を果たすこと、すなわち、免疫学的自己寛容を始めとして、いかなる感染あるいは抗原関連標的に対しても免疫応答ができあがっていることが示唆されている(Takeshi Takahashi and Shimon Sakaguchi,International Review of Cytology,225,1−32(2003);Shimon Sakaguchi,Vox Sang 83,151−153(2002),Kathryn J.Wood and Shimon Sakaguchi,Nature Reviews Immunology,3.199−210(2003)参照)。
【0013】
Takahashi et al.,loc.cit.page1,Abstractが述べるように、「自己反応性T細胞のT細胞媒介性優勢遺伝子調整は、免疫学的自己寛容の維持を助長し、その交代が自己免疫疾患の発症を促すことを示唆する証拠が蓄積されている。そのような調節性T細胞集団を描く努力によって、ヒトを始めとする正常な未処理動物におけるCD4+細胞集団内のCD25+細胞が制御活性を有することが明らかになった。CD25+プラスCD4+調節性T細胞は、T細胞の機能的に区別されたサブ集団として、正常な胸線によって産生される。これらは、自己免疫予防においてだけでなく、種々の免疫反応の調整においても重要な役割を果たす。」
T細胞媒介性自己免疫疾患の他にも、免疫機構のB細胞コンパートメントが、自家細胞(マスト細胞を含む)、組織および器官構造に対する抗体の産生を伴う自己攻撃性疾患を誘発できる。
【0014】
B細胞活性化は、ヘルパーT細胞が特定の抗原位上でクローナルB細胞性増加を刺激するといった方法で、T細胞ヘルプに依存することはよく知られている。該抗原は断片化されたアレルゲンから誘導されてもよく、これらは次いでT細胞内で小分子ペプチドにされる。次いで、抗原特異的活性化を促すために、MHC制限の形で提供される。
【0015】
特定のアレルゲンによって引き起こされ、一方でアレルギー性疾患を起こし、また他方で自己寛容障害を誘発しうる(前述を参照)、調整不可能なあるいは過剰なB細胞の活性化を回避するために、調節性T細胞は、B細胞の活性化と関係しているT細胞を阻害する能力を持ち、過剰で調整不可能な抗体産生を妨げる。
【0016】
したがって、自己免疫疾患と同じように、アレルギー性疾患もまた、調節性T細胞(CD4+/CD25+T細胞)の量が増加することによって、影響を受け、コントロールされうる。特に、EAE(「実験アレルギー性脳脊髄炎」)を患うマウスにおいて、CD4+T細胞をこれらの動物に投与して2週間で疾患は軽減され、治療にはさらなる疾患の誘発を伴うことがないことが示された(Bach,J.F.’’Regulatory T Cells under Scrutiny’’Nature Reviews Immunology 3:189−198(2003);Lando,Z.et al.’’Effect of cyclophosphamide on suppressor−cell activity in mice unresponsive to EAE’’J.Immunol.123:21556−2160(1979))。これらの効果は、自己免疫性糖尿病の進行をCD4+細胞の投与によって止まらせ、さらに新たに自己免疫疾患が出現することを阻止したNODマウス(Bach,J.F.,loc.cit.)で示された効果と似ている。
【0017】
自己免疫反応を伴ってもよい、アレルギー性疾患の例は、自己のものでないタンパク質、体が出会う有機および無機物質によって誘発されるアレルギーの全てのタイプである。この点で特に重要なものは、花粉によって誘発されるアレルギー、たとえば花粉症、および薬、化学薬品、ウイルス、バクテリア、菌類、ハウスダスト、食品成分、金属、ガス、皮膚落屑や髪の毛のような動物の体の成分および動物の排泄物のようなアレルゲンによって誘発されるアレルギーである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
現時点で、自己寛容障害によって起こる疾患の予防および/または治療に関する効果的な治療は入手できていない。
【0019】
器官特異自己免疫疾患に関しては、代替治療、移植、コルチゾンのような抗炎症薬を使用する症候性治療が通常行われている。全身性自己免疫疾患に関しては、免疫抑制剤が治療のためにしばしば使用される。明らかに、これらの「治療」は多くの点で問題があり、重篤な副作用を発症する。
【0020】
集団の5%までは、自己免疫疾患に冒されていると推定される(Sakagushi,loc.cit.,151頁、左欄)。したがって、扱いやすく、健康を脅かす副作用を伴わず、このような治療に適用される現時点で方法および薬剤に関し高い費用の掛からない、自己寛容障害を伴う疾患の予防および/または治療のための有効な手段の存在が早急に求められている。
【0021】
したがって、自己寛容障害を伴う疾患の予防および/または治療のための改良された方法を提供することが、本発明の根底にある問題である。
【課題を解決するための手段】
【0022】
この問題の解決のために、脊椎動物、特に哺乳動物、さらに好ましくはヒトからの単球由来の自己由来の自己寛容誘発細胞(STIC)を使用することが提案されている。これらの細胞は、以下に記載する本発明の方法によって得られ、該方法によって個体の中の調節性Tリンパ球(CD4+/CD25+T細胞)の量を増やすことができる変性細胞が得られる。約105個の細胞/kg体重(BW)の投与の後、これらの細胞は、自己寛容障害を伴う疾患を適切に予防および/または治療する。
【0023】
(発明の要旨)
単球由来の自己に由来する自己寛容誘発細胞(STIC)を生成する方法の基本的な工程は、
(a)細胞を投与すべき患者のそれぞれの血液から単球を単離する工程と、
(b)成長促進剤としてマクロファージコロニー刺激因子(以下M−CSFという)を含む適切な培地中で、単球を増殖させる工程と、
(c)単球をγ−インターフェロン(以下γ−IFNという)で刺激する工程と、
(d)工程c)で形成された自己寛容誘発細胞を、培地から細胞を分離することによって得る工程、
とを含む。
【0024】
類似の方法がドイツ特許出願第DE10231655.4号明細書および国際特許出願国際特許出願PCT/EP03/07551号明細書の明細書に記載されている。上記の先願の特許出願には、生成された細胞は、「移植受容誘発細胞」(TAIC)と呼ばれる。これらは、受容者における同種異系のドナー組織の受容を誘発するために使用される。重要なことは、ドイツ特許出願第DE10231655.4号明細書および国際特許出願PCT/EP03/07551号明細書に記載されているTAICは、ドナーの単球から誘導されたものであり、移植の受容を誘発するために、受容者に投与することである。これは、TAICは、TAICで処置すべき個体に対し同種異系であることを意味する。
【0025】
これに対して本発明は、「自己由来の治療」の概念に基礎を置く。これは、自己寛容障害、特に自己免疫疾患および/またはアレルギーを患う個体が、自己由来の単球から誘導される、自己寛容誘発細胞(STIC)で処置されることを意味する。
【0026】
したがって、TAICとSTICとは両方とも、本質的に同じ方法によって単球から誘導されるが、TAICは処置されるべき患者に対して同種異系であり、一方、STICはこの点において自己由来である。
【0027】
STICを生成する方法に関しては、γ−IFNによる刺激が決定的な工程を表すことが示されている(実施例2参照)。
【0028】
本明細書において、語句、単球由来の自己寛容誘発細胞(STIC)は、上記方法の工程d)で得られる細胞集団をいう。この細胞集団は、自己寛容、またリンパ球の誘発(実施例4参照)において効果のある単球から誘導される細胞に加えて、リンパ球も含み(実施例4参照)、さらに、場合によっては、たとえば顆粒球のような単核球細胞画分から誘導される細胞も含む。STIC集団内の単球から誘導される細胞の量は、好ましくは全細胞数の50〜90%、さらに好ましくは60〜70%である。
【0029】
本発明に関して、語句「全細胞の数」は、考慮中の細胞集団中の生活細胞の量をいう。この量は、染料が、光学的手段によって非生活細胞から生活細胞を区別することが可能であるから、「トリパンブルー分染法」によって測定することができる。
【0030】
自己寛容を誘発するのに、STICは、通常、体重1kg当たり104〜106個の細胞が使用され、好ましくは体重1kg当たり105個の細胞が使用される。STICの投与は繰り返し行ってもよい。
【0031】
本発明によるSTICは、悪性腫瘍の形成に関し、動物実験でも培養物においても危険性がないことが証明されている。これは、本発明による細胞が誘導されるオリジナル単球細胞の性質ゆえ、他のどんな方法においても予測できなかった結果である。
【0032】
以下で詳しく説明するように、さらに最適に自己寛容を誘発する特性を有する細胞のサブ集団も、STIC中に存在する細胞の画分から単離することができ、これらは単球から誘導される。
【0033】
γ−インターフェロンでオリジナル細胞(単球)をインビトロで培養および刺激した後、細胞のサブ集団を含むSTICを形成する(実施例3参照)。これは、モノクローナル抗体GM−7に結合し、ハイブリドーマ細胞株DSM ACC2542によって発現する。該モノクローナル抗体GM−7は、イムノグロブリンイソ型IgG2aの抗体であって、その軽鎖は、カッパーイソ型を発現する。オリジナル単球細胞は認識されない、すなわち、オリジナル細胞に対する抗体の結合は起こらない(実施例3参照)ため、この抗体の特徴的特性は、本発明による培養条件によって変性された単球に対し結合する緊縮な能力にある。さらに、GM−7は抹梢血液中のヒト細胞には結合しないことが20人のボランティアによって実証された(図5参照)。
【0034】
国際特許出願PCT/EP03/075551号明細書に記載されているように、抗体は、ヒト単球から誘導されたTAIC(STICに相当する)で、当業者に知られた方法を使用して、マウスに免疫化することによって生成された(Davis,W.C.’’Methods in Molecular Biology:Monoclonal Antibody Protocols’’,New York:Humana Press Inc.Totowa,1995)。次いで、該マウスから、抗体と骨髄腫細胞とを産生するB細胞の融合によってハイブリドーマ細胞株を製造した。このような細胞株の生成のために使用される方法は、現在の技術水準で公知である(Davis,W.C.’’Methods in Molecular Biology:Monoclonal Antibody Protocols’’,New York:Humana Press Inc.Totowa,1995;Kohler,G.,Milstein,C.’’Continuous cultures of fused cells secreting antibody of predefined specificity’’,Nature 256,495−497(1975))。抗体GM7を産生するハイブリドーマ細胞株は、DSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkultur GmbH、ブラウンシュバイク、ドイツ)でのブタペスト会議の規則に従って、登録No.DSM ACC2542にて寄託した。
【0035】
図1に、フローサイトメトリーによって測定した本発明によるインビトロ変性後のGM−7の単球に対する結合能力を示す。単核球細胞画分から直接得たCD14陽性単球は、抗体GM−7(影の付いた灰色の部分が、影のない抗体コントロールと一致する)に結合しないことがわかる。対照的に、M−CSFの存在下で培養しγ−IFNで刺激した後、単球の一部は、モノクローナル抗体GM−7によって認められる抗原を発現する。該モノクローナル抗体GM−7は、イソ型κ−IgG2aとして特徴付けられる。したがって、本発明の方法は、変性された単球の細胞膜上の抗原発現の表現パターンの変化をもたらす(図1)。
【0036】
モノクローナル抗体GM−7は、本発明による方法によって生成された細胞の中でも、最も効果のある自己寛容誘発細胞を誘発する細胞集団に特に結合する(図5参照)。
【0037】
したがって、本発明の好ましい実施形態は、そのような、つまり抗体GM−7を結合することができるSTICに関する。これらの細胞をこれ以降STICGM7と言う。
【0038】
したがって、本発明による抗体GM−7は、非常に効果的で、自己寛容を誘発する細胞(STIC)を選択し精製するための薬剤の取り扱いが簡単であることを示す。該抗体を用いて、本発明により、均質で効果が非常に高いSTIC集団を産生することが可能である。
【0039】
本発明の好ましい実施形態によれば、上記本発明の方法の工程c)で形成された、抗体GM−7に結合する抗原を発現する自己寛容誘発細胞は、工程c)の後、その培地から直接選択してもよいし、ハイブリドーマ細胞株DSM ACC2542によって生成した抗体GM−7に結合することによって、上記本発明の方法の工程d)による培地からそれぞれ細胞を分離した後、得られた細胞集団から選択してもよい。
【0040】
本発明によるSTICを選択するには、抗体がサンプル中に存在する自己寛容誘発細胞に結合できる条件下で、抗体をサンプルに接触させる。結合反応により得られた反応複合体を、次いで、サンプルから分離する。この目的のために、サンプルとの接触の前に、抗体を担体材上で培養することができ、たとえば、クロマトグラフの目的にまたは所謂「磁気ビーズ」に適切なマトリックスに結合することができる。この手順は、体積の大きなサンプルから自己寛容誘発細胞を選択、濃縮することを可能にする。
【0041】
自己寛容誘発細胞を得るために、抗体と自己寛容誘発細胞との間の結合は、サンプルから反応複合体を単離した後は分離される。これは、現在の技術水準で知られている方法、たとえば、競合置換または塩溶液によって洗浄することによって達成することができる。相当する方法が、たとえば、Utz U. et al.によって記載されている(’’Analysis of the T−cell Receptor repertoire of human T−cell leukemia virus type−l(HTLV−1)Tax−specific CD8+ Cytotoxic T Lymphocytes from patients with HTLV−1 associated disease:Evidence for the oligoclonal expansion’’J.of Virology 1996年2月、843−851頁)。
【0042】
さらに、モノクローナル抗体GM−7は、インビトロで、患者の血液および/または組織サンプル中にある、本発明による単球由来の自己寛容誘発細胞の定性および定量測定を可能にする。自己寛容誘発細胞の存在を示し、該当する場合は、その量も示す、サンプル中での反応複合体の形成は、公知の方法によって検出される。
【0043】
反応複合体を検出するには、この場合、抗体GM−7を、検出する分子、たとえば、抗体に共有結合で結合しているものに直接結合する(標識化する)ことが可能である。検出すべき適切な分子は、分子学的診断の分野に数多く記載され、なかでも、イソチオシアン酸フルオレセインやテトラメチルローダミン−5−イソチオシアネートのような蛍光染料、発光染料、放射能ラベルされた分子および酵素パーオキシダーゼが挙げられる(Lottspeich,F.,Zorbas,H.’’Bioanalytik’’,Spektrum Akademischer Verlag GmbH,Heidelberg−Berlin,1998を検討せよ)。
【0044】
抗体の検出は、抗体の標識化のために選択される分子に基づいて行われる。本発明については、抗体の検出がフローサイトメトリーおよび/または蛍光顕微鏡法によって行うことができるように、抗体GM−7と蛍光分子、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)とを結合した。抗体をFITCで標識化する方法は当業者に公知である。
【0045】
あるいは、反応複合体は二次抗体を使用した二段法で検出することもできる。この点において、標識化されていない抗体GM−7は、さらに他の標識化された抗体を含む反応複合体中で検出することができる(Lottspeich,F.Zorbas,H.’’Bioanalytik’’,Spektrum Akademischer Verlag GmbH,Heidelberg−Berlin,1998を検討せよ)。この二段法の検出は、数個の標識化された二次抗体が1個のGM−7抗体(信号増幅)に結合できるため、本発明による抗体結合を直接検出するより、はるかに感度が高い。
【0046】
したがって、抗体GM−7は、STICで処置された患者の末梢血液中のSTICの検出を可能にする。たとえば、「モニタリング」という形で、末梢血液中の細胞の数を特定の時間間隔で検出する。
【0047】
当業者には明らかなように、ヒト以外の脊椎動物の単球、特に本発明によって変性された霊長類およびブタの単球からもSTICに対するモノクローナル抗体を生成することが可能である。この点に関して、対応する宿主動物の免疫および対応するハイブリドーマ細胞株の産生は、ヒト由来のSTICについては、上記したように行われる。
【0048】
本発明の特に好ましい実施形態は、本発明のSTICのサブ集団に関し、これは、細胞表面にCD3抗原およびCD14抗原が共発現している。これらの細胞を以下、STICCD3+/CDl4+と記載する。以下にさらに詳しく説明するように、これらの細胞は調節性Tリンパ球の形成を誘発することが示されている。
【0049】
表面抗原CD3およびCD14を共発現するSTICは、上記した本発明の方法の工程c)において形成された自己寛容誘発細胞から直接選択してもよいし、上記本発明の方法の工程d)による培地から細胞を分離した後得られる細胞集団から選択してもよいし、あるいは、STICGM7集団から選択してもよい。
【0050】
さらに、国際特許出願PCT/EP03/07551号明細書のTAICを参照することにより、本明細書によって生成された細胞は、遺伝子Foxp3、CTLA4およびインテグリンαEβ7を強く発現することが示されている(国際特許出願PCT/EP03/07551号明細書の実施例12に相当する実施例6を参照)。対照的に、これらの遺伝子は、オリジナル単球によっては全くあるいは少ししか発現しない。したがって、遺伝子Foxp3、CTLA4およびインテグリンαEβ7の発現のアップレギュレーションは、STICCD3+/CD14+細胞に特異的である。
【0051】
実施例6で述べるように、マーカーFoxP3、CTLA4およびインテグリンαEβ7の発現は、以前は調節性Tリンパ球のみについて記載されていた。表面抗原CD4およびCD25を共発現するTリンパ球は、調節性Tリンパ球のサブ集団であり、「抑制細胞」とも言われる。それは、体の免疫応答を抑制するそれらの機能である。特に、Foxp3は特定の転写因子として見られ、調節性T細胞の発症に関し、コントロール遺伝子として働き、これらの細胞により特異的に発現する。本発明によれば、STICCD3+/CDl4+細胞は、全RNA1μgに対し、Foxp3−RNAが少なくとも1×10−9μg発現するのが好ましく、より好ましくは少なくとも5×10−9μg、特に好ましくは少なくとも1×10−8μgである。
【0052】
CTLA4も同様にTリンパ球、特にCD4/CD25陽性Tリンパ球の調整機能の検出のためのマーカーと見なされる(実施例6に列挙された文献を参照)。本発明によれば、STICCD3+/CDm4+細胞は、好ましくは全RNA1μgに対し、CTLA4−RNAが少なくとも5×10−7μg発現するのが好ましく、より好ましくは少なくとも3×10−6μg、特に好ましくは少なくとも5×10−6μgである。
【0053】
上皮カドヘリンを認識するインテグリンαEβ7は、近年、Lehmann et al.によってPNAS 99,13031−13036頁(2002)に、非常に強力な、上皮環境と影響しあう調節性Tリンパ球のサブ集団に関する新しいマーカーとして記載された。本発明によれば、インテグリンαEβ7−RNAの発現は、その量がSTICCD3+/CD14+細胞において、好ましくは全RNA1μgに対して、少なくとも1×10−12μg、より好ましくは少なくとも1×10−1lμg、特に好ましくは少なくとも1×10−10μg、最も好ましくは少なくとも1×10−9μgである。
【0054】
実施例6の表に示すように、本発明の細胞とリンパ球との直接的な共培養によって、遺伝子Foxp3、CTLA4およびインテグリンαEβ7の強くアップレギュレートされた発現を伴うリンパ球集団における調節性Tリンパ球、特にCD4+/CD25+細胞の数が大幅に増加する。該実施例はさらに、本発明の細胞がもし間接的にリンパ球と共培養されれば、この効果は観察されないことを実証する。
【0055】
これらの結果は、本発明の細胞による調節性Tリンパ球の形成および/または増殖の刺激は、これらの細胞による自己寛容の誘発が関与していることを示唆する。
【0056】
実施例7(国際特許出願PCT/EP03/β7551号明細書の実施例13に相当)によって、国際特許出願PCT/EP03/07551号明細書(上記参照)のTAICを参照して、免疫応答抑制の誘発において、本発明の細胞の関与に関する仮説が確認された。この実施例においては、インビトロで、受容動物からのリンパ球を、それぞれのドナー動物からの免疫抑制細胞で培養した。寛容性を誘発するために、TAIC由来のドナーでプレインキュベートされた受容者からのリンパ球を、TAICの代わりに、動物に注射した。ドナー特異的寛容性は、この方法でも誘発することができたが、一方、TAIC由来ドナーで共培養されていない受容リンパ球を投与された動物は、寛容性を発症しなかった。
【0057】
本発明のSTICは、そのような薬学的調製物としても使用することができる。上記本発明の方法の工程d)で得られる細胞は、直接使用することができる。そのようにして得られた集団の細胞の合計の約10〜50%が、初期単球単離物(単核球細胞画分)由来するリンパ球および顆粒球によって形成される。これらの細胞は、培養工程における単球に由来する、本発明のSTICの生成をサポートする(実施例4参照)。これらは、本発明のSTICが薬学的調製物として使用される場合、自己寛容の誘発を疎外しない。
【0058】
しかし、本発明のさらに好ましい実施形態によれば、サブ集団STICGM7および/またはSTICCD3+/CD14+は、本発明の方法で得られたSTIC集団(上記参照)全体から単離して、自己寛容誘発するために使用してもよい。
【0059】
培養培地(実施例2参照)としては、STICおよび/またはSTICGM7および/またはSTICCD3+/cDl4+が、それらの自己寛容誘発効果を落とし始めることなく少なくとも48時間保つ。
【0060】
薬学的調製物の使用に関して、たとえば、ヒトAB0適合血清(国際的に使用に適する)中に懸濁させたSTICおよび/またはサブ集団STICGM7および/またはSTICCD3+/CD14+を、短輸血として静注的に投与することができる。
【0061】
本明細書において、薬学的調製物は、本発明のSTICと、これに組み合わせて、ステロイド、特にコルチゾン、メトトレキサート、シクロホスファミド、アザチオプリン、5−アミノサリチル酸(5−ASA)、TNF−α抗体、α−インターフェロンのような、従来の抗炎症薬および/または従来の免疫抑制剤、および、たとえばリツキサンのようなB細胞抗体とを、特異的な器官または全身性自己免疫疾患の治療のために含んでもよい。
【0062】
さらに、本発明のSTICは、抗ヒスタミン剤、テオフィリン製剤、R−ミメティック、ステロイド、特にコルチゾンおよびクロモグリシン酸と組み合わせて、アレルギーの治療のために使用してもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0063】
(発明の詳細な説明)
本発明による方法のための出発細胞は、自己由来の血液単球、すなわち、本発明の細胞を投与すべき個々の患者の血液からの単球である。該自己由来の単球はヒト血液のものが好ましい。単球は、どのような単離方法によって得てもよく、特に白血球搬出法によって、または全血(バッフィーコート)からの単核球細胞画分から得てもよい。特に、白血球搬出法が好ましい。
【0064】
白血球搬出法は、市販のアフェレーシス装置を使用した多段階方式の一般用語であり、ヒト被験者からの全血を採取し、複数の画分に分離し、単核球細胞画分以外の画分を上記ヒト被験者に返血する方法である。この方式は、欧州特許公開第0591194 B1号公報にさらに詳しく概説するように行う。
【0065】
あるいは、凝血防止剤を使用した通常の治療の後に、先ず、公知の方法、好ましくは遠心分離法で、血液を血漿と白血球および赤血球に分離する。遠心分離の後は、血漿が上澄み液中に存在し、その下に全体に白血球が含まれた層がある。この層はまた、バッフィーコートと呼ばれる。この下に赤血球を含む相(ヘマトクリット)がある。
【0066】
本発明による方法に関して、単核球細胞画分は先ず単離分離して、たとえば公知の方法で遠心分離することによって単球を得る。好ましい方法実施形態によれば、単核球細胞画分をリンパ球分離培地(フィコール−ハイパーク)に塗布し、遠心分離する(実施例1参照)。実施例1は、本発明の好ましい実施形態を記載する。実施例1では、単核球細胞画分にまだ含まれている赤血球と死細胞を遠心分離によって分離し、単球を含む白血球を分離培地上に単離物として置く。その後、白相を注意深くピペットで取り、単離物中の単球を濃縮するために、繰り返し遠心分離し洗浄する。この方法で、単球はリンパ球の一部とともに遠心分離槽の底に集まる。
【0067】
本発明の方法の特に好ましい実施形態によれば、単球を含有する単離物を得るための条件は、単離物が、単球に加えて、細胞の総数に対して約10〜50%のリンパ球を含むように調整されている。単離物は、総細胞数に対して、好ましくは約50〜90%の、特に好ましくは60〜70%の単球を含み、リンパ球は約10〜50%、特に好ましくは20〜50%を含み、ここでの相違は場合によっては顆粒球によって提供されうる。
【0068】
実施例4に示すように、MCSFおよびγインターフェロンでオリジナル単球を培養している間、総細胞数の20〜30%の量のリンパ球が存在すると、リンパ球(約5%)がほとんど存在しない場合(図3参照)のように、CD3/CD14−ダブル陽性STICの量が非常に多く産生する。
【0069】
STICを充分な量を生成するためには、先ず、単球の増殖を可能にする必要がある。この目的のため、単球に適した公知の増殖培地を使用することができる。しかし、該培地は、増殖因子M−CSF(マクロファージコロニー刺激因子)を含まなければならない。M−CSF(CSF−1とも呼ばれる)は、単球、線維芽細胞、リンパ球および内皮細胞によって生成される。培地中のM−CSFの濃度は、2〜20μg/L培地が好ましく、さらに好ましく4〜6μg/L培地、特に好ましくは5μg/L培地である。
【0070】
STICの収量は、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)の存在によって減少するため、増殖培地はこの因子を含まないことが好ましい。
【0071】
次いであるいは同時に、細胞はγ−IFNで刺激されなければならない。すなわち、細胞はγ−IFNの存在下で培養されなければならない。γ−IFNによる単球の刺激は、増殖因子を含む培地において3〜6日を費やす初期増殖段階の後に行う。好ましくは、M−CSFの存在下での培養の始まりから4日目にY−IFN刺激を始め、この刺激はインキュベータ条件下、37℃、5%CO2の雰囲気中で、好ましくは24〜72時間、さらに好ましくは48時間続ける。
【0072】
培地中のγ−IFNの濃度は、0.1〜20ng/mLであり、1〜10ng/mLが好ましく、5ng/mLが特に好ましい。
【0073】
γ−IFNによる刺激は、増殖因子を含む培地中の単球の増殖と同時に始めてもよい。しかし、上述したように、3〜6日の初期増殖段階後の刺激が好ましい。概して、γ−IFNによる細胞増殖および刺激は、8日を超えない期間で行うのが好ましい。いずれにしても、γ−IFNによる治療は、増殖段階の後、少なくとも24時間で最高72時間、好ましくは48時間で行うべきである。したがって、細胞の増殖および刺激の時間は、合計で4〜8日間費やすのが好ましい。
【0074】
本発明の好ましい実施形態によれば、γ−インターフェロンによる増殖および刺激は、実施例2で示したように行われる。すなわち、単球を先ず増殖因子を含む培地中で増殖し、3〜6日後に0.1〜20ng/mL、好ましくは1〜10ng/mL、特に好ましくは5ng/mLの濃度が培地中で得られるような量のγ−IFNを培地に加える。
【0075】
本発明による方法は、表面があらかじめウシ胎児血清(FCS)、あるいは好ましくはヒトAB0適合血清(実施例2参照)で塗布された培養槽中で行われるのが好ましい。FCSの塗布は、使用の前にFCSで培養槽の表面を被覆し、数時間、特に4〜72時間、好ましくは12〜48時間、特に24時間の相互作用の時間の後、適切な方法で表面に付着していないFCSを取り除くことによって行うことができる。ヒトAB0適合血清での塗布も、上記した方法と同じようにして行う。
【0076】
培養ステップの間に、細胞は約24時間後培養容器の底に沈殿する。接着特性のため、単球および該プロセス中に該単球に誘導されたSTICは、それぞれの培養槽の底に付着する。実施例2に記載するように、培養中に培地は変化し、最初に上澄み液を、たとえば、ピペットであるいはデカントして注意深く取り除き、続けて新しい培地を充填する。しかし、底に付着する細胞は洗浄しないか、あるいは注意深く洗浄して、存在するどんなリンパ球も取り除かないようにするのが好ましい。
【0077】
付着する細胞を取り除くには、機械的に、たとえば、微細細胞スクレーパーまたはスパチュラを使用して行うことができる。
【0078】
しかし、本発明による方法の好ましい実施形態によれば、細胞の完全な除去は、適切な酵素、たとえば、トリプシン(実施例2参照)による治療によって行われる。トリプシン溶液(0.1〜0.025g/L、好ましくは0.05g/L)は、2〜10分間、35℃〜39℃、好ましくは37℃で、5%CO2の存在下で細胞に作用することができる。
【0079】
次いで、酵素活性は、通常の方法でブロックされ、今や自由に浮遊するSTICを遠心分離することによって通常の方法で得ることができる。次いで、これらはすぐに利用することもでき、場合によっては、たとえばPBSのような適切な培地中の懸濁物として利用することもできる。また、これらは数日、特に2、3日程度栄養培地中に保存することもでき(実施例2参照)、この保存培地は、増殖因子もγ−IFNも含むべきではない。細胞は、そのような栄養培地中でSTICとして少なくとも48時間保存することができる。
【0080】
より長い時間保存するために、細胞を冷凍することができる。生存細胞の冷凍のプロトコルは、現在の技術水準で知られているGriffith M.et al.を比較せよ。(’’Epithelial Cell Culture,Cornea’’,in Methods of tissue engineering,Atala A.and Lanza R.P.,Academic Press 2002,第4章,131〜140頁))。本発明による細胞の冷凍に好ましい懸濁培地は、AB0適合血清またはFCSであって両方ともDMSOが加えられている。
【0081】
本発明の実施形態の一つによれば、ステップc)またはd)で得られる、自己寛容誘発細胞を含む細胞懸濁物は、STICGM7サブ集団として得るように、抗体GM−7に結合する細胞をさらに精製してもよい。このように精製する方法は上記に詳しく記載している。
【0082】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、そのような細胞は細胞表面にCD3抗原およびCD14抗原を共発現するSTIC集団から選択される。そのような細胞を選択する方法は、業界で知られている。そのような方法の例示として、「蛍光活性細胞分離法」(FACS)、「免疫磁気ビーズ分離法」および「磁気細胞分離」(MACS)、あるいは所謂「ロゼッティング法」[Gmelig−Meyling F.et al.’’Simplified procedure for the separation of human T− and non−T−cells”,Vox Sang.33,5−8(1977)参照]が挙げられる。
【0083】
STICサブ集団STICCD3+/CD14+の選択は、上記本発明の方法の工程c)またはd)で得られたSTIC集団から、またはSTICGM7サブ集団から直接行うことができる。後者の方法は、結果的に、STICCD3+/CD14+が段階的に高濃度化していく。
【0084】
本発明の好ましい実施形態においては、本発明によるSTICCD3+/cDl4+サブ集団の細胞それ自体が、自己免疫疾患のインビボ予防および/または治療のための薬学的組成物の製造のために使用される。
【0085】
そのような自己免疫疾患の例としては、以下のものがある:
自己免疫性特徴を伴うリウマチ性疾患、特にリウマチ性関節炎、SLE、シューグレン病、皮膚硬化症、皮膚筋炎、多発作筋炎、ライター症候群;
糖尿病;
血液および血管の自己免疫疾患、特に自己免疫性溶血性貧血(AIHA)、自己免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)、抗リン脂質抗体症候群、血管炎(結節性多発性動脈炎、ウェゲナー肉芽腫症、過敏性血管炎、巨細胞性動脈炎)、全身性紅斑性狼瘡、混合型クリオグロブリン血症;
肝臓の自己免疫疾患、特に自己免疫肝炎、原発性胆汁性肝硬変、および原発性硬化性胆管炎;
甲状腺の自己免疫疾患、特に橋本病、バセドウ病;
中枢神経系の自己免疫疾患、特に多発性硬化症、無症筋無力症;
水疱性皮膚疾患、特に尋常性天疱瘡、増殖性天疱瘡、落葉状天疱瘡、セニアー−アッシャー症候群および落葉性ブラジル天疱瘡。
【0086】
自己寛容を誘発するSTICの有用性は、人為的に誘発された、自己免疫疾患に類似する大腸炎の2つのモデルシステムにおけるマウスによって示される(実施例8および9参照)。
【0087】
これらのモデルは、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)−誘発慢性大腸炎(実施例8)およびマウスにおける実験的慢性大腸炎のCD62L+/CD4+SCID転移モデル(実施例9)である。どちらのモデルマウスも、潰瘍性ヒト大腸炎に類似した症状を伴う慢性大腸炎を発症する。
【0088】
どちらのモデルシステムにおいても、症状が発症してすぐにSTICを投与すると、処置していない動物、あるいはSTICを含まない「コントロール細胞」で処置した動物に比べ、大腸炎の典型的な症状が抑制される(実施例8および9参照)。
【0089】
上記したように、過剰の免疫反応はまたアレルギーの発症に関与する。サブ集団としてCD4+/CD25+細胞を含むCD4+細胞は、実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)の進行を緩和することができることがBach et al.(loc.cit.)によって示されている。本明細書で示すように、STICの投与はCD4+/CD25+T細胞集団の増加を誘導する結果になるため、該細胞はまた、アレルギーの治療のためにも有用である。
【0090】
したがって、本発明のさらに好ましい実施形態によれば、医薬品を含むSTICは、アレルギーの予防および/または治療のためにも使用される。
【0091】
薬学的調製物は、本発明の方法のステップd)で得られた本発明による生活STICを、医薬的に許容しうる担体中に懸濁させて、好ましくは約1×105〜1×107個の細胞/mL、さらに好ましくは約1×106の細胞/mLの量で含んでもよい。
【0092】
本発明のさらに好ましい実施形態においては、本発明によるSTICGM7サブ集団細胞は、それ自身、自己寛容障害を伴う疾患のインビボ予防および/または治療のための薬学的組成物の製造のために使用される。
【0093】
本発明の実施形態の一つでは、そのような薬学的調製物として、抗体GM−7に結合した本発明の生活STICGM7を、薬理学上許容しうる液体担体に懸濁させて、好ましくは約1×106〜1×108個の細胞/mL、さらに好ましくは約1×106個の細胞/mLの量で含んでもよい。
【0094】
本発明の最も好ましい実施形態では、そのような薬学的調製物として、CD3抗原とCD14抗原を共発現する、本発明による生活STICCD3+/CD14+細胞を、好ましくは約5×105〜5×107個の細胞/mL、さらに好ましくは約5×106個の細胞/mLの量で含んでもよい。
【0095】
上記薬学的調製物は、生理学的に優れた認容性が認められる培地中に懸濁された本発明による細胞を含んでもよい。適切な培地として、たとえば、リンゲル液、生理食塩水または5〜20%ヒトアルブミン溶液などが挙げられる。
【0096】
本発明によるSTICを含む薬学的組成物は、それぞれの疾患に感染されている身体部位に応じて、種々の投与の経路を経て投与されてもよい。本発明の好ましい実施形態では、該薬学的組成物を静注的に、門脈内に、皮下的に、皮内に、腹腔内に、あるいは鞘内に投与することができる。薬学的組成物はさらに、肝臓や筋肉などの特定の器官に直接投与することも、吸入を通じてあるいは腹腔深部に投与することもできる。
【0097】
活性成分としてSTICを含む薬学的調製物は、疾患の発症に反応しうる遺伝子が知られている場合にも、自己免疫疾患の予防のためにも使用できる。もし個体が1以上の自己免疫疾患を伴う遺伝子のキャリアとして診断された場合、初期発育段階で、自己由来の単球のSTICを投与することで疾患の発生を防止することができる。本発明の好ましい実施形態では、自己由来のSTICを、自己由来のリンパ球およびそれぞれの遺伝子によって発現されたペプチドとともに培養する。これは、個々の遺伝子生成物に特有の自己由来の調節性Tリンパ球を発症する。次いで、これらの調節性Tリンパ球は、以下に記載する実施例7(国際特許出願PCT/EP03/07551号明細書の実施例13に対応)におけるように各個体に再度投与することができる。
【0098】
本発明のさらなる実施形態では、STICは自己免疫疾患、たとえば、リウマチ性関節炎が合間に起こる場合の予防のために使用することができる。最初のあるいは後続の疾患の発生の後、もしSTICを含む薬学的調製物が投与されると、さらなる発生を防ぐことができる。
【0099】
本発明による細胞の調製物は、本発明の方法のステップd)で得られる生活STICを含んでもよい。あるいは、該調製物は、抗体GM−7に結合するSTICGM7細胞、または細胞表面にCD3抗原およびCD14抗原を共発現するSTICCD3+/CDl4+細胞のサブ集団に属する細胞を含んでもよい。該調製物は、液体担体培地に個々の懸濁された細胞を好ましくは少なくとも1×105個/mL、さらに好ましくは少なくとも5×105個/mL、最も好ましくは少なくとも1×106個/mLの量含んでもよい。培地は、5〜20%ヒトアルブミン溶液のような、細胞によって優れた認容性が認められる、細胞培養または輸送培地であってよい。あるいは、調製物中の細胞は、冷凍され、50%ヒトアルブミン溶液および10%DMSOを含むRPMIのような、適切な保存培地中に含まれてもよい。
【0100】
最後に、本発明はまた、本発明の自己寛容誘発細胞(STIC、STICGM7またはSTICCD3+/CD14+)を、インビトロで自己由来の調節性Tリンパ球を産生または増やすために使用する方法に関する。実施例6(国際特許出願PCT/EP03/07551号明細書の実施例12に対応する)に示すように、リンパ球を有するSTICに対応するTAICの直接インビトロ共存培養によって、調節性Tリンパ球の、特にCD4+/CD25+リンパ球が著しく増殖される。したがって、自己由来のリンパ球を持つ個体の単球由来のSTICを直接共培養することによって、自己由来の調節性Tリンパ球、特にCD4+/CD25+リンパ球を産生および/または増やすことが可能になる。
【0101】
直接インビトロ培養手段とは、本発明によれば、STICとリンパ球とを、上記したように実施例6に例示する培地と同じ培地中で、直接物理的接触で共培養することを言う。
【0102】
この方法では、培地は、各細胞すなわちSTICおよびリンパ球をほぼ同じ細胞数で、それぞれ液体担体培地に懸濁されて、好ましくは少なくとも1×105個/mL、さらに好ましくは少なくとも5×105個/mL、最も好ましくは少なくとも1×106個/mLの量の細胞を含むのが好ましく、培地は、5〜20%ヒトアルブミン溶液のような細胞によって優れた認容性が認められる細胞培養または輸送培地であってもよい。共培養は、好ましくは、約37℃のたとえばインキュベータ内で、好ましくは約3〜5日間、さらに好ましくは4日間という生理学的条件下で行われるべきである。
【0103】
実施例7(国際特許出願PCT/EP03/07551号明細書の実施例13に対応する)では、移植受容が、ドナー単球から産生されたTAICを受容者に投与することによって誘発されるばかりでなく、受容者リンパ球を受容者に再度投与する、これはあらかじめ、上記したように、ドナー単球から生成されたTAICとともにインビトロで直接共培養した、ことによっても誘発されることが示された。同様に、自己寛容は、自己由来のリンパ球を患者に再度投与する、これはあらかじめ患者自身の単球から生成したSTICとともに直接共培養した、ことによっても誘発することができる。
【0104】
本発明のさらなる実施形態によれば、その結果、調節性Tリンパ球は、この個体からのリンパ球をこの個体の単球に由来するSTICとともに直接共培養することによって、治療すべき個体に由来するリンパ球からインビトロで生成することができる。共培養されたリンパ球の受容者への再投与は、実施例7に示されるように、自己寛容を誘発する。
【0105】
そのように生成された調節性Tリンパ球は、本明細書に記載したように(上記を参照)FACSによって単離してもよいし、細胞が上記薬理学上許容しうる担体中に懸濁している、自己寛容障害を伴う疾患を予防および/または治療用の薬学的調製物において使用してもよい。
【実施例】
【0106】
本発明を、実施例を用いてさらに詳しく説明する。
【0107】
もし実施例中に定義がなければ、使用した培地および物質の組成は以下の通りである。
【0108】
(1.ペニシリン/ストレプトマイシン溶液)
ペニシリンGのナトリウム塩として10,000単位のペニシリンとストレプトマイシン硫酸塩として1000μgのストレプトマイシン/1mLの生理食塩水(NaCl 0.85%)(Gibco Catalogue No.15140122)
(2.トリプシン−EDTA)
0.5gのトリプシンと0.2gのEDTA(4 Na)/L
(3.L−グルタミン含有RPMI1640(1×,液体(11875)))
RPMI(Roswell Park Memorial Institute)培地1640は、濃縮配合組成であり、哺乳動物細胞に広範に使用することができる。
【0109】
【表1】
参考文献:Moore G.E.,et al.,J.A.M.A.199:519(1967)
(4.PBS(ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水)J.Exp.Med.98:167(1954)参照)
【0110】
【表2】
(5.フィコール−ハイパーク)
リンパ球分離培地(ショ糖/エピクロロヒドリン共重合体、Mg400,000、密度1.077、ジアトリゾ酸ナトリウムで調整)
(6.L−グルタミン)
液体:29.2mg/mL
(7.マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF))
大腸菌からの組み替えヒトM−CSF;モノマー(18.5kD)として135個のN末端メチオニン含有アミノ酸残基を含み、37kDのモル質量をもつホモ二量体として存在する(SIGMA Catalogue No.M6518)。
【0111】
(8.γ−インターフェロン(γ−IFN))
大腸菌からの組み換えヒトγ−IFN;16.7kDタンパク質を含有する143個のアミノ酸残基(CHEMICON CatalogueNo.IF002)
(9.デキストラン硫酸ナトリウム)
シグマ−アルドリッチ31403、塩、MW40kD
(実施例1)
(全血からの単球の分離)
全血を2つの相違する方法によってヒト患者から得た。
【0112】
a)白血球搬出法:白血球搬出法を、COBE(R)スペクトラTM血液成分分離装置(Gambro BCT、レークウッド、コロラド州、USA)を使用し、単球モード(MNZ)で、製造業者の指示(COBEスペクトラバージョン4.7/5.1/6.0/7.0)に従って行った。
【0113】
b)従来の血液成分分離法:450mLの全血を、血液の凝固を避け細胞を仕込むために、1リットルの水に対して3.27gのクエン酸、26.3gのクエン酸三ナトリウム、25.5gのデキストロースおよび22.22gのナトリウムジヒドロキシリン酸塩を含む安定剤63mLが入ったトリプルチェンバーバッグ中で混合した。溶液のpHは5.6〜5.8であった。
【0114】
次いで、血液の成分を分離するために、この混合物の「シャープな遠心分離」を、20℃、4000rpmで7分行った。これによって、3層内に血球成分と非血球成分の層状物を得た。次いで、この目的のために提供された圧縮機の中に置かれたバッグを使用して、赤血球を下側バッグに、血漿を上側バッグにしぼり出し、中間のバッグに約50mLの体積の所謂バッフィーコートを残した。
【0115】
次いで、両方法から、新しく得た単核球細胞画分50mLを、それぞれ25mLの2部分に分け、それぞれ、あらかじめ2本の50mLファルコンチューブにつながるフィコール−ハイパーク分離培地25mL上に積層した。
【0116】
この調製物を制動なしで30分間、2500rpmで遠心分離した。その後、単核球細胞画分にまだ存在したどのような赤血球および死細胞をフィコール相の下にし、そうすることで単球を含む白血球をフィコール層上に分離した。白色の中間相として分離した。
【0117】
次いで、単球を含む該白色中間相をピペットで注意深く取り除き、10mLのリン酸緩衝化食塩水(PBS)と混合した。
【0118】
次いで、この調製物を制動ありで3回、1800rpmで10分間遠心分離し、各遠心分離操作と新しいPBSの導入の後に、上澄み液をピペットで取り除いた。
【0119】
遠心分離容器(ファルコンチューブ)の底に集まった細胞ペレットは、単核球細胞画分、すなわち単球を含んでいた。
【0120】
c)マウス実験8および9(遺伝的に同一性のあるマウスで行った)用に必要な単球を、同系のドナーマウスの脾臓から得た。脾臓を、多少圧力をかけた状態で細目ふるいを通過させ、このようにして分離した細胞をPBS中に再び懸濁した。懸濁した脾臓細胞を、あらかじめ50mLファルコンチューブにつないだフィコール−ハイパーク分離培地25mL上に積層した。次いで、上記と同様の方法で手順を続けた。
【0121】
(実施例2)
(単球の増殖および変性)
単球の培養および増殖を下記の組成を持つ栄養培地上で行った。
【0122】
【表3】
栄養培地は、2.5μg/500mLM−CSFを含んでいた。
【0123】
実施例1で単離された単球を合計量で106個、10mLの栄養培地中に懸濁し、ペトリ皿(直径100mm)に移した。該ペトリ皿は、あらかじめ純正な培養FCSで満たし、FCSで被覆された皿を得るために、このように、該FCSを24時間後に流し出した。
【0124】
ペトリ皿を適切なカバーで被覆し、37℃で3日間、インキュベータ内で保存した。24時間後、ペトリ皿の底に細胞が沈殿した。2日目、上澄み液をピペットで取り出し、ペトリ皿を再び10mLの新しい栄養培地で満たした。
【0125】
4日目、10mLの栄養培地中の50ngのγ−インターフェロンを加え、皿を再び密閉し、さらに37℃で48時間、インキュベータ内で保存した。
【0126】
続いて、10mLのトリプシン溶液をPBSでそれぞれ希釈(1:10)し、ペトリ皿にピペットで移した。密閉したペトリ皿を37℃で10分間、インキュベータ内に保存した。
【0127】
その後、ペトリ皿の底に付着する細胞を、細胞スクレーパーを使用して、細胞の大部分(>90%)を上澄み液に浮遊させることによって分離した。
【0128】
全上澄み液(10mLのトリプシン溶液+10mLの培地)をピペットで取り出し、50mLのファルコンチューブ中で合わせ、1800rpmで10分間遠心分離した。次いで、上澄み液を捨て、新しい栄養培地(上記参照)を沈殿物(残存細胞ペレット)に加え、栄養を106個の細胞に対して1mL加えた。正確な投与量を測定するための細胞数の測定を、公知の方法に従って行った(Hay R.J.,’’Cell Quantification and Characterisation’’,in Methods of Tissue Engineering,Academic Press 2002,第4章、55−84頁を検討せよ)。
【0129】
この細胞懸濁物を遠心分離し(1800rpm、10分、上記参照)、細胞ペレットをPBSあるいはヒトへ適用するためNaCl(生理学の)へ導入した。続けて、直接あるいは48時間以内に静脈内投与できる。
【0130】
あるいは、遠心分離し、トリプシンを含む上澄み液を捨てた後、FCS/DMSOを寒剤として細胞に加え、これらの体積10mLを冷凍した。
【0131】
寒剤は、95%のFCSと5%のDMSOとを含んでいた。それぞれのケースで、約106個の細胞を1mLの寒剤に導入し、下記のステップで冷やした:
氷上で30分;
予冷スチロポールボックス中で2時間、−20℃;
スチロポール中、24時間、−80℃;
液体窒素(N2)中の小さなチューブ中に保存、−180℃;
図1は、オリジナル単球細胞の培養およびγ−IFN刺激の後に使用された単球上のフローサイトメトリーによる抗原発現の表現型変化を示す。オリジナル単球細胞の培養およびγ−IFN刺激によって、変性前の細胞(図1の左側のグラフ)に比べると、変性後(図1の右側のグラフ)はGM−7の結合が大幅に増大した。
【0132】
以下の実施例3〜7は、国際特許出願PCT/EP03/07551号明細書から取る。これらは、そこで開示されている移植許容誘発細胞(TAIC)の特性を示す。国際特許出願PCT/EP03/07551号明細書のTAICと本発明の自己寛容誘発細胞(STIC)(上記参照)との類似性のため、これらの実施例で報告されている結果は、STICにも適用する。
【0133】
さらに詳しくは、実施例3〜7の結果を以下に示す:
最適な抑制機能を持つ細胞集団は、モノクローナル抗体GM−7の利用可能性を通して、オリジナル単球のM−CSFによる培養とγ−IFN刺激の後に得られるTAIC集団単離することができる(実施例3);
単球画分中に存在するリンパ球は、TAICとして効果的なCD14+/CD3+細胞の産生に大きな影響を有する(実施例4);
IDO−阻害剤である1−メチルトリプトファンは、TAICの抑制機能には影響しない(実施例5);
ドナーBのリンパ球とともにドナーAのTAICを直接インビトロ共培養すると、調節性T細胞、すなわちCD4+/CD25+リンパ球の形成を誘発する(実施例6);そして
インビボでのドナーTAICと受容者リンパ球との間の物理的な細胞間相互作用は、臓器移植拒絶を防止しうる調節性T細胞の産生を誘発する(実施例7)。
【0134】
(実施例3)
(抗体GM−7のTAICへの結合)
国際特許出願PCT/EP03/07551号明細書に記載されたように生成したヒトTAICでマウスを免疫化することによって、モノクローナル抗体GM−7を産生した。抗体を生み出すハイブリドーマ細胞を、「Deutsche Sammlung fur Mikroorganismen」に登録No.DSM ACC2542で寄託した。以下に報告するレポートにおいて、該抗体が、本発明に従ってM−CSFで実験室内変性を6日間行いγ−IFN刺激を2日間行ったCD14+細胞上でのみ発現する抗原に特異的に結合することを実証した。
【0135】
図1は、インビトロ変性後に、すなわちTAICへの形質転換の後に、単球細胞へのGM−7のフローサイトメトリーによって測定した結合能力を示す。バッフィーコートから直接得たCD14−陽性単球は、抗体GM−7(左側の図、灰色の影の付いた部分が抗体コントロールに対応する)に結合しないことがわかる。対照的に、単球の一部は、M−CSF中での培養とγ−IFNによる刺激の後に抗原を発現する。これは、抗原がモノクローナル抗体GM−7によって認識されていることである。実施例2に記載したように、培養の後、約80%の形質転換された単球は、モノクローナル抗体GM−7(右側の図)に結合することができる。
【0136】
更なる実験において、CD14+/GM−7+細胞の抑制活性を、混合リンパ球培地(MLC)中のCD14+/GM−7−細胞の抑制活性と比較した。MLCは、Kurnick,J.T.’’Cellular Assays’’in:Diagnostic Immunopathology,[Colvin R.B.,Bhan A.K.,McCluskey,R.U.(ed.),Raven Press,ニューヨーク,751−771頁(1994)]に記載されているように行った。
【0137】
この実施例において、TAICは、個体Bに起因する。図2に示すように、GM−7陽性TAICとGM−7陰性TAICとの間には抑制活性に大きな相違がある。6日間のM−CSFによる治療と2日間のγ−IFNによる刺激後に得られたGM−7陽性画分TAIC集団だけが、Bの細胞による刺激の後に、個体Aのキラー細胞のT−細胞増殖活性に関して重大な抑制効果を発現する。
【0138】
(実施例4)
(単球培養中のCD3+/CD14+細胞形成におけるリンパ球の影響)
TAICとして効果的なCD14+/CD3+細胞の産生における単球画分中に存在するリンパ球の影響を、2つの相違するセットアップを比較することによって測定した。
【0139】
第一セットアップ(以下「Mo」と言う)として、先ず単球画分を実施例1に記載したバッフィーコートの界面相から採取した。次いで、実施例2に記載したように、細胞をM−CSFとの培養ステップに移した。培養の出発点から1時間以内に、組織培養フラスコの底に付着している単球を、それぞれ10mLのPBSで5回洗浄し、培養物中に存在するリンパ球の量を<5%(4.8±2.4%)に減らし、一方、そのようにして得た濃縮単球(CD14+)の量は、90%(92±5.6%)を超えていた。このセットアップ内の追加の細胞成分は、B−リンパ球と顆粒球であった。
【0140】
第2セットアップ(以下、「Mo+Ly」と言う)中の細胞も実施例1に記載の単球画分のバッフィーコートの界面相から採取した。しかし、セットアップ「Mo」とは異なり、組織培養フラスコの底に付着した細胞は、実施例2に記載するように、培養段階の始まりから24時間後に1回だけ洗浄した。その結果、45±5.3%のCD14+単球と23.5±8.9%CD2+リンパ球からなる細胞集団が得られた。セットアップ「Mo」のように、リンパ球と顆粒球とがこのセットアップにも存在した。
【0141】
セットアップ毎の全細胞集団中のそれぞれの細胞タイプの量の測定を、それぞれ3つの実験セットアップのフローサイトメトリーによって行った(図3参照)。結果を標準偏差を含む平均値として報告する。
【0142】
CD14+/CD3+細胞は、セットアップ「Mo」においてもセットアップ「Mo+Ly」においても培養の始め(d0=0日目)には測定することはできない。5日間の培養期間の後に、実験を終了し、細胞を、実施例2に記載するように、組織培養フラスコの底から細胞を取り外した後、FACS分析によって特徴付けた。CD14+細胞の相対量は、これらのセットアップにおいて、セットアップ「Mo」で92%から42%に、セットアップ「Mo+Ly」で45%から28%に減少することが認められた。一見したところ、リンパ球は単球より速く増殖しているが、リンパ球の相対量は、セットアップ「Mo」で4.8%から69.8%に、セットアップ「Mo+Ly」で23.5%から50.6%に増加した。培養中、TAICとして効果のあるCD14+/CD3+細胞は、両培養物中に形成される。この点で、CD14+/CD3+細胞において、セットアップ「Mo+Ly」で32.0±5.3%の有意に高い増加が観察され、これとは対照的にセットアップ「Mo」では7.2±3.2%だけであることは重要である。
【0143】
これらの結果は、培養の始めに相対量に対する単球の濃縮が90%を超えるような細胞の精製は、TAIC集団における免疫抑制性CD14+/CD3+細胞の産生に悪影響を及ぼし、一方、実施例1および2に記載の方法は、CD14+/CD3+細胞の有意に高い収量をもたらすことを実証する。
【0144】
(実施例5)
(TAICの免疫抑制活性におけるIDO阻害剤、1−メチル−トリプトファンの影響の測定)
酵素インドールアミン−2,3−ジオキシゲナーゼ(IDO)1−メチルトリプトファン(1−MT)の阻害剤が「Mo」および「Mo+Ly」セットアップ(実施例4参照)において産生したTAICの抑制機能に影響を及ぼすかどうかを明確にするために、1−MTの存在下あるいは非存在下でPHA(赤血球凝集物質)刺激T細胞を加えた種々の混合リンパ球培養物(MLC)を造った。
【0145】
これらの混合リンパ球培養物において、50,000個のリンパ球と2μgのPHAを96ウェルプレートのウェルに移し、次いで増殖を144時間行った(「PhaLy」と言う)。PHAを添加せず、リンパ球だけを培地で培養したものだけをさらなるコントロールとして造った(「Ly」と言う)。
【0146】
相違する共培養におけるPHA−刺激リンパ球の増殖を測定するために、以下の4つのセットアップを造り、試験した:
PhaLy+「Mo+Ly」
PHA刺激リンパ球とTAIC[実施例4によるセットアップ「Mo+Ly」からの105個の細胞];
PhaLy+「Mo+Ly」+1−MT
PHA刺激リンパ球と2μモルの1−MT存在下でのTAIC[実施例4によるセットアップ「Mo+Ly」からの105個の細胞];
PhaLy+「Mo」
PHA刺激リンパ球とTAIC[実施例4によるセットアップ「Mo」からの105個の細胞];
PhaLy+「Mo」+1−MT
PHA刺激リンパ球と2μモルの1−MT存在下でのTAIC[実施例4によるセットアップ「Mo」からの105個の細胞]。
【0147】
144時間の培養の後、全てのコントロールまたは共培養物を、さらに3[H]−チミジン(「パルス状」)の存在下、24時間培養し、その後、導入された、放射性標識したチミジンの量をカウント/分(cpm)として測定した。図4参照。この処理で測定された放射能の量は、DNAへ導入された標識化チミジンの量として測定され、したがって、リンパ球の増殖率として測定される。図4で報告されている値は、3つの実験の3組の測定からの平均値であり、それぞれ、標準偏差の適用もある。
【0148】
結果は、PHAで刺激されないリンパ球(「Ly」)は、有意に増殖せず、観察された平均放射能は、367cpmと実証した(図4参照)。これに対し、2μgのPHAで刺激した場合、リンパ球(「PhaLy」)の増殖率が有意に増加し、これらのサンプルの中で最も高い導入、すなわち平均値18459cpmが測定された。
【0149】
リンパ球培養物へのTAIC添加は、実施例4によるセットアップ「Mo+Ly」からの細胞が加えられた場合(PhaLy+「Mo+Ly」、1498cpmの値を測定)は、明らかに増殖率を強く減少させ、実施例4によるセットアップ「Mo」からの細胞を加えた場合(PhaLy+「Mo」、3369cpmの値を測定)は、増加は減少気味であった。
【0150】
2μモルの1−メチルトリプトファン(1−MT)を、「Mo+Ly」および「Mo」に刺激リンパ球を含むセットアップに加えた後に得られた結果は、1−メチルトリプトファン(1−MT)は、TAICの抑制機能を相乗的に増加させ、それによって、セットアップ’’Mo+Ly’’からのTAICの減少(267cpmの値を測定)は、セットアップ「Mo」からのTAICの減少(390cpmの値を測定)より強いことを実証した。
【0151】
(実施例6)
(調節性T細胞を産生するための同種異系のリンパ球とのヒトTAICインビトロ共培養)
受容者においてTAICが調節性T細胞、すなわちCD4+/CD25+リンパ球の生成を誘発するかどうか調べるために、TAICとリンパ球との数種の相違するインビトロ培養物を造り、そこから得られる調節性T細胞の生成について分析した。
【0152】
この目的のため、インビトロでドナーAのTAICを、直接あるいは間接的にドナーBのリンパ球とともに共培養した。直接共培養においては、(ドナーAの)TAICと(ドナーBの)リンパ球との間の直接細胞−細胞接合が可能であった。一方、間接共培養では、膜(「細胞培養挿入片」、孔径0.4μm、ファルコン、注文番号353090)が培地の交換を可能にしたが、2つの細胞集団の物理的な接触は抑制された。直接または間接共培養は、好ましくは3〜5日間、さらに好ましくは4日間、インキュベータ条件下、すなわち、37℃、5%CO2の雰囲気下で行う。
【0153】
培養後、調節性T細胞(CD4+/CD25+)のそれぞれの数を、TAICまたはリンパ球がそれぞれ単独で培養されている両セットアップおよびコントロールにおいて測定した。さらに、混合リンパ球培養物中で最も有意な抑制機能を持つTAIC細胞集団の成分を代表するCD3+/CD14+細胞の数を、TAICのみが培養されたコントロールセットアップ中で測定した。
【0154】
全セットアップにおいて、FACS分析ごとに細胞の表面抗原を測定し、細胞の総数における各細胞集団の量を分析した。
【0155】
さらに、調節性T細胞によって特異的に発現された3つの新しいマスター遺伝子(Foxp3、CTLA−4およびインテグリンαEβ7)の相対的発現量を、それぞれの細胞集団でPCRによって測定した(表を参照)。Foxp3は特異的な転写因子であり、調節性T細胞発症のコントロール遺伝子として観察され、これらの細胞によって特異的に発現される[Hori,S.et al.,’’Control of Regulatory T−cell Development by the Transcription Factor Foxp3’’,Science 299,1057−1061(2003)参照]。
【0156】
CTLA−4は更なる因子であり、CD4+/CD25+T細胞の調整機能の測定のためのマーカーとして使用される(Khattri,R.et al.,’’An essential role for Scurfin in CD4+/CD25+ T regulatory cells”,Nature Immunology,online publication,doi:10.1038/ni909(2003);Shimizu,J.et al.’’Stimulation of CD25+/CD4+ T regulatory T cells through GITR breaks immunological self−tolerance’’,Nature Immunology,online publication,doi:10.1038/ni759(2003);Cobbold,S.P.et al.”Regulatory T cells in the induction and maintenance of peripheral transplantation tolerance”,Transpl.Int.16(2),66−75(2003)参照]。
【0157】
インテグリンαEβ7は、インテグリンであり、上皮キャサリンに結合し、調節性CD25+T細胞のほとんどの強力なサブ集団のためのマーカーとして使用してもよい[Lehmann,J.et al.”Expression of the integrin αEβ7 identifies unique sub−sets of CD25+ as well as CD25− regulatory T cells’’PNAS 99(20),13031−13036(2002)参照]。
【0158】
Foxp3発現、CTLA−4発現およびインテグリンαEβ7発現の測定は、コントロールとして、GAPDHおよびβ−アクチン、2個の「ハウスキーピング遺伝子」を使用した定量的PCR法によって行い、測定値は、インビトロでTAICによってなされた測定抑制機能と、それぞれの遺伝子の発現率をもつCD4+/CD25+ダブル陽性細胞の形成とを相関させるために、一方で、互いとの関係に置き、1で設定されたCD14+/CD3−細胞で得られた値であり、もう一方で、絶対RNA量が総RNA(μg)に対するμgとして示した。標準法は、当業者に知られている定量PCRのため使用した(Lottspeich,F.,Zorbas,H.’’Bioanalytik”,Spektrum Akademischer Verlag GmbH,Heidelberg−Berlin,1998参照)。
【0159】
表は、直接共培養から得られたリンパ球の集団内において、ダブル陽性細胞CD4+/CD25+の比率は8.7%と、間接共培養から得られたCD4+/CD25+リンパ球の量2.38%、これはコントロールの2.65%にほぼ近い、これらの量と比較して、大きく増加したことを示す。
【0160】
CD4+/CD25+細胞のサブ集団は、CD4+/CD25−細胞における発現に比べ、テストした全てのマスター遺伝子の中で、mRNAの最も高い相対量を発現した(表参照)。Foxp3の発現は、第10因子によって増加(37対3.75)したが、CTLA−4の発現はそれより高く、最高発現(4699対0.376)まで至った。共培養中のCD4+/CD25+細胞における第三マスター遺伝子インテグリンαEβ7の発現の増大は、インテグリンαEβ7mRNAの絶対量がCD4+/CD25−細胞中3.4×10−12μgmRNA/μg全RNAに比較して、CD4+/CD25+細胞中1.4×10−9に上がったため、CTLA−4とほぼ同じくらい高い。
【0161】
【表4】
(表:直接および間接共培養後の細胞の全量における特異的な細胞集団の、これらの表面マーカーCD3、CD4、CD14、CD25を参照することによる、量の測定、およびこれらの細胞集団における3つの遺伝子(Foxp3、CTLA−4およびインテグリンαEβ7)の相対的発現およびRNA絶対量の測定)
間接共培養の後、CD4+/CD25+サブ集団におけるFoxp3−mRNAの相対量は、わずか10で、コントロールのリンパ球により発現される相対量(Foxp3−mRNAの相対量15を発現する)より低い。
【0162】
コントロールのリンパ球により発現されるCTLA−4−mRNAの相対量は、CD4+/CD25+集団において0.375、CD4+/CD25−集団において0.1と低い。
【0163】
TAIC細胞のCD14+/CD3+サブ集団におけるCTLA−4の発現は、Foxp3の発現と類似し、全ての他の細胞集団よりも有意に高かった。
【0164】
この点ついて、CTLA−4発現(相対値12.500)は、CD14+/CD3+サブ集団において、相対値50を発現したFoxp3−発現より非常に強かったことは注目に値する。
【0165】
他の2つの分析遺伝子の発現挙動と同様に、相対値RNA(μg)/全RNA(μg)として測定された、TAICのCD14+/CD3+サブ集団におけるインテグリンの発現は、最高値(3.4×109μg/全RNAの1ug)に達したにもかかわらず、インテグリンαEβ7の発現は、TAICのCD14+/CD3−サブ集団において検出不可であった。
【0166】
単球に由来するTAICにおける3つのリンパ球マーカーであるFoxp3、CTLA−4およびインテグリンαEβ7の、正常リンパ球に比べて有意に増加した発現は、まったく予期しえぬ結果であり、単球に由来する単球または細胞において、今まで観察されたことのないものである。
【0167】
要するに、上述のこの実施例の結果によって、以下のことが実証された。もし、Foxp3発現、CTLA−4発現およびインテグリンαEβ7発現の濃度が、それぞれの細胞の免疫調整機能と相関関係があるという仮定から出発するとすれば、TAICのCD3+/CD14+サブ集団の抑制活性は、これら3つの遺伝子の高い発現と関連することがここで実証された。これは、これらのマーカーが今までリンパ球のためにしか記載されたことがなく、単球由来の細胞においては記載されたことがないことを考えるとさらに驚くべきことである。
【0168】
さらに、リンパ球を伴うTAICの直接共培養物は、間接共培養物やリンパ球のみの培養物に比べて、CD4+/CD25+リンパ球の量が有意に多くなることが示された。これは、TAICの投与の後に、インビボ(すなわち患者において)での調節性T細胞も形成されるという仮説を支持する。これらの結果は、CD4+/CD25+リンパ球の公知の免疫調整機能、およびこれらの細胞におけるFoxp3−mRMA、CTLA−4−mRMAおよびインテグリンαEβ7−mRMAの含有量が、間接共培養されたリンパ球やコントロールリンパ球における含有量より有意に高いという事実にも合致している。
【0169】
(実施例7)
(インビトロでTAICとともに共培養されたリンパ球による移植寛容性のインビボ誘発)
実施例6の結果および結論は、インビボ動物実験において確認された。この実施例では、選択された近交系組み合わせにおける動物にあらかじめ5日間に渡り、ドナーからのTAICとともに直接共培養した、受容者からのリンパ球を注射した。他の動物には、コントロールとして、培地で単独で培養した、受容者からのリンパ球を注射した。
【0170】
同種異系の心臓移植の前に受容者からの自己由来共培養リンパ球を受けた動物は、ドナー特異的寛容性を発症し、一方、受容者からの未処理非共培養コントロールリンパ球を受けたコントロール動物は、10〜14日間の間に移植された心臓を急性拒絶した。
【0171】
これは、術後の患者の、TAICとともに共培養されたリンパ球を注射する前(左図)と後(右図)の血液中のGM−7発現のフローサイトメトリー測定によっても示される。細胞に結合するGM−7画分は、注射前の約0.5%から注射後には約21%に上昇し、GM−7に結合しうる調節性T細胞の発症が示唆される。
【0172】
これらの結果は、ドナーTAICと受容者リンパ球との間の細胞相互作用に対する物理的細胞は、調節性T細胞の産生を、それ自身、潜在的にアロ反応性のT細胞は抑制され、臓器移植の拒絶反応はこのようにして防止されるように、受容者の同系の免疫機構を変性することができるように誘発することを示唆する。
【0173】
(実施例8)
(デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)に誘発された慢性大腸炎の治療のための自己寛容誘発細胞(STIC)の使用)
大腸炎は、飲料水とともにデキストラン硫酸ナトリウムの経口投与によってマウスに化学的に誘発することができる。7日間にわたる投与によって急性大腸炎が発症し、DSS投与の後10日間の正常な水の投与を少なくとも4回繰り返す投与によって、ヒト潰瘍性大腸炎に類似する慢性大腸炎が発症する。
【0174】
この方式は、免疫学または分子学的試験法として充分確立され[たとえば、Herfarth,H.et al.’’Nuclear factor κB activity and intestinal inflammation in dextran sulphate sodium (DSS)−induced colitis in mice is suppressed by gliotoxin’’Clin.Exp.Immunol.120,59−65(2000);Egger,B et al.’’Mice lacking transforming growth factor α have an increased susceptibility to dextran sulfate−induced colitis ’’Gastroenterology 113,825−832(1997)参照]、本明細書において、ヒト自己免疫性潰瘍性大腸炎に類似するDSS誘発大腸炎の慢性のケースの治療において、STICの可能性を調べるために使用する。
【0175】
正常な雌性BALB/cマウス(それぞれ20g)を自由に水と標準食に接せられるように保った。これらのマウスは、以下のスキームに従って、5%(w/v)のデキストラン硫酸ナトリウムを含む水(DSS;該溶液を以下DSS水という)、次いで未処理の水のサイクルを4回受けた:
第一サイクル: 1日目から7日目までDSS水(7日間);
8日目から17日目まで正常な水(10日間);
第二サイクル: 18日目から24日目までDSS水(7日間);
25日目から34日目まで正常な水(10日間);
第三サイクル: 35日目から41日目までDSS水(7日間);
42日目から51日目まで正常な水(10日間);および
第四サイクル: 52日目から58日目までDSS水(7日間)
58日目の後、全てのマウスは慢性大腸炎の症状を示し、個の症状は、少なくとも2ヶ月続く(図6Aおよび6B)。
【0176】
次いで、マウスを無作為に4つの異なるグループに割り当てた:
グループ1(n=5):+1日目(59日目)DSS水を与える第四サイクルが終了した後、マウスに0.25mLPBS中の62.5国際単位のヘパリンを静注的に与え(血栓症を予防するために)、続けて30秒後に遺伝的に同一のドナーマウスからのSTIC(実施例2参照)を1mLPBS中5×106個静注的に投与した;
グループ2(n=7):+7日目(65日目)DSS水を与える第四サイクルが終了した後、マウスに0.25mLPBS中の62.5国際単位のヘパリンを静注的に与え(血栓症を予防するために)、続けて30秒後に遺伝的に同一のドナーマウスからのSTIC(実施例2参照)を1mLPBS中5×106個静注的に投与した;
グループ3(n=12):DSS治療は受けたがどのような細胞注射も受けていない第一コントロールグループ;
グループ4(n=6):DSS治療を受けた第二コントロールグループ;+1日目(59日目)DSS水を与える第四サイクルが終了した後、マウスに0.25mLPBS中の62.5国際単位のヘパリンを静注的に与え(血栓症を予防するために)、続けて30秒後に遺伝的に同一のドナーマウスからの「コントロール細胞」(実施例1参照)を1mLPBS中5×106個静注的に投与した。(「コントロール細胞」は、骨髄細胞、末梢血液細胞および脾臓細胞の混合物であって、実施例2によるSTICを生成するために培養する前の細胞、すなわち、同系のマウスの脾臓から得られた培養されていない細胞である。)
79日目、DSS水の栄養分の第四サイクルを終了した後3週間目にマウスは全て屠殺する。
【0177】
実験の間、DSS誘発期間と次の3週間は動物の体重を1週間に3回測定した。動物の体重の変化を、細胞治療を受けた59日目のマウスの体重に対する比率(体重減少または増加)で表す。約5〜15%の範囲内の変化は有意であると考えられる。
【0178】
DSS治療の終了後3週間のマウスの体重変化を図7に示す。見てわかるように、STIC投与+1日目(グループ1=白四角)は、年齢依存性の適切な体重増加となり、これは、処置されていない動物(グループ3=黒逆三角)にも、「コントロール細胞」で処置された動物の+1日目(グループ4=黒丸)にも、疾患が進行中の、STICで処置された動物の+7日目(グループ2=黒三角)に見ることができない。値は、1グループ当たり5〜7匹のマウスから得られた平均値であり、標準偏差は常に15%未満である。
【0179】
更なる実験で、大腸組織をヘマトキシリンエオシン(H&E)で組織学的に染色した。HE染色は、Woods,A.E.およびEllis,R.C.(eds.)(Laboratory Histopathology:A Complete Reference,vol.1&2;Churchill&Livingstone,1994)によって記載されたように行った。染色された粘膜の状態を、実験計画については知らされてない、それぞれ別々に行動する2人の病理学者によって、以下の判断基準に従って評価された:
スコア0 健康で、影響は見出せない;
スコア1 軽い大腸炎;
スコア2 中程度の大腸炎;
スコア3 重い大腸炎;および
スコア4 全粘膜の破壊を伴う潰瘍性大腸炎。
【0180】
該スコアの結果を図8に示す。DSS水の食餌投与の第四サイクルが完了した後3週間で、グループ3のコントロールアニマル(注射せず)は平均スコア約4を得、一方グループ1(+1日目にSTICを投与された)、あるいはグループ2(7日目にSTICを投与)の動物は、平均スコアを約1(グループ1)および約1.5(グループ2)にそれぞれ有意に減少させた。「コントロール細胞」で処置された動物(グループ4)は、約3の平均スコアを有し、これは処置していないマウス(グループ3)のスコアと同じ程度である。
【0181】
これらの結果は、図6からわかるように、染色された大腸部位(HE染色、上記参照)の組織学的評価の確認事項と一致している。この評価は、STICによる治療の効果の測定に最も重大な意味を持つ。図6A(倍率2.5倍)および図6B(倍率10倍)は、大きく破壊されている粘膜を持ち、そのまわりの組織は炎症性細胞が濃密に広がる、グループ3の処置されていない動物の大腸の状態を示す。これらの図は大腸炎の進行期を示す。処置されていない動物における大腸炎の進行した状態(図6A/B)とは対照的に、+1日目にSTICを受けたグループ1の動物の粘膜の形態は、広い範囲で保たれている(図6C(倍率2.5倍)および図6D(倍率10倍))。これらの動物には、粘膜の炎症および破壊の僅かな兆候だけが見られるが、まわりの組織への侵入は見られない。+1日目に「コントロール細胞」で処置されたグループ4の動物の大腸部位(図6E、倍率2.5倍)および+7日目にSTICを受けたグループ2の動物(図6F、倍率2.5倍)は、両方とも、処置されていない動物(図6A/B)に見られたと同じような、大きく破壊された粘膜とそのまわりの組織は炎症性細胞が濃密に広がる、進行した大腸炎の症状を示す。
【0182】
上記試験の結果は、+1日目のSTIC投与とそれに続く大腸炎を誘発するDSS治療の終了が大腸炎の症状を抑制しうる、あるいは明らかに軽減しうることを示す。STICが投与された動物は、体重を有意に落とさず(図7)、これらの組織学的スコアを処置されていない動物(図8)に比べて有意に減少し、大腸部位(図6C/D)の組織学的染色によって見られるように、大腸粘膜の全状態は殆ど正常である。+7日目のSTIC投与(グループ2)は、STIC投与の前の7日間の間に進行した大腸炎を治療することができない。起こりつつある大腸炎の進行を反転することはできないが、処置されていないグループ3の動物と比べてグループ2の動物がもつより低い組織学的スコア(図8)から、疾患の進行を止めることはできる。この現象は、この実施例で使用されたDSS誘発大腸炎のモデルでは特異的であり、容易に他の状態に移すことはできない。
【0183】
同系のマウスの脾臓から得た培養されていない細胞を表す、骨髄細胞、末梢血液細胞および脾臓細胞の配合物は、これらの細胞で処置された動物(グループ4)が処置されていない動物と同じくらい重篤な症状を示した(図6E/F、図7および図8)ため、大腸炎の治療には相応しくない。これは、STICだけが大腸炎を治療することができ、細胞STICの配合物中に存在する他の細胞は、培養中発症しないという明らかな証拠を提供する。
【0184】
(実施例9)
(CD4+CD62L+リンパ球の移植によりSCIDマウスに誘発した大腸炎の治療のための自己寛容誘発細胞(STIC)の使用)
SCID(重症複合型免疫不全症)マウスにおける大腸炎の人工的な誘発は、STICの分析および自己免疫疾患の治療の可能性のための別の取り組みである。
【0185】
SCIDマウスは、T細胞もB細胞も持っていない。彼らの免疫機構は、甲状腺細胞の特異的なサブ集団の移植によって再構成することができる。CD4+CD62L+細胞またはCD62Lhigh細胞と呼ばれるこれらの細胞は、免疫機構を再増殖するが、制御不可のため、慢性の炎症を伴う自発大腸炎の発症も誘発する。このモデルシステムは、自己免疫疾患の例のように、大腸炎における発症に関与する細胞集団のより特異的な分析を可能にする、所謂「マウスにおける実験的慢性大腸炎のCD62L+/CD4+SCID転移モデル」[たとえば、Mudter,J.et al.’’A new model of chronic colitis in SCID mice induced by adoptive transfer of CD62L+ CD4+ T cells:Insights into the regulatory role of interleukin−6 on apoptosis’’Pathobiology 70,170−176(2002)参照]である。
【0186】
ここでのモデルは、脱調整免疫システムによって誘発された大腸炎の治療において、STICの使用に可能性があるか試験するために使用される。このモデルは、より機序的な研究を可能にするが、免疫機構は完全に再増殖しないため、DSSモデルシステム(上記実施例8参照)に比べると弱いシステムと考えられる。
【0187】
SCID BALB/cマウス(それぞれ18〜22g)に、PBS中の「Macs」磁気ビーズ細胞分級システム(Milteny Biotech,Germany)を使用して、正常BALB/cマウスの脾臓から単離したCD4+/CD62L−セレクチンhighT細胞を1×106個を腹腔内注射する。マウスを自由に水と標準食に接せられるように保った。
【0188】
CD4+/CD62LセレクチンhighT細胞の移植から4〜6週間以内に、該マウスは大腸炎を発症した。大腸炎の発症は、重さの変化の判断によって決定した。
【0189】
次いで、マウスを無作為に3つの異なるグループに割り当てた:
グループ1(n=10):CD4+/CD62LセレクチンhighT細胞の投与による大腸炎誘発の開始から6週間後、マウスに0.25mLPBS中の62.5国際単位のヘパリンを静注的に与え(血栓症を予防するために)、続けて30秒後に遺伝的に同一のドナーマウスからのSTIC(実施例21参照)を1mLPBS中5×106個静注的に投与した;
グループ2(n=10):6週間後、CD4+/CD62L−セレクチンhighT細胞だけを受けたが、他のどのような細胞注射も受けていない第一コントロールグループ;
グループ3(n=10):CD4+/CD62L−セレクチンhighT細胞を受けた第二コントロールグループ。6週間後、マウスに0.25mLPBS中の62.5国際単位のヘパリンを静注的に与え(血栓症を予防するために)、続けて30秒後に遺伝的に同一のドナーマウスからの「コントロール細胞」(実施例2参照)を1mLPBS中5×106個静注的に投与した。「コントロール細胞」は実施例8と同一のもの(骨髄細胞、末梢血液細胞および脾臓細胞の非培養配合物)。
【0190】
疾患誘発T細胞の移植から10〜12週間で、あるいはコントロール動物が基本的なコントロールグループ2内での体重変化によって判断して、大腸炎の兆候を発症した時、全てのラットを全て致死させる。
【0191】
実施例8で記載したDSSモデルと同様に、実験の全期間の間、動物の体重を1週間に3回測定した。動物の体重の変化を、細胞治療を受けたときの実験開始から6週間後のマウスの体重に対する比率(体重減少または増加)で表す。再度、約5〜15%の範囲内の変化は有意であると考えられる。
【0192】
全実験期間中のマウスの体重変化を図9に示す。6週間後の全てのグループのマウスは、ほぼ同じ体重である。その後、6週間後のSTICの投与(グループ1=黒菱形)は、年齢依存性の適切な体重増加となるが、処置されていない動物(グループ2=黒四角)についても、6週間後に「コントロール細胞」で処置されたマウス(グループ3=黒三角)についても、疾患が進行、比較的体重増加が減少した(グループ2)または増加が全く見られない(グループ3)。値は、1グループ当たり6匹のマウスから得られた平均値であり、標準偏差は常に15%未満である。
【0193】
動物を屠殺した直後、これらの動物の大腸の長さと脾臓の重量を測定した。両値とも炎症の広がりは認められたものの、あまり影響は受けていない。
【0194】
図10に大腸の長さ(図10A)と脾臓の重量(図10B)の測定の結果を示す。この図からわかるように、コントロール動物と比べて、STICで処置した動物(グループ1)の大腸は有意に長く(約11cm)、それらの脾臓は有意に小さい(約50mg)。グループ2のコントロール動物は、重篤な炎症を示唆する、短くなった大腸(約10.3cm)と肥大した脾臓(約100mg)を有する。一方、コントロール細胞を受けた動物(グループ3)は、コントロール動物(グループ2)と比べると大腸炎の重篤な症状は発症していない(大腸の長さが約10.6cm、および脾臓の重量が約60mg)が、STICで処置した動物(グループ1)に比べると、大腸炎はより進行している。
【0195】
続いて、更なる実験で、大腸組織をヘマトキシリンエオシンで組織学的に染色した(HE染色;Woods,A.E.and Ellis,R.C.(eds.);Laboratory Histopathology:A Complete Reference,vol.1&2;Churchill&Livingstone,1994)。すでに実施例8で記載したように、実験計画については知らされてない、それぞれ別々に行動する2人の病理学者によって、粘膜の状態が評価された。粘膜のスコア方法は実施例8と同じである:
スコア0 健康で、影響は見出せない;
スコア1 軽い大腸炎;
スコア2 中程度の大腸炎;
スコア3 重い大腸炎;および
スコア4 全粘膜の破壊を伴う潰瘍性大腸炎。
【0196】
平均スコアを図11に示す。治療の移植を行って6週間後、細胞注射を受けていないグループ2のコントロール動物は、重い大腸炎を示唆する約3の平均スコアを有する。6週間後にSTICを受けたグループ1のマウスおよびコントロール細胞を受けたグループ2のマウスは、有意に減少し、それぞれ平均スコアが約1.5(軽い大腸炎を示す;グループ1)および約2.5(中程度の大腸炎を示す;グループ2)を有する。
【0197】
これらの結果も、図12(倍率100倍)からわかるように、HE染色された大腸部位の組織学的評価の確認事項と一致する。図12A/Bは、CD62LhighT細胞での大腸炎誘発後、処置しないままのグループ3の動物の大腸の状態を示す。両実施例は、単核球細胞による著しい侵入と、粘膜下組織および固有筋層の粘膜一体性の実質的な欠損、クリピト損傷、および侵入を示す。記載したように、「コントロール細胞」(血液、ウシ骨髄および脾臓組織に由来する非M−CSFおよびγ−インターフェロン刺激単球)の注射は、図12C/Dでわかるように、単核球細胞侵入および粘膜の欠損を予防しなかった。また、両検体は、リンパ球の実質的な粘膜下組織侵入を示すが、固有筋層はまだ損なわれていない。CD62LhighT細胞による大腸炎誘発の後、STICを投与することで、粘膜一体化を著しく回復した(図12E/F)。両検体の大腸部位において、軽いリンパ球侵入だけが見られ、分析した大腸部位の範囲内では、クリプト損失も粘膜下組織および固有筋層への損傷も見られない。
【0198】
デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発慢性大腸炎の治療のためのSTICの投与で得られた結果(上記実施例8参照)と同様に、マウスにおける実験的慢性大腸炎のCD62L+/CD4+SCID転移モデルを使用したここでも、STICは誘発大腸炎の症状を抑制するまたは明らかに軽減することができることを示される。STICで処置されたマウスは、年齢依存性の適切な重さの増加を示し(図9)、大腸の重篤な炎症を患うコントロールグループのマウスと比べて、それらの大腸は有意に長く(図10A)、それらの脾臓の重量は有意に低い(図10B)。最後に、STICで処置されたマウスの組織学的スコアは、処置されていない動物(図11)に比べ、有意に低く、STICで処置されたマウスの大腸部位の組織学的分析は、大腸炎の症状がほんの僅かもしくは症状がないことを示す(図12)。
【0199】
同系のマウスの脾臓から得た非培養細胞を示す骨髄細胞、末梢血液細胞および脾臓細胞の配合物は、これらの細胞で処置された動物(グループ3)はSTICで処置された動物に見られたものより重篤な症状を示している(図9、10A/B、11および12)ため、STICによる大腸炎治療の効果と比べて、有意に低下した評価を示す。DSSモデルシステムを使用した実施例8で得られた結果とは対照的に、CD62Lhigh細胞による大腸炎誘発のモデルでは、コントロール細胞は、コントロール細胞を受けた動物は、いかなる細胞も受けていないコントロール動物に比べて、それほど重篤な症状を示さないため、症状をいくらか軽減することができる。
【0200】
実施例8の結果によって、本発明のSTICは自己免疫疾患を治療することが可能であるという明らかな証拠が再び提供される。
【図面の簡単な説明】
【0201】
【図1】本発明による細胞の変性の前(左側のグラフ)および後(右側のグラフ)のオリジナル単球細胞のGM−7結合能力のフローサイトメトリー測定。x軸は結合細胞の数を示す。
【図2】個体B(GM−7−:グレイのカラム;GM−7+:黒のカラム)からのCD14+単球の混合リンパ球培養物、CD14+/GM−7+細胞とCD14+/GM−7−細胞の抑制活性を比較するためのMHC非調和ドナーAからのキラー細胞、およびドナーBからの照射細胞。
【図3】免疫抑制性CD14+/CD3+細胞の形成における培養の開始時に、単球を濃縮するために細胞を精製する際の影響を測定するための、単球画分中のCD14+単球の量、CD2+リンパ球の量およびTAICとしての効果があるCD14+/CD3+細胞の量のフローサイトメトリー測定。
【図4】TAICの抑制活性における阻害剤(1−MT)の影響を測定するための、インドールアミン−2,3−ジオキシゲナーゼ(IDO)の阻害剤(1−MT)が加えられた2つの試験においてプレインキュベートされたPHA刺激リンパ球(PhaLy)およびTAIC(「Mo+Ly」または「Mo」)の混合リンパ球培養物。
【図5】血液細胞のインビボGM−7発現におけるTAICの影響を測定するための、TAICの注射の前(左図)および後(右図)の手術後の患者の血液中のGM−7発現のフローサイトメトリー測定。
【図6】デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発慢性大腸炎を患っているマウスの大腸部のHE染色であって、処置されていないグループ3の動物(図6A/B)、+1日目にSTICを与えられ次いでDSS治療されたグループ1の動物(図6C/D)、「コントロール細胞」を+1日目に与えられたグループ4の動物(図6E)、およびSTICを+7日目に与えられた動物(図6F)の大腸の状態を示す。(図6A/C/Eでは倍率2.5倍、図6B/D/Fでは倍率10倍)
【図7】DSS治療の終了後3週間の間の、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発慢性大腸炎を患っているマウスの体重の変化。グループ1(黒四角)の動物はSTICを+1日目に与えられ、グループ2(黒三角)の動物はSTICを+7日目に与えられ、グループ3(黒逆三角)の動物は処置されず、一方、グループ4(黒丸)の動物は、「コントロール細胞」を+1日目に与えられた。値は、1グループ毎に5〜7匹のマウスから得られた平均値であり、標準偏差は常に15%未満である。
【図8】デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発慢性大腸炎を患っているマウスの組織学的に染色された大腸部のスコアの結果である。グループ1の動物はSTICを+1日目に与えられ、グループ2の動物はSTICを+7日目に与えられ、グループ3の動物は処置されず、一方、グループ4の動物は「コントロール細胞」を+1日目に与えられた。(採点0=健康で影響のない結果;採点1=マイナーな大腸炎;採点2=中程度の大腸炎;採点3=重い大腸炎;および4=粘膜全体の破壊を伴う潰瘍性大腸炎)
【図9】細胞治療を受けた場合の実験開始後6週間のマウスの体重に関する、実験的慢性大腸炎のCD62L+/CD4+SCID転移モデルにおける、マウスの体重の変化。グループ1の動物(黒菱形)は6週間後にSTICを与えられ、グループ2の動物(黒四角)は処置されず、グループ3の動物(黒三角)は6週間後に「コントロール細胞」を与えられた。値は1グループ毎に6匹のマウスから得られた平均値であり、標準偏差は常に15%未満である。
【図10】実験的慢性大腸炎のCD62L+/CD4+SCID転移モデルにおける、STICを受けたマウス(グループ1)、処置されていないコントロールマウス(グループ2)、および「コントロール細胞」を受けたマウス(グループ3)の大腸の長さ(図10A)および脾臓重量(図10B)の測定。値はSEM平均値である。
【図11】細胞移植後6週間の実験的慢性大腸炎のCD62L+/CD4+SCID転移モデルのマウスの組織学的に染色された大腸部のスコア。グループ1の動物はSTICを受け、グループ2の動物は無処置で細胞注射を受けておらず、グループ3の動物は、「コントロール細胞」を受けた。値はSEM平均値である(採点0=健康で影響のない結果;採点1=軽い大腸炎;採点2=中程度の大腸炎;採点3=重い大腸炎;および4=粘膜全体の破壊を伴う潰瘍性大腸炎)。
【図12】実験的慢性大腸炎のCD62L+/CD4+SCID転移モデルのマウスの大腸部のHE染色であって、2匹の無処置の動物のグループ2(図12A/B)、2匹の「コントロール細胞」を与えた動物のグループ3(図12C/D)、および2匹のSTICを与えた動物のグループ1(図12E/F)の大腸の状態を示す(倍率:100倍)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者において免疫学的自己寛容を誘発しうる単球由来の自家細胞に関する。これらの細胞は、これ以降「STIC」(自己寛容誘発細胞)と言う。さらに本発明は、自己寛容障害、特に自己免疫疾患およびアレルギーを伴う疾患の予防および/または治療のための薬学的調製物におけるSTICの使用に関する。
【0002】
本発明において、語句「自己(由来)」とは、STICが、該STICを投与している各患者の血液中の単球に由来することを言う。
【0003】
本発明の細胞が調節性T細胞(TregCD4+25+)を誘発しうることが本発明者によって示された。したがって本発明は、調節性T細胞の誘導および/またはインビトロ製造にも関する。
【背景技術】
【0004】
免疫機構は、存在する微生物に関して、潜在的病原性抗原から体を保護する一方で、本来なら、体それ自身の構成成分と反応することは避け、すなわち、健康な免疫機構は「自己抗原」を黙認する。
【0005】
自己寛容障害は、特別な適応(後天的な)免疫応答が自己抗原に取り付けられた時に起こる。
【0006】
外来性抗原に対する適応免疫応答の正常な帰結は、体から抗原を浄化することである。しかし、適応免疫応答が自己抗原に対して発症した場合、免疫効果機序が抗原を完全に除去することは通常不可能であり、したがって、持続的反応が起こる。その結果、免疫能のエフェクター経路は、組織に慢性の炎症性障害を起こし、それは死に至る場合もある(Immuno Biology 5,The Immune System In Health and Disease,Garland Publishing 2001,Chapter 13,pages501−522参照)。
【0007】
適応免疫応答は、抗原−特定のTおよび/またはB細胞の活性によって開始され、自己免疫も同じように開始されると信じられている(Immuno Biology,loc.cit.p501)。
【0008】
本発明の好ましい実施形態の1つは、STICを含む薬学的調製物を使用した、自己免疫疾患の治療および/または予防に関する。
【0009】
自己免疫疾患は、主として2つのパターンに区別される。自己免疫症状の発現が体の特定の器官に限定される疾患は、「器官特異」自己免疫疾患として知られ、一方、「全身性」自己免疫疾患においては、体の多くの組織が影響を受ける。器官特異自己免疫疾患の例として、橋本病、グレーブス病(これらはそれぞれ優先的に甲状腺に影響する)、およびI型インスリン依存性糖尿病(これは膵島に影響する)が挙げられる。全身性自己免疫疾患の例としては、全身性紅斑性狼瘡および原発性シェーグレン症候群(これは皮膚、腎臓および脳の多種多様な組織が全て影響を受ける)(Immuno Biology,loc.cit,503ページ、参照)が挙げられる。
【0010】
T細胞媒介性であると主に信じられている自己免疫疾患、たとえば、インスリン依存性糖尿病、リウマチ性関節炎および多発性硬化症があり、一方、細胞表面やマトリックス抗原への抗体の形成が主な役割を果たす、たとえば、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性血小板減少性紫斑病、グッドパスチャー症候群、尋常性天疱瘡あるいは急性リウマチ熱におけるような事例もあり、さらに別に、たとえば混合型クリオグロブリン血症、全身性紅斑性狼瘡あるいはリウマチ性関節炎のような、T細胞およびB細胞の両方が関与する免疫複合疾患のグループもある(Immuno Biology,loc.cit,502頁の図13.1参照)。
【0011】
本発明のさらなる実施形態は、薬学的調製物として製剤化された本発明のSTICによるアレルギーの治療に関する。
【0012】
近年、調節性T細胞が、免疫恒常性維持の調整において重要な役割を果たすこと、すなわち、免疫学的自己寛容を始めとして、いかなる感染あるいは抗原関連標的に対しても免疫応答ができあがっていることが示唆されている(Takeshi Takahashi and Shimon Sakaguchi,International Review of Cytology,225,1−32(2003);Shimon Sakaguchi,Vox Sang 83,151−153(2002),Kathryn J.Wood and Shimon Sakaguchi,Nature Reviews Immunology,3.199−210(2003)参照)。
【0013】
Takahashi et al.,loc.cit.page1,Abstractが述べるように、「自己反応性T細胞のT細胞媒介性優勢遺伝子調整は、免疫学的自己寛容の維持を助長し、その交代が自己免疫疾患の発症を促すことを示唆する証拠が蓄積されている。そのような調節性T細胞集団を描く努力によって、ヒトを始めとする正常な未処理動物におけるCD4+細胞集団内のCD25+細胞が制御活性を有することが明らかになった。CD25+プラスCD4+調節性T細胞は、T細胞の機能的に区別されたサブ集団として、正常な胸線によって産生される。これらは、自己免疫予防においてだけでなく、種々の免疫反応の調整においても重要な役割を果たす。」
T細胞媒介性自己免疫疾患の他にも、免疫機構のB細胞コンパートメントが、自家細胞(マスト細胞を含む)、組織および器官構造に対する抗体の産生を伴う自己攻撃性疾患を誘発できる。
【0014】
B細胞活性化は、ヘルパーT細胞が特定の抗原位上でクローナルB細胞性増加を刺激するといった方法で、T細胞ヘルプに依存することはよく知られている。該抗原は断片化されたアレルゲンから誘導されてもよく、これらは次いでT細胞内で小分子ペプチドにされる。次いで、抗原特異的活性化を促すために、MHC制限の形で提供される。
【0015】
特定のアレルゲンによって引き起こされ、一方でアレルギー性疾患を起こし、また他方で自己寛容障害を誘発しうる(前述を参照)、調整不可能なあるいは過剰なB細胞の活性化を回避するために、調節性T細胞は、B細胞の活性化と関係しているT細胞を阻害する能力を持ち、過剰で調整不可能な抗体産生を妨げる。
【0016】
したがって、自己免疫疾患と同じように、アレルギー性疾患もまた、調節性T細胞(CD4+/CD25+T細胞)の量が増加することによって、影響を受け、コントロールされうる。特に、EAE(「実験アレルギー性脳脊髄炎」)を患うマウスにおいて、CD4+T細胞をこれらの動物に投与して2週間で疾患は軽減され、治療にはさらなる疾患の誘発を伴うことがないことが示された(Bach,J.F.’’Regulatory T Cells under Scrutiny’’Nature Reviews Immunology 3:189−198(2003);Lando,Z.et al.’’Effect of cyclophosphamide on suppressor−cell activity in mice unresponsive to EAE’’J.Immunol.123:21556−2160(1979))。これらの効果は、自己免疫性糖尿病の進行をCD4+細胞の投与によって止まらせ、さらに新たに自己免疫疾患が出現することを阻止したNODマウス(Bach,J.F.,loc.cit.)で示された効果と似ている。
【0017】
自己免疫反応を伴ってもよい、アレルギー性疾患の例は、自己のものでないタンパク質、体が出会う有機および無機物質によって誘発されるアレルギーの全てのタイプである。この点で特に重要なものは、花粉によって誘発されるアレルギー、たとえば花粉症、および薬、化学薬品、ウイルス、バクテリア、菌類、ハウスダスト、食品成分、金属、ガス、皮膚落屑や髪の毛のような動物の体の成分および動物の排泄物のようなアレルゲンによって誘発されるアレルギーである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
現時点で、自己寛容障害によって起こる疾患の予防および/または治療に関する効果的な治療は入手できていない。
【0019】
器官特異自己免疫疾患に関しては、代替治療、移植、コルチゾンのような抗炎症薬を使用する症候性治療が通常行われている。全身性自己免疫疾患に関しては、免疫抑制剤が治療のためにしばしば使用される。明らかに、これらの「治療」は多くの点で問題があり、重篤な副作用を発症する。
【0020】
集団の5%までは、自己免疫疾患に冒されていると推定される(Sakagushi,loc.cit.,151頁、左欄)。したがって、扱いやすく、健康を脅かす副作用を伴わず、このような治療に適用される現時点で方法および薬剤に関し高い費用の掛からない、自己寛容障害を伴う疾患の予防および/または治療のための有効な手段の存在が早急に求められている。
【0021】
したがって、自己寛容障害を伴う疾患の予防および/または治療のための改良された方法を提供することが、本発明の根底にある問題である。
【課題を解決するための手段】
【0022】
この問題の解決のために、脊椎動物、特に哺乳動物、さらに好ましくはヒトからの単球由来の自己由来の自己寛容誘発細胞(STIC)を使用することが提案されている。これらの細胞は、以下に記載する本発明の方法によって得られ、該方法によって個体の中の調節性Tリンパ球(CD4+/CD25+T細胞)の量を増やすことができる変性細胞が得られる。約105個の細胞/kg体重(BW)の投与の後、これらの細胞は、自己寛容障害を伴う疾患を適切に予防および/または治療する。
【0023】
(発明の要旨)
単球由来の自己に由来する自己寛容誘発細胞(STIC)を生成する方法の基本的な工程は、
(a)細胞を投与すべき患者のそれぞれの血液から単球を単離する工程と、
(b)成長促進剤としてマクロファージコロニー刺激因子(以下M−CSFという)を含む適切な培地中で、単球を増殖させる工程と、
(c)単球をγ−インターフェロン(以下γ−IFNという)で刺激する工程と、
(d)工程c)で形成された自己寛容誘発細胞を、培地から細胞を分離することによって得る工程、
とを含む。
【0024】
類似の方法がドイツ特許出願第DE10231655.4号明細書および国際特許出願国際特許出願PCT/EP03/07551号明細書の明細書に記載されている。上記の先願の特許出願には、生成された細胞は、「移植受容誘発細胞」(TAIC)と呼ばれる。これらは、受容者における同種異系のドナー組織の受容を誘発するために使用される。重要なことは、ドイツ特許出願第DE10231655.4号明細書および国際特許出願PCT/EP03/07551号明細書に記載されているTAICは、ドナーの単球から誘導されたものであり、移植の受容を誘発するために、受容者に投与することである。これは、TAICは、TAICで処置すべき個体に対し同種異系であることを意味する。
【0025】
これに対して本発明は、「自己由来の治療」の概念に基礎を置く。これは、自己寛容障害、特に自己免疫疾患および/またはアレルギーを患う個体が、自己由来の単球から誘導される、自己寛容誘発細胞(STIC)で処置されることを意味する。
【0026】
したがって、TAICとSTICとは両方とも、本質的に同じ方法によって単球から誘導されるが、TAICは処置されるべき患者に対して同種異系であり、一方、STICはこの点において自己由来である。
【0027】
STICを生成する方法に関しては、γ−IFNによる刺激が決定的な工程を表すことが示されている(実施例2参照)。
【0028】
本明細書において、語句、単球由来の自己寛容誘発細胞(STIC)は、上記方法の工程d)で得られる細胞集団をいう。この細胞集団は、自己寛容、またリンパ球の誘発(実施例4参照)において効果のある単球から誘導される細胞に加えて、リンパ球も含み(実施例4参照)、さらに、場合によっては、たとえば顆粒球のような単核球細胞画分から誘導される細胞も含む。STIC集団内の単球から誘導される細胞の量は、好ましくは全細胞数の50〜90%、さらに好ましくは60〜70%である。
【0029】
本発明に関して、語句「全細胞の数」は、考慮中の細胞集団中の生活細胞の量をいう。この量は、染料が、光学的手段によって非生活細胞から生活細胞を区別することが可能であるから、「トリパンブルー分染法」によって測定することができる。
【0030】
自己寛容を誘発するのに、STICは、通常、体重1kg当たり104〜106個の細胞が使用され、好ましくは体重1kg当たり105個の細胞が使用される。STICの投与は繰り返し行ってもよい。
【0031】
本発明によるSTICは、悪性腫瘍の形成に関し、動物実験でも培養物においても危険性がないことが証明されている。これは、本発明による細胞が誘導されるオリジナル単球細胞の性質ゆえ、他のどんな方法においても予測できなかった結果である。
【0032】
以下で詳しく説明するように、さらに最適に自己寛容を誘発する特性を有する細胞のサブ集団も、STIC中に存在する細胞の画分から単離することができ、これらは単球から誘導される。
【0033】
γ−インターフェロンでオリジナル細胞(単球)をインビトロで培養および刺激した後、細胞のサブ集団を含むSTICを形成する(実施例3参照)。これは、モノクローナル抗体GM−7に結合し、ハイブリドーマ細胞株DSM ACC2542によって発現する。該モノクローナル抗体GM−7は、イムノグロブリンイソ型IgG2aの抗体であって、その軽鎖は、カッパーイソ型を発現する。オリジナル単球細胞は認識されない、すなわち、オリジナル細胞に対する抗体の結合は起こらない(実施例3参照)ため、この抗体の特徴的特性は、本発明による培養条件によって変性された単球に対し結合する緊縮な能力にある。さらに、GM−7は抹梢血液中のヒト細胞には結合しないことが20人のボランティアによって実証された(図5参照)。
【0034】
国際特許出願PCT/EP03/075551号明細書に記載されているように、抗体は、ヒト単球から誘導されたTAIC(STICに相当する)で、当業者に知られた方法を使用して、マウスに免疫化することによって生成された(Davis,W.C.’’Methods in Molecular Biology:Monoclonal Antibody Protocols’’,New York:Humana Press Inc.Totowa,1995)。次いで、該マウスから、抗体と骨髄腫細胞とを産生するB細胞の融合によってハイブリドーマ細胞株を製造した。このような細胞株の生成のために使用される方法は、現在の技術水準で公知である(Davis,W.C.’’Methods in Molecular Biology:Monoclonal Antibody Protocols’’,New York:Humana Press Inc.Totowa,1995;Kohler,G.,Milstein,C.’’Continuous cultures of fused cells secreting antibody of predefined specificity’’,Nature 256,495−497(1975))。抗体GM7を産生するハイブリドーマ細胞株は、DSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkultur GmbH、ブラウンシュバイク、ドイツ)でのブタペスト会議の規則に従って、登録No.DSM ACC2542にて寄託した。
【0035】
図1に、フローサイトメトリーによって測定した本発明によるインビトロ変性後のGM−7の単球に対する結合能力を示す。単核球細胞画分から直接得たCD14陽性単球は、抗体GM−7(影の付いた灰色の部分が、影のない抗体コントロールと一致する)に結合しないことがわかる。対照的に、M−CSFの存在下で培養しγ−IFNで刺激した後、単球の一部は、モノクローナル抗体GM−7によって認められる抗原を発現する。該モノクローナル抗体GM−7は、イソ型κ−IgG2aとして特徴付けられる。したがって、本発明の方法は、変性された単球の細胞膜上の抗原発現の表現パターンの変化をもたらす(図1)。
【0036】
モノクローナル抗体GM−7は、本発明による方法によって生成された細胞の中でも、最も効果のある自己寛容誘発細胞を誘発する細胞集団に特に結合する(図5参照)。
【0037】
したがって、本発明の好ましい実施形態は、そのような、つまり抗体GM−7を結合することができるSTICに関する。これらの細胞をこれ以降STICGM7と言う。
【0038】
したがって、本発明による抗体GM−7は、非常に効果的で、自己寛容を誘発する細胞(STIC)を選択し精製するための薬剤の取り扱いが簡単であることを示す。該抗体を用いて、本発明により、均質で効果が非常に高いSTIC集団を産生することが可能である。
【0039】
本発明の好ましい実施形態によれば、上記本発明の方法の工程c)で形成された、抗体GM−7に結合する抗原を発現する自己寛容誘発細胞は、工程c)の後、その培地から直接選択してもよいし、ハイブリドーマ細胞株DSM ACC2542によって生成した抗体GM−7に結合することによって、上記本発明の方法の工程d)による培地からそれぞれ細胞を分離した後、得られた細胞集団から選択してもよい。
【0040】
本発明によるSTICを選択するには、抗体がサンプル中に存在する自己寛容誘発細胞に結合できる条件下で、抗体をサンプルに接触させる。結合反応により得られた反応複合体を、次いで、サンプルから分離する。この目的のために、サンプルとの接触の前に、抗体を担体材上で培養することができ、たとえば、クロマトグラフの目的にまたは所謂「磁気ビーズ」に適切なマトリックスに結合することができる。この手順は、体積の大きなサンプルから自己寛容誘発細胞を選択、濃縮することを可能にする。
【0041】
自己寛容誘発細胞を得るために、抗体と自己寛容誘発細胞との間の結合は、サンプルから反応複合体を単離した後は分離される。これは、現在の技術水準で知られている方法、たとえば、競合置換または塩溶液によって洗浄することによって達成することができる。相当する方法が、たとえば、Utz U. et al.によって記載されている(’’Analysis of the T−cell Receptor repertoire of human T−cell leukemia virus type−l(HTLV−1)Tax−specific CD8+ Cytotoxic T Lymphocytes from patients with HTLV−1 associated disease:Evidence for the oligoclonal expansion’’J.of Virology 1996年2月、843−851頁)。
【0042】
さらに、モノクローナル抗体GM−7は、インビトロで、患者の血液および/または組織サンプル中にある、本発明による単球由来の自己寛容誘発細胞の定性および定量測定を可能にする。自己寛容誘発細胞の存在を示し、該当する場合は、その量も示す、サンプル中での反応複合体の形成は、公知の方法によって検出される。
【0043】
反応複合体を検出するには、この場合、抗体GM−7を、検出する分子、たとえば、抗体に共有結合で結合しているものに直接結合する(標識化する)ことが可能である。検出すべき適切な分子は、分子学的診断の分野に数多く記載され、なかでも、イソチオシアン酸フルオレセインやテトラメチルローダミン−5−イソチオシアネートのような蛍光染料、発光染料、放射能ラベルされた分子および酵素パーオキシダーゼが挙げられる(Lottspeich,F.,Zorbas,H.’’Bioanalytik’’,Spektrum Akademischer Verlag GmbH,Heidelberg−Berlin,1998を検討せよ)。
【0044】
抗体の検出は、抗体の標識化のために選択される分子に基づいて行われる。本発明については、抗体の検出がフローサイトメトリーおよび/または蛍光顕微鏡法によって行うことができるように、抗体GM−7と蛍光分子、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)とを結合した。抗体をFITCで標識化する方法は当業者に公知である。
【0045】
あるいは、反応複合体は二次抗体を使用した二段法で検出することもできる。この点において、標識化されていない抗体GM−7は、さらに他の標識化された抗体を含む反応複合体中で検出することができる(Lottspeich,F.Zorbas,H.’’Bioanalytik’’,Spektrum Akademischer Verlag GmbH,Heidelberg−Berlin,1998を検討せよ)。この二段法の検出は、数個の標識化された二次抗体が1個のGM−7抗体(信号増幅)に結合できるため、本発明による抗体結合を直接検出するより、はるかに感度が高い。
【0046】
したがって、抗体GM−7は、STICで処置された患者の末梢血液中のSTICの検出を可能にする。たとえば、「モニタリング」という形で、末梢血液中の細胞の数を特定の時間間隔で検出する。
【0047】
当業者には明らかなように、ヒト以外の脊椎動物の単球、特に本発明によって変性された霊長類およびブタの単球からもSTICに対するモノクローナル抗体を生成することが可能である。この点に関して、対応する宿主動物の免疫および対応するハイブリドーマ細胞株の産生は、ヒト由来のSTICについては、上記したように行われる。
【0048】
本発明の特に好ましい実施形態は、本発明のSTICのサブ集団に関し、これは、細胞表面にCD3抗原およびCD14抗原が共発現している。これらの細胞を以下、STICCD3+/CDl4+と記載する。以下にさらに詳しく説明するように、これらの細胞は調節性Tリンパ球の形成を誘発することが示されている。
【0049】
表面抗原CD3およびCD14を共発現するSTICは、上記した本発明の方法の工程c)において形成された自己寛容誘発細胞から直接選択してもよいし、上記本発明の方法の工程d)による培地から細胞を分離した後得られる細胞集団から選択してもよいし、あるいは、STICGM7集団から選択してもよい。
【0050】
さらに、国際特許出願PCT/EP03/07551号明細書のTAICを参照することにより、本明細書によって生成された細胞は、遺伝子Foxp3、CTLA4およびインテグリンαEβ7を強く発現することが示されている(国際特許出願PCT/EP03/07551号明細書の実施例12に相当する実施例6を参照)。対照的に、これらの遺伝子は、オリジナル単球によっては全くあるいは少ししか発現しない。したがって、遺伝子Foxp3、CTLA4およびインテグリンαEβ7の発現のアップレギュレーションは、STICCD3+/CD14+細胞に特異的である。
【0051】
実施例6で述べるように、マーカーFoxP3、CTLA4およびインテグリンαEβ7の発現は、以前は調節性Tリンパ球のみについて記載されていた。表面抗原CD4およびCD25を共発現するTリンパ球は、調節性Tリンパ球のサブ集団であり、「抑制細胞」とも言われる。それは、体の免疫応答を抑制するそれらの機能である。特に、Foxp3は特定の転写因子として見られ、調節性T細胞の発症に関し、コントロール遺伝子として働き、これらの細胞により特異的に発現する。本発明によれば、STICCD3+/CDl4+細胞は、全RNA1μgに対し、Foxp3−RNAが少なくとも1×10−9μg発現するのが好ましく、より好ましくは少なくとも5×10−9μg、特に好ましくは少なくとも1×10−8μgである。
【0052】
CTLA4も同様にTリンパ球、特にCD4/CD25陽性Tリンパ球の調整機能の検出のためのマーカーと見なされる(実施例6に列挙された文献を参照)。本発明によれば、STICCD3+/CDm4+細胞は、好ましくは全RNA1μgに対し、CTLA4−RNAが少なくとも5×10−7μg発現するのが好ましく、より好ましくは少なくとも3×10−6μg、特に好ましくは少なくとも5×10−6μgである。
【0053】
上皮カドヘリンを認識するインテグリンαEβ7は、近年、Lehmann et al.によってPNAS 99,13031−13036頁(2002)に、非常に強力な、上皮環境と影響しあう調節性Tリンパ球のサブ集団に関する新しいマーカーとして記載された。本発明によれば、インテグリンαEβ7−RNAの発現は、その量がSTICCD3+/CD14+細胞において、好ましくは全RNA1μgに対して、少なくとも1×10−12μg、より好ましくは少なくとも1×10−1lμg、特に好ましくは少なくとも1×10−10μg、最も好ましくは少なくとも1×10−9μgである。
【0054】
実施例6の表に示すように、本発明の細胞とリンパ球との直接的な共培養によって、遺伝子Foxp3、CTLA4およびインテグリンαEβ7の強くアップレギュレートされた発現を伴うリンパ球集団における調節性Tリンパ球、特にCD4+/CD25+細胞の数が大幅に増加する。該実施例はさらに、本発明の細胞がもし間接的にリンパ球と共培養されれば、この効果は観察されないことを実証する。
【0055】
これらの結果は、本発明の細胞による調節性Tリンパ球の形成および/または増殖の刺激は、これらの細胞による自己寛容の誘発が関与していることを示唆する。
【0056】
実施例7(国際特許出願PCT/EP03/β7551号明細書の実施例13に相当)によって、国際特許出願PCT/EP03/07551号明細書(上記参照)のTAICを参照して、免疫応答抑制の誘発において、本発明の細胞の関与に関する仮説が確認された。この実施例においては、インビトロで、受容動物からのリンパ球を、それぞれのドナー動物からの免疫抑制細胞で培養した。寛容性を誘発するために、TAIC由来のドナーでプレインキュベートされた受容者からのリンパ球を、TAICの代わりに、動物に注射した。ドナー特異的寛容性は、この方法でも誘発することができたが、一方、TAIC由来ドナーで共培養されていない受容リンパ球を投与された動物は、寛容性を発症しなかった。
【0057】
本発明のSTICは、そのような薬学的調製物としても使用することができる。上記本発明の方法の工程d)で得られる細胞は、直接使用することができる。そのようにして得られた集団の細胞の合計の約10〜50%が、初期単球単離物(単核球細胞画分)由来するリンパ球および顆粒球によって形成される。これらの細胞は、培養工程における単球に由来する、本発明のSTICの生成をサポートする(実施例4参照)。これらは、本発明のSTICが薬学的調製物として使用される場合、自己寛容の誘発を疎外しない。
【0058】
しかし、本発明のさらに好ましい実施形態によれば、サブ集団STICGM7および/またはSTICCD3+/CD14+は、本発明の方法で得られたSTIC集団(上記参照)全体から単離して、自己寛容誘発するために使用してもよい。
【0059】
培養培地(実施例2参照)としては、STICおよび/またはSTICGM7および/またはSTICCD3+/cDl4+が、それらの自己寛容誘発効果を落とし始めることなく少なくとも48時間保つ。
【0060】
薬学的調製物の使用に関して、たとえば、ヒトAB0適合血清(国際的に使用に適する)中に懸濁させたSTICおよび/またはサブ集団STICGM7および/またはSTICCD3+/CD14+を、短輸血として静注的に投与することができる。
【0061】
本明細書において、薬学的調製物は、本発明のSTICと、これに組み合わせて、ステロイド、特にコルチゾン、メトトレキサート、シクロホスファミド、アザチオプリン、5−アミノサリチル酸(5−ASA)、TNF−α抗体、α−インターフェロンのような、従来の抗炎症薬および/または従来の免疫抑制剤、および、たとえばリツキサンのようなB細胞抗体とを、特異的な器官または全身性自己免疫疾患の治療のために含んでもよい。
【0062】
さらに、本発明のSTICは、抗ヒスタミン剤、テオフィリン製剤、R−ミメティック、ステロイド、特にコルチゾンおよびクロモグリシン酸と組み合わせて、アレルギーの治療のために使用してもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0063】
(発明の詳細な説明)
本発明による方法のための出発細胞は、自己由来の血液単球、すなわち、本発明の細胞を投与すべき個々の患者の血液からの単球である。該自己由来の単球はヒト血液のものが好ましい。単球は、どのような単離方法によって得てもよく、特に白血球搬出法によって、または全血(バッフィーコート)からの単核球細胞画分から得てもよい。特に、白血球搬出法が好ましい。
【0064】
白血球搬出法は、市販のアフェレーシス装置を使用した多段階方式の一般用語であり、ヒト被験者からの全血を採取し、複数の画分に分離し、単核球細胞画分以外の画分を上記ヒト被験者に返血する方法である。この方式は、欧州特許公開第0591194 B1号公報にさらに詳しく概説するように行う。
【0065】
あるいは、凝血防止剤を使用した通常の治療の後に、先ず、公知の方法、好ましくは遠心分離法で、血液を血漿と白血球および赤血球に分離する。遠心分離の後は、血漿が上澄み液中に存在し、その下に全体に白血球が含まれた層がある。この層はまた、バッフィーコートと呼ばれる。この下に赤血球を含む相(ヘマトクリット)がある。
【0066】
本発明による方法に関して、単核球細胞画分は先ず単離分離して、たとえば公知の方法で遠心分離することによって単球を得る。好ましい方法実施形態によれば、単核球細胞画分をリンパ球分離培地(フィコール−ハイパーク)に塗布し、遠心分離する(実施例1参照)。実施例1は、本発明の好ましい実施形態を記載する。実施例1では、単核球細胞画分にまだ含まれている赤血球と死細胞を遠心分離によって分離し、単球を含む白血球を分離培地上に単離物として置く。その後、白相を注意深くピペットで取り、単離物中の単球を濃縮するために、繰り返し遠心分離し洗浄する。この方法で、単球はリンパ球の一部とともに遠心分離槽の底に集まる。
【0067】
本発明の方法の特に好ましい実施形態によれば、単球を含有する単離物を得るための条件は、単離物が、単球に加えて、細胞の総数に対して約10〜50%のリンパ球を含むように調整されている。単離物は、総細胞数に対して、好ましくは約50〜90%の、特に好ましくは60〜70%の単球を含み、リンパ球は約10〜50%、特に好ましくは20〜50%を含み、ここでの相違は場合によっては顆粒球によって提供されうる。
【0068】
実施例4に示すように、MCSFおよびγインターフェロンでオリジナル単球を培養している間、総細胞数の20〜30%の量のリンパ球が存在すると、リンパ球(約5%)がほとんど存在しない場合(図3参照)のように、CD3/CD14−ダブル陽性STICの量が非常に多く産生する。
【0069】
STICを充分な量を生成するためには、先ず、単球の増殖を可能にする必要がある。この目的のため、単球に適した公知の増殖培地を使用することができる。しかし、該培地は、増殖因子M−CSF(マクロファージコロニー刺激因子)を含まなければならない。M−CSF(CSF−1とも呼ばれる)は、単球、線維芽細胞、リンパ球および内皮細胞によって生成される。培地中のM−CSFの濃度は、2〜20μg/L培地が好ましく、さらに好ましく4〜6μg/L培地、特に好ましくは5μg/L培地である。
【0070】
STICの収量は、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)の存在によって減少するため、増殖培地はこの因子を含まないことが好ましい。
【0071】
次いであるいは同時に、細胞はγ−IFNで刺激されなければならない。すなわち、細胞はγ−IFNの存在下で培養されなければならない。γ−IFNによる単球の刺激は、増殖因子を含む培地において3〜6日を費やす初期増殖段階の後に行う。好ましくは、M−CSFの存在下での培養の始まりから4日目にY−IFN刺激を始め、この刺激はインキュベータ条件下、37℃、5%CO2の雰囲気中で、好ましくは24〜72時間、さらに好ましくは48時間続ける。
【0072】
培地中のγ−IFNの濃度は、0.1〜20ng/mLであり、1〜10ng/mLが好ましく、5ng/mLが特に好ましい。
【0073】
γ−IFNによる刺激は、増殖因子を含む培地中の単球の増殖と同時に始めてもよい。しかし、上述したように、3〜6日の初期増殖段階後の刺激が好ましい。概して、γ−IFNによる細胞増殖および刺激は、8日を超えない期間で行うのが好ましい。いずれにしても、γ−IFNによる治療は、増殖段階の後、少なくとも24時間で最高72時間、好ましくは48時間で行うべきである。したがって、細胞の増殖および刺激の時間は、合計で4〜8日間費やすのが好ましい。
【0074】
本発明の好ましい実施形態によれば、γ−インターフェロンによる増殖および刺激は、実施例2で示したように行われる。すなわち、単球を先ず増殖因子を含む培地中で増殖し、3〜6日後に0.1〜20ng/mL、好ましくは1〜10ng/mL、特に好ましくは5ng/mLの濃度が培地中で得られるような量のγ−IFNを培地に加える。
【0075】
本発明による方法は、表面があらかじめウシ胎児血清(FCS)、あるいは好ましくはヒトAB0適合血清(実施例2参照)で塗布された培養槽中で行われるのが好ましい。FCSの塗布は、使用の前にFCSで培養槽の表面を被覆し、数時間、特に4〜72時間、好ましくは12〜48時間、特に24時間の相互作用の時間の後、適切な方法で表面に付着していないFCSを取り除くことによって行うことができる。ヒトAB0適合血清での塗布も、上記した方法と同じようにして行う。
【0076】
培養ステップの間に、細胞は約24時間後培養容器の底に沈殿する。接着特性のため、単球および該プロセス中に該単球に誘導されたSTICは、それぞれの培養槽の底に付着する。実施例2に記載するように、培養中に培地は変化し、最初に上澄み液を、たとえば、ピペットであるいはデカントして注意深く取り除き、続けて新しい培地を充填する。しかし、底に付着する細胞は洗浄しないか、あるいは注意深く洗浄して、存在するどんなリンパ球も取り除かないようにするのが好ましい。
【0077】
付着する細胞を取り除くには、機械的に、たとえば、微細細胞スクレーパーまたはスパチュラを使用して行うことができる。
【0078】
しかし、本発明による方法の好ましい実施形態によれば、細胞の完全な除去は、適切な酵素、たとえば、トリプシン(実施例2参照)による治療によって行われる。トリプシン溶液(0.1〜0.025g/L、好ましくは0.05g/L)は、2〜10分間、35℃〜39℃、好ましくは37℃で、5%CO2の存在下で細胞に作用することができる。
【0079】
次いで、酵素活性は、通常の方法でブロックされ、今や自由に浮遊するSTICを遠心分離することによって通常の方法で得ることができる。次いで、これらはすぐに利用することもでき、場合によっては、たとえばPBSのような適切な培地中の懸濁物として利用することもできる。また、これらは数日、特に2、3日程度栄養培地中に保存することもでき(実施例2参照)、この保存培地は、増殖因子もγ−IFNも含むべきではない。細胞は、そのような栄養培地中でSTICとして少なくとも48時間保存することができる。
【0080】
より長い時間保存するために、細胞を冷凍することができる。生存細胞の冷凍のプロトコルは、現在の技術水準で知られているGriffith M.et al.を比較せよ。(’’Epithelial Cell Culture,Cornea’’,in Methods of tissue engineering,Atala A.and Lanza R.P.,Academic Press 2002,第4章,131〜140頁))。本発明による細胞の冷凍に好ましい懸濁培地は、AB0適合血清またはFCSであって両方ともDMSOが加えられている。
【0081】
本発明の実施形態の一つによれば、ステップc)またはd)で得られる、自己寛容誘発細胞を含む細胞懸濁物は、STICGM7サブ集団として得るように、抗体GM−7に結合する細胞をさらに精製してもよい。このように精製する方法は上記に詳しく記載している。
【0082】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、そのような細胞は細胞表面にCD3抗原およびCD14抗原を共発現するSTIC集団から選択される。そのような細胞を選択する方法は、業界で知られている。そのような方法の例示として、「蛍光活性細胞分離法」(FACS)、「免疫磁気ビーズ分離法」および「磁気細胞分離」(MACS)、あるいは所謂「ロゼッティング法」[Gmelig−Meyling F.et al.’’Simplified procedure for the separation of human T− and non−T−cells”,Vox Sang.33,5−8(1977)参照]が挙げられる。
【0083】
STICサブ集団STICCD3+/CD14+の選択は、上記本発明の方法の工程c)またはd)で得られたSTIC集団から、またはSTICGM7サブ集団から直接行うことができる。後者の方法は、結果的に、STICCD3+/CD14+が段階的に高濃度化していく。
【0084】
本発明の好ましい実施形態においては、本発明によるSTICCD3+/cDl4+サブ集団の細胞それ自体が、自己免疫疾患のインビボ予防および/または治療のための薬学的組成物の製造のために使用される。
【0085】
そのような自己免疫疾患の例としては、以下のものがある:
自己免疫性特徴を伴うリウマチ性疾患、特にリウマチ性関節炎、SLE、シューグレン病、皮膚硬化症、皮膚筋炎、多発作筋炎、ライター症候群;
糖尿病;
血液および血管の自己免疫疾患、特に自己免疫性溶血性貧血(AIHA)、自己免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)、抗リン脂質抗体症候群、血管炎(結節性多発性動脈炎、ウェゲナー肉芽腫症、過敏性血管炎、巨細胞性動脈炎)、全身性紅斑性狼瘡、混合型クリオグロブリン血症;
肝臓の自己免疫疾患、特に自己免疫肝炎、原発性胆汁性肝硬変、および原発性硬化性胆管炎;
甲状腺の自己免疫疾患、特に橋本病、バセドウ病;
中枢神経系の自己免疫疾患、特に多発性硬化症、無症筋無力症;
水疱性皮膚疾患、特に尋常性天疱瘡、増殖性天疱瘡、落葉状天疱瘡、セニアー−アッシャー症候群および落葉性ブラジル天疱瘡。
【0086】
自己寛容を誘発するSTICの有用性は、人為的に誘発された、自己免疫疾患に類似する大腸炎の2つのモデルシステムにおけるマウスによって示される(実施例8および9参照)。
【0087】
これらのモデルは、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)−誘発慢性大腸炎(実施例8)およびマウスにおける実験的慢性大腸炎のCD62L+/CD4+SCID転移モデル(実施例9)である。どちらのモデルマウスも、潰瘍性ヒト大腸炎に類似した症状を伴う慢性大腸炎を発症する。
【0088】
どちらのモデルシステムにおいても、症状が発症してすぐにSTICを投与すると、処置していない動物、あるいはSTICを含まない「コントロール細胞」で処置した動物に比べ、大腸炎の典型的な症状が抑制される(実施例8および9参照)。
【0089】
上記したように、過剰の免疫反応はまたアレルギーの発症に関与する。サブ集団としてCD4+/CD25+細胞を含むCD4+細胞は、実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)の進行を緩和することができることがBach et al.(loc.cit.)によって示されている。本明細書で示すように、STICの投与はCD4+/CD25+T細胞集団の増加を誘導する結果になるため、該細胞はまた、アレルギーの治療のためにも有用である。
【0090】
したがって、本発明のさらに好ましい実施形態によれば、医薬品を含むSTICは、アレルギーの予防および/または治療のためにも使用される。
【0091】
薬学的調製物は、本発明の方法のステップd)で得られた本発明による生活STICを、医薬的に許容しうる担体中に懸濁させて、好ましくは約1×105〜1×107個の細胞/mL、さらに好ましくは約1×106の細胞/mLの量で含んでもよい。
【0092】
本発明のさらに好ましい実施形態においては、本発明によるSTICGM7サブ集団細胞は、それ自身、自己寛容障害を伴う疾患のインビボ予防および/または治療のための薬学的組成物の製造のために使用される。
【0093】
本発明の実施形態の一つでは、そのような薬学的調製物として、抗体GM−7に結合した本発明の生活STICGM7を、薬理学上許容しうる液体担体に懸濁させて、好ましくは約1×106〜1×108個の細胞/mL、さらに好ましくは約1×106個の細胞/mLの量で含んでもよい。
【0094】
本発明の最も好ましい実施形態では、そのような薬学的調製物として、CD3抗原とCD14抗原を共発現する、本発明による生活STICCD3+/CD14+細胞を、好ましくは約5×105〜5×107個の細胞/mL、さらに好ましくは約5×106個の細胞/mLの量で含んでもよい。
【0095】
上記薬学的調製物は、生理学的に優れた認容性が認められる培地中に懸濁された本発明による細胞を含んでもよい。適切な培地として、たとえば、リンゲル液、生理食塩水または5〜20%ヒトアルブミン溶液などが挙げられる。
【0096】
本発明によるSTICを含む薬学的組成物は、それぞれの疾患に感染されている身体部位に応じて、種々の投与の経路を経て投与されてもよい。本発明の好ましい実施形態では、該薬学的組成物を静注的に、門脈内に、皮下的に、皮内に、腹腔内に、あるいは鞘内に投与することができる。薬学的組成物はさらに、肝臓や筋肉などの特定の器官に直接投与することも、吸入を通じてあるいは腹腔深部に投与することもできる。
【0097】
活性成分としてSTICを含む薬学的調製物は、疾患の発症に反応しうる遺伝子が知られている場合にも、自己免疫疾患の予防のためにも使用できる。もし個体が1以上の自己免疫疾患を伴う遺伝子のキャリアとして診断された場合、初期発育段階で、自己由来の単球のSTICを投与することで疾患の発生を防止することができる。本発明の好ましい実施形態では、自己由来のSTICを、自己由来のリンパ球およびそれぞれの遺伝子によって発現されたペプチドとともに培養する。これは、個々の遺伝子生成物に特有の自己由来の調節性Tリンパ球を発症する。次いで、これらの調節性Tリンパ球は、以下に記載する実施例7(国際特許出願PCT/EP03/07551号明細書の実施例13に対応)におけるように各個体に再度投与することができる。
【0098】
本発明のさらなる実施形態では、STICは自己免疫疾患、たとえば、リウマチ性関節炎が合間に起こる場合の予防のために使用することができる。最初のあるいは後続の疾患の発生の後、もしSTICを含む薬学的調製物が投与されると、さらなる発生を防ぐことができる。
【0099】
本発明による細胞の調製物は、本発明の方法のステップd)で得られる生活STICを含んでもよい。あるいは、該調製物は、抗体GM−7に結合するSTICGM7細胞、または細胞表面にCD3抗原およびCD14抗原を共発現するSTICCD3+/CDl4+細胞のサブ集団に属する細胞を含んでもよい。該調製物は、液体担体培地に個々の懸濁された細胞を好ましくは少なくとも1×105個/mL、さらに好ましくは少なくとも5×105個/mL、最も好ましくは少なくとも1×106個/mLの量含んでもよい。培地は、5〜20%ヒトアルブミン溶液のような、細胞によって優れた認容性が認められる、細胞培養または輸送培地であってよい。あるいは、調製物中の細胞は、冷凍され、50%ヒトアルブミン溶液および10%DMSOを含むRPMIのような、適切な保存培地中に含まれてもよい。
【0100】
最後に、本発明はまた、本発明の自己寛容誘発細胞(STIC、STICGM7またはSTICCD3+/CD14+)を、インビトロで自己由来の調節性Tリンパ球を産生または増やすために使用する方法に関する。実施例6(国際特許出願PCT/EP03/07551号明細書の実施例12に対応する)に示すように、リンパ球を有するSTICに対応するTAICの直接インビトロ共存培養によって、調節性Tリンパ球の、特にCD4+/CD25+リンパ球が著しく増殖される。したがって、自己由来のリンパ球を持つ個体の単球由来のSTICを直接共培養することによって、自己由来の調節性Tリンパ球、特にCD4+/CD25+リンパ球を産生および/または増やすことが可能になる。
【0101】
直接インビトロ培養手段とは、本発明によれば、STICとリンパ球とを、上記したように実施例6に例示する培地と同じ培地中で、直接物理的接触で共培養することを言う。
【0102】
この方法では、培地は、各細胞すなわちSTICおよびリンパ球をほぼ同じ細胞数で、それぞれ液体担体培地に懸濁されて、好ましくは少なくとも1×105個/mL、さらに好ましくは少なくとも5×105個/mL、最も好ましくは少なくとも1×106個/mLの量の細胞を含むのが好ましく、培地は、5〜20%ヒトアルブミン溶液のような細胞によって優れた認容性が認められる細胞培養または輸送培地であってもよい。共培養は、好ましくは、約37℃のたとえばインキュベータ内で、好ましくは約3〜5日間、さらに好ましくは4日間という生理学的条件下で行われるべきである。
【0103】
実施例7(国際特許出願PCT/EP03/07551号明細書の実施例13に対応する)では、移植受容が、ドナー単球から産生されたTAICを受容者に投与することによって誘発されるばかりでなく、受容者リンパ球を受容者に再度投与する、これはあらかじめ、上記したように、ドナー単球から生成されたTAICとともにインビトロで直接共培養した、ことによっても誘発されることが示された。同様に、自己寛容は、自己由来のリンパ球を患者に再度投与する、これはあらかじめ患者自身の単球から生成したSTICとともに直接共培養した、ことによっても誘発することができる。
【0104】
本発明のさらなる実施形態によれば、その結果、調節性Tリンパ球は、この個体からのリンパ球をこの個体の単球に由来するSTICとともに直接共培養することによって、治療すべき個体に由来するリンパ球からインビトロで生成することができる。共培養されたリンパ球の受容者への再投与は、実施例7に示されるように、自己寛容を誘発する。
【0105】
そのように生成された調節性Tリンパ球は、本明細書に記載したように(上記を参照)FACSによって単離してもよいし、細胞が上記薬理学上許容しうる担体中に懸濁している、自己寛容障害を伴う疾患を予防および/または治療用の薬学的調製物において使用してもよい。
【実施例】
【0106】
本発明を、実施例を用いてさらに詳しく説明する。
【0107】
もし実施例中に定義がなければ、使用した培地および物質の組成は以下の通りである。
【0108】
(1.ペニシリン/ストレプトマイシン溶液)
ペニシリンGのナトリウム塩として10,000単位のペニシリンとストレプトマイシン硫酸塩として1000μgのストレプトマイシン/1mLの生理食塩水(NaCl 0.85%)(Gibco Catalogue No.15140122)
(2.トリプシン−EDTA)
0.5gのトリプシンと0.2gのEDTA(4 Na)/L
(3.L−グルタミン含有RPMI1640(1×,液体(11875)))
RPMI(Roswell Park Memorial Institute)培地1640は、濃縮配合組成であり、哺乳動物細胞に広範に使用することができる。
【0109】
【表1】
参考文献:Moore G.E.,et al.,J.A.M.A.199:519(1967)
(4.PBS(ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水)J.Exp.Med.98:167(1954)参照)
【0110】
【表2】
(5.フィコール−ハイパーク)
リンパ球分離培地(ショ糖/エピクロロヒドリン共重合体、Mg400,000、密度1.077、ジアトリゾ酸ナトリウムで調整)
(6.L−グルタミン)
液体:29.2mg/mL
(7.マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF))
大腸菌からの組み替えヒトM−CSF;モノマー(18.5kD)として135個のN末端メチオニン含有アミノ酸残基を含み、37kDのモル質量をもつホモ二量体として存在する(SIGMA Catalogue No.M6518)。
【0111】
(8.γ−インターフェロン(γ−IFN))
大腸菌からの組み換えヒトγ−IFN;16.7kDタンパク質を含有する143個のアミノ酸残基(CHEMICON CatalogueNo.IF002)
(9.デキストラン硫酸ナトリウム)
シグマ−アルドリッチ31403、塩、MW40kD
(実施例1)
(全血からの単球の分離)
全血を2つの相違する方法によってヒト患者から得た。
【0112】
a)白血球搬出法:白血球搬出法を、COBE(R)スペクトラTM血液成分分離装置(Gambro BCT、レークウッド、コロラド州、USA)を使用し、単球モード(MNZ)で、製造業者の指示(COBEスペクトラバージョン4.7/5.1/6.0/7.0)に従って行った。
【0113】
b)従来の血液成分分離法:450mLの全血を、血液の凝固を避け細胞を仕込むために、1リットルの水に対して3.27gのクエン酸、26.3gのクエン酸三ナトリウム、25.5gのデキストロースおよび22.22gのナトリウムジヒドロキシリン酸塩を含む安定剤63mLが入ったトリプルチェンバーバッグ中で混合した。溶液のpHは5.6〜5.8であった。
【0114】
次いで、血液の成分を分離するために、この混合物の「シャープな遠心分離」を、20℃、4000rpmで7分行った。これによって、3層内に血球成分と非血球成分の層状物を得た。次いで、この目的のために提供された圧縮機の中に置かれたバッグを使用して、赤血球を下側バッグに、血漿を上側バッグにしぼり出し、中間のバッグに約50mLの体積の所謂バッフィーコートを残した。
【0115】
次いで、両方法から、新しく得た単核球細胞画分50mLを、それぞれ25mLの2部分に分け、それぞれ、あらかじめ2本の50mLファルコンチューブにつながるフィコール−ハイパーク分離培地25mL上に積層した。
【0116】
この調製物を制動なしで30分間、2500rpmで遠心分離した。その後、単核球細胞画分にまだ存在したどのような赤血球および死細胞をフィコール相の下にし、そうすることで単球を含む白血球をフィコール層上に分離した。白色の中間相として分離した。
【0117】
次いで、単球を含む該白色中間相をピペットで注意深く取り除き、10mLのリン酸緩衝化食塩水(PBS)と混合した。
【0118】
次いで、この調製物を制動ありで3回、1800rpmで10分間遠心分離し、各遠心分離操作と新しいPBSの導入の後に、上澄み液をピペットで取り除いた。
【0119】
遠心分離容器(ファルコンチューブ)の底に集まった細胞ペレットは、単核球細胞画分、すなわち単球を含んでいた。
【0120】
c)マウス実験8および9(遺伝的に同一性のあるマウスで行った)用に必要な単球を、同系のドナーマウスの脾臓から得た。脾臓を、多少圧力をかけた状態で細目ふるいを通過させ、このようにして分離した細胞をPBS中に再び懸濁した。懸濁した脾臓細胞を、あらかじめ50mLファルコンチューブにつないだフィコール−ハイパーク分離培地25mL上に積層した。次いで、上記と同様の方法で手順を続けた。
【0121】
(実施例2)
(単球の増殖および変性)
単球の培養および増殖を下記の組成を持つ栄養培地上で行った。
【0122】
【表3】
栄養培地は、2.5μg/500mLM−CSFを含んでいた。
【0123】
実施例1で単離された単球を合計量で106個、10mLの栄養培地中に懸濁し、ペトリ皿(直径100mm)に移した。該ペトリ皿は、あらかじめ純正な培養FCSで満たし、FCSで被覆された皿を得るために、このように、該FCSを24時間後に流し出した。
【0124】
ペトリ皿を適切なカバーで被覆し、37℃で3日間、インキュベータ内で保存した。24時間後、ペトリ皿の底に細胞が沈殿した。2日目、上澄み液をピペットで取り出し、ペトリ皿を再び10mLの新しい栄養培地で満たした。
【0125】
4日目、10mLの栄養培地中の50ngのγ−インターフェロンを加え、皿を再び密閉し、さらに37℃で48時間、インキュベータ内で保存した。
【0126】
続いて、10mLのトリプシン溶液をPBSでそれぞれ希釈(1:10)し、ペトリ皿にピペットで移した。密閉したペトリ皿を37℃で10分間、インキュベータ内に保存した。
【0127】
その後、ペトリ皿の底に付着する細胞を、細胞スクレーパーを使用して、細胞の大部分(>90%)を上澄み液に浮遊させることによって分離した。
【0128】
全上澄み液(10mLのトリプシン溶液+10mLの培地)をピペットで取り出し、50mLのファルコンチューブ中で合わせ、1800rpmで10分間遠心分離した。次いで、上澄み液を捨て、新しい栄養培地(上記参照)を沈殿物(残存細胞ペレット)に加え、栄養を106個の細胞に対して1mL加えた。正確な投与量を測定するための細胞数の測定を、公知の方法に従って行った(Hay R.J.,’’Cell Quantification and Characterisation’’,in Methods of Tissue Engineering,Academic Press 2002,第4章、55−84頁を検討せよ)。
【0129】
この細胞懸濁物を遠心分離し(1800rpm、10分、上記参照)、細胞ペレットをPBSあるいはヒトへ適用するためNaCl(生理学の)へ導入した。続けて、直接あるいは48時間以内に静脈内投与できる。
【0130】
あるいは、遠心分離し、トリプシンを含む上澄み液を捨てた後、FCS/DMSOを寒剤として細胞に加え、これらの体積10mLを冷凍した。
【0131】
寒剤は、95%のFCSと5%のDMSOとを含んでいた。それぞれのケースで、約106個の細胞を1mLの寒剤に導入し、下記のステップで冷やした:
氷上で30分;
予冷スチロポールボックス中で2時間、−20℃;
スチロポール中、24時間、−80℃;
液体窒素(N2)中の小さなチューブ中に保存、−180℃;
図1は、オリジナル単球細胞の培養およびγ−IFN刺激の後に使用された単球上のフローサイトメトリーによる抗原発現の表現型変化を示す。オリジナル単球細胞の培養およびγ−IFN刺激によって、変性前の細胞(図1の左側のグラフ)に比べると、変性後(図1の右側のグラフ)はGM−7の結合が大幅に増大した。
【0132】
以下の実施例3〜7は、国際特許出願PCT/EP03/07551号明細書から取る。これらは、そこで開示されている移植許容誘発細胞(TAIC)の特性を示す。国際特許出願PCT/EP03/07551号明細書のTAICと本発明の自己寛容誘発細胞(STIC)(上記参照)との類似性のため、これらの実施例で報告されている結果は、STICにも適用する。
【0133】
さらに詳しくは、実施例3〜7の結果を以下に示す:
最適な抑制機能を持つ細胞集団は、モノクローナル抗体GM−7の利用可能性を通して、オリジナル単球のM−CSFによる培養とγ−IFN刺激の後に得られるTAIC集団単離することができる(実施例3);
単球画分中に存在するリンパ球は、TAICとして効果的なCD14+/CD3+細胞の産生に大きな影響を有する(実施例4);
IDO−阻害剤である1−メチルトリプトファンは、TAICの抑制機能には影響しない(実施例5);
ドナーBのリンパ球とともにドナーAのTAICを直接インビトロ共培養すると、調節性T細胞、すなわちCD4+/CD25+リンパ球の形成を誘発する(実施例6);そして
インビボでのドナーTAICと受容者リンパ球との間の物理的な細胞間相互作用は、臓器移植拒絶を防止しうる調節性T細胞の産生を誘発する(実施例7)。
【0134】
(実施例3)
(抗体GM−7のTAICへの結合)
国際特許出願PCT/EP03/07551号明細書に記載されたように生成したヒトTAICでマウスを免疫化することによって、モノクローナル抗体GM−7を産生した。抗体を生み出すハイブリドーマ細胞を、「Deutsche Sammlung fur Mikroorganismen」に登録No.DSM ACC2542で寄託した。以下に報告するレポートにおいて、該抗体が、本発明に従ってM−CSFで実験室内変性を6日間行いγ−IFN刺激を2日間行ったCD14+細胞上でのみ発現する抗原に特異的に結合することを実証した。
【0135】
図1は、インビトロ変性後に、すなわちTAICへの形質転換の後に、単球細胞へのGM−7のフローサイトメトリーによって測定した結合能力を示す。バッフィーコートから直接得たCD14−陽性単球は、抗体GM−7(左側の図、灰色の影の付いた部分が抗体コントロールに対応する)に結合しないことがわかる。対照的に、単球の一部は、M−CSF中での培養とγ−IFNによる刺激の後に抗原を発現する。これは、抗原がモノクローナル抗体GM−7によって認識されていることである。実施例2に記載したように、培養の後、約80%の形質転換された単球は、モノクローナル抗体GM−7(右側の図)に結合することができる。
【0136】
更なる実験において、CD14+/GM−7+細胞の抑制活性を、混合リンパ球培地(MLC)中のCD14+/GM−7−細胞の抑制活性と比較した。MLCは、Kurnick,J.T.’’Cellular Assays’’in:Diagnostic Immunopathology,[Colvin R.B.,Bhan A.K.,McCluskey,R.U.(ed.),Raven Press,ニューヨーク,751−771頁(1994)]に記載されているように行った。
【0137】
この実施例において、TAICは、個体Bに起因する。図2に示すように、GM−7陽性TAICとGM−7陰性TAICとの間には抑制活性に大きな相違がある。6日間のM−CSFによる治療と2日間のγ−IFNによる刺激後に得られたGM−7陽性画分TAIC集団だけが、Bの細胞による刺激の後に、個体Aのキラー細胞のT−細胞増殖活性に関して重大な抑制効果を発現する。
【0138】
(実施例4)
(単球培養中のCD3+/CD14+細胞形成におけるリンパ球の影響)
TAICとして効果的なCD14+/CD3+細胞の産生における単球画分中に存在するリンパ球の影響を、2つの相違するセットアップを比較することによって測定した。
【0139】
第一セットアップ(以下「Mo」と言う)として、先ず単球画分を実施例1に記載したバッフィーコートの界面相から採取した。次いで、実施例2に記載したように、細胞をM−CSFとの培養ステップに移した。培養の出発点から1時間以内に、組織培養フラスコの底に付着している単球を、それぞれ10mLのPBSで5回洗浄し、培養物中に存在するリンパ球の量を<5%(4.8±2.4%)に減らし、一方、そのようにして得た濃縮単球(CD14+)の量は、90%(92±5.6%)を超えていた。このセットアップ内の追加の細胞成分は、B−リンパ球と顆粒球であった。
【0140】
第2セットアップ(以下、「Mo+Ly」と言う)中の細胞も実施例1に記載の単球画分のバッフィーコートの界面相から採取した。しかし、セットアップ「Mo」とは異なり、組織培養フラスコの底に付着した細胞は、実施例2に記載するように、培養段階の始まりから24時間後に1回だけ洗浄した。その結果、45±5.3%のCD14+単球と23.5±8.9%CD2+リンパ球からなる細胞集団が得られた。セットアップ「Mo」のように、リンパ球と顆粒球とがこのセットアップにも存在した。
【0141】
セットアップ毎の全細胞集団中のそれぞれの細胞タイプの量の測定を、それぞれ3つの実験セットアップのフローサイトメトリーによって行った(図3参照)。結果を標準偏差を含む平均値として報告する。
【0142】
CD14+/CD3+細胞は、セットアップ「Mo」においてもセットアップ「Mo+Ly」においても培養の始め(d0=0日目)には測定することはできない。5日間の培養期間の後に、実験を終了し、細胞を、実施例2に記載するように、組織培養フラスコの底から細胞を取り外した後、FACS分析によって特徴付けた。CD14+細胞の相対量は、これらのセットアップにおいて、セットアップ「Mo」で92%から42%に、セットアップ「Mo+Ly」で45%から28%に減少することが認められた。一見したところ、リンパ球は単球より速く増殖しているが、リンパ球の相対量は、セットアップ「Mo」で4.8%から69.8%に、セットアップ「Mo+Ly」で23.5%から50.6%に増加した。培養中、TAICとして効果のあるCD14+/CD3+細胞は、両培養物中に形成される。この点で、CD14+/CD3+細胞において、セットアップ「Mo+Ly」で32.0±5.3%の有意に高い増加が観察され、これとは対照的にセットアップ「Mo」では7.2±3.2%だけであることは重要である。
【0143】
これらの結果は、培養の始めに相対量に対する単球の濃縮が90%を超えるような細胞の精製は、TAIC集団における免疫抑制性CD14+/CD3+細胞の産生に悪影響を及ぼし、一方、実施例1および2に記載の方法は、CD14+/CD3+細胞の有意に高い収量をもたらすことを実証する。
【0144】
(実施例5)
(TAICの免疫抑制活性におけるIDO阻害剤、1−メチル−トリプトファンの影響の測定)
酵素インドールアミン−2,3−ジオキシゲナーゼ(IDO)1−メチルトリプトファン(1−MT)の阻害剤が「Mo」および「Mo+Ly」セットアップ(実施例4参照)において産生したTAICの抑制機能に影響を及ぼすかどうかを明確にするために、1−MTの存在下あるいは非存在下でPHA(赤血球凝集物質)刺激T細胞を加えた種々の混合リンパ球培養物(MLC)を造った。
【0145】
これらの混合リンパ球培養物において、50,000個のリンパ球と2μgのPHAを96ウェルプレートのウェルに移し、次いで増殖を144時間行った(「PhaLy」と言う)。PHAを添加せず、リンパ球だけを培地で培養したものだけをさらなるコントロールとして造った(「Ly」と言う)。
【0146】
相違する共培養におけるPHA−刺激リンパ球の増殖を測定するために、以下の4つのセットアップを造り、試験した:
PhaLy+「Mo+Ly」
PHA刺激リンパ球とTAIC[実施例4によるセットアップ「Mo+Ly」からの105個の細胞];
PhaLy+「Mo+Ly」+1−MT
PHA刺激リンパ球と2μモルの1−MT存在下でのTAIC[実施例4によるセットアップ「Mo+Ly」からの105個の細胞];
PhaLy+「Mo」
PHA刺激リンパ球とTAIC[実施例4によるセットアップ「Mo」からの105個の細胞];
PhaLy+「Mo」+1−MT
PHA刺激リンパ球と2μモルの1−MT存在下でのTAIC[実施例4によるセットアップ「Mo」からの105個の細胞]。
【0147】
144時間の培養の後、全てのコントロールまたは共培養物を、さらに3[H]−チミジン(「パルス状」)の存在下、24時間培養し、その後、導入された、放射性標識したチミジンの量をカウント/分(cpm)として測定した。図4参照。この処理で測定された放射能の量は、DNAへ導入された標識化チミジンの量として測定され、したがって、リンパ球の増殖率として測定される。図4で報告されている値は、3つの実験の3組の測定からの平均値であり、それぞれ、標準偏差の適用もある。
【0148】
結果は、PHAで刺激されないリンパ球(「Ly」)は、有意に増殖せず、観察された平均放射能は、367cpmと実証した(図4参照)。これに対し、2μgのPHAで刺激した場合、リンパ球(「PhaLy」)の増殖率が有意に増加し、これらのサンプルの中で最も高い導入、すなわち平均値18459cpmが測定された。
【0149】
リンパ球培養物へのTAIC添加は、実施例4によるセットアップ「Mo+Ly」からの細胞が加えられた場合(PhaLy+「Mo+Ly」、1498cpmの値を測定)は、明らかに増殖率を強く減少させ、実施例4によるセットアップ「Mo」からの細胞を加えた場合(PhaLy+「Mo」、3369cpmの値を測定)は、増加は減少気味であった。
【0150】
2μモルの1−メチルトリプトファン(1−MT)を、「Mo+Ly」および「Mo」に刺激リンパ球を含むセットアップに加えた後に得られた結果は、1−メチルトリプトファン(1−MT)は、TAICの抑制機能を相乗的に増加させ、それによって、セットアップ’’Mo+Ly’’からのTAICの減少(267cpmの値を測定)は、セットアップ「Mo」からのTAICの減少(390cpmの値を測定)より強いことを実証した。
【0151】
(実施例6)
(調節性T細胞を産生するための同種異系のリンパ球とのヒトTAICインビトロ共培養)
受容者においてTAICが調節性T細胞、すなわちCD4+/CD25+リンパ球の生成を誘発するかどうか調べるために、TAICとリンパ球との数種の相違するインビトロ培養物を造り、そこから得られる調節性T細胞の生成について分析した。
【0152】
この目的のため、インビトロでドナーAのTAICを、直接あるいは間接的にドナーBのリンパ球とともに共培養した。直接共培養においては、(ドナーAの)TAICと(ドナーBの)リンパ球との間の直接細胞−細胞接合が可能であった。一方、間接共培養では、膜(「細胞培養挿入片」、孔径0.4μm、ファルコン、注文番号353090)が培地の交換を可能にしたが、2つの細胞集団の物理的な接触は抑制された。直接または間接共培養は、好ましくは3〜5日間、さらに好ましくは4日間、インキュベータ条件下、すなわち、37℃、5%CO2の雰囲気下で行う。
【0153】
培養後、調節性T細胞(CD4+/CD25+)のそれぞれの数を、TAICまたはリンパ球がそれぞれ単独で培養されている両セットアップおよびコントロールにおいて測定した。さらに、混合リンパ球培養物中で最も有意な抑制機能を持つTAIC細胞集団の成分を代表するCD3+/CD14+細胞の数を、TAICのみが培養されたコントロールセットアップ中で測定した。
【0154】
全セットアップにおいて、FACS分析ごとに細胞の表面抗原を測定し、細胞の総数における各細胞集団の量を分析した。
【0155】
さらに、調節性T細胞によって特異的に発現された3つの新しいマスター遺伝子(Foxp3、CTLA−4およびインテグリンαEβ7)の相対的発現量を、それぞれの細胞集団でPCRによって測定した(表を参照)。Foxp3は特異的な転写因子であり、調節性T細胞発症のコントロール遺伝子として観察され、これらの細胞によって特異的に発現される[Hori,S.et al.,’’Control of Regulatory T−cell Development by the Transcription Factor Foxp3’’,Science 299,1057−1061(2003)参照]。
【0156】
CTLA−4は更なる因子であり、CD4+/CD25+T細胞の調整機能の測定のためのマーカーとして使用される(Khattri,R.et al.,’’An essential role for Scurfin in CD4+/CD25+ T regulatory cells”,Nature Immunology,online publication,doi:10.1038/ni909(2003);Shimizu,J.et al.’’Stimulation of CD25+/CD4+ T regulatory T cells through GITR breaks immunological self−tolerance’’,Nature Immunology,online publication,doi:10.1038/ni759(2003);Cobbold,S.P.et al.”Regulatory T cells in the induction and maintenance of peripheral transplantation tolerance”,Transpl.Int.16(2),66−75(2003)参照]。
【0157】
インテグリンαEβ7は、インテグリンであり、上皮キャサリンに結合し、調節性CD25+T細胞のほとんどの強力なサブ集団のためのマーカーとして使用してもよい[Lehmann,J.et al.”Expression of the integrin αEβ7 identifies unique sub−sets of CD25+ as well as CD25− regulatory T cells’’PNAS 99(20),13031−13036(2002)参照]。
【0158】
Foxp3発現、CTLA−4発現およびインテグリンαEβ7発現の測定は、コントロールとして、GAPDHおよびβ−アクチン、2個の「ハウスキーピング遺伝子」を使用した定量的PCR法によって行い、測定値は、インビトロでTAICによってなされた測定抑制機能と、それぞれの遺伝子の発現率をもつCD4+/CD25+ダブル陽性細胞の形成とを相関させるために、一方で、互いとの関係に置き、1で設定されたCD14+/CD3−細胞で得られた値であり、もう一方で、絶対RNA量が総RNA(μg)に対するμgとして示した。標準法は、当業者に知られている定量PCRのため使用した(Lottspeich,F.,Zorbas,H.’’Bioanalytik”,Spektrum Akademischer Verlag GmbH,Heidelberg−Berlin,1998参照)。
【0159】
表は、直接共培養から得られたリンパ球の集団内において、ダブル陽性細胞CD4+/CD25+の比率は8.7%と、間接共培養から得られたCD4+/CD25+リンパ球の量2.38%、これはコントロールの2.65%にほぼ近い、これらの量と比較して、大きく増加したことを示す。
【0160】
CD4+/CD25+細胞のサブ集団は、CD4+/CD25−細胞における発現に比べ、テストした全てのマスター遺伝子の中で、mRNAの最も高い相対量を発現した(表参照)。Foxp3の発現は、第10因子によって増加(37対3.75)したが、CTLA−4の発現はそれより高く、最高発現(4699対0.376)まで至った。共培養中のCD4+/CD25+細胞における第三マスター遺伝子インテグリンαEβ7の発現の増大は、インテグリンαEβ7mRNAの絶対量がCD4+/CD25−細胞中3.4×10−12μgmRNA/μg全RNAに比較して、CD4+/CD25+細胞中1.4×10−9に上がったため、CTLA−4とほぼ同じくらい高い。
【0161】
【表4】
(表:直接および間接共培養後の細胞の全量における特異的な細胞集団の、これらの表面マーカーCD3、CD4、CD14、CD25を参照することによる、量の測定、およびこれらの細胞集団における3つの遺伝子(Foxp3、CTLA−4およびインテグリンαEβ7)の相対的発現およびRNA絶対量の測定)
間接共培養の後、CD4+/CD25+サブ集団におけるFoxp3−mRNAの相対量は、わずか10で、コントロールのリンパ球により発現される相対量(Foxp3−mRNAの相対量15を発現する)より低い。
【0162】
コントロールのリンパ球により発現されるCTLA−4−mRNAの相対量は、CD4+/CD25+集団において0.375、CD4+/CD25−集団において0.1と低い。
【0163】
TAIC細胞のCD14+/CD3+サブ集団におけるCTLA−4の発現は、Foxp3の発現と類似し、全ての他の細胞集団よりも有意に高かった。
【0164】
この点ついて、CTLA−4発現(相対値12.500)は、CD14+/CD3+サブ集団において、相対値50を発現したFoxp3−発現より非常に強かったことは注目に値する。
【0165】
他の2つの分析遺伝子の発現挙動と同様に、相対値RNA(μg)/全RNA(μg)として測定された、TAICのCD14+/CD3+サブ集団におけるインテグリンの発現は、最高値(3.4×109μg/全RNAの1ug)に達したにもかかわらず、インテグリンαEβ7の発現は、TAICのCD14+/CD3−サブ集団において検出不可であった。
【0166】
単球に由来するTAICにおける3つのリンパ球マーカーであるFoxp3、CTLA−4およびインテグリンαEβ7の、正常リンパ球に比べて有意に増加した発現は、まったく予期しえぬ結果であり、単球に由来する単球または細胞において、今まで観察されたことのないものである。
【0167】
要するに、上述のこの実施例の結果によって、以下のことが実証された。もし、Foxp3発現、CTLA−4発現およびインテグリンαEβ7発現の濃度が、それぞれの細胞の免疫調整機能と相関関係があるという仮定から出発するとすれば、TAICのCD3+/CD14+サブ集団の抑制活性は、これら3つの遺伝子の高い発現と関連することがここで実証された。これは、これらのマーカーが今までリンパ球のためにしか記載されたことがなく、単球由来の細胞においては記載されたことがないことを考えるとさらに驚くべきことである。
【0168】
さらに、リンパ球を伴うTAICの直接共培養物は、間接共培養物やリンパ球のみの培養物に比べて、CD4+/CD25+リンパ球の量が有意に多くなることが示された。これは、TAICの投与の後に、インビボ(すなわち患者において)での調節性T細胞も形成されるという仮説を支持する。これらの結果は、CD4+/CD25+リンパ球の公知の免疫調整機能、およびこれらの細胞におけるFoxp3−mRMA、CTLA−4−mRMAおよびインテグリンαEβ7−mRMAの含有量が、間接共培養されたリンパ球やコントロールリンパ球における含有量より有意に高いという事実にも合致している。
【0169】
(実施例7)
(インビトロでTAICとともに共培養されたリンパ球による移植寛容性のインビボ誘発)
実施例6の結果および結論は、インビボ動物実験において確認された。この実施例では、選択された近交系組み合わせにおける動物にあらかじめ5日間に渡り、ドナーからのTAICとともに直接共培養した、受容者からのリンパ球を注射した。他の動物には、コントロールとして、培地で単独で培養した、受容者からのリンパ球を注射した。
【0170】
同種異系の心臓移植の前に受容者からの自己由来共培養リンパ球を受けた動物は、ドナー特異的寛容性を発症し、一方、受容者からの未処理非共培養コントロールリンパ球を受けたコントロール動物は、10〜14日間の間に移植された心臓を急性拒絶した。
【0171】
これは、術後の患者の、TAICとともに共培養されたリンパ球を注射する前(左図)と後(右図)の血液中のGM−7発現のフローサイトメトリー測定によっても示される。細胞に結合するGM−7画分は、注射前の約0.5%から注射後には約21%に上昇し、GM−7に結合しうる調節性T細胞の発症が示唆される。
【0172】
これらの結果は、ドナーTAICと受容者リンパ球との間の細胞相互作用に対する物理的細胞は、調節性T細胞の産生を、それ自身、潜在的にアロ反応性のT細胞は抑制され、臓器移植の拒絶反応はこのようにして防止されるように、受容者の同系の免疫機構を変性することができるように誘発することを示唆する。
【0173】
(実施例8)
(デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)に誘発された慢性大腸炎の治療のための自己寛容誘発細胞(STIC)の使用)
大腸炎は、飲料水とともにデキストラン硫酸ナトリウムの経口投与によってマウスに化学的に誘発することができる。7日間にわたる投与によって急性大腸炎が発症し、DSS投与の後10日間の正常な水の投与を少なくとも4回繰り返す投与によって、ヒト潰瘍性大腸炎に類似する慢性大腸炎が発症する。
【0174】
この方式は、免疫学または分子学的試験法として充分確立され[たとえば、Herfarth,H.et al.’’Nuclear factor κB activity and intestinal inflammation in dextran sulphate sodium (DSS)−induced colitis in mice is suppressed by gliotoxin’’Clin.Exp.Immunol.120,59−65(2000);Egger,B et al.’’Mice lacking transforming growth factor α have an increased susceptibility to dextran sulfate−induced colitis ’’Gastroenterology 113,825−832(1997)参照]、本明細書において、ヒト自己免疫性潰瘍性大腸炎に類似するDSS誘発大腸炎の慢性のケースの治療において、STICの可能性を調べるために使用する。
【0175】
正常な雌性BALB/cマウス(それぞれ20g)を自由に水と標準食に接せられるように保った。これらのマウスは、以下のスキームに従って、5%(w/v)のデキストラン硫酸ナトリウムを含む水(DSS;該溶液を以下DSS水という)、次いで未処理の水のサイクルを4回受けた:
第一サイクル: 1日目から7日目までDSS水(7日間);
8日目から17日目まで正常な水(10日間);
第二サイクル: 18日目から24日目までDSS水(7日間);
25日目から34日目まで正常な水(10日間);
第三サイクル: 35日目から41日目までDSS水(7日間);
42日目から51日目まで正常な水(10日間);および
第四サイクル: 52日目から58日目までDSS水(7日間)
58日目の後、全てのマウスは慢性大腸炎の症状を示し、個の症状は、少なくとも2ヶ月続く(図6Aおよび6B)。
【0176】
次いで、マウスを無作為に4つの異なるグループに割り当てた:
グループ1(n=5):+1日目(59日目)DSS水を与える第四サイクルが終了した後、マウスに0.25mLPBS中の62.5国際単位のヘパリンを静注的に与え(血栓症を予防するために)、続けて30秒後に遺伝的に同一のドナーマウスからのSTIC(実施例2参照)を1mLPBS中5×106個静注的に投与した;
グループ2(n=7):+7日目(65日目)DSS水を与える第四サイクルが終了した後、マウスに0.25mLPBS中の62.5国際単位のヘパリンを静注的に与え(血栓症を予防するために)、続けて30秒後に遺伝的に同一のドナーマウスからのSTIC(実施例2参照)を1mLPBS中5×106個静注的に投与した;
グループ3(n=12):DSS治療は受けたがどのような細胞注射も受けていない第一コントロールグループ;
グループ4(n=6):DSS治療を受けた第二コントロールグループ;+1日目(59日目)DSS水を与える第四サイクルが終了した後、マウスに0.25mLPBS中の62.5国際単位のヘパリンを静注的に与え(血栓症を予防するために)、続けて30秒後に遺伝的に同一のドナーマウスからの「コントロール細胞」(実施例1参照)を1mLPBS中5×106個静注的に投与した。(「コントロール細胞」は、骨髄細胞、末梢血液細胞および脾臓細胞の混合物であって、実施例2によるSTICを生成するために培養する前の細胞、すなわち、同系のマウスの脾臓から得られた培養されていない細胞である。)
79日目、DSS水の栄養分の第四サイクルを終了した後3週間目にマウスは全て屠殺する。
【0177】
実験の間、DSS誘発期間と次の3週間は動物の体重を1週間に3回測定した。動物の体重の変化を、細胞治療を受けた59日目のマウスの体重に対する比率(体重減少または増加)で表す。約5〜15%の範囲内の変化は有意であると考えられる。
【0178】
DSS治療の終了後3週間のマウスの体重変化を図7に示す。見てわかるように、STIC投与+1日目(グループ1=白四角)は、年齢依存性の適切な体重増加となり、これは、処置されていない動物(グループ3=黒逆三角)にも、「コントロール細胞」で処置された動物の+1日目(グループ4=黒丸)にも、疾患が進行中の、STICで処置された動物の+7日目(グループ2=黒三角)に見ることができない。値は、1グループ当たり5〜7匹のマウスから得られた平均値であり、標準偏差は常に15%未満である。
【0179】
更なる実験で、大腸組織をヘマトキシリンエオシン(H&E)で組織学的に染色した。HE染色は、Woods,A.E.およびEllis,R.C.(eds.)(Laboratory Histopathology:A Complete Reference,vol.1&2;Churchill&Livingstone,1994)によって記載されたように行った。染色された粘膜の状態を、実験計画については知らされてない、それぞれ別々に行動する2人の病理学者によって、以下の判断基準に従って評価された:
スコア0 健康で、影響は見出せない;
スコア1 軽い大腸炎;
スコア2 中程度の大腸炎;
スコア3 重い大腸炎;および
スコア4 全粘膜の破壊を伴う潰瘍性大腸炎。
【0180】
該スコアの結果を図8に示す。DSS水の食餌投与の第四サイクルが完了した後3週間で、グループ3のコントロールアニマル(注射せず)は平均スコア約4を得、一方グループ1(+1日目にSTICを投与された)、あるいはグループ2(7日目にSTICを投与)の動物は、平均スコアを約1(グループ1)および約1.5(グループ2)にそれぞれ有意に減少させた。「コントロール細胞」で処置された動物(グループ4)は、約3の平均スコアを有し、これは処置していないマウス(グループ3)のスコアと同じ程度である。
【0181】
これらの結果は、図6からわかるように、染色された大腸部位(HE染色、上記参照)の組織学的評価の確認事項と一致している。この評価は、STICによる治療の効果の測定に最も重大な意味を持つ。図6A(倍率2.5倍)および図6B(倍率10倍)は、大きく破壊されている粘膜を持ち、そのまわりの組織は炎症性細胞が濃密に広がる、グループ3の処置されていない動物の大腸の状態を示す。これらの図は大腸炎の進行期を示す。処置されていない動物における大腸炎の進行した状態(図6A/B)とは対照的に、+1日目にSTICを受けたグループ1の動物の粘膜の形態は、広い範囲で保たれている(図6C(倍率2.5倍)および図6D(倍率10倍))。これらの動物には、粘膜の炎症および破壊の僅かな兆候だけが見られるが、まわりの組織への侵入は見られない。+1日目に「コントロール細胞」で処置されたグループ4の動物の大腸部位(図6E、倍率2.5倍)および+7日目にSTICを受けたグループ2の動物(図6F、倍率2.5倍)は、両方とも、処置されていない動物(図6A/B)に見られたと同じような、大きく破壊された粘膜とそのまわりの組織は炎症性細胞が濃密に広がる、進行した大腸炎の症状を示す。
【0182】
上記試験の結果は、+1日目のSTIC投与とそれに続く大腸炎を誘発するDSS治療の終了が大腸炎の症状を抑制しうる、あるいは明らかに軽減しうることを示す。STICが投与された動物は、体重を有意に落とさず(図7)、これらの組織学的スコアを処置されていない動物(図8)に比べて有意に減少し、大腸部位(図6C/D)の組織学的染色によって見られるように、大腸粘膜の全状態は殆ど正常である。+7日目のSTIC投与(グループ2)は、STIC投与の前の7日間の間に進行した大腸炎を治療することができない。起こりつつある大腸炎の進行を反転することはできないが、処置されていないグループ3の動物と比べてグループ2の動物がもつより低い組織学的スコア(図8)から、疾患の進行を止めることはできる。この現象は、この実施例で使用されたDSS誘発大腸炎のモデルでは特異的であり、容易に他の状態に移すことはできない。
【0183】
同系のマウスの脾臓から得た培養されていない細胞を表す、骨髄細胞、末梢血液細胞および脾臓細胞の配合物は、これらの細胞で処置された動物(グループ4)が処置されていない動物と同じくらい重篤な症状を示した(図6E/F、図7および図8)ため、大腸炎の治療には相応しくない。これは、STICだけが大腸炎を治療することができ、細胞STICの配合物中に存在する他の細胞は、培養中発症しないという明らかな証拠を提供する。
【0184】
(実施例9)
(CD4+CD62L+リンパ球の移植によりSCIDマウスに誘発した大腸炎の治療のための自己寛容誘発細胞(STIC)の使用)
SCID(重症複合型免疫不全症)マウスにおける大腸炎の人工的な誘発は、STICの分析および自己免疫疾患の治療の可能性のための別の取り組みである。
【0185】
SCIDマウスは、T細胞もB細胞も持っていない。彼らの免疫機構は、甲状腺細胞の特異的なサブ集団の移植によって再構成することができる。CD4+CD62L+細胞またはCD62Lhigh細胞と呼ばれるこれらの細胞は、免疫機構を再増殖するが、制御不可のため、慢性の炎症を伴う自発大腸炎の発症も誘発する。このモデルシステムは、自己免疫疾患の例のように、大腸炎における発症に関与する細胞集団のより特異的な分析を可能にする、所謂「マウスにおける実験的慢性大腸炎のCD62L+/CD4+SCID転移モデル」[たとえば、Mudter,J.et al.’’A new model of chronic colitis in SCID mice induced by adoptive transfer of CD62L+ CD4+ T cells:Insights into the regulatory role of interleukin−6 on apoptosis’’Pathobiology 70,170−176(2002)参照]である。
【0186】
ここでのモデルは、脱調整免疫システムによって誘発された大腸炎の治療において、STICの使用に可能性があるか試験するために使用される。このモデルは、より機序的な研究を可能にするが、免疫機構は完全に再増殖しないため、DSSモデルシステム(上記実施例8参照)に比べると弱いシステムと考えられる。
【0187】
SCID BALB/cマウス(それぞれ18〜22g)に、PBS中の「Macs」磁気ビーズ細胞分級システム(Milteny Biotech,Germany)を使用して、正常BALB/cマウスの脾臓から単離したCD4+/CD62L−セレクチンhighT細胞を1×106個を腹腔内注射する。マウスを自由に水と標準食に接せられるように保った。
【0188】
CD4+/CD62LセレクチンhighT細胞の移植から4〜6週間以内に、該マウスは大腸炎を発症した。大腸炎の発症は、重さの変化の判断によって決定した。
【0189】
次いで、マウスを無作為に3つの異なるグループに割り当てた:
グループ1(n=10):CD4+/CD62LセレクチンhighT細胞の投与による大腸炎誘発の開始から6週間後、マウスに0.25mLPBS中の62.5国際単位のヘパリンを静注的に与え(血栓症を予防するために)、続けて30秒後に遺伝的に同一のドナーマウスからのSTIC(実施例21参照)を1mLPBS中5×106個静注的に投与した;
グループ2(n=10):6週間後、CD4+/CD62L−セレクチンhighT細胞だけを受けたが、他のどのような細胞注射も受けていない第一コントロールグループ;
グループ3(n=10):CD4+/CD62L−セレクチンhighT細胞を受けた第二コントロールグループ。6週間後、マウスに0.25mLPBS中の62.5国際単位のヘパリンを静注的に与え(血栓症を予防するために)、続けて30秒後に遺伝的に同一のドナーマウスからの「コントロール細胞」(実施例2参照)を1mLPBS中5×106個静注的に投与した。「コントロール細胞」は実施例8と同一のもの(骨髄細胞、末梢血液細胞および脾臓細胞の非培養配合物)。
【0190】
疾患誘発T細胞の移植から10〜12週間で、あるいはコントロール動物が基本的なコントロールグループ2内での体重変化によって判断して、大腸炎の兆候を発症した時、全てのラットを全て致死させる。
【0191】
実施例8で記載したDSSモデルと同様に、実験の全期間の間、動物の体重を1週間に3回測定した。動物の体重の変化を、細胞治療を受けたときの実験開始から6週間後のマウスの体重に対する比率(体重減少または増加)で表す。再度、約5〜15%の範囲内の変化は有意であると考えられる。
【0192】
全実験期間中のマウスの体重変化を図9に示す。6週間後の全てのグループのマウスは、ほぼ同じ体重である。その後、6週間後のSTICの投与(グループ1=黒菱形)は、年齢依存性の適切な体重増加となるが、処置されていない動物(グループ2=黒四角)についても、6週間後に「コントロール細胞」で処置されたマウス(グループ3=黒三角)についても、疾患が進行、比較的体重増加が減少した(グループ2)または増加が全く見られない(グループ3)。値は、1グループ当たり6匹のマウスから得られた平均値であり、標準偏差は常に15%未満である。
【0193】
動物を屠殺した直後、これらの動物の大腸の長さと脾臓の重量を測定した。両値とも炎症の広がりは認められたものの、あまり影響は受けていない。
【0194】
図10に大腸の長さ(図10A)と脾臓の重量(図10B)の測定の結果を示す。この図からわかるように、コントロール動物と比べて、STICで処置した動物(グループ1)の大腸は有意に長く(約11cm)、それらの脾臓は有意に小さい(約50mg)。グループ2のコントロール動物は、重篤な炎症を示唆する、短くなった大腸(約10.3cm)と肥大した脾臓(約100mg)を有する。一方、コントロール細胞を受けた動物(グループ3)は、コントロール動物(グループ2)と比べると大腸炎の重篤な症状は発症していない(大腸の長さが約10.6cm、および脾臓の重量が約60mg)が、STICで処置した動物(グループ1)に比べると、大腸炎はより進行している。
【0195】
続いて、更なる実験で、大腸組織をヘマトキシリンエオシンで組織学的に染色した(HE染色;Woods,A.E.and Ellis,R.C.(eds.);Laboratory Histopathology:A Complete Reference,vol.1&2;Churchill&Livingstone,1994)。すでに実施例8で記載したように、実験計画については知らされてない、それぞれ別々に行動する2人の病理学者によって、粘膜の状態が評価された。粘膜のスコア方法は実施例8と同じである:
スコア0 健康で、影響は見出せない;
スコア1 軽い大腸炎;
スコア2 中程度の大腸炎;
スコア3 重い大腸炎;および
スコア4 全粘膜の破壊を伴う潰瘍性大腸炎。
【0196】
平均スコアを図11に示す。治療の移植を行って6週間後、細胞注射を受けていないグループ2のコントロール動物は、重い大腸炎を示唆する約3の平均スコアを有する。6週間後にSTICを受けたグループ1のマウスおよびコントロール細胞を受けたグループ2のマウスは、有意に減少し、それぞれ平均スコアが約1.5(軽い大腸炎を示す;グループ1)および約2.5(中程度の大腸炎を示す;グループ2)を有する。
【0197】
これらの結果も、図12(倍率100倍)からわかるように、HE染色された大腸部位の組織学的評価の確認事項と一致する。図12A/Bは、CD62LhighT細胞での大腸炎誘発後、処置しないままのグループ3の動物の大腸の状態を示す。両実施例は、単核球細胞による著しい侵入と、粘膜下組織および固有筋層の粘膜一体性の実質的な欠損、クリピト損傷、および侵入を示す。記載したように、「コントロール細胞」(血液、ウシ骨髄および脾臓組織に由来する非M−CSFおよびγ−インターフェロン刺激単球)の注射は、図12C/Dでわかるように、単核球細胞侵入および粘膜の欠損を予防しなかった。また、両検体は、リンパ球の実質的な粘膜下組織侵入を示すが、固有筋層はまだ損なわれていない。CD62LhighT細胞による大腸炎誘発の後、STICを投与することで、粘膜一体化を著しく回復した(図12E/F)。両検体の大腸部位において、軽いリンパ球侵入だけが見られ、分析した大腸部位の範囲内では、クリプト損失も粘膜下組織および固有筋層への損傷も見られない。
【0198】
デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発慢性大腸炎の治療のためのSTICの投与で得られた結果(上記実施例8参照)と同様に、マウスにおける実験的慢性大腸炎のCD62L+/CD4+SCID転移モデルを使用したここでも、STICは誘発大腸炎の症状を抑制するまたは明らかに軽減することができることを示される。STICで処置されたマウスは、年齢依存性の適切な重さの増加を示し(図9)、大腸の重篤な炎症を患うコントロールグループのマウスと比べて、それらの大腸は有意に長く(図10A)、それらの脾臓の重量は有意に低い(図10B)。最後に、STICで処置されたマウスの組織学的スコアは、処置されていない動物(図11)に比べ、有意に低く、STICで処置されたマウスの大腸部位の組織学的分析は、大腸炎の症状がほんの僅かもしくは症状がないことを示す(図12)。
【0199】
同系のマウスの脾臓から得た非培養細胞を示す骨髄細胞、末梢血液細胞および脾臓細胞の配合物は、これらの細胞で処置された動物(グループ3)はSTICで処置された動物に見られたものより重篤な症状を示している(図9、10A/B、11および12)ため、STICによる大腸炎治療の効果と比べて、有意に低下した評価を示す。DSSモデルシステムを使用した実施例8で得られた結果とは対照的に、CD62Lhigh細胞による大腸炎誘発のモデルでは、コントロール細胞は、コントロール細胞を受けた動物は、いかなる細胞も受けていないコントロール動物に比べて、それほど重篤な症状を示さないため、症状をいくらか軽減することができる。
【0200】
実施例8の結果によって、本発明のSTICは自己免疫疾患を治療することが可能であるという明らかな証拠が再び提供される。
【図面の簡単な説明】
【0201】
【図1】本発明による細胞の変性の前(左側のグラフ)および後(右側のグラフ)のオリジナル単球細胞のGM−7結合能力のフローサイトメトリー測定。x軸は結合細胞の数を示す。
【図2】個体B(GM−7−:グレイのカラム;GM−7+:黒のカラム)からのCD14+単球の混合リンパ球培養物、CD14+/GM−7+細胞とCD14+/GM−7−細胞の抑制活性を比較するためのMHC非調和ドナーAからのキラー細胞、およびドナーBからの照射細胞。
【図3】免疫抑制性CD14+/CD3+細胞の形成における培養の開始時に、単球を濃縮するために細胞を精製する際の影響を測定するための、単球画分中のCD14+単球の量、CD2+リンパ球の量およびTAICとしての効果があるCD14+/CD3+細胞の量のフローサイトメトリー測定。
【図4】TAICの抑制活性における阻害剤(1−MT)の影響を測定するための、インドールアミン−2,3−ジオキシゲナーゼ(IDO)の阻害剤(1−MT)が加えられた2つの試験においてプレインキュベートされたPHA刺激リンパ球(PhaLy)およびTAIC(「Mo+Ly」または「Mo」)の混合リンパ球培養物。
【図5】血液細胞のインビボGM−7発現におけるTAICの影響を測定するための、TAICの注射の前(左図)および後(右図)の手術後の患者の血液中のGM−7発現のフローサイトメトリー測定。
【図6】デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発慢性大腸炎を患っているマウスの大腸部のHE染色であって、処置されていないグループ3の動物(図6A/B)、+1日目にSTICを与えられ次いでDSS治療されたグループ1の動物(図6C/D)、「コントロール細胞」を+1日目に与えられたグループ4の動物(図6E)、およびSTICを+7日目に与えられた動物(図6F)の大腸の状態を示す。(図6A/C/Eでは倍率2.5倍、図6B/D/Fでは倍率10倍)
【図7】DSS治療の終了後3週間の間の、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発慢性大腸炎を患っているマウスの体重の変化。グループ1(黒四角)の動物はSTICを+1日目に与えられ、グループ2(黒三角)の動物はSTICを+7日目に与えられ、グループ3(黒逆三角)の動物は処置されず、一方、グループ4(黒丸)の動物は、「コントロール細胞」を+1日目に与えられた。値は、1グループ毎に5〜7匹のマウスから得られた平均値であり、標準偏差は常に15%未満である。
【図8】デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発慢性大腸炎を患っているマウスの組織学的に染色された大腸部のスコアの結果である。グループ1の動物はSTICを+1日目に与えられ、グループ2の動物はSTICを+7日目に与えられ、グループ3の動物は処置されず、一方、グループ4の動物は「コントロール細胞」を+1日目に与えられた。(採点0=健康で影響のない結果;採点1=マイナーな大腸炎;採点2=中程度の大腸炎;採点3=重い大腸炎;および4=粘膜全体の破壊を伴う潰瘍性大腸炎)
【図9】細胞治療を受けた場合の実験開始後6週間のマウスの体重に関する、実験的慢性大腸炎のCD62L+/CD4+SCID転移モデルにおける、マウスの体重の変化。グループ1の動物(黒菱形)は6週間後にSTICを与えられ、グループ2の動物(黒四角)は処置されず、グループ3の動物(黒三角)は6週間後に「コントロール細胞」を与えられた。値は1グループ毎に6匹のマウスから得られた平均値であり、標準偏差は常に15%未満である。
【図10】実験的慢性大腸炎のCD62L+/CD4+SCID転移モデルにおける、STICを受けたマウス(グループ1)、処置されていないコントロールマウス(グループ2)、および「コントロール細胞」を受けたマウス(グループ3)の大腸の長さ(図10A)および脾臓重量(図10B)の測定。値はSEM平均値である。
【図11】細胞移植後6週間の実験的慢性大腸炎のCD62L+/CD4+SCID転移モデルのマウスの組織学的に染色された大腸部のスコア。グループ1の動物はSTICを受け、グループ2の動物は無処置で細胞注射を受けておらず、グループ3の動物は、「コントロール細胞」を受けた。値はSEM平均値である(採点0=健康で影響のない結果;採点1=軽い大腸炎;採点2=中程度の大腸炎;採点3=重い大腸炎;および4=粘膜全体の破壊を伴う潰瘍性大腸炎)。
【図12】実験的慢性大腸炎のCD62L+/CD4+SCID転移モデルのマウスの大腸部のHE染色であって、2匹の無処置の動物のグループ2(図12A/B)、2匹の「コントロール細胞」を与えた動物のグループ3(図12C/D)、および2匹のSTICを与えた動物のグループ1(図12E/F)の大腸の状態を示す(倍率:100倍)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における自己寛容障害を伴う疾患の予防および/または治療のための、自家細胞の調製のための方法であって、
(a)該細胞を投与すべき患者の血液から、単球を単離する工程と、
(b)該単球を、細胞成長因子M−CSFを含む適切な培養培地中で増殖させる工程と、
(c)該単球を、工程(b)と同時にかまたは工程(b)の後で、γ−IFNを含む培養培地中で培養する工程と、
(d)該(c)工程で形成された細胞を、該培養培地から該細胞を分離することによって得る工程とを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記単球がヒト由来であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記単球が、該単球に加えてリンパ球もまた、単離物の全細胞数に対して少なくとも10%の量で存在するような様式で、前記血液から単離されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(c)で形成される細胞か、または前記工程(d)で得られる細胞が、ハイブリドーマ細胞株DSM ACC2542によって産生された抗体に結合することによって選択されることを特徴とする、請求項1〜3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1の工程(c)で形成される細胞か、または請求項1の工程(d)で得られる細胞か、または請求項4に記載の選択工程で得られる細胞の中で、それらの細胞表面でCD3抗原とCD14抗原とが共発現する細胞が選択されることを特徴とする、請求項1〜4に記載の方法。
【請求項6】
培地中のM−CSF濃度が1〜20μg/Lであることを特徴とする、請求項1〜5に記載の方法。
【請求項7】
工程(b)に次いで、前記単球を24〜72時間、γ−IFNを含む培地中で培養し、γ−IFN存在下での該培養を、培養工程(b)の開始後3〜6日に始めることを特徴とする、請求項1〜6に記載の方法。
【請求項8】
前記培地中の前記γ−IFN濃度が0.1〜20ng/mLであることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程(b)および工程(c)の合計培養期間が4〜8日間であることを特徴とする、請求項1〜8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1の工程(d)に次いで、または請求項4および5に記載の選択工程に続いて、前記細胞を、適切な細胞培地、またはPBS溶液もしくはNaCl溶液に懸濁することを特徴とする、請求項1〜9に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞が寒剤中に懸濁され、次いで冷凍されることを特徴とする、請求項1〜10に記載の方法。
【請求項12】
前記寒剤が、ウシ胎児血清(FCS)またはヒトAB0適合性血清、およびDMSOを含むことを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
患者における自己寛容障害を伴う疾患の予防および/または治療のための自家細胞であって、請求項1〜12に記載の方法のいずれかによって得られる、細胞。
【請求項14】
CD3抗原およびCD14抗原を細胞表面上で共発現していることを特徴とする、請求項13に記載の細胞。
【請求項15】
ヒト由来の細胞であることを特徴とする、請求項13または14に記載の細胞。
【請求項16】
請求項13〜15に記載の細胞を適切な培地中に含む、細胞調製物。
【請求項17】
患者における自己寛容障害を伴う疾患の予防および/または治療のための、単球由来の自家細胞を含む、薬学的組成物。
【請求項18】
請求項13〜15の細胞または請求項16の細胞調製物を含む、薬学的組成物。
【請求項19】
自己免疫疾患の予防および/または治療のための、請求項17および18に記載の薬学的組成物。
【請求項20】
アレルギーの予防および/または治療のための、請求項17および18に記載の薬学的組成物。
【請求項21】
自己寛容障害を伴う疾患の予防および/または治療のための薬学的組成物を製造するための、請求項13〜15に記載の細胞または請求項16に記載の細胞調製物の使用。
【請求項22】
自己免疫疾患の予防および/または治療のための、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
前記自己免疫疾患が、以下:自己免疫性特徴を伴うリウマチ性疾患、糖尿病、血液および血管の自己免疫疾患、肝臓の自己免疫疾患、甲状腺の自己免疫疾患、中枢神経系の自己免疫疾患、および水疱性皮膚疾患、から選択される疾患のうちの1つ以上であることを特徴とする、請求項22に記載の使用。
【請求項24】
アレルギーの予防および/または治療のための、請求項21に記載の使用。
【請求項25】
前記アレルギーが、非自己タンパク質、有機物質および/または無機物質によって誘発されるアレルギーから選択されることを特徴とする、請求項24に記載の使用。
【請求項26】
前記アレルギーが、花粉症、ならびに/または薬物、化学薬品、ウイルス、バクテリア、菌類、食品成分、金属、ガス、ネコ皮膚落屑および/もしくは動物の毛によって誘発されるアレルギーから選択されることを特徴とする、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
自己の調節性Tリンパ球をインビトロで産生および/または増殖させるための、請求項13〜15に記載の自己寛容誘発細胞または請求項16に記載の細胞調製物の使用。
【請求項28】
前記調節性Tリンパ球が、CD4抗原およびCD25抗原をそれらの細胞表面上で共発現している、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
自己由来の調節性Tリンパ球を産生および/または増殖させる方法であって、
a)請求項13〜15に記載の自己寛容誘発細胞または請求項16に記載の細胞調製物を自己由来のT−リンパ球調製物とともに共培養し、
b)該調節性Tリンパ球を、必要に応じて培地から得ること
を特徴とする、方法。
【請求項30】
前記調節性Tリンパ球が前記CD4抗原およびCD25抗原をそれらの細胞表面上で共発現していることを特徴とする、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記調節性Tリンパ球が、FACS分離法によって前記培地から得られることを特徴とする、請求項29または30に記載の方法。
【請求項32】
請求項29〜31に記載の方法で得られた、調節性Tリンパ球。
【請求項33】
患者における自己寛容障害を伴う疾患の予防および/または治療のために適切な自家細胞の検出および/または選択のための、ハイブリドーマ細胞株DSM ACC2542によって産生される抗体の使用。
【請求項34】
患者における自己寛容障害を伴う疾患の予防および/または治療のための方法であって、薬学的有効量の請求項13〜15に記載の自家細胞または請求項16に記載の自家細胞調製物を患者に投与することを特徴とする方法。
【請求項35】
自己免疫疾患の予防および/または治療のための、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記自己免疫疾患が、以下:自己免疫性特徴を伴うリウマチ性疾患、糖尿病、血液および血管の自己免疫疾患、肝臓の自己免疫疾患、甲状腺の自己免疫疾患、中枢神経系の自己免疫疾患、および水疱性皮膚疾患、から選択される疾患のうちの1つ以上である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
アレルギーの予防および/または治療のための、請求項34に記載の方法。
【請求項38】
前記アレルギーが、非自己タンパク質、有機物質および/または無機物質によって誘発されるアレルギーから選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記アレルギーが、花粉症、ならびに/または薬、化学薬品、ウイルス、バクテリア、菌類、食品成分、金属、ガス、動物の皮膚落屑、毛および/もしくは動物の排泄物によって誘発されるアレルギーから選択される、請求項38に記載の方法。
【請求項1】
患者における自己寛容障害を伴う疾患の予防および/または治療のための、自家細胞の調製のための方法であって、
(a)該細胞を投与すべき患者の血液から、単球を単離する工程と、
(b)該単球を、細胞成長因子M−CSFを含む適切な培養培地中で増殖させる工程と、
(c)該単球を、工程(b)と同時にかまたは工程(b)の後で、γ−IFNを含む培養培地中で培養する工程と、
(d)該(c)工程で形成された細胞を、該培養培地から該細胞を分離することによって得る工程とを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記単球がヒト由来であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記単球が、該単球に加えてリンパ球もまた、単離物の全細胞数に対して少なくとも10%の量で存在するような様式で、前記血液から単離されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(c)で形成される細胞か、または前記工程(d)で得られる細胞が、ハイブリドーマ細胞株DSM ACC2542によって産生された抗体に結合することによって選択されることを特徴とする、請求項1〜3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1の工程(c)で形成される細胞か、または請求項1の工程(d)で得られる細胞か、または請求項4に記載の選択工程で得られる細胞の中で、それらの細胞表面でCD3抗原とCD14抗原とが共発現する細胞が選択されることを特徴とする、請求項1〜4に記載の方法。
【請求項6】
培地中のM−CSF濃度が1〜20μg/Lであることを特徴とする、請求項1〜5に記載の方法。
【請求項7】
工程(b)に次いで、前記単球を24〜72時間、γ−IFNを含む培地中で培養し、γ−IFN存在下での該培養を、培養工程(b)の開始後3〜6日に始めることを特徴とする、請求項1〜6に記載の方法。
【請求項8】
前記培地中の前記γ−IFN濃度が0.1〜20ng/mLであることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程(b)および工程(c)の合計培養期間が4〜8日間であることを特徴とする、請求項1〜8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1の工程(d)に次いで、または請求項4および5に記載の選択工程に続いて、前記細胞を、適切な細胞培地、またはPBS溶液もしくはNaCl溶液に懸濁することを特徴とする、請求項1〜9に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞が寒剤中に懸濁され、次いで冷凍されることを特徴とする、請求項1〜10に記載の方法。
【請求項12】
前記寒剤が、ウシ胎児血清(FCS)またはヒトAB0適合性血清、およびDMSOを含むことを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
患者における自己寛容障害を伴う疾患の予防および/または治療のための自家細胞であって、請求項1〜12に記載の方法のいずれかによって得られる、細胞。
【請求項14】
CD3抗原およびCD14抗原を細胞表面上で共発現していることを特徴とする、請求項13に記載の細胞。
【請求項15】
ヒト由来の細胞であることを特徴とする、請求項13または14に記載の細胞。
【請求項16】
請求項13〜15に記載の細胞を適切な培地中に含む、細胞調製物。
【請求項17】
患者における自己寛容障害を伴う疾患の予防および/または治療のための、単球由来の自家細胞を含む、薬学的組成物。
【請求項18】
請求項13〜15の細胞または請求項16の細胞調製物を含む、薬学的組成物。
【請求項19】
自己免疫疾患の予防および/または治療のための、請求項17および18に記載の薬学的組成物。
【請求項20】
アレルギーの予防および/または治療のための、請求項17および18に記載の薬学的組成物。
【請求項21】
自己寛容障害を伴う疾患の予防および/または治療のための薬学的組成物を製造するための、請求項13〜15に記載の細胞または請求項16に記載の細胞調製物の使用。
【請求項22】
自己免疫疾患の予防および/または治療のための、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
前記自己免疫疾患が、以下:自己免疫性特徴を伴うリウマチ性疾患、糖尿病、血液および血管の自己免疫疾患、肝臓の自己免疫疾患、甲状腺の自己免疫疾患、中枢神経系の自己免疫疾患、および水疱性皮膚疾患、から選択される疾患のうちの1つ以上であることを特徴とする、請求項22に記載の使用。
【請求項24】
アレルギーの予防および/または治療のための、請求項21に記載の使用。
【請求項25】
前記アレルギーが、非自己タンパク質、有機物質および/または無機物質によって誘発されるアレルギーから選択されることを特徴とする、請求項24に記載の使用。
【請求項26】
前記アレルギーが、花粉症、ならびに/または薬物、化学薬品、ウイルス、バクテリア、菌類、食品成分、金属、ガス、ネコ皮膚落屑および/もしくは動物の毛によって誘発されるアレルギーから選択されることを特徴とする、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
自己の調節性Tリンパ球をインビトロで産生および/または増殖させるための、請求項13〜15に記載の自己寛容誘発細胞または請求項16に記載の細胞調製物の使用。
【請求項28】
前記調節性Tリンパ球が、CD4抗原およびCD25抗原をそれらの細胞表面上で共発現している、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
自己由来の調節性Tリンパ球を産生および/または増殖させる方法であって、
a)請求項13〜15に記載の自己寛容誘発細胞または請求項16に記載の細胞調製物を自己由来のT−リンパ球調製物とともに共培養し、
b)該調節性Tリンパ球を、必要に応じて培地から得ること
を特徴とする、方法。
【請求項30】
前記調節性Tリンパ球が前記CD4抗原およびCD25抗原をそれらの細胞表面上で共発現していることを特徴とする、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記調節性Tリンパ球が、FACS分離法によって前記培地から得られることを特徴とする、請求項29または30に記載の方法。
【請求項32】
請求項29〜31に記載の方法で得られた、調節性Tリンパ球。
【請求項33】
患者における自己寛容障害を伴う疾患の予防および/または治療のために適切な自家細胞の検出および/または選択のための、ハイブリドーマ細胞株DSM ACC2542によって産生される抗体の使用。
【請求項34】
患者における自己寛容障害を伴う疾患の予防および/または治療のための方法であって、薬学的有効量の請求項13〜15に記載の自家細胞または請求項16に記載の自家細胞調製物を患者に投与することを特徴とする方法。
【請求項35】
自己免疫疾患の予防および/または治療のための、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記自己免疫疾患が、以下:自己免疫性特徴を伴うリウマチ性疾患、糖尿病、血液および血管の自己免疫疾患、肝臓の自己免疫疾患、甲状腺の自己免疫疾患、中枢神経系の自己免疫疾患、および水疱性皮膚疾患、から選択される疾患のうちの1つ以上である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
アレルギーの予防および/または治療のための、請求項34に記載の方法。
【請求項38】
前記アレルギーが、非自己タンパク質、有機物質および/または無機物質によって誘発されるアレルギーから選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記アレルギーが、花粉症、ならびに/または薬、化学薬品、ウイルス、バクテリア、菌類、食品成分、金属、ガス、動物の皮膚落屑、毛および/もしくは動物の排泄物によって誘発されるアレルギーから選択される、請求項38に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2007−525473(P2007−525473A)
【公表日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−517974(P2006−517974)
【出願日】平成16年1月9日(2004.1.9)
【国際出願番号】PCT/EP2004/000109
【国際公開番号】WO2005/005620
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(504362145)ブラスティコン ビオテクノロギッシュ フォーシュング ゲーエムベーハー (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年1月9日(2004.1.9)
【国際出願番号】PCT/EP2004/000109
【国際公開番号】WO2005/005620
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(504362145)ブラスティコン ビオテクノロギッシュ フォーシュング ゲーエムベーハー (2)
【Fターム(参考)】
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